本部

母に感謝と討伐を

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/29 20:44

掲示板

オープニング

●おかーさん、ありがとー!
「おかーさん! これね、おこづかいためてね、かったの!」
 満面の笑みを浮かべ、舌足らずな声とともに幼い少女はちっちゃな両手で1輪のカーネーションを差し出した。
「ありがとう。でも、どうしてお母さんにお花をくれたの?」
「きょうはね! うんとね! おかーさんに、ありがとー! っていうひなんだよね? まえにおとーさんにおしえてもらった!」
 柔らかな笑顔で花を受け取った女性は、少女に目線をあわせて頭をなでる。すると、少女はさらに興奮した様子で、大きな身振り手振りを交えながら一生懸命に説明する。その様子はとても微笑ましく、彼女らの近くにいた父親も、少女の話を聞く母親も、表情はさらに綻んでいった。
 そう、今日は母の日。日頃はなかなか言いにくい母親への感謝を、贈り物などの形で思いを示す記念日である。
 少女は父親から母の日について教えられてから、ずっと母親の家事を手伝う代わりにお小遣いを貯めていた。少額ながらコツコツと貯金し、当日までに用意できたのはカーネーション1輪分にギリギリ足りるくらい。
 そして今日、両親とともに外出した少女は『おはなやさんにいきたい!』とせがみ、店先で母親にカーネーションを渡したのだ。
「とっても綺麗なお花ね。お母さんとっても嬉しいわ」
「でも、赤いカーネーションじゃないんだな?」
「うん! あかいのもあったけど、ピンクのおはながあったからね、それにしたの!」
 生花店の店員に見送られ、両親と手を繋いだまま少女は近くの公園にきていた。気候がとても穏やかであり、少し散歩をして帰ろうという父親の提案で訪れたのだ。周囲にもちらほら家族連れが歩いており、中には花束を持つ母親らしい女性の姿も見られた。
『――ぁぁ!』
「ん? 何だ?」
 しばらく公園内を散歩していた少女たちだったが、不意に遠くから悲鳴らしい声を聞いて父親が立ち止まる。
 ――ブブブブブブッ!!
「なっ!? 蜂!?」
 そちらへ視線を向けると、まるで雲のように集まった蜂の群れが、人々を追いかけていた。よく見るとそれはミツバチの大群であるらしく、黄色混じりの黒い雲は躊躇なく人へ襲いかかる。
「逃げるぞ!」
「え、ええっ!」
 少女たちの家族も異常を察知しその場から離れようとするが、蜂の群れは真っ直ぐ人を狙っているらしくすぐに追いつかれてしまう。
「伏せろ!」
「こわいよぉ!?」
「大丈夫よ!」
 逃げられないと悟ると、少女を守るように母親が、その上から父親が覆い被さり、ミツバチの襲撃を逃れようと姿勢を低くする。
「……ぐっ! い、行ったか」
 しばらくして、ミツバチの大群は家族から離れ、別の場所へ飛び立っていった。群がられている間、チクチクとした痛みを感じていた父親は小さくうめき、慌てて体を確認するも毒針が刺さったところは1つもなかった。どうやら、全身を『噛まれた』らしい。
「あ……、おはな……」
 唯一無傷でやり過ごせた少女は、しかし先ほど母親に贈ったカーネーションがバラバラになっているのを見た。これもまたミツバチの仕業らしく、少女の目にどんどん涙がたまっていく。
「うっ、ひぐっ! うわあああん!!」
 安堵か悲哀か、少女はそのまま泣き出してしまった。
 ミツバチの襲撃で負傷し、そのまま動けなくなってしまった両親に気づかないまま。

●お母さん、迷惑です
「本日、都内の広範囲でミツバチの大群による被害が次々と報告されています」
 急遽集められたエージェントたちの前で、碓氷 静香は資料を片手にプロジェクターで表示した地図を指し示した。
「主な標的は多種多様な『花の蜜』だと推定され、ミツバチが通った後は花がことごとく荒らされていたようです。それだけならまだよかったのですが、そのミツバチは人にも襲いかかっているようで、多くの人が病院へ搬送されました」
 原因はおそらく、花を持っていたからというのが最大の理由だと推測されている。特に今日は『母の日』であり、プレゼントとして生花をもらった女性や生花店の店員などの被害が多く、現在はミツバチが出没した地域に外出を控えるよう指示を出したと静香は告げた。
「問題は、今回の事件が愚神か従魔による事件だということです。ミツバチの襲撃を受けた花や人々には、ライヴスを奪われた痕跡が見られました。人的被害において生死に関わる症状や死亡例こそありませんが、多くの人が衰弱しているようです」
 次いで静香が表示したのは、被害者の写真。全身に赤い発疹がいくつも浮かぶも、毒針の使用は確認されていないという記述が資料にあった。ライヴス枯渇以外にアナフィラキシーショックも懸念されたが、ひとまず死者はまだいないらしい。
「調査の結果、人々を襲ったミツバチの大群は1つの巣へ蜜とライヴスを集中させているようです。そこにいる巨大な女王蜂への献上品にするつもりなのでしょう」
 最後に表示されたのは、大まかな被害範囲を赤い円で示した地図と、その中心部にある植物園の航空写真、それと施設内部の詳細な地図。
「皆さんには、事件の元凶である女王蜂と巣の排除をお願いします。町の警備はすでに他のエージェントに依頼していますので、敵の殲滅にのみ集中してください。個体としての力はそれほど強くないようですが、囲まれると危険ですので注意が必要です」
 その後、偵察結果から判明した敵の推定能力や戦力について簡単に説明した後、静香はエージェントたちを見回した。
「女王蜂の命令か働き蜂の独断かは解りかねますが、いくら『母の日』とはいえこれほどはた迷惑な行為を見過ごすわけにはいきません。純粋に母親への感謝を示そうとする人々の想いを踏みにじった蜂の母子(おやこ)に、私たちも相応の返礼をしてあげましょう」
 静香の言葉を合図に、エージェントたちは一斉に立ち上がった。

解説

●目標
 ミツバチ従魔の殲滅

●登場
 女王蜂×1…デクリオ級従魔。全長2m弱もある巨大な蜂。羽はついているが巨体故に飛行能力や速度は低い。また、巨体故に巣の中へも入れないため、巣を形成した樹木の根本で外敵を待ち構える。働き蜂を統率し、遠方でも届く羽音で指示を出す。

 能力…攻撃・防御↑↑、生命力↑、回避・移動・イニシアチブ↓

 スキル
・羽音…射程1~15、範囲2、範囲魔法、高速で羽を動かし生じる羽音で攻撃、特殊抵抗判定勝利→衝撃BS
・毒針…射程1~2、単体物理、突撃とともに毒針を突き刺しライヴスを乱す、命中→封印BS
・蜜団子…射程0、自身対象、回数×5、働き蜂が集めた蜜とライヴスで形成した団子、発動→生命力20回復

 働き蜂×5~20…ミーレス級従魔。普通のミツバチと同じサイズだが、1sq内に大量に集まっている蜂の集合体。常に群れで行動し、巣の周辺に配備されている他、花の蜜やライヴスを求め出払っている蜂も多い。

 能力…回避・移動・イニシアチブ↑↑、生命力↓、攻撃・防御↓↓

 スキル
・毒針…上記に準ずる(ただし使用後、攻撃・防御-10)
・蜂球…射程1~5、単体物理、対象の全身に纏わりライヴスを奪う、命中→減退BS(1D6ターン後、対象から離散しBS回復)

●状況
 都内某所の自然植物園。施設中心部にある数本の樹木内部に巣を形成し、女王蜂が巣を守るように鎮座し、周辺を護衛の働き蜂で固める。巣の周辺に人工通路はなく、植樹された木々が点在して地面は土。施設内の植物はほぼ健在だが、花のみが枯れ果てている。

 作戦開始予定は夕方17:00。天気は晴れだが、時間経過で夕闇が濃くなる。施設内の従業員や客はすでに避難済みで、負傷者はなし。女王蜂の護衛に5体、施設内の警備に5体、施設外のライヴス収集に10体の働き蜂が展開。町の警備班は人的被害の抑制に尽力し、積極的な討伐はしない。

リプレイ

●害虫駆除
「母の日?」
「未来永劫、俺には来ない日……在って無い日ですね」
 母の日がファルク(aa4720hero001)にとってはなじみが薄いのか、説明の途中で疑問符とともに呟かれた言葉を耳にして、茨稀(aa4720)は常の微笑をなくし視線を落とす。
「ふーん。まぁイイけど、な……」
 目を細め、じっと機械化された左手を見つめる茨稀を横目に、ファルクはそれ以上の追求はしない。
「……すっかり忘れてたな」
「イベントの一つ一つを大事にしたいよね」
「そうですね。1年に1度の特別な日は、きっと誰かの大切な思い出になりうる時間です。それを壊す行いを、許してはいけません」
 同じタイミングで、佐藤 鷹輔(aa4173)が母の日の存在を失念していたことを自覚し、五十嵐 七海(aa3694)が静香へ声をかける。表情を変えぬまま神妙に頷くと、静香は現場の様子を捉えた写真を画面へ提示した。
「みんなが心を込めて準備した花なのに……」
「これ以上被害が出ないようにしないと、だね」
 被害者たちの傍らに散った花に目がいったピピ・ストレッロ(aa0778hero002)は踏みにじられた想いに胸を痛め、皆月 若葉(aa0778)も被害拡大の阻止に意欲を高める。
「花、か。渡す相手いないよな」
「無理にすべきことでもなかろう。害虫駆除が先だ」
 中には逢見仙也(aa4472)やディオハルク(aa4472hero001)のように、母の日にさほど興味を示さない者も。敵の行動から有効な攻撃手段を模索するため、仙也もディオハルクも資料へと意識を集中している。
「あん子も、あん子も……皆、泣いちょる。母の日ゆうんは、母親ん記念日じゃなか。子供にとっての、記念日なんじゃ」
「なかなか、面白い発想ですね」
 画面に写る子どもの涙に表情を歪めた島津 景久(aa5112)は、母の日への独自な考えを語る。それに新納 芳乃(aa5112hero001)が興味深そうな視線を向けた。
「家族ば失って、そう思うようなったがね。感謝する相手がいるちゅうんは、幸せなこつだど」
「ならば、此度の敵は……」
「決まっちょる! 首ば取りに行くど!」
 気迫をみなぎらせる景久に応えるように、芳乃は主の意向を飲み込み頷く。
「…………」
 そんな景久の憤りを、茨稀は左手を握りつぶして、聞いていた。

「これは酷い。母にとっても宝となったろうに……」
『安全の確保を。きっと倒しましょうね、ユエリャン!』
 植物園へ向かう途中。蜂が襲来した公園へ足を踏み入れたエージェントたちの中で、ユエリャン・李(aa0076hero002)が無惨に捨てられたカーネーションを憂いの表情で拾う。主導権を換えた紫 征四郎(aa0076)は、解決により一層の気概を口にした。
『おや、何時になく乗り気だねぇオリヴィエ』
「別に。……ただ、思う所があるだけだ」
 その様子を、やや離れた位置から見ていた木霊・C・リュカ(aa0068)と共鳴したオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)。同じ日に同じ花を持ちながらまったく違う表情を浮かべるユエリャンに、知らずLSRを持つ手に力がこもる。
「気持ちを込めて支度したんだろうな……」
 また七海も、バラバラになった花弁とほどかれたリボンを見つけ、サバイバルキットのジップロックへそっと保管する。
「従魔に気持ちは判らないだろうからな。ただ七海、虫は平気なのか?」
「虫取りならお任せだよ。……単体なら、ね」
「そこは誰でも同じだろう」
 隣に立つジェフ 立川(aa3694hero001)はふと、今回の敵への苦手意識を確認した。それに七海は少し胸を張るが、続く弱気な発言に笑みをこぼす。
『蜂の大群……、うう、頭が……』
「諦めろ。俺とお前は一心同体。特等席で見せてやるよ」
 一方で、明確な蜂への苦手意識を見せたのは語り屋(aa4173hero001)。蜂に追いかけられた幼少期のトラウマを刺激されるも、鷹輔にはからかわれるだけ。共鳴時、鷹輔と語り屋の五感は痛覚以外を強制的に共有するため、逃げ場がないのだ。がんばれ。
「この齢にもなって、虫取りとはな……」
『ちょっと不謹慎だけど、愚神が集めた蜂蜜って美味しそうだよね』
 敵が敵だけにすごいむしとりあみを手にした御神 恭也(aa0127)は小さく嘆息。捕獲対象が蜂なので、童心に返るより蜂の巣駆除業者の心境に近い。ただ、共鳴した伊邪那美(aa0127hero001)の関心は蜂より蜜にあるようで、密かに期待を膨らませる。
「たとえ虫でも、立ちはだかる敵には違いないよ。油断せず、かといって急ぎすぎないようにやっていこう、恭也」
 すると、ルー(aa4210hero001)と共鳴したフィアナ(aa4210)が恭也のため息を耳にし、きりっとした表情で注意を促した。
「わかっている」
 敵はさほど強くないだろうが、日が暮れれば闇は視界を遮り動きを鈍らせる。不利な条件が重なる夜間戦闘はなるべく避けるべきだが、時間に気を取られ過ぎても余計なミスを誘発する、としたフィアナの指摘に恭也も素直に頷きを返した。
 その後植物園へ到着したエージェントたちは、園の内外で組分けをして別行動に入る。目的は、働き蜂の数を削るためだ。

●子と群れ
 植物園の外を担当するのは、オリヴィエ・征四郎・若葉の3名。警戒範囲は植物園より広大だが、まずは相互連携を重視し一緒に行動する。
「哨戒は私が行うのです」
 最初に征四郎が偵察用の『鷹の目』を上空へ飛ばし、地上ではモスケールを起動。敵ライヴス反応を探り、自分たち周囲を警戒する。
「――では、発見次第報告をお願いします。連絡は密に取り合いましょう」
 次に若葉は、町で警備を行っているエージェントとの通信へ意識を割く。各隊の現在位置はもちろん、警備範囲と巡回ルート、避難が遅れた一般人への対応、敵の発見場所や進路の情報共有などについて意識をすりあわせ、より広い範囲での連携に力を入れる。
「……見事に花だけを狙っているな」
 そんな2人の情報とともに、オリヴィエは蜂が襲撃した痕跡を追う。用意した地図に枯れた花の目撃情報を書き込み、蜂が向かった可能性の高い植物の無事が未確認な場所を中心に足を向けていく。
 また、花の香りで敵を誘引できないかと考えたオリヴィエは、征四郎と若葉に『花』にまつわる物での囮を提案。それにより、オリヴィエは『無垢なる愛』を、征四郎は『薔薇の花束』を、若葉は『純白の花飾』を幻想蝶から取り出している。
「見つけました!」
 しばらく探索をしていると、征四郎が働き蜂の群れを発見。同時に蜂もこちらを認識したらしく、黄色と黒の雲が一斉に迫る。
「来ます!」
 警戒を促しシュネーグリューエンに矢をつがえた若葉は、まず群体の中心へ射出。白熱で仲間を削られつつ『毒針』で突進する蜂たちへ、追撃の矢で牽制しながらやり過ごす。
「とどめは任せた!」
 執拗に若葉へと狙いを定めた蜂へ、オリヴィエが群体の動きを阻害するよう銃を連射。空中で逃げ惑う蜂の群れの動きを誘導し、地面付近へ追いやった。
「了解なのです!」
 直後、征四郎がフリーガーのミサイルを射出。着弾で上がった爆風が蜂全体を巻き込んだ。
「事前の推測通り、敵の強さは脅威ではなさそうですが、群体という性質が少々厄介ですね」
 しばらく生き残りを警戒し、蜂の全滅を確認できた後で若葉がそうこぼす。自身の弓とオリヴィエの銃弾では1度に削れる蜂の数は限定された上、どんどん的が小さくなっていく。しかも1匹残らず全滅させねばならないため、討伐には手間がかかりそうだ。
「また別の蜂です!」
『どうやら、花の誘き出しがうまく行っているようであるな』
 すると、また別の蜂の接近を征四郎が発見。共有した視界からオリヴィエの提案による効果を、ユエリャンは確かに感じていた。
「……っ、俺が捕まえます!」
 そのまま連戦となったが、若葉の懸念通り蜂が不規則に動くと上手く捉えきれない。弓から烏羽を振るっていた若葉は、次にむしとりあみでの『拘束』を狙い蜂へさらに近づく。
「大丈夫か?」
「ま、まだ、平気です」
 1体目より時間はかかったが、攻撃も受けず蜂を始末し終えた後、オリヴィエが息が上がる征四郎へ声をかける。フリーガーへのライヴス供給が負担となった消耗だが、まだ敵がいると征四郎は気丈に振る舞う。
「無理は禁物ですよ」
 そのやりとりで若葉は『ケアレイ』を征四郎へ施してから、再び働き蜂の所在を探っていった。

「…………」
 一方、植物園へ入ったグループの中で、茨稀のみ『潜伏』を用い単独で先行。女王蜂のいる巣を確認した後、敵の警戒範囲外にある樹木の陰に移動し、ショットガンを抱いて気配を殺す。
 しばらくして、茨稀はライヴスゴーグルの変化を視界に捉え、耳障りな羽音の先へ顔を上げる。あちらに『潜伏』した茨稀に気づいた様子はない。
「――(消えろ)」
 横を通り過ぎようとした瞬間、茨稀は散弾銃を黒い浮遊体へ発砲。『奇襲』が蜂の群体に風穴を空けると、統率が乱れた蜂が混乱して飛び回る。茨稀がしたのは、園外から戻る蜂の待ち伏せだ。
「……(次)」
 短い交戦の後、茨稀は腕に刺さった『毒針』を抜くと場所を移動。密かに、確実に、敵の勢力を削る機会を窺う。
『確かに元は花の蜜だけど……』
「過去に、菓子工場で廃棄された飴玉の原料を蜜として収集していた事があったらしいからな」
 そして、残るメンバーは園内を巡回していた働き蜂と相対していた。
 まず、恭也が仲間に一言断りを入れて蜂蜜入りの小瓶を設置。数分後、わらわらと集まってきたミツバチを見て伊邪那美が不思議そうに首を傾げた。
『ふ~ん……あれ? なんで集められたのが飴の原料って判ったの?』
「既に着色された後だったらしい。養蜂家が蜜を集めたら――」
『なるほど、色彩豊かな蜂蜜が出て来たんだね』
 ちょっとした豆知識を披露した恭也に伊邪那美が感心しつつ、捕獲と殲滅を行うため恭也はむしあみを握る。
「即行で群がってきやがったなぁ?」
 また、誘引にとレーギャルンに花束をさしていた仙也の前にも、蜂の一群が現れる。レーヴァテインに炎を纏わせ、舌なめずりで獲物を見据える。
「……うわぁ」
 黒雲のような蜂の大群を前に、七海はむしあみを手にちょっと引き気味。当初はイグニスの使用を検討するも、施設への影響が大きいとジェフから忠告を受け恭也と同じ捕獲に回ったのだ。
『園ば宿 蜂室と見ゆる 花の香に 集ういぶしの 煙る雲かな』
「……良い歌が思いつかなかったんじゃな?」
『調子の悪い時もあります』
 同じ光景を見た芳乃がこそっと和歌を詠むも、出来はイマイチらしい。とはいえ、駆除する敵に情緒を求めるのもいささか酷かと、景久はチェーンソーのエンジンを起動した。
「来るぞ!」
『うわぁ!?』
 その爆発じみた駆動音を合図に、蜂がエージェントへ飛びかかる。ニーエ・シュトゥルナとプロテクタを周囲に展開し、『拒絶の風』も纏った鷹輔が臨戦態勢へ。その際、真正面から迫るトラウマに語り屋が悲鳴を上げた。ドンマイ。
「らあっ!」
「はっ!」
 初撃は仙也とフィアナ。眼前に迫った群れに対し、仙也は炎の剣閃を、フィアナはウルスラグナの『ライヴスブロー』による薙ぎ払いを、それぞれ別々の群体へ見舞う。
「っ!? ちっ!」
「なかなかっ、素早いっ!」
「ええい、邪魔じゃ! 去ねぃ!!」
 が、やはり攻撃の瞬間蜂が離散し、一撃でしとめることはかなわず。そのままバラバラになった蜂は、鷹輔・恭也・景久の順番に『毒針』をけしかける。
 複数の防御策をすり抜けた蜂へ悪態を吐いた鷹輔は苛立ち混じりに針を抜き、恭也はカウンターで蜂の捕縛を試みるも俊敏な動きで網を回避され、景久はチェーンソー内蔵ショットガンをまき散らすも全ての蜂を落とすには至らない。
「そこだ!」
 が、徐々に敵の数を減らし、動きに目が慣れたところで恭也が網で蜂の一群を『拘束』。そこへ攻撃を集中させた。
「うぜぇ!」
 さらに、剣の炎を脅威と思われた仙也が蜂にとりつかれた時、負傷覚悟で炎の出力を引き上げて自分ごと焼く。
「傷ついても立ってりゃ楽しめるんだから、これくらいはやらんとなー?」
 炎が晴れた後には、多少の火傷を負いつつも蜂を焼却しきった仙也が口角を引き上げた。
 敵が消えてもすぐに別の蜂がエージェントたちへ迫る。戦闘の余波と同時に、恭也の蜂蜜や七海たちの『花』をあしらった所持品へ反応し、集まってきたようだった。
「いやぁーっ! 誰か倒してっ!!」
 連戦に突入してすぐ、七海が蜂の1群に目を付けられる。むしあみの大振りな動きの隙をつき、『蜂球』で次々と全身に取り付いてきたのだ。
「今助けてやるから、動くなよ!」
 プチパニックを起こす七海へ、援護の手を向けたのは鷹輔。玻璃による光線で別の蜂を黒こげにしつつ、『ブルームフレア』の炎で七海を包み込んだ。
「七海ー、大丈夫かー!?」
「けほっ! ……もう少しまともな手段はなかったのですか!?」
 魔法による炎の勢いを鷹輔が収めた後、蜂の焦げた臭いでむせた七海が眉をつり上げ文句を返す。敵味方の判別がつく『ブルームフレア』を使用した鷹輔の選択は間違いではなかったが、七海の反感は避けられなかったようだ。
「ふっ! ……剣じゃ埒が明かないみたいね」
 フィアナが気合いとともに剣で蜂を切り裂くが、やはり個が集まる群への攻撃には適さないと判断。近くの敵から距離を取って装備をイフリートへ持ち替えた。
「仙也の攻撃が有効なんだから、私も炎を使えば!」
 持ち替えた槍を軽く手の中で回してから、フィアナは槍から炎を噴出すると同時に『守るべき誓い』を発動。蜂の意識を自分へと一挙に引き受ける。
「ほれ、おまぁさんらの欲しがっとった花の代わりじゃ!」
 すると、フィアナを脅威と見た蜂が彼女の周辺に集まり、密度が上がったことで攻撃が容易に。景久は蜂のミスに乗じ、チェーンソーを振り回しながらショットガンを放って蜂の群を大きく削る。
「……少し急ぎましょう。夜になっちゃうわ」
 なおもエージェントたちは攻撃を続け、残った数匹をフィアナが炎槍で焼き切って戦闘が終了する。これで一息、と行きたいところだったが頭上を見上げたフィアナの目には、黒が強い紅色の空が映っている。
『はいはーい、こちらお兄さんでっす! 応答どーぞっ』
 夜までもうさほど時間がない。そう判断した園内のエージェントたちは、一度合流するために園外の班へ連絡。リュカの元気な声で通信を終え、巣がある場所の近くで合流することに。

●女王蜂と巣
 数十分後。植物園に集結したエージェントたちは、巨大な蜂の巣を形成した樹木の下にいる女王蜂を見据えていた。
「周囲には配下の蜂も飛んでいますから、まずはそちらを排除しましょう」
 全員へ『ライトアイ』を施した若葉の言葉を聞き、簡単に作戦を打ち合わせた後でエージェントたちは散開――
「おまんが大将首が! 首寄越せ、さもなくば腹切れ、腹!!」
 ――する前。フライング気味に飛び出した景久によってこちらの存在が女王蜂に知られることとなった。
『景久様、自ら腹を切ることは不可能かと……』
「黙っちょれ芳乃!」
『はぁ、始まってしまいました。申し訳ございません、皆様。景久はこのようなお人ですので、何卒――』
「ひっ飛ぶどォ!!」
 反面、芳乃が冷静に諭そうとするも、ヒートアップした景久は止まらず。味方へフォローをしようとした芳乃の声もぶった切り、一直線で女王蜂の方へ駆けた。
「1人で行っちゃ危ないわよ、景久!」
 その後ろから追従したのはフィアナ。イフリートを手に『守るべき誓い』を再度発動し、護衛の働き蜂が景久へ集中するのを防ぐ。それをきっかけに他のエージェントたちも動きだし、女王蜂との戦闘が始まった。
「み、みてるだけで痒くなりそうなのです……」
 暗闇の中、多数で蠢く蜂の集団を目にして瞳に涙を溜め、征四郎はフリーガーの爆風で蜂の連携を阻害。
「群がられたら厄介だ! さっさと護衛の蜂を倒しちまうぞ!」
 続けて、鷹輔がすべての玻璃で一斉に光線を射出し、密度の高い蜂へ向けて空間ごと焼いていく。
「集まってんならちょうどいい、まとめて串刺しにしてやらぁ!」
 とどめとばかりに、仙也が『エクストラバラージ』で手数を増やした上で『ストームエッジ』を敢行。フィアナから離脱した蜂を一気に巻き込んでいった。
「この調子なら、すぐに蜂はいなくなるでしょうか!?」
「いずれにせよ、あまり時間はかけられん。突っ込むぞ!」
 まだ仲間の頭上を飛び交う蜂を、七海は『ストライク』による風花の矢で追撃と露払いを行う。それに景久・フィアナの次に女王蜂へ突貫する恭也が答える。時間制限のある視界を意識しつつ、大剣の大振りな一撃で風圧を生み出し蜂を蹴散らした。
 ――ブブブブブッ!!
 すると、エージェントの動きに警戒を強めた女王蜂が、背中の羽を細かく振動させた『羽音』を響かせる。
「あれは、外へ出していた蜂を呼び戻したのか!」
 攻撃を警戒して身構えたオリヴィエは、周囲を観察して遠くから小さな羽音が近づいてくるのを察知した。スナイパーゴーグル越しに見た、別々の方角から接近する2つの雲のような何か。働き蜂で間違いない。
「近寄らせるのは面倒だ」
「俺は別方向の蜂を排除する」
 増援の迎撃を優先することに決めたオリヴィエは狙撃銃で迎撃。もう1つの群体へは茨稀が向かい、女王蜂へ近づく味方の元へ行かせないよう、引き金を何度も引いて散弾をまき散らす。
 しかし、女王蜂の統率により先の戦闘と比べても動きが機敏になり、なかなか攻撃が当たらない。その間にも女王蜂の『羽音』で集まる蜂は増え、エージェントたちの歩みは徐々に緩む。
『羽音で連携をとっているのなら、効くのではないだろうか』
「みなさん! 耳を塞いでください!」
 すると、女王蜂と働き蜂の行動を観察していたユエリャンの予測を聞き、征四郎はデスソニックを蜂の群へ放り投げた。
 ――ジリリリリリ!!
 直後、『羽音』をかき消す轟音が響きわたり、女王蜂からの指示が上書きされた。案の定、蜂の機動力が見るからに鈍り、回避が明確に疎かになる。
「飛んで火にいる夏の虫、ってなぁ!」
 そこへ仙也が再び『エクストラバラージ』と『ストームエッジ』を展開し、混乱する蜂へ炎を巻き上げるレーヴァテインの嵐の中へ引きずり込んだ。
「今のうちに、女王蜂をしとめましょう!」
 働き蜂の攻勢が落ちたことを見て、若葉は雪弓の標的を女王蜂へと変更。『精神統一』で狙いを研ぎ澄まし、大きな複眼めがけ矢を射出した。
「女王蜂は羽と節が脆い! そこを狙え!」
 続けて、『弱点看破』で女王蜂を観察したオリヴィエが仲間へ情報を伝達。間髪入れず『アハトアハト』による膨大なライヴス弾を生成し、巣ごと巻き込むように女王蜂へ撃ち込んだ。
「その足、もらうぞ!」
 女王蜂が複眼の損傷で不快な羽音を鳴らし、着弾で生じた爆発で煙が舞い上がる中を、恭也が『電光石火』で踏み込む。巨大な足の節へ瞬時に狙いを定めると、攻撃で怯む女王蜂の足を数本切り飛ばした。
「羽を狙えばいいのね!」
 次に煙から突出したフィアナが跳躍すると、女王蜂の背へと炎槍の刃を2閃。『精神統一』で精確な軌道を走った刃が根本から羽を切り離し、移った炎で燃やし尽くす。
「こいつはおまけだ!」
 だめ押しに、鷹輔が魔術型パイルバンカーを女王蜂へ突きつけ、射出した杭ごと巨体を大きく吹き飛ばした。
『す、巣を攻撃したら怒らせるのではないか?』
「当たり前だろ、それを狙ったんだよ」
 後方にあった巣へ衝突した女王蜂に語り屋はビビっていたが、鷹輔は素知らぬ顔で笑みを浮かべる。
「あれは!?」
 一気にしとめようと接近したフィアナだが、女王蜂から巣から何かを取り出したのを見て一度足を止める。それはライヴスと蜂蜜で作られた巨大な『蜜団子』であり、女王蜂が触れた場所から黒ずんでいくに比例してライヴスが活性化される。
 ――ブブブブブッ!!
 そして、まだ残った羽で『羽音』の音波攻撃を発生させ、近寄ったエージェントを退かせた。さらに女王蜂は、巣から『蜜団子』を取り出そうとする。
「――それ以上は、やらせない」
 しかし、『潜伏』状態で巣の近くへ回り込んでいた茨稀が、如来荒神をスカバードから抜刀。女王蜂の手が届く前に巣を破壊し、『ジェミニストライク』で動きを止めた。
『あぁ、もったいない……』
「諦めろ。そもそも人が食えるかもわからん」
 その次に近い巣へは、名残惜しそうな伊邪那美の声を無視した恭也の『ヘヴィアタック』が叩き込まれ、一撃で木っ端微塵となった。
「逃がしませんよ」
 回復手段を無くして形勢の不利を悟り、エージェントからじりじりと距離を取ろうとする女王蜂へ、七海は『ショートポジショニング』から風花の矢を放ち、さらに傷を大きく広げた。
「いいぜ、そうこなくっちゃなぁ!」
 逃走は不可能と覚悟を決めた女王蜂は、攻撃の手を強める。それに仙也は楽しそうな笑みとともに肉薄すると、レーギャルンで施錠していたレーヴァテインを抜剣し、強烈な衝撃破をぶつけた。
「これで、しまいじゃあぁ!」
 さらに攻撃が集中して満身創痍の女王蜂へ、景久が大上段からチェーンソーを振りかぶった『疾風怒濤』で切り刻み、女王蜂は動きを止めた。

●母
「……残り物の討伐を、と思ったが、アテが外れたか」
 討伐後、まだ植物園にいた仙也はつまらなそうにあぐらをかく。理由は働き蜂の誘引及び駆除と巣の撤去作業のためだが、蜂は1匹も来ない。
 後に町を警備したエージェントによると、女王蜂の消滅で働き蜂の統率が完全に消失し、各々が好き勝手に逃げたらしい。野放しにはできないので、明日以降に新たな駆除依頼が出されることだろう。
「まったく、よくもまあこれだけの巣を作ったものだ」
 一方、掃除を手伝っていた恭也は改めて女王蜂が形成した巣のサイズに呆れていた。樹木を浸食して作られた巣は、破壊された欠片も相当な大きさになっている。
「……小さい頃、遅い時間まで蛍狩りして、お母さんに叱られたことがあるんだ」
 七海も鷹輔と巣の撤去をしつつ、ふと過去へ思いを馳せる。『夜』『虫取り』『母』という共通点でよぎった記憶は、自然と七海に母親へのメール打たせていた。
【報酬が出るんだよ~遅い母の日だけど欲しいのある?】
「母の日か。まだ遅くはねえかな? ……こういう時、何が喜ぶと思う?」
 メールを送信した七海に、静香から今回の依頼を聞いてからずっと、何かしたいと考えてはいた鷹輔は七海にアドバイスを求める。
「本人に聞くのが一番だと思うよ」
 鷹輔への七海の返答と、メールの返信が届いたのはほぼ同時。
【顔を見せて欲しいな(^-^)母より】
 暗闇に浮かんだ文章に、七海は人差し指で目元をさらった。
「なんて書いてたんだ?」
「語り屋さんは見て良いけど、鷹輔は見ないの!」
 しかし、鷹輔がのぞき込もうとした時には、七海はいつもの調子を取り戻しメール画面を抱えて隠した。
「ボクらも何かしようよ!」
「感謝の気持ちを込めて……か」
 そのやりとりを近くで聞いていたピピの提案に、若葉の表情に笑みが浮かぶ。
(母の日……か。母さんの笑顔が嬉しくて、昔は色々考えてたよな)
「そうだね、たまには夕飯を準備しようかな」
「ボクはおかーさんの絵を描くんだ! ふふふ、喜んでくれるかなぁ♪」
 巣の破片を持ち上げながら若葉が頷くと、ピピは帰った後の事で頭がいっぱいになりながら、若葉の近くでニコニコと手伝いを行っていた。
「(きょろきょろ)……! うわ、美味しっ!?」
 なお、愚神印(?)の蜂蜜への未練を捨てきれなかった伊邪那美は、巣を片づけつつ蜜をこっそりと指で舐め取り、あまりの美味しさに驚いていた。これは是非友達にも知らせねば! と思ったが、結局巣はすべて回収・焼却された。

「ユエ、……花、あれだけで、たりた、か?」
「こういうものは、物の量よりも思いの強さがより重要であるぞ?」
 一通りの作業が終わった帰り道。オリヴィエとユエリャンも『子』と『母』として向き合っていた。
『……あんたは、やっぱり赤が似合う』
 事件前、ぶっきらぼうに告げたオリヴィエから手渡された赤いカーネーションは、ユエリャンの幻想蝶に大切にしまってある。ユエリャンは微笑み、緑の髪を撫でた。
「母様、元気にしているといいのですが……なんて」
「ふふーふ、そうだねぇ。お兄さんもせっかくだし、帰りにカーネーションの一本でも供えに行こうかな」
 母親とはしばらく会っていない征四郎の呟きに、リュカは手を引かれながら朗らかに笑う。どこか影のある征四郎の声に何かを感じたのか、いつもよりおどけた口調に征四郎も控えめに笑った。
「……ユエリャン。征四郎は、母様に花を受け取って貰えたことが、ないのです」
 その後、征四郎は並び歩くユエリャンにだけ聞こえる声を出す。思いが重要だと語った『母』に、『形』も『思い』も拒絶された『子』はどうすればいいのか、と。
「子を愛さぬ母はいまい。つまりきっと、なんらかの事情があるのだ」
 ユエリャンの紡ぐ返事に征四郎は、お互いの距離を少し縮める。
『きっと『思い』は、一方通行ではない』
『母』としての言葉を聞き、まだ身も心も幼い少女は、ほんの少しだけ、救われた気がした。

「……母さん」
 また別の帰路。依頼を通して『母親』という存在が気になったフィアナは、独り言のように『母』を口にする。
「気になる?」
 誰に聞かせるでもない声を拾ったルーが尋ねるも、白銀の髪が大きく左右に揺さぶられた。
「私は“兄さん”との約束を守らなきゃ、だから」
 続くフィアナの言葉には嘘もなければ、強がっている様子もない。
 フィアナにはルーと出会う以前の記憶はなく、『母』という存在も当然知らない。
 それでも、何故か。
 もし自身に『母』や『幸福な日々』があったとしても、フィアナはそれを望まないと断言できた。
 己の全ては“兄”との約束を果たす為にあり、他の何があっても歩み続ける。
 そんな確信が、フィアナにはあったから。
「……そう」
 ルーもまた、それ以上の反応はしなかった。

「大切ならば、感謝をするならば……、何故、1日だけを特別、と決めるのでしょうね」
「ん?」
 そして、また別の道。閉店した花屋の前を通り過ぎようとした茨稀は、自問自答に近い声をファルクへ聞かせる。
「その存在を、いつ、失くすとも限らないのに」
 左手を握り、見上げた星空のどの光も映さない瞳で、茨稀は問う。
 すぐ身近に『大切』があることが、いかに幸せで――恐ろしいか。
 失うものしか見えなくなった茨稀には、もう、『大切』は映らない。
「忘れてるから、じゃねーか? 大切だ、ってことに、さ。再確認しなきゃ分かんねェ、当たり前の気持ちってヤツに……」
 ファルクは茨稀の目線をたどり、目を細める。
 当たり前になった『大切』は光が鈍り、いずれ見失う。
 今は明確な星の光を、人工の光で簡単に見失うように。
 ――果たして茨稀とファルクには、同じ光が見えているのだろうか?

 翌日。数名のエージェントは、被害者が運ばれた病院を訪れていた。
「もう心配なか。ほれ、泣こよりひっ飛べじゃ。母の日ばやり直しもんそ。おう芳乃、紙ばあっが?」
「はぁ、和歌を詠む際のものであれば……」
 景久と芳乃は病院で一夜を明かした子どもたちへ、紙と鉛筆を配っていく。
「ほれ、こいば使え。花ばなかなあば、肩たたき券で良かがね」
 景久のにっ! とした笑顔に促され、子どもたちは丁寧に文字を書いていく。
「景久様、それでよろしいので?」
 少々拙い贈り物に芳乃が疑問をぶつけると、景久は優しく微笑んだ。
「良か。母は後生大事にとっとくど」
 そして、『できた!』と笑う子どもたちの顔にも、もう暗さは残っていない。
「兄ちゃんもお母さんにお花あげたいんだが、綺麗なの選ぶの手伝ってもらえるか?」
 また、鷹輔と七海は拗ねたままだった1人の少女に声をかけ、両親の了承を得てから病院近くの花屋へ向かう。
「これ! きれいだよ!」
 徐々に機嫌がよくなった少女が鷹輔へ差し出したのは、昨日少女も購入したピンク色のカーネーション。
 花言葉は――『感謝』。
「選んでくれてありがとうな。これはそのお礼だ」
「おはなー!」
 鷹輔は少女の選んだ花を購入し、別にラッピングした1輪を少女に差し出す。
「お花が帰ってきたね。病院に戻ったら、【お母さんありがとう】ってお姉ちゃんと書こうか?」
「うんっ!」
 そして、七海も昨日回収した花弁とリボンを貼って作ったカードを取り出した。
 少女はさらに表情をほころばせ、急かすように病院へ戻る。
「おかーさん、ありがとー!」
 そして、少女は改めて母親に花とメッセージカードを贈った。
 新たな『形』と変わらぬ『思い』となり、少女の『感謝』は伝えられた。
「……こんなもんか」
 そして鷹輔も、贈答用のカーネーションにメッセージカード添える。
【こっちは元気にやってる。母さんも身体には気をつけて】
 ベッドの母親に甘える少女を見つめる鷹輔は、気恥ずかしさを誤魔化すように笑った。

 そして、仙也の家にも昨日までなかったカーネーションが飾ってあった。家事をしていたディオハルクの目にも留まり、食事を囲むテーブルの中央に移動している。
「で? これの代金は?」
「報酬から――」
「自腹だな? 小遣いから差っ引いておく」
「――っておぉい!?」
 なお、食事中の会話からディオハルクは仙也からきっちり花代を徴収した。
 ここのオカンは、財布がとてもシビアだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173
    人間|20才|男性|防御
  • 秘めたる思いを映す影
    語り屋aa4173hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
  • 薩摩隼人の心意気
    島津 景花aa5112
    機械|17才|女性|攻撃
  • 文武なる遊撃
    新納 芳乃aa5112hero001
    英雄|19才|女性|ドレ
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