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最終発言2018/09/04 22:24:58 -
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最終発言2018/10/17 15:36:12
オープニング
自然溢れる、アフリカの大地。その草原には、現代の動物たちが各々に生を謳歌していた。それは、人間も同じである。アフリカの人々は、今日も照りつける太陽の下で日々の生活を営んでいた。
そして、それが崩れたのは突然であった。
スワナリアを襲った大爆発。
現代と古代を隔てていた壁は、一夜にして数十の大穴を明けたのであった。
スワナリアから程近い地区の街では、朝から緊張が漂っていた。スワナリアの壁が壊れた、というニュースがすでに流れていたからである。日本で言えば地方都市ほどの発展を遂げた、この街の人々は見慣れたはずの動物の影にすら怯えていた。
「これは、トカゲなのかしら?」
街のなかで、エステルが小さなトカゲのようなものに手を伸ばす。
『触ってはいけない。危険な恐竜だったら、どうするんだ!』
アルメイヤは、急いでエステルを引き寄せる。だが、隣にいたリンカーの一人が「それは、普通のトカゲです」と呟いた。普段ならばアルメイヤの行動に笑いの一つもあがったかもしれないが、今はそうではない。なにせ、恐竜の危険は身近に迫っているのだ。
「夜通しで街の人を非難させているのに……全然終わらない」
エステルが、街の様子を眺める。街は、最低限の荷物をもった人々で溢れかえっていた。スワナリアの壁が壊れた夜、H.O.P.E.はすぐにリンカーたちを集めて現地に派遣した。そして、現地で二チームに分かれたのだ。
恐竜を街に入れないようにするためのチームA。
住人たちの避難やパニック防止を優先させるチームB。
『近くの街まで、人々を非難させているが……車やバスといった移動手段が致命的に足りないからな。街と街との往復にも、結構な時間がかかっている現状だ。街の人間全員を避難させるのは、かなり難しいぞ』
アルメイヤは、冷静に呟いた。普段住んでいる日本と違って、アフリカには電車や新幹線がない。一気に人を運ぶという手段が、ひどく限られているのだ。
「でも、空港はあるのに……」
飛んで逃げられないものか、とエステルは呟く。
『飛行機の数が少ないんだ。そもそも置いてある飛行機もさほど大型ではない』
徒歩で逃げようにも、外に広がるのは強い日差しと野生動物が出没する可能性がある過酷な環境。現代人が、徒歩で逃げるのは難しい。
「たっ、大変だ!!」
通信機を握っていたリンカーの一人が、悲鳴を上げる。
「街の外を守っていたチームAと連絡が取れなくなった……」
●街の外
もしもの時は街の外で恐竜たちを攻撃し、撃退あるいは時間を稼ぐことを目的としていたチームA。彼らがどうなったかを確認するために、アルメイヤは持ち場を離れてチームAの通信が途切れた場所へと向う。街からさほど離れていない草原。その草原で、アルメイヤはかつてチームAであったものを発見する。
『エステル……見るな』
自分と共鳴しているエステルに、アルメイヤは呼びかける。アルメイヤが発見したのは、人間の残骸であった。足や手といった人体の一部が、食いちぎられた状態で地面に落ちている。血に染まる草原の緑に眉をひそめながら、アルメイヤは冷静に仲間に連絡を取る。
『チームAは、おそらく全滅した。食われた跡がある。一口で食べられていないところを見ると、遭遇した恐竜が大型ではないはずだ……ちょっと待て、足跡がある!』
アルメイヤは、複数の恐竜の足跡を発見する。
その足跡の多くは、大きさが不ぞろいであった。巨大なものもあれば、小さなものもある。鶏のような足跡の形状から言って、恐らくは肉食恐竜のものだとは思われるが……。
『大きさの違う足跡が複数? これはどういうことなんだ』
悩むアルメイヤの元に、仲間たちから連絡が入る。
「すぐに戻れ、恐竜が街に入り込んできた!」
●空港
空の上からその恐竜を見たとき、正義はそれをティラノサウルスだと思った。
「あれは……アロサウルス」
正義の隣に座った塔の女性が、心配そうに呟く。正義は、塔の女性を護衛するという任務についていた。といっても、今のところは同じヘリコプターに乗っているだけである。だが、これから仕事になりそうだ。
正義は上空から、アロサウルスを見つめる。大小さまざまな大きさのアロサウルスたちは、どうやら群れで行動しているらしい。親と思しき成体は、逃げ惑う人々を車のようなスピードで追いかける。そして、人に噛み付くとほとんど一飲みで食べてしまった。
近くに子供がいるのに、分け与えようとはしない。子供は親の様子を見て――やがて、親の行動を真似し始める。
「これは、狩りの練習や!」
思わず、正義は叫んだ。
スワナリアにほど近い街は、アロサウルスの狩りの練習場にされていたのだ。
「このあたりで、ヘリコプターが降りられるのは空港しかあらへんけど。そっちは無事なんやろか?」
正義は、双眼鏡で空港がある方向を見た。
そこにいたのは、建物よりも巨大な首の長い恐竜であった。
アルゼンチノサウルス――恐竜のなかでも最も巨大で体重は90トンにすら及ぶといわれている恐竜たちが、空港を跋扈していた。
「あかん、あんな巨大な生き物が空港なんかに入ったら……」
正義の心配は的中していた。
アルゼンチノサウルスは歩くだけで空港のコンクリートを砕き、ヘリコプターが空港に着陸できない状態にしてしまう。
「アルメイヤ! 聞こえてるんやったら、すぐに空港のでっかい恐竜を避けるんや!!」
通信機から帰ってくる声は「無理だ!」であった。
●西入り口付近
アルメイヤは何とか街に戻っていた。
だが、空港にはたどり着けないでいた。
『なんだ、この恐竜は……』
「これは図鑑で見たことがある……たしかステゴサウルス」
草食恐竜であるステゴサウルスは、街の人々を避難させるために集めた車に威嚇していた。どうやら、車のエンジン音がステゴサウルスには肉食恐竜のうなり声に聞こえるらしい。尻尾についている鋭いスパイクを振り回し、バスや車を次々に横転させていた。バスのなかには人も乗っている――見捨ててアロサウルスが暴れる中心部や空港がある北には行くことができない。
『エステル……危険に巻き込んですまない』
アルメイヤは、小さく呟いた。
●中心部
アロサウルスが暴れる街の中心部には、青年が一人立っていた。塔の女性が奪った笛を弄びながら、青年はアロサウルスが人間を食らうのを眺める。
「狩りを教える本能……実に美しい。けれども、彼らはきっと腹が満ちれば眠ってしまう」
所詮は動物、と青年は笑った。
「でも、この笛さえあれば」
青年は、笛を吹く。
その笛の音を聞いたと単に、まだ捕らえた人間を食べていないアロサウルスの子供は次の人間を追いかけ始める。その光景を見て、マガツヒの青年は笑った。
「この笛さえあれば、恐竜たちは美しい本能を忘れてしまう。そうだ、いいぞ。限界まで、殺し尽くせばいい」
解説
住民の保護
笛の奪還
西入り口付近――住人たちを逃がすために車を集めたエリア。大小さまざまな車があり、車以外の障害物はない。住民が多く集まっており、車のなかに立てこもり恐竜をやり過ごそうとする。恐竜から逃げようとして車を発進させ恐竜に襲われてしまう住民もいる。アルメイヤが、恐竜と戦っている
中心部――街の繁華街。大小さまざまな店が並んでおり、避難し遅れた人々が大勢いる。作りは賽の目上になっている。道幅は広く、建物以外の障害物はない。建物は木製が多く、倒壊しやすい。街の中心にあるビルは丈夫な作りをしている
北空港――住民が乗った飛行機はすでに飛び立っているため、住民がいないエリア。残っている機体は、小型機ばかり。小型機以外の障害物はなし。恐竜が歩くたびに破壊されて、塔の女性が乗っているヘリコプターの着陸が難しくなる
ステゴサウルス――5体出現。尻尾のスパイクで、攻撃する。車のエンジン音に敏感。動きはゆっくりだが10メートル以上の巨体であり、とても力が強い。知能が高くなく、危険そうなものにはとりあえず攻撃する
アロサウルス――素早く動くことが出来る。10メートル前後の大人5体。5メートル前後の子供10体出現。大人は外に出ている人間を襲い、子供は室内にいる人間を襲う傾向がある
アルゼンチノサウルス――40メートル以上の巨体であるため、外敵に怯えるということがない。好物は柔らかい葉っぱだが、地上に近すぎるところにあっても気づかない。凶暴化すると尻尾を振り回し、敵味方関係なく攻撃しようとする。2体出現
塔の女性――ヘリコプターに乗っている。笛を手にすれば、恐竜たちを沈静化させることができる。正義が護衛している
PL情報
マガツヒの青年――恐竜が満腹になった頃合に笛を吹き、必要以上の殺しをさせようとする。笛の音はよく響く。街の中心にあるビルの屋上に出現。銃器を武器として持っているが攻撃力は高くない
リプレイ
●VSアロサウルス1
町の中心部に跋扈するのは、肉食恐竜のアロサウルス。有名なティラノサウルスよりも若干華奢な体つきだが、その凶暴性はかの恐竜王と遜色はない。
「まるで一昔前の恐竜映画だな」
リィェン・ユー(aa0208)は身を隠しながら、密やかに呟く。どうやら街に下りてきたアロサウルスの群れは狩りの練習をしているらしい。体の小さな子供たちが獲物である人間を次々と狩って、捕食している。その食欲からいって、もしかしたら成長期なのかもしれない。
近縁種であるティラノサウルスの成長期のスピードは圧倒的であり、一年間に体重が二キロも増大していたといわれている。アロサウルスはティラノサウルスよりは小柄で、成長期における成長スピードもそこまで爆発的なものではないが、食欲の旺盛さが恐ろしいのは同じである。
「人間が刈りつくされる前に行動しなければならないな」
リィェン・ユーは、隣で不安そうにアロサウルスたちの恐慌を見つめているルカ マーシュ(aa5713)に話しかけたつもりであった。だが、不安にかられてなのかルカからの返事はなかった。どうやら、緊張しすぎているらしい。「おい」とリィェン・ユーと声をかければ、何故かルカは「ジアン、知ってる!? あれはただの恐竜なんだよ!」とヴィリジアン 橙(aa5713hero001)にまくし立てた。ヴィリジアンは驚いたように、
『え、知ってる……』
と答えるしかなかった。
『むしろ、恐竜以外の何に見えるんだか』
とヴィリジアンはあきれ返る。
「俺が親を引き寄せる。きみは、子供のほうを頼むぞ」
不安が強いルカに親のアロサウルスは負担が大きすぎると判断したリィェン・ユーの言葉に、ルカは少なからずほっとしていた。
「出来るかぎり、親は足を狙う。子供が悲鳴をあげても、かけつけられないようにな」
そう言いながらリィェンは武器を握って、飛び出していく。リィェンの姿に気がついたアロサウルスは、大きな雄叫びを上げた。
「じゃあ、僕は逃げ遅れた人がいないかどうか見てきます……不安だけど」
最後の一言は、とても小さな声で付け加えた。
「すみませーん、誰かいますか?」
小さな声で尋ねながら、ルカは家々を見回る。大きな声を出さないのは、恐竜に聞きつけられるのが恐ろしいからだ。共鳴をはたしてからはヴィリジアンはうんともすんとも言ってこないので、ルカは一人で街の探索をする羽目になった。
どん、どん、と何かが体当たりする音が聞こえてくる。
音のほうに言ってみると、子供のアロサウルスは家屋の玄関に体当たりしていた。どうやら、中に人間がいることを察知してあけようとしているらしい。子供ながらに尖った歯や感情を感じさせない目に、ルカは生唾を飲み込む。
「怖くない……怖くない。大丈夫、怖くない」
ルカは何度も自分に言いかせて、盾を構えた。
「こっちだ、恐竜!」
物陰から現れたルカに、アロサウルスの子供が襲い掛かる。ルカはその攻撃を必死で、盾で防いだ。自分が囮になっている隙に建物にいる人々には避難してほしいが、アロサウルスの攻撃は激しくルカには叫ぶ暇も与えられない。
「っつ――!!」
背中に痛みを感じた。
背後からもう一匹のアロサウルスの子供がやってきて、ルカに攻撃を加えたのであった。二匹のアロサウルスは兄弟なのか、息のぴったりあった攻撃でルカを追い詰める。
「あっ、やっべ。もう無理、こわいこわい!」
食われる!! とルカの悲鳴が響く。
その悲鳴を合図にしたかのように、ルカとヴィリジアンの意識が切り替わる。目つき鋭く、アロサウルスの子供を睨んだヴィリジアンはインシナレイトハンマーへと武器を持ち変える。
『背後に住民がいるなら、時間はかけられないじゃんか!』
自分の背後の住宅に住民が隠れていることを見抜いたヴィリジアンはオティックソウルを使用し、アロサウルスの子供を撃退する。あっという間の手腕は、ルカの意識が前面に出ているときには見られなかったことであった。
『まっ、俺も腐っても英雄ってことだぜ。……今の状態じゃ、ルカには聞こえないんだったか。つまんないの』
ルカの意識が、ふいに戻る。
そして、覚えのない戦闘後の風景に彼は首を傾げた。
「えっと……もしかしてヴィリジアン?」
当然ながら、答えは返ってこない。
「こっちだ。こっちに丈夫な建物がある、人々を避難させろ!」
獅堂 一刀斎(aa5698)の声が聞こえた。
『丈夫な建物が一つでもあって……幸いです』
比佐理(aa5698hero001)の言葉を聞きながら、一刀斎は中心部にあるビルに人々を避難させていく。おそらくは街の行政をつかさどっていたビルなのだろう。民間が作った建物よりも、はるかに丈夫な作りをしていた。
「大丈夫だ、誰一人傷付けさせん……! 焦らずにあのビルの中へ逃げろ!」
『一刀斎様……親子連れが』
比佐理が指示する方向には、子供を抱えて逃げる父親の姿だった。だが、その親子を丸ごと捕食しようとする大人のアロサウルスが大口を開けて彼らを追っている。
「させるものか!」
『――猫騙』
一刀斎は恐竜と親子の間に入り込む。そして、一刀斎の体から実態のない比佐理の腕が生えた。彼女の白い手が、ぱちりと合わさる。
そして、恐竜に出来る一瞬の間。
「今のうちだ!ここは俺たちに任せろ。いいか、ただ逃げることだけを考えるんだ」
父親は子供を抱きかかえて、一目散へビルへと走っていく。
その後ろ姿に、一刀斎は少なからずほっとしていた。
その様子を建物の屋上から見ていたのは、天城 初春(aa5268)たちであった。
「やれやれ、恐竜たちが荒んでおりますの」
弓で恐竜に狙いをつけ、できるかぎり街の人々をビルのほうへと誘導させる。
『あの古の巫女より笛が奪われたが故じゃな。何はともあれ今は被害を抑えねば!』
辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)の言葉に、初春は頷いた。
「しかし、気のせいなのなのじゃろうか? さっきよりは恐竜たちは人間を襲わなくなっているような気がするのじゃ」
さっきまでは見境無く恐竜たちは人間を襲っているように見えたが、今は少しばかり落ち着いているように初春には思えた。
『腹が満ちたのかもしれないのう。恐竜とはいえ、所詮は動物じゃ。自分が満腹になれば、それ以上は襲わないのかもしれんのう』
だとしたら人々を避難させる絶好のチャンスである、と稲荷姫は考えた。そのときであった。
『なんじゃ……あの音は』
どこか狂ったような笛の調べ。
その音を確かに稲荷姫は捉えていた
●VSステゴサウルス1
「此処を無視して先に行くのは無理だな」
御神 恭也(aa0127)は車の陰に隠れながら、様子を見ていた。有名な草食恐竜がむしゃむしゃと草を食んでいる光景は、一見すると平和的でもある。だが、その巨体は生身の人間にとっては恐怖である。
車の一つが恐怖に耐え切れなくなったのか、エンジンを吹かせる。その途端に、さっきまで平和に草を食べていたステゴサウルスがうなり声を上げた。
スパイクのついた尻尾を振り回し、自分と同じぐらいの大きさの車を横転させる。その光景に、伊邪那美は息を呑んだ。
『車が簡単に転がされてる……』
「車のエンジン音が気に入らないらしいな」
逆に言えば、エンジン音さえならさなければ大人しい恐竜の可能性がある。
「でも……ひどいな……。恐竜が悪い訳じゃないと判っても敵意を持ってしまいそうだ」
大きな肉体の動物が、人間の生存圏に入り込んできた恐怖。その恐怖を目の当たりにし、荒木 拓海(aa1049)は呟く。
「この人たちには恐怖しか無かったでしょうね……」
狭い車内に閉じ込められて恐竜をやり過ごさなければ鳴らなかった恐怖に、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は心を痛めた。
「天使のアイドルあんじゅーです。皆を、必ず守るの。落ち着いてください、なの」
泉 杏樹(aa0045)は、恐竜と車の間を歌いながら歩く。
恐竜は音が怖いの――皆静かに――安心して。
子守唄のように杏樹は歌い、住民たちの不安を取り除けるように尽力した。この場で一番重要なのは、動かないことである。できるかぎり住民を安心させて、あとはなんとかステゴサウルスを誘導させる手立てを考えればいい。
「杏樹が、守るの。任せてください、です」
歌の途中で、杏樹の耳に笛の音が響いた。
初心者がただ我武者羅に楽器を演奏しているかのような音で、楽譜にそった演奏とはとても思えなかった。下手だといえばそれだけだが、どことなく不愉快さまで感じられる。
「……なんの音、なんでしょうか?」
杏樹の背後で、ステゴサウルスが吼えた。
今まで効いたことのないような雄叫びに、杏樹は思わず耳を塞ぐ。人間の悲鳴とも、動物の悲鳴とも違う声。だが、ステゴサウルスの尾が振り上げられた瞬間に杏樹は前を見据えた。
「不死の巫女の、名にかけて、行かせません」
この場にいる皆を守る。
その意思で、華やかなアイドルは堅牢な壁になる決意を固める。
「こっちだ。こっち!!」
雪ノ下・正太郎(aa0297)は大声を上げて、ステゴサウルスの注意を引く。その顔にさっきまで暢気に草を食べていた面影はない。何かに対して怒っているような怒気さえ感じる。
『まさに恐竜大戦争だな、正ちゃん!!』
悪食丸の楽しそうな声に、思わず正太郎は子供向けの番組を思い出す。
「ああ、スーパーパワーの恐竜軍団を愛と善のサイボーグじゃなく俺達リンカーが相手だ」
共鳴を果たした正太郎は、できるかぎり車とステゴサウルスを離そうとする。ステゴサウルスは正太郎を「危険なもの」と判断したらしく、武器である尻尾のスパイクをぶんぶんと振り回した。
「凄い迫力だな。これならCGいらずだ」
ステゴサウルスの攻撃を避けながら、正太郎は笑う。だが、スパイクが当たって削られた地面を見て生唾を飲み込んだ。
『相手は力自慢といったところだな。当たったら、タダじゃすまないぜ』
悪食丸の言葉は正しい。
その時、車のエンジン音が聞こえた。その音に恐竜よりも早く反応したのは皆月 若葉(aa0778)であった。
「我々が恐竜を引きつけるまで、エンジンを止めて待っていてください!」
エンジンを止めさせた若葉は、ほっとしていた。
『……エンジン音に反応しているのか?』
ラドシアスの疑問に、若葉は「たぶん」と答える。
「肉食恐竜の声に似ているのかもしれない。しっかし、本物の恐竜を見られるとは……でか」
自分の何倍もあるステゴサウルスに、若葉は感心していた。
『……悠長な事を言っている場合じゃないがな。マガツヒが絡んでいる可能性もある……注意しておけ』
「了解、被害……最小に抑えるよ」
とにかく、今はステゴサウルスに横転させられた車のなかにいた人々を助けなければならない。そう考えて行動するが、ステゴサウルスたちの様子が若葉にはおかしいように感じられた。先ほどまで音に反応するだけだったのに、如実に凶暴化しているように思われる。
『草食恐竜だが……随分と攻撃的だな』
ラドシアスもそう呟いた。
エンジン音が鳴らないせいで車から注意はそがれているが、ステゴサウルスはリンカーたちを敵と認識し、攻撃を加えている。
「尻尾に注意だね、あんなのに殴られたらたまらないよ」
車も一発で走行不能になっているし、と若葉は呟く。
『不味いぞ……これ以上、車を壊されたら街の住民を逃がせなくなる』
集めた車はこれでギリギリだ、とアルメイヤは呟いた。
「アルメイヤ、皆。俺は守るべき誓いを使い、できるだけ恐竜の気を引き付ける」
『車の中にいる住人の避難と護衛、恐竜の足止めをお願いします』
東江 刀護(aa3503)と双樹 辰美(aa3503hero001)の言葉に、アルメイヤは頷く。
「それにしても……恐竜捕獲の次は、操って襲撃か。マガツヒはなぜ恐竜に拘る」
刀護の言葉に、辰美は少しばかり考えてから答えた。
『私には分かりませんね。しかし、強力な力を持っている割には単純で扱いやすいのかも』
なにせ動物ですし、と辰美は言う。
「何にせよ、被害をこれ以上拡大させるわけにはいかん」
刀護の言葉に、彼のやりたいことを察した拓海は「手伝います!」と声をかけた。
「リサ――こんなことになっても、やっぱりオレは恐竜のことを嫌いになれないよ」
拓海の呟きに、メリッサは少しばかり驚く。
そして、数秒後には彼女は優しげな笑みを浮かべていた。
「恐竜と人は、時代と言う枠組みで独立してきたんだ……。こんなことは映画とか漫画のなかでしか起こらないことで――……恐竜側に悪意もないし、人間側に過失もない。ただ、マガツヒの悪意があっただけだ」
『分かってるよ。大丈夫――わたしたちに出来うる限りのことをしましょう』
メリッサは、拓海に言い聞かせるように呟く。
無言で、拓海は頷いた。
刀護は守るべき誓いを使用し、恐竜の興味をひいた。
「ステゴサウルスは別の仕事の時もいたな。体当たりに気をつけろ! あの体重で突撃されたら吹き飛ばされるぞ!」
拓海に注意を送り、刀護はライヴスシールドを使用する。
『攻撃パターンが同じように思えます。賢くないようですね』
「そのようだが、攻撃は侮れん」
人間と恐竜とでは、全てが違う。体重が、体格が、生体がまったく違う。リンカーは人間の限界を超えることができる者たちだが、それでも太古の荒々しい世界を生きてきた一撃は重すぎる。
恭也はアンチマテリアルライフルを使用し、刀護を襲っていた恐竜の目を狙う。狙いは正確だったが、視力を奪ったことで恐竜が我武者羅に暴れ出してしまった。
「焼け石に水か。本来なら足を狙って動きを止めたい所なんが……」
『あれだけ足が太いとちょっとした傷ぐらいだと平気で歩き回る気がするよ」
木の幹ぐらいはありそうだよ、と伊邪那美は言う。
『体格も、ずんぐりむっくりしてて脂肪とか筋肉とかで阻まれそうだし』
むー、と伊邪那美はうなりながらステゴサウルスの弱点を探していた。
『お腹とかどうかな。ほとんどの動物は、そこが弱点っていうよね』
伊邪那美の言葉は最もだが、大きな問題が一つ。
「どうやって、ひっくり返す気だ?」
伊邪那美は、恭也とステゴサウルスを見比べた。
ひっくり返すには、色々と難がある体格差である。
『せめて、恭也がステオヤサウルスぐらい大きかったな。ちゃぶ台みたいにひっくり返せたのに』
「ステゴサウルスだ」
間違いを訂正すると、伊邪那美は頬を膨らませる。
「とにかく、効果がありそうな箇所を狙うしかないな」
恭也は背中のヒレのようなものを狙うが、当たっても出血はするもののさほどダメージはなかった。
「……生態系の分からない動物の相手は、手探りで情報を集めるしかないな」
『そうだね。図鑑を見ても、それが正解かなんて誰にも分からないし』
伊邪那美の言葉に「もしや、図鑑で事前に勉強をしてきたのに名前を間違ったのだろうか」と恭也は思ったが指摘はしなかった。
「こっちに来い! 自分が相手だ!」
刀護は横転した車に乗り込み、クラクションを鳴らした。人の声よりも大きな音に、恐竜たちは集まってくる。
『あまり集まると、手に負えなくなります』
「住民を無事に逃がすまでは、絶対に倒れん!」
刀護は怒鳴った。
そして、次の瞬間にはニヤリと笑っている。
「何が何でも守る! 俺も辰美も、思いは同じだろう」
その言葉に、辰美もつられるように笑う。
刀護の横を車が通り過ぎる。そこに乗っていたのは、拓海であった。
「1体残らず着いて来い! アルメイヤ、付近に恐竜が居ないか確認できたら笛音が届かない距離に避難してくれ!!」
叫んだ拓海の後を突いていこうとする恐竜たち。
『恐竜が二手に分かれましたね』
辰美の言葉に、刀護は頷いた。
「これで、勝機が見えてきたか」
●VSアルゼンチノサウルス1
構築の魔女(aa0281hero001)は、空を見上げていた。正確には、ゆっくりとマイペースに歩いているアルゼンチノサウルスを見上げていたのだ。その巨体はあまりに大きすぎて、生物を目の前にしているという自覚が薄くなってくる。
「■■――」
「そうですね。こちらの首が痛くなってしまいます」
辺是 落児(aa0281)の言葉に、構築の魔女はうんうんと頷いた。
「アルゼンチノサウルスが歩いていない場所を何箇所かピックアップはできましたが、やはりあの恐竜をなんとかしないと安全に着地するのは難しそうですね」
アルゼンチノサウルスは非常におっとりした性格なのか、地上で動いている構築の魔女に興味すら示していなかった。小さすぎて見えないのか、外敵として認識すらしてもらえてないのか。どちらにせよ、この恐竜を移動させないことには何も出来ない。
「□□――□□」
「着陸中に攻撃される訳にはいきませんからね。遠くへ行ってもらわないと……しかし、こういうのもなんですが映画の世界に迷い混んだ気分ですね」
アルゼンチノサウルスが歩くたびに、コンクリートがひび割れる。その迫力と常識離れした恐竜のサイズが、現実感を失わせる。
「こちら北空港地上班。恐竜の退去に動きます。オーバー」
豊浜 捺美(aa1098)の声が聞こえてくる。
『こんな草がご馳走に見えるのですかねぇ?』
ウーフー(aa4625hero002)の言葉に、夜城 黒塚(aa4625)は「知るか」と短く答えた。アルゼンチノサウルスの好物だと聞いた柔らかい葉っぱを黒塚は、必至になって集めてきたのだ。おかげで、スーツは葉っぱだらけである。
「こいつをぶら下げれば、あのデカイ恐竜もついてくるだろ」
黒塚の言葉に、ウーフーは『やっていることは、馬の目の前にニンジンぶら下げるのと変わりないですね』と言った。
たしかに、そうである。
「揺れるから、気を付けてなの!」
捺美の言葉通り、機体が大きく傾く。
アルゼンチノサウルスの頭部に近づくためである。
「マニュアルは読み込んでいるから、安心してなの。……おっと」
どうやら捺美の予想外に機体が揺れたらしい。
黒塚は一瞬息を呑んだ。
「もう大丈夫なのです。ドアを!!」
捺美の言葉に従って、黒塚はドアを開けた。
息を呑む。
眼前には、地上では小さく見えたはずのアルゼンチノサウルスの頭部があった。地上で見たときよりも、ずっと大きな頭。
『大きいですね』
ウーフーの言葉には、同意するしかない。
「こんなのが走る競馬なら、賭けてみたいな気もするが」
黒塚はそう呟きながら、アルゼンチノサウルスの鼻先に柔らかな葉っぱを揺らす。それに気がついた恐竜はゆっくりと移動を開始した。
「恐竜に反応あり。作戦を続行します、オーバー!」
捺美は飛行機をアルゼンチノサウルスがついてこれるスピードで飛ばす。
「……なんなの? 変な音」
捺美は首を傾げた。最初は機体の故障ではないかと思ったが、あきらかにソレとは違う音だった。しいて言えば、楽器の音である。こんなものは飛行機から発せられるはずがない。
「高度を上げろ!」
黒塚は、咄嗟に叫んだ。
「恐竜が暴れ出したぞ!!」
捺美は高度を上げた。
機体の運転席からでも、アルゼンチノサウルス同士が争う様子が見えたのである。
「作戦続行不可能。空中で待機します、オーバー」
アルゼンチノサウルスの頭がかすっただけでも飛行機は墜落してしまう。この突然のアクシデントについては、地上の仲間を頼るしかなかった。
「いきなり恐竜が暴れ出したね。大人しい種類だと思ってたのに」
互いに尻尾で攻撃しあうアルゼンチノサウルスを見上げながら、餅 望月(aa0843)は呟く。巨大が暴れまわるので、地震のような地響きがあがっている。
『キジも鳴かずば撃たれまいに』
百薬(aa0843hero001)の言葉に、望月は苦笑いする。
「いやそれ物騒すぎるよ、笛の音が響いてから暴れたってことは……たぶん悪い人に操られちゃってるよ」
元々は優しい恐竜なのかもしれないよ、と望月は言う。
『愛と癒しが恐竜達にも平和を導くんだね』
「そう、それ」
百薬たち会話な暢気なものであったが、事態はひっ迫していた。
『このままでは、完全に空港が破壊されてしまいます。なんとか恐竜の意識を私たちに向けて、空港から遠ざけないと』
構築の魔女は、トリオを使用する。
巨大な恐竜の足めがけての攻撃であったが、頭に血の上った恐竜たちは構築の魔女のトリオに気がついてもいなかった。
「□□――」
『ええ、自分が虫になったような気分ですね』
生半可な攻撃は通じない。
リィェン・ユーは、武器を構えた。大物狙うために、中央から空港に移ってきた彼であった。狙いは、頭部である。
「さて……んじゃそろそろ大物を狩りに行きますか」
待って、とリィェン・ユーを止める。
「たしか恐竜にも眠りが必要だったはず」
望月はセーフティガスを使用する。
大きな体が、わずかに揺れる。それを見たリィェン・ユーは叫ぶ。
「逃げろ、倒れるぞ!!」
巨体が突然眠るということは、ビルの倒壊と変わりがない。ゆらりと巨体が横に傾いたときには、すでに時は遅く、アルゼンチノサウルスはどしんと物音と土ぼこりをあげて空港に横たわった。
「□□――」
『ええ、潰されなくてよかったです』
構築の魔女は、ほっとしつつ汗を拭った。
「全員無事か!」
酷い砂埃で視界が制限されるなかでリィェン・ユーは叫んだ。アルゼンチノサウルスはオーパーツを飲み込んでいない普通の恐竜であったが、この巨体の下敷きになったらリンカーといえども身動きが取れなくなっていただろう。
『まるで映画みたいですね』
凛道(aa0068hero002)は、倒れたアルゼンチノサウルスをしげしげと見つめる。間一髪で、逃げ延びた木霊・C・リュカ(aa0068)は苦笑いを浮かべていた。
「お兄さん、あの映画怖いから苦手かなぁ! うん、こんなふうにビルの倒壊みたいなことに巻き込まれるのはこりごりだよ。あれ? あの映画には、ビルの倒壊とかなかったよね……たぶん」
リュカはしばらく考えて込んでいたが、凛道は相手にしないことに決めた。今は、そんなことをしている暇はない。
「滑走路の一部か駐機場が無事なら場所はいいとして、粉塵の対策がいりますね。水を撒けばなんとかなると思いますが、問題なのはもう一体ですか……」
構築の魔女は、再び視線を上に向ける。
『凶暴化した恐竜にニンジンの誘惑はききますかね?』
ウーフーの言葉に、黒塚は「腹が減って、機嫌が悪いんだろ」と答える。
「作戦は続行だ! なんとしてでも、残りの一匹を空港から引き離すぞ」
黒塚の言葉に、捺美は「了解なの!」と返答する。
飛行機に興味を持ったのか、それとも餌に興味を持ったのかは不明だが、恐竜の注目は飛行機に移る。
「恐竜退去に成功しました。ただちに上陸してください。オーバー」
捺美は、正義たちが乗った飛行機に連絡を取る。
「ここからは安全運転で頼むぜ」
黒塚は、地上にいるリュカに向って叫ぶ。
「リュカ、後は任せた……お嬢さんのエスコート宜しくな」
「やだ、黒ちゃん。そんな盛大な死亡フラグたてちゃってどうしたの」
映画だったら危ないんだからね、とリュカは苦笑いする。
『あの女性が、笛を操る女性ですね』
凛道は、ヘリコプターから降りた女性を見つめた。
美しい女性ではあるが、その表情には不安が見て取れた。
「この惨劇は恐竜たちが……」
『今は、それより移動を。あちらも今笛を探してくれていますので、こちらからも向かいましょう。その方が合流が早いです』
凛道の言葉に、女性は頷いた。
『こちらに乗っていただけますか。エンジン音は恐竜が寄ってくる可能性があるので』
凛道が差し出したのは、自転車である。ローテクな乗り物だが、エンジン音を出さずに街を進める優れものである。だが、女性はその乗り物をみて首を傾げていた。乗り方が分からないらしい。
『私の後ろに乗ってください。私が漕ぎますので、あなたは私に捕まって』
凛道に習って、女性が自転車にまたがる。
「紳士だねぇ。映画の一場面みたい。ほら、新聞記者と女王様の恋物語のやつ」と脳内で、リュカが煩い。第一、その映画の乗り物はバイクだったような気がする。
『一つ、いっておきます。町の中心部にいくほど凶暴な恐竜が出現しているようです。ここより街は酷い状況かもしれない。そのことだけは、心に留めて置いてください』
凛道の言葉に、女性は頷いた。
「このような被害がでた、と聞いたときから……覚悟はしていました」
女性の言葉を聞いた凛道は、少しばかり安心する。女性が道すがらにショックを受けて気絶するということはなさそうである。
『正義君はもう一つチャリが手に入れば……よかったけど』
「気にせんといて。今は、別のことを考える時間や」
正義の言葉に、凛道は頷いた。
『では、行ってきます』
空港に残る仲間に、凛道はそう声をかける。
「街中は、まだアロサウルスは少しいるみたいだよ」
『分かっています。倒壊した建物を避けつつ、静かに迅速に行動する必要がありますね』
何せこちらは大事な切り札を運んでいるのだ、とは凛道はいわなかった。
●VS人間
笛の音が響いている。
その音の元へ、氷鏡 六花(aa4969)は急ぐ。
『本当に、こっちに進んでいいの?』
アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)の言葉に、六花は頷いた。
「エステルと、アルメイヤさんのことも、気になるけど……今は、笛の奪還が、最優先……なの」
二人はたぶん別のところで頑張っている。
六花は、それを信じて歩く。
笛の音を発しているのは、青年であった。このあたりでは極一般的な服装をしていて、このビルの下に避難している人にまぎれてしまいそうな恰好であった。そんな彼が吹いている笛は、人間であっても心がざわざわと落ち着かなくなるような乱れた音を発していた。
『近くで聞くと、よりいっそう嫌な音ね』
アルヴィナは、顔をしかめる。
「ん……あの音が……全部の原因なの。……止めないと」
六花は、今は離れている仲間や友人たちのことを思った。皆も、この街の人々を守るために今頃奮闘しているはずだ。そして、その奮闘を終わらせるチャンスを掴んだのは六花であった。皆のためにも、絶対に笛を奪還しなくては。
六花は、断章を広げる。
その凍気が生み出す、鋭い氷槍を青年の上へと降らせた。
「……その笛は、あの女の人の、大事なもの……なの。……返して」
『その下手な演奏は聞き飽きたのよ』
休む暇など与えない攻撃。
笛の音は、一瞬止んだ。
「……笛を手放したの?」
一拍おいて、六花に向って弾丸が放たれる。『六花!』とアルヴィナは悲鳴を上げる。だが、六花は咄嗟に拒絶の風を使用していた。六花が無事であるとアルヴィナはほっとしていた。
『心配したわよ』
「……ん……ごめんなさい」
六花は、青年のほうを見る。
彼の手には、まだ笛が握られていた。
「残念ながら、これは返せないな。だって、コレがないと恐竜は本能でしか人を襲わないんだから」
「……本能?」
六花は、ビルの屋上からちらりと下を見る。
アロサウルスは今も住民を食らいつくそうと街を跋扈していた。世にも恐ろしいあの光景が、恐竜の本能なのだろうか。
「強い者が弱い者を食べる。弱肉強食の本能さ。でも、強い者が必要以上に襲うことはない。腹が満ちれば、襲うのを止める」
『……でも、街の恐竜は……』
アルヴィナはちらりと街の様子を伺う。
いくら殺しても殺したりないとでも言うかのように、街の人々をむさぼっている。
「だから、この笛の出番さ。この笛さえあれば、恐竜は空腹を――怒りで忘れる」
再び青年が、笛に唇をつける。
耳に届くのは、不愉快な音。
「……酷いの」
六花は、呟く。
「……恐竜はもういいって、言っているのに。無理やり襲わせるのは……酷いの!」
再び、六花は断章を開く。
『六花! できるだけ、相手の注意を引いて!!』
アルヴィナの言葉に、六花は頷く。
アフリカの灼熱の大地だからなのか、六花の冷気はより一層冷え冷えとしていた。六花の感情がそうさせていたのか、それとも環境のためにそう感じているだけなのか。アルヴィナにも、誰にも、分からないことであった。
「笛の音! ここか、ここにおったか」
突如、ビルの屋上の柵を飛び越えて現れたのは初春であった。小さな体に身に着けたジャングルライナーを駆使して、屋上までやってきたのだ。
『ビルの屋上とは、探すのに手間取ってしまったのじゃ』
口惜しいとばかりに、稲荷姫は唇を噛んだ。
「しかし、わらわたちがくれば鬼に金棒なのじゃ」
初春は武器を刀に持ち替えて、ジェミニストライクを使用する。
青年はその攻撃を避けようとしたが、その隙を突いたのは一刀斎であった。青年からしてみれば、一刀斎は突然現れたように思われた。しかし、一刀斎はしごく真っ当に階段を使って屋上までやってきたのである。登場が派手だった初春の影に隠れていただけで。
一刀斎の攻撃を受けた青年の手から、笛が零れ落ちる。
「これじゃ! これが、恐竜たちを鎮める笛なのじゃ」
笛を拾った初春に、青年が向ってくる。
「返せ!」と怒鳴り声を上げながら。
笛を一刻も早く、女性の下へと届けなければならない。けれども、ここで青年を倒すために六花の手伝いもしなければ、と初春は迷った。
『投げるのじゃ」
稲荷姫の言葉に、初春ははっとする。そして、笛を放り投げた。
「頼む!! それを古の巫女に!!」
それを捕まえたのは、一刀斎であった。
「任せてくれ……必ず届ける」
●VSステゴサウルス2
「尻尾を切り離そうとしているのに……すごく丈夫だ」
正太郎はステゴサウルスの尻尾を切り離そうと、そこに重点的に攻撃を加えていた。だが、恐竜の尻尾はトカゲの尻尾のようにストンとは切り落とすことは出来なかった。
『それどころかどんどん怒らせているな、正ちゃん』
悪食丸の言葉に、正太郎は「たしかに……」と呟くことしかできなかった。ステゴサウルスと住民がのった車を引き離すことには成功したが、止めをさすことはできていない。
その時――ステゴサウルスの一体が倒れた。
今まで、正太郎に攻撃を加えていた一体である。
「弱ったそぶりなんてなかったのに」
急に倒れたステゴサウルスを正太郎はいぶかしむ。だが、悪食丸にはその理由が分かっていた。
『こいつら、野生動物だろ』
「あ……」
正太郎は、理解した。
野生動物は、敵に弱った姿など見せない。それが原因で狙われてしまうからだ。最後まで強がりを通して、虚勢を張って死んでいく。突如倒れたステゴサウルスを目の前にして正太郎は、無言で視線を落とした。
自分が倒したのは、愚神でも従魔でもない。
単なる野生動物だった。
「供養……してやれないか」
『それは、後だな』
悪食丸の言うとおりだった。ステゴサウルスはまだ残っていて、脅威であることに変わりはない。それでも、全てが終わったら正太郎は自分が殺してしまったステゴサウルスを食いたいと思った。野生で生きて、野性の姿を貫いて、死んでいった恐竜。ならば、彼の血肉を余すことなく取り込むことが――殺した自分にできる最大限の供養になるような気がした。
「まだまだ、ボーとはしてられないよ」
若葉は笑いながら、正太郎に声をかける。車をニュートラルの状態にし、押して移動させるという力技の作戦の結果……彼は泥だらけになっていた。それでも、朗らかでいられるのは作戦が成功したからだ。
「俺も恐竜はできるだけ傷つけたくない。でも……あっちが暴れるなら」
戦わなければならない、と若葉は拳を握る。
『……飲み込んでいるオーパーツを吐かせれば、恐竜の脅威はだいぶ下がるのではないか?』
リンカーに攻撃できなくなるのだし、とラドシアスは呟く。
その言葉に若葉は、目を見開く。
「そうか。そうだよな。ラド、天才!!」
この場に街の住人がいないのならば、オーパーツを吐かせたことで恐竜の脅威はほぼなくなると言っていいい。若葉は、さっそく恐竜にオーパーツを吐かせようとして手を止めた。
「……こういうのって、漫画とかではお腹を殴ると吐くよな。あいつらの腹ってどうやって攻撃すればいいと思う?」
相手は二足歩行ではなく、四足歩行だった。
人間のように、弱点の腹部をさらけ出してくれない。
『俺も、先ほどから考えてはいた。だが、答えをだせないでいる。犬は簡単に腹をみせるのに……』
若葉は愛犬たちのことを思い出したが、あんなふうに恐竜を懐いてもらうなんて作戦はさすがに実行しようとは思えなかった。
『むっ。なにやら、ボクらと同じ壁にぶつかった若者の匂いを感じるよ』
伊邪那美の言葉に「変なことを気にかけるな」と恭也は呟いた。
「目を狙って撃ってはいるが、変なところで暴れられるのも厄介だな」
ステゴサウルスの近くには、車から出てこない拓海たちがいた。このままステゴサウルスが暴れたら、拓海たちは車ごと潰されてしまう。
『無事に、住民たちと恐竜を引き離せたわね』
車のなかで、メリッサと拓海は息を潜めていた。すでに車のエンジンを切ってはいたが、ステゴサウルスたちは車を鼻先でつついたりしている。もしかしたら、ステゴサウルスは車が死んでいるかどうかを確認しているのかもしれない。
鼻先でつつかれるだけで揺れる車内で、メリッサは少しだけ楽しげに笑う。
『本当に映画みたいね。これが映画だったら……この先はどうなるの?』
「車に隠れているのが、悪人だったら恐竜に食べられたり、踏み潰されたりして終りだよ」
拓海は、答える。
時より悪人じゃなくても殺されちゃうけどね、と拓海は答える。
『じゃあ、閉じ込められているのが主人公だったら?」
メリッサの質問に答える前に、車のクラクションが鳴り響いた。
「こっちだ!」
刀護が車のクラクションを鳴らしていたのだ。
『男子ならば動かない車よりも、動く敵に挑戦するべきです!」
辰美の言葉に、刀護は思わず一瞬黙った。
「あいつら……雄だったのか?」
男の子が大好きそうな外見はしているが、と刀護は呟く。
『分かりませんが、雄のような気がしたので』
その場の勢いで言ったらしい辰美に「そうか」と刀護は返した。
そんな会話をしている間にも、ステゴサウルスは刀護のほうに歩いてくる。
「伏せてください!」
拓海はロケットアンカーで恐竜の足をもつれさせ、その巨体を転ばせる。
大好きな恐竜たちをこれ以上悪役にはさせたくない。
そんな一心での攻撃だったが、その攻撃を放つ瞬間に笛の音が聞こえたような気がした。
「すごく……きれいな音なの」
でも、どこからと杏樹は首を傾げる。
穏やかな印象の音は、ささくれ立った心を慰めるように優しい。
杏樹は小さな唇を開いて、歌い始めた。仲間の治療をしながら、無意識に聞こえてくる音に歌詞を乗せる。
「――帰ろう、帰ろう、あの森へ。帰ろう、帰ろう、あの場所へ。ここではなくて、我らの大地に帰ろう」
それは、杏樹が音を聞いて感じた歌詞であった。
「我らの深い、母なる森で、眠ろう、眠ろう」
子守唄のようでもあるし、民謡のようでもある歌詞。
歌を歌いながら、杏樹は感じる。
「これは、彼らを宥めるための歌なの。間違って……街に来てしまった恐竜たちに帰ってもらうための歌なの」
杏樹は、歌う。
人間のためではなく、古代の生物のための笛の音にあわせて。
笛の音を聞いたステゴサウルスたちは――静かに尾を下ろした。目を潰されたはずの恐竜は、雄叫びを上げる。いつからか、傷ついたはずの恐竜たちの傷は癒されていた。笛による治癒能力なのだろうか、とその神秘の光景を見ていたリンカーたちは思う。
だが、神秘が届かないものもいた。
笛は恐竜の傷を癒したが、死をなかったことにはしない。
ステゴサウルスたちは死んだ仲間たちを鼻先でつつき、ソレが動かないと分かると足音を響かせて歩き出す。まるでこの場所が自分の居場所ではない、と知っているかのように。
●VSアルゼンチノサウルス2
『もう一回、眠らせようかな?』
百薬の言葉に、望月は悲鳴を上げた。
「あんなのがもう一回倒れてきたら、今度こそ潰されるよ。それに、下手に倒れても被害が過ごそうだし」
望月は、きょろきょろと当たりを見渡す。
アルゼンチノサウルスが倒れた衝撃によって割れたアスファルトや空港に取り残されていた機材の残骸が目に入る。ただ倒れただけで、この被害である。これをもう一度繰り返されるのは、勘弁して欲しい。
『でも、あの恐竜はお腹がすいているようには見えないな。はっ、もしかして肉食なんじゃないのかな?』
百薬の言葉に、望月は「だとしたら百薬が真っ先に食べられちゃっていたかもよ」と言った。
「羽根がついてて目立つし」
『天使を食べるなんて、乱暴だよー」
百薬はむくれていた。二人の遣り取りだけを見れば平和であったが、状態はひっ迫していた。
「□□――」
『こちらに注意を向けさせるのは難しいですね』
構築の魔女はストライク使用して恐竜を攻撃していたが、恐竜の怒りは目の前に飛んでいる飛行機に向けられていた。
もしかしたら、巨大すぎるアルゼンチノサウルスは自分の足元から攻撃されるとは思ってもいないのかもしれない。だからこそ、目の前を飛んでいる飛行機にだけ怒りを向けているのだろう。
「足に攻撃も加えているが、あまり効いてはいなさそうだな。なにより、あの足が少し動くだけでこちらにとっては凶器だ」
リィェン・ユーの言うとおりである。
巨大すぎる生物は、もはやいるだけで一種の凶器と化していた。
『そろそろ燃料も心配になってきますね』
構築の魔女の心配は的中していた。
「ねっ、燃料がそろそろピンチなの」
捺美は、操縦桿を握りながら叫んだ。
『餌もそろそろつきますね』
ウーフーの言葉に、黒塚は思わず飛行機の壁を叩いた。
「あいつら、どれだけ大食らいなんだ」
「もう、限界なの。鷹の目で恐竜たちの気をひいて、その間に着陸するの。シートベルトをするの!!」
慌てる捺美に、黒塚は「待てっ!!」と怒鳴った。
飛行機の音にまぎれて、どこから音が聞こえてくる。その音は、さきほどまで聞こえていた心を乱すような音ではなかった。
――とても、優しい音色だった。
心を乱していた楽器と同じ音のはずなのに、ただ聞いているだけで安らげるような気がした。不安も悲しみも怒りも包み込むような音に、黒塚は一瞬だけ聞きほれた。
『あれを……』
ウーフーは、アルゼンチノサウルスを指差す。
今まで飛行機を攻撃しようとしていた彼らは、その目的を忘れてしまったかのように飛行機にそっぽをむいた。そして、大きな足音を立てながら来た道を帰っていく。
あまりに巨大な生物が、穏やかに歩くさま。その姿に、思わず誰もが言葉を失った。凶暴性を失い、ありのままに歩くアルゼンチノサウルスがただ美しかったのだ。
●VSアロサウルス2
「何をしておるのじゃ。しっかりかまえるのじゃ」
『まだまだ、おぬしの力はこんなものではなかろう?』
初春と稲荷姫の叱咤激励を背にしながら、ルカは叫んだ。
「無理ー!!」
大多数の住民をビルに避難させることに成功はしたが、街にアロサウルスはまだ残っている。そのアロサウルスと戦うためにルカたちは、街にいる――いるはずだった。
『あの青年を拘束できたのはいいけど……まさかこんなところで囲まれるとはね』
アルヴィナの言葉に、六花も少しばかり緊張していた。
「……ん……恐竜は寒いの苦手じゃないのね……」
六花たちは、アロサウルスの群れに囲まれていた。
小さなアロサウルスが六花たちを追い詰めるように吠え立て、背後で大人たちが睨みを利かせる。ルカは思わず「授業参観みたい……」と現実逃避した。
「……ん……食べられるわけには……いかない」
「そうじゃ!」
六花と初春は、アロサウルスに向って武器を構えていた。二人ともこの危機を自力で脱出するつもりなのである。ルカは内心悲鳴を上げつつも、女の子ばかりに戦わせるわけにもいかないと何とか奮い立つ。退路があったら逃げたかったが、その退路すらなかったので追い詰められていたとも言う。
その時であった。
笛の音が聞こえた。
優しく穏やかな笛の音と共に現れたのは、自転車に乗った凛道であった。その後ろに乗せられた女性は、笛を吹きながら自転車を降りる。
『危ないですよ』
と凛道は声をかけた。
だが、女性は首を振る。
「凄く、綺麗だ……」
リュカの感嘆の声に「たしかに綺麗な音ですね」と凛道は同意した。リュカは少しばかり笑いながら「違うよ」と答える。
「この風景が綺麗なんだよ」
凛道の目の前の光景。
大人しくなったアロサウルスが、女性を迎え入れるという奇跡。アロサウルスの凶暴さを考えれば、まずありえない光景であった。
女性は、笛を吹くのを止める。
「危ない」と誰もが思った。
しかし、アロサウルスたちは女性を襲うことはなかった。女性は、一際小さいアロサウルスの子供に向って手を伸ばす。そして、たおやかな手で皮膚に触れた。
「スワナリアへ、おかえりなさい。この世界は、あなたたちには小さすぎる」
再び女性が笛を吹く。
アロサウルスの親が吼え、子供がそれに続く。そして、彼らは列をなして帰っていった。向う場所がどこであるかは、聞かなくとも分かった。
――スワナリアだ。
『あの場所よりもアフリカ大陸のほうが……この世界のほうがずっと広いのに』
納得できない、とでも言いたげに凛道は呟く。
「今の地球は、恐竜には狭すぎるよ」
とリュカは答えた。
「だって、もうこの地球には恐竜たちが住めるような森や大地はないんだもん。お兄さんたち人間が、そのすべてを街に変えてしまったから――なんてね」
女性が奏でる音を頼りに、恐竜たちは太古の大地へと帰る。
そこが、現代の恐竜たちにとって唯一の生存圏だった。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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