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【初夢】IFシナリオ

【初夢】今君が見ている世界

山上 三月

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
14人 / 10~15人
英雄
14人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/01/07 18:53

掲示板

オープニング

この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。


●今君が見ている世界
 今、どこにいるのか。果たして君にそれはわからない。
 夢か現か、幻か。
 ここはどこだろう。
 君は存在していただろうか。君は本当にこの世界にいたのだろうか。
 夢にしては現実感のある、いつもの君の部屋。休む場所。そんな場所で君は起きた。
 君は存在している。この空間に。
 いつもとは違う、喧騒も何もない静かな空間に。
 戸惑ったり、警戒したり、周囲に気を張る君の前にふわりと光が現れた。

●目の前に見えた君
 現れたのは君である。
 少し驚いたように瞠目した君の姿だ。
 はたり、と自分を確認すると、それは君ではなく君の英雄の姿になっている。いつもリンクして君に力を貸すその存在に君は今なっている。
 確固とした存在である。いつも君が見ているその姿と寸分の狂いもない。どこからどこまで見ても緻密に紡がれた姿であった。
 二人は同時に言葉を発する。
「……――!」
『……――!』

●置かれている世界
 ここは現実ではない、と君と英雄は判断したことだろう。
 そう、ここは現実ではない。夢か幻か、判断のつかぬ曖昧な境界である。
 君と英雄、いや、英雄と君と言ったほうが良いか、二人は話すことができる。それしかできないといったほうが正しいかもしれない。
 日常からかけ離れたこの場所で二人は何を話すだろうか。
 戦闘も何も無い、この平和といえる空間で二人は何を話せるだろうか。
 この空間から目覚めるまでのひと時を、二人どう過ごす?

解説

●目標
この空間から目覚めるまでの時間、英雄《リライヴァー》と二人で会話する。
日々の労いでもいいですし、愚痴でも構いません。お願い事をしてみてもいいです。普段話す機会のないことをこの際ぶちまけて下さい。

●登場
能力者《リンカー》と英雄《リライヴァー》のみ。
個別リプレイとなりますので、他の能力者や英雄との出会いはありません。
お茶やお菓子なども普段自室にありそうなものでしたら食べることが可能です。

・新年の正夢的な感じです。
・能力者は英雄の姿になっており、英雄は能力者の姿になっています。

リプレイ

●真壁 久朗(aa0032)アトリア(aa0032hero002)
『その……淡々とした自分の顔を見るのは、なんだかむず痒い気持ちになりますね』
「俺は全くの別人を視ている気分だ」
『と、というかそこ! 脚を開いて座らないで下さいワタシの姿で!』
 アトリアは急いで真壁に近寄り彼を見下ろした。真壁は面倒くさそうに脚を組む。
『そういえば、この目線は……、これがアナタの見ている世界』
 いつもの身長より数段高い目線は見ている世界が違う。
「……折角だ。少し、話しをしようか」
 アトリアは意外そうな顔をしながらも、自分の中に渦巻いていた疑問を口に上らせる。
『ずっと訊いてみたいと思っていた事があるのです。アナタが何故エージェントになったのか』
 アトリアはずっとそれが疑問であった。人の機微やまして恋愛にたいてしは朴念仁である彼が、どうして人を助けるエージェントになったのか。
「きっかけは愚神が起こした事故だ。その時腕と目を失くして……、唯一の親友も、亡くした」
 彼の腕と目は隠されている。片目は伸ばされた髪によって隠されていた。だから、アトリアは真壁の心を覗き込んだような気がした。
「助かったのは……、そこに現れたセラフィナのお陰だ」
『愚神に対して恨みは無いのですか?』
 アトリアの言葉に真壁は笑っていう。
「いや、それどころじゃなくて。毎日水底を歩き続けているように過ごして……、生き方が分からなくて死のうとしたらセラフィナに物凄く泣かれた。辛かったな」
 吐き出される言葉にアトリアは芯から心を打たれるような思いだった。普段は何かと癪にさわるけれど、今は。そう今は自分が真壁の姿をしているからなのか。
「ただ生きていくには……俺はあまりにも何もなさすぎた。己に何もないのならその空虚を誰かに埋めてもらうしか無い。だから、人と関わり合って自分と形作れと言う約束を果たしてみることにした」
『エージェントはそれにうってつけだったと』
「あぁ。……なんだか。……今は自分が自分では無いから妙に話しすぎてしまうな」
『多少は良いのではないですか』
 アトリアが笑う。真壁の顔で。
「……俺の知り合い、友達、そして仲間。皆にいなくなられたら……俺は困るんだ。俺を俺と示す術が、無くなってしまうから」
 その言葉はとてもアトリアの心に深く落ちた。真壁がそんなことを思っていたとは、知らなかった。
『……アナタがそこまで、儚く脆い心を持っていたとは思いませんでしたが。けれど、それなら……セラフィナがアナタを”今”へと繋いだなら。ワタシはアナタを”未来”へと導きたい。星の名を持つ者として、ワタシは標でいたいのです』
 至極真面目な顔で言ったアトリアにアトリアの顔した真壁は口を手で隠して言った。
「その顔で言われると、真面目に受け取りづらいな」
『ちゃ、茶化すところじゃありません! だから、もう少しアナタの世界を、ワタシにも見せてください。こうして……新年の始まりの夢でアナタの原点を聴くことができて、良かったと思いましたから』
「そうか……なら、よかった。俺もこうしておまえと話せるとは思わなかった、正直」
 いつもは憎まれ口ばかり叩いているものの、こうして互いの姿になることで話せたことは大きな変化だった。
『でも、これも夢ですね……』
「起きたら忘れているかもしれないから、話せたんだ」
 靄がかかったように視界がクリーム色に染まっていく。時間のようだ。

●九十九 サヤ(aa0057)七津(aa0057hero002)
「やってみたいことが、あるんです」
 そう言って真剣にサヤは言うと近くにあった黒のミニトランクを持ち上げる。それを振り回しはじめた九十九に、七津は思わず笑う。
『トランクに振り回されているみたいね』
「うう……」
『サヤちゃんも、柔軟性からしたら動けると思うのよ』
「あっナツさんはしなくていいです! スカートが!」
『失礼ね、スカートの中みせるようなヘマはしませんっ』
 確かに七津は綺麗に蹴り上げた格好からスタイリッシュに元の立ち姿に戻る。自分の姿なのにこんなにも動きが違うのかと、九十九は驚いた。
『姿が同じでも中身が違うとこうも変わるのね』
「本当に……私もっと格好よく出来ると思ったのに」
「サヤちゃんはそのかわいらしいままでいいのよ」
 へへ、と九十九は照れ笑いをする。それから、何か思いついたという顔をした。
「私らしい、っていうとですね、もう一つやりたい事思いついたんですけど」
 九十九がそっと目の前にいた七津を包み込むように抱きしめた。
「今は私の方が大きいから。去年はナツさんに色々守ってもらったから、たまには私がナツさんを包んであげられたらなって」
『えぇ。ありがとうサヤちゃん』
 包まれた中で聞こえない程度の小声で七津はいった。
「……本当に、中身が違うわね。そんな風にできていたらワタシも……」
「あの、えっと、やましいことを考えているわけではなく、感謝の気持ちということで! って、何か言いました? ナツさん」
『いいえ。何も言ってないわ。じゃぁちょうどいい機会だし今から護身術教えてあげるわ。考えはともかく、動きは今のワタシが動ける以上サヤちゃんも動けるはずだものねぇ。せっかくの機会ですもの、新年気を引き締めて鍛えてあ・げ・る♪』
「えぇっ?! 新年早々トレーニング?!」
 七津はやる気まんまんのようである。逃げられない、そう確信した九十九は渋々よろしくお願いしますと頭を下げた。
『じゃぁまずはキックからね』
 そういうとすんなり七津はキックを繰り出す。九十九の身体でだ。
「そう簡単にできるものじゃないと思うんですけど……」
『思い切りが足りないわ、何か悪意のあるもの、例えば愚神に向かってキックをしている時を思い浮かべるのよ』
 九十九がキックを放つ。空を切ったキックはかなり鋭かった。
『その調子よ!』
 と、クリーム色の靄が視界にかかる。
『あら、時間切れみたいね。サヤちゃんと、こうして話せてよかったわ』
 とても幸福そうに、七津は笑った。九十九の姿で。
「ナツさん! この夢、忘れちゃっても、それでもナツさんのこと」
 靄が全体にかかる。もう、九十九の姿をした七津の姿は見えなくなっていた。

●黄昏ひりょ(aa0118)フローラ メルクリィ(aa0118hero001)
 黄昏とフローラはここが有り得ない夢の中であるということを認識すると、ソファに腰掛け、目の前のお菓子に手を伸ばす。
「振り返ってみると、色んな事があったな……」
『うん! 色んな物食べたよね♪』
「……確かに。なんだか仕事先で食べている機会多かった気がする……」
『でも、食べてる時って幸せな気分になるもの! 楽しかったよ!』
「まぁ、そうだな」
 シュークリームを手に取り咀嚼する。甘い味がじわりと口内に広がった。
『でもさ、ひりょ。無茶する局面も結構あった気がするよ? 見ていて危なっかしい時が結構あったもの』
「う……、まぁ、たしかにな」
『そんな戦い方続けていたら、いずれ自分がボロボロになっちゃうよ? それでもその道を歩み続けるの?』
 側で見守っているフローラだから言えることだった。ずっと言いたかったけれど、心に閉じ込めたままの答え。互いの姿になった今だからこそ言えた。この身体で無茶をしてはいずれ壊れてしまう。
「たぶん、歩み続けると思うよ。俺の目の前で悲しい思いをしていたり、辛い思いをしている人を放ってはおけないから」
『……、本当にお人好し、だよね。ひりょって。消えかかってた出会ったばかりの英雄と誓約を結んじゃうくらいだものね』
 苦笑しつつ言われた言葉に黄昏は自分を省みる。でも、それが黄昏の中の願いであり、希望であるのだ。周りが傷つくくらいなら、自分が傷ついたほうがましだ。
『あの時は、本当にありがと。ひりょは危なっかしい所あるし、当たって砕けろで、本当に砕けちゃう事あるし…。でもひりょのお人好しな所に私も助けられた一人なんだよね?』
 フローラは本当に感謝していたのだ。ひりょに助けられたことを。そうでなければ今自分はここにいなかった。
「……貶されてるんだか、褒められてるんだか……微妙な気分だな」
『程度の問題はあるけど、ひりょの通ってきた道は間違ってなかったんじゃないかな?』
 黄昏はよく、迷うことがあった。この道が正しいのか、自分は間違っていないのか、と。正しさがわからなくなるのだ。そんな気持ちをフローラに見透かされたような気がした。
「そうだな。たぶん、道は間違ってなかった。強いて挙げるならもう少しその道を歩いている時の風景とかを楽しむ気持ちがあればよかったのかもな」
「うん! 皆が笑顔である日々を。だけど、自分も笑顔でなきゃ」
 二人の誓約は人々の笑顔を守ること、である。
「あぁ。もっと自分自身が日々を楽しんでいくよ」
 黄昏の言葉にフローラは今はフローラの姿をしている黄昏を撫でる。
 視界に靄がかかる。クリーム色の靄は二人の視界を、全てを優しく包み込んだ。

●御神 恭也(aa0127)不破 雫(aa0127hero002)
 二人は互いにソファに座し、神妙な顔をしていた。御神は自分の姿に語りかけるのは変な気分だと思いつつ、不破の方は頭の中の霧がすこし晴れたような気がしている。
『何が起きたのかは良くわかりませんが、害意も感じませんから話でもして時間を潰しませんか?』
「……訳の解らん事態に陥ったと言うのに、随分と平然としているな」
『少し記憶が戻って来ているみたいで、前の世界でも似たような事が度々あって慣れているんですよ』
「こんな事が度々起きる世界ってどんななんだ?」
『それを話すのにもいい機会じゃないんですか? 私もキョウの過去を知りませんし』
 御神は重たい口を開く。それが不破の姿であるからこそ、客観的に話すことができると感じた。
「俺は、幼い時に両親を失った。祖父母の元で流派の腕を磨きながら育って来たんだ」
『ちょうど私が記憶を失った頃ですね』
「あぁ。初の護衛任務の際に愚神の騒動に巻き込まれ伊邪那美と契約して、契約後は学業とH.O.P.E.の兼任となり、家業の方からは手を引きつつある。そして現在に至る、だな」
『私は天魔に襲われ記憶を失うと同時に保護された際に天魔と戦う力を確認されたので、争乱の終結まで天魔と戦い続けました。その後の記憶は、曖昧で……思い出せませんが』
 二人は互いの過去を初めて知る。
「……正直に言って、異常過ぎる世界じゃないか? 年齢一桁で実戦に投入するなんて」
 心底、といった表情の御神に、御神の顔をした不破が当たり前とでも言うように返した。
『まぁ、私のように一桁代で戦いに出た人は少ないですよ。それに実戦に出るか出ないかの差でキョウも似たような境遇です』
 まさか、似たような境遇であるとは思ってもいなかった。
「なら……此方に来ても戦い続けることに何か思うことはないのか?」
『優しいのですね、大丈夫ですよ。何かを守る為の戦いなら嫌とは思いませんし、戦いのみが私の存在理由とは考えてませんから』
 その言葉を聞いて御神は安心した。戦うことだけを、存在理由に捉えていたならば、それはとても悲しいことだ。
「そうか。なら、これからもよろしく頼む」
『ええ、こちらこそ。ところで、このお菓子美味しそうですよねキョウ』
 そう言って不破が手に取ったのはレモンパイだった。ぱくりと食べる。
『美味しい! キョウも食べてみたらどうです?』
「いや、俺は……」
『半分、ほら、どうぞ』
 食べかけのレモンパイを差し出される。ええいままよ、の精神で御神はそれに齧り付いた。
「うまいな」
『でしょう? 次は何を食べましょう』
 薄クリーム色の靄が視界にかかる。
「どうやら、ここまでのようだな」
『えぇ、まだ全部食べていないのに』
「全部食べる気だったのか……」
 自分の姿でそれを想像すると、かなり来るものがあった。胃もたれがしそうである。姿が自分なだけに。
『それじゃぁ、キョウ。これからもよろしくお願いしますね』
 その声を聞いたのが最後だった。
 その後目覚めた二人が元の姿に戻って安堵したのは言うまでもない。

●辺是 落児(aa0281)構築の魔女(aa0281hero001)
 さて、何が起きているのか。構築の魔女は周りを見回す。視界の高さや目に入る腕を見て、この身体は辺是のものであると認識した。
『記憶の連続性はなし、状況は不明、さて目の前のあなたは誰でしょう?』
「□□――」
『あぁ落児ですか、となると意識というか……身体が入れ替わっていますか?』
 辺是も頷く。どうやらそうらしい。
『しかし、この状況どうしたものでしょうね?』
「□――□」
『ん? 口調を変えられないかですか? あぁ、なるほど、留意しよう。口調の違う自身を見るのは違和感があるからな、さて、改めてどうしたものか』
 辺是が何かを試すように仕草をするが、出来なかったらしい。それがすぐに共鳴のこととわかり構築の魔女も頷く。
「―――□」
『確かに共鳴が出来ないようだな、まぁ、霊力の流失等の危険性もないようだしのんびりとしていよう』
 辺是は釈然としないと言う顔をしていたが、構築の魔女はのんびりする気満々である。
『ふと思えば、こちらに招かれて二年以上か、それなりの付き合いになったな』
「――□―」
『こちらにもこちらの目的がある。お互い様だろう』
「□□□―」
『感謝するのであれば止めはしないが』
「□―□□」
 辺是は違和感を訴えていた、この姿にである。
『まぁ、諦めるしかないだろう。こちらも同じく違和感だらけだ』
「―□□□」
『ほぼ人間か魔粒子か分からない存在になっていたが、性別が変わることはなかったからな。異世界の私もそういう意味ではまだまだ人間らしさを残していたのかもしれないな。視点が変わらないと気づけないもの等どこにでもあるということだな』
 そう、この視点でなければ、わからないことがある。
「□□―」
 辺是の言葉に構築の魔女は頷く。
『明晰夢と言う可能性は高そうだな。同じ夢にいるのは誓約を交わしているからだろうか? 原理に興味が沸くのは悪い癖だな』
「――□□」
『そういえばそんなこともあったか。大掃除のことだな。まぁ掃除する所も無かったが』
「□――」
 辺是は少し笑った。構築の魔女に分かる程度に。そんな辺是の頭を思わず撫でる。
『はは、いや。気にするなこれも夢だと思うとな、少ししてみたくなっただけだ。いつも頑張っているからな』
「□――」
『ああ。落児には感謝しているよ』
 視界にクリーム色の靄がかかる。二人はクリーム色の靄に包まれて徐々に姿を消していった。

●麻生 遊夜(aa0452)ユフォアリーヤ(aa0452hero001)
「……なるほど、今回はこういう趣向か」
『……ん、新しいパターン……だね』
今までも唐突に身体的に若返ったり成長したり精神的に幼くなったり動物になったりしたが、もはや驚きもせずに新鮮さを感じている辺り俺たちもそこはかとなく狂気に染まった感じがあるな、と麻生は独りごちる。
「朝に鏡で見る程度しか機会がないが自分が自分と違う動きをしてるってのは違和感あるな」
 ユフォアリーヤの姿で耳や尻尾を動かしたり触ったり、手足をふりふりと動かしてみる。
『……ん、尻尾がない……頭と体が、軽い感じ』
 頭やお尻ペタペタと触り、体を捻ったり屈伸運動をはじめる。やはりあるものが無くなると身体の感じ方も違ってくるのだろう。麻生は髪や胸を持ち上げながら言った。
「確かに……前も後ろも重いな、常にこんな感じなのか」
 髪の毛や胸がここまで重いとは想像していなかった。これであの動きと射撃精度というのは素直に感心に値する。
『……慣れだと思う……ちょっと、目に違和感……でも今なら、壁走り出来そう』
「まぁ、義眼だしな、こっちも慣れが必要だろう」
 パルクールくらいなら出来るだろうが、流石に壁走りは、キツイ年頃になってきたのでぜひともやらないで頂きたいものである。
「さて、現状の確認は完了だ……何をしようかね?」
『……ん、のんびり……する?』
「最近は師走と言う事もあって息つく暇もなかったし、そうするかー」
『……いつまではか、分からないけど、ね』
 膝をぽんぽんとするユフォアリーヤに、麻生はおもむろに頭をのせる、が。……硬い! 安らげない! という思いに、ショックを受ける。
「……自分はこんな感じだったか、癒されないな」
『ん、これが良いのよ?』
 ユフォアリーヤはクスクスと笑いながら麻生の髪を梳いた。やはり男女の違いだろうか、麻生にはわからない良さというものがあるらしい。
「仕方ない、ではリーヤの癒しになるとしよう」
 今度は起き上がった麻生が膝をぽんぽんと叩く。ユフォアリーヤは自分の姿をした麻生の膝にいそいそと寝転がった。
『……ん、やわやわ』
「……やっぱ自分の顔でその言動だと、すごく……心にクるな」
 黒歴史に記述される勢いで、麻生は心と葛藤していた。リーヤにその気はないと分かっていてもである。
『……違和感は、お互い様……だけど、ね』
 嗚呼、俺の癒やしはここにあったのだ、と再確認された。早く、早く現実に戻せ! 起きたら真っ先にリーヤを抱きしめに行くとしよう!
 そう決めて麻生は寝転がったユフォアリーヤの肩を撫でた。これが、自分の姿でなければ……!
「全く……姿が変わることがこんなにももどかしいことだとは思わなかった」
『ん……そう?』
「早く起きてリーヤを抱きしめにいきたいと、思ってな」
 ユフォアリーヤはそれこそ極上に幸せそうな顔をして少し頬を染める。だから、この姿が自分の姿でさえなければ……!
「早く起きたいな」
『……ん。そうだ、ね』
 二人がクリーム色の靄に包まれる。姿は見えなくなっていた。

●月鏡 由利菜(aa0873)ウィリディス(aa0873hero002)
「リディス? えっどうして、私が目の前に?」
『ほわっ?! シオンって……もしかして君? あ、あたしがユリナっぽい?』
 両者混乱の最中にあった。
「り、リディス、とりあえず落ち着いて、あなたから見て私はどう映っているの?」
『……ユリナの昔の友達のシオン。以前写真で見せて貰った時のままだよ、髪も茶色だし』
 場所は月鏡が静岡にいた頃通っていた高校である。人は一人もいない。
「もし第一英雄(リーヴスラシル)との契約がないか、誓約が違うものであれば、私も地元の高校を卒業するはずだったわ……」
 高校にいるとそんな言葉も出てくる。
『でも、ユリナが契約してなかったら、あたしも先生(ラシル)には会えなかったよ』
「そうね……。リディスと出会うことだって……なかったかもしれない」
 そう思うと、契約してよかったのかもしれないと思えた。
『ユリナ、実はね、あたしの3つの魂さ、多分……、合わせて5回死んでるんだ』
「リディス……?」
『よくわかんないけど……、一番強くなるのは、死んだ回数が少ない魂……なのかもしれないね』
 ウィリディスは3つの魂が統合して生まれた英雄である。リディスが一番表に出てくるのは、彼女を構成する要素としては唯一死を迎えていないからだろうか。
『まぁよくわかんないけどさ! ともかく、昔のことだし』
 自分の姿で楽しそうに話すウィリディスの姿を見て、月鏡は自分のもしもに思いを馳せた。もし、私がウィリディスのように明るい元気な性格だったら。過ぎ去ったことの『もしも』の仮定
に意味はないって分かっているけれど。でも。どうしても、捨てきれない思いがあるのだ。
「そっか、そうね……」
 夢の中の自分の姿がウィリディスではなく、何故皇詞音として現れたのか。今も、きっとユリナはシオンのことを忘れていないんだ。ユリナの誓約の中には『会うのを断ち切った人々との思い出を忘れない』って言うのもあったし、それはわかる。
 けれど、『あたし』もユリナの親友なのだ。かけがえのない存在として。
『ねぇユリナ、あたしも、ユリナの親友だよ』
 ウィリディスは自分の姿の月鏡に思い切りよくハグした。途端に、二人はクリーム色の靄に包まれていく。
 目覚めたウィリディスは、起こしに来た月鏡の顔を見て驚いた。
「リディス、あけましておめでとう。ほら、朝ごはんよ」
『ほわっ? ……あれ、さっきのは初夢だったのかなぁ……』
 初夢なのだとしたら、いい夢を見た気分だ。
「ほらほら、朝ごはんだってば」
『うん! 今起きるから』

●炉威(aa0996)エレナ(aa0996hero002)
 炉威とエレナは互いの姿を見つつ、自分の身体をしげしげと見下ろした。
「そういえば普段は気にしてなかったが、お前さんは翼があるね」
『ええ。何時でも炉威様の元に飛んでいける為にですわ』
「お前さんが元居た世界は皆翼持ちかね?」
『えぇ。でもわたくしの翼は特別ですわ』
「天使さまが沢山ってトコかね」
『うふふ、炉威様にとってわたくしが天使の様なモノってことからの連想ですわね』
 なかなかにエレナは情熱的である。つまりは炉威に対する執着が異常だった。
『実際のトコロ殆どの者が白い翼で、わたくしのような黒い翼は稀ですわ』
「稀、か。村八分とかにでもなってたかね?」
 背中からふいと羽を寄せて触りながら炉威は言う。
『特別の証ですもの。汚らわしい者達と一緒になど居られませんわ』
「ポジティブだねぇ」
『結局、炉威様以外の者と同じ空気を吸う事すら怖気立ちますわ』
 微妙に話しがつながらないものの、言いたいことはなんとなくわかる。
「迫害とか虐待とかそういう感じの扱いだった様なモノか」
『ええ。でもわたくしはわたくしその儘。ご心配には及びませんわ』
「そうかね。幼女じゃ手を出す奴も稀だろうしな」
『わたくしの初めての人は炉威様。そして炉威様の最後の人はわたくしですわ』
「寝言は寝てから言うもんだよ」
 炉威はさっぱり冷めた口調でエレナに言った。だって、本当に彼女の執着は異常なのだ。
 炉威がテーブルの上にあった菓子をつまむ。エレナにも渡してやるとエレナもそれを食べはじめた。自分の姿が菓子を食っているというのも中々変な気分である。
 前髪が下がってきたのをなおそうとしたエレナがはっとして言った。
『炉威様は左目、わざと隠していらっしゃいますの?』
「まあそうとも言えるかもね」
『何時か拝見したいモノですわ』
「……鏡見れば今すぐにでも確認できるだろ」
『勝手に。では愉しくはありませんもの』
「……視力がないんだよ。あと色がね。確認してみるといいよ」
 そう言って、置かれていた鏡を手渡す。
『……銀の瞳、ですわね』
「ああ。だから何ってわけでもないがね」
『生まれつきのモノ……という訳でもなさそうですわね』
「よく分かったね。色は先天的だが、視力は後天的って訳だよ」
『お話を、聞かせて頂いても構いません?』
「つまらん話しだよ。ま、お前さんの翼の色と近いかもしれんがね」
 少し沈んだ顔をしたエレナだったがすぐに目を輝かせて言う。
『わたくにとっては素敵な瞳の色ですわ。視力の方は如何してですの?』
「ま、簡単に言えば変わり種を産んだ母親が、色々あって気が触れて刺されたってトコなだけだよ」
『そんな……そうでしたのね。私そうとも知らず』
「知らなかったのだから無理ないさ。つい、喋りすぎたね」
 ははっと笑ってみせる炉威にエレナは申し訳そうな、けれど少し嬉しそうな顔をして答えた。
『わたくしと炉威様との二人だけの秘密。素敵ですわね』
「まいったな。そうくるか」
『だから、秘密ですわよ。炉威様。わたくしも秘密に致しますからね』
「ああ。秘密、な」
 クリーム色の靄がかかる。二人はそれに包まれて、ついにはお互いの姿が見えなくなった。

●麻端 和頼(aa3646)華留 希(aa3646hero001)
 入れ替わった二人は二人二色の反応を示していた。
『うわっ! 入れ替わりだって、面白そ! 和瀬の姿で悪戯シに行こっカナ♪』
「……これは夢だ、夢であって現実じゃねぇ、だから何があっても現実は何も変わらねぇ……」
『オォ〜♪ 視線が高いネ! 見晴らしがよくイイナ』
「……お前は本当にプラス思考だな……」
『ソレがアタシのイイトコロ〜♪ お洒落なバーでお話でもシヨっか!』
 ここが現実ではないため、ある程度のものは望めば実現されるらしいことを確認している二人は、想像でバーを作り出した。あっという間に空間が早変わりする。
『アタシの格好で足開かないデ!』
「オレの格好で内股歩きすんな!」
 双方睨み合う。
 どちらが先か、両者は華留がカクテル、麻端がウォッカを呷った。
『……ワイルドブラッドが当たり前の場所で生まれてタラ、こーして会うコトなかったろーネ』
「……お前も、異世界でドジしなけりゃ此処にいねぇだろ」
『まぁネ。堕落しきった世界を破壊する神だったのニ、思わぬ事態で海に落ちたらこっちにいたからネ。しばらくは破壊衝動が抜けなくて散々命を奪ってばっかりで』
 二人は目も合わせずに語る。聞いているのか、いないのか、それでも滔々と語り続ける。
『おかげさまで、和瀬の英雄になれて、人が愛おしく思えるようになったケドネ♪』
「はぁ……、オレは環境のせいですべてが敵だった。人からすべてを奪い生きてきた。だが、希と誓約を結ぶことになってすべてが変わっちまった。人として歩めたのもそのせいか……」
 お互いH.O.P.E.からの救済措置によって生きながらえている身である。それがなければ今頃二人とも始末されていただろう。
『やっぱサ、環境って大事だヨネ! 元々コノ世界にいたラ、アタシだってタダの悪戯好きの女のコダッタと思うシ』
「……まぁ、後は出会い、か? 運は良かったな」
 麻端は恋人の姿を思い浮かべ、耳を赤く染めて隠すようにウォッカを飲み干す。H.O.P.Eの考えも読めないものである。処分対象としてはもっと罪の浅い者もいただろうに、何故アタシ達(オレ達)なのか。
『偉い人の考えるコトは凡人には分からないモンなんだヨネ』
「……元神が何言ってやがる」
『どうせ覚えてないだろ……ケドサ』
「……ああ」
「お前に」
『和瀬に』
「『出会えて良かった』」
 二人は顔を合わせて微笑んだ。クリーム色の靄が二人を包む。夢が醒めるようだ。

●フィアナ(aa4210)ドール(aa4210hero002)
「ドールっ! スカートなのよ、そんなに足広げないでっ」
『お前こそ俺の姿でその言動やめろ』
 互いに、ままならぬものである。言い合いをしたのち、諦めたのか二人は茶と菓子を口に運ぶ。
 フィアナは自分の両腕にある腕輪に気づき、左足の足輪を見て小さく言った。
「ねぇドール? これ昔枷だった……って言ってたよ、ね? 捕まってた、の?」
『あーそうだなー』
 寝転がったままあっけらかんと言うドールにフィアナは不満気な顔で返す。
「どうして? ドールとっても優しいのに」
『優しいって……ふっ、ははははは!』
「なんで笑うのっ」
 笑われたことに対してむくれながらフィアナはドールを叩く。ドールはそれにくつくつと笑いがおさまらぬ様子で答えた。
『それ、お前の大好きな兄さんにも今度聞いてみろよ。ぜってぇ笑い出すから』
「……それで、どうしてなの?」
『どうしてって言われてもなぁ――負けたら、だな』
 ぽつりと口にした言葉にフィアナはわからないといった顔をする。
 そんなフィアナを誤魔化すようにドールは自分の隣をぽんぽんと叩くと言った。
『ほら、さっさと寝ろ。暇だから一緒に寝てやるよ。寝てたらこの夢も醒めるだろうしな』
「まだお話終わってないのだけどっ」
『あーはいはい。また今度な。もう今は面倒くせぇわ』
 ドールに腕を引っ張られてフィアナは寝転がる。
 寝ろと言われれば寝れなくもないが、気になるものは気になる。
「ねぇ、なんでなの」
『寝て忘れちまえ』
「もうっ」
 ぷくっと頬を膨らませるフィアナをドールは撫でた。クリーム色の靄がかかる。もう、時間切れのようだ。
 あの怪しい不思議な空間から目覚めたドールは自分の腕にはめられた敗者の証を眺めてニッと笑った。
『昔の話だ。フィアナは知らなくていい』

●逢見仙也(aa4472)ディオハルク(aa4472hero001)
「これはまーた楽しい事に」
『何も危険がなさそうだからと俺の姿でダラダラひねり揚げかじるな。畳が汚れる』
「俺の姿で言ってると気味わりーな」
 そう答える逢見はこりもせずひねり揚げをかじっていた。
「いやーやっぱ話しやすいね」
『何がだ?』
「いやさ?俺とお前って根本的に同じに感じない? 外見も、心もデキは全く違うのに、根本は同じな感じというか? 立場や人生が同じなら全く同じモノになった気がするっつーか」
『はぁ?お前が俺と同じ生き方をしたとして、同じになるとは思えんぞ?恩や縁を忘れるお前じゃ』
「つれないなぁ。一応恩は感じてるよ? ここまで楽しい夢が見れて、これからも見れるんだし?」
『何の話だ?』
「戦える異常な日常はお前が来たから楽しめて、それの良さも契約してからの出来事に教わって楽しめてるのさ? 俺?」
 逢見の言葉にディオハルクは不可解な表情をするが諦めたようにため息を吐く。
『お前は、そういう奴だったな』
「わかってるなーディオハルクは。はてさて? そろそろ起きたいね」
『話題が尽きたのか?』
「まだあるよ? 俺。ただここじゃお前が英雄としての俺なのか、英雄のフリした俺なのかわかんないだろ?」
『大事な話をするなら起きてからか』
「そそ。まぁ起きた先も夢かもしんねーん(新年)だけどな。新年だし」
 冷たい風が流れた。
『寒い。お前は全て残念な出来だな』
「畜生! そういうお前は人の事出汁にして正義の見形すんなー! お前自身含めて嘘ついたって俺には分かるぞ? 人間の味方したかったから戦ってる癖に、戦う為に正義ごっこしてる俺を理由にして嫌々戦うフリすんな! 起きたら覚えてろバーカ」
 流れるような文句にもディオハルクは気にせず続ける。
『……何言ってるか分からんが、取り敢えず人の事を◯◯と言う奴は、そいつ自身が◯◯な奴らしいぞ? 第一お前は俺なんだろ?』
「お前も普段言ってるじゃん! ばーか!」
 軽口を叩ける仲という訳か、とディオハルクは独りごちる。
 クリーム色の靄が視界にかかる。
「お前、本当覚えとけよな」
『ああ、わかった。分からんがわかった』
 それを最後に、二人の姿は掻き消えた。

●藍那 明斗(aa4534)クロセル(aa4534hero001)
「何だ、目の前にすげーイケメンがいると思ったら俺か」
『うわー……自分のつむじを肉眼で見る事になるなんてなぁ……』
 対するクロセルはその状況を楽しんでいるようだった。長い間生きているクロセルには多少の事にも動揺しない心が育っていたのである。
「クロセ、なに体のにおい嗅いでんだよ」
『汗のにおいすると嫌だなって』
「失礼な。俺の体の匂いだからなにがあっても強制的にミントの香りだ」
『その自虐ネタは罪の無いミントへの風評被害だよ』
「なにを……本当に失礼だな」
 そんな会話をしつつ、お互いに状況を飲み込めたらしい二人は椅子に腰掛け話しはじめた。
『この前まで僕のほうが大きかったのにな。目線としては今の差くらい?』
「いつの話だよ。追い越してから随分経つぜ」
 藍那は照れくさそうに言った。
『本当に大きくなったよ』
「当たり前だ成長してんだ。昔と言えば、前の世界ではアレだろ。お前主体で共鳴する時みたいな外見」
『ん。でも、なかなか成長できなくて。成人体になるのには……300年くらいかかったかなぁ』
「300年!? 冗談だろ……つーか本当にじじいだな」
『こら』
 片手を挙げた藍那の姿のクロセルに藍那はひょいと体をのけぞらせる。
「おっと……その体で怒られんのは妙に怖いな」
『強そうだものね。こういう逞しい体になりたかったっけ』
 ぽつりと言うクロセルに、大きくなることに憧れを持っていた藍那は同じ思いを持っていたことに驚いた。そんな藍那の気持ちを汲んだようにクロセルがくすりと笑いながら言う。
『僕ら、案外似たもの同士なのかも』
「ははっ。そんで俺に気を遣ってたって訳か?」
『何言ってるの。遠慮なんかしてあげないから覚悟なさい』
「キャークロたんこわーい」
 自分の姿でぶりっこされたその様に怖気を感じクロセルは真面目なトーンで言った。
『やめて』
「ははっこの姿じゃぁな。早く戻りたいぜ」
『でも、少し話せて良かったよ。こんな事がなければ話さなかったような気もするし?』
「だな」
 普段からあまりクロセルは自分のことを話さずにいたから藍那も聞けなかったのだ。それが聞けたいい機会だと、少し良い気分になる。
 クリーム色の靄が距離の近づいた二人を包む。夜明けが近いようだ。

●高野信実(aa4655)ロゼ=ベルトラン(aa4655hero001)
『いつもより天井が遠いみたいね』
「悪かったすね背が低くて!」
 正直高野はどうしたらいいかわからないでいた。この姿は恥ずかしいばかりだし、早く戻りたいのだ。極力ロゼの体を見ないよう、触れないように注意しながらネグリジェながらも胡座をかいた。一方ロゼの方は興味津津といった様子で、高野の体である自分のあちこち触ったり鏡に向かって色んな表情を見せていたりした。
『や〜ん! ほっぺたぷにぷにする〜♪』
「頼むから勘弁してください!」
『信実クンだって触れていいのよ、アタシのカ・ラ・ダ♪』
「俺の格好で変な声出さないでくださいってば!」
 顔面蒼白である。高野は引いた様子で言う。
『信実クンいっつもお部屋に入れてくれないもの。これは役得! 堪能するわよ!』
「今のロゼさん、ヘンタイみたいっす……」
 ロゼは教科書を眺めては目を回し、クローゼットを開いては服に顔を埋める。
「ちょ、やめてくださいよ」
 そんなロゼを見て赤面しつつ何度も高野はそれを止める。
「なんで、ロゼさんより小さくて子供っぽい自分が好きなんすか?」
『信実クンはアタシの救世主なのよ』
「自分じゃなければその人を好きになっていたんすか……?」
 ロゼは面白そうににこりと笑った。
『なぁに、嫉妬しているの?』
 高野は耳まで赤くなって黙った。
『今は、信実クンのいない未来など考えられないわ』
 窓辺からくる月明かりに照らされ、高野の格好であるロゼは妖艶に微笑んでいた。
 そんなロゼと目があった高野は電撃が走ったような衝撃を受けた。ああ、そうなのか、と。
「そういえば、なんでいつも左手首を隠すんすか?」
 そう言って手首のリボンに手をかけた高野をロゼは青ざめ、高野に飛び乗る勢いで全力をもって止めた。高野はロゼに飛び乗られ混乱する。
 ――ゴツン
『あら、気絶しちゃった?』
 ロゼはそんな高野の額に、優しく口付けると共に眠った。
 二人はクリーム色の靄に包まれていく。目覚める時間は近い。

●小野寺 晴久(aa4768)芦屋 璃凛(aa4768hero001)
『何でこんなむっさいおっさんになってしまったんや』
「何とも、変な気分なんやな……、この不死の体言うんわ」
『せや、冷たい体やのに生きているのは変な気分やろ』
 自嘲気味に芦屋が呟く。
「あぁ、すまん、いろいろあったんやったな」
 体が芦屋のせいなのか、突然芦屋の記憶が垣間見えた。それに呼応するかのように芦屋は話す。
『過去は過去なんやけど、未練なんやろうな。色んなアヤカシとの戦いがあって、人以外にも英雄に似た存在がおって。人間関係でこじれて陰陽寮を巣立ってからそこには立ちいらんかった。ほんで、気がつけばアヤカシになってしもうたんや』
「ったく、意地張ったり、負い目ばかり考えるからやろ。笑顔がええのに。」
『あのなぁ、だからおとんってどんなんかな、よう分からんのや』
「わいも……立派なおとんかは分からんけど、双子の父親としては上手くこなせてるか分からんけどな。馬鹿な考えかもしれんけど、キョンシー映画とか好きやったから……なんて思うとるんや」
 言葉を切って小野寺は続けた。
「おとんには、成れへんけど、代わりくらならできるで」
『ありがとう、せやけど泣いたりせえへんからな!』
 そう言って芦屋は小野寺をどつく。漫才のようになってしまうのがこの二人である。
「せやから、空とロコの世話も頼むで」
『わかった、わかった。任せとき。さて、何喰おうか』
 目の前に並ぶのは小野寺手作りの関東煮や雑煮だ。
「これ食うたらええんちゃう」
 小野寺は雑煮をすすめ、自分も一皿とる。
『やっぱ美味いわ』
「ほうか? そりゃ良かった。作った甲斐があったで。ちゅーても夢の中やけど」
『夢でもこんな美味いもん食えて幸せや』
 いつもより感想を素直にさらけ出してくる芦屋に小野寺は微笑んだ。
「なら起きたらもっと美味いもん作ったるさかい」
『楽しみにしてるわ』
 そう言いながら二人して雑煮を口に運ぶ。
『空とロコも喜ぶやろな』
「だとええんやけど」
『ちゃんと父親やってるから安心しぃ』
 照れくさそうに小野寺は笑う。
 美味しい雑煮を食べながら二人はクリーム色の靄に包まれていく。目覚める時間のようだ。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • いつも笑って
    九十九 サヤaa0057
    人間|17才|女性|防御
  • ミステリアスの中に一滴
    七津aa0057hero002
    英雄|23才|男性|ブレ
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • 白く染まる世界の中に
    エレナaa0996hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 裏切りを識る者
    ドールaa4210hero002
    英雄|18才|男性|カオ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • 飛込みイベントプランナー
    藍那 明斗aa4534
    人間|26才|男性|命中
  • アホ毛も武器
    クロセルaa4534hero001
    英雄|16才|?|カオ
  • 特開部名誉職員
    高野信実aa4655
    人間|14才|男性|攻撃
  • 親切な先輩
    ロゼ=ベルトランaa4655hero001
    英雄|28才|女性|バト
  • 己に拠って立つ
    小野寺 晴久aa4768
    機械|34才|男性|防御
  • 天儀の英雄
    芦屋 璃凛aa4768hero001
    英雄|23才|女性|ソフィ
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