本部

リゾートへ……

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
3日
完成日
2017/08/21 19:25

掲示板

オープニング

 夏である。人によっては夏休みという長期休暇を取って、日常の疲れをリフレッシュする旅に出ることもある。
 H.O.P.E.エージェントは基本的にいつ任務が入るかわからないような立場なのだが、気を張り詰めすぎていてはいざというとき充分に力を発揮できない。また、エージェント達の健やかな暮らしを守るのもH.O.P.E.の役目である。
 そんなわけで、支部がある地域には必ず複数の『保養所』と言えるような専用の宿泊施設を用意している。さすがに一頃のバブル期のように完全貸しきりとはいかず優先的に宿泊利用できるというだけなのだが、何しろ格安で利用できる綺麗な施設なので、エージェント達には好評だ。
 現在利用できるのは、支部のあるS市から車で一時間半ほどの場所にある施設だ。一泊二日で、最大十六人まで宿泊できるという。修学旅行で使うような大部屋はないが、部屋割りは融通できる。施設の客室はすべて、四人まで泊まれる部屋だ。もちろん、一部屋に何人泊まるかは各自相談の上決定してOKだ。風呂は温泉である。
 食事は一階のレストランを利用できる。和洋中のメニューがあり、朝食はビュッフェ形式。もちろんレストランを利用せず、外にある飲食店を利用することも可能だ。外には、名物のザリガニ料理、鹿肉料理など珍しい食材を使った店がある。
 大きな湖が名所となっている場所なので、遊覧船に乗ったり周りをレンタサイクルで散策したりすることができる。お土産屋さんも多い。
 日常の忙しさを忘れ、自然の中でリフレッシュしてはいかがだろうか?

解説

●目的
 リゾートでバカンスします。
●施設
 車で一時間半ほどの場所にある施設。一泊二日で、最大十六人まで宿泊できる。修学旅行で使うような大部屋はないが、部屋割りは融通できる。施設の客室はすべて、四人まで泊まれる部屋。一部屋に何人泊まるかは各自相談の上決定してOK。風呂は温泉。
 食事は一階のレストランを利用できる。和洋中のメニューがあり、朝食はビュッフェ形式。もちろんレストランを利用せず、外にある飲食店を利用することも可能。外には、名物のザリガニ料理、鹿肉料理など珍しい食材を使った店がある。
●周辺
 大きな湖が名所となっている場所なので、遊覧船に乗ったり周りをレンタサイクルで散策したりすることができる。お土産屋さんも多い。

リプレイ

●くつろぎのリゾート
「此処まで厚生施設が整っているとは意外だったな」
「H.O.P.E.ってお仕事を斡旋してくれるだけじゃないんだね」
 御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)は、到着した施設のエントランスで一息ついていた。H.O.P.E.の保養所は、なかなかセンスのあるしゃれた建物だ。隠れ家的リゾートホテルといった趣だった。
 恭也は赤城 龍哉(aa0090)と、伊邪那美はヴァルトラウテ(aa0090hero001)と、男女別で相部屋に泊まることにしていた。部屋が充分あるので一人一部屋でもいいよと言われたが、さすがに遠慮する気持ちがあったのと、一人でぽつーんと泊まっても寂しいからというのが理由だ。夜の寝る前のひとときで思わぬ会話が弾み、親睦が深まることもあるのだ。
 宿泊の手続きを済ませ、施設内と部屋の簡単な説明を受けた後、四人で部屋へと向かう。
「休暇だからと言って、燥いで人様に迷惑を掛けるんじゃないぞ」
 恭也は伊邪那美の背中に声をかける。
「あのね……ボクってそんなに信用無い?」
「こっちの世界の生活に慣れて奇行に走らなくなったとは言え、遊びになったら羽目を外し過ぎそうなんでな」
「む、昔の事は忘れてよ~」
「冗談だ。まぁ、前と同じ様に電化製品を破壊したらお前に弁償させるがな」
 電化製品は弁償となるととんでもない金額になる。北海道弁で言うと「なまら高い」。伊邪那美はひぃぃぃとなり、ヴァルトラウテが苦笑しつつフォローした。
「大丈夫ですよ」
「ならいいが」
 そんなことを言っている間に、部屋の前に到着する。男女に分かれて、それぞれの部屋に入って……。
「おー!」
 龍哉が歓声を上げた。
 部屋のしつらえは、和洋室。ベッドが二つと、蒲団を二人分敷くことのできる畳のスペース。ドリンクを作れるちょっとしたカウンターと、鏡台。トイレとシャワースペースは別々になっている。洗面所も別なので、朝の支度の時などに誰かがトイレ及びシャワーをすませるまで顔を洗えないという悲劇に見舞われることはない。ワンダフル。
「こんな四人部屋を個室扱いってのは、結構な贅沢と言うか無駄に広いな」
「本当だな」
 男性二人だし両方とも体格がいい方なのだが、それでも広々して感じられるほどの部屋だった。
 荷物を置いて少し休んだあと、各々でリゾートでの休暇を満喫することにする。女性二人は温泉へ行くというので、龍哉は散歩、恭也は湖で釣りをするというプランを立てた。龍哉は朝と夜にいい感じの鍛錬ができる場所を探す目的もあるのだ。恭也も鍛錬はきちんとするが、せっかくこんないいところまで来たのでリフレッシュに専念することにした。
「怠け癖が付くよりはマシですが、もう少し他に何かあっても良いと思いますわ」
 再び廊下で一度合流したあと、龍哉の予定を聞いたヴァルトラウテはやや呆れていた。
「俺が楽しめてりゃ、こういうのは勝ちだと思ってる」
 まあそれも一理ある。ヴァルトラウテは肩をすくめ、伊邪那美と一緒に大浴場へ向かった。ちなみに、きっちり男女別になっている。
 貸しボートの小屋付近で恭也と分かれた龍哉は、軽く走りながら周辺を見て回っていた。完全にロードワークである。湖の周りにはお土産屋さんと飲食店が並んでいるが、その界隈を抜けると林に囲まれた遊歩道になっている。途中の地図によれば、先へ進むとちょっとした広場があるようだった。早速そちらへ向かうと、五分ほどで開けた場所に出た。
 周辺には建物もないし、下は芝生でなかなか気持ちがいい。ちょうど観光客達が散策に出歩く時間帯だが、それでも人の姿はまばらだ。朝早い時間なら無人かもしれない。
 こんなに早くいい鍛錬場所が見つかったことに満足して、龍哉はロードワークを再開した。自然の多い場所だと、尚一層心地よかった。
 さて、温泉を楽しんだ伊邪那美は、ヴァルトラウテと一緒に遊覧船に乗った。湖の底が見える特殊な作りだったり、船の上で風に吹かれたりしてのんびり周遊し、一時間ほどでもとの乗船場に戻ってくる。
 ヴァルトラウテは龍哉を探しに行くというので、そこで別行動となった。周辺……といっても一番近い街まで相当遠かったので、レンタサイクルを利用して近隣をサイクリングすることにした。
「んー、気持ちいい!」
 爽やかな風が吹く林の中を、自転車でゆっくり進んでいく。最高だ。音無 桜狐(aa3177)と猫柳 千佳(aa3177hero001)が仲良く散歩しているのとすれ違い、手を振って挨拶する。みんなそれぞれにリゾートを楽しんでいるようだ。
「さて、そろそろお昼ご飯かな」
 昼食は、各々でとろうということになっている。施設にもレストランがあったが、せっかくなので名物をいろいろ見て回るのもいいかと思う。
「お、ザリガニ料理かぁ」
 一件の食堂の看板と幟が目に入る。そういえば鹿とザリガニが名物料理ということだった。メニューの写真はけっこうなボリュームがありそうだったので、夕食に恭也と一緒に来てみようか。
 気候がいいので、けっこう汗ばんだ。保養所に戻った伊邪那美は、もう一度温泉へ入りにいった。一日に一度ではもったいない。
 一方、桜狐と千佳は、伊邪那美とすれ違ったあともゆっくりと散策を続けていた。レンタサイクルも魅力的だったが、桜狐が自転車に乗れないので徒歩となった。己の二本の足で歩くのもなかなか乙なものである。
「……何か実は敵が出るとかそういう話かと思うたが……違うようじゃの……。……一安心なのじゃ……」
「うー、信用されてないにゃー」
 戦うことが多いエージェントだが、のんびりできる日だってちゃんとあるのだ。
「……わしはずっと温泉に入っていたいのじゃが……ぬぁー……」
「お風呂は汗かいてからの方が気持ちいいにゃよ♪ お散歩行くにゃー♪」
 という流れで、着いた早々散歩に出てきたのだが、天気はいいし暑すぎず寒すぎず、歩き回るには最高だ。なぜかここまできてロードワークをしているらしい龍哉とか、船で釣りをしてきて船着き場に戻ってきた恭也を目撃しつつ、お土産屋さんを覗いたりしながらたっぷり時間をかけて見物していると、お腹が空いてくる。ちょうどお昼の時間だった。
 名物である鹿肉料理を食べることにして、幟を掲げていた店に入る。こぢんまりとして雰囲気のいい店内に、肉を焼くいい匂いが充満している。ますますお腹が鳴った。
 温泉を後回しにさせてしまったこともあり、千佳が奢ることにすると言った途端、桜狐の目の色が変わった。「きらーん」という効果音が聞こえそうなくらい。
「……奢りなら遠慮せず全力で食べさせて貰うのじゃ……。……手加減無用じゃて……」
 メニューを開き、ものすごい勢いで注文していく桜狐。鹿肉のジンギスカン、どんぶり、ステーキ、赤ワイン煮込み、サンドイッチ、ハンバーグ、パスタ等々……。
「にゃにゃ!? 手加減して欲しいにゃー!?」
 店員さんも唖然としていたが、頼んだ料理はやがて次々と運ばれてきた。鹿肉は少し臭みがあるが、きちんと下処理をしておけばまったく気にならない。鉄分が豊富なのにヘルシーで、こくがありおいしい。北海道弁で言うと「なまらうまい」。牛肉ほどの押しの強さはなく、鶏肉ほど淡泊ではなく、豚肉よりも味わい深い。そんな感じの肉だ。
 なかなか普段食べられない料理を、千佳も桜狐に負けずにしっかりと堪能した。
 別の鹿肉料理店では、若葉マーク付きマイカーでなんとか迷わず到着した狒村 緋十郎(aa3678)とレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が食事をしていた。名物なので、何軒も鹿料理の店があるのだが、少しずつメニューが違っている。鹿肉を三種類の調理法で仕上げた丼が一押しだというので、迷わず注文した。
 緋十郎は山奥の猿獣人の隠れ里の生まれだ。故郷は二十年前、レミアと出会うよりもずっと前に従魔に滅ぼされ、彼が唯一の生き残り。以来二十年間、レミアと出会うまで山奥で一人隠匿生活を続けていた。鹿肉は故郷で自ら鹿を狩り、調理していた懐かしい故郷の味でもある。今はもういない同胞達を懐かしく思い出しながら、少し感傷に耽りつつも美味しく頂いている。
「なかなかのものね」
 レミアは上品に量はちょっぴりだが、料理は綺麗に平らげた。生命維持に必要なのは食べ物ではないので、食事は趣味の範疇なのだ。しかし美味しいものは美味しい。
 楽しい時間は、それぞれに過ぎていった。

●温泉
 このリゾート地では、温泉もまた人々を喜ばせる大事な要素である。御手洗 光(aa0114)、マリナ・マトリックス(aa0114hero002)、天之川・希望(aa2199)、そしてアニマ(aa2199hero001)は、割り当てられた部屋に荷物を運び込むと早速温泉へ向かった。ちなみに四人一部屋である。
「温泉! いいですね温泉! 光さんもマリナさんもアニマも肩凝ってそうですし! いえいえ、ボクだって日頃ネトゲ三昧で肩は凝ってるんですけどね? 日頃お世話になってますから、今回は感謝の気持ちを込めて恩返しー、みたいな?」
 事情を知らない人から見たら何を言っているんだという感じだが、光、マリナ、アニマはいわゆる「きょぬー」なので、実際慢性的に肩凝りしているのである。希望はそういう原因での肩凝りはしないのだが、日本人なら様々な原因で大半の人は肩凝りに悩まされるらしい。
「それからまぁ、その、旅はイベントがつきものですから。光さんと、なにかいいことあるかなってはちょっぴり……」
 そんな希望の呟きは、三人でわいわい盛り上がる女性達には届かなかった。
「温泉っ♪ 温泉っ♪ みんなでお泊まりです〜♪ 入浴剤じゃない温泉は初めてです〜! お風呂も大きいんですよね〜? 泳いじゃったりしてもいいんでしょうか〜?」
「お風呂はプールじゃないから泳いじゃダメなんですっ! 小学生ですかっ!?」
 希望はツッコミながらも、微笑ましくアニマを見つめている。
 大浴場は男女が別れているが、家族風呂も用意されていた。利用している人がいなかったので、使わせてもらうことにする。けっこうな広さがあって、四人だとかなりゆったりだった。
「本当に楽しいことになりそうですわ、うふふふふっ♪」
「これもまた神の思し召しですわ」
 光とマリナは、混浴だったときのために水着を用意してきていた。希望もアニマも水着を着て、浴室に入る。
「アニマ、背中流してあげます。ほら、じっとしてて!」
「ひゃんっ! くすぐったいですよ〜♪」
 初温泉なのでいつも以上に童心にかえるアニマ。手のかかる妹を面倒見るように、希望はかいがいしく温泉マナーも教えつつ身体を洗い終える。
「じゃぶじゃぶざぶーん! きゃっきゃっ!」
 本当に泳ぎ出しそうだったので、希望はしっかりとアニマを捕まえて湯船に浸からなければならなかった。気持ちはわかる。わかるが、温泉はプールではない。
「ふぁぁ〜……沁みますねぇ〜……♪」
 幸い、しばらく入っているうちにアニマはまったりと大人しくなった。
「おうちにも温泉欲しいな〜。希望さん、このお湯持って帰れませんか〜?」
「いやいやお湯にも鮮度がありますから! ……そんなに気に入ってくれたなら、また連れてきてあげますっ」
「はい〜! じゃあ、約束、ですね〜♪」
 何だかほのぼのとした気分で浸かっていると、光とマリナも湯船へやってきた。
「……壮観ですね。グレートです。光さんもスゴイと思ってましたけど、マリナさんも……ゴクリ」
 直視は失礼になると理性は訴えるのだが、どうしても目を惹かれてしまうのが悲しい性。割られているお湯の表面積が半端ない。半端ないからしかたがない。
「はぁ~……とっても気持ちが良いですね、アニマさん」
「そうですね~」
 どちらかというと天然なマリナとアニマは、ほのぼのと話している。話しているが、やっぱり割られているお湯の表面積半端ない。
「希望さん。ほら、わたくしが洗って差し上げますわ♪」
「え、え? や、さっき洗っちゃいましたしっ!」
 いろいろ期待と妄想を膨らませつつ、それが現実になるとあわててしまうのが人というものである。しかも光は、「むしろ見ろ!!!!!!!!!」という勢いで絡みついてくるものだから大変だ。
「わーっ!」
「うふふふふっ♪」
 結局、勢いに圧倒されてしまった希望であった。
 一方女湯では、千佳と桜狐が入浴している。
「……ふぅ、やっとゆっくり出来るのじゃ……。……出来れば此処で夕飯を食べたいくらいじゃのぉ……」
 ご飯まで絶対に出ないという固い決意でゆっくり浸かる桜狐。
「……はふぅ、このまま温泉で寝たらダメかのぉ……」
「桜狐は温泉入り過ぎにゃ」
 千佳ももちろん温泉が嫌いなわけではないのだが、長風呂という次元を超越してしまった相方に追いすがることができず……平たく言えばのぼせてしまったので、ある程度で切り上げることにした。夕食は保養所内のレストランで取ることにし、時間と集合場所を決めておく。
 さっぱり浴衣に着替えたあとは、牛乳を一杯。日本人の心意気。一休みして汗が引いたところで、お宿の中を見て回ることにした。一般のお客さんが使うことのない施設だが、ちょっとしたお土産は置いてあるし、温泉の定番マッサージチェアなども用意されていた。レストランの他に喫茶室もあったので、甘いものとコーヒーなどを楽しんでみる。
 実にのんびりと、充実した時間だ。

●夜
「あら、桜狐。貴女達もいるとは奇遇ですわね♪」
 夕食直前、ようやく風呂から出る決意をした桜狐は、光達四人とばったり出会った。同じ施設内にいてもなかなか偶然会うことはないものだ。
 聞いてみると、これからレストランで夕食だという。それならということで、連れ立ってぞろぞろレストランへ向かった。
 千佳は一足先に入り口前で待っていた。テーブルを一つにくっつけて食べるようなことは内装の関係で無理だったので、近くのテーブル席に着く。
 夕食は、和洋中の豊富なメニューが取りそろえられている。いろいろ注文して、ちょっとずつシェアする感じで和気藹々と食事は進んだ。
「にゃ、桜狐はこれが好きじゃないにゃ? あげるのにゃー♪」
「……ならばこっちを千佳にやるのじゃ……。……別に嫌いな物だからではないぞ……?」
 いい料理人が揃っているようで、どれもとても美味しい料理だった。
 さて、この地には鹿肉の他にザリガニ料理というちょっと珍しい名物がある。日本人にとってザリガニは小学生の時などに学校で飼育したりするイメージで、食用と聞いてもぴんと来ない人の方が多いだろう。だが、なんと伊勢海老のように美味らしい。一度にたくさん収穫することも可能で、料理のバリエーションも豊富だ。
 昼は鹿肉を堪能した龍哉、ヴァルトラウテ、恭也、伊邪那美は、夕食ではザリガニ料理に挑戦していた。
 そう、ちょっとした挑戦だったのだ。人間、長年のイメージを変えるのは大変なのである。
「ザリガニか……」
「うん? どうかしたの? ボクは美味しいと思ったけど恭也は苦手?」
「いや、美味いんだが昔、ザリガニを取って来た記憶がな……」
「あ~、飼っていたから気が進まない感じ」
「いや、死なせてしまった後の臭いが……」
 何だか悲しい思い出まで蘇ってしまった。
 とはいえ、実際ザリガニは美味しかった。はさみがついているのだが、それに慣れてしまえばだいたい海老である。シンプルに塩ゆでしたものは海老と同じで殻をむいて食べるのだが、意外に身が小さくてびっくりする。だが、ミソも美味しいし海老より歯ごたえがしっかりしていてくせになる。他、パエリアやサラダ、パスタ、ちょっとオシャレにビスクやアヒージョなど、店によってもいろいろあるらしい。
「他にもいろいろ食べてみたいな」
 龍哉はすっかり慣れた手つきで、ザリガニの殻をむいている。ヴァルトラウテも黙々と食べていた。よほど美味しかったらしい。
 恭也も、思い出を断ち切ってしまえばその美味に浸ることができるようなった。皿が空になる頃には、他にもいろいろ食べてみたいと思うほどに。
 レミアと緋十郎も夕食はザリガニだったが、龍哉達四人とは別な洋食系の店だった。緋十郎に食べ方を聞きながら、新しい体験として楽しみつつ食事を終えた。
 食後、二人は家族風呂を借りて一緒に入った。
 現在、とあるエージェントの営む某県廃旅館に間借りさせて貰い居住しているので温泉自体は毎日入っているのだが、やはり場所が変われば泉質も違うし気分も違う。緋十郎は、その旅館では温泉の掃除を日課としており、今日もついそのくせが出てしまう。
「む……此処の温泉も、なかなか掃除が行き届いているな……見事な磨き上げだ」
「今日くらい仕事目線は忘れなさいよ」
 などと、レミアに窘められる。真面目なのはいいことだが、休みと仕事はきっちり分けた方が精神衛生上よろしいのだ。
 就寝前、レミアは日課の吸血を行った。相手はもちろん、緋十郎だ。
 レミアにとって食事はあくまで趣味で、生命維持に不可欠なのは血なのだ。緋十郎の首筋にかぶりつき牙を突き立て血を啜る。
 緋十郎は愛しい主に与えられる痛みが嬉しく心地良く、レミアの糧になれることも本望。レミアは彼を支配していることが実感できて嬉しく、彼の血は温かくて甘くて美味しいので夢中で啜る。
 様々な一日を夢に溶かし、夜は更けていく。

●そして、朝
「はぁ……やっぱり温泉は良いね~。家の庭から温泉が湧き出れば、毎日入れて最高なんだけどな~」
 朝早く、伊邪那美はヴァルトラウテも誘って大浴場へ入った。朝風呂は最高の贅沢である。アニマ、光、マリナ、千佳と桜狐もやってきたので、わいわい盛り上がりながらゆっくり浸かる。お湯は熱いのに、早朝の風呂はなぜか爽やかさの方が強く感じられる気がする。
 恭也と龍哉は、何と五時起きで早朝鍛錬をしていた。龍哉に至っては昨夜二十二時頃までランニングや型の鍛錬をしていたのに、元気いっぱいである。互いに軽くアップしたあと、実践形式の手合わせ訓練を行う。しばらくそうして汗だくになったので、七時前には保養所に戻り温泉で汗を流した。
「やっぱ鍛錬の後の風呂は良いな。温泉なら尚更だ」
「そうだな」
 今回はどちらかというと女性の方が多いので、男湯は空いていた。武術談義や先ほどの鍛錬の話題で盛り上がりつつゆっくり温泉を楽しみ、部屋へ戻る。
 朝食は、レストランでのビュッフェだ。緋十郎は大盛りのご飯にソーセージやらベーコンやら卵やら蛋白質派。味噌汁と納豆も欠かせない。レミアはトマトジュースのみで、緋十郎がたくさん食べる姿微笑ましく見ている。
 七時前後くらいから三々五々他のメンバーもレストランへやってきて、朝食をとり始める。なかなか種類が豊富で、どれも美味しそうだった。パン、ご飯、麺類、コーフレークやグラノーラまである。
 食べる料理や量はばらばらだが、各々しっかりお腹を満たして、チェックアウトの時間まで部屋で休む者、お土産を買いにいく者、それぞれ好きなように過ごす。
「なんだかんだで相棒との仲が深まった旅行になった気がします。望んでた結果ではないけどこれはこれで」
 希望はアニマのために「天然温泉の素」をお土産で購入した。温泉で作っている温泉の素はハイクオリティである。値段もそれなりだが、これで家の風呂でもアニマが楽しんでくれればいいと思う。
「う~ん、どうしようかな……食べ物にするか置物にするか迷うな~」
 伊邪那美は、棚の前を行ったり来たりしている。置物は記念になるが、かさばるし相手の好みでなかった場合気まずい。食べ物はすぐに会えない相手だった場合は賞味期限に気を遣う。悩みどころではあるが、こういう悩みも旅の醍醐味である。
「思いの外良い所だったな。さすがにそう設えただけはあるって感じだぜ」
「冬島とはまた違った趣がありましたわね」
 龍哉とヴァルトラウテは、所属チームの面々のためにお土産選びだ。
「定番品が一番無難か……ちょいと変わり種で行くか」
「温泉饅頭を押さえて、後何か他に一品で良いのではないかしら」
 誰にあげてもだいたい喜ばれるのが温泉饅頭である。それを食べながら、旅先の思い出話にも花が咲く。同じ箱からみんなで饅頭をつまむのは楽しい。
 そんなこんなでやがて、全員チェックアウトしていく。お土産の袋と荷物、笑顔と楽しい記憶を持って。
 レミアと緋十郎は、他のメンバーがだいたい保養所を発っていったころ、レンタサイクルで保養所へ戻ってきた。朝食のあと、自転車で散策としゃれ込んでいたのだ。マイカーなので時間に余裕がある。ぎりぎりまで楽しみたかったのだ。
「なかなかよかったわね」
「また来たいな……」
 土産を買って、車に荷物を積み込む。ちょっと寂しい気持ちがするのは、とても楽しかったという事実の裏返し。
 名残惜しさを噛みしめて、エンジンをかける。車はゆっくりと走り出す。
 道の先には、家と日常が待っている。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • あざと可愛いタマ取り
    天之川・希望aa2199
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エロ魔神
    御手洗 光aa0114
    機械|20才|女性|防御
  • 天然エルフ
    マリナ・マトリックスaa0114hero002
    英雄|22才|女性|ソフィ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • あざと可愛いタマ取り
    天之川・希望aa2199
    人間|17才|?|命中
  • ましゅまろおっぱい
    アニマaa2199hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る