本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【異逼】恐竜狩り

落花生

形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
16人 / 1~25人
英雄
16人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/08/11 20:55

掲示板

オープニング

●欲望のままに
 地中から突如現れた、スワナリア。
 かつては地球上にあったが、突然に平行世界へと消えてしまった大陸。そのスワナリアは、突如現代の世界へと再び戻っていた。かつて、そこに住んでいた生物を乗せたまま。
 北門を潜り、ギリシャ風の白い町並みを進む。長い傾斜が降りていくと、背の低いシダ植物が目にうつるようになる。
「これは……」
 マガツヒの構成員の一人は、言葉を失った。
 地下だというのに、広がる青空。うっそうと茂る太古の森。どこまでも続く大地は、見るからに広そうである。スワナリアの地上の大きさは東京の23区分だというが、地下であるこの場所はそこよりも広そうであった。
 森からひょっこりと顔を出すのは、カモノハシに良く似た唇を持つハドロサウルス。その光景に、構成員は言葉を失う。
「まるで、恐竜の楽園だ」
 マガツヒの一人が、そう漏らす。
 森を抜けると、大きな沼があった。このあたりでは濁った沼が唯一の水場なのか、様々な恐竜たちが集まっている。
「首のフリルに二本の角のトリケラトプス、長い尻尾のエドモントサウルス、背中に鎧を背おったアンキロサウルス、背中にプレートが付いているステゴサウルス、ハゲ頭のパキケファロサウルス……全部本物なのか?」
 マガツヒの一人は、目を輝かせていた。
 水場には、多種多用の草食恐竜が集まっている。
 体の大きな草食恐竜たちはのっそりと草を食んだり、水を飲んだりとしている。時が止まったかのような光景であった。まさに、奇跡と言っていい。
「随分と集まっているけど、全部が草食なのか?」
「ああ、肉食もいると思うけど……運がよければ遭遇しないだろう。食物連鎖のバランスから肉食獣の数は推察できるが、間違いなく肉食獣は草食獣より数が少ないんだ。地上のスワナリアがここよりも多少大きくとも――ここに住んでいる肉食の恐竜の数は少ないだろう」
 肉食の恐竜と遭遇する可能性は低い。
 草食恐竜たちもそれを知っているかのように、ゆったりと草を食んでいる。
 だが、その奇跡の光景も人間にかかれば金を生む道具に変わってしまう。
「トリケラトプスの角が……象牙の変わりになるかもしれない」
「恐竜そのもののほうが、高く売れるだろうよ」
 マガツヒたちは、麻酔銃を構える。彼らは欲望のままに、沼に集まる恐竜たちを捕らえようとしていた。

●抗う竜
 シダの森に隠れてリンカーたちは、マガツヒたちの行動を隠れてみていた。
「あの恐竜は本物?」
 リンカーの一人が尋ねる。
「スワナリアは、大昔に異世界に切り放された大陸だ。だから、あの恐竜は本物だと思う」
 人間を見たことがないらしい恐竜たちは、マガツヒたちに興味を示していた。自分から寄ってきて、匂いを嗅いだりしている。その様子を見ていたリンカーは首を傾げた。
「怯えないんですね?」
「恐竜にしてみれば、人間なんてちっぽけだ。人間だって、初めて見るハムスターには怯えないだろ」
 それぐらい人間と恐竜には、サイズに差がある。普通にしていれば、恐竜は人間など恐れないのだ。だが、人間には知恵という武器がある。
 マガツヒたちは、恐竜に向って麻酔銃を撃った。
 ハドロサウルスの巨体が倒れて、地面を揺らす。小さな人間たちが自分たちに害をなすと知った恐竜たちは、マガツヒの構成員たちに襲いかかろうとしていた。
「恐竜たちが突進してもマガツヒにはほとんどダメージがない。トラックに衝突したようなものなのに!!」
 リンカーの一人が、驚きの声を上げる。衝撃でマガツヒの一人は吹き飛んだが、ダメージを負った気配はない。
「恐竜っていっても、相手は普通の動物だ。リンカーにはダメージを与えられないんだ」
 恐竜たちの負けは、目に見えていた。
 だが、トリケラトプスの一匹がマガツヒを刺し殺す。そのトリケラトプスの角は、一瞬だけ光り輝いていた。
「あれはなんだ!!」
「わからんが、おそらくは光る固体はリンカーにもダメージを与えられるんだ。もしかしたら、オーパーツを飲み込んだのかも……」
 恐竜たちの角、尻尾、鎧が光り出す。
「うわっ! こっちにも来たぞ!!」
 恐竜に、人間の見分けは付かない。
 パニックに陥った草食恐竜たちは、目に写る人間を全て敵であると判断したのだった。

●肉食の本能
 ティラノサウルスは鼻を鳴らす。
 餌の匂いがした。
 そして、餌以外の匂いも感じ取っていた。その匂いが自分の縄張りを荒らす敵なのか、新たな餌なのかはティラノサウルスには分からない。だが、ティラノサウルスは恐れない。彼は最強の肉食恐竜。彼よりも、小さなものは全て餌である。

 スピノサウルスは、濁った沼のなかから外が騒がしいことに気がつく。魚を食べるスピノサウルスだが、自分の縄張りを荒らす輩は許さない。彼は、のっそりと沼から顔を出そうとしていた。

解説

・恐竜を捕獲しようとしているマガツヒの撃退。

沼地周辺の平原(13:00)――シダ植物の森を抜けた先にある場所。中央部に深い沼がある。周辺に身を隠せるような木々はない。恐竜たちが十分に暴れられるほどに広い。

マガツヒ……恐竜を生きたまま捕獲にしたり、角などを得るために小さい固体の恐竜を殺そうとしている。20人出現。
麻酔銃――恐竜に対して、使用。どんな恐竜でも五秒で眠ってしまう。ティラノサウルスやスピノサウルスといった巨大な肉食恐竜には効かない。
檻――眠らせた恐竜を閉じ込めるための檻。まだ、恐竜は入れられていないが、非常に頑丈。中に入れば恐竜の攻撃をやり過ごすことも可能。
銃――ライフル。恐竜を殺害するのに使用。人間用の武器にもなる。

トリケラトプス、アンキロサウルス、ステゴサウルス――大型草食恐竜。体重五トン以上であり、体当たりされるだけでも人間は吹き飛んでしまう。トリケラトプスは角、アンキロサウルスは尻尾の瘤で、ステゴサウルスは尻尾のスパイクで攻撃する。なお、アンキロサウルスの鎧は非常に硬い。各種類頭6ずつ登場し、各種の半数がリンカーへ攻撃することが可能。

パキケファロサウルス――中型の草食恐竜。ところかまわず頭突きをしてくる。5頭のうち2頭がリンカーに攻撃可能。

エドモントサウルス――大型草食恐竜。10頭出現。長い尻尾が特徴だが、これといった武器はない。群れを作って移動し、ティラノサウルスが優先的に狙う。群れに突進されることがある。リンカーへの攻撃手段はない

ティラノサウルス――中盤に登場。自分よりも小さなものを捕食する。エドモントサウルスを狙う傾向にあるが、人間も捕食しようとする。1体出現。リンカーに攻撃可能。

スピノサウルス――沼にもぐっている。魚を主食としているが、人間程度の動物なら捕獲して食べてしまう。沼に人や恐竜が近づくと出現する。1体出現。リンカーに攻撃可能。

リプレイ

●荒らされる楽園
 マガツヒたちは銃を構え、それに怯えた草食恐竜たちは逃げ出す。大きな体は、まるで巨大なトラックのような迫力があった。その巨大な肉体で、平和だった沼は荒らされる。
「動いてる恐竜、従魔とか以外で見るとは思わなかった……」
 呆然としながら木陰 黎夜(aa0061)は、ぺちぺちと自分の頬を叩いた。目の前の光景が信じられなかったのだ。だが、巨体が生み出す大地の震動は紛れもなく本物である。
『本当にな。さ、マガツヒ撃破といくか』
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は、ハンディカメラは持っているかと尋ねる。黎夜は頷きながら、それを自分の腰にくくりつけた。
「こんな光景、実際に見ても信じられない」
『見ていない人間に信じさせるための映像だ。記録はしっかりとらないとだな』
 地上の世界に恐竜がいて、それをマガツヒが狩ろうとしていた。
 あまりにも非現実じみた光景を上手く説明する自身がなかった黎夜は、映像記録を残すという手段を選択したのである。
「まるで、映画の世界に紛れ込んだ気分だな」
 御神 恭也(aa0127)も感嘆のため息を漏らす。
 目の前の光景が信じられない、という顔をしていた。
『でっかいトカゲが一杯いる……』
 恭也の隣で、恐竜が歩くたびに伊邪那美(aa0127hero001)の体が揺れていた。どうやら恐竜の起こす地響きに伊邪那美の小さな体では耐えることができないらしい。
「恐竜……!? 魔法っぽい!」
 ルカ マーシュ(aa5713)は、目を輝かせる。今にも恐竜に抱きつきそうになっているルカを必至に止めるのは、ヴィリジアン 橙(aa5713hero001)であった。
『魔法とは関係ないと思う。で、あれが敵の愚神ってやつ……?』
 ヴィリジアンが指差したのは、エドモントサウルスである。
 ルカは左右の人差し指を交差させて、バツを作る。
「違うなー。あれはマガツヒって言うらしい。凶悪な組織だって聞いているけど、まさか恐竜の組織だとは思わなかった」
 ルカの指摘に、ヴィリジアンは頭を抱えた。知らない単語が多すぎて、頭が痛くなってきたのである。
「あの……あちらは、ただの恐竜です」
 マガツヒは人間のほうです、と月鏡 由利菜(aa0873)はルカの間違いを訂正する。ルカは真っ赤になった。
『マガツヒは、恐竜を狩ろうとしている人間のほうだ。今使っているのは麻酔銃のようだが、ただの人間相手ならば容赦はしないだろうな……やつらは』
 リーヴスラシル(aa0873hero001)は鋭い視線で、マガツヒを睨みつけていた。その横で、由利菜は自分たちが今している体験について考える。
「大陸浮上に、恐竜……。これが意味することは一体……?」
『……考えるのは後だ』
 リーヴスラシルの言葉共に、由利菜は彼女と共鳴を果たす。
「そうだよ。マガツヒが恐竜を襲わなけりゃ一緒に遊べたかもしれないのに!」
 くやしい、とGーYA(aa2289)は拳を握る。
「背中に乗ったり、餌をやったり、絶対に楽しそう」
 想像するだけでワクワクするような光景であったが、マガツヒを止めない限りはそんな楽しいことはできない。そう思うとGーYAのなかで、マガツヒへの怒りがさらに燃え上がる。
『うふふふ、恐竜にオヤツと間違われないようにしたいところだわぁ』
 まほらま(aa2289hero001)の言葉に、GーYAは「わかってます!」と答えた。相手は本物の恐竜なのだ。食べられたら、消化吸収されてしまう。
「でも、恐竜はここに住んでいるだけだから攻撃したらかわいそうだよね」
 リリア・クラウン(aa3674)の言葉に、伊集院 翼(aa3674hero001)は頷く。
『ああ、ここが彼らの王国だ。私たち人間が荒らしていい場所じゃない』
 翼の言葉に、リリアはもう一度恐竜たちを見る。逃げ惑う恐竜たちはどれも大きくて少し怖いが、それでも住処を追われて可愛そうに見えた。
「ボクたちが、なんとかしないと」
 翼と共鳴したリリアはトップギアで貯めた力を、オーガドライブで解き放つ。強力な先手必勝は、一人のマガツヒを吹き飛ばした。
「恐竜を手なずけることはできないかな?」
 リリアは呟く。
『なら、こちらが敵じゃないって恐竜に分かってもらわないと』
 翼は、リリアに「反撃はしてはいけないぞ」とささやく。
 二人は、恐竜と信頼関係を築くことを目標としていたのだ。だから、二人は恐竜の攻撃は反撃しないと心に決める。
『今回は悪者退治ね! お姉さんに任せておくといいのだわ!』
 張り切る彩(aa4783hero002)の様子に、雨宮 葵(aa4783)は不安になる。
「人相手なんだからやりすぎないでよー」
 「まかせて」と彩は言うがどこまで信用していいものか。
「『碧の神よ。その息吹で悪しき者を退けよ』」
 二人の声が重なり、強風が吹き荒れる。マガツヒの体が恐竜から離れたのを見届けると、彩は別の言葉を紡ぐ。
「『金の神よ。その怒りをもって敵を阻め」』
 土の壁が出来上がり、恐竜とマガツヒを分断させる。
『あの二人に続くんだろう』
 アーテルに尋ねられた黎夜は「当然」と呟く。黎夜はアルヴィスの書を持ち、恐竜を撃とうとしているマガツヒに狙いを定める。平和に暮らしている動物を利用しようとするなんて許せない、という気持ちを込めて。
『避けられた。しかも、恐竜たちが余計にパニックになっていな』
 少し距離をとれとアーテルに言われた黎夜は、リリアが気絶させたマガツヒの体に躓いた。このままここに放置しておけば、恐竜に踏み潰される可能性が高い。
 黎夜はきょろきょろとあたりを見回して、巨大な檻を発見する。マガツヒが持ち込んだものであろうが、ここであれば恐竜が暴れても大怪我を負わないであろう。黎夜は気絶したマガツヒをそこに放り込んだ。
「こんな非現実的な光景を前にしても、金儲けをしよう等と夢の無い事をするとはな」
 マガツヒに烈風波を叩き込みながら、恭也は呟く。たとえ恐竜に詳しくなくとも、太古の生物が歩いている光景はある種の感動を生み出すものだった。それで金儲けをしようとする連中の心が、恭也には分からない。
『あの人達には珍しい動物じゃなくて、札束が動いているように見えてるのかな?』
 伊邪那美の言葉に、恭也は合点がいった。マガツヒにはここにいる恐竜は絶滅した生物ではなくて、金を生み出す鉱脈程度にしか思えていないのだ。
「一度は失われたものだというのにな」
『これが終わった恐竜は地上で保護とか……できないよね。大きすぎるもん。もう少し小さかったら飼ってみたかったな~』
 手からニンジンとかたってみたかった、という伊邪那美の言葉に「それは馬だ」と恭也は突っ込む。だが、彼女の気持ちも分からなくなかった。ペットといって想像できる最大級の大きさは、せいぜい馬ぐらいなのだ。それ以上の大きさの動物となると家庭で、どのように扱っていいのか想像がつかない。
 エドモントサウルスの群れが、恭也に向って走ってくる。
 思わず恭也は、防御の体勢を取った。リンカーへの攻撃手段を持たない恐竜たちだが、群れとなって大移動する様に伊邪那美は目を見開く。
「うわぁ! トラックが突っ込んできたみたいで、すごい迫力!!」
「希少種だろうし、無益な殺生は控えんとな」
 遠くで、由利菜が心配そうに自分の名前を呼ぶ声を恭也は聞いた。だが、エドモントサウルスの群れの中央にいる恭也はその声にすぐに反応できない。
『彼らも歴戦の猛者。あれぐらいのことは自分たちで解決できるはずだ。それより、私たちはマガツヒを一人でも多く倒すぞ。私は、ユリナの守護英雄。恐竜もマガツヒも恐れぬ』
 リーヴスラシルの言葉を聞いた由利菜は、咄嗟に武器を構える。
「マガツヒのヴィラン達……! 邪な銃撃など無駄です!!」
『迎撃魔法陣、展開!』
 マガツヒとの距離をつめて攻撃を放つ、由利菜。
『……私達も本気で行かせて貰う。貴様達が気絶次第、その檻に投げ込んでやる!!』
「限界を越えよ、ライヴスの鼓動! コード・エクサク……」
 由利菜が叫ぼうとしたその時、視界の端で逃げ回っていたエドモントサウルスの巨体がひょいっと持ち上がった。そして、次の瞬間には草食恐竜の巨体が空から地面に落ちてくる。一拍置いて、大量の血飛沫が雨となって地面に降り注いだ。
「あれは……まさか」
 由利菜は、目を丸くする。
 彼女の目の前で、凶暴であると名高いティラノサウルが低く吼えていた。ティラノサウルスはぎょろりとした目で、由利菜を睨む。食べられるものか、そうでないものかを判断しているのだと本能的に由利菜は察した。
「っ……! 守るべき恐竜も、こちらを捕食対象と見ているのはやりにくいですね……!」
『……簡単に意思疎通ができたら苦労はしないな』
 どしん、とティラノサウルは大きな足音を立てて由利菜を追いかけ始める。
「まって、ティラノさん!」
 GーYAは、肉食恐竜の王に呼びかける。
「俺達は、ティラノさんたちを捕まえようとするマガツヒを倒しにきたんです。お願いです、俺達に任せてください。俺達に、ティラノさんたちを傷つける気なんてないんです!!」
 オーパーツを飲み込んでいるのならば会話も可能かもしれない、と思ったGーYAは必至にティラノサウルスに呼びかける。だが、相手は低く吼えてGーYAに向って大きく口を開いた。
『これは、オヤツ確定よねぇ。うふふっ、いくらオーパーツを飲み込んでいても出来ないこともあったみたいね』
「って、今はそれどころじゃない!!」
 このままでは食われる! とGーYAはティラノサウルから距離をとろうとする。しかし、巨大な恐竜は歩幅からして人間とはまったく違う。GーYAは、すぐに追いつかれそうになった。「ひっ!」と悲鳴を漏らすGーYAを尻目に、まほらまは呟く。
『あの光るのがオーパーツみたいね、檻も用意してたし、マガツヒは知っていたのかしら?』
「今、その話は必要ない!」
 あと少しで、恐竜のオヤツである。
 だが、まほらまはあまりそこは気にせずに考え込んでいる。
 今はティラノサウルスのことを一番に考えて欲しい、と心からGーYAは思った。
「檻に入れたマガツヒに『逃げようとしたら火葬しちゃうからね』って脅すつもりだったけど、この分だったら火葬のほうが穏やかそう」
 暴れまわるティラノサウルスを見て、葵は呟く。あんな怖いものに追いかけられるよりも、檻のなかで保護してもらったほうがいいと思ってしまう。
『さぁあ、あおいちゃん! マイクでマガツヒとティラノサウルを魅了してやるといいのだわ!』
 彩はマイク「カンタービレ」を使え、と葵に指示を送る。
「無茶ぶりだなぁ!」
 いきなり渡された武器のマイクに戸惑い、葵は苦笑いするしかなかった。
「一体、なにを叫べばいいのかな?」
『そこはやっぱり、歌をうたわないとね』
 せっかくのマイクなのだし、という彩に葵は「恥ずかしい!!」とマイクで叫んだ。奇しくも、それで攻撃になっていたりする。
 葵たちの隣で、ルカは悲鳴を上げていた。
 間近で暴れまわる恐竜に、圧倒されていたのだ。
「うっわー! こえー! 迫力がやばい!! 3Dの映画みたい!」
 ルカの言葉に、葵は思わず「これは映画じゃなくて、リアルだから!」と突っ込む。だが、葵はマイクを使っていたが故に、ルカはその言葉が自分に向けられたものだとは思わなかった。英雄に同意を求めようと、姿を探すルカ。
 だが、英雄の姿はなかった。どうやら、いつの間にかルカと共鳴していたらしい。それに気がついたルカは、地団駄を踏んだ。
「くっそー、恐竜見るだけ見て消えたようなもんじゃねぇか。ヴィジーの奴ー!」
 俺はまだスキルの出し方もいまいち分からないのに、とルカは叫ぶ。
 敵味方が入り乱れる乱戦では、英雄と共鳴していたほうがはるかに安全であることをルカはまだよく理解していなかった。

●草食VS肉食
「きょーりゅー!!」
 暴れまわるティラノサウルスを前に、加賀谷 ゆら(aa0651)は目をきらきらさせていた。一方で、『好きだな、お前は』と言いながらシド (aa0651hero001)は呆れていた。
『地底王国とか其処に実在する恐竜とか……浪漫ね!』
 砺波 レイナ(aa5558hero001)も、目の前に広がる光景に目を輝かせる。
「はいですの。ロマンティックですの!」
 クリスティン・エヴァンス(aa5558)も楽しげだが、言葉のチョイスが若干間違っている。レイナはびしっと妹に、言葉が間違っていることを伝える。間違ったまま覚えてしまったらクリスティンが可愛そうだ。
『浪漫とロマンティックは大違いよっ!』
「?」
 だが、当のクリスティンは首をかしげるばかり。男の浪漫と乙女のロマンティック――これを理解するにはクリスティンはまだ幼かった。
『ま、そのうち解るわよ……多分』
 今は同じでも仕方がないか、とレイナはため息をついた。
「本物の恐竜に会えるとか、何の幸せでしょーか」
 はぁ、と悩ましげなため息を吐くゆら。レイナとは違う、幸せが故につくため息である。
 ティラノサウルスに追われている面々には悪いが、ゆらは大好きな恐竜を生で見られたことへの喜びに浸っていた。
「ホンマモンどすわー! 白亜紀後期どすやろか? 前期やジュラ紀もおりますな!」
 弥刀 一二三(aa1048)も、ゆらと同じように目を輝かせる。
 だが、隣で菓子をぽりぽりと食べるキリル ブラックモア(aa1048hero001)はとてもつまらなそうであった。
『……甘味のない時代に興味はない』
 キリルが食べているのは、人型のクッキー。デパートで購入した高級品だが、今回はその形がよくなかった。キリルがクッキーを食べる様子を見ながら、恋人が肉食恐竜に頭からがぶりと食べられる様子を想像したシド。
『食われる前に逃げろよ』
 冗談では済まされない状況に、思わずシドは釘を刺した。
「うっわ、恐竜はじめてみたよ!」
 春月(aa4200)も目を輝かせている。彼女も喜んでいる隙に、恐竜に頭から食べられてしまわれそうなタイプである。
『今回は、食べられたらマジでヤバイから』
 レオン(aa4976hero001)は、隣で胸を高鳴らせている葛城 巴(aa4976)に注意を促す。さすがに肉食恐竜に抱きつこうとして食べられるという結果にはならないだろうが、見とれているうちに巴が恐竜のオヤツになりそうでレオンには恐ろしかった。
「見ているだけで、ワクワクする! うーん、こんなにたくさんの恐竜に出会えるなんて来てよかったよ」
 巴の言葉に『またかよ……』とレオンは呆れていた。かつて、別の依頼で恐竜に追いかけまわされたことをレオンはまだ忘れていない。
「いいなー。巴さんは、他のところでも恐竜を見たことがあるんだ」
 うちはここでしかないのに、と春月はちょっとばかり悔しそうであった。
『うん、見たことあったら驚くよ……』
 レイオン(aa4200hero001)は「変なことはしないでよ」とハラハラしながら春月の様子を見守っていた。肉食恐竜の興味を引いて、食べられてしまったら笑えない。
『あこがれのお肉チャンス?』
 百薬(aa0843hero001)は、いわゆる漫画肉を想像して「ごくり」と唾を飲み込む。『恐竜の焼肉もおいしそうだよね』と怖いことを呟いてもいた。
「どう、もそうおだやかじゃないみたいだよ。あと……恐竜の焼肉ってちょっとなぁ」
 あんまり想像したくないよ、と餅 望月(aa0843)は言う。
『恐竜は鶏肉みたいな味がするんじゃないかって、テレビで言っていたような気がするよ。きっと、照り焼きが美味しいよ』
 百薬の言葉に、望月は恐竜の照り焼きバーガーを想像した。
 バンズに挟まったティラノサウルスしか想像できず「やっぱり、食べたくないな」と小さくもらす。
「大事な恐竜さんを狙うとか許せない。全力で行くぞー!」
「おー」とゆらは拳を突き上げていた。
 みなぎるゆらのやる気に「分かる!」と一二三は頷いていた。
「恐竜は漢の浪漫どす!」
『貴様にも漢の浪漫とやらがあったとはな』
 相変わらず、ぽりぽりとお菓子を食べ続けるキリル。彼女の言葉には色々な意味で胸をえぐられたが、それよりも気にすることがある。キリルのやる気である。
「……帰ったら高級ホテルのスイーツビュッフェ……但し、大成功時のみ、どす!」
『良かろう! 我が真の力、見せつけてやる!』
 現金なことにやる気がみなぎったキリルと一二三は、共鳴する。
「肉食恐竜をひきつけるどす」
『なるほど、おいしいお菓子作戦だな』
 キリルの言葉に、一二三は少しばかり嫌な予感がした。
『おーい。そっちより、こっちの肉のほうが硬いが食べがいはあるぞ!!』
「自分を囮にするって意味ではないんどす……」
 キリルの言葉を聞いたせいなのか、ティラノサウルスは一二三に向ってくる。どうやら、恐竜たちはマガツヒもH.O.P.Eも区別をつけないで襲っているらしい。
「ま、区別しろってのは無理だよな」
 恐竜からしてみれば、人間の見分けなどつかないだろう。
 はぁ、と麻生 遊夜(aa0452)はため息をつく。
『……ん、一緒にされたくは……ないんだけど、ね』
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)も少しばかり残念そうである。だが、ここは無理を言っても始まらない。
「一二三さん、上手く気を引いていてくれよ」
 そう呟きながら遊夜は、ジャングルランナーでティラノサウルスの首の辺りを狙う。命中を確認し、すかさずフラッシュバンを発動させた。ティラノサウルがひるんだ隙に、遊夜はティラノサウルスの首に馬のようにまたがる。
「身体構造上、この辺りには攻撃できない……筈だ」
『……んー、あくまで……化石からの、推測だし……合ってると、良いねぇ』
 ユフォアリーヤの心配をよそに、遊夜は「揺れは酷いが何とかなりそうだ」と返した。
「まぁ、恐竜なんて珍しいものがあれば、狙いたくもなるだろうね」
 混乱の中でもマガツヒが麻酔銃を構える姿を見て、九字原 昂(aa0919)は顔をしかめる。
『こういう珍しいものを欲しがる金持ちなんざ、世界中ゴロゴロいるだろうさ。現に、ああいうアトラクションならやってみたいしな』
 ベルフ(aa0919hero001)が指差すのは、ティラノサウルスにまたがる遊夜の姿である。確かに、と昂も思ってしまう。巨大生物に乗るというのは、抗いがたい浪漫がある。安全性は皆無だが。だが、次の瞬間に昂ははっとした。
「ベルフ! ティラノサウルスが、アンキロサウルスとトリケラトプスにはさまれてる!!」
『二種類とも草食恐竜だろう?』
 ティラノサウルスの敵じゃない、とベルフは言う。
「あの二種類は、ティラノサウルスでも倒せる可能性があるんだ」
 アンキロサウルスは瘤のついた尻尾を振り上げて、ティラノサウルスの足の骨を砕こうとする。だが、アンキロサウルスの尻尾は当たらない。ティラノサウルスはアンキロサウルスに噛み付こうとするが、背中を覆う鎧はティラノサウルスの牙も防いだ。激しい二頭の戦いに、ベルフはぼそりと呟く。
『どうにかしないと、上の人間なんて簡単に振り落とされるな』
 必至にティラノサウルスにしがみついている遊夜。彼らは今にも落とされそうになりながらも、懸命に耐え忍んでいた。
「とりあえず、ティラノサウルスの動きを止めよう」
 昂は女郎蜘蛛で、ティラノサウルスの動きを阻害する。上に乗っている遊夜が振り落とされる心配はなくなったが、トリケラトプスがティラノサウルスの腹を角で突き刺した。ティラノサウルスの分厚い皮膚から血が滲み、痛みのあまり恐竜の王は吼えた。
 その光景に、ベルフは目を丸くする。
 恐らくは、草食恐竜が肉食恐竜に歯向かうことに驚いたのであろう。
「世界で一番人を殺している動物が、カバだって知ってる? 草食動物もあんがい凶暴なんだよね」
 昂の言葉に、ベルフは『今、言う必要はないだろ』と小さく呟く。
 だが、草食だと思って油断していたのは確かである。彼らは、最も凶暴な肉食動物がいた時代を生き抜いた生物なのだ。自分の身を守るための術が、現代の生物よりも発達していてもおかしくはない。
『アレ、全部モノホン?』
 ティラノサウルスを角で突き刺したトリケラトプスを指差しながら大和 那智(aa3503hero002)は、目をぱちくりさせていた。
「異世界に切り放された大陸にいるのだから、本物だろう」
 東江 刀護(aa3503)は、ティラノサウルスのほうを確認する。トリケラトプスに胸を刺されてはいたが、それでもまだ倒れずに必至に相手に噛み付こうとしている。だが、あの出血では長くは持たないだろう。すでにトリケラトプスの角は引き抜かれていたが、傷跡から多量の血液が流れている。
「数が多い草食恐竜をどうにかするぞ」
 ティラノサウルスは、もはや恐れるべきものではない。
 むしろ、それすら倒すことが出来る草食恐竜のほうが恐ろしい存在であった。那智と共鳴した刀護は、攻撃の態勢を整える。
「んじゃ、草食恐竜をどうにかすっか。範囲攻撃に巻き込まれないよう気をつけろよー」
 恐竜たちには、人間に見分けなどついてはいない。彼らには悪いが、自分の身は自分で守ってもらうことにする。
 集まっていたパキケファロサウルスに向って、刀護は銃口を向ける。彼らを傷つけることが目的ではなくて、彼らの怒りを人間に向わせるのが目的なのである。
『あのハゲ頭、なかなかやるもんだな!』
 那智は関心しながら、怒り狂ったパキケファロサウルスがマガツヒに向って突進していくのを見ていた。丈夫な頭蓋骨で頭突きをされたマガツヒは、まるで交通事故にでもあったかのように軽々と吹き飛んでしまう。
「恐竜があちこち行ったり、攻撃したりするんで気をつけてなー。おっと」
 飛ばされてきたマガツヒを避けながら、刀護は通信機で仲間に連絡を取る。通信機をしまった刀護は、自分の足元に飛んできたマガツヒを睨んだ。
「恐竜捕まえて売る、なんてこたぁさせねぇぜ。おイタはそこまでだ!」
 もっとも、気絶したマガツヒに刀護の声は聞こえていないだろう。何千年も前から、彼らはこの場所で生きている。それを金儲けに使うなど、刀護には許せないことだった。
『恐竜、どうなるのかねぇ』
 人間の欲望の対象となってしまった恐竜。彼らの今後を心配する那智は小さく呟く。刀護は、静かに息を吐いた。
「無事に、このままでいてほしいもんだけどな」
 人間の欲望を満たすだけの道具になんてされないで欲しい。
 刀護は、それを願った。
「昔ドードーの話聞いて泣きそうになったんだよ。恐竜がせっかくいるなら、そっとしといてあげて!」
 せっかく平和に暮らしていたのに、と春月は拳を握りしめる。レイオンは息絶えそうになっているティラノサウルスを見て「平和なのかな?」と首を傾げた。まさに弱肉強食であり、人間社会よりもハードな生活を恐竜たちは送っているようである。
「そこのトリケラトプスさん、まぁまぁ落ち着いて。人間をはじめてみたから怖いんでしょ。でも、うちらは敵じゃないんだよ。ちょいと、一緒に写真をとろうよ!」
 春月はスマホを取り出して、両手を振る。
 どうやら、トリケラトプスにはそれが威嚇の行動に見えたらしい。どしん、どしん、と足音を響かせながら、春月のほうに向ってくる。
「うわぁ、熱烈に歓迎してくれてる!」
『どうみても、こちらを敵と認識しているとしか思えないよね。仕方がない、眠らせよう』
 レイオンの言葉に、春月は「えー」と不満げである。
「せっかく、仲良くなれそうなのに」
 そう思っているのは春月だけだった。迫ってくるトリケラトプスの形相は、どうみても友好的なものではない。レイオンの言うとおりに、春月はセーフティーガスを使用する。突然の睡魔に襲われたトリケラトプスは倒れるが、走っていたスピードを殺しきれずにその巨体は地面を滑った。ようやく止まったトリケラトプスに、春月は近づく。
「ごめんよ、ちょっと大人しくしてておくれっ」
 硬い皮膚をなでて、春月はその場を離れた。その様子を見ていたレオンは巴に『セーフティーガスは効くようだ』と伝える。
(恐竜たちを傷つけないし、良い手だと思うよ。あと、そろそろ皆も疲れてくるだろうから回復が必要な人も探さないとだね。ティラノサウルスも回復させてあげたいけど、あれは自然の摂理だから……人間が手を出したらダメだよね)
 巴の言葉に、レオンは頷く。
 仲間たちは無理な戦い方はしていないだろうが、それでも油断は大敵である。
(でも、ちょっと複雑だ)
 巴の言葉に、レオンは首を傾げる。
 セーフティーガスの威力は絶大で、恐竜たちは次々と地面に倒れていった。
(小さい頃はあんなに凄いって思っていた恐竜を――自分の手で眠らせることができるなんて)
『……それは、巴が大人になったからだ』
 子供のときとは違って、憧れを守ることが出来る。
 レオンの言葉に、巴はくすりと笑った。
『でも、恐竜をおびき寄せる囮になることは絶対に賛成しない』
(えー。あれは、あれで浪漫があるんだよ。ほら、映画だと主人公は絶対に恐竜に追いかけられるし)
 セーフティーガスを使い切ったレオンは武器を持ち替えて、マガツヒに向ってそれを投げた。突然の投擲に驚いたパキケファロサウルスが、レオンに向ってくる。セーフティーガスの範囲外にいた、個体である。
(見て、見て、レオン! あれは頭突き竜って呼ばれている恐竜で昔は仲間と頭突きをしていたっていう説が一般的だったんだけど、それだと首の骨が折れちゃうことが最近の研究で分かってきて、最近では頭突きは頭同士をぶつけるんじゃなくて相手の腹とか柔らかい場所を狙っていたっていう説がでてきた――)
『その話は、後!』
 レオンは、マガツヒのいるほうへと逃げる。案の定、パキケファロサウルスはレオンとマガツヒを間違って、マガツヒのほうを攻撃していた。マガツヒの体は、宙に飛んだ。
(よく飛ぶなぁ。沼のほうまで、行ったよね)
『回収も後だな』
 仲間の回復が先だ、とレオンは言う。
 沼のほうに飛ばされたマガツヒは、きっと仲間が回収するであろう。現に今も、本来ならば捕獲した恐竜を入れるはずだった檻に戦闘不能になったマガツヒが集められている。
『一寸待って、檻の中から何かされても困るし、取り合えず睡眠薬を投薬してから……ってのは如何?』
 その檻を守るためにレイナは、マガツヒに睡眠薬を使っていた。
 これで作戦の最中に邪魔されることはないはずである。だが、クリスティンは浮かない顔をしていた。
『如何したのクリス?』
「……オーパーツは、みんな欲しがるモノ……ですの」
 言葉少なに答えるクリスティン。レイナは何となくではあるが、彼女が言いたいことを察した。今回マガツヒは、あくまで恐竜そのものを狩るためにやってきた。恐竜がオーパーツを飲み込んでいたのは、想定の範囲外であったに違いない。だが、今回のことで恐竜がオーパーツを飲み込んでいたことが発覚してしまった。
「……今回敵の目的……取合えずは恐竜の捕獲のようでしたですけれども。オーパーツの存在に気付き、それを主目的とされるのならば……。……多分、クリス達も行く行くは同じ道を辿る気がしますですの」
 今回は違うが、次はもしかしたらオーパーツ確保のための依頼で動かなければならないかもしれない。クリスティンには、それが苦しいのだ。
「……多分、恐竜たちが飲んだオーパーツはクリス達も欲しいモノだと思いますですの」
 クリスティンの言葉に、レイナはなんともいえない気分になる。
『突如現れた、か……その点でいえば、私も同じ括りなのかしら』 
 突如現れた太古の大地スワナリア。思い返してみれば、自分たち英雄ととても似ているのかもしれない、とレイナは考える。
『そしてオーパーツ。今、取れるモノだけでも取ってしまうのは。……何が正解か……なんて、誰も答えは出せないけれど……むざむざ”敵”に与えたくないわ』
 いつの間にか、不安げにクリスティンがレイナの顔を覗き込んでいた。おずおずとクリスティンは尋ねる。
「……? レイナねーさま、難しいお顔ですの」
 どうやら難しいことを考えすぎて、レイナの顔がこわばっていたらしい。レイナは急いで微笑みを作る。
『何でもないわよ。アレは……普通の恐竜ね』
 群れから離れたエドモントサウルスが、クリスティンたちに向ってくる。あの種類の恐竜たちは、オーパーツを飲み込んでいないらしい。
『セーフティーガスで眠ってもらうわよ!』
 たとえいつかマガツヒと同じような理由で恐竜を狩ることになったとしても、せめて普通の恐竜たちは傷つけたくはない。それが、レイナの心からの願いであった。
『お腹にいいのを叩き込んだら、吐き出さないかな?』
 百薬の言葉に、望月はあきれ返った。
「いつもの愛と癒しはどうしたの。それに恐竜の皮膚って、分厚そうだよ。こっちの拳が内臓に届かないかも」
 それに、恐竜は四足歩行だ。
 人間と違って、腹を簡単には殴らせてくれそうにない。
『無限の愛を試して見ようか、相手がバテるまで追いかけっこ』
 それだったら恐竜もお腹を見せてバテるかもよ、と百薬は提案する。その考えは、珍しくまっとうな物に思えた。
「それいいかも。力尽きて寝たら、取り出せるかも知れないし」
 望月はフォレストホッパーを貼り付けた足を叩いて、恐竜と鬼ごっこをする準備をする。
「誰か連絡ついたら、鬼ごっこに混ざってもらおう」
『ついでに、手ごろなサイズの恐竜がいたら捕獲も手伝ってほしいなぁ。今日の夜ご飯用に』
 それじゃあマガツヒと変わらないよ、と望月はため息をついた。

●沼の恐竜
 ざぶん、とパキケファロサウルスが突き飛ばしたマガツヒの一人が沼へと沈んだ。その肉体を沼の底から見つめている恐竜がいたことに――誰も気がつかなかった。
「なんだろう……アレ」
 黎夜は、目を凝らす。今まで気にかけてこなかったが、沼に岩が増えている。いや、岩ではない。岩だと思っているものは動いているし、岩というには沼から突き出ていたものは平べったかった。
『魚のヒレに見えないこともないな。大きすぎるけど』
 アーテルも目を凝らす。
 あれほど巨大な魚は、現代には存在しない。しかも、沼のような場所にあれほどに巨大な魚がいるとは考えづらい。
 ぷくり、と濁った沼から空気の泡が浮き上がる。一拍置いて、巨大な恐竜がのっそりと顔を出した。ワニのような細長い口に、黎夜は目を丸くする。
「ヒレのついたワニなのかな? 手足が長すぎるけど」
『恐らくは恐竜の一種だな』
 アーテルは周囲を見回す。詳しい仲間が解説してくれるかもしれないが、今はそれどころではなかった。ワニのような恐竜が、自分の足元に浮かんでいるマガツヒにがぶりと噛み付いたのだ。
「待って!」
 黎夜が止めるより先に、恐竜はマガツヒを丸呑みにしてしまう。その光景に、アーテルも息を呑んだ。
『自業自得といえないこともない……か』
「でも、食べられることはなかった」
 黎夜は、目の前の光景に震える。マガツヒに対して許せないという感情は抱いていたが、殺したいと思うほどではなかった。だが、その一人は食べられてしまった。
「えっ。あれも恐竜なんだよね?」
 ルカも目の前の光景に、呆然とする。
 さっきまでルカはマガツヒが落とした武器を拾っていたが、あまりのショックにその武器を落としてしまった。ヴィリジアンに助けを求めようとするも、共鳴中は会話すらできないことを思い出してルカは青くなる。
「大きくて、背びれもついてて、水のなかにいるって……ぜんぜん恐竜っぽくないけど肉食恐竜なんだよね。草食恐竜であって欲しいけど」
 マガツヒを飲み込む光景を改めて見たルカは、自分の考えを否定するために首を振る。
「あれが草食恐竜だなんて、ありえないよね」
 出来ることならば、この恐怖をヴィリジアンにも味わって欲しいと心の底からルカは思った。
『うわ、水にもぐるトカゲもいたんだね。ティラノサウルスよりも、ちょっと大きいかも』
 伊邪那美は目を点にしていた。
「水にもぐる恐竜か……」
 恭也の言葉に、ゆらが反応した。
「トカゲではなくて、スピノサウルスだ。本来は魚をとっていたと言われるスピノサウルスだが、体の大きさだけならばティラノサウルスよりも大きい。あのサイズならば、人間程度ならば問題なく襲うだろう」
 ゆらの説明に、伊邪那美は頷いた。
『恭也。すぴのこさうるすに気を付けてだって』
「スピノサウルスだ」
 間違いを指摘された伊邪那美は、むすっとする。
『もう、恐竜って難しい名前ばっかりで嫌になるよ』
「あの恐竜、陸にあがってきたな……」
 さすがにあの巨体と真正面からはぶつかりたくない、と恭也は少しばかり距離をとる。
「いててて……酷い目にあったな」
 ティラノサウルスにまたがっていた遊夜は立ち上がる。ティラノサウルは倒されてしまったが、おかげで降りることは簡単に出来た。
『ん……。もう……恐竜には……乗りたくないかも』
 しっかりと捕まっていたおかげで振り落とされることはなかったが、乗ったら揺れがひどくて大変な目にあったとユフォアリーヤはため息をつく。
『ん……あっちにも乗る?』
 ユフォアリーヤが指差す方向には、スピノサウルス。
 遊夜は、首を振った。
「あれに乗って、沼にもぐられたら俺達が危ない」
『ん……。たしかに……あっちは乗りづらそう』
 背中にある大きなヒレが邪魔で、ティラノサウルスほど楽にはまたがることはできないだろう。
「熾天の羽、彼の者達の妄念を切り裂け! セラフィック・ディバイダー!」
 由利菜の弓が、離れた位置にいたマガツヒに命中する。
『これでマガツヒは、あらかた片付いたようだな』
「ですが、こうも恐竜たちが暴れていると撤退が難しいですね」
 マガツヒたちを入れている檻もありますし、と由利菜は視線をやる。
『やはり、恐竜との意思疎通は無理そうだ……』
 リーヴスラシルは、唇をかみ締めた。
 スピノサウルスが、そんな由利菜たちに気がついて吠え立てる。咄嗟に防御体勢を取ろうとした由利菜であったが、スピノサウルスのほうが早い。
「こっちだよ!」
 昂は、スピノサウルスと由利菜の間に躍り出る。
 そして、猫騙を使用した。
『これで由利菜たちの防御も間に合うか』
 ベルフは、少しばかりほっとしていた。
 だが、一つ気がかりなこともあった。
『まだ、セーフティーガスは残っているか?』
「残念ながら、使い切った」
 自分に注意を向けさせつつ、仲間を巻き込まないように逃げるしかないと昂は考える。しかし、どこに逃げればいいのかまでは思いつかなかった。
『ステイ、ステイ!』
 シドはそう叫びながら、重力空間を使用する。両手を大きく広げて繰りかえし『ステイ!』を叫ぶシドを見ながら「どっかで見た光景だなあ」とゆらは考え込んだ。
『今のうちに……』
「そうだ。恐竜映画の有名なシーンだ」
 ぽんと手を叩くゆらに『この恐竜の弱点はないのか!』とシドは叫んだ。重力空間の効果がきれる前に、何かしらの対策を立てたかったのだ。
「弱点……しいていえば魚を食べて水中で生活していたから、陸での生活は苦手だったらいいなぁぐらいかな?」
 シドは『それは弱点ではない!』と叫ぶが、スピノサウルスはティラノサウルスとは違って完全な骨格の発見が少ない種である。そのため、明確に分かっていることはティラノサウルスよりも少ないのだ。
(水の中で生活……そうか。水に戻せばいいんだ)
『どういうことだ』
 自分に語りかける巴の言葉に、レオンは首を傾げる。
(たぶん、あのスピノサウルスは自分の住処の周囲が煩いから気になって見にきたんだ。だから、興味がそれるようなものを沼に投げ込めば、きっと陸への興味を失われると思うよ)
 巴いわく、スピノサウルスは水中のなかのほうが得意な恐竜らしい。乾燥して沼がなくならない限りは、水のなかから出てくることは考えにくい。今回は周囲があまりにも騒がしかったので、顔をだしたのだろう。
『あるのか? 魚が好きな恐竜の興味を引けるようなものなんて……』
「あるよ!」
 レオンの言葉に、元気よく答えたのは春月であった。彼女の手には、マグロの尻尾が握られていた。とても立派なマグロである。丸々と太っていて、脂も乗っているだろう。
『沼にすんでいる生物に海の魚を与えていいものなのかな?』
 レイオンの言葉に、「問題ないよ」と春月は答える。
「マグロの美味しさは全国共通だよ。ほら、マグロ、美味しいよ!」
 美しい弧を描いて、沼に向って投げられるマグロ。空中を飛ぶマグロを目で追う、スピノサウルス。
 ぼちゃん、とマグロは沼に着地した。
 そのマグロを追って、スピノサウルスは沼へと潜っていく。陸の動物よりも魚のほうが絶対に美味しい、と語るような背中であった。
『あの恐竜。肉より魚派だったんだね。もしかしたら、あの恐竜は魚味だったのかな?』
 タルタルソースで食べたい、と百薬は涎をすすった。
 相変わらずの百薬に、望月はため息をつく。
「食べることから離れようよ……私は食べたくないかな。沼にすんでいるってことは、泥臭そうだし」
『泥臭い恐竜か……。やはり、菓子がない時代はダメだな。菓子という華がない生活なんて、耐えられない』
 キリルの言葉を聞きながら、一二三は周囲を見渡した。肉食恐竜の姿が消えたせいなのか、草食恐竜たちはすっかり大人しくなっている。キリルとの共鳴を解いた一二三は、自分の足元の土を掬い上げる。
「……移動の切欠て何どすやろ?」
 少量の土を持ち帰ったところで分かるものは少ないかもしれないが、持って行かないよりはマシだろうと思ったのだ。
「肉食恐竜がいなくなったら、草食恐竜は大人しくなったね。今度は仲良く出来るかな?」
 リリアは恐竜に近づき、嬉しそうにはしゃいでいた。翼はそっと写真をとって、ご満悦である。
『ギターの音は、恐竜にも分かるだろうか?』
 翼の言葉に、リリアはギターを取り出した。弦を爪弾いてみる。いきなり大きな音は驚かせてしまうだろうから、小さな音から試してみた。
「あんまり反応しないね。耳が悪いのかな?」
『普段聞きなれていない音だから、ギターから出ている音だと認識できないのかもしれない』
 もう少し強く引いてみる、とリリアはギターを強く鳴らす。
 ――うぉぉぉぉ!!
 突如、トリケラトプスが吼えた。
 そして、その巨体をゆっくりと揺らして沼から去っていく。その光景を見たリリアは、呆然としていた。
「どっ、どうしちゃったのかな?」
『もしかしたら、ギターの音が怖かったのかもしれない。それとも、恐竜にはギターの音が別の言葉に聞こえたのかも……』
 はるか昔に滅んだ生物。
 その生物がどのような思いでギターの音を聞いたのか、翼には分からない。
「さよなら、またね。って、聞こえていたらいいね」
 リリアの言葉に、翼は頷いた。
 彼女の言うとおり、音で恐竜と会話が出来たら素敵だと翼も思ったのだ。
『おーい』
 マガツヒが入れられている檻によじ登り、那智は去っていく恐竜たちに手を振る。
『もう、欲望だらけの人間に襲われるなよ!! ついでに、今度は俺達も背中に乗せてくれよな!』
 那智の言葉に、刀護は「俺は乗らないぞ」と釘をさす。ティラノサウルスのときのように、大暴れされてはたまったものではない。遊夜は「あれは酷かったぞ」と腕を組みながら頷いていた。
『……ん。子供たちがいつかやりたいって言っても……賛成できない』
「でも……男の子はいつかは言うんだろうな」
 ユフォアリーヤとの間に生まれた双子。その息子が遊夜に似たのであるならば、確実にやりたいと言い出すだろう。そのとき、自分が本物のティラノサウルスに乗ったことを子供たちは信じてくれるだろうか。遊夜は、少しばかり笑った。
『一時はどうなるかと思ったが、仲間は誰も食われないですんでよかったじゃねーの』
 いつの間にか共鳴を解いていたヴィリジアンに、ルカは食って掛かった。
「ヴィジー、さっさと俺を一人にしやがって。怖かったんだぞ、チクショー!!」
『恐竜王国の真ん中で共鳴もせずにいたほうが、危険だってわかんねーのかよ!!』
 ヴィリジアンとルカが怒鳴りあうなかで、恐竜の叫び声が聞こえた。二人はその声の驚き、恐れをなしたのか同時に喋らなくなる。その様子に、思わず仲間たちは笑いあった。
「あの恐竜たちは、家に帰るのでしょうか?」
 クリスティンは、レイナに尋ねる。
『ええ、きっとそうね』
「今度会うときには、お友達になれるでしょうか?」
 笑うクリスティンに、レイナは複雑な心境になる。次も自分たちが恐竜を守る側でいられるかどうか分からなかったからだ。もしかしたら、オーパーツのために恐竜を狩る側になっているかもしれない。それでも今は――その可能性を否定し、明るい未来を信じることしかレイナにはできない。
「そうね。きっと、友達になって一日中遊んでいられるわよ」
 恐竜たちがゆっくりと住処へと戻っていく風景。
 その風景をゆらは、写真に収める。そして、カメラをぎゅっと胸に抱きかかえた。まるで、この世で一番大切な宝物のように。
「どうしよう。この写真、家宝だね」
『まあ、何にせよ、恐竜たちが無事で良かった』
 そして俺達も無事でよかった、とシドは呟いたのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 桜色の鬼姫
    aa4783hero002
    英雄|21才|女性|ブラ
  • 新米勇者
    葛城 巴aa4976
    人間|25才|女性|生命
  • 食いしん坊な新米僧侶
    レオンaa4976hero001
    英雄|15才|男性|バト
  • 春を喜ぶ無邪気な蝶
    クリスティン・エヴァンスaa5558
    人間|10才|女性|防御
  • 山瑠璃草
    砺波 レイナaa5558hero001
    英雄|16才|女性|バト
  • 魔法マニア
    ルカ マーシュaa5713
    人間|19才|男性|防御
  • 自己責任こそ大人の証
    ヴィリジアン 橙aa5713hero001
    英雄|25才|男性|カオ
前に戻る
ページトップへ戻る