本部

release of the song

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2017/10/13 13:51

掲示板

オープニング

● 扉の向こうは町だった。

 遺跡心臓部、その奥に隠されていた扉からさらに向こう。
 そこには様々な重要施設があった。
「これはルネを作成するための培養層」
 春香の構えるカメラごしに遙華は施設内部を分析していく。
 今回遙華は別のお仕事があるのでグロリア社にお留守番だが、どうしても内部構造を見たいと言ってきかなかったのでこの形である。
「言語の分からない本。でも一度この遺跡の執務室で見たのと同じ文字体系のよう」
 そう薄暗い研究施設を春香に横断させると簡単な鍵がかかった扉を発見する。
 そのカギを春香はスキルで吹き飛ばすと扉を開ける。
 すると頬をなぜたのは軽やかな風。
 眼下には、広大な大地と町が広がっていた。
「すごーい」
「ここが、私達の故郷、シンフォニカ、その一部だよ」
 そう告げたのは赤いルネ。
「ここがみんなに来てほしかった場所だよ」
 そう、そうなのだ、ルネは話すことができるようになるなり皆を引き連れて遺跡の最奥に潜りたがった。その目的がこの光景をみせることだったとは。
「ここが、ガデンツァの世界」
「あそこまで私を連れて行って」
 そうルネがねだるに任せて、一行は空を飛べる装備、天翔機を背中に背負い町へと降り立った。
 そこは白亜の岩石から削りだされた石の街並み。
「この世界は風土が穏やかで自然災害に致命的な物がないから、建築物の技術を発展させようとしなかったの」
 そうルネは語る。
「なるほど、これは」
 モニターの向こうで遙華がつぶやいた。
「三進数。発展した科学技術。この世界の文字体系。だとしたらあの施設は直前まで誰かに使われていたんじゃ」
「どういうことなの遙華?」
「あの遺跡、erisuの世界とガデンツァの世界の技術のハイブリッドなのよ。おそらく、ガデンツァの世界を滅ぼした誰かが、ガデンツァを使ってerisuの世界を……」
「まって! まって! ガデンツァを使って世界を滅ぼした? なに? その恐ろしい話。ガデンツァの一個上にまだ何かいるみたいじゃない」
「一個上どころの騒ぎではないと私は考えているわ。ガデンツァはあくまでも将に過ぎない、だとしたらその上には王がいるはず」
「どういうこと?」
「ガデンツァを倒した誰かが、ガデンツァを邪英化、使役して使ってる。私はその線が強いんじゃないかって思ってる、ただそれだけよ。でも他の人の持論とも矛盾することは多いし、まだ見落としがあるかもね」
「情報が必要?」
「ええ、何かおもいだした? ルネ」
 そう遙華が問いかけると、ルネは思い出すようにゆっくり言葉を紡ぐ。
 ルネは記憶の混濁が激しく、自分の事は愚か世界の事も何も分からないありさまだったのだが、最近は記憶を取り戻しつつある。
 だから、この場所に訪れて、記憶が刺激されている今なら、全ての謎が解けるかもしれない。
 ガデンツァの? 
 いや、違う。この世界の謎だ。
 愚神とは、本来何なのか。
 この世界になぜ、やってくるのか。
 その時である。
 横切った広場の井戸水が沸き立った。
 それはうねり、形を変えてそして。一人の女性の姿をかたどる。

「我自ら殺しに来てやったぞ! プロトタイプ」

 ガデンツァの奇襲。おそらくは本体ではなくルネを変異させた遠隔操作型だろう。だが一瞬のすきをついて、戦闘力のないルネを殺すには十分。
 そう襲いかかったのだが。
 ルネは口を開いた。そして耳を覆いたくなるような音の束が周囲に叩きつけられて。
「ああああああああああ!」
 ガデンツァが苦しみだした。
「おのれ! お主! 自殺を図るつもりか!」
 その言葉に首を振り、けれどルネは謳うことやめない。
 次の瞬間、ガデンツァ、そしてルネにひびが入り。
 二つの存在が砕けた。
 結晶は空へ。
「え!」
「追いかけて春香! まだルネは死んでない!!」
 遙華の叫び声を聞くと春香はクラウチングスタートを切る。急加速、趣味のパルクールを生かしてスルスルと民家を上り、天へと舞い上がる水晶の欠片たちに手を伸ばす。けれど届かない。
「しま!」
 数メートルの高さを堕ちる春香。その眼前で、赤い欠片、青い欠片がぶつかり合い町のあちこちに飛んでいくのが見えた。


●女王玉座に戻り。
「かはっ!」
 ガデンツァは海から浮上する、酸素を求めるように口をパクパクと開いてもがき苦しむ。 
 痛む全身をさすって、イミタンド・ミラーリングの後遺症に耐えた。
「く……あ奴、わらわに無断でアクセスを」
 げっそりとした表情で上半身だけ起こすと、ガデンツァは思う。あの時一体何が起きたのか。
 分析する、なにが起きたのか。
「く……精神干渉。我が記憶屋からデータを奪い……。ばらまいた」
 そう、ガデンツァの内部データに一部閲覧された記録が残っている。
「窮鼠猫を噛むか」
 次いでガデンツァはばらまかれた破片に対して念を送る、その世界を破壊せよ。
 崩壊が始まる音を遠くに感じながらガデンツァは佇む。
「遊んでおればいい。時期に大切なものすらかすめ取られていたことに気が付く」

●音の町
 皆さんが突入した音の町。
 そこでの調査は有意義なものでした。
 新しい文化、あたらしい音色。新しい技術にあふれ。ルネとガデンツァの物語をひも解くのに有益でした。
 ただ。この町の中心でルネとガデンツァは粉々に砕かれ町中に散ってしまうことになります。
 ルネの赤い破片は八つ。
 ガデンツァの蒼い破片は六つです。
 これを回収することによって疑問点を解消する情報を得ることができるかもしれません。
 また、ガデンツァの破片は四つ。ルネの破片は六つ集まることで自己修復可能です注意してください。
 さらにこの町、音が力を持ちます。
 ガデンツァの欠片は歌をうたい、皆さんに幻想の魔物を押し付けてきます。
 これを倒すことは攻撃ではできません。
 ガデンツァの奪うことを目的とした歌に対して、歌とイメージで戦わなければなりません。

 町の構造は単純で、碁盤の目となっています。一区画80M程度ですが、それが無数に点在し、街の端と端からでは5キロ以上離れているので
 天翔機という空を飛べるアイテムを背負っていますが、帰るときに必要となるので、街を探索している時に使うとエネルギーが切れる可能性があります。



 

解説

目標 ルネの欠片を六つ以上獲得する。

● 歌、それが切り札。
 町を探索するために重要になるのは歌です。
 ガデンツァの欠片は歌を操ることで、龍を召喚したり、おぞましい生物で道をふさいだりしてきます。
 それに対して対抗できるのが皆さんの歌です。
 歌と歌そのもののイメージが具現化するので、それでガデンツァの歌を抑え込みながら探索しましょう。
 また。町中に散らばったルネの破片も歌っています。
 それは、希望の音~ルネ~と呼ばれる曲で、聞き覚えのある人もいるかもしれません。
 その歌が導くままにルネの破片を回収しましょう。

● ルネと雑談
 今回はルネの欠片を回収する任務がメインですが、時を巻き戻してルネと町を探索するところから話を進めることができます。
 彼女に聞いておきたいこと、話しときたいことがあるならこのタイミングで話しておくといいでしょう。

リプレイ

第一章 町の中で
 白亜の町は清らかでそこには穢れなど一切ないように見えた。
 ここはいったいなんのために作られたのだろうか。
 まるで箱舟のようにも箱庭のようにも思えるこの町だったが。
 心なしかルネが元気になっているようなので、やはり何かしらの意味がこの町にはあるんだと全員が感じた。
 その街並みを記録していくのは『アル(aa1730)』
 その手には『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』のお気に入りのハンディカムが握られており、周囲の情報を細かく記録していく。
 質感や空気感の実況も忘れない。その場にいた感覚を後でも思い出せるように映像を撮影する。
 さらには歌への反応も。『ベラウバ・ヒューバ』そして希望の音やルネの声。いろいろ試しては見たが反応はないようだ。
 そんなアルの声の裏では囁くような歌声が流れている。
 『朱璃(aa0941hero002)』とルネだ。
 アルは微笑んでカメラから顔をあげた。空を見て声が下方向を眺める。
 そちらの方角には今リンカーたちがたまっていて、一休みしているはずだ『卸 蘿蔔(aa0405)』や『レオンハルト(aa0405hero001)』は建物の軒先に腰掛けながらルネを眺めている。
 隣に座ったルネ、それを『蔵李・澄香(aa0010)』や『斉加 理夢琉(aa0783)』は複雑そうな表情で彼女を見た。
「あの文字ってなんて書いてあるのです?」
 そんなルネに蘿蔔は声をかける。指さす先には円を重ねたような文字が連なっていた。見ようによっては科学の、原子を表すような形に見えなくもないのだが。あれは。
「あれは表札だよ。私がここに住んでますってあらわしてるの」
「アルスマギカ語に似てるけどちょっと違いますね」
 蘿蔔の言葉に首をひねるルネ。
「赤いルネさんと青いルネさんって何が違うのです?」
 そんな彼女に矢継ぎ早に質問を送る蘿蔔。
「本来のルネはみんな赤いのよ。戦う時は赤くなるの。でも蒼いならそれはリラックスしている時よ。モードが違うの」
「モード……やはりルネさんたちはロボットなのでしょうか」
「作られた存在という意味ならそうね。私たちは私達を一様に音楽生命体って読んだりするけど。それは、それね」
「オリジナルのガデンツァがいるとかは……ない、よね?」
「ガデンツァはたった一人よ? だってガデンツァは、世界が壊せるゆえのガデンツァ。世界の終わりをたった一人で迎える者。なのに複数いたら怖いでしょ?」
「そういえば過去に紫の水晶の敵の報告があったんだけど……心あたりある?」
 レオンハルトが問いかけた。
「それは休眠状態か、一度も起動していない個体だったんじゃないかな? 赤と青の真ん中の色はそう言うことよ」
「ちょちょ、ちょっと待って」
 頭の中でルネの話を整理していた『小詩 いのり(aa1420)』があわてて問いかける。
「ガデンツァって結局何なのかな?」
 独奏者、終末を奏でるもの。世界を壊してくれる存在。
「キミたちの世界では、もともとガデンツァって敬われるような存在だったのかな? ほら、さっき『壊して”くれる”存在』って言ってたじゃない?」
 その言葉に蘿蔔も反応した。
「壊してくれるって言いましたが……くれる、なのです?壊してしまう、ではなく?」
「私たちの文明はいささか力を持ちすぎました」
 その時ルネの言葉が霊気を帯びた、今まであった感情がスッと引いていくような感覚。
「なので私たちの世界の人々は、その技術を悪用されることを恐れ。世界が支配される際に自分たちの手で滅びることができるように、滅びの女神を作り上げたのです。それが、ガデンツァ」
「私たちは歌が殺伐としたものに悪用されることが許せませんでした。歌とは誰かの心と心を繋ぐもの。皆さんはちょっと違っても私達と同じような概念を持っているみたい……。私はそれを嬉しく思うわ。だって分かり合えると思うから」
 まだ性格データが不安定なのだろうか。ルネの言葉が次第に熱を取り戻す。
「ボクの友だちにルネっていう子がいたんだ。ほら、この子。この子の正式な名前って見当つく?」
 そういのりが差し出したのは青いルネの写真。いつの間に取ったのだろう。澄香といのり……春香とルネで中央によって写っている姿が残されていた。
「ルネ? おかしいです。自立して動けるルネは私一人。音楽生命体第一号は私たるルネ。そして最終機体ガデンツァしか……」
 突如押し黙るルネ。
「どうしたの?」
「記憶の閲覧中。もうちょっと待ってね」
「だったら、そうだキミのお名前もよかったら教えて欲しいな」
「名前? 私はルミナス・イミテ……」
「そうじゃなくて、君自身が呼ばれたいって思う名前かな。でないと、ボクは人間って名乗らないといけないからね?」
「ふむ、名前はまだない……かな?」
 猫のようなことを言う。いのりはそう苦笑いを浮かべた。
「赤るねとかもっとましな名前を考えてやるべきデスな。人間に人間って呼ぶような違和感ニャ」
 そう声高に唱えたのは朱璃である。
 その言葉に『彩咲 姫乃(aa0941)』はこう答える。
「それはこの依頼が終わったら改めて西大寺あたりに時間作ってもらおうぜ。三船にとってはルネは特別な名前だろうしな」
「うん、そうだね」
 今まで複雑そうな表情をのぞかせていた春香。彼女の中には様々な疑問が渦巻いているのだろう。
 それを抱えたままルネと接してもいいかどうか悩んでいるのだ。
 それは理夢琉も同じようで『アリュー(aa0783hero001)』が理夢琉の背中を押すと、せわしなく視線あたりに向けている。
 だが、理夢琉は意を決したようにルネの手を取って言葉をかけた。
「ねぇ、赤いルネさん。英雄ルネさんのがあなたの中にはいるの?」
 まるで懇願するような言葉。
 それにルネは静かに首を振った。
「いいえ、私はあなた方の言うルネとは別物なの。だから私は」
「じゃ、じゃあ。混乱しないように新しい名前を付けないとですね。春香さん」
「え? ああ、そうだね、なにがいいかな澄香ちゃん」
「う~ん赤ルネちゃん? なんて呼べばいいかな?」
 たらいまわしにされたバトンを澄香へ送ると、澄香は澄香で『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』にそれを渡してしまう。
「アカネちゃんはどうですか?」
「うわ、すごい現代風」
 春香が驚きの表情を浮かべる。
「響きがいいね。私はそれでも大丈夫」
 ルネが笑顔で告げた、だがその瞬間ルネの表情が曇る。
「ルネの情報解析が終わったよ。君たちの言うルネの情報はなかったよ、逆にないっていうのはおかしい。あれはガデンツァの作ったルミナス・イミテーションじゃない」
 その言葉に全員が混乱しつつも次の言葉を待つ。
「だとすれば……。なぜ、ガデンツァは私のような『答え』にたどり着かせたのでしょう。阻止できなかった? 可能性は確かに高いですけど。今の彼女ならここで刺し違えてでも真実は隠匿する。という手法をとっていてはおかしくないのに」
 その直後である『榊原・沙耶(aa1188)』が『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』の手を取ってあたりに視線を巡らせた。
「……何か、くるわぁ」
 次の瞬間、井戸から水が吹き上げて何者かがアカネを襲う。
 アカネは即座に反撃、青と赤の二色の欠片が周囲に飛び散った。
 悲鳴が聞こえる。ガデンツァの。
「えええ! 何が起きてるの!」
 いのりはパニックになりながら澄香に歩み寄る。
 これまで数々の修羅場に対応してきたリンカーたちはこの状況を正しく分析する。
「町中回って欠片を探さないと。通信機は常に身に着けておくから情報共有はこまめにしようね」
「いのり……聞こえる?」
 澄香が囁くようにいのりに問いかける。
「うん、声が聞える、アカネちゃんの声と。ガデンツァ!」
 手分けをしてあたりに散るリンカーたち。
――何か、便利なようで不便なのね。ガデンツァにとってのルネも……。
 沙羅はそうため息をつくと武装を幻想蝶から取り出す。淡い光が彼女の表情を下から照らし出す。
「砂漠の時以来じゃないかしら。結構な打撃与えられたの。やっぱり、インターネットのような並列の回路はウィルスに致命的に弱そうね。まぁ、ガデンツァがそのウィルスのような気もするけど」
 ガデンツァとのルネ争奪戦がここに始まる。

第二章 争奪戦
 

 町中に流星のごとくふるルネの破片、そのかけらを見あげて『世良 杏奈(aa3447)』は茫然と立ち尽くしていた。
「また……壊れて……」
 そんな理夢琉のふらつく体を杏奈が支える。
「しっかりしろ理夢琉! カケラを追うぞ」
「ええ、まだ終わったわけじゃないわ」
 そう杏奈は告げて空を見上げる。
「赤ルネちゃんとガデンツァが砕けた……!?」
 大切に守り続けてきたものが砕ける瞬間。それを目の当たりにしながら杏奈はこの場にいる者数名の胸に宿る喪失感を追体験する。
(あのルネさんがいなくなった時もこんな感じだったのかな?)
「追いかけて、はる……」
 遙華の声が鋭く響いた矢先、蝶反応で姫乃が飛び出す。壁を駆け上がり屋根を伝って降り注いだルネの破片の行先へ走る。
「とっさに動くことに関しては、誰にも負けない! 俺はアカネを追う!」 
 さらには鷹の目を召喚。ものすごいスピードで追いかけて行った。
――あたしは火車デスニャ。罪に濡れた骸を掻っ攫うことに関しては誰にも負けないニャ――正確には瀕死っぽいデスがニャ。
 朱璃がそう告げた。
「がでんつぁの精神が入ってた状態だったからいい感じに罪の臭いがするデスニャ」
「ガデンツァの破片は通り道にあればついでに回収……本命は赤いルネだ」
「ご主人の少女愛好にも困ったもんデスよ」
 その言葉に、ん? っと首をかしげた姫乃。
「いやいや、そんな不純な動機じゃねえよ」
――わかってますよー。生まれたばかりで死ぬなんて大罪犯させてあたしの獲物にする気はないデスニャー。
 そんな朱璃の言葉を流して姫乃は屋根瓦を踏み砕き飛ぶ。
「で、歌えますのニャ?」
「……一般人程度には」
 あっという間に小さくなってしまった姫乃の背中。
――幻なんかに負けないんだから!
 それを見送ると『ルナ(aa3447hero001)』が告げると、変身。杏奈主体からルナ主体へと代わってマナチェイサーを発動、欠片の行方を感覚で追う杏奈。
 そのまま花の箒に乗って欠片を追う。
「まって! 澄香早いよ!」
 特注のスポーツシューズがガリッと石畳を削り、いのりはコーナーリング。
 欠片の落ちた場所は空を飛ぶ澄香が把握しているので彼女を追うだけだが、空を渡るという行為は敵に丸見えになってしまうということ。
 案の定追撃が迫る。
 まるで夢の世界から現れたとでも言いたげな、半透明な蛇龍の姿。
 その龍は咢にて澄香を弾き飛ばすと、澄香はすぐにアサルトユニットを機動。
 箒の浮力とアサルトユニットで滑走し最初のルネの地点に降り立とうとするが、着地予想地点でまたあの龍が待ち構えている。
 竜の中心には青い欠片。暴虐の歌があの龍を操っているようだった。
 歪な不協和音が聞こける。
「シロ!」
「はいです」
 その澄香の応援要請に答えたのは蘿蔔。
 その翼を一瞬吹かせて壁を駆けのぼり澄香の目の前に躍り出た蘿蔔はめいいっぱいの大声でその歌を響かせる。
『潮騒の音』と名付けられたその曲。AIとでも友達になれてしまうその曲は。
 歌の邪流を破壊することなくなだめ、鎮めそして眠らされるのだ。
「ガデンツァ、聞こえてますか?」
 これは元はガデンツァの為に作った歌。
「この歌をあなたに歌えなかったのは自分の弱さ故。でした」
 響く歌は穏やかに寄せて返す潮騒の音。
「今更だとは思います、でも……遅いからと言って諦めるわけにもいかないじゃないですか」
 龍は単なる水の塊となる、そのど真ん中に澄香は突っ込んだ。
「私はもう……あなたを恐れたりしません。あなたの事を、教えてくれませんか?」
 澄香はその手にガデンツァの欠片を掴みとると着地、素早く体制を立て直そうとするも、無理な加速を減速しきれず壁に叩きつけられ酸素を吐いた。
「こふっ」
 そんな澄香が掴み取った破片、拳の中のそれに蘿蔔は歩み寄って語りかける。
「あなたがしたこと、忘れたわけじゃありません。許したわけでもありません。けれど。何も知らずに拒むことはもう、できませんから」
「いい話の最中わるいけど、私の心配は?」
「あ! 澄香。また無茶してる!」
 いのりが駆け寄ると澄香はいのりに泣きついた。
「いのりちゃん大丈夫ですよ、すみちゃん頑丈ですし」
「ひどい。痛くて動けないのに。いのりー」
「うんうん、えらいえらい。それで欠片はどうなったのかな?」
 その言葉に澄香は恐る恐る手を広げてみる。
 そこには……。

   *   *

 同時期。理夢琉は路地裏で赤い欠片を胸に抱きしめていた。
「絶対元に戻してあげるからね」
 そんな理夢琉の顔に影が落ちる、見上げればそこには空に届きそうな大きさのイカのような化け物がいた。
――なんて禍々しい……。
 アリューが思わずつぶやいた。
「龍を召喚するよ、爺や、力を貸してね」
 次いで理夢琉は古びた一冊の本を取り出した。その本に手を当てると魔呪そして音が霊力で開かれ、ページがばらばらとひとりでにめくられて進み、あるページで止まる。
 それは幼い頃の夢世界の話を爺やが綴ってくれていた、形見の本だった。
 その本は普段封印されているが、ひとたびとりだせば、成長すると共に忘れかけていた夢の記憶を鮮明に思い出すことができる。
 たとえばそう、古の龍だとか
「浄化の風で光に還す、銀の鱗を持つ風龍。透明なソプラノ、空高く吹く風の旋律!」

《駆けあがれ 風龍よ 銀の輝き 浄化の光纏いし旋風となり 迷いし黒龍を光へ還せ》

 次いで飛び立ったのは力を持った龍。その息吹は化け物を頭の端からどんどん解いていく。
 結果一際強い風が吹き見れば、化物は消えてなくなっていた。
「ありがとう、爺や」
 そう理夢琉は本を撫でてぽつりと告げる。
――理夢琉。欠片が……。
 理夢琉の手のひらの上で振るえている欠片。その欠片は泣いているようにも見えた。ぶるぶると震え。心細そうにしている。元に戻りたいのだ。
「絶対見つけるよ、アリュー」
――よし、行くぞ、理夢琉。
 二人はもう一度走り出す。
 
   *   *

「あの、沙耶さん。あの……離して」
「ルネの欠片ねぇ」
 沙耶は対してゆったりとした足取りで町を見渡していた。
 あわてて探して見落としがあってはいけないという堅実主義の彼女らしい。
 そんな沙耶の周囲をおばけのような何者かが漂っている。
 だがその歌は沙耶に近づけないようだった。
 それは沙羅の謳う曲によるもの。結界のように周囲を清めガデンツァの影響をはねのけているのだ。
「私一人で大丈夫だから」
――そんなわけないでしょ。
 沙羅が歌の合間に告げる。
――体にチップを埋め込んだり。行動がちょっと狂気じみてるわ。普通の女の子はやらないでしょ?
「あう……ごめんなさい」
 さらに説教を受ける春香である。
 春香は欠片が飛び散ると早々に欠片を追ったのだがいつの間にか沙耶にとっ捕まっていた。
 彼女からすると行動パターンなど御見通しなのかもしれない。
「私達から離れちゃだめよぉ」
 春香の監視役兼ルネ探しである。 
 まったく、楽ではない仕事を押し付けられたものである。
「あ、あれ」
 そんな一行が発見したのはガデンツァの欠片。
――うかつに触らないで。
 そう沙羅が制して、代わりに沙耶が手を伸ばす。 
 その瞬間、欠片が蔓が伸びた。水晶色の触手は沙耶に一瞬で絡みつくと。その幻想蝶へ蔦を伸ばしていく。
――沙羅!
「あら、しつけがなってないわねぇ」
 沙耶はいつもの余裕を絶やさず告げるとすかさずパニッシュメントを放つ。
 すると触手は硬質な輝きと共に脆くも砕けチリになる。
――みんな、聞いて頂戴。ガデンツァの欠片。触れると暴れ出すことがあるみたい。十分注意して。
 沙羅がインカム越しにそう報告すると仲間たちから了解の声が返ってきた。

第三章 独奏者とは

 いのりは澄香を追う最中歌声を聴いて歩みを止めた。
 花の影にこっそりと隠れた、ちいさな歌声。
 それを聴いていのりは優しく欠片を包みこむ。
「見つけた」
 そんないのりの姿を見て、欠片は安心したように歌を強める。
「君たちはどうしたらいいのかな? 集めればいいのかな?」
 欠片は歌しか口にしない。けれどそれでもなんとなく心が伝わる。
 いのりは全員に赤い欠片を集めるように通達した。
 杏奈は路地裏の薄暗さの中、ひたすら走っていた、背後からは粘液質な水がドバっと押し寄せてきていて。今にもルナを飲み込みそうである。
「アルマギの魔法が効かないわよ!? どうしよう杏奈……?」
――ガデンツァの歌が聞こえてくる。きっと歌で魔物を操ってるのね。これに対抗出来るのは……。
「……希望の歌! ルネさんの歌ね!」
 胸に響くのは何度もきいたあの音。
 口ずさんで見ればその思いは強く高く届く。
 それはいちまいの壁となりガデンツァの差し向けた幻想を押しとどめた。
――歌には力があるのかもしれないわね。
「どういうこと?」
――もっとはっきりした明確な力が。
 次いでルナは一際強く『希望の音~ルネ~』のメロディーを口にした。ルナの周囲を舞うように現れた音符たち。
 それを打ち込んでも音は吸収されるばかり。
「いつもいつも邪魔ばっかりして! こーしてやるんだから!!」
 熱くなったルナがさらに迎撃しようと音符を増やすところを杏奈が止める。
――待ってルナ! 良い事思い付いちゃった♪ 確かアレがあったはず」
 そして杏奈の指示の元、ルナが幻想蝶から取り出したるは。目覚まし時計「デスソニック」
 ここには杏奈の悲鳴が封印されている。解き放たれればいったいどうなるか。ルナは怖くて想像すらできない。
――欠片は、あそこ!
 杏奈が支持する先には水の塊、ただその中心には核のようにガデンツァの欠片が浮かんでいて。
「いっけーーーー」
 ルナはそれにめがけて目覚まし時計を投げた。
――貴方のだーい好きな人間の悲鳴、たっぷり聞かせてあげるわ!
「いつの間に作ったのよこんなのー!!」
 直後聞こえたのは死者さえ目覚めそうな絹裂く悲鳴。
 思わずそれを聴いて顔を上げる蘿蔔、いのり、澄香である。
 三人はガデンツァの欠片を見下ろしたままに角をつつき合わせていた。
「澄香、ボクいってくる」
 そんな中いのりが膝をほろって立ち上がる。
 この近くにルネの欠片が堕ちたはずなのである。
「うん、任せたよ、危なくなったら叫ぶんだよ」
「あんなに響く叫び声は上げられないかもだけど、頑張るよ」
 いのりは苦笑いしながらも路地を曲がった。
 さて、いのりも避難させたので本格手にアプローチを。
 そう澄香はライブスチェンジ。クラリスモードになりそのかけらにふれた。
――危ないよ!? さっき沙羅さんから……。
「自壊命令が出ていないならば、此処にあること自体に何か意味があるかもしれません」
 そしてクラリスは囁くように欠片に言葉をかける。
「ガデンツァに命令を下す主、その姿を幻影で見せなさい」
 時同じくして。アルがガデンツァの欠片を捕獲していた。
 歌の天使による鳥かごで、ガデンツァの欠片は身動き取れず囚われていた。
 イメージも伴った歌唱勝負では万全の状態ならともかく、分霊状態では太刀打ちできない。
 そんなアルは幻影の天使たちを撫でながら欠片に歩み寄る。
「ねぇ、ガデンツァ『上』に誰がいるんだい?」
 その時だった。アルの脳内に響く声があった。
 それは、もう一人の真っ白な相棒の言葉。
 彼は、何と言っていたか。そうだ、確か……。
「ボクにとってのリンカー像」
 次いで息を吸うとアルはそのかけらが観客だとでも言いたげに微笑んだ。
「聞いてください、曲名はThe Symphony……『騎士の歌』」

――遠くで聞こえる唸り声 獣たちの襲来
 もう迷ってる暇はない 立ち向かうのが使命
 機械仕掛けのこの街で僕ら出会った
 守りたいと思う理由はそれだけで十分だろう

 直後、澄香と蘿蔔。そしてアルを包んだのは欠片からあふれ出る幻影。
 周囲を覆う闇。だがこの闇は三人に向けられたものではない。ガデンツァに向けられた闇なのだ。


――命がけの戦いに足は震えて
 それでも
 僕は英雄になりたい
 気高き心、胸に宿して

「これ? アルちゃんの声?」
 澄香は振り返る。だけど彼女はどこにもいない。それどころか蘿蔔もいない。
 孤独な闇に一人ぼっち。ああ。さっきまであれほど沢山のぬくもりと共にあったはずなのに。 
 

――僕は貴方を守る盾 哀しみ払うための剣
 痛みも悔いも厭うことなく 戦いの道選ぶのならば
 僕は嵐に挑む櫂 前を見据える羅針盤
 暗闇に身を囚われたなら 貴方を導く歌になろう

 次いで澄香の胸に湧いたのはとてつもない悲しみ。
 自分は守ることができなかった。自分は全うすることができなかった。
 自分は、失敗した。自分は。


――とわのともよ 貴方がいるから
 僕は戦場(ここ)に立ち続けていられるんだ
 僕は盾 僕は剣 船を漕ぐ櫂 羅針盤
 貴方と心、響き交わし
 僕は救いの歌となろう

 人であったなら完璧にできたのだろうか。
 人であったなら全うできたのだろうか。
 作られた自分だからいけなかったのだろうか。
 人の心を人ではない『私』が持っていたから。

――I will sing forever
 僕は戦い続けるよ
 The Symphony makes me brave
 貴方といれば、僕は勇敢でいられる

 全てを謳い終えたアルの耳に澄香の通信が届く。
「アルちゃん、なにが起こるか分からないから欠片はギリギリまで集めないようにしよう。そして……今見た光景ってなんだった と思う?」

エピローグ

 いのりの打ち上げた閃光弾にてリンカーたちは一度集まった。
 じゃらりと姫乃が半分程度の欠片をいのりに差し出す。
 すると直後、かけらはお互いに吸収し合って。手のひらサイズのルネに生まれ変わった。
――壊れずにすんだな。
 アリューが告げると理夢琉が手を差し出す、その掌に乗っかるアカネ。
「うん。よかった、よかったよぅ」
 瞳を潤ませて理夢琉は喜んだ。
「あの、聞きそびれたことがあって」
 そんなルネに蘿蔔は問いを投げる。
「erisuと同じ世界出身のロクトさんがなぜこの言語を知っているのかわかります?」
「ロクトってだれ?」
 だよね。そう肩を落とす蘿蔔である。
「アカネちゃん。君が歌った希望の音は、一体、何のために歌う歌なんだい?」
 澄香が問いかけた。
「希望の音? 滅びの歌ではなく?」
 ルネは首をかしげた。
「滅びの歌は私たちの世界を滅ぼす歌。滅ぼしてくれる歌。ガデンツァの歌はこの世界を滅ぼす歌」
 アカネはそうして滅びの歌を謳って見せる。
 そんな彼女を見て思い出したと姫乃は問いかける。
「で、赤ルネと何歌ってたんだ?」
 それはこの町の探索を始めた時にアカネと朱璃が一緒に謳っていた歌の事。
「猫踏んじゃったデスニャ」
「どういうチョイスだよ……」
「お猫様じょぉくデスニャ…………ご主人はあいどるそんぐでしたデスニャ」
「あー」
 姫乃もルネと一緒に謳っていたのだろうか。目を泳がせる姫乃。
「あの子にご執心なのは結構デスが他の女の前でそれは」
「おい誤解しか招かねぇ言い方すんな」
 そう茶化すと朱璃は一瞬真面目な声を出す。
「あたしとしては敵の真実とかよりもかわいい子を愛でたいデスよ――便利な道具じゃないんだからもっとこみゅにけぃしょんを取るべきニャ」
「それについては同感だ」
「やはり少女愛好……」
「そっち違う……」
 姫乃は大きく息を吸い込んで戻ってきたアルとじゃれ付くアカネを見た。
 なぜかアルはアカネに好かれてしまったらしい。頭の上によじ登ってそこを定位置としてしまった。そんな光景が微笑ましいと姫乃は感じる。
「役割とかそういう肩がこるのとは無関係に生きてほしいってとこだよ」
「ねぇ春香ちゃん」
 そんな一行を見守りながら、沙耶は春香に小声で何やら耳打ちした。
「それ、私が遙華に頼まないといけないよ~。やだなぁ」
「あまり口外してもらっても困るわぁ。英雄にも内緒だから」
 頭を悩ませる春香である。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
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