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記憶とハリセンを追いかけて
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/09 09:13:34
オープニング
「えー。大変説明しづらいのですが、今回の依頼に参加された方は記憶喪失になっているようです」
HOPEの支部で、職員が神妙な顔をしていた。
とある依頼完遂後、リンカーの一人が「ここはどこ、私はだれ」とベタなことをやり始めた。最初は冗談であろうと思っていたが、次々と「ここどこ」と他の面々もやり始めたのである。そして、調べた結果リンカーと英雄。そのどちらか片方が、記憶喪失になっていたことが判明した。
「今回の愚神は毒ガスを吐いていましたから、その影響ではないかと思われます。日常生活に支障はないでしょう」
『自分のことだけ分からなくなっているのですか?』
小鳥の質問に、職員は頷く。
『どうりで、正義にメイド服を着せたりローラースケートを履かせたりしても無抵抗なはずです……』
「小鳥さん、あなたは正義さんに何やらせているんですか!」
よく見ると筋肉モリモリの成人男性が裾の短いメイド服に身を包み、ローラースケートを履いていた。ちなみに手には、何故かハリセン。一目で分かる、酷い格好だ。ここまでひどい恰好の人間は、なかなかいないだろう。
『こんな恰好をするバイトをしていたって話したら、簡単に信じたです!』
元気溌剌な小鳥の笑顔に反して、正義は震えていった。
「一体なんなんや? 一体、ボクはどんなバイトをしてたんや!?」
「これを機に、正義には立派な大阪人になっていただくのです。だから、ちゃんとハリセンももたせたです!!」
ちなみに、正義の出身地は奈良県である。
関西圏ではあるが、大阪ではない。
「一体……俺は、なんなんやー!!」
正義が泣きながら、部屋から飛び出す。
誰も止めなかった。
とりあえず、逃げ出したい気持ちだけは強く伝わってきたから。
「えーと……この記憶喪失って、なおりますか?」
気を取り直して、リンカーが職員に説明を求める。
「治すためのアイテムはちゃんとありますよ。以前にも似たような事例があり、そのときに記憶を無くした面々を見事に救ったアイテム――ハリセンが!」
威張る職員が言うに、以前にも似たようなことがあったらしい。
そのときに使われたという伝説アイテム――ハリセン。そのアイテムで頭を殴打すれば、たちどころに記憶は戻ったという。
そのアイテムの姿が、影も形もない。
『そういえば、メイド正義がハリセンを持って行ったですね』
正義の失踪およびアイテム紛失の犯人である小鳥は、実に楽しそうであった。
「まぁ……話しかけ続ければ記憶は戻るとは思うんですけどね」
解説
・正義からハリセンを奪って、記憶を取り戻してください。
記憶喪失……リンカーか英雄、どちらか片方が記憶を失っている。日常生活には支障はないが、自分のことが分からない。なお、記憶はハリセンではたくか話しかけ続ければ戻る。
HOPE支部(昼)
・休憩室……記憶喪失関係者が集められた部屋。十分な広さがあり、テーブルや椅子などが準備されている。なお、簡単なお茶のセットがある。
・食堂……正義がうなだれている。彼に話しかけると、ローラースケートで逃げ出してしまう。
・資料室……リンカーたちの情報が保管されている。食堂から逃げてきた正義が最初に逃げ込む。暴れると資料が飛び散って、あと片付けが大変。
・仮眠室……最後に正義が逃げ込む場所。カギをかけてたてこもっている。
正義……メイド服にローラースケート姿。恰好はともかく、動きは素早い。自分自身のことがよくわからない上に、とんでもない恰好をさせられているので恥ずかしい。なお、「ハリセンで記憶喪失が治るわけないやんけー」と思っている。
リプレイ
――や っ て し ま っ た。
艶朱(aa1738hero002)は数十分前の自分を殴りたいほどに後悔していた。とある依頼の後遺症で、記憶喪失になってしまったパートナー。別に焦るようなものでもないと説明を受けた艶朱は、間がさした。
「チョリース! やっぱり、本来の自分のキャラクターはしっくりくる」
笑顔の横にピースサインを作るのは、天海 雨月(aa1738)である。某お菓子メイカーのマスコットキャラよろしく、ぺろっと舌を出すおまけ付き。普段は綿菓子と言われる雰囲気はどこかに吹き飛び、新宿に出没しそうなチャライ男子になってしまっていた。
『うっうづ、雨月、それ嘘だから。信じなくて良いから!!』
「またまた、良いってそういう演技は! 記憶を失っても、この性格が本来のものだということぐらいはわかるぞ」
それは、完全に気のせいである。
だが、記憶喪失であるということは、それを証明する手立てもないということである。
艶朱の失態を見た、彼らは考えた。
これは――理想のパートナーを作るチャンスではないかと。
『……ユーヤは、大丈夫?』
「おぅ、よくわからんが落ち着いてはいるな」
麻生 遊夜(aa0452)は、腕を組む。自分が何者かは分からないが、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は自分のことを説明してくれるという。
『……ん、ユーヤのことならお任せ』
ユフォアリーヤは、登録証や子供たちと一緒に映った写真をまとめたアルバムを遊夜に見せる。たくさんの子供たちと写った写真に遊夜は「俺の職業は学校の先生というところだろうか?」とユフォアリーヤに尋ねた。
「……ん、ちょっと違う。孤児院院長で、ユーヤは皆のお父さん」
さすがに総勢二十八人の父親と言われて、遊夜は驚いたようであった。
『それで、ボクに依頼が終わったら皆のお母さんになってくれないかって……』
若干恥ずかしそうに、ユフォアリーヤは頬を染める。
遊夜は、その衝撃を受けていた。プロポーズ――……総勢二十八人の子供のお父さんで、しかも婚約者付き。いきなり知るには、なかなか衝撃的な事実である。
「そんなフラグを立ててたのか、俺は……で、それは本当か?」
『……ん、本当。おそろいの指輪も用意してあるから、あとはチャペルで式をするだけ。子供たちにブーケとか作ってもらって、友達にはフラワーシャワーで祝福してもらう予定だったの』
この指輪も「色々と物入りになるだろうからダイヤはついてないけど我慢してくれ」と言われたの、とユフォアリーヤは指にはまるペアリングを見せる。
「……そうか、疑ってすまない」
婚約している女性のことまで忘れてしまうとは不甲斐ない、と遊夜は落ち込んだ。だが、ユフォアリーヤはそんな男の頭をたおやかな腕で包み込む。
『……ん、良いの』
――だって、嘘だから。
嘘を信じさせるには、真実の中に少しの虚偽を混ぜることだ。だが、これでユフォアリーヤは遊夜の婚約者として振る舞うことができる。それは、想像するだけでちょっと楽しい。
そんな恋人たちの甘い会話の隣で、とんでもない勘違いしていた人間もいた。
「ふむ。つまり俺はある日空から降ってきた男の子と誓約して、世界の敵と戦っている魔法少女」
木霊・C・リュカ(aa0068)は、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の説明を何故か斜め上に解釈していた。
『俺の今までの説明、ちゃんと聞いてた、か? あと、自分の実年齢を思い出してくれ』
オリヴィエは、ため息をついた。
記憶を失って「君は誰かな」と言われた時は傷ついたが、これは滅多にないチャンスである。オリヴィエは紫 征四郎(aa0076)と共に、女装をしないまっとうな相棒育成計画へと乗り出したわけである。
「わかった。魔法少女ならぬ、魔法美女ってわけだね」
『……』
だが、その計画もちょっと座礁ぎみである。
「やぁ、それにしても驚いた。俺でもそんな過酷なお仕事につけてたんだね」
『……仲間に助けてもらいながらな』
「きっと、君には一番助けてもらっていたんだろうね。ふふーふ、あんまり見えないのはやっぱり不安だけど。……君の目の色は安心するね、まるで金木犀みたいだ!」
『…そう、だろう。リュカが名前をつけたんだ。俺は、あんたにとっての金木犀だから、な』
オリヴィエは、わずかにほっとする。
自分のことを忘れてしまっても、リュカはリュカなのだ。
『へぇ。お前さん、オリヴィエって言うのか。知り合いだったらしいが、今は初めましてだ』
ガルー・A・A(aa0076hero001)が、記憶を失ってもなお残る人懐っこさで話しかけてきた。
「初めまして、紫征四郎と申します! 年齢、は、……こほん、十八歳です」
征四郎はガルーの隣で、精一杯大人っぽく振る舞った。
年齢を詐称してから「やってしまったです!!」と内心悲鳴を上げる。だが、今回限りならば良いではないか。ちょっとだけ――ちょっとだけでいいからリュカの年齢に近づきたかったのだ。
「そうか、俺の友達だったんだ。ふふー、勿体ないというか意外というか。俺は君を口説いたりはしてなかったんだ?」
「く……くど」
征四郎の頬が、真っ赤にそまった。
今の自分は大人の女だと詐称していて、大人の女を大人のリュカが口説くことに何の問題もなくて――。征四郎は、知恵熱を出しそうになってしまった。リュカの顔を見ていられなくて、征四郎は視線を逸らした。
そして、後悔した。
「いや、どう見ても俺は男だろう。流石に無理があるんじゃないか?」
『本当に忘れちゃってるんだね。恭也は性同一性障害って言うのでね、体は男でも心は女なんだよ』
ボクらは女と女の固い友情で結ばれていたんだよ、と力説しているのは伊邪那美(aa0127hero001)である。
その話を聞いていた御神 恭也(aa0127)は、一言で表すと恭子ちゃんだった。
ロングスカートで筋肉のついた足を隠し、フリルがついたシャツやジャケットで広い肩幅やぺったんこな胸をごまかしている。短い髪は帽子で隠して、足元には茶色いブーツ。雑誌で「女子の体形隠し術」とキャッチフレーズが付きそうな恰好だった。中身をのぞけば。
『どう? 何時もの恭也……じゃなかった恭子ちゃんの姿に戻った感想は?』
「……違和感しか無いが、化け物姿じゃないのが救いか」
どこからか持ち込まれた姿見で恭也は、まじまじと自分の姿をみる。さっきまで男の恰好をしていたから「何で今は男物を着てるんだ!」と伊邪那美につっこんだら「戦闘でフリルが破けたら、服がかわいそうだからだよ。まあまあ、落ち着くためにもまずは何時もの服に着替えて来よう」といなされてしまった。なんか、こっちを見ている若干名が笑いをこらえているような気がしてならない。
『あー……オイ。色々わかんねーんだよ、説明しろ』
米神をもみほぐしながら、ジャック・ブギーマン(aa3355hero001)は段々とカオスになっていく光景を眺めていた。記憶喪失になった経緯は説明があったが、自分の記憶がすっぽりなくなるのは心細いものだ。
「あ、うん。わかったよー、ジャックちゃん」
満面の笑みを浮かべながら桃井 咲良(aa3355)は「じゃじゃじゃーん」と洋服を取り出した。
「ジャックちゃんが普段着てるのは、こっちの服だよ!」
『……オイ、何かしっくりこねぇ気がすんぞ』
薄水色のワンピースは上品だが、よく見れば裾や袖にフリルがあしらわれていた。胸元についたリボンも可愛らしく、まるで深窓のお嬢様が軽井沢へと避暑をしにいくときに着るような服だ。
髪も下ろして、ジャックはいつもよりもしっとりとした雰囲気を醸し出していた。知らない人に令嬢と説明しても、信じるであろう。
「記憶がないから違和感があるんだよ! 多分!!」
咲良は「可愛い可愛い!」と言いながら、カメラのシャッターを切りまくった。その鬼気迫る様子に、ジャックはクエスチョンマークを浮かべた。
『コレ普段着っつってなかったか、お前?』
「……え? あ、僕写真撮って、ネットにアップするのが趣味なんだー。ほら、ネットアイドルってやつだよ。にゃはは!」
あやしい、ジャックは次々衣装を取り出す咲良を睨みつける。
『次は、ちょっとスカートの丈短めのもいいかな? それともギンガムチェックの制服風?』
クラシカルな花柄のワンピースとかもいいよね、と咲良は衣装を見比べて「うーん」と真剣に悩みだす。
「もういっそ。古典的なまでに、お嬢様っぽいのを目指すべきだよね。白いシャツ、ロングスカート、首元にブローチかな?」
『ボクだったら、スカートは黒かな』
コーディネイトに悩む咲良に、伊邪那美が助言する。
「でも、いつもとは違う色を着て欲しいし。青とか真紅とか深緑とか、そっちの色のほうがいいと思うんだよね」
『あー、分かる分かる。ちょっと冒険させたいんだよね』
というわけで次はちょっとギャルっぽい感じにしようか、と伊邪那美も新しい服を取り出す。
「おい……」
『大丈夫。ギャルっていっても、ちょっと若い雰囲気の服にするだけだから。だぼっとしたニットのセーターとデニム地のスカートに履き替えるくらいだから。あっ、帽子も代えようね』
咲良と伊邪那美は結託し、すっかり写真撮影会の準備を整えてしまっている。
「靴は、革靴よりヒールのほうがいいかな?」
『恭子ちゃんは身長があるし、こっちの服のときはスニーカーのほうが似合うよ』
というか、ただの記憶喪失のパートナーを使った着せ替え会である。
「はーい、カノジョたち。ちょっとお茶しなーい?」
そんな着せ替え会に、何故か雨月が乱入する。
『なにやってるんだ、雨月!!』
普段の彼とはあまりにかけ離れた行動に、艶朱が悲鳴を上げる。
「ナウでヤングな若者のすることっていったら、ナンパだろ!」
力いっぱい力説する雨月に、艶朱は若干遠い目をした。
これ本家にいる艶朱にだけ甘い超絶過保護女にバレたら、どうなるんだろうか。
『これで、万一戻らなけりゃガチで俺の命がやべェ……!』
ちょっとした悪戯心が原因で、自分の命日が決まってしまう。
「戻るもなにも、これが俺さ。ナウでヤングでチョリースな天海雨月だ。ところで……チョリースってなに?」
『お前分かんねェでやってたのかよ……!』
がくりとうなだれた艶朱を見たジャックは、雨月に耳打ちする。
『アレって、大丈夫かよ。おまえの言葉もかなり古し、適当なことを言われてんじゃねーの』
「何となく、単語は古い気はしてたけど………。まぁ、艶朱がそう言うならそうなのか、なんて……思ってたんだ」
雨月は、とびきり良い笑顔を浮かべる。
「艶朱がなんかめっちゃ慌ててっけどぉ、あいつ遊び好きだから多分遊べって事だと思うんだよなぁ。あっははは。ハリセンをゲットして、俺の頭を叩いてみろー!! 早くしないと、この支部の女性の全員分のメルアドをゲッチュしちゃうぞ」
『っつゥか、雨月! そんなに走れんなら普段から走れや!!』
雨月を追いかけていく艶朱を見て、ジャックは思った。
『あいつ……遊ばれてね?』
「……え、と。僕が言うのも何だけど……一緒にハリセンを追いかけないの?」
記憶が戻るらしいよ、とどこか遠慮気味に咲良は言う。
『あ?うるせぇな。何か知らねーがお前が手元に置いとかねぇと何となく落ち着かねぇんだよ。あと、あの状態の恭也を一人にはできないだろうが』
伊邪那美の手腕によって、ついにメイクまでされ始めた恭子ちゃん。
『さーて、これから如何しようか? 恭子ちゃんの服を買いに行くのも良いし、他のみんなに挨拶に行くのも良いかな』
「おい、本当にこれが本来の俺なのか?」
言われるがままにされている恭也が面白すぎて……かわいそうすぎて目が離せない。だが、咲良は何を思ったのかジャックに抱き着いた。
「……ジャックちゃん大好き!!」
『うぜぇえええ!! おまえのことを気にしてるわけじゃねぇし、引っ付いてくんじゃねぇよボケ!!』
ジャックの叫び声につられるように、ガルーが悲鳴を上げた。
『うっ頭が痛い……俺様は……いったい何者なんだ……!』
ガルーの手にあるのは、幼女向けアニメ番組のコスプレ衣装。その衣装を幻想蝶から探り当てたガルーは、苦しみながらも考える。
この衣装には、見覚えがすごくあった。
たしか、世界を救うために前世から決められていた戦いに身を投じていたような気がする。何度も何度も敵と戦った。勝利し、時には負けて涙を流した。それでも、自分たちはあきらめなかった。だって、魔法の力を授かったのは自分たちだけだから。
『自分でも動揺しているんだ。まさか、俺様の正体が魔法少女だったなんて……』
「まさか君も!」
リュカは、ガルーの言葉に目を丸くする。
『ああ、皆まで言わなくてもわかってる。これは星が決めたデスティニーだから……。俺様たちが何度となく戦いに身を投じてきたのも、前世からのデスティニーのせいだ』
話を聞いていた征四郎とオリヴィエは思った。
それ、アニメ「プリプリ」の第一期の内容!
『……ガルーは、変わらないな。……いや、いい。とりあえずその忌わしい服を地面において両手を上げろ』
オリヴィエは、ガルーに武器を向けていた。
『いいか、前のあんたは女装等しない真っ当な大人だった。そう、魔法少女の服装なんか一度も着たことなかったんだからな』
「でも、お兄さんには世界を打ち砕こうとした星の魔術師と戦った記憶があるよ」
『俺様にも、その記憶があるぜ。悲しい戦いだった。まさか星の魔術師が、恋人の延命のために世界を攻撃していたなんて。でも、俺様たちは恋人の「もうあの人を解放してあげて」っていう願いを叶えるためにも戦うしかなかったんだ!』
だから、それはアニメの内容!
「そんなことより、まずは家での過ごし方をおさらいするのです。そこに正座するのです。リュカも、飲み会で女装するのはやめるのです」
征四郎の説教も大人二人は聞いていない。それどころか、盛り上がって新たな力を手に入れるために修行だーと拳を振り上げている。
「随分とにぎやかだな」
ユフォアリーヤを膝に乗せながら、遊夜は呟く。一方で、婚約者として扱われているユフォアリーヤはご機嫌であった。お茶と子供たちが作ったクッキーを食べながらたわいもない話で笑いあう。
「なんだ、甘えん坊だな?」
頭を擦り付ける、ユフォアリーヤ。
『……ん、ふふ』
自慢の尻尾をぱたぱたさせて、ユフォアリーヤは幸せを噛みしめる。婚約者だという嘘をついてしまったけれども、今この時は確かに幸福であった。
嘘が本当になったなら小さな教会で真っ白なドレスを着て――鐘の音を聞きながら、子供たちと友達に祝福される。遊夜のタキシードは、白か黒かは分からない。どちらでも素敵だと思うし、指輪だってダイヤのはいらない。ただ隣に並んで、永遠の愛を誓ってくれさえくれればいい。
『……ん、幸せ……ユーヤ、愛してる』
「そうか……俺も、愛してるよ」
遊夜は、悪戯が成功した子供みたいに笑った。
――もう記憶は戻ってるが……まぁ、言わぬが花かね。満更でもないし、もう覚悟は決めたからな。
●記憶もどりました
雨月は、どこか真剣な顔で戻ってきた。
「……メルアド、いっぱい教えてもらってしまった」
頭には、いつもは花が飾られているが今日に限ってはメモ帳の切れ端ばかりがはさまれている。そこには、女性たちのメールアドレスが。本人は途方に暮れているが、羨ましいばかりのモテっぷりを発揮していたようである。
『戻った、良かった、まじで良かった……!』
艶朱は、心の底からほっとしていた。
これで家に帰った瞬間に、俺の命日決定という事態にならなくてすむ。
「ほ~。随分と楽しい写真じゃないか、伊邪那美?」
『まぁーねー、恭子ちゃんは何か希望が……って、もしかして恭也さんでしょうか?』
「ああ、記憶を一時的に失ったが元に戻った恭也さんだな……何か言い残す事はあるか?」
記憶を取り戻した恭也とジャックに追い詰められていたのは、咲良と伊邪那美であった。
『……で? 遺言は?』
ジャックは、刀を構えて咲良に詰め寄る。
「……ごめんなさい……でも! 可愛いジャックちゃんが見れたから後悔してません! 撮った写真は画像編集して、避暑地に行ったとか、屋敷で撮影したっていうふうに加工する予定だよ」
『よし、死ね』
全く反省の色が見えない咲良のカメラが、ジャックに狙われる。
『むむっ、画像編集か。ボクじゃできないから、恭子ちゃんの分もお願いね。背景は、高校生が遊びに行きそうなカフェとかカラオケでお願い』
「反省をしろ、馬鹿者が!」
握力に物を言わせて恭也は、伊邪那美の頭を鷲掴みにする。
『割れちゃうー』
「下らん事を企む頭なぞ割れてしまえ」
征四郎も、悲鳴を上げていた。
なにせ、ガルーとリュカが新たなるプリプリの必殺技の開発に取り組んでいたのだから。
「リュカも、ガルーも。いつも通りでいいのです! もう、早く戻ってきてください!」
『ホワイト&ブラック・オーロラビームって……もう何色なんだか』
オリヴィエは、とうの昔に力尽きていた。
保護者組の必殺技開発の熱についていけなくて。
「征四郎が望みすぎたのがいけないのです。はしゃぎすぎても、女装しても、お風呂上がりに裸で歩いても怒らないから、元のガルーに戻ってくださーい!!」
『よーし、言ったな。言質とったからな』
ガルーが、ガッツポーズで喜んだ。
その光景に、征四郎とオリヴィエの表情筋が死んだ。リュカは「バラすのは、もうちょっと後の方がよかったかもしれないね」とほほ笑んでいた。
『ガルー。おまえたちの新たな必殺技で塵に帰れ』
「オリヴィエ、お手伝いします」
征四郎とオリヴィエ、二人の気持ちが二つになって新たな必殺技(物理攻撃)が産声をあげた。
『……ん、ユーヤ』
「なんだ?」
『子供たちが真似するといけないから……お風呂上りの裸はお母さんとしてはちょっと困る』
「わかってる。いつでも、立派な父親でいないといけないからな」
『でも……たまになら、だらしないお父さんでも許してあげようかな? 嘘もお相子だし』
くすくすと笑うユフォアリーヤに、「かなわないな」と遊夜は肩をすくめた。
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結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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