本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】禍の泥人形を殲滅せよ

絢月滴

形態
イベントショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/07/10 20:46

掲示板

オープニング


 大英図書館の館長室において、キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は表の仕事をこなしていた。
(古墳から発見された地図ですか。希少性からいって仕方ない金額ですね)
 机に向かい、各部署からあげられた申請書に目を通して可否を決めていく。
 英雄のヴォルフガング・ファウスト(az0056hero001)は来客者用のソファで菓子を摘まみながら、ファッション雑誌の記事に目を輝かせている。
 もうすぐ昼食の時間といったところで、机の片隅にある固定電話が鳴り響いた。表向きの秘書を介さないH.O.P.E.ロンドン支部との直通回線だ。
「詳細はそちらに出向いてから。それでは」
 話し終わって受話器を置いたキュリスに、ファウストが「大急ぎで、どうかしましたの? 世界が滅びそうだったりするのかしら?」と訊ねる。
「そうでなければよいのですが」
 キュリスの返答に、からかった風のファウストは真顔になっていた。
 キュリスが書架の本を一部入れ替えると、奥に引っ込んでいく。さらに横移動し、エレベータの出入口が現れる。
 H.O.P.E.ロンドン支部は大英図書館の地下深くに存在していた。降りたキュリスとファウストは、執務室へ向かわずにブリーフィングルームへ。中央にあるテーブル上にはホログラムイメージが浮かぶ。地中海周辺の地図である。
「早速、本題に入らせて頂きます。ご存じの通り、地中海周辺でテロが起こるというプリセンサーの報告が相次いでいます。これまで曖昧だったのですが、ここ二、三時間ほどで確定的なものに変わっていまして――」
 職員の一人が状況を説明した。
「確度の高い前兆ですね。警戒態勢を引きあげましょう。本部にも連絡を……、いや私がしたほうがよさそうですね」
 キュリスはテレビ電話を通じて、自ら本部とやり取りする。終わったあとで、職員が戸惑いながら口を開いた。
「あの、支部長。マガツヒの首領『比良坂清十郎』は、本当に『過去機知』が使えるのでしょうか。私もプリセンサーの端くれなのですが、どうしても信じられません」
 職員が語った『過去機知』とは非常に稀なプリセンサー能力だ。過去に起こった事実をつぶさに知ることができるといったものである。
「私も完全に信じたわけではありませんが、その想定で動くつもりです。そうでなければ説明しづらい行動が、マガツヒにはありますので」
 キュリスはそう答えて廊下を歩きだす。
「キュリスちゃん、そんな恐い顔をしていると、お肌に皺が増えてしまいますの」
「それでこの事態を収束できるのであれば、安いものです」
 執務室の扉を閉じたとき、キュリスはファウストに軽く肩を叩かれた。
(やはり比良坂清十郎の真の目的は、古代遺跡の破壊にあるのでしょうか)
 テロの発生が疑われる地域の多くには、古代遺跡が存在している。キュリスは共闘することとなったセラエノのリーダー、リヴィアの言葉を思いだしていた。



 満月が白く強い光を放つ夜。
 キプロス、アクロティリ遺跡を見下ろせる丘の上でフリルがたっぷり使われた黒のブラウスと、パニエで膨らませた黒のスカートを身につけた少女――黒崎由乃(くろさき・ゆの)はふふふ、と笑った。
「あれを壊せばいいのね。由乃ちゃんにかかればあっと言う間よ!」
 由乃は勢いよく振り向いた。
 そこには、百体を超える泥人形が立っていた。いずれも妖しく目を光らせている。
「この子達に一斉に襲わせれば楽勝楽勝!」
 由乃は手にしていた傘を振り回す。と、その先端が一体の泥人形の額に当たった。そこに埋め込まれていた宝石にぴし、とひびが入る。泥人形は瞬く間に土くれに戻った。
「あ、やっちゃった……。大丈夫、一体くらい減っても大丈夫大丈夫!」
 一応予備の宝石は用意してあるし、と由乃は足元の鳥かごを見た。そこには色とりどりの宝石が十五個ほど入っている。
「それに万が一の時は、ヒュドラちゃんを作って、戦えばいいし!」
 由乃は満月を見上げた。
「見ててね、清十郎ちゃん!」

解説

アクロティリ遺跡をマガツヒのテロから守りきることが今回の目的です。
以下の情報に注意しながら、目的を達成して下さい。


・アクロティリ遺跡について
 紀元前に起きた海底火山の噴火による火山灰で埋もれてしまった街の遺跡です。
 場所はキプロスのイギリス主権地域。
 観光資源として公開されている範囲が今回の守備対称となります。
 遺跡自体が屋根に覆われており、遺跡の周りに設けられた見学通路を一周する形で見学ができます。
 遺跡の入口(見学受付)は1つですが、遺跡敷地内へは3つの門があります。
 詳しくは以下の図を参照してください。





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凡例
■:高さ2メートルほどの壁
□:遺跡敷地内への入口
●:遺跡
〇:遺跡入口
▲:売店・レストラン
 
 ※記号1つは5メートル四方、とお考え下さい


※以下PL情報
 ・黒崎由乃
  マガツヒ構成員。姿形は少女だが、実年齢は不明。

 ・黒崎由乃の戦闘方法
  彼女自身が戦うことはない。
  ライヴス技術を用いて自分の代わりとなる戦士を生み出し、戦わせる。
 
 ・由乃の戦士
  どれだけ傷つこうが破壊されようが、由乃の命令通りの行動をし続ける。
  但し、【弱点を突かれる】または【由乃が持っている傘を壊す】と動作を停止し、その場で崩壊する。

リプレイ

●アクロティリ遺跡・西門
 ガン! ガン! とただ無秩序に屋根を破壊する音が聞こえる。青空を背景に、なんとも乱暴に、破壊の為に拳を振るう数体の泥人形を見て、獅堂 一刀斎(aa5698)は眉をひそめた。
「……作り手の想いが見えん。何と醜悪な人形だ…見るに堪えん……」
『全くです、一刀斎様』
 一刀斎の言葉に比佐理(aa5698hero001)が同意し、その手を取った。人間と変わらぬ肌の柔らかさを感じながら、一刀斎は比佐理の存在を認識する。比佐理もまた一刀斎を認識した。
 幻想蝶を介して、二人は共鳴する。
 一刀斎の全身が黒色の柔毛に覆われ、両の検視は牙状に鋭く尖った。黒羽織、黒着物、黒袴、黒旅、黒雪駄。全身黒のその様はまさに、黒豹。
「うおおおおっ!」
 吠えながら、一刀斎は泥人形に近づく。ディバイドゼロで頭から両断した。
『このままでは私たちも近づけませんね。一気に排除しましょう』
「全部壊しましょう、母様!」
 アトルラーゼ・ウェンジェンス(aa5611)とエリズバーク・ウェンジェンス(aa5611hero001)が共鳴する。共鳴すると小さくなってしまうせいか、その姿は魔女というよりも魔法少女に近い。ふふ、と笑ってエリズバークはウェポンズレインを使用する。彼女の周りに無数のレイピアが浮かんだ。
『貫きなさい』
 エリズバークが命じた次の瞬間、その鋭い切っ先全てが泥人形たちに向かっていった。あるものは肩を貫き、あるものは胸を貫き、あるものは頭の宝石を貫いた。その攻撃からかろうじて逃れた泥人形の胸を辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)は撃ちぬいた。
「ここはお任せします」
 泥人形の間を走り抜け、構築の魔女は遺跡の入口へ向かう。攻撃を受けた泥人形たちは形を失いながらも――上半身だけ、下半身だけ、または腕、足だけ――遺跡へと向かっている。その光景にエリズバークはあらあら……と唇の端を上げた。深い海のような瞳を細める。
『胸、肩、足……どこを壊してもまだ動きますのね。でも』
 エリズバークは上半身だけの泥人形の頭を宝石ごと撃ちぬいた。
「成程……宝石が核という訳か」
『皆さんに伝達いたしましょう』
 エリズバークが通信機を起動させる。一刀斎様、と比佐理がライヴスの中で囁いた。
 ――敵の数が多すぎます。何処かに……人形を操る者がいるはずです。
 比佐理の言葉に一刀斎は頷き、ライヴスゴーグルを取り出す。宝石からライヴスが糸のように南の方角へと伸びている。しかしそれが何処に繋がっているかまでは、分からなかった。
「美を理解せぬ人形師もどきには……灸を据えてやらねばなるまい」
 一刀斎は鷹の目を使って、その方角へ鷹を飛ばした。
 
●遺跡内部
 レーダーユニットを起動させ、構築の魔女は状況を確認した。見学通路と、遺跡を構成する建物、そして壁画付近に泥人形が居る。SVL-16を構え、構築の魔女は見学通路に足を踏み入れた。素早さを生かし、泥人形の間を駆け抜けるように移動しする。彼らの頭部、肩部、脚部を次々と撃ち抜いた。頭部――それも額の宝石を破壊した泥人形が土くれに戻るのを見て、構築の魔女は彼らの弱点を知った。遺跡内部を傷つけぬよう、テレポートSを使用して慎重に数を減らしていく。泥人形の一体が、壁画の一部を崩壊させた。それ以上の損害は与えない、と構築の魔女はその額を撃つ。これであらかた排除した。
「どうやら従魔や愚神の類ではなさそうですね。……やはり、何処かに使役者が」
 考え始めた構築の魔女だったが何かが崩壊する音に、反応する。入口からまた新たな泥人形が入ってきた。一体だけではない、二体、三体。近くにあった建造物を彼らは破壊し始める。。
「……これは、カイさんに防衛要請を出さなくてはいけませんね」
 構築の魔女はSVL-16を構え直した。


●アクロティリ遺跡・北門
「マガツヒのテロか……。しかし、沢山いるね、アオイ」
 狐杜(aa4909)が傍らに居るパートナー、蒼(aa4909hero001)に話しかける。
『手早く済ませたいものだ』
「まったくなのだよ。さあ、行こうか」
 幻想蝶に触れ合い、二人の姿が一つとなる。狐杜の姿をベースとした、狩衣に近い和装姿。金の瞳で敵の姿を捉え、薄氷之太刀「雪華」真打をその手に携え、泥人形の群れの中へ飛び込んでいく。
 それからほんの少し遅れて、麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)は北門に到着した。
「う……」
『……大丈夫……?』
「ああ、少し車酔いしただけだ」
 トラクター以外の移動手段はなかったのか……と遊夜は思う。しかしすぐに気を取り直した。深呼吸をして、前を向く。
「やれやれ、遺跡の破壊が何に繋がるのやら……」
『……ん、謎……そろそろ、先手打ちたい……ね?』
「全くだ。でもまずはあの人形をどうにかしないと」
『……だね』
 遊夜の閉じられた瞼にユフォアリーヤが触れる。その手の上に己の手を重ねる形で二人は共鳴した。遊夜の姿に狼耳とふさふさの尻尾が生えた姿。義眼の紅が、軌跡を描く。
「北側が一番敵が多いと見たが……」
 ――……ん、当たりだったね。
「それなら、範囲ブチ込むのが定石だ!」
 44マグナムを構え、遊夜はアハトアハトを放つ。着弾点でライヴスが爆発し、泥人形たちが四散する。
「やったか」
 ――まだ、みたい。
 頭だけ、腕だけとなった泥人形たちの動きは止まらない。胴を薙ぎ払った狐杜もまた同じ感想を持っていた。分かれた上半身と下半身が別々に蠢く。ぞぞぞぞ、と不気味な音を立てて遺跡へと向かっていく様はおぞましい。
「ふむ、なんと面妖よ」
 遊夜は改めて、敵の姿を観察した。
「泥人形……簡易ゴーレムか? 如何にもな宝石がくっついてるんだが」
 ――……ん、あれがコア? ……取りあえず、狙うのが一番……違ったら、また考える。
「そうだな、リーヤ」
 遊夜は44マグナムを構えた。と、狐杜の懐でライヴス通信機が鳴る。
「おや、エイズバーク殿か」
 リ、の音が発音できず、狐杜は通信機向こうの相手の名を少し戸惑いながら読んだ。しかし相手は気にしなかったようだった。
『狐杜様。泥人形の弱点が分かりましたので、連携いたします。額の宝石を壊せば、動かなくなります』
「成程。感謝する」
 通信を切り、狐杜は今の通信内容を遊夜に伝えた。
 遊夜のライヴスの中で、ユフォアリーヤが笑う。遊夜もまた同じ表情を浮かべた。
 ――やっぱり、大当たり。
「あんな当てやすい弱点……当てなきゃ名が廃るな!」


●アクロティリ遺跡・東門
『混沌の十三騎の次はマガツヒか。休む暇もないね』
 そう呟いたレオンハルト(aa0405hero001)に卸 蘿蔔(aa0405)は同意した。
「かなり凶悪な組織の印象です。謎も多いですが、こうして組織立って動いているのならば大きな打撃を与えるチャンスでもありますか。……とはいえ今は、守るのが先ですね」
 柔らかな幻想蝶の光に包まれ、二人は共鳴する。金色に変化した髪と瞳。中世の銃士隊のような魔法少女。牙が生えた口。若干鋭くなった目つきで彼女は殲滅対象である泥人形を見た。
「一般人の避難は完了している……とのことです」
 ――しかし急いだ方がいいだろうな。中に人がいるかもしれないし。
 蘿蔔はモスケールを起動させた。敵の数は北側が最も多い、次に東、西だ。敵の情報を皆に無線で連絡しながら、蘿蔔は遺跡に近づく。
 彼らに次いで、シュエン(aa5415)とリシア(aa5415hero001)も東門に到着する。
「先生!」
 シュエン(aa5415)はリシア(aa5415hero001)に手を差し出した。その手の平に収まっている幻想蝶にリシアは触れる。下から上へ、渦をまく光に包まれて二人は共鳴する。陣羽織、袴、ブーツ。後ろで一つにまとめた黒髪が風になびく。
 敷地内にリシアは足を踏み入れた。
『……何という事を……許せません、この遺跡がどれほど大事な物だと……』
 遺跡に向かう道にあるものは全て邪魔だと言わんばかりに、全てを破壊していく泥人形に、リシアは絶句した。しかしすぐに鷹の目を飛ばす。
 ――先生? 
『あの泥人形、どうやら自己というものがない様子。指揮官がいると考えるのが妥当でしょう。周辺に人がいれば、まずそいつです。迅速に攻撃へ……」
 ――ちょ、先生! 一般人だったらどうするんだよ!
 ライヴス内で激しく抗議してくるシュエンに、リシアは一つ、息を零した。
『まず無いとは思うのですが……。仕方ありません、判断がつかないうちは保護するとしましょう』
 辺りに人影がないかどうかも確認しながら、リシアは泥人形に切り込んでいく。先に戦闘を開始していた蘿蔔と合流する。リシアに当たらないように蘿蔔はバレットストームを放った。泥人形の腕が、足が、辺り一面に飛ぶ。しかしその動きは止まらない。リシアもまた泥人形の首を刎ねたが、結果は蘿蔔と変わらないようだ。
「あの状態で動くとはしぶとい敵のようです。どこか弱点があれば良いのですが」
 蘿蔔は眉根を寄せた。そんな彼女に対し、リシアも同感だ、と頷く。
『こういう時は大抵核になる物があるものです』
 泥人形の額の宝石を狙い、リシアは攻撃を仕掛ける。泥人形は避けようともせず、その攻撃を受ける。ぴし、と宝石にひびが入る。そして泥人形は土くれに戻った。
「ふむ、宝石を突けば簡単に。とはいえ数が多すぎますね」
 蘿蔔は今一度辺りを確認する。逃げ遅れた一般人は居ない。泥人形たちは一心不乱に遺跡へと向かっている。
 深呼吸をして、蘿蔔は武器を構え直した。
 その頃。
 御童 紗希(aa0339)とカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は皆より少し遅れて、東門に到着した。ライヴス通信機が着信を告げる。構築の魔女からだ。
『カイさん。申し訳ありませんが、遺跡入口に泥人形が集まってきています。防衛をお願いします』
『分かった』
 カイは通信を切った。今の言葉で全てを理解したのか、紗希がすぐさま幻想蝶に触れる。カイも同じ動作をして、煌めく蝶の光に包まれ、二人は共鳴する。動画カメラをベルトを使い、首に固定する。何かあった時の記録のために。
 今は構築の魔女の元に駆け付けるのが先と、カイは泥人形は無視して走り続けた。ライヴス通信機を通して皆の状況を確認する。
 
『カイ殿か。こちら、一刀斎。エリズバーク殿も一緒だ。後続の泥人形を破壊しながら、遺跡を目指している』

『よお、カイ。遅かったな。狐杜さんと一緒に北門に居る敵を蹴散らしている。そろそろ屋根に上がる。ああ、泥人形の弱点は額の宝石だ。それを破壊すれば、奴らは一発で黙る』

『えっと……蘿蔔、です。リシアさん、と……泥人形退治中、です。あ……カイさんが来たのなら……門、閉めますね……』

 カイは遺跡入口にたどり着いた。今にも中へ入りそうな泥人形の額をWスカーレットで撃ち抜く。一体、二体、三体、四体五体六体七体八体九体十体。
『キリがねえな』
 ――でもやるしかないでしょ。まだまだたくさん居る。
『ああ、分かってる』
 カイは再び、泥人形にWスカーレットを向けた。


●黒崎由乃、登場
 エリズバークはカズブハックシールドを使って、泥人形を屋根の上から叩き落した。その後ろでリシアが泥人形の宝石を九陽神弓で射抜いく。。
「おや、きみも弓を使うとは。気があうものよ」
 狐杜もまた和弓・賀正で泥人形に攻撃する。光を纏った矢は泥人形を数体纏めて、貫いた。少し離れた場所で、一刀斎がディバイドゼロを振るい、泥人形の頭を砕く。
「結構な数を減らしたが……まだ終わらないのかよ」
 ピースメーカーをリロードしながら、遊夜が呟く。その顔には明らかに疲弊の色が浮かんでいた。
 ――ユーヤ。
「ああ、大丈夫だ。リーヤ」
 こんなところでくたばらないさ、と遊夜は笑う。なんとなく、屋根の上から東南方向へ目を向けた。
 レストランから誰かが、出てくる。
「……おい、誰か居るぞっ」
 遊夜の声に屋根の上に居た全員が反応する。
 黒のブラウスと、黒のスカート。
 手にするは、鳥かごと傘。
 明らかに怒りの表情を浮かべる少女はちょうど目についたのか、屋根の上の遊夜を指さして。
「邪魔しないでよね! 清十郎ちゃんに怒られちゃうでしょ!」
 その口から出た清十郎、という名前にリシアと狐杜がいち早く反応する。ロングショットを発動させ、狐杜は少女の足元を狙った。リシアは屋根を降り、彼女の拘束を試みる。
 しかし少女の行動はそれよりも早かった。持っている傘で素早く魔法陣を描き、側にあった鳥かごの中から三つほど宝石を取り出して。
「泥人形じゃだめなら! おいで、ヒュドラちゃん!」
 少女が宝石を魔法陣に叩き付ける。眩い光が辺りを包み込んだ。あまりの眩しさに、皆が目を伏せる。
 地面が揺れ動く。
 眩い光がなくなった事を知覚して、カイは目を開けた。
 ――なにあれっ?
『あの女!こんなもんまで出せんのかよっ?』
 カイは思わず目を見開いた。
 そこに居たのは巨大な蛇――否、ただの蛇ではない。その頭の数は九つ。一番太い真ん中の首の額、そこに先程の宝石が輝いていた。
「H.O.P.E.なんて、遺跡ごとやっつけちゃえ!」
 真ん中の首の頭の上に立ち、少女は傘で遺跡を示した。ヒュドラが咆哮し、周りの泥人形たちが呼応するようにエージェント達へと向かい始めた。がらがらとレストランが崩壊する。ヒュドラの体に当たってしまったのだろう。
『あんな化け物……どうしろと』
 カイは必至に策を考えた。ふと、ライヴスの中の紗希が憤っているのを感じ取る。
『どした』
 ――ちょっと、あたしとキャラ被ってないっ?
『被ってないだろ……』
 溜息をつきつつ、カイはカチューシャに換装した。
「このままでは、遺跡が危ないね」
 狐杜は屋根から飛び降りた。ヒュドラの背面に回り込むような動きをしながら、目のあたりに矢を放つ。それが邪魔に思ったのか、ヒュドラが尾で彼を薙ぎ払った。その攻撃を避けきれず、狐杜は吹き飛ばされる。蘿蔔は泥人形の対応に当たり始めた。さきほどとは違い明らかにこちらに敵意を向けてくる人形の攻撃をいなしつつ、その宝石を砕く。
「……ッチ、またガキがお相手かよ」
 ――……まったく、やりにくいね。
 遊夜はアンチマテリアルライフルに換装した。ヒュドラの額に狙いを定める。しかし宝石がついていない首が邪魔で、うまく狙えない。異変に気付いて中から飛び出してきた構築の魔女も同じようなものだった。
「ヒュドラちゃん! 皆、吹き飛ばしちゃえ!」
 少女が傘で空中に魔法陣を描く。九つの首が空気を吸い込み、一斉に吐き出した。刃のような強風にその場に居る全員が襲われる。避けることは出来ない。
「くっ」
 ディバイドゼロで一刀斎は強風を防御する。大きな痛手は免れたが、無傷とはいかなかった。
 風が止んだところで、一刀斎は地面に降り立つ。今一度、ヒュドラを見上げた。
「……成程。破壊と殺戮を望む邪悪な性根が……よく顕れている。これがお前にとっての“美”……か」
 にがにがしく呟き、一刀斎は一度ヒュドラと距離を取った。その陰でリシアがジェミニストライクを発動させる。分身でヒュドラの尾を切断しようと試みた。
「君、邪魔!」
 びたん! とヒュドラが尾を地面にたたきつける。衝撃でリシアはその場に膝をついた。
「ヒュドラちゃん、もう一息に、まる焦げにしちゃえ!」
 少女が先程とは異なる魔法陣を描く。ヒュドラの口に焔が集まるのが見えた。
「まずい、このままじゃ!」
「遺跡が危ない、ですね」
 遊夜と構築の魔女が叫ぶ。
『させるか!』
 カイはカチューシャを展開する。羽根を広げたクロアゲハのようなその武器で、ヒュドラの頭付近を狙った。細身のロケットが次々と発射される。
「やば、ヒュドラちゃん、防御!」
 少女が再び傘で魔法陣を紡ぐ。ヒュドラは九本の首で少女を守るような体制をとった。しかしロケットの直撃は免れない。何本かの首がぼとぼとと、地面に落ちる。しかしすぐに再生した。
 その様子を見ていた蘿蔔はある一つの仮説にたどり着く。
「あの傘でヒュドラを……操っているよう、ですね。おそらく、オーパーツ、でしょうか?」
 ――そうだろうな。
 ライヴスの中で、レオンハルトが同意する。
「それなら……あれを壊せば、ヒュドラは無力化するかもしれません」
『あら蘿蔔様。偶然ですね。私もそう思いました』
 未だ屋根の上に居るエリズバークは艶やかに、しかし冷たく、狂気すら見える笑みを浮かべて。
『それなら、壊してしまいましょう。この際、門の破壊は大目に見ていただきましょう』
 エリズバークは両の掌を上に向け、ライヴスキャスターを発動させる。
 彼女の周りに無数の水晶体が出現した。
 昼間の太陽の光を通して輝くそれらは、秩序のようと形容しても良く。
 また、多くの影を作り出したことに、混沌と表現しても間違いではなかった。
『さあ、行きなさい』
 エリズバークが掌をヒュドラへと向ける。水晶体が一斉にそれに襲い掛かった。
 まるで嵐のような攻撃に少女の反応が遅れる。指示を受けられなかったヒュドラはその首をただ揺らしていた。
「これなら狙える!」
「チャンスですね」
「終わいにしよう」
 遊夜と構築の魔女、それに狐杜が同時に少女の傘を狙う。銃弾と矢は確実に傘を捉えた。音を立てて、傘が粉砕される。それと同時にヒュドラと泥人形が呻き声を上げて宝石ごと崩壊した。少女が慌ててそこから脱出する。先程のエリズバークの攻撃で損害を受けなかった壁の上に降り立った。
「あーもう! 清十郎ちゃんに怒られちゃう!」
 スカートの埃を払う少女に一刀斎は話しかけた。
「お前……名はなんという。俺は……一刀斎だ。獅堂、一刀斎」
 少女は一刀斎を見て、ふふん、と笑った。
「黒崎、由乃! マガツヒで一番、可愛い女の子! ……次は絶対、君たちを倒して、清十郎ちゃんに褒めてもらうんだから!」
 そう言って少女――由乃は逃走した。


●戦いの後に
「動力となっていた宝石……できれば回収したかったのですが……」
 泥人形の残骸を見て、構築の魔女は息を吐きだした。側では落児が静かにたたずんでいる。
「黒崎由乃……また、相まみえる日が来るのでしょうか」

 シュエンとリシアは遺跡内部の確認を行っていた。
「壊れたのは、壁画。それと建物が幾つか」
 そんなに被害が出なくてよかった、とシュエンは胸を撫で下ろす。周りを見ていたリシアが何事かを紙に書きつけシュエンへと渡す。
「先生? ……あ、崩れそうな場所のリスト!」
 後で管理者に渡す! とシュエンは何度も頷いた。

 遺跡の外。
 エリズバークはワールドクリエーターの使用を試みた。ぐさりとそれを地面に突き刺す。
『どうやら小規模のドロップゾーンも、不可解な領域もないようですね』
「はい、母様」
『全く……マガツヒは何を考えているのでしょう』
 ドロップゾーンのようなものを発生させようとしているのか。
 それとも、全く別の何かなのか。
 ふぅ、とエリズバークは息を漏らす。
『……もし、ドロップゾーンと同じようなものを作ろうとしているのなら』
 エリズバークは間もなく夜を迎える空を見上げた。
『王をこちらに呼び込む事も可能かもしれませんね?』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 今を歩み、進み出す
    狐杜aa4909
    人間|14才|?|回避
  • 過去から未来への変化
    aa4909hero001
    英雄|20才|男性|ジャ
  • 仲間想う狂犬
    シュエンaa5415
    獣人|18才|男性|攻撃
  • 刀と笑う戦闘狂
    リシアaa5415hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • …すでに違えて復讐を歩む
    アトルラーゼ・ウェンジェンスaa5611
    人間|10才|男性|命中
  • 愛する人と描いた未来は…
    エリズバーク・ウェンジェンスaa5611hero001
    英雄|22才|女性|カオ
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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