本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】君、想えば・現

紅玉

形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
6日
完成日
2017/06/06 19:35

掲示板

オープニング

●あらすじ
 カフカス地方、山と海に囲まれたその地で奇妙な事件が起きていた。
 カフカス特殊部隊の兵士が任務中に、何かに誘われる様に森へと消えた。
 翌日、その兵士は凍った死体として森の中で発見された。
 それからも同様の事件が何度も起きて兵士の命がただ奪われていく中、特殊部隊の上層部は独自に調査した結果、軍の兵では太刀打ち出来ないと判断しHOPEに依頼をした。
 依頼を受けたエージェント達は、囮や兵士達に聞き込み等をして調査を進める。
 しかし、冥人が数名の兵士を連れて調査に出掛けていることを知った。
 白百合の幻と催眠に掛かった兵士は、彼女が作ったドロップゾーンに誘われる。
 冥人は兵士を助けだし、白百合の手から逃がす為に彼女の要求に従い捕まった。

 基地へ帰ったエージェント達は傷を癒す。
 そして、再び会議室に呼ばれたエージェント達にトリス・ファタ・モルガナは『冥人が死ぬ可能性のある白百合の討伐』と『冥人を救出し、白百合の能力を調べる』の2つを提案を出す。
 その場に居たエージェント達は直ぐに『冥人の救出』を選んだ。
 冥人を助けるべく、エージェント達は基地で出来る限りの準備をし、白百合の元へと向かったがーー……。
 笑みを浮かべたままの白百合と、操られてしまった冥人が居た。
 幻を歌の力で振り払おうと試みるが、白百合は同時に催眠も掛けていた。
 違和感に気付いたエージェント達は、己に傷を付けたり自力で目覚める。
 そして、白百合の後ろに一人の青年が椅子に座っており、助けようと駆け出すも妨害されてしまった。
 青年を救出を諦め、弱った冥人を連れてドロップゾーンから撤退した。
 白百合は、エージェント達を『追いかける事は、命令に入って無い』と呟きながらあっさりと逃がした。

●花と壊す者の想い
 つまらない、と呟きながら白百合は鉛色の空を見上げた。
 金色の瞳に映るのは見慣れた自分のドロップゾーン。
「Je veux aller à la maison」
 と、鉛色の空に向かって言うと、白百合は雨水で濡れた地面に顔を向け瞳を伏せた。
 雨が足元の水溜まりに落ち、沢山の波紋が波打ち水面に映った白百合の顔が歪む。
「アルノルディイ」
 白百合は瞳を閉じると、優しく微笑む女王の姿をその瞼の裏に映し出す。
「せめて、最後は……」
 ぎゅっと自分の体を抱き締めた。
 地面から生えた無数の百合が白百合の体を包んだ。

 基地で倒れた圓 冥人は、急遽HOPEの病院へと運ばれ数日眠り続けた。
 何度お世話になったのかさえ忘れたが、見慣れた病室の天井を見つめた。
(無いのが、寂しいな)
 何時も腰から下げていた大太刀が無いのを
確認する。
『うん、しかも扱える白百合に、取られた』
 弩 静華は緋色の瞳を伏せながら静かに呟いた。
「どう思う?」
『さぁ? 白百合は嫌い、凄く』
 静華は低めの声で言うと、ふんっと鼻を鳴らした。

●反撃
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。白百合に関しての情報は集まり、後は討伐するだけです」
 ティリア・マーティスは、集まったアナタ達をぐるりと見回した。
「しかし、ドロップゾーンは未だに展開されたままで、契約している白百合は強いかと思いますが……今の皆さんなら倒せます」
『ええ、だから今回はシンプルに言わせていただきます』
 トリス・ファタ・モルガナはゆっくりと瞬きをする。
『今回の依頼は、愚神・白百合の討伐! 皆さん、武運を』
 と、トリスは声を上げた。

解説

【目標】
愚神『白百合』の討伐

【場所】
森の中(昼)
ドロップゾーン内部は、常に雨が降っており気温も低くエージェントでも体力を奪われます。

【敵】
愚神『白百合』
HOPE支部は『ケントゥリオ級』と予測
金の髪と瞳を持つ10歳位の少女の姿
現在、冥人の大太刀を持っている。
幻を『男性』に見せ、軽い催眠状態にする。
●攻撃
・氷の壁(高さ約2m、横約1mの氷の壁を地面から生やす)
・霧(幻もしくは軽い催眠状態にさせる)
・百合(普通の百合と同じ大きさ、茎の部分が蔓の様になっており伸び縮みする。花の中央に口があり牙が生えている)
●弱点部位
不明

【青年】
生死不明
白百合と契約

【NPC】
同行は片方のみとなっております。
ティリア&トリス→戦闘可能
冥人&静華→短時間のみ戦闘可能

【PL情報】
『●花と壊す者の想い』
PC情報として落としこむのは不可能です。

リプレイ

●それは掌くらいの
 会議室に響いていたトリス・ファタ・モルガナの声が消え、静寂包まれた。
 『よいよか』とその場に居る誰もが思った。
「決着……付ける時、だね」
 ニウェウス・アーラ(aa1428)は、紺碧の空の様な瞳で窓から見えるカフカス地方の空を見上げた。
「ええ。今までの分、熨斗を付けて返してあげるわぁ」
 その隣にいる戀(aa1428hero002)が笑みを浮かべた。
『……今回の任務で、決着をつける、と?』
 話を聞き終えたブラッドリー・クォーツ(aa2346hero001)は花邑 咲(aa2346)に視線を向けた
「……えぇ。小さな白百合との、最後の戦いになるみたい……」
 咲はこくりと頷いた。
「本日の小官は補充要員であるからして、戦うのみである」
 ソーニャ・デグチャレフ(aa4829)は緋色の髪をかき上げ、日長石の様な色をした大きな瞳を開き顎に手を添えると口元を吊り上げて笑った。
「皆さんを、守りたいの。榊さん、力を貸してください、です」
 今回の戦いに重要視されるであろう歌を歌う少女・泉 杏樹(aa0045)は、アメシストの様な瞳を榊 守(aa0045hero001)に向けた。
『かしこまりました。お嬢様』
 と、言いながら守は杏樹に向かって恭しく頭を下げた。

「圓さん、ご同行していただいても良いですか?」
 咲は紅玉の様な瞳で圓 冥人を見上げた。
「病み上がりで良いなら、ね」
 と、肩を竦ませながら答えた。
『正直に言えばティリアさんに来て欲しい、が』
 バルトロメイ(aa1695hero001)は腕を組んで一瞬だけティリアに視線を向けた。
「白百合の弱点を見付けられるのは冥人さんだけだからです!」
 セレティア(aa1695)がビシッと指先を冥人に向けながら言う。
「そういう理由でなければ、わたくしも戦力になりえるティリア様を指名してましたわ。しかし、確実に倒すのであれば弱点が分かる冥人様を選ばざる負えないのですわ」
 凛とした声で言いながらファリン(aa3137)は冥人を睨んだ。
『そういう訳だ、冥人』
 ヤン・シーズィ(aa3137hero001)が肩を竦ませた。
「ええい、小官をいつまで待たせておくのだ。敵の位置は分かっておろうに……」
 ターニャが飽きれた表情で仲間を見据えた。
『ですが、契約者に冥人もいるので慎重になりますわ』
 柔らかな笑みを浮かべたままファビュラス(aa4757hero001)は仲間を翡翠の様な瞳で見つめた。
「白百合……いや、花の名を冠する姉妹を知っている冥人が居ないと厳しい戦いになるからね」
 シオン(aa4757)は藤色の瞳を細め、優しい声色でこの依頼で初めて白百合と戦うターニャに言う。
「しかし、病み上がりなのだから『まともな戦力』にはならぬだろう」
 小さく鼻を鳴らしながらターニャは視線をカフカスの山々に向けた。

「これと、これと……ついでにこれ」
 ニウェウスは、サバイバルブランケット、幻想蝶対応済プレハブサウナ、そしてH.O.P.E.まん2個を冥人の前にドンと山積みにした。
『さうなだけ、入れておく』
 弩 静華がぽいっと幻想蝶にサウナを入れる。
「本格的というか……なんというか。俺で良いのかな? って戸惑ってるよ」
『良いのよ~。戦力はそろっていても、弱点が分からないと皆が困るのよ~』
 冥人の問いに戀はのんびりとした口調で答えた。
「準備は良い? 敵は待ってくれても太陽は待ってくれないよ」
 準備を終えた梶木 千尋(aa4353)は仲間に声を掛ける。
『わたくし達は準備万端です』
 守はゆっくりとした動作で頷いた。
「私達も準備完了しました」
 咲は冥人達に視線を一瞬だけ向け、会議室の出入り口に集まっている仲間の元へと足を向けた。

●独りで咲く
 トルコとロシアの間にあるカフカス地方は、山岳地帯でロシアからの冷気をカフカス山脈が遮って比較的温暖な土地である。
 それでも遠くの山に視線を向けば、頂上の部分だけ雪によって白くなっているのが分かる。
 だが、寒い。
 そう、そこは白百合のドロップゾーン内部。
 外は気持ちが良い位の晴天だったのに、雨降るドロップゾーン内部の空は鉛色。
 ガクッと気温は下がり『今は冬ではないのか?』と錯覚する程だ。
「白百合……障害物を破壊し道、作るよ」
 ニウェウスは爆導索をライヴスキャスターで複製し、仲間より少し前に出た。
「これはまごうことなきペンギンですね……」
 セレティアはバルトロメイの姿を頭の先から足の先まで見つめた。
『見た目はアレだが、防寒も防水もバッチリだぞ、多分な』
 巨大なペンギンのきぐるみ『スペシャルズ・ペンギンドライヴ』の中からバルトロメイの声が発せられた。
「ドロップゾーンの冷気で体力を奪われる心配はないので便利ですわ」
 バルトロメイより一回り小さなペンギンのきぐるみ姿のファリンは、てくてくと水かきが付いた足を動かしながら進む。
『俺でも幻を見るのかな、楽しみにも感じる』
 と、ヤンは呟いた。 
「お兄様が女性に惑わされるなんて想像できませんわね」
 ファリンは呆れた声色で言いながら歩む速度を落とさない。
「なんと緊張感の無い姿だ……しかし、機能を聞くと今回の戦闘に有効な武装であるな。小官も欲しいが、あの様な姿には流石になりたくはないものだ」
 ターニャは、ドロップゾーン内部の寒さに少し身を震わせながら2羽のペンギンに視線を向けた。
「ま、僕も含め白百合を引き付ければドロップゾーンのダメージだけで済みそうだしね」
 高野 香菜(aa4353hero001)は防寒具で身を包み、物理的な寒さからは身を守れてはいるがドロップゾーンの冷気からは守れてはいない。
「それもそうだな。だが、小官にはフロストウルフ100匹の毛皮から編み上げたウルフマントとゼストスオーブがあるからな」
 と、言って美しい白い毛皮のマントの裾を翻し、ラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)に乗り込んだ。
『食べ物多くて、幸せ』
 一番後ろに居る静華は貰ったチョコレートを頬張った。
「そんな調子ですと、戦闘前に全部無くなってしまいます」
 静華の頬に付いたチョコを吹きながら咲は笑みを浮かべた。
『冥人さん、食べられない様にしてください……』
「うん、共鳴しておくよ」
 ブラッドリーの言葉を聞いて冥人は共鳴姿になった。

 ドロップゾーンの中央。
 古ぼけた木製の椅子に座る白百合は精巧に作られた人形の様だ。
「見目美しい白百合……最後のワルツを踊ってくれないか? この……静やかな空の涙の旋律と共に……」
 シオンは藤色の瞳に映る少女に手を差し出す。
「いいわ。楽しく、一緒に……踊りましょう?」
 白百合はエージェント達に少しだけ視線を向け、雨水で濡れた地面の上に立つと周囲に雨水が飛び散り沢山の波紋を作る。
「皆さん、無事に一緒に、帰る為に、杏樹は、歌で戦うの」
 杏樹はぎゅっと胸元で手を握り締め、静かに深呼吸をした後に美しい旋律を奏で始めた。
『会いたかったぜプティ・フルール。礼は利子つけて返してやる』
「まぁ、愛らしい生き物から発せられる言葉には思えないわ」
 ペンギン(バルトロメイ)を見て、白百合は両手で口元を押さえて驚くそぶりを見せる。
 そんな可愛いペンギン(バルトロメイ)の手にはドラゴンスレイヤーが握られている。
『よそ見しちゃ、だめよ』
 戀がパチンと指を鳴らすと、複製した爆導索からワイヤー射出され一直線に白百合の方へと伸びる。
「そんなモノで私を捕まえる事が出来るとお考えなのかしら?」
 ワイヤーは白百合に爪一枚程まで迫った瞬間、地面から氷の壁が生えキンと弾かれたり弾かれてしまった。
『捕まえる為に障害物を壊すの』
 目を細め白百合を見つめながら戀は起爆した。
 カッと閃光が一瞬だけ放たれると、圧縮されたライヴスが放出されワイヤーが爆発し氷の壁が四散し周囲に飛び散る。
「最悪、ちょっとワンピースが汚れてしまいましたわ」
 爆発に紛れ込み、戀の足元から白百合が見上げていた。
『もっと、私を見て欲しいの』
 口元を吊り上げる戀は白百合を見つめるが、地面の草がゆらゆらとざわめき蕾が付き花開いた。
「そうは、させねぇ!」
 バルトロメイは、天使のラッパ【Gabriel】に口を付け霊気を吹き込み音が衝撃波となって百合を薙ぎ払う。
「何をしておる! 百合を減らせ! 白百合を攻撃せよ!」
 ターニャはポルードニツァ・シックルを手にし、バルトロメイとは反対側から蠢く百合に向かって横に薙ぎ払う。
「さぁ、逃げられませんよ?」
 白百合の後方には守るべき誓いで狙われやすくなった千尋と、青年へと近づいているのはシオン。
「ここは私であり、私はここでもある……わ」
 と、美しく儚い白百合の様な笑みを浮かべ『愚神・白百合』は胸元に手を置いた。
「それはどうでしょうね」
 ファリンが百合を殲滅するついでに白百合にも向かって、フリーガーファウストG3の銃口からライヴスのロケット弾を放つ。
 戀が素早く後退した後、ロケット弾は着弾し百合の破片と泥水となった雨水が飛び散った。
「貴女、妹達に似てて嫌いですわ」
 百合に守られて無傷の白百合は千尋に向かって大太刀を振り下ろす。
「通しませんよ」
 千尋は飛盾「陰陽玉」で攻撃を受け止めた。

「ごめん」
 離れた位置から白百合に向けていた視線を反らし冥人は瞳を伏せた。
「どうし……あっ!」
 その様子に気が付いた杏樹が声を掛けた瞬間、冥人が大量の百合に呑み込まれた。
「冥人さんっ!」
 シャープポジショニングで位置を把握していた咲は手を伸ばすが。
 ただ何もない空を掴んだ。

『maman reineのところに逃げ帰ったらどうだ、甘えん坊。お前のあとをつけていって重ねて四ツにしてやるぜ』
 と、声を上げながらバルトロメイは白百合の背後を取る。
「クサイ。あぁ、妹(彼岸)のニオイがするわ」
 くん、と鼻先を空に向けながら白百合は振り向いた。
『うぉああああッ!』
 バルトロメイはドラゴンスレイヤーを激しく振るい、白百合に向かって疾風怒濤の連続攻撃を放つ。
「ざーんねん、一人でのダンスがお上手なのですわね」
 バルトロメイの猛攻を一度だけ受け、くるりと回って白百合は攻撃を避けた。
「鬨の声を上げろ、諸君。突撃、突撃」
 と、仲間に言うとターニャは『ディエス・イレ』とラテン語の刻印が施された12.7mmカノン砲2A82の銃口を向けた。
「……そこ、だね?」
 シオンがAK-13の銃口を素早く白百合に向け、ファストショットで回避した瞬間を狙ってトリガーを引く。
 銃口から放たれた弾は当たり、雨に混じり赤い液体が宙を舞い白いワンピースに赤い斑点の模様を作る。
「踊れなくしてあげますわ」
 と、間髪入れずにファリンがキリングワイヤー【蔡文姫】を振るうと、超硬質ワイヤーがグローブから射出し白百合の体が裂かれた。
「敵は怯んでいるぞ、パンツァ―クリーク!!」
 力強くターニャは声を上げながらトリガーを引き、12.7mmカノン砲2A82の銃口から高圧で圧縮された流体金属とライヴス鉱石の弾頭が射出された。
「本当、人間って芸術的じゃないわね」
 白百合が地面に着地すると、氷の壁を素早く生成し防ごうとする。
 だが、全長219cm、砲身140cmの銃口から射出された『弾丸』いや『ミサイル』に近いモノは氷の壁を貫き、熱を持ったモノは容易に氷を水と蒸気に変えながら進む。
「そんな氷の壁では、小官のカノン砲を止められるワケがないだろうに」
 口元を吊り上げ、鼻を小さく鳴らしながら笑うターニャはメンルヴァの様である。
「皆の癒しになる、それが、杏樹の願い、です」
 ドロップゾーンの冷気によって体力が減った仲間を杏樹はケアレインで癒す。

『百合に囲まれるなら早く言って欲しいです』
 ブラッドリーが飽きれた声色で言う。
「そうです。何故早く言わなかったのですか?」
 百合の集合体を観察しながら咲は中に居る冥人に向けて言葉を放った。
「はー、分かっていてもイヤだね。もちろん、巻き込まれない様にだよ」
「少しは……信頼して下さい」
 冥人が言うであろう言葉を実際に言われた咲は、少し声のトーンを抑えながら言うと視線を地面に向けた。
「信頼してるよ?」
「それは、戦う事に関してですよね? 人として、いえ、同じH.O.P.E.仲間なのですから信用して下さい。頼って下さい」
 と、言うと咲は白鳳の羽扇を手にした。
『サキ、無理は』
「分かっています。弱点を見られない様に白百合が隠した可能性が高いです」
 ライヴスを込めて白鳳の羽扇を大きく振るうと、白い矢が無数に舞い上がり百合の集合体を射貫くと雨水で濡れた白い花弁が宙を舞う。
『もう、何をしているの』
 異変に気が付いた戀は、双炎剣「アンドレイアー」で百合の集合体を切り裂き直剣が纏う炎で灰と化す。 
「あちち」
『あら? 燃やしてしまいましたの?』
 と、冗談と分かりつつも戀は微笑みながら言った。
「うん、ちょっとだけね?」
 解放された冥人は白百合に視線を向けた。
「さて、問題。何故ここは雨なのかな?」
「それは勿論、この地方に伝わる伝説……成程、そうでしたか」
 冥人の問いに咲は答えるとハッとした表情になった。
『と、言う事はドロップゾーンから出せば良いってことなの?』
「そうです」
 戀の問いに咲は頷いた。

 白百合はターニャの懐に入り、機械の手首を掴み足払いをして放り投げた。
「機械だなんて野蛮ですわね」
 軽い動作、それなのに投げられたターニャは森に生えている木に当たり軋む音共に地面に倒れた。
「……くっ! 流石にケントゥリオ級だな。この400kgの機体を投げるとは」
 ターニャはラストシルバーバタリオンの四肢を駆動させ立ち上がった。
「さて、こっちを忘れないでくれないか」
 と、白百合に声を掛けると、シオンはローゼンクイーンを振るう。
「とても、刺激的なアピールですわね」
「まだ……俺達のワルツは終わってないんだから、ね」
 バレエダンサーの様に舞う白百合に向かって、シオンは笑みを浮かべながら手を差し出した。
「舞え、己の意思では無く俺達の手の上でな!」
 バルトロメイが吠えながら言うと、ドラゴンスレイヤーの軌道が見えないほどの圧倒的な速さで敵を攻撃する。
「野蛮、野蛮ですわね……ですが」
 攻撃する力を利用し、白百合はバルトロメイの攻撃を受け流す様な動作をしながら足払いをする。
『……ぐっ、ぬぅ!』
 バルトロメイは転ばぬようドラゴンスレイヤーを地面に突き立てた。
「楽しく踊っているかな?」
「あら、クリミネルから来てくれるなんて嬉しいわ」
 近付いてくる冥人を見て、白百合は笑みを浮かべるが瞳にその姿を映して無かった。
「杏樹が、冥人さんを、絶対、護り抜くの。だから、冥人さんも、協力していただけませんか?」
 と、言って杏樹は冥人と白百合の間に立つ。
「杏樹さん、今は冥人さんのやりたい事をさせて下さい」
 咲は杏樹の肩に手を置いて微笑んだ。
「でも、まだ……」
『大丈夫なのよ。『ここ』は白百合の弱点を補っている場所なのよ』
 不安そうな表情の杏樹に戀が答える。
『ここがか?』
 バルトロメイが地面を指しながら言う。
「花に水は不可欠、だね」
 藤色の瞳にしとしとと雨粒を落とす雲を映しながらシオンは呟く。
『ええ』
 シオンの言葉に同意するかの様にファビュラスは答えた。

●手折られた花は何を思うのか?
「冥人さん。わたしが……いえ、皆さんが最後までサポートしますので、遠慮なくやりたい事をして下さい」
 咲は曇りの無き磨き上げられた紅玉の様な瞳で冥人を見つめた。
「もしもの事があったらティリアさんに怒られるのは俺だ。だけどな、お前が戦えなくなっても俺が花の名を冠する愚神を倒してやる」
 バルトロメイは白百合と戦っている冥人に向かって声を上げた。
「なるほど、あの白百合という愚神は体術が得意としているのだな。相手の力を利用し、受け流しとみせかけ実は攻撃をしているという……」
「道理で、奪った大太刀をあまり使わなかったのね」
 ターニャは白百合の戦闘スタイルを分析していると、その隣で聞いていた千尋は対峙していた時の事を思い出す。
「ならば小官はドロップゾーンの外で待ち構えるのが、最善の手であろう」
 と、言ってターニャはドロップゾーンの外へと向かった。
『シオン、あたし達は隠れて背後を』
「雨の中で散る姿を見れなくて残念だよ。でも、場所が変わろうがその姿はきっと……」
 ファビュラスの言葉を途中で遮り、シオンはワンピースの裾をふわっと花の花弁の様に揺らす白百合を少しだけ見つめ、くるりと踵を返した。
「少し、いえ、とも荒っぽくしますわよ!」
 ファリンが拳を突き出すと、グローブからワイヤーを射出し白百合の背中を鞭の様に当てる。
「兄様! 兄様! やめて! 私、私、良い子にしますわ!」
 と、白百合は感じた事のない衝撃を受け、愚神から見た目相応の少女の様に叫び声を上げた。
「なら、終わりにしてくれるね?」
「こ、こんな……何……解放される、なら……もう」
 白百合の眼尻から溢れるのは琥珀色の涙。
「出よう……」
『好機、じゃないのか?』
 冥人は踵を返すと、すれ違いにバルトロメイが呟いた。
「そうですが、分かりました」
 咲も踵を返しドロップゾーンの外へと向かった。

「はー、で、置いて来た、と?」
 ターニャはドロップゾーンから出てきた仲間の話を聞いて呆れた声色で答えた。
「ファリン君が監視しているから良いんじゃないの?」
 戀は肩を竦ませた。
「まて、標的がこちらに向かってきておる! 総員、戦闘準せよ!」
 機械の目を通し、画面に映し出された白百合の姿を見てターニャは声を上げた。
 ファリンも合流し、エージェント達は迎え撃つ体制を整えた、が。
 ドロップゾーンの外に出た瞬間、ぼとりと白百合の頭が落ちた。
 エージェント達との長期に渡る戦い、ライヴスを供給しようにも誰も来ない孤独。
 彼女の後ろには、ただ幸せな夢を見続ける契約者。
 白百合の事を忘れ、ただライヴスを与えるだけで心は別の場所。
「痛いわ。でも、それもお終いね……今の私は醜いわね」
 と、落ちた首はただ佇む己の体を見て呟いた。
「最後まで……美しく咲き、そして……散って逝く……きっと、今までで一番、美しい……」
 シオンはそっと白百合の頭を両手で持ち、自分の方に顔を向けると美しい笑みを向けた。
「あ……」
 咲は白百合に駆け寄ろうとした瞬間、首から白い花弁が噴水の様に溢れ出し紺碧の空へと舞い上がる。
「そう……その言葉を言ってくれたのは……3人目、よ」
「家に、帰ろう」
 と、言うと冥人は白百合に手を伸ばした。
 後ろから杏樹の歌声が響く。
 優しく温かい歌声は白百合の耳から遠のいていく。
「最後に教えてあげるわ。あの子は生きている……帰してあげてよ、ね……」
 そう言い終えると、白百合の頭部も白い花弁となり空へと舞い上がった。
「連れてきます」
 咲はサバイバルブランケットを手に森に向かって駆け出した。
「杏樹も」
 その後を杏樹が追いかける。
『もう、クラトのせいで、食べ残し』
 静華がH.O.P.E.まんを頬張った。
「そんなに、お腹空いたの?」
『我慢、してた、みたい』
 ニウェウスの言葉に静華は答えながらもぐもぐと、H.O.P.E.まんを2つともあっという間に平らげた。
「実際は静華さんがお腹空いてたのではないですか?」
 と、セレティアは呆れた表情で言った。
「なんとも不燃焼だが、カフカス軍の基地に戻ったら講評会だ!」

「帰りましょうね」
 先ほどまで白百合が座っていた木製の椅子に青年が座らされていた。
『心音はまだしますが、体温が低くなっていますので早く医療機関へ』
 守が青年の胸に耳を当てた。
「はい、そのためにサバイバルブランケットを多めに持ってきました」
「杏樹も、お手伝い、します」
 咲と杏樹が青年にサバイバルブランケットを丁寧に巻いた。
『オレが抱えよう』
 ブラッドリーが青年を背中に背負い基地の方に足を向けた。
 その後、青年はH.O.P.E.の病院に運ばれ順調に回復していっているのをトリスから皆に伝えられた。

 後日、百合の花束を持った咲とブラッドリーは再び白百合が居た場所に訪れた。
「ただの自己満足でしかないけれど、わたし達が奪ってしまった命(彼女の未来)に手向けの花を」
 木製の椅子からはみ出るくらいの花束が、木漏れ日と森の木々の間を通り抜ける風が花束の花を揺らした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • 花弁の様な『剣』
    aa1428hero002
    英雄|22才|女性|カオ
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 守るのは手の中の宝石
    ブラッドリー・クォーツaa2346hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 崩れぬ者
    梶木 千尋aa4353
    機械|18才|女性|防御
  • 誇り高き者
    高野 香菜aa4353hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • 藤色の騎士
    シオンaa4757
    人間|24才|男性|攻撃
  • 翡翠の姫
    ファビュラスaa4757hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
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