本部

新装開園! 動物園へ行こう!

弐号

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/04/22 01:45

掲示板

オープニング

●新装開園
『ご心配をお掛けして申し訳ありません! 来週の日曜日より無事再開! ぜひお越しください』
「何これ?」
「見てわからんか、チケットだが」
 唐突に奥山 俊夫(az0048)から渡された二枚の紙をひらひらと舞わせながらリリイ レイドール(az0048hero001)が問いかける。
「先日、愚神に襲われた動物園があってな。そのお礼として無料チケットが束で届いた。エージェント達にも希望を募る予定だが、その中から二枚拝借したものだ。」
「ああ、それで。……何、私と行くの?」
「流石に動物園を楽しむ歳ではないのでな。ジェイソンのところの子がいるだろう。渡しておいてくれ」
「リラのこと? まあ確かに好きそうだけど」
 リリイの同僚であるジェイソン・ブリッツ(az0023)と誓約しているリラ(az0023hero001)の顔を思い浮かべる。
「ま、とりあえず渡しておけばいいのでオッケーオッケー」
 気軽な気持ちでOKをだして、リリイはチケットを胸ポケットへとしまい込んだ。

●予定と代役
「ちょっとしばらく行けそうにありませんね……」
「えー! 何で!」
 眉根に皺を寄せて苦渋の顔を見せるジェイソンの袖をリラが力いっぱい引っ張る。
「ちょっと今やるべきことが溜まっている状態でして……。そうだ、リリイ。もう時間があればリラを連れて行ってくれませんか?」「え、私ぃ?」
 急に降られて戸惑うリリイ。
「いや、でも私も別に暇な訳じゃ……」
「じー」
「……はいはい、分かりました。仕方ないなぁ」
「やったぁ! ありがとう、リリイ!」
 無言でじぃっと見つめてくるリラに根負けして首を縦に振る。
「ま、たまには童心に帰るのも悪くないでしょ」
 といっても幼いころの記憶はないんだけども。
 改めてチケット取り出して見つめながら、ふとそう思ったのだった。

解説

●目的
動物園に行きましょう。以上です。

以前愚神の襲撃に遭った動物園が準備を整えてリニューアルして開園したしましたので、エージェントの方々へ無料チケットが配られました。
デートでも暇つぶしでも、あるいはこの世界の世俗に疎い英雄の方への経験を積ませたい方でもぜひぜひお気軽にお越しください。
一応リリイとリラも園内をほっつき歩いていますので、もし話かけたい方がいらっしゃればどうぞ。

リプレイ

●動物園へようこそ!
「ついたー! 優牙、早く来るのだー!」
 H.O.P.E.の手配した送迎バスから飛び降りる勢いで外に出ながら、プレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)が大きな声で叫ぶ。
「はわわわ!? そ、そんなにせかさないでも動物園は逃げないよー!?」
 彼――いや、彼女に呼ばれて慌てて狼谷・優牙(aa0131)もバスから下車する。
「早く行くのだ♪ 逃げないけど時間はたっちゃうのだ♪ 早く行って一分でも多く見るのだ♪」
 そう言うと一目散に入口のゲートの方へ走っていくプレシア。
「ま、待って! チケットを持ってるのは僕なんだからー! もう、待ってー!」
 声を掛けるがそんなので止まるプレシアの勢いではない。
 このままでは勢い余って警備員に止められるような事態になりかねない。結局、引っ張られるように優牙もプレシアを追って駆け出した。
「ピピは動物園行くのははじめてだっけ?」
「うん♪ すごく楽しみ、どうぶつえーん!」
 皆月 若葉(aa0778)の問いにピピ・ストレッロ(aa0778hero002)が満面の笑みで答える。
「動物園か……いつ以来だろうな?」
「見た事もない動物がいっぱいいるみたい」
「お、御神に伊邪那美。何なら一緒に行くか?」
 隣に並んだ友人の御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)に若葉が話しかける。
「わーい! 全部まわるぞー!」
「……いや、遠慮しておく。俺達はもう少しゆっくり回る事にするよ」
 腕を高々と掲げて意気込みを叫ぶピピの様子に、恭也は静かに首を横に振った。
「そっか。まあ、ペースは人それぞれだからな。よし、ピピ。俺達は全制覇目指すぞ!」
「やったー!」
「いやー、元気だねぇ。子供は風の子、元気の子ってね」
 続いてバスから降りながら、その奔放な様子を楽し気に眺める百薬(aa0843hero001)。中にいた他のエージェント達も続々と降りてくる。
「なんか百薬、お婆ちゃんみたいだね」
 しかし、それに対する餅 望月(aa0843)の反応は辛辣であった。
「いやいや、この天使オブ天使、百薬ちゃんを捕まえてお婆ちゃんはないわー。どう考えてもお姉ちゃんでしょ」
「百薬がお姉ちゃんしてるところとか想像つかないなぁ」
 手と同時に羽をパタパタと動かして望月の言葉を否定するが、やはり望月の返事はつれない。
「私も動物園……初めて、来た」
「ふっふー、実はボクも初めてなのだよ、マスター」
 期待と不安が入り混じる表情を浮かべるニウェウス・アーラ(aa1428)に何故か得意げにストゥルトゥス(aa1428hero001)が告げた。
「そう、なの?」
「そうなんですとも。ムフ、ワクワクしてきた☆」
 抑えきれないと言った様子でストゥルが笑い声を漏らす。
「大人になってからこっちに来た英雄は意外と縁がないんだよね、こーいうとこ」
「うふふ、じゃあリリイもストゥルもいっぱい楽しみましょうねぇ」
 一応引率の立場にあるリリイと、彼女に手を引かれリラもバスから降りてくる。
「ふっふっふ、いくつになっても未知なるものに触れるのは最高の娯楽だよ」
「うん、私も……楽しみ」
「うむ、我々英雄にとってこの世界の全てが新鮮で新しい事だらけじゃからの! 楽しみじゃ、動物園!」
 そこへ唐突に自身に満ち溢れた凛とした声が響き渡る。セラ(aa0996hero001)である。意気揚々とバスから降りて動物園を望むセラであったが……
「して、炉威。動物園とは何じゃ?」
 すぐに首をかしげて隣にいる炉威(aa0996)に話しかける。
「来たいと言っておいて知らないとは、随分アレだねぇ……」
 好奇心が旺盛と言ってもほどがあるだろう、と炉威が苦笑いを浮かべる。
「う、うるさい! 知っておるわ! た、確か動物が居るんじゃろう! 沢山っ!! じゃ!」
「ま、そういう事だね。“動物”園と言う位だから」
「大体、炉威が悪いのじゃ。最近、碌に外に出てなかったしのう。誰かさん共の所為で」
 腕を組んで不機嫌そうな顔をしながらセラが炉威の顔を覗き込む。その視線にはたっぷりと恨み節が乗っていた。
「はいはい、悪ぅございましたよ。だから、今日は付いてきてやったじゃないか」
「ふん、我はお前がアレに取り殺されないか心配じゃ」
「……大丈夫だよ、悪い子じゃない」
 最近、新しく来た英雄の方に掛かりきりだった事を暗に揶揄されて、炉威は肩をすくめる。
「んー、いい天気に恵まれてよかったわね」
「あまり暑すぎると困るのです。丁度いい気温でよかったのです」
 狭い車内から解放されて背を伸ばす木槌綾香(aa5073)にウェンディ(aa5073hero001)が返す。
「ここが動物園ですか?」
「そうよ。うちの職場と似たようなところだし、参考になるかなって思ってね」
「綾香の職場……水族館でしたっけ? 水族館と動物園は似ているのですか?」
「うーん、そうね。生き物を飼育してお客さんに見せるってところは同じかな? 動物園は陸の動物、水族館は水の動物って感じ」
 水族館でイルカの飼育、調教を担当している綾香がウェンディに簡単に説明する。
「動物……ウェンディの仲間はいますか?」
「イルカはさすがに動物園にはいないわよねえ……」
「そうですか……」
「だ、大丈夫よ。それでもきっと楽しいから!」
 どことなくシュンとした様子を見せるウェンディ。彼女は元々の世界ではイルカだったものがこちらの世界に来た際に、何故だか人間の姿を取るようになったという英雄である。
「やっと着いた……退屈で死にそうだったニャ……」
 そして、今日はもう一人動物から生まれた英雄がいる。それがこのスナネコ(aa4986hero002)である。
「おいおい、大丈夫か?」
 彼女と誓約を結んでいるステップ・サーバル(aa4986)がいきなり落ち込んでいる相棒に呆れ顔を見せる。
「スナネコは元々普通の動物だったんだろう? だったら興味があるだろう……ここにはスナネコの仲間がいっぱいいるぞ」
「仲間! うん、見てみたいニャ!」
 気分屋なのかステップの言葉にすぐさま気を取り直し、顔を上げる。
「千も見に来たのは初めてだね」
「はい。先日の時はゆっくり見る余裕はなかったので」
 三ッ也 槻右(aa1163)の問いかけに隠鬼 千(aa1163hero002)が頷く。
 彼らは以前この動物園が愚神に襲撃された時に討伐に加わったメンバーの一人だ。
「じゃ、ゲームでもする?」
「ゲームですか?」
 鞄からパンフレットを取り出しながら槻右が一つ提案する。
「しりとりしながら、その動物を見に行こう。30個続けられたら賞品だ」
「なるほど、面白そうです! 多くの動物を学ぶきっかけにもなりますね!」
「それじゃあ、最初は……」
 と、槻右が周りを見渡した時に一人の人物が目に入る。
「ほらほら、レイ! 早くしないと皆、もう行っちゃってるよ!」
「ハァ……静かにしろ。今日は寝不足なんだ……」
 相棒のカール シェーンハイド(aa0632hero001)に手を引かれ顔を出したバスに残った最後の一人、レイ(aa0632)である。
「フン、アフターケアがてら来てみたが……よくもまあ、短期間で綺麗にしたもんだ」
 日差しを手で遮りながらレイが呟く。その視線の先にあるのは入場ゲートだ。
 前回来た時は愚神の影響か少し破損個所があったが、今や見事に修理され新品のような輝きを取り戻している。
「こういう日常に戻れた姿を見るとエージェントやってて良かったって思うよ」
「……まあ、悪い気分じゃねぇ」
 槻右の言葉にレイが薄く笑う。
「奥山さんも来ればよかったのにね、忙しいのかな?」
「俊夫はこういうのあまり興味ないからね。私に外に出ろってよく言うけど、絶対自分の方が出かけてないと思うんだよねぇ」
 望月の言葉に不服そうにリリイが不満をこぼす。
「ほらほら、こんなところでダベっててもしょうがないっしょ? アフターケアなら中も確かめないとね」
「ハァ……迷子とかやめてくれ、な……」
 再び腕をカールに引っ張られながら、レイは静かに溜息を吐いた。

●動かざること山の如し
「うーん、どこから見るか迷うな~」
「そうだな……国内にいる動物は後回しにして海外にしかいない動物から見ていくのはどうだ?」
 歩きながら目移りする伊邪那美に一つ提案する恭也。
「なるほど、それいいかも」
 その提案に頷き、ハンドバッグから動物園のパンフレットを取り出す。
「うーん、そうね~。とはいっても、珍しい動物を探すにもそもそもの知識が……」
 伊邪那美が眉に皺を寄せてパンフレットとにらみ合いをしていると、その横をたまたま通りがっていたストゥルが突然大きな声をあげた。
「ウッヒョウ。ほら見てマスター! 珍しいのがいるよぅ! 凄いなぁ、多分日本には両手で数えられる程度しかいないはずだよ」
「ストゥルってほんと……そういうの好きだよね」
 同じくパンフレットを確認しながらはしゃぐストゥルに釣られて、ニウェウスも自然笑顔になる。
「むふー、知的好奇心が刺激されますからのぅ。堪りませんわーっ」
「……子供みたいに、キラキラしてる……」
 入口の年少組に負けず劣らずのテンションで鼻息を荒くするストゥル。
「……着いて行ってみるか」
「んー、そうね。割と楽しそう」
 渡りに船とばかりにニウェウス達の後ろを着いていく恭也と伊邪那美。
 おおよそ5分ほど歩いてたどり着いたのは大きめの鳥が集まる区画だった。
「あ、止まった……。あれ、変ね?」
「ん、どうした?」
 先を行く二人が止まったのを見てその檻を覗き込み、伊邪那美が首をかしげる。
「ううん、鳥の置物が飼育所にあるのは何でかなーっと」
「うん?」
 問われて改めて恭也も檻を見る。そこには1m強はありそうな灰色の鳥が鎮座していた。
「……あれは置物じゃなくハシビロコウだな。近頃人気があるらしい」
「さっきから見てるけど全く動かないんだけど……」
 恭也の解説にいぶかしげに思いながら檻に近付いていくが、その間もその鳥は一切動く様子はみせなかった。
 伊邪那美が置物と勘違いしてしまうのも無理はあるまい。
「ハシビロコウはね、これでも狩りをしてるところなんだよ」
「狩り?」
 伊邪那美が隣に並んだところでストゥルが喋り出す。どうやら二人が着いてきていたのには気付いていたらしい。
「そう、彼らの狩りは非常に気長だ。水辺に立ち、目の前に獲物の魚が来るのを延々と待つ。だから動かないんだ。動いたら生物だと魚にばれてしまうからね」
 立て板に水の如く喋り散らすストゥル。彼女の喋りたがりとやたらと豊富な雑学の知識は動物園では非常に役に立つ。
「スナイパーみたいな奴だな」
「そうだね。でも、いつも都合よく餌が来てくれるとは限らない。動かないのはカロリーを消費しないため、という意味もあるってわけ」
「……凄い、目つき」
 正面から見ていたニウェウスが呟く。
 ハシビロコウの顔は正面から見ると、目が上手く頭に隠れて非常に鋭く見える。この表情もハシビロコウの人気の要因の一つだ。
「確かに結構格好いいかも。……それにしても」
 じぃーっと伊邪那美がハシビロコウを改めて眺める。
「動かないわねぇ……」

「動かないね……」
 時を同じくして、偶然にも全く同じことを呟いた者がいた。若葉と共に行動するピピである。
 檻に噛り付くようにしてピピはとある動物を眺めていた。
「ナマケモノだね。一日ほとんど寝てるみたいだよ」
「のんびりやさんなんだねぇ」
 ナマケモノの雰囲気に流されてか、急いで檻を回っていたピピがしばし立ち止まってじぃーっとナマケモノを眺める。
「……あ! 今、目を開いたよ……何だか笑っているみたい♪」
 気まぐれにこちらを向いたナマケモノを指し、嬉しそうに笑う。顔に力を入れる事すら忘れたナマケモノの表情は常に微笑んでいるように見える。それが気に入ったらしい。
「若葉、発見」
 と、そこで後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「お、槻右さんじゃん。偶然」
「センもいる! おーい!」
 それは友人である槻右と千である。
「聞こえてますよ、ピピさん」
 近くであるにも関わらず全力で手を振ってアピールするピピの姿に思わず微笑む。
「あ、そうだ。『ミナヅキ』で12個目ですね」
「……? なんの話?」
「ま、ちょっとゲームをね」
「あ、そうだ。ピピさん、これあげます」
 言ってピピに赤い風船を手渡す千。ちょうど近くで配っていたものだ。
「うわー、もらっていいの!? セン、ありがとう!」
 思わぬプレゼントにピピが満面の笑みを浮かべる。
「ねーねー、セン、キスケ! 見て、今あの子がにこーっ笑ったんだよ♪」
 そして、その手を引っ張ってナマケモノの正面の顔が見えるところへ引っ張っていく。余程ナマケモノが気に入ったらしい。
「わわっ、引っ張らなくても大丈夫ですよ、ピピさん」
 そう言いながらも千の顔も綻んでいる。
 ナマケモノも人間も、ここにいる者は皆、力の抜けた自然な微笑みを浮かべていた。

●ウェンディなら……
「せっかく動物園に来たんだし、何見ようかしら、水物がいいけど……」
 これといったプランもなくプラプラと歩いていた綾香とウェンディの二人であったが、ここにきて少々行先を迷っていた。
 このまま何となく歩いても楽しめるだろうが、何かもうひと押し思い出に残るものを見たいところだ。
「あれはなんですか、綾香」
「ん? ああ、あれはコンドルねー。大きな鳥さんよ」
「鳥……あれは空を飛ぶのですか」
 綾香の言葉に少し考えるそぶりを見せるウェンディ。世俗に疎い彼女と言えど、綾香との生活の中で鳥くらいは見た事がある。
 しかし、あれほど大きな鳥を見た事が無かった。彼女の記憶の中の鳥はせいぜいカラスかスズメくらいのものだ。
「飛ぶわよー、鳥だもの。あ、でも鳥と言っても飛ぶものばかりじゃないのよ?」
「そうなのですか?」
「うん。そうねー、例えばペンギンとか。この辺にいるかな?」
 パンフレットを取り出し、ペンギンのいる場所を探す。それは丁度この場所から近いようだった。
「あ、ちょうどショーやってるわ! 行ってみましょう、ウェンディ!」
「ショー、ですか」
 綾香がウェンディの腕を引っ張り、ペンギンショーをやっている方向へ走り出す。
 急ぐ彼女はウェンディの目がショーという単語に反応し、鋭く光ったのには気付かなかったようだった。
「あ、やってるやってる! キャー! かわいい! フンボルトペンギン」
 二人がペンギンの区画に辿りついた時、ちょうどペンギンのショーが始まった所だった。
 数匹のペンギンに飼育員らしきものが指示をだし、それに応じてペンギンが滑り台を滑ったり、飛び込み台から跳び込んだり。ペタペタと歩き芸をするペンギンの姿は非常に愛らしいものだった。
「いいな~、私もペンギンのショーしたかったかも。うちの水族館はペンギンはいないのよねぇ」
 その姿をみながら興奮気味に感想を漏らす綾香。その横で何故かウェンディが仏頂面を見せていた。
「あれで芸ですか。話になりませんね。ウェンディの方がもっと高度な芸ができます」
 綾香がペンギンショーに夢中になっているのが気に食わないのか、張り合って自己主張を始めた。
「例えば、あの飛び込み台! ウェンディならあの数倍高くジャンプできます!」
「うんうん、それで?」
 可愛い嫉妬心を見せるウェンディに思わず頬を緩ましながら綾香が相槌を打つ。
「ボール拾いだって、ウェンディなら拾うどころか、鼻先に乗せたまま泳げるでしょう!」
 ヨッと片足でバランスを取るポーズをするウェンディ。
 彼女の主張は『綾香を背中に乗せて泳げる』といって彼女をおんぶして走り出すまで延々と続いたのだった。

●腹が減っては遊びは出来ぬ
 時間は過ぎて正午。いかに楽しい時間とはいえ腹は減る。
「……うむ、結構広いモノじゃのう……昼はどこから見るべきじゃろうか……」
 売店の集まる広場でテーブルに付き、ストローからジュースを飲みながらセラが呟く。
「好きな動物とか見たい動物の名前とかは無いのか?」
「そうじゃのう……大きいのが見たいの。あの首の長い……キリン、とか言ったかの?」
 炉威の問いにパンフレットとにらみ合いながら答える。
「キリンが気になるのか?」
「うむ、あのように首が長いのは異常じゃな。あと、ゾウ……とか言うのも異様な鼻の長さじゃった気がするの」
「へぇ、動物、知ってるじゃないか」
「ば、馬鹿にするでないっ!」
 炉威の子供をあやすような言い方にセラがカッとなって立ち上がる。
「まあまあ、落ち着いてー。ポテト食べる?」
 と、いつの間にか同じテーブルに座っていたカールがセラの口元にフライドポテトを運ぶ。
「モゴモゴ……そもそも我が動物に詳しいのも誰かさん共が出かけている間にテレビや本で暇をつぶしていたからであってだな……モゴモゴ」
 怒りも空腹には勝てなかったのか素直にホットドックを頬張りながら、文句を続けるセラ。それでも幾分かは勢いは収まったようだが。
「うまい! 誰じゃ!」
 ポテトを完全に食べきってからようやくカールを指差し問い詰める。対するカールはいつも通り柔和な笑みを浮かべて楽しげである。
「どーも、オレ、カール。炉威の友達だよ。よろしくねー♪ あいたっ!」
 自己紹介の途中で後ろから蹴られて悲鳴をあげる。といっても軽く椅子を小突く程度のものだが。
「おい、人のポテト勝手に持って行って何してんだ」
「二人とも久しぶり。ご飯かい?」
 現れたレイも含めて挨拶する炉威。それを受けてレイも結局同じテーブルに付き、ポテトをかじり始めた。
「まあな」
「なるほど、炉威の友人というのは間違いなさそうじゃの」
「そういう事。それにしても、レイ。お昼、それだけ? 相変わらず少食だね」
 テーブルに座ったレイがポテト以外何も持っていないのを見て炉威が尋ねる。
「いいんだよ、俺はこれで」
「……信じられん」
 横でセラが目を見開き、この世の終わりかのような顔で呟く。
 なお、彼女の前にはハンバーガーやたこ焼きの箱などが山積みに置かれている。
「大の男がそのような食事では身体が持たんぞ! もっと食え!」
「いや、本当、それね! もっと言ってやって、セラちゃん!」
 謎の世話焼きを発揮するセラに乗っかってカールが続ける。
「オレが一生懸命ご飯作ってるのに、レイってばいっつも残すしさぁ」
「……お前の量が多すぎんだよ」
「いや、オレの作る量は適量だよ! むしろちょっと少ないくらいだって」
「うむ、食は全ての基本じゃぞ! おろそかにすれば必ずしっぺ返しが……」
 唐突に始まるレイの食事問題談議。
「……うぜぇ」
「ご愁傷様」
 レイのその呟きに炉威ができる事は苦笑いを返すことくらいだった。

「わわ、あっちは随分盛り上がってるみたい……」
 騒がしい炉威たちの卓を見ながら優牙が自分用の食事を持って席に着く。
「楽しそうなのだ! 僕達もいっぱい話すのだ!」
 その正面にプレシアもまた自分用の食事を持って座った。
「うん、そうだね……はぅ!?」
 視線を向こうのテーブルからプレシアの方に移して、優牙は思わず素っ頓狂な声をあげた。
 プレシアの持つお盆にはこれでもかというほどの量の様々な料理が積まれていた。
「ぷ、プレシア、食べ過ぎじゃない!?」
「一杯歩いたしまだ歩くから、たくさん食べないとなのだ♪ ちゃんと腹八分目でやめるよー?」
「それで八分目!?」
 プレシアの身長は優牙と同じく120cmほどしかない。どう見てもその食事の量とは釣り合っていない体である。
「……相変わらず何処にそれだけのご飯が入っていくんだろう……」
「良く食べて、良く寝て、良く遊ぶ! うんうん、子供はそれでこそよ!」
「え、もしかして、百薬今日はずっとそのキャラで行くの?」
 優牙の後ろから百薬と望月が二人に話しかける。その手には二人ともホットドックが握られていた。
「あ、こんにちは。ええと……」
「私は餅望月。こっちの変なのは百薬。よろしくね」
 戸惑う優牙に望月が簡単に自己紹介を済ませる。百薬は若干不満そうだが。
「変なのとは失礼ね」
「お婆ちゃんみたいの、でもいいけど?」
「……変なのでいいかな」
「ど、どうもありがとうございます。僕、狼谷優牙、です」
「プレシアだよー!」
 目の前で漫才をする二人に生真面目さを全開にして挨拶を返す優牙。
「それにしても本当に食べるねぇ。結構お金かかったんじゃないの、それ」
「そういえば……ええと、プレシア? あの……財布は……?」
 食事を買いに行くプレシアに財布を預けていた事を思い出し、恐る恐る尋ねる。
「うん、全部使ったのだ!」
「ぜん、全部!?」
 今日は久しぶりの外出で結構入れていたはずだ。それが全部。
「……ドンマイ、少年」
「あ、はは……ありがとうございます……」
 肩を叩く百薬に優牙は力なく答える事しかできなかった。

●ネコ科の饗宴
「チ……結局迷子かよ……」
 午後になってカールと一緒に行動していたはずのレイが舌打ちをして呟く。どうやらいつの間にかカールとはぐれたらしい。
「ま、煩いのもいなくなったし、ゆっくり回るか」
 すぐにそう考えなおして歩き出す。そこでふと目に入ったのはネコ科の動物を集めた猛獣館。
「いいかもな……」
 何となく惹かれるものを感じてその建物の中へ入っていく。
「うわぁー、ふわふわで可愛い……。虎さんとかライオンさんとかのお腹に埋もれてみたい……」
「私、もふもふ、したい……」
「あー。動物に触れるコーナーとか、あるのかナ? あとで探してみよっか」
 そこには虎の親子が寝ころびながらじゃれ合う姿を、ガラスに張り付きながら見学する優牙とニウェウスの姿があった。
「強そうなのだ! 格好いいのだ!」
「もふもふ……」
「もしもしぃ? 脳内シミュ、キめてません? マスタァ~?」
 顔がふにゃあっと緩んだまま戻ってこないニウェウスに、次第に心配になり声を掛けるストゥル。可愛いものが好きなのは知っていたがここまでとは……。
(虎か……確かに雄大でワイルドだが……今日の気分じゃねぇな)
 破顔するする二人には目もくれず次の猛獣の部屋へ向かうレイ。
「フナーゴ!!」
 今度はステップの姿が跳び込んできた。しかも、明らかに普通の状態ではない。
 それこそネコ科の動物のように前屈姿勢で手を地面に付き、今にも跳びかかりそうな体勢だ。
「フーッ……フナーッ!!」
 彼女が向かい合ってるのはまさに彼女の名前にも刻まれ、また彼女の半身でもあるサーバルキャット。ネコ科の中型の猛獣である。
 彼女はサーバルキャット特有のいつでもジャンプできる体勢で威嚇を続けるステップ。
 ガラスの向こうにいる本物のサーバルキャットも縄張りに接近する同族の気配を感じたのか警戒した様子でステップの方を睨み付ける。
 部屋に漂う異様な緊張感。周囲の客も雰囲気に飲まれ思わず息を飲む。
「フナーッ!!」
「お、お客さん、困ります!」
 いよいよお互い跳びかかろうかという所で状況を聞いて駆け込んできた係員がステップの肩を抑える。
「はっ! す、すまん……興奮して我を失っていた」
 係員に捕まれようやくステップが正気を取り戻し、頭を下げて謝る。
「はぁ、何か飽きてきた……」
 その横では最初のテンションの高さはどこへやら。彼女の相棒のスナネコがつまらなさそうに椅子に腰かけている。
(サーバルキャット……惜しいが、少し力強さが足りねぇ)
 ぶつぶつと呟きながら次の部屋へ向かうレイ。騒ぎは全く気に留めていない様子だった。
「……こいつ、か」
 と、次の部屋で動物を目に止め、立ち止まる。
「……黒豹、か。そうだな……疾走感と鋭さを併せて……」
 イミテーションの木の上に佇む黒豹の姿を見て、浮かんだインシピレーションを彼は脳内で組み立て始める。
 それは彼がこの動物園から去る寸前まで続いたのだった。

●ボスの資格
「いやー、最初は顔やにおいを覚えて恐がったりされないか不安だったけど、大丈夫だったねー」
 3時のおやつ代わりのソフトクリームを舐めながら望月がしみじみと言う。
「殺気を消すのは武侠の基本中の基本よ。望月もついにその領域に足を踏み入れたのね」
「いや、百薬も別に武侠じゃないでしょ」
 ほわたぁーとカンフーっぽいポーズを取る百薬に望月が冷めたツッコミとする。
「ふふ、今日の百薬さんは一味違うよ!」
 そう言うと急に百薬が駆けだす。
「ちょ、ちょっと!?」
 望月も慌ててそれを追い、たどり着いたのは猿山だった。
「眼力で誰が本当のボスか決めるよ。武侠なら基本中の基本よ」
 言ってじぃっと山の上に佇む猿とにらみ合いを始める百薬。
 それは武侠の掟じゃなくて野生の掟じゃないかと思わない事もないが、望月は最早ツッコム事は止めた。
「むむー!」
 にらみ合う事おおよそ数分。
「ふっ……」
 いよいよ望月も飽きてきてそろそろツッコもうかと考えていたところで、百薬がニヤリと笑い背を向けた。
「今日のところは引き下がってあげるよ」
「しかも、負けたんかい」
 これには思わず望月もツッコまざるを得なかった。

●その心に触れるモノ
「えへへ~、もふもふでかわいいなぁ」
 白い兎を両手で抱えてピピが幸せそうに微笑む。
 ここはふれあい広場。さまざまな動物と直接触ってふれあえるコーナーだ。
 時は既に夕方。いよいよ歩き疲れた人たちが癒しを求めた大勢集まっていた。
「ん、もふもふ……」
「大丈夫? もふもふしすぎて、IQ融けてない?」
「……もふ」
「あ、これダメな奴だ」
 語彙力が消滅してもふしか言えない生物と化したニウェウスを見てストゥルがため息を吐く。
「うさぎー、聞いたことない種類のネズミー」
「もっと言い方ってもんはないのかね」
 手乗りのネズミを弄りながら楽しむ百薬に苦笑いを浮かべる。まあ、といって望月もこのネズミが何なのか聞かれると困るのだが。
 「うわぁ~、モフモフで可愛いな~。家でも飼いたいな~」
「ニワトリくらいなら買ってもいいぞ」
「その選択って、絶対可愛がるのが目的じゃないでしょ」
 恭也の返事にジト目で返す伊邪那美。
「冗談だ。……家を空けることの多い俺らじゃ生き物を飼うのはやめた方がいいな」
「……そうだね」
「泊りとかも多いしねぇ。……簡単に帰ってこれなくなることも、たまにはあるし」
 恭也の言葉に同意を示す望月。エージェントという職業は安定からほど遠い。
 家族と暮らすエージェントなら融通は利くだろうが、英雄と二人で暮らすエージェントが殆どなのが実情だ。
「やっべー、超カワイイー!」
 女性陣がほんわか動物と触れ合うなかで、ちゃっかり混ざり兎と戯れるカール。
 それほど違和感がないのは彼の人徳がなすところだろうか?
「オレ、もうここに住むー!」
 はぐれたレイの事などすっかり忘れて兎に頬ずりをしている。
 とはいえ、レイもカールの事など忘れて作曲しているのでお互い様なのだが。
「おっと、なんだ。いっぱいいるな」
「大盛況ですね。ここはなんですか?」
「ふれあい広場、動物と触って遊べるところだよ。ここでちょっと待ってて、千」
「はい、主」
 ふれあい広場に入ってきた槻右がその隣の土産物売り場の建物に入っていく。
「お、隣は土産屋か。なんか買うか、ピピ」
「うん! ナマケモノのぬいぐるみほしい!」
「お前、よっぽど気に入ったんだな……」
 槻右に釣られて何人かが土産物売り場へと入っていく。
 そして、それと入れ替わりに戻ってきた槻右が抱えていたのは大きなキリンのぬいぐるみ。
「わ、凄い!」
 それを見て千が目を輝かせる。高さで言えば千と同じくらいの大きさがある。相当値の張るものだろう。
「はい、これ、今日のしりとりの達成記念の賞品」
「よ、よいのですか……?」
 恐る恐る壊れモノを触るかのように手を伸ばす千。掴むとふわっと柔らかい感触が彼女の手に伝わった。
「今日の日の思い出に。何時までも忘れないようにね」
「はい……。私は決して……決して忘れません、主!」
 普段のクールさなど欠片も感じさせぬ年相応の笑顔を見せる。
「今度、また来ようね」
「はい、その時は兄も……!」
 にこりと笑って槻右は千の頭を軽く撫でる。
 彼女にもっともっと楽しい事を覚えてもらおうと胸に決意しながら……。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    セラaa0996hero001
    英雄|10才|女性|ソフィ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 分かち合う幸せ
    隠鬼 千aa1163hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • エージェント
    ステップ・サーバルaa4986
    獣人|24才|女性|攻撃
  • エージェント
    スナネコaa4986hero002
    英雄|15才|女性|シャド
  • エージェント
    木槌綾香aa5073
    人間|24才|女性|生命
  • エージェント
    ウェンディaa5073hero001
    英雄|16才|女性|シャド
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