本部

WD~ホームランはいらないけど~

鳴海

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2017/07/12 15:16

掲示板

オープニング

● 願えるなら勇気がほしい
 病室の外には自由が広がってる。
 飛び立つ鳥に、駆け回る少年少女。笑顔と笑い声。
 当たり前のように、皆に与えられるそれ。
 ただ、その病室に横たわる少年『杉田 彰浩』にはそれが与えられなかった。
 いや、正確に言うと奪われたのだ。
 いつごろだったか。体が重くなりはじめ。やがて歩けなくなり。十二歳になった時、入院を余儀なくされた。
 心臓が満足に動いていないそうだ。
 十四歳になった今だと……ごくまれに心臓が止まることさえある。
 そんな彼に手術の目途が立ったのが最近の事。
 彰浩は喜んだ。これで外にまた出られる、みんなと遊べる。学校にも行ける。
 だがそんな彼の表情再び陰らせるセリフが一つ。
「手術の成功確率は九割。一割の確率で症状が改善しません。それどころか死ぬこともあり得ます」
 医者に告げられたその言葉は、幼い彰浩の心を砕くには十分で。
 彼はその日から部屋にこもるようになった。
 いっそう暗く表情を陰らせることが多くなった。

「僕は怖いよ、受けたら死んじゃうかもしれないんだ。だったら僕は一生ここにいたっていい」
 
 少年はそう暗い部屋で叫んだ。
「僕は、外に出たいのに」
 少年は扉の向こうで泣いた。
「でも、勇気が出ない」
 震えるのだと少年は言った。もし死んでしまったらお母さんは、お父さんは。泣くんじゃないか。
 そう思うと手術がしたいとは言えなかった。
「どうか、どうか僕を助けて」
「勇気が、あればいいの?」
 彰浩が背を預ける扉の向こうで誰かが言った。
「勇気がほしい、僕は大丈夫なんだって思える力が欲しい」
「わかったよ、私じゃ無理かもしれないけど。みんなで考えてみるね」


● 勇気とはどこから来るんだろう

「ららら、なんであの子の事助けるの?」
 erisuは春香の歩みに合わせるために早歩きにになって追いついた。
「助けるってほどのことかなぁ、それに私があの子を殺すかもしれないよ?」
 そう困ったように笑う春香、春香は真っ白な病院の廊下を悠々と歩いていく。
「うーん、ほっとけなくて」
 春香はそう告げて立ち止まった。
「暗い部屋の中にいるのはつらくて、きついよ? でも時は流れてくんだよ。一番つらいのは、その長い時間自分が自分を責めることなんだよ」
 春香は思い出すかのようにポツリポツリとerisuに話して聞かせる。
「自分の中で自分が言うの。なんでここにいるんだろうって、ここにいていいわけないのに。って。戦わない自分を、勇気のない自分をずっと責めつづける。それはとても辛いよ」
 春香はペインキャンセラーの患者たちを定期的に見に病院を何度も訪れていた。あの少年とはその過程で偶然出会ったらしい。
 一緒にTTRPGをした。ゲームマスターは遙華だった。
「あの子、いっつもヒーローみたいな役をやるんだよね。誰かを助けたいって願望があるんだよ。いい子だよ」
 でも、他人を救いたいと願える勇気があっても、自分を救うために行動を起こすことはできない。
「でも、勇気なんてどうすればいいんだろうね」
「春香はどんな時に勇気が湧いたの?」
 そう告げるerisuを引き寄せて、春香はerisuを抱き上げた。
 そして頬ずりして春香は告げる。
「可愛い女の子が困ってるときかな」
「ららららら!」
 楽しそうに笑うerisu。
 くすぐったい、そうerisuはつぶやいて春香の顔を遠ざけて、そして告げる。
「だったら、春香が困ればいいの」
「さっき、まさに困って見せたよ。でもだめだと思うし、それに私が困ってるから手術をうける! なんてことにはならないよ」
「らら~。難しいの、TTRPGをずっとやるのは? ゲームの時は勇敢?」
「そんなの意味ないよ、ゲームはゲームだもん、それにTTRPGのキャラクターなんて、究極のところ自分と違うし……って、ん? それいいかも?」
 春香は突如、erisuを下ろして考え事を始める。
 頭の中でパズルが組み立てられていく。問題は彰浩の精神年齢だろうが。
 きっと大丈夫、うまくいく。
 そう思えた。
「彼の勇気をこの世界に具現化するんだ。頑張ろう!」
 その言葉にerisuは一緒に拳を突き上げる。
 二人の小さな人助けが始まる。


解説

目標 彰浩に勇気をあげる。

● 彼が作った自分のヒーローについて。
 今回皆さんにやっていただきたいのが、彼のヒーローをこの世界に具現化するというお芝居です。
 春香は考えました。TTRPGで作った自分のキャラクター。それは自分の願望の裏返しで、そこに彼の願いや思いがあるのではないかと。
 なので今回は、彼が作ったTTRPGのキャラクターにそっくりな皆さんに依頼を出して、彰浩の前で戦闘を演じていただきたいのです。
 今回、特に何か演じる必要はありません。今回の皆さんは彼が作ったヒーロー像にそっくりなのですから、皆さんの正義をつらぬきとおせばいいのです。
 そして、彼を説得してあげてください。
 生きるために立ち向かうことも必要だと信じさせてあげてください。
 今回はそんな任務です。
 では手順を説明します。

1 病院にヴィランに扮したグロリア社の皆さんが突入してくる。
2 彰浩がピンチに陥る。
3 そんな中皆さんが介入し彼を助ける。

 大雑把な流れはこんな感じです。
 ヴィランに扮したグロリア社の皆さんは簡単にやられますが、無限沸きです。あと皆さんのプランに合わせるので、細かな動きも可能です。
 あらかじめ伝えておいてください。
 そして悪役も募集中です。悪役で無いと伝えられない勇気もあるかもしれません。
 春香は今回彰浩の近くにいて解説役に回るようです、彼女にもオーダーがあれば言ってください。


 

リプレイ

プロローグ

「自分で決断できない人間に勇気を与える、ね」
「やる気がなくても一緒にやってね……」
『沢木美里(aa5126)』は心配そうに『浅野大希(aa5126hero001)』を振り返る。
「そんなちっぽけな人間を助けるのも面白いし」
「言葉をもうちょっと選んで。あと、変なことを言うのも控えてほしいんだけど」
 ここは病院の一室、たまたま開いていた団体部屋だが、ここを控室に使うようにと病院側から貸し出されていた。
 春香から依頼を受けて集まったリンカーたち。彼らはこれから少年に勇気を与えるという大舞台に立たなければいけない。
「あ~、どこかの野球選手みたいですね」
 話を再び聞きながら『雪ノ下・正太郎(aa0297)』は春香へそう頷いた。
「同好の士の命が危ないってならほっとけねえな、受けるぜ」
 ありがとうとつぶやいて春香は正太郎の手を取った。
「自分の行動が他人に勇気を与えるってこと、あると思うから。だから集まってくれたみんなには感謝だよ」
 そう半ば瞳を潤ませながら告げる春香に、厳しい言葉浴びせたのは『GーYA(aa2289)』
「心臓が止まる事もある病人にヴイランなんて刺激物を投入って、勇気がどうこう以前に発作起こして死ぬ可能性もあるんだってちゃんとわかってます?」
 その表情は穏やかに見えたのだが背後で怒りの炎がめらめらと燃えている。
 縮み上がる春香。あらあらとため息をつく『まほらま(aa2289hero001)』
「彼の命を背負う気概があるかって事ねぇ」
「あ、ある! あるけど」
「けど」
「私一人じゃ背負えなかった、だからみんなを呼んじゃった。ごめんなさい」
 そうしょぼくれる春香の肩を『柳生 楓(aa3403)』があわてて揺さぶった。
「まぁまぁ。そう落ち込まないでください。困ってる人を助けたいのはみんな一緒ですから」
「たまにはこういった夢を与える仕事もいいよね」
 『氷室 詩乃(aa3403hero001)』が場の空気を拭い去るように明るく告げた。
「そうですね。詩乃から貰ったこの勇気、杉田くんにもあげたいです」
「慰問ヒーローショーっていうのもまた燃えますしね」
 正太郎が告げるすると、春香は明るい表情を取り戻した。
「そうだよね!」
「杉田君にはちゃんと内緒にできてますか?」
 楓が尋ねる。
「うん! ばっちりだよ、私も姿を見せてないよ」
「じゃあ、最後の打ち合わせでも。753プロの本気見せてあげますよ」
 そう正太郎が告げると彼を中心に人が集まる。
 そんな背中を見守りながらG-YAは遠い日を伏せた視界に移していた。
「人工心臓に関してはグロリア社も関わってるのかしらぁ」
 まほらまの言葉にG-YAは弾かれたように視線を上げる。
「御見通し?」
 そのG-YAの言葉にまほらまは悪戯っぽく笑う。
「今回の件は何も心配いらないわ。お医者さんも、正規の心臓移植で失敗する確率もほとんどないって言ってたじゃない」
 二人はあらかじめ医師に確認を取りに行っていた。事前情報に間違いはないか。
 そこに優しい嘘は混じっていないのか。
「ほんの数%の可能性でも、命っていうのは、掛けるには重すぎるから」
 そうG-YAは胸に手を当てた。
 そこで動き続ける心臓、そこにはかつて別の心臓があったことを思い出しながら。

第一章 開幕は硝煙の香りで

 それは彰浩が飲物でも飲みに行こうかと病室の扉を開けた時だった。
 突如鳴り響く銃声。悲鳴。
 廊下を駆ける大勢の足音。
「いったいなんだ?」
 彰浩は首をひねる、先ほどから病院の様子がおかしいと思っていたのだ。ナースコールは機能しないし、何より静かすぎた。そこから今の騒ぎである。
 どうするべきか扉に手をかけつつ迷っていると、そんな彰浩の目の前に少女が躍り出た。
 『町田紀子(aa4500)』は手を取って彰浩を連れ出そうとする。
 その姿が自分のデザインしたヒーローに似ていて彰浩は目を奪われる。
「杉田君、こっちへ」
 そう手を差し伸べる紀子は『町田紀子(aa4500hero001)』と共鳴済み。
 いつものおどおどとした性格は中和され、堂々と落ちつきはらっている。その背のヒーローマントが揺れた。
「何が起きてるのお姉さん?」
 彰浩がその背中に問いかける。
「ヴィランが攻めてきたのよ」
 彰浩の手に力がこもる、その時だ。
 直後紀子が吹き飛んだ。床を転がる少女の体。あわてて駆け寄る彰浩。
「お姉さんしっかりして!」
 彰浩の鼻腔を突如鍵なれない火薬の香りがくすぐった。あわてて振り返る彰浩。その視線の向こうには『十六夜 月桜(aa5262)』が銃をゆっくり下ろしながら佇んでいた。その背後には『夜光(aa5262hero001)』が控えている、グローブをはきなおし、硝煙を息でかき消して、でも視線は彰浩に向けられている。
 その視線に彰浩は射すくめられた。さながら蛇に睨まれたカエルだろうか。
 二人とも黒のマントを靡かせて廊下をふさぐようにヴィランズを展開させ、二人の退路も行く手も阻んだ。
 彰浩は胸に手を当てて、呻きながら問いかけた。
「お前、誰だ」
「答える必要があるかしら?」
 獰猛な笑みを浮かべ月桜は微笑んだ。その表情に恐怖を覚え彰浩の表情が青ざめた。
「お前には人質になってもらう」
 そう夜光が告げると、夜光は矢のように廊下を駆けた。その素早さを彰浩は目でとらえられない。
 もうだめだ、そう思った瞬間である。
「悪の邪魔しに暫くと……」
 次いではじかれたのは夜光であった。夜光は少し滞空すると地面に足をつけ後ろに滑る。
 それを見た月桜が苦々しげに口元を釣り上げた。
 その音で彰浩が視線をあげると、そこに立っていたのは極彩色に染め上げられた異様な出で立ちの男。
「カブキリンカーただいま参上!!」
「カブキ……りんかー?」
「君のためのヒーローだ」
「俺の?」
 カブキリンカーと名乗った正太郎は少年を見返すと頭を撫でる。
 確かにその姿はカブキでよく見る主役のようである。実際それは彰浩が考えたことのあるヒーロー。正義の味方カブキリンカーであった。
「なんで! そんな、いるわけが」
「ヒーローなんて現実にいないって?」
 正太郎、いや、カブキリンカーは彰浩の前に立って高らかに宣言した。
「いないと思うからいないのさ、けど実際に君の思い描くヒーローはいた。だったら信じろよ。この世界は悪いことばかりじゃない」
「カブキリンカー……」
 少年は正太郎をヒーローだと認識した。そのつぶやきがこそばゆくて、少し体を揺する正太郎。
「叶えたい夢があるんだろ? 他人を助けたいならまず自分の体を助けろ、ヒーローは体が資本だぜ!!」
「何をしてる、やれ」
 そんな茶番を見送って夜光は手の者をけしかける。月桜の背後に控えていた黒づくめの男たちが一斉にカブキリンカーへ殴り掛かった。
 その男たちをカブキリンカーは手刀で切り倒し、踏込と同時に張り倒し、返す刃で分投げる。実際の舞台も真っ青の大立ち回りである。
 その光景を唖然と見つめている彰浩に月桜。
「あらあら、心も身体も弱っちい餓鬼が、ヒーローに頼るおつもり?」
「……身体だけではなく、精神までもが惰弱か。少年」
「仕方ねぇだろ! 俺は! だって!」
 言葉尻に力が無くなっていく彰浩。彰浩は紀子をちらりと見た。
「耳を貸す必要はありませんよ」
 そんな彼女はつぶやくと立ち上がり。彰浩の手を取る。
「お姉さん!」
 そのまま紀子は退路を塞ぐ黒服たちを弾き飛ばし突破口を開いた。
「逃げますよ」
 また手を取られ彰浩は走った。泣きながら、悔しくて仕方なかった。自分は何でこんなに情けないんだ。
 戦うこともできない、怖くて動けない、反論もできない。
 怖い、怖い、怖い。そればかりだ。
 今もカブキリンカーを敵のど真ん中に置き去りにしてしまった。敵が多すぎる。
 勝てるなんて思えない、でも置き去りにしてしまった。
 だが逃げた先にも追っ手は現れる。
 そして先回りしていた月桜も。
「袋のネズミね」
 その手の銃を乱射して月桜は紀子を吹き飛ばした。
「ああああああ!」
「お姉さん!!」
 壁に叩きつけられる体に何度も弾丸を撃ち込んでいく月桜。
 徐々に徐々に彰浩に歩み寄っていく。
「私もね、昔はあなたのように病室に閉じ込められてたわ」
 彰浩が目を見開いて、月桜に視線を向ける。
「でも回復した、あなたと違って病気に勝ってね」
 そう月桜はつぶやくとしゃがみこみ、彰浩のほっぺたをぺしぺしと叩いた。
「こうして元気にして居るのに、貴方は何故そんなに怯えているのかと」
「お前は運がよかっただけだ、俺は……死ぬかもしれないんだ! 」
「生意気ね」
 そう月桜は彰浩に銃口を向ける。だが弾丸は彰浩に放たれるわけではなく、廊下の無網の誰かに放たれた。
 その銃弾はおそらく当たらなかったのだろう。人ごみをうまく縫って対象には届いたようだが甲高い音がして、はじかれたことが分かった。
 次いで人ごみがさく裂するように吹き飛ばされる。『八朔 カゲリ(aa0098)』
いや『ナラカ(aa0098hero001)』の姿をしているから~神々の王を滅ぼす者~ナラカの凱旋と言った方が正しいだろう。
 そして取り巻きを吹き飛ばしたのをいいことに、美里が月桜に走り寄ってその手の槍を叩きつけた。
 雷光を顔に浴びながら月桜は告げる。
「うふふ、ヒーローの皆さん。残念でした。此の子はもうおしまい。一生自由の無い籠の鳥で居る事を選んだの。どうせ孤独の中で死ぬのだから、私達と貴方達で、最期のショーを魅せて差し上げましょうか」
「ふざけるな、彼は病にやられるためだけに生まれたんじゃない、外には広い世界が広がっているんだ!」
 紀子が体を引きずって起き上がり、月桜に体をぶつけた。
「私たちは苦難を乗り越えてきた。どんなに辛いことが合ってもあきらめなかった、そんな私達を作り上げたこの子が、そう感嘆に終わるはずがない。」
 その時楓が躍り出て、彰浩の手を掬う。
 そして見事に包囲網を脱出した。
「少年。運命を受け入れるのは正しい。だが、運命に逆らうのも又、正しい。結局は己の心に従うまでだ」
 ただその楓の目の前に夜光が現れる、そして彰浩少年に告げた。
「自身の心に嘘は吐けない。少年の羽ばたきたいと言う心の翼は折れていないだろう」
 追撃に夜光は回し蹴りを放つ、それを楓は両腕で防ごうとするが。かわりに美里が割り込んでその足を叩き落とす。
「精神論上等。信念が無いから病気になんて負けるのよ。私、貴方みたいなの大嫌いだわ」
「そうだな、同感だ」
 月桜の言葉を肯定するのはG-YA。月桜を圧倒するナラカの前に立ち。その手の大剣にてナラカの炎を切り飛ばす。
 次いで一瞬で美里へと距離を詰める。蹴りを腹部に叩きいれ。上げた足を下ろして肩を攻撃する。そのまま一歩踏み込んで刺突で美里を吹き飛ばし。円を描くように楓へと斬撃を加えた。
 あっという間に形成を逆転させてしまったG-YA。
 だがその背に追いすがるようにナラカが双剣を叩きつける。
「邪魔だなお前!」 
 G-YAが獰猛に告げた、だが等のナラカは涼しい顔をして、その刃柄浄化の炎をほとばしらせている。
 その背を彰浩はただただ見つめる。
 その背は少年には眩しすぎた。
――いけ。
 茫然とナラカを見据える少年に、言葉をかけたのはなんとカゲリだった。
「え?」
――逃げたければ逃げればいい。
 その言葉の意味が少年には分からなかった。だって今まで大人たちは逃げるなとしか言ってこなかったから。
 逃げることは罪だとした言ってくれなかったから。
――お前が選択し、それで後悔しないならいくらでも逃げればいい。
 ただ、そう呟いて、ナラカの瞳を介しカゲリは少年を見つめた。
「俺は違う。絶対に後悔したくない」
「いきましょう、杉田君」
 楓が手を取って彰浩を避難させようとする。
 視線をナラカに注いだまま、茫然と楓の手に引かれるまま彰浩は走り出した。
「覚者よ珍しいではないか」
 そんなカゲリに感心したようにナラカは語りかける
――そうでもない。
 そうカゲリは告げたきり、黙り込んでしまう。
 そんなカゲリがおかしくて、ナラカは少しだけ笑った。 

第二章 逃げの果て

 ナースステーションの影に身を隠す二人。楓が彰浩の頭を押さえつけて、足音が通り過ぎるのを待った。
 そんな手を振りほどいて彰浩はヒステリックに楓へと訴えかける。 
「なんで、何でみんなあんな危ないやつに向かっていけるんだよ」
「どうしたの? すぎ……」
「おかしいよ! こんなの俺が作ったヒーローじゃない、だって悪い奴らがあんなに怖いなんて知らなかった」
 楓はその手を取ろうと手を伸ばす。すると気が付いた。彰浩は震えている。
「俺は……俺はヒーローになんてなれない。こんな臆病ものじゃ。俺は……」
 そんな彼の表情を見て楓は手を収めるそして、意を決したように告げた。

「理由をつけて逃げてるうちはどんなものとも向き合えませんよ」

 その言葉に目を見開く彰浩。
「立ち向かうことは怖いですか?」
 彰浩はズボンのすそを握りしめて頷いた。
「怖いと思うことは当たり前のことなんです。重要なのはそこからどうするかなんです」
――まあすぐにどうこうできる問題でもないからね。それに決めるのは君自身。外野が何か言うべきじゃないから。
 そうあっけらかんと告げたのは詩乃。
――でも、ボクらは君の背中を少し押すことにしたよ。その為に特別にここに来たんだから。
「え? それってどういう……」
 詩乃の言葉へ言葉を返そうとした矢先、フロアに響いたのは。
 G-YAの声。
「見つけたぞ」
 G-YAはズタボロな体に鞭打って、ナースステーションの影から躍り出た楓に大剣を投げつけた。
 楓はそれを回避しようとするが肩口の布が巻き込まれ壁に縫いとめられてしまう。
 楓を無力化したことを確認してすぐにG-YAは少年に歩み寄った。
 そして胸ぐらをつかみあげて告げる。
「死を待つだけってのが嫌ならその心臓、切り刻んで今、殺してやろうか?」
「死にたくない、しにたくなんてない!」
 涙を流しながら暴れる彰浩。
「だって、俺が死んだらお母さんはどうなるんだよ。みんなは、そして俺は? 消えちゃうのか? こわいよ、こわい」
 そんな彰浩の額に頭突きをかまして黙らせるG-YA。
 きょとんとした彰浩の顔がG-YAの瞳に映りこんだ。
「9割も成功する希望があるってのに手術しないで現状維持がいいだって? 自分から絶望の檻に閉じこるつもりかよ!!」
 高らかに告げたその声が病院中にこだました。
「お前は俺達が違う次元の人間だと思うか!?」
「……思う! みんな俺とは違う、違うんだ」
「うるさい! 一緒だ!」
 また頭突きをかまして彰浩を黙らせるG-YA、さすがに彰浩も何かおかしいと思って首をひねる。
 だが考える暇は与えられないようだ。G-YAが言葉を続ける。
「俺は結果的にリンカーになって彼が夢見たヒーローのような事はできるけど」
 G-YAは思う、これまで歩んできた道、おもえば自分には過ぎた幸福だったかもしれない。
 胸の心臓がちくりと痛む。
「あの時の俺は自殺未遂もしたし死ぬのを待つくらいならって異世界の奴に殺されて別の世界へ希望を求めるしかなかった」
「自殺? なんであんたみたいな人が」
「それはな、身体は死んでも心は生きようと足掻いた結果なんだ。けどそれは逃げにしか見えなかったろう」
 G-YAは少年からゆっくり手を離すと。背後を振り返る。階段の奥から月桜。そして廊下の奥から夜光が歩み寄ってくるのが見えた。
「それは本物のヒーローじゃない」
 そう告げてG-YAは月桜と向き直った。
「お前の方がきっとヒーローになれる」
「どういうつもりかしら?」
 月桜がそう尋ねるとG-YAは声を張り上げる。
「気が変わった、戦うよアンタと。こいつを守るために」
「ぼろぼろのその体で?」
「たった一人少年を守るために戦う?」
 二人はそんなG-YAをあざけり笑った。
 だけど。
「いや、一人じゃない」
 
「……まけるな! ヒーロー」

 少年は力の限り叫んだ。G-YAは嬉しそうに微笑んで彰浩に尋ねる。
「もう、泣きつかれたか?」
 その言葉に小気味よく月桜は笑った。そして夜光と視線を合わせると掛け合うように告げる。
「……人は平等じゃないのよ。でも……」
「平等を謳う輩を殴りつけてでも、前に進む気は無いのか」
 その時である、階段の向こうから、食道へ続く廊下から、背後の通路から。
「不平等に生まれた貴方」
「信念はあるか。ならば、進め」
 体を傷だらけにしたヒーローたちが歩みをすすめ、こちらに向かってきた。
「死ぬのが何よ」
「彼等ヒーローは」

「「命を賭けて君を助けに来た!」」

 全員がまだあきらめていない。

「立ち向かうことは怖い、逃げだしたい、その気持ちはわかります。私もそうでした。でも、立ち向かうことから目を背けても何も変わらないんです。勇気を持って、1歩踏み出してみませんか? そうすれば、貴方はきっと変われます」
 楓は肩口の布を先、彰浩を守るように前に立った。
「うん」
「誰かを助けれる勇気があるのならそれを少し自分に回すだけでもいいんです。もしくは誰かに支えてもらう、1人で立ち向かう必要は無いんです」
「うん」
――勇気が出ないことは悪い事じゃないよ。重要なのはそこからどうするかさ。立ち向かうことはそう難しい事じゃないよ。まずは1歩、続けて2歩、3歩と歩いていけばいつの間にか立ち向かえてるからさ。それに、歩き続けたあと振り返って見たらなんだ、こんなものなんだっていつかは笑えるからさ。
 詩乃の言葉を遮るように背後の窓を破って黒服の男たちが侵入してきた。
 それめがけ楓は走る。同時に戦闘が始まった。フロア全体がどったんばったんと大騒ぎに包まれる。
「その表情……答えが出たようじゃないか」
「うん、わかったよ、みんなが俺を心配してくれたこと」
 その言葉にナラカは苦笑いを浮かべた。
「おや、もしかして、茶番が全て……」
 その言葉に彰浩は答えない。ただ首を振って言葉を遮った。
 それにナラカは罰が悪そうに頬をかく。
「まぁ、このまま冷えて逝くと決めたのならばそれも良かっただろう――されど。汝の魂は、それを良しとはしておらぬ」
「そうなのかなぁ」
「そうだな、我等のような“ひぃろぉ”を思い描いた時点で明白であろう」
 そのナラカの言葉に彰浩は、そうだね、と苦笑いを返した。
「勘違いをしてはならない。勇気とは特別な者が持てるものではないのだよ」
 ナラカはその場にいる全員を指さす。
 ここにいるもの達は、大小の違いは有れど困難を乗り越えてきた者達ばかり。
 ナラカの好きな人種である。
 だからこそ、彼らにあこがれの眼差しを抱く少年がなんだか可愛らしく思えた。
「人は誰でも、諦めなければ夢は叶うと信じているもの。
易きに流れず胸を張るが良い、それでこそ汝は汝の人生を踏破出来る。
そしてそれこそが勇気であるのだから」
 そう告げてナラカは大乱闘に加勢する。
 その戦いは結局、彰浩少年が満足するまで展開され、彼の大笑いによって幕を閉じることとなったのだが。
 その時には全員ぼろぼろの傷だらけで。
 逆にベットに転がされる羽目になってしまった。

エピローグ
 一番怪我の軽かった美里は自分の腕に包帯を巻くと彰浩の頭を撫でて告げる。
「立ち向かうことって怖いし、うまくいくような人生じゃないかもしれないけど、生きるってことはたぶん、美味しい? みたいなことだから、不味くしちゃうとよくないです」
「美味しいかどうかはよくわからないけど。でもなんだかもう大丈夫だよ。怖がってたのがばからしくなってきた」
 そう少年はあたりを見渡すと。
 ベットの上で呻いているリンカーたちを見て笑った。
「カブキリンカーの人にも伝えてよ」
「なにを?」
 美里が首をひねる、すると彰浩は告げた。
「手術受けるってこと。」
 その後一週間ほどが経過してリンカーたちのもとに連絡が届いた。
 その連絡に反応して真っ先にお見舞いに向かったのがG-YAである。その病室で思いのほか元気そうな彰浩は笑って告げた。
「みんなびっくりするくらい演技下手だったな」
「これでも、ちょっと得意なつもりだったんだけどなぁ」
 そう肩をがっくりおとして、まほらまに笑われるG-YAであった。
 だがそんなG-YAもすぐに顔をあげて、真っ直ぐ彰浩の顔を見た。
「死の恐怖と闘う決意をしたお前は同じ病気の子達の希望(ヒーロー)なんだ
ヒーローなら苦い薬やリハビリなんかに、負けてられないよな?」
「うん」
 そうして病室を後にするとそこには春香が立っていた。
「入らなくていいのか?」
 そのG-YAの言葉に春香は首を振った。
「いいのいいの、もともとそんなに面識あるわけじゃないしね」
 面識があるわけではないのになぜ助けたのだろう。そうG-YAは思ったが聞かないことにした。まほらまを連れ立ってG-YAは病院を去ろうとする。
「ねぇ、G-YAさん」
 だが春香がその背中を呼びとめた。
「G-YAさん、特に熱心だったね。あの子のために、なんで?」
 G-YAはすこし上に視線をそらしてそして振り返らずに告げる。
「俺も同じだったからな」
「え?」
 その疑問符に答えたのはまほらま。
「心因性の発作で倒れた事が一度あったけれど完全に適応してるから心配ないわよぉ」
「ん?」
 ハテナマークをうかべたままの春香を置いて二人は外に出た。空には大きな入道雲が見える。もしかすると一雨くるかもしれない。
「ねぇホープに登録したGーYAって変な名前の由来って?」
 そのまほらまの問いかけにG-YAは少し迷いながら言葉を返す。
「俺の人工心臓のナンバー…ってまほらまと同じ大切な相棒なんだから変って言うなよ」
「相棒……ねぇ」
 告げて二人は歩き出す、果てなき未来、その先へ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 敏腕スカウトマン
    雪ノ下・正太郎aa0297
    人間|16才|男性|攻撃



  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • エージェント
    町田紀子aa4500
    人間|24才|女性|攻撃
  • エージェント
    町田紀子aa4500hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • オーバーテンション
    沢木美里aa5126
    人間|17才|女性|生命
  • 一つの漂着点を見た者
    浅野大希aa5126hero001
    英雄|17才|女性|バト
  • H.E.R.O
    十六夜 月桜aa5262
    人間|40才|男性|生命
  • H.E.R.O
    夜光aa5262hero001
    英雄|34才|男性|ジャ
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