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大蛇は雨がお嫌い
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最終発言2017/06/14 05:31:02 -
大蛇退治作戦
最終発言2017/06/15 05:46:49
オープニング
モンゴル、南部。
美しい草原は見る影もなかった。地面のところどころに穴が穿たれて陥没し、土が剥き出しになって草花は枯れ果てていた。
草原を移動しながら生活している遊牧民が次から次へと消えている。遊牧民が住んでいた家代わりのテントは荒らされており、その残滓が被害の悲惨さを物語っている。
これらの被害は従魔の仕業だ。従魔の咆哮を耳にするたびに遊牧民の不安は募る。
遊牧民の間でこの従魔はヨルムと呼ばれている。北欧神話でも有名なヨルムンガンドの名を冠されたこの従魔は、大蛇の姿を形取っている。
普段は地面の中に潜っており、腹が減ると遊牧民を襲っては再び地面に潜る。体躯は丸太よりも遥かに大きく、全身は硬い鱗に覆われている。尻尾には鋭い棘があり、口から吐く息には毒がある。ヨルムが現れた草原の草花が枯れるのはその毒のせいだ。
既にH.O.P.E.からエージェントが派遣されたが、結局ヨルムの討伐は失敗に終わった。ヨルムの対策が十分ではなかったからだ。
ヨルムの鱗は非常に硬く、AGWによる攻撃にも耐性がある。動作は俊敏で、地面からの奇襲は強力。ヨルムの戦法は攻撃と防御を兼ね備えた厄介なものだ。
しかし、失敗から得られたこともある。
剥がれ落ちたヨルムの鱗を水に浸けてみた結果、透明な鱗は黒く変色し、膨張して質量が増加した。
さらなる情報として、ヨルムは雨の日は現れない。移動した経路を辿ってみたが、川や湖にも近付かない。
つまり、ヨルムの弱点は水ということだ。ヨルムが水を浴びると鱗が重くなり、動作が鈍くなると思われる。
現在、ヨルムは中国に向かって進行している。早急に食い止めなければ被害は甚大なものになってしまう。
ヨルム討伐に向かうエージェントを求む。
解説
デクリオ級の従魔――ヨルムの進行を食い止めることが目的。
大蛇型の従魔で、全長はおよそ二十メートル、胴の直径はおよそ一メートル。
モンゴルの草原に生息。普段は地面の中に潜っている。
全身を硬い鱗に覆われている。鱗にはAGWによる攻撃に耐性がある。尻尾にはおよそ一メートルの棘が生えている。毒を吐く。一般人が毒を吸うと即死する。能力者は減退のバッドステータスを受ける。
ヨルムの弱点は水。鱗が水を吸収し、動作が鈍くなると思われる。
モンゴルの天気は晴れが続いており、雨は当分降らないという予報。
ヨルムが中国に到達した時点で失敗。討伐で成功。
リプレイ
構築の魔女(aa0281hero001)は、モンゴルの南部を写した衛星写真を時間経過ごとに並べていた。
こんな巨大な存在が動くというのはとても興味が湧きますが……。
未知を解き明かすことを至上の命題と謳っている構築の魔女にとって、ヨルムは格好の研究対象だった。研究者の血が騒ぐ彼女を横目に、辺是 落児(aa0281)は無口を貫いていた。
草木が枯れた部分を辿っていけば、進行方向は大まかに把握できる。その先端にヨルムがいるはずだからだ。
「地下に潜まれているのは厄介ですね……食事のために姿を現すと聞きましたが」
ヨルム――ヨルムンガンドの名を冠された大蛇型の従魔。大蛇型の従魔なら、蛇の身体構造や特徴が参考になるかもしれない。
構築の魔女は簡単に蛇の身体構造や特徴を羅列した。
全身が鱗に覆われていること。毒牙から毒を噴出する種類がいること。目は常にレンズに覆われていること。
「ふむ、腹部の鱗で前進したり鱗を土に立てての蛇行……色々な動き方がありますね……とはいえ、従魔ですからあくまで参考ですね」
いずれにせよ、ヨルムが潜伏していると思われる場所に行ってみなければならない。衛星写真では範囲が広すぎてあまりあてにならない。
構築の魔女は早速現地に赴いた。
ヨルムを誘き出す作戦としては、アサルトユニットで飛び回り、阿波踊連囃子の音楽を幻想蝶から響かせて振動を地面に伝える、というものだ。
「知能が高いと疑われる危険はありますが……現状、人間を脅威とはあまり思っていないはず。巨大な相手ですから、その質量自体が凶器ですよね。攻撃は他の皆さんを頼らせていただいて……私は動きを抑制しましょうか。さあ、でき得ることを十全に成し遂げましょう」
モンゴルの閑散とした草原に響き渡る賑やかな阿波踊りの囃子。構築の魔女はヨルムが音楽に釣られて躍り出てくれることを期待した。
餅 望月(aa0843)はH.O.P.E.を通じて散水ヘリを要請した。水脈を避けるヨルムの進路を予測し、その方向以外の場所に散水して進路を確実にするためだ。
河川と地下水脈の位置は既に地図で把握した。水路の袋小路を作り、ヨルムが地上に出てくる場所にも目星をつけた。
ちなみに、一度ヨルムの討伐に失敗した際、引きずり出さずともヨルムはエージェントたちを狙って地上に出てきたのだという。対策が十分でなく失敗しているため、この作戦は参考になりそうもなかったのだが。
「幻想蝶にいっぱい水を入れていくのは駄目なの?」
百薬(aa0843hero001)は散水ヘリが飛行する上空を見上げながらそう言った。
「そこまで便利じゃないし、百薬のおやつまで水浸しになっちゃうよ」
「それはイヤー」
「手持ちは新型MM水筒に入るだけね。まあ、何もない砂漠みたいなところを進んでるんだから、あたしたちがいたら出てくるとは思うけど」
「多分、水は嫌いでもライヴスはほしいよね」
散水ヘリが進路を作る。空腹のヨルムが地上に現れるのも時間の問題だ。
散水ヘリの支援として消防車を要請した。ヨルムの進路を操作するには大量の水が必要だった。これでもまだ足りないくらいだ。
現地に到着し、九字原 昂(aa0919)は首を傾げて唸っていた。
「こういう特徴の生き物の話、どこかで聞いたことがあるんだけどなぁ……」
ベルフ(aa0919hero001)は欠伸を一つした。
「元々がなんであろうと、退治する必要性は変わらんだろう」
「こう、喉元まで答えが来ているんだけど……すっきりしないなぁ」
ヨルムを目の当たりにすれば思い出すかもしれない。とにもかくにも、ヨルムを誘き出さなければ話は始まらない。
昂は駆け出し、ベルフもその後に続いた。
足音の振動が地面に伝わればヨルムに存在をアピールできるのではないか――すなわち、囮役だ。餌を演じるのはあまり気持ちのいいものではなかったが、これも仕事のうちだ。
砂の上を走りながら、昂は浮かび上がった疑問に思考を巡らせていた。
アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は味方が予測したヨルムの位置を参考しつつ、周囲の穴や振動から正確な進行方向を割り出した。
「周囲の遊牧民は避難してるんでしょ?」
「なら、しばらく食事を取ってなさそうだし、わたしたちの気配を察知すれば出てくるかもね」
二人は地面に開いた直径およそ一メートルの穴を発見した。ちょうどヨルムの胴の直径と同じ大きさの穴だ。
恐らくヨルムが掘った穴と思われる。掘り返された土はまだ乾燥し切っていない。つまり、この近くにヨルムが潜んでいる可能性がある、ということだ。
「掘って進んでるんだ、その穴は地中に潜ってる敵に繋がってる」
「水でも流し込んだら出てきそうなものだけど。まあ、あくまで敵の近くに穴が開いていたら、かな」
穴が続いているずっと先は水路の袋小路。水を流し込んだら否が応でもヨルムは地上に這いずり出てくる。
ひとまず二人はこの穴に水を流し込んでみることにした。
葉月 桜(aa3674)と伊集院 翼(aa3674hero001)は消防車でヨルムを水浸しにして弱点を突くことを考案した。
鱗が水を吸収すると動作が鈍くなる。その間に攻撃すれば地面の中に逃げるのも妨害することができる。ヨルムの攻撃も回避しやすくなる。
ヨルムとの戦闘では水が鍵を握る。逆に、水をかけてしまえばヨルムの討伐はいとも簡単に遂行できてしまう。ヨルムに対しては水も立派な攻撃手段になり得る。水を纏ったものは防御の役にも立つ。
だが、水には限りがある。水が切れたら絶体絶命だ。この先は砂地。地下に水道のポンプは通っていない。
「うーん、どうすれば水を活かして戦うことができるかな?」
「少なからずとも、水筒やペットボトルじゃ駄目だろうな」
「力作業なら任せて! あ、斬り払うって意味だよ☆」
「それなら、大剣を水浸しにして戦ったらどうだ? より効率的にヨルムの弱点を突けると思うんだが」
「いいね! 気分は消防士さんだね!」
消防士さながらに意気込み、桜は大剣を濡らしてスタンバイした。
大蛇ヨルムは極めて龍蛇に近いのではないか。
いつの日かラムトンワームを滅ぼさなければならないアイリーン・ラムトン(aa4944)にとって、これは模擬戦であり使命であった。
元となったラムトンワームの伝説では、井戸で育った小さな蛇が極端に巨大化し、毒を吐く大蛇になった。ラムトン家の跡取りは刃を埋め込んだ鎧を着てラムトンワームにわざと巻きつかせ、燃える槍で突き刺して倒した。
アイリーンはこの伝説を元に戦おうとAGWのナイフを埋め込んだ刃の鎧を用意した。ラムトンワームと共鳴して力を借りるのは癪だが、地中に潜ってしまうヨルムを確実に仕留めるためには妥協するしかない。
今回のヨルムは水に弱いということで、燃える槍ではなく新型MM水筒を利用することにした。大剣に水が流れ続けるよう改造を施したタンクを背負えば、ヨルムの進路を邪魔しながら斬りかかることができるはずだ。
「大蛇ヨルム……きっと倒してみせます!」
自衛隊に交渉した結果、消防車を借りられることになった。
これで大量の水は確保できた。あとはヨルムの進路を予測し、それを妨害するのみだ。
陸上自衛隊普通科、小銃小隊所属の築城水夏(aa5066)は竹田伸晃(aa5066hero001)と共鳴し、怪力を活かしてシャベルで穴を掘っていた。
常人を遥かに凌ぐスピードで穴や溝ができていく。穴に水を流し、池がいくつもできる。溝は後でこっそり水を流してヨルムを追い詰めるために使う。これらでヨルムの進路を誘導し、逃げ場をなくすと同時に弱体化を図ろうという魂胆だ。
戦闘の準備が終わり、水夏は額の汗を拭った。
予測が正しければ、そろそろヨルムが現れる頃合いだ。水夏は銃を抱えて気合を入れた。
「現在地! ヒトフタサンマル、ただいまより作戦に入ります!」
雪室 チルル(aa5177)とスネグラチカ(aa5177hero001)は燦々と輝く太陽の光を浴びて伸びをした。
「いい天気ね! こんないい天気だと色々楽しいことができそうね!」
「本来の目的としては雨とかの方がいいんだけど」
「それはそれよ! いい天気を楽しむために、さっさと敵を倒そうね!」
「おっけー! さくっと倒していい天気を楽しもう!」
ヨルムがここを通過する時間も迫ってきたため、二人は具体的な作戦を立てることにした。
だが、早速スネグラチカは考えあぐねた。
「相手は地面の下にいるみたいだから、とりあえずどうやって引きずり出す?」
チルルは得意げに両腕を組んだ。
「基本的な指針としては、放水車などを借りることで水を使えるようにするわ。で、相手は地面の下にいる以上、恐らく地上の振動とか足音を頼りにして地上の情報を確認していると思うのよ。だから、囮役が走り回るとか地面をたたくとかして位置を知らせることで、相手の出現を狙うって形を取るわ」
「首尾よく引きずり出すことができたら、水をかけるってことでいいのね?」
「そうそう、そんな感じよ。放水車が使えない場合は事前に用意した水筒とか、別途水や氷を出せる武器とかを使う形ね。どちらにしても相手に水を使うのは確定事項よ」
「引きずり出してから戻るまでにうまく水を当てられるかどうかが肝心ってことね」
既に囮役は昂が買って出ているが、協力することでよりヨルムを誘き出せる可能性が上がるかもしれない。何より優先すべきはヨルムを引きずり出すことだ。ヨルムが現れなければ戦闘は始まらない。
「あとはあたしたちの動きね」
張り切るスネグラチカ。チルルは首肯を返した。
「基本的指針は中距離からの援護攻撃って形ね。事前に水筒に水をたくさん入れておくことで、いつでも水をかけられる準備をしておくわ。相手が出てきたところを狙って、水筒や放水車による水を使用する形ね。放水車は攻撃される可能性があるし、水筒も数に限りがあるから慎重に。攻撃面については相手の鱗が存在しない部位、口の中とか目とかを狙っていく形を取るわ。時間がかかると水が足りなくなる可能性が高いし、基本的にはスキルはどんどん使っていくよ。あと、後衛とか放水車が狙われそうになったら、盾に切り替えて防御を行うわ。肝心要の水がなくなったらどうしようもないからね」
「相手は手強いけど、頑張って勝利を収めようね」
「もちろんよ! あたいが負けるはずがないわ!」
ヨルムの対策は万全。水路の袋小路を背に、二人は温暖な空の下を駆けずり回った。
阿波踊りの囃子がこだまする中、囮役のエージェントたちが走り回る。散水ヘリと消防車が水を撒き、道を浮き彫りにする。即興で掘った池が行き止まりとなる。
間もなくヨルムが現れる時間だ。地中からの襲撃に注意しつつ、エージェントたちはヨルムの出現を待った。
地面がわずかに揺れている――このことに最初に気付いたのは昂だった。地面の下に巨大な存在の気配を察知した刹那、足元の土が崩れた。いや、地面が盛り上がって大蛇の大口が獲物を食らわんとした。
昂は紙一重で丸飲みを躱し、ヨルムは宙に舞い上がった。
隙だらけの胴体に女郎蜘蛛。立て続けに猫騙。地面に落ちるヨルム。巨体が地面を揺らし、池から飛沫が上がる。
「まずは丁寧に下拵えをしないとね」
「水でふやかすのを下拵えと言えればな」
昂はライヴスの蜘蛛の巣でヨルムを絡め取りながら締め上げようとしたが、意思を持っているかのように暴れ狂う尻尾の棘が蜘蛛の巣を切り裂いた。
ヨルムが蜘蛛の巣から逃げ出す間にさらなる隙ができた。
望月がライヴスを水に変化させて刃に纏った槍を突き出すと、ヨルムはあからさまに飛び散る水を嫌がって避けた。やはり水には弱いようだ。
アイリーンは大剣から大量の水を撒き散らしてヨルムの進路を邪魔する。動作を先読みし、龍を屠るために作られたという伝説がある大剣で斬りかかる。
「はぁっ!」
斬撃はヨルムの胴体にヒットしたが、鱗が肉へのダメージを妨げた。噂に聞いていた通り、鱗の硬さはだてではないようだ。
しかし、水に触れた鱗は黒く変色した。情報が本当なら、水を吸収して質量が増加した証拠だ。
ヨルムの動作がわずかに鈍くなったところで、桜は水浸しにしておいた大剣を構えた。
トップギアでライヴスを研ぎ澄ませてある。その上で防御を捨てたオーガドライブを発動。攻撃力を最大級に高めた龍殺しの大剣が振り下ろされる。
斬撃は鱗ごと肉を裂いた。ヨルムは咆哮を上げ、地面の中に逃げようとした。肉を裂いたとはいえ、鱗のせいで傷はまだ浅かった。
桜は電光石火で距離を詰めて追い打ちをかけた。ヨルムは怒りに吼え、破壊の限りを尽くさん勢いでのたうち回った。
これではさすがのエージェントたちも近付けない。尻尾の棘に貫かれたら一巻の終わりだ。
「作戦を実行します! 各個に早駆け!」
凶暴性を増したヨルムに打つ手なしかと思われたが、水夏はヨルムを追い詰めるべく動き出していた。
事前に掘っておいた溝に水を流し込むことで、時間差で池ができる。ヨルムの背後に水が引き込まれる。暴れるヨルムはそのことに気付かない。
「単射に切り替えていきます! 安全装置よーし、弾込めよーし、単発よーし!」
弾丸が鱗の一部にひびを入れた。水を吸収した鱗は格段に脆くなっていた。防御の性能はそこまで劣化していないものの、鱗を剥がしてしまえば攻撃が通るようになるはずだ。
アリスは宝典を開き、属性を水に選んだ。
強力な水の魔法がヨルムの横腹を狙う。リフレクトミラーが魔法を乱反射させ、攻撃範囲を拡大する。ヨルムが苦手な水の奔流に飲まれる。
ヨルムが後退しても背後には池と構築の魔女。もはやヨルムに逃げ場はない。
構築の魔女は新型MM水筒を投擲し、それを銃で撃ち抜いた。頭部に一つ、腹部に二つ、尾部に一つ。弾丸に貫かれた新型MM水筒は爆散し、内部の水を撒き散らした。
アサルトユニットで機動性が大幅に上がっているため、動作が鈍くなったヨルムの攻撃は構築の魔女に当たるはずもなかった。
しかし、口から吐かれる毒は別だ。
ヨルムが鎌首をもたげて口を大きく開けた瞬間、構築の魔女は身を翻して距離を取った。
毒は殊の外エージェントたちを苦戦に追いやった。ヨルムの口を封じなければこの状況を打破できないが、近付こうものなら丸飲みにされてしまうだろう。
ヨルムの巨体がエージェントたちを押し潰そうと迫る。水を吸収して質量の増加した巨体はそれ自身が脅威だ。もし下敷きになってしまえば、肉片一つさえ残らない。
ここであえて前進したのはアイリーンだった。
迫り来る巨体を躱し、胴体の中心でわざと足を止める。ヨルムがとぐろを巻き、アイリーンが包み込まれる。
締めつけられて押し潰されたかに思われたが、ヨルムはすぐさまとぐろを解いた。それもそのはず、アイリーンが着ているのは刃の鎧。ひび割れていた胴体の鱗がぼろぼろと剥がれ落ちた。
「いい加減大人しくしなさい! それが無理ならあたいが大人しくさせてあげるわ!」
ここでチルルが追撃を仕掛ける。ライヴスを纏わせた弾丸がヨルムの片目を潰し、鱗が剥がれた部分にも弾丸が刺さる。
片目を失ったヨルムはあらゆる方向に毒をばらまいた。
だが、もう先ほどのようにはいかなかった。
構築の魔女のダンシングバレットとテレポートショットが毒牙を折り、昂はハングドマンの鋼線をヨルムの口に絡ませた。
口をしっかりと縛られたヨルムは海岸に打ち上げられた魚のごとく跳ねた。水を含んだ鱗のせいで動作が緩慢になったこともあり、近付くのは非常に容易いことだった。
望月の槍が鱗を完全に破壊し、桜の大剣が肉を断つ。水夏とチルルの銃が正確に防御の薄いところを穿つ。
「なんのためにわざわざ水で濡らし続けたと思ってるの。全部雷を通りやすくするため」
満身創痍のヨルムにチェックメイトをかけたのは、アリスのサンダーランス。雷撃を纏った槍が一直線にヨルムを貫き、水を伝って全身に雷を迸らせた。
ついに北欧神話の大蛇――ヨルムンガンドの名を冠されたヨルムが倒された。
もしこの大蛇が中国に到達していたら――そう考えると怖ろしくもあった。少なくとも、被害者の数はゼロでは済まされなかったであろう。無事ヨルムの討伐が終わり、エージェントたちは安堵に胸を撫で下ろした。
エージェントたちが撤収していく中、昂は「あっ」と声を上げた。
「思い出した、モンゴリアンデスワームだ」
すっきりした表情の昂。ベルフは彼の言ったことを理解し、呆れ顔になった。
「ずっと考えていたのか……」
なんにせよ、モンゴルの怪物は退治された。エージェントたちはモンゴルに以前のような穏やかな生活が戻ることを願うのだった。
ヨルムが討伐された後、モンゴルの草原には再び平和が訪れた。
枯れ果てた草花は戦闘でこれでもかというほど撒いた水のおかげで新しく芽生え、避難していた遊牧民たちも戻ってきて元通りの光景になった。美しい草原が戻り、遊牧民たちはこれまでの生活のありがたさを噛みしめた。
「うーん、気持ちのいい天気ね!」
柔らかな陽光の下、草花の絨毯の上でピクニックをするエージェントたちの姿もあった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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