本部

敵は過去にあり

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/03/05 21:30

掲示板

オープニング

●過去の記憶
 幼い少女たちは、つぶれた工場にこもっていた。
 ここにはいれば、自分たちを追ってくる愚神から身を隠すことができるであろう。ミヤマは身構える。もしものときは、自分が身を挺してでも親友を守らなければならない。
「サナ、ここなら大丈夫よ」
 そう伝えようと思ったのに、どうしてだか声がでない。
 一般人のサナをミヤマは守らなければならないのに……どうして自分の声がでないのだろう。

●現状
「愚神討伐のために向かったリンカーの一人が、愚神を連れて戦線を離脱しました。今は、つぶれた工場に隠れているようです」
 HOPEの支部の職員が、込み入った事情の説明を始める。
 事の始まりは珍しくもない事件。
 とある廃墟に愚神が出るという噂を、リンカーたちが調査しに行った。そして、そのまま戦闘になった。だが、戦闘に参加していたはずのリンカーの一人が愚神を連れて逃げてしまったらしい。
 逃げたリンカーは、ミヤマ。
 二十代の女性は、今まで淡々と任務をこなしてきた中堅どころであったらしい。素早く敵を穿つ姿は、蜂のようであると噂される女性でもあった。
「ミヤマさんに親しい友人とかいませんか。なにかしらの理由は必ずあると思うんですけど」
 リンカーの質問に、職員は困ったように首を振った。
「残念ながら、ミヤマさんは親しい友人は亡くなってしまっています。彼女が亡くなったことでで、ミヤマさんは心を閉ざしてしまっていたようです。また、彼女は喋ることができず、普段の会話も筆談ですませていました」
 数年前に病でなくなった友人の名前は、サナというらしい。
「ですが、ミヤマさんが逃げた理由はほぼ判明しています。今回、ミヤマさんたちが戦っていた愚神は「過去の記憶を今起こっていることだと錯覚させる」という能力を持っていたようです。そして、ミヤマさんは過去に友人のサナさんと共に事件に巻き込まれています。どうにもミヤマさんは、過去の事件を今回事件であると勘違い――つまりは、愚神から親友を自分は守っていると思っているようです」
 幼いころ、ミヤマはサナと共に愚神に追われた。当時すでにリンカーであったミヤマはサナを守ったが、当時の愚神が吐き出したガスを吸ってミヤマは声を失った。そして、サナは胸を患ったという。
「当時の事件の状況から考えるに、ミヤマさんは自分たち隠れている場所にやってきた人間を倒すために行動するでしょう。昔の愚神と間違えて」

解説

・愚神の討伐およびミヤマの救出

・ミヤマ……素早い女性リンカー。今は喋ることができない。ナイフと拳銃が武器。ナイフのみ何本も代用品を持ち歩いている。自分が不利であると判断すると、サナと共に逃亡しようとする。サナを最優先で守る。
拳銃――敵が遠距離にいるときのみ使用。だが、跳弾の可能性を考えてあまり使いたがらない。
二刀――予備のナイフを持ち出し、クロスを作って相手の技を防御する。
急所えぐり――素早く相手に接近し、敵の心臓や喉元をえぐり取ろうとする。
油断大敵――急所えぐりの技を防御・回避された時に使用。自分の動きの軌道を変えて、相手を攻撃する。

・サナ……愚神。ミヤマにはサナに見えているが、実際は全く似ていない少女の形をした愚神である。「過去の記憶を今起こっていることだと錯覚させる」という技は、他の人に使うことはできない。
 思い出――ミヤマへの洗脳を深め、ミヤマの攻撃力と素早さを上げる。
 つながり――自分とミヤマの防御力を上げる。
 切り捨て――ミヤマの洗脳が切れた場合、ミヤマの今までの技や能力を自分が引き継ぐ。その場合、ミヤマは大ダメージを負う。

影……黒い人型の従魔。死神のような斧をもち、工場の影から人知れず現れる。多数出現。

工場(昼)
かつてミヤマとサナが隠れていた場所でもある。数年間放っておかれた場所のため、あちこちガタがきている。なお、すべての部屋の従魔がいる。
休憩室……テーブルや椅子などが置かれているが、下記の部屋より物は少ない。
作業室……とても広い部屋。ミヤマとサナが隠れており、見つけると戦闘になる。道具が置きっぱなしになっているため、小回りが利かない。
倉庫……作業室の隣の部屋。プラスチック製品の部品が棚に詰められており、不用意に暴れると崩れてくる。
社長室……小さい部屋のため、大人数で動き回ることが難しい。当時のテーブルなどがまだ残っている。

リプレイ

 もう何十年も前に、不景気でつぶれた工場。社名が書かれたペンキははがれ、今やそこがなにを作っていた工場であるかも分からないありさまであった。そんな、寂しい場所にリンカーたちは集まる。
「面倒な状況になったものだな」
 柳生 正義(aa4856)は、地震がきたら潰れてしまいそうな工場を眺めながら呟いた。HOPEの調べが確かならば、愚神の力で錯乱したミヤマはここに立てこもっていることになる。
『とはいえ、放置する気もないのでしょう?』
 ボリス アンダーヒル(aa4856hero001)に尋ねられて「依頼だから当然だ」と正義は返した。
「人の古傷につけ込むやり方は、気に入らんな」
 御神 恭也(aa0127)は、わずかに眉をひそめる。愚神のやり方に、強い嫌悪感を持っていると言いたげな顔であった。
『……どんなにつらい過去でもやり直す事なんか出来ないんだよ』
 伊邪那美(aa0127hero001)も、まるで自分が傷ついたかのように顔を伏せた。失った友人に成り代わり自分の警護をさせている愚神を許せないとも思い、同時に心から慕う友人を失ったミヤマの心の傷を伊邪那美は想像してしまったのだ。
『過去を掘り起こしてくる輩なんざ、対象が俺じゃなくてもいい気がしないな』
 ベルフ(aa0919hero001)の言葉は飄々としていた。だが、付き合いの長い九字原 昂(aa0919)は、その声にわずかに別の感情をベルフがにじませているような気がした。
「内面に踏み込まれる気がするから?」
『脛に傷持つ身としては、ありがたくない話だ』
 俺の過去はここで追及してくれるなよ、とベルフは呟いた。
「いい年してまんまと洗脳されるとはねぇ。それだけ敵の洗脳術がうまく出来ているってことかい? どっちに転んでもこいつは面白いねぇ」
 飛龍アリサ(aa4226)は、笑う。
 地球の科学力では、人間を洗脳するための決定的な理論や技術は確立されていない。どれもこれもが不完全なまがい物ばかりだ。だが、今回の愚神はミヤマを完全に操ってしまっている。アリサの興味は、そこにしか向いていなかった。
『ライヴスを使って愚神を洗脳する手段が見つかるかもしれないですよねぇ』
 黄泉(aa4226hero001)も、アリサが嬉しそうにせいているせいなのか笑みをこぼしていた。
「洗脳ねえ……はぁ。わざわざ気ぃ使うとか、マジめんど……」
 洗脳と聞いたツラナミ(aa1426)は、仕事前の一服をもみ消しながら呟いた。相手は自分たちを愚神と思い込んでいる可能性あるとのことだが、本当にそうならば面倒くさいことこの上ない。だが、この面倒な依頼に何か思うところでもあるのか38(aa1426hero001)はいつも以上に寡黙であった。
『‥‥‥‥‥』
「……どうした」
『‥‥‥‥べつ、に』
 変わらない38の表情からは、なにかを読み取るのは難しい。だが、藤咲 仁菜(aa3237)は自分と同じように38はミヤマを守りたいのではないだろうかと思った。
 ――できることならば、ミヤマの心も体も守りたい。
 仁菜の心を見透かしたように、リオン クロフォード(aa3237hero001)が『危ないかもしれないよ』と声をかけた。
「私の我儘で、そんな事を優先したら危ない戦いになるって分かってる。だから、……仲間は私が責任を持って無事に帰すね」
『なら、ニーナは俺が責任をもって家に返すな。大丈夫、俺がついているから』
 いつもの調子のリオンに、仁菜はくすりと笑ってしまった。
 そんな様子を見ていたナラカ(aa0098hero001)は、小さく呟いた。
『……叶うならば彼女らが本懐を果たした上に、ミヤマもまた立ち上がる為の光が得られん事を、だな』
 ナラカは、ミヤマに特に思うところはない。
 だが、そんなミヤマを救おうとする仲間には大いに期待してしまうのだ。
『覚者もそうか?』
 八朔 カゲリ(aa0098)のほうに、ナラカは視線を向ける。
 カゲリはいつもと変わらぬ顔をして「愚神に踊らされているものであっても、彼女が望む儘に成せば良いんだ」とだけ答えた。
「彼女を救うとするなら、それは俺の領分ではない。俺は所詮、敵を滅ぼす焔でしかないのだから」
 カゲリは、ミヤマに憐憫の情などを抱かない。だからこそ、自分では彼女を救うことはできない。カゲリは、そう語る。
「後悔はいつまでだって自分の心を苛むものだよ。時間は痛みを確かに和らげるけど、傷跡まで消してはくれないからね」
 木霊・C・リュカ(aa0068)は、カゲリに微笑みかける。その言葉を聞いたオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、首をかしげた。
『前を向いて生きるべきか?』
 その問いにリュカが答える前に、柳生 沙貴(aa4912)が呟いた。
「……前を向くことができないのだったなら、ミヤマさんはリンカーは辞めるべきだったと思います」 

●工場の内部
「愚神から守る――か」
 工場に入った大門寺 杏奈(aa4314)は、小さく呟いた。
『杏奈……やはり、思い出しますか?』
 レミ=ウィンズ(aa4314hero002)は、杏奈を思いやる。杏奈も過去に大事な人を亡くしている。だからこそ、ミヤマが今何を見ているのか杏奈にはよくわかるだろう。レミはそれを案じていたのだ。
「うん。だけど、今あの人が守っているのは愚神。絶対に倒す」
『そうですわね。早く目を覚まして差し上げましょう』
 そんな二人を切り裂くかのように、影の従魔が現れる。死神の鎌のような武器を持った従魔に対して杏奈は身構えるが、相手の方が早い。
「先輩方、難しいことはお任せします!」
 潜伏を解いた沙貴が、死神の鎌を受け止める。
『影が消える程あかく燃やそう、オヴィンニク』
 オリヴィエに召喚された小さな猫の灯が、わずかに周囲を照らし出す。
 沙貴が引き受けた影以外にも従魔を複数発見したオリヴィエは、フラッシュバンを使用した。
「あら、まぁ、これまたたくさんいるもんだね。あんまり大きな音は立てたくないんだけど」
『数が多い』
 オリヴィエは戦いながら、リュカに答える。隠れているミヤマに警戒心を抱かせたくないのは分かるが、静かに戦うのもなかなか難しい。
「人が踏み入れた痕跡を探してください。足跡でも、なんでもいいです!」
『これだけ古い建物なら、滅多なことでは人は入らなさそうだな』
 昂とベルフの言葉に、他の面々は必死に自分の足元を探る。女性のものらしい足跡はいくつかあったが、その数は多くどこに潜伏しているのかを足跡だけは判別できない。
「……ミヤマさんの現年齢的に、狭いスペースに二人で隠れるには無理がある。かといって休憩室は隠れられる場所が少なすぎる。安全に隠れるなら作業室一択だろ」
 ツラナミの言葉に、38は『……今日は冴えてるね』と呟く。
『上手く引き離せると良いんだけど……』
「ああ。偽りとは言え、大切な者を再び失う辛さを味合わせる訳にはいかんな」
 伊邪那美は祈る。
 愚神を倒すことはおそらく簡単であろう。
 だが、自分たちはそれよりも難しいことをしようとしている。
 そのためには――人の心を救うためには――祈ることしかできなかったのである。

●ミヤマが見る幻
 作業室はとても広い部屋であった。
 テーブルや椅子などが置かれていたが、どれもこれもが壊れる一歩手前である。ミヤマが子供時代にここに逃げこんだ時も、おそらくは似たような風景であったことだろう。
「あなたが、ミヤマさんでしょうか?」
 杏奈は、部屋の角にいた女性に語りかけた。彼女の傍らには、少女の形をした愚神がいた。あの愚神が諸悪の根源であり、悪夢の元なのだ。だが、アレを倒すにはまだ時期が早い。
 杏奈は、守るべき誓いを使用する。噂の通り素早い攻撃を得意とする彼女ならば……愚神を守ろうとしているのならば、最初の一撃はこちらの意表を突くための攻撃であることは予想できる。
『いつでも、来るといいですわ』
 レミの言葉にも、緊張がにじんでいた。
 突然、ミヤマの姿が消える。
 そして、気が付いたときにはミヤマは杏奈の懐に入っていた。
「杏奈ちゃん!」
 仁菜が使用していたリジェネーションが、ミヤマの攻撃を防ぎきれなかった杏奈の傷を癒した。それでも杏奈は、胸を押さえている。
『今、いきなり心臓をえぐりにきたよな』
 えげつない、とリオンは呆気にとられた。
「素早く、的確に急所を狙う……確かに蜂のようね」
 仁菜のリジェネーションがなければ、今頃は血の海であっただろうと杏奈は唇をなめた。
「だけど――それがどうかした? あなたの攻撃なんて、所詮は早いだけよ。戦っていれば、目が慣れる。そして、わたしには目が慣れるまでサポートしてくれる仲間もいるわ」
 仁菜のほうを、杏奈はちらりとうかがう。
『そのとおりだぜ。俺たちが杏奈をサポートしているかぎり、負けるはずがない。なにせ、二対一なんだからな』
 リオンは出来る限り、ミヤマを挑発する。杏奈によれば、ミヤマの精神年齢は少女時代まで後退しているはずなのだ。だからこそ、安い挑発にも乗ってくるはず。
「そっちは、戦えるのは一人だけなんだろ。そんなんじゃ俺たちを倒せないよー? もっと本気で掛かってきてくれないと!』
 ミヤマの姿が再び消えた。
 急所えぐりが来ると予測した杏奈は、盾を構える。目が慣れるといったさっきの言葉は、なにも挑発だけのことではない。どんなに早い動きでも、目はなれる。さっきは残像も見えなかった動きが、今はぎりぎりで捕えられる。ミヤマは今度も心臓を取りに来る、杏奈はそう確信していた。
 ――ナイフの軌道が変わった。
「油断大敵がくるよ!」
 仁菜の言葉通り、ミヤマの攻撃の軌道は心臓ではなく喉に切り替わった。
「くっ……。あなたの"守る"覚悟……見せてもらうわよ」
 ミヤマの攻撃を杏奈は、今度こそ完全に防ぎきることができた。だが、ミヤマの攻撃は止まない。杏奈は、それを後退しながらも盾でしのぐ。
 ミヤマは、ナイフを握りなおす。
「来なさい。私一人倒せないようじゃ、あなたの大切な友人だって守れはしないわ」
『どうやら、まだ作戦はミヤマにバレてはいないようですわ』
 レミの言葉に、「そうじゃないと困るよ」と小さく杏奈は返した。
「くっ……」
 杏奈が胸を押さえながら、わずかに体を折り曲げた。
「杏奈ちゃん!」
『回復が間に合わなかったか!』
 リオンの叫びが合図になったかのように、ミヤマが一気に杏奈との距離を詰めた。
「今よ!!」
 杏奈の叫びと共に、リオンは待っていましたばかりに攻撃を放つ。
『冷魔、天井を壊せ!!』
 冷気の狼が、古ぼけた工場の屋根を破壊する。
 音をたてて崩れる屋根だったものたちと埃に、その場にいた全員が身構える。ミヤマはそのときになって、ようやく自分が戦っているものが囮であると気が付いた。自分とサナを分断させるために、愚神が罠をはったのだと。ミヤマは大きな声で、サナの名前を呼ぼうとした。だが、どうしてか自分の喉からは言葉が出てくることはなかった。
 
●愚神が見ている現実
 屋根を崩れる音を聞きながら、ナラカは呟く。
『第一段階は上手くいった、というところか?』
 年季の入った工場の屋根は思ったより脆く、舞い上がった砂塵や誇りにさすがのカゲリもわずかにせき込む。
「……彼女を救うと願うのならば、本当の闘いはここからだ」
 カゲリたちの視線の向こう側には、少女がいた。ミヤマが守ろうとしたサナではなく、彼女を語る愚神である。
「人の傷口にへばり付く寄生虫が、ここで潰れろ……」
『……誰にでも触れちゃいけない領域があるんだよ。そこに触れるキミに慈悲は無いんだから』
 恭也が攻撃の構えをとる。
 そのとき、銃声が響いた。
 だ積み重ねられた瓦礫の隙間を見つけたミヤマが、発砲したのであった。分断のために壊した屋根だが、思ったより降り注ぐ瓦礫の量が少なかったのだ。
「僕が、ミヤマさんを押えます」
 昂が、前に出る。
『ここでミヤマと愚神に再会されたら、苦労が水の泡だからな』
「ええ、二人の分断は最優先事項です」
 昂は女郎蜘蛛を使用し、ミヤマの動きを拘束しようとした。
「ミヤマ……お願い。あの日みたいに私を守って」
 愚神の呟きと共に、ミヤマの動きがさらに素早くなる。愚神が思い出を使用し、ミヤマの攻撃力と素早さを上げたのである。
『最初からすばしっこい奴が、さらに早くなったら手に負えない。これはもう、奥の手を使うしかないようだな』
「そうですね。僕としては、もう少し温存しておきたかったんですが」
 ベルフの助言を聞いた昂は、猫騙をしかける。
 ひるんだミヤマに向かって昂は、ハングドマンを使用する。ワイヤー部分を使って、ミヤマの腕を拘束した。
「きみは、他人を強化するタイプの愚神なんだろう?」
 アリサは、愚神にライヴスショットを打ち込みながら口を開く。
「それも面白い威力だが、愚神として生まれてしまった君は実に不幸だ。君が持てる唯一の存在価値、それはあたしの科学を完成させるための生贄になることさ」
『悪い子はボクのオモチャにしちゃうのですぅ。社会の病巣に与える慈悲はないのですぅ』
 いっそミヤマの目の前でもいいので、愚神を葬ってしまおうかとアリサは考える。ミヤマは友を失ったがそれでも今まで戦い続けてきたリンカーである。医者のサポートが必要になるかもしれないが、医者とはそういうときのために研究を重ねている存在なのである。それを知っているからこそ、アリサは愚神に止めを刺す覚悟でライヴスブローを打ち込む。だが、アリサの攻撃は愚神に致命傷を与えなかった。
「ダメだよ。私とミヤマは、繋がっているから」
 愚神とミヤマの防御力が、上がっている。
 つながりを使用して、愚神は自分とミヤマの防御力をあげていたのである。
「そこまで堅くなっているいなら、建物の倒壊に多少巻き込まれても大丈夫そうだな」
 ツラナミはフリーガーファウストを障害物に打ち込み、ミヤマと愚神の障害物をさらに増やしていく。
「……こんなもんか。これで俺の仕事はおわ」
『終わってない』
 サボろうとするツラナミを38が咎める。
「へーへー……何時も通りじゃねえか」
「そうです。時間稼ぎはできるでしょうが、安心はできません」
 正義は、額の汗をぬぐった。
「話せない、という明確な違和感に気づけば洗脳が解けるかもしれません」
『普通なら歓迎すべき材料なんですがね』
 ボリスの言葉通りであった。
 洗脳が解けてしまえば、ミヤマは二度も親友を失うことになる。
『どちらかといえば肉体のダメージの方がましですかね』
「確かに、リンカーは肉体的に頑丈で傷の治りも早い。それに比べて精神のほうは、癒すのが厄介だ」
 今のうちに愚神を倒さなければならない。
 だが、上手くいくだろうか。
『言うだけならシンプルですが……そう上手くいきますかね』
 ボリスが不安を読み取ったかのように、そんなことを聞いてきた。
「やらなければならない。それだけだ」
 正義が身構える。
「あなたたちの相手は、こっちです」
 正義の側まで近づいていた従魔を、沙貴が薙ぎ払う。
 ――隠れながらのんびり行こう。一匹ずつ順番だ。本隊に向いた敵には背後から直撃を狙える。
 身軽な沙貴は、愚神に立ち向かう先輩リンカーたちの露払いのために戦い続ける。その軽快な動きは、ポイントマンの一族が受け継いできた動きであった。
――斥候《ポイントマン》らしく、僕はフィールドの確保に専念しよう。
 自分ならば、障害物の多い場所ですらスピードを殺さずに動くことができる。その自負の背負いながら、沙貴は従魔を屠る。
『愚神との戦いに集中しろ。従魔と障害物は、俺たちがなんとかする』
 オリヴィエは弱点看破を使用し、最小限の攻撃で従魔を仕留めていく。
「そろそろ、おかしいって思い始めている頃かもしれないね」
 リュカが、呟いた。
 誰が、とはオリヴィエは聞かなかった。
「昔は喋ることができたのに、今が喋ることができない。その違和感を、どこかで自分だって感じてるはずだからさ」
『そうだとしても』
 今のオリヴィエにできるのは、従魔を倒して仲間のサポートをすることだけだ。
『……ミヤマが更に心の傷を負うようなことにはならないといい、とは思っている』
「お兄さんも、この事件が停滞した物語が再び回る切欠になればと思ってるよ」
 オリヴィエの言葉を聞いていた沙貴は、動きながら唇を開く。
「……こんなことは何度でも起きます。そもそも、話せない程の傷を負った人が戦場にいるべきじゃありません。休養するべきです」
「そうかもしれないね。でも、抱えて生きるのもまた人生だよ」
 オリヴィエにだけ聞こえる声で、リュカは静かに呟いた。

●違和感から真実へ
 ミヤマは拘束されていた。
 昂のハングドマン、仁菜の鞭、そしてもしものために攻撃のかまえをとっていた杏奈が近くにいた。ここまで愚神に囲まれてしまえば、もうミヤマにできることはない。
 早く逃げて、とサナに伝えたい。
 だが、言葉がでない。
 ――ああ、そうだ。私の喉はもう。
『何か、おかしいですわ!』
 レミの言葉に杏奈は、目を見開く。昂と仁菜に拘束されていた、ミヤマが苦しみだしていた。二人が拘束の加減を間違ったとは思えない。
「最悪の事態ってことなの?」
「気を付けてください!」
 昂が、大きな声で叫ぶ。
「愚神がなにかをしようとしているようです!!」
『なんらかのダメージを受けているようだが……』
 ベルフが分析を終える前に、仁菜がエマージェンシーケアを発動させる。大幅に体力を消耗したミヤマの回復を仁菜はとにかく急いだ。
「ミヤマさんはもっと仲間を頼ってください! 今回みたいな多勢に無勢でも一人で敵を倒しに行くんでしょう? ミヤマさんも大切な仲間ですからね!」

●真実は愚神の力に
 カゲリが瞬きした瞬間に、愚神の姿が消えていた。
『覚者、気が付いておるか?』
「ああ」
 ナラカの言葉に、短くカゲリは頷く。構えていた剣を、盾に代えている時間はもうない。なぜならば、敵はすでにカゲリの眼前にいた。
『この蜂のような動き。ミヤマの技か?』
 喉元を狙われたカゲリは、剣でナイフを受けて攻撃を耐え忍ぶ。
「今回操られたリンカー。彼女はおまえにとっては、格好の鴨だっただろうな」
 少女の形をした愚神を振り払い、カゲリは言葉を紡ぐ。
「過去を変えたいと思う者ほど、おまえの術中にはよくはまる」
「ミヤマをかわいそうだなんて、思っているのかしら。思い出のなかの友人を守っているつもりで、実際は愚神を守っている――馬鹿女を!」
 愚神の言葉に、カゲリは盾を構えながら答える。
「俺は、彼女を理解はしても共感しない。そして、他者を操ることしかできないおまえに同情もしない」
 カゲリと愚神の間に、恭也が入り込む。
「切り捨てを使わせる訳にはいかなかったが……」
『無駄に終わって欲しかったんだけどね』
 伊邪那美が悲しげにつぶやく。
 ミヤマはきっとすべてを思い出して、傷ついているだろう。それを思うと、やりきれない感情が伊邪那美のなかで渦巻いていた。
「安心しろ。医者として、精神科の受診ぐらいは進めておく」
 アリサは、愚神に狙いを定める。
『本当は洗脳の被害者として解剖したいところなんですけど……他の人の患者さんになってしまったら、ちょっとつまらなくないですか?』
「そちらの件も問題ない。元凶が目の前にいるのだから、こちらを解剖すればいい離しだろう」
 『そうですよね』という黄泉のお気楽な声を聴きながら、ライヴスショットを打ち放った。
「遅い、遅い! 今の私には、そんな攻撃は止まって見えるわ!!」
「俺にも、そっちの姿は見えてるぜ!」
 正義は、目からビームを出す。目にビーム用のコンタクトレンズをつけているだけなのだが、見た目からして結構なインパクトである。
『ファンシーな盾の次は目からビームですか……。色物を目指しているのですか?』
「格好など気にしていられる状況か!」
 そのインパクトしかない光景に、愚神の目は一瞬奪われた。
 その隙に、恭也が愚神に近づく。
「よそ見とは、余裕だな」
「そんなんで、隙をついたつもりか。私のほうが、まだ早い!」
 愚神は、笑みを浮かべながら彼の心臓をえぐろうとする。だが、恭也はぎりぎりのところで体をずらし、愚神の攻撃を肩で受けた。
「なっ――!」
「肉を切って骨を断つって奴だ。人の技を盗んでも使いこなせるかは別だろ」
『徹底的に、殴って。ボクの分まで、力いっぱい!!』
 許せないんだよ、と伊邪那美は叫ぶ。
「今日は、気が合う日だな。俺も、力いっぱい殴りたい気分だ」
 恭也のオーガドライブが発動した。

●今はただ
 ――すべてを思い出した。
 ――今は、喋れていた子供の頃ではない。
 ――もう、喋れなくなった大人なのだ。
 愚神を倒し、解放されたミヤマは少しばかりぼんやりとしていた。洗脳の後遺症なのかもしれないし、心的外傷なのかもしれない。
『何か、言いに行かなくていいの?』
 38が、隣にいるツラナミの顔を覗き込む。
「……心のケアなんてのはやりたい奴がやるだろ。つーわけでさっさと帰るぞ……めんどくせえ」
『……ん』
 それでも38は気になって、後ろを振り返る。昂が、ミヤマに筆記用具と紙を手渡していた。喋れない彼女のために、わざわざ持ってきたのだろう。
『病院に行くほどでの怪我ではないんだな?』
 ベルフの言葉に、ミヤマは『大丈夫です』と記述する。
 昂もほっとしていた。
「ミヤマさん、休むべきだったんです。話せないぐらいの傷を負ったのなら、後輩や仲間に任せて……ミヤマさんは休むべきだった」
 沙貴がミヤマに向かって、そう言った。
「たしかに、心の傷を甘く見るべきではないな」
『お医者さんの話を聞かない悪い子は、特性の注射をしちゃいますぅ』
 アリサも医者として、進言する。
 それに対してミヤマは『私は戦い続けます』と記した。
 その言葉に、恭也はミヤマの恐怖を見たような気がした。おそらくは、彼女は戦い続けることで友を失った心の傷に耐えているのだろう。
「……過去を忘れろとは言わんし、悔やむの良いだろう。だが、本当の歩みは止めるなよ」
 ミヤマは、こくりとうなずいた。
 そして、最後に
 ――次は、同じ敵に挑む仲間として会いましょう
 と記した。
 杏奈はそれに「そうですね」と返し、仁菜は「もちろんです!」と強く拳を握った。
「救われてもなお、戦い続けることを選ぶのか」
 カゲリの言葉を聞いていたリュカは、くすりと笑った。
「大丈夫。あの人は、今度は何かあったら助けを求められるよ。だから、戦えるって判断したんだと思う」
 大人は色々と複雑なんだ、というリュカの言葉にオリヴィエは何も言わなかった。
『……ツラナミも、無理だと思ったら頼っていいよ』
 38の言葉に、ツラナミはふぅっと紫煙を吐き出した。
「マジめんど……」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 愚者への反逆
    飛龍 アリサaa4226
    人間|26才|女性|命中
  • 解れた絆を断ち切る者
    黄泉aa4226hero001
    英雄|22才|女性|ブレ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • エージェント
    柳生 正義aa4856
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    ボリス アンダーヒルaa4856hero001
    英雄|22才|男性|ドレ
  • 戦い始めた者たちへ
    柳生 沙貴aa4912
    獣人|18才|男性|攻撃



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