本部

SBリンカーよ、立ち上がれ!

若宮狐

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~7人
英雄
7人 / 0~7人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/04/28 22:51

掲示板

オープニング

●報告書
「……今回はやりすぎでいい、思う存分ぶちのめせ」

 依頼内容を告げに来た青年は、憤怒を抑えきれず震える声で告げると、ぎりりと奥歯を食いしばる。それ以上何も言わず、報告書をテーブルの上に叩きつけたのだった。
 物理に脆弱なソフィスビショップ(SB)を英雄とする能力者だけを狙った、残忍な連続殺人事件。既に三人の犠牲者が出ている。
 犯人は剣を武器とするドレッドノート系の愚神と、その従魔二体。
 どの事件も、周囲にひとけがない時、被害者の能力者が一人で歩いているところを同時に襲撃されている。
 遺体は隠されることなく無下にも犯行現場に遺棄。剣による傷がいくつもあり、死因は全身に及ぶ火傷である。生命がある内に、酒を全身に浴びせられた後、引火されている。魔法の使い手をなぶるような仕打ちだ。

●監視カメラ
 A区の住宅街の小さな公園の監視カメラが、三回目に起きた事件の一部始終を捉えていた――。

 日はとっぷり暮れている。四月になったというのにまだ朝夜は肌寒い。
 女性というには幼さが残っているが、その瞳はパワーに溢れて輝いている。夢に向かってスタートをきり、新生活を始めたばかりだと容易に分かる。――この春、能力者を活かした道へ踏み出したばかりの駆け出しのSBリンカーなのだ。
 女性は、魔法使いの象徴、憧れとも言えなくもない裾の長いローブのフードを被ると、家が立ち並ぶ道を足早に行く。穏やかな住宅街では、こんな時間に外を出歩く者はほとんどいない。小さな公園に差し掛かる。そこを通ればもうすぐ家だ。
「早く先輩たちの迷惑にならないように訓練しなきゃ。みんないい人たちばかりだもの……良かった」
 家も近くなり安堵し、今日のことを思い出して小さく微笑む。一人一人の顔が浮かんだ。見上げれば、公園の時計は23時を示している。
「……といっても、頑張りすぎちゃったかな」
 立ち止まって、着替えの入ったバッグの肩紐をかけなおす。と、ポケットのスマホから着信メロディが流れ、慌てて取り出せば、ディスプレイには『お母さん』の文字。
「もしもし?」
『どこいるの? 今日は大丈夫だった?』
「うん、ごめん。もう家の近くだから」
『あんまり初日から頑張っちゃだめよ? 今日ね、おばあちゃんが来てるのよ。あんた朝さっさと行っちゃったでしょ? 晴れ姿、どーしても見たいって。見なきゃ寝られないってまだ起きて待ってるんだから。早くお帰り』
「わ、おばあちゃん来てるんだ? すぐ帰る! それじゃ!」
 パッと笑顔になり、通話を切ると魔法使いのローブを首元をぎゅっと寄せる。温かい。かわいい孫のお祝いにと、プレゼントしてくれたものだ。自然と駆け足になる。公園の向こう側の入り口から誰かが入って来たが、そんなことは気にもしなかった。彼が愚神であることに気付いた時には、『怨恨の撃』により純白のローブは真っ赤に染まっていた。
「ッ!」
 よろけた所を回り込んできた従魔に引っかかれ、後退すれば、今度は別の従魔に追撃される。態勢を整えられず倒れることすらできないまま、三体にボールを回すようにして弄ばれる。
「今回の魔女は弱ぇなあ~。最初の一撃で瀕死じゃねーか」
 女性は必死に幻想蝶に手を伸ばそうとするも思うようにいかない。
「ケケケ、なんだあ? お前、いざって時こそ使えねぇうすのろとリンクしたいのか。時間やるよ、やってみろよ」
 愚神は攻撃を止めて、ニヤニヤと笑いながらしばらくその様子を眺めている。その顔は低温やけどの痕でただれていた。女性はその場に崩れ、赤く濡れた震える手でなんとかリンクを果たすも、しばらく待っていた愚神は待ちかねたと言わんばかりに欠伸をしてみせると、
「遅ぇーんだよ。お前らSBリンカーは何にするにも遅ぇ、俺たち物理職にはどうあがいたって敵わねーんだよ!」
 ザシュっと愚神の剣が肩から斜めに走る。声もなく倒れ込む。愚神は近寄ると、女性の全身にドボドボと酒をかけ始めた。
「へっへ、能力者のクズリンカーが。かわいそうだから火葬してやるよ。おや、まだ火炎も扱えねーひよっこ魔法使いだったか?」
「ぐう……」
 真新しいローブを見て鼻で笑うと、これ見よがしにゆっくりとマッチに火をつけ、女性を見下ろして両方の眉毛を少し上げてみせた。
「いいローブだな? こりゃよく燃えそうだ。おかげで火種を用意する手間が省けたぜ」
 パッとマッチから手を放す。真っ直ぐに落下して、横たわっている能力者が炎で包まれてゆく。
「あぁぁ……」
「SBリンカーさんよ、火属性で殺される気持ちはどうだあ?」
 大きな声すら、もはやあげられない。嘲笑う愚神の顔が、炎ごしにゆらゆら揺れる。能力者として目覚めて、戸惑いを断ち応援してくれた家族。そんな家族をはじめ、街の、世界の、みんなの家族を守りたいと将来の道を決めた。そして踏み出せたばかりなのに――。
 能力者は最後の力と引き換えに魔力の弾を打った。
「無駄ぁ~、どこ狙ってんだ? 死にざまも無様とはな。ケケケケ……。ッ!」
 シューーッ!
 水しぶきが顔に当たり、愚神は一瞬怯える。音のする方を見れば、チっと舌打ちして従魔とその場を去った。
 女性が放った弾は、見事に消火栓の先端に当たり、そこから放水されていた。火事にならぬよう、街を守るために。

 英雄ソフィスビショップとその能力者を弄んだ一連の事件。
 これ以上、仲間を狂気の餌食にしてはならない。
 存分に仇を打ってほしい。

 ――SBリンカーたちよ、今こそ強さを見せつけよ。仲間よ、これ以上SBリンカーが殺されぬよう護りぬいてくれ。成功へ導かれることを……。

解説

目的:敵の討伐、メンバーにSBリンカーがいる場合は重体にさせない

事件の共通事項
被害者:身長150cm代と背が低い。男女関係なし。訓練施設からの帰りで、見るからに魔法使いたる恰好をしていた
犯行時間:23時頃
犯行場所:A区の住宅街の夜にひとけが少ない、小脇に入った道路や小さな公園。街路灯があり、明るさは確保されている

愚神との遭遇方法:事件の共通事項を参照に、戦いやすい場所へ囮を使っておびき出すこと。
 訓練施設をよく利用する能力者たちには、決行日23時頃は出歩かないように連絡済み。
 メンバーに囮になれそうな人がいない場合、全身隠せるローブ等で工夫してください。
 天気は晴れの予報。

敵(愚神1体、従魔2体):
愚神(1体):デクリオ級。ドレッドノート系。武器は両手剣。接近物理攻撃のみ。魔法攻撃しかあまり効かない
・必殺攻撃:『怨恨の撃』。SBリンカーのみに有効。一気に詰め寄って剣を振り下ろす。まともに食らえば重体の可能性あり。奇襲にも使用
・特別攻撃:体力が極めて減った相手に接近して酒を浴びせてマッチで引火
・戦闘スタイル:SBリンカーを固定ターゲットとする
 奇襲による先行攻撃し、従魔と囲んで反撃させず追い詰めていく
 怨恨の撃を一度といわず仕掛けてくる
 奇襲前、手ごわそうだと外見判断した場合、複数人いる場合は、別のターゲットを探す
・弱点:SBリンカーの魔法攻撃に極めて弱い
従魔(2体):ミーレス級。身長170cm程度の人型。爪で引っ掻く接近物理攻撃。そこまで素早くはないが攻撃力が高い
・戦闘スタイル:愚神と同じ相手を攻撃
・弱点:魔法攻撃

リプレイ

●誓い
 戦闘場所と予測される付近の住人は、蔵李・澄香(aa0010)の手筈で避難している。
 しかし、一軒だけ、許す限りいさせてほしいと要望があった。それは昨夜の被害者の家だった。
「こんにちは」
 斉加 理夢琉(aa0783)は被害者の家族に会っておきたいと訪れたのだが、返事がない。
 既に避難したのかと上がって奥へ進む。
「あ……」
 背を丸めた老婆が椅子に座り、ぼうっと一点を見ていた。
 理夢琉に視線を移すと、驚いて口元に両手を押し当て、転落しそうになる。
「大丈夫ですか?!」
 駆け寄って支える。
「ごめんなさい! 私、今回の任務を担当する能力者です」
「……こちらこそ。あの子が、帰ってきたのかと思って……」
 そういって理夢琉の頭を愛おしそうに撫でる。
 先程見ていた場所には写真があった。同じ黒髪の、少し大人びた女性がその中で笑っていた。
「……あなたを見て、元気が出てきたわ」
 過去の思いから決意も新たに、老婆の手を包むように握る。
「愚神は必ず、私たちが……」
「協力できることがあったら言って頂戴ね。この家の物も使える物は何でも使って。
 その代わり、終わったら……元気な顔、見せに帰ってくるのよ」
「はい、必ず」
 私は戻る、理夢琉は約束した。

●準備
 澄香はH.O.P.E.から、ネットワークカメラ、ノートPC、インカムを調達。設定、設置をしなければならないが、PCは場所を選ぶ。そして、可能な限りペアである東城 栄二(aa2852)の近くにいたい。良い場所があると理夢琉から連絡を受け、今、そこにいる。
 被害者の部屋、二階の窓から顔を出す。絶好のポイントだ。まるで思いを託されたように。
 カタッ、コト
 上から音がする。小鳥や猫等の動物では出せない音。澄香にはとある生き物が浮かんだ。
 窓から身を乗り出して虚空に叫ぶ。
「コラ!」
「わッ……おっ、と!」
 期待以上のリアクションにガッツポーズ。
 声の主は、大急ぎで謝りながら屋根から顔を出す。予想していた通り――栄二だ。
「蔵季さん!? ……人が悪いですよ」
 コン、コン
 澄香がいきさつを説明しようとした時、被害者の祖母がお盆を持って入室する。
「ちょうど良かった、紹介します」
 手招きされた栄二は、窓から入ると促されるまま前へ出る。背の高い彼を老婆が見上げる。
「おやまあ。べっぴん姉妹だねえ」
「!」
 澄香の姉だと勘違いしたようだ。
「いや、私は……」
「私と違って銃を扱うんです。申し訳ないですが、屋根、借りてもいいですか?」
「もちろんよ。まあ、屋根から歩く相手に当てるのかい?」
 女性が話し出したら長い。経緯は把握したのでお先に退散とこっそり窓から出ようとする、と、
「お待ち、日射病になっちゃうから、コレ被っていきなさい」
 ――ヒマワリの飾られた麦わら帽子。
「……」
「あら素敵!」
 腰が屈んだ老婆が手を伸ばして被せてくれるのを、無下にできる栄二ではない。
 再び話で盛り上がる様子に、会釈して逃げるように退室した。

 公園へ着くと丁度良く、佐藤 鷹輔(aa4173)に遭遇し、伝達する。
「私はあの屋根から狙撃予定で……あの、何か、変なこと言いましたか?」
 ニヤニヤ笑う鷹輔に、眉をひそめる。
「はっちゃけてるな」
 鷹輔はツンツンと自身の頭を指す。しまった、帽子を被ったままだと気付けば
「あ~大丈夫、人の趣味には口出さない主義だ。それに似合ってるしな」
「いや、これは、ですね……!」
 背中を向けてひらひらと肩越しに手を振って行ってしまう。
「どうしてみんな人の話を聞かないんだ――ッ!」
 栄二の悲痛な叫びがこだました。


 どこに隠れたものか、鷹輔は公園を散策。片側は壁、反対側は紅白の桜の木、その前に遊具が並ぶ。鉄棒、ブランコ、そして滑り台を通り越そうとする。
「ぎょわっ!」
 筒状の滑り台のラッパ口の中に、人形のように、ニウェウス・アーラ(aa1428)が納まっていた。
「はあ、ビックリした。饅頭でもお供えするところだったぜ」
「……ここに、するわ」
 ぴょんと飛び出る。
「潜伏場所か?」
 こくりと頷くニウェウス、今回のペア相手だ。ということは、
(一緒にあのラッパに入れって、ことだよな?)
 男性の鷹輔には些か狭そうだ。想像すると身体が痛くなる錯覚に、首に手をやって唸る。
「ここなら……どこよりも、愚神に接近……できる。チラ見も……。すぐ飛び出せる、し……滑り台を逆走して、上から攻撃も……。スマホの、明かり漏れも……防げるわ」
 ごもっとも。だが。
 悩む理由が全然分からないと小首を傾げられると、彼は簡単に折れた。この時点で彼女のペースとなる。
「とりあえず、位置についてみるか」
 意を決し、火力役の姫を護るように奥へ誘導し、その後に続く。身を屈めて筒の中にしゃがむ。
「……」
 じっとしてみる。――これは意外にいけそうだ。
「……」
 しばらくじっとしてみる。――良いかもしれない。
「……」
 もう少しじっとしてみる。――なんだかこの狭さが心地よい。
「……」
 さらにじっとしてみる。――ワクワクしてきた。
 丸いフレームに栄二が映り込む。
「何やってるんですか」
「――」


 囮役の世良 杏奈(aa3447)と、その先輩を演じる大宮 朝霞(aa0476)と理夢琉は、スタート地点となる訓練施設に集まっていた。
『一人の時に、それも弱そうな人ばっかり狙うなんて! 許せないわ!』
 今回のキーパーソン、杏奈の英雄、ルナ(aa3447hero001)。まだ幼女と言える年齢か、小さな手を大人のように腰に当てて怒り心頭中。
「魔法使いの反撃よ! メッタメタにしてやるわ!!」
 それを受けて杏奈が本日の意気込みを宣言する。
 間髪入れずに朝霞が続く。
「こんなの……絶対に許せない! 伊奈ちゃん、出番だよ!」
『分かってるって、朝霞。私がキッチリお仕置きしてやるからさ! 任せとけッ』
 呼ばれたギャルっ娘の英雄、春日部 伊奈(aa0476hero002)は、頼もしく胸を叩く。
 理夢琉は、被害者の祖母との約束を思い出して唇を噛む。
『悲嘆している場合ではない。みんなの言う通り、仇をとるぞ』
 英雄アリュー(aa0783hero001)に促されると、
「家族の思い、私たちで拾い上げよう!」
 互いの気持ちが一致し、うん、と三人が頷く。
「よし、伊奈ちゃん。変身だよ!」
『えっ!? ココでやるの? マジで?』
 伊奈はまだ抵抗のある変身ポーズを朝霞とするはめになるが、これはアイドリングにすぎなかった。

●作戦
 杏奈は、ルナを主格としたリンクで、十四歳の少女姿。
 外見とは裏腹にゴリラ体力、奇襲されても耐えうるだろう。囮は打ってつけの役だ。
 イメージプロジェクターで黒いローブ姿の朝霞と理夢琉と一緒に訓練施設を出る。
 公園への道のりには数台カメラが仕掛けており、スマホから常時映像を見られる。澄香が、ノートPCでも確認し、囮を除くメンバーにインカムで報告する。
『もうちょっと魔法の練習したいのでこれで失礼します』
 杏奈は、手を振って二人と別れる。
 待ち伏せたように愚神が従魔二体を率いて現れた。その様子がPCモニターに曝け出される。澄香はインカムを握る。
「――愚神と従魔を確認。世良さんより十時方向より接近中」
 待機組と別れた二人が、緊迫した声で了解と返す。
「大丈夫かな、ルナちゃん?」
『能力者がサポートしているから大丈夫だろう』
(理夢琉は夢の記憶がある故に感覚で魔法を発動しているが、世良は魔法の所作を熟知している雰囲気があるな)
 幼いルナが怖い思いをしないか心配する理夢琉に、アリューには考えるところがあって答える。
 杏奈は公園に入り、滑り台を少し通過し、法典『アルスマギカ・リ・チューン』を手に練習を装う。
『えいっ! …うーん、また失敗かあ。先輩たちみたいに上手く出来ないなあ……』
 滑り台には、鷹輔とニウェウスが緊張した面持ちで時を待つ。と、レーダー『モスケール』が反応し、情報を吐きだす。間違いなく今回の敵だ。
「すぐ……そこに、……いる」
「でかした、みんなに連絡だ」
 ニウェウスは手早く全員にメールする。もうすぐ戦闘開始だ、と。

●戦い
「さて、我々に喧嘩を売ったことを後悔させてあげましょうか」
 栄二は伏せて銃を構える。
 愚神が杏奈に背後より接近し、地を蹴るや否や――
 ダン!
「――なッ!」
 鷹輔は飛び出して杏奈を庇う。同時に、栄二の攻撃、命中高いオプティカルサイトが戦闘開始の合図のように唸り、愚神の足を貫いた。
 ドォオオオオオオ~
 銃声に続き、同所で魔法爆発――ブルームフレアが空中に炎の線を残す。その爆発を利用して、花火が打ちあがるよう、『補助ブースター』も全開に、光となり一気に前へ踊り出たのは、我らがアイドル。
「魔法少女クラリスミカ、参上!
 魔法使いのハートを弄ぶなんて許せない! 今回は私たち魔法戦士が、貴方のハートをくらくらりん☆」
 決めポーズに、バーンと光が下からスポット照射。
『本日のクラリスミカは高機動モードにございます!』
「モードなんてあったんかい」
 澄香の肩辺りに浮いている羽根型スピーカーからクラリス・ミカ(aa0010hero001)がドヤ声で解説。そこへ澄香がすかさず突っ込む。
 栄二の存在を眩ませる豪華な演出、そのさり気無い心配りには脱帽である。
「お前は!」
 TVでお馴染みの顔に愚神は後退る。しかし、背後、頭上からの攻撃で不意を突かれる。
「……お帰りは、まだ、早くて……」
 白い月。白い光。白い桜がざわついて――。花弁がひらり、またひらり。手元に降りた一枚に息を吹きかければ『拒絶の風』に呼応するように、目の前まで降りて止まる。澄み渡った瑠璃の瞳が光を反射し、花弁の背景を、闇から青空に変える。ゴオッと一際大きな風音とともに、無数の花弁が上がり、少女の身体を守るように真っ白に包んで舞った。
 渾身の一撃を放つ、トップアタッカーの一人、白の舞姫――。
「同じく、魔法少女……ゥん……ニウェウス。
 聖なる自然の力を蔑み、悪用するなんて……。二度と過ちを犯さないよう……目を覚ましてあげる!」
『よしよし、よくがんばった』 
 全員がずっこけそうになるも、顔を真っ赤にビシリと指さして決める。ハイにさせる法典のせいか。今後のためにも台詞の準備を、ストゥルトゥス(aa1428hero001)は思案する。
 ウィザードセンスも発動し、やる気満々だ。
 愚神は退散を決意し来た道を帰ろうとするも、躓くように止まる。先程の黒いローブの二人組が歩いてきていたからだ。その様はどちらが悪者か怪しい。
「私たちを忘れては困ります」
 イメージプロジェクターをパッと解き放つ――。
 桃色の桜が舞う。両サイドで少し束ねられた桃色の髪が、風になびいて兎耳のようにひょこりと跳ねる。後ろに下ろした長い髪が光を映せば、反射して全身が桃色の光に包まれる。手の甲に花弁が舞い降り、愛おしそうに見つめれば、金色の瞳に桃色のハートが二枚映り込む。パチンとウインクに花弁は嬉しそうに舞い上がる。『拒絶の風』――仲間の花弁も一斉に舞い、揺れる髪の上を遊ぶように滑ってゆく。
 強力なアタッカーにしてサポーター、絆を生み心を結ぶ愛深き桃の舞姫――。
「同じく、魔法少女、リムリュッ!
 華開いた未来を奪い、愛を踏みにじるなんて言語道断! 絆の強さ、愛でもって教えてあげる!」
『……ニウェウスと二人で百点だ、気にするな』
 噛んだことに、アリューはクールだが、本人は恥ずかしさで全身桃色に染まってしまう。
 二人のフォローは、この方にきっちりしてもらおう――中が紅ピンクの真っ白なマントをはためかせる、みんなのヒロイン。
 内なる情熱を見せるようにマントを翻す。スカートのフリルが波打つ。純白の服に金の肩章、胸元には女性らしさを忘れない大きなピンクのリボンが揺れる。透過ピンクのバイザーの奥で、瞳が強い光を放つ。残忍な愚神は成敗するのみ。
 強烈な攻撃の数々を繰り出す、トップアタッカーのもう一人、正義の制裁者、聖裁者というべきか――。
「聖霊紫帝闘士ウラワンダー参上!
 貴方に殺された人たちの無念、今ココで私たちが晴らします!」
『いいぞ朝霞! やれやれー!』
 バッチリ決めた朝霞に伊奈も勇む。少し失敗したさくら組も感化されて士気が高まる。
「チッ、次から次へと!」
 四人の魔法少女に囲まれ、残された退路はただ一つ。
「はいはい、残念。男で悪いな」
 ここで唯一の物理職、この役なしには始まらない、盾の鷹輔だ。杏奈を背に立ち上がると、ごつい武器で殴りかかる。物理耐性の高い愚神には受け止められてしまう、が。
「杏奈、今のうちだ」
『はい!』
 ルナから杏奈主格にリンクをし直す。
 髪が腰辺りまで伸びウェーブがかかる。紅色のドレスにつば広帽子、ハイヒール。大人の女性に早変わり。
「弱そうな女の子だと思った? 残念、私が本命よ!
 今までに犠牲になった魔法使いさん達の仇を取らせて貰うわよ!」
 魔法戦士たちの態勢が整った。とうとう逃げ場を失った愚神は、
「オオオオ!」
 雄叫びをあげると、中距離の澄香に素早く接近、大剣を力任せに振り下ろす――SBリンカーのみに有効な必殺『怨恨の撃』。
「させない! ――ッ!?」
 白いマントが瞬時に動く。朝霞が体当たりを試みるが、直線に突き進む勢いに弾かれる。
「クッ! 俺の前では他に手を出させねーよ」
 代わりに鷹輔が受ける。
 従魔二体は、愚神に忠実に同じ者を追撃する。横をすり抜けて澄香に向かう。
「そっちには行かせないわよ!」
 杏奈が『重圧空間』を放つ――自分を中心に範囲約五十メートルの敵味方全対象で、VS魔法防御の対抗判定にて負けた者に、三ターンの間、行動を大きく阻害するというもの。仲間全員が魔法使いで魔法防御が高い、敵は魔法に弱いため、敵のみかかるはずだ。
 が、しかし。
 次々に魔法少女が呻き声を上げる――澄香、ニウェウス、理夢琉。杏奈は命中力が非常に高く、魔法防御も決して低くない。
 敵でかかったのは、従魔二体、のみ――。 
 愚神は魔法防御が低いわけではなかった。つまり、カオティックバトルやバトルメディックの魔法には耐性がある。SBでないといけない理由は、この後明らかになればよいのだが、リンカーたちの運命は如何に。
 愚神が嫌な笑みを浮かべた。
 ――この結果が、魔法使いたちを闇へと誘う。

●暗転
「鈍さに尺をかけ、仲間の技を引き金に殺される……生贄はその三人か」
 愚神は愉快そうにせせら笑う。
 どよめきが走る。
 ザクッ、ザクッ
「キャ!」
 飛びかかっていた従魔二体が、澄香を爪で左右から引き裂く。
「……面倒なことになりましたね」
 BSの範囲外の栄二。遠くからだと戦況がよく分かる。
『どうするの? 蔵季さんが危ない。でもあっちには行けないよ』
 不安そうに尋ねるのは英雄カノン(aa2852hero001)。
 近付けば重圧空間に入り効果を受けてしまう。
「といって、攻撃はまずいですね。蔵季さんが私の存在を隠してくれた、それがばれると……」
 鈍足効果中の三人と移動力の乏しい盾職を除いて、動けるのは二人と栄二。愚神がこちらに気付けば嬉々として来るだろう。必殺技を受けるだけでなく、愚神を逃がしてしまう。
 理性的な彼でなければ、この依頼、失敗に終わっていただろう。
「悔しいですが、信じて見守りに徹します」

「私は大丈夫、だから」
『従魔を! お願い、一匹でも先に!』
 互いに強敵となる相手、従魔とはいえこのままでは澄香が危ない。クラリスはメンバーに呼びかける。
「ごめんなさい、私のせいでみんなが……」
 杏奈が責任を感じて震えた声で謝罪する。
「お前のせいじゃねぇ。誰かが言ってたぞ、俺らは人の話を聞かないって。力合わせる時がきたってことだ」
『――主、これから正念場になるぞ』
 共に戦う英雄、語り屋(aa4173hero001)の決意した声が鷹輔の内に響く。
 朝霞は、動揺を消し潰すように拳を握ると、
「怯んでる場合じゃないわ! 杏奈さん、らしくない!」
 憧憬する澄香がウインクしてハートを寄越す。
 ――魔法少女クラリスミカは強いんだから、信じて。
 ニウェウス、理夢琉も、杏奈を促す。
 ――これを、……利用、する、の……
 ――プライドを取り戻して、導いて!
 声が聞こえた気がした。
 みんなを信じる。温かい風を感じる。ピンチを機に心が一つにまとまった。
 カツンと赤いハイヒールを鳴らし、杏奈が開花する。
「従魔から落とすわよ! 手加減しないで持てる最大のスキルを使って! 鷹輔さんは、引き続き護って頂戴! 他のみんなは無理しないで自己防衛を優先に」
「了解!」
「任せとけ!」
 的確な指示に朝霞と鷹輔も気合いが入る。
「耐えられるかな?」
 愚神の煽りに、お黙りとキッと睨み、
「鷹輔、GO!」
「おう!」
『……まるで犬だ』
 語り屋の若干嬉しそうな声に苛立ちながらも愚神に立ちはだかる。
「朝霞さん、強いやつを後ろからお見舞い願うわ」
 語弊があるが、一体の従魔に銀の魔弾を確実に打ち込む。続いて、朝霞のレインメイカーがハートを散りばめる。
『任せろ! いっけぇ~!』
「闇の中に沈みなさい! ウラワンダー☆ダーク☆インパクト!!」
「グギャァ!」
 従魔に大打撃、さらに一体に気絶効果も与える。
『朝霞、やったじゃん!!』
「まだまだあ」
「それはこっちもだ」
 愚神が再び澄香に飛びかかる。それを鷹輔が遮る。
 澄香は防御態勢をとり、ニウェウスと理夢琉は通常攻撃で応戦するも当たらず、従魔はもう一体を気絶から目覚めさせる。
「お前はこれで終わりよ! 灰となるがいいわ!」
 杏奈のフレアが従魔を襲う。断末魔とともに一体は倒れ、もう一体は減退効果を受ける。
 愚神の目が光った、その瞬間――。
 ――ザシュ
『マスターーッ!』
 危機を感じてストゥルトゥスが叫ぶ――その時には血しぶきが上がっていた。
「……間に合った、か」
 庇って受けたのは鷹輔だった。血が足元に溜まってゆく。
 愚神は、真逆にいたニウェウスに目標変更したのだ。いくら繰り出しても鉄壁に止められては敵わない。しかし、あと少しのところでまたもや遮られてしまった。
「お前みたいな、魔法使いとつるむ物理職がいるから俺はッ!」
「ウラワンダー☆ストーム!!」
 朝霞の怒りが炎となって従魔もろ共襲う。
「鷹輔……ありが、とう。……大丈夫?」
「まだまだ、これから、だろ」
『我らの防御力を侮るべからず』
 彼は物理防御742、他のメンバーの約三~四倍以上の超越した強靭さを持っているのだ。
 杏奈は、澄香を護るべく移動する。その肩にそっと澄香の手が置かれた。
「ありがと。もう平気! みんなでやっつけちゃお?」
 ニウェウス、理夢琉も復帰する。
「……きっちりお礼、しなきゃ……ね」
『そうこなくっちゃ。マスターに手を出すなんて!』
「もう好き勝手させない」
『容赦は無用。理夢琉、いくぞ!』
『さあ、本番の始まりですわ!』 
 クラリスの声と共に、SBリンカーが、立ち上がる!
 ニウェウスと理夢琉は、拒絶の風をまとう。
「トップバッター、クラリスミカ、いっきまーす!」
 本を開けば、ミニサイズの自身が従魔目がけて突進。
『やっと出番!』
「待った分、腕が鳴りますね」
 澄香の攻撃に被せて、栄二はバイポッドで従魔を撃ち抜く。
『ここは二体攻撃で、理夢琉に繋げるわよ!』
「……うん、そう……思ってた」
 リフレクトミラーに換えて攻撃。
『後は任せてもらおう。フレアで従魔を片付けろ』
「よくもやったな!」
「ギャーー!!」
 炎で従魔が滅す。残すは愚神。もちろん手加減するつもりもない杏奈だが、
「これで一人ね! 観念する?」
「俺はそういう甘ったるい仲間との連携プレイってのが大っ嫌いなんだよ!」
 ニウェウスへの突進を鷹輔がディフェンディング。
「なぜ一人じゃ何もできない魔法使いと連む?」
「……なぜって?」
 ニヤリ。
「俺も魔法使い、だから」
 愕然とする愚神。鷹輔は、『ダメージ・コンバート』で通常攻撃を魔法から物理に変換していただけで、本職はそう、
『――主、紛れもなく悪魔』
 隙を逃さず朝霞が攻撃。
「くらえ! ウラワンダー☆ストーム!!」
「俺らが打たれ弱いなんて誰が決めたってんだよ。あの世で仲間に広めとけ、ソフィスビショップ様に死角は無しってなァ!」
 さらに鷹輔と澄香がブルームフレアで追撃し、ゴウゴウと燃え盛る。
「何でソフィスをそんなに憎むんですか!?」
「この顔を身体をズタボロにしやがった!」
「いい加減にしなさい!」
 理夢琉がリフリジレイトで凍てつかせる。
『狙い打ちチャンスだよ!』
「仕留めてみせますよ」
 カノンの言葉にすかさず栄二が両足を撃ち抜く。愚神はスナイパーの存在に気付き、憤怒の表情で目を見開きながら、その場に倒れ込む。
「ニウェウス!」
『今よ、マスター!』
 みんなと英雄に促されるようにして、ウィザードセンスもたいたニウェウスがラストを決める。
「リーサル……ダーク……」
 呪文のようにスキルの名を唱えると、愚神を冥界のごとき闇に陥れた。

●真相 
 もはや身動きできぬ愚神を取り囲む。
「もしかして、その火傷は魔法使いの炎にやられた痕かしら」
「お前らなんざ、いなくなればいい」
「あらそう、お仕置きが足りないのね」
 この期に及んで大口を叩く愚神に、杏奈がフレアの格好をしてみせる。と、その横をすり抜けて、
 ガンッ!! ガン、ガン!
 理夢琉が愚神に跨り、グーで殴りだした。
 ガンガンガンガンガンガン!
『お、おい、やりすぎ……』
 さすがにアリューが止めに入る。
「人間の持つ家族愛や絆の深さが、分かるはずもない!」
 素手攻撃が無効なのは分かっている、それでも。被害者やその家族の思いを晴らせるわけではないが、家族を愚神により失った理夢琉には、抑えることができなかった。
 しかし、その彼女の真っ直ぐな思いが、真の心へ体当たりした。
「……ごめ……ん。……好き……だったの、に」
 愚神の声のトーンが変わる。
 朝霞は理夢琉をマントで包むように抱きよせ、ニウェウスも寄って彼女の手を握る。
 澄香がすっと愚神の前にでる。もはや洗脳は不要か、念を入れ『支配者の言葉』で問う。
「貴方に上位者がいるならば、はいかいいえで答えなさい」
 澄香は、邪英からの愚神化を端から疑っていたのだ。
「――はい」

●抜け出せぬ者
「仲間は不要と孤高を気取った僕に、話しかけてくれたコがいた。彼女はSBリンカーだった。アイドル的存在で取り巻きも多く……」
 愚神――別の人格が語り出す。
「他をバカにするのは仲間を作れない自分への防衛。仲間との絆に一人では勝てないから姑息な手を使う……力さえあれば彼女は振り向くと、愚神と契約した。その浸食に気付き、体を張って叱ってくれたのも彼女だった」
 理夢琉に視線を投げて弱く笑う。
「最後まで彼女に気持ちを伝えられないどころか……」 
 鷹輔は眉根を寄せる。自分に乗り移っていたのがもし愚神だったならば、と。
「愚神を払い、もう一度やり直しても……」
 澄香の言葉を遮るように首を振るう。
「僕は、愚神に意識を奪われ彼女をこの手で……。
 なのに、また、魔法使いに助けられた。……ありがとう」
 マッチを取り出すと自分に火を放った。
 同化した愚神が悲鳴をあげるが、表情はどこか穏やかだった。
 その姿を、SBリンカーたちは、それぞれがそれぞれの思いを抱き、静かに看取ったのだった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    クラリッサaa0010hero002
    英雄|15才|女性|バト
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 私ってばちょ~イケてる!?
    春日部 伊奈aa0476hero002
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 守護する魔導士
    東城 栄二aa2852
    人間|21才|男性|命中
  • 引き籠りマスター
    カノンaa2852hero001
    英雄|10才|女性|ソフィ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173
    人間|20才|男性|防御
  • 秘めたる思いを映す影
    語り屋aa4173hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
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