本部

最終決戦

渡橋 邸

形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 6~10人
英雄
7人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
7日
完成日
2018/04/28 23:03

掲示板

オープニング


「エージェント諸君、先の作戦での尽力感謝する」
 職員が頭を下げながら口を開いた。
「メインとなる研究施設の破壊に成功し、これ以上の戦力拡充および被害拡大はひとまず阻止できただろうと思われる。今のところ、行方不明者の情報はない。だが……逃げたと思われる首謀者の確保には未だ至っていない」
 小さくため息をついて肩をすくめる。
「しかし、こちらもただ手をこまねいているわけではない。以前の作戦においてエージェントの聞いた声。偶然にも録音されていたその声と、性格から首謀者の1人の断定に成功した」
 彼は写真を取り出し、全員に見えるように差し出した。
「朝比奈博士。如月薬品株式会社の持つ研究機関に所属していた博士だが、数年前から行方不明となっている男だ。おそらく、彼が首謀者の1人とみて間違いない」
 そこで眉間にしわを寄せながら面白くなさそうに言葉を紡ぐ。
「だが、彼1人で果たしてここまでの活動ができるのか。いや、そんなはずがない。従魔を生み出すなんてことを、人間ができるものか」
 しわをほぐすようにもみながら話を続ける。
「おそらく彼のバックには愚神がいると思われる。それだけではない。おそらく、研究成果を欲する欲深い奴らの援助を受けている可能性もある」
 そこで一度言葉を切ると、彼は全員の目を見て言った。
「援助を行っているとみられる企業や資産家たちへの対処はこちらが請け負う。君たちには朝比奈博士の捕縛、および彼と共に行動していると考えられる愚神への対処を頼む」



「さて、先の研究所破棄によって多大に研究が遅れてしまったが……くく、完成だッ」
「おお、これが……」
「従魔を構成する因子。およびその他オーパーツ研究の過程により生まれた進化の薬ッ。投与された存在を遺伝子レベルで改造し強化する……これで人類は次のステージへ……」
「そしてオーパーツを移植する研究もすでに最終段階。ゆえにッ」
「――ゆえに、君はもう不要ということだ。ミスター」
「な……に?」
「ありがとう……君のおかげで私は次のステージへ向かうことができる。強化された従魔を食らい、わが力となして進化する」
「だが、その前に。さんざんこちらの邪魔をしてくれた奴らへ仕返しをするとしよう」


「――さあ、祭りの幕を上げようか」



「――ッ。本部よりただいま緊急の連絡が入った。近辺で従魔の発生を確認。特徴は改造従魔と一致……だがこれはッ」
 地図データを展開する。そこに従魔と思われる点が打たれていく。
 その数、おおよそ20。
 しかしどうやらそれだけではないようであった。
「プリセンサー能力者から追加の情報が入った。このまま放置すれば、ここら一帯の異界化が発生する。つまり、この従魔を発生させたのは愚神である可能性が高く、またその愚神は朝比奈博士と協力していた存在である可能性も高い」
 苦々しげに吐き捨て、息を吐いてエージェントたちを見やる。
「おそらく今回を逃すと、次はやや苦しい戦いを強いられることになるだろう。ゆえに、なんとしてもここで討伐してほしい」


「これはただの勘だが、おそらくこの戦いが最後になるだろう。そのつもりで挑んでくれ――諸君の健闘を祈る」

解説

●目的
 敵勢力の全滅

●舞台
 海辺近くの街中。狭い通路や建物が多く、死角となるポイントもある。
 近隣の住民は従魔発生直後、職員の誘導に従い全員が避難を完了している。

●敵情報
▽愚神
 朝比奈博士に協力していたとみられる存在。
 現在はあまり力を持たないようだが……?
▽朝比奈博士
 改造従魔を生み出した博士
 消息不明
▽従魔
 犬を模した姿の従魔。
 ライヴスを反射・攪乱する霧を発生させることができる。
 通常攻撃は前脚から生えた鋭い爪と牙を用いる。
 元が獣であるため火に弱い。

=========以下PL情報=========
愚神は朝比奈博士を処分し、研究成果をすべて手に入れている。
追い詰めるとそれを用いるだろう。
・進化の薬
 愚神の生命力が全体の30%を下回ると使用する
 使用者の能力を大幅強化&思考能力を低下
 (物理・魔法攻撃力、防御力大アップ)

リプレイ


 住民が避難し、静寂に包まれた街中を駆ける影がある。
 共鳴し武器を構えた能力者たち――H.O.P.E.のエージェントたちだ。
『避難が間に合ったのは何よりですわ』
「おかげで後願の憂いなくやれるってもんだ」
『うむ、遠慮なく暴れられるのじゃ』
「つっても帰ってくるんだから街への被害は極力減らさねぇといけないがな」
 通信機越しに会話をするのは赤城 龍哉(aa0090)&ヴァルトラウテ(aa0090hero001)ペアとリィェン・ユー(aa0208)&イン・シェン(aa0208hero001)ペア。根っからの武闘派である彼らは巻き込む可能性、および救助の可能性を考えなくてもいいことを喜んだ。
 相手が相手であるからか、現状においてそれらの懸念は行動を大きく縛るだろうからだ。
『相手側は攻勢に出るような性格ではなかった気がするのですが……』
『こそこそ隠れて動かなくなったって事はだ……』
「僕らをそこにおびき寄せたいって事かな?」
『それもあるかもしれんが……あるいはもう隠れて事を進める必要が無いんだろう』
 何かを考えるように小さくつぶやいた辺是 落児(aa0281)&構築の魔女(aa0281hero001)ペアに九字原 昂(aa0919)&ベルフ(aa0919hero001)ペアがあるいは、と意見した。
『研究に何らかの成果が出たのかもしれない、ということか』
「……あの研究所でやっていたこと? だったら、やっぱり今回が最後だね。もう野放しはできないよ……ここで必ず潰さなきゃ」
 楠葉 悠登(aa1592)&ナイン(aa1592hero001)は眉根を寄せて言った。吐き捨てたその言葉は決戦の決意。彼のやる気は周囲へと伝播していく。
「周辺に霧の発生を確認。左翼前方30メートル」
「オラァッ」
 先制した龍哉の攻撃が霧を割く。僅かに切り拓かれた視界には四足の獣。
 意図的に速度を落としていた龍哉を追い越して餅 望月(aa0843)&百薬(aa0843hero001)のペアが突撃し、手にした槍で薙ぐ。その一撃は、再び霧の中に潜もうとしていた従魔を強引に弾き出す。
「赤城君!」
「こいつでしまいだ」
 武器を持ち替えた龍哉が速度を上げ、再び前に出る。
 地に足をつけて着地姿勢をとっていた従魔は反応が間に合わない。彼が手に持つ刃がその身を両断し、切り裂かれた従魔は塵と消えた。同時に霧も晴れる。
「よしっ、これでまず1体」
「霧が消えたのをこちらでも確認したよ」
『続けて北西方面に200メートル先にあるポイントへ向かってください』
「了解した。……よっと」
「わわわっ急な抱っこは驚きっ」
「悪いな。少しの間、我慢してくれるか」
 望月を抱き上げて駆けだす。抱き上げられたほうは槍を抱くようにして持ち、邪魔にならないようにしがみついた。
「やるなあ、相棒」
「その感想もどうかと思うけど」
 通信機越しに状況を理解したリィェンは感心したようにつぶやく。
『……む、あれは、霧かの』
「いい位置だ。あそこなら、挟撃できる」
「挟撃……それなら盾のある俺が囮になって正面からいこう」
「そちらが受けている間に仕留める……か」
『シンプルだが悪くない案だろう?』
『そうじゃの』
 頷きあって行動を開始する。
 速度を維持したまま霧のほうに向かって進む悠登から離れ、リィェンは途中の角を曲がった。裏道であるそこは、一見すればただの行き止まりだが、能力者の身体能力を用いることで通行できる道がある。
 リィェンは壁を駆け、塀を越えて目的の路地へとたどり着いた。
 離れたところでは大きな盾を構えた悠登の姿がある。宣言通り従魔の正面から突撃して気を引いているようだ。彼に集中しているのか、2体の従魔は後ろに近づいてきたリィェンの姿に気が付かない。
 現在は追い風であるから、猶予はない。が同時にチャンスでもある。リィェンは悠登に目配せをして同時に突撃した。
 悠登の槍は従魔の脚を払い、崩れた瞬間にライヴスの刃が命を刈り取る。霧によっていくらか散っていたが、事前に対応していた悠登が与えていたダメージが良い方向に作用したようだ。
「よし。これで3体目か」
『こちらも3体ほど倒しましたので、合計で7体ですね』
「何体いるかわからないけど、今のところは順調だね」
 武器の切っ先を下げて、悠登が小さく息を吐く。
 周辺を警戒していたリィェンも、目に見える異常がないため武器を下げた。
「次のポイントは……結構離れている。南東東方向に500メートル。結構反応が大きい――もしかしたら、数が多いかもしれないですね。応援は必要ですか?」
「実際に見てみないとわからないが……現状は不要だ」
『了解しました。もしもの場合はすぐに連絡を。遭遇確認から一定時間以上連絡がない場合は』
「その時はよろしく」
「よし、それでは行くぞ」
 リィェンと悠登が移動し始めたのを確認すると、構築の魔女は息を吐いて目の前の状況を確認した。
『また従魔ですか……』
「どうも、中央ルートが正解のようですね。シンプルというか、なんというか」
「わかりやすくていいデース」
『罠かもしれないよ、あいちゃん』
 構えていたハルバードを地面に突き立て、ふんすと息をまくあい(aa5422)にリリー(aa5422hero001)は苦言を呈する。
『お嬢ちゃんの言うとおりだ。そうなのだと思わせることが狙いの可能性もある』
「■■――」
『だとしても、ですね』
「とにもかくにも、従魔は倒さないと」
「一般人の人たちが安心できないデェース」
『だとすればやることは1つ』
 キッと前を向く。先ほどまでと同じだ。どんな状況であれ、正義の味方である彼らにできること。やるべきことはいつだって。
「まずは目の前の相手から、かな」
『そういうこった』
 すっと意識を戦闘に向ける。その特性から油断ならない相手だ。他のことはいったん頭から追い払う。
 従魔も気が付いたようで、威嚇するように唸った。
 昂は前に出て注意を引く。飛び掛かりを避けて、薙ぎ払いをいなす。足止めを目的とし、従魔の周辺を衛星のように移動しながら攻撃をする。
「逃がさないデェス!」
『砲撃、いきます』
 一旦下がってライヴスをチャージしていたあいと構築の魔女が隙を見て攻勢に出る。
 足止めに徹していた昂は砲撃の瞬間にいったん下がり、そこに精密砲撃が襲い掛かる。
 下がった昂と入れ替わるようにあいが突撃し、大上段に構えた斧を勢いよく振り下ろした。
「マストッ! ダァアアアアアアアイッ!」
 圧し斬るように振るわれた一撃は、狙い通り損耗していた従魔を断ち切り地面を粉砕した。
「やったデス!」
「待って。何か様子がおかしい……!」
『霧が晴れない? まさか、増援ですか?』
 従魔を倒したにも関わらず晴れない霧に困惑する。周辺を警戒するが、従魔が襲い掛かってくる気配はない。
「なんなんデスか……?」
「特殊個体だったのか? いや、それにしては手ごたえがなかった」
「■――」
 考えていると、ゴーグルを装備していた落児、構築の魔女が違和感に気が付いた。
『これは、収束? 中心に向けて従魔の霧が移動しています』
『誘いなのか、それとも』
『わからんが、とびっきりの面倒ごとの予感がするな』
「各地点に点在していた従魔のものと思われる霧も移動を開始。何を考えている……?」
 上空から俯瞰するように街を見渡した昂が訝し気な声を上げる。
「誘いと考えるのが妥当な気がする。でも、ならどうして従魔を各地に置いたんだろう」
『今までのことを考えると、遊んでいるのかもしれませんね』
「えぇ!? あいたちは弄ばれているのデスか!?」
『あいちゃん、言い方。言い方』
「とにかく、各班に連絡。中央に急ごう」



 通信機によって連絡を受けた各班のメンバーは霧の吹き荒れる中、台風の目とも呼べる中心地へと向かっていった。
 真っ先にたどり着いたのは、街の左側を見て回っていた龍哉とヴァルトラウテ、望月と百薬だった。他の班が足並みそろえて移動する中、移動力で劣る望月を抱えて疾駆していたからだろう。目的地に一番近かったはずの中央班より早かったのは、たまたまだった。
 そして彼らはたどり着いた先で出会う。
「こいつが今回の敵、か」
「うわぁ、周りにたくさん従魔がいるよ」
『服従してるみたい。人間の協力者もいたみたいだし、愚神界のカリスマかな?』
「たぶん、そんないいものじゃないと思うよ」
 その者は中央で幾多の従魔を従えているように見えた。見た目はひどく人間に酷似しているように感じる。そのくせ纏った雰囲気は愚神のそれときた。従魔らも親しく、そして恐ろしい気配を察知しておとなしくしているのだろう。
 男――のように見える愚神は、ふっと顔を上げた。
「やあ、やはり来てくれたね。現代に生きるヒーロー。私たちの敵」
「お前が一連の黒幕か」
「いかにも。名はとうに捨ててしまった故、名乗ることはできないがね。そう。今まで君たちが追いかけ、追い詰めた。君たちの敵さ」
「そういえば、もう1人、人間がいるはずだが」
 龍哉が問いかけると、愚神は忍び笑いをした。
「そうか。ミスターのことも承知済みか」
「一応聞いておくぜ。朝比奈博士はどうした?」
「彼は用済みだからね。後腐れの内容に円満にさよならを告げさせていただいた」
 望月は息をのみ、龍哉は眉をしかめた。薄々そうではないかと感じていた。
 人間と愚神が真の意味で友誼を結べるとは、彼らの常識では考えられなかったからだ。
 その場にいないのであれば、つまりそういうこと。
「ミスターも本望だろうさ。彼の望んだ進化。奇跡とも呼べるそれを完成させることができたのだから!」
「朝比奈博士もまた犯人の1人だ。同情の余地はない……だが」
『人間を惑わし私利私欲のために使い潰す。その所業は、犬畜生にも劣りますわ』
「くく、言ってくれるじゃないか」
 肩を震わせて笑う愚神。
「そうでなければ、やりごたえがない。ただの的。木偶人形相手など――」
「デェエエエエエエエエエスッ!」
「おっと。話の途中に攻撃とは、無粋の極みではないかな」
 全力で振りかぶった一撃は察知していたのか、いともたやすく避けられる。
 あいは攻撃がかわされたことを認識するとすぐさま飛び退った。愚神からの反撃はない。
『お待たせしました』
「中央班、合流デェス!」
 中央班の落児と構築の魔女、昂とベルフ。そしてあいとリリーが合流する。
 遅れて右側を担当していたリィェンとイン。悠登とナインも合流する。
 確認した愚神は笑みを深める。
「やあ。待っていたよ。君たちで14人。そろそろ十分な数が揃ってきたかな」
「十分な数、だって?」
「そう。この力。この発明品を、将来のパトロンたちにアピールする……そして、今まで私の邪魔をしてきた君たちに、少しばかりの仕返しを」
 愚神はにやりと笑って、勢ぞろいしたエージェントたちに告げた。
「此れよりは第二幕。さあ、楽しい楽しい祭りの本番だ。楽しもうじゃないか」


 愚神との戦いが始まってから十数分。愚神は自ら攻撃しようとはせずに、周囲の従魔を操り続けていた。時折、構築の魔女や昂が放った牽制に対して回避行動をとったりするが、自ら動くことは皆無である。
「なんのつもりだ? 攻撃をしないなど」
「まるでなめられてるみたいだ……が」
『おそらくはそうではない。あの目を、私はよく知っています』
 構築の魔女は寄ってきた従魔の攻撃を避けて距離を取りながら、やはりと呟く。
『この戦いから何かを得ようとしている、のかもしれません。パトロンへのアピールというのも本心でしょう。ですがきっと、それだけではない』
「今までの行動で一貫している部分……」
「どうした? 演目の最中に考え事かな? どうやらまだ盛り上がりが足りないようだ」
 愚神はけしかける従魔の数を増やしていく。考える頭を持たない従魔を誘導し、分断し各個撃破を目的としているように見えた。
「そういいながら、ずいぶんと温い攻め手じゃないか。それじゃあ観客は満足しないと思うがね」
「同感だ。盛り上がりが足りないのはそちらの力不足が原因じゃないのか?」
 リィェンと龍哉が従魔を一撃で下して、愚神を殴りつけた。そして煽る。
 それが煽りであることを理解しながらも、愚神はその言葉を見過ごすことができなかったようで、目に見えて激高した。
「力不足? 力不足だと? わかっている、わかっているのだ。そのことは。だからこそ研究した。利用した。すべてはその力を得るためにッ!」
 龍哉とリィェンが視線を交わして頷いた。
「そこまで言うならば――ご覧あれ、我が力ッ!」
 愚神は握った拳を口元にあて、何かを嚥下する。
 おそらくそれこそが切り札なのだろうとエージェントたちは警戒する。
 事前にその存在を知っていたわけではないが、敵の性格的に用意していることは想像できていた。ゆえに完全に変化する前に阻止しようと、昂が動く。
 すでに行動に出ているため、おそらく猫騙しのような方法では阻止できないと考え、隠し持っていたナイフからライヴス刃を射出する。回避行動をとらせ、動きを制限することが目的だったが、愚神は意に反してそれを受け止めて見せた。
「くはは、漲る。滾るッ」
 体躯は肥大化していく。人間のものに近かった容姿は、人間離れした異形のものに変わる。丸太を思わせるような腕に膨らみ歪んだ胴。見開かれて血管の浮かんだ目など、完全に化け物のそれだ。そして変化が落ち着くと、体から従魔のものとよく似た霧があふれていく。
 見たところ飽和したライヴスが可視化しただけのようで、周辺ライヴスに異常は見られない。従魔の攪乱させるものとは違うようだが、先ほどまでよりも厄介な敵になったことは間違いがなかった。
「踊れ、惑え。ははははは」
「うわ、イカれちゃってない? あれ」
『だとしても、目に見えて能力が上がっている以上、油断は禁物です』
 現に愚神は、牽制として放った攻撃に反応すら見せず、その身で完全に受け止めるという行動に出ている。攻撃能力はともかく、防御能力は上昇しているだろう。あるいは、回避行動をとるという判断ができないほど、知能が落ちている可能性もあるが、現段階で決めつけるのは尚早だろう。
「喚け、這いつくばれ。無様を晒せッ!」
 狙いをつけずに放たれた攻撃を、エージェントたちは苦も無く回避する。
 そのうちいくつかは戦力であるはずの従魔を穿ち、絶命させていた。
「どう見ても暴走しているデス」
「面倒だな……このままだと街への被害も馬鹿にできなくなってくる」
「行動を見るに、牽制も効果が薄そうですね」
 思わずため息を吐くあいと悠登に、昂は自らの意見を述べた。
「なら、どうするの?」
『一点収束した攻撃で一撃必殺。即ち力押しが有効であると考えられます』
「目に見えて高い防御を強引に突破するってことか。……いいな、乗った」
「ブーストがあるのはあっちだけじゃないってことを見せてやろう」
 獰猛な笑みを浮かべたリィェンと肩を並べて龍哉が立つ。
 作戦はシンプルに。
 突出した攻撃能力を持った龍哉とリィェンがその鎧が持つ超過駆動を用いて高めた攻撃で防御を抜いて愚神をしとめる。他のメンバーはその一撃を確実に、効果的に叩き込むために動きを拘束し、隙を作り出す。ただそれだけ。
 作戦とも呼べないものだが、現状においてはこれほど有効なものはない。
 拘束手段を持たない悠登と望月が前に出て、愚神のターゲットとなる。
「意外っとっ苛烈な攻撃!」
「でも防げないレベルじゃない!」
 足止めに徹することが目的の2人は、物理攻撃を盾でいなし、ライヴスの攻撃を回避する。繰り返されると、当てることに躍起になった愚神はますますその場を動こうとしなくなった。
 その隙を突くように、構築の魔女、あい、昂がスキルによる攻撃を行った。
 2つの針が堅牢になってもなお守ることのできない部分。目に突き刺さる。それは視覚を奪い、内部から大正のライヴスをかき乱した。ライヴスを第二のセンサーのように使っていたのか、それだけで愚神の動きは驚くほど鈍くなる。
「何、どこ、誰ッ」
 視覚を失った愚神が周辺を探すように頭を動かす。
 その状態の愚神に向かってライヴスをまとった砲撃が直撃した。
「そこかッ」
 死角からの攻撃に、そちらからの攻撃と錯覚した愚神が攻撃を放つ。
 しかし、その攻撃は届かない。なぜならばその方向には最初から誰もいないからだ。
 完全に後ろを向いている愚神に、龍哉とリィェンが駆ける。
 それぞれの獲物にライヴスをチャージしていく。許容量を超えそうなほど詰め込まれたライヴスは周辺の空気を歪ませ輝いた。
「相棒ッ」
「これで――トドメだッ!」
 風が暴れる。
 ほぼ同時に放たれた3連斬撃が愚神の腕、足、胴。そして頭を切り裂く。
 龍哉とリィェンは斬撃を放った勢いで駆け抜け、残心。
 その場は静寂に包まれた。



「――なるほど。こうなるか」
 その場に、静かな声が響いた。それはひどく晴れやかな声だった。
「こんな幕引きか。なるほど、なるほど」
 薬の副作用か、それとも攻撃によるダメージによるものか。
 エージェントたちの目の前で愚神の体が塵となり消えていく。
「見事……」
 一言。それだけを残して愚神は霧散した。
 後を追うように従魔たちも消えていく。どうやら愚神の一部となっていたようだ。
 すべてが塵と消え、残ったのは愚神たちの攻撃で壊れた街並み。
「■■」
『研究成果ですか? そうですね、それも確保しておきたいのですが』
「どうやら破棄されているようだね」
『残された成果物も愚神と共に消えた、か』
 そういえばと気が付いた落児と構築の魔女が周辺の探索を行おうとするが、先に探していた昂とベルフが戻ってきたのを見て、残念そうに肩を落とした。
「博士のほうも、確認はできていないけど」
『研究成果と共に破棄……処分されているでしょう』
「なんだか不完全燃焼って感じだが……」
『研究内容が流出していない可能性が高いというだけでよし、じゃろうな』
 龍哉とヴァルトラウテは朝比奈博士の探索を行ったが、そも拠点が違うのか確認できなかったようだ。リィェンとインは最善とは言えないが、次善の結果に不満げながら納得した。
「それにしても、オーパーツっていろいろできるのね」
『ワタシも強化できるかな?』
「あいもムキムキになるのデェス!?」
「やめとこうよ。アレなのがさらにアレになっちゃうし」
『そんなあいちゃんは見たくないかな……』
 最後に残ったあいの治療を終えて、望月と百薬。あいとリリーが雑談を四ながら戻ってくる。ちょうどよくH.O.P.E.からの迎えと思われる車両も近づいてきた。
「終わった、のかな」
『終わったのだろうな……』
 ぼそり、と悠登とナインがつぶやいた。はじまりの事件から追いかけ続けていたからこその感覚を、息と一緒に吐き出す。
「愚神は倒した。これ以上の被害はない。なら、それでいいんじゃねえか?」
「相棒の言うとおりだ。この後、報告やらはあるが。これでひと段落だ」
「嫌なこと聞いたデス……」
「報告かあ……必要なことだけど、今回の件はめんどくさそう……」
 うへぇ、と嫌そうに顔を歪ませるあいと望月に笑いがこぼれた。
「■■――」
 エージェントたちは手を振っている職員の元へ行き、車両に乗り込む。
 走り出した車両の窓から外を見れば、晴れた空から注ぐ日差しがまぶしく映った。
 彼らは帰路につく。これからも戦いは続くだろう。だが今は。
「帰ろうか。僕らの場所に」
 目をつむって座席に身を預けると、意識が遠のいていく。
 ――今は、戦い抜いた戦士たちにしばしの休息を。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    あいaa5422
    獣人|14才|女性|回避
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    リリーaa5422hero001
    英雄|11才|女性|シャド
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