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騒がしい遺跡探検
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/10/29 19:56:04 -
トレジャーハント
最終発言2015/10/31 18:33:46
オープニング
●陽気な二人組
舗装された道路を二人組の男が歩いていた。どちらも邪魔にならない程度に装備をしている。
「よぉっし! 今日はどこに行こうか!」
「昨日は郊外にある洞窟だったな! コウモリがうじゃうじゃしてて鬱陶しかったな!」
「そうだな! 今日は洞窟以外に行こう!」
彼らは賑わっている通りをそれ以上の賑やかさで通り過ぎていく。
時々迷惑そうな顔で彼らを睨む人もいたがそんなことは関係ない。彼らにとっては暖簾に腕押し、糠に釘だ。
彼らは笑顔を振りまく。心底楽しそうな彼らに1人の老婆が近づいた。
「そこのおふたりさん。見たところ冒険家か何かかい?」
「おう! よくぞ聞いてくれた! 俺たちこそ!」
「将来大冒険家になる男! クルーと!」
「マヨーだ!」
往来だというのに、大きな声でポーズを決める二人組。老婆はあきれたような顔をした後で口を開いた。
「耳寄りな情報があるんだがねえ……聞きたいかい?」
「耳寄りな情報だと!」
「もちろん聞きたいとも!」
「そうかいそうかい。これは私も風の噂で聞いたんだがねえ――」
●
「頼む! この通りだ!」
「一緒に来てくれないか!」
時刻は昼を少し過ぎたころ。リンカーは少し困惑していた。
何か依頼はないかと思い立ち寄ったカウンターで困っていた二人組を助けてからずっとこの調子だ。
依頼のようだが……HOPEを通していない依頼を受けるのには少し抵抗がある。
「報酬ならしっかり払う! 頼む!」
「俺たちだけじゃあんなところ攻略できやしないんだ!」
この通り! と頭を下げて叫ぶ二人組。ただでさえ大きな声を出しているせいで目立っているのに頭まで下げられては完全に悪目立ちだ。リンカーはどこへ行けばいいのかと彼らに尋ねた。
「う、うむ。ここから少し離れた山にある遺跡だ!」
「俺たちも聞いた話なんだが、あそこには英雄が残したアイテムがあるらしいんだ!」
「ぜひとも見てみたくてな! 別にほしいわけではないから終わった後は君らで山分けしてもらっても構わない!」
英雄が残したアイテム……そんなものが存在するのだろうか? そんなものがあったらもっと話題になっていそうなものだが。正直きな臭い。
遺跡には何か出るのか? とリンカーは聞いた。
「ああ! 恐ろしい化け物だ!」
「石みたいに固いかと思えば急に柔らかくなりやがる! どう対処すればいいかわからねえ!」
「あとは罠だな! 落とし穴なんかの罠がいくつかあるみたいだ! スイッチ式なんだろうが、正直どれがスイッチなのか全く見当がつかねえ!」
「ただの段差かと思って登ろうとしたらいきなり落とされたしな! 匂いがなかなか取れなくてきつかった!」
なるほど、相応に危険な場所らしい。
だがここまで聞いておきながら必死に頼む二人組の願いを断るのも少し心苦しい。
リンカーは彼らに依頼を受けることを告げた。
解説
このシナリオは陽気な二人組を護衛しつつ、遺跡を攻略するシナリオです。
陽気な二人組はどちらも冒険家見習いで身体能力は高いですが戦闘能力はありません。また少し考えが足りないのか放っておくとすぐに罠を発動したり、遺跡を守る従魔に見つかります。注意して守りましょう。
▼登場キャラ
クルー
ベテランのような風貌の男。方向音痴。
ナイフを装備してはいるが戦闘ではほとんど役にたたない。
マヨー
クルーに振り回されているうちにクルーのようになってしまった優男。
やや天然気味。
▼敵
ガーゴイル
ライオンのような体に鳥のような頭と翼を持った生き物をかたどった彫刻。
ミーレス級従魔がとり憑いており、侵入者を迎撃する役目を持つ。
体は硬い。しかし打撃で対応しようとすると粘土のように柔らかくなる。
ゴーレム
太い腕に太い脚。大きな体の巨像。
ミーレス級従魔が複数体憑いて動かしている。
そのせいか動きは鈍く、歩くことが困難である。
ガーゴイル同様非常に硬いが、打撃に弱い。
▼遺跡
英雄の残したアイテム? の残っている遺跡。
森の中にあるためか外見は少しひび割れている箇所が多い。
内部は一層構造で、全体の広さはおおよそ3万㎡ほどです。
ゴーレムの部屋はおおよそ300平方メートル、高さ10mです。
それ以外は高さ6m、幅6mほどの通路で構成されています。
通路はレンガで構成されており、時々段差などがあります。
落とし穴の先は肥溜めなので危険はありません。
リプレイ
●遺跡内部
「中は思った以上に単純な構造なんですね。それに、想像より少し広いです」
「落とし穴はこういう仕掛けで作動するんですね……」
九字原 昂(aa0919)は注意深く壁や床を見ながら自らの意見を口にした。普段は優しげな眼差しは集中のためか常より幾分か鋭い。斥候として前に出て罠を警戒しているためだ。時折やや長めの棒きれで突いては罠を発動させている。ついて来ている能力者たちはそれを回避して進んだ。
水瀬 雨月(aa0801)は昂の作動させた罠とその仕掛けを手にした紙に書きこんでいく。そこには既にいくつか書き込まれていた。その種類はあまり多くなく、落とし穴と上から水が降ってくるといったものだけで、まるでいたずらのようであった。
「うおお! また罠か!」
「今度は落とし穴か! ううむ、こうして回避できるのはいいな!」
クルーとマヨーはうんうんと頷きながら後をついて行く。その表情は実に明るく、気分はかなり浮ついていた。それこそ、時々前に出過ぎて他の能力者たちに引っ張られて戻されるくらいに。
ハーメル(aa0958)はその間も罠を警戒して地面を見ている。地面の煉瓦のわずかな違いも見逃さないといった気合が感じられた。帽子を抑えながらひたすら下を見続ける様は、どこか可笑しく見えなくもない。よっぽど落とし穴を警戒しているようだった。
「んー、なかなか敵は出て来ないね。バックアタックを警戒して殿を進み出たけど、ここまで出ないと拍子抜けだね」
羽々姫(aa0048)はつまらないといった風で、警戒は怠っていないもののもう暫くしたら欠伸でもするのではないかといった感じだ。護衛としてはいささか気の抜けているところがあるように思うが、実際遺跡内はいたずら程度の罠がいくつかあるだけで、中々クルーとマヨーの言っていた"化け物"には遭遇しない。多少気が抜けてしまうのも仕方がないだろう。
「よっし、いっくぞー!」
「ガンガン行こう!」
クルーとマヨーは非常に元気だ。薄い警戒心のままどんどん進んでいく。
能力者たちは彼らが暴走しないように目を光らせていながら、彼らの前に立ち後ろに立ち前へと進んでいった。
●クルーとマヨー
クルーとマヨーという男性はお調子者である。故に話をさせれば行動を封じることができる。
志賀谷 京子(aa0150)はクルーとマヨーにひっきりなしに話題を投げかけ、できる限り余計なことをさせないようにしていた。
「そういえば、これで10個目の遺跡なんだよね? 今までの探検での武勇伝、聞きたいなあ」
「俺たちの武勇伝? そうだなあマヨー。例えばだけど俺たちが挑んだ3つ目の遺跡はやばかったな! あそこも罠だらけでな――」
「ああ、といってもここみたいに落とし穴じゃなくて飛び道具がバンバン飛んでくる感じだったけど! 槍とかナイフとか、あとはハンドアックスも飛んできたな! 避けるのは大変だったよ!」
「奥にあったお宝は簡単に頂いたけどな!」
「さすがですね。すごいです。それで他にはどんな冒険があったのですか?」
「そうだな――」
京子はうまい具合にクルーとマヨーから話を聞きだしていく。その話に相槌を打つ彼女の姿に気を良くしたクルーとマヨーはさらに話をする。京子は他の仲間と協力して道を誘導しながら、気をそらしていく。
「やるもんですねえ。僕はあそこまでうまく話は聞きだせないですよ」
「僕もあなたに同意です。普段はインドアばかりですから、話すことは苦手ではないですけどあそこまでうまくはできなさそうです」
三ッ也 槻右(aa1163)と昂は苦笑を漏らす。京子のその会話力の高さは、そう簡単には真似できなさそうだと感じていた。彼女の存在がクルーとマヨーと言う2人の護衛が非常にやりやすい。昂とハーメルは罠の警戒に意識を割くことができるし、雨月と羽々姫、槻右の3人は従魔の襲撃を警戒することができる。
「――っと、敵襲ですね。クルーさん、マヨーさん。私たちの傍を離れないでくださいね? 大丈夫です、私たちが必ず守りますので」
「私も行きますね」
不意に物陰から現れた2体の従魔。ライオンのような体に鳥のような頭と翼を持った生き物をかたどった彫刻の姿をしており、あからさまに打撃に弱そうである。だが事前の情報からそう容易に倒せる相手ではないとわかっている。
京子と雨月が率先して攻撃を仕掛ける。彼女らは本と杖をそれぞれ構え、魔法攻撃を行う。従魔は物理攻撃に対応するつもりでいたのか飛んできた攻撃に反応しなかった。攻撃が直撃し、従魔の体が揺らぐ。その間に近づいた昂とハーメル、槻右が接近戦を挑んでいく。最初の魔法攻撃に次は魔法防御を行おうとしていた従魔らはすぐさま反応することはできずやられていく。
遭遇から数分ともたず、従魔は全滅していた。
「よし、敵影はなし。罠もなさそうですし、行きましょうか」
「先を急ぎましょう」
従魔を倒し終えた後、ハーメルが状況確認をする。
敵影がないことを確認した後、斥候を務める昂とハーメルの先導で彼らは先を急いだ。
●遺跡の番人
「ん? あれ、おかしいですね」
それなりに奥まで進んで来た彼らは、不意にその足を止めた。
最初に異変に気が付いたのは槻右だった。その部屋は非常に広いが、そのどこにも従魔の姿が確認できない。聞いていた話によると、ゴーレムがいたはずなんだが――。
「あれれ? ガセ情報……だったのかな?」
「だったらいいんだけどな。さっさとお宝あるかどうか確認するだけして終わらせればいいんじゃないか?」
ハーメルは首をかしげる。羽々姫は敵がいないからか少し気を緩め、歩を進めようとした。
他の能力者たちも先へ進もうとする。
だがふと、誰でもなく全員が少しの違和感を感じた。
ここに入ってから、足元がただの煉瓦ではなく少し古びた煉瓦になっていた。それだけなら問題はないが、どこか無機質ではない感覚がする。
能力者たちは勘に導かれるままにその場を飛び退いた。クルーとマヨーは遅れそうになるが、京子と槻右が腕をつかんで引っ張って動かした。直後床が強く振動する。先ほどまで立っていた床が大きく盛り上がり、やがて人型を為した。
「あら、そんなところに潜んでいたのね。まるで油断した瞬間を攻撃しようとしていたみたい」
「罠、ですか。薄々そんな気はしていたけど……」
特に驚くことなく淡々と述べる雨月と、ため息を吐きながらも楽しそうな京子の姿がやけに対照的であった。槻右はジャケットの裾を正し、前を見た。
「ふう……。さて、クルーさん。ここからの護衛は僕が行います。補助はしますので、攻撃に参加して下さい」
「お、おおおおう!」
「あ、でも。逃げ出したりなどは阻止しますので悪しからず」
指示を出した槻右と、それを聞いて焦るクルー。クルー自身は殆ど大したことはできない。
京子はさりげなくマヨーの傍により、護衛を務めている。
「よっし、それじゃあいくよ!」
羽々姫は前に飛び出した。続いてハーメルもゴーレムの前に躍り出る。雨月は適度に距離を取りながらゴーレムへと接近していった。
「う、おおおおおおおおおおお!?」
クルーは必死で避け続けていた。時折避けきれずに槻右に引っ張られたりしながら回避を続ける。
槻右は避けきれていないときはクルーを助け、攻撃が来ないように守りながらも時折攻撃を加えることで戦いに貢献する。
「クルーさん、左です! 避けて攻撃してください!」
「うええええいッ! ぬおおおおおう!?」
クルーはなんとか避け、攻撃を続けていく。大した能力があるわけでもないクルーはダメージを与えることはできないが、見ようによっては見事に戦っているようであった。
「……よし」
槻右はそれを見て小さくガッツポーズをした。
「よし、関節への攻撃は有効みたいですね」
昂は戦場を見渡しながら、口を開いた。出現した従魔――ゴーレムは複数の従魔の集合体であり、腕や脚など独立しているようだった。しかも、コンビネーションはあまり上手くないらしく動きは鈍い。そこに勝機はある。
先ほど京子と雨月が同時に狙い撃った右腕の関節は、その攻撃で破壊され鈍かった動きが更に鈍くなる。それによって関節への攻撃が有効であることがわかった。
「それでは攻めましょうか。徹底的に」
目前では羽々姫とハーメルの両名が果敢に攻め立て、その近くではクルーがやっとという感じで戦っている。槻右はサポートに努めているようだ。そこへ昂も参加する。
多数の相手を同時に敵にしたゴーレムは、動きが鈍いために翻弄され続ける。そこに昂の分身が迫っり、さらなる狼狽を与える。羽々姫は強力な一撃を与え、的確にダメージを蓄積していく。防御を捨て攻撃に特化した状態であるからかその一撃は非常に重く、ゴーレムの体には無数の亀裂が生まれていた。
ハーメルは武器を切り替えながら攻撃する。攻撃スキルを持たない彼ではあったが、仲間と連携を取り攻撃を続ける。時折下がり射線を確保すると、そこに雨月による魔法攻撃が飛んでくる。戦列に隙が生じたかと思うとそこに京子による援護射撃が叩き込まれた。
●お宝の正体
攻防が幾度となく繰り返される。やがて剣戟と銃声が収まると、ボロボロになり崩れ落ちかけた土塊が残った。能力者たちは多少の傷を負っているものの、全員が立っていた。
クルーとマヨーは興奮を隠すことなく騒ぎ出す。
「うおおおおおお、勝ったー! さすがは能力者だな! 強い!」
「これで踏破か! それじゃあ早速お宝を――」
そう言って一歩進んだ彼らは、ぴたりと足を止めた。
「ん? 他に道なんてないぞ?」
「なんだって?」
間違いなく最奥である部屋には、今入ってきた入口以外の扉が存在していなかった。
宝がありそうな場所も見当たらない。
「なるほど。従魔共が張った大がかりな罠ということですか。その割には道中の罠があまりに少なかったうえに、敵もあまりいませんでしたけど」
「肥溜めは勘弁だけどね。回避できたからいいけど」
「ふう。まあ、攻略完了ですし、帰りましょうか」
雨月がこれまでの情報から最もあり得そうな結論を口にする。ハーメルと昂はそれを踏まえたうえでそれぞれの感想を述べた。
羽々姫もこれで本当に終わりとわかると小さく伸びをする。
「帰りも罠がありますし、油断は大敵ですね」
「ううむ、宝がなかったのは残念だが、戦いは楽しかったな! マヨー!」
「おう! いつか英雄と契約して能力者として戦うのも悪くないかもしれないな!」
槻右はとりあえず気を引き締める。最後の最後で肥溜めに突っ込むのは勘弁願いたかった。
クルーとマヨーは宝がなかったことを少々残念がるが、すぐに戦いの興奮でそれも忘れる。実に単純な2人組である。
「これで一件落着……なのね」
京子は小さく息を吐いた。
騒がしい遺跡探検はこうして幕を下ろした。