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嫉妬戦士ルサンチマン
最終発言2017/03/21 11:25:08 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/21 11:23:16
オープニング
●俺たちぁ、世紀末系非リア充!!
『ここ、白ヶ丘スクエアではホワイトデーまでの間、イルミネーション企画が行われ──』
「アアアッ! 糞、なにがホワイトデーだ! どいつもこいつも浮かれやがって!」
ゴチャゴチャとしたアパートの一室、部屋着のモヒカン男がテレビのホワイトデー特集を観て、ちゃぶ台にヘッドバッドをかましていた。
哀哭するその姿は恋人のいない、いわゆる非リア充特有の負の想念が漏れ出ている。
と、そこに、
「大変だゼ、ブラザー!」
玄関の扉を開けて、モヒカン男(その2)が現れた。
「どうした? 騒々しいぞ兄弟」
「それがダナ! ……おっとホワイトデー特集カ。ちょうど良い、きっと放送するゾ」
やって来たモヒカン(その2)に促されてモヒカン(その1)がテレビを観ると──
『イルミネーション広場のそばには異界接続点から噴き出した幻想的な白い花の小山が出来ており、恋人たちはこちらで集めた花で花束を作って送り合うようです』
「んなんてこったいッ!?」
悲鳴をあげて倒れ伏し、悶え苦しむモヒカン(その1)
「糞ぅッ!! 異界まで俺たち非リアを見捨てて、恋人たちの味方につくというのか!!」
「アアそうダ、ブラザー。天はオレたちを見放したんだ。──こうなったらもうやるしかねぇダロ」
倒れたモヒカン(その1)に(その2)が手を差し伸べる。
その手を固く握ると、モヒカン(その1)はちゃぶ台に転がっていた蝶のような形の宝石に声をかけた。
「お前たちもやってくれるか!?」
『当たり前だろ、ソウルメイト。お前たちの苦しみは我らの苦しみだ!』
宝石の中から力強い声が帰ってくる。それは英雄の声。そう彼らは、リンカーだったのである。それも──、
「行くぞ、我が兄弟! 凶悪ヴィラン、センチュリーよ!」
「オウともヨ、ブラザー! 凶悪ヴィラン、ターン!」
なんと、悪辣なヴィランだったのである。モヒカン(その1)改めターンと、モヒカン(その2)改めセンチュリーは、英雄とリンクして服装をトゲの生えたレザーファッションという、なんというか、凄く世紀末な姿に変えた。
そして、サングラスをかけると共に、名乗りをあげる。
「「二人揃って、極悪凶悪劣悪害悪ヴィランズ『ターン・オブ・ザ・センチュリー』!! リア充共に殲滅の火を!!」」
●恋人の有無と、それぞれの役割
あと少しでホワイトデーという日のことだ。
「ええ、と……、皆さん。異界から各地に降り注いだ白い花はご存知ですか?」
ズレた眼鏡を直しながらH.O.P.E.職員の女性は集まった君たちエージェントに言った。
「この花は特に害があるわけではないものの、場所によってはものすごい量の花びらが積もっている場所もあり、エージェントが対処に駆り出されています。まあ、それだけなら良いのですが……」
女性職員はなんとも苦々しい顔をする。
「ここに、残念ながら、というか、残念なヴィランが絡んできました。自称、極悪凶悪劣悪害悪ヴィランズ『ターン・オブ・ザ・センチュリー』。実態は悪質なイタズラや万引きを繰り返すコンビの軽犯罪ヴィランなのですが、彼らがその白い花が積もった小山を一か所占拠しているのです」
呆れたようにため息をつきながら、彼女は君たちに地図を見せる。
「場所はここ。白ヶ丘スクエアという大きな公園の中にある広場のそばです。現在、白ヶ丘スクエアではバレンタインデーに結ばれた恋人を対象に『クリスマスまで待てない! ホワイトイルミネーション!!』という企画が行われておりまして……。」
女性職員は、私も行く相手がいたらな、と呟いたが、君たちは聞かなかったことにして説明を待つ。
「このイルミネーション企画の運営が、偶然、そばに積もった白い花の小山を見て、そこで集めた花束を贈り合おうという宣伝を開始したのです。非リア充の『ターン・オブ・ザ・センチュリー』はそのイベントを潰すために現れたわけです」
なんて迷惑なヴィランだろうと、誰かがこぼす。
「皆さまの任務は、その『ターン・オブ・ザ・センチュリー』を撃破して逮捕することです。所詮は軽犯罪しかしていないヴィランなので、日夜、愚神や従魔と闘っているエージェントの皆さんに比べればはるかに弱いので撃破自体は簡単でしょう」
ただ、と女性職員は少し困った顔をした。
「いくつか問題が。まず一つ。彼らは花の小山の周囲に戦争要塞クラスのトラップを仕掛けており、その突破は手練れのエージェントでも困難です」
では、どうすれば良いか?
「打つべき手は一つ。皆さんがイチャイチャオーラを振りまくことで、彼らを挑発しトラップの外、広場の方におびき出すのです。そちらの人払いは手配しております」
え、えー……、となんとも言えない空気が流れる。だが、女性職員は本気だ。
「そしてもう一つ問題が。『ターン・オブ・ザ・センチュリー』はどうやらリア充憎しの感情で異常に戦意が高まっているようなのです。そのため説得をして彼らの心をほどく必要があります」
『ターン・オブ・ザ・センチュリー』は戦意が欠けない限り、肉体の限界を超えて立ち上がり続けるだろう。リア充を憎んでも仕方がない! とか、恋愛以外にも楽しいことがあるよ! とか、闘いながら言葉をかけてやらなければならない。
「おびき出せるのがリア充の方の役割なら、こちらは非リア……、もとい、恋愛と縁の薄い方の出番でしょう」
究極、倒し続ければいつかは立ち上がらなくなるだろうが、『ターン・オブ・ザ・センチュリー』は一応、普段は軽犯罪しかしていないヴィランなので、必要以上に重傷にしてしまうのも望ましくない。
「なんだかふざけたようなヴィランたちですが、彼らの残念な行いで恋人たちの甘い時間が邪魔されてしまうのは、悲しいことです。ホワイトデーまでに花の山を解放してください」
そう言って、女性職員は君たちを送り出した。
解説
◯目標 『ターン・オブ・ザ・センチュリー』の逮捕
◯敵情報
・『ターン・オブ・ザ・センチュリー』ターン&センチュリー
恋人いない歴、数えるのもやめちまったよ……年の非リア充ヴィランコンビ
ターンが釘バットを使うドレットノート、センチュリーが火炎放射器を使うシャドウルーカー
武器はAGWを無理矢理世紀末デザインに改造したロマン仕様(弱い)
現在は占拠した白い花の小山で、花をかけあって遊んでいる
◯戦場
・白ヶ丘スクエア
バレンタインで誕生したカップルに、約10ヶ月早くクリスマス感を楽しんでもらうためのイルミネーション企画をやっている
そばには敵が占拠している白い花の小山(小さめの一軒家くらい)が存在する
クリスマス風のイルミネーション、出店、お土産屋がある
日時はホワイトデー数日前
◯状況
敵が占拠した小山は罠が張ってあり、とても危険
そのため、広場の方におびき寄せる必要がある。
リア充がイチャついていれば、「あいつら、ぶっ飛ばしてやる!!」と勝手にやってくるだろう
また、敵はリア充憎しの戦意で、倒しても倒しても立ち上がる
(判定的には、戦闘不能判定時にの1D10で必ず立ち上がれる値が出る+その時に微回復)
闘いつつ、彼らの戦意を削ぐような説得が必要だろう
なお、おびき出しでイチャついたリア充の言葉は絶対に届かないので注意
※注意事項
この依頼は、
リア充参加:おびき寄せ目的イチャイチャパート
非リア充参加:説得戦闘パート
に分かれます。
どちらに参加するか選んでプレイングに書いてください。
選ばなかったパートではオマケ程度の出番になります。
リア充or非リア充は演技でも可。
一人で依頼に入ったリア充の方は、お土産屋で恋人にプレゼントでも買おうかな……、とかすればイチャついた扱いになります。
また、こんなイルミ・食べ物・お土産があったらな、というものは(常識的な範囲なら)プレイングに書けば広場に存在することになります。
リプレイ
●花と戯れるモヒカンをおびき出せ
「相手は凶悪なヴィランだそうっすから、気を引き締めて……、凶、悪……?」
白ヶ丘スクエアの出店の影から九重 陸(aa0422)が双眼鏡で白い花の小山を窺う。
『アッハハハハハハハ、そ~れ!』
『オイ、ターンやめろヨ! ハハッァ!』
そこでは事前情報の通りに二人のモヒカン、ヴィランコンビ『ターン・オブ・ザ・センチュリー』が花をかけあって遊んでいた。
「わーい、俺も混ぜてー」
「ダメっすよ、アイさん」
それを見た(HN)井合 アイ(aa0422hero002)がモヒカンたちに混ざりに行こうとするので、陸は彼を押しとどめる。
自由か。
「うわぁ……、彼らがモテない理由が良く判るね」
「こいつ等は自分で自分の首を絞めているのに気が付いてないのか?」
本人たちは楽しそうだが傍から見たら惨憺たる光景に、伊邪那美(aa0127hero001)と御神 恭也(aa0127)も呆れた様子だ。
「それにしても、仕掛けているトラップだけは凄まじいですね~」
しかし、戦闘狂の気がある黄泉(aa4226hero001)が注目するように、周囲の罠だけは戦争レベルである。熱意がおかしい方向に行っている感が強い。
「仰々しい割にはやることがチャチだけどねぇ。若い娘どもがあいつらの背中にときめかないわけだよ。──さて、じゃあまずは囮組に任せるとしようか」
とはいえ、エージェントたちにも策はある。広場の方にいる英雄と能力者の二組に飛龍アリサ(aa4226)が合図を送ると、一行はひとまず広場から離れることにした。
(お願いします。御屋形様、月夜殿)
ちらりと広場にいる大切な人たちの方を振り返りつつも、三木 弥生(aa4687)もその後についていく。
●これよりこの地はリア充空間と化す
イルミ―ションきらめく広場には男女が二組だけ。一般人は避難済みだ。
モヒカン共をリア充オーラで挑発しておびき寄せるために、さあ、これで存分にイチャつけるぜ! という状況なのだが……
「イチャイチャは飽くまでも振りだからな、振り!」
初っ端から照れを隠しきれない東江 刀護(aa3503)。顔を赤くして言う彼を見て、双樹 辰美(aa3503hero001)は可愛らしいな思い、微笑む。
「わかりました。それで、どこを回りましょうか?」
「そうだな……」
武の道に生きる刀護にはリア充の振る舞いは良く分からない。とはいえタチの悪いヴィラン共は懲らしめてやるには、行動を起こさないとならないだろう。
「まずはイルミネーションでも見に行くか」
「はい。では、行きましょう」
不慣れな行為ではあるが、なんくるないさーの精神だと、刀護たちは動き出す。
「え、演技で恋人の振りをする……だけだよな?」
「そ、そうだよ一真……! え、えんぎだから、おしばいだから……はぁ」
「じゃ、じゃあ、……イルミネーションでも見に行くか?」
「う、うん!」
一方、ひそひそ声で会話する、弥生の言うところの御屋形様こと沖 一真(aa3591)と月夜(aa3591hero001)の二人。こちらもカップルというにはぎこちなく、演技にしてもたどたどしい。
月夜は、あくまで振りと確認されると引っかかるものがあるようである。
そんな彼女の複雑な心境に気付かず、一真はカバンの中の包みを確認していた。
渡したい物が、告げたい言葉が、彼にはあった。
二人は刀護たちとは別の方向のイルミネーションを見に向かった。
『クリスマスまで待てない! ホワイトイルミネーション!!』というだけあって、イルミネーションは赤や緑の輝きで、平凡な木々をモミの木のツリーのように飾り立てていた。電飾によって描かれたハートやプレゼント箱、まだ占拠される前に取って来たと思しき白い花が広場を華やかにしている。
刀護と辰美はベンチに座ってそのきらびやかな光景を眺めている。
「綺麗ですね……」
ついつい見惚れてしまう辰美。刀護はその彼女の様子を横目で窺う。普段なら普通に話せる辰美が相手でも、こんな状況では少しばかりドギマギしてしまう。
(恋人の振りを、か)
そっと腰を上げて拳一つ分の距離、辰美に近づき寄り添う。
「そのように控えめでは演技だとバレてしまいます」
「もう少しくっつけと? そ、それは……」
おびき出し作戦が失敗してしまうかもと言われてしまうと照れくさくても拒否はできず、さらに辰美に寄ることになる。
互いの距離は、肩と肩が触れ合うほどになった。
「つ、次は出店に行くぞ! ついてこい!」
しばらくそうしていたが、気恥ずかしさが限界に達した刀護が立ち上がり、出店の方に向かって行った。
辰美は少しばかり残念そうに、その後についていく。
「きゃー、だだだーりーん! お花がとってもきれーねー!!」
本物の白い花と花弁型の白いイルミネーションが飾られているコーナーで、月夜が浮ついた声をあげる。
その手は一真の手をわずかに握っていた。
「あははー! お前のほうがきれーだぞー」
一真の方はもう分かりやすくザ・棒読みだ。
「も、もー、だだだーりんてばーやだー」
堅い笑顔に汗だくで、あははうふふな空気をまき散らしてる様からは、二人の精一杯が感じられる。
しかし、その無理矢理なテンションも長くは続かず、次第になんでこんなことをしているんだっけという気持ちが強くなる。
ふっ、と一真が月夜から手を離した。
「だー……もう、これじゃ怪しすぎてイチャついてる様に見えねぇ……だから」
「だから?」
急に真面目な顔をする一真に、月夜はどうしたのかとポカンとして聞き返す。
一真は問いに答える前にカバンからラッピング包装を取り出し、その中から白い花飾りの散りばめられた純白のストールを出した。
決して引き裂かれることはない二人の絆を象徴する一品。
それを、月夜の首に優しく巻く。
そして、真摯な目線を月夜に向けた。
出店には辰美が好きなスイーツの屋台が何軒も出店していた。
ちなみに、戦場になる可能性を考慮して、店員はH.O.P.E.職員が代役を務めている。
「何が食いたいんだ?」
「歩きながら食べるとしたらクレープですね」
二人分を購入。
「二つ買ったが、俺は食わん。こういう洒落たものを食うのは……。二つ食べられるか?」
「刀護さん、恥ずかしがっていてはリア充だと思われませんよ。食べてください」
「あ、ああ…」
そう辰美に押されてしまうと、刀護はやはり断れなくなってしまう。
(完全に辰美にリードされているな俺……)
これで良いのかという思いを抱きつつ、食べ慣れないチョコバナナクレープにかぶりつく。
(ふむ、なかなかに美味いな。それに──)
隣で美味しそうにイチゴクレープを食べている辰美の笑顔を見ると、まあ、たまにはこういうのも悪くないかと思えてくるものだ。
「どうしました? 刀護さん?」
「いや、なんでもない。他の屋台も見に行こう」
作戦通りに行けばそろそろヴィラン共がやってくるだろう。
だけどそれまでは。
わずかな時を楽しもうと、刀護は辰美を連れて屋台を巡ることにした。
「本当はこんな残念な状況でやりたくねぇんだが……ホワイトデーだろ、今日。だからこれをお前に。これからも、俺と一緒に……いや、違う。そうじゃない。俺はお前が好きだ。だから、能力者と英雄としてではなく、男と女として……俺と付き合って貰えないか?」
一真は、告げた。
「……これ、演技じゃないんだよね?」
いきなりの告白に月夜は頬を赤く染め、確認してしまう。
「演技でこんなことはしないさ……というか、お前が好きだって気持ちに演技も偽りもない」
真っ直ぐな一真の言葉が、月夜の胸を打つ。
「一真っ、月夜も──」
答えを、想いを伝えようと月夜は口を開き──、
──その瞬間、奴らは来た。
「「ヒャッハ~! リア充は消毒だ~~ッ!!」」
劫火が広場を包んだ。
●激突! 『ターン・オブ・ザ・センチュリー』
花の小山から出撃してきたセンチュリーが火炎放射器から炎を吐き、一真と月夜を呑み込んだ。
「見せつけてくれてんじゃねーゼ! リア充共ガァ!」
「お前らみたいな甘酸っぱいたどたどしさを見せる奴らが、いっちゃんムカつくんだよ~~ッ!」
さらに木の上から飛んできたターンが炎の中の人影めがけて釘バットを叩きつける。
しかし、ターンの手に返って来たのは頭蓋を叩いた感触ではなく、雪のような柔らかさだった。
「大丈夫ですか!? 御屋形様! 月夜殿!」
「ああ、弥生のおかげで」
釘バットを止めたのは共鳴により骸骨鎧武者の姿になった弥生の大盾だった。
その後ろの一真たちも共鳴を済ましており、今は白髪に白い狩衣姿になっている。火炎に巻き込まれる直前にその姿になれたようで、ダメージは受けているが致命傷ではない。
「大丈夫かい!」
アリサを先頭に待機していたエージェントたちが共鳴状態で駆けつける。遅れて刀護と辰美もやってきた。
「狙い通り、おびき寄せられたぜ!」
陸はト音記号のブローチについた幻想蝶から武器のバイオリンを取り出し、構える。ここからは自分たちの出番だ、と。
『ユルサナイ』
が、その前に一真が立つ。鬼女の如き迫力を持つ言葉が月夜の声で放たれた。
『タチサレ』
「「ヒィィイィィィイィイィイイ!!」」
告白を邪魔された怒りが込もった言葉はヴィランたちをガクガク震え上がらせる。だが、奇襲のダメージが響いているのか、洗脳の力はなかった。
「こいつらを倒すのは仲間に任せよう」
刀護が一真の肩を叩き、冷静さを取り戻させる。おびき寄せで活躍した二組はひとまず身を引くことにした。
「な、なんだよ、ビ、ビビらせやがって……」
「チッ、どうやらオレたちは誘い出されちまったようだゼ、ブラザー。こりゃやるしかねぇナ」
状況を理解した(その程度の頭はあるようだ)ターンとセンチュリーも武器を構え直す。
「闘いは、避けられないようだな」
分厚い大剣を手に恭也が先陣を切る。ターンはそれを釘バットで受け止めたが、剣の重さと恭也の膂力に負けて吹き飛ばされる。
陸が古くから愛用しているヴァイオリンを奏でれば、味方にライヴスの結界がかけられた。
「ヘヘッ、分かってるんだゼ、オマエらヨォ……」
アリサと弥生に向き合ったセンチュリーは下卑た笑みを浮かべながら、エージェントたちに言う。
「オマエらは、オレたちを誘い出すためにイチャついていなかっタ。つまり、オマエらは、オレたちと同じ、寂しい非リア充なんだロォ!?」
非リア充どうこうではなく、モヒカン共に同類扱いされたことに一同はイラッ、とする。
「御屋形様を、月夜殿を御守りするのは……私の務め故。……ですから……寂しくなんてありません」
反発したのは、獲物を盾から黒い刀身の刀に持ち替えた弥生だった。
「ンン~~、本当カ~? お嬢ちゃん、であってるヨナ? 鎧の中は。キミからは報われない人間の匂いがするゾ~~、さては嬢ちゃん、さっきの二人を──、って、ゲバァ!?」
ねちっこく弥生を挑発してくるセンチュリーだったが、その身をアリサの放ったライヴスの気弾が吹き飛ばした。気絶させると言葉が伝わらなくなってしまうので、やや手加減しての一撃である。
アリサは弥生に行ってくると良い、と目線をやった。
「私には好きな人がいます。私は御屋形様が大好きです。……ですが、月夜殿ももっと大好きです! お二人の事がとても大切です……ですが私がお二人の間に入ることは出来ません……」
向かってくる弥生に対して、センチュリーは分身を作り、クロスファイアのように火炎を放つ。弥生は炎に呑まれるが、それを強引に突破して刀を振るう。
「でも……それでも……たとえ報われないとしても私は! お二人を! これからも! ずっと! 御守りすると誓っているのです!!」
気迫の斬撃がセンチュリーを翻弄する。
「兄弟!?」
相棒の身を守るため、攻め入る弥生を止めようとターンの釘バットが唸る。
「危ない!」
陸は身を盾にすることでそれを防ぎ、隙のできたターンに恭也の竜殺しの大剣が喰らいついた。
仲間が作ってくれた道を駆け、弥生はセンチュリーに斬り込んだ。
「それが……家臣として……三木家当主としての誇りで御座います故ぇ!!!」
想いのこもった強烈な一撃がセンチュリーの身を裂く。彼はそのダメージに仰向けに倒れた。
「フッ!」
続けて、アリサがツインセイバーにさらにライヴスを纏わせた一撃でターンを沈めた。
やはり、所詮は軽犯罪レベルのヴィラン。闘い慣れたエージェントが複数でかかれば倒すのは難しくない。だが、問題はこれからだ。
「お嬢ちゃんの心意気にはグッとくるものがあったガ」
「俺たちは退かないぜ。せめて、リア充に一矢報いるまではなァ……」
立ち上がる。
傷も無視して執念のままに、ターンとセンチュリーは再び武器を手に取った。
「待て、少し話し合おう」
しかし、そこで機先を制すように、恭也が共鳴を解いて英雄と分離した。続けて、陸も同じように共鳴状態をやめる。
「俺はさ、エージェントとかヴィランズとかどうでも良いんだ」
突然の戦闘状態解除にモヒカン共が面食らっていると、陸から別れたアイが近づいていった。
「リア充と非リア充、菌糸型チョコ菓子派と竹の若芽型チョコ菓子派。争いはそれだけでいい。そうだろ? おんなじ非リア充としてはさー、要らん罪を重ねてほしくはないワケよ」
「おっ、おう」
親しげに語りかけてくるアイに、モヒカン共もどうして良いか分からないようだ。
「俺も向こうの世界にいた頃はさ……、恋人なんて出来た試しがなかった。友達も、なんなら家族も知らなかった」
アイはこの世界に来る前のことを語り始める。
「十八になって施設を追い出されてからは、家に帰っても迎えてくれる人はいない。風邪なんか引いた日には、日がな一日寝っころがって部屋のシミを数えるばかり。ずっと、そういう生活さ」
「アイさん……」
自分が誓約した英雄の、けして幸福とは言えない生い立ちに、陸は彼の名を呼んでしまう。
「ああ、でも俺には神秘の世界があったか。伸縮する異星人や、未開の地のシャーマン……他にもまだまだいっぱいあってさ、どれも凄いんだぜ」
「アイさん……」
趣味のオカルトについて滔々と喋るアイ。そのバイザーの下からは──、
「泣いてないし!」
「でもそれ……」
「これは汗だし!」
「お袋、いつでもウチに来ていいって言ってたっすから……」
陸がアイを慰めつつ、モヒカン共の方を窺うと──、
「「泣いてないし!」」
「お前らもかよ!」
なぜか彼らも号泣していた。
「なんて悲しい過去を持つ男なんだ。その孤独、他人事とは思えねぇ……」
「だが、駄目ダ。オレたちゃ二人で『ターン・オブ・ザ・センチュリー』。今さら仲間は増やせネェ……」
おっと和解か? と思ったのもつかの間、センチュリーが火炎放射器を向け直す。
が、そこで、恭也と伊邪那美がずっと思っていた疑問を口にした。
「……お前らは同性愛者じゃないよな? 楽しそうに白い花の小山で、互いに花をかけあって遊んでいる姿を見ると如何にもな……」
「大丈夫だよ! 今の時代は同性愛者にも優しいらしいから堂々と付き合っても平気だから」
「同姓愛者じゃあないよォッ!」
やぶれかぶれにターンがバットを振り回しながら突っ込んできた。
共鳴を解いている恭也と陸にはこんな攻撃でも十分な脅威だ。危ない! と思った瞬間──、
「お仕置き」
「ブハッ!?」
黄泉が余計なことを言わないようにと共鳴を解除していなかったアリサの放った気弾が爆発し、そばのセンチュリーごとターンを吹き飛ばした。
アリサはドSい笑みを浮かべながら、ピクピクと痙攣する二人に近寄る。
「君らはモテ至上主義の社会に一泡吹かせたくてこんな乱痴気騒ぎを起こしたのだろう? それだけの野心は賞賛に値するが、社会を変えるにはあまりにもお粗末すぎたようだねぇ」
アリサは、社会の変革は半分はルサンチマンによってもたらされてきたと言っても過言ではない、と考える。
現状、このモヒカン二人には社会の変革者たる器は感じないが、自分が方向づけすれば彼らを人生の落ちこぼれからイノベーターに昇華させることができるかもしれない。
楽しい心理実験タイムである。
「いいこと教えてやろうか? そんなにモテ至上主義に抗いたいのなら、敢えて『モテようとしない』自分を貫き通したらどうだい?」
囁くようにして二人の心を弄り回す。
「上手くいけば『モテようとしない男』が一種のトレンドになるかもしれんよ」
「そうしたら、お姉様はカッコいいと思ってくれますか!?」
突然、ターンは起き上がりアリサの目を見て叫んだ。なぜかアリサをお姉様呼びである。
「……ミーハーな馬鹿女の二人や三人は釣れると思うよ」
「ちくしょうッ!」
ターンはそのまま撃沈した。
「よくも、ブラザーを! クソッ!! ていうか、やっぱりオレらはモテないままなんだな! クソ、クソ、クソッ!!」
火炎放射器を振り回しながら、残されたセンチュリーが喚く。
その様からは、もはや彼ら止められる者はいないかと思われたが。
「そんなことないよ」
そこで、伊邪那美が前に出た。
「あれだけ凄い罠を作れるなら何か物作りに打ち込んでみたら? 何かに一生懸命に打ち込んでる姿って素敵に感じるよ」
幼い彼女の純粋な言葉を聞いて、センチュリーの手が止まる。
「ふむ……。職人等はモテると聞いた事があるな。まあ、職人までは行かなくともDIYが趣味や特技だと言えば女子への良いアピール材料になるんじゃ無いのか?」
恭也も励ますように提案をする。
いつの間にか、センチュリーは彼らの言葉に聞き入っていた。
「あっ、でもキミ達がやった事は逆効果だと思うよ?」
「まあ、人の邪魔をして喜ぶ輩よりは人の為に手助けする者の方が好感は持たれるだろうな」
「不良が仔犬を助けると見かけた人が見直して好きになるみたいな」
「ここで性根を入れ替えて善行を積めば誰かが好意を寄せてくれるかも知れんぞ……、ってどうした?」
ガシャン、とセンチュリーは火炎放射器を取り落とした。
その瞳には大粒の涙が溜まっていた。
唐突な涙に、弥生や陸もどうしたどうしたと慌てる。
「そう、カ……。オレたちは……」
「ただ、誰かに認めてもらいたかったのかもしれないな」
むくり、と立ち上がったターンも涙を流している。
いきなり泣き出したモヒカン共に伊邪那美はポカンとする。だが、きっと彼らの心を打ったのは彼女の言葉だったのだろう。
自分たちの技術を評価してくれた。自分たちを認めてくれた(言った本人にどこまでその気があったかはともかく)。
それが彼らの救いになったのだろう。
「だが、もう俺たちはもう止まれないんだ……」
しかし、彼らは手製の改造武器を掴み、再び臨戦態勢に入った。エージェントたちも警戒し、再び、共鳴状態になる。しかし──、
「だから、オマエらが終わらせてクレ」
どうやら、観念したようだった。
これは、自分じゃ止まれない馬鹿な男たちの最後の頼み。
「俺がやろう」
良く分からないが、どうやら自分たちの言葉が決定打になったらしい、ならば自分がと恭也が大剣を構える。
「あっ、俺はお姉様にやってほしいです」
「三木、お願いして良い?」
「はい、分かりました!」
「ちくしょう!」
ターンのお願いをすげなく断り、弥生にふるアリサ。気に入らない相手には冷淡である。研究第一なだけでかつて夫がいたことを思えば彼女にも恋愛感情はあるのだろうが、世紀末モヒカンはお眼鏡にかなわなかったらしい。
「それじゃあ!」
「行くゾ!」
「ああ」
「お縄に頂戴致します……御免!」
気合の言葉共に、大剣と火炎放射器が、黒刀と釘バットが激突し、直後、ヴィランたちの願いは聞き届けられた。
●デートと闘いの後で
護送車に乗せられるヴィランの姿を見ながら、恭也は伊邪那美に訊いてみた。
「しかし……それ程までにモテたい物なのか?」
「相変わらず枯れた発言だね……」
分からない者には、分からない感覚である。
「……あの、さ。良かったら、その……俺も、あんた達の友達に、加えてほしいかな、なんて」
別れの間際、同じ非リアを称した者としてとしてアイはモヒカン共にそう言った。
「「ああ、もちろんだぜ!」」
それはきっと、彼らの更生の支えになるだろう。
白い花の小山のそばには、刀護組、アリサ組、弥生がいた。
「花の山が解放されたら、一緒に行こうか」
「はい、お供します」
今はまだ物々しいトラップだらけだが、それらが片付いたらと、刀護は辰美を誘った。
アリサは黄泉を引き連れて、トラップ圏の外に零れた白い花を研究サンプルとして回収している。
弥生は罠師の力でトラップを解除している。と、そこに──。
「御屋形様! 月夜殿! ご無事でしたか!?」
一真と月夜がやってきた。
月夜の首元には美しい絹のスカーフ。
中断された告白への返事の続きは、二人だけの秘密である──。