本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】足が、足がぁぁぁっ!

雪虫

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/03 14:20

掲示板

オープニング


 エージェント達は呆然とした。
 発端はH.O.P.E.に届けられた謎の電子メッセージ。暗号で構成されたそれを解析した結果、いくつかの画像、過去の事件の報告書、そして電子メッセージの送り主……エネミーからの声明である事が明らかになった。
『もうすぐギアナ支部から応援要請メールが届きますよ』
『だって、彼らのそういった連絡を止めてたのは私ですから』
『「今、我々は【絶零】や【屍国】で忙しいから応援なんて出せません」……と、代わりにお返事しておきました』
 そして入れ替わるように届いた、ギアナ支部からの協力要請。
 エネミーの言葉が正しいとすれば、【絶零】と名付けられたロシアでの一連の事件……その頃からギアナ支部は何らかの危機に見舞われており、H.O.P.E.に救援信号を出し続けていた事になる。そしてその叫びは届く事なく、エネミーの手によりことごとく握り潰されていたのだ。
 すぐさま返信を行ったが、ギアナ支部からの応答はなし。まさか今の要請は最期の力を振り絞って……嫌な想像が頭を過ぎる。
 H.O.P.E.は動ける人員を掻き集め、すぐさまギアナ支部へと送った。もし危険が迫るような事態であったら引き返すように言い含めて。
 そしてギアナ支部に到着したエージェント達は、目の前の光景に呆然とする事になる。


「申し訳ないが、ここに散らばっている書類の整理を頼みたい!」
 ギアナ支部職員、戸丸音弥に案内され、(途中で持たされた大量のファイルと共に)エージェント達が辿り着いたのは、惨状としか言いようがない程散らかった資料室だった。
 まず足の踏み場がない。床一面を紙という紙が覆い尽くし、さながら紙の海……を通り越して、海あり山あり谷ありである。恐らく次から次へと書類をこの部屋に運び込み、なんらかの理由で書類の束が雪崩を起こし、しかし片付けをする暇もなく新たな書類が運び込まれてきた結果、海あり山あり谷ありの現状が出来上がったのだろう。よく見ると階段と二階にまで書類は及んでいるようだ。
「この資料室にある書類のほとんどは、ここ一年で起きたアマゾンの異常に関するものだ。中には全く関係ないものもあるかもしれないが……状況を把握し、詳細を説明するためにまずはこの書類を整理する必要がある。とりあえず回収してこのファイルにまとめていってくれ!」
 エージェント達は資料室に足を踏み入れ、床に落ちている書類を手当たり次第拾い始めた。どうやら手書きのレポートであるらしく、中にはミミズがのたくったとしか思えないような文字もある。冷房が壊れているためかそれとも閉め切られていたためか、蒸し暑さと息苦しさまでエージェント達に襲い掛かる。開始数分で既にやる気が削がれてきたが、ここにあるもの全て情報だと思えば頑張らざるを得ない。
 音弥は応援に来てくれたエージェント達に任せきり……という訳にもいかず、共に書類を集め始めた。しょぼしょぼする目を擦りつつ近くにあった書類を捲った……その下に、奇妙な箱のようなものが埋まっているのを発見した。
 資料室と言えば『知識の宝庫』、と連想する人は多いだろうが、ギアナ支部の資料室はそうとも言い切れない所がある。資料室の名に相応しい書類や文献のみならず、石版、何かの彫像、ボトルシップ、ゴライアスバードイーターという巨大な蜘蛛の標本なんかもあったりする。早い話が半分物置と化している。
 とは言え以前とあるエージェント達に片付けを頼み、原植物や熱帯植物、水槽の中を泳ぐアロワナなんかは別の所に移動してもらったのだが……故に、紙の中に妙な箱が埋まっている程度は、この資料室では『普通』なのだ。その箱の装飾が光り、シュンシュンと奇妙な音を発したりさえしていなければ。
「みんな、気を付けろ、床に何か潜んでいる!」
 音弥が声を上げたその時、収束したエネルギーがビームとなって打ち出された。ビームは音弥の両足に直撃し、音弥の悲鳴と共にその両膝がガクリと折れる。
「のぁぁぁっ! 足に二時間正座したような痺れがっ!」
 具体的な実況が音弥の喉から放たれたと同時に、別の箱が紙から飛び出し、回転と唸りを加え音弥の足に激突した。二時間正座したような足に箱(の角)が直撃した場合、どのような事態になるかはご想像におまかせする。

解説

●目標
 書類をファイルにまとめる(成功度でデータの公開度が変わる)

●ギアナ支部資料室
・二階建て
・一階の広さは半径15sq、二階は中央をくりぬかれたドーナツ型(通路幅2sq)
・中央の階段で繋がっている
・棚や物が置かれたスペースは壁から1sq
・書類は一階、階段、二階の床に足の踏み場もない程散乱している
・ファイル(たくさん)は資料室の外に置いてある

●敵情報
 奇箱・痺×14
 一辺15cm程度の箱型従魔。リプレイ開始と共に姿を見せる。出現場所は一階に10体、階段に2体、二階に2体。浮遊して移動。資料室の外には出ない
・痺れビーム
 当たった者の両足に「二時間正座したような痺れ」を引き起こす。痺れは【劣化(移動)】を伴い、BS回復スキル使用時/クリンナップフェーズ時に回復。一ターンで複数回受けた場合、稀に【気絶(1)】付与
・痺れアタック
 痺れた足に突撃する。固定ダメージ2付与。足が痺れた状態で、一ターンで複数回受けた場合、稀に【気絶(2)】付与
  
●注意事項
・書類はほぼ手書き。汚れたり破けたりすると簡単にダメになる
・足が痺れた者はバランスを崩し書類を踏み潰す危険がある
・書類の中にはOPに出ていたような品が埋まっている可能性がある(持ち出し禁止/破壊禁止)

●NPC
 戸丸音弥
 ギアナ支部職員。過労と足の痺れによりダウン寸前。共鳴は出来るがスキルは使いきっている
 
 セプス・ベルベッド
 音弥の英雄。最初は幻想蝶にいる。片付け終了後は姿を見せるかもしれない

●その他
・使用可能物品は装備・携帯品のみ
・過労は回復スキル・回復アイテム・食品アイテムでは治らない
・NPCは特に要望がなければ描写は最低限orなし
・コメディ(キャラ崩壊の危険性あり)です
・シナリオタイトルは従魔にアタックされた音弥の悲鳴です

リプレイ

●はじまりはじまり
 千良 侘助(aa3782)は文屋である。(底辺)月刊誌の記者をしており、今日も今日とて徹夜明け。だが徹夜には慣れているし、我慢強さもあるし、そんなこんなで人手不足のギアナ支部まで来た訳だが、徹夜明けを待っていたのは大量の資料の山。
「海外来てもデスク作業か……さて、張り切ってやりますか」
『ぎっくり腰にはならないように』
「そんな歳じゃないよ」
 氷魚(aa3782hero001)の心配かジョークか分からぬ忠告を受けながら、侘助は上着を脱ぎネクタイを取り外した。ビニール袋はなさそうなので靴を脱いで靴下になり、出来る限り涼しい格好でマッピングツールセットを取り出す。
「まずは間取りを把握しないと……戸丸さん、脱水対策にこれをどうぞ」
 スポーツドリンクを入れてきた新型MM水筒を、この中で一番やばそうな音弥へと差し出した。音弥はありがたくドリンクを頂戴し、一息ついて新たな書類をぺらりと捲った……そこで痺れビームと痺れアタックの怒涛の二連撃を喰らい、音弥はその場に崩れ落ちる。長い戦いのはじまりはじまり。
「足が、足がぁぁぁっ!」
 
●激しき戦い
『見てるだけで小指が痛くなるような従魔だね』
「言われるとそう思っちゃうじゃないの」 
 資料室を見上げる百薬(aa0843hero001)に餅 望月(aa0843)はそう返した。音弥の犠牲を引き金に現れた箱型従魔、14体。この角が足の小指に激突したら……やめよう、そんな事を考えるのは。
「とにかく書類整理も従魔退治もがんばろうか。どんな大事な情報が書かれているかわからないからね」
『世界で一番美味しい食べ物の情報もあるかもね』
「それなら答えは見えているわ、仕事した後に食べるご飯よ」
 故に美味しいご飯を食べるため……ではなく、従魔がいるなら仕方ない、共鳴。
「気休めかもしれませんが、気持ちだけでも軽くなれば動きやすくなりますよ」
 思わぬ障害への耐久力を高めるべく、望月は白く大きな翼を広げクリーンエリア発動させた。清らかな光を全身に浴びながら、水落 葵(aa1538)が奇箱の姿に後悔の叫びを上げる。
「あー! 書類仕事だと思ってハンディカメラ奥に突っ込んだのに!」
『他で補うしかないね!』
 相棒の後悔をウェルラス(aa1538hero001)はさっぱり切り捨てた。まずは従魔掃討に専念せねばと即共鳴、音弥(の足)に攻撃した従魔の近くまで移動。
「とりあえず引きつけっから、ぶっ倒れたら回復頼んだぞ」
「すいません、場所が空くまで少々待って頂けますか」
 石井 菊次郎(aa0866)の声に葵は視線を下に落とした。見れば美咲 喜久子(aa4759)やアキト(aa4759hero001)と共に、慌てず騒がず冷静に書類を片付ける菊次郎。
「とりあえず一人分のスペースは確保出来ました。では、どうぞ」
 書類がさっぱり片付けられた床を指し示す菊次郎。ちょっと複雑な顔の葵。だが、戦闘が激化して書類がダメになったら困るし、書類以外に埋まっているものがダメになるのもやっぱり困るし……とにかく従魔の攻撃を引き付けるべく葵はライヴスを開放する。

 荒木 拓海(aa1049)は床に転がる音弥を見た。まだ息はあるようだが静かになったまま動かない。
「音弥さん……身を呈し敵の存在を教えてくれたか」
『大丈夫ですか? ……先に倒しましょうか』
「いや、その前に書類の保護かな」
 脳内のメリッサ インガルズ(aa1049hero001)の声に答え、拓海は白手袋を両手にはめた。書類汚れ防止のため既に靴は脱いである。靴下で汚れ危険箇所へ向かい上からブラックローブをふわさっ。
 一方、ストゥルトゥス(aa1428hero001)は音弥の遺した実況におののいていた。
『二時間正座したような痺れ、だと……。気を付けろマスター! こいつら、今までの中で一番エグいゾッ!』
「そ、そこまで言う、程かな……?」
『もしかして。正座で痺れた事、無い?』
「そもそも、あまり、正座しないよ」
 ニウェウス・アーラ(aa1428)の返答にストゥルトゥスは何とも言えない表情をした。複雑な感情を顔面筋で表現し、複雑な感情を声帯の震えに滲ませる。
『そっかー。……そっかー』
「なに、何なの!?」
 ストゥルトゥスの反応はものすごく気になるが、とりあえずリンカー達の先頭に立ち、葵・ウェルラスの近くから離れないよう心がけつつスペースの作成に当たる。床に散らばっている物をてきぱきと左右にどけていき、後続の面子が整理を行う為の作業スペースを確保する。
 と、皆が書類を守るべくそれぞれに動く中、虎噛 千颯(aa0123)の意見は少し違った。
 足の踏み場が無いのなら最初から気にしなければいい。
「足元は気にせず一気呵成に突っ込むんだぜー!」
 フットガードを周囲の仲間と己に掛け、千颯は飛盾「陰陽玉」を携えた。我先に突っ込む気満載の相棒に白虎丸(aa0123hero001)が口を開く。
『千颯……それは確かに足場の影響は受けなくなると思うでござる……が、それと足場が崩れるか否かは別だと思うでござる』
「ちっちっちっ、甘いな白虎ちゃん……足場の影響を受けない……つまり崩れた所で何の影響も受けないって事なんだぜ!」
『崩れる事前提である事がまず間違いでござる!』
「そこ、従魔近いよ!」 
 レーダーユニット「モスケール」を背負うニウェウスからの指摘に、千颯は視線を動かした。自分を狙って放たれる一本の痺れビームを、しかし千颯は飛盾で防ぎ得意げに笑みを零す。
「ふっふっふーその程度の攻撃で俺ちゃんを抑えれると思うなよ?」
   
 葵は菊次郎達の作ってくれたスペースに立っていた。守るべき誓いはライヴスを周囲に発散し、敵の意識を引いて攻撃を自らに誘導するスキルである。その性質上攻撃が自分に集中するし(というかそのつもりだし)、下手に動いて書類がダメになったら意味がない。
「とは言え無抵抗のサンドバック、って訳でもないけどな」
 床から離れた従魔に対しライヴスショットを射ち放つ。衝撃波は着弾し箱型従魔を破壊したが、欠片が飛び散り爆風が紙を宙へと巻き上げる。
「破片は落ちるか……出来れば避けたい所だな」
 スキルは使わない方が良さそうだと判断し、拓海は「黒潮」を取り出した。絶妙な手さばきを釣り糸に伝える、匠の作った垂涎の釣り竿型AGW。一辺15cm程度の箱型従魔に狙いを定め、投げた。そして釣り上げた。
「よし、上手くいった!」
 だが、その瞬間、痺れビームが箱から放たれ、ビームは拓海……ではなく守るべき誓い中の葵へと直撃した。しかし望月のクリーンエリアで足の痺れは無効化される!
 けれど、忘れてはならない。守るべき誓いは敵の意識を引いて攻撃を誘導するスキル。すぐに第二、第三の痺れビームが葵の足に襲い掛かり、痺れた足に誘われて箱(の角)が突撃する!

●静かなる書類整理
「この内容は……確かに非常に貴重な報告の様ですね」
 菊次郎は黙々と片付けを行っていた。背後が騒がしい気もするが本人は冷静そのもので、非常に脆そうな資料があればスマホを構えてぱしゃり。
 喜久子とアキトも踏みつぶすのを防ぐ為、しゃがんだり座ったりして、手の届く範囲から少しづつ書類を回収していた。葵が痺れビームを受けた際一度共鳴したのだが、守るべき誓い(以下略)のため、クリアレイを使用してもすぐにビームが飛んでくる。イコールいたちごっこ。なので今は共鳴を解き、とりあえずの分類として手書きのモノとそうで無いモノを分けていく。
 侘助も箱の対処より資料の確保を優先させた。従魔の撃退が先だが資料が破れては意味がないし、戦闘はまかせ今は足場を確保した方がいいだろう。とにもかくにも書類整理が出来なきゃ仕事にならないし。
 インスタントカメラで撮った写真を用意したマップに張り付けていき、8方位からの全体像、資料の整理状況を記録する。写真の中の散らかり具合と比較すれば整理進捗を把握出来る。
 整理はファイルを入れてきた段ボールをいくつか借り、その中に「重要判の押された物」「敵情報」「地域報告」「苦情」の順で分類していく。支部確認を重要視しておいた方がいいだろう。
『侘の二徹明けみたいな字だな』
 氷魚の言葉に侘助は書類を覗き込んだ。字なのか絵なのか偶然の産物なのか図りかねるものがそこに。
「ここまで読めなくはn」
『読めないよ』
「……いつも苦労を掛けるね氷魚」
 喰い気味に言われてはそう返すより他にない。とりあえず報告状況と報告者(管轄?)から解読しようと試みるが、字が前衛的過ぎてそれさえも分からない。とりあえず侘助が「不明」の箱に分けた所で、望月が足元の危険に備えフットガードを仲間に付与。
「今日は、足にも翼を備えましょう」
 望月は足だけでなく背にも翼を広げつつ、しかし飛ばずに床を歩いて落ちている資料を移動させる。とにかく今は足の踏み場の確保。破れたりしなければ、あとで整理すれば読める。
 こうして、背後の喧騒はともかく、資料整理は粛々と行われた。

●激しさを増す戦い
 千颯は飛んだ。目標は二階から落ちてくる書類の束。飛盾で受け止めた千颯の足に、すかさず一本の痺れビーム! 
 だが。
「あまーい!! この程度の痺れ! 俺ちゃん慣れてますから! 全然平気ですしおすし!」
 千颯は立った。胸さえ張った。白虎丸がぼそりと呟く。
『……嫁殿に5時間正座させられてれば耐性も付くでござろう……』
「ふっふっふ……そう! たかだか2時間程度の痺れなど……俺ちゃんにはそんなに効果無いのさ!」
『そんなにという事はそれなりにあるでござるか?』
「白虎ちゃん今日揚げ足とるの多くない?」
『いいから働けでござる』

 拓海は釣り上げた従魔を防疫ケブラーコートで包み、ヘヴィアタックを乗せた一撃をコートの上から叩き込んだ。手応えあり。いそいそと室外に移動し、コートの中の従魔の遺体を隅の方に寄せておく。
 葵は「完全世界」で反撃しながら足の痺れに耐えていた。先に述べたように守るべき誓いの効果が続いている限り、クリアレイと痺れビームのいたちごっこになってしまう。故に痺れビームと突撃する箱(の角)に耐え続けるより他にない。
「今回のミッション……魔術の構成の都合上これを使うしか無い様ですね」
 レインメイカーを仕舞い込み、代わりに一冊の宝典を掲げた菊次郎にテミス(aa0866hero001)は言い知れぬ悪寒を覚えた。極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』。色々すごい宝典だが、装備すると使用者のテンションがハイになる。
『……主よ、考え直せ。大体それで酷い目に遭って来たでは無いか(主に我が)……』
「……そうでしたっけ? まあ、何れにせよ貴重な資料が失われるのは許されざる事です。出来る限りの対応をする必要が有るでしょう」
『……』
 テミスの沈黙を遮るように、ニウェウスが葵(の足)を攻撃する奇箱共に幻影蝶を解き放った。ライヴスを奪われた箱達がぼろぼろと崩れて去っていき、光の蝶が姿を消した……その先にはフルオープンパージした千颯が!
『!? 待つでござる! 何故このタイミングで脱ぐでござるか!』
 白虎丸の言葉に千颯は腰に手を当てた。誇らしげに胸を張り、そして語る。
「そこに服があるからさ……」
『意味がわからないでござる! そんなのだから嫁殿に5時間説教されるでござるよ!』
「音弥ちゃんも一緒に脱ぐんだぜ! 疲れなんかも一緒に脱ぎ捨てるんだぜ!」
『他人を巻き込むのはやめるでござる!』
 
 従魔の猛攻を受け続け葵の意識は遠退いていた。生命力が地味に削がれているし、っていうかこれはまさに痺れと痺れの無限地獄。
 新たな痺れビームが葵の足に襲い掛かり、そして幾度目か分からない箱(の角)が突き刺さる! その衝撃に、葵の身体がふらりと傾ぎ、拓海が咄嗟に出したサスマターが葵の脇に差し込まれた。
「搬送を頼む……保険証は水色のカラーボックスの2段目に……(ガクッ)」
「葵、守れずスマン……」
 拓海は拳を握り締め、サスマターに支えられながら葵は意識を失った。スペースの確保を完了し、菊次郎は同時に時が来た事を悟る。掲げられた手の中には『アルスマギカ・リ・チューン』。
「おおおおお! マナの奔流が私をおお! くくく……覚悟して頂きましょう! 穢れしライブスの小鬼どもよ! 我が深遠なる秘術の肥やしとなり給え!」
 厨二的な台詞と共に重圧空間が展開された。「資料が酷い事にならないように」「戦場が外に広がらないように」、理由は至極真っ当だったが妙な暑苦しさも同時に放たれ体感温度が一度上がる。

●さらに激しさを増す戦い
 菊次郎の重圧空間で従魔が足止めされた隙に、拓海が葵を抱きかかえ室外へと連れ出した。これで葵(の足)がこれ以上狙われる事はなくなったが、守るべき誓いで攻撃を一手に受けていた生贄(いい意味で)がいなくなった。
 ということはつまり。
「はひぃぇぁあぁあ!?」
 突如襲い掛かった感覚にニウェウスは悲鳴を上げた。崩れ落ちた足を動かすだけで筆舌に屈し難い痺れが! 足を!
『やばい悲鳴でてるよマスタァー!』
「あわわわ何これ何これぇー!?」
『エグいって言った意味、分かっただろ……?』
 シリアス声でストゥルトゥスは言った。ニウェウスは涙目でめちゃくちゃ頷いた。一方、望月も死角から痺れビームの洗礼を受け、声にならない悲鳴を上げて床の上に崩れ落ちる。
「……! ……ッ!」
  
「この位の痛み……っぁあ……爺ちゃんの説教タイムを思い出す……」
 葵を寝かせ戻ってきた拓海は痺れビームのみならず、痺れアタックまで喰らいその場に崩れ落ちていた。視界の端ではビームを喰らった氷魚が「うぉぉぉ」と声を上げ、侘助はその場から動かなくなり生ける彫像と化している。
『説教タイムって他所様の家の屋根から屋根へ飛び歩いて叱られた件? 雀蜂の巣をふざけて壊し……』
「……集中させてくれ」
 メリッサの思い出話を、拓海は脂汗をお供に遮った。この痺れに今まで耐えていた葵に敬意を表したい。
 人生初の正座の痺れを体験したニウェウスは、バアル・ゼブブの戦旗を杖代わりに体を支えた。旗の部分は丸めて縛り、旗側を下にして滑り止めとして使用する。暗黒の力を纏う戦旗もまさかこんな使われ方をされるとは思っていなかっただろうが、背に腹は代えられない。転倒防止第一優先。
「とりあえず……作業スペース、作らないと、だね」
『仕分けて置く場所すらねーってのは、致命的ですハイ』
 ストゥルトゥスの声にニウェウスは膝をつこうとしたが、その視界に箱型従魔が映り込む。そして今気付いたが、足が痺れた状態では膝立ちするのも悲鳴もの! 仕方がないので杖で体を支えつつ終焉之書絶零断章を手に開き、直接的に従魔を凍結。箱が砕け散った隙に、拓海が崩れ落ちた姿勢のまま書類を横に寄せスペース確保。
 そこに佇む菊次郎。
「遠距離よりの攻撃を頼みます。ふふふ……括目せよ。我が魔術の真髄をとくと味わい消えるがいい!」
 ハイテンションの菊次郎からブルームフレアが炸裂された。妙な暑苦しさも同時に放たれ体感温度が二度上がる。

●もっと激しさを(以下省略)
 葵ははハッと目を覚ました。視線を向ければ見知らぬ天井。保険証の場所を口走ったような気がするが、どうやら自分は気を失っていたようである。
 閉じられた資料室の扉から喧噪が伝わってくる。まだ戦いは続いているようだと判断し、手首のノーシ「ウヴィーツァ」を確認した後、葵は慎重に扉を開け中の様子を伺った。
 そこでは。
「悪しき異界の者共よ! 時空の果てに去り給え!」
 菊次郎が妙なテンションの台詞と共にゴーストウィンドを巻き起こしていた。不浄なライヴスが従魔を襲い、妙な暑苦しさ(以下省略)。
 唖然としたまま視線を横に向けてみれば、ニウェウスが戦旗を杖代わりに震えた足で立っており。
「そっち、従魔いる……はびゃぁあぁあ!!」
 痺れビームを喰らったニウェウスから視線を外せば、拓海が上半身だけを駆使してすごいむとしりあみを振りかざし。
「よし、捕まえ……うぉーっ、プチッって言った。足元に虫が!」
 望月はニウェウスにクリアレイを飛ばした後、自身もビームの奇襲に遭い。
「今治しますよ。……ってビームがこっちに……! ……ッ!!」
 クリアレイを使い果たした喜久子は、アキトと共に書類回収の方に回り。
『きっこさん、これ読める?』
「読めないね。……いや、読めないな。解読不能な文字のモノは後日書いた者に解読してもらおう」
 侘助は床を転がっていた。同じくクリアレイは使いきってしまったし、痺れた足じゃ防御はともかく攻撃は心許ない。また、痺れた足で這って動くと紙を擦って破いてしまう危険性がある。
 なので転がって移動する。イメージするのは目的地まで転がり抜ける自分! ふざけている訳じゃない、真面目に徹夜明けテンションなだけだ!

 千颯は前線で戦っていた。従魔がいれば足場が崩れそうにない場所に突っ込み愛用の盾を振るい落とし、足の痺れに襲われる仲間がいれば清浄なライヴスを込めた上でフットガードを仲間の足へ。
「あ、やることはちゃんとやりますので俺ちゃん」
『当たり前でござる! あと服を着ろでござる!』
 白虎丸の叫びを受けながら、フルオープンパージの民は威風堂々立っていた。葵は思った。これはひどい。若干遠くなった葵の瞳に、最後の奇箱が爆散する様子が映った。

●落ち着いた書類整理
「敵の反応……なし。全部撃破出来たようね」
 ニウェウスは仲間達に伝えた後モスケールを仕舞い込んだ。それでは作業に集中、と書類整理に取り掛かる。
 スペースは粗方確保出来たので、まずは大雑把なカテゴリ分け。スペースがなくなれば確保して……を繰り返す。細分化するのは大雑把なカテゴリ分けが終わってからだ。
 拓海も共鳴を解除し、メリッサと手分けして書類整理に当たった。題名・通しナンバー無しは、筆跡・紙質・内容を手懸りに50音分け。取り出し易いよう箱に縦入れし、内容が飛んでいるなど半端な書類は互いに声を掛けあって探し、それでも不明なら写真データ化してパソコンの方に保存する。判り次第分類出来るように仮名付けをして……
「う、ちょっと疲れたな。時々ストレッチすると効率上がるよ」
『音弥さんもどうぞ』
 拓海は適宜周囲にストレッチを促し、メリッサは資料室外に用意していた目薬と冷えたお茶を配って回った。戦闘中静かになっていた音弥も、今は復活し作業しながらお茶を受け取る。
「すまない。ありがとう」
「こういう標本類は担当研究機関へ送付かな?」
「僕が持っていこう」
 支部職員である音弥に標本の類を預け、拓海は資料整理を再開した。望月も書類を大物から分け、細かい分類はわかる人に任せ、わかりやすい分類方法があれば従いながら作業していく。それは別にいいのだが。
「ただでさえ大変な資料の山が、さらに隅に寄せられてるんだけど」
『さっき自分でやってたよ』
 こんもりとした書類を前にする望月に百薬がすかさず突っ込んだ。ちまちま作業しなくても、全部スキャンして自炊すれば……
「ってそれもまず分類できないとダメか」
 正直言って面倒臭いが働かなければ終わらない。仕事した後に食べる美味しいご飯を励みに、書類整理、がんばろう。

 菊次郎はすっかり冷静に戻っていた。
 先程と同じように失われそうな資料は写真でバックアップを取る。また回収中にもざっと目を通してどんな内容か頭に入れる。把握した内容を考えて整理の大項目を書き出し、出来れば現場の報告は事件ごとに整理。二次資料は大項目を決めたら時系列で整理。
『主よ……やはりアレは外道の書……まだ頭が……』
 テミスが頭を押さえながら痛々し気な声を上げた。決して二日酔いではないが、ある意味それ以上に酷い目に遭ったテミスに、しかし菊次郎は表情さえ変えずに告げる。
「貴重な資料を守るため、適切な対応を取ったまでです」
『……』
 テミスは沈黙した。だが仕方ない。『アルスマギカ・リ・チューン』は装備すると使用者のテンションがハイになる。しかたない。

 葵は書類を拾って表裏を揃え、多少拾ったところでウェルラスに手渡した。両面記入がある場合は記載内容で判断し、内容が判別不可な場合は記載密度が濃い方を表と判断する。
「これも印がないな」
 ウェルラスが書類をトントンと揃える音を聞きながら、葵はメモ帳に書類日付を書き込んだ。調べているのは支部長印の有無。見た所ここ数か月分の書類にはないようだが……。支部長印がある書類は印影をスマートフォンで撮影する。手が空いた仲間にも声をかけ、支部長印の有無と日付確認の協力を乞うておこう。
「そうだ、あいつに連絡しておかないと」
 実は葵は先程気絶する直前、スマホで今ギアナ支部内に居るはずの従妹に連絡していたのだ。搬送を頼んだ相手は彼女である。一応繋がっていたようなので、以前遭遇した箱型従魔の事件とは違い、機器類動作に問題はなさそうだが……
 いずれにせよ、先程の説明はするべきだし、回復してもらったから搬送の必要はないと言っておかなければならないし、箱型従魔の出現を従妹へ伝える必要がある。実物を掴めなかった上に残骸も塵に還ってしまい、感触を確認出来なかったのは残念だが……
 とりあえずキリがいい所で手を休め、葵はスマホの通話を入れた。
 
 ウェルラスはファイルを抱え資料室の扉を開けた。葵が支部長印確認を始めたので手持無沙汰になってしまった。この間にダメになった破損書類を集めておこうか。それが終わったら修繕・解読を試みて、さらにそれが終わったら清書をして原本の保存を……
 と考えていた所で、破損書類を集め、修復を試みていた侘助と氷魚が目に入った。
『書類修繕ですか?』
『あんたもやる?』
「ウェルラスさん、よければお手伝いお願いします」
 氷魚と侘助の返事を受け、ウェルラスも椅子に腰掛ける。出来る限りの修復をし、出来なければ端に目印を書いて、揃えて丁寧に一か所へ集めて寄せておく。
『アイス食べたい』
 ぼそりと氷魚が呟いた。手伝いも補佐もやるのは構わないのだが、なんだかんだ言って暑いし、疲れは溜まってくるし。だが、今のギアナ支部に多分アイスはないだろう。
 いつも苦労を掛けるね、と先程言ったばかりでもあるし……侘助は日頃の労いもしてあげようと思いつつ、「帰ったら食べようね」と相棒に伝えてやった。

●おわりとはじまり
 拓海とメリッサはぐったりしていた。ニウェウスに指示を貰いながら細かい分類まで行い、データ化したものはパソコンに保存。さらに「支部全体の元々の気質と現在の混乱で仕事の手分けが不明確な結果、現状に至った」と推測を立て、同じ状態を繰り返さぬため「1階2階で未分類・分類済書類の置き場分けをする」「専任者を決め片付けて貰う」と音弥を通して支部に提案。
 またさらに余力があったのでメリッサが掃除、拓海がエアコン修理を行い、鼠にかじられた配線とダクト詰まりを直し……結果。
「『今回、凄く働いた気がする……』」
「みんな、本当にありがとう。おかげで非常に助かった!」
 音弥からの感謝の言葉に拓海とメリッサは首を動かし、エージェント達もそれぞれに反応を示した……所である事に気が付いた。千颯と白虎丸の姿がない。つい先程まで一緒に書類整理をしていたはずだが……だがその疑問は即座に音弥が解消する。
「なんでも元気が有り余っているから、残って手伝ってくれるそうだ。すごいなぁ。僕も見習わなければ!」
 音弥はまっすぐな瞳でぐっと拳を握り締めた。その瞳には一点の疑念も曇りも見られなかった。

 千颯は会議室にいた。音弥が頼んだ書類の整理は終わったが、なんでも今から事件に関する書類の整理が始まるらしく、それを聞いた白虎丸は一も二もなく手を挙げた。『ここにいる千颯が手伝うでござる』。
「白虎ちゃん、俺ちゃんだって帰りたい……」
『キビキビ働けでござる!』
「ぎゃー!」
 かくして千颯限定、書類整理第二ラウンド、はじまりはじまり。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • エージェント
    千良 侘助aa3782
    獣人|27才|男性|回避
  • エージェント
    氷魚aa3782hero001
    英雄|18才|男性|バト
  • エージェント
    美咲 喜久子aa4759
    人間|22才|女性|生命
  • エージェント
    アキトaa4759hero001
    英雄|20才|男性|バト
前に戻る
ページトップへ戻る