本部

エカテリンブルク・フェス!

絢月滴

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/06/30 22:26

掲示板

オープニング

●音楽で街を満たす
 ロシア第4の都市、エカテリンブルク。
 機械工業や金属工業で発達したこの町は教育都市でもあり、劇場やアリーナなどの施設も充実した文化都市の顔も持っていた。実際、ソビエト連邦末期から、この都市から数多くのロックバンドがデビューしている。この街に三年ぶりに帰ってきたタチアナもまた、そうしてデビューしていった若者の一人だ。超人気バンド、とまではいかないけれど、中堅と言われる位置に自分たちが居ることにタチアナは満足していなかった。もっともっとビッグになりたい。もっともっと売れて、もっとたくさんの人たちに自分たちの音楽を聴いて欲しい。
 そう考えていたある日、ライヴのため訪れていた日本でタチアナは興味深い映像を見た。野外に幾つかのステージを設け、そこでバンドが演奏を行う。所謂、ロック・フェスティバルの映像を。
 鳴り響く音楽に無数の若者が拳を突き上げ、時には肩を組み、一体となるその様にタチアナは酷く感動した。いや、ロック・フェスティバルというのはもちろん知っていた。けれど、あまり興味がなかった。もし自分が客だったら、ということを考えると複数のバンドを見るよりは、熱狂しているバンドのワンマンライヴに行った方が良い。そう考えていた。盛り上がり方だって、その方が凄まじいだろうと。
 けれど、これはどうだ。
 野外という広大な空間に響き渡る音と声は、ワンマンライヴと同様、いやひょっとしたらそれ以上かもしれない。 この時、タチアナは決めた。
(エカテリンブルクで、ロック・フェスティバルをやろう!)
 その想いはあれよあれよという間に形になり、たくさんの賛同者も得て。
 タチアナは今、エカテリンブルクの街外れの広大な工場跡地に居た。目の前でステージが組み立てられていく様に興奮する。早く、そこに立って演奏したい。ギターを思いっきりかき鳴らしたい。
「タチアナさん、すいません。進行のことで相談が」
「分かったわ、今行く」
 スタッフに呼ばれ、タチアナはプレハブ小屋へと走った。



●愚神兄弟のたくらみ
「兄者、これを見てみろよ」
 真夜中、エカテリンブルクにある小さな公園で、銀の目をした青年が一枚のチラシを拾った。
「エカテリンブルク・フェス?」
「こういった娯楽に、人は集まる。人をちまちま襲うのも飽きただろ?」
「……なるほど」
 金の目をした青年は、喉の奥で笑う。
「そこでライヴスを一気に奪う、ということか」
「その通りだ、兄者。俺たちなら、楽勝だろ? 俺たちの近くには誰も近寄れない」
 瞬間、彼の周りに風が巻き起こった。そばにあった空き缶が勢いよく転がり、草むらに咲いている花々を散らした。木々の枝は微妙に揺れただけだった。
「ああ、そうだな。俺たち二人、肩を並べて戦えば、どんな状況でも勝てる。遠くからの攻撃もできやしない」
 彼は遠くの街灯を指さした。どん! と大きな音がして街灯が爆発する。
「弟よ。せっかくだ。ただ襲うのだけではなく、趣向をこらしてみようじゃないか」



●フェスを守り抜け
 H.O.P.E.サンクトペテルブルク支部職員、西原 純(az0122)は集まったエージェント達に対して、説明をし始めた。
「エカテリンブルクでロック・フェスティバルが開催される。そこに予告状が届いた。――夜八時頃、一番動員数が多いステージで、とても残酷であるが美しい事件が起こる、と。フェス主催団体はこれを警察に届けて、警察は最近エカテリンブルクで妙なことが起こっているからと、H.O.P.E.に警備を依頼してきた。……ああ、分かってるよ。言いたいことは」
 純は深く大きなため息をついた。
「フェスの中止はもちろん申し入れた。けれど、もしかしたら悪戯かもしれない、それにここまで準備したものを諦めたくない、だと。こちらとしては、予告状にある通り一番動員数があるステージを予測し、そこで待機。何かあったら対応するという返答をした。……説明は以上。あとは任せた」

解説

エカテリンブルク・フェスの警備(愚神が現れた場合は愚神の討伐)が今回の目的です。
以下の情報に注意しながら、目的を達成して下さい。

◆フェスは三つのステージで構成されています。
◆入場チケットはフリーパスとなっており、観客は自由にステージを行き来できます。
◆とあるステージから、別のステージへ行くには歩きで二十分ほどかかります。
◆夜八時頃出演するバンドについては、純が調べてあります。以下はその詳細です。

 ・ブラッククライシス……結成二十年を迎えるバンド。ワンマンライヴのチケットは即日完売。
             この後、ツアーを控えている
             
 ・イノセンスブルー ……去年結成した若手バンド。ワンマンライヴのチケットは二日ほどで完売。
             ステージで新曲を発表すると予告している。
 
 ・ピンクシナモン  ……結成三年目のガールズバンド。ワンマンライブのチケットは二日ほどで完売。
             先頃加入した新メンバーのお披露目をこのステージで行うと予告している。

◆ステージで何かあった場合のバンドメンバー・観客の誘導はスタッフと警察が手伝ってくれます。

リプレイ

●警備は入念な準備から
「H.O.P.E.のエージェントさん達ね。あたしが主催者のタチアナ。よろしくね」
 フェス本部のテント、笑顔で差し出された手をナイチンゲール(aa4840)はゆっくりと握った。この手でギターを弾いてるんだ、と少し彼女の手を見つめてしまった。そんなナイチンゲールの視線には気づかずに、タチアナは次いで墓場鳥(aa4840hero001)、荒木 拓海(aa1049)、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)と握手をする。
「こちらこそよろしくお願いします。タチアナさん、イベントを成功で締めくくりましょう」
「もちろんよ」
 拓海の言葉にタチアナが強く頷く。
「その為の協力は惜しまないわ。スタッフと、狙われる可能性があるバンドのリーダーに来てもらってるわ」
「ありがとうございます」
 感謝を述べてから、メリッサはこちらの要望を伝え始めた。
「早速ですが、もし愚神が現れた場合、演出としてごまかしてもらえますか?」
「演出……ああ、いいだろう。八時と言えば、ライヴが始まって中頃だ。何とかしよう」
 ブラッククライシスのテトが言う。
「無理そうだったら、電気系統のトラブルってことにして観客を避難させて下さい」
「ん、分かった」
「任せておいて、お兄さん」
 イノセンスブルーの城之内ケイ、ピンクシナモンのサンドラも同意した。
「それからスタッフの皆さん。愚神出現時、誘導灯以外は電源を落とすことは可能ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
 その後も綿密な打ち合わせを行い、ある程度話がまとまったところでナイチンゲールがタチアナに聞いた。
「あの……タチアナさんの所属しているバンドは? ピンクシナモン、ですか?」
「あたしのバンドはオッテン・トッテンっていうの。夕方四時くらいにステージCで演奏するから、良かったら聴きに来てね」
「は、はい」
 四人はテントの外に出た。
「手分けして、どのステージに人が多くくるのか予測しよう」
『できればライヴが始まる前に対処したいわね』
「そう、ですね」
 拓海とメリッサと別れ、ナイチンゲールは墓場鳥と共に少し歩いた。と、不意に聞き慣れた声がする。日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)だ。
「ロックフェスティバルは初めてだな」
『私もだよー! ……あ、小夜!』
 ナイチンゲールに気づいたのか、あけびが駆け寄ってくる。
『ねえ、小夜達はロックフェスティバルに来た事ある?』
 興味深そうに問うてくるあけびに、ナイチンゲールは困ったように笑った。
「私は……日本で一度だけね」
 瞬間、ナイチンゲールの脳裏にサマーフェスの予選会場の光景が浮かぶ。
(やりたいことじゃないって気づいて……合格後に辞退しちゃったんだけどね……)
「愚神が来るかもしれないってのにフェスを諦めたくなかったってのがな……まぁここまで大きなイベントだと中止は困難か」
 思い思いのバンドのTシャツを着て、はしゃぐ老若男女に仙寿は肩をすくめた。
(だけどタチアナはこんなイベントまで始めちゃったんだ。なんて、素敵な情熱だろう。彼女は信じてるんだ、音楽の力を)
 ぎゅ、とナイチンゲールは手を握る。
「私達で守ろう」
 彼女の言葉に仙寿は居住まいを正した。
「……そうだな。ここにいる奴等の情熱ごと守ってやるとするか」


●貴方は誰を見に行きますか?
「はい、こちらフリーパスです! 楽しんで下さいね! あ、アンケートをお願いします!」
 スタッフに紛れ、来場者にフリーパスを渡しながら紫 征四郎(aa0076)は集客数の手がかりを集めていた。回収したアンケートをガルー・A・A(aa0076hero001)は眺める。
『今のところ、ブラッククライシスとイノセンスブルーが同数……ピンクシナモンがちと、少ないな』
「不思議ですね」
 ガルーに返事をしつつ、征四郎はまた別の客からアンケートを受け取る。そこには【イノセンスブルー】と書いてあった。
「あの、すいません。何でイノセンスブルーなのですか?」
 征四郎の問いに客が口を開く。
「だってブラッククライシスはこの後ツアーがあるし。……ピンクシナモンは、もう、三人じゃないから……」
 客の言葉に征四郎は目を丸くした。
「そういうことも、あるのですか」
『あるさ。人っていうのは、な』

 その頃。
 木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)、海神 藍(aa2518)とサーフィ アズリエル(aa2518hero002)は、フェス会場全体が見渡せるビル――かつてここにあった工場の一部――の屋上に居た。
「見えなくても伝わる熱気、って感じかなぁ。いいねいいね!」
『……ライブは色々人の感覚を狂わせるからな』
「よーし、後でお兄さん、物販でブラッククライシスのグッズ、買い占めるぞ!」
『……こんな感じで、主に金銭感覚とか』
 入場開始と同時に起動させたモスケールをオリヴィエは確認する。ここに来る前、裏口で微かだが愚神の反応を捉えることが出来た。けれどそれきりだ。
 相手は上手く、人の中に紛れ込んでしまったらしい。
「一番動員数が多いステージか……難題ですね、リュカさん」
「そうだねえ」
『日本だったら、物販の流れも、参考に出来るのにな』
 困ったような三人に、サーフィがふふふと不敵に笑う。
『にいさま、こういったフェスには複数のグループが出演されますので、グループのファンと、それ以外の動きを考えてみる必要がありましょう』
 ビルの上からフェス会場を改めて見下ろし、サーフィは続ける。
『ブラッククライシス様は固定のファンも多いでしょうが、ツアーも控えております。……ファンの皆様のお財布は厳しく、その動員はさほどでもないかと。ピンクシナモン様とイノセンスブルー様はどちらもファンには目の離せない話題を引っ提げての登場です。そうなると、それ以外の観客の注目度を考える必要があるかと。……難しいところでございますね』
「そうなんだ、凄いねサーフィちゃん!」
「なるほど……ところでサフィ」
 感心するリュカとは対照的に藍はまじまじとサーフィを見る。
「なんでそうロックに詳しいの?」
『秘密です』
 静かにサーフィは笑う。と、オリヴィエのライヴス通信機が鳴った。
『ああ、拓海』
【会場での聞き込みとせいちゃんのアンケート結果を統合すると、どうやらイノセンスブルーが一番動員数が多そうだよ】
『荒木様、その根拠は何ですか?』
【その声はサーフィさん。えっと、どうやらピンクシナモンに新メンバー加入がマイナスに響いてるみたいだよ。あと、やっぱり新曲発表は強い動機になるみたいで】
『メンバーチェンジ……それは時として、毒にも薬にもなるのでございます』
「……サフィ?」
「よし、目標は決まったね」
 リュカが落ち着いた、低い声で言う。金木犀と夕焼けのファイアオパールの腕輪に触れて、オリヴィエと共鳴した。
 透明な蝶の羽に包まれ、彼の姿は変化する。
 金木犀の様な赤金色の瞳に強い光が宿った。
『守り切ろう』
 
 

●愚神、奏でるは何の音ぞ
 イノセンスブルーのライヴ開始五分前。
 星空の下、色鮮やかなライトに照らされたステージにはギター、ドラム、ベースが置かれている。メンバーがこれから立つと思われる位置には幾つかのペットボトルが置かれていた。そのペットボトルを見て、ファンの少女が言う。ケイくんはルイボスティーを飲むんだよね! そんな呟きはライヴが始まる直前の人々のざわめきにすぐに消えていく。
 ステージの前には柵が置かれており、それを倒してしまいかねそうな勢いで、大勢のファンが押し寄せていた。イノセンスブルーのTシャツ、リストバンド。
 青に染められた人々。
 その凄まじい熱量の中に、サーフィと藍、ナイチンゲールと墓場鳥は居た。わりと柵の近く。何かあればすぐに飛び出せる距離に。
「凄い人」
『そうだな。……グィネヴィア』
「うん」
 本名を静かに呼ばれ、ナイチンゲールは幻想蝶を掌に載せた。その上に墓場鳥が手を重ねる。観客の誰一人、彼女達の共鳴には気づかない。興奮はとっくに人々を頭の先からつま先までを支配していた。赤みが増した髪を揺らし、やや緑がかった青の瞳で、ナイチンゲールは周囲を見渡した。
『……あ、始まりますよ!』
 ステージの両脇に置かれたスピーカーから、低音を全面に押し出した曲が流れだす。藍は懐中時計を確認した。午後七時半。
 不意に、割れんばかりの歓声がその場を包み込む。メンバーがステージの上に現れたのだ。ボーカルの城之内ケイがマイクを掴む。ギター音が響いて。
『これは……あの曲ですね! イノセンスブルーのデビュー曲……”ゆめ夢、君に溺れる”!』
 ベースの響に、ギターの音とドラムの音が絡み合う。ケイが口を開いた。
【あれは真夏の夜。僕は公園に居た。何をするでもなく、ああごめん間違えた。ただ。そう、ただ蝉を眺めてた。やっと地上に出られて、喜び鳴く蝉をただ見ていた】
 ケイの歌声にサーフィが聴き入っている。それを見て、藍はあれ、と思った。
(この子、ライヴに来たかっただけでは……?)
【捕まえようとしたんだ蝉を。でも逃げられて、そこを君に見られていた。何してるの? 少しけだるげに声をかけられた】
 熱い演奏が続いていく。
 そのステージ脇に征四郎とガルー、オリヴィエは居た。征四郎が胸元につけている、金と薄桃を往来するアレキサンドライトのブローチにガルーが触れる。イノセンスブルーの青とはまた違う、青の蝶が二人の周りを舞った。
『……さてさて』
 征四郎との共鳴を終えたガルーは目を細め、ステージを見守る。
 反対側では、メリッサと共鳴した拓海が同じように待機していた。すらりとした女性の銀の鎧をまとったその姿で、拓海はステージ上の彼らと、観客達に目を向けていた。
「今のところ、妙な人は居なさそうだね」
 ――このまま、何も起こらなければいいのだけれど。
 一方、少し後方に仙寿とあけびは居た。そこからではステージは確かに遠い。けれど、空気を包む熱を味わうのであれば、ここの方が良い。周りに充てられたのか、あけびが落ち着かない様子で前を見ている。しかしすぐに仙寿を仰ぎ見た。彼が持つ蝶の模様が入った紫の宝石に触れた。控え目だが実に美しい朱色の蝶の羽が広がり、そして二人は共鳴した。
 ひらり。
 背中の大翼の幻影から羽根が舞い散った。
 曲が終わるごとに、拍手と歓声が沸き起こる。二、三曲終わったところで、一回ステージが暗くなった。メンバーの姿と次の音を待ちわびる観客の声。ステージに明かりがついた。
【皆、ありがとう! じゃあ次は……新曲を!】
 一層激しさを増す歓声。
 藍は懐中時計を今一度見た。
 午後、八時。
 MCを続けるケイの側に、次の曲に使うのか、帽子を目深に被ったスタッフがギターを持ってやってきた。そしてまた別のスタッフがベースを持ってきて。
【それじゃあ、聞いて下さい! 僕達の新曲、”箱庭の】
 は、とガルーは気づいた。
 スタッフの周り、空気が動いている。
『っ、そこか!』
 ガルーはステージに飛び出した。強い風が巻き上がった瞬間、ケイをカバーリングする。突然のことに、観客達に動揺が走った。
「サフィ!」
『はい、にいさま!』
 懐中時計のチェーンにつけたラブラドライト――月、太陽を象徴すると言われる――らしき幻想蝶に触れあう。蝶のような光が舞い、二人は重なる。色あせた黒髪の、祭服のような衣装をまとった少年の姿。紺色の瞳がまっすぐ、前を見る。即座にジャングルライナーを使用し、ステージ上のドラムにマーカーをセットする。即座に、飛んだ。ナイチンゲールもまた、守るべき誓いを発動させる。
「照明を落としてくれ!」
 拓海の声にスタッフが応じる。ステージを照らす照明が落ち、観客の足元で静かに誘導灯が煌めく。これは誤魔化せないだろうと思ったのが、ケイがマイクで観客に語り掛けた。
【ごめん皆! 電気系統のトラブルみたい。復旧まで時間がかかりそうだから、フードコートでゆっくりしてて! ああ、転ばないようにね!】
 ケイの言葉に、観客が従う。スタッフと警察が彼らを的確に誘導していった。ケイたちバンドメンバーもまた、この場から離れていく。仙寿はゆっくりと潜伏を開始した。
「おやおや、兄者。気づかれたようだ」
「そうだな弟よ」
「観客のライヴスを一息に奪ってやろうと思ったが」
「大勢の人が血を吐き、虚ろとなり倒れ行く様は、なんとも美しく残酷であったろうに。……楽しみはこいつらを蹴散らしてからにしよう、弟よ」
「ああ、兄者」
 二人が帽子を落とす。
 その目は金色と銀色。
「お初にお目にかかる。俺の名はイズー!」
 銀の目の男が名乗る。
「俺の名はルッソロ」
 金の目の男が不敵に笑う。何もない芝生を指さして、そこを爆発させた。その様子に、攻撃の対象が光源でないことをガルー達は知る。
「俺たち二人、肩を並べて戦えばどんな状況でも勝てる! さあ、楽しもうじゃないか、H.O.P.E.のエージェントよ!」
『……そうだな、楽しいフェスの幕開けだ』
 オリヴィエはLSRを構え、イズーに狙いを定めた。暗視鏡のおかげで暗闇は彼の前では無意味だ。味方が周囲に居るのを確認して、ガルーはライトアイを使用する。
「俺たちを遠くから攻撃できるとでも?」
 ルッソロがオリヴィエを指さす。足元の土が盛り上がってくるのを感じ、オリヴィエは急いでその場を離れた。次の瞬間、彼が居たその場所が爆発する。
「お前たちは何でそんなことを? 認められたいのなら、他の手もあるだろう?」
 二人に問いかけながら、拓海は人が憑依されている可能性を探る。そんな拓海を二人は嘲笑した。
「何故? 愚問だな。俺達はしたいことをする。それだけのことだ」
 ――人が憑依されている形跡はあるけれど……あれは、無理ね。
 ライヴスの中から響いてくるメリッサの声に、拓海は唇を噛んだ。
 ルッソロがナイチンゲールに指を向ける。すぐに彼女は跳躍した。
「どうしたの? 私を殺らないと始まんないよ。あなた達のフェスは」
 素早く動き回り、ナイチンゲールはルッソロの攻撃を避ける。ルッソロの指はひたすらに彼女を追い続けた。相手に気づかれないようにナイチンゲールは仙寿の位置を確認する。大分近くに、居る。
「折角フェスのステージに上がったんだ、もっとロックに行こうじゃないか」
 藍がイズーに攻撃を仕掛ける。ルッソロが、彼を指さすことはなかった。代わりにイズーが巻き起こした風に藍は吹き飛ばされる。その様子を見て、ガルーはある仮説を立てた。
『もしかしたら、あの爆発は近いところには起こせないのかもしれねぇな』
『……なるほど、な。そうして近づいたら、風で吹き飛ばす、と。……あとは』
 オリヴィエはダンシングバレッドを放った。
「そのような弾で俺を傷つけられるとでも?」
 イズーが風を巻き起こす。その風にオリヴィエの弾丸は弾き飛ばされた。これで終わったと過信したのか、イズーが風を止める。そこを狙って弾丸が彼の肩を射抜いた。
「っ! こ、の!」
『意識外からの、攻撃は可能、か』
「……それなら!」
 ナイチンゲールはイズーに近づいた。
「決めて!」
 その一言に仙寿が応える。ルッソロに急接近し、ザ・キラーを放った。
「なっ?」
 突然のことにルッソロもイズーも反応できなかった。
 仙寿の刃が、ルッソロの腕を深々と切り裂く。
《それでもう、何処も指させないな》
 仙寿に続き、拓海がストレートブロウをルッソロに放つ。
 兄弟は引き離された。
「まずい!」
「兄者!」
 再度近づこうとする二人に向け、オリヴィエが威嚇射撃を行う。ガルーも剣を振って、それを援護した。
「もう一度!」
 拓海は再度、ルッソロにストレートブロウを決めた。二人は完全に引きはがされる。
《これで終わりとしよう》
 二発目のザ・キラーがルッソロを貫く。かは、と血を吐いて、ルッソロは事切れる。
「兄者!」
「余所見厳禁、だよ!」
「冥土の土産に、この言葉を贈ろう。”常識は破っても構わないが、非常識であってはならない”」
 ナイチンゲールと藍が同時にイズーに攻撃を仕掛ける。イズーは風を起こそうとしたが、別々の方向からの攻撃に上手く対応できなかった。藍が疾風怒濤を決める。よろけたイズーに、ナイチンゲールがとどめの一撃を放った。
 濁った、醜い声を上げてイズーもまた兄と同じように絶命した。


●ラストステージ!
【皆、トラブルがあってごめんねー! お詫びじゃないけど、最後はこのステージで出演者全員! 一緒に楽しもう!】
 ステージに上がったタチアナの叫びに観客が応じる。彼女のバンド、オッテン・トッテンの音楽が会場のボルテージを上げていく。
【諦めることは諦めた! この両手、全てはそう、夢を掴むために!】
「タチアナさーん! おめでとう!」
「おめでとうございます!」
 ステージで最高の表情を見せるタチアナに拓海と藍は手を振った。タチアナが応えるようにギターを鳴らす。もう一曲! と彼女は叫んだ。
【もし君が 君以外の人が 君がやることに口をはさんだりしても 歩みを止めることはない!】
 タチアナの曲を聞きながら、ナイチンゲールは側に居る仙寿とあけびに問いかけた。
「二人はロックって好き?」
 私は嗜むくらい、なんだけど。
 ナイチンゲールの問いに、仙寿は笑って。
「実はあまり聞いた事が無いんだ。クラシック位で……けど良い曲だと思う」
 仙寿の言葉にあけびが元気よく頷く。
『私もそんな感じ! ロックって楽しいね!』
 曲に合わせ、あけびは体を動かす。
『…ロック、か』
 悪くない、と墓場鳥は呟く。その呟きを聞いたかどうかは分からないが、墓場鳥を見て、あけびは微笑んだ。
(墓場鳥さんも楽しそう!)
 曲を終えたタチアナが盛大な拍手を受けて、ステージを降りる。その様を見ていたサーフィは、うっとりと溜息をついた。
『やはりギターはいいですね。是非一度、やってみたいものです。……そして、へし折ったり、火を付けたりするのです』
「……それギターを破壊するパフォーマンスじゃないか、危ないからやめなさい」
『にいさまはサーフィのこのロック魂が分からないのですかっ?』
「ああほら、ピンクシナモンだよ」
『は! 見なくては!』
 サーフィがステージを向く。四人体制となった彼女たちが可愛らしい電子音と共に演奏を開始した。
「女の子の、バンド……」
 ステージから少し離れた場所で征四郎はうっとりと、彼女たちを見つめる。キラキラと眩しい。だから遠くで見るので十分――。
『征四郎、せっかくだ。一番前に、行こう』
「え、オリヴィエ? 待って、待ってください!」
 熱気あふれる観衆の中へ、二人は入っていく。
『いいか、根性だ。やればできる、多分』
【恋する君へ! 素直になろう。言わなきゃ何も伝わらない。言葉にできない? それならほら、笑って笑って。笑顔で伝えるんだ、君の好きな人に!】
 ステージに向かう二人を見送り、ガルーは立飲みテーブルで何かを飲んでいるリュカに近づいた。
『げ、ウォトカじゃん。飲み過ぎげんきーん』
「別にいいでしょーこういう時は飲まないと!」
『ま、それもそうだな』
 グラスを受け取り、ガルーはリュカと乾杯する。そうしていると、ブラッククライシスがステージに立った。音域が全く異なる二つのギターの音が重なりあう。そこに加わるのは、激しさの中にも切なさを感じさせるドラムの音。シンバルが鳴り響く。バスドラムが聴く者の胸を打つ。
【一つ、二つ、三つ、数える これが俺達の始まりの合唱。目を閉じれば沈んでいく。沈んだ未来。そこには何もない。歌え、歌え、その生命が続く限り】
 煽られた観客が一斉に声を上げる。そこに自分の声もしっかりと乗せて、拓海は言った。
「やっぱりブラッククライシスはかっこいいなぁ」
『そうね』
 楽しむ拓海にメリッサは柔らかな眼差しを向ける。
「あとで楽屋行けたら、握手と……あと帽子にサイン。親父に贈りたい」
『いい考えね。それなら私も、ピンクシナモンに声をかけようかしら。さっきの曲、とてもよかったって』
【二人が揺れたメリーゴーラウンド。今はない遊園地。思い出の場所。約束の場所。――今、お前は何を見ている?】
 ブラッククライシスのデビュー曲”雨の遊園地”にリュカは耳を傾けた。
「歳とるとメジャー処から離れがたくなるものなのさ。……変化が怖いだけかもしれないけどね」
 ウォトカを一口、二口と飲むリュカ。空になったグラスに、ウォトカをとくとくと注いでやり、ガルーは口を開いた。
『でも、新しい歌も悪くねぇだろ』
「そうだね……これを機に、開拓でもしようかなっ。まずはイノセンスブルーの新曲から……!」
 ブラッククライシスがステージを去り、イノセンスブルーがステージに立つ。歓声と興奮は、最高潮に達していた。
【それじゃあ今度こそ! ……聞いて下さい! 僕達の新曲、”箱庭の花嫁”!】


 閉幕後。
 ナイチンゲールと墓場鳥、仙寿とあけびはタチアナに挨拶をしようと本部のテントを訪れた。
「ああエージェントさん。今回はありがとう。機材にもほとんど損傷がなかったよ」
「タチアナさん。また生の音聴かせてくださいね。応援してますから」
 ナイチンゲールの言葉に、タチアナが笑う。
 それは情熱が宿る至高の表情。
「今度ライヴやる時、チケット送らせてもらうよ!」
「はい、是非」
『あ、はいはい、私にも!』
「もちろん!」
 あけびにも、タチアナは頷く。そこへ、ケイがやってきた。
「皆さん。今回はありがとうございます」
「お礼を言う為にわざわざ来たのか?」
 仙寿の問いに、ケイははい、と返事をする。
「後、純くんに伝言を。”本当に助かったよ。今度サンクトペテルブルクにツアーで行くから、その時ご飯行こう”って」
『純くん……ああ、西原純のことか。分かった、伝えておこう』
 墓場鳥にケイは墓場鳥に頭を下げた。
「お願いします」


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 難局を覆す者
    サーフィ アズリエルaa2518hero002
    英雄|18才|女性|ドレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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