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【SE】悪は愚神か人の独善か
掲示板
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独善者の爪痕
最終発言2018/08/22 00:57:37 -
質問卓
最終発言2018/08/19 10:14:51 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/08/20 01:41:11
オープニング
●独善の爪痕
その日、冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)という人間がH.O.P.E.に保護された。
それまでH.O.P.E.が認識していた彼女の名は『愚神』ラカオス。愚神集団『シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)』に属していた人間だが、それは彼女の本意ではなく、元H.O.P.E.にして過激思想派が彼女を制御可能な敵、『グライヴァ―・チルドレン(愚神の子供達。以下GCと略)』に仕立て上げていた。
エージェント達の奮闘の結果、彼女を含むGCの生き残り2人は無事保護される。
その彼女の体に内蔵されていた各端末に含まれていた数々の情報とエージェント達が回収した証拠の群れは、居合わせた職員達を絶句させた。
――なんだ、これは。
スクリーンに映されているのは、冷泉愛結より取り出された端末に記録されていた情報で、映像として残っているということは、冷泉愛結たちも目撃し、体験していたことになる。
何かの武器で腹や首を割かれ、血の海に浮かぶ無数の人々。
体や顔に的のマークを塗られ、無数の銃弾で射抜かれた幼子達の遺体。
壁から伸びる鎖に捕らわれた遺体。
そしてうず高く積まれた、かつて人だった者達の山。
それを背景にGC研究所の制服を着た男達が、愛結であろう撮影者を棒で叩き、髪を乱暴に掴み、腹を何度も殴り蹴る。
そのたびに映像は揺れ動き、地面に倒れる。
『殴れば殴るだけてめえらGCは人間に近づくんだよ。痛いか? 苦しいか? そうかよかったな。それは人間だから覚えることのできる感覚だぞ。はははっ、人間に近づいてきてるじゃないか!』
映像の中にいた男達は笑う。嗤う。地面に這いつくばった愛結の手を踏みにじり、どこまでも楽しそうにケラケラ嘲笑う。
言うまでもなく過激思想派やGC研究所がこれまで積み重ねてきた所業の一部だ。
既に過激思想派が行使した超法規的措置は抹消され、これらの所業は全て犯罪行為とみなされているが、このまま逃亡した過激思想派を野放しにしておくのは危険すぎると情報部は判断した。
そんな状況の中、愛結の持つ通話機に連絡が入る。
発信元は、彼女と共に行動していた愚神マニブスだった。
『過激思想派の行方、知りたい?』
何か情報を掴んでいると察した愛結が情報部員達を伴ってH.O.P.E.の建物より外に出ると、不意に景色がゆらぎ、愚神マニブスと愚神ループスが愛結の両脇に出現した。
情報部員達が武器を構えるのを手で制し、愛結が尋ねる。
「今まで何を?」
「人間達の家畜を肉に変えるときの手伝いかしらね」
マニブスとループスは以前とあるエージェントの助言に興味を持ち、家畜の命を断つ屠殺場にドロップゾーンを展開して家畜たちのライヴスを収奪し、命を奪った家畜の肉体を人間達に引き渡す事で共生関係を築いているらしい。
それとは別にマニブスは独自のルートで過激思想派の行方を突き止めたようだ。
「連中は今どこにいるんです?」
「南米にいるわ」
愛結の問いにマニブスはそう応え記憶媒体を取り出し愛結に手渡す。
「何故愚神でありながら、彼女に付き従う?」
情報部員の1人がマニブスに問うと、意外な答えが返ってきた。
「彼女たちを生かしてほしいと頼まれたから」
「誰に?」
マニブスは情報部員の質問に応えず、ループスを伴って姿が一瞬ぶれると姿を消した。
●暴走
マニブスより渡された情報の解析を終えた情報部が内容を上層部に報告する。
その内容を受けH.O.P.E.は過激思想派の逮捕を本格化させる。
その結果、まずGC研究所に勤めていた研究者や職員達の身柄が確保された。
GC研究所に勤めていた人間達はH.O.P.E.所属ではなく過激思想派に雇われた身だったが、現地では彼らを支援するリンカー達もまだ残っていたらしい。
というのも彼らを護送中に襲撃を受け、その隙に研究者や職員達の一部が襲撃者達と共に逃走したからだ。
彼らは近くにある企業ビルに乗り込み、中にいた人々を武器で脅して人質にとると、建物全体を制圧下においた。
ビルを占拠した過激思想派は、追ってきた情報部員達に人質の解放条件として以下の3つを要求した。
『食料と逃走資金の用意』
『逃走する為のヘリ複数台の用意』
『H.O.P.E.への復帰及び自分達の行為全てへの超法規的措置の適用』
一連の事態と要求は直ちにH.O.P.E.に伝えられ、H.O.P.E.は過激思想派からの要求には応じないことを決定。
交渉役が時間を稼ぐ間に、人質の解放と過激思想派逮捕のための依頼斡旋に動いた。
会議室のスクリーンに、南米のとある都市にあり、今過激思想派が立て籠もるビルの見取り図が映された。
ジョセフ・イトウ(az0028)は『あなたたち』に説明する。
「今この建物に過激思想派が建物にいる人達を人質にとって立て籠もっている。頼みたいのは人質の救出と過激思想派の逮捕だ」
ジョセフが機械を操作すると、スクリーンの映像が過激思想派の立て籠もるビルの見取り図に切り替わる。
「今建物の出入り口や窓といった侵入口に人質になった人達は並ばされ、後ろで武器を構える過激思想派が人間バリケードを作って監視している状態だ」
ここでジョセフは突入する為の案を提示する。
「連中は脱出のためのヘリを要求している。だからそれを利用してヘリを用意したふりをしてそれに乗って屋上から動く手がある」
当然屋上にも逃走手段を確認するための過激思想派はいるだろうが、そこは強襲で黙らせる。
そして気づかれる前に人質達が脱出できるルートを確保し、人質達を逃がすと共に、過激思想派を残らず無力化する。
そこまで説明したところで、部屋の外から別の職員が慌ただしく入ってきてジョセフに資料を渡す。
内容を確認したジョセフはため息をつくと、『状況が変わったよ』と『あなたたち』に告げ、機械を操作しスクリーンに映るビルの見取り図周囲を動く3つの赤い点が追加された。
「今しがた中型ヘリコプター3機がこのビルに着くなり、ビルへの攻撃を開始した。ヘリの奴等はH.O.P.E.を名乗っていて、『ビルを占拠した愚神や従魔どもを退治する』と主張しているけど」
ジョセフの唇が皮肉気に歪む。
「そんな事実はない。この3機のヘリの正体も過激思想派だよ。人質や邪魔になった味方を愚神や従魔として皆殺しにして隠蔽をはかる気だ」
その混乱に乗じて過激思想派は逃走するつもりだろうとジョセフは見解を伝える。
「愛結や人間達をGCだと貶めて虐殺した連中だ。それぐらいの真似はするだろうね」
ジョセフや情報部の見解は、過激思想派がいかに暴走しており、元であろうと同じH.O.P.E.と認めるわけにはいかないと理解するには十分すぎた。
独善から人々を救うため、いま『あなたたち』の救援が求められている。
解説
●目標
人質となった人々の命を救う
過激思想派の身柄確保
登場
過激思想派
元H.O.P.E.所属で人間達をGCに仕立て上げ、SEを作りGCを虐げて悲劇を生み出し続けた元凶。その独善的な思想のもと暴走し、ヴィラン認定されH.O.P.E.より追われ、その所業の証拠も証言も既に揃っている。
総勢は推測で40名前後。ヘリ3機も正体は過激思想派。装備不明。説得不可能。
PL情報:ヘリの銃撃で戦闘不能に陥った者が複数名いる。
冷泉愛結
元SE所属の人間。非道な実験を受け続け爆弾を埋め込まれ行動や思想を過激思想派に管理され使役されていたが、エージェント達の奮闘で救われ、現在はH.O.P.E.の保護を受けている。エージェント達には感謝しているので今回は『あなたたち』の指示に従う。
人質達
このビルで働いていた人達。ビルの出入り口や窓に立たされ人間の盾にされている。
PL情報:ヘリの襲撃で負傷者多数。
状況
南米の一地方にある小規模な街。5階建ての企業ビルに過激思想派が人質を取り立てこもっている。屋上にも過激思想派がいたが、現在ヘリ3機の攻撃で壊滅し屋上は無人。ビル内部は混乱中。周辺住民達の避難完了。無線貸与済み。現地急行用に20人乗り以上の大型ヘリ(非武装)を1機使用可。操縦士役は真継優輝(az0045)が担う。
以下はビルの大まかな見取り図だが、ヘリが襲撃する前の状態なので現在の状況は不明確。
■■■■■■■ ■■■■■■■
■Ⅲ■過 人窓 ■Ⅲ■ ■人窓
■ ■ ■ ■ 過 過■
■ 過 人窓 窓人 人窓
■ ■ ■ 過 ■
■■ 過 人扉 ■過 人窓
■ ■ 窓人 過 ■
■ 過 人窓 ■■ 人窓
■Ⅲ■ ■ ■Ⅲ 壁 ■
■■■■■■■ ■■■■■■■
1階 2~4階
過:過激思想派
人:人質
Ⅲ:階段
リプレイ
●突入
この日、平穏だった街のとある企業ビルに、突如過激思想派の暴力が襲いかかった。
彼らはその前にH.O.P.E.に逮捕されていたが、連行中に起きた襲撃に乗じて逃げ出してこのビルへと逃げ込み、中にいた人々を人質に取り立てこもった。
なお過激思想派の呼称だが、彼らが作った敵役である『シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)』の呼称が当てはまるという意見が多かったので、以後過激思想派のことをSEとする。
だがそこへ3機のヘリがビルに襲いかかる。ヘリ3機はH.O.P.E.を名乗ったがその正体もまたSEだ。
旋回を続ける3機のヘリがビルに絡みつくような軌道を描きながら、機銃掃射を始める。
ビル外面の窓ガラスを次々と吹き飛ばし、中にいる人々を攻撃する。
だが既に内部はSEに盾扱いされ、撃たれ負傷した人質達が散乱する地獄絵図に違いない。
月夜(aa3591hero001)と共鳴し、マジックブルームを駆っていち早く現場に到達した沖 一真(aa3591)が、そんな現状を把握すると、ライヴス通信機「遠雷」を介し、後続の仲間達にも伝えていく。
「人間の敵は人間……てことなのかね。まるでヘイシズが予見していた未来の断片を見ているかのようで気が滅入りますなぁ」
『感慨にふける暇はあるのかな? 突入前にヘリの武器や制御を黙らせたほうがいいはずだよ』
月夜からの忠告に一真は頷くと、錫杖「金剛夜叉明王」+3から白光球状のライヴスをヘリに放つ。
一真より放たれた白光球状ライヴスは、ヘリから銃撃を続けるSEの1人に命中し、貫いた。
目を見開いたSEの口から鮮血が溢れ、腹を貫かれたSEはヘリから落下し、地面に叩きつけられ無力化した。
一真は倒れたSEに見向きもせず、後を仲間達に託すとビル5階の窓へとマジックブルームを走らせ、既にヘリの銃撃で割れた窓に残るガラスの破片の中を潜り抜け、5階フロアの中に突入する。
そこへ大型ヘリが轟音と共にローターを回転させてビルへと接近。
乗っているのは紫苑(aa4199hero001)と共鳴したバルタサール・デル・レイ(aa4199)と、運転する真継 優輝(az0045)だけだ。
このヘリが陽動を務める形で、他のエージェント達は地上を進みビルに接近する。
(奴等の正義などどうでもいいな。人それぞれ、勝手に好きにすればいい)
(色んな人間の業がここには溢れているみたいだね。鑑賞する分には愉しそうかな)
バルタサールも紫苑も、お互いの思念間でだけSEの滑稽さを許容していたが、そんなことは表に出さず、1機のヘリをSSVD-13Us「ドラグノフ・アゾフ」+1の照準にとらえる。
「敵を眩惑させるぞ。一度頭上のヘリから視線をそらすんだな」
ライヴス通信機「雫」で仲間達に警告後、バルタサールはフラッシュバンを発動する。
バルタサールのライヴスが強烈な閃光を放って炸裂し、それをまともに浴びたヘリがよろめき、そのヘリからの銃撃が止まった。
それをアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001) と共鳴し、氷の箒を思わせるマジックブルームを駆り、ここまで飛んできた氷鏡 六花(aa4969)は見逃さない。
『まずヘリを落としてから中に突入するわよ。その方が被害拡大防止に繋がるわ』
アルヴィナの指摘に六花は頷きで応じ、『氷鏡(アイスリフレクトミラー)』の名で改良された【SW本】リフレクトミラーを展開する。
ダイヤモンドダストのような煌めきを纏って無数の氷鏡が宙に舞い、次いで終焉之書絶零断章+5より発射された極寒の凍気を思わせるライヴスが氷槍と化し、『氷鏡(アイスリフレクトミラー)』によって増幅され、氷槍状ライヴスの群れがヘリの1機を食いちぎる。
さながらブリザードに巻き込まれた鳥のように、ヘリは機体を叩き折られて墜落し、地面に激突する。
「……ん。残りの2機は……任せる、ね」
ヘリを仕留めた六花はそう言い残し、氷の箒を屋上へと走らせると、バルタサールの乗るヘリも敵ヘリ勢を突破し屋上に着陸。残りのエージェント達も続々と地上からビルに取りついていく。
最初に到達し、マイヤ サーア(aa1445hero001)と共鳴した迫間 央(aa1445)は、地不知を発動して一気にビル外壁まで跳躍。続けて壁を踏み、そのまま上の階へと疾走する。
今の央に重力はほぼ束縛にならず、央は自在にビル外壁を駆け抜け、ある階のヘリの銃撃で吹き飛んだ窓から内部をそっと覗きこむ。
(事前の情報では、人質となった人々は窓際に立たされていたという話だが……)
央の見通した先では、SE達はヘリからの攻撃で混乱しつつも機銃の発射音を響かせて応戦していた。
そこかしこに銃で撃たれ負傷した人質達が転がっているが、SEはそんな人々を集め、積み上げていた。
「人質となった人々は窓際にいない。銃撃に巻き込まれて負傷中だ。今部屋の中央にSE達がその人々を集めて人間バリケードを作成中だ」
央はライヴス通信機「遠雷」で密かに仲間達へビル内部の状況を伝えながらも、その手の中で天叢雲剣+5の柄がみしり、と軋みを上げる。
『……央。あれは人間としてやってはいけないことなのは、私にもわかるわ。ここは行くべきよ』
マイヤもまたSEに対し、愚神や従魔に対するものと変わらぬ敵愾心を抱いている。央は頷くと後続の仲間達が到着する時間を稼ぐため、4階の窓から中にするりと滑り込み、ジェミニストライクを発動。
2つに割れた央が窓近くのSEを狼狽させ、天叢雲剣で斬り払い、撃破する。
不破 雫(aa0127hero002) と共鳴した御神 恭也(aa0127)もまた、地不知を駆使して垂直に並ぶビルの外壁を駆け上がる。
「ふん、超法規的措置を求めるって事は自らの行いに後ろ暗さを感じている証拠だろうが」
『独善的な正義感もここまで来ると醜悪ですね』
正しいと思うなら超法規的措置など求めない。だがSEは自身の行動の責任を放棄する。
――ふざけるな。誰がそんなことを認めるか。
恭也も雫もそんなSEを醜悪と切り捨てる。
「あの痴れ者どもが。H.O.P.E.の名がなければ何もできんのか!」
――己が信念に殉じ大海に散った獅子(ヘイシズ)殿の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ!
天城 初春(aa5268)は出撃前に閲覧したSEの所業と今の惨状を見渡し、SEへの怒りをあらわにする。
『まったくじゃな、ふざけおって。己が行いを正義とほざくなら己が名の下にてやって見せぬか愚物共が! 幼子達を玩具とし弄んだその報い、暗き檻の中にて悔い改めさせてくれるわ!』
辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)からすれば、SEは悪行の責任をH.O.P.E.になすりつけようとするのも許し難いが、それ以上に子供達を『グライヴァ―・チルドレン(愚神の子供達。以下GCと略)』と貶め、虐殺した時点で下衆だ。
「過激な方向に行ってしまうのは分かる気がしますが、テロリストに成り下がるのは違うかと……」
エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)と共鳴した晴海 嘉久也(aa0780)はある程度SEの正義に理解は示しつつも、無関係の人間達を傷つける時点でSEをテロリストと断じていた。
『ここからどう動くつもりですか?』
「空は飛べませんからヘリは対応できる方にお任せするとして、我々はビルの状況の解決に向かいます。迅速に制圧したいです」
エスティアの問いに嘉久也はそう応じると、ジャングルランナーを起動し屋上近くにマーカーを設置すると一気に屋上近くへ到達。落下する前に屋上の縁を掴み、そのまま屋上に這い登り、ビル内に通じる扉をシーフツールセットで開錠して仲間達の突入を支援する。
「人とはなぜこうまでも呪わしき存在となれるのかや」
ラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)へ乗り込むように共鳴したソーニャ・デグチャレフ(aa4829)は、SEの愚行を嘆く。
超法規的措置を求めるのは、SE自身が自分達の行動に不安があるからだ。
彼らの不安はわかるが許すことは出来ない。許してしまえば、抵抗できない子供達たちがさらに犠牲になる。
『馬鹿には言葉が通じない。さっさと暴力で排除するんだな』
この状況では、ラストシルバーバタリオンの出した結論が妥当と言える。
ラストシルバーバタリオンの意志に頷くと、ソーニャはジャングルランナーに装備を変更し、屋上近くにマーカーをつけ一気に移動し、屋上へと這い上がる。
かつて同じH.O.P.E.の名を掲げた者同士が、ここに相争う。
●救出
突入後まもなく、ビルの各階が戦場と化した。
嘉久也の要請を受けた工作部隊が、屋上から嘉久也が魔導銃50AEを駆使してヘリを牽制する間に、ビル内部の電源と通信の切断に成功する。
「遠隔自爆を防止……まあ、可能性ですし十分とは言えませんがやっておきます」
作業完了を確かめた嘉久也はそう言い残しビル内に突入し、同じく突入したソーニャは新型迷彩マント+2に装備を替え、そのまま階段を伝い1階へと向かう。
「とりあえずあの騙り鴉共(ヘリ)にガーガー鳴かれるのも不快じゃな」
『さっさと沈めるかの』
初春と稲荷姫はそう言い交すと、屋上に残ったバルタサールに共同でのヘリの撃破を持ちかける。
『ヘリ達がトリオの範囲内に収まってくれない以上、それぞれ仕留める形のほうがよさそうだよ』
「撃たれ続けて耐えるというのは趣味じゃないからな」
紫苑とバルタサールもそれぞれの考えから初春の要請を承諾。シャープポジショニングで狙撃へのベストポジションを確保し、初春もアンチマテリアルライフル+1をヘリに向ける。
そんなバルタサールと初春に向け、ヘリに搭乗するSE達が機銃を撃ちまくる。
機銃の火線と交錯するように、バルタサールのSSVD-13Us「ドラグノフ・アゾフ」と初春のアンチマテリアルライフルが火を噴き、撃ちだされた弾丸状ライヴスがそれぞれ各ヘリの回転翼の基部を貫いて引きちぎると、回転翼を叩き折られたヘリが破片を散らして失墜し、SE達を抱いたまま地面に叩きつけられ、粉塵を巻き上げた。
「御屋形様、騙り鴉共は全て沈めたのじゃ」
ライヴス通信機を介し、初春は一真や仲間達へ全ヘリの撃破を報せる。
それを受け一真は5階からスマートフォンでヘリを撮影し、墜落地点を本部へ連絡する。
「街中に落ちるのは避けられたけど、そのまま逃げられても困るし」
その下の4階では先に突入した央がSE達を翻弄していた。
地不知はいまだ効果を発揮し、央は壁といわず天井といわず、フロア内の空間に複雑な軌跡を描いて駆け回り、SE達の放った火線は虚しく宙を薙ぐ。
『央。そろそろ応援が駆けつけて来る頃よ』
「わかった。まずはこいつらの意識を刈り取らせてもらう」
マイヤの連絡を受け、天井からSE達のただ中へと舞い降りた央は繚乱を発動する。
央の影より霞と花弁を帯びた旋風がフロアに顕現した。その視界に薔薇を模した影の花弁が散る、舞う、散る。
花弁の群れに包まれたSE達は生命力と意識を強奪され、ひとたまりもなく打ち倒される。
その間に一真や嘉久也、六花が4階に到達した。
『ここは人質になった人達の回収に動いたほうがいいと思います』
「そのようですね。下の階に向かった味方と挟撃するのはまだ先でしょうから」
エスティアと嘉久也はそう言い交すと、嘉久也は浦島のつりざおを駆使して周囲に転がる人質達を自分のもとへ引き寄せ、SE達から引き離して安全確保に動く。
嘉久也によって人質達が回収される中、六花が残るSE達を射程に収める。
『迫間さんと晴海のおかげでだいぶ整理されたわ。後はこの連中を片付ければこの階は解放できるわよ』
「……待っててね。大丈夫……だから。すぐに、全員やっつけて……助けてあげるから」
アルヴィナの助言に頷きながら、六花は周囲に散らばる人質達にそう声をかけ、SE達へゴーストウィンドを放つ。
六花が雪風と名付けた氷雪を帯びたようなゴーストウィンドはSE達を包み込み、SE達は蝕まれ次々と朽ちていく。
六花の攻撃から逃れ得たSE達にも、既に一真が回り込んでいた。
『散々好き勝手やっておいて、逃げられるほど世の中は甘くないんだよ』
「愚神よりもよっぽどたちの悪い……信念という名の化け物。自分の信念で人を傷つけ、命を奪おうとしてる。絶対に許さないよ」
月夜と一真の宣告と共にブルームフレアが発動し、SEのただ中に業火の花が咲いた。
業火状ライヴスはSE達のみを包み、SE達は炎に抱かれたまま絶叫を上げて倒れていく。
こうしてビル4階は解放された。
一方2階では、恭也の投げ入れた消火器がSEの銃撃で貫かれて蜂の巣にされ、ぶち撒かれた消火剤が一瞬SE達の視界を遮り、地不知を駆使し恭也も割れた窓から中へと侵入を果たす。
「人質を矢面に立てて、自分らは背後から脅迫か……テロリストとしては順当な行動だな」
恭也の中では既にSEの評価はテロリストまで下がっている。
恭也は淡々とした口調でそう言ったが、雫は恭也の本心に気づく。
『キョウ、随分と機嫌が悪いですね』
「正義を掲げれば、何をしても許されると思う連中はいけ好かないだけだ」
そう雫に応じると恭也は窓から壁を駆け抜け、天井へと旋転する。
人間としてありえない動きにSEの構える武器は惑わされた。虚しく交錯する火線を見おろし、恭也は密集するSE達の頭上へと駆け寄ると女郎蜘蛛を発動する。
恭也より吹き伸びた幾筋ものライヴスが解け、網と化してSE達に絡みつく。粘性を帯びた恭也の女郎蜘蛛は、絡め取ったSE達の動きと意識を削いでいき、無力化されたSE達が折り重なって倒れていく。
そして1階に到達したソーニャは、入口の扉の鍵を密かに開けた後、拡声器の音量を最大にして音を出す。
突然の大音に、SE達は一斉にソーニャのほうへ視線を向ける。
『人質はともかく、リンカーには効果がないのでは?』
「少しでも引き寄せる要素を増やせば、その分人質となった人達への危険が減る筈だ」
ラストシルバーバタリオンの意志にソーニャはそう応じると、守るべき誓いを発動し、1階にいるSE達の誘引を開始する。
ソーニャの意図通り、SE達は守るべき誓いの効果で人質達から離れ、ソーニャに向け武器を咆哮させる。
派手な弾着の火花がソーニャの全身に狂い咲くが、ソーニャはその悉くを跳ね飛ばし、逆にソーニャは「バッヘルベル・カノン」の名を冠する37mmAGC「メルカバ」+3を構え、引き金を引いた。
SE達の銃器とは比べものにならない砲声が轟き、発射焔がSE達の目を焦がす。
ソーニャの砲弾状ライヴスが閃き飛び、正面にいたSEを直撃した。苦悶の声が噴き上がり、胸を貫かれたSEが鮮血の霧を噴いて頽れた。
●撃破
既にビルの屋上はバルタサール、初春によって制圧され、5階、4階は六花、一真、嘉久也、央によって奪回された。
SE達より奪回した階の人質達は一真の手で屋上へと護送され、負傷治療は優輝が主に引き受けている。
「あの時はこうして肩を並べて依頼を受けるなど思いもしなかったが……あてにしている」
今も治療でビル内を駆けずり回る優輝の姿を目に止めた央は、優輝に負傷者を託し、制圧されてない階へと急ぐ。
バルタサールと初春は屋上に留まり、墜落したヘリより這い出てくるSE達を狙撃し、倒し続けている。
『今度は右の残骸からじゃ! それにしても、こ奴らを獄界の深遠に沈めてやれんのがつくづく残念じゃな!』
「愚神を絶対悪とほざく割にやっとることは愚神以下の醜い輩が、痛い目を見て己が所業を悔い改めよ!」
既にビル内の惨状は初春や稲荷姫にも伝えられ、ここでも人々を踏みにじるSEの所業に、稲荷姫は討伐できない事に歯噛みし、初春も激昂しながらも稲荷姫の指示に従い、アンチマテリアルライフルの引き金を引く。
腹に応える銃声が響き、発射焔が弾けた。宙を切って飛翔した初春の弾丸状ライヴスが、いましも立ち上がり、屋上へ武器を向けたSEの腹を貫き、射抜かれたSEは血飛沫をあげて倒れ伏す。
『ほぼ同時に3人出てきた。増援になりそうなのは、これで全部なのかな?』
「情報に漏れが無ければそのはずだ」
紫苑の確認に、【SW(銃)】オプティカルサイト越しに3人のSEを捉えたバルタサールはそう応え、トリオを発動する。
目にも留まらぬ早撃ちでSSVD-13Us「ドラグノフ・アゾフ」より銃声の中から叩き出された3発の弾丸状ライヴスが3人のSEに飛び込んだ。
血飛沫が上がり、胸を射抜かれたSE達が血を噴き上げながら転倒する。
「外にいるSEは全て倒したぞ。後は中にいる連中だけだ」
バルタサールはライヴス通信機「雫」を介し仲間達に周囲の掃討が完了した事を報せる。
そのビルの1階ではソーニャが入口から離れた場所でSE達の集中砲火を浴びていたが、弾幕を浴びるソーニャはかすり傷1つ負わず、SE達と渡り合っていた。
『その程度の武装で我々を倒せると思っていたのか、愚か者め』
「少しでも悲劇を減らすために、貴公らを見逃すわけにはいかないんだ」
ラストシルバーバタリオンが声に出さずSE達を酷評する中、ソーニャはそう宣告して4脚射撃戦モードを元に戻し、武器をファルシャ+4に替え、近くの敵から叩き斬っていく。
ソーニャから最も離れ、階段近くにいたSEは周囲に転がる人々を盾にしようと動くも、不意に飛来したライヴスの針に当たり、動きを鈍らせる。
それは2階を制圧し終え、1階の支援に駆け付けた恭也の放った縫止だった。
恭也の天叢雲剣が存分な威力で弧を描き、肩口から斬り下ろされたSEが、目を見開いたまま転倒する。
「こちらは任せろ、ソーニャさん。SEなど人質には近寄らせない」
SEを挟んでソーニャとの間で挟撃できる位置まで忍び寄っていた恭也は、ソーニャにそう声をかける。
「了解だ。これよりSE達の蹂躙を開始する」
ソーニャの宣言と共に、恭也とソーニャは蹂躙を開始し、3階では一真、六花、嘉久也が残るSE達を追い詰めていた。
『外と他の階は全て制圧できたみたいよ。残るはこの階を解放するだけだわ。一気に行くわよ』
「……ん。六花のこの一撃で、終わらせる」
アルヴィナからの報せに六花はこくりと頷くと、最後に残るブルームフレアを発動する。
凍気を思わせる氷炎がSE達の中から吹き上がり、SE達は氷炎に呑みこまれ、『焼かれて』倒れていく。
辛うじて六花のブルームフレアを逃れたSEは、負傷する人質を強引に立たせ盾代わりにしていた。
『これのどこが正義なの?』
「まぁまぁ、野暮な事はするなって。今すぐに『解放しな』」
月夜が眉を顰め、一真がそのSEに支配者の言葉で命じると、SEは人質を放し、解放された人質を一真が抱えて飛びのく。
そこへSEへと地を低く這い寄った嘉久也が、SEの腹にセイクリッドフィスト+1を叩き込む。
破裂するような音が響き、嘉久也の痛烈な一撃を腹に浴びたSEの体が宙を舞い、床に叩きつけられそのまま無力化した。
『一切手加減してませんでしたね』
「まあ、リンカーなら多少ぶん殴っても死なないでしょうから」
エスティアの指摘に嘉久也はそう応えると、倒したSE達を一か所に集めると共に、無線を介してH.O.P.E.へSE捕縛用具の手配を依頼する。
その頃央は、階段まで人質を盾に逃れていたSEを追い詰めていた。
「試してみるか? お前が引き金を引くより俺の剣は早い」
央が誘いをかけるが、SEは人質を盾にしたまま『武器を捨てろ』と央を脅す。
そこで央は天叢雲剣を収納し、武器を捨てたと見なしたSEが人質の体を横にずらした瞬間、央が何も持たぬ手をSEに向ける。
「剣を摂れ……銀色の腕!」
央の叫びと共に、央の袖にスリム化され隠されたヌアザの銀腕から灼熱の奔流がSEに放たれる。まともにその一撃を浴びたSEは吹き飛ばされ、階段を転げ落ち沈黙した。
『わざわざ切り札を使うまでもなかったんじゃないの?』
「人質の命を守る方が大事だ」
盾にされていた人質をSEより奪い返した央はマイヤにそう応えると、人質だった人を抱え、仲間達のいる階へ動く。
やがて1階より制圧完了の連絡が届き、戦いは幕を閉じた。
●本質
解放された人質達は全員優輝のヘリに載せられ、病院へと搬送された。
『これで全員みたいですよ』
「最後まで気を抜かないようにしたいですね」
ソーニャの要請で駆けつけた警官隊の手も借り、嘉久也やエスティアはビルやヘリよりSE達を引きずり出す。
「よかったの肉体だけは人間で。愚神どころか従魔にすら劣る屑でも命は保証されるんじゃからな」
『貴様らを斬り捨ててやれんのが法の悪い側面じゃな』
小柄な身で作業を手伝う初春と稲荷姫のSEに向けた声は、怒気で燃えていた。
「ああそうじゃ、もう一つ言っておかねばの。己が信念を語るなら、石を投げられる覚悟くらいせよ。獅子殿はそうであったし、今も愚神等との共存を願う妾も、その覚悟はできておるぞ」
「いや、主義主張が違うのは別に構わないぞ。そう信じたければそうすればいい」
バルタサールはSEの独善も「そういうもの」と寛容の姿勢を見せたが、紫苑の一言がSEに突き刺さる。
『だけどやったことはやり返される。因果応報は世の常だよ』
そんな連行されるSEを雫と恭也は眺め、それぞれ存念を呟く。
『少々やりすぎな気がしないでも無いですが……』
「下手に仏心を出して、また暴れられたら困るだろ。これ位は許容範囲内だろ」
『そうですね……捕縛後に暴力を振るっていないので大丈夫でしょう』
雫と恭也は今回の一件をそう締めくくる。
やがて情報部員に護送された冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)が現場に到着する。
愛結を見たSE達は口々に罵声を放ち、そんなSEを睨む愛結の拳は固く握られ震えていたが、アルヴィナが愛結を庇い、前に出る。
「耳を貸す必要はないわ。傷つくだけだから」
「……ん。この人たちのせいで、辛い思いをしたのは……冷泉さん……だから。六花たちが……口を挟むことじゃ、ないと……思うの。冷泉さんの、気持ちのままに……好きにしたら、いいと……思う」
六花の声は歌うように軽い。……あるいはSE達を人として認識していない声。
「決めていたことがあります」
愛結がSEに下した報復は、SE全員への平手打ちだった。
「……これで、いいです。……何をしたって、誰も戻ってこないですから」
そこまで言って愛結は地面に座りこみ、六花がそんな愛結の頭をぎゅっと抱きしめる。
「……ん。大丈夫。六花はよくわかってる……から」
改めてSE達の本質を理解した今では、六花もSE達は復讐で手を汚す価値もないと断言する。
「リンカーと英雄の社会的地位の確保ってのが俺の目的ではあるんだが、もう一度世界を信じてくれたお前へに報いる事も、同じ様にやっていけるよう考えている。約束だからな。何かあったらいつでも呼んでくれ」
落ち着いたところで央が愛結にそう声をかけると共に、自分の名刺を差し出す。かつて愛結がそうしたように。
愛結は央に頭を下げ、『ありがとうございます』と小声で感謝した。
その後央が愛結に人間と共生する愚神について尋ねたところ、意外な存在の名が浮上したが、それは後日改めて述べる。
「貴公ら、H.O.P.E.に戻って何をしたいと望んだ?」
ソーニャの問いに、いまそれに気付いたとばかりにSE達の目が泳ぐ。
ラストシルバーバタリオンはそんなSE達を無言で見つめ、マイヤが畳みかける。
「そこに守るべき人々や世界の姿はあったの? ないわよね。あったらこんな真似できないわよ」
ソーニャやマイヤ達はSEに自分達との違いを突きつけ、一真は自分の撮影したヘリの映像を見せ、それが彼らと同じSEだと暴露する。
「気の毒になぁ、兄ちゃん達。仲間に見捨てられて。結局のところ、都合が悪いから切り捨てられるに過ぎないんだぜ?」
『愚神以上の怪物ね、あなた達のリーダーは。あなた達はさしずめ、ミーレス級従魔といったところ? 知ってるよね。従魔は愚神に容赦なく切り捨てられるし時として非常食にもされること』
月夜も酷薄にSEの末路を告げたところで、一真は迫る。
「だから答えろ。化け物として終わるのか、それとも人間らしく罪を償って生きるのか」
一真の突きつけた証拠に揺さぶられたSE達は、収監された先で素直に自供を始めた。
その結果SE首謀者の情報が判明し、現在情報部が追跡中だがその逮捕も時間の問題だ。
決着は近い。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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