本部

奇怪な機械を見る機会

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/01/03 14:52

掲示板

オープニング

「うわぁ……どうなってるんですか、これ」
『サイエンス・フィクションのファンにとっては、まさに夢のような場所だろうな』
 目の前に広がる空間を見渡して、澪河青藍は呆れたように溜め息をつく。街の一角を占拠したドロップゾーンの中は、その様相を全く変化させてしまっていた。ただのビル街が、まるでスチームパンクの世界観を思わせる赤茶けた景色に代わっていた。石畳の道路、レンガの建物。その奥に鎮座する、巨大な鋼鉄の教会。そんな街並みの至る所に銀色に光る歯車が張り巡らされ、チクタクと動き続けている。刀の柄に手をかけ、青藍は慎重に周囲を見渡しながら歩いていく。
「最先端のアイアンパンク技術に頼っているのに、この世界はどうにもそんな雰囲気じゃないですね」
『結局出てきたのはゾンビだ。この世界観の方が似合うというものだろう』
「む……まあ、首魁がどこにいるかわかりやすいのはとても良い事ですけどね」
 青藍は懐から通信機を取り出すと、別の場所の探索を行っているエージェントのメンバーに向かって通信を送る。
――教会への潜入を開始したいと思います。よろしいでしょうか。
 それぞれ返事がくる。頷いた青藍は、いよいよ刀を抜いて歩みを進めた。建物の陰に隠れながら、慎重に。近づくたび、教会の威容がひしひしと伝わってくる。見てくれこそゴシック建築のよくある教会の在り方なのに、それが全て鋼鉄で出来ているせいでもはやただの要塞だ。
『気を付けろ。物事は全て最初が肝心だ』
「わかっています」
 教会の陰に身を潜め、青藍はじっと中を窺う。手分けしてドロップゾーン内を探索したが人の気配は無かった。ドロップゾーン発生と共に失踪した信者も、誘拐されたとみられる人々も、この教会の中にいるに違いなかった。
「(まずは救助。マキナとの決戦は、それからでも……)」
 その時、教会の扉が軋みをあげつついきなり開いた。中から、全身を鋼鉄とケーブルに侵された信者『機械のものども』がぞろぞろと、まるで軍隊のように出てくる。一、二、三……ざっと見渡しただけで三十人はいるようだった。
 その奥から、まるで機械仕掛けの人形のような姿をした、一つの人影が姿を現す。遠くからでもはっきりとわかる強いライヴス。機械のものどもは円陣を組み、その人形を取り囲んで跪いた。セラミックで出来た全身のパーツ。その関節や内臓、至る部分で歯車が蠢いている。天からはライヴスの糸が伸びて彼に繋がり、その操り人形のような印象をさらに強くする。その脆い見た目は、青藍にしてみれば、その姿は神としてあまりにも頼りない。
 しかし、その者こそがマキナ。このゾーンの支配者、即ち機械仕掛けの神であった。青藍は一度身を隠し、マキナ達の様子を耳だけ使って窺おうとする。
 しかし、マキナはその黒いバイザーに映る緑色の“眼”で、そんな青藍の姿をはっきりと“見ていた”のだった。
「『希望』の名を冠す者達よ。この世界はいわば私の一部。隠れていても無駄です。出てきなさい。私はここにおります」
 青藍は動かない。少々動揺した……という事もあったが、そこは常に一人で決断を迫られてきたミディアンハンター、対応力が違う。彼女は身を潜めたまま、素早く通信機を取り出し操作を始めた。
「私は新たなる世界を統べる者。旧世界への未練を断ち切るため、貴方達は正々堂々と向き合い正々堂々と滅ぼす。そのつもりです。が、貴方達がそのつもりならば、こちらから先制攻撃と参らせていただきます」
 バイザーに映る眼の色が緑色から赤色へと変わる。街の歯車や教会の外壁が外れ、マキナの下へと飛んでいく。そのパーツは身体を包み込むようにして組み上がっていき、やがて一つの巨大な、上半身だけの銃騎士へと形を変えてしまった。
「さあ、慄きなさい!」
 マキナは右手の巨大な銃の引き金を引く。ライヴスに包まれた弾丸が、一直線に青藍の隠れる壁に向かって飛び、レンガ造りの壁をいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。
「慄くのは貴方の方です!」
 しかしその瞬間、教会の周囲から何人もの人影が飛び出し、一気にマキナへと迫っていく。青藍と、彼女に協力するエージェント達だ。機械のものどもは素早く反応し、突っ込むエージェント達の前に立ちはだかろうとする。しかし青藍は流れるように刃を振い、一体の右腕をあっさりと斬り落としてしまった。オイルが噴き出し、従魔から解き放たれた信者はその場にどうと倒れる。
 その姿をちらりと一瞥、青藍は刀を握りしめ、マキナに向かって啖呵を切った。
「そちらが挑戦するというのなら、受けて立ちましょう!」

解説

メイン:マキナと交戦し、能力を分析する(4Rまで全員戦闘不能にならない)
サブ1:機械のものどもを5体以上倒す
サブ2:マキナを負傷撤退させる(難易度高)
ゾーンルール:潜伏不可(スキル除く)

登場敵
ケントゥリオ級愚神『マキナ』
歯車が組み合わさった操り人形の形をした愚神。マキナ教団を組織し、宗教的行為により構成員の射幸心を煽る事で彼らの持つライヴスを活性化、そのライヴスを吸収する事で勢力を増してきていた。
ステータス予測
物攻A 物防S 生命A 命中B その他F
特徴
左手の盾
左腕に備え付けられた白く輝く盾。いかにも頑丈そうな雰囲気だ。
右手の銃
右腕に持つマスケット銃。その銃口からは何が放たれるのか。
輝く光で結ばれた関節部
腕や肩の関節部は光で出来ており、何らかの力を通して引き合う事で結びついているようだ。
心臓部に輝くコア
心臓に当たる部分には赤いコアが輝いている。現在は金網のようなパーツでしっかり守られているようだ。

セラミック製のフェイスマスクの奥から、目の代わりに紅い光が鈍く輝いている。

機械のものども
ミーレス級からデクリオ級。
右腕を殴ればとりあえず倒せる。攻撃は痛い事は痛いが当たらなければどうという事は無い。要するにマキナが用意した肉壁。とりあえず30体いる。

以下PL情報
マキナのスキル
八面の盾
盾が縦横無尽に飛び交う。何らかの攻撃を完全に防御する。左腕を破壊するなどで機能を停止できる。
六臂の魔弾
狙った敵を果てまで追い詰める弾丸。カバーリング不能。右腕を破壊するなどで機能を停止できる。
終劇の雷光
とある条件時に発動。地を這う雷で全体に30の固定ダメージを与え、その後コアが露出する。

マキナの部位破壊について
顔、腕、関節を破壊可能。ただし次のクリンナップフェーズには修復する。

霧断つ刃
澪河青藍が3R最後に発動。マキナに対して部位破壊を行う。ただし機械のものどもを15体以上倒していなければ無効化される。

リプレイ

●奇怪な愚神
「まさか、こんな大事になるなんてね……」
 桜小路 國光(aa4046)は愚神マキナとそれを取り囲むサイボーグ軍団を前に溜め息をつく。ドラキュラ事件に当たった時には、こんな黒幕が潜んでいるとは思いもしなかった。
『澪河さん、お手並み拝見なのですよ!』
「(あーあー、勝手に……)」
 メテオバイザー(aa4046hero001)は隣で刀を霞に構える青藍に向かってカストルの切っ先を向ける。青藍は頷くと、突っ込んでくる機械の従僕を睨みつけた。
「わかってます!」
 青藍は峰打ちで目の前の従僕を横に払う。そこにめがけて突っ込むのは共鳴を遂げたヴァイオレット メタボリック(aa0584)とノエル メイフィールド(aa0584hero001)。両頬と右腕のトライバルが緑色の光を曳く。
『Vamora!』
 大きく弧を描いた鎌が従僕の右腕を捉え、そのまま切り落とす。勢いに任せて彼女は鎌を振ってオイルを払い、近づいてきた新手を鎌の石突で突き飛ばす。
『何をするにも、先ずはこれらを除けてしまわんとな』
「ええ。そうでもしないとあの愚神には――」

「おー! 素晴らしい姿じゃ。歯車同士に噛み合わせや全体のバランスがなんと優美で力強い。そなた、わらわのモノとならんか!」

「ってちょっと! 何言いだしてるんですか!」
 カグヤ・アトラクア(aa0535)はその左目をキラキラさせ、両腕広げてマキナを見上げていた。國光は思わず突っ込み、ノエルは苦笑する。
『相変わらずじゃのう……』
『(引かれてるよ、カグヤ)』
 クー・ナンナ(aa0535hero001)の呟き。だがカグヤは気にも留めずに跳ね返した。
「(構うものか。マキナ……少なくともその技術だけでもわらわのものとする!)」
「あなたが誰のものでもないように、私もまた誰のものでもない」
 赤いモノアイを光らせ、マキナはカグヤに向かってマスケット銃を構える。
「何故なら全ては一つとなるからです。腐った肉体を棄て、穢れた心を棄て、全き機械の意志を持って一つに統一されなければならない。旧き神が人間を支配するためにもたらした不安と不信と不義から人間が解放されるためには!」
 カグヤは腕を広げて立ったまま、にやにやと笑う。その胸に向かってぴたりと狙いを定めたマキナは、一気に引き金を引く。
「我ら全て歯車。纏まらねば完全な世界ではない」
 放たれる銀色の弾丸。背後に控えていた泉 杏樹(aa0045)は素早くその間に割って入る。
「守り、ます!」
 しかし弾丸は杏樹の目の前で滑るように軌道を変え、カグヤを捉える。杏樹は目を見開いて振り返る。
「カグヤさん!」
『(……あの弾丸、彼奴の意のままに操ることが出来るようですね)』
 榊 守(aa0045hero001)は忌々しげに呟いた。
「そんな……」
「案ずるな、杏樹よ。この程度、挨拶みたいなもんじゃ」
 踏ん張ったカグヤは、懐から金烏玉兎集を取り出し不敵に笑う。右の黒い眼がぎらりと輝いた。まともでない奴らの、さらに輪をかけてまともでない奴がカグヤは大好きだった。
「くふふふ。わかっとるのぉ。わらわの相手に不足はないわい」
『(あの歯車、錆びたら動き悪くなって大変そうだけど)』
「(お前はわかっとらん)」
 クーの茶々に早口で言い返し、彼女は本を開く。
「そなたとは毛色の違う技術を見せてやろう。堪能するがよい」
 言うや否や、12の式神が飛び出し、マキナを取り囲むように飛んでいく。機械のものどもは主を守るために動くだろう。そこを叩く。

「(……動かんのか)」

 しかし、当てが外れた。従僕は國光や青藍、T.R.H.アイーシャ(aa4774)に向かっていくばかりで、マキナを庇おうとする気配は見せない。カグヤの目から悦びが消え、訝しむ色が浮かぶ。
『(変だねぇ)』
「(よい。それならそれで……)喰らうがよい!」
 カグヤは式神をマキナに四方八方からぶつける。刹那、マキナの左腕に備わった盾から青色の光が放たれ、全ての式神を跳ね除けてしまった。マキナはモノアイに敵意に満ちた輝きを宿したまま、平然とカグヤを見つめている。
『(おやおや……)』
「(ふむ。一筋縄ではいかんのう)」
 それを見ていた國光は、押し寄せる軍勢をアイーシャと共に捌きながら呟く。カグヤはここにいる中で一番の手練れ、その魔法が通じないとは半ば信じられなかった。
「アイツ、魔法は通じないのか……?」
『それに、見るからに叩いたら痛そうなのです』
 一瞬気を取られたところに機械のものどもが迫る。しかしアイーシャが其処へ割って入り、その鋼鉄の拳で機械のものの右腕を叩き壊す。
「!?」
 従僕は目を見開いて呻き、元の信者へと戻ってその場に転がる。アイーシャはそのまま構えを取り直し、横目に國光を窺う。
「……大丈夫でしょうか」
「え、ええ。助かりました」
『(頭だけじゃなくて身体も動かさなければ、なのですよ。サクラコ)』
 メテオがすかさず小言を入れる。困ったように肩を竦めつつ、彼は突っ込んできた従僕を躱しながらその右腕に斬りかかった。
「(わかってるってば。でも気になるんだよね……あれ)」
 ただの信者に戻った男を軽く蹴倒しながら、再び國光は愚神の方を――その身に繋がるライヴスの糸を――見つめるのだった。
「(本当にこいつが本体なのか……?)」

●機械化による人類統合理論
「わたくしも続きます!」
 イングリ・ランプランド(aa4692)はガルドラボーグを手にして一体の従僕に狙いを定める。その右手に、小さな銀色の光が握られる。
「Og mannen han gjekk seg i Vea-skog, hei fara i Vea-skog…」
 早口で、歌うように唱えた彼女は従僕の右腕に目掛けて銀の魔弾を放った。ダイヤモンドダストにも似た煌きを残して飛んだその弾丸は、鋼鉄の腕を貫き、凍りつかせる。何かに憑りつかれたかのようにもがいた従僕。その腕からすっと煙のように何かがたなびいては消える。すると従僕はただの人間と戻り、ふらりとその場に倒れ込んだ。
「や、やりましたよ!」
「哀れな……何故貴方達はせっかく組み上がりつつある歯車を外しにかかるのですか。完璧な秩序を壊しにかかるのですか。バベルの塔を崩し、人が己と並ぶことを許さなかった愚かな神が作った世界を! 何故……」
『“愚神”はおぬしの方じゃろうが。マキナよ』
 鎌を担ぎ、バイザー越しにノエルはじろりとマキナを見上げる。カグヤも腕組みしたまま、探るように愚神の目を見上げた。
「その神を否定しても、その後お前が神になるのでは結局変わりないと思うが?」
「神になるのは私だけではありません。この方も、そこの方も。貴方も、皆様も、全て神となるのです。この世を統べる唯一無二、絶対の存在となるのです。これこそが、我が同志の望む人類統合理論。旧き神に成り代わり作り上げる千年世界。来るべき終末を受け入れるための完全なる秩序」
 愚神は両手を広げて空論をつらつらと並べる。機械のものどもはその言葉に呼応するかのように唸りを上げ、その身体はさらに分厚く、鋼鉄に包まれていく。エージェント達はその様を見つめ、思わず武器を握る手に力を籠めた。力を増した従僕どもが、肩をいからせのしのしと行進する――

「頭ン中、ふわふわしたこと言ってンじゃないわよ!」

 鬼灯 佐千子(aa2526)が吼えた。全身からライヴスを発散させながら高々跳び上がると、そのまま上空でガトリング砲を展開しながら地面に舞い降りる。超重量の衝突が石畳を叩き割り、エージェントへ迫る機械のものどもは足を取られてその場に転んだ。
「機械になるってのは、こういうコトでしょ……!」
 自嘲的な色が混じる。盾も展開し、自分の身を完全に地面へ固定した佐千子はヘパイストスの引き金を一気に絞った。轟音と共に飛ぶ無数の弾丸。倒れる従僕ども三体の右腕へ吸い込まれるように突き刺さり、そのまま千切り落とした。しかし心を拭い去られた従僕がそれに怯むわけはなく、次々に佐千子へと襲いかかる。杏樹が割って入るが、一体がすり抜けた。動けない佐千子は、それを避けられない。
「これだけ……?」
 佐千子は叫び、一気にガトリングの銃身で従僕を薙ぎ払う。
『(やはり救助はリスクが高い。彼らは望んであのザマになったのだ。あの神気取りと共に殲滅してやるのが餞というものではないか?)』
 リタ(aa2526hero001)は無茶をする相方に尋ねる。佐千子は間髪入れずにかぶりを振り、怯まず銃を構え続けた。
「そして、生きるって事がどんなモンか見失ったまま死ぬってンでしょ? だったらなおさらこんなトコで死なせはしないわよ。リタ、こんなモンどうってことないでしょ……!」

「おおー、流石は鬼灯先輩なのであります。R.A.Yちゃん、我らも続くでありますよ」
『(ああ。さっさとやっちまうぜ)』
 白いマフラーを棚引かせた小さなサイボーグがライフルを構える。美空(aa4136)とR.A.Y(aa4136hero002)が共鳴した姿だ。重大な功績をいくつも挙げる佐千子は美空の目標。その横でヘマなど出来ない。
「ぶっとべー、であります」
 マズルから火が噴き、弾丸が義手に突き刺さる。そのまま二発、三発と続けて叩き込めば、いくら“神”の恩寵で力を増したとはいえ耐えきれない。義手が拉げ、オイルをだらだらと滴らせながら信者はどさりと崩れ落ちた。
「ふん。こんなのゲームよりも簡単なのであります」
『(やったことねーだろ、お前)』
 リロード。薬莢がバラバラと落ち、光となって消えていく。その姿を横目に、佐千子もまた引き金を絞る。
「油断はすンなよ……!」
『(きみもだぞ、サチコ)』
 傍に従魔が迫る。しかし今度こそ杏樹が割り込み、当身で従魔を突き飛ばし、薙刀を振り下ろして右腕に突き立てた。
「さっちゃんさんは、杏樹が、お守りする、です。戦いは、苦手、だけど……!」
『(たまには守られる女ってのもいいだろ、佐千子)』
「……悪い。助かる」

「機械化して一つになって、それで全ての戦争の火種が潰れるというのなら、そんな喜ばしい事は無いでしょう」
 目の前の敵を打ちのめしながら、アイーシャは独り言のように呟く。掴んだ敵の義手を力づくで握り潰し、彼女は忌々しげに自らの武骨な義手、目の前の女の壊れた無個性な義手を睨みつける。
「でもそんな事はない……絶対に。それで戦いが終わる事は、絶対に無い。同じ神を信じるはずの人々の間でも争いが起こるんだから……一つになる事が戦いの終わりに繋がるなんて、絶対に無い」
「それはたとえ一つの象徴の下に集おうと、それはただバラバラの意志を持った烏合の衆。その雲散する意志を捨て去り、無限円環を続ける一つの時計のようにそれぞれが歯車となれば、争いなど起きない」
 マキナはすかさず応える。アイーシャは顔を歪め、首を振った。
「そんなもの、ただの言葉遊びです……!」
「……やはり身勝手な“希望”を名乗る者に説得は通じないようですね……ならば、新たなる世界の代表として、私はあなた方を許すわけにはいかない」
 マキナは一際強くモノアイを輝かせる。金烏玉兎で目の前の従魔を捻じ伏せ、カグヤは不敵に微笑んだ。
「ふん。この世に狂科学者は二人もいらんとは、誰の言葉だったかのう。全くじゃな」
『(ボクの言葉だったかもねー)』

●討ち果たす機会
「(確実に数は減ってる……でも、このままじゃジリ貧に……)」
 目の前の従僕を倒しつつ、青藍は汗を拭う。従魔は半分ほどにまで減らした。しかしライヴスをガンガン注ぎ込んでようやく蹴散らせている程度だ。このままでは首魁に手が届かない。
「(くそっ……!)」
 歯噛みする青藍にマキナの銃口が向けられる。青藍は咄嗟に八相へ構える。放たれる銀の弾丸。どこからでも来いと彼女は身構えるが、紙一重で國光が青藍を突き飛ばし、代わりにその弾丸を受けた。
「桜小路さん?」
「……いや、ちょっとハイカバーリングを試しておきたくてね。間に合うみたいで良かった」
『無茶をする。アレを一発ほど貰ったところで何の問題も無かった』
 アマツカゼの影からエイブラハムが声を発する。國光はそれに苦笑で応える。
「こっちの作戦でもあるので」
『むー、ミディアンハンター! 早くその実力を見せるのですよ!』
「またかいメテオ!?」
「……え」
 相当焦れているのか、メテオは青藍に発破をかける。青藍がその言葉に思わず立ち尽くしてしまったところに従魔が迫る。ノエルがすかさず割って入り、鮮やかに捻り上げる。
『行かんかさっさと。後詰はワシらに任せえ』
「祈り、願いは、人に癒しを与えるの。澪河さんも、巫女さんなら、わかる、ですよね? あの愚神の、悪用は、許しちゃいけない、です!」
 杏樹も叫ぶ。カグヤもカラカラ笑って指を差す。
「失敗しても骨は拾ってやるぞ。生きていればアイアンパンクにしてやる。胸にシリコンも入れてやるぞ。心配せずに行くがよい」
「一言余計ですよ! ……でも、ありがとうございます」
 青藍はアマツカゼを鞘に収め、一気に飛び出した。胸が温かい。背中を押してくれる仲間がいる。何よりもそれを実感した瞬間だった。
「征きます!」
 押し寄せる機械のものども。青藍は高く跳び上がると、義経の八艘飛びが如くそれらを踏み台にしながらマキナの左腕へと近づく。
「アマツカゼ! 我らが道を切り開け!」
 鋭い居合切り。残像さえ映したその切っ先は、マキナの関節を結ぶライヴスの糸を断ち切った。
「……!」
 マキナの左腕が土煙を上げて落ちる。マキナの驚きが波及したかのように、従魔が僅かに動きを止める。その瞬間をエージェント達は見逃さない。

『なるほど。その関節が弱いというわけじゃな』

 素早くノエルがマキナの懐に潜り込む。その鎌は既に関節の間に食い込んでいた。
『(私がエスコートいたします。御嬢様はただ敵だけを見つめてください)』
「人を誑かす、偽りの神に、天誅を!」
 杏樹は銃を引き抜き、右腕の関節を狙って撃ち放つ。同時にノエルも思い切り鎌を引き抜いた。二人の同時攻撃に耐え切れず、関節は外れて右腕が地面へと落ちる。
「……ぐ」
 両腕を失ってはただのカカシ、恨めしげにマキナは眼を明滅させる。二人を追撃しようと従僕達が迫るが、青藍とアイーシャが間に入って寄せ付けない。

「左腕が落ちた……それなら!」

 ニブルヘイムワンドを取り、イングリはマキナにその先を向ける。
「ノルマン冬将軍の恐ろしさを知りなさい!」
 放たれる氷を纏った銀色の弾丸。マキナの胸元に直撃し、みるみるうちにその身を霜と氷で包んでいく。
「私だってやれます!」
「……貴様……!」
 腕を失い抵抗もままならぬマキナ、歯車が凍りついて動きが鈍る。それにつられるかのように、従僕どもの動きもぎこちなくなっていく。

「ふむぅ……どうせならわらわが部位破壊でもしてやりたいところだったが……こうなっては仕方ないのう」

 カグヤは不満そうに口を尖らせつつ、武器をトゥオネラに持ち替える。
「銃と魔法の混合技術。そなたの銃にも劣るものではないぞ。しかと“その眼”に焼き付けてやろう」
 不敵な笑みを浮かべて引き金を引く。黒々とした魔弾がマキナの顔面に直撃する。魔から身を護る術を失ったマキナは、強力な魔弾の直撃で赤いモノアイが砕け散った。赤い硝子を撒き散らし、マキナは白煙を上げながらその場で仰け反る。覿面な効果を見て、カグヤは誘うような怪しい笑みを浮かべて銃を担ぐ。
「これはわらわからの挑戦状と受け取るがよい。わらわが勝ったら、おぬしはわらわの物になってもらうぞ」
「Serious, Damage……」

「おらおらー、一人ジェットストリームアタックであります」

 その隙に、美空がツインセイバーと速射砲を握りしめて猛追する。速射砲を突き出して牽制の銃撃、投げ捨てて身軽になった少女は一気に身を屈めて懐へと潜り込み、マキナの身に次々斬撃を加える。……が、ここは跳ね返されてしまった。一歩二歩と退き、武器を握りしめて美空は口を尖らせる。
「うににに……」
『(おい、気を付けな)』
 美空へ迫る従僕。だが、風を切る一発の弾丸が従僕の右腕を吹き飛ばす。佐千子の構える速射砲が紫煙をふかしていた。
『(Beautiful. 今のは的確な一撃だった)』
「はいはい、あンがと」
「先輩! 感謝するであります!」
「はいはい、だから気を付けろってンのよ」

「(よし、今なら!)」
 エージェントの一斉攻撃にマキナも従僕も翻弄されている。今こそ好機、國光が落ちた腕や肩を伝って飛び上がり、ライヴスの糸に向かって一閃を加えた。
「その正体、確かめさせてもらう!」
 糸が切れた瞬間、マキナはぐんにゃりと崩れ落ちた。従僕どもが、呆然とその場に立ち尽くす。その様を見つめ、美空はセイバーを弄びながら首を傾げる。
「やったか、であります」
『(おいばかやめろ)』
 R.A.Yが慌ててツッコミを入れた時、マキナはぐらぐらと震えだす。

「……旧き神を奉じ、新たなる希望の障害となる者よ。我らが裁きを受けてください」

「うわっ! 何だかヤバい感じです!」
 イングリが叫んだ瞬間、マキナの全身から鋭い光が放たれ、地面を割って青い雷が飛び出す。目にも止まらぬ速さで走る雷はエージェントに襲い掛かり、一瞬で彼らを弾き飛ばした。

「くっ……!」

「我はマキナ。旧き神の世に終幕を告げる、デウス・エクス・マキナなり」
 傷だらけで立つエージェント達を見下ろし、機械は酷薄に名乗る。全身から稲光を放つその胸の金網が開き、深紅のコアが露出する。そのまま鋼鉄の鎧はバラバラに崩れ、中から操り人形型の本体が現れた。バイザーに光る赤い目。杖に依って立ちながら、マキナは右手で周囲の従僕に合図を送る。
「我らはこの世界を作り変える。全てが一つ、一つが全ての、完全なる秩序へと……抗いたくば抗えばいい。我らの希望を、消し去ることは出来ないのですから」
 従僕とマキナは教会の中へと撤退していく。
「待つであります!」
 ふらつきながら、美空がマキナを追いかけようとする。しかしその腕を掴んでイングリが引き留めた。
「無理ですよ。……この消耗状態では、あの本拠に乗り込んでも勝てません」
「むむむ……」
 美空は共鳴を解き、ぺたりとその場に座り込む。地面が砕け、幾人もの信者が倒れる壮絶な戦いの跡を、彼女は目を見張って見つめるのだった。

●必ずや決着を
「癒しの舞、です」
 意識を失い倒れる信者の間に立ち、杏樹は扇を手にして緩やかに踊る。治癒の力を帯びたライヴスが、信者達の中に降り注いでいく。それを横目に、アイーシャとイングリは杏樹から渡されたヒールアンプルやら何やらで自らの傷を癒やしていた。カグヤも寄ってきて、二人に同じく回復用の道具を差し出す。
「すまんのう。皆々傷だらけでな。応急処置もままならぬ。こいつで我慢してくれんか」
「……いいのですか? というより、あなたもあの雷を受けたのでは……」
 イングリは手のひらに転がる賢者の欠片を見つめ、カグヤに尋ねる。振り返ると、彼女は妖艶に微笑み手をひらひらさせる。
「くふふふ。あの程度何の問題もないわ。重ねた場数が違うからのう」
 言いながら、雷で全身のパーツに不調を来してしまっている佐千子の側へと向かう。リタ、そして美空とR.A.Yに囲まれ簡易のメンテナンスを受けていた。
「佐千子はそうもいかんか。固定砲台はロマンがあってよかったんじゃがのう」
『アンジュの援護を受けていたが、攻撃は受けるがままだったからな。見事にボロボロだ』
「うるさいわね……生きてンだからそれでいいのよ」
 リタの淡々とした報告を横で聞き、佐千子は不満そうに溜め息をつく。そこへ國光とメテオもやってきた。
「カグヤさん、鬼灯さん、あの愚神、遠目には何か変わったところはありましたか」
『近くにいてはわからない事も、遠くからならわかると思うのです』
 共鳴を解き、外に現れたクーは困ったように首を傾げた。
『何か変わったところ……? 全部変わってるからなあ、アレ』
「真面目に答えんか。そうじゃのう。おぬしも気づいているじゃろうが、糸をおぬしが断ち切った時、マキナが崩れ落ちただけでなく、従僕どもも動きを止めておったわ。もしかすると、あの糸は従僕を操るためのライヴスを何らかの形で放っておるのかもしれんな」
「なるほど……」
『画一的な装備を作る時の弱みだな。一つの欠陥で全てが崩壊する……無論、アレは本質的には戦うための装備ではないのかもしれないが』
 リタは腕組みしつつ、倒れた信者達を見渡す。國光も彼女の視線の先を見つめる。本物の右腕を永遠に失った、哀れな信者達を。彼らは一体何を思い、機械に身をやつすことを選ぼうとしたのだろう。國光は理解する気になれなかった。
「基本的には支配するための装置なんでしょう。全てを纏めて統御する。それがアレの目的なわけですから」
「ったく。好きで機械になろうとする奴の気が知れないわね……」

「やれやれ。手ひどくやられたか。問題は無いか澪河」
 崩れた塀にもたれ、要塞のようにそびえる教会を見上げる青藍の側により、メタは尋ねる。青藍は小さく頷き、何とか微笑んでみせた。
「まあ、休めば何とかなりますよ」
 隣に立っていた美空は青藍とメタに向かって敬礼する。隣のR.A.Yはだるそうに座り込んでいるが。
「今日のところは相手を撤退に追い込んだという事で勝利なのであります。態勢を整えて、直ぐに追撃するのでありますよ」
『急き過ぎだ。ちったあ休んだっていいだろ。暴れる時にゃあ全力出せなきゃつまらねえからな』
『そうじゃな。片手落ちで勝てる相手でもない。この度得られた情報、一度精査してからでも遅くはあるまいて』
『ええ。その通りです。少なくとも、これであの愚神の全力は引き出すことが出来たと言っていいでしょう』
 治療を終え、やってきた守が小さく頷く。杏樹もまた、意気込んでガッツポーズを作った。
「今度こそ、倒して、みせるの」
「……ええ。そうですね。今度こそ、必ず」

 次こそは愚かなる神に鉄槌を下す。マキナ教団との決戦の刻が迫っていた。



 Continue to “Deus ex Machina”

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 悪の暗黒頭巾
    R.A.Yaa4136hero002
    英雄|18才|女性|カオ
  • 知られざる任務遂行者
    イングリ・ランプランドaa4692
    人間|24才|女性|生命



  • エージェント
    T.R.H.アイーシャaa4774
    機械|16才|女性|攻撃



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