本部
真冬に!? ホラーパーク
掲示板
-
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/02/19 00:23:43 -
相談卓
最終発言2017/02/18 20:28:24
オープニング
●グロリア社は遊園地を持っている。
そのグロリア社製遊園地の夏の目玉として、現在いくつか企画が持ち上がっている。
「夜の遊園地は雰囲気を変えてホラーなんてどうかしら」
遙華は告げた。
「もう八月まで六か月しかないし、大きな細工や、新しい施設を作っている暇はないわ。だからできるとしたら、もともとあるものを別の角度で見せることだと思うの」
その遙華にロクトは問いかける。
「それで具体的に何をするの?」
「だから、夜の遊園地に人をいれて、ホラーな体験をしてもらいながら生存者を探してもらうわ」
その言葉にロクトは身を乗り出した。
「つまり」
遙華が語ったのはこうだった。
参加者にはチームになってもらう。チームは二人から四人。
チームメンバーはそれぞれ遊園地の別の門から中に入ってもらい、お互いを探すというのが主目的。
メンバー全員がそろうことでカードキーが使えるようになり、遊園地から脱出できるのだ。
「世界感は様々な悪霊が蘇ってしまった国。いろんな種類の悪鬼羅刹を遊園地に解き放つわ」
それから身を隠したり、よけながら遊園地を探索してもらう。
「基本的に携帯電話の持ち込みは禁止、ただしお互いが見つけやすいように仕掛けを施す」
ここで使うのが遊園地のアトラクション。
アトラクションに乗ると、そのアトラクションに登場履歴が残り、チームメンバーはすでにそのアトラクションに乗ったか判別できる。
さらに同じアトラクションはチームが合流してからじゃないと乗れなくなる。
「どうかしら」
「ふむ。面白いとは思うけど。それって、考えているようにうまくいくかしら」
「一度実験してみる?」
遙華は告げる。
「リンカーに募集をかけて、この形式で遊んでもらうの。で感想を聞く」
「まぁ、そうね手を付ける前に反応を見て見たくはあるから、いいわ。段取りは任せてもいい?」
「ええ、頼みにしててねロクト」
●遊園地について
そんなに広くありません。二キロ四方の空間にアトラクションが ぽつぽつとならんでいるだけです。
この死角の対角線上にバッテン(×)を引いて、大体のエリア区分がされています。
北エリア
建築物がおかしめいていて、ヘンゼルとグレーテルがモチーフの街並みです。
食べ物屋さん、レストランが集中しており子供から大人まで手軽に食事がとれます。
ただ、今回はホラー仕様なので定員さんは魔女です、血まみれ男が追っかけて来たり、ふむとぶにっとする床などあり、ちょっと猟奇的です。
アトラクションは下記の通り
・人形の館
小さい人形が歌を歌ってくれます、その中を通るだけの子供向けアトラクションですが。
内装が血みどろになっている上に、呪いの歌を歌ってきます、全部聞くと呪われるそうです。
・魔女の家。
本来は内面全部がふわふわで、飛んだり跳ねたりできる子供向けアトラクションですが、今回は灯りが落され、足場が不確かな家から脱出するというアトラクションになります
西エリア
比較的明るいです。遊園地定番のアトラクションがギュッと凝縮されており、みなみエリアにかけて川が流れております。
かわの周辺にはルサールカがいるので注意です。水に引き込まれます。
・観覧車
紫や青で光っておりますが普通の観覧車。もしかすると探し人が見つかるかも?
・メリーゴーランド。
普通のメリーゴーランドかと思いきや、途中で止まって逆回転し始める。
地味に怖い。
・ジェットコースター
お腹をロックして宙ぶらりんのまま出発するタイプ。純粋にかなり怖いので、特に怖さUPの演出はされていない。
東エリア
さまざまな舞台セットが混在している。
路地を曲がれば西洋の街並み、また路地を曲がればロンドン風。
また曲がれば江戸時代の街並み。
通称モザイクタウン。
お土産売り場が豊富、被り物やなりものや、ちょっとしたファーストフードもあるが、店員さんは全員ゾンビ。
清姫が徘徊しているので注意。
ながく遊べるアトラクションが多い。
・謎解き、ホームズは君だ
町に隠された暗号やなぞなぞをときながら、キーワードを集めて、そのキーワードをホームズ(ゾンビ)に伝えると景品がもらえる。
問題はちょっと難しめで
「1 1 2 3 5 8 13 21」の法則性はなんでしょうなど合計五問
・韋駄天パルクール
グロリア社考案、高く飛べて落下しても痛くなくするブーツを使って、モザイクタウンの建物の上を駆けまわることができるアトラクション。
特にゲーム目的はなく、満足したら帰ってきていいらしい。
パノラマタウンから出ると靴の効果は消える。
ちなみに清姫はこのブーツを履いてても平気で追いすがってくる
南エリア
大きな湖があり、水をテーマにしたアトラクションが多い。
ただし、夜になると この湖は赤く染まって見える。
さらに豪華客船が浮かんでいるが、あれはレストランで、今回は侵入不可能。
夏はビーチが解放されているが、冬なので水着の貸し出しはしてない。
・小舟
赤くライトアップされた湖へ、優雅に漕ぎ出してみてはいかが?
ただ、生きて帰ってこられる保証はないですが。
あと、たまにルサールカさんがALブーツで追いかけてきます。
・ウォーターダイバー
湖の下を通っているジェットコースター。恐怖度低め。
地底洞窟をテーマにしており、奇声が聞こえたり蝙蝠が飛び立ったりするくらいであとは普通。
・アクアガンナー
寒いので最近屋内に引越しした。
水着に着替えて、色つきの水鉄砲で打ち合うゲーム。
対人戦とCPU戦を選べる。
今回はゾンビのVRを相手に走ったり隠れたりしながら戦うガンシューになってる。
夏はそのままビーチに繰り出せるから人気は高かった。
● 特別ゲスト。
・血まみれ男さん
血まみれの袋と包丁を持ってきて、参加者を永遠と追いかけてきます。
捕まると遊園地中央の檻に閉じ込められますが、参加者の持つカードキーであきます。
・ヴァンパイアさん
割と友好的ですが、足音がせずいつの間にかそばにいます。
ことあるごとに血を要求してきますが突っぱねてください。
・ルサールカさん
濡れた女。主に水辺にいます、足は遅いのですが、じっと見つめてきます。
ちなみに遙華です。
服装が西洋ドレスにねとねとした液体がまとわりついているのでパッと見わからないかもしれません。
・清姫ちゃん
近くの高校の陸上部からスカウトしてきました。
着物の女性ですが、走って追いかけてきます。
めちゃくちゃ早いです。
あと、どんな仕掛けか分かりませんが火を噴きます。
解説
目標 遊園地を楽しむ
ルール
・参加者は二~四人で一組を作る(能力者と能力者、英雄と英雄など可能)
・それぞれの組に半分になったキーカードが渡される。
・それに合うキーカードを持っている組を探して遊園地内を徘徊する。
・スタート地点は東西南北、どこかの入り口で、ランダム。
・キーカードが完成した後は遊んでてもいいが、最終的には遊園地を脱出すること。
今回は、ちょっとゲーム感覚で遊びましょうと言う回です。
怖がりに来てもいいですし。
怖くない、遊園地楽しいでもいいです。
恋人とデートでもいいですし。
友達と遊びに来たってことでもいいです。
もっと言うと、エキストラと和気あいあいやってくれて構いませんし。
割となんでもありです。
あ、忘れてましたけど、春香はまぁ、人が余った時用です。
誰かのチームに組み込んでいただいて構いませんし、不要であれば遙華と一緒にルサールカがやってると思います。
それではよろしくお願いします。
リプレイ
●プロローグ
ホラーパーク、それは究極のドキドキとわくわくを提供する最強の娯楽、アトラクション。
外観はまさに恐怖、歪な造形と怪しい雰囲気、外壁は牢獄のそれであり、凝ったことに有刺鉄線まで取り付けてある。
中に入るのが不安になるほどに外観は徹底して不気味。
そんな恐怖に真っ向から立ち向かうように仁王立ちする女性が一人。『ジャガー戦士(aa4836hero002)』である。
「私こそが勇敢なるテスカトリポカのジャガー戦士……恐れるものなど、何一つない」
「……まあ遊園地のホラーくらい俺は平気だし、何かあっても心配せんでいいぞ」
そんなジャガー戦士の過剰なまでの気の入れようが『フェルナンド・ガルシア(aa4836)』は少し面白くなってしまう
「作り物のどこが怖い!!」
そんな尻込みするジャガー戦士のかわりに、さきにゲートをくぐったのは『まいだ(aa0122)』である。
まだまだおばけがこわい年頃のはずなのに揚々としているのは『獅子道 黎焔(aa0122hero001)』が隣にいるからという理由もあるのだろうか。
「ジェットコースター、ジェットコースター乗りたい!」
黎焔は残酷な真実を告げようか迷ったが、結局口にした。
「身長制限が……あるんじゃないか?」
ガーン、そんな音が聞こえてきそうなほどにまいだはショックを受けていた。
しかし。
彼女は溌剌としているところがトレードマーク、すぐに気を取り直して。メリーゴーランドを今度は楽しみに。
恐怖にあふれた遊園地へと足を踏み入れた。
● 世良さんの家族サービス。
「さあ、ホラーツアーに出発よー」
そう告げて『世良 杏奈(aa3447)』は拳を突き上げると『ルナ(aa3447hero001)』も一緒になって拳を突き上げた。
「ちょっと雰囲気が怖いけど、楽しめそうね!」
「えっ何ここ!? ただの遊園地ナイトツアーじゃないの?」
「それは見た感じそうでしょう?」
あっけらかんと答える杏奈。
四人は北口から入園したのだが。昼間はファンシーで子供たちに大人気の遊歩道も、お菓子の家も、夜というだけでなんだか毒々しく見える。
さらに昼間より圧倒的に人間の数が少ないので、それも不安をあおるのだ。
『世良 霧人(aa3803)』は半歩下がり、杏奈に問いかける。
「夜だからおかしいなって、普通だよねって聞いたのに」
「ふふふ、うーそ」
そう可愛く告げる杏奈の隣で『エリック(aa3803hero002)』はクレパスをかざしてあたりの光景を頭の中へと収めている。
彼はホラーが平気の様だ。
「行こうぜアニキ! 楽しいホラーツアーの始まりだぜ!
「うわあああ助けてえええ!!」
エリックに引きずられる様に霧人はヘンゼルとグレーテルの世界、その奥の奥まで引きずられていくことになる。
「怖いよー杏奈ー……。」
まだ何も出ていないというのに、霧人の恐怖ゲージは振りきれる寸前である。
杏奈にしがみつきながら歩いて、その手を離さない。最終的には杏奈に頭まで撫でられる始末。
普通逆じゃね? とエリックは思ったがこれは内緒である。
「私は平気よ?」
ルナが挑発するように告げる。
いや、違った、にやにやしながら霧人の顔を覗き込んでいるあたり挑発している。
「霧人ってお子様ね」
「こいつ~」
そうルナを抱き上げて振り回す霧人、楽しげな声を上げるルナに少し救われた思いの霧人である。
「うわー、可愛い町」
そんな、少し視点の高くなったルナは街並みを見渡すと、そう簡単の声を上げた。
大きなチョコレートや、クッキーで作られた設定の家々は、本当に今から食べることができそうに見えて、見ているだけで楽しいのだ。
「すごーい! お菓子の家よ」
「店員さん達、みんな魔女だぜ?」
エリックは売店の店員を見て告げる、そちらの方が彼にとって面白いらしい。
そうはしゃぐエリックとルナを見て杏奈は告げた。
「そう言えば、こうやって遊園地に遊びに来るのは初めてだったわね」
「うん」
ルナは元気いっぱいに答える。
「今日はいっぱい楽しみましょうね……」
突如杏奈は腕を引っ張られてよろける。
「うわっ何かブニュッて! 何か踏んだ!」
霧人が道端の柔らかい部分を踏んだのだ。ただのクッション生地なのだが。ネズミでもふん図家鷹のように気持ち悪がっていた。
いい雰囲気が台無しだが、杏奈は怖がりな夫を責めることはしない。
「レストランもあるわね。まずはご飯を食べて、それからどこに行くか決めましょう?」
たとえばー。そう言って杏奈はあたりを見渡す
「魔女の家とか」
夜ご飯はレストランで無難に取った。メニュー自体はどこのファミレスとも変わらない。
まだ開発中らしい。メニューもおどろおどろしいことになれば、より一層楽しめるのに。
そんな風に杏奈はアドバイスした。
「たとえば、インスマスサラダ」
「それはいろんな意味で危ないね」
その後世良家は約束通り魔女の家へ。
それは普通の一軒家程度の大きさだが、内装が全部クッションになっている。
ふわふわである程度弾力もあり、飛んだり跳ねたりぶつかったりできるので子供たちへの人気が高いアトラクションだ。
その中で子供たちは入り口とは別の出口を見つけて脱出するのが趣旨になる。
だがそんな魔女の家に、一人見知った女性がいた。
「我が家へようこそ……精霊が囁き、悪魔が引きずり込む家へ……あなたの後ろに見える?」
「あれ? あなた確か」
杏奈は首をひねる、明らかにスタッフではない見た目の彼女。
そうこの謎の呪文を発している女性はは仕掛け人ではなく、能力者『イングリ・ランプランド(aa4692)』の英雄で『ヴォジャノーイ(aa4692hero002)』という。
なぜこんなところにいるのだろうか。
「なんでこんなところにいるの? 何してるの?」
ルナが全ての疑問を一手にぶつけた。
「水の精霊ヴォジャノーイ。邪悪なるものよ」
「あ。はい」
「夜の世界に好き好んで足を踏み入れるなど愚かな……」
「子供か」
後ろから現れてヴォジャノーイの頭をひっぱたくインプリ。
「絶対やりたいでしょ! もうあたしここに住む! お客さん脅かす!」
そう体全体で飛び跳ねて見せるヴォジャノーイ。足元が揺れて転んだルナはキャッキャと笑い声をあげた。
「お客さん邪魔になるから、はい行きますよ」
そう引きずられていくヴォジャノーイ。哀愁漂うその姿姿を世良夫妻は見送った。
その後十分に楽しんだ世良一家は魔女の家を後にする。ちなみにこのアトラクションルナは喜んだがエリックには不評だった
「暗くてよく見えないし、床が柔らかくて歩きにくいわ」
そう感想を言い合う世良一家だったが。霧人はあたりを見渡している。
「さっき変な男を見たんだよぉ」
「これ、アニキのほうが変な男だぜ」
その直後である、後ろから肩を叩かれる杏奈。
「イヤァァ!!」
振り返れば血まみれになった男が立っていた。
しかし悲鳴を上げたのはルナ。ルナは反射的に血まみれ男の腹部に拳をねじ込む。
ゴポっと水音を立てて崩れ落ちる血まみれ男。
「逃げろーー!」
そう杏奈が叫ぶと家族四人で駆けだした。
● 南部ウォーターパーク
南国を意識した晴れやかな街並みの南エリア。そのエリア内に悲鳴がこだまする、絹を裂くような乙女の悲鳴だが、直後ダパンと水音がして収まった。
直後雨のように降り注ぐ飛沫。
「こういう時あれだよね、すごーい! たーのしー! って言うのが最近の流行りなんだよね」
実際のところそんなに楽しくなかったウォーターダイバーから降りると『木霊・C・リュカ(aa0068)』は告げた。
「やっぱり苦手だなぁ」
あまり怖くないと進められて乗ってみたが、乗らなければよかったと後悔するリュカ。そんな主に『凛道(aa0068hero002)』はタオルを差し出した。
「マスター、びしょ濡れですけど大丈夫ですか?」
「彼女にもタオル渡してくれる?」
「うう、寒いです」
そう震える『紫 征四郎(aa0076)』には『ユエリャン・李(aa0076hero002)』がタオルをかけた。
「園内は外よりは温かいであるが。それでも冬。きちんと髪を乾かすである」
「ああ、それは僕の」
「そうケチるものでもないだろう? オチビさんが風邪をひいてしまうである」
「すごくも楽しくもないです…………なんでこんな怖くしたのですか」
征四郎は突如うわ言のようにつぶやいた。
「遊園地がお化け屋敷なんて征四郎聞いてないのです…………」
「技術は大したものだと思うがなぁ。おチビちゃん……ん? あれはなんであるか? 人?」
ユエリャンは感慨深げにあたりを見渡すとある方向へ指を刺した、こわばる征四郎の体、不気味な気配を研ぎ澄まされた第六感で察したのだ。
「ここからではよく見えぬな、我輩はやく行きたいのである」
「ぴゃああ待ってください!!」
逆方向に走って行こうとする征四郎を捕まえるリュカ。
「うむ? お主は存外平気であるか、色男」
「まぁ、作り物だし、任務で出会った愚神の方がよっぽど怖いしね」
リュカは苦笑いする。
「でも絶叫系はあれで乗るのが最後と言ってましたよね? マスター」
「だって真面目に命の危機を感じるじゃないぃ……」
特に絶叫系は安全のために体が拘束される。それがさらにいけない。
なまじ、大抵のことは共鳴で何とかなるリュカであるため、動きも封じられ共鳴もできない状態での臨死体験など何が楽しいのか理解できない。
「ふむ、そう言う考えもアルであるか」
ちなみに、話しに夢中になっていて三人は征四郎を忘れていた。彼女は現在進行形でこちらに歩み寄っている謎の吸血鬼さんがお気に召さないらしい。
「きゅ、きゅうけつきさんが。征四郎の血を吸いに…………」
そうプルプル震える征四郎に凛道は告げた。
「わかりました追い払ってきます、そして次に現れたら首を刎ねればいいんですね」
「わー。血まみれ男さん二人目出来上がりだね」
リュカは楽しげに告げた。
「こっちのメガネは本職が処刑人であるからして、洒落にはなっていないが…………」
「早く鍵を探して脱出するのです!」
征四郎はたまらず声を上げる。
「焦ることないと思うのだが…………」
こうして四人一組は園内の散策を再開する。
自分たちの鍵の半分を探して、遊園地を闊歩する。
やがて赤く輝く水面が、怪しく美しい湖についた。
「血ですよぉ」
征四郎は顔を真っ青にして告げる。
「うむ、これほどの湖を血で埋め尽くすためには…………リットルの」
ユエリャンが雑学を披露し始めるがこんな場所でそんな話を聞いても恐怖を煽るだけである。
「ボートがあるみたいだよ」
耳をふさいで蹲った征四郎。
そうリュカが指をさした先には世良夫妻がいた。
霧人と杏奈がいい雰囲気でボートを漕いでいた。
「水が真っ赤に見えるわね。血の海みたい。」
「そ、そうだね」
引きつった笑みの霧人。
「ここ、何時間か毎にサイレンを鳴らしたらどうかしら?」
「S○SENはヤメテ……。どうあがいても絶望だから……。」
そんな二人を見送り、リュカは改めて告げる。
「せっかくだがじゃんけんで決めようか」
じゃんけんポン、の掛け声で全てが決定される。
班分け後、先に送り出されたのはリュカ、ユエリャンペアだった。
「こういうのは男の方が漕ぐものではないのかね」
そうオールを手渡されしぶしぶと言った様子でこぎ始めるユエリャン。
「たまには運動もいいと思うよ?」
「頭脳労働派なのだが」
その割にはきちんとオールを使えるユエリャンである。
だがその視線は桟橋であたふたしている征四郎に注がれている。
「こ、怖くないです! 大丈夫ですよっ。征四郎もこぐのてつだいます!」
凛道からオールのレクチャーを受ける征四郎だったが、全く聞いていない。
水面の上をちゃぱちゃぱしているだけである。
「あ、そうではなくて…………」
そんな様子を楽しげに眺めるユエリャンにリュカは語りかけた。
「そういえば二人でのんびり話したことはあんまり無いねぇ」
「うむ。そうであったろうか?」
やがて船は湖の中央へ、ここまで来ると水の流れで揺蕩い始める、ユエリャンはこぐ手を止めてリュカの言葉に耳を貸した。
「いつもうちの英雄二人がお世話になってます、ありがとね!」
「まぁ、腐れ縁も…………あるので、当然ではある」
そうそっぽを向くユエリャン。戸いっても、やっぱりその視界には征四郎が映っていた。
「大丈夫ですか、征四郎さん」
そう手を差し出す凛道。
「代わりますよ?」
しかし震える征四郎はその手を拒む。
「征四郎は、弱くない、です。リンドウと同じ、です」
(そうできない所が彼女を彼女たらしめてるのでしょうか)
そう凛道は考え込んでしまう。
「どうでもよいが色男よ」
そんな二人の会話を聞いていたリュカだったが、ユエリャンの声で我に返った。
「なにかな?」
首をかしげるリュカ。
「色男。3メートル先の岩を避けなければ衝撃で船が転覆するぞ」
「ええええ! オール、オールを貸して!」
間に合わなかった、そこそこの速度で進む船は哀れにも大岩に激突。
転覆する船。
「あ! 俺達。泳げないんだった」
沈んでいくリュカとユエリャン。
「リュカ!!」
叫んだのは征四郎。そのオールの掴み方が変わった。
「今行きますから!」
そう全力でオールをぶん回す征四郎。驚くべき速度で近づく小舟。
「火事場のってやつですか」
ぐいぐい近づいていく船、だがみなさん覚えているだろうか。
リュカたちが転覆した理由。それは岩に激突したからで。
今征四郎が乗る船も、岩に突撃しようとしている。
「凛道! ブレーキの方法は!」
しかしその時には遅かった。スコーンと音がして、船が宙を舞った、空を舞う征四郎と凛道そして、着水。
「ミイラ取りが、ミイラになったね」
そう笑うリュカ。恥ずかしくて征四郎は水に溶けて消えたくなったが、一難去ってまた一難。
水の上を滑ってくる貴婦人がいるではないか。
「あああああああ。何か来ます!」
濡れたドレスを振り乱し。鬼の形相で水面をかけてくる女性。
あれが噂のルサールカだ、そのあまりの恐怖に気絶する征四郎。
だが、ルサールカはリュカたちの前で減速すると。手を差し伸べた。
その少女こそルサールカに変装した遙華である。
「大丈夫? 誘導するからこのロープを掴んで」
そうやって岸まで誘導される四人。
「洗濯機と乾燥機とあるからあっちの施設で遊んできて」
指さしたのはとある大型施設。
ぐったりした征四郎を抱えて一行はその施設内で休憩を取ることにした。
ちなみに着替えは凛道がもっていた。
「せーちゃんはどうしようか」
リュカが告げるのと同時に更衣室から出てきたのは水着パーカーの征四郎とトランクスタイプの水着を纏った凛道。
「水着を借りたので大丈夫ですよ、リュカ」
「そうなの? きっと可愛いんだろうね」
ちなみにユエリャンはジャージを着ている。
「く…………」
「凛道はどうしたの? 不服そうな声して」
「ジャージを取られました」
「大変不本意だが、着てやらないこともないである」
「だったら今すぐ返してください」
「メガネよ、どちらにせよお前にはやってもらわねばならんことがある」
そういずこかを指さすユエリャン。
「あれだ」
「ぴゃああああ!!!! こっちこないでください!!!!」
逃げ惑いながら水鉄砲を乱射する征四郎。
アクアガンナー。バーチャルゾンビを水鉄砲で駆逐していくゲームである。
実際に走り回れる大きなスペースがあり、その中で二人は駆けずりまわっている。
「あまり突っ走らないでください、カバーができません」
「きゅあああああああああ」
直後、ゾンビからの総攻撃を受けて征四郎が死亡。大型モニターにはるーざーの文字。
「ああ、どうします?」
凛道は問いかけた。
「もう一回です!」
怖くてしょうがないくせに再戦を所望する征四郎。
「もう何度目でしょう」
凛道は溜息をついた。
「だめです! 諦めたら終了です! 絶対勝ちます!」
そして連コイン。二人は水鉄砲を持つ。
「凛道、そっちにいきました」
「任せてください、近接武器が無いのが残念ですが、これくらいの敵!」
ちなみに世良家は隣のブースで同じゲームに興じている。
「どうして範囲攻撃ができないんでしょう」
そう楽しそうな相棒たちを眺めながらユエリャンとリュカはコーヒーを飲んでいた。ホットコーヒーである。
「子守は疲れる?」
「そんなことはないである」
しかし若干の疲れがあることは認める、そうユエリャンは天井を見あげた。
しかし何者かの気配を察知して腰を上げる。
「む、1つ用事ができたぞ」
そう席を立つユエリャン。
だがリュカはその気配に気が付いていない。リュカへと魔の手が伸びる。
「やっとハイスコアを更新しました」
そう征四郎が喜び勇んでベンチに戻ってきてもユエリャンの隣にリュカはいなかった。
「遅かったな2人とも。色男を助けにいかねばならんぞ」
「「えーーーー」」
そう叫びをあげる凛道と征四郎。
ちょうど乾燥機が停止して、ぴーっと言う音が響いた。
● 西エリア 遊歩道。
「うわー、遊園地だな、遙華も粋なことするなぁ」
春香は『水瀬 雨月(aa0801)』に告げる。
「遊園地……最後に行ったのはいつだったかしら」
雨月はそうふむと考え込んだ。
「私は小学校の時だったな、町のすぐ近くに遊園地があって、学生が多かったっけな」
春香の瞳からハイライトが消えたのを見て雨月はあわてて話題をそらした。
「折角なら誰か誘えばよかったかしらね」
「誘いたい人いるの?」
「特には……」
「えーじゃあ颯佐さんは雨月さんが誘った人じゃなかったの?」
そう半歩後ろを歩く『黒鳶 颯佐(aa4496)』をちらりと見る雨月。
「違うわ、初対面。だったかしら?」
「おそらくはそのはずだ」
颯佐は告げて、園内マップを眺める。
「……まぁ、順当にいけば東エリアだろうな、あいつは」
「たまたま一緒の班に割り振られたの」
雨t木が告げると春香は挨拶する。
「颯佐さん、よろしくね」
「ああ。気を使わせてしまってすまない」
「こちらこそ、うちの子を押し付けちゃってごめんね」
この三人は英雄班、能力者班で分かれることにした。
うまく合流できれば脱出できるのだが。いかんせん自由すぎる英雄たちなので、あてずっぽうでこの遊園地を回っても、おそらく出会えない。
「ここは西側だから、東エリアまでは一直線だね」
「そうね、北エリアと南エリアはあの子たちを見つけてからでもいいか……」
そう一人心地につぶやいて、あたりに視線を巡らせる雨月である。
「あら? 遙華探してるの?」
雨月は頷く。
「最近心を病むような出来事があったでしょう? 心配なのよ、忙しくてろくに顔も見に行けなかったし」
「うわ、雨月さんの素直なところ遙華に学んでもらいたいな、爪の垢頂戴?」
「それ、迷信よ」
あわてて爪を隠した雨月、本当に爪の垢を取られては敵わないので、話題をそらすためにジェットコースターを指さした。
「あれに乗りましょう」
「アニキ、これ乗ろうぜ!」
意気揚々と春香が乗り場まで歩いていくと世良家が揉めているのが見えた。
「あれ? 世良さんちの…………」
春香が声をかけるとルナが歩み寄ってきて事の次第を説明してくれる。
「霧人がのりたがらないの」
「いや、僕はこういうのは苦手だから……」
「いいじゃない行きましょう」
杏奈に服を引っ張られてもかたくなに首を振る霧人である。
「つまらないわ、行きましょうよ、霧人」
だがその後ろを通過していくジェットコースター。
それを見て杏奈の動きが止まった。
ここのジェットコースターは普通ではない、宙ぶらりんにされるのである。それを見た杏奈は一瞬で冷静になったのだった。
「……これはやめとこう。」
「乗らないのか? じゃあ俺だけで行ってくるぜ!」
そうエリックが走るとルナもその背を追いかけた。だがルナは身長制限で乗れなかった。
肩を落とすルナ。
そんなエリックが乗り場にたどり着くと見知った女性が二人いた。
「お、さっきの魔女の小屋で会った……」
「……ねえヴォジャ、魔女はね、ジェットコースターに乗ってはならないという宣言を参入式の時に言わなければならな……」
「大人二人」
「聞きなさいよ!!」
インプリとヴォジャノーイである。二人は上機嫌でジェットコースターに乗り込んだ。
雨月たちもその後ろに乗り込むと、二人の会話がよく聞こえる。
「どうしたの? 顔真っ青だけど」
「あんたほど青くないわよ!!」
そう声を張り上げるインプリだったが、コースターが上るごとに元気さをなくしていく。
そしてコースターが上りきった時、インプリはここに来たことを後悔した。
「っぎゃあああああ!! だめえええええ!!」
絹を裂くような乙女の悲鳴が、遊園地全域にこだまする。
「これだめなやつこれだめなやつ!! にんぎゃあああああ!! ぐぎいいいい!!!」
ひき潰されたような魔女の声がこだまするが。雨月は動じない。
コースターから降りると、汗をぬぐって春香は尋ねた。
「怖かった?」
「怖かったわ」
「…………酷い目に遭ったぜ……」
さすがのエリックもきつかったらしく、世良夫妻の隣のベンチにへたり込んだ。
「……大丈夫?何か飲む?」
「温かいのが良い」
そんな世良一家を尻目に、雨月たちは次のアトラクションを目指す。
「楽しかった?」
「楽しかったわ」
「遙華とは真逆だよね……本当に冷静な感じ、隠してない感じ」
「なぜ、いちいちあの子と比べるの?」
「なんでだろうね」
少女たちの楽しげな空気に押される颯佐であったが、急ぐ理由もないので半ば保護者役となりつつ、やっぱり半歩後ろをついて歩くのだった。。
「それにしても、この血まみれ男というのからは逃げなくてはいけないのか?」
颯佐は尋ねる。
「そうみたいね」
雨月は頷く。
「それで、追いつかれたら何かあるのか?」
「牢屋に入れられて死を待つのみ……って設定」
春香が答えた。
「キーカード完成後ならまだしも完成前に捕まったら、合流できなければ出られないだろう」
「ああ、それなら私たちの鍵として完成してないカードキーでも脱出に使えるから、実質意味のない牢獄なんだよ」
春香が説明した。
「……さて、あいつは大丈夫だろうか」
ちなみにそのあと世良一家がメリーゴーランドに乗ると。まいだがいた。
彼女は逆回りするメリーゴーランドをきゃきゃと楽しんでいる。
一応、この遊園地を脱出するという趣旨に関しては黎焔が担当。きちんとアトラクションのチェックを行っていた。
「次は観覧車!」
その言葉に黎焔は頷き、まいだをリードするのであった。
● 吸血鬼と吸魂鬼
広大な遊園地、その中心のエリアには景観を考えて木々が生い茂っている場所がある。
その茂みに体を隠して小さく震える少女がいた。『御門 鈴音(aa0175)』である。
「やっと見つけた…………って、なにその恰好、あははははは」
『朔夜(aa0175hero002)』はその茂みをかき分けて、鈴音のお尻に言い放つ。
「あんなの作りものじゃない。それは最初に説明されてるはずで…………」
「だって、こんなに怖いなんて聞いてない」
犠牲者二人目である。
「アトラクション全部乗るって言ってたじゃない」
そう朔夜は鈴音のお尻を叩いて告げる。
「へへへへ、変な人歩いていたし」
「あれが怖いの? あなたが? あははははは」
姉の方がよっぽど怖いのに何を言ってるんだろうと朔夜は思った。
あの暴君に拳骨している鈴音と今の鈴音を比べてみるとさらに笑えてくるのだ。
その時である、鈴音が素早く動いた。
「なにを、むぐっ」
そんな朔夜の言葉を遮って鈴音はその首根っこをつかまえた。
そして素早く茂みの中に連れ込んで口を押さえつける。
「あのあのあのあの、血まみれ男が…………」
「…………」
あきれ果てた朔夜、一気に冷静になって鈴音を見あげる。
「暑い夏に涼しいホラーならまだしも冬にホラーとか拷問でしか……グロリア社も何考えて……」
「お嬢さん…………」
「イ゙ェアアアアアアアッ!?!?」
突如背後から忍び寄ってきた吸血鬼風の男、そんな彼に肩を叩かれ悲鳴を上げる鈴音。耳を抑えてうっとおしそうな顔をする朔夜。
(姉様には聞いてたけど何でかしら……? 本当だったら人に見えざる怪異を視たり祓う力を持ってるはずなのに……不思議な人間よねぇ……)
「ここは立ち入り禁止のエリアなので出ていただけませんか?」
吸血鬼さんはそう礼儀正しく告げる。
「ああああああ、しゅしゅしゅしゅ、しゅみません、あーーー」
「あと、少し血をいただいても?」
ニッと男が笑うと牙が目立つ、その牙を見つめて顔を蒼くした鈴音。
「それだけは勘弁ください!」
脱兎のごとく逃げ出す鈴音である。
「また……。こんなこと続けてる限り脱出はむりよ」
「だって! だって!」
「はぐれた人間達ともまだ合流できてないでしょう」
そうなのだ。最初のうちは春香たちと回っていたのだが、 鈴音が血まみれ男にビビッて逃げ出してはぐれてしまったのだ。
「このまま人間と会えなかったら一生ここにいることになるかもね」
「それは嫌!」
そう涙をぬぐいながら駆ける鈴音、そんな彼女の前にとある二人組が現れる。フェルナンドとジャガー戦士である。
普通の人間を見つけてほっとする鈴音。しかも知り合いである、僥倖だった。
「おいフェルナンド、あれはなんだ」
2人は立ちっぱなしで話しをしている、その何気ない会話の中ジャガー戦士が指をさすと、フェルナンドは頷いた。
ゴンドラを乗せたそのわっかが何かわからないジャガー戦士。そんな彼女にフェルナンドはかみ砕いて説明する。
「あれは観覧車。恋人同士で乗ったりして、遠くの景色とか楽しむ」
「ではこれは……」
次にジャガー戦士が指さしたのはメリーゴーランド。
「というかそもそもこのモチーフは何なんだ」
「アステカはそもそも馬がいなかったっけな…… まずそれは馬、草食の四足獣で、調教と訓練すれば人が乗り物として上に載って戦うことができ、また荷物運搬も大量にできる」
そう説明しながらジャガー戦士を乗せてやろうと、メリーゴーランドに歩み寄っていく。
それを追いかける鈴音。
「で……それの作り物、木馬が回るようになってる。女や子供が乗りたがる。
メリーゴーラウンドだ。」
「女向けか。じゃあ私も乗っていいな」
そう楽しげに肩を揺らすジャガー戦士。そんな二人にやっと追いついた鈴音。
「あ、フェルナンドさん」
「ああ、たしか君は」
そう鈴音のことを思い出している間に、ジャガー戦士が乗り込んでしまう。
「なにしてるんだ! 早く乗れ」
「あ、ああ」
たじたじのフェルナンド、ちなみに鈴音は嫌な予感がしたので乗らなかった。
そして回転を始めるメリーゴーラウンド
「お、おい回ったぞ! なんだこれ! なんだこれ!!」
その馬の首に抱き着くジャガー戦士。
「メリーゴーラウンドって言っただろ……」
そうフェルナンドが告げた直後である、馬たちは金属音軋ませ、ピタリと止まり、突然おかしな音楽とともに逆回転を始める。
「うおおお!? なんだどうした! なんだこれ、なんだこれ!?」
「メリーゴーラウンドだろ?」
「違う、俺の知っているメリーゴーラウンドはこんな動きをしない」
その光景を見てほしい、馬は頭のついている方に走るものだが。この馬はお尻の方に走り始めている。
さらに軋む音が妙にはっきりと聞こえる。
「ちょちょちょちょ、おい! 止めろ!」
フェルナンドが告げるもアトラクションは一回分終わらないと止まらない。
しかも見ている方も不安にさせる。鈴音はその光景を引きつった笑みで見守っていた。
「鈴音! 鈴音! しまった極度の緊張状態にわけのわからない光景のせいで、催眠状態に陥ってしまったわ! 鈴音! 起きなさい」
つまりは現実逃避。
鈴音の意識はお花畑に飛んでいく。
真っ白い花の咲き誇る庭園で、白いドレスに花冠の自分が、愛しの先輩と追いかけっこしている。
あははははは、ふふふふふう。つかまえてごらんなさーい。
まぁ、問題なのは追いかけているのが鈴音で、追いかけられているのが先輩ということだろうか。
「こんな面倒になるならお姉さまにまかせておけばよかったわ」
朔夜は額を抑えて今朝の出来事を思い出す。
湯呑を取りこぼし、テーブルの上で突っ伏すように眠る姉。
その姉を押し入れの中に放りこんで、手に入れたチケットをにやりと眺めた。
そう。朔夜は姉が取ってきたこの遊園地依頼を。彼女の好物に一服盛って、そして奪い取ったのである。
朔夜……恐ろしい子……。
「なんでこんな時ばっかり私が、なんだかんだ言って、お姉さまは運がいいのよね。運EXなんじゃないかしら」
そしてランサーである朔夜は運がEなのだろう、周知の事実である。
そんな鈴音に血まみれ男さんが接近する。
首根っこ捕まえてどこかに連れて行くようなので、朔夜もそれに従った。
「あ。あれグロリア社の令嬢じゃない?」
朔夜はそうベンチに座るルサールカに手を振った。
「相変わらず苦労してそうね」
そう朔夜はつぶやくが、遙華自身も朔夜にそう言う感想を抱いていた。
遙華は休憩が終わったのか川岸に戻って行く。
● モンスター娘遙華
「あっ」
「あっ」
イングリが足を止める先には少女がいた。
なんと水の上に浮かんでいる、べちゃべちゃのドレスを着た乙女。
「あれルサールカっていう演出よねたぶん……恰好といい水辺といい」
「……向こうも設定に盛り込もうか悩んでる顔してますね」
あちらにしても、出会ってしまった、あちゃーという顔をしている。
あからさまに額に手を当ててめんどくさそうな反応を見せた。
「説明しましょう」
イングリは振り返って、どこからともなくフリッパーとよばれる紙芝居のようなものを取り出す。
「ルサールカはヴォジャノーイの夫と解釈されることもあり」
「さらにヴォジャは何度か水辺に使って参加者を脅したり勝手な事して遊んでたので」
「私はスタッフがそういう動きを知ってると何かコメントに盛り込んでくるかもと思った」
その説明の合間にもルサールカ小声でなにか喋っている、どうやらインカムの向こうの人物と話しているようだ。
ヴォジャノーイの期待が高まる
「……我が夫よ……」
そう告げヴォジャノーイは両手を広げた。するとルサールカは歩み寄ってくる。
「なんかきた! やめて! 設定に盛り込まないで! ただの客と脅かし役でスルーして!!」
イングリが魂の悲鳴を上げるも、ヴォジャノーイは少し嬉しそうである。
結果、ヴォジャノーイの気の住むまでここで海辺の妖怪ごっこをすることになった。
そして二人は水辺で叫びをあげる。なんでも死霊を呼び集めるとか、人間を水辺に集めて窒息させる声とか、なんとか。
「オアアアアア!!」
「え? えっと。うおおおああ~~」
そんな様子を眺めているイングリの後ろを団体が通りかかった。
「あんたら水辺で並んでお客さん脅すのやめなさいよ…………って、あ」
イングリがあたりに視線を巡らすと、こちらを見ている女性がいた雨月である。
はたりと足を止める雨月、ルサールカに目を止めるが、なんとなく見たことがある程度で誰だかはいまいち解らない。
雨月は考え込む。もし自分の予想が正しければあそこにいるのは……。
だが信じたくない、あそこで奇妙な声を上げているのが友人だと信じたくない。
「あ、遙華だ」
雨月は額を抑えた。
認めたくなかった春香の言葉を認めたくなかった。
「雨月さん、遙華だよ」
そう諭すように雨月の肩を叩く春香。
「ルサールカは……うん、まあお疲れ様と言う感じね。冬場で寒くないのかしら」
ただ、どうしていいか分からないので雨月は自販機であったかい飲み物、ホットチョコレートを買うと、手近なベンチに座る。そして遙華と視線を合わせたままホットチョコレートを飲み始めた。
(どうなるのかしら)
そしてただただ遙華の仕事ぶりを見届ける役をした。
そんな仕事中も彼女は大人気で、世良家にも話しかけられていた。
「あら、遥華じゃない。お化け役やってるのね」
ルナが手を振ると、遙華とヴォジャノーイは手を振りかえす。
「ドレスが肌に纏わりついて色っぽいというか、……ちょっとエロい感じがするわね」
杏奈が告げると、霧人は苦笑いした。そしてベンチに座る雨月たちに歩み寄ると落ちかけた。
「あれ? 水瀬さん声掛けないの? 遙華ちゃんだよ」
霧人が告げると雨月はまた一口チョコレートを飲んで言う。
「しってるわよ」
その声が聞こえたらしい、遙華はずんずんと雨月に歩み寄ると、複雑そうな表情で声を上げる。
「声かけてくれればいいのに」
直後遙華へと投げ渡されるホットチョコレート。
「休憩にしたら?」
そう雨月は微笑をうかべる。
「テーマはホラーという事みたいだし、ある程度こちらを驚かせる仕掛けをしているみたいね」
そう遙華を座らせておつかれさまと、労う雨月。
かわりに席を立つ春香。
「それにしてもべちょべちょね」
「乾きにくいローションを使ってるから。寒さ対策にもなるのよ」
「それは便利ね」
直後遙華を後ろから羽交い絞めにする、全身触手まみれの男。
「おー。寒そうだね、お嬢さん」
「きゃーああああああああああ!」
淑女にあるまじき悲鳴を上げて飛び上がる遙華。
「見えない顔の中とか手を袖に隠して代わりに触手を出せばあら不思議。とてつもなく不気味に」
そう告げて雨月は『アムブロシア(aa0801hero001)』を紹介した。
「徘徊させてもいいけど、驚きを演出するなら一発ネタの方がいいでしょう?」
そう驚きすぎて四つん這いになっている遙華を見つめて雨月は告げた。
「ちょっとしたお茶目のつもりだったのだけど……ここまで驚くのは予想外ね」
「今日は私が脅かす側だと思っていたから、油断していたのよ」
そんな遙華を尻目に雨月はアムブロシアに問いかける
「ところでerisuは? 英雄組は三人で一緒の行動でしょう?」
「置いてきた」
アムブロシアが告げると、雨月の表情が少しこわばった。
「なにやってるの?」
雨月がちょっと怒っている瞬間を見た遙華であった。
●闘争あふれる遊園地。
「おい…………ヴァル」
『赤城 龍哉(aa0090)』は隣に佇む相棒『ヴァルトラウテ(aa0090hero001)』に尋ねた。
「遊園地ですわ」
「そうだな。しかし何だこのイベントは。聞いてねぇぞ」
本日の犠牲者三号を飾るのは龍哉である、彼は遊園地の内装を眺めると不服そうに告げた。
「タネも仕掛けもあるテーマパーク。実体の無い相手などいませんわよ?」
「んな事は判ってるさ。まったく」
呆れてものも言えない
「それでは園内で合流するまでしばし自由行動ですわ」
遊ぶ気満々か。そう上機嫌に足を踏み出すヴァルトラウテを見て龍哉は少し笑った。
ちなみに彼らのスタート位置は西側。その川べりを歩いていると、遙華が仕事熱心なことに、こちらをじっと眺めていた。
「ちょっと確認してくるぜ」
――ちょ。何を
直後共鳴し端から飛び降りた龍哉。
彼は沈むことなく湖面に立つ、ALBセイレーンのおかげである。
そのままルサールカのもとに駆けると、びっくりしてよろけるルサールカの手を取った。
「あれ? 何だ…………良く見たらお嬢じゃねぇか」
「な、何だじゃないわ! びっくりするじゃない」
「現場に出て、実地で色々確認してるのか。お疲れさん」
「それよりほかのスタッフに迷惑かけてはだめよ?」
「大丈夫だよ」
――どうだか…………
ヴァルトラウテが疑わしそうに告げる。
そのまま二人はいったん南側エリアを目指した。
赤く染まった湖が気になったためだ。
「赤く染まって見えてしまうのは勿体ないですわね」
「なんでだ?」
「水面に浮かぶ月の色が変わってしまうので」
そう切なげにヴァルトラウテが告げると二人は東エリアへと歩き出す。
世界あらゆる建築をごちゃまぜにしたモザイクタウン、それを実際に目の当たりにすれば、何ともいえない気持ちが沸き上がる。
その入り口、ロンドンを模したエリアの入り口で二人は男性吸血鬼に絡むツインテールの女性を見た。
「血をよこせ~」
そう吸血鬼に壊れて見れば『E・バートリー(偽)(aa4762hero001)』はにやりと笑って言葉を返す。
「こちらこそ~」
思わず吹き出す吸血鬼さん。
「バートリー、役者さんの血を吸ったらだめよ。っていうかこちらこそって何よ」
そう『リヴィア・ゲオルグ(aa4762)』がたしなめた。
「私も血がのみたい血がのみたい!!」
そうじたばたともがくバートリー
「役者さんのほうが本物の吸血鬼っぽいんだけど。あんた弟子入りしてきなさいよ。八年くらい」
そう告げてもバートリーの機嫌は収まらない。
困った吸血鬼さんは龍哉を指さした。
「あなた美味しそうね」
バートリーは告げる。しかし龍哉は首を振ってはっきり告げた。
「血を吸わせろ? 絶対にNO!だ」
にべもなく断られるバートリー、さすがに応えたのか、項垂れていた。
「雰囲気はともかく、気配が無い訳でもなし。暗がりはちょいと面倒だが…………夜に山歩きさせられるのに比べりゃ散歩も同然だな」
そんなバートリーを尻目に世界中を散歩しているかのような気分に浸る龍哉。
「熊やら猪など出て来ないしな」
「あなたにとってはそちらの方が脅威なんですのね」
そんな彼の目の前に。目の前に血まみれ男が現れる。
「ほう、その身のこなし、軸のぶれなさ。そしてオーラ。ただもんじゃね―な」
「こーほー」
捕まえようと駆ける血まみれ男。
「…………捕まるとアウト。鬼ごっこみたいなもんか。そういうのは最初に言っといてくれ」
血まみれ男の手を払いつつ、背後にまわり逆に拘束を試みるが、足を払われる、地面に手をついて片手でバランスを取り、回転。地下ずく血まみれ男の鼻先を、龍哉のつま先が掠めた。
「遊園地! こういうアトラクションもあるのか! 悪くねぇ」
「いえ、これはたぶん、予期せぬ事態ですわよ」
そのまま龍哉は片手で飛ぶと着地。その下半身を狙ってタックル。
正確には膝を両腕で包み込み、ひざの裏を拳で無理やり曲げるタックル。
「モンゴリアン柔術だと!」
そう、その通り、血まみれ男さんは、相手を組み伏せることに関しては一流なのである。
だが。
倒れ込む寸前。龍哉は両の腕で突っ張って、地面に転がることを阻止した。
つまり腕だけで全体重を支え、体全体は地面と平行に宙に浮かんでいる形。
力技である。
「鍛え方がちげぇ!」
盛り上がる筋肉、浮き上がる血管、骨は軋み、腹筋がうなる。
張り詰める背筋に相談し。そして、握力をフル稼働。地面を掴む。
「おおおおおおっらああああああああああ」
そのまま体を回転、遠心力を使って、血まみれ男さんを吹き飛ばした。
「触られたからアウトなのでは?」
「振り切ったからセーフだ」
「子供の遊びではないのですから」
血まみれ男さんが目覚める前に退散を決め込む龍哉である。
そして東エリアに到着するとその異様な街並みに目を疑った。
「私の世界のような街並みもありますね」
「江戸もあるな。マニアックだ」
その二人の後ろからリヴィア現れて告げた。
「きちんと建築方法の細部までまねられているなんて、素晴らしい」
なんと彼女元々博物館員である、だからこそこの町のすごさがわかるのだろう。
芸術の知識とは半分その時代の知識、時代を作るのは人と街。それ故にリヴィアは上機嫌である。
「木造主体である日本建築と、石造りである西洋建築。それが入り乱れているというから、どのような街並みになるか心配だったけれど。意外とよい物ね」
「この街並みは日本でも室町時代の建築方式が取られている。このころにやっと日本の建築技術は成熟したのだけど、それに比べてやはり西洋建築」
「こちらはパルテノン神殿を再現した一角ね。を現代に伝える最も重要な、ドーリア式建造物の最高峰と見なされていて…………」
「つまんなーい」
隣を歩くバートリーには何のことやらさっぱりである、故の酷評もなんのその、リヴィアの口はより早く動くようになる。。
「龍哉、あれ。あなたにすごくあってそうですわ」
そのセリフをBGMにヴァルトラウテが指さした先には、看板が。
韋駄天シューズ貸します。
その文字に心ひかれた龍哉は早速それを装備した。
「これはいいものだな!」
龍哉は童心に帰ったような無邪気な表情を見せる。
跳躍すれば十数メートルの高さまで体が持ち上がり、落ちても足に衝撃波伝わらない。
開始数分で屋根伝いの移動に慣れた龍哉は、空中で回転しながらや、壁を跳躍しての三段跳びなど、アクロバティックな動きをマスターしていく。
そんな彼に追いすがる影があった、着物姿の女性、清姫ちゃんである。
「来たな。ついてこれるか?」
直後龍哉は加速した。
その足に渾身のちからを込めて跳躍するとエリアの端から端まで移動できそうな加速度を生む。
これには観念した清姫ちゃん、彼女も韋駄天ブーツを装備し。飛んだ。
彼女はむしろ一回の跳躍で加速度を生み出すタイプではなく、何度も地面をけることによって加速度を生み出すタイプの様だ。
つまり小回りが利く。
壁を、屋根を、時に通路に降り立って角度や速度を変えながら龍哉に追いすがり。
捕まえようと手を伸ばす。
「あぶねぇ!」
しかし空中で龍哉はその手を払う。背中に手をついた衝撃を利用してさらに加速、別の方向へ飛び去った。
「また良い動きをするもんだ。その気があるなら家の流派に引き抜きたいとこだぜ」
そんな龍哉の真下でまたもや、バートリーが騒がしく遊んでいた。
出店で買ったのだろうかバートリーは侍風の衣装に身を包んで刀を振り回して遊んでいるのが見えた。
そんな龍哉を追いかけるように屋根の上を走る清姫。
「あーーーー!」
そんな二人を『新爲(aa4496hero002)』が指さして叫んだ。
「パルクールがある! 私もやりたい」
この万国びっくり人間ショーに参加したい様子の新爲。彼女はerisuの静止を振り切って、ブーツを貸してくれるお店に走った。
● 檻の中
血まみれ男さんに引きずられて、鈴音は中央エリアまでやってきた。
完全に目からハイライトが失われており、意識はあるがこちらに戻ってこない。
しかし返事はするので、それをいいことに朔夜は自分に有利な約束を結ばせてスマートフォンの録音機能で録音していた。
「あしたから私のおやつを二倍にすること」
「はい」
「お姉さまの寝床を押し入れからキッチンの戸棚に変更すること」
「はい」
そんな少女二名が檻に大人しく入ると先に入っていたリュカが和やかに挨拶した。
「やぁ、お二人ともこんばんわ。いい夜だね」
「ええ、本当に、私の能力者が邪魔をしてごめんなさいね」
相当に機嫌がいいのか朔夜はリュカに丁寧にあいさつした。
「ここは確か、誰かが出してくれない限りずっといないといけないのよね?」
「うん、だから助けが来るのを待ってるんだ?」
そう告げるとリュカは楽しげに、おそいなぁと告げた。
「ああなにこれ! こっち来る」
「おや?」
その時であった中央広場の片隅が何やら騒がしい。
「何が起きてるか教えてくれる?」
リュカが告げると朔夜は頷いた。
「フェルナンドが。血まみれ男に追いかけられているわ。」
「速く走れバカ!! ふええっ!! うええええ!!」
そう縮こまってしまったジャガー戦士。彼女を肩に担ぎ血まみれ男との鬼ごっこを演出するフェルナンド。
「俺に担がせて早く走れもなにもないだろ……」
その隙を見て、物陰から走り寄ってきたのは、征四郎を筆頭としたリュカのチームメンバーたち。
「あら、あなた」
朔夜が何事か告げようとすると征四郎は指を立てて唇に当て、静かにするように促した。そしてカードキーをかざすと扉が開く。
「マスター」
「ねぇねぇ、これお兄さん囚われのお姫様みたいじゃない?」
そうかっこよくキメるリュカ
「王子役は誰ですか?」
征四郎が問いかけた
「せーちゃんかな」
そう微笑むと征四郎は顔を真っ赤にしていた。
●新爲の大冒険
最初にerisuと組まされてこのホラーパークに参加した新爲。
だが極度のビビりである新爲にerisuの御守は大変だった。
彼女はホラーが全然平気で、さらにはのんびり屋さんなものだから。新爲が逃げたいときに走ってくれない、むしろ血まみれ男さんに手を振ってしまう。怖いアトラクションには積極的に乗りたがる。
「きゃー」
「うわー」
「ぎゃー」
そう声がかれるまで悲鳴を上げてやっとたどり着いたのがここ、東エリア。
「パルクールがある!って喜びすぎて気づきもしませんでした……」
「見つけた」
そう告げたのは颯佐。
「さっ…………颯佐お兄ちゃぁぁあああ!」
もうダッシュで颯佐に飛びつく新爲、彼女は早口で今まであったことすべてを報告した。
「おっおっお化けです! お化けです!? ニッタお化けは……特に西洋のお化けはちょっとすごく苦手かなって!!」
「だがあれはやりたいんだろう?」
そう告げて颯佐が指さした先を見るとそこには清姫ちゃんが立っていた。髪で表情はうかがえないがブーツを差し出しているあたり、やれと言っているようだ。
「清姫ちゃん? いいんですか?」
頷く清姫。そして新爲も風邪をきり跳躍していた。
「おお! これはよい物です ……って、すっごく速いです!?」
自分の体だけではなく、補助のブーツまで使用しているため普段と感覚がずれて勢い余ってしまう新爲である。
ただ、すぐになれてきて全身で跳躍を楽しんでいる。
「鍵もできたことだし、帰るぞ」
颯佐が大声で告げる
「うん! お腹もすいてきましたし、北エリアでごはん食べれるんでしたっけー?」
颯佐は頷いた。新爲はそのすぐそばに着地すると微笑む。
「そのあといろいろ見に行きたいです、観覧車とか、ジェットコースターとか、赤い湖とか」
「それはもう乗った」
そう告げると新爲は肩を落とす。
「遊園地、楽しんでないんです。だから一緒に回りたいです。颯佐くんと一緒ならお化けも怖くない…………筈です!!」
● 閉演時間。
一行が遊園地のアトラクションをなんだかんだで楽しんでいると。
遊園地各所に取り付けられたスピーカーから閉演時間のお知らせが聞こえた。
まだ遊び足りない気持ちを抱えるリンカーたち。
やっとこの恐怖に慣れてきたというもの達もいるだろう。だが楽しい時間は長く続かない。
「今日はお越しいただいてありがとうございました」
そう口にする春香の声で、全員は出口を目指して歩き出す。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|