本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】ラグナロクのならず者

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/10/10 13:29

掲示板

オープニング

●これまでのあらすじ
 エネミーの妨害行動によって一切の支援を断たれたギアナ支部。疲弊しきった支部職員達をどうにか救出した君達は、その足でたびたびちらつくラグナロクの存在を追って密林へと足を踏み入れた。そうして出会ったのはラグナロクの幹部、フレイとフレイヤ。アマゾンで起きる異変の根っこにはラグナロクの存在があると思って間違い無いだろう。そう確信を君達が深めた矢先、何とバルドルの方から直接H.O.P.E.へと接触してきた。目的は『対話』。
 何があるか分かったものではない。しかし、バルドルからラグナロクにおける現況を探るチャンスでもある。君達はH.O.P.E.の使者として、あるいはその護衛として指定された会見場へと向かって出立する。

 そこで待ち受けていたものとは……

●Thor the Tyrant
 護衛役の君達は、会見場である薔薇園へと仲間達を送り出す。会見の前に、護衛の一部は薔薇園のすぐ外にて待機という手筈になったのだ。薔薇園へと続く通路の両脇には、丁寧な事に待機用の椅子まで用意されている。その見た目は何処か戦陣での会見を偲ばせる。
「よう。お前らがH.O.P.E.側の護衛を任されたリンカーどもか? ご苦労様だ。うちの頭領が迷惑かけるぜ」
 既に片一方の椅子にどっかりと腰を下ろし、腕組みをしてにやにやと君達を見上げる男が一人。彼こそがラグナロクのナンバー2、トールであった。二人の女を傍らに伴った彼は、手を伸ばして向かい合う席を指差す。
「ほら。まあ座っとけや。いつまで話し合い続くか分からないんだ。ずっと立ちっぱなしじゃ疲れるだろ。……それにここは座って構えるのが礼儀ってもんだぜ?」
 よりにもよって敵の幹部に指図されるのも納得のいかない話だったが、ここで怒ってトールを刺しに行ったら今後どうなるか分かったものではない。君達はひとまず堪え、黙って椅子に座る。当然、正面には勝ち誇ったような笑みをいつまでも浮かべるトール。苛立ち睨み返したり、視線が気になり目を逸らしたり、ともかくそれぞれ何か反応したい気分に刈られる事だろう。そんな君達を見つめ、トールはふと呟く。
「虫けら、野ネズミ、麦の若芽……」
 いきなり放たれた言葉に、真意も分からず君達はトールを凝視するかもしれない。そんな君達に対してトールはやはり笑みを広げるのだった。
「いやいや。お前らの哀れで軟弱な有様を見てたら、ふと何に喩えるべきか気になっちまってな。悪い悪い。俺はどうにも口に出して物を考えちまう性分らしい」
 そんな性分はどうでもいい。トールは出会い頭に挑発をかましてきたのだ。君達の中には腹が立ったものもいるだろう。トールの右隣を固める、プラチナブロンドの美女――レスクヴァはさらに居丈高な態度で言い放つ。
「有難く思うがいい。取るに足らない存在である貴様らを、偉大なるバルドル猊下はお救いなさろうとしているのだ。頭を垂れ、速やかに忠誠を誓え」
「お待ちください。……いきなり忠誠を強いるのは暴君の振る舞いです。全てを語り合い、全てを識った上で皆様には我らの下に集って頂くべきです。それがバルドル猊下の目指す、終末の果ての新世界なのですから」
 左隣の少女――シアルヴィはレスクヴァをさっと諫める。筋骨隆々のトールとグラマラスなレスクヴァと並ぶ彼女は、ちょっと殴ると折れそうな、そんな儚さを湛えている。しかし言っている事は同じだ。要はラグナロクに従えという事である。トールはそんな彼女達の肩を軽く叩くと、歯を剥き出し、目元を歪めて君達を見据える。
「まあ、そういう事だ。言っておくが従うなら今のうちだと思うぜ? 逆立ちしたってお前らが俺達に勝つことは出来ないんだ。アイツも鷹揚っぽく構えてるがすーぐキレっからな。しかもねちっこくていつまでも同じことで責めてきやがる。アイツを怒らせる前に足の甲にキスでも、五体投地でも土下座でもしとけ。いや……」

 一寸考え込んだトールは、得意満面に言い放つ。

「Kiss his ass. そうだ。それがお前らには御似合いだ」

 それを聞いた君達は――

解説

メイン トールと接触する
サブ1 トールの戦闘ステータスを調べる
サブ2 ラグナロクに関する情報をトールからそれとなく聞き出す
(サブはどちらか一方のみ達成すればOK)

BOSS
トール
●概要 バルドルの護衛としてやってきた傲慢極まるならず者。廊下を挟んで煽ってきた。
●種別 愚神?
●脅威度 ケントゥリオ級?
●ステータス 物理を中心に高め? 詳細は不明
●スキル(PL情報、今回使用するスキルのみ)
・トールハンマー
 ライヴスブローの極限強化版。周囲を纏めて雷でぶっ飛ばす。[範囲攻撃。防御した相手に対し威力増]
●性向(PL情報、特に[]内に注意)
・唯我独尊
 自分が絶対無敵最強と信じて疑わない。[決して激昂しない。挑発に乗る事はあっても乗せられることは無い]
・戦術家
 三度の飯より戦好き。脳内シミュを付け合わせにパン一斤食える。[戦いに関する話が大好き]
・孤高
 強者はただ弱者を叩き潰すのみ。救済など必要ない。[バルドルその他を内心馬鹿にしている]

ENEMY
ヴァルキュリア「シアルヴィ&レスクヴァ」
●概要 トールの従者。ロリっぽいシアルヴィとナイスバディのレスクヴァ。(シアルヴィは何処か変だが)
●種別 多分従魔
●脅威度 デクリオ級
●ステータス 不明
●スキル
・今回は使用しない
●性向
・狂信プログラム
 ラグナロクが絶対。何かとラグナロクへの入信を勧めてくる。[対話不可能。彼らの言葉はただのノイズ]

状況
・会見場前の待機場所にいる。
・トール達とは互いの席を挟んで10mもない距離で向かい合っている。
・トールは素手で構えている。どうせどこかに武器は隠し持っているだろうが。

リプレイ

●Kidding

「Kiss his ass. それがお前らにはお似合いだ」

 トールから放たれた大層な“ご挨拶”。月鏡 由利菜(aa0873)は思わず身を乗り出しかけるが、リーヴスラシル(aa0873hero001)が中から静かに押し留める。
『(落ち着け、ユリナ。そもそもバルドルは私達を取り込みたいのだ。今の言葉はマイナスに働く)』
「(トールがバルドルの意向を無視してああ言った、と……?)」
 ラシルの言葉でどうにか平静を保った由利菜は、膝頭に指を立てて堪える。
『(そのうち仲間割れを起こすかもな。いずれ彼らと直接対峙する時は来るだろう。今は適当にあしらっておけ)』
 由利菜は頷くと、居住まいを正してトールの愉悦に満ちた顔をきっと見据えた。
「私はH.O.P.E.の騎士、月鏡由利菜です。あなた達の軍門に降るつもりはありません」
 一方、その隣でハーメル(aa0958)はとぼけたように首を傾げている。スラングの意味がそもそも分からなかったのだ。
「きすひず……? えっと、それってどんな意味です?」
『(……わかる必要も、ないな……)』
墓守(aa0958hero001)もくだらない挑発に溜息をこぼしていた。二人ともトールが戦いたがっている事は見抜いていたが、それにわざわざ乗っかってやるつもりもない。
「(……何を言ってるんだ、コイツは)」
 純日本人の杏子(aa4344)もまた、トールの言っていることがわからなかったようである。テトラ(aa4344hero001)は当然気付いていたが、彼女自身は腕組みしながらにやにやするばかりだ。
『……』
「やれやれ。そうかそうか」
 そんな三組を見渡したトールは、どっかりと座り直してせせら笑う。
「いやしくも戦士ってわけだ。そりゃそうだなぁ。この程度の言葉に踊らされているようじゃ本当に虫けらだ。よかったぜ。虫けらと顔つき合わせる事にならなくて」
「御身の如き神威に満ち溢れた方が何故そのように語るのか……そもそも、なぜ”my”ではなく”his”なのです?」
 石井 菊次郎(aa0866)は若干言葉に慇懃無礼な色を纏わせながら尋ねる。トールは一瞬目を丸くしたが、やがて大口を開いて豪快に笑いだす。
「ふ……はははは! 当たり前だろうが。見れたツラの女もいるみてえだが……だからってケツを舐めさせたいとは思わねぇ! 俺はそこまで変態じゃねえよ!」
 前の六組に構わず一頻り笑いきると、再び傲岸不遜な笑みへと戻りさらに続ける。
「ま、俺はお前らがいくら媚び諂おうと関係ねえからな。せいぜいバルドルにでも許しを請っておけってこった。神の懐の深さとやらを見せてくれるかもしんねえぞ?」
 シェオル・アディシェス(aa4057)は押し黙り、ひたすら冷静にトールの様子を観察していた。柳に風が吹くように侮辱の言葉を受け流し、トールを捉える事に集中していた。
「(……此方を徹底的に下に見る傲慢ぶり。この人は、己の強さに疑いが無いのですね……)」
『(なれば、我らが奴を挑発したとして、それをまともに受け取るとは思えんな)』
 ゲヘナ(aa4057hero001)はシェオルの言葉を引き受け呟く。死神はついでにシェオルのことも見守っている。雷の神を名乗る者との邂逅が彼女に何をもたらすのか、と。
『これでご挨拶はおしまいかな。トールとやら』
 泰然自若、大胆不敵、アイリス(aa0124hero001)は常日頃と何も変わらない微笑みでトールに対峙する。幼げな姿でありながら悠々と構える彼女に何かを感じ取ったのか、トールは眉を持ち上げる。
「そんなとこだ。退屈してたってことで許してくれや」
『そうだな。……確かに何もせず待つというのも退屈だ。少し会話しようじゃないか。此方も、君たちのことについては少し興味があるものでね』

●Investigation
「興味! 興味か。お前ら如きが俺達に一体どんな興味を持っているっていうんだ?」
 トールは椅子にもたれたまま、上からものを見るような目つきでエージェント達を見渡す。レスクヴァもまた周囲を睥睨した。
「貴様らが知るべき事など何もない。全ては猊下の御心のまま。ただそれに従うがいい」
『私が真に仕えるは盲目で白痴の魔王のみだ。……今はこの有様だがな』
 今は人の形を取れど、元はどこかの世界で千の貌を持っていた一柱の神。テトラはレスクヴァの言葉を一笑に付す。しかし今度はシアルヴィが目を輝かせてまくしたてた。
「ならば問題ありませんね。皆いずれバルドル猊下の恩寵に与かるのです。その魔王様も。そうなれば、貴方も私達の同胞となります」
『何だその無茶苦茶な理論……』
「あの……ただ、バルドル猊下に従えと言われても、何もわかりません……」
 シェオルは肩を縮め、おずおずとシアルヴィに話しかける。
「貴方の言う通り、全てを語り合い、全てを識らなければ判断もままなりません。ですから、貴方達の掲げるものの本質は一体何か、教えて頂けませんか?」
「勿論です」
 シェオルの言葉を聞くなり、いきなりシアルヴィは立ち上がった。
「嗚呼、終末の鐘の音はあまりに甘美。既に風の冬は訪れた。剣の冬は、狼の冬は訪れた。旧き者は果て無き冬のうちに凍てつき、新しき者のみが新たなる世界の到来する瞬間を垣間見るのです。スコルとハティが太陽と月を飲み込み、星々は天から落ち――」
 波濤のように押し寄せる言葉の数々。とても正気とは思われない。トールさえもが呆れたように肩を竦めている。由利菜は顔を顰めてシアルヴィの陶酔した顔を見上げる。
「要領を得ません。もっと簡潔に……」
「ギャラルホルンが鳴るのです。世界の終焉を告げるためにあの角笛が! さりとて新世界に生きるべき人間ならば知るでしょう。それは決して絶望の音色ではないと!」
 シアルヴィの演説は混迷を極めていく。ラシルはすでにその本質を見抜いていた。
『(ユリナ、あれはおそらく、戦乙女を模した従魔に過ぎん)』
「(……あれは考えて発せられている言葉ではない、と?)」
『(そうだ。耳を傾けるだけ無駄だろう)』
 まだまだそのヴァルキュリアはべらべらとしゃべり続けていたが、ついにトールがその肩を掴んで椅子へと引き戻す。
「いい、もう黙れ。H.O.P.E.のリンカーがたがお困りでいらっしゃるぞ?」
 わざとらしい丁寧な口振りでそう言うと、トールは再びリンカーに向き直る。
「話の腰を折って悪いな。シアルヴィはどうしようもないバカなんだ」
「結局お二人とも、ラグナロクに入れってことしか言わないんですねえ」
 ハーメルが膝にメモ帳を乗せながら素朴な明るい口調で言う。しかし、彼は共鳴した墓守と共に、紅蒼のオッドアイで二人を厳しく観察していた。アイリスもまた同じく微笑みを湛えたまま、トールに探りを入れ始める。
『トール。私は妖精だ。この通り羽もある。神を名乗る君は、ひょっとすると愚神かい?』
「……さぁな。俺はただ辿り着いただけさ。お前らじゃあ辿り着けない、力の境地にな」
「それって要するに、愚神になったってことですか?」
 ハーメルがさらに踏み込んだが、トールはただ鼻で笑っただけだった。
「お前がそう思いたいならな。俺は別に否定しねえ。肯定もしないけどな」
「(こいつ、むかつくよ)」
 愚神が特別嫌いなイリス・レイバルド(aa0124)は、アイリスの中でぼそりと呟く。傲慢極まりない彼の態度に、最初から不信感と怒りを募らせていたのだ。そうなるとわかっていたからこそ、今回はアイリスが表に出ている。
『じゃあ遠慮なく、君が愚神であると仮定して話を進めさせてもらうよ。君達の組織の一体どれだけが、君のようになってしまったんだい?』
「俺のように……ま、力を手に入れる事に躊躇いを感じるような奴はもうこのラグナロクにはいねえかもなぁ?」
『新たに参加してくるリンカーだっているだろう?』
「だから言ってるだろ。このラグナロクに、力を手に入れる事に躊躇する奴はいない」
 にやにやと笑いながら適当に受け応えるトール。ハーメルは彼の答えを膝の上のメモに書き留めながら、彼のふんぞり返る姿を改めて見つめた。
「(明らかに僕達を見下してるね……警戒もせずにぽんぽん質問に答えてるよ)」
『(……だが油断はない)』
 アイリスは一瞬目を閉じて考え込むような仕草をしてみせ、さらに切り込む。
『で、力を得た君達が私達を救済しよう、と。何をもって救済と呼ぶんだい? ヴィランも邪英も一まとめにエインヘリャル……だから邪英や愚神を量産してもいい、という理屈だとこちらの対応も堅くなるのだけどねえ』
「そうだ、我々は全てエインヘリャル、故に皆バルドル猊下に従うさだめ――」
「黙っとけ」
 アイリスの言葉に反応したレスクヴァ。朗々と語り始めたその口を塞ぎ、トールはわざとらしく肩を竦めた。
「知るかよ。バルドルは血道をあげてるが、俺は救済なんぞくそくらえだからな。そんなに興味があるんなら自分で聞け」
 口を尖らせ、小馬鹿にしたような顔をする。神を騙って気儘に振る舞うこの男を叩き切りたいと思いつつも、由利菜は堪えて尋ねる。
「随分な物言いですが……それなら貴方はなぜバルドルと行動を共にしているのです? どこか、惹かれるところがあったのですか?」
「惹かれる? 惹かれる! 悪いが俺はホモじゃない。あいつに惹かれたことなんぞ一度もねえな。ただ昔のよしみで仕方なーくあいつのやることに付き合ってるだけだ」
「(これは……聞くまでもなかったね。こいつのこんな有様じゃ、バルドルが中に入れようとするはずもないな)」
 杏子はテトラの内側で呟いた。朝まで語り倒してドワーフを石に変えた逸話の通り、このトールもぺらぺら舌が回る。茶会にいても余計な事ばかり喋って場を引っ掻き回しそうだ。
『(ユリナ、マガツヒとの関係性も聞いてみてくれ)』
「(はい。)マガツヒと協力関係にあるようですが……いずれ、彼らも取り込むつもりですか」
「マガツヒ? 何のことだかわかんねえな。どこの組織だ、そりゃ」
 ラシルに言われてさらに踏み込んでみた由利菜だったが、トールはさらりと受け流す。その薄ら笑いは、全く知らないようにも見えるし、知っていてもはぐらかしているようにも見える。
「(少なくとも、ただの脳筋ってわけじゃないのかな……?)」
 ハーメルは押し黙ったままトールの横顔を見つめる。どんな質問を投げてものらくらと受け流してくるトール。全く嘘とも、確かな真実とも受け取れない。
 このまま会話を続けていても、曖昧模糊な情報を得るばかりで終わるだろう。誰ともなくそんな思いを抱き始める。そろそろ確たる情報も手に入れておきたいところだった。

 そのためには。

『なるほど。君には救済に関する興味が無いのはよくわかったよ。そういうのが多いとこちらも楽なのだがね。……時に、随分とその実力に自信があるようだが。是非とも私達を相手に証明して欲しい所だね』
 質問の時と同じく、アイリスが口火を切る。トールは腕組みをしてアイリスを一瞥した。
「おうおう。いきなりどうした。やる気なのか?」
「いやいや、そういうわけじゃないですけど。せっかく僕達蚊帳の外なんですから、外で出来る事をしてもいいんじゃないかなぁ、って。お互いの実力を確かめ合う、とか」
 ハーメルがすかさず合いの手を入れた。あくまでトールに腰を上げさせる。それがエージェント達の作戦だった。
『ああ、やろうじゃないか。この“暇神”が直々に相手してやるぞ』
 テトラも自信たっぷりの口調で啖呵を切る。トールは好きな音楽でも聴くかのように頷きながら耳を傾けていたが、しかしその腰は上げない。
「いいねえ。俺の強さを確かめたい。そんな思いがよく伝わってくるぜ……だが俺はやらない。俺はここから動かない。残念だったな」
「苟もトールを名乗る者が戦いを拒むというのですか?」
 北欧神話の神々を騙る男への怒りを滲ませつつも、由利菜は努めて冷静にトールを挑発する。だがトールはへらへら笑うばかりだ。
「お前らが望むんだっていうなら、お望み通り叩き潰してやるのもやぶさかじゃないぜ? だがなぁ、それは俺にメリットがない。バルドルに怒られてこの先好き勝手やらせて貰えなくなるんじゃ、それはあんまりにもつまらねえ。お前らだってつまらねえだろ?」
 冗談めかして語るトール。アイリスなどは直ぐにでも椅子を蹴って立てるように構え、トールの出方を具に窺っている。エージェント達はもう皆気付いていた。
 げらげらへらへら、常に表情を緩めながらも、決してその眼だけは笑わないことに。虎視眈々と眼を光らせていることに。
「(けして野放図な暴力ではない……眩き光、雷光のような存在……)」
 シェオルはただひたすらにトールを観察し続け、一つの答えに達する。トールはその名を名乗るに相応する者なのだろう、と。
『(さりとて、安易に恭順はせぬ。だろう、シェオルよ)』

『(このままでは埒が明かんな)』
 テミス(aa0866hero001)は菊次郎に囁く。元より彼女達に戦うつもりは無かったが、このまま挑発を続けたところでトールが腰を上げるとも思えない。
『(少し趣向を変えたらどうだ)』
「(もちろん考えています)」
 菊次郎は頷くと、その十字の瞳でトールを見つめる。
「直接戦うことが出来ないというのなら……口で戯れるのはいかがでしょう」
「そいつはどういう意味だ?」
「人間の戦術の歴史が変わったのは、参謀システムが登場し、参謀旅行が生まれて野外模擬演習を行うようになった時でした。ご存知ですか」
 ゆったりと語りかけると、トールはそれを鼻で笑う。
「近代的な参謀制度はプロイセンが作り出した。それくらいは知ってる」
「模擬演習では地図上での戦略議論なども行われました。それを一つやりませんか」
「いいじゃねえか。出してみろ」
 トールは菊次郎の方へ向かって身を乗り出す。菊次郎は頷くと、トールの背後に見える丘を指差す。
「あの丘に敵の砲座が置かれているとします。その状況で川上から迫る敵中隊を迎え撃つとき、貴方ならどうしますか。私なら……砲火による援護を阻害するため、早期に混戦へ持ち込みますが」
 菊次郎は淀みない口調で問いかける。その答えはあえて万全にはしなかった。トールが是といえば、所詮その程度とわかる。
 だが、トールは小さく首を振った。
「混戦に持ち込むのはいいが、相手が自軍の犠牲を厭わなかったらどうする。混戦に持ち込んで侵攻部隊を叩いたところで、まとめて砲弾に押し潰されたらしまいだ。このご時世、人道なんて言葉が通用しねえ奴らなんていっぱいいるからなぁ」
「あなた方もそんな“通用しねえ奴ら”の一人じゃないですか?」
 ハーメルが冷静にツッコミを入れると、トールは歯を見せてにっと笑う。
「どうだかなぁ。バルドルは“お優しい”からなぁ――」

 その時、不意に薔薇園の中が騒がしくなった。バルドルの大声、それに呼応するエージェントの叫びが壁を越えて聞こえてくる。トールは思い切り椅子にもたれて天を仰ぎ、小馬鹿にしたように呟く。
「あーあ。やっちまったなぁ、バルドルよぉ」
 脱力して垂れ下がる腕の筋肉が不意に盛り上がる。トールは指をじっくりと曲げ伸ばししながら、歓喜のあまり掠れる声で呟く。

「俺は嬉しいぜ。お前らも嬉しいだろ。戦の時間だ」

●Thor Hammer
 刹那、トールは椅子の上から消えた。同時にアイリスも飛び出し、両手を構えてトールの拳を受け止める。稲光が弾け、アイリスの全身に電流が走る。
「(お姉ちゃん!)」
『大丈夫さ。このくらいなんともないよ。……さあ、遠慮なく行かせてもらうよ』
 拳をそのまま掴むと、アイリスは渾身のパワーで偉丈夫を投げ飛ばす。トールは空高く舞い上がると、宙で身を捻って地面に降り立った。
「ははぁ? どうした、得物は抜かねえのか?」
「刃なくとも……私にはこの脚があります」
 光の鎧を輝かせ、マントを靡かせながら由利菜が迫る。ローキックからのハイキック。トールは腕で次々にその一撃を捌いていく。
「僕達が武器を取ったら、僕達が宣戦布告したとでもいうつもりでしょう?」
 今にもとびかかってきそうなレスクヴァと対峙しながら、ハーメルは早口で言う。目の色を変えたトールは、アイリス達と組み手を繰り広げながらからからと笑った。
「賢いねえ。そのつもりだったさ。その賢さに免じて、バルドルには良いように言っといてやるよ。……まあ、もう意味ねえかもしれねえがな!」
『一つ教えろ』
 さらにテトラが飛び込んでいく。流れるように拳や蹴りを繰り出し、またトールからの拳打を躱しながらトールに尋ねた。
『ラグナロクは人間という存在を消そうとしているようだが、お前自身はその事をどう思っている?』
「どう思う? どうも思わねえな! 消されるのが嫌なら戦え。そして勝てばいい。それだけの事だろうよ! それが出来ねえってんなら大人しく死ねばいい!」
『人間は愚かで哀れで軟弱だ。貴様がその論理を振りかざしたところで、実際に立ち上がれるものは僅かにしかいないだろう。しかしその情けなさがあればこそ見ていて飽きない。だから愛せるのだ。人間というものを!』
 テトラが誇らしげに言い放つ。彼女を不意に放った寸勁で突き飛ばすと、トールはうんざりしたとでも言いたげに溜め息をついた。
「どいつもこいつも神みたいなこと言いやがる」
『ああ、そうだ。私は神だからな。……少なくとも人間がいなくなったら、私にとってこの世界は色を失い魅力がなくなる。だからお前らの考えにはノーを突きつける!』
「ああ、そうかい? やれるもんならやってみなってなぁ。有象無象のリンカーども。まあ確かに、ちったぁ骨があるようだが」
 トールが指を鳴らした瞬間、物陰から二体の巨大な影が飛び出した。狼の頭に山羊の角を生やした二体の従魔は、トールの下へと素早く駆け付け、一振りの大槌を差し出す。
「さて……帰る客人には土産を持たせねえとな。バルドルはその辺ぶっ飛んじまってそうだから、代わりに俺の技を見せてやる」
 トールが槌を手に取った瞬間、稲妻を纏い白熱する。エージェント達は素早く身構えた。
「じゃあな」
 トールが槌を振り下ろした瞬間、激しい白光がエージェント達の視界を埋め尽くす――


『――あれはライヴスブローと発動プロセスが同じだった。ブレイブナイトのスキルは、リンクレートを持たなければ真価を発揮しないはずだが……?』
 ラグナロクが去った後の庭を捜索しながら、アイリスは呟く。彼女に寄り添って茂みの中を覗き込み、イリスは首を傾げた。
「だとすると、トールはヴィラン、なのかな」
『だがあの威力は、純粋に技を磨くのみで実現できるものでもないだろう』
 イリスとアイリス、由利菜とラシルは一線を張るブレイブナイト。その可能性と限界はよくよくわかっていた。
「愚神にしろ、ヴィランにしろ、あれを許してはおけません。ラシルと私の誇りにかけて」
『ああ。この力はユリナに捧げると、改めて誓う』
 由利菜とラシルは真っ直ぐに見つめる。アイリス達も二人を見上げ、小さく頷くのだった。
『私達も同じ思いでいるよ。彼らを野放しにはしておけない』

「それにしても、まさかお茶会の方が先にめちゃくちゃになっちゃうなんてね」
『……思った以上に、厄介な奴だ』
 ハーメルと墓守はトールの発言をまとめたメモを見つめる。どの質問の答えも、ラグナロクの内情、トールの本質について確信を得るには足りない。わかったのは、ヴァルキュリアが話の全く通じない狂った従魔だという事ぐらいだ。
『注意が必要になるな……』
「そうだね。隙を見せるとは思えないし、プリセンサーやレーダーでしっかり情報得ながら戦っていかないといけないかな」
 二人の様子を隣で見ていた杏子も、うむと唸って顎を撫でる。
「もっと簡単に喧嘩に乗ってくるかと思ったけどねぇ……」
『まあ、初対面の敵に簡単に釣られるような奴は実力も相応だ。……いいではないか。奴は否定しがいのある敵だ』
 小さな子供に戻ったテトラは、ぼんやりと空を見上げたまま淡々と答える。口端に僅かな笑みを浮かべると、彼女は小さくトールへ呼びかけるのだった。
『(トール覚えておけ。慢心は負けフラグだとな)』

「……ふむ。ズセについて尋ねる機会をついぞ見失ってしまいましたね」
『戦いを続けるなら、また相まみえる事もあるだろう。その時に尋ねればいい』
 菊次郎の十字架の瞳は、破壊された会見場と、その調査を行うエージェント達を映している。テミスもまた同じ景色を見つめていた。
『あいつは間違いなく、獣の眼をしている。……だが、それを抑え込むだけの理性もまた持ち合わせているようだ』
 腕組みしたままテミスは呟く。野蛮な獣も、理性に飼われた人間も大したことはない。H.O.P.E.内にも少なからずいる、野蛮を理性で抑え込んだ戦士は例外なく強い。
「彼と戦場で出会うときは、苦労することになりそうですね」
 菊次郎はサングラスを掛け、静かに思いを巡らせるのだった。


「(ラグナロクが掲げているのは……人間への不信)」
 シェオルは独り庭に佇み、空を揺蕩う雲をじっと見上げていた。バルドルの唱える終末思想に思いを馳せながら。
「(人同士の争いは終わらない。いつか、いつかと願っても……)」
 何の因果か、彼女は見た目通りの年ではない。修道女として、絶え間なく繰り返される争いの日々を見つめてきた。何年も、何十年も。彼女はそれでも人間を信じているが、バルドルは信じられなくなったのだろうか。悉くをあざ笑うトールにしても。
「(ラグナロクの終末思想も……そのようなところから生まれたのでしょうか……)」
 シェオルは幻想蝶を手に取って、ゲヘナに問いかける。

『(……終末は誰の手によっても与えられるものではない。何者にとっても、生まれた瞬間に与えられるものだ)』



 こうしてエージェントとトール、初の邂逅が遂げられた。完全にとはいかなかったが、エージェントはトールの腹の内を探る事には成功した。トールの並々ならぬ自信を支える力についても、その一端を垣間見た。
 激戦の予感を胸に秘め、エージェント達はラグナロクとの戦いに身を乗り出していくのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 救いの光
    シェオル・アディシェスaa4057
    獣人|14才|女性|生命
  • 救いの闇
    ゲヘナaa4057hero001
    英雄|25才|?|バト
  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • トラペゾヘドロン
    テトラaa4344hero001
    英雄|10才|?|カオ
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