本部

狂育現場

アトリエL

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~15人
英雄
5人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/30 18:53

掲示板

オープニング

●国の未来を見つめ
「ふふふ。ここは良い街ですね」
 白衣を纏ったメガネの男が辺りを眺める。高いジャングルジムの上から見下ろすのは小学生に中学生、幼稚園児……国の未来を担う子供達がそこにいた。
「まだ慌てる時間じゃない……少しずつ……そう、少しずつ。……くくくくッ」

●ヴィランの狂師
「……神山元木(かみやま・もとき)。通称ニワ先生。いずれも未遂に終わったが、過去に某国のクーデター2件を裏から操った……とされるテロリストだ。一つは某国の軍部に介入した案件で、もう一つは宗教組織絡みだ。奴にはイデオロギーは無く、他の関与が疑われる事件に関しても主義と行ったものが見受けられない。強いて言えば無政府主義者だが、奴にとって思想はただのツールに過ぎないのかもしれないな」
 それが日本に戻って来た。それがHOPEの情報網に偶然引っかかって判明した事実だ。
「彼は学校や私塾に教師として地域に入り込み人知れず影響を与えているらしい。そして、子供達を尖兵に社会を動かして行く……というもののようだ。直接法に触れる行いをしたと言う事実がつかめていない以上、法治国家である日本ではその行動を妨げることは難しいだろう」
 本人が何かしているわけではなく、洗脳かそれに類する手段を取っているだけでは逮捕することは出来ない。過去の罪状に関しても教え子達から彼の名前が出たというだけで、彼自身に命じられたというわけではなかった。
「何かが起こってから対処する以外には方法がない非常に厄介なヴィランだ。直接は仕掛けては来ないが……前例からすると、自らが被害者になるような形でトラブルを起こす。彼の敵を煽ったり、自作自演を仕掛けたりしてな」
「さしあたって、内偵ですか?」
 指令から内容を察してリンカーの一人が尋ねると画面の向こうで男が頷いた。
「若年メンバーを中心にしなければいけませんね」
 既にニワは表向きの拠点のひとつに補習系の学習塾を開設し、生徒募集を掛けていると言う。
 個人経営の私塾と言う立ち位置であるため、講師として参加するのは無理があるが、保護者として子供達にどのような教育をしているのかを見学するくらいは出来るだろう。

●ニワの庭
 暗い部屋にキーボードを叩く音が響く。
「漢字がそのまま部首になっているものは、小学校の配当漢字1006字の内、97文字。うち象形文字が80文字で、2年までに習う漢字が82文字。つまり、文字の基本である『親文字』の殆どを低学年で学習している訳だ。……くくくッ。基本はしっかりと身につけさせなければね。うんうん」
 ニワが作っているのは漢字学習のためのパソコンソフト。短時間に次々と漢字を表示して読み上げさせるソフトであった。

解説

 戦闘になる可能性が極めて少ないほのぼの系シナリオです。
 ニワの学習塾に内偵を掛けて下さい。
 ニワを逮捕や討伐するのは困難です。迂闊に手を出せば仕掛けた方が悪者にされてしまいます。
 基本的にニワは直接法を犯したと判らない方法で子供達に働きかけて来ます。
 可能ならば、それを人知れず未然に防いで下さい。
 私塾であり、基本的には中学生や高校生までが入塾の対象です。
 外見年齢がこの範囲であれば問題ありません。
 30代までなら浪人生などとして入り込む際も受け入れられます。
 ある程度以上の年齢の場合は英雄含む誰かの保護者として参加してください。
 私塾内での行動ですが、学生が触れられるものに関しては基本的に全て自由に閲覧し、調べることが出来ます。
 これは保護者も同様ですが、見学と言う扱いなので長時間調査することは出来ないと思ってください。

リプレイ

●平成時代のチャームレディ
「ほほほほほ!! どうじゃどうじゃ!! どこから見ても立派なお嬢様であるぞ!!」
 無意味なまでにテンションの高い泉興京 桜子(aa0936)は大正時代のハイカラさんよろしく着物に袴姿で高笑いを浮かべていた。
 世が世なら深窓の令嬢と呼ばれるに相応しい家柄の娘で、教師の方から彼女の家にやって来るような一族である。だが、今は子供は学校へ通うのが当然の世の中だ。
 しかし、隔離されていた桜子にとって、塾とは言え初めての登校と言う事になる。夕べは興奮の余り深夜まで眠れなかった位だ。
「ほら!! いいとこのお嬢様がそんなにはしゃがない!! あんまり動くと化粧が崩れる!!」
 ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)は印象を変える化粧を桜子に施していた。本来なら化粧などしなくても充分に美しい肌と紅い唇なのだが、それは勿論変装の為だ。昔と違い、今時の化粧品は泣いてもメイクが崩れない。対象年齢に7歳が含まれるほどである。世の中、分進秒歩なのだ。
「むむ!! お嬢様はこんな乱暴な言葉使いはしないのか……では、参りますわよ、いざ塾へ!!」
 窘められた桜子は、深呼吸して気持ちを切り換え……切れなかった。言葉遣いこそ改まったが、全身から溢れるわくわく気分は全く隠せていない。
「まだ色々と間違ってる気がするけど……。本来の目的、忘れてないわよね?」
「もちろん覚えておりますことよ!! この塾でいけないことを教えている輩をとっちめることですわよね!?」
 釘を刺すベルベットに桜子は自信満々に答える。
「うん、まぁ…… 間違ってはいないのでよしとするわ。くれぐれも余計なことしないでね」
 その自身が溢れた分だけ余計に不安を抱くベルベットであった。

●孤高の学徒
「よし!! 準備は完璧だ!! 私はどこからどう見ても海外留学生だ!!」
「あ、あの…… 私は一体何をすれば……」
「緑はできる限りハニワ先生と話をしてみてくれ!! 私は他の生徒から話を聞いてみる」
 サムアップするエス(aa1517)に気圧されつつ縁(aa1517hero001)が訊ねると、やたらと高いテンションでそう言った。
「ハニワ先生でなくてニワ先生では……。あ、緑にも、友達、できますかね?」
「大丈夫だ!! おまえはどこからどう見ても普通の青年だ!! 私が保証する!!」
「そ、そうですか? 主様にそう言ってもらえると……自身がつきます」
 そんな二人の雰囲気が子供達が近寄りがたいものであったりするのは今回の任務においては全く問題にならない。

●お姉さん
「うん、まぁ。新手の宗教団体みたいなもんでしょ。とりあえず行ってみましょ」
 前情報から想定される感化力を早瀬 鈴音(aa0885)はその様に見ていた。
「あ、あの……私は学生として行くのはちょっと……」
 学生と言うにはげふんげふん……成人式を4年も過ぎた年恰好のN・K(aa0885hero001)がセーラー服など着たらげふんげふん……。
「大丈夫よ。とりあえず中は私一人で入るから。念の為身分証明してくれる保護者ってことで付いて来て」
「ほ……保護者って。それでも年齢的にどうかと思うんだけど……」
 鈴音はヒラヒラヒラと手を振るが、親子と言う程老けてもいない。
 年上に見られて喜ぶのは女性は小中学生までである。N・Kでなくとも戸惑うのは仕方がない。
「いやいや、お母さんになれって言ってるわけじゃないんだし。お姉さんでいいわよ」
「お姉さん? あ……なんか悪くないかも。それじゃあ私はお姉さんね。よろしく、私の妹さん」
 苦笑しながら言う鈴音の提案でN・Kは折り合いを着けた。

●正義を愛する心
「何だとゴルァ!」
「道路にゴミを捨てちゃだめですよ」
 大人気ない。実に大人気ない。エスはふぅっと、溜息を吐いた。
 ゴミをポイ捨てした男に小学生程のちっちゃな女の子が注意して、後はご覧の通り。
 凄んでいるだけで手は出していない。一般人のチンピラとは言えそのくらいの分別はある。
 だからこそ、まだ敢えて止めはしていないが、見ていて心地良いものではない。
 ヴィランでも愚神でも無い以上、自分が手を出せばオーバーキルに成るのだから。
「っせぇんだよ、税金も納めてないようなガキが大人様のやることに口出すんじゃねぇよ」
「ちょっと待てや! ちっちゃい子にそれはねーだろう」
 だが、女の子が壁ドンされながらも泣き出しそうな目できっと睨み付けながら、勇気を振り絞って男に注意を続ける様を目にすれば、エスも我慢の限界だ。誰も助けに入らないなら、口くらい出して構わないだろう。と、二人の会話に割り込んだ。
「んだこらてめぇ? てめぇが慰謝料だすってぇのか、あぁん?」
 いきなり掴み掛かって来る所をすっと避けて軽くいなす。
 僅かそれだけの動作でチンピラは宙を舞った。
「ってぇ! 何しゃ……」
 見た目のレディと侮り、凄む所を仰向けの顔面に迫り右目に添えられ圧迫する親指。
「続けるか? 答え次第で片目を貰うぞ」
「わ、判った!」
 抑揚の無いその声に男は降参し、振り返ることなく逃げ去った。
「お嬢さん。大丈夫でしょうか?」
「ありがとう」
 腰が抜けた女の子に手を差し伸べる縁に女の子はにっこりと微笑んだ。
「あ、遅れちゃう。お兄さんお姉さんありがとうね」
 携帯電話で時間を確かめ、再度お礼を言うと女の子は小走りに駆け出し、路地へと入って行く。
「なぁ縁。あれって私達が行く所だよな」
 その後ろをついていけばそこにあるのは雑居ビルに囲まれた木造モルタルの一軒屋……玄関には学習塾の看板が掛かっていた。

●学習塾
「ここが例の学習塾ね……。うぅ……なんか緊張してきたなぁ」
「なんで?」
 緊張のあまり塾を見上げたままの餅 望月(aa0843)に百薬(aa0843hero001)は首を傾げた。周囲を古い雑居ビルに囲まれている他は一見何の変哲も無い一軒屋。直ぐ隣の1階には、店前に自動販売機が置かれた駄菓子屋と、併設された居酒屋食堂があり、何人か寛いでいる子供達が見える。
「別に悪いことしたわけじゃないのに?」
「……ほら、あたし学校行ってなかったからさ。どーいうことしてる場所なのかなーって」
 学校は子供達の学びの場であると同時に、交わりの場でもある。だからこそ、少しばかり変わった経歴の持ち主である望月であっても興味が無い訳ではない。
「んー。普通にみんなでお勉強とか運動とかしてるだけの場所じゃないの?」
 興味深げに百薬は、背中の羽をパタパタさせる。その動きに反応して子供達の視線が動いたが、二人は気にしない。
「……まぁ。その普通がわかんないのよね。しかも間違って知識植え付けようとしてるんでしょ?」
 事前情報からニワ先生の教育は、某かの洗脳や刷り込みがあるものと推定される。その調査であることも望月の不安を増大させる一因だ。
「そこまで不安かなぁ?」
「うぅ~……」
「……あからさまにおかしいと思ったことがあればフォローするよ」
 周囲の生活観が有り過ぎる風景に首を捻りながらも百薬は望月を抱きしめた。

●平成じゃなくて平安でしょ
「折角なのでこの塾を撮影したいのであ……。させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「すげーおませ。いや、これがロリBABAって奴か?」
 桜子の大人びた物言いに、先に来ていた小学校高学年くらいの男の子が失礼なことを言った。
「ワシはまだ七つだ! 婆とは何だ……ですか?」
「ワシ! ワシだってよ。やっぱBABAじゃねーか」
 男の子はくくくっと笑いを堪えながら言ってはならんことを言う。
「まあ、背伸びしたいお年頃だからな。学校上がる前なのに、聞きかじった言葉を並べてるだけだろうけどよ」
「馬鹿にするでない。ワシの家の軒先の雀は蒙求を囀るわ」
 無学とも取れる言い回しに桜子はむっとしてそう答えた。
 いや、あなた。いつの時代の教育を受けているんですか? そんな空気が周りから漏れる。
「ベル……っと、お母様ぁ! 無礼なお子様を教育してもよろしいでしょうか?」
「おっ、やるかぁ?」
「草野さん、泉興京さん。そこまでです」
 桜子は掃除ロッカーを開けて、回転箒で薙刀の八双の構え。それが本物の構えであることを知らない男の子が半身に構えた所でニワ先生が割って入った。

●ゴムの物差し
(うぅ……。上手く入塾できたけど不安だなぁ……。アリス……何かあったら助けてね……)
 北里芽衣(aa1416)はこの場には居ない相棒を思い浮かべる。
「古川さん。古川さん。古川めいさん」
 気がつくと、目の前に立っているニワ先生が名前を連呼していた。
「……? は、はい!! すいません!! ぼーっとしてましたです!!」
(今のわたしは古川めい…… 古川めい…… 間違えちゃだめ……!!)
 応募に当たって芽衣は古川めいと偽名を使っている。現在は入塾テストの真っ最中だ。声をかけてきたからには『めい』に対し、ニワ先生は何か疑念を抱いたのだろう。
「数学の教科担任は何をやっていたんでしょうね?」
(数学って? さ、算数じゃないの? ふえ、む、むずかしい、どうしよう)
 首を傾げるニワに別の問題を出されるが、これも全然判らない。答えなければと必死になるものの数学の問題は考えて答えが出る問題はほとんど無い。公式を知らなければ解けるはずもないようなものばかりだからだ。
「ではこれはどうでしょう?」
(あ、これなら判る。全部、授業でやり方教えて教えて貰った問題ばかりだ)
「なるほど。古川さんの学力は小学5年生くらいです。そこからやり直しましょう」
 すらすらと解き始めるめいを見て、ニワ先生は実際の学歴を見抜いた。
 先ほどから行われていたテストの問題は、全て教科書の単元毎の例題ばかりだと言う。授業中に教科書を開いていれば必ず見る問題であり、解き方も教科書を見ればわかる。
 スパイを見つけ出す方法かと一瞬焦りもしたが、学力確認の為の手法で入塾テストとして行っている方法だと説明され、上手いやり方だとめいは思った。続いて、理科・社会・国語と同様のテストを受け、芽衣の学力が残らず顕わにされた。
「古川さん。6年の時の担任は訴えてもいい。職務怠慢です。あなたの学力は、丁度5年生の今頃で止まっていますよ」
 芽衣は本当の年齢が見透かされたような気がした。
「5年生も、比がさっぱりですね。確かに比は5年生の鬼門ですが……」
 比は難しい。先日始めたばかりの単元で、芽衣も余り良くわかっていない。
「良いものを上げましょう」
 ニワ先生が取り出したのは、幅5ミリはある輪ゴムを切って両端を棒にしっかりと括り付けた物。ゴムの帯には油性ペンで等間隔の目盛りが10個書かれている。
「左端が0で右端が1です。ここは何ですか?」
 左端の次の目盛りを指差した。
「0.1」
「賢い! ではここは?」
 さっきの右隣の目盛りだ。
「0.2」
「いいよいいよ。ではここは?」
 真ん中の周りより少し縦に長い目盛りを指差した。
「0.5」
「ご名答! 棒を引っ張って両端の目盛りを教科書図1の両端に合わせて下さい。全体を1とした時、青い部分は何なんですか?」
「0.7!」
「問い2の図2に目盛りを合わせなさい。青は全体の何ですか?」
 図1と図2では大きさの違うけれど、ゴムだから合わせられる。
「0.3!」
「すごいなぁ。何も説明してないのに解いちゃってるよ」
「あれ?」
 学校の授業では、全体を1とすると言うのが判りにくかったけれども、今目の前に伸び縮みする物差しがある。芽衣はただそれを読み上げているだけなのに、誉められる。いつの間にか芽衣の顔は綻んでいた。

●どこで躓いた?
「す、すいません先生!! ここを教えて頂きたいのですが!!」
 パソコン画面に向かって問題を解いていた緑は、回って来たニワ先生を呼び止める。簡単な二次関数の問題で詰まってしまったのだ。
「じゃあ。その前にこの問題はどうですか?」
 ニワ先生がパソコンを操作すると、式の乗法・因数分解の基本問題が3つ表示される。
「あ、これは大丈夫ですね。ではこれは?」
 同じく連立方程式の基本問題を示された緑は、そこで詰まった。
「ではこれは?」
 示されたのは簡単な一次方程式である。
「これなら出来ます」
 と答えた緑だったが、ちょっと形を変えると戸惑った。
「うんうん。判りました」
 ニワ先生は頷いて再びパソコンを操作。すると、一次方程式の例題と解説。非常に簡単なものから難しいものまで段階的に10問並んだ。
「全問正解すると、連立方程式の解説と問題が表れます。それらを解いてから、改めて先程の問題に戻って下さい」
 そう指示するとニワ先生は再び巡回に戻っていった。

●亮太行きます
「……と、言う感じでお願いしたいんだ。よろしく頼むよ」
「とにかく時間を稼げばいいアルか? 了解アルね!!」
「す、すいません先生…… お腹が調子がどうしても…… ト、トイレに……!!」
 守矢 亮太(aa1530)は李 静蕾(aa1530hero001)に何事か相談すると、挙手してから教室を出る。
「センセ!! ワタシ、教えて欲しいことアルよ!! こっちに来るヨロシ!!」
 亮太が教室を抜け出して暫くするとなんだか大昔の、テレビドラマがテレビ映画と言われていた時代の怪しい中国人みたいな口調で迫った。いや、作っているのではなく地のようだが。
「はい、なんでしょう?」
 そんな怪しさ満載の生徒に対してもニワ先生の態度は一ミリたりとも変わることない。ちぐはぐな質問さえも国際化の波の弊害を受けた子供とでも思ったのだろう。特に対応が変わることなく質問に答え始めた。
「資料室の奥には立ち入り禁止か……明らかに怪しいんだけど……」
 亮太がそこを覗き込めばそこには既に先客が居た。

●歴史年表
 桜子は7歳。5月12日生まれだから学年にして小学1年生だ。なので特に学力テストは行わない為、上級生達と比べて時間が余る。その間、塾の設備等を見学させて貰った。
「ほぅ~。凄いもんじゃ」
「何々。どうしたの?」
 教材倉庫の全漢字ルビが打たれた年表を見ながら目を輝かせる桜子に早々と学力テストを済ませた守矢 亮太が小走りに近づく。
「見てみよ。江戸天皇は300年近く生きておるぞ」
「本当だ……。縄文天皇なんて1万年以上だね」
 大正時代・明治時代と書かれた右に江戸時代とある。亮太も普通に驚いた。
 知らないということはある意味で恐ろしいものである。

●ターミナル
「見た感じ特におかしいところはないわね……」
 体験講習に加わった鈴音は細かいところまで注意深く観察する。
 例えば、学校で使っている数学教科書の例題で学力判定と言うのは、判定にブレの無い上手い方法だ。教科書の内容が変わっていたとしても実力を測る物差しとして使用する分には問題はない。国語も教科書の設問だから客観的な判断となるだろう。
「次は授業か」
 テストをテストする時間が過ぎれば、小学生から高校生まで年齢がバラけて居るため、都会では珍しい複式学級だ。授業は板書講義とパソコン作業の併用で近代的なところがアンバランスにも思えるが、効率を重視するのであればこれもありだろう。
「嬢業風景も特に違和感はなさそう……。普通の私塾みたいだけど……」
 密かにパソコンからデータやプログラムを持ち出せないかと試みても見たが、一般的なOSマシーンでは無く、どうやらLANでローカルサーバに繋いだターミナル端末に過ぎないようだ。
 本体にインストールされているのはサーバーのデータを再生するためのソフトばかりで具体的なデータはサーバー側に保持しているようだ。
「ん~。ちょっと疲れたかな」
 パソコン利用が主体の学習のせいか、鈴音は頭に疲れを覚えた。

●歴史による洗脳?
「ふむふむ……。おーおー……なるほどなるほど!!」
「何読んでるの? ……歴史の教科書?」
 小さな図書室と言っても良い12畳の部屋で、望月は自由閲覧の本をあれこれと漁り、釣られて百薬も変わった漢字とカタカナの本を覗き込む。どれも古書に分類されるような本ばかりである。
「見てこれ、号令を出すためにラッパを吹き続けた兵隊さんのお話! かっこいいと思わない?」
 それは日清戦争最初の陸戦である成歓・牙山の戦いで戦死した、ラッパ手・木口小平の最期を綴る読み物。
 明治から大正初期の子供向けの雑誌は、皆このように美談的道徳的な内容の物ばかりだった。
「へー。昔のお話かぁ。結局この人はその時の負傷でなくなったみたいだけど……。今も英雄として称えられてると」
 百薬が読んだのは、楠正成の子孫にして元・名古屋陸軍地方幼年学校長、東宮武官として後の大正天皇の教育係を勤めた橘周太中佐の活躍である。今日、明治天皇の誕生日は文化の日として、昭和天皇の誕生日は昭和の日として人々に記憶された。しかし大正天皇の誕生日は、この橘中佐の命日として記憶されていたりする。そんな英雄の話であった。
「英雄かぁ…… なんか憧れちゃうなぁ……」
「……あれ? でもこんな人、聞いたこともないけど……。ホントに英雄さんなの、この人?」
 それは『稲むらの火』のモデルであり伊勢湾台風の被害を防ぐ堤防を築いた初代逓信大臣にしてキッコーマンの創始者・濱ロ梧陵の記録であった。
 安政南海地震後に梧陵が私財を投げ打って完成させた『広村堤防』は、後に伊勢湾台風の被害を防いだ。と言う記述で結ばれていた。

●時間稼ぎも限界?
「センセ! 漢字の『漢』の右側は『又』って書くネ! 間違テルヨ!」
 静蕾は時間稼ぎのための質問を続けていた。当然、漢字には今も台湾で使われている本字と中国の略字と日本の略字があることを判った上での突込みだ。
 ニワ先生は軽くそれを説明するが、ニワ先生の足止め目的の静蕾は粘る。
「日本と中国・台湾では漢字の使われ方や意味合いが違います。例えば『手紙』と書けば中国では『トイレットペーパー』を意味しますよね? 元々言葉が違うのですから、たとえ同じ文字を使っていても意味は違うのです。漢字の本家は中国でも日本で使われているのは日本語用にカスタマイズされた別物なのですよ。勿論中国古典由来の物や、中国が逆輸入した近代用語の漢字表記がありますから、同じ物も少なくはありませんが」
「な……何アルか? ……ココではこの国のやり方にあわせナイといけないアルか? わ、わかたアルよ……」
 日本語の表記は日本式になると言う説明に、静蕾はしぶしぶながら納得した。
 ともあれ亮太の為に充分時間は稼いだはずだ。

●目覚めたのは正義?
 学習体験が終わり、近くの駄菓子屋併設の居酒屋の席。リンカー達は今川焼きの型で焼いたお好み焼きを食べながら、差し障り無い形で歓談していた。
 あの後、塾の子供たちと風船バレーなどで遊んで大いに盛り上がった訳だが、結局特に怪しい所は見つからなかったのである。
 しかし、いくつかの収穫はあった。先ずは芽衣が学校ですっきりしなかった部分が飲み込めたのと、生徒で加わった者が塾に通う子達と仲良くなれたこと。
「酷いアル!! あのセンセ、ワタシのしゃべり方、悪くいうネ!!」
「ニワ先生が静蕾のこと見てる目が何か違うなぁと思ってたんだけど……。大変なものを見つけたんだ」
 憤慨する静蕾に亮太が写して来た映像を見せる。
「1941年の世界地図?」
「ああそれは。当時、東洋はアメリカやヨーロッパの国々の植民地だったんだ」
 国毎に色分けされた地図は、タイと日本を除き全てが欧米の国々の色で塗り潰されていた。その理由をエスが簡単に説明する。
「植民地ってなんじゃ?」
 桜子がそれについての知識を得ると場の空気が変わった。
「なんじゃとぉ! 許せんぞ、そ奴ら!」
 途端に激怒し、怒りの感情を顕にする。そればかりではない。おしとやかな芽衣や、温和な亮太まで異常な怒りを見せている。望月すらわなわなと拳が震えていた。
「おい! 酒は出さんのか!」
「お客さん。ここは小学生も入る店です。お酒は子供達が帰る午後7時以降ですよ」
「何ぃ? なめとるのか!」
 奥のお客が怒鳴り散らしている。店主の抗議にガタンと椅子が倒れる。
 エスが様子を伺うと、あれはさっきの男だ。
「おあっ!」
 不意に激しい憤りを覚えたエスが立ち上がるより早く飛び出した桜子と亮太の蹴りが、男の股間と向う脛にめり込んで、芽衣が手に持ったアルミトレイが男の脳天を直撃した。
 そのまま男は救急車で搬送されることとなる。手加減こそしていたが、今のは明らかにリンカーの能力を使っていた。
 後でその時を振り返った三人は、任侠映画を見て来たような感じだった。と証言した。
 つまり、あの塾は何らかの精神コントロールを行っていることがはっきりしたことだ。それだけでもあの塾を探った成果と言える。ニワの尻尾を掴む為には、引き続き調査が必要であろう。
 その為には、精神コントロールの存在画確認できたことと、塾の子供と仲良くなったのは、明日に繋がる大きな成果であった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416

重体一覧

参加者

  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885
    人間|18才|女性|生命
  • ふわふわお姉さん
    N・Kaa0885hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中



  • 色鮮やかに生きる日々
    西条 偲遠aa1517
    機械|24才|?|生命
  • 空色が映す唯一の翠緑
    aa1517hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • エージェント
    守矢 亮太aa1530
    機械|8才|男性|防御
  • エージェント
    李 静蕾aa1530hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
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