本部

花の冠・鎮魂歌

紅玉

形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/12/17 18:44

掲示板

オープニング

●魂を鎮める聲(コエ)
 邪英化したヴィランの捕縛と愚神『柊』を倒し終えたアナタ達に、日本人形の様に美しく少し怖い少女がカランと下駄を鳴らしながらゆっくりと近付いてきた。
「お兄さん、お姉さん、お兄さまを離していただけまへん?」
 簡単に折れてしまいそうな白く、細い腕に牡丹の刺繍が施された白い着物の裾をなびかせ、小さな手に握られた椿を圓 冥人に向けた。
 先程まで戦っていたアナタ達は、直ぐに花の名を冠する姉妹だという事が分かった。
 疲弊した体で倒せるかも分からないが、自然と共鳴し武器を手にした。
「野蛮やわぁ……1つ、取り引きしましょ?」
 口元を片手で押さえると、黒曜石の様な瞳で少女はアナタ達に向かって笑みを向けた。
 しかし、誰一人として武器を下ろす者は居なかった。
 まだ信用は出来ない、と言葉が脳内に響いた。
「わたくし……んー、この一人称は合わないわぁ。うちは『椿姫』という名前なんよーよろしく」
 花の名を冠する姉妹らしき愚神の女子は、『椿姫』と自ら名を名乗った。
『椿姫ちゃん、取り引きって何をするの?』
 アラル・ファタ・モルガナが一歩前に出て問う。
「もちろん、コッチでは圓 冥人という名前が付けられたお兄さまと、女王に関する事やわぁ」
 花の名を冠する姉妹は何度か顔を会わせたが、その姉妹を束ねる存在である女王は未だに表に出てはない。
 しかし、彼女達と因縁のある冥人は女王に妹を殺されてから、姉妹に関する知識はある様だ。
『詳細を聞いてから考えさせて、椿姫ちゃん』
「ええよ? お兄さまをうちに渡してくれるなら、女王に1つだけお願いを聞くように説得してあげるんよ? 悪ぅ話じゃないやろ?」
 と、椿姫は小さく首を傾げて愛らしい笑みを浮かべた。
『冥人君が目覚めないのはなんで?』
「もちろん、お兄さまが氷花を倒した場合に……発動するよう、春君姉様と柊に内緒で仕掛けただけよ?」
 悪そびれた様子を一切感じない笑い声を上げながら、椿姫は手にしている椿をくるくると回す。
「返事は直ぐにとは言わへんよ? 相談位はさせてあげるけど、お兄さまはうちと此処に居させてもらうねぇ」
 椿姫は眠っている冥人の胸に頭を乗せる。
「皆様、ヴィランの皆様を支部まで搬送して下さい。私が、一緒に残りますわ……とても、恐いですが……皆様を信じて待っておりますわ」
 ティリア・マーティスは、声を微かに震わせながらエージェント達を見送った。

解説

【目標】
椿姫と交渉するor断って椿姫を討伐する
※ティリアと一緒に残るのは可能ですが、他の参加者と通信機等で相談に参加出来ないと思って下さい。
相談結果の情報共有は可です。

●椿姫と交渉する
メリット
『上手く交渉すれば、様々な愚神に関する情報や停戦をして助力を得られる』

デメリット
『圓 冥人がロスト(行方不明)となります。椿姫が彼をどうするかは不明ですが、姉妹に関する情報が得られなくなります』

●椿姫を討伐
メリット
『圓 冥人はロストしません。姉妹の情報は引き続き得られます。姉妹の数が減り、女王の戦力が下がります』

デメリット
『椿姫を介して女王との交渉が不可能となり、様々な愚神の情報や停戦という話等を他の姉妹にお願いしても無視されます』

【場所】
イギリス南部にあるサウサンプトンの港(夜)

【敵】
愚神『椿姫』
デグリオ級。
日本人形の様な美少女。
白生地に椿の刺繍が施された着物、手には椿(生花)を手にしています。
能力の詳細は不明。

従魔『緑鳥』30匹
ミーレス級。
『メジロ』に似た全長2m程の鳥。
従魔『黒翼』と似た能力と予測。

【NPC】
指示が無ければ皆さんを援護しています。

リプレイ

●花達は永遠に夢を見る
 仲間の連絡を受けて、ファリン(aa3137)はティリア・マーティスが椿姫と残っている場所へと着いた。
 ファリンがイギリスの冷たい風に少し体を震わせると、椿姫はゆっくりと顔を上げて彼女とその英雄であるヤン・シーズィ(aa3137hero001)を見つめた。
『かの姉妹達の心は興味深い。契約者を食いつくすわけでもなく殺し、執拗にその姿をなぞるのは何故なのか。その兄にこうまでして執着するのは何故か』
 ヤンは銀の瞳を細めると、椿姫を見つめ返した。
「彼女らはただ愛のために、正気と狂気の狭間で生きているのでしょうか。それでも強力な愚神。悪意がなくとも人を殺し続ける存在であるなら倒さねばなりませんわ。人を食わぬ約束を取り付けたとて、愚神は上位の存在の前では意識を保てぬのです。グリムローゼが滅びの腕に狂わされたように……」
 と、ヤンの問いにファリンは静かに答えた。
「春君や柊に秘密という事ですが、女王は現状を把握しているですの?」
「せやね、うちの情報は全て女王様に筒抜けやね」
 ファリンの問いに、椿姫は当たり前の様な風に答える。
「やから、今の会話はぜぇんぶうちの目と耳を通して伝わるから、な?」
 椿姫は小さく首を傾げた。
「そう、ですわね。柊の付けていた鈴は、姉妹の一人である月下美人ではないのですの?」
「違うよ。柊自身の本来の力としか聞いておらんよ? それに、月下姉様と柊は違うから仕方がないんよ」
 くるくると、手の中で椿を回しながら椿姫は答える。
 月下美人と柊が“違う”という言葉に違和感を感じつつファリンは、次に問う言葉を脳内で選び出していた。
「それに、女王様の為に死ねるなら本望や」
「その、愛してるお兄様に似ている方が居てもですの?」
 椿姫の言葉にファリンは問う。
「コッチのお兄様は、うちらの“お兄様に似ている他人”やから」
「それでも欲してますわね? 交渉をしてまで……」
 椿姫は一瞬だけ、泣きそうな表情になるも直ぐに笑みを浮かべるとファリンの口元に椿の花を当てた。
「何を勘違いしているかよう分からんけど、半分は女王様の為やで? 圓 冥人に向けられた恋愛感情を憎み、その存在を消したがってる女王様の我が儘ってヤツやね」
 椿姫の言葉にファリンは目を見開いた。
 正気なのは姉妹で、狂っているのは女王という事実に。

 ロンドン支部に捕縛したヴイラン達を預けたエージェント達は、会議室に集まって各々が思う事を口にする。
「……レティ、ごめんなさい。貴方は幻想蝶の中で待ってて。私達の話を聞く必要はありませんから」
 と、Гарсия-К-Вампир(aa4706)が小さな英雄向かって言う。
『うん、分かったー』
 Летти-Ветер(aa4706hero001)は元気よく返事をしてこくりと頷くと、幻想蝶に触れた後に中に大人しく入った。
「愚神との交渉、ねぇ……ま、メリットがあるのは確かだが、後々面倒な事になるだろうな」
 やや不機嫌そうな表情のリアン ベルシュタイン(aa5349)は、とんとんと机を指先で叩きながら言った。
『……ん。情報、も少ないからね』
 赤いフードの隙間からシルバーホワイトの髪を出しているアリス(aa5349hero001)が、足が床に着かない程に高い椅子の上で足をぶらつかせた。
「あたし達もあのまま対戦させるなんてちょっとウカツだったよ、生きて帰ってきてもらわないと。圓くんとは、約束したからね」
 と、言いながら餅 望月(aa0843)は、痛い位に自分の拳をぐっと握り締めた。
『敵も愛の力で行動しているよ、どうする?』
 百薬(aa0843hero001)はそう言うと小さく首を傾げた。
「確かにそれは否定できないね、それだけに、活路もあるんじゃないかな。圓くんは今ここで絶対に連れて帰る、愚神に渡すなんて事はしない、よね」
 椿姫が言う愛はどの位なのかは分からないが、ただ望月自身の意思は決まっていた。
「……今回に関しては、最初から私とラシルの答えは決まっています」
 月鏡 由利菜(aa0873)が燃えるような赤い瞳に強い光を宿し、優しく力強い声色で答えた。
『……騎士の誓いも、随分甘く見られたものだ。私達は戦友を見捨てることはしない』
 リーヴスラシル(aa0873hero001)はアメシストの様な瞳を細め、剣の柄を握り胸元から真っ直ぐに立てながら力強く言う。
「どちらの命も散らすことなく事をおさめる事が出来るなら、それに越した事はありませんが……後に大きなメリットがあるのだとしても、わたしは、今目の前にある大切な仲間の命を守りたい……殺されると決まった訳ではないけれど」
 花邑 咲(aa2346)が胸元で手を握り絞めながら言葉を口にする。
『椿姫と交渉するのは、少々難しい……でしょうか。彼女がどんな目的で先の案を提示してきたのかも、明確には分かっていないのが現状ですからね……』
 ブラッドリー・クォーツ(aa2346hero001)は、目の前で再び誰かを喪うことへの恐怖と痛みに苛まれかけている咲を心配しつつ言う。
 仲間から少し離れた位置から八朔 カゲリ(aa0098)は、黒曜石の様な瞳で見つめながらただ結果を待つ。
(その意志と覚悟で以て魅せてくれ)
 ナラカ(aa0098hero001)は特に期待を懸けてる仲間達に視線を向けた。
『よし、決まりだな。急ぎ過ぎても俺たちの体力が持たん。少し休憩をしてから現地に向かうぞ』
 バルトロメイ(aa1695hero001)は小さな椅子に体をあずける。
「これと、このお菓子……」
 その隣でセレティア(aa1695)が厳選したお茶やお菓子を幻想蝶に入れていた。
『ティア、ピクニックや女子会ってヤツじゃねーんだぞ?』
「知ってます! ただ、これは……もう、バルトさんは休んでて下さい!」
 バルトロメイの言葉にセレティアは声を上げるが、彼に話しても簡単に理解してはくれないだろうと首を振った。
『わかった! わかった!』
「セレティア様、お手伝いいたしましょうか?」
 そんな2人の間にГарсияが入り、セレティアに向かって恭しくお辞儀をする。
「お願いします。お茶とお菓子はどれが良いでしょうか?」
「そうですね」
 セレティアは沢山あるお茶とお菓子をГарсияに見せた。

●優しさは時に花を枯らすモノである
 イギリスの夜。
 雪は滅多に降らないが、肌を刺すような冷たい風が吹く音と川が緩やかに流れていた。
 街に灯が点き、夜景が美しい中でエージェント達は椿姫を見据えた。
「圓さんが敵の手に……ラシル、技能の回数は?」
『次に戦えるだけ回復できた。傷も問題ない……ユリナ、やれるな?』
「……ええ。ラシル」
 リーヴスラシルが問いに答えると、由利菜は力強く頷いた。
「わたしはセレティア・ピグマリオンです。椿姫さん、あなたを女王の使者として歓迎します」
 1歩前にセレティアが出ると、椿姫に向かってお辞儀をした。
 彼女は、花の名を関する姉妹達に対して冷徹になれない。
 だから、相談の結果を伝えると同時に聞きたい事があった。
「……残念ながら貴方の求める交渉に応じる気はありません。ですがもし平和的に解決を望むのなら……圓様を解放し投降してください。そうすれば命だけは……」
 Гарсияは椿姫に向かって“皆の意思”を伝えた。
「そう、それを伝えたアンタはやけに落ち着いてるねぇ」
 セレティアは共鳴せずに椿姫の前に座ると、幻想蝶からお菓子とお茶を取り出した。
「貴方達は、大きな争いをせずに人々から無造作にライヴスを奪わずに……そして、“お兄様”を愛してるが故にの行動」
 少し“人間クサイ”部分がある彼女達の行動にセレティアは、半歩でも歩みよりたいと思っている。
「じゃぁ、うちの事を少し話してあげるけど遠い昔話やからね。あ、お茶とお菓子はいらへんよ? 短い話や」
 椿姫は、セレティアがお茶とお菓子を出そうとしているその手を制止させる。
「遠い、昔にな。うちは小さな村に生まれて、両親とお兄様にうちの四人で暮らしてた。でもな、村は凶作続きで村人の弱い者から死んでいく中で村長は“人柱”として、うちを水神様に捧げる事になった。けど、両親とお兄様はそれを反対したが故に……うちの前で殺したんよ。身寄りもなくなるうちだけを残して、“人柱”にさせやすくした……こうしてうちは“水神様の嫁”になったんよ。今で言う“生け贄”てヤツやね」
 椿姫は微笑んだまま話す。
 水神様の嫁になった? と、セレティアは聞いた事が無い言葉に少し混乱する。
 ただ、直ぐに理解出来たのは両親と兄が殺されたという部分。
 そして、椿姫は若くして“のそ身を挺して何かをした”という悲劇は、彼女の口ぶりからしてセレティアに伝わった。
 しかし、愚神なのに何故? と、新たな疑問が生まれた。
「話も終えたし、うちはアンタ達を殺させていただきますわ」
 椿姫の言葉にセレティアは顔を上げた。
「それでも、人を喰う愚神である以上、わたしたちは貴女達と敵対せざるを得ません。例え少数でも犠牲者がいるなら。わたしにできる最大限の譲歩は、共通の敵・クレマチスの従魔や愚神の回収から貴女達を守る事だけ」
 セレティアが声を上げると、胸元で手を握り締めながら椿姫を真っ直ぐに見つめた。
「お友達になりましょう。剣で語り合う親友に。お友達だからこそ、仲間を売らない。スパイもしない。どこまでもフェアに、お互いになら殺されても本意だと思えるような最高のお友達に。わたしは貴女達姉妹の誇りを守るために戦う」
「お馬鹿やな……それは出来ないんよ。うちらは“誇り”じゃなく、“愚か者”なだけなんや。その手は優し過ぎて……何も知らないアンタに腹ん中が煮え繰り返すわ」
 セレティアが差し出した手を、椿姫は自分の手で叩き落とす。
「どう、して?」
「アンタ、自分がどれほど幸せなのか、もう1度考え?」
 声を振るわせなが問うセレティアに、椿姫は“愚神”として人々を脅かす存在の表情になる。
 それは、“交渉しない”と判断したエージェント達に対する殺意否、全ての人間への怨みだ。
 夜空から羽ばたく音がすると、ファリンが冥人の首根っこを掴んで後方へと引きずる。
「行くぞ」
 と、カゲリが呟く。
『尤も、椿の花は散らずに落ちると聞くが――汝は如何かね』
 共鳴姿のナラカは、炎弓「チャンドラダヌス」の弦を引き矢尻を椿姫に向けた。
「ティリアさんも下がってください」
 望月はティリアの前に出ながら言った。
「気を付けて下さい!」
『大丈夫だ。それよりもティリアさん、愚神の見張りを頑張ったな』
 不安そうな表情のティリアに、バルトロメイはぽんと頭に手を置いた。
「さぁて、まずは邪魔な鳥を落とすとするか……あんだけデカけりゃ、狙いやす……なんだ、チビ」
 リアンは夜空を仰ぐと、アリスが服の裾をちょんちょんと引っ張る。
『……アリスも、鳥さん、と遊びたい、な』
 アリスの瞳に狂気が孕んでいた。
『……だめ?』
「……少しだけだ。いいな?」
 大きくため息を吐くと、リアンはアリスの“衝動”を感じつつも頷いた。
『うん!』
 年齢相応の笑みを浮かべるアリスは、オモチャを見つけた幼子の様に駆け出した。
「我が名は月鏡由利菜、H.O.P.E.の騎士。この剣、圓さんを救う為に!」
 と、声高らかに言うと由利菜は剣を掲げた。
『モチヅキ殿、カゲリ殿、頼りにさせて貰う』
 リーヴスラシルは友人である二人に視線を向けた。
「例え母と会えなくても、あの人の誇り高い心は今も胸に……」
 拳を胸に当てた後、由利菜は共鳴姿になるとフロッティを手に駆け出した。
『やっぱり、愛の力って凄いね!』
 百薬が大袈裟に言う。
「以前は狙われましたが、備えがあれば奇跡だって起こせるよ」
 頭には金色の輪、背中には純白の羽が生えた共鳴姿で望月は、蒼炎槍「ノルディックオーデン」を手にすると足先と拳に青白い火焔に包まれた。
『あのガキ、偉そうな事言っておいて戦うのは俺なんだな。まぁいい』
 ドラゴンスレイヤーを担いだバルトロメイの影、仲間の後ろ等に身を潜めるГарсия。
「闇より先に、光より後ろに……っ!」
 ファリンは仲間にライトアイをかける。
 夜であろうとも、昼間の様に明るく見える今は戦闘に支障はないだろう。
 ナラカの手が離れると弦が弾け、炎弓「チャンドラダヌス」から放たれた矢は黄金の炎を纏い椿姫に向かってう、が。
「武器を使うまでもない」
 と、言うと椿姫は手にしている椿で矢を落とす。
『幾多の花々、毒にしかならぬなら一切余さず焼き祓えば済む話であろう?』
 と、言うとナラカは素早く矢をつがえた。

「前より多いけど、槍が届くなら問題ないよね!」
 望月が蒼炎槍「ノルディックオーデン」を振るうと、青白い火がごうっと音をたてながら燃え上がる。
「まだ、聞きたい事があるのに」
 咲は小銃「S-01」で仲間を援護しながら呟いた。
「咲様、今は従魔の数を少しでも多く減らすのですわ!」
 ファリンがガーンデーヴァで従魔を撃ち落としながら言った。
(役に立たなくてごめんね。僕が、戦えば……)
 真神 壱夜は目を閉じる。
『……飛べなくても、向こうから来る……』
 アリスはコールブランドを片手に、こちらへ滑空してくる従魔達を見上げる。
 鮮やかな緑が、赤く塗られて綺麗。
 胸が高鳴り、思わず駆け出してしまう。
 その方が“速い”からと本能的に感じたアリスは、時計うさぎを追い越す位の速さで駆け抜ける。
(今は不要、だろうな)
 リアンはため息を吐く。
 仲間に補助が必要となれば出れば良い、と思いながら周囲の音に注意する。

「彼女の能力の全容は不明……」
『怪しいもののひとつは、あの手にある椿の枝だが……さて』
 由利菜は椿姫を見つめると、リーヴスラシルは手にしている“椿”が気になる様だ。
 矢を落とす程だ、“何も無い”ハズではないだろうと思う。
「切り裂け、月の刃!」
 由利菜がフロッティを抜剣すると、【SW(剣)】レーギャルンから赤色でルーンが刻まれた三日月状の衝撃波が放たれた。
 椿姫の手の中で椿がぼとりと地面に落ち、イギリスの冷たい風に吹かれて暗闇の中へと消えた。
「ちぃと、深読みしすぎやねぇ。アンタは……」
 なおも椿姫は笑み浮かべたままだ。
「セレティアお嬢様……いえバルト様! 以前のアレで上空のを……殲滅します!」
 と、準備を終えたГарсияが声を上げた。
『任せな!』
 バルトロメイがドラゴンスレイヤーの剣先を地面に着け、その刀身にГарсияが静かに足を着ける。
『ほら、よっ!!』
 バルトロメイはドラゴンスレイヤーを力一杯に振り上げ、Гарсияは一番力が掛かるタイミングで夜空へと跳躍する。
 替えのメイド服を着せた何かと一緒に飛ぶものの、ライヴスを感じない無機物には見向きもせずにГарсияの方へと真っ直ぐに飛ぶ。
「……アリス、変われ」
 リアンは呆れた様子でため息を吐くと、インタラプトシールドでコールブランドを“盾”としてГарсияの周囲に多数構成する。
 しかし、望月が所持している【SW】救国の聖旗「ジャンヌ」 の効果があっても、複数の従魔に攻撃を受ければ守りに弱いГарсияはあっという間にボロボロだ。
『もう、世話のかかる子供達なの』
 アラル・ファタ・モルガナがエマージェンシーケアでГарсияの怪我を癒す。
「申し訳ございません。アラル様」
『無茶はだめなのよ?』
「あぁでもしなければ、従魔を減らす事が出来ないと判断したのです」
 着地したГарсияに、アラルは駆け寄ると手を握り締めた。
『分かってるの。でも、従魔はライヴスで判断するから視角的な事をしても意味ないから、今度からは気を付けるのよ?』
「はい」
 知能が低いと、少し侮っていたГарсияはアラルの言葉を胸に刻んだ。

●花は凛として咲き誇った
「逃げても、わたし達は追いかけません」
 咲は椿姫に言う。
 そう決めたのだから、と心の中で呟く。
「断る。アンタ達はそう望んでも、うちの力は女王様に捧げたんよ。だから……」
「……ッ!」
 ファリンが気付いたら、体が宙を舞っていた。
『俺は甘くはないぜ!』
 バルトロメイがドラゴンスレイヤーを降り下ろす、が。
 力を逆手に取られて、椿姫が受け流すと粉塵を上げながらバルトロメイは地面に転んだ。
「ど、どうしよう?」
 望月は冥人を庇う様に前に立つ。
「戦いとは相手の命を奪う事です。その覚悟無しに武器をとってはいけませんわ」
 受け身で着地したファリンは立ち上がると、再び武器を手にして言った。
 中途半端な傷で苦しませるより、直ぐに楽にしたいというファリンの意思だ。
『燃えよ、その身を地へと帰せ』
 ナラカは双炎剣「アンドレイアー」 を手にし、椿姫に向かって駆け出す。
 前へ、とカゲリの意思と共に躊躇ない。
 Гарсияがナラカの影から姿を現して攻撃をする。
 しかし、攻撃を当てても椿姫に致命傷を与えた感覚は無い。
「弱点が分からないな」
『うむ、あまり火が効いてないようだ』
 カゲリの言葉にナラカは頷く。
『……そろそろ終わりだ。愚神よ、ヘルヘイムへ堕ちる覚悟はできたか』
 椿姫にリーヴスラシルが歩み寄る。
『ユリナ、誓約術の神技の記憶を開放する!』
 フロッティの柄を握り締める。
『「愚者の華よ、舞い散れ! ディバイン・キャリバー!」』
 リーヴスラシルと由利菜は同時に声を上げる。
 2人の絆の力を活かしたコンボ攻撃を椿姫に向かってフロッティを振るう。
「そう、“愚か者”の最後はこれでいいんよ……やっと、お兄様に会えるわぁ」
 椿姫は力無い声で言う。
「貴方様の言ったその仕掛けというのは一時的なものか……それとも貴方様の討伐により解除されるものなのですか?そして……もしこのまま貴方様がお帰りになられたとしても、まだ続くものなのでしょうか?」
「うちが……死ねば……縛るモノは……無くなり……目ぇ……覚める……」
 Гарсияの問いに答えると椿姫はコンクリートにその身を倒し、体は“椿”に変わってイギリスの冷たい夜空へと舞い上がる。
「……彼女達花の愚神を見ていると、かの神無月を思い出します」
 由利菜は目を伏せる。
 セレティアは少し寂しげな表情でそれを見つめる。
 愚神でなければ良き友になれたのでは? と、思いながら“椿”を掌に乗せた。 
「圓くん、ちゃんと目を覚ましてくれるかな」
 目を覚ます気配が無い冥人を見て望月は不安そうな表情で言う。
『きっと大丈夫だよ』
 百薬が望月の肩に手を置くと笑顔で答えた。
『ヴィランの人たちもちゃんと更正してもらって話を聞かないとね』
 百薬はぽんと手を叩くと、今日H.O.P.E.ロンドン支部に収容されたヴィランの話をする。
「由利菜ちゃんのところの先生が準備した教育プログラムなら大丈夫でしょ。ティリアさんもいるし」
 と、笑顔で答えながら望月は頷いた。
「帰ろう」
 カゲリは踵を返す。
『うん、期待してたのは見れたしな』
 ナラカは満足げに頷いた。
 雪が降らないイギリスの風を感じながらエージエント達は、サウサンプトンの港を後にした。
 1輪の花は真っ直ぐであった。
 ただ、失った影を追う花は最期まで咲き誇る。
 その花『椿』に人々が与えた言葉の様にーー……

 数日後。
「やっぱり、そういう事だね」
『うん、僕としてはあまり気持ち良い話ではないけど』
 またも病院のベッドの上で目覚めた冥人は、壱夜の報告を聞いてぐしゃりと右目の眼帯を握り潰す。
「彼女も忌み子……そして、俺の妹を使って“呼んだ”んだね」
『言ってたから間違いないよ』
 壱夜が頷くと、冥人は見慣れた病院の窓から空を見上げた。
 話が終わったのを確認すると、アラルが自作した疲労回復するハーブティーを2人に差し入れた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 守るのは手の中の宝石
    ブラッドリー・クォーツaa2346hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
  • 口の悪い英国紳士
    リアン ベルシュタインaa5349
    人間|19才|男性|命中
  • 狂気の国の少女
    アリスaa5349hero001
    英雄|10才|女性|カオ
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