本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】奇襲部隊ルタ・イワンを壊滅せよ

時鳥

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/02/09 20:10

掲示板

オープニング

●奇襲
 凍えるような大地を西へ西へと向かう従魔の群れ。
 砲撃や刀がぶつかり合う音が響き、冷たい風の中へと消える。
 進軍と対するロシア軍は劣勢を余儀なくされ、ウラル山脈東のペルミには大きな影が落とされようとしていた。
「はっ!」
 青い髪を翻し、向かい来る従魔に己が拳を振り上げる少女、タオ・レーレ(az0020)。生まれた衝撃波が従魔を大きく吹き飛ばす。
 早い段階で戦場へと足を向けた彼女は他の数名のエージェントやロシア軍部隊と共に「ヴァシレフスキー作戦」に参加していた。
 懸命に任をこなしていたがふと気が付いた時には多くのエージェントや部隊と離れてしまっていることに気が付く。
 一度、後退をしなければ。と、その時。
 ――ぞくりっ。
 タオの背筋に悪寒が走る。
 体がズンッ、と重くなったように感じた。
 目の前の多大な数の従魔には変化がない。まだ、距離もある。

 左腹部に衝撃が走った。

 衝撃と共に雪の上を滑るように倒れこむ。
 何が起こったのか、咄嗟のことに判断が遅れる。
 雪の上に赤い血がぽたり、と落ちた。
 体の重みが増している。
(切られたせい?)
 そう考えてからタオは違う、と思った。
 幾つもの戦いの中で怪我をしたことも、血を流したこともある。それとは違う。経験からそう察した。何かが体を蝕んでいるのだ、と。
 後方から悲鳴が上がる。
 援護についてきた小部隊が黒い馬のようなしかし、何かとは形容しがたい生物に跨った不気味な従魔に襲われていた。
 髑髏を模した兜、獣臭の漂う毛皮。しかしその隙間からは黒いもやのようなものしか見えない。
 ケントゥリオ級従魔――ルタ。
 どこから姿を現したのか。五体のルタが次々と味方に突撃していく。槍に肩や腕を抉られ一般兵たちが呻き声を漏らした。
 完全に死角からの奇襲。
 一体のルタが槍を振り上げ、倒れたロシア軍の一般兵に振り下ろそうする。
「させないっ!」
 タオは地を蹴った。横から拳に力を込めて殴りかかる。
 その時、一体のルタがタオが狙ったルタの方に向いた。まるで、何か指示をするような仕草。けれど音も、声も、聞こえない。
 拳が空を切る。
 槍を振り上げていたルタが身を引いて避けたのだ。
 ザッ、と滑る雪の上で踏ん張りルタの部隊に向き直るタオ。
 指揮を取ったと思しきルタが赤く光った。
 ほんの一瞬だけ。
 そして……体の重みがまた、増した。
 
●ルタ・イワン
 ヴァシレフスキー作戦の最中、奇襲を受ける部隊が続発した。
 五体のルタが死角から音もなく現れ、病を振りまき、雪をものともしない素早い動きで場をかき乱す。
 多くの部隊が向かおうとすれば、すぐに姿を晦ました。
 孤立していた部隊が全滅した報告もなされているが、これもこのルタの仕業だろうか。
「このルタの部隊を皆さんに撃退して頂きます」
 集まったエージェント達に説明を行う職員。敵の資料データは個々に転送済みだ。
「ルタ達はケントゥリオ級であり、一般兵を幾ら集めたところで歯が立たないでしょう」
 向こうが少数精鋭で撹乱を狙ってくるのであれば、こちらも少数精鋭で対抗する。そういうことらしい。
「作戦は皆さんにお任せしますが……時間が経てば経つほど被害は大きくなりることを念頭においてください。また、ルタは機動力に長け、また指揮をとっていると思しきルタ一が体居ます」
 そのルタは従魔から愚神へと変化したらしいのだ。しかし、見た目では到底普通の四体のルタと見分けがつかない、という。
 ルタと遭遇したエージェントによれば、一体だけ一瞬赤く光るルタが居るらしい。その直後に体が重くなり蝕まられているように感じた、とも話していた。
「このルタを別にルタ・イワンと名付けました。状況の判断は人間並みに的確に行ってくるようです。包囲しなければ殲滅することは難しい、との見解が出ています」
 必要な情報を一つ一つ職員は口にする。
 ルタ・イワンを止めなければ怪我を負う仲間が増える。
 捕捉から行わなければならない難しい仕事だった。
「では、後は皆さん、よろしくお願いします。ヴァシレフスキー作戦の成功を願って」
 そう祈りの言葉口にし職員はエージェント達に頭を下げた。

解説

●目的
 ルタの精鋭奇襲部隊の捕捉、殲滅

●敵について
・ルタ×4
 ケントゥリオ級従魔
 人型で、同じように黒いもやの騎乗生物にまたがり、槍や盾などで武装している。
 雪原でも自由自在に高い機動力を保ったまま行動できる。
 武器には常に病をまとっており一定確率で減退が付与される。

・ルタ・イワン
 ケントゥリオ級愚神
 従魔の中から愚神となったルタ。唯一人並みの知能を有し、他のルタを先導し奇襲攻撃を行っている。
 見た目ではルタとルタ・イワンの見分けは付かないが、ドロップゾーン外で病の霧を使用した場合のみ、黒い体が一瞬赤く光るようだ。
 ルタとの意思の疎通はテレパシーでしており音を立てることはない。

・部隊について
 単独部隊として、側面からの奇襲、孤立無援の部隊の殲滅、を行い、縦横無尽に暴れまわっている為、次の出現場所の予測は難しい。
 一体が人間並みの知能を有している為、安直な罠にかかることはない。
 機動力が高く、作戦的撤退も行う為、ただ闇雲に戦うだけでは逃げられる可能性が高い。

より詳しいデータに関しては【絶零】特設ページ、「敵戦力」を参照のこと

リプレイ


 ヴァシレフスキー作戦に落ちる不穏な影。
 漂う暗雲を払うべく依頼を受けたのは8組のエージェント。
「タオさん大丈夫ですか」
 つい先刻、奇襲部隊と対峙し深手を負って救急に運び込まれたタオにガルー・A・A(aa0076hero001)が声を掛けた。
「だい、じょぶです――っ」
「タオ! じっとしてろ。俺が代わりに話を、します」
 呻くタオの代わりに彼女の隣にいたゼファーが答える。30代男性のガルーに緊張を見せるゼファー。
「詳しい相手の様子、教えてくださいますか?」
 ガルーではなく紫 征四郎(aa0076)が切り出すと、少しほっとした様子でゼファーは頷いた。
 征四郎達が奇襲部隊と遭遇したエージェントやロシア軍の人々に事情を聴いて回る。
 一方で、近辺の地図を広げるキース=ロロッカ(aa3593)。
「敵戦力に際して更に奇襲部隊、それも病を振りまくあの敵ですか……」
「厄介だね、どう攻めるの?」
 呟くキースの横から地図を覗き込み匂坂 紙姫(aa3593hero001)が問いかける。
「『ハンムラビ法典式』です」
 キースは落ち着いた様子でそう答えた。
 つまり、作戦はこうだ。
 囮班と奇襲班に別れ、罠を張り、掛かったところを取り囲むように交戦に持ち込む。
 奇襲には奇襲ということだ。
 キースの提案を軸に、現時点で得られている情報と個々の意見を交え、最終的な作戦が決まっていた。
 後は、動く前の下準備を終えるのみ。
 事前にキースと征四郎はイメージプロジェクターで白くし迷彩を施す。一方で凛道(aa0068hero002)と共鳴した木霊・C・リュカ(aa0068)はスプレーで服を白く塗った。
「隠密できてるかな」
 きりっ、と征四郎に向けて顔を引き締めてみるリュカ。征四郎は頷く。
 だがしかし、見た目は泡まみれ、という感じで恰好がいいとは言えない。
「ケントゥリオ級が相手でござるか、戦い甲斐がありそうでござる……!」
「放置してたら被害が増す一方だもの、此処でちゃんと仕留めちゃいましょ!」
 と、やる気満々の小鉄(aa0213)に英雄の稲穂(aa0213hero001)が同意を示していた。
 小鉄は通信機の動作確認と、故障チェックの真っ最中だ。
「味方も強者揃いでござるな……仕合を挑みたいところでござるが」
「強そうな相手と戦いたがるのは後にして後に」
 チェックが終わり、同行する仲間を見渡しながら零す小鉄に稲穂が注意を促した。
 もしもの為に小鉄はロシア軍の無線機の他、予備に自分の通信機も持つ。
「目には目を歯には歯を、奇襲には奇襲で返してやろうぜ。さーて、知恵比べと行こうぜ!」
 持ち物を整理しながら古賀 佐助(aa2087)が意気揚々と口端を釣り上げた。
「……作戦、考えたの……別の人だけどね」
「……そこはスルーしてくれよ、リアちゃん」
 速攻でリア=サイレンス(aa2087hero001)に突っ込まれて佐助は肩を落とす。
 そんなほのぼのとしたやり取りはこの後暫くは出来ないだろう。
 各々が思考を凝らし必要なものを手に共鳴をし終えた。


「以上です。皆さん、くれぐれも気を付けてください」
 キースが吹雪きの緩やかな中、集まっているエージェント達の顔を見渡しそう言った。
 ルタ部隊が最新で目撃された近くであり、また囮班が待ち受けるに相応しい場所、と選定したデコボコと地面が盛り上がり片面には山壁が聳え立つ見通しの悪い枯れ木が生える地点。
 ここなら、奇襲班も隠れやすいだろう。
 また、征四郎がロシア兵へ作戦の伝達と共にルタ目撃の際の連絡を受けれるようにしている為、遠くでルタが現れた情報も入っていない。更に征四郎は側面攻撃を受けた場合の速やかな退却、作戦中は孤立行動をしないよう極力努めてくれるようにも話を通していた。囮以外に敵が攻め入る場所を出来る限り減らし、罠に食らいつかせる為に。
 ロシア軍のコートを羽織り、ロシア兵のフリをした囮役が三人、雪降りつもる大地をゆっくりと進む。
(……しかし、どこを見ても雪だらけでござるなぁ)
(見てるだけで寒く感じるわね……)
 小鉄が見通しが悪いくも一面が白い景色を眺めながら零すと稲穂も同意した。
 改めてこれから向かう先は吹雪が緩やかなところを選んだとはいえ、寒々しい限りだ。
 彼と共に迫間 央(aa1445)と海神 藍(aa2518)も白い静かな音のない世界を進む。
(演技とはいえ、孤立したふりは怖いですね……)
 藍の英雄、禮(aa2518hero001)が心の中から藍に話しかける。
(大丈夫だ。迫間さんも居る……紫さん達を、皆を信じよう。……それに)
(それに?)
(嘘が下手な私たちには、少し不安に思っているくらいが丁度良いだろう?)
(……ふふ、確かに。違いありませんね)
 そんなやり取りがほんの少しだけ彼らの緊張をほぐしたかもしれない。
 囮班が待機地点へ向かっている最中、奇襲班は征四郎のフットガードを受けられるギリギリを考慮しながら囮の目的待機地点を囲むように移動する。
「奴ら、一撃離脱の行動で来るかもしれねぇからな。少しでも早く駆けつけたい」
 と、作戦時にガルーが言ったからだ。早く動ける人数は多い方がいい。
(厳しい状況ですが、ここの雪もいつかは溶けますから)
(踏ん張り所だよねっ)
 凛道(aa0068hero002)と彼の能力者、木霊・C・リュカ(aa0068)は足に纏わりつく雪と、これからの状況を考えながら前向きに心の中で言葉を交わす。
 風上に立たないよう、また、足跡を残さないようにしながら上体低くし一歩一歩進む。
 オートマッピングシートに浮かぶライヴスの経路と手にした地図、スマフォの位置情報と照らし合わせ現在地を確かめる。
 双眼鏡で囮班の位置を確認し、周辺地図で事前に割り出していた敵の行動範囲から現れそうな方角へ双眼鏡を向けた。
 まだ何かが動く気配はない。
 凛道と同じようにオートマッピングシートを使い、征四郎も大まかな自身の位置を把握していた。
(病を振りまく敵、だそうですから。出番ですよ!)
(仕方ねぇな。まぁ、最善は尽くそう)
 『戦う薬屋』であるガルーに対し、征四郎が戦いの前に声を掛ける。それにガルーは心の中で軽くいつもの調子で答えた。いつもは征四郎に任せ心の中からアドバイスのみのガルーだったが、今回は少しばかり表に出るのかもしれない。
 予め決めておいた見通しの悪いポイントにたどり着きそこで打って出る準備をしながら息を潜めて待つ。
(少なくともこっちは何時来るとも分からねぇ状況なんだ、気ィ張れよ)
(うん、頑張るね……おにぃちゃん)
 緊迫する空気の中、共鳴したエディス・ホワイトクイーン(aa3715hero002)に改めて声を掛ける一ノ瀬 春翔(aa3715)。エディスは褒めてもらいたい気持ちから素直に頷く。
 そして奇襲班は通信機でお互いの状況を共有し、定めたポイントにそれぞれが到達したことを知る。
 後はひたすら、ただ静かに始まりを待つだけだった。
 エマージェンシーを使用しながら佐助は辺りを警戒する。他の奇襲班メンバーのように雪に紛れる策を立てなかった。
 それは自身への奇襲も想定に入れているからだ。
〈獲物がどちらに掛かろうと、こちらに不足は一切ない、ってね)
 警戒しながら心の中で呟く。もし向こうに食いつかなくても一人に見える自身に食いつけば御の字、だと。
 可能性を一つ想定しているだけで、また流れも変わる。
 静かに時が流れた。
 囮班はただ雪の上をゆっくりと移動している。
 孤立、疲弊した素振りを見せるため、足取りが重く見えるように。
 その為、進みが遅いのだ。
 藍の提案で三人のコートは負傷兵が着ていたものを借りている。
 もともと藍は吹雪により視界の悪い戦場で的確な奇襲をするとすれば音か、匂いかを辿っていると考えていた。
 だから彼は期限の切れた輸血パックも貸与してもらい、それを足跡と共にぽたぽたと垂らし左手で右肩を抑えながら移動している。
 小鉄がイメージプロジェクターでより完璧にロシア兵を演じている為、負傷兵が数名はぐれたように見えるだろう。
 マイヤ サーア(aa1445hero001)と共鳴した央も黙って二人と共に歩む。
「本部か! やっとつながった……完全に孤立した! 位置情報を!」
 藍が繋いでいないロシア軍の無線機に向かって大きな声を出した。
 周囲を警戒しながら必死そうに。
 ざわり。
 不穏な空気が動いたような気がした。音はしない。
 凛道が覗き込む双眼鏡に黒い影が横切る。
 ――来た。
 黒い騎乗生物にまたがり鎧を纏う異形の者が、血の匂いと声に誘われて、三体。
(敵の頭数が合わないな)
 央が瞬時に伏兵の可能性を導き出し警戒を強める。
 足音もなく駆け迫るルタ。
 槍を振り上げ、小鉄が扮したロシア兵へ駆け抜け様に突き刺そうとした、がしかし。
 その槍を僅差で交わす小鉄。
 周囲警戒の上、エマージェンシーでライヴスの僅かな変動を感知、半ば万全の体制と言えた。
 小鉄はすぐに無線機で敵の数を奇襲班へと伝える。
 央も持ち前の回避力の高さで最初の一撃をやり過ごした。
 藍だけが槍の一撃を腕に受ける。だが、特殊金属「フリギア」のおかげか服が裂け僅かに肌に線が入る程度で済んだ。
「……掛かったな、さて」
 藍が傷を受けた場所を軽く押さえて聞こえない程度に零す。
 藍が攻撃を受けたおかげか、二人の回避行動を偶然と位置付けたか、三体のルタは改めてロシア兵に擬態している三人へと向き直った。
(……情報通りね。敵の武器のライヴス……嫌な感じだわ)
「喰わなければ問題ない。それが出来ない俺達じゃあるまい」
 禍々しく病が纏った槍の刃を前にマイヤが零した声に央が力強く答えた。


 敵の数が二体足りない。現状応戦をしている三人からはルタ・イワンを判別できた知らせもない。
 合図はまだ、ない。
 その時、凛道の双眼鏡が残りの二体を捉えた。
 様子を伺っているのか、甚振るのを眺めているのか。
 通信機を伝い全員にその存在が伝わる。
「時間稼ぎは忍びの十八番でござるよ」
 それを聞いて小鉄が不敵な笑みを浮かべた。
 対峙している三体が赤く光る様子はない。
 回避行動に専念し敵全体を注視していたが、一度もその素振りを見受けられない。
 奇襲班も見える限りルタ・イワンを判別する為に注視している。
 まだ、誰も赤い光を見ていなかった。
 つまりは、残る二体にいる可能性が高い、とも言える。
 見通しが悪い中、もう二体の影が三人に迫る。
 僅かに時間を労したが首尾よく敵の全軍が罠にかかった。

 さあ――合図だ。

 征四郎のフットガードが奇襲班の脚にライヴスを纏わせ、雪の煩わしさを消し去る。
「かかりましたね。もう逃がしません。お覚悟を!」
 凛道と征四郎が飛び出した。
 いや、正しくは奇襲班全員がルタを囲むように大きく弧を描きながら距離を詰めている。
 司令塔が見つかるまで。
 身を潜める判断をした者が二名。
〈焦りは禁物、まずは相手の頭を見極めないとね)
 と、佐助が心の中で呟いた。
 キースは隠れたまま銀色の古代文字が刻まれた天弓「アクハト」を構える。だが、隙を伺いまだ放たない。
「目には目を、復讐には復讐を。奇襲には奇襲を、です」
(いけいけ~! やっちゃえ~!)
 だが作戦が順風満帆で進んでいることに小さく言葉を零すキース。紙姫が中から活気づける。
 兜の隙間から漏れ出る赤い光を見逃さぬよう正面へと躍り出る凛道。突撃時に付けた【SW】ウェポンライトが光り二体のルタが凛道に向いた。
 征四郎も前衛として前に出る。
 囮班の体力も心配だった。
 小鉄の背に、央の脇腹に槍の刃が牙を剥いていた。
 じわじわと毒のような体の重さが二人に圧し掛かっている。
 しかし奇襲班二名を姿を見て取ってジェミニストライクで分身し撹乱を仕掛ける央。
 凛道は後から合流した二体のうち、一体をターゲットとして相手取り視界を遮るように動く。
 唐突に現れた二人の存在や増えた央に警戒をしたのか、凛道がターゲットにしなかった一体が数歩後退した。
 その位置を央は「敵側で全体を見れる位置取り」と見て取った。
 つまり、その個体がルタ・イワンではないか、と。
 凛道の動きで指揮系統に乱れが出た様子もない。
 まだ赤い光を発してはいないが、候補としては一番有力だ。
 ルタが一斉に向きを変えた。
 不穏を感じ逃げよう、というのか。
(騎兵はその速さこそが命ですからね)
「重圧空間を使用する、注意! ……星よ、縛れ!」
 禮の声に呼応し、藍が大きな声で味方に声を掛ける。
 重い空気が広範囲に圧し掛かった。
 ルタも味方も動きが鈍る。
 しかし、逃げようとしていたルタ達には大きな足枷だ。予測している者としていない者では動きに差が出るのは当然。
 すかさず凛道がウェポンズレインを放つ。周囲の雪も多数の武装が降り注ぎ雪雪崩のように場が崩れ逃亡ルートを一部塞いだ。
 追撃とばかりにキースが瞬間的に反射神経を限界まで高め、虚を突く早撃ちを央が有力と位置付けたルタに放つ。
 キースの矢を受けたルタ・イワンは瞬時に判断した。
 罠だったと。
 逃げるにしてもこの状況で厄介なのは藍なのだと。
 ルタ達にテレパシーが伝わった。
 央や征四郎、小鉄と対峙していたルタが一斉に藍に迫る。
 連続で三体が藍の体に槍を突き刺していく。裂けた皮膚から血が流れた。
 だが逆に三体ものルタを一気に藍の周りに集めたことになる。
 ライヴスの蝶が藍の周囲を舞い、ルタ三体に強力な状態異常を引き起こした。
 直後、ルタ・イワンが藍に迫る。
 赤い光と共に藍の体が侵されたように重みを増す。
 その瞬間、ほぼ全員の照準がルタ・イワンに合わさった。
 央が正面から切り込みライヴスで作り出した分身と同時攻撃を浴びせる。そのままわざと囮を残し自身は雪の凹みへと潜り込み一瞬姿を晦ませた。
 キースの矢が降り、小鉄も後に続く。
「反撃の時間でござるよ!」
 回避に専念していた憂さ晴らしをするが如く、勢いをつけてルタ・イワンに突っ込んでいく。
 苦無「極」を投げ牽制をしつつ俊敏な動きで息もつかせぬ連続攻撃を叩き込んだ。
 周囲に集まるエージェントにルタ・イワンは病の霧を発動させながら藍に突撃を食らわす。重さの乗った刃は鋭く、痛い。
 じわじわと病が広がっていく。
 周りにエージェントが集まれば病の霧に侵食される者も増える。
 しかし、それはエージェント側が回復をするにも都合がよかった。
 征四郎がクリアプラスと共に治癒の力を帯びたライヴスを周囲一帯に降り注がせた。
 空気が軽くなり、力も漲ってくる。
〈優先目標、逃がしはしない、確実に仕留めよう!)
 存在を隠していた佐助もベストポジションから20mmガトリング砲「ヘパイストス」の引き金を引いた。
 混戦の最中、正気を保っている唯一のルタと対峙している凛道。ロストモーメントによる強撃の末、大鎌を引っ掛ける形で騎乗生物上から引きずり落とせるか試みてみたものの、鎧のみが引きはがされ、黒い渦が騎乗生物の上に残っていた。
 その姿は顔も目も無く、ただ小さな何かが集っているような、不快な光景でしかなかった。
 ルタ・イワンへ加勢に向かわないよう、騎乗生物の脚を落として見るも、ただ黒い渦があり、動きが変わったようには見えない。浮いたまま動いている。
 次の瞬間、藍の重圧空間が解けた。
 ルタ・イワンは劣勢を理解し、己がだけでもこの戦況を脱しようと試みる。
 だが、隠れていた央がハングドマンを騎乗生物の脚に投げつけ絡ませ、小鉄がストレートブロウの衝撃波で殆ど元の位置へと押し返した。
 嵌ってしまったのだ。蟻地獄のような。もがいても抜け出せない罠に。
 しかし、他のルタが正気を取り戻せばまだ盾として使い、ルタ・イワン自身のみであれば脱出が可能だと考えていた。
 その考えは読まれている、そして、まだ見逃している相手がいるこにルタ・イワンは気が付いていない。
 最大の一撃が、ルタ・イワンを襲った。
「邪魔……! 壊れちゃえ!」
 エディスの一声。アックスチャージャーで攻撃力を上げ更にはカオティックソウルでカオティックブレイドの武器としての魂と本能を思い起こさせより攻撃力を跳ね上げ、春翔のライヴスと非常に良く馴染んでいる全長180cmの海神の斧を複製し、叩き込んだ。
 黒い渦と鎧が大きく吹き飛ぶ。
 ルタ・イワンは初めて声を発した。
 人には分からない、叫び声だ。
 斧の刃が削った隙間からは渦が崩れ零れるように溢れてきている。
 だが、この最大出力を持ってしても一撃では倒れる様子がない。
 そして、ライヴスが乱され混乱していたルタ達が正気を取り戻した。
 ルタ・イワンを庇うように動く4体のルタ。一体は凛道の攻撃で鎧が剥げ落ち、黒い渦の体を晒して蠢いている。
 山壁を背に囲まれている為、一か所を強行突破するしかない。
 だが小鉄がストレートブロウでルタ・イワンだけをルタから引き離しにかかる。
 そして藍の重圧空間がルタ・イワン達に襲い掛かった。
 キースのファストショットがルタ・イワンを牽制しその行動を遅らせる。
 しかし、それでもルタ・イワンは周りを固めるように四体を集めた。
 続けざまに放たれる各々の攻撃が四体のルタに阻まれる。ルタ・イワンには届かない。
 態勢を立て直し、陣のままこの場を突き抜けよう、と判断したルタ・イワンだったが、それを実行に移すより早く、春翔のもう一撃の準備が整った。
「逃がす訳ねぇよなァ……! 何としてもよォ!」
 外せない。外せば逃がすことになる。フォーチュンダイスを投げるように振り、ライヴスジェットブーツで空を飛ぶ春翔。
「コレが俺等のありったけだ……!」
「壊れる音、聞かせて?」
 春翔とエディスの声が重なる。上空からルタ・イワンに狙いを定めてもう一度、あの重たい一撃を。
 ――放った。
 今度は声もなく崩れ去り霧散する黒い病原菌。
 傷ついた鎧は雪の上に落ちる。
 一つの頭しか持たない愚神達には8人分、いやその倍の頭か生み出された知恵の前に敗れたのだ。
 エージェント達の強みはそこにもまたあるのかもしれない。
 英雄と共に考え、そして判断できる、強みが。
 そして頭を唐突に失った烏合の衆は混乱を極める。
 凛道がすぐさま動いた。
 鎧の残っているルタの一体を掴み逃亡を阻止する。
 春翔はゴルディアスに持ち替え残党殲滅をやる気だ。
「頭を潰せば烏合の衆、とまではいかないまでも戦力は激減だ。負ける道理はない、ね!」
 佐助も流れにノリ、遠距離からガトリング砲を放つ。
「今ここで逃がさねぇぜ。薬屋によると、病は治すものだからな」
 目つきが非常に悪く征四郎とは異なる雰囲気を漂わせガルーもルタの前に立ち塞がった。
 戦略的に撤退を考える知能がないルタはただ本能に従い応戦の構えを見せる。
「寒いからね、火も焚いてあげようか!」
 藍のライヴスの火炎が白い雪に反射した。


 大きな火力をルタ・イワンに注いでいた為、殲滅までには手間取り、一部では賢者の石も消費したものの、重体を負う者もなく無事、奇襲部隊の殲滅を終えることが出来た。
「愚神の病気で寝込める程、暇じゃないんでな」
 央が既に存在が消え去って残った鎧に向かい最後の台詞を告げる。
 そしてのんびりと小鉄が幻想蝶から取り出したお茶を頂く一同。先程までの緊迫感は欠片もない。
 だが、前衛で戦っていた者達の傷は痛々しいものだ。
「頭の良い敵ってマジ厄介だな……ま、こっちのブレーンの方が優秀だったみたいだけどな!」
「……ん……自慢げだけど……考えたのは、別の人……」
「ま、まぁ、オレは指揮官じゃなくてどっちかってーと兵士な訳だし?」
 白兵戦に混じらず遠距離から狙撃していた佐助は元気だ。リアに作戦開始前と同じノリで突っ込まれしどもどしながらお茶を飲む。
「やはりケントゥリオ級は一筋縄ではいかぬ相手でござるな……」
「こんなのがまだうじゃうじゃ居るのよね? はぁ……ま、頑張るしかないんだけどね」
 お茶を飲む小鉄の傷の手当てをしながら稲穂がため息を零した。
 そう、これはまだほんの一部でしかない。
 強大な力が渦を巻いてこの地を脅かしている。
「デ・ラ・リュースも効果を発揮していましたが、病原菌は生物なのでしょうか?」
「愚神や従魔だとまた違うんじゃねぇのか?」
 薬屋のガルーに真面目に疑問に思ったことを問いかける凛道。征四郎の手当てをしながら、さあな、と言いつつも可能性をガルーは示唆する。
 征四郎はガルーに手当をしてもらうとリュカの手当てが終わるのを待ってから小鉄から貰ったお茶を「熱いので気を付けるのですよ」と手渡す。
「ルタ・イワン撃破がスイッチになって他ルタがルタ・イワンとなる可能性も考えていたんだがな」
 春翔が小さく呟く。そんなことはなかったが、一体何があってルタが愚神へと変化を遂げたのか、気になる点ではあった。
 それぞれが今回の気になる点を話しながらお茶を啜っている。
 ここまだ雪原なんですけど、というツッコミを入れる元気と空気はない。
 藍が戻ってきた央にお茶を手渡している。
「……何してるの、キース君?」
「襲撃されたロシア軍にこの写真を見せるんです。襲撃犯がルタ達ではない可能性もありますしね」
 織姫がキースのスマフォを覗き込むとそこには写真。被害者に事実関係の確認をしてほしい旨をロシア軍に送っていた。
「それに、戦闘不能間近の方もいますし、迎えを寄越してもらえるようにも頼みました」
 前線で戦っていたチームメイトを見遣りそう付け足すキース。ちなみにキースも佐助同様元気だが、前線にいた5名は新たに従魔に遭遇すれば危険な状態になってしまうかもしれない。辛うじて藍だけはまだ少しは戦えるだろうが。
 だが、彼らの作戦の成功によりヴァシレフスキー作戦が以後脅かされることもなく、また、敵の戦力を多少なりとも削げたことは事実だ。
 まだ先の長い戦いは続くだろうが、今回に関して言えば最良の結果を得られたのは間違いない。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 希望の意義を守る者
    エディス・ホワイトクイーンaa3715hero002
    英雄|25才|女性|カオ
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