本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】短剣は海を越え●●●●が蝕む

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/02/06 13:39

掲示板

オープニング

●国を越える不穏
 ロシアの優越を掲げる国粋主義を標榜し、ロシアに不自然な動きを強いていた『シーカ』メンバー、オレグ・ベルマンをH.O.P.E.エージェント達が逮捕し、その正体や所業を白日の下にさらした結果、国粋主義者達は一掃され、ロシアはシーカの影響から解き放たれ、愚神達との戦いを本格化させる。
 その過程でエージェント達は、依然ロシアへの強硬な態度を崩そうとしないアメリカにも不穏なものを抱いていた。

●不穏の正体
 ロシアへの強硬な姿勢を主に主導していたのは、ホワイトハウス周囲だった。
 ホワイトハウスに詰める大統領補佐官の1人、ホセ・グレッグがロシアからの援軍を求める書類を脇に置いて、同僚たちに告げる。
「援軍の見返りに、ロシアにおける資源の一部を、我々が入手できるような事でもない限り、議会は自国の国民を危険にさらすことを容認しないでしょう」
 もしこの場でロシア政府の関係者が聞いていたら、それこそ『貴国のほうが無礼だ』と怒りそうなホセの言葉だったが、その場にいた他の高官達は重々しく頷いた。
「議会の優先することは、ロシアや世界情勢よりも、自分達に投票してくれる自国民の関心を得ることですからな」
「ロシアが一度大いに負けてもらおう。国家存亡の瀬戸際になってからでなければ、我々やNATO軍のありがたみが薄れてしまうからな」
 ホワイトハウスというアメリカの中枢を占めていたのは、世界の平穏ではなく、ただアメリカという国家の利益を追求し、他国の危機に対しいかに自国の価値を高く印象付けるかという、アメリカの利権第一主義だった。
 無論『愚神という存在は我々の国家観念など考慮しません。奴らからすれば我々も同じ収奪の対象です』といった、協調を重んじる穏健派もいないわけではない。
 だが彼らのうち、主だった者達は何者かの手によって次々と拉致され姿を消し、穏健派の声が低くなるのと反比例して、アメリカの利権を第一とするホセ一派の声が高まり、今ではホワイトハウスの主流となっている。
 奇妙なのは、主流派となったアメリカ利権主義の者達も、何者かによって次々と拉致されて消されており、被害を受けた主流派は、それを自分達と対立する穏健派による報復とみなしていた。
 その穏健派も、同志を消されたのは主流派の仕業と批判を返したため、両者は次は自分が拉致され消されるかもしれないといった疑心暗鬼に陥り、うかつに動けない状況だった。

●囮作戦
 この状況を打開しようと動いたのは、穏健派の高官リアム・ワードだった。
 彼は消されていく順番が、発言力の強い順になっている事や、『次に狙われるのは貴方です』と、ご丁寧にも日時まで指定された密告があり、自分が今度襲われる番だと判断し、H.O.P.E.に暗殺防止と犯人確保を依頼してきた。
 この高官は連邦捜査局や自国の諜報機関にも協力を要請していたのだが、密告者の名前を聞くなりH.O.P.E.へ依頼するよう勧められた次第だ。
 密告者の名乗った名前は『ニア・エートゥス』。
 本当にその通りであれば、相手はトリブヌス級愚神であり、本来なら襲う側の存在なのだが、わざわざ事前連絡を入れてくる理由がわからない。
 依頼を受けたH.O.P.E.は高官と秘密裏に相談した結果、ある作戦を実行することになる。
 それは高官の影武者となる人材を用意し、それを餌に襲撃に来た何者かを捕縛。確保できた襲撃者達を尋問し、その背後関係を突き止めるというものだった。
 実行する日時は密告で告げられた時間帯にあわせ、用心のため周囲縦横各400mの区域に住む住民達には全員避難してもらっている。
 そして依頼人である高官の根回しの結果、諜報機関の一部が要請に応じて動いてくれており、『あなたたち』が襲撃者を拘束したり搬送する道具や護送車などの用意や手配は全て行ってくれるとの事だ。
 なおH.O.P.E.は、ニアが絡んでいると仮定した場合、攻めてくるのが人間だけに留まらないと判断し『人間以外は撃破していい』と条件を追加している。
 念のため、プリセンサーに『現場には何が来るのですか』と、ポルタ クエント(az0060)が確認したところ、2つの回答があった。
 1つ目は『シーカの結社員達の他、男性にとっては脅威の愚神が、3体敵の増援として来る』。
 2つ目はプリセンサーでなく上層部からで、報酬の増額と共にただ一言『イキロ』というものだった。

●密告の理由
 この時高官リアムへ密告を入れたのは、本当に愚神ニア・エートゥスだった。
『仰る通り増援の手配はいたしました』
「それで構いません。後は引き揚げて下さい」
 通話機の先より、配備完了を報せる配下の女愚神にそうニアは応じる。
『なぜわざわざH.O.P.E.を呼び込む真似をなさるのです?』
「私はH.O.P.E.に価値があると認めています。H.O.P.E.が介入すればするほど、期待以上に事態を混沌とさせますからね」
 それが情報を重要視するニアが、今回H.O.P.E.に有利になるよう情報をリークした理由だった。
「とはいえ。今回H.O.P.E.が求めるものを得るのは、少し難しいでしょうね。彼らの中には、私達『敵』からも、1から10まで手取り足取り教えてもらわなければ何も動けない、助ける気が起こらないと仰る方々もいらっしゃるのは存じていますが、私達にはそこまで彼らの面倒を見る義理はありません」
 そこまで言ってニアは通話を切り、自分の姿を風に溶かして消えた。

解説

●目標
 襲撃してくる敵の撃破
 確保できた襲撃者達から黒幕の情報や証拠を入手する

●登場
 デクリオ級愚神×3
 身長2.4mで筋骨隆々の男の姿をした愚神。外見は男性だが、女性口調で話す。
 通称『漢愚』。1体は太刀。1体は槍。1体は棍棒を装備。
 共通能力
 ・抱擁
 直線状にいる『男性』を強引に引き寄せ抱きしめる。射程48sq。特殊抵抗判定に勝利した場合、対象を強引に引き寄せ【拘束】【気絶】付与。

 ・漢の海
 何故かワセリン状の液体が全身を覆い、負傷を癒す。

 シーカ結社員×3
 全員ヴィラン。うち1人はジャックポットの『トリオ』『フラッシュバン』『ロングショット』と同様の術を使い、射程48sqの対物ライフルを装備。通称『銃員』。1人はソフィスビショップの『ブルームフレア』『ゴーストウィンド』『拒絶の風』と同様の術を使い杖を装備。通称『杖員』。最後の1人はブレイブナイトの『守るべき誓い』『ハイカバーリング』『ライヴスリッパー』と同等の術を使い盾を装備。通称『盾員』。

 リアム・ワード
 アメリカ政府高官。今回襲撃される予定の人物。本物の避難場所は『あなたたち』が指定できる。

 ニア・エートゥス
 トリブヌス級愚神。現場にはおらず既に退散。

 状況
 アメリカのとある地方都市の一画。屋上のある高さ6mほどの建物が並び、その間を幅6mの道路が碁盤目状に縦横を走っている。以下のように建物は規則正しく並んでおり、道路は障害物無し。リアムの家は下記■のようにまさにこの区画の中心にある。どの建物からも屋上へ至る梯子あり。リアムの家より縦横各400m内の住民達は既に避難済み。無線貸与済み。諜報機関の情報操作の結果、リアムの家に誰かいる事が示せれば特に影武者として変装の必要なし。

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リプレイ

●迎撃網
 碁盤目状に区画整理された住宅区域を、エージェント達が迎撃網を敷くため奔走する。
 その中でファリン(aa3137)と共鳴したダイ・ゾン(aa3137hero002)は、鷹の目で鷹を顕現して上空へと飛ばし、いち早く迫りくる敵達の姿を上空の鷹より捉えていた。
「コレはまた強烈な敵だね」
 ダイの言う『コレ』とは、筋骨隆々な肉体を光らせる愚神達(以下『漢愚』と略)だった。数にして3体。
(おじ様。まさかとは思いますが、わたくしの嫁入り前の体に万が一のことがあったときは……)
 内よりファリンが『その時はおわかりですわね?』とダイに指摘するが、ダイは『多分大丈夫だろうね』と曖昧に答える。
 鷹を介し、愚神達とはやや離れた方向から、ヴィランと思われる影が3つ(以下『銃員』『杖員』『盾員』と略)近づいてくるのを把握したダイは、ライヴス通信機「雫」や無線を介し、仲間達へ情報を送る。
 情報を受けた沖 一真(aa3591)は月夜(aa3591hero001)と共鳴し、無人となった住宅区域を駆け抜け、地上からの探索を行う。
 その後ろから、三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)と共鳴した三木 弥生(aa4687)が、甲冑状に纏う骸骨を鳴らし、一真の後を付き従う。
「御屋形様、御安心下さいませ! たとえ愚神が群れて襲いかかろうと、私が身命を賭してお守りいたします!」
 そう前方を走る一真に決意を述べる弥生だが、弥生も鷹の目を発動してダイと弥生が協同して上空からの索敵を担っていた。
「お屋形様じゃないんだけどなぁ……」
 後ろから届いた弥生の声に、苦笑する一真だったが、内より『むぅ、なんだか嬉しそう』と月夜からの焼きもち混じりの声が一真に届く。
 一真は『そんなことはないよ』と月夜にフォローを入れ、気を引き締めると共に、地上からの索敵結果を無線やライヴス通信機「雫」を介し、仲間達に伝えていく。
 ゼノビア オルコット(aa0626)と共鳴し、今回は自分が精神と体の主導権を握ったレティシア ブランシェ(aa0626hero001)は、流れてくる情報をひと通り吟味し、敵への対処を決めていた。
「愚神の撃破は変わりない。シーカのヴィラン達は、戦闘不能にする程度にしておけばいいよな?」
 愚神とは異なりヴィランは人間であるため、彼らへの残虐な行いは控える分別はレティシアにもあった。
『Гарсия。その後何かわかったか?』
 ライヴス通信機「雫」を介し、レティシアは今回の依頼人にして、アメリカ政府高官リアム・ワードの護衛に就く仲間へ今回の事件の背景や経緯を尋ねる。
 その頃Летти-Ветер(aa4706hero001)と共鳴したГарсия-К-Вампир(aa4706)は、リアムに自己紹介と挨拶を行っていた。
「お初にお目にかかります。私はサンクトペテルブルク支部所属のガルシアと申します。これよりリアム様の護衛の任に就かせて頂きます。何なりとお申し付け下さいませ」
 そしてГарсияはリアムより、今回の事件はアメリカのホワイトハウス周囲で巻き起こった、ホセ・グレッグ率いるアメリカ利権主義派と自分達穏健派の派閥争いを、何者かがお互いの有力者を消す暗闘に仕立て上げ、各派閥の有力者たちがいつ自分が狙われるかと疑心暗鬼になり、身動きが取れない事。今のホワイトハウスの主流はホセの利権主義であることなど、様々な情報を引き出し、無線やライヴス通信機「雫」で仲間達に伝えていた。
「自国の利益のために、他の国の窮状を黙殺するという方針が主流派とは、健全とはいえんな……」
 ライヴス通信機「雫」でリアムの情報を受け取ったChris McLain(aa3881)は、ホセの掲げるアメリカ利権主義を『不健全』と切り捨てた。
「そうです! 間違っているのです。だからこそ、穏健派のリアムさんは絶対に守るのですぅ!」
 Chrisの隣にいたシャロ(aa3881hero001)もChrisの意見に賛同し、Chrisと共鳴する。
 Гарсияを介したリアムからの情報と、眼前に迫るヴィラン達を前に、努々 キミカ(aa0002)はため息をつく。
「ロシアとアメリカ、両方に影響があるうちは拮抗で済みましたが、ロシアへの影響が消えた今はどう『シーカ』が動くことやら……」
 シーカという秘密結社が『世界の調停』を重んじることは、キミカもこれまでシーカと関わった経緯から熟知していた。
「気弱になる事は無いぞ、キミカ。悪漢(ヴィラン)は我々H.O.P.E.が平等に打ちのめす。それだけよ」
 ネイク・ベイオウーフ(aa0002hero001)は尊大な口調でシーカの『調停』を『悪』と切り捨て、キミカもネイクの言葉に頷き、2人は共鳴する。
(ハル。今回はどう敵に対処する?)
 宿輪 遥(aa2214hero001)と共鳴した宿輪 永(aa2214)は、内からの遥の問いに、億劫そうな口調でこう応じる。
「……危険度、の……高い敵……から、順に……だ」
 そして永は当初の相手として、住宅地の向こうからやってくる漢愚に向かって疾駆する。 

●齟齬
 リアムの住居からは音楽機器が鳴り響く。
 これはダイやファリンによる、リアムの所在を隠す工作だったが、無論リアムは既に別の場所に運ばれている。
「私はいつでも『かばぁ』できる位置から『隠密裏に』御屋形様を御守りいたします!」
 一真をいつでも庇える位置を保っていた弥生はそう一真に決意を伝えるが、内にいる禅昌は『隠密裏?』と疑問形の呟きを発した。
 がっしゃがっしゃ(弥生の甲冑が鳴る音)。
(おい。これのどこが『隠密裏』なんだ?)
「しっ、黙っていて下さい。音が大きいです」(がっしゃがっしゃ)
(音がでけーのはお前だ)
 禅昌から鋭いツッコミが入るが、弥生は構わずに、迫りくる愚神達を、一真と共に待ち受ける。
「街角から飛び出した途端に『ずどん』とやられるのが、『ほらあ』の常識では……」
(そんなベタなパターン、あるわけ……)
 禅昌は呆れた声を上げようとしたが、鷹の目が近くの建物屋上にいる銃員の姿を確認するなり、弥生に警告する。
(銃員の狙撃が来る! 退避させろ!)
 ほぼ同じ瞬間、一真の内にいる月夜も、近隣の建物屋上に一瞬煌めいた銃口を見逃さず、警告を発する。
(左手奥の建物屋上から、銃員がこちらを狙ってるよ)
 禅昌と月夜の警告に乾いた銃声が重なり、飛来した銃弾は一真に襲いかかるが、直前で弾道上に割り込んだ弥生に当たり、銃員の狙撃は金属音を上げて弾かれる。
「大丈夫か、弥生?」
「御案じなされますな、御屋形様。私の方が堅いので無傷でございます!」
 弥生は一真に無傷である事を示し、その間にも銃声を聞いたChrisは手近の建物屋上まで一息で上がると、『生きたライフル』にカスタマイズされたAK-13を構える。
「シャロ。敵スナイパーの方向は」
(クリスさんから見て10時の方向なのです!)
 シャロの指摘を受け、AK-13の射線や位置をChrisは調整する。
「確認した。シャロ?」
(はい。ロングショットで行きましょう!)
 シャロに背を押され、ChrisのAK-13より銃声が響き、大気を貫いて飛翔したChrisの弾丸状ライヴスは、ロングショットにより本来の射程を飛び越えて、離れた建物屋上にいる銃員の身を貫いた。
「スナイパー対決と行こうか」
 自分の一射を受けても倒れない銃員を釘付けにするため、【SW(銃)】オプティカルサイトでChrisは照準を定め、狙撃を重ねる。
 その間に道路上では漢愚が永に向け両腕を広げていたが、永は漢愚の術への抵抗に成功し、引き寄せられることはなかった。
「その程度か。ではこちらから向かう」
 嫌いな相手に向けた口調で永は漢愚にそう宣告し、自分から漢愚との間合を詰めていく。
 その様子を建物の屋上を飛び移って接近していたキミカが、九陽神弓の弓弦を引き絞りながら眺めていた。
「女の心に男の筋肉……いいかもしれない」
(キミカ。妄想は後にしろ)
「ハッ!? いやいや、戦闘に集中せねば」
 内からのネイクの指摘で我に返ったキミカは、九陽神弓にライヴスブローを込め、弓弦を鳴らしその威力を永と戦う漢愚に向け解き放つ。
「これは嚆矢の一撃だ。まずは小手調べと行こうか!」
 キミカより放たれた矢状ライヴスは空間を突っ切って、漢愚の胸を穿つ。
 キミカに射抜かれた漢愚は、よたよたと後退するが、踏みとどまる。
(ハル、今だ)
 そこへ既に間合を詰めていた永の天雄星林冲が、遥の加護を受け、炎のようなオーラを撒いて翻り、雷光の速度で漢愚に繰り込まれ、一息に刺し貫いた。
 永の炎のように曲がりくねった穂先が、漢愚の背から突き出し、縫い止められた形になった漢愚は硬直したように停止した。
「……見かけ倒しだ、な。……引き寄せ……られ、なければ……大した……こと、は……ない」
 真紅の柄を捻り、永がそう言いながら天雄星林冲を引き抜くと同時に、胸から塵を噴いて漢愚は倒れこみ、消える。
 同じような光景は一真や弥生のところでも繰り広げられていた。
(私達を抱きしめるには、包容力が足りないよ)
 漢愚の繰り出した抱擁への抵抗に成功した一真の内より、月夜が冷静に指摘する中、一真を援護すべく弥生が漢愚に肉薄する。
(……あのなあ。一応言っておくが、俺達はシャドウルーカ―という分類に入るんだからな?)
「……? はい、もちろんです!」
 内より禅昌が遠まわしに、自分達が壁役には向いてないことを指摘するが、弥生は毅然とそう応え縫止を発動し、ライヴスの針を漢愚に突き立て、それ以上の術の発動を妨害してから真横へと飛び退き、一真の射線を開ける。
 その弥生の稼いだ時間を使い、一真はサンダーランスの雷の槍を構築していた。
「悪いが男色の趣味はないんでな!」
 一真がそう言ってサンダーランスを解き放つと、一真の雷電状ライヴスが空間を引き裂いて疾走し、漢愚を直撃した。
 一真のサンダーランスは漢愚の内外を蹂躙して走り回り、致命傷を負った漢愚は全身から塵を噴いて消えていく中、残る漢愚とダイ、レティシアの戦いが続いていた。
「こいつから情報を引き出すのは無理だな」
 そう言いながらもレティシアはPride of foolsで威嚇射撃を行い、漢愚の攻撃を妨害し、その間にダイは漢愚との間合を整え、腕を振った。
 琴のような音色が大気を震わせ、ダイやファリンが【蔡文姫】と銘をうったキリングワイヤーが大気を切って吹き伸び、漢愚の体を引き裂くと共に、ダイの【SW(鞭)】エレクトリクスから駆けつけた衝撃力が合流し、漢愚に衝撃を与え、その意識を削り取る。
(おじ様。他の愚神は倒れたようです。最悪の事態は免れそうですわね)
「そうなのかい? ならこいつで終わりなんだな」
 内からのファリンの声にダイはそう応じ、さらに【蔡文姫】をほとばしらせ、【SW(銃)】オプティカルサイトで照準を終えたレティシアのPride of foolsからも、銃声が立て続けに轟いた。
 意識を削られた漢愚は、レティシアの2連撃に立て続けに射抜かれ、ダイの斬撃を浴びて切り刻まれてもいまだ倒れない中、リアム護衛についていたГарсияは、予期せぬ苦戦を強いられていた。
 このときГарсияは当初仲間達の決めた避難先へとリアムを護送するつもりだったが、『どこに避難させるのか』が、仲間同士の相談内で最後まで決まらなかったので、避難先不明のままリアムを背負って敵味方のライヴスの飛び交う戦場の中を動き回る形になり、この段階で迎撃されずに接近した杖員、盾員に一人で立ち向かう形となった。
(Гарсия。敵に範囲攻撃を使わせてはなりません)
「わかっております。リアム様。建物の陰で伏せていて下さいませ」
 内からのЛеттиの助言に頷くと、Гарсияはリアムを降ろして近くへ退避させ、杖員、盾員に向けストームエッジを発動し、Гарсияの周囲に一瞬無数の刀剣状ライヴスが展開すると、杖員、盾員めがけてГарсияのライヴスが襲いかかる。
 杖員が旋風を巻き起こしてГарсияの刀剣状ライヴスを回避し、盾員は盾を掲げてГарсияの攻撃を防ぐ中、Гарсияは無線やライヴス通信機「雫」をフル活用して救援を求める。
「シーカ様御二方がこちらにお見えになっております。至急救援をお願いいたします」
 それまでは持ちこたえてみせると、Гарсияは迎撃の手を緩めず、改良した目覚まし時計「デスソニック」を杖員、盾員へ投擲し、戦場に教会の鐘の音めいた衝撃波を轟かせた。

●紙一重
 Гарсияからの救援要請を受け、迎撃作戦に穴があった事に気付いた7人のエージェント達の動きは迅速だった。
「……あぁ、やはり、男同士の抱擁は私の趣味ではない」
(訳のわからんことを口走るな、キミカ。さっさとリアム殿を守りに行け)
 ネイクからの適格な指摘に、キミカは再び我に返ると、Гарсияやリアムのもとへと建物屋上を飛び移って急ぎ、地上では漢愚を倒した永も疾駆を開始する。
(ハル。急がないと依頼人が危険だ)
「……間に合わせ、る……」
 遥の助言に永が全力移動へと切り替える中、リアムがいる場所付近から立て続けに2発の銃声が響き渡った。
『今のは俺のトリオだ。俺がГарсияとリアムを守っている間に合流を急ぐんだな』
 その時ライヴス通信機「雫」や無線を介し、いち早くダイと共に愚神との戦いを中断してГарсияのもとへ急いだレティシアから他の仲間達へ、自分達がГарсияとリアムの援護に間に合った事を意味する連絡が届く。
 この時一真は杖員、盾員への迎撃へと移行するつもりだったが、レティシアとダイの代わりに残る愚神退治を引き受け、2人をГарсияやリアムのもとへと送り出していた。
「御屋形様、御助勢つかまつります」(はむはむ)
 この時、弥生の内にいる禅昌が何か言いかけるも、一息で食事を終えた弥生はそう一真に言い残し、漢愚へ突進する。
 漢愚は槍を繰り出すが、その瞬間弥生は跳躍した。漢愚の槍の穂先は弥生が先までいた空間を貫き、弥生は着地して一息に漢愚の懐へ飛び込んだ。
 【SW(刀)】EMスカバードの電磁力で、鞘走る守護刀「小烏丸」の刀身を加速させた弥生の斬撃は、漢愚の身体を切り裂いた。
 そこへ『百鬼を退け凶災を祓う! 急如律令!』の叫びが轟き、轟然と火柱が噴き伸びて漢愚の体を包みこむ。
 一真のブルームフレアだ。
 一真の業火は漢愚だけを焼きつくし、漢愚は塵と化し業火の中で消える中、甲冑を鳴らして弥生が駆けつける。
「御屋形様! お怪我はござりませんでしょうか!?」
「大丈夫だ、弥生。弥生のおかげで俺は攻撃を受けずに済んだ」
 弥生の案ずる言葉に一真がそう応じる中、月夜より助言が届く。
(まだシーカ結社員達が健在だよ。合流した方がいいんじゃないかな?)
 月夜の助言を受け、一真は弥生に声をかけ、残るシーカ結社員撃破へと動きだす頃、Chrisが釘づけにしていた銃員とのスナイパー対決に決着をつける。
 銃員のロングショットがChrisに命中し、ダメージを負わせる中、【SW(銃)】オプティカルサイトで照準を終え、射手の矜持で精度をあげたChrisが「生きたライフル」の引き金に指を添える。
(クリスさん。射手の矜持は健在ですぅ。このままロングショットを)
「Roger(了解だ)。これで決めるぞ」
 内からのシャロの連絡にChrisはそう応じ、AK-13の引き金を引く。
 ChrisのAK-13より発射焔と共に、唸りを上げて飛翔したChrisの弾丸状ライヴスは銃員へと吸い込まれ、胸を貫かれた銃員は血の飛沫をあげ、前のめりに転倒する。
『銃員は倒した。これで敵の遠距離射撃はなくなったぞ』
 ライヴス通信機「雫」や無線を介し、Chrisは手早く仲間達へ連絡を入れると、無力化した銃員を拘束にかかる。
 その間にもレティシアの援護射撃のもと、Гарсияのもとへと合流できたダイは、縫止を使ってライヴスの針を杖員に飛ばして術を封じると、合流したキミカと共に盾員に殺到する。
(Гарсия。敵が術を封じられている間に無力化を)
 杖員が術を封じられたところで、それまでリアムを庇う形で1対2の戦闘を続けていたГарсияがЛеттиの助言を受け、杖員に向け形見であり改造された小説「白冥」を顕現し、その本を開く。
「依頼人を守りぬく。それがエージェントとしての、メイドとしての私の理念です」
 周囲に冷気を帯びたライヴスを展開し、ライヴスを無数のナイフ状に鋭化させたГарсияは、ライヴスの弾幕を杖員に放つ。
 Гарсияの小説「白冥」による攻撃を受けた杖員は辛うじて凍結を免れたが、Гарсияが『今でございます。永様』と永に連絡し、連絡を受けた永が杖員めがけて突っ込む。
(ハル。今のこいつなら一撃で倒せる)
「……魔法が得意……な、ら……これ……には、弱い……はず、だ」
 内からの遥の助言に永はそう細々とした声で応じると、ブラッドオペレートを発動し、ライヴスのメスを杖員に突き立てる。
 永のブラッドオペレートで深々と切り裂かれた杖員は血の霧を噴いて倒れ伏し、無力化される。
 残るは盾員だけとなったが、その盾員には既にレティシアがPride of foolsを向けていた。
「では、これで終わりだな」
 レティシアが酷薄に盾員に向けそう告げると、テレポートショットを発動させ、Pride of foolsが立て続けに発砲した次の瞬間、盾員の予期せぬ方角からレティシアの弾丸状ライヴスが飛来し、盾員の身を穿つと、不意打ちされた盾員の意識や注意を強引に刈り取る。
(おじ様。今が追撃の時ですわ)
「そうなんだよね。これで少しは倒しやすくなるはずなんだ」
 そこへ畳み掛けるように、ファリンの助言を受けたダイの【蔡文姫】が大気を切り裂き、琴のような音を鳴らして盾員に襲いかかる。
 【SW(鞭)】エレクトリクスの衝撃力が加わったダイの【蔡文姫】が盾員の身を切り裂き、その意識を衝撃で削り取る。
「キミカ。後は頼む」
「引き受けた。後は任せろ」
 ダイより後を託された形となったキミカは、建物屋上から地上に降りると、一気に盾員との間合いを詰める。
(キミカ。ライヴスリッパーの出番はなさそうだぞ。そのまま打ち砕け)
「わかってる。これで打ち崩させてもらう!」
 内からのネイクの助言に背を押され、キミカはメイス状に改良された火之迦具鎚を振るう。
 キミカの一閃が紅のオーラを円環めいた軌跡を空間に描いた瞬間、盾員は盾で防ぐ暇もなく、盾もろとも血煙を上げて吹き飛んだ。
 無力化された盾員が地面に叩きつけられた時。
 死闘は幕を閉じた。

●暴露
 こうしてリアム・ワードを守りぬいたエージェント達だったが、やるべき事は残っていた。
「リアム殿。こちらは片付いた。もうこれ以上は心配いらんぞ。安心して出てこられるがいい」
 共鳴を解除したネイクが避難していたリアムを助け起こす中、永は負傷したChrisをケアレイで治療し、治療を受けたChrisはレティシア、ファリン、ダイのもとへ合流すると、シーカ結社員の尋問を行う。
「愚神と共闘とはふざけた真似しやがって。さあ、知ってる事について洗いざらい話してもらおうか」
「はわわ……。やり過ぎないでくださいねぇ……?」
 共鳴を解いたChrisが結社員達に迫るのを、シャロが穏便にと押しとどめる中、ファリンとダイの尋問が続いた。
 殺されないとでも思っていたのか。シーカの理念を信奉しているのか。明らかに自分達の捕まる作戦になぜ参加したのか。
 ファリンとダイの追及への結社員からの回答は、ややファリン達の予想とは異なるものだった。
「命令を拒否するよりも、作戦に従った方が生き延びられるから、でございますか?」
 ファリンやダイが尋問した限り、この結社員達はシーカへの忠誠は半々。命令より生存が優先のようだ。
 その間Гарсияはリアムに物言いたげな表情を向けていたが、Леттиより制止されている。
「今Гарсияの考えている問いかけを、囮役を引き受けて下さったあの方にぶつけたら、間違いなくアメリカ政府はH.O.P.E.と絶縁し今後一切信用しなくなりますよ。それは愚神を喜ばせるだけではありませんか?」
 そうЛеттиに諭され、Гарсияはリアムへの問いを心の中に伏せる。
「お前らの上。今回の事を命じた奴と話せる手段とかねぇのか。通信機とかあるなら出せ。直接話させろ」
 ゼノビアに記録役を任せたレティシアがそう結社員達に迫る中、『ではご希望に応えまして』という声がその場に響くと共に、何の前触れもなくその場に髪と瞳の色と同じ金銀の意匠を纏う存在が姿を現した。
 永、一真、キミカ、ファリンそしてГарсияはその存在の名を知っていた。
 トリブヌス級愚神。『楽園の長』ニア・エートゥス。
 即座に全員が共鳴状態に入ろうとしたが、ニアは素気なくこう告げる。
「共鳴して私を攻撃するなら、私はそこの人間を狙います」
 ニアの見据える先にはリアム・ワードの姿があり、エージェント達は一瞬思考する。
 愚神やヴィラン達と死闘を演じ、消耗した状態で現状を好転させるのは無理なことは、エージェント達も理解できた。
 最初にファリンとダイがニアへの迎撃を止め、情報の引き出しにかかる。
「ロシアが国難の危機に見舞われている時期にアメリカでこのような騒動を起こしたのは、陽動のつもりでございますか?」
「オレグの口を封じることなく、俺達に逮捕させ、今回も結社員を捕まえさせたのは何の罠だ?」
「陽動でも罠でもありません。騒動はシーカの命令であり、それを阻止し証拠を得て黒幕を逮捕するのは貴方がたH.O.P.E.にしかできないことです」
 ニアの回答はエージェント達の予想とは異なるものだった。
「今回の一件……まるでやらせそのものでございます。その目的は何なのですか?」
「ご丁寧に俺達に情報を漏らしたんだ。俺達になにをさせようと企んでる?」
 Гарсияとレティシアからの問いにニアは意外なことを応えた。
「『解放』……ですか。貴方は何から解放されたいのです? 私達を呼び込めば、それが達成されるのですか?」
「こいつらをわざと俺達に逮捕させたのも、解放の1つとでも言う気か?」
 ニアの回答を受けたキミカがChrisと共に質問を投げかけると、ニアはいずれの問いへも『ええ』と頷いた。
「その解放というのは……シーカからか?」
 これまでに得た手がかりと、今ニアからもたらされた一連の情報を整理していた一真が、その推測へとたどり着き、ニアに確認するとニアは頷き、一真の読みを肯定する。
「おまえはその気になればシーカからの解放とやらも自力でできるはずだ。なぜそうしない?」
 やや離れてニアを警戒していた永は、嫌いな者への口調でニアにこの場のエージェント達が抱く疑問をぶつけたが、ニアは『ご判断は任せますが』と、何かを永へと放り投げる。
 とっさに受け取った永の手には、何かの記憶媒体が入った袋があった。
「そこに今回の事件の黒幕ホセ・グレッグや、貴方がたの知りたい全ての証拠が記録されています」
 政敵であるホセの名を聞いたリアムが顔色を変える中、ニアが『では御機嫌よう』と指を鳴らすのと、危険を察知した弥生がГарсияと共にリアムを強引に遠ざけるのはほぼ同時だった。
 その直後ニアの周囲に黒い竜巻が吹き荒び、エージェント達の視界を一瞬塞ぐ。
 やがて竜巻が姿を消した時、ニアの姿はどこにもなかった。
「御屋形様、大事はございませんか!?」
 弥生がそう言って一真に駆けつけ、脅威は去ったと判断したレティシアやChrisが四方に連絡を入れ、やがてアメリカの諜報機関の車が続々と到着し、エージェント達やリアムを護送してその場から離れていく。
「ハル……」
 帰路の中で遥は本日の誓約を永に尋ねたが、永が呟いた言葉は小さく、遥は聞き取ることができなかった。
 こうして帰還したエージェント達が確保できたシーカヴィラン達と証拠をH.O.P.E.に引き渡すと、H.O.P.E.は結社員への尋問や証拠の解析を開始する。
 やがて『中間報告ですが』と前置きし、エージェント達の得た証拠内容の1部をポルタ クエントが『あなたたち』に説明する。
「今アメリカで起きている暗闘や愚神達に人々の拉致を命じていたのは、大統領補佐官ホセ・グレッグで間違いありません」
 そしてホセの正体をポルタは告げた。
「ホセ・グレッグの正体は、アメリカでの『調停』を担うシーカメンバーです」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 夢ある本の探索者
    努々 キミカaa0002
    人間|15才|女性|攻撃
  • ハンドレッドフェイク
    ネイク・ベイオウーフaa0002hero001
    英雄|26才|男性|ブレ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 永aa2214
    人間|25才|男性|防御
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 遥aa2214hero001
    英雄|18才|男性|バト
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 我を超えてゆけ
    ダイ・ゾンaa3137hero002
    英雄|35才|男性|シャド
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 指導教官
    Chris McLainaa3881
    人間|17才|男性|生命
  • チョコラ完全攻略!
    シャロaa3881hero001
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 守護骸骨
    三木 龍澤山 禅昌aa4687hero001
    英雄|58才|男性|シャド
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
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