本部

成人式シンドローム

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/01/24 19:21

掲示板

オープニング

●紫の少年
 ねぇ、君がプリセンサーさんかい? 僕は君らが言うところの愚神ってやつさ。HOPE――僕はね、君たちみたいな人って結構好きなんだ。どこが好きかって? 教えてあーげない。
 何の話だっけ? そうそう、僕が君たちを気に入ってるって話。だからさ、君の夢に現れてあげたんだ。たまにはこういうのもいいでしょ? ふふ、寝てる間に道路の真ん中に放置~とか酷いことはしてないから安心してよ。
 僕はね、君たちと遊びたい。だから次に会う約束をしよう。でも僕のやりたいことをそのまんま言ったんじゃつまらないよね。だからヒントをあげる。よく聞いて?

1、僕は大人が大嫌い
2、大人になるためのイベントなんてもちろん大嫌い
3、僕は偉そうにぺらぺら喋る大人が特に大嫌い
4、僕はイイ子ぶった優等生が大嫌い
5、僕は大人ぶろうとして着飾る女の子も大嫌い
6、僕はお酒が大嫌い、大人のニオイがするんだもん

 今回はね、みんなへのはじめましてのご挨拶。姿を現す気はないよ。だから遊ぼう、子供みたいに。――エージェントさんたちには、そう伝えておいてよ?

●ヴィオレタ・パンの悪戯
「確かに道路の真ん中ではなかったけれど、寝坊した上に、顔の落書きに気づかないまま部活に行っちゃったわ」
 プリセンサーの少女は、HOPEの空き部屋の机に突っ伏した。赤須 まことは、無言で彼女の肩をポンと叩く。立派なカイゼル髭はこすっているうちに消えてしまったらしい。冬休み中のことだったので、目撃者は部活仲間に留まったのが不幸中の幸いだ。
「その男の子は紫の服を着てたんだっけ?」
 まことは尋ねた。
「多分……。記憶が曖昧なのよね。デザインもよく覚えてないわ」
 プリセンサーが首を捻る。
「とにかく、それでついた仮称が『ヴィオレタ・パン』」
「何語なんだろ?」
「さぁ? 『ピーター・パン』とゴロを合わせたかっただけでしょう?」
 少女はくすりと笑う。紫の少年がその名のモデルと同じ、『子供』を愛し大人を愛する存在だとすれば、HOPEのこういう遊び心をこそ気に入っているのだろうか。HOPE所属者としては、覚えやすい名であることに越したことは無いのだが。
「まことちゃんは行くのよね、成人式の潜入依頼?」
 まことが彼女に声をかけたのは、情報の発信元が彼女だと聞いていたせいもある。
「うん。ちょっと不安だけど」
 正月、祖母の家に集まった親戚一同に繰り返しかけられた言葉がリフレインする。
「『あら~まこちゃん、大きくなったわねぇ。……中学生だっけ?』って」
「童顔だものね、あなた」
「知ってるけどさぁ。亮次さんすごい笑うし。ていうかあの人、私より親戚の輪に溶け込んでた気がするし……」
 プリセンサーの少女はそこで気が付いた。
「亮次さんも潜入するのよね? ……まことちゃん以上に、ハタチに見えない気がするわ」
「やっぱりそう思う? スタッフさんには事情を話してあるから、会場には入れるけどね」
 まことは袴姿で20歳と言い張る亮次を想像し、ふふっと噴き出した。
「スーツでもいいんじゃないの?」
「えー? 袴の方がちょっぴりだけマシだって」
 彼女らの共鳴時の姿は少々大人っぽくなったまことがベースだ。本来ならばその姿で行きたいのだが。
「信じていいのかしらね? 今回は悪戯するだけ、なんて」
「たくさん人が来る場所だから、戦闘しなくて済むならその方が良いよ」
 HOPEから推奨された作戦は、『非共鳴状態で潜入し、戦闘しない意思を示す→「悪戯」をその都度解決する』というもの。
「気を付けて行ってらっしゃい。振袖の写真、もし撮れたら送ってね?」
「あはは……期待せずに待ってて」
 密かに楽しみにしていたことはバレバレだったらしい。まことは照れ笑いを返した。

解説

【目標】
 成人式を無事に終わらせる
 
【X町成人式+食事会】※プログラムの順番以外はPC未取得情報
 食事会も式と同じホールで開催。結婚披露宴のようなイメージで、4~5人掛けの机に別れて座る。

式:
1、町長のお話
 非常にメンタルの弱い町長。ズラがずれるが、こっそり元の位置に戻さないとスピーチを放棄して逃げてしまう。ヤジを飛ばす若者には話の開始と同時にヘッドセット型のマイクが取りつけられる(ヴィオレタが子供じみた行為を好むため)。

2町の歴史スライドショー、
 大抵の子は真面目に見ていない。真面目に見ている大人な子には顔にシワやヒゲなどの落書き。インクのように見えるが、リンカーであれば触れるだけで消せる。

3成人の誓い、
 代表者(白鳥さん、乾くん)が成人代表のスピーチをする。最後には杯で地元名産の酒を飲む。この時、悪戯の矛先は2人へと集中する。出番直前、白鳥さんの髪が縦ロールに、乾くんの袴がミニ丈に。髪のセットや着替えにはそれなりの時間稼ぎが必要。
 また、酒は激辛(わさび系)になっている。

食事会余興:
1料理の提供
 無害。
2小学生の合唱(町歌)
 非常に大音量のCD伴奏&爆竹の音。泣き出す子も。
3振袖コンテスト
 10名が参加予定。皆気合が入りすぎて化粧が濃い&髪がとても派手。落書きのターゲットに。

【敵】※PC未取得情報
愚神:ヴィオレタ・パン
 今回は現れない。共鳴した者にはちょっとした悪戯があるかも(くすぐる、耳に息を吹きかける、コショウをふりかける、など怪我をしない程度の妨害)。また、エージェントおよび舞台上の一般人は、左記のようなちょっとした悪戯をされる可能性が常にある。

従魔:?
 悪戯の実行犯。鱗粉をまき散らして飛ぶ小さなモノたち。目には見えない。非常に弱く、式が終わり次第自然消滅する。

リプレイ

●We are 新成人!
 当日、会場は若者たちで埋まりつつあった。エージェントたちも次々と受付を訪れる。
「成人式ィ? あァ……あれか、宴か!」
「んー……? んー……うん、多分そう」
 こく、と頷いたのは新成人として式に参加する天海 雨月(aa1738)である。本来の己の成人式は既に経験済みだったが。
「寝てたなー」
「だろうなァ。その~愚神? だかなんが知んねェが遊べっつゥなら歓迎だ!」
 艶朱(aa1738hero002)はすっかり機嫌を良くしている。
「おう、艶朱じゃねぇか。席こっちだぜ」
 亮次と並ぶとなんだかアレな集会っぽいが、気にしたら負けである。
「二十歳から元服って、今は遅くなったんだね……」
 見た目は8歳女児、中身は自称・神世七代の一柱――伊邪那美(aa0127hero001)が不思議そうに言う。
「大人の式、羨ましいです」
 キッズ用のスーツを着た紫 征四郎(aa0076)は、憧れに目を輝かせている。
「せーちゃんもイザナミちゃんもいつかは振袖着るのかな、楽しみだなー!」
 木霊・C・リュカ(aa0068)の言葉に征四郎は嬉しそうにはにかむ。
「キョウヤはまだ、オトナではないのです?」
 スーツ姿の御神 恭也(aa0127)は、並んで歩く征四郎と伊邪那美に視線を向けた。
「……その姿だと、大人と間違えられそうだね」
「何処かだ? 若々しく、どこか無鉄砲でほほえましい。風格の一つも纏えない、ただ高校生にしか見えんだろ」
「恭ちゃん……は、あれ、まだ成人はしてないんだっけ……」
 リュカには今のスーツ姿は見えていないが、なんとなく想像はついたらしい。苦笑をこぼす彼を見て伊邪那美が無邪気に言った。
「流石に無理があるんじゃないかな~」
「解せぬ……」
 凛道(aa0068hero002)はユエリャン・李(aa0076hero002)に問う。
「ユエさん達も昔こういったことをしたんですか?」
「さてな、あったやもしれぬが……ああ、我輩の艶姿が見たいということなら今からでも遅くはないぞ?」
「あ、大丈夫です」
 ユエリャンは女性ものの着物にヒールという出で立ちである。凛道は手元に美少女アイドル達のブロマイドを広げつつ切なげに言った。
「子供が大人になってしまうと思うと、些か寂しいものはありますね」
「そうですね」
 思わぬ方向から返事が返って来て、ユエリャンは凛道の無礼を咎め損ねた。声の主は守屋 昭二(aa4797)だった。
「うちの孫が2人、式に参加するんです。男の子と女の子でしてね。嬉しいが、少し寂しいというのもわかります」
 本物の20歳であるシンシア リリエンソール(aa1704hero001)を連れて、意気揚々とやってきたのは風深 櫻子(aa1704)。
「振袖で成人式とか4年ぶりだわー」
「8年ぶりだろう、戯け」
「新成人として潜入するのは、まことちゃんだけかぁ。他の子も振袖着てくれても良かったのにね?」
「未成年の女子以外は眼中にないのか……」
 席から対応に当たるのは彼女たちとリュカ、ユエリャン、雨月、艶朱、昭二、そしてルーデル(aa4201hero001)だ。他の者はスタッフに扮する。カメラや飲み物のお代わりを持って会場を見回ったり、舞台裏でステージの警戒に当たったりする予定だ。
「ルーデル、今日は俺は通信機でしか話せない。昨日散々言ったと思うが、周りに迷惑をかけるなよ、いいな」
 皇后崎 煉 (aa4201)は先乗りして調理に参加していた。
「任せて煉、愚神を私の料理で骨抜きにしてチョコスープにしてあげればいいんでしょ?」
「愚神の入ったチョコスープとかゲテモノだな……」
「だが……美味いな?」
 ルーデルはかなり変わった味覚の持ち主である。
「……それは後でお前にくれてやる」
「ほんと!?」
「喜ぶな……。とにかくお前はなにもするなよ、他の奴に迷惑かけるな」
「らじゃー!」
 イングリ・ランプランド(aa4692)もちょっぴりズレた方向で気合が入っていた。
(ヴィオレタだか何だか知らないけれど、そういうクソガキは大嫌いです! この手でぶっ殺してやります!)
 伊邪那美が彼女の袖を引く。
「何だか怖い顔してるけど平気? ボクたちはステージ裏に行くけど」
「まずは町長のスピーチでしたか。私も行きましょう」
 かくして成人式の平和はこの個性豊かな面々に託されたのである。

●悪戯症候群
「えー」
 顔を脂で光らせた町長がスピーチを始める。皆の視線は彼の釘付けだ――正確には彼の頭に。
「うわー、頭髪の不自由な人かー。しかもヘルメットズレてるよー」
 櫻子が言うと、同じテーブルに着いた者たちが噴き出した。
「もう少しまともな表現はできないのか、サクラ」
「えー? しっかりオブラートに包んでるじゃないの」
 櫻子は小声で相棒に言う。
「可愛そうだから、舞台上に上がりたがるキッズがいたら、止めに行く振りして、ズラ直してやろうかな」
 アシスタント然としたイングリが静かに登壇してカツラを直し、流れるように去って行く。その様を見て、会場に声無き笑いが広がった。
「……なんだこの衣装は。動きにくいな。ここの民族衣装か。おい、これは未婚の若い女が着るんだろう? サクラが着ていいのか??」
 シンシアは長い袖を持て余しながら相棒に問う。。
「ピッチピチのナウなヤングの新成人に何言うし?」
 桜子は飄々と答える。
「うそつけ、に」
「新成人です」
 見事な真顔である。
「にじゅうは」
「新成人です」
 そして迫真である。 
「えー、これからみなさんは輝かしい人生がー」
「輝いてるのはお前の頭」
 唐突にマイク音声が割り込み『輝かしい』頭皮を弄ろうとしたが、恭也がマスターボリュームをすかさず下げたおかげで意図は伝わらなかった。
「今のは何ですか?」
「機械の故障なのです。新しいマイクをどうぞ」
 町長が屈んでマイクを受け取る。
「頑張ってくださいね」
 征四郎は小声で耳打ちをしながら、こっそりカツラの位置を直した。
「静かに聴きましょうね。大人とは節度が求められるのですよ」
 一方、ちょっぴりやんちゃな新成人は凛道のマフラーホールドを受け、青い顔で頷いた。対して力は込められていないが振りほどけない。喧嘩をして勝てる相手ではないと彼は悟ったのである。
「愚神の姿はなし、ですか」
 イングリは内心イラつきながら、別の新成人の首根っこを放した。
「それどころか従魔も見当たらない。いつの間に出たんでしょうか?」
 凛道もイングリも、従魔の姿は直接見ていない。
「そうですね……あ、お客様失礼します。お召し物に汚れが」
 凛道が側にいた男性のヘッドセットを素早く奪う。
「いつの間に……あっ」
 何気なくステージに目をやったイングリは、右側のみに毛を乗せたパンクな町長を見た。
「き、恭也! またずれて来てるよ!」
「伊邪那美、声が大きいぞ」
「よ~し、そのまま動かないでね……失敗したら飛んで行っちゃうから気を付けないと」
 伊邪那美は釣り針を投げて、町長の頭に引っ掛ける。
「あのカツラ独りでに動いてやがる!」
「ああ? 町長のペットだろ?」
「艶朱さんも亮次さんも、どうしてグロリアビールじゃないのに酔っぱらってるの!?」
 馬鹿笑いする亮次を何とか止めようとまことが立ち上がるが、雨月は特に気にする様子もなく座っていた。
「意外と平和だな」
 エージェントたちの頑張りは、どうやら会場の平穏を守れているらしい。
 
●惑え、エージェント!
 プログラムは町の歴史紹介へと移る。
(あの気取ったオジサン嫌いだったのに。そうだ、今度は黙って聞いてるイイコちゃんに悪戯しよ)
 従魔の目を通して会場を見ていた愚神は、次の行動を始めさせた。
「この現状を見ても彼らを大人と呼べるのだろうか?」
 恭也は会場を見回した。ほとんどの者はあまりのつまらなさに、友人たちと私語を始めている。スクリーンを黙って見つめる女性は、正直目立った。
「飲み物は如何ですか?」
 やや硬い作り笑いで恭也が女性に話しかけた。
「すみません、頬にゴミが……」
 そう言うと恭也は女性の両頬を包み込み、2つのうずまき模様を消した。頬を染める女性を見て気まずく思うが、落書きを消すためなのだから仕方ない。
「え~っと、こう言うのをナンパっていうんだっけ?」
「人聞きの悪い事を言うな」
 シンシアは顎に手を当て説明に聞き入っていた。
「ほう……ここは海を埋め立ててできた土地なのか。興味深い」
「よくクソ真面目に見られるわね。ちょうどいいわ、被害担当になってもらおうじゃないの」
「おい待て、なんだそれは」
 向き直ったシンシアの頬には猫のヒゲ。櫻子が鏡を取り出して見せてやる。
「何だこれは、落書き?? ……うん?? 軽く拭ったら一瞬で消えたぞ」
「待って、前髪の下にも何かあるわよ?」
 額には『バカ』の文字が。
「シンプルだけれど、一番腹立つ気がするわね」
 イングリもまた見回りをしながらラクガキを消す作業に勤しんでいたが、お目当ての愚神は見つからない。
「あ」
 雨月の声に彼の視線の先を見遣ったまことは、ちょびヒゲ紳士と化した若者を見つけた。
「ど、どうします? さりげなく消してあげないと……」
「うん、ちょっと可哀想だな」
 雨月は音もなく立ち上がると、若者を覗き込んでヒゲを触ってみる。
「な、何ですか?」
「んー、何でもなかった」
 突然現れた青年に顔を触られた男は不審そうに身構えたが、彼のゆるいペースに巻き込まれ反論する気を失くしたらしい。
「触っただけで消えるんですか。ライヴスに反応するのかな?」
「愚神、意外と悪い奴じゃない?」
 雨月が思いついたように言うと、まことが顔を顰めた。
「深い恨みはなさそうだと思うけど」
 ここにはいない愚神は、会話を盗み聞いて笑う。
「恨みなんてないよ。気に入らなくはあるけどね。僕が興味ある相手はHOPE(きみたち)だから」

●悪い魔法
「誰だ小細工しやがった奴ァ出てこいやオルァァァアア!!!」
 舞台裏に艶朱の大声が響き渡った。地元の銘酒があると聞いて意気揚々とやってきたのだが、待っていたのはひりひり辛いわさび酒。真っ赤になって怒っている様は妙にしっくりくる気もするが、と亮次は思った。まことはうとうとし始めた雨月と共に席でお留守番中である。
「辛っ! これは駄目だね」
 リュカも眉をひそめて言った。
「別のお酒を用意して、念のため水で薄めて置こうか」
 彼の耳に別方向から悲鳴が飛び込む。
「恭ちゃん、どうしたの?」
 成人代表の2人に付き添っていた恭也が答えた。
「命に別状はない。ただ、着替えに時間がかかりそうだ」
「了解。任せて」
 伊邪那美は不満げにメガ盛り髪の白鳥とミニ袴の乾を見た。
「一瞬、暗がりを抜けただけでこうなるなんて……」
 まるでシンデレラの魔法だ。魔法使いはこんな性格の悪い奴ではなかったが。
「髪はそのままアップにしよう。髪飾りもつけてやる」
 要請を受けたユエリャンが手際よく髪のセットを始めると、白鳥は涙目で礼を言った。イングリが予備の袴を持って来ると乾もいそいそと着替え始める。
「マイクのスイッチOK。話していいぜ」
 亮次が言って去って行く。颯爽と舞台に立ったリュカは、ゆったりと話し始める。
「さてさて、皆とうとう大人になってしまう時が来ましたね。ピーターパンに憧れて大人になりたくない! なんて言ってた時もあったかな……」
 成人たちは謎の男の演説に興味を惹かれたらしく、注目こそすれ特に騒ぐ様子はない。その頃、艶朱は先ほどの酒をもう一度口に含んでいた。
「……いや、これはこれで……」
「マジかよ」
「意外と悪くねェぜ、コレ」
 捨てる神あればなんとやら。罰ゲーム酒は彼らと共に席に帰還した。少年の姿の愚神は大人の味覚を舐めていたのかもしれない。
「なになに、すっごく上手そうな匂いじゃない!」
 その刺激臭をルーデルが嗅ぎつけるが、何を隠そう彼女は花の16歳。
「駄目だってば~!」
「離して~! こんなに美味しそうなものが飲めないなんて~!」
「未成年って以前に、危険だよ! そこふたりもぐいぐい飲むな~!」
 結局、酒は小競り合いの間に酔っぱらいたちに飲み干されてしまい、ルーデルは肩を落として戻っていった。あの酒にそこまでの価値を見出すのはこの世で彼女一人だろう。
「……私たちは今日の日を決して忘れず、立派な成人になりたいと思います!
 転寝していた雨月は、スピーチ終了直前に目を覚ました。会場には拍手が満ち、舞台上には自信に満ちた表情で杯を干す白鳥と乾がいた。
(逆に忘れられないよなー)
 雨月はここまでの騒ぎをなんとなく思い出しながら、ぼんやり思っていた。
 
●楽しい余興タイム?
 痛いくらいに大きく拍手をした昭二はふと、我に返った。孫たちの成長を感じられた良い式だったし、代表の言葉やリュカのスピーチも素晴らしかった。
(そろそろ本格的に仕事をしなければ)
 彼は慈愛に満ちた祖父の顔をしまうと、きりりとしたエージェントの顔になる。
(騒ぎは起こっていたのに敵の姿は見えず、か)
 会場内をよく見ていたことは確かだ。では別のところに脅威が潜んでいるのか。まず思いついたのは、この後提供される食事だ。
「異常はありませんね」
 昭二と、調理に携わっていた煉は料理の毒見を終えて頷き合う。
「私は式場に戻りましょう」
「調理場にも怪しい奴はいなかったと伝えてください」
 昭二を見送る煉に通信が入る。緊急事態かと身構えるが。
「これ美味しい、煉ごめん、私の料理人魂が疼いて、ああ手が、手が止まらない」
「お前のは食い意地だ。任せた俺が馬鹿だった、通信機だけは切るなよ?」
 ステージには小学生が列を作って行進してきていた。
「……ええわぁ、可愛いわぁ」
 よだれでも垂らしそうに緩んだ櫻子の顔を見て、シンシアはため息をついた。視線は恥ずかしそうに最後尾を歩いてきた美しい女児に固定されている。
 引率の教師が合図すると――予定外の爆音が会場にいる者たちの耳をつんざいた。耳を抑えて身を寄せ合い、怯える子供たちに爆竹の音が追い打ちをかける。
「ふざけんじゃないわよ、ヴィオレタ・パン!」
 櫻子と凛道は血相を変えて、素早く子供たちに駆け寄った。
「よしよし。あなたたちのことは、お姉さんが守ってあ・げ・る」
「だ、だだ、だいじょうぶですよ~! 怖くないですよ~?」
 幼女限定でハグをするお姉さんに、赤面して目が泳がせまくっているお兄さん。ツッコミ所はないでもないが、子供を守ろうとする気持ちなら誰にも負けない二人だろう。
「おい、だれか機材の方は直せんのか」
 シンシアが爆音に負けないように声を張ると、伊邪那美が頷いた。
「今、恭也が行ってるよ」
 演奏の方はすぐに止まったが、爆竹は鳴り続けている。成人たちは不安そうにお互いを見た。肉を頬張ったまま仰天していたルーデルは我に返った。そして食事会の空気が変わってしまったことに憤った。マイクを片手に壇上へ上がる。
「私はルーデル、この会を支配する者」
 会場は水を打ったように静かになった。
「あ、ごめんごめん嘘ですー! さっきまで美味しい料理を食べてましたー! みんなー美味しかったー!?」
 ぽかんとする一同だが、実際に料理は美味しかったようでちらほら頷く者もいた。
「なんか今音楽が使えないっぽいから、歌が止まってます! 私たちの成人式がハチャメチャにされてます!」
 勢いに任せて演説する。
「みんなはこれでいいのか! こんな空気で終わっていいのか! いいわけないですよね! だからー! みんなで歌いましょう! この子達と一緒に!」
 子供たちはきょとんとしている。
「機械なんかに頼るな! 私達の人生は私達で楽しくするのだー! 歌え私達!!」
 歌い出すルーデル。ドン引きする会場。どう見ても調子に乗った新成人のたわ言である。舞台裏から登場し、彼女の頭をしばいたのは煉だった。
「楽しく皿洗いでもさせてやろうか?」
 首根っこをつかみ強制退場。なんとなく一件落着、という空気が流れた。なんだったらあの爆音と爆竹も彼女のせいかもと新成人たちは思ったかもしれない。チャンスだ。
「この度成人した皆様はおめでとうございます!」
 ステージが派手な照明に照らされる。爆竹の弾ける音の中、赤い女が恭しく礼をした。共鳴した征四郎だ。
「町歌の前に、一曲プレゼントさせてください」
 征四郎はピアノで流行りのアニメの曲を伴奏する。情報提供者の凛道はさっそく踊り始める。
「あ、この歌知ってる」
「みなさ~ん、まずは大きく両手をふって足踏みですよ! 『がんばるにゃんマーチ』はっじまっりま~す!」
 伊邪那美も歌い出し、子供たちがそれに続く。昭二が爆竹の導火線を居合で斬り、恭也とイングリは光の軌跡を頼りに見えない敵を追う。何度か手ごたえを感じたころ、音は完全に収まっていた。
「御神君、服が汚れていますよ」
「守屋さんも。これは鱗粉?」
 イングリはかすかに発光して見える己の手のひらを見つめ、首を捻った。
「蝶を模した従魔、なのでしょうか? それとも別の何か……?」
 昭二は今日成人した孫たちの幼いころを思い出しながら、答えた。
「相手がピーター・パンだというのなら、おあつらえ向きの相棒が居ますね」
 その頃、征四郎には別の脅威は迫っていた。
「っく……」
 何とも古典的なイタズラ。コショウの散布だ。くしゃみをこらえながら伴奏を続ける。
――僕、君とは友達になれそうにないや。大人になりたい、なんてさ。
「……あなたはっ!」
 耳元で聞こえた声は、それ以上は何も言わず消えた。
「みんな~、とても上手だったわよ! 次は町歌を歌いましょう!」
 愛らしい女児とちゃっかり手を繋いだ櫻子が言うと、「は~い」という元気な返事が返って来た。

●またね
 ついに最後の余興までたどり着いた。振袖コンテストの控室には美しく着飾った10人の乙女たちが――いるはずだった。先ほどの白鳥ほどではないが盛りまくった髪に、濃すぎる化粧。ヴィオレタの悪戯と間違えられてもおかしくない。
「あの人のお化粧何か変じゃないですか、ユエさんの方がじょう……ッ」
 凛道の言葉はユエリャンのローキックによって止まった。そのままぐりぐりと足を踏む。
「誰の化粧が年季入ってるって? ん?」
「ユエリャン、凛道はそこまでは言ってないのです……!」
 呆気にとられた顔をしていた昭二が言う。
「このままでは愚神の標的になってしまいそうですね」
 昭二は舞台袖のイングリに連絡し、時間稼ぎを頼んだ。ユエリャンはまだメイク中だったらしい一人を捕まえ、着物に合うメイクを提案してみる。
「若い方の感性とは違うかもしれませんが、今くらいが一番綺麗かと……」
 昭二も助け舟を出す。なんとか半分の女子を普通の化粧に、もう半分の女子を少し派手というレベルまで持っていくことが出来そうだった。
「ただいまコンテストの準備に少々時間がかかっております。しばしの間、スタッフによる演武をお楽しみください」
 イングリのナレーションに呼ばれて、恭也と伊邪那美が演武を始める。
(さて、これで少しは時間を稼げると良いのだが……)
「おおー」
 雨月はパチパチと手を叩く。
「これ、プログラムにないですけど大丈夫ですかね? 何かトラブルがあったんじゃ」
「んー……必要だったら呼ばれるだろ」
「そうですかね」
 それにしても、とまことは艶朱をちらりと見た。
「いやァ、いい仕事をもらってきちまったなァ!」
「毎回こうだといいんだがな!」
 相も変わらず減り続ける酒。上機嫌の男たち。
「私だけでも警戒しとこ……」
「あんまり真面目にやってると悪戯されないか?」
 雨月が言うと、彼女ははっとする。「どうしたらいいの?」と頭を抱えるまことの肩を雨月がぽんと叩いた。
「始まるぞ」
 ステージに並ぶ10名の参加者。司会者の簡単な質問に答えたり、自己アピールをしたり。順調に進んでいく。アシスタントとしてイングリが控え、マイクを渡す係をしている。
「あ、顔にまつげが……はい、取れましたよ」
 落書きの被害は客席からは見て取れなかった。
 投票の時間を利用して、客席ではサプライズプレゼントが配られた。ユエリャンの提案で撮っていた写真を印刷したものだ。
「参加者に楽しかった記憶が残れば、それで成功であろう」
 会場を包む平和な雰囲気。征四郎は頷いた。
「あの、よかったら一緒に写真撮ってくれませんか?」
 帰り際、友人との約束を思い出したまことが提案した。まわりを見渡せば、無事に式を終えた新成人たちもお互いの写真を撮り合っている。
「撮りましょうか?」
 親切な女性が申し出てくれた。亮次は彼女の顔の周りがきらきらと光った気がして、目をこする。
「気のせいか」
「亮次さん、まさか寝ぼけてるの?」
「違うっての」
 多少のトラブルはあったものの、深刻な被害は出なかった。新成人たちの心には良い式だったという思い出が残ることだろう。
「思ったよりめちゃくちゃにできなかったなぁ。ざーんねん」
 少年は閉じていた眼を開く。最後の従魔が力尽きたらしい。網膜に残るのは従魔を通して見たエージェントたちの姿。
「思った通り、面白い人たちだったな! また遊んでよね、エージェントさん?」
 彼の周りを鱗粉が舞ったかと思うと、少年の肩にはラベンダー色の服を着た妖精が嫌な笑みを浮かべて座っていた。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • あたしがロリ少女だ!
    風深 櫻子aa1704
    人間|28才|女性|命中
  • メイド騎士
    シンシア リリエンソールaa1704hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 綿菓子系男子
    天海 雨月aa1738
    人間|23才|男性|生命
  • 口説き鬼
    艶朱aa1738hero002
    英雄|30才|男性|ドレ
  • エージェント
    皇后崎 煉 aa4201
    獣人|24才|男性|生命
  • エージェント
    ルーデルaa4201hero001
    英雄|16才|女性|バト
  • 知られざる任務遂行者
    イングリ・ランプランドaa4692
    人間|24才|女性|生命



  • エージェント
    守屋 昭二aa4797
    人間|78才|男性|攻撃



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