本部
今度は無料で牛肉が手に入り(以下略)
掲示板
-
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/10/08 22:31:21 -
牛肉回収準備室(相談卓)
最終発言2017/10/09 20:44:45
オープニング
●従魔化によるやり取り
ある都市の食肉市場で、競りにかけられていた和牛の精肉約1頭分の各部位が突如合体し、除去された頭と4本足を生やして逃げ出した。
唖然とする市場の人達だったが、我にかえると慌ててH.O.P.E.へ依頼を出す。
「競りの最中に解体した牛1頭分の肉が、頭と足を生やして走って逃げたんです。精肉部分400kgの和牛肉の塊です。どうか取り戻してはくれないでしょうか」
『話を聞く限りだと従魔化したようだね。まさか従魔化した牛肉をそのまま売り出すつもりかい?』
たまたま応対にあたったH.O.P.E.のジョセフ イトウ(az0028)からの確認に、依頼主は言葉を詰まらせる。
『いまの時期でも牛肉が動き回れば肉の鮮度は急速に落ちちゃうよ。倒した時点で売り物にならないし、買い手がつかず廃棄処分にするしかないんじゃない?』
依頼主が言い返せない間にも、ジョセフは依頼主を追い詰めていく。
『まあ、こっちが牛1頭分の精肉を好きにしていいなら、事態解決に動くエージェント達のしょくよ……ああ失礼。意欲も違うと思う。こうしている間にも牛肉の鮮度はどんどん落ちてくし、どうする? 事態がややこしくなる前に早めに決めなよ』
そして依頼主はしばし判断に迷い苦悩の末、ジョセフの提示した条件を受け入れた。
「……逃げ出した400kgの和牛肉の塊は、H.O.P.E.の自由にして下さい」
依頼主は逃げ出した牛1頭分400kgの精肉の所有権を、現地に来るH.O.P.E.エージェント達に譲り渡したという証明書をH.O.P.E.宛に発行するが、このとき依頼主は気づいていなかった。
依頼主が判断を迷っている間に、街中を走り回る牛の従魔を目撃した複数の勢力が、牛肉目当てに動き始めていたことを。
●最強人種の参加
従魔を人々から遠ざけるため、先行して派遣されたH.O.P.E.別働隊が周囲を封鎖する間に、名状しがたいオーラのようなものに包まれた人々が封鎖線を突破した。
「肉ぅぅぅ!」
「無料の牛肉ぅぅ!」
「肉よこせぇぇ!」
そんな雄叫びを上げ、H.O.P.E.別働隊をも突破したのは……ある意味人類最強にして、一般人と分類するのにいささか疑問があるOBATYAN――もとい昔は乙女だった方々。
総数およそ100人前後。
街中を牛肉が走る光景を目にしたおばちゃん達が、独自の情報網と伝手を総動員して結集し、半ば暴徒化して従魔を追いかけていた。
その様子は別働隊よりジョセフへと伝達されていく。
「こちらH.O.P.E.別働隊。おばちゃん達がご自分とご家族の胃袋を満たすため暴徒と化し、現在従魔を追いかけてます」
『止められないのか?』
「あの気迫に勝てる気がしないです」
ジョセフからの要請に、H.O.P.E.別働隊はそう応じる。
おばちゃん……もとい一般人達は牛肉を食べる事と持ち帰る事しか頭になかった。
●ヴィラン達も参加
解体されたはずの牛が逃げ出したという食肉市場の情報は、この地域のヴィラン達もかぎつけ、動き出していた。
ヴィラン達は、その身体能力を生かして一般人達よりも先に従魔のもとへ到達し、おばちゃん……もとい一般人達が駆けつけた時には従魔の周囲を取り囲んでいた。
「この一帯は俺達の縄張りだ! 肉が欲しければ通行料と肉の代金を払え!」
ヴィラン達は根拠不明の縄張り宣言を出すと同時に、包囲している牛肉(現時点では従魔)の所有権を主張し、牛肉が欲しければ通行料と牛肉の代金を支払えと一般人達に要求する。
ヴィラン達の行動目的は資金確保だった。
当然ながら一般人ことおばちゃん達はヴィラン達の要求を拒否し、牛肉を求める一般人達と、通せんぼをするヴィラン達の間で言い争いが始まった。
『こんな風に事態がややこしくなるから、早目に決断しろって言ったんだけど』
一連の動向を把握したジョセフより現状を説明され、依頼主の顔色は悪くなる。
結局依頼主は、ジョセフのさらなる要請にも屈し、エージェント達が牛肉を手に入れた時、その所有権や自由裁量権など、全ての権利を保証する証明書の発行の他にも、どんな料理にも牛をさばくことのできる店の手配と、人数無制限で料理を食べさせてくれる店での食事の無料提供、および追加報酬の支払いを約束させられることになった。
なお食べきれなかった牛肉は、『あなたたち』が店に頼めばクーラーボックスが貸与され、クーラーボックスに収まる分程度はお持ち帰りが可能ということだ。
解説
●目標
食肉市場の牛に憑依して逃げ出した従魔1体の退治
登場
イマーゴ級従魔1体。通称『牛』。
解体された和牛肉に頭と足が生えた姿の従魔。現在街中を逃走中。倒した後の牛肉の所有権、自由裁量権など全ての権利はH.O.P.E.のエージェント達にある。
ヴィラン達
黒スーツ姿の集団。通称『黒服』。
現在6人が常人を超える速度で走り、従魔を包囲中。専用武器はなく素手。かけだしのエージェントでも無傷で倒せる程度の強さしかない。
一般人(?)×100
自分と家族の腹を満たすため結集したおばちゃん100人前後。正確な情報網を持ち、対従魔包囲網を形成中。
何故かほぼ全員、ハシと皿と茶碗、大型タッパー、焼き肉のたれ等の調味料を装備し、一部は炊飯器(中身入り。炊きたて)も携帯中。
状況
とある地方の食肉市場がある街。区画整理が進み、碁盤目状の区画が並ぶ。
現在以下の区画内で従魔は逃走中。
ABCDE
1□□□□□
2□□□□□
3□□■□□
4□□□□□
5□□□□□
1マスあたり縦横200mの区画。間を縦横各4本ずつ道が走っている。現在この区画を囲む形でH.O.P.E.別働隊が周辺の道路封鎖や避難誘導を実施中。その中で従魔が逃げ、ヴィラン達が包囲中。
依頼主が手配した牛をさばく店と、無料で料理し提供してくれる店もこの区画内にある。
上記の一般人(?)達は別働隊の制止を掻い潜って、現在従魔を追っている模様。
(PL情報:『あなたたち』が到着時にはC3あたりでヴィラン達が従魔を取り押さえ、一般人達は周囲に集まりヴィラン達と牛の所有権を巡り口論中)
依頼人から発行された、元に戻った牛の精肉に関する権利は全てH.O.P.E.のエージェント達にある事を示す証明書も人数分提供されるが、依頼終了後証明書は回収される。
リプレイ
●牛肉は現段階では従魔です
この日、従魔化した牛肉(以下牛と略)を追いかけていたOBATYANこと一般人達と、割り込んだ黒服姿のヴィラン達(以下黒服と略)以上に、依頼を受けこの街に到着したエージェント達は気合いが入っていた。
「ふっふっふっふっふ……。肉食べ放題。肉が俺ちゃんを呼んでるぜー!」
「我が家も人が増えたでござるからな。肉をもって帰れば嫁殿も喜ぶでござろう」
虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)は、(従魔を倒せば)肉が手に入るとあって、かなりテンションが高い。
すでに目的の牛と確保を邪魔する黒服達、それを取り囲む一般人達の位置は、鞠丘 麻陽(aa0307)と鏡宮 愛姫(aa0307hero001)が主体となって実施した周辺への調査や聞き込み、情報交換により判明している。
「400kgの牛肉が逃げ回り、100人の一般人達が追いかけているという規模なら、すぐに情報が出るはずです」
「麻陽様のご賢察通り、牛もヴィランも一般人の方々も、全て同じ場所にお集まりですぅ」
麻陽の読みは正しく、愛姫が調査結果をスマートフォンや無線を駆使して仲間達に報せ、麻陽と愛姫の誘導によってエージェント達もその場に集結しつつある。
なお立ち塞がる黒服達の処遇については、麻陽が罰則の提案を、愛姫は麻陽の説明の補足をH.O.P.E.に対して行い、承認が下りているが、麻陽の提示した罰則がどういうものだったかについては後ほど述べさせて頂く。
「あらあらあらぁ~。今夜は焼き肉パーティね」
L.F.L(aa5435hero001)は、既に肉を持ち帰ることに意識が向いている。
「いや、まだ気が早ぇって。まずはあのヴィラン共をどうにかしねーと」
テト・シュタイナー(aa5435)はそんなL.F.Lに注意しつつも、障害になりそうな黒服達への警戒は緩めていない。
「んー、大丈夫よ。楽勝楽勝」
「気楽に言ってくれやがって、全く……」
L.F.Lの気軽な口調を受けつつも、テトはL.F.Lと共に黒服や一般人達の集まる区画に急ぐ。
「解体中に逃げ出したと聞いているが、今の姿はシュールの一言に尽きるな」
御神 恭也(aa0127)は前方に見えてきた『牛』の姿を見て、そう評した。
従魔化した今の牛の姿は、具体的に描くと猟奇的になりそうなので、ここでは割愛させて頂く。
「ヴィランを確保するより、保護した方がいいんじゃないかな?」
リンカーは一般人よりも隔絶した強さを持つのだが、現在黒服達を取り囲むOBATYAN――もとい一般人達の名状しがたい気迫に、伊邪那美(aa0127hero001)はやや気圧され、こっそり恭也に提案してみた。
伊邪那美の言う通り、『無料』が絡んだOBATYAN……もとい一般人達は強い。
「ヴィラン連中はともかく、おばちゃん達はどうやってこんな短時間で情報を入手して集結できたんだ? 下手な組織よりも情報収集や動員力が高いぞ」
今回従魔化したのは、値段のゼロの桁数が明らかに多すぎる種類の牛肉だったことまでおばちゃん達は突き止めているようだ。
恭也がおばちゃん達、もといこの場の一般人達に脅威を感じるのも無理はない。
「もしかしてだけど、ボクらも下手な対応をしたら吊るし上げを食らっちゃう?」
「おばちゃん達との交渉の際は気を付けるとするか」
伊邪那美の懸念を受け、恭也は慎重な立ち回りをしようと心がける。
「お肉、もらえて、食べれる……?」
その一方で木陰 黎夜(aa0061)は、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)曰く『目の輝きが違う』ほど、牛(今は従魔)に熱い視線を送っている。
お肉、食べる。お持ち帰りも、したい。
「あの牛を倒したらな」
アーテルがしごくまっとうな注意を促すも、黎夜の思考は飛躍する。
肉。それは成長期には欠かせない栄養素の1つ。
肉。それはあまり食卓に並ばない食べ物の1つ。
ついでに大好物の1つ。
「結論。お肉はおいしい」
「……まだ牛は牛肉に戻ってないぞ。今はまだ従魔だ」
既に牛肉が料理され、食卓に並んでいるところまで飛躍した黎夜の思考を、アーテルは現実に引き戻す。
「肉、山盛りの肉」(じゅるり)
天城 初春(aa5268)も、目を輝かせながら涎がこぼれ、その横で辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)が初春の挙動に呆れながらも初春の涎を拭き、忠告を送る。
「お初、食欲に呑まれるのもいいのじゃが、仕事だという事を忘れるでないぞ」
「うむ。早急に牛肉を確保する。そして腹いっぱい食べること(が仕事)じゃな」
キリッっとした表情で初春が目標を宣言する。初春さん、理性。理性。
「うおおおぉ! 肉うぅぅ! うおおおぉ!」
「落ち着け、陸」
常にない様子で肉を求めて興奮する九重 陸(aa0422)を、(HN)井合 アイ(aa0422hero002)が後ろから抱えこみ、宥めようとしていた。
大食らい揃いの家族がいる陸にとって、腹いっぱい肉が食べられるという機会は実に貴重で、今回のような牛一頭分好きにできるという依頼は稀だ。
その結果、アイがテンションの高い陸のフォローに回って陸の衝動を押さえる形となり、今のアイはまるで暴れ牛の制御を試みようとするカウボーイのようだ。
一方、キャス・ライジングサン(aa0306hero001)と鴉守 暁(aa0306)は、眼前の状況を冷静に見定めていた。
「牛を追うのは得意ヨー」
「ああ、牛追い人(カウガール)だからねー」
キャスの発言と、目の前で牛に群がろうとするおばちゃん達を見て、暁はこう評する。
「とゆことは、おばちゃん達もカウガールなのかねー」
「歳をとっても心は乙女ヨー」
「うん、心はねー」
心は、とは言ったがキャスも暁も見た目は、とは言ってない。
「それともう片方の邪魔者も、対処しないとねー」
暁はそういってH.O.P.E.と連絡をとると、黒服達を捕獲した後への対処として護送車の手配を依頼する。
既にキャスや暁は、ヴィランや一般人達への対処方法を会得しつつあった。
●しずまりたまえ
それまで諍いを続けていた黒服達とおばちゃん、もとい一般人達の間に、重々しい銃声が割り込んだ。
両者が銃声が鳴った方角を見ると、稲荷姫と共鳴し、アンチマテリアルライフルを空に向かって発砲した初春の姿があった。
『はいちゅーもーく! 俺ちゃんはH.O.P.E.なんだぜー!』
そしてH.O.P.E.エージェントであることを示す身分証を掲げ、別働隊から借りた拡声器で千颯は一般人達と黒服達の間に滑り込む。
『ここに、あの肉の権利が俺ちゃん達にあるっていう権利証明書があります! つまり、肉の所有権は俺ちゃん達H.O.P.E.のものなんだぜ!』
千颯や、追いついてきた初春が掲げた証明書の内容を確認した一般人達が、肉が手に入らないとわかり意気消沈する。
「この権利書が示す通り、あの肉は妾たちのものじゃ。ただ、妾たちも独り占めしようとは思っておらん。『善意の協力者』には報酬を、と思っておるがの?」
千颯と同じく証明書を掲げた初春が、一般人達に向け思わせぶりな事を口にする。
『協力者の報酬は……そう、あの肉! しかも家族への持ち帰りもOKなんだぜ!』
初春の説明の後を千颯が続け、合流した黎夜と恭也も一般人達へ肉を分ける事に賛意を示す。
「うちらだけじゃ、とてもじゃねーけど、食べきれないから……分けるの、問題ない、よ……?」
「俺達があの牛肉を確保できたら、肉を分ける事を約束しよう」
黎夜と恭也の同意を受けた一般人達の顔が、再び肉を手に入れたいという物欲と食欲に満ちていく。
「肉は(心は)お姉さん達にも提供するつもりだよー。従魔撃破とヴィラン逮捕に協力したという形でねー」
暁もゆったりとした口調で口添えをすると、キャスと共鳴して黒服達の方へ向かう。
同じように黎夜はアーテルと、と共鳴し黒服への対応に当たる。
「お姉さん方ー! 肉がッ! 欲しいかぁー!」
「「「「うぉおおお! 肉よこせぇえええ!」」」」
L.F.Lと共鳴したテトの呼びかけに、一般人達が尋常ならぬテンションで声を張り上げ、その気迫に伊邪那美はやや気圧される。
「うわ~、とても言葉では言い表せないほどのクラッシャーが……」
「プレッシャー、な。今のうちに牛の確保やヴィラン達の排除に向かうとするか」
恭也は伊邪那美にそう応じ、伊邪那美と共鳴すると黒服達の方へ向かう。
ここで牛に逃げられでもしたら、本当に伊邪那美の言った通り、おばちゃん達がクラッシャー(壊し屋)になりかねない。
「俺達がヴィラン達をぶっ倒したら、協力してくれたお姉さん方に肉を分けてやるぜ!」
(ねぇ。お姉さんじゃなくて、おばちゃんよね?)
(ああいうのは、おだてておくに限るんだよ)
一般人達を誘導しつつも、テトと内にいるL.F.Lは心の中でおばちゃん達には聞かせられない会話をしていた。
『協力してもらう事は簡単! ちょっと離れて俺ちゃん達が従魔を倒して肉を確保するのを待っているだけ! あとは待っている間に肉を受け取る順番を決めていてくれると助かるんだぜー!』
千颯もさりげなく一般人達を誘導しつつ、黒服達の監視もお願いすると、一般人達のテンションがさらに上がる。
「「「「うおおおお! 邪魔者は倒せぇえ、無料の肉ぅうううう!」」」」
一般人達のテンションを千颯が煽ったところで、白虎丸が千颯にこっそり尋ねる。
「……千颯。……おまえ、おばちゃん達を避難させるのでなく、包囲網に利用するのでござるか?」
「使えるものは最大限使わないと損なんだぜ?」
千颯、まったく悪びれてない。
その間にも愛姫と共鳴した麻陽が、黒服達への投降勧告を行っていた。
(麻陽様、先にH.O.P.E.より承認を受けた件は、捕まえてから話すのがよろしいかと思いますぅ)
「今なら罪は軽いです。服役とか、あまり長くしたくないですよね?」
愛姫の助言を受け、麻陽は普通に捕まえる場合での待遇を黒服達に提示し、投降を迫る。
「死にたくないなら素直に投降するんだ。こんなところで死ぬのはかっこ悪いだろー?」
マイペースな口調は崩さないながらも、暁も黒服達への投降の呼びかけに加わり、麻陽を援護する。
「あくまで妾たちの肉を奪わんとするなら、わかっておるじゃろうな?」
従魔となった牛肉の所有権が、自分達にある事を示す証明書を黒服達に掲げていた初春はそう言うと、刀が鞘走る擦過音と共に、紅炎+2を抜き放つ。
(お初、一般人達に流血沙汰を見せるのはなるべく控えよ。刺激が強すぎる)
「多少の武力鎮圧は必要じゃろ?」
内からの稲荷姫の助言に、初春はそう応じつつも、獰猛な笑みを黒服達に向ける。
「そのお肉……どうするつもり?」
黎夜の黒服達への追及はいつになく鋭い。
食べるためか。それとも資金確保のためか。
肉好きの同志ということなら容赦の余地も、なくはない。しかし、資金確保に肉を利用するなら……。
ここで全員、討ち落とす……。
(黎夜、こいつらはヴィランだ。落ち着け)
内からアーテルが黎夜を宥めるも、黎夜は止まる気配を見せない。
「……お肉を、お金に換えるつもり、なら……食べるために、もらっても、いいよな……」
(どちらにしろ、連中は一般人相手に恐喝もしている。肉確保の際に連中を巻き込むのも止むなしだ)
内にいるアーテルは、押さえこむよりは黎夜の意欲に乗ったほうがいいと判断したようだ。
麻陽、テト、初春、黎夜達からの勧告(?)に対する黒服達の回答は、『知ったことか。肉は俺達のものだ』という全面拒否だった。
投降勧告を一蹴され、アイと共鳴した陸が動き出す。
「うおおおぉ! ヴィラン! (後ろにいる牛の)肉よこせえええぇ!」
(陸、その発言はいささか問題がありすぎる)
制御を試みるアイを置き去りに、異様にテンションの高い陸が、立ちはだかる黒服達のもとへ突進してそう吼え、ライヴスリッパーを叩き込むと、攻撃を受けた黒服は意識を刈り取られて昏倒する。
この時の陸の咆哮に『俺達が食われる』と誤解した残りの黒服達は、慌てて陸の周囲から遠ざかる。
(お尋ね者を追いかけたり、捕まえるのも得意ヨー)
「おらー、とっととお縄につけー」
そこへキャスの誘導を受けた暁が、黒服達に向けアーバレスト「ハストゥル」を構える。
のほほんとした口調だが、暁が威嚇射撃を発動させると、アーバレスト「ハストゥル」から放たれた矢状ライヴスが、黒服達の足元に着弾して黒服達の動きを妨害し、そこへテトの《白鷺》/《烏羽》が襲いかかる。
「全面拒否したんだ、覚悟はできてんだろうなぁ?」
(お仕置きタイムの、始まりよ)
幾分楽しげなL.F.Lの意志を受けつつも、テトは肉に黒服達の血がかからないよう、律儀に《白鷺》/《烏羽》を反転させ、石突部分で黒服の脾腹を打ち据え無力化していく。
(麻陽様、ここでやってくるヴィラン達を防げば、一般人の方々への被害は防げるはずですぅ)
愛姫の助言に従った麻陽が、背後に一般人達を庇える位置で守りにつくと、そこにも黒服はやってきた。
「捕まってくれませんか?」
麻陽は黒服に再度投降を促すも、黒服が殴りかかってくるのを確認し、やむなく麻陽は極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』+1で攻撃する。
麻陽の攻撃を受けた黒服は倒れ伏し、麻陽に捕縛される。
陸や暁、テトや麻陽に狩られずに済んだ黒服達には、恭也が襲いかかった。
(ここならおばちゃん達を巻き込まずに済むはずだよ)
「一般人は逃げ出すという話だからな」
内にいる伊邪那美の助言に従い、恭也は残る黒服達の中に飛び込んで、臥謳を発動する。
動物の本能を揺さぶるような凄まじい咆哮が恭也から放たれ、周囲にいた黒服達の意識を薄れさせていく。
「て、てめえら、その牛肉は俺達のも――ぐほぁっ!」
恭也の臥謳を受けても、辛うじて意識を保った黒服から抗議が上がるも、白虎丸と共鳴し、一般人達を守っていた千颯のブレイジングランス+4の一撃を浴び、その黒服は顔面から地面にスライディングして沈黙する。
「あぁん? キャンキャン喚くな子犬が! さばく(解体する)ぞゴルァ!」
(千颯! 顔! 言動! 悪人そのものになってるでござるよ!)
もうすぐ肉が手に入るという状況の為か、千颯はブレイジングランスを振るって多少キレ気味に黒服達を鎮圧し、内から白虎丸が千颯の手綱を取ろうと奮闘する。
(肉はここまで人格を変えてしまうものでござるか……。恐ろしいでござる)
普段はツッコミ役の千颯を制御する羽目になった白虎丸は、千颯の豹変ぶりに戦慄を覚える。
千颯の他にも、恭也の臥謳で衝撃を受けた黒服達は、初春が刃を返した紅炎の峰打ちで無力化され、捕縛されていく。
全ての黒服達がエージェント達によって捕縛され、黒服達の包囲から解放された牛が逃走を図るも、その前には黎夜が回り込んでいた。
(黎夜。見たところ一撃で倒せるくらい弱いぞ。あの連中の排除も終わり、仲間達もここを包囲しつつある)
「そこの従魔。『止まれ』」
アーテルの助言を受けた黎夜は、支配者の言葉を発動し、牛の動きを封じる。
黎夜の支配者の言葉を受け、洗脳状態になった牛は、黎夜の言葉通り動きを止めると、その間にテトが駆けつけた。
「マジで肉の塊だな、これ……。どこ刺せばいいんだ?」
(とりあえず、頭をサクっといってみたら?)
L.F.Lの助言にテトは《白鷺》/《烏羽》を翻して穂先を戻し、牛の頭をサクッと突き刺した。
サクッとテトの《白鷺》/《烏羽》に貫かれた牛は塵を噴き、様々な部位の肉を残して消えていく。
「お肉に、幸あれ……」
(いや、訳がわからないんだが?)
黎夜が消えていく従魔にそう言って黙祷を捧げると、内からアーテルがツッコミを入れた。
●いざ実食
従魔を撃破した後の牛肉は、共鳴を解いた麻陽と愛姫の案内で、牛肉を解体してくれる店へと運ばれていく。
『長い間、足止めしてしまって申し訳ございません。ただいまより牛肉のお裾分けをはじめさせて頂きます!』
陸との共鳴を解いたアイが、別働隊より借りた拡声器を駆使して一般人達の誘導を開始する。
アイが誘導した店の中では、陸が運び込まれた牛肉を恍惚とした表情で見つめ、解体用の包丁を入れていく。
「ふふふふ……(この肉の切れ目は)可愛い色だ……。この細かい霜降りの部分なんか、(食欲を)そそるじゃねーか……」
ふふふふふふ。
今の陸に一般人達は、若干引いている。
「ああ、いっそこのままかぶりついちまおうか……」
「かぶりつくな、戻ってこい。お客様がお待ちかねだ」
陸の刃物を持つ手を軽く押さえながら、アイが陸にツッコミを入れる中、共鳴を解いた暁とキャスも、陸によって大まかに分けられた肉の塊の配布作業を進めていた。
暁とキャスのところでは、解体作業は店の人にやってもらい、自分達は肉の計量と提供を役割分担して行っていた。
なおこの作業にかかる費用は全て依頼人の負担になると証明書に記載があるので、自分達にも一切費用はかからない。
「はーい、こちらの切り分け完了ー。並んでー」
「喧嘩ダメヨー」
暁とキャスの各作業にテトやL.F.Lも加わり、キャスの整列作業に従った一般人達への牛肉の配布が行われる。
「はいよぉ、お待ち! 早めに食ってくれよな!」
「今すぐに食べたいという方は、あちらのお店へどうぞー」
テトが配布し、L.F.Lが誘導した店では、もらった肉を無料で調理してくれる店が立ち並んでいた。
「黎夜、肉は幻想蝶に入れておけ。それで保存できるはずだ……今夜は肉の消費を頼む」
「うん……! 真昼と一緒に、食べる……!」
アーテルの指示に従い、自分のもう1人の英雄へのお土産も兼ねた肉を確保した黎夜は、一般人達への肉の配布をアーテルや麻陽、愛姫たちと共に手伝う。
やがて肉の解体や配布を終えたエージェント達も、一般人達に混じり、それぞれ手に入れた肉を店に調理してもらう。
牛肉料理は店で幅広く対応できるが、最初に皆が選んだ料理はステーキだった。
まずは強火で1分くらい焼き、火を少し弱めて1分くらい焼いていく。反対の面も同じような手順で強火と弱火を駆使して焼いていく。
両面が焼けたら皿に肉を移し換え、アルミホイルで包んで5分程度置けば、余熱で火が通った柔らかいステーキが出来上がる。
暁やキャスは肉厚に切った牛肉を串に刺して焼き、店の好意で用意してくれたガーリックチップを乗せた串焼きステーキへと調理した。
「ウルトラ上手に焼けマスター!」
キャスがどこかのゲームのようなポーズで焼きあげた串焼きステーキを掲げて叫ぶが、暁はシンプルに塩コショウで味付けするのも忘れない。
調理が終わった肉にかぶりついたエージェント、一般人達の区別なく、一斉に沈黙した。
目じりが下がり、自然と頬がゆるみ、「ふああ」とも「ふおお」ともつかない声があちこちから漏れる。
正気にかえった者から、ナイフやフォーク、箸を動かし始め、やがて全員の持つ皿の上は喧騒に満ちた。
「ああ……俺の、いや全人類の夢といっても過言ではない。この縦だか横だかわからないほどの肉厚のステーキが……! こんなに美味しいとは!」
陸が絶賛した、まさに『肉の立方体』といった分厚いステーキは、陸が噛み締めるごとに肉の旨味が溢れ、口の中へ広がっていく。
黎夜は……程よく分厚いステーキを食べながら、生まれて初めて雪を見たときのような顔で、空を仰いでいた。
その横ではアーテルが店の料理人と話をしながら、美味しい肉の調理の仕方をメモにとっている。
「やっぱり肉はうまうまなのじゃ」
「うむ、やはり肉はうまいの」
共鳴を解き、今は仲良くステーキにかじりつく初春は笑顔で、稲荷姫は満足そうに次々とステーキを平らげていく。
ステーキには、店の好意で貰い受けた岩塩や焼き肉のたれ、塩ワサビ、レモン汁などがアクセントとして加えられ、初春や稲荷姫の味覚と食感を楽しませていく。
焼けた外側の香ばしさもさることながら、テトが口に肉を入れるとサクッとした食感と同時に肉の滋味が広がり、歯を入れれば弾けるように肉が裂け、L.F.Lも肉を噛めば口中に美味の花が咲く。
最後に飲み込むと、なんともいえない暖かさが喉から胸に落ちるといった循環を、テトもL.F.Lも止められない。
「肉だぜー! みんな肉食ってるー?」
――YAAAAAH!
千颯の叫びに、一般人達から大歓声が巻き起こる。
「肉が人格を変えるのは世界共通でござったか……」
エージェントや一般人の区別なく盛り上がる状況に、白虎丸は驚きを隠せない。
暁がステーキの一部を店が用意してくれたライスと絡めて炒め、ステーキライスへと仕上げて新たな味を作る中、恭也と伊邪那美も別の料理に取り組んでいた。
「こんな食べられない部位を使ってどうするの?」
「ブイヨンの材料にもなるし、スジは煮込みにも使える。捨てるには勿体ないだろ」
伊邪那美の疑問に応じつつ、恭也は牛骨とスジ肉を使った料理として、牛のスジ肉のスープを仕上げていく。
まずブイヨンは牛骨とスジ肉を下茹でし、灰汁を丁寧に取り除いたり、煮る水を張り替えたり、香味野菜や香草なども加えて弱火で煮込み、細かい作業の末、布で濾して作成する。
次に別の鍋に切った野菜、下茹でされたスジ肉、生姜やニンニク、ネギなどを叩いて刻んでものを入れ、こまめに灰汁を取り続けながら煮込み、長時間煮込んで先に完成したブイヨンの一部と塩コショウで味を調えて出来上がりだ。
「恭也がこの作り方を知ってるってことは、おばちゃん達も知ってるんじゃない?」
伊邪那美の疑問はもっともだが、この牛骨とスジ肉を使った料理は非常に手間がかかるため、おばちゃんこと一般人達は知っていても、余裕がない限りは作らない代物だ。
しかし、完成したものがあれば話は別だ。
「……独り占めはできんか」
いつの間にか自分の周囲で物欲しそうにブイヨンやスープを凝視するおばちゃん達を見渡し、恭也はため息をついた。
無口で無愛想ではあるが、紳士的な一面もある恭也は、自分の取り分は確保しつつ、『これ、いるか?』と口にすると、おばちゃん達は恭也の作ったブイヨンとスープに群がり、あっという間に鍋は空になった。
「お腹を空かせたピラニアの前で、美味しそうな料理は作らない方がいいんじゃないかな?」
「おばちゃん達には勝てんか……」
おばちゃん達がいなくなった後、伊邪那美と恭也はそろってため息をつく。
こうした悲喜こもごもが繰り広げられる中、持参した胃薬も使って腹いっぱいの牛肉を食べ終えた麻陽と愛姫、そしてアイは、捕まえて護送車に収容した黒服達にも焼き肉を振る舞っていた。
「結果的にあんた達のおかげで、一般人達は怪我をせずに済んだ。その点は感謝してやれなくもない」
そう言ってアイが差し出した焼き肉を、黒服達は拘束された状態で器用に食っていく。
「そういった事情も考慮しまして、皆様がたの罪状を軽くできる余地があったということですぅ」
「ここから先は提案になりますが、罰金という形で皆さんの刑罰を減らせる余地もあります」
愛姫の説明に続き、麻陽が先にH.O.P.E.と交渉し、承認をとりつけた内容を黒服達に提示する。
それは、今回の黒服達の行動によって生じた被害に対し、今回の依頼人へ一部補填するという形で罰金も科し、黒服達が罰金を支払えばその分刑罰を軽減するという取引だった。
自分達も牛肉を味わって、心に余裕のできた黒服達は、麻陽の提案を受け入れ、罰金を払う事に同意する。
愛姫がH.O.P.E.より取り寄せた同意書に記入を終えた黒服達が、追加の牛肉を要求すると、麻陽はにこやかに言う。
「あ、ここからは料金がかかりますので」
麻陽はそのあたりもしっかりしていた。
●その後
こうして牛肉が従魔化したことで発生した騒動は、H.O.P.E.エージェント達によって、全員の胃袋を満足させる形で幕を閉じた。
「嫁殿も、待っている子供達も喜んでくれるといいでござるな」
「今夜は肉パーティなんだぜ!」
白虎丸や千颯達は、家族へのいい土産に出来たと牛肉を貸与されたクーラーボックスに入れ、帰路に就く。
また一般人達も家族のもとへ牛肉を持ち帰り、家族の胃袋を満たすことができたらしい。
その後、麻陽やアイの説得と提案を受け入れた黒服達より『罰金』が支払われ、その一部がH.O.P.E.経由で依頼人へと納められた。
これにより依頼人は赤字を多少減らすことができ、少しは安堵できたとのことだ。
再び牛肉が街に逃げ出す日は、もう来ないだろう。
多分。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
---|