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【ドミネーター】処刑場攻略
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処刑場制圧
最終発言2017/10/21 03:11:12 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/10/19 21:48:53
オープニング
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最後のミッションだ。この攻略をクリアすれば、ひとまずドミネーターの動きを大幅に止めることができるだろう。だがその分、少しだけ危険が伴う。処刑場ということは、ひとたび捕まってしまえばその場ですぐ処刑ができるからだ。
敵地に入ったら一秒も油断ができない。
――第三弾の調
処刑場は二階建てで横に広がっている。煉瓦造りの施設は出入り口が二つある。一つは一階の玄関からと、屋上だ。
施設には窓が一切なく、内部の情報を窺うことはできなかった。だが、処刑場も定点カメラで様子を見ていたところ、毎日のように誰かが処刑されていることが分かった。被害者は主にドミネーターの隊員だろうか。
フランメスが出入りしていることが分かった。大体三時間程居座ってから、車でまた別の場所へと移動している。
また、カナピルという男が常駐している。カナピルとは以前H.O.P.Eに捕えられていたヴィラン。恐らく、彼が処刑人だと思われる。
一般隊員の出入りは少なく、想定する限りで三、四人だろうか。
坂山はナタリアが監視されている独房に出向いた。彼女はチャールズ、という名前で自分を覆い隠していたが最近の調査で名前がナタリアなのだと判明したのだ。
警備員のフォルトは職務復活までしばらく時間がかかるみたいで、生真面目な守衛に面会をお願いして面会室に案内してもらった。
「気の毒、だったわね」
ナタリアは故郷が殺されていた。その時、親愛なる家族も失ってしまった。
「覚悟は出来た。もう大丈夫だ」
何日か経って、落ち込んだ彼女の心は元通りに戻っていた。
「今日は処刑場の攻略なの、これで最後ね。……何か、私達に教えたいこととかないかと思って」
「申し訳ないと思うが、私は処刑場に足を運んだことはない。あそこはフランメスや、他の気違い達が処刑ショーを見るためだけの場所だ。私には合わない」
処刑ショー。煉瓦造りの中では何が行われているのだろう。想像ができないし、したいとも思えなかった。人間の醜さだけが詰まっているのだろう。
「坂山、お願いがある」
平坦な声音だが、重みを含んだ心情でナタリアは言った。
「私が言っていいことなのか分からないが、ドミネーターが崩壊したらでいい、私をここから解放してくれないか。……分かってる、私が口にするのは正しくないとわかっている。私の願いは一つなんだ。私の親友と一緒に、生活したい。頼む」
一言一句に願いが込められていた。坂山は頷いて、ナタリアの手を取ってやりたいとさえ思えた。透明な板が邪魔して届かないが。
「ドミネーターの事件が解決したら、上層部にかけあってみるわ。ナタリアは、好きでリーダーをしていたんじゃないのよね。その証拠さえ見つかれば解放できるかも」
「そう、なのか?」
「ええ。でもどんな証拠が必要なのか分からない……。でも、何とかするわ」
独房での孤独な生活は、どんなに表面を取り繕っても人の心を摩耗させていくのだろう。フォルトや今の守衛が孤独を紛らわせてくれているが、何かが足りないのだ。
人の直接的な温もりだ。手を繋いだり、ハグをしたり。
「それともう一つ……。また、あのクッキーを持ってきてくれないか」
聞けば、つい最近リンカーがクッキーを持ってきてくれたのだそうだ。それが気に入って、また持ってきてほしいと。
解説
※以下はすべてPL情報です。
●目的
制圧
●処刑場
二階建てになっており、一階が処刑。二階が拷問部屋になってる。拷問とは名前ばかりで、ここに連れて来られる隊員はほぼ死亡している。
一階、二階どちらも構造は同じ。狭く湿り気のある廊下を直線的に進んでいく左右の壁に部屋があり、一つ一つが処刑室になっている。様々な種類の処刑道具が用意されており、古今東西で使われてきた方法が駆使される他ドミネーターが生み出した処刑も存在する。二階の拷問も同じく。
処刑、拷問部屋の他には電気制御室、寮が一個ずつあり、寮には処刑人カナピルがいる。
●カナピル
鉈、斧、大剣、ピストル全ての武器を腰に担いで頭に包帯を巻きつけた男。ドミネーター以外の人間、リンカーに対して強い恨みを持っており、話は聞こうとしない。
傷だらけの肉体は頑丈になっており、身長は二メートルにも及ぶ。彼は麻薬や肉体改造の薬を使って幾重にもトレーニングを重ね、通常じゃ考えられない体力を持っている。
相手を処刑する事しか考えず、リンカーの機動力を落とし処刑室に連れていき処刑する。それが彼の戦い方となる。
「……お前達を殺さないと、気が済まない」
●一般隊員
威力の高いピストルが武器で、リンカーの捕獲を狙う。
●フランメス
フランメスが処刑場に来るか来ないかは不明。
もし訪れた場合、彼は処刑ショーを楽しみにしているので、リンカーの捕縛に積極的に協力するだろう。
リプレイ
●
屋上のドアは鉄製で、剥げたペンキと赤い錆は老朽化が窺えた。元々別の施設だったところをドミネーターが勝手に我が物としたのだろうか。
御剣 正宗(aa5043)は内部調査のために先に一人、内部調査のために侵入していた。屋上のドアは開きっぱなしで、鍵穴も見当たらなかった。
「ふん、死刑か……」
中に入ってすぐ異臭が鼻を劈く。屋上出入り口ドアから二階に通じる階段を一段降りるたびに漂ってくる臭いは、明確に腐っていた。これが、この施設の芳香剤だと言わんばかりにしつこい。
御剣は酷い臭いを我慢しながら二階の廊下へと出た。中腰になりながら薄暗い廊下を見渡す。タイル張りの床には血の跡が幾重にも重なっていて、脱ぎ捨てられた服や――が散乱していた。
――ここは、地獄に似ていますね。
天使と悪魔の二つの遺伝子を持ったCODENAME-S(aa5043hero001)は地獄と称した。悪い喩えじゃないだろう。ここが地獄じゃなかったら、どうして天井から血が垂れてくるのだ。
ついさっきも、処刑が繰り広げられていたのだろう。落ちてくる血は新しい。
廊下の左右には部屋があった。扉は開きっぱなしで、中は真っ暗だ。御剣は警戒に眼を光らせながら中へ入った。丁寧にも電灯と文字の書かれたスイッチがあり、押すと明かりが灯った。
この装置は、なんだろう。
中央には病院に置かれているようなベッドがあって、枕の代わりに円形の金属がある。人間の頭が入る隙間がある。金属には線がつながっていて、その先を眼で追うと機械があった。
用途は分からないが、この部屋から漂う焦げの香りから、想像は容易い……だろうか。
不意に、廊下から重い音が聞こえてきて御剣は中で身を潜めた。電気と気配を消す。
硬い……、何か。鎖の音? が聞こえる。地面と何かが擦れる音が聞こえてきて、重い足音が近づいてくる。今、この物体がいる方向に一階へ続く階段があるのだろう。御剣は息を殺した。ここで見つかる訳にはいかない。今は一人だ。
冷たい壁に背中を押し付けて、時を待つ。
今、真後ろを通っている。
……。
え? 足が止まった。物体は足を止めて今真後ろにいる。息遣いが聞こえるから、手に取るように分かる。
御剣はユピテルを構えた。
――ところが、物体は再び引きずる音を立てながら通り過ぎていった。音は屋上へと向かっていく。御剣は静かに部屋を出て、シーフツールセットで部屋を施錠すると廊下の奥へと急いだ。一つ一つの部屋を細かく確認する暇はないが、ほとんどが同じ構造の部屋だ。全部、同じ用途だろう。
二階にはそういう類の部屋しかなかった。御剣は直線の廊下を進んでいく。途中で右に曲がる道があり、視線を低くして死角の向こう側を除いた。大丈夫そうだ、敵の姿はない。御剣は立ち上がり角を曲がった。念の為、自分が歩いてきた道を確認する。
遠目に、瞳の中に入ってしまった。包帯を頭に巻いた物体が鉈を持って御剣を静かに観察している。立ち尽くしている。
御剣から通信が入り、外で待機していたエージェント達は一斉に二つの入り口から中に入った。
「よ~し、頑張るぞ~!」
リリア・クラウン(aa3674)は合図を待ち望んでいて、意気揚々に扉を開けて中に突入した。
――あまり無理はするなよ?
そう伊集院 翼(aa3674hero001)が言ってくれるが、リリアはその言葉を聞いているか聞いていないのか、通信機を通してこう宣言した。
「ボクが囮になるよ! なんだったらボクがサシで倒しちゃおうかな?」
リリアの提案に、Rudy・S・B,phon(aa2336hero002)は焦りを帯びた口調で返した。
「良い提案ですが、実に危険です。ドミネーターは……女性、子供関係なく平気で命を奪うような連中なんです」
「任せといて! ボクならうまくやれるからさ。正宗ちゃんのピンチ、何とかして助けないと!」
でも、と言いかけたルディは言葉を飲み込んだ。危険な目に合いそうならば尽力し、誠心誠意助ければ良いのだ。しかしながら……そう簡単にドミネーターが救助をさせてくれるとは思えない。
不安気なルディの肩を、防人 正護(aa2336)が叩いた。
「俺に任せろ。誰一人として、死なせはしない」
「お爺上様……」
防人はベルトに花札を差し込んだ。
「それが俺の役目だ」
●
アークトゥルス(aa4682hero001)は屋上の扉を足で蹴り飛ばし中に入ると、急いで二階廊下へと降りた。
「無事か!」
御剣はユピテルの刃を構えて包帯を巻いた男が振りかざす鉈を必死に防いでいた。コルレオニスを両手で持ちながら、背後から男の間合いへと入り、横向きに胴体を斬りつける。男は勢いをつけて振り向いた。
包帯は両目の部分だけされていなかった。怒りに満ちた赤い瞳は敵を捉えていた。
腰から下げていたハイドラ銃を片手で掴み、アークトゥルスの足に銃口を向けて引き金を引いた。
「甘いッ」
同時に射出された三つの弾丸は刃に弾かれた。御剣は男の注意が逸れている隙に、ユピテルの切っ先を心臓に向けて突いた。
意識はアークトゥルスに向いているというのに、男は瞬時にユピテルの切っ先を鉈で防御した。そして御剣の後頭部を掴み頭突きを食らわすと、アークトゥルスのいる方向へ安々と放り投げた。
アークトゥルスは御剣を両腕で受け止め、男を見据える。
「俺の名前はカナピル。処刑人だ」
頭に衝撃を受けて目眩のしていた御剣だが、すぐに体勢を整えてアークトゥルスの腕から立ち上がった。
カナピルはハイドラをしまうと代わりに斧を取り出し、両手に武器を構えた。
「お前ら、どこの連中だ? 誰に雇われている」
「HOPEからだ。残念ながら貴様らドミネーターの暴虐も、終焉が近いぞ」
「偽善の騎士が勝手な事を口にするな。貴様らは、ここで処刑する」
先手はカナピルが仕掛けた。斧と鉈を交互に振り回し、二人を挟み込むように反時計周りに斬りかかる。コルレオニス、ユピテルの刃が接近を拒んだ。
二人分の力を受けているというのに、カナピルの刃は少しずつ迫ってきていた。二人は背中合わせになり押し返そうとするが――アークトゥルスは御剣の肩を押し刃の軌道から外した。
背中に鋭い痛み。
「何を……!」
御剣は信じられないような気持ちで彼を見上げた。
「カナピル、これでも偽善の騎士とまだ言えるか」
「その生意気な口、すぐに縫ってやるよ」
カナピルは二つの刃でアークトゥルスを挟むと力を弱めて上に投げ、斧の切っ先を上に向けて腹部を切り裂いた。御剣は苦無でカナピルの頭を狙うが、簡単に避けられてしまった。
フフ。気味の悪い、低い笑い声が漏れる。これからどう二人を料理しようか? その方法を考えるのが楽しくて仕方ないのだ。憎いHOPEのエージェントに、漸く復讐ができるのだから。
何処からか電子音が鳴った。通信機を取り出したカナピルは通信機から聞こえてくる報告に更に目を細くして笑い、すぐに通信を終えた。
「お前らの一人が捕まったそうだ。少し仕事をしてくる。お前らはここで待っていろ。
「させるものか!」
斧の上で痛みを耐えていたアークトゥルスは咆哮をあげ、腕を剣で突いた。眩い光が切っ先から漏れて、大きな衝撃とともにカナピルの躯体は後ろ向きに倒れた。
アークトゥルスが痛みから解放されたと同時に、カナピルも即座に立ち上がりハイドラを構える。
カナピルの後ろに人の集団が見えた。リリアが二人の隊員達に腕を捕まれている。
「貴様、何をするつもりだ」
「ここは拷問の階。何をする? 言わなくても分かるはずだ」
女性子供にも容赦はない。それがドミネーターのやり方なのだ。他の味方がついているとはいえ、リリアの囮作戦にアークトゥルスも不安を感じないとはいかなかった。
目の前の壁を打ち砕かなければ先へは進めない。焦りながらも、剣を構える力が狂うことは決して無かった。
●
リリアが連れていかれた拷問部屋には椅子があり、机の上には様々な道具が用意されていた。椅子に縛りつけられた彼女の口に開口器を付け口を閉じられないようにすると、隊員の一人が待ちきれない様子で道具を手にとっていた。
「な、何をするの……?」
リリアが尋ねる。道具を持った女性の隊員は一人、こう答える。
「綺麗で汚れていない、良い体をしている。ここにいる私含めて、皆はそんなお前が血に汚れる瞬間を愉しもうとしている」
男の隊員が一人、カメラを天井に設置していた。撮影するのだろうか?
口が閉じられず、息がしにくい。翼は怒りを抑えるのに必死だった。囮作戦が終了したらすぐにこの人間達を蹴り飛ばさないと、リリアを傷つけようとする怒りは収まらないだろう。
「カナピルさんこねーな。先に始めとこうぜ」
「賛成。早くコイツの叫び声が聞きたくて仕方ねえんだよな」
男が一人近づいて、リリアの顎を手で撫でる。ゴツゴツして、黒ずんだ手だった。
「言ってごらん。怖いか? それとも甚振られるのが楽しみか?」
うまく言葉が出せない。リリアは仲間がいるから、恐怖心は高くなかった。しかし、もしこれが仲間のいない……助けが来ないとわかりきっている人間が同じ状況に置かれたらどう思うだろうか。
「よし。今からどうなるのか説明してやるよ。お前の口とホースを繋ぎ、延々と水を流し続ける。死因はなんだと思う? 色々あるんだぜ。窒息死か、腹が破裂して死ぬか。溺死もある」
絶望で、涙も出てこないだろう。想像できないのだ。本当に、自分はこれから痛い目に合うのか? 否定から入る。認めたくないから否定する。ところが隊員が一人、実際にホースを持って自分の口に近づけると、否定の余地がなくなって精神が崩れ始めるのだ。
リリアの場合は例外だが。
何の前触れもなく、外側に面している壁が壊れて、翼の生えた輝く者が地面に片膝をついて正面を向いていた。
「侵入者か! くそッ」
女性の隊員は後ろから背中をトントンと叩かれた。
気づけば、部屋には少女が立っていた。少女は手に分厚い本を手にしている。
「チッ、これからいい所だってのに。お前も拷問してやるよ」
女隊員は大げさな舌打ちをして、腰に掲げていた拳銃を構えたが銃弾を放つ前に、自分の足元に起きた悲劇に気付き、驚きで銃を落としてしまった。
足元から炎が発生し、炎が自分を取り囲んでいるのだ。
「そこまでだガキ! 残念だったな、俺もいるんだぜ!」
調子に乗った男の隊員がアリス(aa1651)に急接近し、背後から首を締めた。
「お前も綺麗な体してんなァ。後で可愛がってやるよ、楽しみに――」
男は背後から大きな衝撃を受けて、横に倒された。
「リリスさん、アリスさんお二人とも大丈夫ですか?」
晴海 嘉久也(aa0780)はNAGATOの先で男の首筋の動脈を斬っていた。
防人はホースを切断し、リリアを捕らえている鉄の拘束具と開口器を破壊し、解放した。
「もー二人どもドキドキしちゃったよ。このまま助けてくれなかったらどーしよー、なんて」
「作戦成功ですね。下にいた二人の隊員も制圧を終えました。クォーターさんから貰った情報が正しければ、これ以上の隊員はここにはいないはずです。残るはカナピルだけ、という事になります」
「呆気ないね……」
カナピルを倒せば終わり。ここの攻略が簡単な話で済めばいいのだが、懸念点は残っていた。
一度対峙した防人は、奴の強さを知っている。
フランメスが、ここに来る可能性が残っている。防人はフランメスと戦った時、確かな手応えを感じながらも敗北した。同じリンカーでありながら、卓越した身体能力は数の攻めじゃ誤魔化せない。ここはフランメスの陣地でもあった。
●
想像よりも早く不穏な前触れが現実になる。
アリスは正面出入り口に端末機を置いていた。音を拾えばアリスのもう片方の通信機に音が入り、誰かが入り口から入ってきたと分かるのだ。
坂山から通信が入るのと、音が聞こえたのはほぼ同時だった。
「坂山よ。フランメスの姿を確認したわ、一般兵士を二人引き連れているみたい」
「こちら晴海です。……随分と早いですね」
作戦前、六人のエージェントはフランメスが退いてから突入していた。クォーターの事前調査からフランメスが来るのはおよそ三日に一度であり、当分は来ないだろうと予測できていたのだ。
そのはずが、まさか出ていってから三時間経った後にくるとは。誰かが救援を呼んだとはありえない。カナピルも暇はなかったはずだ。
「勘付いたのかしら。いい? 最悪作戦なんて達成しなくてもいい。生きて帰ってきてくれれば……」
「そのつもりだよ」
アリスは一階の階段を降りていた。
万が一フランメスが乱入してきた場合、近づけさせないと事前に決まっていた。リリアはカナピルの元へ急ぎ、晴海、アリス、防人の三人はフランメスへと急いだ。
一階に降りると、悠長な動きをしてフランメスが歩いていた。エージェントを見つけると愛想よく笑いながら頭を下げた。
「御機嫌よう。そして久しぶりだね。またエージェントにあえて嬉しいよ、おや……見知らぬ顔がいるね」
一年以上も続くドミネーターとリベレーターの抗争から、フランメスは防人と晴海の顔は覚えている。新たな刺客、アリスに興味が沸いていた。
「良い眼をしている。僕の眼に似ているな。そう……復讐者の眼を、君は持っている」
「あなたとは違うけれどね」
「そうだな。悲しい事に君と僕は全然違う。僕は残念で仕方ないよ、似た目的を持った者を殺さないといけないなんて」
「やってみる? 強さの自信はあるみたいだけれど、わたしの方が上手かもしれないよ」
「生意気な口を聞くお子様だ」
軽い足音を立ててフランメスはアリスに近づく。後ろに引き連れていた隊員は銃で晴海と防人を狙っていた。
「大人しく、私の命令に従ってね」
アリスから発せられた声は揺蕩うように聞こえた。フランメスの足が止まった。
「転んで」
フランメスの体が前のめりに傾き始めた。アリスは洗脳したのだ。
防人と晴海は同時に動いた。晴海は二人の隊員からなる弾丸をナガトで防ぐ。防人は誓いの剣を両手で強く握りしめ、フランメスの頭に振りかざした。
「お前の野望もここで終わらせる。油断したな、フランメス!」
静寂が聞こえる。剣と肉が当たる音が残響する。
不思議、という言葉で片付けるには惜しい現実が、前触れなく訪れた。誓いの剣が持ち上げられたのだ。
フランメスは頭を腕で守っていた。頭には命中していなかったのだ。
「何……?!」
「僕がこんな所で死ぬと思うか……?」
フランメスは腕を振り上げて防人の顎を強打して空中に浮かせ、素早く一回転すると腹を蹴り飛ばして大きく距離を取った。
「さっきのは、演技……」
「そう。君の言う通り。さあ今度は、僕の手番だ!」
急いで宝典を構えたアリスだったが、技が発動する前にフランメスは彼女の腕を掴んでいた。腕を締め付けながら、お互いの額を重ねて囁きを口にする。
「良い声で啼いてくれよ」
ボディブローを食らったアリスは怯み、冷たい地面の感触を体全身で感じることになる。フランメスはアリスをうつ伏せに倒し、ハングドマンで床に縛り付けた。
晴海は二人の隊員がリロードになるまで剣で防御し、その瞬間になって即座に間合いに侵入した。大剣は一人の隊員の腹部を貫き一撃で仕留め、もう一人は銃を捨てて拳で晴海を叩いたが、威力は高くない。呆気なく返り討ちにあい、地面に倒された。
隊員を片付けてアリスを縛るハングドマンを刻みにいこうとした矢先、振り返ると目の前にフランメスの腕が伸びてきて頭を掴まれた。強く締め付けられる。足が地面と離れた。
「君は探偵だったかな」
足でフランメスの顔を蹴ろうとしたが、激痛が走った。戦闘用のナイフで突き刺されたのだ。
「君に特別なヒントを与えよう。あのチャールズが君達に教えただろう奴隷を乗せた船が見事掌握された。その船の所有者であるアーガルズとはマフィアの名前だ。そのマフィアはバグダン・ハウスの崩壊に携わっていて、本来ならば僕は彼らを滅亡に追い込まなければならない。しかし、じゃあなぜアーガルズの支援を素直に受け取るのか?」
説明口調のフランメスは不意に笑った。
「船に乗っていた少女がヒントだ」
立ち上がった防人は、背後からフランメスの背中を斬りつけた。衝撃で晴海は拘束から解かれる。
「嘉久也、無事か!」
「ええ、助かりました……。アリスさんは」
「大丈夫だ、もう救助している」
空中で受け身を取ったフランメスは三人から遠ざかる位置に着地した。背中を見せていた彼は一度だけ振り向くと「フフ」と笑い、近くの扉を開けて中に逃げ込んだ。
●
カナピルの肩に、ユピテルが突き刺さり輝くコルレオニスが胴体を切り裂く――カナピルは体全身に力を入れて筋肉を盛り上げると、二つの刃を弾いた。
「いつになったら倒れてくれるの……!」
リリアは息を切らしながら言った。三人の攻撃は確かな手応えを得てカナピルの胴体に刻まれていく。だが弱まる気配がなかった。カナピルはリリアに向けてハイドラを放つ。喋る隙も与えてくれないのだ。
「あぶな……!」
三体一とはいえ、長期戦に持ち込まれて向こうの大きな一撃を何回か受ければ不利だ。三人は緊張感の抜けない時間が続き疲労も蓄積していた。
カナピルは重い動きで斧と鉈を横に広げながら三回転し、アークトゥルスと御剣を薙ぎ払った。二人はすぐに体勢を立て、武器をカナピルに向ける。
三人の鼻を焦げの臭いが突いた。
「な、なんの臭い……だろう」
「分からないが、注意しろ。絶対に武器を手放すな」
落下音が響いたが、カナピルが二つの武器を落としたからだった。彼は手の平に爪が食い込むほど強い力で拳を握り、野獣の声を出した。すると彼の体から黒い煙が放出され、一瞬にして廊下全体を包み込んだ。
「これは……!」
廊下に充満していた煙があけると、カナピルの姿はもう無かった。代わりに点々と灰が落ちている。カナピルが通った後だろうか、灰は屋上に向かっていた。
「追うぞ」
御剣は先頭を走って屋上へと出たが、見えたのは走り去るトラックだけだった。
Alice(aa1651hero001)はとある処刑部屋の中に入って佇んでいた。彼女の瞳には燃え盛る炎が映っている。
火だるまの部屋だ。罪人は大きな檻の中に入れられて、上下左右から降り注ぐ火炎に焼かれる。赤いアリスは点火のスイッチを押していたのだ。
そしてぼうっと、檻の中を見つめている。
時間が流れて行く。
隣に黒いアリスが立った。二人は手を繋いで、部屋から外に出た。
●
作戦は全員が生存という、理想的な形で終わった。処刑場はエージェントの絶え間ない調査の結果、ここも重要な資金源であることが判明した。リリアを撮影していたカメラが気がかりだった伊集院はビテオテープやCDの類がどこかにないかと探っていたら、カナピルの寮と思える部屋に積み重なっていたダンボール箱の中身からディスクが見つかったのだ。
人が処刑されていく様子をビデオに撮影し、ネット上で販売する。伊集院はビデオを見ていないが、タイトルから内容がどんなものか想像するのは簡単だった。
斬首。
水責め。
舌抜き。
四肢裂きの刑。
もう少しでリリアの拷問されていく瞬間が広まるところだったのだ。改めて伊集院は胸を撫で下ろした。
調査が終わると、君島 耿太郎(aa4682)は晴海と一緒にチャールズの所へと向かった。相変わらず透明な板で仕切られている面会部屋での対話になる。
「友人から頼まれたのです。こちらは同じ場所販売しているお茶ですのでよろしければご一緒にどうぞ」
アークトゥルスはパンダクッキーとポーレイ茶を目の前の机に置いた。チャールズはまだ触れられないから、後の楽しみだ。
「作戦は成功したのか」
「はい。客船、地下鉄、処刑場とほぼほぼ制圧が完了しています」
エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)が応えた。チャールズは彼女の返事に表情が和らいだ。
「相変わらずドミネーターって奴らは、趣味が悪いんすね……。中々にグロテスクっすよ」
「あいつらは人を傷つける事が最高の自己満足なんだ。精神的に、肉体的に。シルヴァーニは特に、残酷だ」
シルヴァーニとはフランメスの本名だ。
「そういや話は変わるんすけど、坂山さんが作戦終了記念にパーティするーなんて言ってたっすよ。チャールズさんも来れるんすかね~?」
「私が? 無理だろう」
本心ではなくともチャールズはドミネーターのリーダーだった。エージェントが許しても、上層部が許さない。
「でも、チャールズさんは作戦に協力してくれたじゃないっすか。上の人も、そう言えば分かってくれるはず……!」
「無理だ。一度貼られたレッテルはどう頑張っても剥がれない。……気持ちは嬉しい。ありがとう」
ありがとう、と口に出来る人間がこんな所にいてはいけないのだ。君島はそう思いながらも、掛ける声を失って黙ってしまった。
「大丈夫です。無理なんて最初から決めつけていては、本当に無理になっちゃいますよ、チャールズさん」
にっこりと微笑んで、エスティアはチャールズと目を合わせた。
「気持ちは、本当に嬉しい。だが私が行ったところで……」
親友はいるだろうか。パーティに参加しているのだろうか。
「待ってるっすよ!」
チャールズも人間だ。美味しい食べ物は食べたいし、一人ぼっちで寂しい独房から離れられるなら、一日だけでも良かった。君島の優しい声に、彼女は頷くしかできなくなっていた。無理、なんてもう言えない。
「あの、一つだけお願いがある。私は、今まで自分の本名を偽って生きていた。一度私も死んだ身だからだ。だが、よかったら……」
彼女は照れ隠しに指の関節を口元に持っていきながら目を逸して言葉を続けた。
「ナタリアって呼んでくれると嬉しい」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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