本部
D~ロストチルドレン~
掲示板
-
プレイング卓
最終発言2018/02/04 20:09:04 -
質問卓
最終発言2018/02/02 00:30:44 -
相談卓
最終発言2018/02/05 06:48:14 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/02/04 15:05:05
オープニング
● タイムリミットは二週間
昨今Dをめぐる事件で大事件が発生した。
塔の解放、そしてDによって拉致された大量の少年少女の発見。
Dたちの研究、その全容が暴かれ。彼らにとっての最終目標が明らかになる。
それは人類の愚神化。
ただ、それだけだとは思えない。愚神化にしては回り道が過ぎる。
そう言う特性の愚神を招き入れて全員で囲って力を蓄えさせるのが一番早かったはずだ。
ペインキャンセラー。少年兵の量産。EDという超生命体の開発。愚神との商売。
それらプロセスが到底必要だったとは思えない。
やはり金だろうか。
分からない。つじつまが合わないことは……おおい。
ただ現在言えることは、時間が無い。
という事だ。
少年少女たちには時間が無い。
その体にはすでに従魔化。愚神化の兆候が見え始めている者もいる。
ただし、ペインキャンセラーの応用で霊力を遮断する薬が作られた。
これにより一週間から二週間まで子供たちの余命を引き延ばすことに成功しているが。それでも時間があまりに少なすぎる。
これもリンカーたちの絶え間ない研鑽と咄嗟のひらめきで情報を逐一収集していたおかげであるが。
それでも一手足りない。
細胞からして霊力に侵され変質してしまう少年少女を、いったいどうしたら、救えるというのだろうか。
● 状況説明
今回は、皆さんに愚神化間近となった少年少女たちの処遇をどうするか決めていただくことになります。
この少年少女たち、資質によって強さがまちまちの従魔、愚神へと代わるようです。
また年齢にばらつきがあります8歳から15歳までの少年少女がまばらにいるようです。
ここで皆さんは少年少女たちの監督役をしていただくことになります。
少年少女たちが逃げ出さないか見守り、変質してしまったなら殺す必要があります。
誰かがやらなければならない任務です。
目を背けることは許されません、苦悩の果てに、ミッションを完遂してください。
● 研究行為について
この愚神化、従魔化を治療するための方法について、研究を行っています。
それに協力していただけるリンカーも募集していますが。
今までのD関連の依頼に参加している人たちが対象な上に、ヒントが過去の依頼の中にあります、膨大な資料を読み解く必要。
現地に向かって調査をする必要があります。
なので、膨大な時間と作業が要求されるうえに、難易度も高いです。
ただ、今回は子供たちを救えなくても任務が失敗になることはありません。
最後に研究行為についての方針をまとめます。
1 過去の依頼からヒントを探す
2 BDという人物から情報を聞き出す
3 研究所に赴いてヒントを探す
4 研究資料をひも解いてヒントを探す
5 子供たちの人体実験の末にヒントを見つけ出す。
また、研究が成功しても、半数の犠牲は覚悟してください。
今回は苦難に満ちたシナリオです。
● 少年少女たちのリアクション
少年少女たちが置かれている状況、それに対する反応は刻一刻変わります。
さらにもたらされる情報によっても変わるでしょう。
その目安をこちらに書き記しておきます。
また少年少女たちは施設に収容されることになります。
当然親元には帰れません。
・1~5日
解放された喜びから年相応の喜びをみせる。
食べ物がおいしい、だとか、リンカーたちに遊びをせがんだりだとか、のんきに過ごす。
・6~10日
様子がおかしくなってくる。
体の一部が変容したり、角が生えたりする。
状況のおかしさに気が付き不安を表に見せる。
怒りや、悲しみが制御できなくなり、暴力事件や不眠に悩まされる子供が出始める。
・10~14日
愚神化、従魔化する子供が出始める。
それは突如起こり、手近な人間を殺そうとする。
場合によってはこの愚神や従魔が子供たちを殺してしまうことも考えられる。
・15日以降
子供たちが脱出を企てる。院内の地下にトンネルを掘って脱出を試みる。
これを阻止できなければ、次回はシナリオ【悲劇】に派生する。
・自分たちの命が残りわずかだと知った時。
従魔化、愚神化してしまうことを知った子供たちの行動は様々です。
自殺しようとする子。
無気力になる子。
殺してほしいと懇願する子。
親に逢いたい、友達に会いたいと泣く子供。
様々存在することでしょう。
リンカーに恨みをぶつける子供もいます。
「なんで助けてくれないんだ」「お前たちのせいだ」「こんな怖い目に合うくらいなら目覚めたくなかった」
そんな感じです。
解説
目標 なし
今回のシナリオは、どう転んでも仕方なかったと世間から評価されることでしょう。どう転んでもH.O.P.E.は皆さんを庇うつもりでもあります。
ここで生まれる五十人の愚神や、従魔、それを一手に処理するためには大規模作戦並の戦力を投下せねばならず、現在その戦力をかき集めるのが難しい状況にあるためです。
なので。子供の内に子供のまま殺してしまう。
というのはありなのです。
ただ、ひとつ言っておかなければならないのは、二週間というのはあくまで目安で個体差があります。
最短で九日。最長でも十八日で従魔、愚神へと変わり果てるでしょう。
この少年少女たちに対するアプローチの様子を今回のノベルにしたいと思います。
皆さんはどう接するのでしょう。
少年少女たちと最後の時間を楽しく過ごすのでしょうか。
海に行ったり、みんなで遊びに行ったり。
この問題に直面した皆さんはどうなってしまうのでしょうか。
苦悩する。淡々と殺す。
最後にもう一度言います。
安心してください、命を一つも救えなくても、任務の失敗にはなりません。
それどころか、皆さんが少年少女たちに接することでその心は救われるでしょう。
皆さんの行動はどう転んでも無駄になることはないのです。
無情に子供たちを殺してもそれは人類のため。
子供たちのために胸を痛ませてもそれは子供たちのため。
どの行いをしてもあなたの行動は善です。
肯定されるべきことなのでしょう。
さらに今回、汚れ仕事なので、H.O.P.E.は報酬を多く出してくれるそうです。
これで皆さんの心のケアになるかはわかりませんが、受け取ってください。
リプレイ
プロローグ
「大丈夫…………必ず救う道はある」
「…………楓っ。その」
『柳生 楓(aa3403)』はモニター越し、施設に幽閉された子供たちの。
いや、従魔予備軍の様子を眺めてそうつぶやいた。
その背中を見る『氷室 詩乃(aa3403hero001)』は思う。
その背中には鋼鉄の意思が宿っているようで、何故こんなに脆く見えるのだろうか。
「やぁ春香さん、久しぶり。その後調子どうだい?」
「ヨハンさん…………こんな任務に参加してくれて、ありがとう」
『ヨハン・リントヴルム(aa1933)』が挨拶すると『パトリツィア・リントヴルム(aa1933hero001)』は小さく会釈した。
「本当は別々に隔離して、反抗しないように心を壊すつもりだったんだけど……とても、そんな事を言い出せる雰囲気じゃないね」
その言葉に振り返る楓。
「無辜の少年少女を憐れむだけの善良さを、この僕に期待してるとしたら、それはお門違い。……まあ、助けると決まったからには、僕もなるべく協力するよ」
そう気軽に告げるヨハンに周囲の視線が集まる。
たとえば『煤原 燃衣(aa2271)』など。
「今回はあまり時間がないんで、子供たちと関わってる暇は、俺達ないとおもいます」
そんな燃衣に『阪須賀 誄(aa4862hero001)』はそう告げた。葬式の最中交わされるような言葉のトーンだった。
「隊長…………今から諦めてたらだめだお」
「諦めているわけではありまえせん」
『阪須賀 槇(aa4862)』の言葉に燃衣はそう返した。
「やぁ、君たちがBDさんを担当するのかな? 任せたよ」
そんな阪須賀兄弟にヨハンが声をかけた。
「彼の話にはとても興味があるんだけど。僕らは見張りに向いているから」
そう役割分担が決まっていく控室。その端っこで『ノア ノット ハウンド(aa5198hero001)』はこう苦言を漏らす。
「今回、ノアは一切関与しません。全てボンクラに丸投げするです。良いですね?」
「うん、大丈夫。ありがとね、これでも力を貸してくれて」
そう『紀伊 龍華(aa5198)』は頷いた。
第一章
少年少女が集められた施設は賑やかだった。
『八朔 カゲリ(aa0098)』は雑務を任されることになる。それを『ナラカ(aa0098hero001)』はほくそ笑んで見守っていた。
「して、研究の成果はどうかな?」
大量のシーツやブランケットを洗濯業者に出すために運び出すカゲリにそうナラカは問いかけた。
「まだ一日目だ。資料に目を通すだけで精いっぱいだよ」
そうため息をつくカゲリも、隙あらば研究資料をひも解き、事件解決の一助となれるよう努めた。
管理を任された『ヴァイオレット メタボリック(aa0584)』の手腕もあるだろう。
「子らはこのまま遊ばせておくだか?」
『ノエル メタボリック(aa0584hero001)』はそうヴァイオレットに問いかけると、すぐさま教師を雇って、勉強できる体制を整えたりもする。
「すこし施設を離れるんじゃ。監視はよろしくたのんだぞ、ヨハン」
「はい。わかってるよ。行ってらっしゃい」
リンカーたちは交代で巡回することになっていた。
「あ~、仕事中なんだけどね」
そう苦笑いを浮かべながらもヨハンはグリム童話を読んでやった。
逆に子供たちとの接触に熱心なのは龍華や楓だ。
詩乃はそれが気に食わないらしく、積極的に手を貸そうとはしなかった。
楓の考えがわからなかった。
ましてや、学校まで休んで子供たちにかかりきりなど。
「それは、自分の心に刃を突き立てる行為じゃないのかい?」
寂しそうにつぶやく詩乃の声は届かない。
だから詩乃は不眠不休で子供たちを監視するのだった。
* *
「いや俺は正直ね、アンタを処刑送りにしたくってね?」
冷たい取調室に、重たい響きの言葉が一つ。
誄は兄を茶目っ気のある方法で眠らせて、そして今ここにいた。
「悪党が滅ぶ様がメシウマ……ってのが俺の行動原理な訳」
目の前に鎮座するのはバイヤーと呼ばれたD。
彼はきっと何かを知っている、それがリンカー全員の見解だった。
「ディアナさんや、メルローさんと、あの子たちは何が違うんですか?」
そう口にしたのは『卸 蘿蔔(aa0405)』。
彼女は事前に『鬼灯 佐千子(aa2526)』や『リタ(aa2526hero001)』から調査情報を聴いていた。
資料の情報と、かつてBDにつき従っていた少女たちディアナ、メルローの持つ情報を照らし合わせた。
結果として明らかになったのは、あの五十人にもともと能力者としての素質がなかったこと。
「ペインキャンセラーの実験で使っていたのですか?」
蘿蔔の背後から『レオンハルト(aa0405hero001)』が呟く。
彼は腰にあからさまな拳銃を吊っていた。
「けど、形振り構ってらんなくてね。営業に来たんだよ」
そう誄は告げる。
「買うのは子供達を救う情報。施した術式から全部。知らんは通らんぜ? 自分で喋っただろ」
反応を帰さないBD。それに対して誄は舌打ちすると、拳銃のスライドを引いた。
弾丸を薬室に装填、そして突きつける。
「手札は三つ」
BDが目を細める。
「一つ、古龍幇。シマ内の子供を怪物に変えてた事伝えたら、喜んで処刑するとさ?
二つ、ネット。闇ウェブ経由で世界中に噂が流れててね。お前の利用価値ももう尽きるし、H.O.P.E.は体裁の為にも……ね?
三つ、時に俺も精神が参っててね」
告げると誄はBDの頭に拳銃を押し当てる。むろん古龍幣に関しては今回具体的な根回しをしていないのでブラフだ。
それを止めようと動いた蘿蔔の腕をカゲリが引く。
「ほう?」
拳銃は震えている。誄の瞳孔は開いている。
「英雄といえど、睡眠は大切だ。正常だと自分を認識するためにね。寝てないのかね」
告げるとBDは大げさに手を広げて見せると告げた。
「いまさら知らんでは通さんさ。どのみち……ここでしか生きられないのを知っている」
「研究に協力していただけないでしょうか? あの子達を助けたいんです。勿論お礼もします」
BDの言葉に蘿蔔は低い姿勢で答えた。
「営業なら報酬は歩合制だ。……子供の生存数。それでアンタの処遇が変わる。さて、アンタはどう行動する?」
そしてBDに資料を見せる蘿蔔。
「研究が成功したら自分にも施す予定とかなかったのかい? その万が一に備えた治療方法の研究とか」
レオンハルトが問いかけた。
「これはグランドプランだね。ここまで引き抜かれたか。やはり私がいなければあの組織は駄目そうだね」
そうBDは告げると蘿蔔に問いかけた。
「刑期の短縮を覗く、Dという組織がなくなってしまえばここにいる意味はないのだから」
「もちろんそれは交渉次第です」
蘿蔔は告げる。
そして血なまぐさい組織のバックグラウンド。
研究目的。
そしてこの世界を愚神に売り渡すという最終目的を聴いた。
収穫は十分だろう。そうレオンハルトは蘿蔔の肩を叩く。今はBDにもたらされた。
研究データが保管されているサーバーを抑える方が先だった。
これで、少年少女を救う研究は飛躍的に進むことになるだろう。
だが、カゲリだけはその部屋に残った。全員が部屋から出ると鍵をかけて、カゲリはBDを殴り飛ばす。
「俺の前で、嘘がつけると思うな」
そうカゲリは拳を再び振り上げる。
「カゲリさん!」
蘿蔔がはじかれたように部屋に戻ろうとすると、それをナラカが止める。
「どいてください」
「退くさ、ひとつ答えてもらいたいだけだ。その行いは誰のために?」
蘿蔔は目を見開いた。そしてカゲリの姿を見守るしかなかった。
第二章
異変は精神の偏重から。
せめて目に見える形なら、それを病だと断定できるのだろう。
しかし。
形のない精神が歪んでいくさまを、人はどう受け止めればいいのだろう。
昨日まで優しかったその人が今日になって豹変する、そんな事実をどう受け止めればいいのだろう。
六日目。その事件は起こった。
夜。燃衣が泊まり込みで子供たちの面倒を見ていた。
子供たちの希望になりたい、せめて諦めないで済む希望の糸に。
そう燃衣は寝物語として戦いや冒険や暁の事、弟や恋した人の事。絶望した事や立ち上がった事、自分の大切な思い出すべてを語って見せた。
「最後に物をいうのは精神力です、きっと困難にぶち当たった時、諦めないことさえできれば何とかなります」
そう燃衣が語りきかせる夜、子供たちはぐっすりと眠る。
燃衣と夜のバカ騒ぎは子供たちになかなかの体力を消費させるらしい。
だが、その深い眠りにつく子供たちを見ると燃衣はとてもうれしい気持ちになるのだ。
しかし、その夜だけはいつもと違った。
子供たちが夜中に突如呻き始めたのだ。
「どうしたんですか」
頬を軽くたたいても起きない。
騒ぎを聞きつけ駆けつける詩乃やパトリツィア。だが問題が発生したのはこの部屋だけではなかった。
「やめてください!」
蘿蔔の声が響く。次いで重たい者が倒れる音。
パトリツィアが戻ってみれば、廊下でもみくちゃになって取っ組み合う少年たちがいた。
それを止めるために蘿蔔は間に入るが髪を引っ張られたり、爪で引っかかれたりしてぼろぼろになっている。
「どうしたっていうんですか」
「こいつを! こいつを殺したいんだ!」
少年は叫ぶ。
「だれかとめて! 殺したくないのに、殺したいんだよぅ」
そんな少年に歩み寄るのはヴァイオレット。
首根っこひっつかまえて、何かを注射すると、少年はすぐに大人しくなった。
「すまぬ、詩乃とパトリツィアにこの場をまかせて話をしたい」
そうヴァイオレットは監視室に全員を連れていくと。今後の方針について話を始めた。
そこにいたのは『東宮エリ(aa3982)』そして『アイギス(aa3982hero001)』。
そして龍華。
龍華は集まれるだけ人が集まったと判断すると見解を述べる。
「俺は対応を変える」
現実を見なければならない時期が来た。少年たちは確実に従魔として目覚めつつある。
「俺は、もう隠しておくのは無理だとおもう。だから徐々に受け入れられそうな奴から話していこうと思ってる」
それは自らの置かれた状況と。研究のこと。
「だからいったろう? やるなら早めのほうがいいと」
アイギスの言葉にエリは眉をひそめた。
(色々キツい依頼だけどアイギスさんは平気なんだろうな)
そうおもったから。
「管理体制を変えるべきだ。まず子供は5、6人で1グループ。毎日朝メンバー替え、リンカーは複数グループを見て回る」
全員の顔は覚えた。であれば効率を優先しては? そう言う意見だった。
「子供たちに話をするのはありだとおもう」
それに同意するのは燃衣。
「そうですね、それに、研究の手が足りません。協力を頼みたい」
「よかろう、では明日からはそのように」
そうヴァイオレットが告げて、解散となった。
翌日から、子供たちの変化が目立つようになった。
ケンカが増えた。一人でいることが増えた。幻覚を見るようになった。
そして。
「楓お姉ちゃん」
そう泣きながら現れた男の子は両腕から出血していた。壁にはぬらっと赤い線が何本も引かれており、足も手も血まみれ。だがそれは自分の血だ。
腕や足から刃の様な骨が突き出している。
その少年を楓は涙ながらに抱きしめた。
アイギスはその光景に眉をひそめながら、従魔化の兆候がある子供たちをリストアップしていく。
「研究、うまく行くと言いね」
そうアイギスに微笑みかけるエリ。
「あまり、あおるなよ。ラシーボと効果確認で、悪化する可能性も高いはずだ」
アイギスはそう告げると、あてがわれた自室に戻る。
エリはなんでもない顔をして子供たちの相手を続けた。
全ては子供、という研究材料を観察するために。
「楽しいことをしましょう、実は私、アイドルなんです」
そう弾き語って見せた蘿蔔のライブも、あまり盛り上がりをみせなかった。
毎晩絵本をねだっている子供も、今日は布団にくるまって恐怖に耐えている。
「絶望しちゃなんねえ。おらのように英雄に成れるかも知れねぇ」
ノエルはそんな子供を布団の上から撫でて、こう告げる。
「但し、辛いとか苦しいで投げたら生きられないと覚悟するべ」
「私。化け物になりたくないよ」
そう泣きじゃくって伸ばされた腕には鱗がびっしり生えていた。
「力は自分でコントロールするものだべ」
そう、明日から力や心の扱い方を勉強してみよう。ノエルは子供を優しく諭した。
そんな不安に沈む夜中。燃衣は一人の少年を車で研究施設へと輸送していた。
「こんなことになってしまって済みません」
「いや、みんなを助けるために使ってもらえてうれしいです」
彼は『平岸 武』という。
最初はその珍しい姓名に目が引かれたが、本当にすごいのは彼の静止力だと気が付いた。
骨格が人間でなくなっていく痛みと恐怖を跳ねのけて、他の皆を慰める姿に燃衣は希望を見たのだ。
だから。
「ようこそ、研究棟へ。あなたも今日からめでたく、実験体です」
そう、少年を燃衣は研究棟へ招待したのだ。
* *
研究室には半永久的な打鍵の音が響いていた。キーボードを削るような超高速なタイピング、槇は目で資料を読みながら研究データをまとめるという作業に没頭していた。
そんな槇に誄がある日、データを持ってきた。
槇が調べたがっていた。二匹の従魔のデータ。
それはガデンツァがDから買ったという従魔たちで。何かのヒントにならないかと思っていた。
結論だけ言おう。
あの二匹の獣はもともと人間だった。
少年少女たちと同じように従魔に変えられていたのだ。
「ふっざけんな!!」
普段の口調も忘れ。髪を振り乱し、槇は叫んだ。
「兄者……」
誄は拳を握って耐える。兄の苦しむ姿。そしてもうそんなことをやめてしまえと。叫び出したい自分に。
そんな槇のもとへは次々と研究データが送られてくる。それを集積する役目を放棄するわけにはいかない。槇は死んだ目でPCにむかう。
この事件を解決させる。それ以外の事はもう考えられなかった。
中でも目を引いたのは蘿蔔の資料。
グロリア社との共同研究の結果が出たらしい。
『そういえば以前散布された霊力を高める薬…………子供達の症状と少し似てるけど、関係あるのかな』
最初はレオンハルトのその一言だった。
BDとの話でそれは確証に変わった。
ペインキャンセラーはもともと一般人を能力者化する薬ではなく。
愚神化させる目的の薬だったのだ。
同時に、ペインキャンセラーが完成したのは最近の事だという事も分かった。
効能は安定していない。
だから50人の少年少女で実験を行っていたのだ。
結果成功した。
「このペインキャンセラーが原因で、一波乱、絶対ありますね」
そう、蘿蔔はメールの送信画面につぶやく。
「以前、試験的に使ったペインキャンセラーの中和剤。それを転用できる可能性が出てきました。これで治療薬開発には大きく近づきました」
それでもあと三日はかかる。量産体制を整えるのに一日。あと四日必要だが。もうすでに七日目。
子供たちは耐えきれるだろうか。
「この報告を受けてはっきりしたわね。連中の計画の最終地点が『人類の愚神化』にあるのは確かでしょう」
そう。研究所にたどり着いた燃衣と武。
二人を迎えに行くと、佐千子は燃衣に資料を見せてそう告げた。
「ただ……、そこへ至る段階のひとつとしてなのか、副産物を使った資金繰りなのか、連中は子供たちを英雄化しようとしていた」
「肯定だ。そしてこの子供たちを『失敗作』だと断じている。英雄化でなく愚神化を目的としているなら、この現状は決して失敗作ではないはずだ」
そうリタは否定の声を上げる。
「…………そもそも、愚神化は飽くまで目的ではなく手段」
「順当に考えればそうなるな。連中が(愚)神との同化を至高とする宗教組織であったり、ただの愚神の傀儡だと言うのでも無ければ、だが」
リタがカードキーをかざすと、疲弊しきった槇、そしてノエルが迎えてくれた。
「何かを為すために『人間を愚神・英雄化』させる…………」
周りを見渡し佐千子はそう告げた。
「ふむ。人間自身を愚神や英雄に変えることで、それらと戦うための能力を与える。人種主義……、否、人間主義者」
「その割には、どこかのいい歳こいて思春期引きずってそうな商売人DさんがEXガールズだなんて戯言を言って喜んでいたわね」
「む。……やはり現時点では情報が不足しているな」
「そうね。…………一度、南米に渡りましょうか」
「飛行機はとっておいたお。H.O.P.E.お抱えの音速ジェットで飛んでくといいお」
告げると槇は武少年に歩み寄る。
「覚悟はOK?」
短い言葉に少年は頷くと、ノエル、そして燃衣と共に研究エリアに通された。
「これは、俺らが望んで俺ら自身にすることだお。個人の人権の範囲内なら、人体実験は可能だお」
それは毎晩行われてきた実験。
試験器内での細胞培養や血液合成での抵抗テストから開始。
それだけならいい。Dの施設にあった機材をそのまま利用しての 魂の融合、剥離テスト。
その本格稼働が今日からなのである。
「すべて、使ってください、僕は大丈夫です」
燃衣は告げる。そして魂の台座に座る。
「大丈夫です。やって下さい。じゃないと…………カナタちゃんに合わせる顔が無いですから」
頭に大仰なメットをつけて魂と呼ばれる何かを弄り出すべく引きずり出す。
燃衣は喉が焼けるほどの叫びをあげた。
ノエルに至っては自身にペインキャンセラー、その完成体を体に植え付けた。
そこからデータを取る。体が蝕まれる感覚が確かにあり。
それにひどく苦しんだが、途中で任務を放棄したりはしなかった。
子供たちの顔が浮かぶ。
彼らは今もこの苦しみを受けているのだ。
とにかく何でもいい。Dがもたらすデータを自分たちのものにするために、リンカーたちは狂った実験を繰り返すしかなかったのだ。
「武君は、自分の中に何かいるって感覚。ありませんか?」
燃衣は汗だくになりながら、機械から切り離されて床に寝そべった。スポーツドリンクも喉を通らず荒い息を整えようと必死になりながら。
心配をかけまいと武にそう言葉をかける。
「みんな、言わないけど、いるんだと思う。壊しちまえって誰かが叫んでるようなこの感じ」
「魂を乖離できれば……」
そう燃衣は歯を食いしばって痛みに耐える。
第三章
凄惨な光景だった。
白い壁は真っ赤に彩られて、龍華の足元に何かが転がった。
嵐の夜。雷が珍しく降り注ぎ、施設中の電気が落ちてしまったその時。
音もなく、静かにそれは起きた。
龍華は目をそらすことなくライトを部屋の中心に当てる。
そこには動かなくなってしまった少女と、動かない少年がいた。
「だれも近づけさせるな」
そうスタッフに短く告げると、振り向いた少年を一瞬で拘束した。
少年は声を荒げそれに抵抗する。
少女の内臓をひっかいた少年の爪から、血と汚物が振りまかれそれが龍華に付着した。
「御願い……だから! 大人しくして」
龍華は少年を必死に抑え込む。
「自分を取り戻してっ。ここから出たら、また元の生活に戻るんだろう!」
そんな龍華の呼びかけに少年は答えない、それどころか筋力は増していく。体が急速に従魔に近づく。
そんな時、声が聞こえた。
「殺して」
龍華は涙をこらえ、嗚咽をかみ殺してそして。『陰影』を振り上げた。
* *
次の日から施設の空気は一転した。
何があったか、察しがついているのだろう。
でも怖くて何も、何も言えない。
そんな少年少女たちの中心で明るくあり続けたのは楓だ。
「来るな! お前たちは僕らを殺すつもりなんだろう!」
そう、窓ガラスを割って、その破片で楓に襲い掛かる少年。
詩乃が共鳴するために走るが、それを静止して楓はその子を抱きしめた。
「ごめん、ごめんね」
脇腹にガラスが突き刺さったまま、少年を抱きしめて一緒に泣いた。
そんな騒ぎを聞きつけ、ヨハンが到着すると、冷徹な瞳で少年を黙らせると独房に連行する。
独房はすでに二つ使用されていた。昨日龍華に鎮圧された少年である。
まだ完全に体が変質したわけではないために、拘留という形になったのだ。
その独房の前に龍華がいた。
「どうしたんだい? こんなところで」
ヨハンの言葉に龍華は震えながら答える。
「怖いんだ」
龍華はいずれ子供たちから抱かれる感情や自身の手で死をもたらせることに恐怖を抱いてしまった。
「けど、本当に、本当に怖いのは俺じゃない。あいつらなんだ」
彼らの苦悩を思うと心が痛かった。憎悪も嘆きも受け止める覚悟をしてここに来たが、それでも心が痛むのは、仕方のないことだった。
そんな事態が進めば状況は悪化する。
お昼時、全員が食事をとっている間に、エリのもとへ少女が一人尋ねてきた。
「私を殺してほしいの」
その言葉に驚いたエリだったが。予想はしていたから。だから首を振った。
「今ね、リンカーもそうじゃない人も、君たちを幸せにするために頑張って研究してるんだ」
「それは、間に合うの?」
少女は鋭くとがった爪を隠すように背中に回す。
「上手くいく、なんて言えない状況だけど、それでも。有り得なくはないんだ。だから」
そう少女を抱きしめるエリ。
「でも、もうきっと、私はだめだよ。みんなを殺す前に、死にたいよ」
目に涙を浮かべたエリのかわりに、アイギスが問いかける。
「一緒にいて欲しい子は居る?」
「いないよ、私はみんなを死なせないために行くんだから」
「方法は?」
「やさしくしてね」
「何処がいい?」
「どこか、みんなの知らないところ」
二人は手を繋いで施設を出た。
そして離れた森の中に少女を誘い込む。
同時刻。施設の中の秘匿された一部屋、その申請がカゲリからあった。
そこには手術台の様な物が二つあり。双子が並んで寝かせられていた。
一緒に旅立ちたい、その願いを聞き入れて、カゲリは二人をこの部屋に招き入れた。
「きっと夢のような死を。私たちは永遠に楽園で一つなのよ」
妹が涙ながらに行った。
「お願い。冷たいお兄さん。私達に夢をみせて、きっと幸せな夢を」
カゲリは振り返る。その手の注射針を叩いて薬液を少しだけ出す。
「ああ、きっといい夢が見られる」
そんなことは思っていないのにカゲリはそう二人に告げた。
カゲリは二人に薬液を打ち込む、二度と目覚めない、しかし体は活動を続ける、そんな毒。
蘿蔔が、情報が少なすぎると言っていた。
特効薬めいたものも完成しているが、被験者がいないので効果のほどを確かめるのが難しいと言っていた。
だったら。
そうカゲリは研究棟から拝借したそれを子供たちに投与する。
「倫理を無視すれば科学は幾等でも進歩し、それは医療も同様だ。いかなる犠牲を払ってでも前に進む、覚者らしい行いだが」
ナラカはそんな、カゲリの施行を眺めながら一人ごちる。
「もはや刻限。であれば己が魂を闇に浸すこともいとわない……か」
その言葉にカゲリはナラカを見た。
「いや、覚者にとってすれば、それは信念に従ったゆるぎない行為だったね。すまない。善悪ではなく、前に進むかどうかが重要、そう言いたいんだろう」
その時、姉の心電図がフラットになった。
鼓動は戻ってこなかった。
「この薬は失敗作だ。それが今ここでわかっただけでも進展だ」
カゲリは告げると、データをまとめる作業に入る。
* *
結論から言うと、薬は完成した。
しかし、その量産体制を整えるのが思いのほか時間がかかり。
さらに厄介なことで。脱出計画を少年少女たちが企てているのをノエルは見つけてしまった。
それは十三日目の事である。
同時に、ついに従魔として目覚める少年が出てしまった。
手近な少年少女に襲い掛かる従魔。
しかし、そのあいだに入ったのはヨハンだった。
血なまぐさい香りをしたたらせながら、ヨハンは少年少女たちに微笑みかける。
本当は柄ではないのだけど。
「やっと出番だよ、僕の剣」
回し蹴りで従魔を吹き飛ばす。ヨハンもよく知る少年が、顔半分を獣のように歪ませて吠えたのが見えた。
「地獄に堕ちるような罪を犯す前に、ここで眠らせてやる!」
そう幻想蝶から武装を召喚するヨハン。
――無理、していませんか。
心配そうな声を漏らすパトリツィア。
「別に無理はしてないよ。ヴィランに拉致された子供の末路なんて、初めからよく分かっている事だからね」
不思議だった。愛剣リンドブルムが今日は冷たく、重く感じられる。
「ここに、僕たちの娘はいない。……だから、絶対に彼らをこの施設の外には出さない。せめて、我が子だけでも、この手で守るんだ 」
その混乱に乗じて、武が声を上げる。
「みんな! 俺たちの部屋に穴を掘ってる、もう少しで開通する。逃げるぞ!」
そう隣を駆け抜けていく少年少女。それを見送って龍華は武に告げた。
「……戻れとは言わない。無理やり連れ戻すから」
龍華は武に殴り掛かる。武は刃と化した腕でそれを止めた。
その武の必死の妨害もあって子供たちはトンネルを開通させることができた。
土まみれで穴から這い出て、見上げる月は美しかった。
ただ、その月を背に立つ一人の少女がいなければ、希望を抱いていられたのだろう。
そこに立っていたのは風に髪をなびかせた楓。
彼女は神に祈っていた。
子供たちを救ってほしいと。
けど、その願いは今潰えたのだ。
レーヴァテインが夜を青く焼く。
そう、それはもう二度と失わないために。
「戻ってください」
その言葉に子供たちはそれぞれ意を唱えた。
恨み言、偏った論理。いろんな主張を楓は聞いた。
しかし、それ以上に、従魔化が進行した。
楓は言葉を思い出す。
誄が全員に告げた言葉。
『薬は完成した。けれど、いまだ従魔化が進んでない、十名程度にしか効果が無いことも分かった』
それ以外の子供たち、つまりここにいる半従魔の子供たちは。もう助からない。
その言葉を楓は噛みしめて、そして剣を握った。
「あああああああ!」
従魔となっているとしても、子供は所詮子供だった。
そこからは楓による虐殺だ。
翻す剣は一撃で命を刈り取っていく。
(ああ……)
楓は思う、今血を吐いて倒れたのは毎朝お菓子をねだった子。
今自分の剣で空を舞ったのは毎晩一緒にお風呂に入りたいと言った女の子。
横たわる少年はいつも楓にちょっかいをかけてきた少年で。その少年の首を楓は切り飛ばした。返り血がその髪を濡らす。
陰炎の向こうに少年が見える。少年は怯えの視線を楓に向ける。
いつも、いつも楓に笑顔を向けてくれていた少年だった。
その表情から目をそらさずに楓は最後に刃を振るった。
鮮血に染まる丘で、楓は共鳴を解いて詩乃の背中に背中を預ける。
楓は月を見上げて告げた。
「…………ごめんなさい。救うことが出来なくて」
詩乃は血だまりの丘を眺めて告げた。
「謝りはしないよ。恨んでも構わない。君たちにはその権利がある」
二人は告げると座り込む、研究所には、戻りたくなかった。
エピローグ
「……君たちにも両親がいるのだろう。友達がいるのだろう。……でもそれは、君たちを逃した事で犠牲になるかもしれない人たちだって同じだ。行かせるわけにはいかないよ」
ヨハンの介入で武の鎮圧が完了した。理性を持ったまま従魔となっていた武は、記帳なサンプルという事で燃衣が研究所に連行する。
その到着した騒ぎを聞きつけて、槇は目を覚ました。
モニターはつけっぱなし、大量の缶を崩しておきあがり、肩にかけられたブランケットを見る。
次いで、誄を発見した。誄は槇を悲しい表情で見下ろしていた。
「大丈夫、終わったよ」
そのか細い誄の言葉に、槇は目を見開いて歩み寄り、そして胸ぐらをつかみあげた。
「おわった!? 終わったって何がだお!? まだ終わっちゃいねぇんだお! みんな、みんな助けるまで終れねぇんだお! だって、だって」
否定してほしかった、自分の予感を、全部うまく行った。そう言ってほしかった。
けど誄は何も言わない、兄者は正しい、そう言われているようで。槇は涙を流して誄にしがみつく。
「こんな、こんなのひどいお。みんな、普通に暮らしてたら幸せに暮せてたはずだお。なのに、なのになんで! なんで!」
その姿を見ると燃衣は踵を返した。
そのまま耐え切れず廊下の壁を殴ると、壁がひび割れ、無数の欠片が拳に突き刺さる、それでも燃衣は殴るのをやめない。
「……D……D……ッッ……!」
『ネイ=カースド(aa2271hero001)』はそれをただただ、眺めていた。
「殺す、殺す殺す殺してやる殺してやる!」
血を吐くほどに燃衣はそう叫ぶ。
救えなかった、その事実が全員の胸に重くのしかかる。
それでも救えた人間はいた。
症状の進行が遅かった八名の非検体は薬が効いているかどうか、二週間の検査をもって解放される。
「よく頑張ってくれたね…………ありがとう」
そう蘿蔔は子供たちを抱きしめてバスに乗せる。
ヴァイオレットやリンカーたちに手を振りながら、バスで親元に帰される子供たち。
それだけでも自分たちの戦ったかいがあったと二人はおもう。
そして二人は十字架に向けて祈りをささげた。
石碑には子供たちの名前が刻まれている。
「主よ、どうか良き場所へお導きください」
「憎んでも良い。汚れきった大人なのぢゃからのぉ」
その光景を見守るカゲリに、蘿蔔はそっと歩み寄ってその手を取った。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|