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広告塔の少女~歌を救って~
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質問卓
最終発言2017/11/23 15:14:59 -
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最終発言2017/11/23 14:19:12 -
相談しましょ
最終発言2017/11/24 21:50:56
オープニング
● 少女たちの夢
「キャンセル、続出……」
止処 梓はタブレットの画面に視線を落として茫然と告げる。少し角度を変えると黒々としたタブレット画面が、今にも泣き出しそうな梓の表情を映し出す。
そうして仲間たちに向けた視線は受け止めてもらえなかった。
海崎 小雪は縮こまって拳を握り。クルシェ・アルノードは舌打ちを一つ……苛立ったように足を組み替えた。
ここは彼女たちの事務所。ここに少女三人が集まって悲しげな雰囲気を漂わせているのは、次回のライブに問題が発生したためだ。
それがチケットのキャンセル。その続出。
今やリリース直後に売り切れてしまったチケットの大部分が払い戻され動員数の十分の一入るかどうかという程度まで客数が減っている。
「どうする?」
梓が不安げにクルシェに問いかける。
「あたしに、きくな」
クルシェはそっぽを向いて机を叩いた。
「あいつら。トンデモない置き土産していきやがった」
吐き捨てるように告げたクルシェへ小雪が告げる。
「マネージメントは全部、瑠音さんの仕事だったから、こんな時どうすればいいか。分からない」
小雪がの鳴き声交じりの声。このときクルシェの尾が切れたのか立ち上がり息を吸い込んで怒鳴り始めた。
「いまだにあいつにさんなんてつけるな! あたしたちはあいつに騙されて。不幸まで背負って。愚神を加えて活動していたアイドルユニットなってバッシングされて。もうどうしようもなくなってるんだぞ!」
そのクルシェの言葉は誰もが認識しながら誰もがさけてきた言葉だ。
それはどこからか情報が漏れた、一週間前の夜に遡る。
アネット、瑠音というメンバーのトップが姿を消し。ライブはどうなるんだと世間が騒がしくなった頃。
ディスペアのあの二人は愚神で、H.O.P.E.に討伐されたと情報をリークする者が現れた。
ご丁寧に彼女たちが戦っている姿の写真付きで。
こうなってしまえば言い逃れはできない。
そもそも言い逃れをするも何も、三人は彼女達からなんの話もきかされていないのだ。
梓に至っては、同じ戦場で戦っていたにも関わらずアネットが消える場面に居合わせることもできず。
梓は、梓で、涙を流してどうしてと。虚空に問いかけることしかできずに。
「なにも言わないで、消えて……」
梓はかつて自分の英雄だった彼女を思う。
彼女は何も言わずに消えてしまった。梓に背を向けて去って行った。
「私って、どうアネットと接してたんだろう」
心細かった、自分が彼女にどれだけ依存していたか。はっきりわかった。
「で、どうする? あたし的には解散がいいと思ってる」
その解散という言葉の重みを二人は感じた。
「あたし等はもう、用済み。社会にとっていらないって事だろ? だったら解散でいいんじゃねぇか? 謝って、許されないかもしれないけど。それ以外に方法がないんだから仕方ない」
「でも、全部のチケットがキャンセルされたわけじゃないよ」
小雪が告げた。
そう、実はまだチケットを払い戻していない人間が何人かいる。
「その一部の人間も時期にいなくなる」
クルシェは眉根を寄せる。
「うちらじゃ無理だ。ディスペアなんてあの二人の力でまとまってたもんだし、うちらがどうあがいたって、観客を楽しませることなんて……できない」
その言葉に、小雪も顔を伏せてしまう。
諦めよう。そんな言葉を吐こうとした矢先梓が顔をあげた。
「だめだよ」
その言葉につられて二人も顔を上げる。
「ここで逃げることなんてできない」
梓のその言葉にクルシェは唖然と言葉をかける。
「正気じゃない……」
「正気じゃないのはクルシェちゃんの方だ。私達にはファンがいるんだよ。しかもこんなに風当りが強い私達を応援してくれてるファンが」
諦めるわけにはいかない、何より、ここであきらめてしまえばきっと梓の中でアネットという存在は、裏切者で結論づいてしまう気がした。
それが梓には絶対いやだったのだ。
私たちを頼って、梓は何度もそう声をかけられた。
今回のこの絶望的な状況ひっくり返すために何ができるのか。
素直に頼ろう、意見をもらおう。そう梓は思ったのだ。
● そしてグロリア社
「都合がよすぎるのはわかってます。けど助けてください」
次の日。さっそく梓等はグロリア社の門をたたいた。
当然向かう先は遙華のデスク。
「ディスペアの皆ね。噂はきいてるわ。私でよければ力になる」
そう告げた遙華は三人を快く事務所に通した。
「クリアすべき問題は施設の客入りだけじゃないわ」
遙華はそう告げてPCを広げて見せた。
「これは極秘裏にネットワーク上のアクセスを監視したものなんだけど。あなた達の活動を明確に妨害してる誰かがいる」
遙華は告げる、数日前からディスペア関連の異常な盛り上がりを監視していたと。
「ライブの成功、そしてあなた達の汚名をあるべき場所に返すこと。それを同時にこなす必要があると私は考えているわ」
「同時に……」
「それをこなすための作戦を考えてきたの」
そう遙華は資料を手渡す。
「まずあなた達には路上ライブを行ってもらうわ、ゲリラ的に。そして相手の出方を見ると同時に、今回の件。敵が誰なのか調べる」
遙華はすぐに手配を回す、まずは協力してくれそうな人材への声掛けから。
「すごいですね、遙華さん」
小雪が告げると遙華は首を振る。
「違うのよ。私がすごいんじゃない。私に力を貸してくれるみんながすごいのよ。私なんて何もやっていないわ」
次いで遙華はメガネを持ち上げると告げた。
● ゲリラライブツアー
皆さんにはこれから、血に落ちてしまった音楽グループディスペアの
今回は皆さんに三つの役割を担ってもらいます。
これは専任してもいいですし、複数の役割を同時でもいいです。
1 純粋なライブ要員
謳ったり踊ったりでゲリラライブを盛り上げてください。
ゲリラなので集客戦術は使えないので、どこで、何時ごろ、どんなパフォーマンスをやるか、が重要です
日本全国で何か所行うのか。等ですね。
期間は一か月程度のうちを考えておいてください。
場所の許可は大体遙華がとってくれるので心配しないでください。
2 ディスペアサポート
大衆はディスペアを愚神の手先だと思っています。
少なからずファンは残っているのですが、こうも世間がディスペアに対して否定的だと本人たちも異端者扱いされるでしょう。
さらにそこへアネットたちが抑え込んでいた、妬み嫉妬と言ったアンチディスペア派が合流してすごい波になっています。
先ずは、今残っている三人は全く愚神と関係ないという事を世に知らしめないといけません。
そのための効果的な演説であったり演出などを考えてください。
3 戦術行動。
ライブの警護、護衛、およびアンチディスペアを先導している人物を割り出すための班です。
何かが起こった時のために武装していなければなりません。
解説
目標 本当の敵を突き止める。
今回このゲリラ作戦に参加するのは小雪と梓のみです。
彼女達は自分たちの演出に組み込んでいただいて構いませんし。
二人とも傷ついているので、いたわっていただけると事件の進展があるかもしれません。
下記PL情報
『犯人は必ず、ゲリラライブに現れます。全てのゲリラライブにです
さらに、ライブ中に一度だけ一般人の暴動が起きます、数は百人の一般人。
それぞれバット、鉄パイプなどで武装しています。
リンカーにとっては敵ではありませんが、人数が多いので、女の子たちがけがする可能性もあります。
対処方法の提案をお願いします』
『海崎 小雪』
一番の新人さん18才、演劇の学校に通っておりその才能はずば抜けていると評判。歌唱では梓とタッグを組むことが多い。代表曲は『取り残された蒼き日々を』
雪のように白い髪とブルーの瞳はメンバーの中でも特に異質。
『止処 梓』
かつて空に囚われた少女。これといった才能はなかったように思われたが最近演劇の才能に目覚めた。
黒髪短髪の少女で純日本人の顔立ち。歳は17才
常に一生懸命で何事にも前向きに取り組む姿勢の持ち主、意外とファン人気が高いのはライブでは積極的に場を盛り上げようとする姿勢からだろう。
今回はやることが多いのですが、やれなかったことは次回に持ち越されてシナリオが組まれるので、躍起になって全部やる必要はありません。
大きく分けて作業グループは三つですが。参加者の息が合うならば狙って物事の解決に当たった方がいいかもしれません
1 アンチディスペアの首謀者を割り出す。
2 ゲリラライブを成功させる。
3 小雪と梓とコミュニケーションをとる。
リプレイ
第一章 再起
クルシェはその光景に目を見開いていた。
これはなんだ。
目の前の、背筋がピンっと通った老紳士。
彼が現れた瞬間に世界が覆ってしまったようだ。
やる気のない事務所側。ディスペア解散やむなしの空気それらすべてを彼は取り払ってしまったのだ。
「異常を踏まえまして、ディスペアをここで解散させるのはお互いにとって、いえ、業界全体にとっての不利益と考えます」
となりで佇む女性『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』は淡々と告げる、銀糸の髪に隠れて表情は見通せなかった。
「そして、現段階では皆さんにとってディスペアは手に余るものと存じます」
その言葉を『セバス=チャン(aa1420hero001)』が継ぐ。
「愚神絡みの一件ですので、ディスペアの皆様を一時預かりとさせて頂きたいのです」
その言葉に梓は口元を抑える。
「疑いを晴らすために、彼女らは自ら戦う意思を見せました」
その言葉に加勢すべく。『シエロ レミプリク(aa0575)』と『ジスプ トゥルーパー(aa0575hero002)』は腕を突き上げた。
「ディスペアライブなくなるの、困る!」
「困りますな!」
そのセリフに、クルシェは拳を握りしめて声を張り上げた。
「なんでだ! 何でそこまでしてくれるんだよ。あたしら……だって。ひどいことしただろ。なのになんで協力してくれるんだよ」
驚きで『レオンハルト(aa0405hero001)』の手が止まる。書記である彼の隣で佇む『卸 蘿蔔(aa0405)』が落ちたペンを拾い上げた。
「あたしら、あんたたちに、みんなに。何もできてない。なにも……」
クルシェの怒鳴り声が響く、それに身じろぎせずその老紳士は微笑みかけ、救いの手を差し伸べた。
「アイドルを守ることは私めの義務でございます」
室内に嗚咽がこだまする。助かった。そんな気持ちがあったことは否定しない。
けれどなにより、その優しさが心にしみたのだ。
彼女らはこの恩を一生忘れないだろう。貧しきときにうけたパンは命以上の価値があるのだ。
「……助けてって、言ってた」
そう『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』が梓にもたれかかる。
「おぅ、ここでやらねば男が廃るってもんよ」
『麻生 遊夜(aa0452)』は梓の涙をぬぐった。
「今いる梓達は何にも悪くないのに……」
「こういうアンチって、根っからのよりファンからアンチになっちゃった人の方が厄介だったりするのよねえ」
「こっちの言葉だとなんだ……坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、だったか?」
『ベルフ(aa0919hero001)』はアンチという言葉に苦い表情を見せる。
「というよりも、ただ疑心暗鬼に陥っているだけだと思う」
『九字原 昂(aa0919)』はそう告げた。
「何にせよ、扇動されて流されているのなら、その逆も不可能ではないな」
『世良 杏奈(aa3447)』が困ったように語りかけた。彼女もアイドルたる娘『ルナ(aa3447hero001)』を抱える身なので。
「変なクスリを追っている間に、ディスペアはこんな事になっていたのね……」
嗚咽こだまする室内で、『榊原・沙耶(aa1188)』は冷静に状況を分析している。隣に立つ『蔵李・澄香(aa0010)』や『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』と今後についての話をしていた。
「まぁ1度火のついた噂は今のご時世じゃ永遠に消えないし、噂と付き合っていくしかないんでしょうね」
「そうだね。でもこれは私のミスでもあるんだよ」
澄香は重苦しく告げる。
一年前、幻影蝶が効いた光景で既に勘付いていた。模擬戦闘の際の一コマ、誰も気が付かないようなわずかな違和感だったが。
それを泳がせるという判断をとったのは澄香である。早期解決を行わなかった澄香にとって今回の件は一種のケジメだ。
「ちゃんと然るべき場所に報告はしていた。何かあればすぐにでも動いたんだ」
涙する小雪に近づいて澄香は告げる。
「君たちは孤独じゃないよ。大丈夫私たちにまかせて、私達と一緒にがんばろうね」
「貴女達次第よ。せいぜい頑張る事ね」
沙羅がない胸を張る。
そのことに澄香から突っ込まれて、沙羅が澄香に皮肉を返して、場がいくらか温まる。
指揮は十分。であれば問題はここから。アンチの存在と、ゲリラライブ戦術の具体案をたてるのは、リンカーたちだ。
「噂を逆手に取って路線を変えるか……」
沙耶はじっと思考を巡らせていた。
「ゲリラライブね……こういうのがあたし一番苦手なのよね……」
「だいじょーぶ! 2人共怖くないから大丈夫!」
そう『鈴宮 夕燈(aa1480)』と『楪 アルト(aa4349)』の姉妹はライブの相談にかかりっきりである。
今回は彼女らがメインで動くことになりそうなので、念入りな打ち合わせが必要だった。
「愚神さんと関係あらへんのとかーうちがそげん怖い人と一緒に居れるわけあらへんやん! お手て取れるよ! ってすごい仲良くなる! わちゃわちゃしながら仲良くなって一緒にアイドル活動さんするっ!」
そうアルトを引っ張って小雪と腕を組む。
「お姉ちゃんと一緒にー小雪さんと、梓さんとも一緒にライブ☆音楽はー楽しく楽しく♪」
「ほんと、夕燈にはかなわないな」
そうやってアルトは溜息をついた。
「自分が今どんな感じになってるのかわっかんなくなっちまうんだよなぁ、ゲリラライブって……っま、やるって決めたんだから遠慮なくやらせてもらうがな。な、夕燈」
ただ、最後に懸念が一つ浮かび上がる。
「こういうのってガデンツァが好きそうな手だよね」
『イリス・レイバルド(aa0124)』がポツリとそう告げたのだ。
『アイリス(aa0124hero001)』はそんなイリスを抱えてぼんやり言った。
「実際よく使っていたしね。ついでに現場の写真なんてそう簡単に手に入るようなものじゃない」
「まどろみとの戦場はかなり特殊だったしね」
こうして話はまとまった。ここから逆襲を成功させるのがリンカーというものである。
相手が愚神だろうが、大衆だろうが負けない。
そんな気合を胸に秘めて再びアイドルたちは立ち上がる。
第二章 戦記
作戦開始時刻は十六時ごろ。
手始めに路上ライブが頻繁に行われる地域の広場を抑えた。
そこに大型トラックで乗り付けると、そのトラックがかぱっと花咲くように開いた。
その中心にはアイドル。ステージはトラックの荷台というわけだ。
トップバッターは『斉加 理夢琉(aa0783)』である『アリュー(aa0783hero001)』と共鳴し、助言を受けながらその役を務めあげた。
ルナとのダンスの掛け合いも愛らしくて好評の様子。
「こういうところから人前に出ることになれていった方がいいよ?」
そう澄香におすすめされたのもあって、顔を真っ赤にしながらひたすら練習した曲と、踊りを披露する。
おかげで人入りは上々。
次いで登場したのがルナ、ことルナティックローズ。
ルナは歌に集中して杏奈が会場を見渡す、今のところ怪しい人物はいないようにみえた。
次いで転調、軽快なイントロと共に紙吹雪が舞った。
「次はトワイライトツヴァイとディスペアのコラボライブやんな」
「みんなついてこい! 夜が来る前に駆け抜けるぞ!」
そう左右から躍り出たのはアルト、そして夕燈。
中央からは小雪が現れた。
アルトと夕燈は御ソリの片側ポニテ、そして煌びやかな衣装で登場。
燃えるような夕陽を背にとわつばメドレーを三人で謳う。
「下手にぶっ放したりなんかしたらいろいろと巻き込みかねねぇ……あたしは何もしねぇ方がいいな」
「お姉ちゃんなにいっとるん!?」
腕のケミカルライトをおそろいの振り付けで輝かせ、その光をあたりに振りまいた。
「今日は突発ライブさんやからー! 通りすがりの知らない人も楽しんでもらえるとよかなぁって!」
曲の合間にそう手を振る夕燈。彼女のファンはノリがいい。手を振り帰してくれた。
「あ、殆どぶっつけ本番さんやから。あれなん、勢い!」
会場から笑いが起こり終止賑やかなムードでことが進む。
いつもよりも明るく、楽しく。
そう思うのは、自然な姿の小雪を見てほしいと思うがためだ。
(伝わってほしいんよ、こんな可愛い顔で笑える子達が悪い事するわけないやーんって)
その願いを胸に秘める夕燈は一段とパワフルである。
「まだまだいくぜ!」
アルト中心の曲に変わるとさらに苛烈に会場は盛り上がりを見せる。
そんな風に会場に熱がこもるごとに、浮き上がる不審な影があった。
その陰に昂は気が付いている。
「一人だけ、盛り上がりの薄い人物がいますね」
昂はライブの手伝いを澄ませるとアンチ活動の炙り出しのため周辺の警戒に移っていた。
アイドルたちを守りやすく。警備もしやすい場所の選定には苦労した。
監視カメラも増設し、その処理はクラリスなどにまかせており。自身はトラックの管理と周辺警戒を担当している。
そんな昂がステージ終盤になり、撤収の事を考え始めた時、異質な人間を見つけたのだ。
ただ、相手が動き出す気配はない。
「あれが、アンチの方ですか?」
――情報漏えいの話は本当みたいだな。
ベルフがそう告げる。
今回の事件を受けてリンカーたちが真っ先に疑ったのは情報漏洩だ、なので事務所等の身内でライブの開催情報を知る人数、情報量に制限をかけて、どの段階から漏れているのかを確認するという手段をとったのだが。
「今回だけでは詰め切れないでしょうね」
昂は次いでこっそりと鷹を召喚。天に放ち監視と追尾の目とする。
まだ彼が犯人である確証はないからだ。
そんな昂の報告を受けて遊夜は腰を上げた。
ライブを黙って見守っていた彼だが万一に備えて獲物を懐に忍ばせる。
次いで要注意人物を望遠カメラで撮影。
その日は何事もないままライブは幕を閉じる。
* *
次のゲリラライブは三日後の夜だった。
そのライブの準備の間に遊夜は梓に対して先日取った写真を見せる。
「この客は見たことあるか?」
その言葉に梓は首を振る。
ともすれば、ライブ前の少女に不安を抱かせるのは禁物。
「……ん、何時も来てる……良い笑顔」
そうユフォアリーヤは告げた。
「楽しみにしてくれてるファンも多い、まだまだこれからだぞ」
そう遊夜が頭を撫でると、梓はえへへと笑った。
次のライブは港町。人を集め、カメラも設置、全開できなかったWEB配信の準備もばっちりである。
と言っても客入りはあまりよくない、ゲリラだから当然。
警備体制も念が入っている。モスケールも起動させ遊夜は客内に愚神やリンカー等の高ライヴス反応がないか、予定にない外部からの反応がないか等にも気を配る。
そんな中、例のステージ代わりのトラックが開き、空中に煌くレーザービーム。
そのステージの中心にいるのは蘿蔔で。ふわふわとした衣装の彼女は女子力前回のアイドルなのだった。
「みなさん、今日は集まっていただいてありがとうです!」
と言っても中身はレオンハルト。
まぁ当然だろうか。レオンハルトの女子力はなかなかのものである。
「今日は楽しんでいってください」
隣には梓。二人は手繋いでもう片方の手にマイクを握っている。
シエロが最前列で手を振り上げた。
――あの、蘿蔔?
「ここは大事な場面です。あの写真が本当ならば二人と対峙した自分もいるはず。それが二人と共にいるなら白という証明の一つにもなるはずですよ」
そう小声で告げる蘿蔔。彼女の曲が終わり、梓ソロになった際には一歩下がってキーボードに徹する。
――そうじゃなくて、恥ずかしいんだけど。
「あ~、きこえな~い」
そんな蘿蔔にため息をつくレオンハルト。
しかし、彼はまぁそれでもいいかもとおもいはじめる。
――二人の事も応援してくれるお客さんの事も、何があっても守るから……心配しないで思いっきり歌って、気持ちをぶつけてやれ。
自分が表に出ていた方が護りやすい。
そんなレオンハルトの言葉を受けて梓は振り返り笑みを返した。
二人の行為に答えるべく声が熱を増す。
「今日は私達のライブを応援しに来てくれてる人がいるよ」
そう梓と蘿蔔が手を広げると舞台上に鋭いフォルムのビットが飛ぶ。
そこから奏でられる音が会場を塗りつぶした。
同時に登場したのが『小詩 いのり(aa1420)』と澄香。
「カメラ内蔵型に改造してるから、ちょっとビット重たいわよ、使用感に気を付けて」
そう遙華からの通信に頷きを返す二人。
二人はルネから連なる希望のメロディーを歌い上げていく。
春風、太陽と、月。その二つが合わさった壮大なメロディーに観客たちはうっとりとした空気に包まれる。
そんな視界の中に一人腕を組んでむすっと立ち尽くすキグルミが見える。
異彩を放つ容姿はごく一部で人気なタカナッシーと呼ばれるゆるきゃらで、そのキグルミ姿の誰かが、プラスチック質な板を抱えて壇上に上がる。
その時から会場がざわめき始める。
彼女は重苦しい視線を壇上の梓に向けると、その手に握ったサイリウムを叩きつける。
場がしんっと静まり返った。
「私は意を唱えるは、愚神が作った歌なんて耳障り、歌っている人間がいること自体耐えられない。あなた達は今すぐマイクを捨てるべきよ、ディスペア、梓」
そう沙羅は自分が引きずってきた簡易テーブルと、折り畳みの椅子を設置。ふんぞり返るように座った沙羅の耳にこんな声が届く。
「あれがディスペア」
「噂の?」
「愚神と一緒に活動してたらしいぜ」
ディスペアという単語を聞いたことはあるらしい。だがメンバーの顔をはっきり見たことはないものがほとんどなのだろう。
だが、今や最悪な形でその名前が明かされてしまった。
不安げに梓は胸の前で手を組む。
そんな梓の方を叩く澄香といのり。
二人が頷く。
「どうなの! あなた達は愚神側の人間なの? 愚神の手先として歌を謳っていたの?」
「私は……」
梓がかすれた声を漏らす。だが沙羅は……あえて声を張り上げる。
この程度の試練、乗り越えられると信じて。
「あなたは、私達を裏切っていた。それに対してどう落とし前をつけるの?」
そんなさらに釘付けになる視線。ただ一つそっぽを向いている顔から、それについている口からこんなため息が漏れる。
「おい、それ、俺のセリフだろ」
観客たちはその声をかき消すように声を張り上げた。先ほどの盛り上がりが嘘のようにブーイングの波が聞えてくる。
その声に澄香が反論しようとしたとき。
梓はそれを手で制した。
梓は見つめている。会場最前線で視線を注ぐアイアンパンク。
彼女の瞳はまだ熱を失っていない。そしてその熱は梓の手にも宿ってる。
あの時拾い上げてもらった右手。そして再び拾い上げてもらった左手。
誰も不幸にしないために、今ここで自分が戦わないといけないと理解した。
「私たちは何も知らなかった。これは本当。でも何も知らなかったって言って逃げるつもりはない。だって。みんなを傷つけたのは私達だから」
そう告げて梓は頭を下げた。
「だけど、私は私達の歌に込めた思いと、その歌に返してくれた想いを否定はしない」
「ディスペアはアイドルだった! そしてこれからもアイドルだ!! 絶対にだ!!」
「その証拠になるムービーも作成中だよ。みんなよかったらライブ情報楽しみにしていてほしいな。どこでやるかは言えないけど、ネット中継はするからさ」
そういのりは梓にウインクするとその背を押して舞台から降りる。
第三章 再起
ゲリラライブを二回終えて。
一度は再び作戦会議を行っていた。
「もふもふは癒しっ!」
そう夕燈はアニマルセラピーの広告を見て、会議室に大量の犬を発注したのだが。むしろ梓と小雪が埋もれて身動きが取れなくなるほどだった。
「好きな動物さんとか、一緒にもふもふしよーしよー」
そんな会議室で口火を切ったのは沙耶。
「みんながうたってる間にいろいろしらべたのよぉ」
そう言ってモニターにPC画面を写す。
「何をやっていたのかというと、ネットを主にディスペアの公式から個人まで、全てのSNSをチェックして、ディスペアの行動を把握できるかの確認していたわぁ」
さらには、ディスペアのアンチスレをざっと流し読み、最も発言数、回転数が早いスレットに書き込みを。
コテハン、タカナッシーで行っている。
「ちょっと! 私のなま……」
蘿蔔に口をふさがれる沙羅。まぁ、実際タカナッシーのハンドルネームを使っていたのは蘿蔔もそうなのだが。
「そしてこれが、この前の小鳥遊ちゃんの行動を受けての書き込みねぇ」
沙耶は壇上に上がってディスペアにがつんっと言ってやった。と言った旨をかきこんだのだが。
余計なことをするなと返事が返ってきていた。それは一番書き込みが多かったユーザーである。
「どう思うかしらぁ?」
そう沙耶がディスペアの二人に問いかけると、二人は暗い表情で椅子に腰かけている。
思いのほかこの前のライブがこたえたのだろう。
今まで彼女たちは歓迎されないことなど無かったのだ。
無理もない。
そんな二人の前に蘿蔔が立った。
「先に謝っておかないとと思って。二人の大事な仲間を救えなかったのは事実です……それに、色々気づいてたのに」
「私も同じです、ごめんなさい」
そう澄香と蘿蔔は頭を下げる。
「いいよ、大丈夫。それに迷惑をかけてるのは私達だから」
そう梓が告げる。
そんな梓の膝にイリスが座った。
イリスはそのつぶらな瞳で二人を交互に見る。
「もしかしてまだ、アネット……さんのこと信じてるんですか?」
二人は目を見開く。
「イリスはいまだに彼女をさん付けか呼び捨てかで悩んでいるからね」
「だってボクとしてはすごく微妙なラインなんだもん」
そうイリスはすねるように口をとがらせる。
「でも最終的になんだったかはよくわからなくても、元になったのが人の想いだっていうのはなんとなく察せられたというか」
「人の想い?」
小雪が問いかけた。
「愚神は殺すのは間違いないけど、いくらボクでも人間だったときの想いまでは否定しないよ」
「ねぇ、みんなはアネットの歌も、瑠音の歌も、欲望まみれの汚い曲だと思う? 歌に込められた思いも嘘だと思う?」
「ディスペア活動も全部がうそじゃないと思うんだよ」
イリスは告げる。
「ただし瑠音は知らないと」
「だって瑠音だし」
アイリスの言葉に頷くイリス。二度悲しそうな顔をした二人をあわてて澄香と、いのりがなだめた。
「というわけで嘘じゃないと思うなら繋げるべきです。伝えるべきです」
「記憶をたどって。探して」
「見つめるんです。思いが嘘しかなかったのか。本当は存在したのかを」
「それを信じる事ができるのは共に過ごした者の特権だよ」
「見つかるかな、私に。アネットや瑠音の本当の想い」
小雪が問いかける。
不安そうな二人の少女。そんな少女二人を、シエロがガシャーンッとワンステップで歩み寄って、ガシャコーンとツーステップで抱きしめた。
「二人が諦めない限り大丈夫だよ」
「シエロ、でも私。何もアネットに言ってもらえなかった。私に黙って消えちゃった」
梓は流れる涙をシエロに押し付ける。
小雪も小さい嗚咽を漏らして両目を隠すようにシエロにうずめた。
「大丈夫、もし困ったときにはまた助けに来るから」
「そうだよ。大丈夫。きっと何とかなるよ。ボクたちを信じて?」
そういのりが告げる。
その言葉に梓も小雪も頷く、本当に信じるべきものが何なのか。それはもうわかっている。
「そういうわけで」
イリスがもぞもぞとポシェットから紙束を取り出す、楽譜のようだ。
「人の意見や噂に流されて、自分の中の想い出を歪めないための……今回はそんな歌を用意してきました」
「はい! それ。私も、私もです!」
負けじと蘿蔔が手をあげる。
「レオが作った曲なんですが」
「無理にとは言わない。ただよかったら…………」
そう差し出す楽譜には『残照の音~Remain~』と書かれていた。
遠い夏の日を思い描いた。
かけがえのない時間は過ぎ去り、今はただ思い出だけが光る。
そこにはアネットの想いもまどろみの想いも詰まっているだろう。
「ありがとう、みんな」
そう小雪は楽譜を抱きしめて笑う。
そんな会議室の扉がおもむろにいた。
そこには大量に作りこんできた差し入れを抱える遊夜とユフォアリーヤの姿があった。
「お疲れさんだ、良いステージだったぞ! 差し入れ持ってきたぞ、自信作だぜ?」
そして遊夜は目元を腫らした梓に目を止めた。
遊夜は荷物をその場に下ろして颯爽と梓に駆け寄る。
「よぅ、助けに来たぞ! 俺達が来たからにはもう大丈夫だ!」
そう遊夜は少女二人の目の前に腰を下ろしてその表情を覗き込む。
「どうした、何でも言ってくれて良いぜ? ん?」
梓の顎に手を当ててこちらを向かせる遊夜。
その様子を見て、小雪は顔を真っ赤にしてあわあわしていた。
「妻子持ち、禁断の恋? です?」
「笑顔が一番……」
そんな穏やかなユフォアリーヤの声とは裏腹に、そのくちはかぱっと大きく開かれている。
遊夜の背後でギラリと煌く犬歯。
珍しい遊夜の悲鳴がこだまし、遅れて少女たちの笑い声がその場に満ちた。
「ありがとうございます。遊夜さん」
梓は思う、まだ、まだまだ頑張れそうだと。
第四章 好機
三度目のゲリラライブ。
開催場所はとあるショッピングモールの広場。
その中心へ花のような香りを漂わせながらイリスとアイリスが滑り出る。
まるで水上スケートのように警戒に交差しながらも共鳴と分離を繰り返すシンクロダンスは好評で。彼女を知っている大きなお友達たちも集まり始めた。
「今日は新曲があるよ」
「傷ついた仲間たちに捧げる歌だ、聞いて行ってくれたまえ」
『廻リ音』。それは思いがつながっていくという曲。
生命の情報は血の流れの先に次代へと繋いでいく。
では想いは途絶えるのだろうか。
移ろう時の中で変わっても、変わる事のない想いを歌おう。
何時か歩みを止めたあの人から、何時か途方にくれる君の元まで廻り伝える。
これは再起と激励、そして想いを繋ぐ生者のための鎮魂歌。
そう静謐な、どちらかというとアイリスよりな曲。
その曲に胸を震わせているのは観客だけではない、袖に立つ梓と小雪もだ。
「ほら、ぼさっとしてないで、準備しろよ」
そんな小雪の腕をアルトが掴み。
「会場あたたまってはるね。いくやよ~」
夕燈は梓の手を引いた。そして光の中へ。
会場には困惑の声も漏れるが、それをトワイライトツヴァイの歌がかき消していく。
その時だ、フードエリアから悲鳴が上がった。
「……何かおかしい、六時方面を警戒してくれ」
遊夜がインカム越しに全員へそう告げた。
見ればマスクに帽子の見るからにいかつい集団がこちらに向けて歩いてきている。
「そう言うことなのねぇ……」
モニター越しにそれを眺めていた沙耶はそう一人ごちた。
「はーいそこまで、H.O.P.E.でーす」
そんな一団の前に躍り出たのはシエロ。声音は穏やかだがフォルムは穏やかではない。
――ここから先に通すわけにはいかん。
「……大人しくしないなら、容赦しない……よ?」
自慢の逆関節を目いっぱい伸ばし、静かな怒気で男どもを押し付ける。
「怯むな! 俺たちは愚神の歌を止めに来たんだ!」
そう振りかざす鉄パイプ。だが、シエロは梓が危険な目にあっているということもそうだが、この暴力という手段に訴える手法自体気に食わない。
「うがああああああ!」
シエロが足を踏み鳴らす、次いで遊夜が暴徒たちの足元に弾丸をばらまいた。
鉄板の上に放られたようにダンスを踊る暴徒たち。
次いでアルトが小雪と梓を抱きかかえて、ジェットブーツで退避。
「歌うのを止めちゃいけねぇ」
「え?」
アルトの言葉に二人は首をかしげた。
「本気で思いを……関係ねぇってのを伝えてぇなら最後まで歌い続けろ!!」
歌はやまない、届けたい思いがあった。
届けたい思い、それは。
「私たちは、アネットも、瑠音も、みんなを救う歌を謳いたかったんだ」
次いで曲調が変わる。蘿蔔……いやレオンハルトによる伴奏だろうか。
『残照の音~Remain~』が願いを込めて二人の口から謳われる。
「みなさん聞いてください!」
響いた声はクラリスのもの。
モール内のモニターすべてに映像が映し出された。
それは残るディスペアメンバー全員に幻影蝶、そしてパニッシュメントを受けている映像。
三人の顔にまったく苦悶は浮かばなかった。術者ですら不発と判断できるほどに。
「幻影蝶で疑った。だからそれを幻影蝶で払う」
その映像をみて観客がどう動くか、それを澄香はかたずをのんで見守る。
「歌声にライブスの痕跡を調べたがシロ、あるアイドル戦術では出資して貰い被害軽減に繋がった、彼女たちは常に皆のためを思って行動していました」
その声に、重なる声がある、それは擁護の声。しかしそれはリンカーたちの声ではなかった。
彼女たちのファンの声だ。
「アネットさんは邪英だったかもしれない。でも俺。愚神になりながらも彼女の大切な人を救うために戦っていたってきいた」
それは蘿蔔の流した情報だが、一切の嘘はない。
知ってほしかった、あの哀しい物語が悲劇の引き金だなんて耐えられなかった。
「一般人を襲った事はなく、犠牲も出していないって聞いたぞ」
「俺なんて、ライブの時愚神に襲われたけど、護ってもらった」
その間に調査は進んでいる。杏奈が人ごみをかき分け暴徒をスルーしとある人物の背後に。
杏奈は父親譲りの捕縛術でその男を組み伏せると、一般人たちに下がるように告げた。
「なんだお前!」
「少し姿を見せぎたわね」
そう、その人物こそ犯人。
「くそおおおお、話せ、俺は俺達を裏切ったディスペアを罰さないといけないんだ。だってそうだろ? 愚神が実際に混ざってた。愚神は殺さないといけないんだ」
そう喚き散らす男の目の前にたくましくも美しい鋼鉄製の足が見える。
「……てめえか?梓ちゃん達に付きまとってんのは」
もうすでに怒っているシエロが怒気増し増しで犯人の前に立っていた。
「いい加減にしないと……怒るよ?」
パレンティアレガースに火が灯っていく。
「けどよ、俺は、俺はさ、好きだったんだよ。ディスペアの歌が、けどさ愚神は嫌いなんだよ。それが当然だろ? 愚神なんて滅ぼさないといけない存在、それが当たり前なんだろ? だったら、だったら。俺はどうすればよかったんだよ」
男の目から涙が流れる。その涙にシエロはぐぬぬっと言葉をしまいこんだ。
「彼女たちは法で保障されています」
――中断したライブの分も含め、威力業務妨害で刑事告訴です。
冷たく言い放つクラリスと澄香。
代わりにいのりが犯人の隣に腰を下ろして柔らかく問いかけた。
「本当にそんな風に思ってるの? 本当にキミの心からの言葉なの?」
「本当の言葉だと思ってた。けど、戻りたい、ディスペアを応援してた頃に戻りたいよ」
「愚神を恨む方、義憤にかられた方、事情は皆おありでしょう。どうでしょう。此処は双方矛を収めては」
現れたのはセバス。その言葉はその場にいる全員を冷静にさせる。
責め立てるだけが事態解決に繋がるわけではない、そう大人である彼は告げたのだ。
そんなセバスの背中をいのりはにやにやしながら見守っている。
「戻れるよ」
そんな犯人へ小雪が歩み寄る。
「みんなが私たちに言ってくれた言葉、だから頑張れた、これからもがんばる。あなたも一緒にがんばろうよ。私一緒に頑張るって好きだな。ここにいるみんなに教えてもらった」
告げて小雪はあたりを見渡した。
そんな小雪や梓にルナが微笑みかける。澄香に抱き着きながらこう告げた。
「悪い奴に狙われても、必ずアタシ達が守ってみせるわ! 正義の魔法少女だもん。ね! スミカ♪」
「うん、そうだね」
そんな大団円を眺めながら事態が収まったことを告げようと蘿蔔はクルシェに連絡を試みる。
今ままで何度も連絡してつながらなかった通話が今繋がった。
その向こうからは荒い息使いが聞える。
「クルシェさん?」
蘿蔔が問いかける、すると電話の向こうから嗚咽と共に言葉が一つこぼれ出た。
「……ニゲロ」
その時蘿蔔は悪寒を感じて顔をあげる。
「……まどろみ、あいつがこんなとこまで関係してるなんてな……。ま、なんにせよ夕燈に苦しい思いをさせる気なんかしねぇ。今何とかしてやりてぇ気持ちがあるが今はお預けだ。……次はぜってぇぶっ飛ばすからな」
そう告げるアルトや夕燈。全員が和やかなムードになっているけれど、そんな場合ではないと蘿蔔は言いたかった。まだ黒幕は捕まっていない、そして、黒幕がこの場にいることも考えられるのだから。
「ねぇ、小雪さん、梓さん」
いのりが二人に手を差し出す。
「友達になれると嬉しいな?」
小雪はその手を取ろうとする。
しかし。
「まって! 小詩さん!!」
沙羅が走り寄るのが見えた、次いでいのりの体は吹き飛ばされ。硬い地面を転がった。
「いたたた、どうしたのかな? 」
くらつく頭を押さえて目を開くとそこには、体に水晶の花を咲かせた沙羅が倒れていた。
* *
水晶を放った瞬間、そこに集まった一般人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げた。
その中で一人怪しい女性を見つけ、昂はそれを追跡する。
その影は町はずれの寂れたマンションまで訪れると鍵を使って中に入る。その扉の向こうは闇で満たされていた。
「これは、ドロップゾーン……まずいですね早く報告を」
その瞬間、ドロップゾーンが爆発的に成長し。そして一体を飲み込んだ。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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