本部

我々は大勢であるが故に

影絵 企我

形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/06/23 17:38

掲示板

オープニング

「いきなりですが任務の説明を行います。ここ最近、畑が襲われる事件が数回起きているようです。警察からの要請内容からすると、日中からミーレス級相当の従魔が大量に押し寄せ、作物を荒らすだけ荒らして去って行く模様です。これが提供された定点カメラの映像です」
 オペレーターはそう言ってプロジェクターに映像を映し出す。畑に降りてくる不届きものを成敗しようとする猟師や警察が、大量の猪豚が押し寄せるのを前にして打つ手無く撤退させられている。
「この映像の中に見えるだけでも30体はいるものと考えられます。これほどの数の従魔が一斉に行動する事はそう多くありませんので、この従魔軍団は上位の存在によってコントロールされている可能性が高いです。デクリオ級、場合によってはケントゥリオ級の可能性もあるでしょう。現に、プリセンサーからの通達によればその脅威度に類する存在の襲来も察知しているとのことです」
 オペレーターは君達の方に振り返る。同時にプロジェクターの映像は塗り変わり、戦力図を映し始める。
「そもそも山盛りの従魔を相手にすること自体が並大抵の任務ではありません。畑を守りながらの戦いなので、迅速な措置も求められます。もちろん自分で畑を駄目にしてはいけないのでその点も注意してください」

 かくして山村に送り出されたエージェントは、折良く襲撃してきた従魔の軍団と出くわした。従魔に侵された猪豚は、まるでファランクスやテルシオのように列を揃えて畑に侵入してくる。そして顔を土に突っ込み、作物を根こそぎに食らってしまう。
 それはまるでフェーデ、統制された略奪の相を呈していた。獣のようにただ食い散らかすのではなく、隅から隅まで綺麗に潰そうとしていた。このまま最早一刻の猶予も無い。エージェント達は武器を取り、隊列を整えた猪豚に向かって駆けだした。 

「……」
 山の中、一際高い木の天辺に立ちそれは黙想を続けていた。黒い和装は金糸に彩られ、獅子の鬣のようなざんばら髪は腰まで伸びている。そしてその顔は、顔の模様も、覗き穴さえも無い奇妙な狐面に覆い隠されていた。
「……匂いがする」
 その愚神――騒速は呟く。全身の筋肉が歓喜に震えた。
「強者の匂いだ。どこにいる……」

解説

メイン レギオン30体を撃破する(やや易しい)
サブ 畑の損害率を50%以内に抑える(やや易しい)
EX 騒速にいくらかのダメージを与えて撤退させる(普通)

エネミー
レギオン(猪豚)×30
畑を食い散らかす従魔。単体では大したこと無いが、集団でもまあ大したことはない。しかしやたらと防御力は固く、耐えて畑を荒らし続ける妙な根性を持っている。
・脅威度
 ミーレス級(一個体への評価)
・ステータス
 防御B 他はC以下
・スキル
 密集陣形
 パッシブ。10体以上が並んでいる状態で発動。範囲攻撃のダメージを50%軽減させる。
 略奪
 畑を破壊する。一体につき1%。

騒速
強さを追い求めているという愚神。敵のスキルを相殺する妙な能力を持っている。
・脅威度
 ケントゥリオ級
・ステータス
 不明
・スキル
 見取稽古
 特殊。使用されたスキルを習得し、自在に操る。
 相殺
 リアクション。発動されたスキルと同じスキルを自分が持っている場合、その回数を消費して発動を無効にする。
 発破
 リアクション。生命力を5消費して発動。受けたBSを解除し、直前に受けたダメージの半分の値だけ生命力を回復させる。
・今回の出現条件
 攻撃範囲が「範囲」となっているスキルを使用する。

Tips
・レギオンを率いているのは騒速ではない。PCが勘違いするのは自由。
・レギオンは範囲攻撃には強いが、一体一体引っぺがされる攻撃には弱い。
 →とは言ってもミーレス級の能力ではたかが知れている。ゴリ押し上等。騒速を呼びたいなら使おう。
・今回のフィールドは畑。カチューシャ等ぶっ放して自ら畑を崩壊させないように注意。

フィールド
→→□□□□□□
→→□□□□□□
→→□□□□□□
→→□□□□□□
→→□□☆☆□□
(一マス3×3sq)
→……レギオン×3
☆……エージェントの行動開始地点
□……畑。レギオンやエージェントの配置地点も畑。

リプレイ

●実りを喰う従魔
「猪豚の大軍か……数ってのは纏まると厄介だが、どうしたもんか」
 リィェン・ユー(aa0208)は鼻先をずらりと畑の前に揃えて突っ込もうとしてくる猪豚軍団を見渡し呟く。どうせなら山盛り従魔のシチュエーションを生かしたいところだったが、そんな彼をイン・シェン(aa0208hero001)はせっついていた。
『うまく倒して依頼後は肉祭りじゃぞ』
「いやそれは構わないが……まずはどう倒すかをだな……」
『リーよ、そんなこと妾らが悩むようなことではない』

「防衛戦の肝は、防衛線の中に入れさせない事だ」
『広範囲の面制圧を自陣内で行うのは危険が伴いますからね』
 迷う相棒を尻目に、赤城 龍哉(aa0090)はBR小隊の新米隊員を前にし飛び上がった。
『見ていてください、ヴァルキリーレイン!』
 放たれたヴァルトラウテ(aa0090hero001)の声に合わせ、小型ミサイルの雨が降り注ぐ。今まさに畑に突っ込もうとしていた猪豚軍団の後背が、爆風に煽られ跳ね上がった。
「いいねぇ。派手な攻撃は見栄えがするぜ」
 キャルディアナ・ランドグリーズ(aa5037)はその一撃に合わせて畑の中へ足を踏み入れ、隊列を整えようとする猪豚に向かって銃口を向ける。
『玉葱を踏まないように気を付けろよ……』
「んなこたぁ、わかってるっての!」
 ツヴァイ・アルクス(aa5037hero001)の忠告を適当に聞き流し、黄の光を曳く弾丸を撃ち込む。脳天に突き刺さった猪豚は甲高い悲鳴を上げ、その場に仰け反り斃れた。

『迷っていては周りが全部やってしまうぞ。血気盛んな奴らばかりなのじゃから』
「……だな。今回は先達としてしっかりしたところを見せてやりに来たんだ」
 早速攻撃を始めた相棒や後輩達に引き続き、リィェンもまた畑に足を踏み入れた。畝を俊敏に飛び越え、奥の隊列へと一直線に向かっていく。
「そんじゃあ、豚狩りだ」
 神斬を横に振り薙いで衝撃波を飛ばし、先陣を切る猪豚を突き倒す。翻った彼は、背後に立つ後輩と、後輩“候補”を見渡す。
「先頭を崩すんだ。死体の山で行く手を塞いでやれば相手の動きも滞る」
「わかったど。むつかしい事考えんで刀ば振るえっちゅうんじゃな!」
 鎧武者と化した島津 景久(aa5112)は、鎖鋸の巡る奇矯な大太刀を担いで駆ける。桜色の陣羽織がふわりと揺れた。新納 芳乃(aa5112hero001)の変じた姿だ。その背後では、氷鏡 六花(aa4969)がパラパラと魔導書をめくっている。そんな彼女を、アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)はそっと励ます。
『(この数か月……六花は氷雪の扱いの修練に一生懸命励んできたわ。氷雪魔法に限れば、右に出るエージェントなんてそうそういないわ。だから、今の六花なら、ミーレス級如き強引に押し切れるはずよ)』
「うん、やってみる!」

『キャルディアナ様、援護お頼みします』
「おう、任しときな。あんま気ぃ張んないで気楽に行けや」
 キャルは銃を構え、次々に畑に押し寄せてくる猪豚を弾丸で牽制する。
「ひっ跳ぶど!」
 高々舞い上がった景久、血のように赤い闘気がその身を包む。
「猪ん首なぞ要らぬ! 唸れ、鎖鋸大刃!」
 重い唐竹割りは、猪豚の頭蓋を砕いて真っ二つにした。脳漿を撒き散らし、猪豚はその場に崩れて痙攣する。それを乗り越えようとする新たな猪豚には横薙ぎを見舞い、その足を唸る刃で削ぎ落す。
『夏野菜を荒らす従魔、許すまじ!』
「……力ば示せれば、それで良か」
 景久は野菜が嫌いだ。今も漂う玉葱の匂いで気分が悪い。それを血の臭いで掻き消さんかのように、景久は一層荒々しく刃を振るう。

「……さぁ、凍り付いちゃいなさい!」
 その隙に高速詠唱を終えた六花は、氷の鏡を無数に撒き散らす。そこに向かって投げ込まれた絶対の凍気は猪豚を凍りつかせ、カチカチの肉に変える。

『(猪豚の氷〆か……美味いんだろうか)』
「そんな事よりもまず、こいつらを何とかしないとね」
 食に貪欲なテトラ(aa4344hero001)の呟きをさらりと流し、杏子(aa4344)は刀を構えて畑へ飛び込んだ。鯉口を切った瞬間、蒼い光が溢れる。
「これで薙ぎ払う!」
 雪化粧の施された刃を抜き放つと、俄かに大量の刃がいずこからともなく現れ浮かび上がる。彼女が突っ込むのに合わせ、刃は従魔の群れに向かって殺到する。その様は季節外れの吹雪だ。身を寄せ合って凌ごうとするが、矢面に立たされた面子は堪らない。文字通り串刺しにされて斃れた。
「やれやれ、畑に気を払いながらというのも大変だねぇ……」

『こいつら……統率されてるにしてもまるで機械みたいだな。ぶっ飛ばされてもぶっ飛ばされても、怯えもしないで起き上がってきやがる』
 カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は畦道にヘパイストスをでんと広げつつ、ぽつりと呟く。仲間の屍を乗り越え、猪豚は畑へと今まさに乗り込んでいた。御童 紗希(aa0339)はふむと呟く。
「操ってるのはケントゥリオ級くらいの敵じゃないかって、プリセンサーの人が言ってたらしいよね。……こんな事させる意味あるのかな?」
『嫌がらせだろ? 根性曲がった奴の仕業だよ』
 後背の従魔に目掛けて銃弾を浴びせる。硝煙が漂い、撃ち抜かれた豚は崩れ落ちた。

「……猪豚、ね。いくら繁殖しやすいとはいえ、多すぎるのじゃないかしら」
『もう大半は虫の息のようですけど……』
 鬼灯 佐千子(aa2526)は目覚まし時計の針をいじりながら呟く。今日はSFフィクションもかくやのサイボーグスタイルではない。特別に袖の長い、ゆったりとした旗袍を着込んだ彼女は、その髪も燃えるような紅では無くしっとりとした茶色である。それもそのはず、ノーニ・ノエル・ノース・ノース(aa2526hero002)と組んでの初陣なのだ。
「隊列まで組んで妙に組織的なのが気掛かりね。犠牲も気にしていないようだし……」
『種の繁栄より、人里への被害を優先しているような趣を感じます』
「ただ本能で動く従魔にしては、随分と不思議な動きね?」
 佐千子は目覚まし時計「デスソニック」を投げつける。猪豚達のど真ん中に突き刺さった目覚まし時計は、ジェットエンジンのような爆音を突如として響かせた。豚が耳を塞ぐことなど出来ない。爆音をもろに喰らった豚は、悲鳴を上げてその場に縮こまる。しかし、爆音に巻き込まれなかった豚は構わず畑に乗り込み、玉葱を食い漁る。
「んんん……余所から指揮を執っているのじゃないかと思ったんだけど」
『どうやら音で操っているというわけではないようですね』
「なら、一体何だって言うのかしらね……」
 奇妙な豚達に違和感を覚えながら、佐千子は“ハチドリ”を取り出すのだった。

●技を喰い、魂を喰う愚神
「プーギー……」
まさに鎧袖一触、エージェント達が武器を少し振るっただけで猪豚がただの肉の山に変わっていた。畑の作物にもほとんど手が付けられていない。足元の猪豚を蹴っ飛ばして一か所に追い込み、リィェンは六花の様子を窺う。
「止めを決めるぞ。行けるか、氷鏡」
「はい! ……これで、おしまい!」
 六花はオーロラの翼を煌かせ、白雪を周囲に呼び起こす。吹き寄せる氷の風は、容赦無く猪豚の血肉を凍らせ、鮮度たっぷりのまま死に至らしめた。後に残るのは、従魔の支配から解き放たれたジビエの山。その光景を見渡し、芳乃はしみじみと呟く。
『黒玉の 牡丹ぞ散りし 夏畑』
「季語はどいじゃ」
『あ……。私もまだまだ、ですね』
 景久の指摘にバツの悪そうな口ぶりの芳乃。やれやれと彼が肩を竦めた時――

「全てを氷に包む魔法か」

 空高くから声が響き渡り、黒い影が真っ逆さまに降ってくる。陽の光に当てられ、その身に纏う金の刺繍が竜の鱗のような輝きを放った。
「その力、我が前に示せ!」
『危ない!』
 大太刀を抜き放った黒い武者。アルヴィナは咄嗟に飛び退いた。振り下ろされた一撃は、コンクリートの畦道を脂身のようにさっくりと切り裂く。その顔を覆うは無貌の狐面。その姿を見た瞬間、カイの顔が歪んだ。
『ソハヤぁっ!』
 神斬を抜き放ち、一足跳びに懐へ突っ込む。相手がペースを作る暇など与えない。
『このお面野郎! よくも盛大にコケにしてくれたな!』
 一気呵成の一撃、騒速もまた刀を上段に構えて振り下ろす。仰け反りそうになるところを、騒速は両の足で踏ん張りどうにか堪え凌いだ。
「お前は、あの時に刃を合わせた者か。再び逢えて嬉しく思うぞ」
『うるせぇ。ここに都合よく現れるって事は、従魔の群れもお前の仕業か? 戦う以外興味ないと思ってたが――』
「私は強者の霊力を感じ取りここに来たのだ。従魔がどうしたというのか」
『ああそうかい! そいつは悪かったな!』
 己のペースを貫く騒速に舌打ちしながら、カイは大剣を振るって間合いを切る。荒れる相棒を、紗希は困ったような口調で窘めた。
「カイ、落ち着いて」
『心配すんな。俺は今、これまでに無く冷静にキレている……!』
「キレてるんでしょうが!」

「なるほどね……あいつがカイの言ってた、“武の頂を目指す”だのって吼えてる愚神か」
「言ってくれるぜ」
 凍り付いた猪豚の死体を畦道に放り投げ、リィェンは首を傾げた。その隣では、龍哉が既に闘志を燃やし始めている。彼もまた、武の頂を目指す者であった。
『ここは奴の実力を試してみるべきですわね』
「ああ。何か分かればいいが……」
 ザンバーを八相に構え、銀の鎧を閃かせて龍哉は騒速の脇から斬りかかる。一気呵成の一撃。振り返りざま、身を沈めた愚神は大太刀を下から切り上げその一撃を受け止める。
「貴様、強者の気迫に満ち溢れているな。……乗り越え甲斐がありそうだ」
「俺も未だに道半ばなんだ。お前なんかに先を越させやしねぇよ!」
 力任せにザンバーを押し切ると、騒速は素早く背後に飛び退く。そのまま脇に構えて沈むその姿は、武者修行の中で古今東西数多の武術を目にしてきた龍哉をして首を傾げさせる。
「(違うな。どれにも似てるがどれとも違う)」
『(構えが、ですか)』
「(いや。繰り出してきた技もだ。見た事ないのに、あるような気にさせられる……)」
 じりじりと間合いを寄せては引きを繰り返すカイと龍哉、それから騒速。その姿を見つめ、ノーニは佐千子に尋ねる。
『この者は……愚神ですか?』
「ええ。ソハヤと言ったかしら。豚が全滅したからいいけど、面倒な奴が出てきたわね……」
 プロテクトフィールドを取り出し、首に下げる。愚神が顔を向けぬうちに、彼女はライヴスの風をその身に纏う。浮かべたハチドリが、小さな鳴き声を上げ始めた。

「気を付けて! その敵はダンシングバレットも使えるはずよ!」
 神斬を担いで突っ込むリィェンに向かって六花が叫ぶ。
「そうだったな。援護を頼むぞ」
 しかし、肉を切らせて骨を断つ事も厭わぬ彼はそれを聞いてもなお大胆だ。カイと龍哉の間を割り、切っ先を騒速に向けて突進を見舞う。騒速は右腕を振るってその突進の矛先を逸らし、一気に鍔迫り合いへと持ち込む。無貌の面に彼の表情の全てが隠れているが、柄を握る手の力は、明らかに強まっている。
「貴様も強いな。……だが私にはわかる。貴様は出し惜しみしているな。己の全力を」
 苛立っているようだ。だが、わざわざペースに乗る謂れも無い。リィェンは鼻で笑ってみせた。
「はん、目ざとい事で。悪いが、俺には敵を育ててやる趣味は無いんでね」
『切り札をねだるなら先に、貴様が切り札を切ってみたらどうじゃ』
 リィェンが飛び退いた瞬間、六花がふわりと跳びあがる。彼女の翼は虹色に輝き、大量の氷柱が彼女の周りに次々と作られていく。
「逃げ切れる?」
 放たれた氷柱は騒速に降り注いだ。戦士達に囲われては逃げる事もままならず、彼は自らの身を庇う事しか出来ない。その隙に、佐千子の放った無数の細い玻璃が彼の周囲を取り囲む。
「さぁ、これなら避けきれないでしょう?」
 ハチドリの鳴き声が、辺りに甲高く響き渡った。次々に放たれる光線が、顔や胸に突き刺さる。それでも騒速は怯む様子一つ見せない。ひたすらに耐え忍んでいた。
「貴様ら。それで私に勝てると思っているのか。私を倒す為には己が力を全て引き出すなど必要無いと?」
 滲み出る失望と怒り。しかしここで取り合うつもりもない。愚神が勝手に揺れて、集中を乱すならそれに越したことは無い。刀を中段に構え、杏子は騒速と対峙する。
「そうは思わないさ。ただ私はリンカーや愚神としてじゃなく、剣客としての私とお前、どっちが強いのか試してみたくてね。どうだい、一戦……!」
 摺り足で杏子は愚神に迫る。その動きはまるで氷の上を滑るかのように速く、無駄がない。愚神は八相に構えると、一歩先へと踏み出す。
 騒速の振り下ろす袈裟切りを叩き落とし、そのまま喉元へ向かって突きを放つ。しかし愚神は首を捻ってその一撃を避け、構えを取り直す勢いで杏子の刀を弾く。崩れた京子は、素早く懐へと飛び込み鍔迫り合いへと持ち込んだ。
「へぇ、強さに貪欲なだけはあるねぇ。地力も中々のもんだ」
「そう思うなら、貴様の秘めたる力を見せろ。すぐにだ!」
 騒速は叫ぶが、その脇から再びカイが押し込みにかかる。隙を狙った一撃。再びの一気呵成だ。しかし騒速は強引に杏子との鍔迫り合いを切り、その勢いを乗せて刃をカイに向かって振り抜く。
「……そうか。貴様の入れ知恵か。己の足を止めてでも、我が道を塞ぐか!」
『なぁに怒ってるか知らねぇけど、人の技奪い取るだけで、本当に強くなれるとでも思ってんのか? それで満足なのかよテメェは? ……そうじゃねぇだろ』
 言い終わるか終わらぬかの内に、リィェンと龍哉が同時に突っ込む。神斬にありったけの力を籠め、リィェンが愚神に向かって振り下ろす。地を砕くほどの一撃をどうにか躱したそれに向かって、リィェンの肩を跳び越えた龍哉が一瞬で迫る。
「こいつで、四打目だな!」
「ぬぅ……!」
 騒速は武器を構え直し、ライヴスを纏って弾丸のように龍哉へ突っ込んでいく。しかし龍哉の一撃はその突進を真正面から叩き落とした。畦道を転がり、愚神は用水路にその身を浸す。その姿を見下ろし、インは呟く。
『今のはストレートブロウじゃな』
「一気呵成が使えなくなって、悪足掻きに来たってところか」
『打ち消す回数には限界があるってわけか。……さぁ。どうすんだよ。お前にだって、お前自身の技があるんだろ?』
 カイは挑発を続ける。総髪を濡らした騒速は跳び上がり、畦道へと戻る。
「私自身の、技か」
 身を低くした瞬間、騒速は風となった。大太刀を鋭く振り抜きながら、カイ、杏子、龍哉、リィェンを次々に切り裂いていく。そのまま躍りかかった騒速は、刀を構えて様子を窺っていた景久に鋭い蹴りを見舞った。身構えてはいたものの、景久はその重みに耐えきれず僅かによろめく。
「ぐ……」
 怒涛乱舞を叩きつけた騒速は、刀を強く握りしめて呟く。
「武の道とはそもそも守破離。師の技を盗み、己の血肉と変える事ではないのか」
 振り返り、騒速はカイにその面を真っ直ぐに向ける。
「故に私は学ぶのだ。貴様達の技を。貴様達の精魂込められた技を。その技を己の内にて己の技に昇華させる。それは即ち、貴様らの魂が私の魂へと融け込み、私となるという事だ」
 刀が薄らと光る。その色は、紗希が左目に宿す光と同じ色。
「……即ち私の技は全て私の技。魂。貴様の問いは愚問だ。カイ=アルブレヒツベルガー」
『お前……俺の名前を――』

「人んことば蹴っ飛ばして、無視を決め込むとはいい身分じゃのう」

 そこに一人の鎧武者が割って入る。それは共鳴を解くと、二人並んで真っ直ぐに騒速を見据える。
「名乗れ。攻めかかったんなら、まず名を言え。それが士の道というもんじゃ」
「我が名は騒速。大和が蝦夷を制したが如く、全ての武を制し、その頂に立つを目指す者」
 士道の言葉に反応した愚神は、刀を鞘に納め、正立して軽く頭を下げる。それに合わせ、景久と芳乃も礼を返す。
「薩摩の出、H.O.P.E所属島津景久」
『同じく、新納芳乃』
 刹那、二人の身は融け合い、桜の陣羽織を纏う一人の鎧武者へと変わる。
「力比べじゃ。行くど」
 抜き放ったチェーンソーが唸りを上げる。切っ先を天へ突き上げる、上段とも八相ともつかない奇矯な構えで景久は突っ込んでいく。グングニルを取り、そんな若武者にキャルは声援を送った。
「バックアップは任せとけよ! 治せる限りは治してやる!」
 猛然と突っ込んでくる景久を、騒速は霞の構えで迎え撃つ。
「蜻蛉の構え。成程、薩摩の生まれに相違ないか」
「そん首、寄越せ!」
 一気に振り下ろされる刃。左の籠手でそれを受け止めた騒速は、身を翻して回し蹴りを見舞う。伝わる痛みも、燃え盛る闘気が麻薬に変える。面頬の奥に血走った眼をぎらつかせ、思い切り身を捻る。
「鬼の血が滾っど。俺ん手柄にばしちゃる……そん首寄越せ。そっ首!」
 首を目掛けて刀を振り抜く。身を逸らして騒速はそれを躱すが、そこへ槍を構えたキャルが迫る。
『その脚、貰い受ける』
「喰らってみるかぃ? 必中の名は伊達じゃないんだぜ!」
 騒速がキャルの方を見た時には、既にその身を弓なりに逸らしていた。
「刺し穿て! グングニル!」
 鋭く投げ出されたグングニルの穂先は、寸分の狂いも無く騒速の脚絆に突き刺さった。しかし騒速はたじろぐ事も無く、その足を払って槍を撥ねのけてしまう。
「賢い手だ。……だがまだ力が足りてないらしいな。もう少し鍛錬するがいい」
 騒速は身を翻し、一気に跳び上がって畦道を離れようとする。そこに撤退の色を見た景久は、その背を追って太刀を振り上げる。
「逃がすが!」
「……」
 地面に降り立った騒速は景久の一閃を籠手であっさりと受け止めた。しかしその切っ先に光る銃口が、騒速の顔面をぴたりと狙っている。
「かかった!」
 放たれる銃弾。さしもの荒武者も大きく仰け反った。面が罅割れ、奥から金色の光が溢れる。
「……はっは」
 低い笑い声。不意に突き出された左手が景久の首を掴み、高々と突き上げる。
「弱いな! ……貴様はまだ弱い! だがすぐに強くなる。強い眼をしている! これはいい! 良い者に出会った!」
 騒速は思い切り景久をキャルに向かって投げつける。罅割れた面、目元の欠片が落ち、奥から金色の瞳が露わになる。瞳孔の細い、獣の瞳だ。
「その時を楽しみにしているぞ。薩摩隼人よ」
「ぐぬ……」
 景久はすぐに起き上がろうとするが、脇腹に燃えるような痛みを感じて呻く。抱き留めたキャルは首を振り、ツヴァイが冷静に諭す。
『肋骨に罅が入ってる。今は無理だ』
「くそぅ……」
『おい、待て!』
 カイは剣を担いで騒速に迫る。満ち足りた笑みを浮かべていたらしい獣は、突如激しい憎悪を宿らせカイを見据える。
「貴様もだ。次は貴様の全てを晒して貰うぞ」
 左手から輝く寸鉄を取り出し、地面に叩きつける。眩い閃光が放たれ、次の瞬間にはもう跡形も無く愚神は消え失せていた。

●豚を食うエージェント
「従魔が抜けてりゃ大丈夫か? これ」
『……氷鏡さんが一瞬で締めてくれたから鮮度は抜群ですわね』
 龍哉とヴァルトラウテは揃って猪豚肉の処理を始めていた。血を抜き、皮を剥ぎ、どうにか食べられそうな形にしていく。
「というか、村の人総出でも食いきれないぞこれ……どうするか」
『いざとなったら凍らせてH.O.P.Eに持ち帰ればいいですわ』
「臭くなってそうだなその頃には……」

『さぁ、今は食うのじゃ! 後の事は食ってから考えるのじゃ!』
「鍋にステーキ、生姜焼き。色々と作り甲斐がありそうだな」
 調理器具を広げ、解凍して皮を剥いだ肉を捌いていくリィェン。その隣では杏子が一升瓶を手にしている。
「臭み抜きならお酒が一番でねえ」
『そんなに要らないだろ……』
 一方、リィェンに向かい合うような形で潰れ気味の玉葱と格闘しているのはノーニである。それなりの手捌きでみじん切りや柵切りにしていく様子を見つめ、六花は尋ねる。
「ん……お上手、なんですね」
『私の周りにいるのは鋼の料理を作る人と三食レーションでも十分って人ですから……』
「ああ、そうだ氷鏡」
 切った肉を鍋に突っ込みながら、リィェンは六花の方を見た。
「うちの戦い方、どうだったかな?」

「おし、大体こんなもんだろ」
 キャルは景久の肩を叩く。共鳴して景久の応急手当をしていたのだ。ぼんやり空を見上げていた景久は、目をかっと見開いて不意に叫び出す。
「もーっ! いもっ! いももッ!」
「お、おう。どうした」
『あ、これはですね……おそらくあの愚神に弱いなんて言われた苛立ちと玉葱の匂いがする事による苛立ちが掛け合わされて癇癪を起してしまったのかと……』
「癇癪ってかもう発作じゃねぇか……」
 芳乃の説明を聞くと、呆れたようにキャルは首を振る。その間にも景久は目をキラキラさせて叫ぶ。
「いもじゃーっ! いもー!」
『あああ、はい! すみませーん! お鍋に、唐芋入れてもよろしいでしょうかー!』
 景久と芳乃が料理場にカチコミを掛けに行く。それをキャルがぼんやりと眺めていると、傍にツヴァイが寄り添う。
『あの豚の出どころ、一応調べておいた方がいいかもしれないな』
「ああ。まぁあんなん普通じゃねえしな……」

「今回分かったのは、奴がフラッシュバンと怒涛乱舞を既に習得している、って事ですね」
『どちらも駆け出しのリンカーが習得するスキルよ。……きっと野良ヴィランに喧嘩を売った時に習得したんじゃないかしら』
 料理がとにかく苦手な佐千子と熱いのがとりあえず苦手なアルヴィナは調理場から離れ、騒速について得られた情報を整理していた。
「なら、これからは、初歩のスキルは既に大抵取得していると考えて臨んだ方がいいかもしれないですね。何もスキルを使わずに戦うとなると、こっちも決め手に欠けてしまいます」
『使える種類はこちらが圧倒的に少ないけれど、使える数は全員分合わせるとこちらの方がまず多くなるものね。銀の魔弾で猛攻をかけるなんてやり方が出来るかしら』
「でしょうね。また奴は怒りそうですけど……今度は何をしてくるやら」
 佐千子は肩を竦め、畑の方に目を向ける。カイと紗希が二人並んで、スコップを使い散らばった肉片を畑から取り除いていた。

「……となると、完ッ全に目を付けられたみたいね」
 カイから簡単な一部始終を聞き、紗希は小さく溜め息をつく。
『ああ。まあ臨むところだろ。あいつがキレてようが喜んでようが、やる事は変わんねぇんだしな。ただ……』
 肉片を畦道に放り出し、カイは眉間に皺を寄せて悩んだような顔をする。
『次に会った時、奴はまだ一気呵成を覚えてるんだろうか?』
「どういう事?」
『覚えたスキルは永久的に奴の中で蓄積されるのかって事だよ。俺らがスキルを使えば使うほどアイツが強くなっていくなら、俺等は今後不利になっていくばかりだ』
 スコップの剣先を地面に突き立て、カイは唸る。
『奴に弱点は無いのか……?』
 紗希はやけにシリアスなカイの横顔をじっと見つめていたが、やがてくすりと笑う。
「そんな事言ったって、今回も一気呵成は嫌ってほど使ったんだから忘れたりなんかしないと思うけど?」
『……そういやそうでした。じゃあ銀の魔弾か。氷鏡に使ってもらうか……?』

「まぁ、心配はないんじゃない? あいつは一人で、あたし達には仲間がいるんだから」

 紗希は励ますように微笑む。想いを寄せる紗希にそう言われてはもう何も言い返せない。カイはむすっと押し黙り、畑の復旧に精を出すのだった。

●天に茜、地に紅
『それにしても……結局現れませんでしたわね、プリセンサーの言っていた統率者は』

『おそらく遠巻きにして眺めていたんじゃろうな。面倒な真似をしおる奴じゃ』

「ん……その敵も、きっとまた何かしてくるんでしょうね……」

 エージェント達が噂をする頃、騎兵が一人山道を駆けていた。纏う鎧は深紅。木々の隙間から零れる茜色の光に照らされ、歪に輝いている。朱の汗を流す馬に跨り、緋に染まった軍旗を掲げ、兵士は山を駆け抜ける。バシネットの奥に輝くは赤銅の瞳。それが纏うは、世に人々が流し続けた血の色だ。

 それが纏うは、戦争の色だ。

「……」
 木の上に立ち尽くす騒速は、その足元を駆ける赤の騎士を見つめていた。その強さを品定めするかのように見つめていた。
「赤の騎士、戦争、最後の審判……いいだろう」
 騒速は飛び降りる。騎士の行く手を遮り、彼は刀を抜き放つ。
「黙示録を騙る者よ。その力を見せろ!」

 騎士もまた剣を取る。二者は飛び出し、その影は夜の中に融けていった。

 To be continued…

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
  • 薩摩隼人の心意気
    島津 景花aa5112

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 魔女っ娘
    ノーニ・ノエル・ノース・ノースaa2526hero002
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • トラペゾヘドロン
    テトラaa4344hero001
    英雄|10才|?|カオ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • リベレーター
    キャルディアナ・ランドグリーズaa5037
    人間|23才|女性|命中
  • リベレーター
    ツヴァイ・アルクスaa5037hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 薩摩隼人の心意気
    島津 景花aa5112
    機械|17才|女性|攻撃
  • 文武なる遊撃
    新納 芳乃aa5112hero001
    英雄|19才|女性|ドレ
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