本部

【愚神共宴】連動シナリオ

【共宴】Commonwealth

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/03/30 18:21

掲示板

オープニング

●アルター社にて
「今日、ケントゥリオ級愚神一体を中心とする集団が街を襲撃する」
 ある日、大量の議事録に目を通しながら、ヘイシズは淡々と言った。彼のデスクの前には、四人の愚神が立っている。洋装に身を包んだ狼頭の獣人達は、気を付けの姿勢を保ったまま、微動だにしない。
「君達がH.O.P.E.と協力してこれを討て。私も顔を見せたいところだが、これから一日中各所で会議だ。とても向かえる状態ではない」
 冷然とした声色。羽虫が煩いから殺して来いとでも言いたげだ。いきなりの命令に、狼達はちらりと顔を見合わせた。ヘイシズはそれを一瞥し、狼達に尋ねる。
「何か問題でもあるのか」
 有無を言わせぬ鋭さを語気に秘めている。狼はしばしまごまごしていたが、やがて一人が思い切って尋ねた。
「あの」
「何かな」
「……彼らも、我々に与するという事は無いのですか」
 狼の問いかけに、ヘイシズは眉間に皺寄せ、金色の眼を淡く輝かせる。
「無いだろう。そもそも、既に彼らは何度も徒党を組んで略奪を試みている。いわばテロリストのようなものだ。そんなものを赦しても、誰も納得はしない」
 ヘイシズは書類を机の上に投げ出すと、机の端に並べられた砂時計の一つを手に取った。太陽の光を受けて、砂時計のフレームと砂が銀色に輝く。
「君達もだ。我々と彼らとの間に構築されつつある共通善に叛くなら、私が何故“神算”の異名を取るか、その身を以て知ることになるだろう。……さあ、行きたまえ」
 ヘイシズは砂時計をひっくり返す。

 銀色の砂が、天の川のようにさらさらと下へ流れていく。

●ブリーフィング
「今回の任務は街の襲撃を行おうとしている愚神従魔の一団を撃破する事です」
 オペレーターはプロジェクターを操作し、スクリーンに地図を映し出す。街の北東から、鶴翼状に広く展開するような形で敵影が描画され始めた。
「今回出現すると思われるのは、ケントゥリオ級愚神が一体、デクリオ級愚神が五体、ミーレス級従魔が二十体と考えられています。数か月前の初出現時に一集落を破壊して以来、近辺を荒し回っていた愚神であり、最近は我々と衝突、撤退を繰り返してきました。今回は全勢力を投入しての攻撃と予想されるので、今回で討伐してしまいたいと考えています」
 そうオペレーターが言う間に、映像はこれまでの戦いへと移り変わる。街の周縁を舞台に、エージェントと草刈り鎌を持った人型の愚神が斬った張ったを繰り返している。
「また、アルター社のヘイシズから、部下の愚神を派遣するとの申し出が来ています」
 オペレーターの言葉に、君達の間に緊張が走る。悪性愚神を討つという彼の申し出に、忠実に則った行動だ。しかし、彼が何を思い行動しているかは未だ定かではない。オペレーターも君達を見渡し、控えめに言葉を続ける。
「彼の本意を確かめるためにもこの申し出は受けるべきと考えますが、これについては現場へ向かわれる皆さんの意思を尊重したいと考えています。拒否する場合は報告してください」

「愚神達のデータはこの後送ります。くれぐれも重体状態に陥らないよう気を付けてください」

●ポストヴォジャッグを討ち切れ
「FOOOOOOO!」
 甲高い叫びを上げながら、モヒカンやらギザギザノースリーブやらに身を包んだイカれた愚神六人が、ハイエナを巨大化させたような従魔に跨り突進する。その手には草刈り鎌やら、マトックやら、おおよそまともに武器と言える代物ではないものばかり担いでいる。
「“善性愚神”全然不審、マジだせェと思わねェ?」
「俺達目指す悪のカリスマ、破壊の化身ヴォジャッグ様イェー」
 クソみたいな韻を踏みながら、愚神達は街の外で待ち構えていた君達と対峙する。
「愚神と手を組むお前達にぶちん、これからどなるかわかってねぇ」
 見ているだけで、聞いているだけで頭が痛くなってくる。彼らこそが、テキサスの一部を駆け回ってきた蛮族“Vフォロワー”であった。Vとは何か? ヴォジャッグの事である。

 君達は確信した。とりあえずぶっ潰さなければならない、と。

解説

目標 ヴォジャッグフォロワーな悪性愚神を討て

BOSS
ケントゥリオ級愚神V2
 クソみたいなラップを使うバカみたいな愚神。粛々と討伐しよう。
ステータス
 物攻・生命B、その他C以下
スキル
・ブラストボイス
 爆発的な叫びを浴びせて攻撃[前方扇形、範囲3。命中時、2sq後ろへノックバックする]

ENEMY
デクリオ級愚神クレイジーガイ×5
 クソみたいなラップに合わせてヒャッハーする愚神。静粛にしてもらおう。
ステータス
 生命B、その他C以下
スキル
・武器振り回し
 釘バットとか草刈り鎌とか、手軽に用意できそうな武器を振り回す。[メーレーブロウと同効果]

ミーレス級従魔ウォードッグ×20
 V2達に使役されている狂犬。
ステータス
 移動力S、その他特筆すべき点無し
スキル
・噛みつき
 飛び掛かり、噛みついて攻撃。押さえつけられないように注意。
[命中時、回避で対抗判定。勝利時BS[拘束]を与える。]

NPC
デクリオ級愚神ヴェアウルフ×4
 ヘイシズと同郷の愚神。ヘイシズに忠誠を誓っている。
ステータス
 生命A、物攻B、その他C~D
武器
 ライフル銃[射程3~40]
 コンバットナイフ[射程1]

FIELD
・街…背後に小規模な街が広がる。油断して侵入されないように。
・平野…主戦場。広さ50sq×50sq。敵は北東方向から陣を横に広げて迫ってくる。

TIPS
・バカとは話し合っても分かり合えない。
・ヘイシズの助力を受ける場合、NPCは敵の南方から攻め寄せてくる。
・ラストにヘイシズと会う事も出来る。

リプレイ

●VSバカ
「FOO!」
 バカがワンコでやってくる。一際大きなハイエナに跨ったモヒカンは、血に染まった鉄パイプを手に先頭を駆けた。十影夕(aa0890)はライフルを構え、スコープを覗き込む。
「俺はそういうの嫌いじゃないよ。だけどヘイシズが応援を出したという事は、君達は見捨てられたという事かな」
 夕は独りで尋ねかけた。バカ代表V2は気にした風もない。
「悲しいけど今はヘイシズがジャッジだ。俺に出来るのは、この銃を歌わせることだけ」
 引き金を引いた瞬間、鋭く飛び抜けた一発がV2の肩に突き刺さる。
「ラップバトルは初めてだけどね」
 夕からの先制攻撃を喰らい、V2は思わず仰け反った。思わず周囲も脚を止める。V2は茫然と立ち尽くしていたが、間合いを詰めてくる梶木 千尋(aa4353)とナイチンゲール(aa4840)を見渡し叫ぶ。
「肩いてえけど戦いてえ、だから俺様は気にしねえ!」
「FOOO!」
 V2の叫びを聞いたバカ達は意気盛んに二人の少女へ押し寄せる。彼女達が放ったライヴスに釣られている事にも気づかずに。
「……ばかみたい」
 ナイチンゲールは溜め息をつくと、左足を軸足にしてジークレフを振り抜く。彼女を取り囲んでいたバカ達はいとも簡単に薙ぎ払われた。こけつまろびつしている彼らを見下ろし、墓場鳥(aa4840hero001)は淡々と呟く。
『みたいではなく、ただひたすらに馬鹿だ』
「そうだね」
 彼女は大剣を構え直すと、目の前の愚神に向かって振り下ろした。そこからやや離れて、梶木 千尋(aa4353)は周囲に黒白一対の盾を浮かべ、周囲を見渡す。どいつもこいつも、某愚神を真似たようなイカレタ外見だ。
「アレにもフォロワーがいたのね」
『物好きは何時だっているさ』
 高野 香菜(aa4353hero001)はさらりと言う。飛び掛かってきたハイエナの鼻面を盾で弾き返し、千尋は寄り集まった愚神達に向かって手招きする。
「自分達がみっともないってわかるように、精々派手にやってやるわ」
『つまりいつも通りって事だね、了解』
「AHHH!」
 愚神達が粗末な武器を振り上げ襲い掛かる。千尋は盾を縦横無尽に動かし次々に受け止めていく。その度、光が華やかに舞い散り、彼女の装いに輝きを添える。
「ヴォジャッグも酷い姿だったけれど、貴方達はそれ以下ね」
 腰に結んだ帯をさらりと流し、舞い踊るように盾を愚神に叩きつける。
「いい? よく聞きなさい。わたしは貴方たちが敬愛するヴォジャッグを討伐したメンバーよ。仇を取って名を挙げてみなさいな。尻尾を丸めるなんて、腰抜けのする事よ!」
 千尋の叫びを、V2は聞き逃さなかった。手にした鉄パイプを振り上げ、ハイエナの首根っこを掴んで千尋に向き直らせる。
「その首取りたい、なりたい本物、俺こそ新たな破壊神!」
 V2は千尋に向かって突進する。それと同時に、脇から飛んだ砲弾がV2の跨るハイエナに直撃した。ハイエナは吹っ飛び、V2は地面に叩きつけられる。
「全く、目にも耳にも喧しい連中だなぁ」
 恐竜のような両脚をガシャガシャ言わせ、シエロ レミプリク(aa0575)は大外から回り込むように戦場を駆け抜ける。一体でも逃がさぬよう、この場で仕留めきる構えだ。
『残さず駆逐してしまいましょう!』
「よっしゃ!」
 ジスプ トゥルーパー(aa0575hero002)の言葉に頷き、一気に跳び上がったシエロはハイエナの群れの背後に向けて再び砲弾をぶっ放す。その後へ付き従うようにやってきた狼四頭は、次々にライフルを構え、的確なスナイピングで敵を撃ち抜いていく。
「あんがとー! やっぱりエスコートがあると心強いねぇっ、ニヒヒっ」
 シエロは背後の狼達へと振り返ってへらりと笑う。竜の脚を持ち、鉄仮面を被った異様な少女。銃を構えた狼達は思わずたじろぐ。
「随分と……友好的ですね」
「だって味方なんでしょ?」
 けろりとして言うその間にも、シエロは迫ってきたハイエナに突っ込み、脳天へメイスを叩きつけた。
「こちら通行止めとなっておりまぁす! ハッハッハ!」
 かくして群れの後方をシエロや狼達が塞いでいく様子を、橘 由香里(aa1855)は遠巻きに見つめていた。力の差は歴然、V2はともかく、その他有象無象はタンブルウィードのように荒野を転がされていく。飯綱比売命(aa1855hero001)はそれでも浮かない調子だったが。
『うーん、埃っぽい。しかし……敵と町の中間点で待っていて裏をかかれぬものかな?』
「あいつらにそんな頭があるようだったら考えを改めないといけないわね。それより……ヘイシズがこの隙に裏で工作するかもしれないとか、そういう策を気にした方が良いんじゃない?」
 京都旅行を通して、由香里は油断ならない存在という評価をヘイシズに下した。油断すれば自分達の寝首を掻き、H.O.P.E.にとって代わろうとするのではないか、と。今も、背後の街に別な敵を送り込んで、自分達に失態を演じさせるのではないかと疑っていた。
 とはいえ。
「どのみちあいつらは叩かないわけにはいかないんだから、私達は私達の仕事をするだけよ。……それに何より」
『何より?』
「馬鹿な男を思いっきり殴りたい気分だから。今」
 駆け抜けた由香里は、薙刀を頭上でぶん回し、目の前のアウトローな愚神に向かって叩きつける。哀れ、顔面に穂先を叩きつけられた愚神は、ひっくり返ってハイエナの下敷きになってしまった。獲物を見つけた猫のように目をぎらつかせ、由香里は石突を床に叩きつける。
「さあかかってきなさい。私が纏めて相手してあげるから」
 ありったけの負の感情が、薙刀の穂先に鋭い光を宿らせていた。ハイエナ達は思わず足を止め、低く構えて由香里へ狙いを定めた。
 刹那、彼方から飛んできた三発の弾丸が、ハイエナの腿を次々に撃ち抜いた。ぎゃんと鳴いて転がるハイエナ。金色の瞳を輝かせ、バルタサール・デル・レイ(aa4199)は狙撃銃に新たなマガジンを込める。
「善性愚神なんてのは名前からして胡散臭いが、こいつらはある意味、単純明快だな」
『(ああ云う感じの人間っているよね。人間だと大っぴらに倒せないけど、悪性愚神なら堂々と倒せる)』
 紫苑(aa4199hero001)は歌でも歌うような声色で呟く。その間にも、土埃に赤髪を汚しながらバルタサールはハイエナの脚を次々に撃ち抜いていく。
「同族殺しなら罪になるが、同族でなければ罪にならない」
 人間同士でも争いが絶えないというのに、違う生物同士では相容れるはずもない。それがバルタサールの所感だった。しかし、今利用できるものは、打算と承知の上で、互いに利用すればいいとも思っていた。冷徹に狼の方を見据え、再び銃の照準を覗き込む。
『(新たな次元って何だろうね。……楽しくなってきたね)』
 紫苑は常に享楽主義。今も、世の無聊を拭い去る楽しい展開を望んでいた。その前方で、サーラ・アートネット(aa4973)は憤懣遣るかたない顔をしていたが。
「愚神を倒すのに、愚神の協力。全くもってバカらしい」
 母国を愚神によって滅ぼされたサーラは顔を顰める。彼女にとって愚神は悪。いついかなる場合であっても絶対なる悪でなければならないのだ。しかし、この場は堪える事にした。
「……と、一蹴するのは容易い。だが……今一度見極めなければならない故に、力を借りるしかあるまい」
『虎穴に入らずんば虎子を得ず、だからな』
 シルクハット伯爵(aa4973hero001)は飄々と呟く。サーラはサーベルを抜き放つと、目の前に立つ従魔の足元を斬りつけた。脚の筋を断たれた犬は、崩れてその場に崩れ落ちる。
「そうだ。あの獅子の皮を剥ぎ取り、狼の面を暴かねばならぬためにもな」
「WHYYYY!」
 着実に供廻りのハイエナが減らされていく中、再びヒャッハー共は叫び出す。逢見仙也(aa4472)は片耳を塞ぎ、大剣を片手で振り回す。
「よく叫ぶなあ」
『人間にもいるな、こういうズレた奴。正直安眠妨害かただ五月蠅いぐらいしか感想が湧かないんだがな』
 ディオハルク(aa4472hero001)は唸る。仙也はいつものようにすかした笑みを浮かべ、無数の矢を周囲に浮かべる。
「ま、サクっと試したい事試せるからいいんじゃないかねー。という事でよろしく」
『勢い余って呑まれるなよ』
 その身に纏わりつく蛇の幻影が鎌首を擡げる。目を血の色に輝かせ、牙を剥き出しにした瞬間、矢は次々に戦場へと飛び、弾け飛ぶ。細かく砕けた刃が突き刺さり、男達を毒のように蝕んだ。
『……見てくれは変わったが、威力自体はさして上がってこないな』
「ふーん。……やっぱり、能力者と繋がってるか王と繋がってるかって違いなのかねー」
 リンカーの絶え間ない攻撃に押され、ハイエナは次々に消え去る。地面に引きずり下ろされた哀れなチンピラ愚神達は、ずるずると囲いの中へと追い詰められていた。V2は鉄パイプを振り回して叫ぶ。
「あいつら本気、オレらのアンチ!」
「アンチ? もとより貴様らなど粛清対象であります!」
 サーラは叫ぶと、一斉に飛び掛かってきた愚神の攻撃を飛び退きながら躱し、リボルバーの弾丸を彼らの頭に見舞う。そのまま荒野に降り立つと、剣を抜いて切っ先をV2へ向ける。
「……だが、貴様には一応選択肢をやろう。その頭の上の汚らしい鶏冠を剃られるか、去勢されるか。どちらかは残してやるのであります!」
「BOOOO!」
 ブーイングを叫びながら男達は囲みを破ろうと突っ込む。ナイチンゲールはアルカナのカードを擲ち、男達に叩きつけた。チャリオット兵が飛び出し、目の前の男を轢き倒していく。新しいカードを取り出した彼女は、V2に尋ねる。
「ねえ。これからどうなるかって……なんのこと?」
「俺達カオス、全てを壊す、お前も世界も何もか――」
「そう」
 言い終わらぬうちに、ナイチンゲールはV2の顔面に向かってカードをぶつけた。悪魔が飛び出し、V2の顔面をぶん殴る。もんどりうって地面に倒れたV2を、ナイチンゲールは冷めきった眼で見下ろす。
「音楽性が合わないや。今度いいゴスペルでも紹介するよ。……また、会えたらね」
 ここで終わりだ、と言わんばかり。男達は眼を剥いて再びブーイングを叫んだ。しかし、その開いた口に向かって次々に銃弾が突き刺さる。
「ここまで追い込まれてもラップをやめようとしないのは……ある意味尊敬に値すると思うよ。……悪いね。上手く乗ってあげられなくてさ」
 排莢すると、夕は更に狙いを定める。その隣で狙撃銃を構えたバルタサールは、男の脚を狙って引き金を引く。畳み掛けるような攻撃に、一人の男は堪らず膝をついた。
「こうなったら後は片付けていくだけだな」
『あまり盛り上がらなかったねえ、今日の戦いは』
 紫苑は溜め息を洩らす。楽に勝てるに越したことはないが、敵の頭がお粗末過ぎて、ぽんぽん沈んでいく。
「全く、これ以上汚い口は開くものではないわ。ラップって、語彙と知性がいるのよ?」
 千尋は盾を振り回し、膝をついたチンピラの横っ面を殴りつける。直撃を貰った男は、呻きながらずるずると地面を滑り、そのまま消滅した。V2は転がった得物を拾い上げ、お返しとばかりに絶叫する。
「YHAAAAAA!」
 空気がびりびりと震え、弾ける。由香里は咄嗟に薙刀を構えた。ダメージは防いだものの、強烈な風圧を受け、彼女は数メートル後ろへ吹き飛ばされた。
 出来上がった囲いの隙間を目指して、V2達が一気に殺到する。だが、由香里は既に地面へ脚をつけ、弓を引き絞っていた。
「残念だったわね! これくらいで道を開けるほど――」
 突っ込んでくるV2の眉間にぴたりと狙いを定める。身動ぎする暇も与えず、由香里は矢を放った。
「甘くはないわよ!」
「グワーッ!」
 眉間に矢が突き刺さり、V2は仰け反りその場で足を止めた。シエロはその隙を見逃さず、V2に砲門をその背へ突きつけた。
「はあい、休む暇なんか与えないよっと!」
 爆音と共に、V2は地面に叩きつけられる。ヴォジャッグの後継者を気取っても、あれほどにはしぶとくない。ひっくり返った彼はそのままピクリとも動かなくなってしまった。
「焦点ボケる、昇天してる……」
 一頻り目を回したV2は、そのままがくりと崩れて消滅した。それを目の当たりにした部下達は一斉にその場で固まる。そこへ無数の矢が降り注ぎ、全身を次々に撃ち抜いた。既に満身創痍だった愚神達は、その場にどうと倒れる。
 街を荒らしまわった大軍は、そのまま跡形も無く消え去ってしまった。
「片付いた? 思ったよりも早かったかなー」
 大剣に手を掛けたまま、仙也は周囲を見渡す。その視線は唯一残った狼の愚神へと注がれた。狼はすぐさま武器を納めると、鍛え抜かれた兵士のように素早く隊列を組む。眉一つ動かさず、気を付けをしたまま微動だにしない。
「うーっし、終了!」
 シエロは肩の砲門を幻想蝶にしまうと、背筋を伸ばす。機械脚も展開し、一気に彼女の背が伸びる。そのまま、ちらりと狼達の方を見た。
「そっちもお疲れ、でいいのかな?」
 にやりと笑う。狼は振り返り、首だけを軽く下げた。
「宰相ヘイシズの命ですので」
『大変ですね、貴方達も』
 共鳴を解き、ジスプは狼達を見上げる。夕も銃を下ろし、にこやかに狼へ話しかけた。
「俺は夕。きみたち、名前は? 企業秘密?」
「いえ。我々はこういう者です」
 狼達は懐からドッグタグを取り出し、夕に向かって突き出す。その名前を確かめた彼は、そっと右手を狼達へ差し出す。
「来てくれて感謝してるよ。嫌な思いをさせたかもしれないけど」
 狼は夕の言葉に首を傾げる。紫苑はうっすらと笑みを浮かべたまま彼らへと歩み寄り、首を傾げて彼らに尋ねた。
『霊長類で同族殺しをするのはヒトとチンパンジーだけみたいだけど。きみは、愚神同士で殺し合う事は、どんな気持ち?』
 ベールの奥から流し目を送って彼は尋ねる。狼は目配せし、一人が応えた。
「宰相が裁きを下し、我々が討った。それだけの事です。無論、この有様は哀れと思いもしますがね。身を弁える脳味噌を持っていればもう少しましな幕引きになったでしょうに」
 ふうん、とシエロは首を傾げる。自分の同類に武器を向けるのは躊躇うもの、と考えていたが、彼らはそうでもないらしい。ナイチンゲールは二人のやり取りをしばらく見つめていたが、やがて一歩歩み寄って彼らに尋ねる。
「お疲れさま。悪いんだけど、ヘイシズに取り次いでくれない? 少し話したい事があるの」
「……承知しました。宰相も皆様にお礼を申し上げたいと考えているはずです」
 通信機を取り出し、狼はどこかに連絡しようとする。その手を引き留め、ナイチンゲールは付け足した。
「待って。盗聴器も録音機も置けないような場所にしてね。誰かに都合良く使われたら困るんだ」
「了解しました。それならば御誂え向きの場所があります」
 狼は再び頭を下げると、今度こそ通信を始める。それを眺め、ナイチンゲールの中から墓場鳥は囁いた。
『(さて、どう転ぶだろうな)』

●VS宰相
「……ああ、すっきりした」
 仲間達と別れ、しばし街へ残る事にした由香里。彼女は街の入り口に立ち尽くし、ぽつりと呟く。その拳を固く握り締めたまま。
「ほんと……すっきりしたわ……」
 飯綱は膝を曲げ、下から由香里の眼を覗き込む。やはりと言うべきか、その目じりには玉のようなる涙が浮かんでいる。飯綱はくるりと横へと回り込むと、その肩をポンと叩いた。
『ま、その涙は見なかった事にしてやろう。帰りがけに本場のテキーラで一杯やらんか』
「やらないわよ。まだ未成年だってば……」
『堅い事言うのう。辛みを忘れる為には酒が一番じゃというのに』
 涙を拭って唇を結ぶ由香里に、飯綱は肩を竦める。少しは楽になったかもしれないが、今しばらく痛みは引かないようだ。

 所変わって、エージェント達はH.O.P.E.ニューヨーク本部を訪れていた。かくかくしかじかならばH.O.P.E.の本部が良かろうと言ったのだ。

「協力に感謝するわ。ああいうわかりやすいのが相手だと、蟠りもなく協力出来て楽ね」
 大会議室の中、千尋はいつも通り強気な態度でヘイシズに対峙する。隣で香菜は柔らかな表情を浮かべていた。その佇まいには一切の油断が無かったが。
『しかし、こんな例外は続かないさ。面倒な価値判断が求められるその時までに、もっと腹を割って話せるようになることを祈っているよ』
「新たな次元への進化とか、曖昧な言葉じゃなくてね。もっと具体的な内容で聞きたいわ」
 ヘイシズはこくりと頷くと、並び立つエージェント達をぐるりと見渡す。
「そうだな。京都では時間が無く余り話が出来ない部分もあった。気になる事があるならば訊き給え。私の理解できている範囲でお答えしよう」
 それを聞いた途端、すぐさまサーラが一歩ヘイシズの間合いへ踏み込む。
「ならば問おう、ヘイシズ。まず、貴様にとって“レガトゥス級愚神”の存在はどうなんだ」
『きみ達が善性と謳えるならば、レガトゥス級愚神召喚及び、きみ達の進化そのものはどうするべきだと考えているのかな?』
 シルクハットで頭の半分を覆い隠したまま、伯爵も重ねて尋ねる。ヘイシズはサーラに向き直ると、澱みなく応えた。
「召喚も進化も避けるべきだろう。我々が戦闘機や戦艦であるなら、アレは原水爆に等しい。君達は今それに頼らぬ方向へ舵を切っているのだから、我々もそれに倣う」
 教科書通り、四角四面の回答。剣の柄に手を掛けたまま、サーラはさらに尋ねた。
「それに関して、“貴様の後ろ側”はなんと考えている」
「王はただ、無数の世界を一つに統べんとするのみだ。その方法は以前にも言ったが我々に委ねられている。強攻するか、平和を望むかは自由だ」
 あまりにも堂々とした宣言。ヘイシズの眼にも迷いは無い。サーラは一度黙り込む。その横で、今度は仙也が尋ねる。
「というか、前の社長は? どうして愚神に社を託すの?」
 ヘイシズは数度首を振った。
「君以外にも、私の事を社長だと思っている層があるようだが、私は社長ではない。私は、あくまで愚神と人類が和解するためのプロジェクトを主導するリーダーに過ぎない」
「はあん……まあでも随分と自由にさせて貰ってんのね。じゃあもう一つ聞いていい?」
「何だ」
「ケイゴ? とかいう研究者の研究テーマ」
 ケイゴの名を聞いた途端、ヘイシズは眉間に皺を寄せた。
「……奴の研究テーマか。まあ、話せる時に話すに越したことはあるまい」
 彼は顎に手を持っていくと、仙也達の顔色を窺いながら重々しく口を開いた。
「彼の研究テーマは愚神の能力等を解き明かそうとしたものだ。彼はたまたま人間の後ろ盾を求めて転がり込んできた愚神を対象として、様々な検査を行った。アルター社の最新鋭の武器にはそのデータが反映されている。その功績が認められ、彼はアルター社内で確たる地歩を築いているのだ」
「随分詳しく知ってるんすねえ」
 シエロは何の気なしに呟く。ヘイシズは淡々と答える。
「その愚神こそがこの私だからな」
「愚神なのに、愚神を倒すための手伝いをしたって事?」
 夕が尋ねると、ヘイシズは頷く。
「我々は王より特権を与えられ、通常のヒエラルキーからは外れている。だが外れているだけだ。共存策を取る限り、我々の手に余るシャングリラやガデンツァなどとは何時か刃を交えることになる。……その時の勝利を確実にするためには、君達にも強くなって貰わなければ困るのだよ」
「つまり、これからはヘイシズさんの敵とも戦ってくことになるのか。……まあ、エネミーやガデンツァなんかは、最初から俺達の敵みたいなものだけど」
 言いつつ、夕は一つ引っ掛かる事があった。ヘイシズの言う、王の齎す“新たな次元”。夕はラグナロクも“新世界”を目指していた事を手短に話した。それは一体どんなものなのか確かめる為に。
「……ラグナロクは急ぎ過ぎた? それとも方法を間違った? ……それとも、ヘイシズさんとは目指す場所が違う?」
「ラグナロク絡みの報告書にはおおよそ眼を通した。私から言えるのは、彼は罪人の意識が足らなかったという事だ。罪人であるが故に罪を知り、他者の罪を制することが出来る。人の上に立つとは元来そういうものだ。己の手を汚し、それを神に赦されながらやっていくものだ。己が神であるなどと思い上がっては本末転倒だよ」
「何だか、難しい話だね」
 澱みない言葉に半ば圧倒され、夕は思わず俯く。そして、シキ(aa0890hero001)と目が合った。シキは眼を丸くしてヘイシズの方を指差す。肩を落とすと、夕はヘイシズに尋ねた。
「あと、めっちゃ怒らないで欲しいんだけど……チビがたてがみ触りたいって」
「前も聞いたが……別に触って嬉しいものでもないと思うぞ。まあ、好きにしたまえ」
 彼が言うなり、シキは早速ヘイシズへと駆け寄りそのたてがみに手を触れる。金たわしのような荒々しい感触だ。シキは首を傾げる。
『うむ、ごわごわだな。手入れはしているのかな』
「人前に出て迷惑をかけないようにはしているつもりだが」
 歯に衣着せない物言いにヘイシズが閉口していると、おもむろにナイチンゲールが彼の前へと進み出た。ナイチンゲールはポケットからスマートフォンを取り出すと、彼へと差し出す。そこには、愚神に好意的なニュースを伝える映像が流れていた。
「これはあなたの神算?」
「……違うな。私達の存在がこの放送局にこう報じるよう忖度させたというなら、私の為した所業かもしれないが。指示はしていない」
 毒にも薬にもならない答え。知人の話でこんな話し方をする事はよくよくわかっていた。ナイチンゲールは携帯をポケットに押し込め、改めて対峙する。
「恋愛経験は?」
「いきなり、何の話かな」
「物の喩え。急速に進んだ関係って、長続きしないでしょ。最初はいいの。お互い都合のいい面しか見えないから。でも、相手に少し気に入らない事があった途端全部台無しになる」
 ナイチンゲールは澄んだ目でヘイシズを見つめた。身振り手振り交えて、彼女は語る。
「もしも本当に手を取り合おうと思ってるのなら、私達はお互い順を追って歩み寄るべき。少しずつ理解しながらね。私はそう思うよ」
 体を揺すりながら、サーラはヘイシズへ更に詰め寄っていく。
「貴様らはこれから先もこうして、取り入っていく気か? ならばその先のヴィジョンが見えぬと申さぬわけではないだろうな。貴様ら善性愚神が愚神を全て統べる事が出来れば……我々の向けるべき刃は次に何を指すのか……。我々に“悪”と戦い続けている保証が出来るのか?」
 ヘイシズは溜め息をついた。不意に彼は氷のように冷たい目をして応える。
「心配せずとも、悪との戦いは命がこの世に存在する限りは終わらん。君達も我々も、誰の本性も悪なのだから。善をその上に塗り固め、ようやく“まとも”でいるに過ぎない。ともすれば、誰もがその本性を現す」
 その言葉に透けて見えるは、己さえも認めない徹底的な知的生命への不信。冷徹な為政者としての側面。ナイチンゲールは眉根を寄せたまま、あくまで強気に言葉を繰る。
「だとしても、このままじゃ、H.O.P.E.は良くて人と愚神の板挟み、最悪孤立しかねない」
 ヘイシズは仏頂面のままだ。口を結んだまま、彼は答えようとしない。その眼を見上げ、ナイチンゲールは目を細めた。懐に手を差し入れる。
「それとも、それが望みなの? もしそうなら……」
 銀色のカードを取り出し、傍のテーブルに置く。死神が鎌の狙いを定めていた。彼女は眉を開き、意味深長な笑みを浮かべる。
「なんてね」
 死神から、ナイチンゲールへとヘイシズは目を遣る。彼は口を閉ざしたまま、上目遣いにして。二人の視線は、抜身の刃のように鋭かった。
「……最後だ。“貴様”とは、一体何者なのだ」
 サーラは荒れる内心を抑え込んだまま尋ねる。ヘイシズは懐から取り出した小さな小さな砂時計をひっくり返してテーブルに載せると、テーブルの上に置かれた死神のカードを取って手を翳す。彼の瞳が金色に輝いたその瞬間、タロットの模様は審判を報せる喇叭吹きへと塗り替えられた。
「こういう者だ」

 黒い砂鉄が、ざらざらと下へ落ちていく。紫苑は首を傾げると、薄らと微笑み囁きかけた。

『正直なところ、人間の事をどう思ってる? 下等生物みたいな感じで、自分より劣っていると思う? 誰にもバラさないから、本心を聞きたいな』
 ヘイシズは眼を伏せた。どこか寂しげな笑みを浮かべ、一言で応える。
「先程私が言ったとおりだ。君達と私達とは、全くの同類だと思っている」

 To be continued…

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
  • さーイエロー
    サーラ・アートネットaa4973

重体一覧

参加者

  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • 解放の日
    ジスプ トゥルーパーaa0575hero002
    英雄|13才|男性|バト
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 崩れぬ者
    梶木 千尋aa4353
    機械|18才|女性|防御
  • 誇り高き者
    高野 香菜aa4353hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • さーイエロー
    サーラ・アートネットaa4973
    機械|16才|女性|攻撃
  • 共に春光の下へ辿り着く
    シルクハット伯爵aa4973hero001
    英雄|22才|?|ブレ
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