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【初夢】IFシナリオ

【初夢】おそろしいきょうてき

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/01/10 21:41

掲示板

オープニング

●注意
 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●減らない敵
「――くっ! 前線の部隊は一時撤退! 第5から第8小隊は前線で敵の迎撃を継続! 静香さん、第9から第12小隊の様子は!?」
『第1から第4小隊の支援準備を整えています。その後、戦闘準備と警戒を維持し待機を指示するつもりです』
「お願い!」
 1月1日の元日。
 夜が明けてすぐくらいの時間帯に、1本の通報があった。
 H.O.P.E.はすぐに行動を開始。
 非番だった佐藤 信一(az0082)と碓氷 静香(az0081)がたまたま現場に近い場所にいたため、オペレーターとしてエージェントたちの全体指揮を担っている。
 当初の彼らには余裕があった。
 ライヴスゴーグルなどで確認した結果、従魔の力はせいぜいイマーゴ級。
 すぐに倒して正月気分に戻れると思っていたからだ。
 ――しかし、ふたを開ければそれは大きな間違いだった。
『報告します。第1から第4小隊もそうですが、全小隊のライヴス消耗が顕著です。戦闘経過からしてまともに戦えるのはあと1度……無理をしても2度が限界でしょう。このままでは、戦線の崩壊は近いかと』
「やっぱり……、わかった!」
 無線機から聞こえた静香の声に、信一はスマホを取り出す。
 そう、合計12小隊を動員した大規模戦闘は、エージェントたちが劣勢だったのだ。
「……ダメか、くそっ!」
 H.O.P.E.へ連絡した信一は、厳しい表情で通話を切る。
 時期が正月ということもあるが、そもそも敵は『イマーゴ級』。
 これ以上の増援は回せないと断られてしまう。
『信一さん、朗報です』
 焦燥で思考がから回る信一だが、無線機が届けた静香の言葉で光明が見えた。
「――試してみる価値はある! 前線には僕から連絡を入れるから、静香さんは待機中のエージェントに情報共有を!」
『了解です』
 通信相手を変え、信一は前線のエージェントへ唾を飛ばした。
「皆さん、聞いて下さい! 増殖し続ける敵の倒し方がわかりました!!」
 ここからが、本当の戦いだった。
 
●増援の役割は……
「こちらです!!」
 H.O.P.E.から応援要請を受けて現場へ到着したエージェントたちは、唖然とした。
 必死の形相で信一が叫ぶ足下には、苦しそうにうめくエージェントたちが倒れていた。
 しかも、彼らのお腹は何倍にも膨れ上がっており、かなり異様な光景だった。その中には、体型は普段と変わらないものの静香もいる。
 まともに立っているのは、一般人の信一だけ。
 敵は最初よりも大幅に数が減ったものの、いまだ健在。
 もはや一刻の猶予もない。
「時間がないので簡潔に説明します! あの従魔はAGWで倒すだけではダメです! 原理は不明ですが、復活・増殖します!」
 必死に手と口を動かし続ける信一は、白い体の従魔をにらみつけた。
「確実に消滅させる方法は現状ただ1つ――倒してから食べて下さい!!」
 …………は?
「あの従魔は餅に憑依しています! 当初は普通に対処していたのですが、1人のエージェントが持久戦に疲弊した時に倒した従魔を拾い食いしたところ、従魔の増殖が弱まったのです!」
 待て待て、ツッコミが追いつかない。
「こちらは限界が近く、ダメ元で他の方々にも食べてもらったところ、従魔の数を減らすことに成功しました! ただ、討伐方法が発覚するまでに増殖した敵の数が予想以上に多く、食べきる前に彼らの胃が限界を迎えて……っ!」
 いや、やりきれない表情のところ悪いけど待って。
 あれ絶対、人体の限界も超えてるって。
「静香さんにも手伝ってもらいましたが、彼女はかなり小食で……。もうダメだと思ったときに、皆さんが来て下さいました! これなら、あの餅の山を食べ尽くすことができます!!」
 戦場は戦場でも、フードファイトの会場だったらしい。
 エージェントたちはAGWを握る手とは逆の手で、お腹の辺りを無意識にさする。
 ……食うのか、あれ全部?
「味に飽きてしまったとしても、ご安心を!」
 不安そうなエージェントたちの顔をどう判断したのか、信一は彼らの背後を指さした。
「先ほど同僚に連絡し、各種調味料などを買ってきてもらいました! これから我々オペレーターは、お餅の調理加工に徹します! 従魔(もち)を材料にするものならば、たいてい用意してみせましょう!!」
 見ると、大量のビニール袋を抱えた複数のH.O.P.E.職員がこちらへ走ってきている。
 どうやら信一は長時間の戦闘でテンションがおかしくなってしまったらしい。
「時間がありません! 皆さん、従魔を殴って食べて下さい!」
 目が血走る信一の勢いに気圧され、エージェントたちは餅と相対する。
 結局エージェントたちは、最後まで信一が割烹着を着ていた謎に触れられなかった。

「……うぷっ」
『静香、いくら何でも3個は早すぎるでしょ……』
 その横で、20個くらい食べたような吐息を漏らした静香に、共鳴したままのレティ(az0081hero001)は呆れていた。

解説

●目標
 従魔の全滅(=完食)

●登場(すべてイマーゴ級)
 キリモチ…四角い箱型のフォルムと中心に十字の切り込みが入った餅型従魔。砂糖醤油、磯部餅などがオススメ。

 マルモチ…丸く小振りな円形のフォルムで一口サイズと食べやすい餅型従魔。あんこ餅、きなこ餅などがオススメ。

 カガミモチ…かなり大きなマルモチ2体が合わさった餅型従魔。強さは同じ。お汁粉、お雑煮などとりあえず切ってから食べ方を考えよう!

 共通スキル
・力をためる…集めたライヴスをエネルギー(カロリー)に変換(攻撃能力は皆無)

●状況
 何故かどんどん湧いて出る餅従魔を倒しておいしく食べまくる
 どんな手段で倒しても餅の色や形や風味やカロリーが消滅することはない
 餅従魔は共鳴した能力者の胃袋で消化されない限り完全に消滅しない

 一定時間が経過した後、放置された餅には従魔が復活する
 各種調味料や調理加工はNPCが補助&配膳

(PL情報
 全PCの胃袋が限界を迎えるギリギリで増殖が止まる
 各PCが食べた分のカロリーは能力者・英雄で折半
 戦闘後、PCたちのお腹もパンパンに膨れ上がる
 共鳴解除後も双方お腹はパンパンのまま動けない)

●各種餅カロリー目安(100gあたり)
もち…235kcal
ずんだ餅…203kcal
磯部餅…244kcal
納豆餅…210kcal
お汁粉…214kcal
お雑煮…302kcal

●調味料カロリー目安(餅1個(35~50g相当)あたりの使用量で換算)
砂糖醤油…35kcal
きなこ…20kcal
バター醤油…100kcal
あんこ…50kcal

リプレイ

●それぞれの第一声がこちら
「……えぇと、もう一度言っていただいてもいいでしょうか?」
 あんまりな要求に、構築の魔女(aa0281hero001)はまず自分の耳を疑った。
「殴って食べて倒して下さい! さぁ、早く!!」
「……いやはや、おかしな従魔や愚神はいましたが、今回もすごいですね」
『――ロロ……』
 が、無情にも同じ指示が信一から飛び、構築の魔女は自身の聴力が正常と認めざるを得なくなる。
 共鳴した辺是 落児(aa0281)の声も、どこか呆れを含んでいるように思える。
「お餅を食べたいだけ食べて良いお仕事……だね?」
『いや従魔だよ? 千乃は従魔を食べたい、のかな?』
 少し呆然とした大河千乃(aa5467)だが、事態と空気を把握すると嬉しそうに笑う。
 ただ、共鳴状態の大河右京(aa5467hero001)は理性が強く流されない。
「愚神憎んで人を憎まず――それと同じで、従魔に憑依されたお餅に罪はないんだよ!」
 すると、千乃のあまりの熱量に押された右京は、反論を飲み込み吐息を出した。
『……師匠、今回の作戦は』
 餅を初めて見た命荷(aa5364hero001)は白い以外の感想が浮かばないまま、とりあえずソピア=アイオン(aa5364)に行動指針を窺う。
「まずはヘヴィアタック」
『はい』
 かなり異様な光景でも、ソピアは眉一つ動かず動じない。
 グランドールを握り、泰然とした態度は命荷も安心して――
「そして怒涛乱舞しながら、オーガドライブの名の如く奴らを喰らい尽くそうじゃないか」
『なるほ――え!? スキル!? 食い方の話!?』
 ――いや、ちょっと不安になった。
『えっと、うん、食べれるならいっぱい食べるのです』
「あらあら、私はゆっくり頂こうかしらね」
 戦闘のつもりで共鳴の主導権を譲っていた牛嶋 奏(aa3495)だが、食事面でなら参加できると意欲的。
 そんな奏の声を聞き、水無月 花梨(aa3495hero001)はのんびりとハストゥルを構えた。
「……なぁ、帰っていいか?」
「駄目! これもお仕事だよ!」
 呆れた様子を隠さないマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)。
 だが、アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)に引き留められそのまま共鳴。
「とにかく、数を減らさないとね!」
 エクスキューショナーを構えたアンジェリカは飛び出した。
「訓練の成果をお披露目するチャンス! だよ!!」
『幻想蝶に『胃薬』もありますよぉ?』
 唯一、鞠丘 麻陽(aa0307)と鏡宮 愛姫(aa0307hero001)はどこか楽しそう。
 麻陽は元々大食い趣味で、成人の50人前以上も収容可能な桁外れの胃袋を持つ。
 加えて共鳴状態だと、年齢の上昇や愛姫の補助もあり許容量は通常時の倍以上。
 トドメに『吸収限界突破』の副作用付き『胃薬(原材料はナイショ♪)』のブースト付き。
 対する相手は、従魔が築き上げた餅のエベレスト。
 ――舌がペロリ、と唇をなぞる。
 かくして、タガが外れた最強の大食いモンスターが解き放たれた。

●モチウマー!!
「あ、あの。その角……」
「ん? ――ああ、きみは同族かな? 何か私に用がありそうだが、今はアレを何とかしよう」
 戦闘に入る前、奏は見た目から気になっていたソピアに思い切って声をかけてみた。
 同族……つまり牛のワイルドブラッドとの出会いは、奏のエージェント活動の目的でもあったためだ。
「は、はいっ! よろしくお願いします!!」
「さて――いただこうか」
 ただ2人の会話は短く、奏の声を背負ったソピアが柔らかくも冷たい眼差しで微笑み餅たちへ駆け出した。
 ……多少、面倒くさがりなソピアがそれとなく会話を躱したように見えなくもない。
『花梨! あの人を援護しましょう!』
「良いわよ~」
 一方、すっかり仲間意識が芽生えた奏は再び主導権を花梨へ戻し、ソピアの援護を促す。
 薄々あしらわれていることを悟りつつ、花梨は無言で頷き矢を放った。
「オペレータさん、頼むよ!」
「お任せ下さい!」
 どんどん増えるモチ従魔を前に、アンジェリカは『怒涛乱舞』や『クロスカウンター』で纏めてふっ飛ばし、食用餅に変えては信一たちへ送る。
「モチは日本のソウルフードの一つと聞くからね。今日はしっかり味わって帰るよ!」
 しばらく従魔と物理ファイトした後、アンジェリカはフードファイトのため後退。
 順番に用意された餅料理へ手を着けた。
『ほう? お前が脹れた時に似てるな』
「余計な事は言わなくていいの!」
 ぷくーっ! と膨らんだ焼きキリモチを見たマルコのコメントに、アンジェリカはぷんぷん怒る。
「――うん。砂糖醤油ってのにつけて食べると、美味しいね!」
 が、アンジェリカが焼きたての餅を口に入れた瞬間、砂糖醤油の甘じょっぱい味に頬を緩めた。
「あたしが出来るだけ引き受けるんだよ!」
 こちらは『胃薬』を喉へ流し込んだ麻陽。
 前線には加わらず、信一率いるサポートスタッフのそばで腰を下ろす。
『わかりました!』
 宣言と同時、麻陽の『ブルームフレア』や『ゴーストウィンド』が多数の餅従魔をまとめて吹き飛ばした。
 最年少が醸し出す貫禄に、思わず職員たちの背筋も伸びる。
「お料理はおまかせするけど、食べ応えがある味付けだと嬉しいんだよ」
『っ! はいっ!!』
 ――この戦い、勝てる!!
 にっこりと微笑む麻陽の安心感に、誰もがそう思った。
「食事と運動が同時進行にならないよう、なるべく引き寄せて倒しましょうか。動きながら食べるのは、消化に悪そうですし……」
 長い戦いになると、半ば予想が付いた構築の魔女はペース配分を維持するように注意。
 自分が食べる分だけ倒す戦法を採用して、ゆっくりでも確実に数を減らすよう従魔を倒していく。
「うん。どんな味かと思っていましたが、普通においしいお餅ですね」
 なお、構築の魔女のオーダーは磯辺餅。
 薄口醤油とパリッと焦がした焼き海苔の香りが、食欲をそそる。
『――師匠! 餅って食感が面白くて美味いな!』
「(もくもくもくもく)」
 ある程度餅を確保した後、職員に調理を任せたソピアは出来立ての餅を受け取り淡々と食べ進める。
 感覚を共有する命荷が餅に感動し、どんどん食べたそうにしているためかペースが落ちない。
「す、すごいです、私も食べるのです!」
『がんばれ~』
 ソピアの隣には急速に懐いた奏が食事開始。
 一定のペースで食べ続けるソピアに負けじと、勢いよく口へ放り込みパクパクモグモグ。
 その間花梨は、奏が食べた分を少しずつ引き受けゆる~い応援を向ける。
 絵的に1人真顔で食べるソピアは少し不気味だったはずだが、一緒の奏が自然と清涼剤役となりほんわかした雰囲気に。
 まぁ、ソピア本人は体裁など気にせず食ってただろうけど。
「戦闘って幸せなんだね……」
『戦闘……かな?』
 適当に従魔をぶっ飛ばした後、あんこ餅をモシャモシャ頬張る千乃に右京はちょっと懐疑的。
「何で(モシャ)お餅が(モグ)従魔に(モキュ)なっちゃったのかな(モングモング)?」
『うん、まず食べてから話そうか?』
 甘味大好きな千乃は、他にもきな粉・砂糖醤油・みたらし・お汁粉を確保し、次々と口へ。
 その姿に、右京は窒息とカロリー両面の不安を抱き軽くたしなめる。
『(少しでも自分が食べよう……)』
 千乃の世話を焼くことを生き甲斐とする右京。
 密かに千乃の負担を引き受け、ダイエット計画も立てようと決意した。
「ポン酢と大根おろしもいける! 枝豆を使ってるこれも美味しいね!」
 また、アンジェリカは湯がいたマルモチを味わい、ずんだ餅もペロリ。
『どうせなら普通の枝豆にビールが欲しいが』
「ボクは未成年だからね!? リンクしててもダメ!」
 その際、酒飲み的発想のマルコを一喝した。
 共鳴時は24歳でも元は11歳のアンジェリカは、倫理的に却下する。
『だが、あちらは楽しそうだぞ?』
「アルコールは脳の満腹中枢を麻痺させ、同時に食欲増進効果もあるので空腹感も出るはず……」
 するとマルコは、休憩がてらリンカーにも効く日本酒を飲む構築の魔女を示した。
 もうお腹が苦しいのか、とても美味しそうなお酒には見えない。
「ボクは! お酒! 飲めないの!!」
『……しょうがない』
 往生際の悪さにアンジェリカがぷんぷん! とだめ押しし、マルコの反抗は封殺された。
「んぐ! おかわりなんだよ!!」
『よろこんでー!』
 20杯目のおしるこ丼を平らげた麻陽に、飲食店のようなノリで職員たちが応じる。
 ここまでバター砂糖醤油で100kg、大福で100kg、1kg級巨大餅ピザ10枚を攻略。
 大食い適性(?)な麻陽の勢いはまったく衰えない。
『――きゅぅ~』
 ここでついに、感覚を共有する愛姫が意識を失った。
 むしろよくがんばった!
「まだまだ余裕だよ」
「もしもし! 食品倉庫のストックを解放して下さい!」
 少しお腹が出てきた麻陽の発言で、信一は知り合いの業者から調味料の大量発注を行う。
 2つの戦場はまだまだ激化の一途で、いまだ終わりが見えなかった。

●人(の胃液の)海(に沈める)戦術
 それからもエージェントたちは互いに協力し、撃破と食事を交互に行っていく。
「細かく刻んであられにしたり、潰して煎餅にする食べ方もあるね」
『刻むのや潰すのは、倒したついでにできそうだ』
 雑煮の餅をみょい~ん! と伸ばすソピアから新たなレシピが提示される。
 時間経過で新鮮味が薄れたところで耳にした命荷は、好奇心を刺激されわくわくが止まらない。
「あの、花梨。そろそろ……」
『そうね、私はゆっくり食べてたからまだ食べれるから、良いわよ♪』
 一方、おしるこを食べていた奏はそろそろキツくなったのか、主導権を花梨へ預ける。
 無理してソピアのペースにあわせた結果、満腹感が高まったようだ。
「ん、おいし~♪」
 交代した花梨はあくまでもマイペースに、楽しみながら餅を堪能する。
「人間の習性として、味の濃い食べ物は飲み込んでしまうはず……」
 撃退と咀嚼を淡々とこなす構築の魔女は、ある程度食べたところでバター醤油への変更を要請。
 種類は磯辺餅に固定したまま、味の濃さから飽きを解消しようとする。
『……ロ、ロ』
「……確かに、きつくなってきましたね」
 だが、さほど大食いというわけでもない構築の魔女の満腹度はすでに8割以上。
 苦しそうな落児の声を聞きつつ、餅の海苔を味付け海苔に変えて食べる。
 頑なに磯辺餅を食べる様子から、甘い系が苦手なのかもしれない。
「前にボクが食べたお雑煮はおすましみたいだったけど、お餅の中に餡子が入った白いスープのお雑煮も美味しいね。でも……」
 餡子餅と白味噌で作った香川のご当地お雑煮を食べるアンジェリカは、味に満足しつつもお腹をさする。
『流石にもう無理じゃないか?』
「ま、まだまだ!」
 満腹感を共有するマルコは限界が近いと確信するが、アンジェリカは立ち上がった。
「今日一日で日本のモチ文化を堪能してみせる!」
 すべての味(臭いで断念した納豆餅を除く)を制覇する目標を掲げるアンジェリカは、再度従魔へ向かうと『疾風怒濤』をぶち込んだ。
「――ふぅ」
 こちらは意識を交代した右京が、餡子餅2個で手が止まる。
 そこで路線変更し、しょっぱい系の磯辺餅に挑戦。
「うん旨いっ! この塩気なら……っ!」
 イケル!
 そう思った右京だが、5~6個で失速した。
「あの、鏡餅を輪切りに切ってください」
 しかしまだ諦めない。
 右京は輪切り餅にトッピングを依頼。
 出てきたのはケチャップ・ソーセージ少量・チーズ大目のピザ餅だ。
「……ンプ」
 これなら! と頑張った右京だが、やはりすぐに飽きが襲う。
「H.O.P.Eの、仕事に、大食いスキルまで、必要なんて、聞いて、無い……」
 その後も雑煮の水分で流し込むなど工夫するが、限界だった右京は仕方なく意識を千乃へ渡す。
「お兄ちゃん美味しいねー//」
『…………』
 瞬間、食事速度が飛躍的にアップ。右京はもう、見るだけで吐きそうだった。
「かつて体験したことのないつらさですね、これは……」
 しばらく小休止として、雑煮を2杯ほど食べていた構築の魔女もつい弱音を吐く。
 餅以外を食べて意識の切り替えを図る作戦だったが、相変わらずヘヴィな餅は胃の中で居座っている。
「せめて、食べるか戦うかどちらかにしたいです」
 構築の魔女は極力動かずとも、食事と並行して生じる射撃の反動は消えない。
 その震動がリバース寸前の満腹状態と合わされば、猛烈な吐き気がするのだ。
 気力で磯辺餅を食べ続けるが、もはや顔は真っ青だ。
「……っ!? 気をつけてください! 従魔に変化が!!」
 だがここで信一の警戒が飛ばされ、一方的に数を減らしていた従魔が反撃に出た。
 餅従魔たちが突如、プルプルと震えてライヴスを凝縮。
 ――『力をためる』スキルにより、味・カロリー・圧迫感が数段階跳ね上がった。
 限界が近づいたタイミングでの逆襲に、エージェントたちはさらに追いつめられる。
「ん、お餅の味が濃くなったんだよ!」
 唯一の例外、すでにt(トン)単位の餅でお腹が膨れた麻陽には、まだ素材の味を楽しむ余裕があった。
「しっかりして下さい! まだ、鞠丘さんの胃袋は健在ですよ!」
 しかし職員たちは次々と倒れ、信一も余裕なく仲間を励ます。
 というか戦う相手が変わってきている。
「もぐもぐ、次のお餅はまだですか、だよ?」
「ぐっ……! 皆さん、オーダー入りました!!」
『よろこんでー!!』
 さらに麻陽から催促が飛び、信一たちは少ない余力を振り絞る。
 腕は震え、目は霞み、足はすくむ。
 だが、麻陽を満足させるまで、倒れるわけにはいかない!
 もはや何と戦っているのかわからない!!
「君、アレだろう。優秀なオペレーターだそうじゃあないか」
 さらに、ここでソピアが動いた。
「――呼んでほしい人物がいるんだが」
「――! わかりました!!」
 やや信一の顔が青ざめるも、決然とした表情でスマホを手にした。
『師匠、今のは一体……?』
「応援を頼んだ。フードファイター三銃士をね」
『フードファイター三銃士!?』
 え? 誰それ?
 命荷がソピアの真意を聞いたところ、謎が深まった。
「ソーセージを乗せれば何でも食えると気付いた、ミスターホットドッグ。
 カロリーは気にしないがメイク崩れは気になるギャル、ミス胃下垂。
 とにかく腹が減ってる住所不特定、ミスター髭。
 私の占いでは、彼らを呼べばこの戦いに勝てると出た」
『いつ、占いを……?』
「モチの焦げ目占いだよ」
 気だるげな目をキュピーンと光らせたソピアに、命荷は戦慄する。
「うわぁ、お餅、どんどん消えてますね……」
『私は寝てるわね~……ふわぁ~』
 程なくして颯爽と現れた3人は、ミスアメイジングバスト(麻陽)と合流。
 終盤にて本物っぽいフードファイトが完成した。
 遠巻きに眺める奏はあられをや煎餅をポリポリかじりつつ、唖然。
 花梨は眠気を優先してスルーした。
 ちなみにこの三銃士、リンカーだが互いの面識はないそうです。
『……う。か、千乃。食べ過ぎると明日がつら、く……?』
「え? 大丈夫だよ、別腹が開いてるみたい?」
 ここで右京が復活し、食事量に口を挟もうとして絶句する。
 対して、粗く潰したナッツと砂糖を混ぜた餅をむにゅーっと引っ張る千乃は首を傾げた。
 右京が気絶している間、彼女の両隣には取り皿が高く積み上がっている。
『そろそろ止めないか?』
「んー言われると苦しくなって来たかな? でも、まだ沢山あるよ」
 本格的に健康面が心配になった右京だが、千乃は餅が集まる場所を指さす。
『モグモグモグモグ!!』
「フードファイター三銃士さん、まだまだ訓練が足りないんだよ!!」
 示された先はフードファイト頂上決戦。
 現状、圧倒的ハンデを背負った麻陽が優勢のよう。
 その食事量はすでに、10tを超えた。
 彼女のお腹は、もはや見上げるほどの大きさに。
『あの人達はどうやって……あ、ダメだ。参考にならない』
 何かコツがあれば参考にと考えた右京だが、すぐに思考を放棄する。
 異次元の戦いは、常人では理解が追いつかないのだ。
「んぐんぐ!」
 アンジェリカもギリギリまで餅を胃に詰める。
 消化に優しいおろしポン酢を多目に、たまにきな粉やバター醤油にも挑戦しつつひたすら食べる!
 麓は見えた、餅山の雪解けはもうすぐそこだ!!

●新春万福(=新年からまんぷくだー!)
 戦闘開始から、数時間。
 ライヴスは枯渇し、体は人の形を失った。
 それでも、勝利したのは勇敢なる戦士。
 立派に膨らむお腹を勲章に掲げた、エージェントたちなのだ!
「おなか痛いよー」
「助けたいが、無理……」
 限界まで食べた後、破裂寸前のお腹に千乃はバタバタと身悶えし、右京は動かなくなった。
「三日は寝込みそうだなぁ……」
「食べ過ぎだぞ……」
 同じく無理をしすぎたアンジェリカは、共鳴解除後もお腹がパンパンでダウン寸前。
 マルコも大きなビール腹(?)だったが、動けないほどではない。
「けど、モチ文化はしっかり味わったよ――けぷっ!」
「……しょうがない奴だ」
 そうして、アンジェリカはかわいらしいげっぷを出しつつ、マルコに背負われ帰宅の途についた。
「やっと、終わりましたか。……苦しいというか、ただ辛いですが」
「……ロ――」
 力つきて倒れている構築の魔女も、絞り出すような声を漏らす。
 落児との共鳴解除後、やはり2人はしばらく動けない。
「依頼における不慮の事態なのですが、救援は呼べますか?」
 しばらくして、構築の魔女は信一たちに帰宅の足を要請するも、反応が薄い。
『食べ放題という言葉に惹かれる若いエージェントが適切だった気も致しますが、仕方ありません。たまには贅沢をしましょう……けふっ』
「ロ――ロロ!」
 結局自分でタクシーを呼び、構築の魔女は幻想蝶に避難。
『そこは右、すぐそこ左!』と落児が運転手に指示出しをして帰って行った。
「大変だったけど、満足なんだよ」
「みなさん、やりました、ね……(バタッ!)」
『料理長ぉーっ!?』
 そして、大食いで誰よりも仲間を助け、職員を追いつめた麻陽の一言で、信一は倒れた。
 駆け寄る同僚たちは、とても満足そうに逝(ねむ)った信一に涙ぐむ。
 近くには、ついに麻陽に追いつけなかったフードファイター三銃士の亡骸も横たわっている。
 餅の山だった背景は、いつしか麻陽のお腹の山がそびえていた……。
「あぅ、凄い事に……」
「私はお腹だけだから、良かったわ……」
 他方、麻陽と似たレベルでヤバかったのは奏。
 共鳴解除後、花梨は普通に(?)お腹が膨れただけだったが、特異体質な奏は影響が全部胸へ凝縮。
 ソピアのペースに食らいついた結果か、なんかもう、言葉では表現できない状態に。
「し、ししょー、俺、動けな……」
 こちらも共鳴を解除し、ほぼ行き倒れ状態でうめく命荷。
「落ち着きたまえよ」
 近くのソピアは、まん丸お腹のごろ寝姿勢で薄目を開ける。
「動けないならいっそ、動かなければ良いのだ。
『食べて寝ると牛になる』
 良く聞く言葉だが、私は元より牛。何の問題もない。
 このまま伝統的な寝正月といこうじゃないか」
 横臥(おうが)し説法が如く言の葉を紡ぐ。
 瞬間、不思議とソピアに後光が差し込んだ。
 衆生(じょせい)へ悟りに至る道を説く姿は、まさに涅槃そのもの――
「な、なるほどです! 勉強になります!!」
(あ、信じちゃうんだ)
 ついでに、同じく『すでに牛』くくりの奏も感銘を受け、ごろーんとその場に寝転がった。
 元々スライムな花梨は真似こそしなかったが、横座りで奏の隣に付き添う。
「なる、ほど、さすがししょ――」
 なお、光へ手を伸ばす命荷は力つきて意識を失った。
「あの~、帰りはあれに乗せて送って欲しいんだよ」
 最後に、麻陽は食料運搬用トラックの荷台を指して、帰路の足に利用したいと要請。
 職員は残るすべてを絞り出して麻陽を積載し帰らせた直後、全員が過労でその場に崩れ落ちた。
「最高記録更新、だよ?」
 帰宅し、餅の消化が終わった頃。
 麻陽と愛姫は余剰カロリーで増えた体重――もとい超巨大化したバストを抱えていた。
 原因は推測だが、2人の体質としか言いようがない。
 愛姫などそれを踏まえて普段から食事を控えていたほどだったのだが、結果はコレである。
「また『制御薬』を調合しませんとぉ」
 愛姫は楽しそうな麻陽にため息をこぼし、調薬作業に移った。

●おまけ
 結局、この出来事はエージェントたちが見た夢だったのだが、いくつか奇妙な点が。
「よかった、ほんとうによかった……っ!!」
 千乃は従魔討伐後、目を疑う体重計の数字(げんじつ)を知り、いくら運動(どりょく)しても一切変化がない、恐怖と絶望の数日を夢の中で体験していた。
 変にリアルな悪夢から目覚め、千乃は心底安堵し冷や汗を拭ったという。

「もしかして、予知夢、だよ?」
 一方、起床した麻陽が体重を量ると、数値が増加。
 詳しく調べると、身長とバストが成長していたという。
 ちなみに、ウェストは据え置き。
 ――恐ろしい体質だ。

「え゛!?」
「あらあら――増えたわね?」
 ……また、起床した奏が体重を量ると、数値が(以下略)
 花梨が詳しく調べると、バストが(以下略)
 ちなみに、ウェストは(以下略)
 ――本当に、恐ろしい体質だ!

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
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  • エージェント
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  • 希望の守り人
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  • 絶望を越えた絆
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