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炬燵なの、エアコンなの
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最終発言2017/05/01 20:53:57 -
【相談卓】炬燵VSエアコン
最終発言2017/05/03 08:52:29
オープニング
「そろそろ寿命ですね……炬燵の」
エステルは、神妙な顔で呟いた。
引っ越した時に大家の好意で頂いた炬燵は、貰ったときからすでに壊れかけていた。
タイマーなんて機能はついていないはずなのに三十分も使い続けると自動的に電源が切れてしまい、柱に足が当たってもすぐに電源が切れる。つまり、なにやっても電源がすぐに切れる炬燵なのである。
「ああ、新しいものに買い替えないとな」
アルメイヤは、いそいそと電気店のチラシを集める。
季節外れだから炬燵なんて売ってないんじゃないんだろうか……というツッコミは誰もしなかった。それに、アルメイヤは今は売っていなくとも来年買う気満々であった。
なぜならば――なぜならば、炬燵を愛してしまったのだから。
冬の寒い時期、足を温めてくれたのはエアコンではなかった。
炬燵であった。
初めて炬燵に入った時の感動を、アルメイヤは今でも昨日のことのように思い出せる。体の一部が極端に暖かくなるって……なんて気持ちが良いのだろう。
そのときアルメイヤは炬燵に身をゆだね、朝までそこで眠って風邪を引いた。エステルにはうつすことがなかったが、そのときアルメイヤは思った――ちゃんとした炬燵が欲しい。
一代目炬燵は残念ながらもらった時からポンコツであったが、二代目は新品が欲しい。願わくば、ちょっと居眠りしただけで電源が切れてしまうような炬燵ではないようなものを。
「あの…・・・ 二代目を購入するんですか?」
だが、エステルは炬燵に関しては否定的であった。
「炬燵を置いておくと……アルメイヤは怠けるでしょう」
ぎくり、とした。
エステルは、シーカの長になるべく育てられた少女である。祖父から厳しい教育を受けてきた。そんなエステルにとって、だらだら過ごすことは好ましくないことなのである。それに……言葉にすると大暴走しそうなので言わないが、炬燵で寝てしまうアルメイヤを心配しているのである。
「だらしないのは……嫌いです」
エステルは、冬の間はほとんど炬燵に入らなかった。
エアコン派だった。
「電気代のこともありますし……来年のために決めておいたほうが良いでしょうね。エアコンか、炬燵――どちらかの暖房器具が優れているかを決めましょう」
●素晴らしく冬の暖房器具
「炬燵……といったらミカンとか鍋なのか?」
アルメイヤは悩む。
炬燵嫌いのエルテルに「炬燵は素晴らしい」と力説しなければならないのである。そうでなければ、来年の炬燵はお預けである。
それは、嫌だ。
冬の活力がなくなってしまうではないか。
そんな危機に、アルメイヤはHOPEの支部に助けを求めた。どうしてそんなところに助けを求めたかというと、そこぐらいしか相談できる場所がなかったからである。
「あー……会議室が開いているから、そこで鍋パでもして炬燵の素晴らしさを解いたらどうですか?」
支部の職員は、非常に忙しかった。
そのため、適当に空いていた会議室をアルメイヤに貸し出した。
「なるほど! 炬燵で鍋だったら、エステルも説得できるかもしれない!!」
目を輝かせていたアルメイヤは、職員の話を聞いていなかった。
「そういえば、さっきエステルさんも来てたわね……エアコンと鍋があれば炬燵はいらないとか言ってたような」
解説
・季節外れの鍋パーティーで、炬燵あるいはエアコンの素晴らしさをアルメイヤとエステルにプレゼンしてください。
・鍋パーティー会場(19:00)
HOPEの会議室。それなりに広い部屋にエアコンと炬燵がある。パーティー当日は大雨が降り、春にも関わらず夜は非常に冷え込む。暖房がないと非常に寒い。
・鍋の材料
持ち込み化。アルメイヤとエステルも材料(白菜、シイタケ、肉団子)を持ってきている。
・アルメイヤ
炬燵が絶対欲しい派。鍋と炬燵の最高コンビネーション力を説明したいが語彙力がない。放っておくと、鍋の野菜や肉を全部微塵切りにする。
・エステル
エアコンでいいじゃないか派。炬燵はアルメイヤがだらしなくなるので、嫌い。調理に関してはゆっくりだがまともなので、放っていても普通のものができあがる。
PL情報
パーティーの最中に落雷による停電が起きて、暖房がすべて消えてしまう。
リプレイ
●料理の前には手を洗いましょう
春の雨が、ざーざーと勢いよく振っていた。
「今夜は……冷えそうですね」
鍋の用意をしながら、エステルは呟く。アルメイヤに風邪をひいてほしくないから始めたエアコンと炬燵論争大会にまさか――……こんなに人が来るなんて。
「炬燵だ!!」
『いいや、エアコンだ!!』
阪須賀 槇(aa4862)と阪須賀 誄(aa4862hero001)の兄弟は、火花を散らして睨み合う。槇は炬燵をセッティングしながら、誄はエアコンのリモコンを握りしめながら。
「持ってきた食材ってこれだけ? さて、この材料で何のお鍋を作ろうかな」
藤咲 仁菜(aa3237)は並べられた食材を見つめながら「う~ん」と悩み始める。
「狩った鴨と鹿のスライス肉を持ってきたんだが」
あと豆腐と〆のラーメンも、と麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)は荷物から食材を取り出す。
「酒粕を持ってきたのだが、どうだろうか?」
御神 恭也(aa0127)も荷物から、いそいそと食材を取り出した。
「あったまりそうだねぇ」
伊邪那美(aa0127hero001)は、さっそくセッティングされた炬燵でぬくぬくしていた。
『炬燵は人類が発明した最高の物だね』
「炬燵はなぁ……そのまま寝落ちする者がいるからな」
誰がとは言わないが、と恭也は伊邪那美を見る。
「〆の麺類が被ってしまいましたね。オレたちは、うどんを持ってきたんですが」
『うどんとラーメンのちゃんぽんは少し変なのです』
桜小路 國光(aa4046)とメテオバイザー(aa4046hero001)は、少しばかり困ったような顔をしていた。
『心配なさらず。鍋は二つあるから、両方使えるよな』
どんな鍋になるかな、とリオン クロフォード(aa3237hero001)はにこにこしていた。
一方で無難な材料が集まるのを見て、ほっとしていた男が一人。
グライア・ダンテ・オフィーリア(aa4392)である
「な、猪を一頭持ってこなくて正解だろ。……一般ご家庭の台所は猪丸ごと捌ける様にはできてないんだよぅ」
……狩ったそのまま丸ごと持ってこうとしたクー兄止めた俺を誰か褒めて、とグライアはため息をつく。
『いいじゃねェか。別に一頭丸ごとでも。インパクトあるぞ?』
クーフィアス・メイガス(aa4392hero001)は、豪快な男であった。暖房器具もエアコンとか炬燵とか細かいことを言わずに直火焼きで済ませたい男であった。法律上、色々な問題があるのでやらないが。
『やっぱり何かのお肉が最高だよね。雨で冷えてきたし丁度良かった』
百薬(aa0843hero001)は鼻歌をうたいながら、スーパーの袋から肉を取り出す。
「買ってきたお肉は食べる時に入れたらいいから。ちょっと暖かいし、いっそエアコンで冷やそうか」
餅 望月(aa0843)が冗談まじりで言う。
『いっぱいつけたら電気止まっちゃうよ』
「そんなわけないじゃないの、仮にもH.O.P.E.の施設だよ」
そうだよね、と百薬と望月は笑いあう。
だが、その二人の間にびゅーと冷たい風が吹いた。
『はぁ、この部屋は熱いわね。なんで、エアコンが暖房になっているの?』
「ん……きっと、間違えたのね」
氷鏡 六花(aa4969)は、エアコンをぴぴっと弄る。
アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は実に満足げに微笑んだ。
『やっと涼しくなったわね』
「え? 本当にこの温度でいいんでしょうか?」
エレオノール・ベルマン(aa4712)は、エアコンの設定温度に目を白黒さえていた。彼女の故郷であるスウェーデンは寒いので、家を建てる時に最初から温室パネルヒーターや二重窓などを採用する。電気代をできるだけ安くするための工夫であり、日本でも東北の一部や北海道では採用する家庭もある。そういうわけなのでエレオノールは炬燵には慣れていないが、エアコンには慣れていた。だがら、寒すぎる温度設定には驚く。
『冬の再現じゃろうか~』
フェンリル(aa4712hero001)は震えつつも暖かい気配がする炬燵に興味津々であった。
「え……ご、ごめんなさい。エアコンって、部屋を冷やして涼しくするための装置なのかと」
元に戻しますね、とアルヴィナはエアコンのリモコンをいじる。
「わー!!」
リオンの悲鳴が上がった。
●ワンタン作りだよ、全員集合
『アルメイヤさん……コレって白菜とシイタケの微塵切り?』
すごい量だよな、とリオンは苦笑いする。
アルメイヤの前には、大量の白菜とシイタケが微塵切りにされたものがあった。まるで行列ができるお店の仕込み作業をみているような気分だ。
「アルメイヤさん、鍋の具材を細かくすると食べづらいですよ? このくらいの大きさで切った方がいいです」
仁菜は、一口サイズに切った野菜をアルメイヤに見せる。
『どうにも刃物を持つと細かくしてしまうんだ……」
「まぁ、見事な切り口。さすが刀剣の化身です』
アルヴィナは感心していたが、アルメイヤを見習って出来るのは離乳食ぐらいである。
「せっかくだから、この微塵切りを使ってワンタンでも作るか。他の肉もあるから、肉団子もタネに使えるな」
恭也は慣れた様子で、肉団子を潰して野菜と混ぜ合わせる。
「下手に味付けをしないでみじん切りにした程度なら、リカバーは容易だからな」
『良く思い付くね。ボクなんかは、無駄にしちゃって使い道は無いかなって思ってたのに』
伊邪那美は、炬燵でふわぁと欠伸をする。
『今回は料理が出来る人が多いみたいだから、お任せするね~』と宣言していたが、これはくつろぎ過ぎである。
『……ん、子供たちとやったことがある。餃子と同じ』
ユフォアリーヤは、慣れた手つきでてきぱきとワンタンを作り出す。
「調理中でもしっかり暖かい。そういうわけで、俺は部屋全体を温めてくれるエアコン派だ」
遊夜はワンタンを作りつつ、普段使っているエアコンへの愛を語る。
「炬燵ほど局所的に温かい訳じゃないが、気持ちよさに負けて寝るほどでもないしな。要は寒すぎなきゃいいんだ」
『……ん、うちは子供が沢山……熱すぎず寒すぎない……が、鉄則。低温火傷の心配もなし』」「ちなみにリーヤはブランケット……と言うか毛布派だな。一緒に包まって人肌で温まるのが好きらしい」
二人がせっせとワンタン作りをしているのを見て、興味を持つのが子供たちである。エステルも初めてのワンタン作りに興味を示し、手伝いを申し出る。
「い……一緒にやってもいいですか?」
少しばかり緊張しながら、六花はエステルと一緒にワンタン作りを始めた。子供たちの手によって、小さめのワンタンが量産されていく。
「うわー、こういう料理って楽しいよね」
『どんなに料理が下手でも、包むだけならできるしね』
望月と百薬が和やかにワンタン作りを進めている隣で、アルメイヤがワンタンを握りつぶしていた。別に怒っているわけではない。初めての作業で力の加減を間違っただけである。
「炬燵かエアコンかと言われたら、俺は断然炬燵派だなぁ……。ほら、そもそも俺ってば猫ですからして。炬燵が嫌いな猫はそうそういないよ?」
大量に持ち込んだ肉を頑張ってさばきながらグライアは、うんうんと頷く。
「まぁ、それはともかくエアコンだと空気が乾燥して喉痛くなっちゃうからね。ポットにあったか飲み物とおやつ用意して、……猫も駄目にするクッションお尻に敷いて、文庫本積み上げたら何時間でも過ごせるよね」
まさに天国、とグライアは幸せの吐息を吐いた。
だが、その天国は今は伊邪那美に一人占めにされている。
『火を起こせば、肉だろうが坊主の好きなマシュマロだろうが焼いて食えるぜ?』
クーフィアスは豪快に肉をさばきつつ、直火に思いをはせる。
「あのスウェーデン産の食用ザリガニを持ってきたのですが、使えるでしょうか?」
おずおずとエレオノールは、ザリガニを差し出す。
フェンリルは「美味しそうじゃのう」と呟いていた。
「魚介と同じ扱いでいいんですよね? とりあえず、臭みを抜くためにお酒をふりかけますね」
『日本では、なかなか見ない食材なのです』
國光とメテオバイザーは、皿や紙コップを並べていた手を止めてザリガニと睨めっこする。だが、それ以上の調理法は分からなかったために調理班にザリガニをバトンタッチした。
たらいまわしにされるザリガニに、エステルと六花は興味津々であった。大きくて、赤くて、珍しい食材は子供心をがっちりつかんでしまったらしい。
「エステルさんは、エアコン派なんですね」
そんなエステルに、國光は尋ねる。
「オレもエアコン派なんですけど、それでも炬燵が気持ち良いって感じるのは頭寒足熱って布団で寝ている状態と同じで、体の局所が急激に温まる事で副交感神経が優位になり……」
『サクラコ、相手は子供ですの』
メテオバイザーの言葉に、國光ははっとする。
エステルと六花は、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。國光は自分には教師の才能がないかもしれないなと思いながら、簡潔な言葉を頭の中で探す。
「……えっと……足を暖めるとリラックスして眠くなります。あと、自分の大切な人が近くにいるって感じられるからですかね?」
『たしかに、それも炬燵の魅力の一つだな』
リオンはワンタンを詰めながら、不敵に笑った。
『そもそもエアコンという便利なものがあるのに人は何故炬燵に頼るのか? それは炬燵にエアコンを超える魅力があるからだ! 冬に冷えやすい足先、それをピンポイントで暖めてくれる炬燵って素晴らしい! エアコンじゃ足先が温まるまで時間かかるからなー! エアコンと違って包んでくれるような暖かさもいい! まさに幸せの象徴!』
「早く包まないとワンタンの皮が乾燥しちゃうよ」
仁菜は、せっせとワンタン作りに励んでいた。
『エアコンみたいに空気も乾燥しないし、頭が火照らないから作業効率も上がるぞ! さらに……』
「リオン、早く包まないと終わらないよね」
『って、ニーナ俺の話ちゃんと聞いてた!?』
「話長いよ? ワンタンの皮が渇いちゃう」
『辛辣!』
わーん、とリオンは嘆く。
その後ろでは、いつの間にか兄弟喧嘩が勃発していた。
「いいか、炬燵はながーく温かい超コスパが使い手! エアコンは工事費も電気代も高く付く貧弱装備! 時代は炬燵だ!」
『兄者よ旧時代の遺産を使うのは止めるんだ。炬燵は場所取るし冬しか使えないがエアコンは夏には冷房になる超パワー。それに最近のは、お手頃価格がスゴい』
料理戦力外の槇と誄は、やることもないので言い争う。
「フン、移動の出来ない家具など役立たずのキワミ、アーッよ。それに中東育ちの彼女達には日本の夏なんてイージーモードなんだお!」
「……あの日本の夏は湿度が」
槇の強気な主張に、エステルは申し訳なさそうに呟いた。故郷の夏よりも湿度が高い日本の夏は、エステルにとっては結構辛いものである。エアコンの除湿機能に頼り切っているのが現状だ。
『頭がヒットしてると見える。炬燵こそ部屋内を移動出来ない欠陥品だろ常考。アルメイヤさん、やはりエアコンですよ。炬燵は何しろ身体に悪いし、兄者みたいにダラしなくなりますよ』
誄の言葉に、アルメイヤも小さく呟く。
「冷え症にエアコンだけはきつんだぞ」
女性に多い冷え症だが、自分がそうだと知られるのはちょっと恥ずかしいアルメイヤであった。
「ぐぬぬぬ……フン、健康や効率に思考を毒された冷血漢め。自宅において重要なのは《癒し》である事は確定的に明らか。炬燵は団らんと安らぎで日々の心の疲れを癒すヒーラーなのだよ、弟者くん。しっかり者のエステルちゃんこそ炬燵を使うべき」
バチバチ、と火花を散らせる阪須賀兄弟。
『どうあっても譲らん気だな』
「弟者こそ」
「『宜しい、ならば戦争だ!』」
二人が仲良く取り出したのは、ゲーム機である。
伊邪那美をはじめとする子供たちは目を輝かせ、年長者たちは「おまえたち、それがやりたかっただけだろ」と内心ツッコンんだ。
「こう見えて中々の腕だと思うぜ?」
遊夜はワンタン作りの手を止めて、不敵に微笑んだ。いつの間にか、彼の手の中にはコントローラー。
『……ん、子供達に、鍛えられたもの……ね?』
●煮えたらどうぞ、召し上がれ
「それにしても、この炬燵の台の高さが丁度良いよね。みんなで囲む感じも最高」
鍋の湯気を感じながら、望月は幸せそうに微笑む。
『寄り添いあいつつきあい、楽しいよね』
百薬もにこにこ微笑みながら、鍋の中身を覗き込む。肉多めの鍋となったが、皆で作ったワンタンや野菜もあり見た目はなかなかに華やかであった。
『やっぱり、これぐらいの肉は必要だな。足りなくなったら、じゃんじゃん投入するから遠慮なく食べれるんだぜ』
「……なにせ、二キロもあるからね」
豪快すぎるクーフィアスのおかげで、冷蔵庫には未だに肉の塊がある。あれって食べきれなかったら持ち替えりなんだよね、とグライアはため息をついた。
「これが、炬燵なんですよね?」
エレオノールは、興味深そうにしげしげと炬燵を眺めた。
『机と布団が合体しているようじゃが、布団の柄には見覚えのあるのう』
フェンリルは炬燵布団に足を入れたり出したりしていた。
寒暖の差が面白いらしい。
「最近は北欧家具のデザインが色々と取り入れられていたりしますから。この炬燵布団も、北欧のデザインを真似ているみたいですね」
『なるほど。どうりで、見覚えがあるはずじゃ』
炬燵が気に入ったらしいフェンリルは、ご機嫌であった。
「このつけダレって、お手製ですか? おいしそうですね」
『お肉とすごく合いそうなのです』
國光とメテオバイザーは、ユフォアリーヤが用意したつけダレを見つめる。お手軽そうだし、レシピを聞いたら家でやってみるのもいいかもしれない。
「ポン酢にニンニク・胡麻・ラー油を混ぜた特製タレだ。しゃぶしゃぶだったら使おうと思ったが、肉多めの鍋だから問題ないだろ」
『……ん、おにく!』
ユフォアリーヤは尻尾を振りつつ、待ちきれないとアピールする。
『皆、そろったみたいね』
アルヴィナに促され、六花が両手を合わせた。
「それでは……いただきます」
六花の可愛らしい声と共に、食事が始まった。
●仲良く鍋をつつきましょう
『ところで炬燵って、そんなに気持ち良いものなんですか? わざわざ身体を熱源に晒すなんて……なんて恐ろしい……』
アルヴィナは六花を抱きかかえながら、彼女を介抱していた。
ペンギンのワイルドブラットの六花は、炬燵と鍋の熱気にのぼせてしまったらしい。「冷たくて気持ちの……」と六花は、アルヴィナの腕に頬を擦り付ける。
『はい。のぼせるから、ちゃんと冷ましてから』
見てるいだけで寒気がするような恰好をしたアルヴィナは自分の持っている皿を冷やしつつ、六花の取り分も息を吹きかけて冷ます。非常に心温まる光景なのだが、感覚的にはとても寒い。
『炬燵は良いよね~。肩まで入って蜜柑を食べながら漫画を読むなんて最高の贅沢だよ。しかも、眠くなったらそのまま寝ても平気なんだから。えあこんは駄目駄目だよ。電気代は掛かるし、空気が乾燥するのから大変なんだから。乾燥は美容の大敵なのに』
伊邪那美は炬燵に入りながら、鍋をつつく。
「確かに食事をするには、炬燵は良いんだが人数制限あるのは玉に瑕だな。その点、エアコンは部屋全体を温めるから人数に制限が掛からないのが良いと思う。……まぁ、実のところは俺は火鉢派なんだがな」
クーフィアスの目が、きらーんと光る。
火鉢も直火といえば、直火である。
「火鉢は良いぞ。部屋を暖かくするだけでは無く餅を焼いたり、乾き物をその場で炙って食べる事も出来る。それに炭の火を眺めているのも一興なんだが」
『ちょっと爺くさいし、子供がいる家庭だと推奨できないけどね』
伊邪那美の言葉に、遊夜はうなずく。
「確かに炬燵は、鍋やみかんを食べる時等の一時的な団欒には重宝するが、常に使うのは避けるべきだと思うぜ? 風邪引いたりガキ共にだらしない姿を見せるわけにもいかん、大人の矜持として! ま、あくまで経験則からの自論だがね……両方使え? そんな! 金は! ない! ないんだ!」
よっぽど日々の節約が大変なのか、遊夜が箸を握りしめる。なんとなく遊夜の苦悩を察した大人たちは「今日ぐらいはいっぱいお肉をお食べよ」と皿に肉を取り分ける。
「たしかに、エアコンだと暖かい空気は上に昇ってしまいますし、部屋の行き来で足元が寒くなりますね」
その点でも炬燵は優秀、と國光は言う。
『インテリアが気になるんなら、可愛いお部屋の小物を買えば良いのですよ』
これなんかどうですか、とメテオバイザーはスマホで可愛らしいスリッパの画像をエステルに見せる。
「暖かそう……ですね」
もこもこした小物に、うっかりエステルの心が動かされそうになる。
『二人でお揃いにしたり、お気に入りを買って過ごせば良いのです』
「あと、何か目標を決めて来年の冬のご褒美に炬燵を買うとかは? 例えば、喧嘩はエステルさんの居ない場所でも絶対に買わないし売らない……とか?」
國光の言葉に、エステルは固まった。
「何分持つと思いますか?」
「何時間ですらないんですね」
普段の苦労がしのばれて、思わず國光はエステルの茶碗に鍋の具材をよそった。
「……エステルさんと二人で一緒に決めると、アルメイヤさんも守ろうと頑張るんじゃないですか?」
苦笑いをする、國光。
彼自身も守れるとは思っていなかったため、動揺のあまりエステルの皿の愚材がてんこ盛りになってしまっている。
『大体なんだ兄者! エステル、エステルって、やはりロリコンか!』
喧嘩の話題を取り上げていたせいなのか、さっきまで割と仲良く鍋をつついていた阪須賀兄弟が喧嘩を始めてしまっていた。
「バカか貴様、エステルちゃんこそ至高! 幼さに宿る未来と慎ましく嫋やかな《女性》が良いんじゃまいかそんな事も分からないなんて、漏れは兄として悲しいぞ!」
槇の叫び声に、六花はびくりと体を震わせる。
さっきまで伸びていた彼女には、喧嘩の原因が分からなかったからである。
『……気にしなくていいわよ。男兄弟の討論なんて、大抵はくだらないものなのよね』
アルヴィナの言葉に、望月と百薬はうんうんと頷く。
「たしかに……くだらないかも」
『本人たちだけが、一生懸命なんだよね。そんなことより、ここで何かのお肉投入ー』
「あ、こら、怪しい、というか煮え具合がわからなくなるじゃないの」
望月と百薬は和気あいあいと愚材の少なくなった鍋に肉を投入する。
持ち帰りになるかもしれない肉が減るのは大歓迎です、とグライアはもろ手を挙げて喜んだ。
『……ハッ! アルメイヤさんこそ究極に決まってる。見よ、あの熟れた果実を! 完成された美の極地を! 未だロリコン趣味を抜け出せない兄の事は、弟として恥ずかしいね』
誄の言葉に、女性陣は「その主張こそが色々と恥ずかしいのでは?」と思った。
『そういうものじゃろうか?』
「エレオノールに聞かないでください……」
フェンリルの疑問に、エレオノールは困ったように微笑む。
『恭也はどっちだろうね。ロリコンか熟れた果実か?』
伊邪那美の邪悪な笑みに「どちらと答えても、お前は俺のことを弄る気だろう」と恭也は鍋をつつきながら答える。
『……兄者さんニーナに近づくの禁止』
リオンの言葉に、仁菜は困ったように微笑む。
「私、そんなの子供っぽいかな」
『ん……女は若く見られたくもあるけど……大人ぽく見られたい時もあるもの』
ロリコンはいけないけれども、とユフォアリーヤは続ける。
『どうあっても譲らん気だな!』
「弟者こそ!」
では、戦争だ――と二人は声をそろえて言いたかった。
だが、言えなかった。
アルメイヤが、包丁という名の凶器を持ち出してきたからである。
『エステルを認めず――エステルをさらおうとしている不届きものは、そこかっ!!』
阪須賀兄弟の悲鳴が響き渡り、エステルはその悲鳴をお茶をすすりながら聞いていた。
「……すごい、数分持ちましたね」
「まだ喧嘩をしないって、約束をしてないですよね」
苦労している子だな、と國光は苦笑いを零すしかなかった。
その時、HOPEの支部に雷が落ちた。
●暗がりでも仲良くしましょう
「きゃあ! どうしたのでしょうか!? ……停電」
『雷が落ちたようじゃのう』
エレオノールの隣で、フェンリルは暗がりでもザリガニを食べていた。
『敵襲か!? ……違うか』
本当にただの停電であると確認したクーフィアスは再びゆったりと炬燵で足を延ばす。だが、停電したのだから徐々に炬燵も冷えていくはずである。案の定、グライアは悲鳴を上げた。
「寒っ! さっっむ!? ちょ、クー兄筋肉布団ぷりーづ!……やっぱり筋肉あると基礎代謝いいからしがみついてるとあったかいなー。……絵面はものすごくしょっぱいけど…………なんか……お腹いっぱいで眠……」
風邪をひくぞ、とクーフィアスは注意するがすでにグライアはすでに夢の中だ。ゆすっても顎をなでても、起きやしない。
「って、おい師匠を布団扱いするんじゃねェよ。このにゃんころめ」
せめて幻想蝶から毛布出しとけ、と声をかけるがグライアは起きる気配もない。
「ん……やっと涼しくなったね」
『私たちには、こちらのほうが過ごしやすいわね』
「あの……よかったらカキ氷はいかがですか?」
六花とアルヴィナは笑顔で、カキ氷を配る。彼女たちに悪気はないのである。たとえ、人数分作られたカキ氷が部屋の気温が下げていようとも。
このままでは、グライアは風邪をひく。
「とりあえず、皆でブランケットにでも包まるか。意外とこれで冬乗り越えれるんだよな」光源はスマホでなんとかなるだろう、と遊夜は自分のスマホを取り出す。
『ニーナ、やっぱりさっきのはただの雷だって』
雷の音に驚いてしまった仁菜を受け止めたリオンは、遊夜から受け取ったブランケットで仁菜を包んだ。
『あー、ニーナあったかいー。兎体温あったかいー』
「人より体温高いからね……。リオンもあったかいよ? くっついてるとぽかぽかだね」
ユフォアリーヤさんが毛布派なのもわかるなー、と仁菜は呟いた。
「……アルメイヤ。冬まで喧嘩しなかったら……炬燵、買ってもいいよ」
エステルは、ぽつりとつぶやいた。
『分かった! だが、そのルールは猫兄弟にお仕置きをほどこしてからにしよう』
――それ、ぜんぜんわかってないじゃん。
全員がそう思ったが、誰もアルメイヤを止めなかった。
『食べて寝て牛の天使になるのー』
「お鍋は美味しかったし、最後の停電にはびっくりしたけど楽しかったよね」
望月と百薬が笑いあうなかで、阪須賀兄弟の悲鳴が響く。
『「イヤー!! 真っ暗なのにめっちゃ正確に包丁が飛んでくる!!」』
――ちなみに、停電が直ったのは十五分後のことであったという。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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