本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】逃亡者と避難民

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/02/07 16:25

掲示板

オープニング

●ペルミ市内避難所
「皆さん、人命を最優先に! 持っていく荷物は最小限にしてください!!」
 小学校の体育館に、ボランティアの声とHOPEの職員が木霊する。ペルミ市外から自主的に避難してきた人々は、その声に苛立ったり混乱したりしていた。
「おい、荷物をさらに捨てろっていうのかよ! 元々必要最低限しか持ってきてないから、足りなくなってきてるんだぞ!!」
 子供を連れた男は、ボランティアを怒鳴りつける。子供は怒鳴る父親にすら怯えて、泣き出してしまった。だが、父親も子供が泣いたことをかまってはいらいない。私財を捨てれば、今後の自分たちの生活がなりたたなくなるからだ
「人命が最優先なんです。 人を乗せるスペースを作るためにも、荷物は捨ててください!」
 ボランティアも譲らない。
「日用品はこちらで提供します」
「その日用品はどこにあるんだよ!!」
 避難民とボランティアの怒鳴り合いは、いつまでも続いていた。
「おかーさん。おかーさん、どこぉ」
 小さな女の子が、ヌイグルミを抱きしめながらさまよう。
「だめっ! 一人で遠くにいっちゃだめでしょ」
「でも、おかあさんが」
 女の子の姉は、唇を噛む。
 二人の姉妹が母親と離れ離れになって久しい。親を探すよりも、妹を守ることを優先してきた姉は母を求める妹に苛立ちを覚えてしまった。
「もう、やめてよ」
 ぱちん、と皮膚を叩く音がした。

●会議室
「避難が……進まない」
 その夜の会議で、HOPE職員とボランティア代表は頭を悩ませていた。
「避難に関しては、少ない時間を活かすしか方法がありません。幸い、リンカーたちが遅滞作戦を展開するらしいです。問題なのは……」
 ボランティアの代表は、深いため息をついた。
「寄付されてきた物品の整理や平等な食料の配布といった問題がまだ山積みです」
「仕方ありません」
 ボランティアとして避難所に残ってくれたのは、多くは地方出身の若者たちである。進学でペルミにやってきていた学生や避難民ではあるが、避難所の運営に力を貸してくれている有志の学生たちがボランティアとして働いてくれている。若者故に体力と気力だけはあったが、彼らの多くにはボランティアの経験がなかった。
「避難民同士の諍いも問題です。日に日に険悪な空気になっていて……」
 娯楽はなく、危機感だけがある生活に誰もが疲れてきていた。
「限界です。HOPEの本部にかけあい、外部のリンカーを呼び込みましょう。依頼内容は、この避難所の維持です」

●日本にて
「ボランティアの募集ですか」
 エステルは、支部で配られた資料に目を通す。
 自分たちの故郷を捨てることになった避難民たちに、エステルは心を痛める。故郷を破壊されてしまった彼らは、きっと辛い思いをしていることであろう。
「まったく危険がないというわけではないので、無理意地はしませんよ」
「……行ってみたいです」
 ぽつり、とエステルはつぶやいた。
 隣にいるアルメイヤは、無表情を装いながらもぎょっとしていた。受動的なエステルがなにかをやりたいと言い出すのは、かなり珍しいのだ。
「エステル、危険だという話だぞ」
 アルメイヤとしてはできれば、行って欲しくはない。
 だが、エステルは譲らなかった。
「でも……アルメイヤには負けたくないから」
 エステルの呟きに、アルメイヤは首をかしげた。
 クリスマスプレゼントを買うためにアルバイトをしていたアルメイヤだったが、実はひっそりとそのアルバイトを続けている。ナマハゲの恰好をする居酒屋なのだが、意外と気性にあっているらしい。
「私もついていくからな! 危ないことはするなよっ!!」
「私は、たぶん他の人の手伝いをするだけで精一杯だと思います」

解説

避難所の問題を解決してください。
・物品の未整理
・避難民のストレスの緩和

避難所……地元の小学校が避難所となっている。なお、体育館以外の部屋はすべて学校の1Fにある。
体育館……避難民が雑魚寝している場所。女性、男性、子供、分けることなく押し込められている。諍いが絶えず、幼い子供たちが泣くことも多い。避難民は老若男女合わせて百名前後いる。PLやエステルに対しても、喧嘩を売ってくる避難民もいる。
裁縫室……寄付された日用品が置いてある部屋。衣料品から医療品まで押し込められており、天井までうず高く積みあがっている。整理するのは、なかなかに大変。
保健室……感染症対策として、風邪の症状が出た病人を隔離している。医者がいないため、風邪薬を投与し休ませているだけの状態。現在病人は八人。
調理室……食事を作っている場所。ボランティアでは人手が足りず、避難民の女性陣にも混ざってもらって普段は調理をしている。
理科室……食料が置いてある倉庫。整理されておらず、たまに避難民が食料を盗んでいる。(PL情報:理科室を整理しようとすると、食料を盗もうとしている避難民がやってくる)

エステル……呼ばれたところに手伝いに行く。
アルメイヤ……エステルと一緒にいる。エステルにケンカ売られたら買う係り。

リプレイ

 ●混乱していた避難所
 ボランティアや避難民が集められた朝の集会で、リンカーたちは紹介された。
「避難所の運営を手伝ってくれる方々です。皆、今日も協力して乗り切りましょう」
 代表者の紹介が終わると、国塚 深散(aa4139)は一歩進んだ。彼女は制式のコートを着用していた。できるだけお堅い雰囲気を醸し出して、自分たちは見捨てられていないと深散は避難民に伝えたかったのである。
「おはようございます。HOPE東京海上支部の国塚です。避難所の安全を守る為に派遣されてきました。皆さんが故郷を追われる中での遅参となり、申し訳ありません。今、私が心から信頼する仲間達がロシア軍と連携して防衛に当たっています」
 避難民の間で、動揺が走る。
 情報は最低限入っているだろうが、戦っていると直接言われれば不安もあったのだろう。
「民間人の避難が完了次第、我々は攻勢に移り、奪われた領土を取り戻します。正直な気持ちを吐露すれば、今すぐにでも前線に出て仲間と肩を合わせ戦いたいと思っています。ですが……私達の使命は皆さんを守ること。そこで手を抜くつもりはありません。でないと前線で戦う仲間に顔向けできませんから。今暫くご不便をおかけしますが、どうかご協力をお願いします」
 深々と深散は、頭を下げた。
 避難民たちの反応はさまざまであったが、深散の挨拶は概ね好意的に受け入れられているようである。だが、避難所のなかにあるピリピリとした空気も同時に伝わってくる。
『ストレスがだいぶ溜まっているみたいだね』
 九郎(aa4139hero001)もその空気を肌で感じているようである。
「皆と協力してやりきるしかないです」
 深散は何かを決心するかのように、頷いていた。
 三ッ也 槻右(aa1163)は、学生ボランティアを集める。皆、様々な理由があったがここに残り、無償で避難民の生活を支えてくれていた猛者たちであった。だが、その顔色にも若干疲れの色が見え始めている。
「君達を尊敬するよ。不安の中衝突もあったと思う。それでもここに居る。僕も若輩だけど、少しだけ経験していて、それを伝えたいと思う。難しい事は一緒に考えよう?」
 槻右は、集まったボランティアに言い聞かせる。
「君達が迷わずに行動できるなら、二十人の力はもっと大きな希望になると思うんだ。どうかよろしくね」
『主、私にもやりたいことが見つかるかな?』
 隠鬼 千(aa1163hero002)は、あたりを見渡していた。
『見て、知って、力になれる様に、色んな所でお手伝いを……と思ってるんです』
 千を見ながら、槻右は微笑みかける。
「見つかるといいね」
 そして、それが人々の力になればよい。
 槻右は心からそう思った。
「この場所ではないが、俺も避難誘導をしたことがあるからな……。なんとか状況を改善したい」
 ニノマエ(aa4381)は、避難民たちの話を聞きながら名簿を作っていた。名前、年齢、性別、職業、家族構成などを確認し、データ化していく。
『おまえのそういうところ、嫌いじゃないよ。私も手伝おう。だが、どうしてアレルギーまで聞かなければならないんだろうか?』
 持病まではまだ分かる、とミツルギ サヤ(aa4381hero001)は首をかしげる。
「アレルギーは卵や牛乳、ピーナッツとかの日常的に食べる食品でも起こす。しかも、少量を摂取しただけで、強いショック状態になることもある。ここでそんなふうになったら、大混乱だろう」
 医者がいない状態で避難所が何とか運営できていたのは、重病人がいなかったからである。今ここで、命にかかわるような病気を避難民たちにさせるわけにはいかないのだ。
『確かに、そうだな。おっ、さっきの人は元教師か』
「本当か。なら、子供の面倒は見慣れてるはずだな。ちょっと声をかけてくる」
 ニノマエは、避難民を追いかけて行った。
「ニノマエ、お疲れさん」
 すれ違う仲間に、荒木 拓海(aa1049)は声をかけた。
「オレたちは名簿を作りながら、リーダーになりそうな人物を探さないとだな」
 自分たちは少ない日数で去ることになる。
 その後のことを考えるならば、避難民の中からリーダーを決めた方が良い。
『お国柄って言うのかな……無いように見えても男尊女卑・家長制度とか。リーダー役に無意識の制限がないかは確認したいわね。頂点が決まると不安は減ると思うの』
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、「うーん」と少しばかり悩みだす。
 他の国の見えにくい事情を短時間で自分たちが察することができるか、と少しばかり不安に思ったのであった。
「そこらへんは様子を見ながらだね」
 大丈夫見つかるよ、と拓海は微笑んだ。
「えっと……女の人はこっちに。男の人はこっちでお願いします。あの……ご家族がいるかたはこっちで」
 藤咲 仁菜(aa3237)は、わたわたしながらも体育館に作った仕切りに避難民を案内していた。独身の男女を別にし、家族はできるだけ一緒に寝れるようにするためである。
「誰がお譲ちゃんの命令なんて聞くかよ」
 ガタイの良い男が、仁菜に突っかかってくる。
 リオン クロフォード(aa3237hero001)は、腕まくりをする。それを見ていた仁菜は、大慌てでバツ印を作った。
――リオン、何があっても喧嘩は買わないでね?
 視線だけで仁菜は、リオンを止める。
 唇を噛んで、リオンは我慢をした。避難民は悪人ではない。極度の緊張状態に置かれていただけなのである。だからこそ、必要なのは暴力ではなく言葉だ。
『……いつだって、皆を守りたいんだよね』
 リオンはそう呟いて、仁菜を見つめていた。
「やる事がないとイライラしますよね。一緒に体を動かしてすっきりしませんか? まだ、仕切りが全部ができていないんです」
 仁菜は、できる限りにっこりと笑った。
 今回は仁菜の丁寧な対応で事なきを得たが、周囲の空気はまだピリピリしている。
『子供のミルクを作るお湯がないんですか?』
 茨城 日向(aa4896hero001)は、赤ん坊を抱いた女性の悩みを聞いていた。母乳の量が足りずミルクに頼っていたのだが、不規則な時間にミルクを欲しがる子供のためにお湯を調達することが難しいらしい。
『日向がどうこうするより、女性のほうがいいですよね。今、仲間を呼んできます』
 いくら少年の姿の日向であっても、このような相談をするのは女性の方がよいであろう。そう思った日向は千を引っ張ってきた。
『そうか……。それは不便でしょう』
 何か策を考えてみます、と千は答えた。
『自由に調理室を使えるようにすれば良い、というわけでもなさそう』
 少しばかり。千は考える。
 もしも夜に赤ん坊がミルクを欲しがったら、周囲の人間が起きだしてトラブルに発展してしまう。そこも色々と考えなければ。
「まずは、落ち着かせんとな」
 麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)はカラオケセットを引っ張ってきていた。たぶんここならば邪魔にならないだろう、という場所にそれを設置する。
「プロジェクターの設置は、これで大丈夫か?」
『……ん、気が晴れれば、最上』
 パラダイスバードを試しに鳴らした遊夜をユフォアリーヤは見やる。
『……ん、ボクの歌を、聴くと良い。まずは、流行曲から』
「派手に行くぞ」
 遊夜は、火炎放射を天上に向ける。
「最小火力で演出するぞ」
 周囲の人間の注目が、一気に二人に集まった。
 そんな光景を鵜鬱鷹 武之(aa3506)は、のんびりと横になりながら見ていた。近くでヒーリングコロンは焚いているが、その光景は日曜日にだらけるお父さんである。
「頑張るのは他のやる気のある人達に任せればいいんだよ。出来ない事を無理にしても続かないからね。のんびり気持ちを落ち着けるといいよ。俺がこうしてのんびりしている事で働かなくちゃっていう強迫観念を植え付ける事をセーブしているんだよ」
『そうなんだね』
 ザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)は、にこにこしながら武之の側から離れる。他の面々より、食事の準備をするように呼びかけられたのである。
『みんなでごはんをつくるんだね! ルゥがんばるんだよ!』
「おー、行ってこい」
 武之は、ルゥルゥを見送った。
 子供たちが、自分の尻尾で遊んでいたが叱ったりするのも面倒なので放置しておくことにした。
『よーし、俺と遊ぼうぜ。<皆と遊びたいよー>』
 日向 和輝(aa4767hero001)は縫いぐるみで、子供たちの気を惹きだした。大人たちは疲れ始めているし、元気な子供たちの遊び相手を和輝は引き受ける気でいたのでる。
「お兄ちゃん、高い高いして!」
『おお、いいぞ。いいぞ、高い高い!!』
 こういう体力勝負ならば、和輝は得意としているのだ。「キャッチボールやって」と強請られたり、和輝は短時間で幼い少年たちの遊び相手として溶け込んでいた。
「和、俺に出来る事があるなら手伝いたい」
 千桜 姫癒(aa4767)は自分にできることを考えていた。
『勿論、ほら姫癒にしか出来ない事もあるだろ? 俺も手伝うし、頑張ろーぜ』
「そうだ。占い。もしかしたら、占いと称した人生相談になってしまうだろうけど」
 姫癒はメガネを外す。
「この顔もたまには役に立つかな」
『こんな時だし、女性の相談を受けるなら男気溢れるより良さそうだしなー』
 頑張らないとだな、と姫癒は笑った。

●感染予防の大切さ
「医者がいなくても大丈夫な位には整えないと……」
 桜小路 國光(aa4046)は保健室で忙しくしていた。ちゃんと医療について学んでいるのは、今回は國光ぐらいである。自分が医療面の守り手なるという気概が彼の中にはできていた。
「これでも薬学生だし……。オレにしか出来ない事もあるはず」
 医者ではないが、それでも知識は役に立つはずである。
『サクラコ、ビタミンの薬はコレなんですか?』
「ちゃんと服用の上限を守ってよ。医療用じゃないから管理に神経質になりすぎてもいけないけど乱用で無駄減らしもダメ」
 メテオバイザー(aa4046hero001)は國光の話を神妙に聞いていた。薬に関しての知識は、國光のほうが圧倒的に上だ。
「あと、熱が下がらない人がいるから厨房で病人食を作ってもらえるようにお願いしよう。あと、ここに入りきらなかった病人には体を冷やさないようにって注意しといて」
 國光の言葉に、メテオバイザーは首をかしげる。どのようにすれば、体を冷やさないで過ごせるか、とっさに思いつかなかったのである。
「雑魚寝状態なら、ダンボール厚めに引いてその上で寝るようにって言って。暖房はあるけど床は体を冷やすから病人はダメ! 絶対!!」
『そうですね。体を冷すのは、絶対にダメですよね』
「あと、コレかな」
 國光はメテオバイザーに、消毒スプレーを渡す。
『コレって……』
「そう。消毒が一番大切だからね。ドアノブや階段の手すり、あとはトイレも。とにかく、人がいっぱい触るところを重点的に消毒して」
『トイレ掃除まで、ですか?』
「そう。自分も人も嫌な事が避難所だと最重要な仕事って結構ある。「誰かが」じゃなく「自分から」が避難所を回すんだよ」
 行ってらっしゃい、と國光はメテオバイザーを見送った。
「國光君、ちょっといいでしょうか?」
 保健室に入ってきたのは、村主 剱(aa4896)であった。メモ帳を持って避難所を歩いていた彼は、ここを円滑に運営するためにマニュアルを制作中であったのだ。
「ちょっと、どんな病気が流行っているのかを聞きたくて」
「インフルエンザみたいな感染力が強いのは流行っていないね。ストレスとか環境の変化で体が弱って、風邪を引いた人がほとんどだと思うよ。予防策は、手荒い・うがいの徹底だね」
 剱は自分の職場を思い出す。
 多人数の人間が共同生活しているということは、それだけで風邪が蔓延しやすい環境なのである。
「子供用の手洗い促進のポスターも必要みたいだね」
 かわいらしいイラスト付きのと剱は微笑んだ。
「あっ、すみません。呼び出されちゃったみたいです。えーと、ご飯の準備と崩れた物品の整理ですかー。ごめんなさい、二ついっぺんには無理です。あ、整理の方には他の人を呼ぶんですね。じゃあ、剱はご飯のほうに行きますから」
 「では、また後で」、と剱は忙しそうに走り去っていった。

●物品整理
「これは、なんの悪夢なんだろうな」
 裁縫室にうずたかく積み上げられたダンボールの山を見て、遊夜は一瞬呆けてしまった。なんでもこの避難所が発足して混乱している間に送られてきた支援物資をここに詰め込めるだけ詰め込んでしまったらしい。気持ちは分からなくもないが、これでは平等に分けることも難しそうだ。
『……ん、やりがいはありそう』
「そうだな。年末の大掃除だと思おう」
 おおざっぱでもいいから荷物と分けようとしていると、手伝いに来ていた英雄たちが現れた。
『悪いな。遅れたぜ』
 力仕事は任せろよな、とリオンは力瘤を作って見せた。
『あと、手伝ってくれるっていう男手もつれてきたぜ』
 リオンは何か手伝いをしたいという避難民たちを集めて、その人間たちと共に物品整理をしようと考えていた。人間、動いていた方がマイナス思考には陥らないものだ。
『たくさん荷物がありますから、人手はありがたいです』
 リオンと共にやってきたメテオバイザーも、ほっとする。國光より、薬品のすべてを保健室に移動するように言われていたのだが、うずたかく積まれた荷物に及び腰になってしまっていたのだ。だが、手伝ってくれる人がいるのならば何とかなるだろうという気持ちにもなってくる。
「さて、体育館で映像流してる間に諍い原因の根本解決と行こうか」
『…ん、こっちには医療品関係。リオン、タグを作って。……ん、消耗品と他のを一緒にしないでね』
 てきぱきと働くユフォアリーヤと遊夜の姿に、リオンは少しばかり驚く。その手際の良さは、なんとなくだが慣れを感じてしまう。
「孤児院を運営していると、荷物の多さで困ることは割とあるんだよ」
『……ん、子供が多いと物が増える。整理整頓は基本』
 ここは俺たちの指示に従ってもらうからな、と遊夜は視線で命令していた。

●食材整理
『しかし、なぜ食品を理科室に置いてしまったのだろうな?』
 理科室で食品の整理をしながらサヤは首をかしげていた。今はとりあえず、賞味期限の近いものをえり分けて調理室に運ぶ準備をしている。
「使わないからだろ。薬品なんかもあるから寝起きするわけにもいかないし、調理室みたいに料理するからスペースを開けてる必要もないし」
 とどのつまり、避難所としては理科室は必要のない機能だっただけである。おそらく裁縫室も似たような理由で、支援物資が積み込まれたのだろう。
「思ったより多いな。一覧を作った方がよさそうだ。俺は入力するから、読みあげを頼む」
『ああ、ツナの缶詰。これも、ツナの缶詰。コーンの缶詰』
「……缶詰、多いな。まぁ、避難所なんてこんなもんか」
『珍しいのがあったぞ。犬の缶詰』
 それは、ドックフードである。
「ラベルが似てたから、混ざったんだろうな」
 あとで裁縫室に置いてこよう、とニノマエは缶詰をポケットに入れた。
 がたり、と音がした。
 理科室のドアが開けられた音であった。ニノマエたちから見えない位置で、どうやら男が食材漁りをしているらしい。
『どうするのだ?』
 サヤの言葉に、ニノマエはため息をついた。適当に食料を籠に詰めてニノマエは、立ち上がった。男はニノマエに驚いていたが、ニノマエは男に籠を差し出す。
「材料が間に合うか調理室と相談しないとな。まぁ、俺の分は確保できたけど……これを調理室へ持っていってくれ。あんたにも、あんたの家族にも暖かい食事を届けるために」
 男は恐る恐る籠を受け取り、何も言わずに逃げて行った。
『…うむ、腹が減るな。だが、できれば夕飯がドックフードになるのは勘弁してほしいものだ』
「心配しなくても、やんねーよ」
 そのまま二人は黙々と作業を続ける。
 そんななかで、明るい声の来客が訪れた。
「すみません。夕食用の材料をもらってもいいですか?」
『きょうは、スープだよ!! ルゥ、りょーりはいつも武之のをつくってるからとくいなんだよ!』
 仁菜とルゥルゥは笑いあう。
「スープは体が温まるし、胃腸にも優しいし、栄養も取れるし! 一番は私が避難民だった時、温かいスープが何より美味しかったからなんですけど……。冷たいご飯ばかりだと気が滅入るんですよね」
『いっぱいいっぱいつくろうね! みんなでたべるとおいしーなんだよ!』
 病人の人も一緒のものを食べれますしね、と仁菜は笑う。病人食の必要性はわかっているが、今は猫の手も借りたいような忙しさだ。手間を省略するという意味合いでも、スープは優れた献立なのだろう。
『それは美味しそうだな。だが、私たち二人分は少なめにしといてくれ。二人で、ダイエット中なんだ』
 サヤはそう嘯いた。

●未来のために
「大丈夫ですよ。私で良ければお話しを聞かせて下さいね?」
 姫癒はパーテーションで区切った場所で、少女の話を聞いていた。姫癒が作ったのは相談受付コーナーであった。プライベートにかかわる悩みをできるだけ受け入れるために開いた場所にやってきたのは、年端もいかない少女であった。
「お母さんとはぐれちゃって、妹がいるんだけど……お姉ちゃんの自分がしっかりしなきゃいけないのに」
 妹のことを叩いちゃったの、と少女は泣きながら懺悔する。
 姫癒の胸が痛んだ。少女は頼れる大人がいないなかで、懸命に妹を守っていたのだろう。それだけで、少女の心の強さは賞賛に値する。だが、少女は自分が不甲斐ないと泣くのだ。
「妹さんは、あなたのことを嫌っていませんよ。大丈夫」
「……本当?」
「お母さんの代わりに守ってくれたお姉さんですよ。嫌いになるはずがありません。そうだ。特別にお守りをお譲りしましょう」
 姫癒は、裁縫室からもってきた黄色いリボンを取り出した。彼は、それを少女の手首に巻きつける。
「色にはパワーがあるんですよ。黄色は気分が上がるパワー……例えば太陽を連想して、ほらぽかぽか暖かい。また落込んだらこれを見て、きっと大丈夫ですよ」
「――うん、私。頑張るね。妹とお母さんのためにも」
「頑張りすぎて、疲れないようにしてくださいね。あなたは、もう十分にがんばっているんですから」
 姫癒は少女を見送るために、パーテーションの一つを外した。外では深散と九郎が、忙しく動き回っているところであった。
『お、大丈夫?なんかあったら気軽に言って、速攻参上するからなー』
 と和輝が深散たちに声をかけた。ちなみに、和輝は子供を肩車しながら仕切り作りの手伝いもしていた。そのため、彼を見たほとんどの人間が「こっちは大丈夫だから、そっちに専念してくれ」と返すのであった。深散もそのように言葉を返して、ため息をつく。
「なかなかリーダーにふさわしそうな人材というのもいないものですね」
『体力と経験なんかを考えると中年の中間管理職経験者とかがいいんだけどね』
 色々なところの意見を聞くのが慣れていそうで、と九郎は呟く。
「そういえば、さっきタク兄が声をかけていた方が学校の教頭だったらしいです。教頭が中間管理職かはわかりませんが、年齢的にも彼女がふさわしいような気がします」
『なるほど、若いころは悪ガキを叱り飛ばしていたかもしれないしね。度胸もありそうだ』
 そんな話をしていると、男と女の怒鳴り声が聞こえてきた。
『もう一回、言ってみろ!!』
 どうやら、アルメイヤが避難民の男と諍いを起こしているらしい。近くでエステルが、アルメイヤを止めようと奮闘しているが残念ながら視野の狭いアルメイヤには見えていない。
『コラコラ、アルメイヤ君。ナマハゲが良い子まで泣かしちゃあダメじゃないか。役作りからやり直しだよ』
 九郎は後ろから、アルメイヤに声をかける。
「おにーちゃん、ナマハゲってなに?」
 子供の質問に、九郎はにこやかに答える。
『中年男性にハゲを届ける日本の妖精だよ。日本のハゲの八割が、ナマハゲの仕業と言われているんだ』
 アルメイヤは思わず、噴出した。
 中年男性は、頭皮を抑えた。
 たぶん、色々と気になっていたのだろう。
「あーあ、喧嘩する雰囲気じゃなくなっちゃったよね」
 ごろごろしていた武之が「かわいそーに」と呟く。ハゲの話を聞かされていた避難民は武之と同い年ぐらいだった。武之はふさふさだが、頭髪の女神は残酷だとも聞く。ともかく、中年男性のナイーブな心と頭には髪の話題は厳禁なのである。
「頑張るだけが全てじゃないからね。まぁゆっくりするといいよ」
 おたくのそれあんまり目立ってないよ、と武之は避難民を励ます。
 毒気が抜かれた避難民も、武之の側に座った。
「なぁ、あんた――育毛剤を持っていないか?」
「ごめんね。さすがに、それはないんだよね」
 分かっていたよ、と避難民はかげりのある笑みを作った。
「あんたも……ごろごろしてる割に他の奴ら見てたりして忙しいな」
「えー……そんなことないよ」
「俺のこと目で追ってただろ」
 武之は、ため息をつく。一応、悪さをしそうな人間を怠けながらも監視してはいた。けれども、静止するタイミングを見誤ったのも確かであった。
 実はこっそりハンディカメラを持ち込んでいた武之は、笑えるけれどもこの画像は後で消去しようと思った。理由はあまりないが、しいて言えば同じ中年男性同士で通じ合うむなしさがあったのである。
 だが、武之は沈黙に耐え切れなくなって
「はぁ……。俺、こんなに頑張ってるんだから誰か養ってくれないかな」
 とぼそりつ呟いた。
『アルメイヤさん、どうしたんですか?』
 千は、アルメイヤに話しかけた。
 アルメイヤは不機嫌そうにむっとしながら答える。
『エステルが絡まれてしまってな』
『なら、一緒に行きませんか? 色んな所でお手伝いを……と思ってるんです』
「私もそっちの方が……いいと思います。大人数の方が、さっきみたいなことにもなりにくいと思うし」
 千の意見に賛成したのは、エステルであった。
「そこの三人組。さっそく手伝いの依頼だよ。ちょっと裁縫室のほうで、荷物の雪崩が発生したらしい。手伝ってくれ、って連絡がきたよ」
 槻右が、三人に声をかける。
『では、行きましょう。私たちは今からお手伝い部隊です』
 千が、エステルたちの手を引っ張る。
 それを見送った槻右に拓海は声をかける。
「槻右、助かるよ。いつも世話掛けるな」
「なんてことないですよ。そっちも、もう一仕事だよね?」
 槻右の言葉に、拓海は頷く。
「今から、がんばってリーダーを口説いてくるよ」
『わたしも手の足りていない部署をまわってくるわ。さっき雪崩があったって言っていたのは、裁縫室よね』
 メリッサも千たちを追っていく。
「リーダーの目星はついたが、問題なのが副リーダーと各部署長なのかな?」
 誰に頼むべきか正直迷っていると拓海は告げる。
「副リーダーに関しては、リーダーが信頼している人物でも大丈夫だよね。各部署長に関しては、ボランティアの手伝いをしてくれてる避難民の中から何人か選出していいと思うよ。仕事の流れが分かっている人たちだし」
 槻右の言葉に、拓海は「よし」と膝をうつ。
「頑張って、口説いてくる」
 ここが自分の情念場だ、と拓海はつぶやいた。
 拓海は、教師だと名乗った中年女性に声をかける。
「すみません。あなたの経歴を見込んで頼みがあります」
 女性は拓海の面を見て、真剣な話なのであろうと居住まいを正した。
「オレ達は助け手として来ました。が、それ以上に心強いのは同じ立場の周りに居る方々です。貴方が思う不安・寂しさ・欲求は隣に居る方も同じに持ってる。だからこそ必要な事に気付き、手を添える場所も判る。今日まで共に生きた仲間と手を携え、この先も生き抜く為にリーダーになってもらえませんか?」
 女性は躊躇しているようであった。
 突然の申し出だった、ということもあるだろう。しかし、自分たちにはもう時間はなかった。そんななかで、槻右が口を開く。
「僕達は一時的に協力しているだけです。でも、今後も続く事は避難した人たちで解決しなければなりません。彼らが自分で解決できる様、あなたの知識を分けてあげてください。話し合って、独りで何かをさせようとしないでください。あなたの力があれば、この避難所は避難所としての機能を維持させて最後の一人まで守ることができる。僕たちはそう思っているんです」
 槻右は、頭を下げた。
「おねがいします。これは僕たちにはできないことで……あなたにお願いしたいことなんです」

●ただ手伝うだけ
「それで……避難所のリーダーは決まったんでしょうか?」
 剱は、拓海に尋ねる。
 夜の避難所は静まりかえっていたが、職員室だけは明りがついていた。剱がパソコンを使って、マニュアルを制作しているためである。そうなると自然と仲間たちが、今日あったことをここに報告しに来ていた。
「ああ、学校の教頭先生をしていた女性だよ」
 拓海の言葉に「良いと思います」と國光は答えた。
 彼は剱とは違うパソコンで医薬品・衛生用品在庫一覧、医薬品効能別リストなどを作っていた。これもメテオバイザーが手伝うと言ってくれていたが、残念ながら國光の独壇場であった。
『早く家に帰してあげたいですね』
「それには病原体をさっさと取り除かないとな……」
 メテオバイザーの言葉を聞きながら、國光はつぶやいた。自分たちは所詮は薬と同じだ。体から病原菌を追い出す手伝いしかできない。回復事態は、患者の体が行なうしかないのだ。
「避難所のマニュアル、こういう感じでしょうか? 避難民の日常的な業務の役割分担とか、娯楽の時間の割り当て。あと、子供用にもおもちゃを片付ける場所とかの説明をいれて作ってみたんですけど」
 剱は印刷が終わったマニュアルを拓海と國光に見せた。今日一日見たこと聞いたことをまとめたものは、明日以降の避難民の生活に役立つであろうか。剱は、少しばかりどきどきしていた。
「いいと思います。少なくとも、感染対策についてはわかりやすい」
「オレも問題ないと思う」
 拓海と國光のお墨付きに、剱はほっとした。
『日向が最初に相談を受けた、子供のミルク問題。あれはまだ解決していないようですね』
 日向の言葉に、大人たちは頭を悩ませる。
「あの、その問題はリーダーを交えて相談したほうがいいと思います。この避難所のリーダーになる人が、これからの運営にかかわってくるのは大事なことだと思いますし」
 剱の言葉に、他の面々の目が点になる。
 そうであった。
『日向たちは、ここを去ることが決まっていますからね』
「うん、剱にできるのはあくまでお手伝い。剱が去った後は、避難した人たちが皆の力を合わせなきゃならない。そして、力を合わせやすくする手伝いを剱たちはしにきたんだよね?」
 日向は、しばし目を閉じた。
「えっと、そうだよね?」
 自信なさそうに、剱が顔を覗き込む。
『マニュアルなんて、ひ弱なゆとり世代的な発想を思いつくわりにはいい心構えですね』
「ゆとり世代って……」
『もう寝ますよ。明日は、早いのです。明日になったら、そのマニュアルが役に立つかどうか実験です。ついでの力仕事もたっぷりと。貴重な男手なんですから』
 日向の言葉は正しい。
 明日のための、今日は早く寝なければならない。
 ――近い未来に、顔見知りなった人々が自分の生活を取り戻せるようにと祈りながら。
 自分たちは、ただ手伝うことしかできないのだから。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 分かち合う幸せ
    隠鬼 千aa1163hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 駄菓子
    鵜鬱鷹 武之aa3506
    獣人|36才|男性|回避
  • 名を持つ者
    ザフル・アル・ルゥルゥaa3506hero001
    英雄|12才|女性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • ひとひらの想い
    千桜 姫癒aa4767
    人間|17才|男性|生命
  • 薫風ゆらめく花の色
    日向 和輝aa4767hero001
    英雄|22才|男性|バト
  • もちを開きし者
    村主 剱aa4896
    機械|18才|男性|生命
  • エージェント
    茨城 日向aa4896hero001
    英雄|15才|男性|シャド
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