本部

広告塔の少女~セイントメモリー~

鳴海

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
4日
完成日
2017/06/26 14:39

掲示板

オープニング

●今度は西洋のお城にて
 そのお城は、森の中を一時間程度上ると見えてくる。
 四つの見張り台、高い城壁、広大な敷地、数百年単位で放置されているその城は壁が蔦で覆われ、一見おどろおどろしい。外観をしている。だが。
「内装は綺麗なもんだったぜ」
 赤原は言う。車内のひざ掛けに肘をついて、顎に手をあてその風景を眺めている。
「酔狂な奴が泊りにきたり、映画の撮影に使ったりするんだってよ」
「まぁ、私達と一緒ね」
 そう遙華はつぶやくと、違いない、そう言って赤原は笑う。
 二人は日本から飛行機で数時間のこの地に、総勢四十名を超えるスタッフを抱えやってきた。
 理由は単純明快、PV撮影のためである。
「リンカーが登場するPVの需要も高まって、あなたには頭が上がらないわね」
「そいつは、俺にいうべきセリフじゃねぇな、俺の曲にドラマと思い入れと迫力をくれてるのはあいつらだ。あいつらの評価はあいつらのもんさ」
「そうね、みんなも手馴れてきてるし、そう言う会社を立ち上げるのもいいかと思っているわ」 
 そんな大人な会話を繰り広げること十数分。
 リンカーたちを乗せたバンは到着する、古の城に簡素なデザインの車はミスマッチだが、その白の迫力を損なうことはなかった。
 ぶっちゃけ、すごく怖い。
「幽霊がでても驚かないわ」
「それどころか、ヴァンパイアも出るかもな!」 
 そう遙華を後ろから脅かす赤原、マントを羽織り牙をつけているが遙華はそれをただただ眺める。
「何を遊んでるの? いくわよ?」
「うっす」
 そう赤原は小さく頭を下げると資材を運び出す。
 今回君たちはこの古城に一週間泊り。赤原光夜そして、ECCOと共にPV撮影をすることになる。


● 題材となる作品について。
 今回皆さんに撮影協力していただく『ブルーブラッドヴァンパイア(BBV)』はメディア展開前提で作られた作品群です。
 今回皆さんには。ノベルゲーム全三作品のうちの『ブルーブラッドヴァンパイア《華》』という名前の一作品と。アニメの主題歌のPVを撮影していただきます。
 
 さて、こちらは広告塔の少女なので。光夜と遙華の担当なのですが。
 アニメはお話の本筋を追います。なのであらすじ解説をします。

~あらすじ~
 事の発端は、ライブスの影響で眠りについていた神魔霊獣が目を覚ますという事件からです、ヴァンパイアもそのうちの一つです。
 怪異としての力はトップクラスなことに加え、知能も高いので……せっかくなら世界の実験を握ろうと動き始めます。
 ただ吸血鬼には弱点も多く、それを克服するために人との混血種を作り出そうとします。
 その間に一悶着あったり。
 実際に子供ができるのですが迫害されたり、その子供が不完全だったり。
 失敗作を連ねて、その末に青い血をもつヴァンパイアハーフが生まれるのですが、そのハーフがヴァンパイアたちに反乱したりします。
 ただ、ヴァンパイアたちの力は絶対的で、ヴァンパイアハーフを筆頭とした反乱軍はすぐに追い詰められてしまいます。
 そんな苦しい戦いの中。人類軍はヴァンパイアハーフの犠牲によって異世界に続く扉を開くことができます。
 その結果霊力を再びこの世界に向かいいれることができ霊力技術が復活します。すると英雄がこの世界に舞い戻ることになります。
 この世界の霊なる存在に、霊力は猛毒です、それに加え、リンカーにとってみればヴァンパイアなどちょっと変化ができる従魔程度の認識でしかありません。
 ヴァンパイアたちはむなしく惨殺されていきます、今度は中世の悪魔狩りの時とは違い、身を隠すこともできずに。

 これが世界感のイメージで、これを前提にPVの構成を考えていきます。
 

● PV構成案 遙華の場合。
使用楽曲 『カオスブレイド』

テーマ 慟哭 叫び 穢れ。

 イメージとしては、悪魔を滅ぼす悪の軍勢です。 
 悪魔を滅ぼすリンカーたちは決して白くもなく輝いているわけではありません。
 ヴァンパイアによって蹂躙された、傷だらけの心を持つ人間なのです。
 彼らは悲しみと憎しみのままにヴァンパイアたちを駆逐していくでしょう。
 ただ、これでよかったのか、本当にこの道しかなかったのか。
 そんな悲しみを残す曲でもあります。

・PV構成
 そんな圧倒的戦闘をPVで表現します。
 薄暗い城の中、松明灯りを頼りに、真正面、あるいは監視塔や地下から侵入し、ヴァンパイアたちを暗殺していきます、真っ向からだと不利だからです。
 ダンスホールや階段、ヴァンパイアたちの私室。
 なぎ倒すのはVBSやエキストラさんです。
 ですが中には強いキャラクターもいます。
 魔王はきっとハーフヴァンパイアたる主人公でしか太刀打ちできないでしょう。
 ただ、ハーフヴァンパイアは戦いの最中封印されし扉をあけ放つことに成功します。
 この扉の向こうから英雄たちがやってくる(帰ってくる)
 この扉を開ける時は青い血を一人分捧げる必要があります。
 扉が開けば、人類軍は共鳴できます、一気にヴァンパイアとの力関係がひっくり返り勝利することができます。

*物語のストーリーラインはスカスカで皆様で埋めていただいて構いません。キャラクター同士の因縁や過去、込めたい思いなどあればぜひ*

・役職
 役職は、このPV内で演じていただく役回りになります。
 ちなみに赤原は魔王のそばに常にいる観測者で。魔王視点で物語を皆に届ける役回りにあります。
 また皆さんは能力者と英雄で二人一組だと思いますが。どちらか一人しか出演できません。ただ人類軍で参加した場合は最後の共鳴シーンで英雄と共鳴することになるので、その時に出演できます。

『魔王』
 ヴァンパイアの王です、強いです、一対一ではまず勝てません。

『ハーフヴァンパイア』一人か二人。
 ハーフヴァンパイアは主人公ですが、双子であったという設定でもいいです。
 どちらにするかは皆さんで相談して決めてください。

『ハーフヴァンパイアの親友・恋人』一人か二人。
 主人公に後の世を託される役回りです。主人公が二人なら二人が妥当でしょう。
 もしくは親友と恋人で分かれるか、ですね。

『仲間の戦士』 複数可
 主人公たちを先に行かせるために場内で戦いを繰り広げられます。
 こちらセリフや演技要素が少ない代わりに戦闘シーンがガッツリ入ります。
 
『ダンピール』 
 敵側のバーサーカー、科学の力とヴァンパイアの伝承にある力で理不尽に人類を追い詰めます。狂った感じを出していただけると嬉しいです。

『語り部』一人か二人。
 常に赤原光夜のそばにいて、状況の解説や演奏、演出をしてもらいます。
 戦場の真ん中を踊りながら横切ったり、戦士に祝福を与える天使のようなうつり方をしたり等々。 
 視認されないがそこにいる。という存在です。
 さらに演奏や歌詞の演出もお待ちしてます。
 光夜さんの動きできれば作っていただけると嬉しいです。


解説



目標 OP曲にマッチしたPVを作成する。

 今回皆さんに考えてほしい内容は三つ。
 ただ全員が三つを満たしている必要はありません。三つの要素の中で誰一人として触らないものがあると問題です。

1 衣装をどうするか
  これについては、赤原 光夜の衣装をデザインしてくれる人を募集します。個人の衣装に関しては個人で
 これは簡単にプレイイングに記載していただければと思います。
 ガッツリ衣装づくりプレイイングされたい方も歓迎です。

2 ストーリーをどうするか
 PVの大筋は書いたとおりになります。ただ。要所要所が細かくありません。
 たとえば大ホールでの戦闘はどうするのか、どんな演出にするのか。
 魔王と主人公がかわす言葉は?
 演劇しつつ、ストーリーの穴を埋めるような感覚で大丈夫です。
 大筋が変わらなければストーリーにいくら付け足ししていただいても構いません。

3 光夜とおしゃべりする。
 光夜は皆さんとお話ししたいです。危険だった任務の話や、光夜に対するお願いや、単純な世間話でも盛り上げます。

リプレイ

第一幕

 暗がりから浮かび上がるように、『ナラカ(aa0098hero001)』は姿を見せた。揺らめく蝋燭。
 夜が深い、今宵は月も出ない。
 ヴァンパイアにとって、魔族にとってこれほど良い夜はそれほどない。
 だが、そんな夜も今日で最後かもしれない。
 ナラカは溜息をついてロングジレを羽織る、夜の闇より深いそれはすっぽりと姿を覆い隠し、玉座に座るナラカの姿を覆い隠してしまう。
 その両脇から浮上してきたのが光夜。そして『蔵李・澄香(aa0010)』
 悲鳴のようなコーラスと、甲高いギターサウンドが夜に静かに、響き光夜はネックレスを握りしめた。
 そして澄香は告げる。
――これは、ただ滅ぼし合うだけの物語。
 正義とは何で、悪とはなんだ。
 滅ぼされるだけの意味を持つのか。

 血濡れのダンスホール、砕けた岩石があたりに散らばる中心で、輝きを失った少女『イリス・レイバルド(aa0124)』がただただ天井を見上げている。
 
――滅ぼすだけの正しさを持つのか。
 誰が審判役で、誰が判断したのだ。
 ただあるのは血のみで。
 これも一つの悲しい戦いの物語。

 澄香はゴシック調の魔法少女服を翻し、そして。
 物語が始まった。

 第一幕

――その姉弟は運命を担って生まれました。
 澄香の声が響く、場面としては太陽が爛々と輝く真昼。庭を駆けまわる少年少女たちがいた。
『アリュー(aa0783hero001)』そして『世良 杏奈(aa3447)』
 彼女たちはやんごとなき身分なんだろう、整った身なりをしている。
 だがあたりに付き人一人見つけられない。
 これには理由が二つあった。
 先ず、その姉弟と一緒に外には出られないため。
 二つ目が、彼等に護衛は必要ないためだ。
――そう、彼女たちはハーフヴァンパイア。おおよそこの世界で最強と呼べる種族、その成功例。
 ただし、それは姉にだけ冠される称号。
 杏奈は青い瞳をしていた。その肌の下を伝うのも青い血だ。しかも長く続いてきた失敗作など比にならないほど完全無欠のハーフヴァンパイア。
「アリュー、危ない!」
 少女が叫ぶ。見ればアリューは岩に足を取られて地面を転がった。
 鳴き声を上げるアリューに杏奈はあわてて駆け寄った。
 見ればアリューの膝から血が出ている。
 その血は燃えたつように赤かった。
「傷口を洗いましょう」
「はい、お姉さま」
――運命は残酷にも姉弟を別つ、これほどまでに仲がいいのに。
 姉に対して弟の肩に張られたレッテルは失敗作。
 姉と違って逆にヴァンパイアの力のほとんどを受け継げなかったのだ、ほとんど人間と変わらない弟は常に姉と比較されていた。
 時に歯がゆい思いもしただろう、涙をのんだことあっただろう。
 だがアリューは姉を怨んだことなど一度もなかった。
 優しい姉を怨むことなんてできなかった。
 アリューは杏奈に負ぶわれて屋敷まで戻る。
――そんな仲睦まじい姉弟に試練が訪れるのは少し先の事でした。
 そんな二人は長い年月をかけて、大人になっていった。
 杏奈は時がたつにつれ、ぞっとするほど美しい女性へと変わっていった。
 蒼い瞳、青い血。青と黒のロングドレスに身をつつんでいた、青いバラの髪飾りがよく似合う。
 そんな彼女は多数のヴァンパイアを従えるようになっていく。
 そんな彼女の耳にある日届いた知らせ。 
 それは、アリューの戦死だった。
「そんな! 嘘よ!」
 杏奈は現実を否定する、叩きつけるようにそう告げた。
「だから、だから止めたのに」
――世界は刻々と姿を変える。最初は隷属していた人間たちが、だんだんと反乱の手を上げるようになっていました。
 その戦火を収めるため、下位のヴァンパイアが招集されその中にアリューも板のです。
 姉と違って穢れと罵られる存在。
 それを拒むことはできませんでした。
 それどころか本人も望んでいたのです。
 この事件を収めることができれば、姉と対等になれるかもしれない。そのために命を懸ける価値はある。

「命を失っては何も意味がないじゃない」

 杏奈は一人のベットで泣いた。
 なぜ弟が死ななければならなかったのか、誰のせいなのか。
「私は周りから疎まれつつも努力している弟が好きだった」
――それから少女は世界への静かな反抗心を胸に抱くようになりました。それが無くしてしまった物のかわりと言わんばかりに。
 その後の彼女の人生は苛烈だった。
 世界支配の切り札となるべく戦闘等の英才教育を受けていたが、今までに増してその訓練に身を入れるようになる。
 ただ、それと同時に杏奈は城を抜け出すようになった。地味な服を着て、ヴァンパイアが支配する町、その昼間の顔を見に行く。
 人々の顔は思ったよりも暗かった、そして町全体を重苦しい空気が支配していることに杏奈は気が付いていた。
 そんな町観察を続けていたある日の事である。
「アリュー?」
 豊かな紫色の髪を見た気がした。
 それは風になびき、路地裏へと進む。
 杏奈は高鳴る鼓動を抑え込み、その姿を追って駆ける。
 しかし、その路地裏の闇の向こうで待っていたのは、手荒な洗礼。
「やあ!」
 突き出された銀色のナイフ。それに対して杏奈は即対応。
 手首に手刀を叩き込んでそらし、肘のあたりを捕まえる。そのまま円運動で相手の力をいなして壁に叩きつけた。
 小柄な体、華奢な腕。
(少女?)
 そう思うと同時に肘を喉に叩き込んで拘束する。
「ごほっごほっ」
「あなた、何者?」
 杏奈は問いかける。その言葉に少女『雪室 チルル(aa5177)』は答えた。
「そっちこそ何者? ここはあたい達の縄張りなのに」
「縄張り?」
 杏奈は何がなんだか分からないが、とりあえず少女は弱いので、ナイフを回収して解放してあげた。
「何の用なの?」
「いえ、私はアリューを見かけた気がして。そうだここに……」
 そのアリューという言葉でチルルの瞳が揺れた。
「いま、アリューって言った?」
「あなた、アリューを知ってるの?」
 詰め寄る杏奈、身軽な動きで後退するチルル。
「お願い、弟を知っているなら教えて」
「弟、ってことはあなたもヴァンパイア」
 やっぱり、そう杏奈は思った。彼女は弟を知っている、戦死したはずの弟を。
「私たちはあなた達をどうこうするつもりはないわ、ただ、あの子にもう一度会いたい」
「あなたヴァンパイア、ヴァンパイアなんて信用できない、帰って! アリューもきっと会いたくないって思ってる」
 そのチルルの言葉に杏奈はアリューが生きていることを確信した。
 だって、生きていない人間が『会いたくない』など口にするはずがない。
 それだけで杏奈は嬉しくて、口元がほころぶことを止められなかった。
「あとあたしのナイフ返せ!!」
 なんだかそれが気に食わなかったのか、チルルは壁を蹴って杏奈に殴り掛かった。
 だがそれもやすやすと受け止めてしまう杏奈。
 そんな状況を見かねたのか、暗がりの奥から別の声が路地裏に響く。
「おやおや雪室さん。ずいぶんと血気盛んですね」
 杏奈はその暗闇の向こうに目を凝らす、するとそこに男女が立っているのが見えた。
「あなた達は?」
「これは、申し遅れました」
 二人は暗闇から光さす場所に歩み出る。
「これは申し訳ありません」
 そう告げたのは『晴海 嘉久也(aa0780)』背後に控えていたのは『エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)』二人ともタキシードに身を包んでいる、上等な身なりだ、おそらくは商売人。
「私『ヘルメス商会』の代表で、武装飛空艇『プレアデス』を駆る交易商人です」
 杏奈はその名前を聞いたことがあった、海賊まがいの行いもする連中だ。
 そんな連中とつるんでアリューは何をやるつもりなのだろう。
「弟に逢わせてくれませんか?」
 その言葉に、晴海は答えない。チルルを手招きし、そして告げる。
「明日太陽が最も高く上る時間帯、同じ場所でお待ちします、もしあなたが一人でその場に来ていただけたなら、真実をお話ししましょう」 


第二幕

 次の日、指定された場所に杏奈は現れた。するとその路地裏は人の気配で満ち満ちていて。
「来たんだね」
 その中心にはチルルがいた。
「アリューはどこ?」
「その前に話しておかないといけないことがあるの」
 チルルは重苦しく告げる。
――それは姉が知られざる弟の物語。
「城から逃げ出した男の子がいたの。それ以外にも迫害されているハーフヴァンパイアはたくさんいる、そんな世界で彼は私達と一緒に戦ってくれるって言ったの」
 チルルは自分たちをレジスタンスだと言った。
「そしてあたし達が出会ったのもこの町だった」
 杏奈はそこですべてを察する、確かにアリューの護衛は甘かった……というより守る必要など無いと考えられていたようだから、自分のように町に出てくることも容易かったのではないか。
「あたしは昔からアリューを知ってたの、彼は優しくて、強くて、でもその夜あった時は額から血を流していた」
 杏奈の脳裏にその光景がありありと浮かぶ。
「彼は売られそうになったって言ってた」
 やはり戦死した等嘘だったのだ。杏奈を納得させるための方便だった。
「彼が逃げてきたとき私はたまたま、レジスタンスに入隊したころで、それで」
「私たちがかくまうことにしました」
 言葉を継いだのは晴海だった。
 まとめて話すのが苦手な少女への助け船。
「私は、アリューからいろんな話を聞いた! ヴァンパイアがどれだけひどいか!」
 杏奈は憤りを見せる少女に、アリューと失った年月を思った。
 きっと、自分がいなかった年月をこの子が埋めてくれたんだろうと。
 実際にチルルは傷ついたアリューをよくささえた。
 声をかけ、遊び相手になってあげた。町の隅々まで教えた。
 注意しないといけない人、秘密の抜け道。
 当然だろう、レジスタンスには大人しかいなかった、アリューと歳が近いのはチルルしかいなかった。
 だがそれだけではなく。
「ありがとう」
 杏奈は唐突に告げた。その言葉にチルルは目を見開く。
「弟を好きになってくれてありがとう」
「あた、あたいは……」
 その言葉に何も口にできなくなってしまったチルル。
 その言葉をかわりに継いだのは。屋根から飛び降りて、二人の間に立ったアリュー。
「姉さんは変わってないな。優しい」
「アリューは変わったのね。大きくなった」
 成長したアリューは杏奈の身長を追い越している。そしてアリューはそんな杏奈を見下ろして、その手のネックレスを差し出した。
「共に戦ってくれないか、姉さん」

   *   *

 魔王と呼ばれる存在がいた。
 人間側からするなら、人間を虐げる悪逆無道の魔王。
 吸血鬼側からするなら、文武を兼ね備えカリスマで以て統べる稀代の王。
 二つの顔を持つ絶対君主、しかしその本質は一つである。
 そんな魔王が幹部を招集し、重苦しく告げる。
「人間たちの最後の発起が始まるようだ」
 その光景を見守る二人の観測者。
 落ちた女神の少女と輝く欠片を胸に抱いた青年。
 少女が口を開いた。複雑な音階が場を満たす。肩にとまった、銀色の妖精が小さく笑う。
「人間達には各々の手管で厳しく当たれ」
 その声に反論する者もいた、人間たちなど取るに足らないと。だが魔王は首を振る。
「人間は弱いが、然しそれが弱い事を良しとする理由にはならぬ。そして闘争とは大小問わず成長を促すもの。
 ならばこそ、いざ抗い光を仰ぎ前を向け。己が未来を掴むと意志の輝きを示すが良い」
 魔王は思うのだ、願うのだ。
慟哭も憎悪も焼べて糧として、我等を超えんと飛翔せよ。
 同族には決して告げない人間達への想い。
 超越者として一方的ながら、人間にもまた彼女なりに愛を向けてはいるのだ。
「だが、無用な血を流すことは許されない。直ちに重要拠点に住まう女児たちには避難を」
 そして最後にナラカは高らかに告げた。
「此処まで来て人間を弱者と侮るな、血族を絶やす可能性だけは断じて罷り成らん」
 闇が蠢き四方に散った。
 物語の終わりが近い。
 そう澄香は悲しく謳う。

   *   *

 チルルがアリューを保護したときには……アリューの中の感情は完全に潰えていた。
 裏切と、昨日まで仲間だった者に負われる恐怖が幼いアリューには耐えきれたなかった。
 アリューはただただ、自分の想いを闇に閉ざした。
 だがその閉ざされた心を何度もこじ開けようとしたのはチルルだけだった。
 チルルだけが、アリューにずっと言葉を投げかけつづけたのだ。
 だから今回の件、チルルが荒れてしまうのも仕方がないだろう。
「お姉さんだからって、レジスタンスに引き入れるなんて、しかも大事な作戦に組み込むなんて……」
 チルルは言葉をかみ殺す。
「大丈夫だ、姉さんなら全部わかってくれる」
「姉弟だから?」
「そうだな」
「何年も離れていたんだよ?」
「それでも姉さんは俺の大切なものをないがしろにしようとはしない」
 アリューはおんぼろ家屋の扉を開けた。
 その中では杏奈と晴海が待機しており、その手の蝋燭は地下の通路へと差し向けられていた。
「道中で申し訳ありませんがハーフが生まれた秘密、そしてレジスタンスが何をしようとしているかお話ししましょう」
 その血にまつわる因縁、吸血鬼の真実。英雄の存在。
 そして扉。
 杏奈は思う。何が正しくて何が間違っているかもうわからないと。
 けれど。弟だけは信じよう。
 そう目の前の扉を押し開く。
 木作りだが石のように重たい。
 その扉の向こうにあるのは大量の武器、弾薬。
「私どもの座右の銘は『ビジネスの前には生きとし生けるもの全て平等』世界はヴァンパイアの者ではないのですよ」
 そう晴海が告げると杏奈に銀の剣を差し出した。
「私は『悪魔とでも取引する』と聞きましたが?」
 そう悪戯っぽく告げて、杏奈はその刃を受け取る。
「もちろんしますよ、平等ですから」 
 その刃を蝋燭の火に当てて銀か確かめると、腰の帯にそれを刺した。
 作戦開始の時が迫っている。


幕間の物語

「というわけでPVに参加するよ!」
 そこはグロリア社会議室。あわただしく走り回るメンバーを眺めながらチルルは『スネグラチカ(aa5177hero001)』にそう告げた。
「何がというわけなの? あとPVって何?」
 英雄とはこの世界に疎いものである。説明を求めるスネグラチカ。
「えっと……ぷろもーしょんびでお? とかいうらしいよ?」
「よくわからないでこの依頼に参加してたの? 大丈夫?」
「だ、大丈夫よ! お芝居とかと一緒よ! さあ行くわよ!」
 そう台本片手に、スネグラチカと練習を始めるチルル。初めてだが実質ヒロイン枠なので、演じるのが大変である。
「アイリスさん! 糸! 糸お願い
 そんな役者勢とは別に、裏方を担当する者達も大変そうであった。
「ははは、まかせたまえ」
『斉加 理夢琉(aa0783)』は全体の衣装の仕立て直しを担当している『アイリス(aa0124hero001)』はイリスの演技を観つつ、周囲の手伝いをしている。パタパタと羽をはためかせながら、小柄な体をあっちへこっちへ。
「黄色い糸がない」
 理夢琉が布を目の前に唖然とそうつぶやいた。
「出そうか?」
 アイリスがあっけらかんと告げる。
「出せるの?」
 驚く理夢琉。
「冗談だよ……」
 そんな理夢琉にアイリスは冗談だと笑って見せた。
「たぶんね」
 底がしれないアイリスであった。
 そんな理夢琉たちを置いて、部屋の中央マネキンを前に頭を悩ませているのは『メテオバイザー(aa4046hero001)』そしてその助手『桜小路 國光(aa4046)』である。
「お洋服を作るだけのお仕事ならいいですよね?」
「……まぁ」
 そう國光より承諾を得たメテオバイザーは揚々とミッションに参加、赤原の舞台衣装をメインで担当する。
「中高校生・アニメ好きに受けそうなテイストは避け、良質で正統派なゴシックで攻めます!」
 そう、メテオバイザーはかき上げたデザイン画を公開する。
「歌は歌、演出は演出って分けても問題ないだろ?」
 その國光の言葉に通りがかった遙華は頷いた。
「もちろんよ、やりやすいようにやって頂戴」
「黒の襟付きのロングジレに……止め具は銀の細工ボタンにしましょうか」
 一つに絞ったデザインが、その細かなディテールを別の用紙に書き起こしていくメテオバイザー。
 色とりどりのペンが紙の上を走り、彼女の脳内情報が具現化していく。
「裏地は青や紫? 演者の皆さんの衣装の色合いに合わせた方が良いですね」
 そう容易された布を広げながら、詳細に使う布を決めていく。
 後は計算で裁断する布の幅を決定、型紙作成にはいる。
「膝下まであるジレの長い裾が捲れた時にちらりと見える裏地は綺麗な方が良いのです」
「裏地はPV全体の配色にもあわせないと……」
 そう國光が口元に手を当てながらつぶやいた。
「ズボンも黒で……中に着るシャツはオフホワイトのガーゼ生地、襟元を太いリボンにして直接結んで……胸元にも同じ感じのリボンをひとつ」
 小物にもこだわっていく、リボン生地はどれにしようか。まかれている帯状の布を引っ張って、手触り、光沢、撮影した際の色映えを計算する。
「襟と胸元のダブルリボンでボリュームを出すのです」
「アクセサリーもつける予定なんだろ? それだとボリュームが出すぎる。ジャボタイでもいいんじゃないか?」
 國光はそう告げる、何枚か見本布を手に取ると、自身の襟元に完成をイメージできる形の布を交互に合わせて見せる。鏡に映る姿で衣装係と完成イメージを確認する。
「うーん、縫い付けて見ましょう」
「俺のこの服にか?」
 以降メテオバイザーのマネキンとして重宝される國光である。
「体格違うんだから本人に着てもらえばいいだろ」
「赤原さんは忙しいから頼めないのです! これ着てください~」
 そう國光に衣装を着せ、その衣装にも真剣に手を加えて見せるメテオバイザー。
「足元は……派手な振り付けはないんだろ?衣装に合わせるならこれだな」
「あとは……マントに刺繍しましょうか」
「間に合わないだろ!? 撮影もあるから製作に一週間ないんだぞ?」
「できます、やります。大丈夫です」
 その視線があまりにも真摯で思わず國光は微笑んだ。
「そうだ、アクセサリーについても考えないとな」
 そんな中國光は赤原からオーダーされているネックレスについて話しだす。
「石を飾りに……ですか」
「これはどうだ?」
 幻想蝶から取り出したのは結晶や賢者の欠片。
 大きさがまちまちで使いにくいため、加工する必要はある。
「鳥籠型やビン型のチャームに手持ちの結晶を入れて大振りなネックレスにしてみたらどうだ?」
 そう國光は手芸店で買ってきたのか、ハンドメイドに使える部品を沢山机の上に並べた。
「危険性は少ないのは賢者の欠片の方ですかね?」
 メテオバイザーは真剣にその輝きを見つめた。
「鎖の形がいまいちだな……」
 ラジオペンチを取り出す國光。
「チェーンとしてはこちらの方がいいのでは……」
 そんな制作風景も二日三日と進んでくると、衣装もだいぶ完成に近づいてきた
「できました!」
 そう声を上げる理夢琉。
 見ればイリスが赤と黒のドレスを身に纏っていた。
「最初は今まで飾られていましたって感じできれいなのを」
「そして登場するたびに傷や返り血で更新されてボロボロになっていくと」
 アイリスの言葉に、イリスがこくこくと頷いた。
「いいですね、演出は澄香ちゃんの方で、いい感じに入れておきましょう」
 『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』がそう揚々と返事をする。すると 澄香が白目をむきながら台本に文字を刻んでいく。
「は~い」
「当日は共鳴するがリンクCでレートを下げて黄金のオーラや翼を引っ込める予定だ」
「ほら、一応怪力キャラだし」
「理性をうしなったヴァンパイアが光を放つのはおかしなイメージだしね」
 そう告げたアイリスの言葉にイリスは刻々と頷く。
「デカイ得物を振り回すには共鳴したほうが早いだろう」
「いいですね、では澄香ちゃんの方で演出を」
「はーい」
 食い気味に澄香は返事をして、さらに台本に注釈をかきこんでいく。
「お城破壊していいならもっと派手にいくけど」
「駄目なら初めからある傷を有効活用だね」
 二人の演出を強化するために澄香は、演出方法をメモに取っていく。
「霧化に蝙蝠化に狼変化、そういう演出はPV的に盛り込めるのだろうか?」
「ヴァンプの華だよね、お願いできますか? 澄香さん」
「がんばるよぉ、もちろんだよぉ」
 そこで弱音を吐かないのが澄香であるが、このお仕事が終われば休ませてあげてほしいものである。
 台本にガリガリとメモをかきこんでいく澄香。
 おかげで一人だけ台本がぼろぼろだった。
 作業量が沢山あり、大変な目にあっているのが一目でわかる。
 これも相棒のスパルタ故だろう。
 そして同じように腐っているのが遙華である。
 同じく相棒のスパルタ故だろう。



 第三幕

 そして火の手が上がる、見張り塔が爆破され夜に明かりがともった。
 それは反撃の狼煙。
 晴海はそれを確認すると通信機にて全ての班に突入を指示する。
「あぶない!」
 そんな晴海に切りかかるヴァンパイア兵。その刃をチルルが止めた。
 三合打ち合う。切り上げ、切りおろし、巻き上げられて刃がはじかれた。
 ヴァンパイアがチルルに刃を向ける、するとチルルは畏れ後ずさり、躓いて転んでしまう。
 だれか、助けて、そう願った矢先。聞こえてきたのはうめき声。
 見ればアリューが背後から近寄ってヴァンパイアの心臓に剣を突き立てていた。
「陽動は任せましょう。さぁ、いきましょう」
 そう指示すると晴海は乗り付けてきた車のボンネットから16式60mm携行型速射砲を取り出して、乱射しながら城内へ向かう。
「大丈夫か雪室」
 そう手を差し出すアリュー。
「成長したのね」
 そう告げたのは杏奈。だが、振り返ったアリューの表情は険しい。
「何をしているのですか、巻き込まれますよ」
 晴海がそう告げると、飛空艇部隊からの支援射撃が城を直撃する。
 その砲撃を受けてチルルは走り出そうとしたが、アリューはその手を引いて止めた。
「チルル、今からでも君は帰るんだ」
 アリューはチルルを壁に押し付け、そして脅すように告げる。
 けれどチルルは首を横に振る。
「あたいが行かないと! アリューが帰ってこない気がするから!」
 その意思は固く、アリューの瞳をまっすぐ見つめてそらされることはなかった。
 それはあの時の瞳に似ている。自分が傷つきふさぎ込み、もう構わないでくれと叫んだその夜、彼女はこんな目をしてずっとそばにいてくれた。
「帰らないんだな」
「うん」
「そうか、では俺は守りたいものの為に剣を持つ事に決めた」
「アリュー……」
 強くなったのね。そんな言葉を杏奈は飲み込んで、場内に潜入する。
 突入したのは広大なダンスホール。
 かつて栄華を誇っていた頃はこのフロアに沢山の人が溢れていたのだろう。
 だが今はちがう、荒廃してしまったフロア、くすんでしまった絨毯、灯りは灯されず、響くのは鎖の音だけ。
「真ん中に誰かがいる……」
 杏奈が指さした。
 その時全員は不思議なものを見た。
 わずかに光放つ少女、その背中には翼が見えた気がした。そして。
 その少女を後ろから抱きしめるように別の少女が見えたのだ。
「ごめんね、この世界のあなたにも過酷を強いる。救えない私を……どうか許して」
 そんな声が闇に消えると、光も女神の残り香も一緒に消えた。
 代わりに残ったのは闇。そして狂気。
「ダンピールです」
 晴海が茫然とつぶやくと、杏奈、アリュー、チルル全員が刃を抜く。
「ダンピール?」
 杏奈が問いかけた。
――ヴァンパイアの弱点を克服するために科学と怪異の両面の技術から生み出された怪物。
 少女の声がフロアに響き渡る。
 その声の主が何なのかレジスタンスには分からなかった。
 だが。

――どうか、この悲しい物語を終わらせて。

 人類側の観測者は涙を呑んでそう告げる。
 次の瞬間、天上、床、柱。至る部分に繋がっていた鎖が千切れて飛んだ。
「実験の素体には人間や赤のハーフが扱われており犠牲者の数は不明、全ての弱点を克服する代わりに理性を失った、戦闘マシーンです」
 晴海があの噂は本当だったのか、とでも言いたげに首を振る。
「あんなに、幼いのに?」
「幼くとも、立派なバーサーカーです。制御不能の代物ですが、それでもデイウォーカーとしての希少性から廃棄もできずヴァンパイア側も完全に持て余しています」
 杏奈は茫然とつぶやいた。自分の体に流れる血の重さ。罪が、そのまま自分にのしかかる。
「きゃあああああああああああああああ」
 ダンピール・イリスは悲鳴のような叫び声を上げた。
 次の瞬間、一跳躍で距離を詰めて、そしてアリューをその小さな腕で吹き飛ばした。
 その体はマシンとヴァンパイア両方の強靭さを兼ね備えている。
 この世界で最強の体を持つと言っても過言ではなかった。
「おはようございます。きょうはいい天気ですね?」
 そう首をカクリとかしげてイリスは告げた。
「言葉がもう、わかっていないのね?」
 イリスの拳に対して、杏奈は剣を盾のように構える、ただその威力が強すぎて、数メートル後ろに飛んだ。
 全員があわててイリスから距離を取る。
「ジャムはいかがですか?」
 次の瞬間、イリスは地面に拳を突き立てた。
 そして床を破壊して、その手に取ったのは鈍器のような大剣。
「いらっしゃいませ、おやすみなさい」
 少女が正常だったころ、彼女はどんな風に過ごしていたのだろうか。
 言葉に憎悪が無い、きっと楽しく生きていたのではないのだろうか。
 杏奈はそう思った。眠らせてあげたい。そうも思った。けれど。
「姉さん、こいつは俺達が!」
 アリューが叫んだ。その体の傷を隠して笑う。
「けど、みんなが……」
 杏奈は三人を見る、だが全員杏奈がここに残ることをよしとはしていなかった。
 そんな四人のやり取りを引き裂くようにイリスが、棺桶のような大剣を地面に叩きつける。
「行って! 魔王を倒してくれ!」
 その言葉を背に受けて杏奈は走った。当然それを妨害しようとイリスは走る。だが目の前に躍り出たのはアリューとチルル。
 その大剣を二人がかりで押しとめる。
「行ってらっしゃい」
 イリスは大剣を振りぬいた。風すら鈍器のように二人を叩き、思わず体制を崩したチルルの前にアリューが立った。
 イリスの足元を闇がはいずりそれがアリューに殺到する。
 だがアリューは反撃とばかりに周囲に雷の矢を大量に作り出し。それを一斉に放った。
「やったか?」
――まだです。
 煙が晴れたその向こうに存在していたのは黒い翼を生やしたイリス。
 その翼をはためかせると、イリスは空を飛んだ。
 やみくもにでもない、本能にまかせた飛行でもない。最短のルートを通り、そしてその大剣でアリューを魔術事叩き潰した。
 だがその大剣を押し返す爆炎。
 晴海が間に入っての防御。その後反撃として弾丸をばらまく。
「早く! 魔王を」
 晴海は叫んだ。
「私たちの想い。無駄にしないでください」
 晴海の言葉が杏奈の耳に響いた。
 ここに突入する少し前の事。杏奈に晴海はとある書類を差し出した。
 それは数枚の契約書、今回の作戦のために揃えられた武器や弾薬、食料等と城の地図やダンピール・魔王・ゲートに関する情報。それらすべてを杏奈に渡す。
「この紙一枚、これで何人も……その上でできた物です、ですから……無駄にしてはいけません」
 そう呟いた晴海の言葉の重さ。忘れてはいない。
 杏奈は重たい扉を押し開いた。
 背後で鋼を打ち合わせる音がする。
「また、あそぼうね」
 イリスの声を聴きながら杏奈は扉を閉めた。


第四幕

 夜に沁みるような歌声が響く。その声に澄香とクラリスの高音が重なった。
 まるで讃美歌のようにホールを震わせる歌声に合わせて、イリスは大剣を振るう。
 曲調は激しさを増すばかり。        
 その声を地響きをその背に、扉の向こうに感じながら、杏奈は闇を相対していた。
「ついに、ここまで来たか」
 ナラカは翼のようにジレが広がる。両手には浄化の炎をともした。
「混血、青い血の申し子よ。逢えてうれしいぞ」
「あなたを倒して、悲劇を終わらせます」
 迫害される失敗作の混血達、そして先ほど見た産物。時代が生んだ悲劇と言うべき少女。
 もはやそんな悲しい者達など生み出させない。
 そんな決意をにじませて杏奈はナラカの前に立つ。
「それは無理だろうな」
 だが、その言葉をナラカは嘲笑った。
――なぜならば、全て魔王の手の上の出来事だから。
 澄香がナラカの隣に立った。
「赤の混血を『穢れ』で失敗作と放逐した事も、青の混血の出奔を追わなかったのも。総ては至りし今の為」
「全て、あなたが認めたことだったの?」
「さあ、愛しき子等よ。次代を担うと言うなら剣を執れ」
「許さない、みんなどれだけ悲しんだと思うの!」
 その言葉にナラカはにやりと微笑むと、悠々と杏奈に歩み寄った。
 苛烈に地面を蹴り走り寄る杏奈。その銀色の刃を迎撃したのは、ナラカの眷族、太陽の熱すら食らう、氷の狼である。
 その狼は杏奈を翻弄する。刃を噛み、引っ張り、体勢が崩れれば、爪で襲いかかる。
 その体は触れるだけでも肌が凍てつく。
 服が氷つき、衝突のたびに砕けほころびる。
「どうした? その程度で扉をあけようなど、片腹痛いが……」
 氷の狼を振りほどこうと刃を振るう杏奈。だがその手すら冷気で悴んできた。
 その隙をナラカが逃すわけがない。
 その手の双剣は暗闇で軌跡を描き、何度も杏奈に叩きつけられる。
「ああ!」
「扉を開けば、幾多の怨嗟を解き放ち血族は滅ぼされるだろう、それでも開くつもりか?」
「どちらかが、滅びるしかないのなら、私はヴァンパイアを滅ぼす、それだけよ」
「お前も、我らが同胞だったろうに」
 そうナラカは肩を通す。杏奈の剣撃を片手でいなして、地面に叩きつけるように下ろす。そのまま懐に潜り込んで柄で腹部を強打。そして。
「興ざめだ、そこで寝ているがいい」
 刃を十字に合わせて斬撃。衝撃で吹き飛ばされた杏奈は壁にあたって床に転がった。
「顕れる怨嗟共は女子供も無垢さえも皆余さず殺す。それにも思い及ばぬ阿呆だったか」
 杏奈に歩み寄るナラカ。
「姉さん!」
 直後声が聞こえた。
 アリューとそして、チルルの声。
 杏奈が見れば、チルルを支えにしてアリューが立っている。その体はダンピールに痛めつけられたのだろう。
 笑えないほどにぼろぼろで。
 けれど。
「未来を任せたわよ」
 あえて杏奈は微笑んで見せた。
 魔王の刃に胸をつらぬかれる杏奈。
 悲鳴と怒号が王の間を彩った。
 しかし、次の瞬間驚くべきことが起こる。
 杏奈を青い炎が包んだのである。
「その炎。まさか、首飾りを……」
「この世界は人間達の物よ。貴方達の様な化け物の物では無い!」
 驚愕でうろたえるナラカ。そして青い血が、壁を地面を幾本もの筋となって駆け巡り、扉へと刻まれる。封印の楔を焼いて落した。
「そんな、ダメだ! 姉さん」
 アリューは叫ぶ、直感でわかってしまった。姉が命と引き換えに世界を救おうとしていること。
―― 欠陥品の弟は叫んだ。どうして自分たちハーフへこんな試練を課すのかと。運命をただ呪った。
「いかないで、まだあたいは、あなたの事」 
 全然知らないのだから。そう告げながらチルルは杏奈に歩み寄る。
「アリューをお願いね」
 涙が一滴、杏奈の手に落ちた。
 次の瞬間、世界を青い光が包む。扉は開きその向こう側から英雄が、戻ってくる。
「そうか、それが世界の選択か」
 恨めしそうにナラカはその扉の向こうを見やった。
 そして改めて、アリューをチルルを振り返る。
「力を得たか……」
 氷の結晶のようなロングコートを羽織り、チルルは優しく杏奈を床に横たえた、銀色の剣をその手に持って。 
 ナラカを真っ向から見据える。
「あたいはあなたを許さない」
 ついで駆けるチルル。その歩みを氷の狼が阻めるわけもなく、次々と切り倒されていく。
 ナラカの双剣が翻った。
 片方の刃でチルルの攻撃を捌き、もう片方の刃でチルルへ切りかかる。
 その剣をしゃがみ、掻い潜って回転しながらの一撃。
 さらにチルルは地面を凍結させナラカの足を取った。
「だが、まだだ! まだ終われん」
 体勢が崩れたナラカはチルルの剣を両の刃で受けるしかない。
 直後、剣を纏う炎が苛烈に煌いた。
「まだ我が力で全てを封じることができる、お前たちを殺し、そして民を守る」
「守る民なんてヴァンパイアだけでしょう?」
「全てだよ。お前がその身に宿す力はこの世界にとって毒にしか」
 ナラカはチルルの剣をはじきあげる。
 そして不屈の意志を滾らせ、かじかんだ両腕に力を込める。
「ならない!」
 冷気と炎。お互いがお互いを食らい合う、吹き荒れる風は冷気と熱を同時に帯び。刃がかみ合うたびに強い光が王の間を覆った。
「当たり前だろう、英雄とは神魔霊獣を打ち滅ぼしてこその英雄。そんなものが解き放たれれば、この世界のバランスは崩れる。我々を生命と認めない。そういうつもりか」
「私たちを命と認めなかったのはあなた達だ!」
「認めていたではないか。保護し、護ってきた、無益な血は流さなかった」
 ナラカは強大な力で無理やり、チルルの刃を押し返そうとした。しかし。
「憶えておいて雪室、正義の裏側も……哀しいくらいに正義なんだって」
 アリューの声が悲しく響いた、それにチルルは目を閉じて、そして答えを返す。
「知ってるよ、わかってるから、だからこそあたいは」
 自分の正義を押し通す。
 ナラカの放つ炎が凍りつく。ナラカの腕や足を這うように白い蔦が絡みつく。
「それも、いいか」
 ナラカはすべてを悟り目を閉じる。
 そして、チルルが振り上げた刃はナラカを撃ち砕いた。
 次の瞬間、最後の力で抑え込んでいた、英雄たちの魂が王の間から世界に広がる。
 ヴァンパイアと戦う者達と次々に共鳴。
 形勢は一気に逆転した。
 しかし、力を使い果たして倒れるチルル。
 その体を抱き留めて、アリューは悲しげにつぶやいた。
「ヴァンパイアも人間も何かを間違えてしまったんだ。ライヴスが満ちた世界はヴァンパイアの血を持つ俺も滅するのだろう」
「そんな……」
 チルルは目を見開いた。アリューの頬に手を伸ばすチルル。
 けれど、その手がアリューに届くことは無く。
「これからは、君たちの時代だ」
「こんな結末、望んでなかったのに」
 あける夜。新たに太陽の上った世界に神魔霊獣は存在しなかった。
 代わりにあったのは、犠牲の果ての平和だけで。
 きっと、その平和を勝ち取るために戦った、本当の英雄の名前など、誰も覚えていないのだろう。
「アリュー」
 そう膝に抱えたアリューに優しく語りかけるチルル。
 全てを失った代わりに臨む明日を手に入れた。
 涙がその頬を彩って、その涙が朝日に煌いた。

エピローグ
「おつかれさまでーす!」
 そうグラスをぶつけ合う撮影班。
 グラスに注がれていたのはトマトジュースで、つまりは吸血鬼リスペクトである。
「にしても。本当に凄い、本当に吸血鬼とかが住んでそうなお城ね!」
「ホントに出てきそう、ちょっと怖いわ」
 そう杏奈の膝に抱えられた『ルナ(aa3447hero001)』がつぶやく。
「お疲れ様です!」
 そう澄香は『八朔 カゲリ(aa0098)』のグラスにコップを叩きつけた。
「俺は今回、何もやっていないがな」
 そうグラスを飲み込むカゲリである。
「ナラカちゃんを支えたじゃないですか?」
「そうだったかな?」
 首をかしげるナラカ、そのナラカの皿に澄香は大量の肉を盛り付けた。
 お外で打ち上げバーベキューである。
 澄香は炭起こしから、焼肉奉行まで幅広くこなす、焼肉番長となっていた。
 当然自分もたくさん食べているが、ちゃんと食べ物の配分も考えてみんなにお肉を焼いてあげている。
「澄香ちゃん、三番テーブル」
「はいはい」
 クラリスはドリンク担当で、自慢のレシピを大解放。ノンアルコールカクテルを周囲に振る舞っていた。
「はい。赤原さん、遙華も、これ食べて。ジャンボ串だよ」
 そんな澄香は、イリスと交換する形で光夜に串を手渡した。遙華とイリスと光夜は珍しい組み合わせだったが、AGWのフォルムや機能について話していたらしい。
 澄香も気になる話故。イリスを膝の上に乗せるとお話に混ざる。
「そう言えば、遙華も赤原様もわたくしを怖がっていると伺いましたが、そうなのですか?」
 その輪に混ざろうと、クラリスがシェイカー片手に歩み寄った。遙華のグラスに注ぐ。
「あー、ほらな、あれな」
「……」
 このごに及んでそっぽを向く遙華。代わりに光夜がクラリスの言葉に答えた。
「お前さんの顔を見ているとよ。ほら、スケジュールが追加されるような気がするんだよな」
「あ~」
 澄香はなるほど、と言った声を上げる。
「どういうことですか」
 身を乗り出すクラリスである。
「雪室さんは何が食べたい?」
 そんな風に人が固まり出す会場を眺めながら、國光は羊肉を焼いていた。
 太りにくく、ダイエット効果もあるラム肉は女性に大人気で。メテオバイザーもチルルもスネグラチカもそこに張り付いている。
「肉が食べたい!」
「野菜も食べないとダメですよ」
 そうメテオバイザーが玉ねぎピーマンをチルルの皿に盛っていった。
「え~」
「肉もたくさんあるから、ほら」
 國光は全員の皿に焼き上がったお肉をのせていく。
「そういえば。でもチルルって恋したことあるの?」
 スネグラチカが台本を眺めながらチルルに問いかけた。
 今回は恋心に身を焦がす役回りだったが、なかなかなヒロイン力だった。きっと大恋愛を遂げているに違いない。
「……こ、こいつ! あたいだってしたことあるのよ!」
 ……そんなこともないかもしれない。
「じゃあ今度紹介してよ。いるんでしょ?」
「むきー!」
 そんな二人を見つめて微笑むメテオバイザー。
「おう、衣装ありがとな、おふたりさん」
 そんな一行に赤原が歩み寄る。
「いや、作成は大変でしたけど、間に合ってよかった」
 國光がそう答えると、光夜は撮影でも使った首飾りを指ではじいた。
「特にこいつが気に入ったぜ、撮影が終わって蔵に入るのももったいねぇ、俺がもらってもいいか?」
「気に行っていただけたならよかったです」
 メテオバイザーが微笑む。
「天性の職人ってやつだな、また何かあったら頼むぜ」
「それにしても悲しいお話でしたね、赤原さん」
 鼻水を啜るような音が聞こえて、思わず光夜は足元を見やった。
 するとスネグラチカと一緒になって台本を覗き込んでる理夢琉がいた。
「ハーフの犠牲のもとに変わる世界なんですね、私は何か希望がほしいなぁ」
 そうアリューを見つめる理夢琉だったが、アリューは何も言わないで視線をそらす。
「主人公達が英雄になって還ってくる……とか」
 ルネや爺やに思いをはせているのだろう、理夢琉は遠い目をしていた。
「まぁ、そいつは、脚本家の趣味というか、何というか、だからな、俺にはどうにもできんぜ、俺は気に入ってるがな」
 そう箸をカチカチと鳴らす光夜。
「自己犠牲、いいじゃねぇの」
 そうしたり顔で頷く光夜、その隣に立つ理夢琉の袖を引いたのは遙華だった。
「理夢琉、お仕事の話少しだけいいかしら?」
「あ、前にしていただいた話ですね。自立する為に色々試そうと思ってるんです」
 宴会はそれこそ夜を徹して行われた。
 やがて朝日が昇れば、吸血鬼のようにとろけた人間の山が出来上がり。
 帰りの車の中はてんやわんやだったという。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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