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LOLLIPOP BATTLAXE
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/07/02 23:00:49 -
相談卓
最終発言2017/07/02 23:14:53
オープニング
●天才美少女の悪魔的閃き
「さぁ! 行ってみよう!」
『はい♪』
「はぁ……」
天才少女仁科恭佳の掛け声に合わせ、彼女の英雄であるヴィヴィアンと、助手である青年がダーツボードをくるくる回す。ダーツを数本手に取った恭佳は、次々にボードに向かって投げつける。その数字をメモした恭佳。二人に合図を送り、再びダーツを投げる。
投げる。
投げる。
投げる。
「……よし。ざっとこんなもんですな」
八回ほど繰り返した恭佳は、手元のメモを見つめて満足げに頷く。そこに記されたのはエージェントの登録ID。哀れなる犠牲者の一覧表だ。彼女は脇に積まれた大きな八つの箱にべたべた何かを張り付けると、ヴィヴィアンの方をちらりと見遣る。
「ヴィヴィアン! プリセンサーからの報告は無いか!」
『はい! 明日、デクリオ級の愚神が二体、市街に出現して市井の人々に危害を加える事になっている模様です!』
一枚のメモ用紙を取り出し、小さく敬礼しながらヴィヴィアンは声を張る。薄幸そうな神秘的美女としてこの世に現れたはずが、もうその面影は殆ど残っていない。どれもこれも、バカやる事ばかり考える恭佳のせいである。
「良かろう! ではこれをたった今アトランダムに決定したエージェントに送り付ける! 任務の依頼書もつけてな!」
「いいんですか、本当に……」
もう大分ついていけなくなっているのがこの助手である。常識人には辛い職場だ。胃が痛い。
「良いんですよ! 科学の発展には実践が不可欠なんですから!」
●悪魔のペロペロキャンディ
――初めましての方は初めまして。旧知の方はこんにちは。H.O.P.E.研究課所属、仁科恭佳と申します。いきなりですが私の開発した武器を一丁送らせていただきます。是非活用して、その感想を私にお伝えください。そう言えば、今日何やら愚神が現れるとの事ですが――
「フーハッハッハ! さぁ、みんなで笑おう!」
道化師の格好をした愚神が、周囲に向かって叫ぶ。その言葉に乗せて放たれた波動が、道行く人々に染み渡る。すると腹がむずむずしてくる。全身が震えてくる。もう耐えられない。人々はその場に崩れ落ち、ひたすら笑い始めた。目に見えるもの全てがおかしい。お腹が捩れて笑いが収まらないのだ。
「さあ笑おう! 笑って笑って! 幸せなまま死んじゃえばいいのさ! そしてその命を僕におくれ!」
「ガーハッハッハ! さぁ、みんな怯えろ!」
道化師の格好をした愚神がもう一人、目の前に居る人々に向かって叫んだ。人々の目の前でその愚神の姿はみるみる歪み、いつの間にかおどろおどろしい竜の姿へと変わる。人々は悲鳴を上げてその場に倒れ込んだ。腰が抜けてしまい、すっかり動けない。恐怖で全身から力が抜けてしまっていた。
「さあ怯えてくれ! 怖がれ怖がれ! 恐怖にまみれて死んじゃえばいい! そしてその命を僕におくれ!」
二体の道化師を装う愚神を前に、人々は笑いながら怯えながら、徐々に弱っていく。紛れも無いピンチだ。
そんなところへ、八人のエージェントは跳んでいく。その幻想蝶に、恭佳から送られてきた何が何だかわからない、バカでかいペロペロキャンディを潜めて。
そのペロペロキャンディが、どんな地雷かも知らせられないまま。
解説
メイン とりあえず目の前の愚神を倒せ
サブ ロリポップバトラクスを皆で使う!
エネミー
デクリオ級愚神「ジェスター&クラウン」
市井の人々を笑い死にさせたり恐怖で死なせたりしてライヴスを吸収しようと目論むごくあくきわまりない愚神二人組。
さあ、君の右手には何がある? そいつを使ってさっさと排除するんだ!
ステータス 全部B前後
スキル
LOL
魔法攻撃。全体攻撃。特殊抵抗判定を行い、勝利した時敵にBS狂笑を付与。ライヴスによって生み出された念導波により、ほんのちょっとしたきっかけで笑い出してしまいそれが止まらなくなる。「爆笑」
SNAFU
魔法攻撃。愚神の視界にいるPCに攻撃。特殊抵抗判定を行い、勝利した時敵にBS恐怖を付与。ライヴスによって生み出された幻影を見てしまい、とても怖くて怖くてたまらなくなる。「いつも通り何もかもがめちゃくちゃです」
支給品
ロリポップバトラクス
武器種別 斧
能力補正 物攻に+200
解説
仁科恭佳の作り出した狂気のペロペロキャンディ型バトルアックス。オーパーツである天津風に組み込まれていたライヴス増幅回路の再現を目指したシステムが搭載されている。が、その機構は不完全でありこの武器を使用した人間は例外なく精神がロリ少女のそれになってしまう。装備時、BS幼女化を付与する。リンクレート6以上の場合無効化できるが、能力補正も無くなる。
Tips
BS狂笑…攻撃力が半減する。プレイングで解除可能。
BS恐怖…ターンの初めに1D10を振り、7以上が出ないとそのターン行動できない。プレイングで解除可能。
BS幼女化…特殊抵抗判定に自動失敗する。能力者or英雄のどちらか(どっちも)がロリ少女RPを行わなくてはならない。プレイングで(一応)解除可能。
フィールドは市街地。周囲に笑ったりビビったりして転げ回っている一般市民がいるので注意。
愚神はぶっちゃけツッコミ役。どうぞお好きにふざけ倒してください。
リプレイ
●童心に返ろう
「刃の形が三日月になってやがる……」
『オナカスイター』
彩咲 姫乃(aa0941)はメルト(aa0941hero001)を喚び出して思わずため息をつく。幻想蝶から出てきたメルトは、一緒に入れていた“巨大なペロペロキャンディ”をバリバリと齧っていたのだ。お陰でその形は三日月形に変わっている。
「仕方ねぇ……これはデータ取りに付き合ってやるしかないか……」
「何をぶつくさと言ってるの? 君も、みんなと一緒に震えてみないかい?」
両手をぐるぐると回し、黄色い帽子を被ったクラウンが姫乃に狙いを定める。溜め息をつくと、姫乃は素早く共鳴し、その全身に炎の気を纏う。
「うるせえな。そんなもんじゃ俺の速さは捉えられねぇって事、思い知らせてやるよ!」
刹那、その姿はクラウンの前から煙のように消え失せた。
『皆さん愚神から離れてください! 戦闘に巻き込まれてしまいます!』
「あははは! 何そのメガホン!」
クロード(aa3803hero001)は周囲で転げている人々に拡声器で呼びかける。だが人々は真面目くさったクロードの顔を見るなり、指差して笑ってばかりだ。世良 霧人(aa3803)は溜め息をつく。
「(これはこれで厄介だね……)」
『はいはい、笑ってる場合じゃないですから! ここから逃げますよ!』
埒が明かんとクロードは駆け出し、人々の足を掴んでずるずると引きずっていく。そのそばでは、恐怖に怯える人々を前に牛嶋 奏(aa3495)が必死に呼びかけていた。
「あのぉ、もう既に戦いも始まってますから、ここから離れてくださいねぇ……」
「ぎゃあああオッパイオバケ!」
「そ、そんな事言わないでくださいよぉ……」
セクハラじみた発言に赤面しつつ、恐怖で腰が抜けて動けない人々をその小さな体で追い立てていく。少し動くたびに奏の胸はその存在を主張している。水無月 花梨(aa3495hero001)は奏の中でくすくす笑った。
『(確かに今の奏は違う意味でコワイかもねぇ)』
「ど、どういう意味ですかぁ……」
「何かすっげぇ嫌な予感しかしねぇ……貰ったモンはしゃーねえけど。斧なら尚更……」
『じゃあどうして使うの?』
一ノ瀬 春翔(aa3715)はのろのろと棒付き飴を取り出す。気が進まない。エディス・ホワイトクイーン(aa3715hero002)はいかにも不思議そうだ。
「斧使いが斧から逃げるわけにいかねえだろ……」
春翔はスイッチを押す。桃色の輝きを放つ刃。ライヴスが刃で増幅されていく。
そして感じる強い違和感。
「(……やべぇ。マトモな精神が、自分の理性が上書きされていくこの不快感……)」
手に取った者を例外なく狂わせる、某魔導書とまるで同じだ。
「畜生ッ! パ……パスッ!」
『えっ? おにぃ――』
慌てて春翔はエディスを表に突き出す。狂気が、その瞬間エディスの意識を絡め取った。
「ふぇぇ……何が起きたのぉ……?」
風深 櫻子(aa1704)は斧を杖の様にして構え、頼りなさげに周囲を見渡している。見た目はシンシア リリエンソール(aa1704hero001)だが、中身は櫻子だ。ロリポップバトラクスの放つライヴスの反動に巻き込まれ、ロリ少女思考になってしまったロリマニアックだ。
「おやおやぁ? 一体どうしちゃったのかなぁ?」
道化師が両手を振って、がに股でよちよちと歩いてくる。その気持ち悪い姿に、思わず櫻子(ロリ)は顔を真っ赤にして斧をぶんぶんと振り回す。
「やだぁ! 来ないでよぉ!」
右も左もわからないような、腰の入らない一撃。しかし斧の威力は凄まじく、一発で道化師が吹っ飛んでいった。
『(おい、狂ったデザインの癖に馬鹿みたいな威力だぞ。どうなってるんだ――)』
「シンシア、ゆるさないもん! ぷんぷん!」
両のげんこつを額に当てて怒ったポーズを作り、櫻子は道化師に向かっていく。シンシアは中で悶え苦しんでいた。
『(おい、サクラ貴様ァ! 私の名前を使って何を言っている! というか何をしてる!)』
『……ふぇぇ、ひどいよぉ、おにぃちゃぁん……』
と、春翔に心の主導権を押し付けられたエディスももれなくロリとなっていた。白いロングコートを纏う男装の麗人が、頬をぷっくりと膨らませる異様な光景。だが、彼女の内側を知る春翔はほんの少し戸惑う。
「(……あれ。あんまり、変わってない?)」
『もぉ……しょうがないなぁ……うんしょっ!』
エディスは全身を使ってようやく斧を肩に担ぐ。
「(変わってないなら……まぁ……?)」
「てぇぇぇえ――」
ワイヤーで括られた短剣を自在に飛ばし、クラウンの動きを制する。その隙に死角へ回り込んだ姫乃は、大斧を担いで突っ込んでいく。――三日月型に欠けた斧を。
「いいいっ!」
しかしその途中でずっこけ、すっころんで顔面強打、そのまま斧の重量に振り回されてクラウンに突っ込んだ。
「あいたたたっ! 何を……」
「……ママ? ママどこ?」
顔を上げたクラウンが目にしたのは、涙目で自分を下敷きにする姫乃の姿。ぽろぽろ涙をこぼしながら、周囲を見渡している。今の姫乃はひめのちゃんごさい。身も心も女の子と思っていた時分だ。
「いたい、いたいよぉ……」
『何を泣きべそかいてるのよ! ここは戦場なのよ!』
綾花(aa5190hero001)がそんな姫乃の前に仁王立ちし、ぴしりと指差しして叫ぶ。ゴスロリ低身長おかっぱというその出で立ちは、まるで小学校を支配する女王サマだ。
「(ちょ、ちょっと。どうしたの……)」
荒々木 静(aa5190)は豹変した綾花に戸惑い通しである。
「あのね、ママがいないの……おそとをあるくときは、ママがいないといけないのに……」
『ま、ママ? いい加減になさい! ここにいるわけないでしょ!』
「やー! やーあー!」
聞いた瞬間姫乃はまたしても泣き出す。悲しみに任せ、その手に持つ斧を振り上げた。クラウンは蒼くなる。
「待って! それはやめて!」
「ハ、ハハ……アッハハハッ!」
夜代 明(aa4108)は三人のやり取りを見て笑い転げる。ちょっとした油断で、クラウンのLOLをまともに喰らってしまったのだ。
「ヤバイ……頬が痛い……ろれつが。じゅもんがいえねえ」
『そんなに!? なんで?』
アジ(aa4108hero001)は戸惑うほかない。普段から狂ったように笑っているのだが、今日はどうしたというのだろう。
『(むしろ素がアレだからかなぁ……)』
「……しかたねぇ、つかってやるか。こいつを」
だが、口を塞がれても彼にはまだ秘策があった。恭佳の用意した某斧である。使うつもりなど毛頭なかったが、今ならとても役に立つ。
『(斧使ったことないのに……無茶だよぅ!)』
「フッ……俺のモットーはな、戦闘時は常に脳筋であれ、だ!」
バトラクスのスイッチを入れる。刃が桃色に輝き、増幅され過ぎたライヴスが明に跳ね返ってくる。脳みそは蕩けて、小さな小さな女の子の思考に染まる。
「……おうち帰る」
『なんでぇっ!? 帰るって……そんな事言わないでよぉ!』
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、何だか様子が変なのですぅ……」
奏、お前も変だぞ。ロリポップバトラクスを握りしめた奏は、大体泣いてる大きな子供たちを前におろおろする。胸ばかり大きな自分の容姿が恥ずかしく、巨大な刃の後ろに隠れている。
『(セミが鳴いてるよぉ……でもセミは可愛くないからいらなぁい……)』
花梨も花梨でこの有様である。都会だから良かったが、田舎ならば蝶を追いかけ回して話にならなかったことだろう。
『ひ、緋十郎……敵と戦うなんて、怖いの……レミアのこと、しっかり守ってね……』
「(なっ……)」
狒村 緋十郎(aa3678)はショーウィンドウに映るレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)の姿を見て愕然とする。尊大な吸血姫の表情はどこへ行ったか、今そこに居るのはいかにも無垢な表情のレミアだ。
可憐に華奢な身を縮め、おずおずと囁くレミア。緋十郎は言葉を失いかけたが、空前絶後の愛らしさには新鮮な魅力を感じる。緋十郎はこのトラブルを前向きに捉えた。
「(ああ、任せろ! 痛みも疲れも、全てこの俺が“悦んで”引き受ける。レミアに痛い思いなど、させるものか……!)」
心なしか声が浮ついている。爽やかイケメン気取りだ。
『緋十郎……ありがと、とっても頼もしくて……まるで、王子様みたい、素敵……!』
「(お、おおおお……!)」
いいか緋十郎、君がギリギリ許されているのは高貴なる吸血姫レミアを愛しているからだ。ただの少女レミアに興奮していたら犯罪者だぞ。という地の文の言葉が彼に届くはずもない。斧は緋十郎の高まるライヴスを受け止めきれずにぶち壊れそうだ。
『ねぇ、どうすればいいの……?』
「(あまり柄を長く持つな、振り回される)」
『うん……!』
『ちょっとあんた! このあたしの玉のような柔肌に傷を付けるなんて、許せないわ!』
「そ、そんな事言われても……君とアナタは敵だから。ねぇ?」
ナイフが掠って滲む血。綾花は目を剥いて怒りを露わにする。道化師はその派手な怒りように戸惑うしかない。
『貴方の事、あたしが倒して差し上げるわ! 光栄に思ってあたしの前に跪きなさい!』
「そんな事言われて跪く奴ぁいません――あいたたたっ!」
綾花は道化師の顔面に斧を叩きつける。突然の攻撃に道化師は戸惑うしかない。
『ほら! このバトルアックスが何で出来ているか知っていて?』
「少なくとも飴ではないです!」
「(あああ……どうなってるんだいこれ)」
『も、もしかしてコレがこのキャンディー斧の効果のようですね……話には聞いておりましたが、とんでもない武器を作ってくれたものですね!』
クロードは天を仰いで叫ぶ。その声はきっと(一生)恭佳には届かない。
『……とはいえ、何故私達は平気なんでしょう?』
「(僕達の取り得はライヴスのコントロールだし、その辺りなんじゃないかな……)」
『敵は強くないですし何とでもなりそうですが……』
呆れたように周囲を見渡す。レミアとエディスは何とかかんとか戦っているが、他は泣いたりのんびりしたりであまり戦力になってない。時間がかかりそうだ。
「(せめて僕達はあのキャンディーは使わないでおこう。他に武器は?)」
『エリック様から渡された物でしたら』
取り出したのはのっぺらぼうのマネキン。霧人は言葉を失いかけたが、もうどうしようもない。
「(もうそれでいいや。戦おう!)」
●惨劇の幕開け
「おねえさんだぁれ?」
「シンシアだょ! 姫乃ちゃん、おしゃれでかわぃぃねっ♪」
『(貴様はそんなになってもそこは変わらんのか!)』
とてとてやってきた姫乃に早速モーションを掛ける櫻子。シンシアのツッコミが虚しい。髪を撫でられ、すっかり女の子モードの姫乃もご満悦だった。
「かわいい? ありがと♪ あのね、このかみね……? あれ、かみのけない? わたしの、かみのけ……っ! だいじなのに……」
肩まで伸びるロングヘアのつもりでショートカットを撫でた姫乃は、途切れた感触に愕然となる。再び目に涙をためて、ひっくひっくやりながら櫻子を見上げている。しかし問題はない。ロリが泣き出した時の対処法は櫻子の魂に本能レベルで刻み込まれている。
「たべて。おいしいょ?」
差し出したのはレープクーヘン。櫻子お手製である。食べた姫乃は嬉しそうににっこりとえくぼをつくる。
「あまい……♪ あまいの、すき!」
「よかった♪ まだあるんだょ?」
「わーい!」
『(おい! お前ら戦え!)』
「やだ帰る! 変なおじさんとかいるもん!」
斧を叩きつける明。クラウンは派手に吹っ飛んでいく。アジは困惑したまま呟いた。
『いや、ハルこそ“変なお兄ちゃん”だし……』
「はる、変じゃないもん……ふ、うぇ、うわぁぁあん!」
泣き声に合わせて飴の表面が軽く罅割れ、ペりぺり剥がれた欠片が炎を纏って飛んでいく。狙いも何も定まったものではない。一部は近くに立っていたクロードに直撃している。
『こんなブルームフレアあり!? な、何て恐ろしい子……このまま泣いてちゃほかの……危ないよぅ! ハル、ちょっと本出して?』
言われるがままに魔導書を取り出す。アジはそのまま幾つか指示を出し、キラキラ舞い散る幻影の蝶を中から飛び出させた。泣いていた明も目を見張る。
『綺麗でしょ? だから泣き止んで!』
アジの作戦はいいセン行っていたが、少々語気を強め過ぎた。その語気に驚いてしまった明は、結局泣き出してしまう。
「あじが怒ったぁぁ」
『怒ってないぃぃ……』
もう既にアジまで泣きたい気分になっていた。
『喰らいなさい! “シド・バレット”!』
「(何それ!?)」
クロードが不必要に複雑なポーズを取った瞬間、背後に立っていた無表情のクロード人形がナイフを構えて飛んでいく。同じくナイフを構えたジェスターに向かって、弾丸のように鋭い突きを次々に繰り出していく。人形相手に負けていられないジェスターも、必死になってこれに食らいついていく。
両者白熱した戦い。しかしそこへ、胸をたぷたぷさせながら奏が駆け込んできた。
「け、喧嘩はだめなのですよぉ」
『そうですよぉ。一緒に可愛いちょうちょさんでも探しに行きましょう?』
目に涙を一杯溜めて、目の前で起きた喧嘩を止めようとしている奏、おっとりと目を細め、他の遊びに誘うという工夫を見せる花梨。ライヴスの影響に最も深く晒されてしまった二人は、止める相手がいないせいでどんどん変な方向へ突き進んでいく。二人の人格が不安定に入り混じり、泣き出したり微笑んだり忙しくなっている。
『えっと、あの。これは喧嘩ではなくて……』
クロードは困ったように言葉を濁す。イノセントな感情に満たされている彼女を、無理に押し退けるわけにもいかない。しかし愚神は関係なかった。その両手をぐるぐると回し、波紋を作り始める。
「何だかよくわからないけど、隙を見せたな~♪ さあ皆! 笑って笑おう! 笑って! 幸せなまま死んじゃおう!」
『危ない……!』
慌ててクロードは奏の方へ飛び込む。瞬間、道化師の手に溜め込まれたライヴスが爆発した。
「ふふ、ふふふふふ……あれぇ。何だかおかしいですぅ……あの雲の形、何だか変ですよぉ」
空を見上げた奏は笑い出す。道化師の放ったライヴス、その直撃は避けたものの影響だけはしっかりと受けていた。笑いが止まらない。そこへ駆け込む綾花。
『ちょっと! 何笑ってるのよ!』
右手に光を纏い、奏の額に当てる。からからと笑っていた奏は、やがてぽやんとした表情に戻っていく。狂笑と同時に、運良く悪夢の幼女化も解けたのである。
「あれぇ……私は何を……?」
『あんた、あたしに感謝なさい! あたしがいなければあんた笑い死んでたところよ!』
「はい?」
奏は首を傾げている。
「(ああああ……綾花、綾花ったら。そんな失礼な態度を他人様に取らないで……)」
静は必死に暴走する綾花へ呼びかける。しかし綾花は聞く耳を持たない。おかっぱ長髪をさらりと流し、エナメルシューズの踵をコツリと鳴らして彼女は胸を張る。
『まったく、あたしが居る事に感謝して欲しいわ……』
『ふふ、あはははは! なんかたのしくなってきちゃったぁ!』
一方どうにもならないのがエディスの方である。斧をぶんぶん振り回し、ごっつんごっつん道化師二人を殴りつけている。愚神に与えられた狂気が彼女のタガを外しにかかっていた。歪な光をその目に宿し、二人が立ち上がる間もなくボコボコにしていく。めちゃくちゃに斧を振り回すせいで、道路にもがつがつ罅が入っている。
『あはは! みんなみーんなこわれちゃえ! あははは!』
「ひいいいいっ!」
道化師はもうどうしようもなくなって逃げ出そうとする。しかし既にその脚は折られ、よろよろ足を引きずっていく事しか出来ない。エディスはそんな敵二体を容赦なく追いかけていく。
『しんじゃえーっ☆』
ろくに狙いも定めない一撃が、とうとう道端の標識を叩き折る。
「(ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ!)」
春翔は呻く。このままエディスを放置していてはヴィランとやる事が大差なくなってしまう。ようやく取れ始めた心の均衡がこれでまた崩れてしまう。
「(ああ、ああ! クソッ! やりゃあいいんだろ! やってやらぁ!)」
強引にエディスを意識の奥へと引きずり込む。そして彼は脳髄に流れ込む狂ったライヴスの奔流をまともに喰らってしまった。結果は勿論……
「う……うぅぅ……もうやだぁ……かえりたいよぉ」
もちろんロリ少女だ。しかしまだ顔の作りが綺麗な彼はショタ化を起こしただけと見えなくもない。
「みんな……みんなおまえのせいだ! ぼっこぼこのぎったぎたにしてやるぅ!」
ロリの癖に言葉使いが乱暴なのも、紅い方の英雄とずっといたお陰なのかもしれない。
『ふふ……どうして? 戦ってるのを見てるだけなのに……何だか、笑っちゃう……』
バトラクスに寄りかかり、LOLを喰らったレミアはくすくすと上品に笑い続けている。いつもの尊大な彼女とかけ離れた、しおらしい笑み。一生をかけても見るはずの無かった表情を目の当たりにした緋十郎は、もうテンションが青天井だ。
「(ダメだ……可愛い。愛らしくてもう、辛抱堪らん……!)」
瞬間、レミアの身体が光に包まれる。光の奥でそのシルエットは歪み、巨大化していく。緋十郎のテンションが高まり過ぎて、とうとう共鳴関係さえ入れ替わってしまったのである。心の奥底に収まったレミアは、ぼんやりと意識を取り戻す。
『(ん……? わたし、一体何をしていたのかしら……緋十郎?)』
彼女は緋十郎の様子を窺おうとする。巨大な飴を手にした緋十郎。その魂は、既に彼が愛してやまない無垢なる少女となっていた。
「みんなをむりやり笑わせたり怖がらせたりなんて……そんな事、しちゃいけないのよ☆」
見た目は36歳、無精髭の生えたオッサンが、女の子特有の弾む抑揚で喋る。悪夢だ。世界が灰燼に帰す“怒りの日”と、一体どちらが恐ろしいか分からない。
「もうっ! 悪い愚神さんたちは……ろりぽっぷ☆ひじゅりんがお仕置きしてあげるんだから!」
『(えぇ……)』
黒雲に雷鳴が轟くような声色で、まるで魔法少女ヒロインの如く名乗りを上げる。漆黒の外套を翻し、猿の尻尾をくねらせ、斧を身体の前で両手持ち。その悍ましさたるや、レミアが吸血姫として初めて絶句したほどだ。
「あっあっあっ、もうムリだよ、クラウン」
「へけけけけけけジェスターけけけ」
散々エディスや春翔にボコられて立ち上がる気も起きない道化師二人。ジェスターはクラウンの方を見るが、既にクラウンはロリ十郎を前にして正気を喪っていた。哀れなものである。止めを刺されるまでも無い。彼らは安らかな笑みを浮かべると、共に倒れて消滅した。
『よ、よし! 終わりましたね! 精神分析! 精神分析を行います!』
ひじゅりんを呆然と眺めていたクロードだったが、慌てて我に帰り仲間達の方へ突撃する。巨大な飴で、思い切り仲間達の横っ面を殴りつけていく。
「んおおっ! ……む、お、俺は一体……」
緋十郎は我に帰ったがもう遅い。
「あばっ! ……夢を見ていたわ。修行の果てに、全てのロリの魂と合一する夢……」
随分と幸せな夢を見ていたものだ。
『ハル?』
「……もう嫌だ……」
テンションガタ落ちも当然だろう。
『あら? 何してたのかしら』
高飛車娘楽しそうでした。
『……ごめんなさい』
「謝るのはお前じゃない……俺が押し付けたのが悪い。そもそも、アイツが……」
その怒りはもっともである。
「畜生、殺す」
いやもうほんとにごめんなさい
「……まぁ、これで一件落着、ですねぇ」
『うーん、そうかしらぁ……?』
奏は安堵していたが、花梨はくすりと笑う。その通り。もう一悶着待ち構えていた――
●懲りない少女
「お前の首は柱に吊るされるのがお似合いだ!」
「よっくもあんなものを押し付けたな!」
「あいえええっ!」
春翔と姫乃が肩を並べて恭佳へと突撃していく。その鬼気迫る表情を前に、恭佳は脱兎の如く駆けて逃げた。基本的に引きこもりの癖に、逃げ足だけはどうにも早い。
「待ちやがれぇっ!」
『ヒメノー、オナカスイター』
メルトは恭佳を追いかけまわす姫乃を横で眺め、相変わらずそのお腹を空かせていた。それどころか、飴斧の残った部分をバリバリ噛み砕いている。元々スライムの彼女には鋼の刃も形無しである。
『おにいちゃんがエディスのために怒ってる……』
その隣でエディスは春翔を見てうっとりしている。暴走してしまった彼女を責めず、彼女を苦境に陥れた恭佳に怒りを向ける春翔。改めて彼の魅力を再確認してエディスは雪のように白い頬を薄桃色に染めるのだった。
一方、シンシアは櫻子をひたすらに追い掛け回していた。
『サクラぁッ! 貴様、いつまで逃げるつもりだ! そこに直れ! 介錯してくれる! 貴様を殺して私も死ぬっ!』
「ひぇえっ! 出たよ! シンシアさんのヤンデレ発言が出たよッ! だがその望みを聞いてやるわけにはいかない! 世界の全ての美少女に私の料理を食べさせるまで、私は死ねんのだからな!」
『なぁにがヤンデレだ! バカッ!』
シンシアは短剣を振り回しながら櫻子に追い縋る。こうなったらもう手が付けられない。
「仕方が無かったんですってぇ! どうしても反動が吸血茨以上になってしまったんで、それをせめて精神的な影響の方に逃がすしかなかったんですぅ!」
「だからって俺達を幼女にする必要ないだろ!」
『まさかここまでになるとは……本当に申し訳ありません』
契約主が簀巻き状態にされて梁に吊り上げられていく様子を一瞥しながら、ヴィヴィアンは霧人達に向かってひたすら平謝りする
「そんな事を仰ってますけど、実は予想ついていたのでは……?」
『とりあえずこれはわたくし達の手には余る代物ですので、お返しいたします』
クロードはヴィヴィアンに向かって巨大ペロペロキャンディを差し出す。ヴィヴィアンは恭しく手を差し伸べそれを受け取った。そこへ、うつ伏せのままアジに引きずられる明がやってくる。
『ちょっ……凹んでるのは分かったからちゃんと歩いて! 英雄でも流石に疲れるよぉ!』
「凹んでない……ただ、周囲の目が痛かったなー、この武器の作者は戦闘と宴会を混同してんだろうなー! ……と思案しているだけだ」
『目の前に作者がいるってわかってて言ってるよね! ……ごめんなさい』
斧を差し出し、アジはどんよりしている明に代わってぺこりと頭を下げる。ヴィヴィアンは苦笑するしかない。
『まぁあながち間違ってないですね』
『あの、アジくんはコレ面白いと思うよぉ? 使い所は考えるけど……頑張ってください! それじゃ!』
アジは手を振ると、再び明を引きずり本部の外へと出ていった。
「本当に申し訳ありませんでした……牛嶋さんには大変ご無礼とご迷惑を……まさか私の英雄にあのような一面があったとは私も知りませんでした……」
「い、いえ……大丈夫ですよぉ。恥ずかしくてもう何だかよく憶えていないので……貴方の英雄さんが何をしたかなんてよくわかっていませんから……」
静と奏はロビーの隅でペコリペコリと頭を下げあっている。二人ともそもそも控えめな性格、自らや自らの英雄がやらかしたことが恥ずかしくてたまらない。英雄達はそんな彼女達の気持ちがわからないようだが。
『あのようなって何よ、あのようなって』
『私は楽しかったのになぁ……』
一頻りやり取りを済ませると、静はずるずると斧を引きずりヴィヴィアンの方へと突き出す。
「大変申し訳ありませんが……今後このようなAGWはご遠慮いただきたく……」
『一応言っておくけど、私は楽しかったわよ』
つんとすまして余所を向いたまま、綾花は静の言葉にそっと付け足す。
『ま、これからも頑張って』
「……」
『と、事の顛末はH.O.P.E.がしっかり記録してくれているわ。良かったわね、“ひじゅりん”』
「うぐぅっ……」
レミアに記録映像を見せつけられ、緋十郎は蒼い顔して唇を噛む。最早拷問である。
『そんな苦しそうな顔をすることないじゃない。緋十郎もアイドル目指せばいいのじゃないかしら?』
「ごふっ」
『ふふふ……』
苦しみの余りむせかえる緋十郎を、レミアは愉しそうに見下ろしている。胃の腑も心臓もきりきりと痛みを発する中、緋十郎は僅かに頬を緩める。
「(これだ……これこそが、やはりレミア……)」
緋十郎はレミアの見せたいとけない表情を思い起こす。それを想うと、尚更に今の彼女の侮蔑交じりの笑みを見て一層の心地よさを感じられるのだった。
“俺が、俺達が、ロリ少女だ!” Fin.