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WD~その覚悟を問う~
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最終発言2017/08/01 17:12:52 -
【相談卓】ゲームに勝利せよ!
最終発言2017/08/01 18:29:45
オープニング
● 闇のゲームをしよう
君たちは冷たい風を頬で感じて目を覚ます。
初夏にはありえない湿った風。そして土の香り。
それが指し示す状況を君たちは一瞬で理解することになる。
地下だった。
君たちはコンクリートで四方を覆った謎の部屋に詰め込まれていた。。
なおかつ硬い椅子に縛り付けられており、その椅子の上で固定されている、鎖とベルトでがっちり体が固定され、自由に動かせるのは首と指先だけ。
もはや何が何だか分からない君たちはじたばたともがき、苦しむことだろう。
そんなリンカー全員が目覚めた時、部屋の中央にあるモニターに映像が灯された。
そこには真っ白な仮面をかぶった男が映し出され、君たちに状況を告げてくる、極めて簡素な言葉で、極めて落ち着き払った言葉で。
その男は言った。これから全員が生きては返れないゲームを行ってもらうと。
こちらの目的は、自分が生きるために誰かを犠牲にしたという意識をお前たちに植え付けるための行動だと。
男は語った。
「まずは、ゲームで使うアイテムを紹介しよう」
そうして彼は、左手首のバングル。右手首のあたりに括り付けられているコントローラーを示して告げる。
コントローラーは投票装置。
自分だけに見える小さなディスプレイがついていて。そこに全員の名前が表示されている。
その中から一人を選択して投票することによって。
その人を助けることができる。
そんなゲームだと。
「ただし、ゲームというからには全員が助かるわけではありません」
そう告げて、男はさらに細かいルール説明に入って行った。
● 脱出ゲームのルール説明。
ゲームは下記の手順で行われます。
1 一人五分程度、生きなければならない理由をみんなに訴えかけてください。
2 投票タイムがやってきたならこのメンバーの中で自分以外の誰かを選んでください。投票数が八割超えた人間が解放されます。
3 解放された人間はこの部屋から出るか、誰か一人を助けることを選択してください。
助ける場合は、左手のバングルを助けたい人の椅子にかざしてください。するとその人間が解放されます。これは自分の『命の価値』の回数だけ行うことができます。
大抵の場合、あなたの命の価値は一です。
この数字は〇になることがあり、〇になると。あなたが死にます。
この数字を確認する方法はありません。
つまり、バングルの効果で誰かを救っても、あなたが死ぬ可能性があります。
4 そして一番重要なルール。繋がれた人間の数はカウントされており、一定数を下回るとこの部屋全体がロックされ毒ガスが流れ始めて全員が死にます。
そして最後に注意点。
注意 もうお気づきかと思いますが、あなたと契約している能力者、もしくは英雄の姿がここにはありません、彼らは人質で命一つ分です。
契約している英雄、もしくは能力者の命を一つ差し出せば、ここに座っている誰かの命を一つ余分に救うことができます。
その説明を一通り聞いて春香が叫んだ。
「こんな、命を弄ぶようなことして!」
その言葉に仮面の男は淡々と言葉を返す。
「命を弄んでいるのはあなたですよ。春香。他の人もです」
男は告げる。
「命の重みを考えたことがありますか? やすやすと自分の命を捧げ誰かの命を救うと口にしたことがある者は、きっと命の重みを考えたことがないのでしょう。」
● 裏側
そのコンクリートでうちつけられた部屋というのは実は西大寺邸のガレージで。そこを改装したお部屋だった。
一行は西大寺邸リビングにて事の次第を見守っている。
その部屋の中央に座っているのはerisu。この茶番の仕掛け人である遙華はお仕事で席を外していた。
いや直視できないのかもしれない、こんな野蛮なことを自分が仕掛けた、それが直視で着ないのだとしたら、それはとんでもない覚悟不足だ。
春香に怒られるかもしれない。
「これから、戦うのは。人外の理を持ってる、本当のあくまよ」
やんわりした口調で、熱に浮かされたようにぽわぽわとerisuは告げる。しかし。
erisuの言葉には芯があった。
「こういうこともあるかもしれない。の。らら。それに」
erisuは皆を見渡してさらに告げる。
「自分の大切な人を一番優先したいと思うことは素敵なこと。だから。私はここで自分の命を大切にできる人が一番カッコいいと思うの」
全員がerisuを複雑な表情で見つめる。
事の発端は少し前に遡る。
春香と遙華のやり取りからこれは始まった。
春香は突然言い出したのだ。
ガデンツァの懐に潜り込むために、自身の体内に情報端末を埋め込んだうえで、ガデンツァに捕まりたいという無茶苦茶なことを。
「冗談を言うのはやめて!!」
遙華は叫んだ。
本当はその前にいくらかやり取りがあったのだ。女の子が肌に傷をつけちゃいけないわ。とか。法律で禁止されてるのよ。とか。
私は友達にそんなことできない。とか。
でも春香は引き下がらなかった。まるで自分が犠牲になればガデンツァを倒せるとでも言わんばかりに食い下がる。
だから遙華は春香に怒鳴ってしまったのだ。
「あなたの英雄願望なって知らないわ、私はそんなことしない」
「だったら遙華は、今この瞬間も、犠牲になり続けてる誰かの事を放っておけっていうの?」
「それは……」
「私が助けられるなら、みんな助けたい。助けたいんだよ! 何でその気持ちもわかってくれないの?」
その日から春香と遙華は口をきいていない。
表向きの原因は遙華が春香を殴ってしまったからだった、グーで春香を吹っ飛ばしたらしい。
でも本当の理由は、もうケンカしたくないからだろう。
口を開けばたぶん、終わっていないこの問題を蒸し返してしまう気がするから。
だから遙華はこんな無茶苦茶な場面を用意した。
自分の命より優先するべきものなんてない。
あったとしてもそれはきっと手の届く範囲の人間のために優先すべきであって。名前も知らない誰かのために命を投げ出すなんて間違ってる。
そう伝えたかったから。
解説
目標 このゲームに勝利すること。~~下記PL情報~~
まずこのゲーム、本当に犠牲者が出るわけではないので安心してください。
では次に具体的な解説にうつっていきますね。
このゲーム。参加できるのは、リンカーか能力者どちらか片方とします。
参加しなかった残り片方はモニターからゲーム会場を確認できます。
皆さんは基本的には、いきたい理由を強く訴えて生き残るように頑張ってみてください。
ただ、やはりルールが存在すれば生じるのがゲーム要素。ちょちょいと周囲の裏をかいて生き残ろうとする人も出るでしょうか。
そこは好きにプレイイングをかいてみてください。
単純に残酷なゲームを楽しんでもいいですし。自分の旨のうちをさらけ出すお話としていただいてもいいです。
こちらのゲーム終了条件ですが三つあります。
1 投票数が全員1となった場合。
2 バングルの数字以上に、誰かを助けようとする者二人以上現れた場合。
3 シークレット
ではでは、
~~~~上記PL情報~~~~
● 春香の生きたい理由
さっそくゲームが始まった。
自分がいきたい理由アピールをする時間が始まった。
トップバッターは春香。
けれど、春香はアピールタイムの時間、その半分を黙ったままで過ごした。
そしてようやく口を開いたときには、春香はこう、告げたのだ。
「私は、もう満足してます」
erisuの爪がカリカリと床を削る。
「わたしは、故郷も奪還したし。家族もいないし。友達ともこの前ケンカしちゃって。だからもう大切なものなんて何もないんだ。だからみんなを優先するよ。このゲームって、一定数は絶対死ぬけど。一定数は絶対生きれるんだよね? だったら私、死ぬ方の一定数でいいよ? みんなのほうが、生きてたほうが。沢山の人を救えると思う」
そう言って春香は顔を伏せて最後に告げた。
「私は、自分の人生満足してるから」
その瞬間、無情にも時間切れのアラートがなった。
リプレイ
プロローグ
「命の重みを考えたことがありますか? やすやすと自分の命を捧げ誰かの命を救うと口にしたことがある者は、きっと命の重みを考えたことがないのでしょう」
そう男が告げた矢先。静まり返る室内で『火蛾魅 塵(aa5095)』が口を開いた。
「くっだらねぇことを、つらつらと」
ひどくつまらなさそうに塵は足元を見て、またモニターを見る。
「普段俺ちゃんたちがやってることと、何ら変わんねぇジャンよ。死ぬやつぁ死ぬ。生きれる奴は生きる。ただそれだけ」
そして塵は満足げにため息をついて天井を見あげた。
「命は粗末にしなきゃね~」
その言葉に全員の視線が塵の方を向く、彼の言葉を脳に通し咀嚼すればするほど、この状況が夢でもなんでもなく自分たちの目の前で展開されている事実であると認識できてしまう。
「本当に誘拐なの!?」
『蔵李・澄香(aa0010)』はそう全員に問いかけた。
「はい。まず深呼吸してー。焦ってもしょうがないだろ」
そう澄香の言葉に答えたのは『リオン クロフォード(aa3237hero001)』
「……勝手に決めないでよネ?」
『華留 希(aa3646hero001)』は沈黙から醒めるとモニターと、その場にいる全員に向けて告げる。
「……アンタに、本当の命の重さ、教えてあげる……」
そう静かに残虐な笑みを浮かべるのは希。
その隣で澄香はここはどこだ、現実かと叫び続ける。
「此処何処、地下室!? 繋がれてるの? 首も満足に動かない。クラリスは? 英雄もいないの?」
ガシャリと澄香の椅子が揺れた。
「助けてよ!」
その様子をモニター越しに見ていた『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』そんなクラリスは悲痛な表情をモニターに向けたままの遙華の肩に手を添えて告げる。
「まあまあ冷静ですね」
驚いて遙華はその時初めて、クラリスの顔を見た。そして澄香がやろうとしていることを察する。
(誘拐犯から反応はないな。盗聴器は無し? それとも人質はブラフ?)
その瞳は死んでいない。
当たり前だろう。もう彼女は理不尽な運命の言いなりになったりしないのだ。
さぁ、ここからゲームが始まる。
失わないために、最前の努力をするゲームが。
第一章 アピール
最初に設けられた時間はアピールタイムだった。戸惑いの淵にある一行になり替わって春香が自分の想いをぶちまけた。
その言葉を受けて『彩咲 姫乃(aa0941)』の表情が暗く。オーラは研ぎ澄まされていく。
そんな、暗くなっていく場の雰囲気を裂くように一つ声を上げたのは澄香。
「私はまだ死にたくない!」
髪の毛を振り乱して瞳には涙を湛えている。
その表情を『辺是 落児(aa0281)』も隣に座らされていた『麻生 遊夜(aa0452)』も凝視した。
「誰にも死んで欲しくもない。相棒は『私のプライバシーなんて無視』する困った奴だけど、大きな借りをまだ返してません。
それに何時だって『ピンチの時に助けてくれた』友達がいて、その人たちへの恩返しもまだ……」
その悲痛な叫びに一行は聞き入り場の空気がまとまっていく。だが、構築の魔女だけは一瞬眉をしかめた。
おかしいとおもった。これは言葉の羅列だ。彼女の言葉ではない。
「アイドルだって『チャンス』を『待って』掴んで来たんです。まだ歌いたいし、笑っていたいです」
そう涙ながらに語る澄香。だが伝えたいのは演技でこぼした涙の価値ではなく。感情を削ぎ落した言葉の情報性、一か八か伝わるか。そんな澄香の賭けだった。
そんな澄香の言葉を聞いてから、構築の魔女は一つ頷いて。口を開く。
「誰かを犠牲に生きている……? 何を当然なことを」
一人を殺して十人生かしてもその十人の生が百人を殺すかも知れない。
一人を生かして十人殺してもその十人の死が百人を生かすかも知れない。
「選択の結果を見届ける覚悟が必要ではないでしょうか」
そうぽつりとつぶやいて、構築の魔女は息を吸い。今度は全員に届くような声音で言葉を紡ぐ。
「私にはこの世界に来てから望むことが一つあります。
それが可能なことか不可能なことかは不明ですが。
命を使ってでも挑む価値があると思ってます。
だからこそ、私には投票してほしくありません。
私は私の願いと命を背負い生きていくので精一杯なので。
皆さんの思いを託されても無碍にしか出来ませんから。
それでも、投票いただけたのなら可能な限りの行動はしましょう」
これは自分の問題なのだ。それを他人に押し付けることはしない。
そう構築の魔女は謳う。
「あぁ、もちろん死にたいわけでも諦めたわけでもありませんので。奪ってでも生きることを選ぶかしれませんよ?」
その言葉に賛同を示したのは『久兼 征人(aa1690)』であった。
「俺は生きたい。投票に迷ったら俺にいれてくれ。俺は生きようとするやつに入れる」
短くシンプルな、けれど力強い言葉。偽りない素直な言葉。
そしてそれだけ告げて、澄香を見た。
自分も希望を捨てていないという瞳だ。
なるべく時間を稼ごう。二人はそう目配せして次なる発言者、遊夜を見据える。
「やれやれ、何とも厄介だな」
なぜか視線が集まってしまった遊夜。普段ならやれやれと頭をかくところだが両腕が封じられてそれもできない。
(リーヤもいない、と)
つながりはある、死んだわけではない。ならばどうすればいいか。
「全員は無理か……なら、俺がやることは一つだな」
そう未成年者たち一人一人に視線を向けた。諦めたように天を仰ぎ、そして告げる。
「生きなければならない理由は、俺にも色々ある。
書類仕事が途中のままだし、施設の修繕もしなきゃならん。
ガキ共の誕生日パーティが企画途中だし、今年はまだ祭りに連れてってやってない。
プールやら海やらに連れてく約束もある……そういや今日はまだうちの可愛い可愛い人見知り共に『愛してる』って言ってやれてなかったな、愛情を注ぐのは親の特権だろう?」
そう指折り数えながら、死ななければならない理由、いきたい理由をあげていく。
「それにまだリーヤの望みを叶えてやってねぇし、ガキ共の晴れ姿も見れてねぇからな……山のように未練はある」
ならば、自分が生きたいと主張するのだろう。そう思った。けれど少し違うようだ。遊夜は雰囲気を変えた。
「だけどまぁ……それはそれとして、だ。だからと言ってガキ共を犠牲にしてまで助かろうなんて気は毛頭ない……。
常在戦場……こういう仕事だ、俺も相方も死ぬ覚悟はとうの昔に出来てる。
遺書は残してあるし、孤児院の運営・引継ぎも問題ない」
だから、そう小さく遊夜は息を吸っていつものように、何のけなく冷静に言い放つ。
「故に投票は俺以外にするように、以上だ」
「なんで……」
その言葉に揺れたのは春香。
その言葉に感じ取るものがあったのか、遊夜は笑みを向けて見せる。
「身勝手? すまんな、オトナの特権って奴だ。
家族にはまたいつかなれる奴はいるだろうさ。
友達と喧嘩? 仲直りすりゃいいだけだ……死ぬことより大変か?」
構築の魔女とは反対の思想だろう。
誰にも背負わせたくないから助けるな。
それに対しての遊夜は、全てを背負ってでもいい。生きろ。だった。
「ガキは黙って助けられて幸せを謳歌してりゃいいんだよ」
生きている限り何かを背負うことはあるだろう。
だがそれも当然の事なのだ。生きている限り何かを背負うことは当然。
ただ、それが嫌だと投げ出すことは絶対に許されない。それは裏切と同義だから。
「結局みんな、自分じゃない誰かに生きてほしいんだね。素晴らしいね、譲り合いの精神って」
その時春香がそう告げた。その言葉に唇をかんだのは遊夜と、構築の魔女。
違う、そんなことを言ったわけではない。
そう二人は春香を見る。すると彼女はいつもの彼女ではなかった。
動揺しているのだろうか。目を大きく見開いていて、額に汗をうかべてる。
その様子を希が嘲笑う。
第二章 希望を探す
(人質…………。普通、モニターに人質のこと映さない?)
澄香は目の前で巻き起こる口論を聞きながら周囲に視線を巡らせていた。
(クラリスが簡単に捕まるかな。それに、あの子のことだから私に発信機や盗聴器くらい私に仕掛けてる。…………かも。なら、状況に外に伝えられる可能性はある)
そう脱出の方法を考えながら目の前の口論に耳を傾ける澄香である。
「その友達は喧嘩した貴女を思い出して一生悔いて苦しんで生きてくんだネ
ま、死んだ後なんて知ったコトじゃないよネ」
「あなたのアピールタイムだけど?」
春香は暗に告げた。自分をおちょくっている暇があるなら、いきたいとアピールすべきだと。
「わかっているとも」
そう告げて希はかつてを懐かしむように、言葉を紡ぎ始めた。
「アタシは元の記憶に引き摺られたままこの世界に来てソレを利用されていっぱい殺ししたヨ。
自分を取り戻したトキはもう許される数じゃなかったネ」
その言葉に春香は拳を握りしめた。その様子を塵は静かに見ていた。
「そんな現実、ツラいし消えた方が楽だよネ。
残された方の気持ち考える余裕ないし自分しか考えられないケド悪く言われたくないカラ自己犠牲とか大義名分? 自己満足の理由考えたりしちゃってネ。
苦しいカラ周りに押し付けて逃げてもしょーがないよネ?」
「さっきから、何の話? 私に対するあてつけ?」
春香がかみつくように告げた。それをセセラ笑って希は告げる。
「そう聞えたならネ、そう聞えるだけの理由があったんだろうネ。アタシはアタシの話をしているだけサ」
その時希は悲しそうに視線を伏せた『麻端 和頼(aa3646)』はそれを黙って見届ける。
「私が死ぬおかげで生きられる人が、少なくとも一人は出たんだよ! なのに何でみんな、私に感謝しないの?」
その言葉にすかさず構築の魔女が答えた。
そう春香が告げた瞬間である。パキリと。乾いた音が一室に響いた。
その音は全員の耳に、嫌にはっきりと響き渡り。
その音源を探してあたりを見渡してみると、部屋の中央に落下する何かがあった。
それは爪の破片だった。割れた爪の破片。
あまりに腹が立ち。けれどもまだ爆発させる時ではないと耐えて耐えて耐えて。
体も動かないものだから拳に力を込めるしかなく。
その結果爪が割れてはじけて飛んだのだ。
それが転がった。
その爪の主は姫乃。
その指先は血で染まっていた。
そしてぎらつく視線を全員に向けて言葉を投げかける。
「おい。いいか? 話すぞ、俺が話すぞ、いいか?」
そして姫乃は返事も貰わぬうちに叫ぶ。
「生きる理由? そんなもんあるかッ!!
いや、違うな。
そんな事に理由なんているものかッ!!」
びりびりと大気が震えるほどの怒号だった。
「両親より先に死ぬような親不孝になるつもりは無い。
死なずに帰ってくるって約束した友達だっている。
言おうと思えば理由なんていくらでも出てくる。
でもな、そんなもん誰だって一緒なんだよ、比べるものでもない!
生きたいから生きたいんだよ! 全部ひっくるめて生きたいんだよ、文句あっか!?」
その叫びはモニターに。しかし思いはその場の全員に。
「それがよぉ。なんだお前等……ッ、さっきからグダグダグダグダと、――満足してんなら簡単に手放すんじゃねえぞッ!」
唐突に矢面に立たされたのは春香。思わず背筋を伸ばして姫乃に向き直る。
「はい……」
「西大寺とケンカしたァ? そりゃ大変だな、仲直りしたいなら手を貸すぞ!?
で、俺らは友達じゃねえのかよ? 満足の中には含まれてねえのかよ!?
命を簡単に手放すな! 俺たちにその後悔をずっと背負ってけというのか?
大切なものが何も無い?
ハッ! 大層な言われようだな! 俺らもerisuも大切じゃねえってか?
ふざっけんなよ! 目の前で自殺ショー開催される俺たちの気持ちも考えろ!」
「私……わたしだって……」
春香のか細い声を塗りつぶして姫乃は圧縮された怒りのエネルギーを解放する。
声の大きさには自信があるのだ。魂に響くまで何度でも言ってやろう。そう姫乃は言葉に言葉を重ねる。
「ああ、勝手なことを言ってやろう!
友達見捨てて満足に生きられるわけがねえだろうがッ!
西大寺なんてきっとずっと泣きっぱなしだ!
友達泣かせて! 泣き止ますこともできなくて! そんな選択で満足かッ!?
満足な人生だったと言えるのか!
答えろ三船春香ァ!!」
その言葉に、春香は涙をこぼしながら反論した。
「思ってる、満足な人生だったって思ってる、何ならもっと早く終わってもよかったと思ってるくらいに。むしろ、私なんて、もっと早く死んでればよかったんだ」
「私たちの命を救うという、免罪符で自殺の罪を清算しようとしてますね」
構築の魔女が春香にそう、問いかけた。
「なんで? だめなの? 助かるんだよ? みんな生きたいんだよね? 背負わなくてもなんでもいい、私の事なんて忘れてくれて構わない。だから私を。私を、殺して……」
「春香…………。時々私にそっくりだね」
その時響いたのは澄み渡るような少女の声。
それまで、動揺したふりを続けてきた澄香。だが、ふと冷静に帰って春香を見据えて告げる。
「私も同じ気持ちになったもん」
情けなくて、弱い自分が許せなくて。たくさん努力しても救えなくて。
失敗して間違って。許せないミスを沢山して。
自分が強ければ目の前で命が消えることなんてなかったのに。
目の前で泣いている人を助けられないなら。
自分が戦場に出る意味なんてないのに。
別の誰かの方がうまくできたのに。
そう言う、自分を責める心を澄香は知っている。
自分の事が大嫌いになってしまった時期を澄香は経験している。
春香もそれなのではないかと思ったのだ。
嫌いな人間を殺したくなることなんて普通にある。
だったら、嫌いな自分を殺してしまいたくなることもあるだろう。
でも、それではだめなのだ。澄香はそれをみんなから教わった。
「兎に角、命は無駄遣いしちゃダメ、まずは此処を乗り切ろう?」
その澄香の視線に答えることができずに、春香は視線をそらす。
そして意識を構築の魔女に向ける。
「……念のため私に投票はしないでくださいね? 生き残るために誰かを殺すなら相手は選びたいですから」
その言葉に、頭を殴られたような衝撃を受けた春香である。
「勝手な言い分になりますがが満足して先を見ていない命に助けられたくないのです」
「それは、私が解放されて、このバングルで助けるってなった時でも?」
「もちろんです」
「私一人でみんなの命を救えるかもしれないのに?」
「それでは、みんなとは誰ですか? 私達だけ? 先ほどの男性は? 友人を傷つけようとする人は? 春香さんにとってみんなと認識できるのは誰ですか?」
「それは」
「……願いは叶わず理想は零れ落ち想いは露と消え誰かの悲願を踏みにじることもある。
それでも命を賭してでも成し遂げる意思こそが私は尊いと思っています。
命を懸けるだけで救えるものなど自分の気持ちぐらいな物ですよ。
もし、みんなを救うのならば自身の命も敵の命も仲間の命もすべて救う覚悟を見せて欲しいですね」
「命の重み?」
次いで口を開いたのは遊夜である。
「やすやすと捧げる? ……舐めた口聞いてんじゃねぇぞ、ガキが……死にたいわけではないが……これは俺が俺である矜持って奴だ、譲るわけにはいかん」
「……みんな、そうか、自分の命の使い方、決めてるんだ。私とは違うんだね……私とは」
「死ぬときは一緒だ、リーヤ……」
そう、死を覚悟して瞳を閉じる遊夜である。
ただ、その姿はカメラにばっちり収められ、モニター越しに『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』がガッツリ観察しているのだが。
「……ボクとユーヤは、一心同体……ボクらの、考えは同じ」
「ふん、ほうへ」
「……だから、ハルカは……オシオキ、ね?」
「うう、ほへんなはい」
そうユフォアリーヤは遙華のほっぺたをビローンとしながらモニターを見つめている。
遙華としてはこれくらいの罰ならいいかなという気分であるが。
遙華は知らない。これからもっと恐ろしい罰が、彼女らを待ち受けていることを。
第三章 投票
「ハッハ、俺ちゃんの出番ッスねぇ~」
ちなみに混乱を極めている場を取りまとめるために、一人のアウトローが先ほどから声をあげているのだが。一切合財無視させている。
「俺ちゃんは春香チャ~ンと同じッスねぇ」
その男の名前は塵。
「クク……『満足』ってヤツっすよ。ネェ春香チャン?」
「え? どうしたの? いま大事な話してるよ」
そう春香が言葉尻こそいつも通りだが冷たい口調でそう告げるのだが、塵は食い下がる。
「おーい目ぇ逸らすなヨォ~、同類だろ~?」
その言葉にピクリと、春香は動きを止めた。
「え?」
「…………春香ちゃ~ん、テメー、人をブッ殺した事、あンだろ?」
春香は息を飲んだ。そんな塵の言葉に対して鋭い視線を向けたのは澄香と姫乃である。
彼女らは春香の秘密を知っている。春香を狂わせてしまった理由を。
「…………ハッハ! イイネ、その表情! で、皆は?『それまで善良だった一般人』をブッ殺した事は?」
そんな、春香に余計なことを言えばぶっ殺す、とでも言いたげな視線を一別し塵は全員に問いかけた。
「…………俺ちゃんはあるんスよ。恋人をね? この手でね? キュッとね!」
鴨の首でも絞めるように塵は言ってのけた。だが。
そのとき二人の視線から殺気が消える。
「良くある、愚神うんたらってヤツっすよ。完全に融合したが意識はあってヨォ…………。
遺言が『あたしの代わりに、アイツ等全部、殺して』だぜ? 笑えるだろ?
だから『死ねない』んだよナ。春香チャ~ン、テメーも『怨念』背負ってるクセに勝手に満足してんじゃねーゼェ?
テメーの為に死んだヤツ、テメーの為に生きるヤツ、その面ぁ思い出しなぁ」
黙りこくる春香。
そんな彼女のかわりに、まだアピールタイムを済ませていないリオンが口を開く。
「易々と自分の命を捧げてるとか命の重みを考えてないとか、好き勝手言うなー」
そのリオンがモニターに映し出されると『藤咲 仁菜(aa3237)』が祈る様に指を組んだ。
「私は生命適正だからそう簡単に死なない。だから他の人の解放を優先する。かな。
……リオンはどうするのかな」
リオンは考えがまとまったのか。ゆっくりと言葉を絞り出す。
「むしろ重みを考えてるから捧げてると俺は思うけど。
重さも失う怖さも知ってるから、何としても守りたいと思うんだろ?
……その気持ちも分かる、それでも俺は自分を犠牲にすればいいって考えは認められない」
「リオン怒ってる……!」
仁菜は目を見開いた、彼が感情を荒げている姿を久しく見ていなかったから。
「敵に命を渡すその行為は【諦め】であり、諦めた人間程弱い者はない。
死ぬ覚悟を決めるくらいなら、どんなに無様でも生き残る覚悟を決めろ。
自分が犠牲になればいいなんて考えるな、皆を助けたいなら全てに手が届くくらい強くなれ」
そう高らかに告げたリオンの言葉に迷いはない。
「俺は死ぬつもりはないけど、誰も犠牲にするつもりもないからな! メディックたるもの戦場で犠牲を出してはならない!」
その言葉に澄香は頷いた。そして結論も出た、たぶんこの中では彼が一番……。
そしてタイムアップのブザーが鳴る。いよいよ投票の時間だ。
その時間がやってくると再びモニターに明かりがともる。最初に現れた仮面の男。が投票ルールについて説明している。
そんな男に塵は告げた。
「ツマリ俺ちゃん、旦那みてーなのは絶対にブッ殺さねーと死ぬに死ねねーんだよな」
男は返事を返さない。だから塵は続けて告げる。
「……クク、俺ちゃんさ…………『体内に発信機』ってヤツ? HOPE入る時に埋めこまれてんだよな。悪さしねー様にサ?」
男が初めて塵を見た。雰囲気でそれが塵には分かった。
「それ弄くってさ? ヴィラン時代の後輩に発信機渡してんのヨ。…………『俺が死んだら、殺した奴等を皆殺しにしろ』ってねェ?」
そしてカメラ、その向こうに殺意を放った。
「……ってワケよ? この『怨念』……テメーに受け止められるゥ? ま、解放されても、テメーは生皮剥いで、ブッ殺すがね?」
そのあいだに投票が終了した。
表はかなりばらけたのだが。三表集まって解放された人物がいた。
それがリオンである。
「待ってて! すぐに助けを呼んでくる」
上着を脱いだ。ドアに挟むための。ただその心配はいらなかった。
壁がせり上がり、通路が見えるとそこには男が立っていて。
もう二度と扉が閉まらないようにAGWを挟み込んだ。
「和頼!」
椅子の上で跳ね上がる希。
「おう、下らねぇ茶番は終わりだ」
その後ろではため息をつくロクトが立っていて。
澄香はすべてを察した。
* *
全員があの椅子から解放された後、仁菜はリオンに飛びついた。
「うぅ……凄く反省してる! ちゃ、ちゃんと強くなるから!」
半べそをかいている仁菜、まだ若干状況についてこれていないリオンはその頭をとりあえず撫でる。
その後。このゲームは春香の人格矯正と、今後激化する戦いに、リンカーたちがついてこれるかどうか確認するためのテストだったと。遙華は告げた。
天井につるされた状態で。
「反省しやがれ」
姫乃は相当に怒っていた、しばらくは許してくれないだろう。
そして天井につるされているのは春香も同じ。
「遙華……私」
「春香、私。生きて帰ってきたいって思える人じゃないと。もうこれ以上、手は貸せないわ」
「あ~、このまま一緒はまずいな」
そう澄香の判断で解放される二人。
「別に私は怒ってないけど……」
そう姫乃の糸を外しながら澄香は春香に告げた。
「遙華みたいな子はちゃんと皆で面倒見ないと。でしょ? 春香?」
機嫌が悪いらしくそっぽを向く春香。そんな春香に征人は告げる。
「あんた、生きてていいんすよ?」
「え?」
春香は征人の顔を凝視する。
「俺が生きてていいのと同じで、三船さんも生きていいの。俺らの命に、価値の違いなんかないんすから」
その言葉に顔を赤らめる春香である。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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