本部

【紫雲】紫峰翁大學入学案内パンフを追え!

形態
イベントショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/09 20:49

掲示板

オープニング

●小春日和の文化祭
「あー、無事に文化祭を迎えられそうで良かったわ」
 うーんと伸びをした灰墨こころの目の下には薄いクマがあった。
「本当、がんばりました」
 こくこくと頷く白衣の女子も目の下にクマ。
 A.S.のメンバーたちは、連日研究室に篭って文化祭の為の疑似AGWの開発をしていたのだ。いや、疑似AGWなどと言ってはいるが、その実、AGWの銃器そっくりの水鉄砲である。しかも、濡れない。
「安全安心の濡れない水! これは水鉄砲に使うしかないと思ったわね」
 胸を反らすこころに、力強く頷くメンバーたち。
「ホンモノの濡れない水はちょっと高いから、ニセモノを手に入れられて良かったわ」
 そう言ったこころの手には銀色の水差しがあった。
 ──「虚像のレキュトス」。本物そっくりに扱える液体の幻を生み出す、れっきとしたオーパーツである。ただし、液体は十分で消え、また飲んでも吸収することも、また、何かを濡らすこともできない。
「昔はこれを拷問に使ったみたいだねー。飲みたくとも飲めないって感じかなぁ」
「気持ち悪いのでそういうこと言わないでください」
 A.S.の女子たちは自分たちの顧問を冷たい眼差しで一瞥した。
「まあ、僕がこれを借りて来たからイベントができるんだし。だって、君たちは水でもお湯でも濡れるの嫌だったんでしょ?」
「当たり前じゃないですか! 幾ら暖かくても風邪ひくかもしれないし、水着に着替えなきゃいけないし、化粧だって落ちちゃうし」
 女子力高めの学生が鼻白む、その隣で37mmAGC「メルカバ」そっくりの水鉄砲をぺしぱし叩いて明るく笑うこころ。
「これで容赦なく、男子ズと戦うことができるから感謝してる、ジョン・スミス先生」
 H.O.P.E.技術開発研究紫峰翁センターからの客員教授であるにも関わらず、A.S.の顧問の一人を担当しているジョン・スミス。彼は可愛い学生たちに朗らかに笑ってみせた。
「思いっきり楽しむといいんじゃないかなぁ。──さて、僕は自分の……」
 その時、学園内で悲鳴が上がった。
「きゃああああ! 誰か!!」



●鴉を捕まえろ!
 雑木林を飛ぶ黒い影。
 黒く大きく逞しい身体に力強い翼。
 無数の鴉たちが次々になんらかの紙を加えて空へと舞い上がる。
「あれは僕の『野菜製のペーパーシート』!!」
 ──ジョン・スミスの専門はAGWの研究であるが、彼は趣味で家庭菜園を行っていた。ともすればそれが本業と思われるほどに容赦なく自身のリソースをそちらに突っ込んでいた。
「文化祭に、僕の家庭菜園で余った野菜を使って作った野菜製のペーパーシートを提供しようとしたんですけど」
 もう一度言う、彼はAGWの研究者としてここへ招かれている。
「野菜製のペーパーシートはいいんです!」
「ええー、よくないんだけどなぁ」
「違うんです! 鴉が野菜製のペーパーシートと一緒に文化祭で配る予定の大学の入学案内パンフレットを……!」
 悲痛な声で訴える生徒の足下にはジョンの野菜製のペーパーシートが入っていた段ボールと、入学案内と印刷された段ボールが転がっていた。
「……あぁー……」
 しばらく考えた後、ジョンは口を開いたが。
「諦めて──」
 そんな彼の前にA.S.の女子たちが水鉄砲を持って走り出していた。
「任せて! わたしたちが集めておくわ!」
 バシュン、水鉄砲が鴉の加えた紙束を撃った。
 抵抗する鴉が必死に咥えたせいでパンフが少し千切れたのがわかった。

「……先生、パンフは無事に戻りますかね……」
「うーん……。そうだねえ、H.O.P.E.に連絡しといてくれるかな?」



※紫峰翁大學(しほうおうだいがく)
茨城県つくば市にある日本で二番目に広大な連続した敷地を持つ大学
日本有数の難関大学で広大な敷地内は居住区どころか商業施設も内包しており、周辺は『紫峰翁学園都市』の二つ名で呼ばれている。
ただし、設備や道路の増設を重ねた為に迷路のようになっており人知れぬ研究施設があったり迷子になったりする。

解説

●目的:大学の入学案内パンフレットの回収
なんとかしてパンフレットを一定数回収したと判断できれば、もしくは一定の時間が経てば依頼終了
※PL情報:無事な状態かどうかはゲームの終了には関係ないが成功度には僅かに関係あり


●ステージ
そろそろ紅葉しそうな校舎裏の雑木林
地面には大量の落ち葉(少し滑る)
文化祭を数日後に控えた、とある日の小春日和の午前11時
大量の鴉が飛んでいて非常に混乱した状態
行動にペナルティがあります(当シナリオはコメディです)


●敵
・鴉 滅茶苦茶多い(正確にはわからないが50羽くらいはいるだろうか……)
妙に訓練された紫峰翁大學のカラスたち
一般的な鴉サイズ~少し大きめまで
嘴と脚で器用にパンフや野菜製のペーパーシートを掴んで飛んでいる
その辺の物を投下したりフンを投下したり、仲間の鴉と連携を取って攻撃したりしてくる
AGWではないので共鳴したリンカーにダメージは無い
本当に普通の鴉なのだろうか……


・A.S.女子ズ 4人
寝不足で殺気立った女子ズ
鴉を狙って水鉄砲を撃っているのだが、なぜかリンカーに当たる
ダメージはないし濡れないが、ちょっと痛かったり、行動が阻害されたりする
説得したくても鴉の声がうるさく、また皆寝不足で頭が回って無いので意思の疎通は不可能
こころのみ非能力者で他はリンカーor英雄だが共鳴はしていない(パートナーが同席していない)
こころ(一般人)、あずさ(英雄、ジャックポット)、シェリー(能力者、相棒はバトルメディック)、ちひろ(能力者、相棒はドレッドノートとシャドウルーカー)※あずさ以外はあまりクラスは関係ない
武器は水鉄砲、白衣を羽織っている

リプレイ


●準備
 虎噛 千颯(aa0123)は言った。
「こころちゃんって……結構残念だよね」
「残念? 何がでござるか?」
「いや……わからないならいいんだぜ」
 見た目も思考もホワイトな相方、白虎丸(aa0123hero001)に千颯は首を振った。
「おおー? からすさんいっぱい!! まいだしってる、からすさんはね! たくさんいるとね! あぶないんだよ!!」
「ああ、何時もうちのごみ捨て場でも死闘を繰り広げてるからな。あんだけいると厄介だぜ、おい……」
 安全教育バッチリのまいだ(aa0122)とバッチリ指導の獅子道 黎焔(aa0122hero001)。
「よし、まいだ! 光るもんと甘いもんと何か目玉みたいなの買ってくるぞ!!」
「はーい!! でもれいえん、なんでがっこうなのにおとなのひとしかいないの??」
「あー……あれだよ、大人だけが通う学校もあるんだよ! 大人の特権なんだよ!」
 とりあえず依頼遂行を優先した黎焔はザックリとした説明で済ませて購買部へと促した。
「じゃ、お願いねー」
 校舎裏から顔だけ出したジョン・スミスはひらひらと手を振ったのだった。


「……烏は光り物が好きらしいな」
 キリル ブラックモア(aa1048hero001)の発言に弥刀 一二三(aa1048)は感心する。
「よう知っとりますな、そうらしいどすわ」
「では頑張って誘き寄せろ、その間パンフを回収しよう」
 キリルの長い指に掛かった沢山のアクセサリーがジャラリと音を立てた。
「な、何しよるん……!」
 抵抗する間もあればこそ。あっという間に一二三は体中光輝くアクセサリーにまみれて地面に転がった。
「烏が寄って来過ぎた時に使え」
 最後に自宅から持って来た鉄パイプを握らされた。
「……は、はあ……」
「日当たりのいい場所にいろ! いいな!」
「え、ええ?」


 両手いっぱいのアクセサリーがキラキラと輝いていた。
「これで誘ってパンフレットを離して貰うのは?」
 荒木 拓海(aa1049)へ提案するのはメリッサ インガルズ(aa1049hero001)。手の中にあるのは自宅から持って来た不要なアクセサリーだ。
「良いね、それでも離さない子は布を被せ捕獲してひっくり返して回収しよう」
「ひっくり返す?」
「愛鳥家の友曰く、そうすると大人しくなり爪切りし易いそうだ」
 ふたりは協力して日当たりのよい芝生にアクセサリーを並べた。
「反射が足りなかったらウェポンライトで照らそうと思ったけど、大丈夫そうだね」
 拓海は愛用のサバイバルキットを取り出すと釣り糸でアクセサリーを繋ぐ。不要な鴉対策、そして、エサ盗り対策である。
 その後はクーラーボックスから出した鮮度バッチリのマグロ。
「この辺ならギリギリつつけるよね?」
 拓海を手伝うメリッサが尋ねる。伏せた籠の中へマグロをセットするのだ。
「うん。あとは……一番の敵は生徒かも……巻き込まれるなよ」
「そう言う運を持ってるのは拓海でしょ」
 思わず笑うメリッサ。
「でも濡れない水って素敵ね。拓海なら何に使いたいかしら?」
「服を着て泳ぐ! 子供達に服のまま泳ぐ練習とかして貰ったらどうだろう」
「すぐ消えないならそれも良いわ……。発明をし続けるって凄いわね」


 御神 恭也(aa0127)たちは遅れて現れた。
「なんか、今日は烏を良く見かける気がするな~」
 カアカアと煩い鴉の様子に伊邪那美(aa0127hero001)は不思議そうである。
「もうすぐ文化祭だから何かあるのかもな」
「屋台の残飯とか? さすがにまだないよー」
 呑気に笑う伊邪那美。彼女は今回の依頼のことは何も知らない。
 ──カラスが相手となると、甘く見るのは危険だからな。下手に教えると勘繰られる可能性もある。
 すべてを知っている恭也は何かを取り出した。
「あっ、肉まん! え、ボクだけ食べていいの? このお菓子も? じゃあ──えっ、このまま行く? どうしたの?」
 大盤振る舞いのおやつの山を嬉しそうに両手で受け取る伊邪那美。
 それを見つめる熱い眼差しに、彼女はまだ気づかない。



●バード
 共鳴した千颯は雑木林に踏み込むと、多くの鴉が居る場所へ問答無用で《セーフティガス》を放った。
 落ちる巨大な鴉、鴉、鴉。
『なんと……いとも容易くこのようなえげつない行為を行えるとは恐れ入るでござる』
「えげつないってなによー! 俺ちゃんは効率良くパンフレットを回収する為に余計なモノを最小行動で排除してるだけでしょー」
 悠々とパンフレットを拾い集める千颯。
『ちなみにこの鴉達はどうするでござるか?』
「え? 放置しますよ?」
『下衆でござるな』
 しかし、思ったほど回収はできなかった。
 他の仲間はそれぞれ作戦があるようでどこかへと歩いて行ってしまった。そういえば、それからしばらくしてここの鴉が減った気もする。


 雑木林で御童 紗希(aa0339)はごそごそと荷物を取り出していた。手伝うカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は不服そうだ。
「なんでカラスにそんな豪華なもん食わせんだよ」
 並べたのは五つ星レストランの高級弁当ふたつ。
「だってあの大きなカラスだよ? 絶対いいもの食べてるよ。お菓子とかじゃ多分釣れないと思うから奮発して持ってきたの。
 それでこのお弁当に睡眠薬を混ぜて、眠らせちゃえば」
「……そんな作戦にカラス引っかかんのかよ……。
 カラス頭いいって聞いたことあるぞ? 危害を加えた奴の顔記憶して子供や仲間に伝えるらしいぞ」
「だから、眠らせちゃえばいいんだよ」
 ──紗希と共鳴したカイはロケットアンカー砲を使って木の上に取り付く。
「さすが、食いつきがいいな。
 ボスは……ボスはいないのか? カラスに今のうちにここに居ると危険と思わせてやろうぜ!」
 カイは中央へ「ソニッククラッカー」を放ったり、スマートフォンを翳し鴉の警告の鳴き声も流してみる。
 だが、鴉たちはすぐにまた弁当に夢中になる。
 茂みの揺れと同時に水の塊が飛び出した。
 着弾した水にカイが顔を歪める。一方で弁当に群れていた鴉たちは警戒の声を出した。
「見つけたわよ!」
 水鉄砲を手に飛び出したのは目が据わったA.S.の女子たちだった。
「お、よろしく!」
 鴉へ直接当てないように気を遣いながら、ガンブルーにカスタマイズしたオートマチック「Wスカーレット」を構えるカイ。
 だが、狙いをつける彼へまるで狙ったように次々と水鉄砲の流れ弾が当たる。
 共鳴姿のカイは枝から飛び降りて青筋立てて叫ぶ。
「おい! お前ら協力してんのか邪魔しに来てんのかどっちだ!?」
 ばしゃん。
 そんなカイへトドメのヘッドショット。
「……俺じゃねぇ! カラス狙え! 大体、カラスはその白衣を攻撃対象とみなしてるぞ! 脱いどけ!」
 びりびりと空気を揺らして叫ぶカイ。
「おい! バカ女子学生共!! いい加減に目ェ覚ましやがれー!」
 鴉に負けない殺意でカイが幻想蝶から取り出したのは目覚まし時計「デスソニック」。
 ──ジリリリリリリリリ!!!
 躊躇いなく投げられたソレは仕様通りの殺人的な大音響生み出した。
「いやあ! 徹夜明けに辛ッ!」
 完徹女子たちはもんどりうち、次々と逃げ出した。
 自身も耳をキーンとさせながら、カイはそれを満足そうに見送った。
 そんな相棒を後目に、共鳴を解いた紗希は淡々とパンフレットを拾うお仕事に戻った。
 ──クワァァァ。
 紗希の足元をチョンチョンと鴉が摘まむ。
 ──アワァァ。
 ツンツンと鴉がカイの足を優しくつつく。
 聞きなれない声で鳴く鴉たちはどんどんと数を増す。その瞳に浮かぶ色は先程の敵意とは違う。
「一体なにを入れたんでしたっけ?」
「ええと睡眠薬のハ……ズ……」
 慌てて取り出した容器には予定していた薬とよく似た書体で書いてあった。
 惚れ薬、と。
 紗希の絶叫が秋空に響く。


 ──先ずはブツだ。物がなければ始まらねえ!
 鴉たちを警戒した黎焔はまいだと共鳴し、全身を覆う透明な棺型装甲「あなたの美しさは変わらない」を展開して大学の購買部と食堂目指してダッシュした。
 突然飛び込んで来た子供、見えない何かに弾き飛ばされる一般学生と立て看板。
 足を止めて振り返るまいだ、見えない装甲に遮られてガツンガツンいう自動ドア。
『カラスがよだれを垂らして喜びそうな逸品を頼む』
「たのむー!!」
『基本鴉用だけど甘いものも買っていいからな』
「やったー!」
 結果、店外で見えない棺に購入したあれそれをペタペタと張り付ける共鳴したまいだ。いつの間にか文化祭の準備をしていた学生たちが集まってそれを手伝ってくれた。
 そこへ両手にジャンクフードを抱えた伊邪那美が猛スピードで駆け抜ける。
 ──カァ!
 恭也は伊邪那美を追って低空飛行する鴉をサバイバルブランケットで叩き落し、パンフレットを回収。
「良く集まって来るな……烏から見て美味そうに見えるのか?」
 ちなみに鴉と戦っている真横でキラッキラに装飾した箱が立っていたが、恭也は見なかったことにした。
 箱、もとい、まいだたちはというと、伊邪那美を襲っていた鴉のうち数羽を輝きで釣ることに成功していた。
『よし、クリアレイの光で──ダメか?』
 光はむしろ攻撃と見做されたようで何羽かは去って行った。
『逃げる奴は訓練された烏だ。向かってくる奴は更に訓練された烏だ!!』
「りょーかい! ──どーん!」
 キラッキラの「あなたの美しさは変わらない」はデコり過ぎた為に他の武器と入れ替えるとかは色々無理だった。
 黒い鴉、キラッキラの棺。
「きゃーっ!!」
『まいだ、そこだ!! 上! ダーっ惜しい!! 怪我だけは気をつけるんだ!』
 応援する黎焔。
 キラキラ棺vs.鴉の戦いはどんどんヒートアップしてゆき、周囲には人垣ができて声援が飛んだ。


 拓海は釣竿を操り、フライ・フィッシングを楽しむ。否、獲物は魚ではなくパンフレットだ。
 貴金属やマグロの罠に夢中な鴉たちの間を粘着テープの付いた釣り針が器用に縫っていく。それから、宣言通りタオルをかけて邪魔する鴉をひっくり返す拓海。だが、鴉たちは楽しかったのか、また落ち葉の上をころころし始めた。
「イタ! ッ! ……頂きますっ」
 他の鴉に見えないよう校舎裏まで引っ張ってから、拓海はなんとかパンフレットを剥がし取った。
 鴉たちが貴金属やマグロに夢中なせいか拓海の配慮のせいか、作業は比較的平和に進んでいた。
「いゃー! 大事なアクセも混ざってる!」
 拓海が止める間もあらばこそ、メリッサは鴉の群れに飛び込む。
「やめて、返して!」
 抵抗する鴉の強力なキックにより彼女の銀髪を留めていた簪が弾き飛ばされた。ふわりと解けた銀髪はアクセサリーよりも美しく陽光に輝く。
「リサ!」
 拓海が駆けつけるよりも早く、輝きに目を奪われた鴉たちが発狂する。
「……お離し!」
 髪を庇いながら鴉を押し返すリサの頭に濡れない水飛沫が弾けた。
 水鉄砲を装備したA.S.の女子たちである。
 だが、鴉以外は目に入らないのかガンガン当たって……当たって、痛い。痛い。痛い。
 バン! とメリッサの持つ傘が開いた。AGW「スカーレットレイン」、ただし、今回はただの傘としての使用である。
「……事故なら何しても良いと思って?」
 すぐにそこでは女子限定のストリートファイトが始まった。
「……リサなら負けないな」
 パンフレット回収へと戻った拓海を鴉が見上げて来た。それを転がしながら目的のブツを──バシュッ。
「あっちに」
 バシュ。
「……」
 仕事に勤しむ彼へバシバシ当たる水鉄砲の流れ弾。もちろん、濡れはしないのだが割と痛くてウザイ。
「やめよう! 頼むっ」
 無双しているリサの影へ思わず転がり込む拓海。
 再び拓海へ向かった流れ弾がアクセサリーの一つを撃ちあげた。
 それを見たメリッサはぱっと顔を輝かせ即座にそれを掴み取る。
「ありがとーうっ!」
「ひゃっ」
 急にメリッサに抱き着かれたこころが驚いて目を覚ました。
「その武器優秀ね! ふふっ、銃の形も本物みたい!」
「え、エージェント??」
 けれども、正気に返ったのはこころだけだった。
 他の女子の水鉄砲が今度はあろうことかパンフレットを弾き飛ばす。最早なんのための戦いか。
 だが、飛来した勾玉がそれを弾いた。千颯の飛盾「陰陽玉」だ。
「パンフレットの防御は任せておくんだぜ!」
 拓海からパンフレットを受け取ると、共鳴した千颯は快活な笑顔を浮かべた。
「防衛は任せて、俺ちゃんが責任を持って護るんだぜ!」
 頼れるバトルメディックの登場に拓海は胸を撫で下ろした。
『お前が責任とか……一番信用出来ないでござる』
 白虎丸の反応ににやりとした千颯はセーフティガスを発動した。
 拓海たちの目の前で倒れるA.S.の女子たち。
『女子にも使うとかますます外道でござるな』
「なんでさ!? 寝てないようだったから寝かせてあげようという俺ちゃんの優しさなんだぜ!」
『で、眠ってしまった女子達はどうするでござるか?』
「え? このまま放置ですよ?」
『誠に人間の屑でござるな』
 共鳴を解いた白虎丸が四人の女子たちを俵担ぎで校舎裏へと移動すると、上階の教室から唖然と見ていた学生へ声をかける。
「先生殿に連絡を頼むでござる」
 そこへJKが悲鳴と鴉と共にやってきた。紗希とカイ、ハートマークを浮かべた鴉たちである。
 オスと思わしき鴉はそれぞれの口に虫やらネズミやらを咥えている。求愛給餌と言い彼らは相手の口へとこのプレゼントを直接渡すという。オスメスともに紗希やカイの性別を区別しているのかは怪しく、愛のプレゼントはどちらのぶんも用意されていた。
「いらないーっ、カイ、お願いっ」
「ま、まて、こういう時ばっかりだろ!」
 ピンチを救ったのは《ライヴスリロード》でスキルを回復した千颯だった。
 紗希たちを追っていた鴉たちは千颯のセーフティガスでバタバタと眠る。
「サンキュー! トーチャン。助かったわ」
 追加出現の鴉へ向かって「神樹の鎖」に持ち替えた千颯が楽しそうに言う。
「んじゃま、これで拘束出来れば御の字って感じなんだぜ!」
 鎖の付いたその武器を見て、再び共鳴していた白虎丸は怪訝に思う。
『鞭など使えたでござるか?』
「んにゃ? 全く。今日初めて持つんだぜ!」
『……それで拘束とかその自信は一体何処から来るでござるか』
「大丈夫だって」
 残念ながら、ふたりのその会話はその場に居た他のエージェントたちには聞こえなかった。
「ちょっ、まっ、待って! トーチャン!!」
「え、えっ、ちーちゃん、白虎ちゃん!?」
「やだ、待って」
「ええええっ?」
 ──事故発生報告。概況、依頼中に使用の経験が無い武器を使い誤って同僚を拘束する事態が発生。
「だって今日が使うの初めてなんだもん! 仕方ないよね!」
『千颯ッ!』
 白虎丸が怒声を上げた。


「パンフレットが奪われたのは、野菜ペーパーと混ざっている事も要因だろう。だから、ペーパーを回収するのも手だ」
 校舎内からキリルは屋外を見渡しパンフレットを探し、さっと回収した。
 鴉対策もバッチリで教室では猛禽類の声を流すよう設定したノートパソコン、窓辺は鴉の死骸を模した黒い塊。
「いたたたああっ!」
 作戦通り、鴉につつかれながら野菜ペーパーを集める一二三。
「次は生ごみを用意しておいたぞ。邪魔な鳥はレーザーポインターで追い払う!」。
「……そろそろ交代しとくれやす!」
 たまらず校舎内へ戻った一二三は手早くアクセサリーを外すと、今度はキリルへと巻き付ける。
「仕方ないな……」
 渋るキリルを外へ押し出して一二三は息を整えた。
 ジョンから借りた車のエンジンをかけ、キラキラトゲトゲしたオーナメントをばら撒いて地面を塞ぎ、追い込むための空地──それはまるでアイテムの力を借りた巻狩りの如く。
「痛っ! 痛いぞ! 此奴等何故このような攻撃力を!」
 まとわりつく鴉を払いながらキリルが戻って来た。
「今や!」
 網を広げる。まさに一網打尽。
 一息ついた一二三の首筋に押し付けられた冷たい感触。
「ギャー! うちも怪我しとるんや! もうちょい我慢せい!」
「冗談ではない!」
 キリルが身に着けていた貴金属を再び一二三へと押し付けたのだ。
 憤慨するキリルと抵抗する一二三。
 煌めきをわけあったふたりに気付いた鴉の群れ。
 それに気付いたキリルの指輪を握った拳が空を切る。
「烏にやられるなど名折れもいい所だ!」
「あんさんの名前なんぞ疾うに折れとりますわ!」
 一二三の鍛えた腕がそれを受け止め、逆の手で輝くバレッタを押し付ける。
「貴様ほどではない!」
 小一時間ほど後。
「……む? 烏が減っているな」
「ホンマや……皆? どないな手で?」
 我に返ったキリルと一二三の周りにはすでに鴉の姿は無かった。正確には吹っ飛んでいた。
 その時、外に見知った顔が見えた。
「道理で今日は、一々口うるさく小言を言わなかった訳だよ」
 さすがに感づいた伊邪那美へ恭也が事情を話しているところであった。
「すまんとは思ったが、中々に食いつきが良くってな……良い囮振りだったぞ」
「はぁ……恭也は褒めてるつもりだろうけど、全然嬉しく無いから」
 それでも、依頼ならば仕方ないと協力を了承した伊邪那美は恭也に言われるがままよく磨かれた鏡を手に持つ。
 なんとなくそれを見守っていた一二三は、すぐにその意図に気付く。
「御神はん、それは……!」
 間に合わなかった、飛来した大量の鴉が伊邪那美を襲う!
 恭也が古い球技用ネット──テニスサークルからご協力──で作った投網を被せる。伊邪那美ごと。
 他人ごとではない惨状に思わず顔を覆う一二三。
 バサバサ、ギャアギャア──暴れる鴉たち。
「……協力するとは言ったけど、これは無いんじゃない?」
 ぼろぼろになった伊邪那美がネットの中から這い出す。
「あそこまでして、大丈夫か──」
 伊邪那美の身を案じるキリルの台詞に、傷だらけの一二三は思わず心で涙した。



●それはそれ
 戻って来たパンフレットを段ボールに詰めながら感謝を示す学生たちとA.S.の女子ズ。
「あ、良かったら」
 こころがエージェントたちに押し付けたのはパンフレットだった。
「学生の募集について書いてあるんだけど、リンカー特別枠もあるから興味がある人がいたらどうぞ。
 我がA.S.も歓迎するわ。共に充実した学生生活を送りましょう!」
「リンカー枠なら年齢は関係無いみたいだね」
「……拓海?」
 パンフレットをめくっていた拓海だったがメリッサの声に我に返る。
「言いたい事は判ってる……ごめんね……」
 平謝りの拓海だが、うっかり口が滑った。
「でも、今日の戦いっぷり凄かった。そんなに大事なアクセ?」
「覚えてないの? 拓海が夜店で選んでくれたんじゃない……」
 途端に空気が変わる。思わず息を呑む外野。再び平身低頭で謝り続ける拓海の口からまた一言。
「ごめんね……って、大事なら混ぜるなよ……」
 言い合うふたりの空気は女子ズを閉口させた。
 同じく友人たちのじゃれ合いを痴話喧嘩と判じたキリルたちはさっさと帰り支度を始めた。
「……疲れた時は甘い物だな」
「……うちのが囮時間長かったんに……」
「依頼を受けたのは貴様だ」
 擦り傷だらけの一二三が不服を申し立ててみるが、ばっさりと却下された。
 それどころか、彼女の嬉しそうな様子から一二三は察した。
 たぶん、山ほどのお高そうなスイーツが待っている。そして、購入するのは間違いなく一二三である。
「……う、ぐう……」
「予約は既にしてある、行くぞ!」
 ずるずると引きずられて行く一二三。
「私も帰るね……」
 ぐったりとした様子の紗希、「マリ!」とカイがその後を追い、更に彼らの頭上を黒雲のように固まった鴉が鳴きながら追って行った。あれいつまでついていくんだろう。
「たくさん戻ってよかったね」
 学生たちにそう言ったのは伊邪那美だ。
「烏は仲間意識が高いからな。捕らえられた烏の鳴き声で良く集まる」
 今回の作戦を思い返し、恭也が漏らした感想もまた地雷であった。
「そうだね……きっと、恭也よりも烏の方が仲間思いだもんね」
「随分とやさぐれてるな」
 秋風吹くよな眼差しで恭也を見る伊邪那美。一連の扱いを考えればやさぐれるのも当然である。
「はっ、何の話を。あ、リア充、違、充実した学生生活を送れることがあったらいいよなあって話よね!」
「すでに充実してるかもだけど勉学による喜びは凄いから学生は勉強が本分だからッ!」
 ちょっと取り乱しているA.S.女子ズの様子に気付かず、ただ一組残った白虎丸は頷いた。
「その通り、勉学は大事でござる」
「白虎のおじさまっ!」
「そうだぜ──?」
 白虎丸を囲んだ女子ズは激しく醒めた目で千颯を見ながら彼から距離を取った。
「きっちり伝えたからねー、当然だね!」
 いつの間にか隣に立っていたジョン・スミスはそう言うと千颯の手にもポンッとパンフレットを乗せた。
「ん?」
「千颯。帰ったら言いたいことがあるでござる」
 帰宅後、本日の外道行為について白虎丸からきっちりと絞められる千颯であった。



 夕焼け空に鴉が鳴く。
 ひとしきり遊んだまいだと黎焔はベンチで購買で買ったおやつを摘まむ。すっかり仲良くなった鴉たちがおこぼれに与りに来ていた。
 そんな平和なひと時に地面に転がるソレを目にして、黎焔は唐突に依頼を思い出した。
 ──目的の、回収すべきパンフレットである。
 しかし、黎焔の動揺など気付かないまいだは零れたお菓子を啄む鴉を見ながら無邪気に笑顔を浮かべた。
「たのしかったー! おっきながっこうもたのしいね!!」
「え、ああ、そう……だな。うん、まあ、うん。今回のはうん、良かったんじゃねえ、か……?」
 あんなに煩く臨戦態勢だった鴉は数羽にまで減っていた。すでにもうパンフレットも見当たらないし、ついでに仲間のエージェントの姿も見えない。あと、ぶっちゃけもう帰りたい。
 嘆息して見上げた林の葉は紅く色づき、小春日和の今日はまさに心地よい遠足日和であった。
 いやこれはもう遠足だったのでは。
「まいだ、ゴミはちゃんと持ち帰りだからな。──結構厚いな、これ」
「からすさん、ちからもちだね!」
 パンフレットを拾い上げた黎焔とその隣を元気よく歩くまいだ。
 ふたりは紅葉の中を並んで帰路につく。



結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御
  • まいださんの保護者の方
    獅子道 黎焔aa0122hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る