本部

【白花】連動シナリオ

【白花】サファリパークで全力疾走花集め

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/04/03 19:16

掲示板

オープニング

●白い花降るホワイトデー
 春はもうすぐ……とは言え、三月はまだ寒い場所も多い。
 バレンタイン・ホワイトデーに力を入れる日本でも場所によってはまだ雪が降る。
 こんな肌寒い季節に恋愛絡みのイベントが盛り上がるのも、寒さを理由に身を寄せ合って甘いひとときを過ごしやすいからかもしれない。
 そんな三月に異界から現世界へと白い花が大量に降り注いだ。
 初めは雪かと思った者も居たろう。
 空から降り注ぐ白い花たちはとても美しくロマンチックなものだった。

 とはいえ、アフリカ、例えばナイロビは三月でも最低気温十三度~二十五度くらいある。

 アフリカ各地に雪が降った! そんな話がインターネットで流れたのはいつのことか。
 よくよく読めば、それは大量の異界の花を雪に例えたロマンチックなニュースであった。
 ロマンチックとは言え、そして広大な大地とは言え、更に無害とは言え、アフリカでも、まあそれなりに白い花の回収は進んでいた。
 でもやはり、中々回収しづらい場所というのはあるわけで。



●サファリパークを楽しもう!
 アフリカ某所に金持ちが半ば道楽で建てた宿泊施設があった。
 小さなオアシスを見下ろす、少し小高いところにあるロッジ。その傍には小さな私設サファリパークが広がる。
 サファリパークと言っても、建物側に居住地域との境を示す柵があるくらいで、後は他東西・幅十キロ程度をなんとなく「うちのサファリパーク」と称しているだけに過ぎない。しかし、『ビッグ5』と呼ばれる大型動物(ライオン、アフリカゾウ、バッファロー、ヒョウ、サイ)を見ることができたため、そこではロッジに泊まった客に四輪駆動車などに乗って野生生物の観察をする「ゲームドライブ」などのサービスを提供していた。
 そこに、件の白い花が降り注いだ。


 うちの近隣に降り注いだ白い花の撤去作業が進まない、そんな切実な訴えを受けて、H.O.P.E.から派遣されたエージェントたちは、あちこちこんもりと白い花の山が出来ているアフリカの大地を望む。
 目の前の小さなオアシスは白い花が睡蓮のように浮いていて美しい。
「……で、灰墨さんがいる、ということは、そういうことですよね」
 ミュシャ・ラインハルト(az0004)は冷めた目でスーツ姿の灰墨信義(az0055)を見た。
 信義はミュシャの視線を食えない笑みで流した。
「まあ、そういうことってどういうことは私には判断つかないけどね、────まあ、そういうことかな」
 信義は主にオーパーツを追っているリンカーだ。
 つまり、彼がここに居るということは、この大地にオーパーツが……厄介なトラブルが待っているということにほかならない。
「今度はどんなオーパーツなんですか」
 とげとげしくミュシャが聞くと、信義はエージェントを見回してにこやかに説明を始めた。



●オーパーツ”喜劇王”
 それは、長らく存在を噂されるだけのアイテムだった。
 能力もほとんど分かっておらず、ただ、”喜劇王”と呼ばれていた。
 わかっていることは『場を喜劇のような不思議な空間にする』『萎れた白い花の姿をしている』それだけだった。
 強力でも実用的でもなく、知的好奇心を刺激される要素も薄いアイテムであった為、セラエノも信義の所属するパラダイム・クロウ社も力を入れて探してはいなかった。
 だが────それを、見つけたヴィランがいた。
 ヴィランは”喜劇王”を『なにやら不思議なオーパーツ』として盗み出し、ヘリで逃げる途中に空から降って来た白い花に視界を遮られ、この付近に墜落してしまったのだった。


「ヴィランとは言え、リンカーだからな。大した怪我もなくそちらは問題なく警察に逮捕された。
 問題は”喜劇王”だ。この付近に落ちたのはわかるんだが、白い花がこうたくさんあってはね」
「オーパーツ絡みなら何がなんでも回収するはずだ」
 ミュシャのツッコミに信義が初めて苦笑いを浮かべた。
「落ちた”喜劇王”はどうやら暴走してしまったらしく、この一帯は”喜劇王”の能力に支配されている」
「むしろ、動物たちが、と言えばいかしら?」
 信義の英雄であり妻のライラ・セイデリア(az0055hero001)がどこか楽しそうに言った。
「強いわ、ここの動物たち。一匹一匹がデクリオ級グライヴァー並みの強さがあるの」
 ミュシャの顔が強張り、それを見て、ライラは微笑み、信義は顔をしかめた。
「そんなカオをしなくても大丈夫よ? ここの動物たちは攻撃してこないの。いえ、敵意はあるし、襲ってはくるんだけど」
 はあ、と信義はため息をつく。
「あいつらは、ぶつかってきて、ぶつかった者はカートゥーン映画のキャラクターのように大空にはね飛ばされる」
 ライラは続けた。
「それから……ふふっ、ズボンのお尻を破られるわ」
「絶っ対、嫌」

 こうして、ミュシャを含めたエージェントたちは、デクリオ級愚神並みの動物たちからダッシュで逃げながら花の回収を行うことになったのだった。

解説

目的:花の回収
動物からダッシュで逃げながらできる限りの花を回収する
ステージ:広大なアフリカの大地(オアシス、草原、まばらの木々)
時間帯は午前9時くらいから

●主な敵(?)
オーパーツにより喜劇の力を一時的に得た動物たち(ビック5以外にシマウマやカバ、ワニなど)
サファリパークの中でのみデクリオ級愚神相当のステータスを一時的に持っており、エージェントたちには敵意しかない。
ただし、動物の行動は下記の通りである。
・ズボン(スカート)を破る(下着は破れない)
・大空にはね飛ばす(距離三キロ分くらい)
どちらもオーパーツの力で深刻な肉体的ダメージは受けない(微細なダメージは受ける可能性はある)
エージェントは害意を持って動物を傷つけてはいけない(攻撃を防ぐ行為は禁止しない)
希望すれば、ブルマーの貸与あり(ブルマは何故か破けない)


●オーパーツ『喜劇王』(暴走中)
萎れた白い花の形をした造花。『喜劇王』の名は俗称であり、
設定した範囲に喜劇のような不思議な空間を作り出すものとしかわかっていなかった。
現在わかっていること
・暴走中
・広大なサファリ中の動物に影響を与えている(主な敵項目参照)
・サファリの白い花のどれかに紛れている
放っておいても信義が回収する。


●白い花
花も桜からバラのような多重のものまで様々で、花びらだけのものや茎付まで色々な形で落ちている。
平均的なサイズは一般的に流通するバラ位であり、どれもがくや茎も含めて「全てが真っ白」である。
清らかで良い香りを放ち、不思議と枯れたり萎れたりはしない。そして、実や種はなく繁殖もしない。
食べても特に味はしないし害も無い。
ごく微量のライヴス反応はあるが少な過ぎるので兵器や術式に使用することはできない。
持ち帰りは可。

リプレイ


●わくわくサファリ
 青空の下に果てしなく広がるサバンナ。黄緑色の雑草や自由に伸びた低木。
 そして、あちこちにこんもりと積もった白い異界の花の山。
 これから行う花の清掃もとい回収、そして、この中に埋まっているであろう白い造花のオーパーツを思うとその厄介さに軽いめまいを感じる。。
「お、おお……おおおおおおお!!!」
「これはまたなんつうか、なんとかを探せみたいな…‥って、まいだ?」
 赤白ボーダーの眼鏡をかけたイギリス人青年を思い浮かべながら、ぼやきかけた獅子道 黎焔(aa0122hero001)は自分のパートナーの異変に気付く。
「どうぶつさんたくさん! れいえん、さわっていい!? さわっていいの!?」
 広大な大地に横たわるライオン、ヒョウ、そして向こうに見えるゾウの影。
 それらを目にして目を輝かせたまいだ(aa0122)、外見年齢五歳児。
「あ? あのな、吹っ飛ばされてあぶねえってさっき係の人が言って」
「係の人」
 呼ばれた信義がぎこちなく彼女たちの方を見た。
「どうぶつさーん!!」
「聞けよ、おいぃ!!」
 ついに我慢できなくなって、ライオン(食肉目ネコ科ヒョウ属、肉食動物)のもとへ元気に単身駆けて行くまいだ(非共鳴)。それを止めるべく黎焔は全力で追いかけた。
「わぁ、おっきな動物、沢山いる!」
 外見年齢十二歳────実年齢はプラス五歳────、天宮城 颯太(aa4794)も動物たちの姿に目を輝かせた。
「ねぇねぇ光縒さん、喜劇王を回収出来たら、動物と戯れてもいいのかな?」
 無邪気な能力者の言葉に、彼の英雄である光縒(aa4794hero001)は答えた。
「アナタ臆病な癖に、こういうのは好きなのね。そういえばホラーも好きだし、颯太って怖いものってあるのかしら?」
「ああうん。何を考えているか分からない、女の子が一番怖いよ……」
 光縒の通常営業マグナムドライな辛口の言葉に颯太の目が黄昏れた。
「お花を集めながら追いかけっこだねっ。負けないぞーっ♪」
 見た目推定年齢十歳のミーニャ シュヴァルツ(aa4916)が元気いっぱいに宣言すると、ミュシャが慌てて注意した。
「あ、あの、動物は服を破ったり、体当たりをして来たりするから気を付けて欲しい」
「……え? 服? へーきへーき、いっぱい持ってるもんね♪」
「ななな、服を破られるなど冗談ではないぞ!」
 余裕のミーニャとは対照的に慌てる英雄のアーニャ ヴァイス(aa4916hero001)。
 アーニャはミーニャのご機嫌な様子にうむむと唸る。
 ────じゃが、もっと不味いのはミーニャがこう言った羞恥心とは無縁じゃったと言うことを忘れておった事じゃ。花集めもそうじゃが、何とかせねば!
 今でこそミーニャと揃いの短い手足の少女の姿をしているが、アーニャは元々は文字通りの傾国の美女であった。恥じらいだってそれ相応にあるし、女子であるミーニャにも気を付けて欲しいのだ。
「…………なんだ、これは。まるで遠足の付き添いだな」
「リンカーには年齢は関係ないわ。むしろ、あの子たちの方がワタシたちよりうまく回収できるんじゃないのかしら?
 それにワタシたちは引率者ではないし」
 小声で呟く信義を軽くたしなめるライラ。娘を持つ二人は子供は割と好きでその生態もよく知っている。
「こういう場所では……保護者は大変よね」
 サバンナのあちこちで楽しそうな声と『保護者』の悲鳴が上がる。


 せっせと白い花を集めるニウェウス・アーラ(aa1428)。
 その横でストゥルトゥス(aa1428hero001)が口を開いた。
「ふと思ったんだけどさ」
「ん……何?」
 ニウェウスが集めた花を陽に透かす。どの花も瑞々しく、萎れた花に擬態したオーパーツには見えない。
 その時、翳した花の向こうに寝そべるライオン、全力疾走するまいだとそれを追いかける黎焔の姿が飛び込んで来た。
「まいだぁあああっ!」
 全力でライオンからまいだを守りつつ、なんとか共鳴を果たした黎焔だったが、直後に横から突撃してきたバッファローに吹っ飛ばされた。
 ドッカーン!
「たかいたかーい!!」
 はしゃぎながら大空を飛んでいく共鳴したまいだ。
 目の上に手を翳し、それを見送るストゥルトゥス。
「いっくぜ、雨月!」
「うん?」
 その横をおっとりとした長身の青年──天海 雨月(aa1738)を俵担ぎにした、二メートルを越える大柄の男、艶朱(aa1738hero002)。二人はシマウマの集団に追われながら楽し気に走って行く。
「逃げるぞー!!」
 笑いながら走る艶朱、その肩の上でのほほんとシマウマを眺める雨月。
「俺が動物たちを誘き寄せる。回収は頼んだ」
 ざりっと靴を鳴らして、シマウマたちの前に共鳴した颯太が立ち塞がる。
「俺の半ズボンが伊達じゃないということを、教えてやる」
 艶朱たちに花集めを頼むと促して、気合い充分の颯太はするっと膝上丈のニーハイソックスを脱ぐ。それから、思わず立ち止まったシマウマたちに艶めかしい太腿を晒した。太陽光を反射した肌が瑞々しくアピールする。
「……」
 颯太のなんらかのアピールに対し、その場に居た者はシマウマの顔がチベットスナギツネに変わるさまを幻視した。
 ストゥルトゥスが嬉しそうに笑う。
「思ったんだけどさ、マスターって、愉快な依頼を引き当てる運があるよね!」
「……あんまり、嬉しくない、かな」
 遠い目をしたニウェウス。
 彼女の前を殺気立ったシマウマに追われた颯太が走って行く。
「……これじゃ、中々……回収は、進まないよ、ね」
 ニウェウスの言葉に、待ってましたとばかりにストゥルトゥスは胸を張る。
「というわけで。ぱぱらぱっぱぱー♪」
「そのBGMは、何……?」
 ニウェウスの疑問をスルーしてストゥルトゥスは裏声でソレを掲げた。
「レーダーユニットぉー!」
 そう言って彼女が取り出したのは有線のゴーグルだ。
「ストゥル。人の質問に、答えよう?」
「ストゥえもん」
「ぇ?」
「今のボクは、四次元幻想蝶を持ったストゥえもんなのだよ」
「危険な匂いしかしない、から……スルーで」
「そんなー」
 それはさておき、ストゥえもんが取り出したのはレーダーユニット「モスケール」のゴーグルだ。背負ったバックパック型の本体にケーブルで接続されたソレはエージェント自身のライヴスを動力源として駆動するライヴスレーダーだ。
「探す手段はシンプルだよ」
 ストゥルトゥスが光となってニウェウスを包む。スーツと魔法少女の服装を足して割ったような共鳴姿、『Form:Magician』に変じると、改めてAGWを装備する。
『レーダーユニットを用いて強いライブス反応を探る……どうかな?』
 オーパーツ『喜劇王』のライヴスを探そうというのだ。
 しかし、起動したのスケールにはライヴスを纏った白い花が大量に反応する。ライヴス量は微量とはいえ、さすが異界の花だ。現世界のものとは反応が違う。
『んー、動かない……落ちているオーパーツを見分けられるかなと思ったんだけど』
 元々、オーパーツ自体がライヴス反応を示すかもそれによって違う。結果を一瞥したストゥルトゥスは割とあっさりと諦めた。
「どうするの?」
『じゃあ、次の作戦。喜劇王の力を受けて強化された動物は他より強く反応するみたいだから、多くいる場所を探そう』
「どうして……影響を受けた動物達が、多い所を……探す、の?」
『そりゃ勿論。ターゲットに近いほど、アフェクトした動物の数は多くなるもんだからさ』
「ターゲット……『喜劇王』?」
『イエス』
 今、近くで多数の反応が動いているがこれはシマウマとそれに追われる颯太だろう。そうすると……ニウェウスは表示された情報を前に、うーん……と小さく唸る。



●エージェントと動物たちの仲良しフレンズ
「殺すぞ!」
 突撃して来たサイの攻撃をひらりと躱すと、スナネコ(aa4986hero002)と共鳴したステップ・サーバル(aa4986)は低木の上に飛び乗った。
『早く殺せニャ!』
 ステップに負けず劣らず気性の荒いスナネコが囃し立てる。
 とは言え、ここでデクリオ級愚神並みの力を持った動物たちと戦うことほど愚かではなく。ひらり、低木の更に上に移動する。
 元々自分が住む村に近い環境であったこともあって、戦い方は心得ている。
「今は相手にしていても仕方ないんだよな。先に行く」
 ひょいと近場の木々に飛び移り、サイから距離を取る。
 ガン! 同時にさっきまでいた低木がサイの頭突きによって大きく揺れた。
『砂地の上もスナネコは平気ニャ!』
「わざわざ狂暴化した動物たちと戦う必要もないだろ?」
 荒い言動ではあるが、ステップは状況を冷静に観察し判断し、真面目に依頼を遂行する。回収した白い花を詰めた袋を幻想蝶に放り込むと、低木からひらりと飛び降り、次の花の山を目指して駆ける。
 灯台下暗し、ホテルの近くにまだ大きな白花の山が残っている。
『ゾウ、発見だニャ!』
 スナネコが共鳴前に得意の穴掘りで拡張した小さなくぼみへとステップを誘導する。
 穴の中は涼しく、ステップはほっと息をつく。
 エージェントとして駆け出しの彼らはまだ使えるスキルが無い。自分たちの知恵で地道にあの狂暴化した動物たち相手に立ち回らなくてはならない。
「デクリオ級か……」
 はっはっと息を整えたステップの周囲の気温が僅かに下がった気がした。
 いや、黒い影が太陽光を遮ったのだ。
 ────パオオオオーン!
 目をギラつかせたゾウによるアタック!
 不意を突かれたサーバルは空高く飛ばされた。
『ニャッ!』
 キラリ、白いH.O.P.E.の制式コートがアフリカの陽の光に輝いた。
「サーバルさん!!」
 ステップたちを襲うゾウの注意を反らそうとして、今一歩間に合わなかった颯太が悔しそうに叫ぶ。
 その声に反応したゾウは颯太を次の目標として見定める。
「大好きな動物達と鬼ごっこ……。たーのしー!」
 ドシドシとこちらへ走るゾウの足の間をスライディングですり抜ける颯太。
 方向転換のために一旦足を止めるゾウ。
 その背中をまた背後に向かって跳び箱のように飛び越える。
 パオオオーン!
 もう一度声を上げて、ゾウはドスドスと颯太を追いかけた。
「引き付けてくれたみたいだな。そんじゃまァ、こっちはこっちで派手にいこうじゃねェか!」
 岩陰から艶朱が立ち上がると、雨月もおっとりと白い花の山の中から顔を出した。花に埋められていたせいで、今日の雨月の髪は白い花に飾られていた。
 再び艶朱が雨月を担ぐと、雨月も担がれたまま用意した網をぱっと広げる。絡めとられる白い花。ずり、と手繰り寄せると、その向こうから、今度はにょきりとバッファローの角が現われた。
「おっと、次の獣のお出ましかァ」
 網を手繰り寄せ花を収納する雨月と、彼を担いだまま走り出す艶朱。
「俺はなんで担がれてんの?」
「一応聞くが、お前走る気あったか?」
「………」
「だろうな!!」
 そもそも、今さらその質問なのかという気もしないではないが。
 雨月はいつもの如く現状を受け入れ「そっかー」と頷くと、新しく取り出した投網を白い花に向かって打つ。
 パートナーを担いだまま、大地を蹴って目の前の倒木を飛び越える艶朱。
 足を緩めたバッファローが手繰り寄せていた雨月の網を踏みつける。
「まぁ、なるようになるか」
 雨月はバッファローが踏みつけた網を手放す。自由になった網は狙った通りにバッファローの足に絡み、獣はどうと倒れた。
「おい、網どうすんだ?」
「いくつか網持ってきてるから、また新しいの使うよ。
 ところで、艶朱は体力あるとは思うけど、ずっと逃げると流石に疲れるんじゃない? そこらの木々に登れると良いけど……」
「生憎、今はちょっと無理そうだぜ!」
 こちらに向かってくるヒョウを見てなぜか愉快そうに笑う艶朱。
「流石にあれは逃げきれねェかもな! まー、最悪俺は構わねェが雨月が跳ね飛ばされた時がなー、お前ほっせェかんなァ。
 つってもあれな、この状況な、俺が跳ねられたら雨月も道連れだよな!」
 豪快に笑うと艶朱は踵を返した。
「てなわけで全力逃走だぜ! はーっはっはっは」


 まだ誰も集めていない白い花の山を見つけて、まいだは目を輝かせた。
「おはなさんもいっぱい! あれ? おはなさんあつめる? あれ?」
『ああ、お花さん集めてりゃ大丈夫だ。どうせどっかに紛れてるだろうからな』
「おー? そっか!」
 幻想蝶の中に詰めて来たビニール袋に次々に花を詰め始めるまいだ。仄かに匂う花の香りがとても心地よい。
 これで平和に依頼がこなせる────黎焔が安心したその時だった。
「おおーう!」
 ぽーんと大空に打ち上げられた艶朱たちをまいだはキラキラした目で見上げた。
『まいだ! 花を集めて、ついでにオーパーツを探すんだぞ』
「うん! わかった! ────あっ! さいさん!!」
 子供の集中力が持続する時間は短かった。
 サイに向かってダッシュするまいだ。まいだに向かってダッシュするサイ。
『あぶねえから止めろ、馬鹿!』
 制止する黎焔の声は最早まいだには届いていなかった。
「あっ、かちかちにかたくない!」
 サイに抱き着いたのは一瞬。
 びりっ。
 次の瞬間、まいだを振り落としたサイの角が彼女のズボンを大きく破る。
「わっ、たのしい!」
『楽しくねえよっ!』
 突然現れたもう一頭からの頭突き。
 ────あっ、おはなさん!
 さっきまで集めていた花の詰まったビニール袋の口をぎゅっと掴み、守るように抱えて目を閉じるまいだ。そんなまいだにサイは激突する。だが、まいだの全身を覆う透明の棺型盾、『あなたの美しさは変わらない』がまいだを護る。
 ガツッ────ドーン!
 オーパーツの効果なのだろうか……。まいだはそのまま大空に跳ね上げられた。
「わぁーーい♪ まいださんー!」
「ぬおおぉーー!!」
「ミーニャ! アーニャ!」
 同じく空へ弾き飛ばされたミーニャたちが手を振る。
「わわっ! ミーニャも服が破れちゃった! みてみてアーにゃん! アーにゃんパンツー♪」
 空中で、ミーニャにばばーんと破けたお尻を見せられたアーニャはショックを受けた。
「駄目じゃ、ミーニャ! 早よぅ隠すのじゃ! ────ってなんじゃその下着はっ!」
 デフォルメされたアーニャの顔がプリントされた女児用パンツに目を剥くアーニャ。得意げなミーニャ。羨ましそうなまいだ。
「すごーい!」
『まいだは作らなくていいからな!』
 黎焔に止められてがっかりするまいだは、ミーニャたちより一回り小さな放物線を描いて落下し始める。
「まいださんー、またねー!」
 ブンブンと手を振るミーニャを呆れた目で見るアーニャだったが……。
「あれ、アーニャもお尻破れてるよ!」
「ぐぅっ、なんたる不覚じゃ! 恥ずかしいが、みっともない体はしてはおらんぞ!」
 黒いセクシーな下着がちらりと見えて、アーニャは動揺で顔を赤白と忙しく点滅させたが敢えて姿勢は堂々と胸を張って見せる。落下しながら。


 花を回収しながら、モスケールを使用してオーパーツを探すニウェウスだったが、周囲にエージェントの姿が無くなったことに気付き、その手を止めた。
『ところでマスター。ブルマは穿いてきたカナ?』
 唐突にストゥルトゥスが尋ねる。
「一応……。なん、で?」
『三時方向にカバ。こっちをガン見してる』
 ハッとそちらを見れば大きなカバ。
「でも……結構離れてる、よね。カバは遅い、し……平気」
『何言ってんの。カバの最高速度、知ってる?』
「……時速、十キロメートル?」
 能力者だって共鳴していなくても相当早く走ることができるし、今は共鳴しているから全力で走れば。
『時速四十キロメートル超え』
「はぃ!?」
『そして、左手にもカバ』
「えぇ!?」
『後方からも』
 カバは群れをなす動物である。
「──っ!?」
「そして、前方からも!」
 がさり、そう言って突然飛び出して来た颯太が派手にニウェウスの前を走り、カバの注意をひきつける。
「あ、ありがとう……」
 突如現れ、片手を上げて走り去っていく颯太を見送るニウェウス。
『マスター。空を自由に、飛びたいか?』
 再びストゥルトゥスの不穏な発言。
「撥ねられて、飛ぶのは……自由じゃない、よね!?」
 背後から激しい足音が聞こえた。
『おおっと、着弾五秒前。はい、カバコプター!』
「ひーーっ!?」
 ドッカーン! カバからの激しい一撃でニウェウスは空を飛んだ。
 空を飛んでいくニウェウスの姿を悔しそうに見上げる颯太。
「守れなかった────さぁ、そろそろ本気で振り切るぜ!!」
 緩急を付けながら、逃走していた颯太は全長百八十センチの己の得物、ベグラーベンハルバードを地面に突き刺し、自分を追って来たカバへと向かって突進する。
「とあっ!」
 花弁を巻き上げて棒高跳びの容量で空へと高くジャンプした。
 ────フニァア!
 不機嫌なヒョウが颯太の背中に頭突きし、彼は地面に叩きつけられる。
 ジリ……周りを動物たちに囲まれた颯太は不敵に笑った。
 彼には秘策があった。
「ふっふっふ……。実は半ズボンの下は、何も穿いていないのさ!
 つまり、実質この半ズボンはパンツ扱い……故に、破ることはできない!」
 やぶれるものなら破ってみろ! とばかりに仁王立ちした颯太。
『そんな独自ルールが通じるのかしら』
 光縒の一言と共に臀部に肌色を見せながら、颯太は花弁と共に雨季を前にしたサバンナの空を舞う。
 残念ながら、やはりズボンはパンツではないので恥ずかしいことになった。



●収束
「あ……あった……」
 数々の被害と犠牲を払い、ついにニウェウスはソレを見つけた。
『へぇ、これがオーパーツ『喜劇王』────』
 萎れた白い薔薇の花、それを共鳴したストゥルトゥスがよく見ようとしたその時。
「ご苦労様。オーパーツまで見つけるとは思わなかったよ」
 信義によってそれが取り上げられる。
「……それ……」
「これは私たちの仕事でね。渡して欲しい。だが、安心してくれ。『喜劇王』の影響は無効にする」
 信義はニウェウスたちに背を向けて何かを行うと呟いた。
「”Yes,I can see now.”」
 同時に、花からライヴスの波動のようなものが広がるのを感じた気がした。
「終わり?」
「ああ────あとは白花の回収を、ごゆっくり」
 尋ねるニウェウスへ信義はにやりと笑って見せた。


 夕焼けの空が美しい。
 ロッジの周囲にはランプやトーチの灯りがロマンチックな光を放つ。
 屋根のあるテラスに敷かれた豪華なラグ。自然の木々を使った洒落たテーブルとふかふかのソファ。
 テーブルにはたくさんの珍しい料理が並ぶ。
 プールから上がった者、ジャグジーで汗を流した者たちが、それぞれ破れたズボンをそっと着替えてテーブルに着く。
「ああ、ボクとしてはもうちょっと見たかったんだけど」
 目の前に並べられた豪華な食事にフォークを刺しながら、ストゥルトゥスが不満を述べる。
「灰墨さんたちはオーパーツを見つけるとさっさと持って行ってしまいますから」
 ミュシャの言葉には、すでにこの場を去った灰墨に対して「いつも迷惑だけかけて」という恨みが言外に含まれていた気がした。
「いやあ、あなたたちのお陰でうちのホテルは助かりましたよ!」
 ご機嫌なホテルのオーナーの指示で次々に豪華な食事が運ばれてくる。
「これはお礼です。ゆっくり休んで、良かったらお友達にうちのロッジを紹介してくださいね」
 オーナーがエージェントたちが集めた白花を束ねたものと今回の騒動で発行されたらしい記念切手をそれぞれのテーブルに置く。
 残った白花の花びらを猫のように楽しそうに追うスナネコ。
 その姿を一瞥しながら、ステップはうーんと伸びをしてソファに身体を沈めた。美しい斑点模様が金色の落日の光を弾いて煌めいた。
 まいだがテラスの端からオアシスを見て顔を輝かせた。
「ぞうさん!!」
 エージェントたちが振り向くと、近くの小さなオアシスに何匹ものアフリカゾウたちが並んで水を飲んでいた。
「ゾウって意外に攻撃的なんだなァ」
 さっきまでの荒々しさなど嘘のように穏やかに水を飲む象たちを見て艶朱が呟き、雨月が笑った。
「ところで艶朱、俺ずっと思ってたんだけど」
「あン?」
「共鳴した方が逃げやすかったんじゃない?」
「……は!」
 今気づいた! という顔で目を丸くし艶朱を見て、白い花を髪に挿した雨月は笑みを浮かべてお茶を手に取る。
「お花集めと追いかけっこ、楽しかったね」
 ニコニコと笑いかけるミーニャ。ぐったりと疲れたアーニャは声を出さずにコクと頷くと、濃厚なマンゴージュースとケーキを口に運んだ。
「あれ、颯太は?」
 ニウェウスの言葉に光縒が低木の下を指す。即座に黎焔が飛び出そうとするまいだを押さえた。
「生ライオン、生ライオーン!」
 全力でライオンをわしゃわしゃと撫でながら戯れる颯太の姿に、ミュシャがカシャンとフォークを落とした。
「ま、仮にも能力者だし、普通の動物相手に、死ぬことはないでしょ。後は知らないわ」
 先程のオーパーツのせいで疲れたのか、たまたま満腹だったのか。幸運にもライオンは大人しく、颯太になすがままにされながら、ファ……とあくびをした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御
  • まいださんの保護者の方
    獅子道 黎焔aa0122hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 綿菓子系男子
    天海 雨月aa1738
    人間|23才|男性|生命
  • 口説き鬼
    艶朱aa1738hero002
    英雄|30才|男性|ドレ
  • エージェント
    天宮城 颯太aa4794
    人間|12才|?|命中
  • 短剣の調停を祓う者
    光縒aa4794hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • おもてなし少女
    ミーニャ シュヴァルツaa4916
    獣人|10才|女性|攻撃
  • おもてなし少女?
    アーニャ ヴァイスaa4916hero001
    英雄|10才|女性|ドレ
  • エージェント
    ステップ・サーバルaa4986
    獣人|24才|女性|攻撃
  • エージェント
    スナネコaa4986hero002
    英雄|15才|女性|シャド
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