本部

クリスマス関連シナリオ

【聖夜】逃亡者とナマハゲとクリスマス

落花生

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/12/25 15:14

掲示板

オープニング

●働きたいんです、勝つために。
『英雄だけで参加できる、依頼はないだろうか?』
 HOPEの支部にやってきたアルメイヤは、考える人のポーズで受付に尋ねた。こっそり支部内で「友達ナイメイヤ」というあだ名で呼ばれているとも知らず、今日も彼女は奇妙な相談事を受け付けにする。
「そんな依頼はないですね。第一、契約者だけでも英雄だけでも十分に戦えないでしょうが」
 金欠ですか? と尋ねられて、アルメイヤはきっぱりと答える。
『違う。エステルにクリスマスプレゼントを買ってやりたいんだ。だが、今私の手元にあるのはエステルと二人で稼いだ金だけ……。これでプレゼントを購入するのは、違うような気がする。だから、単身で戦える仕事を紹介してくれ』
 どうやら、アルメイヤのなかで「仕事=戦う」という図式ができているらしい。
「あー……戦うわけじゃないんですけどありますよ、仕事。まぁ、従魔退治に巻き込まれてアルバイト店員が全員逃げ出した店の手伝いなんですけど」
 とどのつまり、他の依頼のアフターケアである。
「繁忙期だけ手伝ってほしいという話ですし、比較的簡単な仕事ではあると思いますよ。給料は良いとは言えませんけど」
『それでいい!』
 アルメイヤは、即決した。
「でも、いいんですか……? この仕事は、決してあなたがやっているとバレてはいけないんですよ。子供たちの夢を壊さないために」
『むっ。まさか、噂に名高いサンタクロースに扮してケーキを売る仕事か』
 全然違います、と職員は答えた。

●クリスマスに一人ぼっちだなんて
「アルメイヤ……今日も遅くなるんだ」
 支部に来ていたエステルは、ぼそりとつぶやいた。
 本日は簡単な事務手続きのために来たのだが、彼女の隣にアルメイヤの姿はない。
 このところアルメイヤは、エステルに隠れてコソコソなにかをやっている。帰ってくるのも夜遅くだ。
「もしかしたら、デートなのでしょうか……」
 だとしたら、クリスマスの夜に連絡を取ろうとするのは野暮だ。エステルにできることと言えば、アルメイヤの帰りを静かに待つことだけだろう。
「今日中にプレゼントを渡せればいいなぁ」
 デパートで選んだチャームビーズ。
 これをアルメイヤに渡して、驚く顔を見てみたいような気がする。
「エステルー! 暇だったら、これからクリスマスパーティーに飛び入り参加していかない? ちょっと面白い店を見つけたんだ」
 とあるリンカーが、そんなふうにエステルに声をかけた。

●ナマハゲ
「悪い子はいねぇかー!!」
 エステルたちが入った居酒屋には、ナマハゲがいた。
 秋田の名物である、アレである。
「この店は、秋田名物がそろってるんだって。しかも、この時期だけはナマハゲが接客してくれるの」
「そうなんですか……。あれって、悪魔?」
 初めて見るナマハゲに、エステルは目を丸くする。
 人生で初めて見るナマハゲは、子供たちがいるテーブルによってきては「悪い子はいねぇかー!」と脅して回っている。その様子を見たエステルは、ナマハゲを「子供に教訓を学ばせるための守り神」なのだろう、と考えた。
「居酒屋だけどナマハゲがうけて家族連れもいっぱいくるし、子供も過ごしやすいだろ?」
「そうですね……」
 騒がしいのは少し苦手だが、アルメイヤのいない今日だけは少しだけ安心するかもしれない。

●お仕事してました
『エッ……エステル?』
 店の裏側で、アルメイヤは混乱していた。
『なんで、居酒屋に来てるんだ?』
 アルメイヤのアルバイト――それは、ナマハゲだった。
 正確には、ナマハゲに扮しての接客である。
『くっ。ここでエステルにバレたら、こっそりプレゼント作戦が――』
「アルメイヤちゃん、早く仕事に戻ってね」

●店内は大混乱
 店の端っこに、愚神がいた。
 この愚神は酔っていた。
「ナマハゲか……。一地方の神様がいきがりやがって」
 別にナマハゲに恨みがあるわけでもないし、秋田に行ったこともない愚神であった。しかし、酔っていると気が大きくなって関係ないものに喧嘩を売りたくなる。
 酔っ払いとはそういうものである。
「見てろよ」
 愚神が「ふふふ」と笑みを漏らす。
 その後ろで「きゃー、ナマハゲの衣装が勝手に動き出したわ!」という悲鳴が聞こえてきた。

解説

・居酒屋に現れた愚神および従魔を退治してください。
※本来ならばリンカーは酔っぱらいませんが、このシナリオではクリスマスの雰囲気で酔った気分になっています。そのため、未成年でも酔っぱらいます。

・店……「居酒屋 秋田」秋田の名物と地酒とナマハゲが名物。現在は夜七時のため、客はファミリー層が多め。個室などの区切りはない。客は大人が十名。子供が五名。敵が出現すると大人たちは、子供を抱えて避難しようとする。

・従魔
ナマハゲ仮面――ナマハゲの面の部分。客・PLにかかわらず子供の顔に張り付いて、操ろうとする。なお、操られたところで戦闘能力などはアップしない。攻撃を食らうと、次の標的へ飛び移ろうとする。三体出現。

ナマハゲ草履――すごいスピードで飛んでくる草履。人の顔ほどの大きさであり、どこから飛んでくるのかは予測が難しい。仮面の行動をサポートするように飛んでくる傾向がある。
四足分出現。

ナマハゲ包丁――出刃包丁。リンカーを狙って飛んでくる。切れ味は最高であり、少しふれただけでも怪我をする。八体出現。

完全体ナマハゲ――店の店主が上記の従魔全部に襲われた結果。操られた店主に意識はなく、上記従魔がすべて討伐されると現れる。一撃でも攻撃を食らうと、再びバラバラになってエステルに取りつこうとする。

愚神――完全体ナマハゲが出現すると登場。酔っぱらいながらアルバイトのナマハゲを人質に取ろうとするが、数分もすると吐き気を催してしまう。

エステル……クリスマスなのに一人なので、少しさびしい。アルメイヤに渡すために、クリスマスプレゼントを持ってきている。酔っぱらうとアルメイヤに対して愚痴(過保護、心配性)や自分に対して愚痴(力のない子供なのが嫌だ)を言い始める。

アルメイヤ……バイト中。ナマハゲの扮しており、正体がばれないように接客している。エステルが狙われそうになると、全身全霊でかばおうとする。

リプレイ

●犯行理由:宴が盛り上がりすぎた
「悪い子はいねぇがー!」
 店の暖簾をくぐれば、そこは親子連れでも安心してくつろぐことができるアットホームな雰囲気の居酒屋『秋田』。現在ナマハゲが、全力で接客中である。
「地方で崇められる神か。一度消え去ったものは元には戻らない。こういった風習は守られねばならないな……」
 席に座ったHeinrich Ulrich(aa4704)は、興味深そうにナマハゲを見つめていた。普段から古典に触れている彼にとっては、ナマハゲにも古代の香りを感じているのかもしれない。
「地元のアットホーム感満載の居酒屋見つけちまった。おっ、いぶりがっこもあるぞ」
『美味しいものあるかなー』
 迅野 雷牙(aa3603)と鳴瑠・ローズブレイド(aa3603hero001)は仲良くメニューを見ながら、ドリンクや料理を注文していた。
「おっ。あっちの鍋も美味そうだな」
 涎が出そうになるほど良い匂いを嗅ぎ取ったリオン クロフォード(aa3237hero001)は思わず舌なめずりをする。
「もう、リオンたらお行儀悪いよ。でも、本当に美味しそう」
 藤咲 仁菜(aa3237)も思わず目を奪われる。
「むっ。誰かに見られている気配する」
 鶏肉の旨みが染み出たスープを吸ったきりたんぽを咥えながら、ヴァイオレット メタボリック(aa0584)は目を光らせた。
「二人で五人前の鍋を食べておるからじゃ。しかし、そのきりたんぽは煮過ぎではないかのう?」
ノエル メイフィールド(aa0584hero001)は箸でつまめば崩れるほどに煮られたきりたんぽに「食べにくいのう」と漏らす。
「いやいや、最初のスープを弾くような堅めの触感も物珍しくてよかったけど――味がしっかりと染みた方がスープとの一体感を感じるんだ」
 米で米が進む、とヴァイオレットは幸せそうに日本酒を空ける。ちなみに、先ほどヴァイオレットにクリスマスプレゼントとしてもらったどぶろくはしっかり袋に入れてあった。
「飲んで食べて、大いにクリスマスを楽しもう。そのために居るのだし」
『お主もな。腕相撲で勝てなかったら、半額で食えんかったんじゃし』
「この姿だからか、強制的に参加させられたのだが……食券が商品でな。火がついてしまった」
『その体型は気に入ってしまったなら良いが、体は壊すでないそ』
 ちびちびとノエルは、日本酒を口に運ぶ。辛口の日本酒はキレが良く、鶏肉の甘い油を引き締める。確かに、これは止まらない組み合わせである。
「こっちも注文しようぜ、きりたんぽ鍋」
『ええ、とても美味しそうですわ』
 赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は、日本酒ときりたんぽ鍋を早速注文していた。美味しいものは伝染するのだ。
「きりたんぽに日本酒か~。大人はいいよね」
 内田 真奈美(aa4699)は、ちらちらと数少ないオシャレなカクテルの名前に目移りする。マンハッタンとか何が出てくるかよく分からない、とりあえずカッコいい。真奈美は大人になった自分がカッコよくきりたんぽ鍋とマンハッタンを注文するところを想像した。
「……あれ、よく考えるとこれってあんまりカッコよくないよね!?」
 とりあえず、モテそうではない。
「……で、如何して俺達は此処にいるんだ?」
 お冷で喉を潤しながら八朔 カゲリ(aa0098)は、ため息をついた。仲間と飯屋にいくのは良いのだが、こんな騒がしい店だとは聞いていない。
『決まっておろう、暇だったからだ』
 店がここであったことを黙っていたナラカ(aa0098hero001)は、ぺろりと舌を出す。
「……だったら、お前だけで行けば良い物を」
『そう言うな、時には汝にも休息は必要だろうて。遊興の一つでも楽しんでみれば良いよ』
 あちらのように、とナラカはとある二人組を指差した。
 魅霊(aa1456)とR.I.P.(aa1456hero001)は、その楽しんでいる二人組の近くに座っていた。普段は冷静な魅霊だったが、そのときはどうすればよいのか分からなかった。ちなみに自分より人生経験が豊富であろうR.I.P.は『あら、薄着だから風邪をひかないように気をつけて』とやや間違った方向の心配をしている。
「ふふーふ、今日のために特別にあつらえた秋田バージョン衣装にへ・ん・し・ん!」
 木霊・C・リュカ(aa0068)は着ていたコートを、ばっと脱ぎ捨てた。下から現れたのは膝丈で切られた、女物の浴衣である。まるで女児が着るような浴衣には、ところどころフリルが貼り付けてある。見る人が見れば「あのアニメの改造衣装ね」と分かる、コスプレであった。
「正義の戦士・プリホワイト、装いも新たに参上!」
『愛の戦士・プリブラック、同じく新衣装で登場だぜ!』
 ガルー・A・A(aa0076hero001)もコートを脱ぎ捨てる。現れたのは裾が短く切られた浴衣。下地は黒だが赤いバラの模様が印刷された、今風のデザインだ。だが、ガルーのサイズにはいまいちあっていないらしくピチピチだった。たぶん、採寸の段階で色々と間違ったのだろう。
『脱げ、早く脱げ……』
「ああーもう。またそんなもの持ち込んで!! それを渡しなさいガルー!!」
 紫 征四郎(aa0076)は相棒に向かって怒りだし、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は全力で呪詛を送っていた。
「うわぁぁーん、あたじのしってるぷりぷりじゃなーい」
 近くの席でさっきまでご機嫌だった女児が泣き出す。
 母親が周囲に謝りながら、足早に会計を済ませて帰って行った。実は本日は泣き出した女児の誕生日で、親一人子一人の誕生会の真っ最中だったりしたのだ。
 ――さような、母との思い出。
『リーヴィったら脱がすだなんて! はれんち! でも今日はそんなリーヴィに渡したいものがあるの……』
 裏声でしゃべりだした大人にうんざりする、オリヴィエ。
 どうして、ダメな大人って絶滅しないんだろう。
 ガルーが取り出したのは、ネコミミが付いた魔法少女の衣装だった。
『さあ! 私たちと一緒に戦ってちょうだい!』
 オリヴィエは怒りのままに、衣装を投げ捨てた。
『はっ! このままでは私たちの鍋に魔法少女の衣装が!!』
 鍋を食していたヴァルトラウテの言葉に、酒に酔った龍哉の目がきらーんと光った。
「鍋の安全は俺が守る! 赤城の流儀は波涛の如く。大波小波、時には津波。寄せては返し、変幻自在に穿ち、突き、崩すぜ!!」
 龍哉は全力で、魔法少女の衣装を殴った。
 たぶん、酔っぱらっていたせいであろう。
「あーん、お兄ちゃんが魔法少女ミミちゃんのお洋服をぼろぼろにしちゃったー! もうミミちゃんが悪者と戦えないよ!!」
 それを見ていた子供が大泣きし、バイトのナマハゲが思わず子供をあやす。他のお客様の迷惑にならないようにとの判断だが、ナマハゲの仮面では逆効果だ。
「こんたんめさげっこのんだなしばらくだぁ……」
 ふわふわと幸せな気分になりながら雷牙は、杯を開けていく。
『そこのおねーさん一緒に飲もーよー。えへへ 』
 鳴瑠は、子供をあやして女性定員に抱き着いた。その拍子にナマハゲの仮面が落ちて、店員の素顔がさらされる。子供は、きょとんとしていた。
「あれ……もしかしてナマハゲって大人が入っているだけなの。それじゃあ、もしかしてサンタも?」
 さようなら――子供のためのサンタクロース。
「えへへへ。こんなに騒ぎになってるなら、一口ぐらい飲んでもバレないよね?」
 真奈美は、こそこそと隣の大人のグラスに手を伸ばす。
 だが、怖い店員に一睨みされてあわてて手を引っ込めた。
 ストップ――未成年の飲酒。
「ほう、ナマハゲとは狭い地域の伝統ですが……集落によって仮面の形状が微妙に異なるバリエーションに富んだ脅し鬼なのでね」
 メモ帳を片手にHeinrichは、ナマハゲにナマハゲのことを聞き出していた。研究者の血がうずいて居ても立ってもいられなくなったのだろうが、ナマハゲとしては困った状況である。しかも相手は、紳士的な外国人だから無碍にはできない。
「不幸があった家や病人のいる家には入らず、ナマハゲが残した藁は無病息災を祈ることにも使われるのですね。……家の主人とその年の収穫の問答までするのですか? はぁ、まさに土地に根付いた神ですね。様々な側面がある」
 メモを取るHeinrichは、実に楽しそうであった。
 ナマハゲの方は、長々と外国人に親切にしていたせいか子供たちに「このナマハゲ、怖くないぞー」「よわっちいぞ」と蹴りを入れられていた。
 さようなら――ナマハゲの恐怖。
「す……すごく盛りあがってますよね」
 あのテンションにはついていけそうにない、と魅霊は暖かなお茶を一口。実はさっきからエステルの口数が少ないことが気にかかっているが、なかなかとっかかりが作れない魅霊だった。周囲が盛り上がれば盛り上がるほどに、声をかけるチャンスを逃してしまう。
『あら、せっかくだから楽しみましょう。でも、魅霊ちゃんは雰囲気だけだとまだ固くなりがちでしょうし……。そうだ、アルスマギカを頭に乗せたら正直になるんだったわね。うふふ……今日は無礼講でいきましょうね♪』
 ほんのり顔を赤くして、R.I.P.はポンと魅霊の頭に極獄宝典を乗せる。
「アール、これは……」
『はい、落ちないようにきゅっとね』
 ほろ酔いらしいR.I.P.は上機嫌だが、魅霊は気が気ではない。これってたしか、持っているとよくないことがおこったような……。
「アルメイヤはなんであんなに私のことを心配するのでしょうか……やっぱり私が子供のせいなんでしょか? だとしたら、力のない子供でいることは嫌です」
 ジュース片手に、エステルがぽつりとつぶやく。
 魅霊は何故か猛烈に悲しくなって、アツアツのお茶を一気飲みした。
「エステルさん、違うんです。心配しすぎと言われても困るんですっ! アルメイヤはエステルが一番大事だから出来る事をやらなきゃって思うのであって! 出来る事が少ないだけで、それでもなんとかしたくてしょうがないんですから!」
 「お茶じゃ足りない、オレンジジュース追加」と魅霊は店員に声をかける。お茶のなにが足りなかったのかは不明である。
「私だって、姉さんの力になりたいと思っていろいろ試行錯誤してるんです! でも私ができることなんて、ただ従魔や愚神を殺せるだけ。いざやってみれば、力になるどころか姉さんの負担を増やすばかり……。こんなことじゃダメなのに、更に否定されたら何もできない。一体どうしろっていうの?」
 うわーん、と泣き出してしまった魅霊にエステルは驚きつつも「お水を飲んでください、お水」とお冷を進めた。
『あらあら、泣き上戸だったみたいね』
 大丈夫よ、とR.I.P.はハンカチで魅霊の涙をぬぐう。
「ひぃ! 違います。この子はお酒なんて飲んでませんよ。この頭に乗せてる本が、ちょっと人を酔わせちゃう性質なんですよ!!」
 未成年の飲酒を店員に疑われて真奈美は、必死に弁明する。なまじ周囲の未成年組が幼いだけに、店員から「おまえ、飲ませてないよな」と睨まれるのが色々と辛い。自分だって、女の子。これを機に恋バナをひっかきまわしたいのに、ひっかきまわすような隙がない。
「わぁ~エステルさん、お買い物以来ですねー! プレゼント喜んで貰えました?」
 仁菜はきゃっきゃと飲み物を持って、移動してくる。
 もちろん、リオンも一緒であった。
「過保護は悪くないですよね!」
 泣いていたはずの魅霊が突然、仁菜に詰め寄る。だが、顔は未だに涙でぐしゃぐしゃだった。
「過保護ですかー。うちのリオンだって、一人で出歩くなとか、男の人はオオカミだとか! 訳わかんないこと言ってー!」
『いや、それはニーナが……!』
「リオンは黙ってて」
 女の子三人の目が、今は男の子禁制と言っている。
 実はカゲリも近くの席で飲んでいたのだが、いかにも「これから女子会が始まりまります」という雰囲気に口をはさめないでいた。
『言いたいことがあるのならば、言ってきたらどうだ?』
 ナラカの言葉に、カゲリは「正気か?」と返す。
 今ここで行われているのは、理性と理屈が通じない話し合い。正しいことを言ったら睨まれるという恐ろしい女子会なのである。現に、リオンは早々に追い出されている。
「なにかを改めることは、自分で決めることだ。他人から言って、直るものでもない。……力のなさを嘆くなら、力を得るべく駆け抜けるしかない」
『たしかに、そんな正論を言ったら女子会からはたたき出されるか。覚者も少しはこの場を楽しむがよい。正しいばかりでは肩もこる』
 ナラカは、にやにやと笑っていた。
 一方で、女子会から物理的に距離をとって逃げた少年もいた。
 女の子の集団が怖いと思いながら、飲み物片手にリオンは真奈美の隣に座る。
『そりゃあ俺だって、過保護かなと思う時もあるけど! ニーナは危なっかしいし! 自分を犠牲にしても~みたいな考え方するから! 俺としては守らなくちゃって思うわけで!』
 わーん、とリオンも泣き出す。
 恋バナまざりたいのにな、と真奈美は思った。
「本当に、未成年に酒を飲ませてないんだな!」
「本当に、違いますから! 信じられないけど、ジュースでこうなってるんです!!」
 真奈美は店員に必死に「ノンアルコールです」と説明する。
「というか、誰だ。この子に酒飲ませたのは」
『もしかしたら雰囲気に酔っている可能性も……いえ、本音が出てる辺り本当に酔っているかもしれませんわね』
 最近の未成年は怖いもんだと本物の酒を飲む、龍哉とヴァルトラウテ。共に成人済みなので、思う存分に酒を楽しんでいる。
「なんだべ、なんだべ? コメの話か?」
 酔っぱらってお国言葉が隠せていない雷牙が、リオンに近づく。
「迅野君、リオン君はお酒を飲んでないですよね」
 年上が現れたことを幸いに、真奈美はリオンのことを雷牙に押し付けようとする。
「東北はええところだべ。コメはうめぇし、おなごはめんこいし」
『いやーん、本当のこと言わないでよ』
 酒で真っ赤になりながら、鳴瑠は雷牙の背中をばしばしと叩く。
「いや、鳴瑠は東北のおなごじゃねーべした」
 けたけたと笑いだす鳴瑠と雷牙は完全に酔っ払いだ。
「きゃー、ナマハゲの仮面が飛んできたわ!」
 店の奥から店員の悲鳴が聞こえてくる。
「ん……なんの騒ぎだ?」
『店がさわがしいが、なにかあったか』
 飛び交うナマハゲの仮面を見たカゲリは、とりあえずナラカと共鳴する。
「人を操るタイプの従魔か。楽しい宴が台無しではないか」
 ナラカは、ぷんぷんと怒っていた。
「覚者もそうであろう?」
「……」
 カゲリは答えない。
「この年の瀬に、狙ったように出て来るとはな」
 龍哉は、残っていた日本酒をくいっと飲み干す。
『愚神も従魔もどこにでも沸く以上、止むを得ませんわ』
 ヴァルトラウテも残っていたレモンサワーをごくりと飲み干す。
「違うんです。あの人たちは、成人済みです!!」
 店員に未成年ではと睨まれた真奈美は、必死に説明する。一方で未成年に間違われたヴァルトラウテは「あら」とちょっと嬉しそうである。女は少しだって、若く見られたいものなのだ。
「ともあれ片付ける。行くぞ」
「気を付けるべ。ほうじょがくっぞ、ほいじょが!」
 お国言葉が抜けない雷牙に、龍哉は一瞬戸惑った。
「ほいじょってなんだ!」
「ほいじょは、ほいじょだべした!」
 雷牙は、剣でかっきーんと包丁を打ち返す。その様子を見ていた龍哉は「包丁のことかよ」と肩を落とした。ちなみに、包丁は壁に飾られていた実際に祭りに使われているナマハゲの仮面に突き刺り、ぱっくりと割れた。様々な子供たちを泣かせてきたナマハゲの人生が終わった瞬間であった。
 さようなら――ナマハゲ。
「店員さんとお客さんは外に逃げてください! ここは、私たちリンカーが何とかします!!」
 仁菜は、リオンを呼んだ。
「わーん! ニーナに嫌われた!!」
 リオンは、まだ泣き上戸をやっていた。
 珍しく泣きじゃくるリオンの姿に、仁菜は若干戸惑う。
「えっと、リオン、私凄い愚痴ってたけど……。リオンの事、嫌いなわけじゃないからね?」
 自分がプレゼントしたブレスレットずっとつけていてくれる彼のことは、本当に嫌いではないのだ。むしろ、たぶんだけど――。
『――俺の相棒、超可愛い』
 ぼそり、とリオンは呟く。
 その言葉に仁菜は、顔を真っ赤にした。
「ああもう! こんな時に話の腰を折るのは誰!?」
 一方で、こちらは泣き上戸から怒り上戸にシフトチェンジしてしまった魅霊である。
「愚神? 従魔? 関係あるか!エステルと私の時間を邪魔するんなら、なんだって叩っ斬ってやる!!」
『あらあら、ちょっと頭に血が上っちゃっているみたいね』
 ほのぼのとしたR.I.P.の言葉とは裏腹に、魅霊は「おりゃ、おりゃ」と草履を切り刻んでいた。
「エステルちゃん、近くに英雄がいない君が一番危ない。はやく一緒にぷりぷりするよ!」
「はい!……えっ!?」
 リュカの言葉に、エステルは戸惑う。
 オリヴィエは無言で、ふるふると首を振っていた。
 どうか、相手にしないでください。
『大丈夫よ。愛と正義の力を味方にして、ぷりぷりするのよ』
 ガルーの女言葉も抜けない。
「まったく、ガルーはいつもああなのです。征四郎もたまには静かにしっとり飲みたいのです。レディの気持ち何にもわかってないのです……」
 征四郎は、はぁとため息をついた。
 征四郎には、エステルの気持ちが痛いほどに分かった。征四郎も子供である。それは時が解決するしかない問題で、大人たちが征四郎を守ることだって多々ある。それでも、征四郎は皆の隣に立てる存在でありたいのだ。
 だが、こういう衣装を持ち込むガルーの気持ちは分からない。
「征四郎は絶対こんな格好で出ませんからね! 真面目に戦ってくださいよ!」
『えー良いじゃん。可愛いのにぃ』
 思いっきり暴れてやるかと征四郎と共鳴したガルーは、大股で一歩踏み出した。
 ばんっ、と大きな足音が響き、次の瞬間に――ビリっと衣装が破れた。
 適当な採寸が、色々と耐えきれなかったのだろう。
「おっ、良いカラダだなぁ」
『健康そうじゃのう』
 人生の酸いも甘いも吸い尽くしたヴァイオレットとノエルは、思わず拝みだす。年の瀬に良いものをみた。なんとなくだが、来年も健康に過ごせそう。
「父と子と精霊の名において命ずる、銀の魔弾によりでキリストのちまたから立ち去れ! うわぁぁ、この攻撃は思ったより私に効く!?」
 一方で、いきなりの全裸にあたふたする者もいた。
 真奈美である。
 高校生には、ちょっと刺激が強かったらしい。
『ニーナ、今振りむいたら駄目だ。絶対に振り向いたら駄目なんだ!!』
 リオンも色々と必死であった。
『おっ。裸踊りとは体を張った宴会芸。さすが、というところか』
 ナラカは楽しそうだが、カゲリは頭が痛くなった。
「……不慮の事故だろう」
 完全体のナマハゲが現れるも、ほぼ全裸なガルーがいるせいでどちらが敵なのか変質者なのかがよくわからない。
「迷惑の根源は……どっちだ」
『見敵必殺ですわ。慈悲はありません』
 ヴァルトラウテの殺意もどちらに向いているものなのか、判断がつかないところが余計に恐ろしい。
「きゃぁぁぁ!!」
 絹を裂くような悲鳴を響いた。
 全裸でも果敢に戦っていたガルーを見てしまったエステルが、泡を吹いて気絶したのであった。
『これだから、忘年会シーズンは嫌なんだ……』
「ガルーちゃん。忘年会シーズンで商品が品薄だったから、思わず自分のサイズよりもワンサイズ下を買っちゃってたよね……? ああ、それがこんな悲劇を招くなんて」
 オリヴィエは、ガルーに狙いをつける。
 リュカは、合唱していた。
『俺様、下着ははいてるって! ちょっと角度的に履いてないように見えたときもあったけど、はいてたって!!』
「それ、何年前に流行ったギャグでしょうか? 安心できないです!!」
 征四郎の目も冷たい。
「エステル君、エステル君! 大丈夫ですか!?」
 Heinrichはエステルの頬を軽く叩いてみるも、人生初の男性の全裸(もどき)のショックにエステルの意識は戻らない。
「あれ、避難してないナマハゲがいるみたい」
『ニーナ、たのむからずっとそっちを見ていてくれ……本当だ』
 店の奥で気絶したエスエルを心配そうに見つめるナマハゲがいる。こちらを攻撃してくる気配はないから、おそらくは店員が扮したものなのだろう。そのナマハゲは、意を決したようにエステルの側に駆け寄った。
「くっ。まだ、仲間がいたのですね。逃げぬ……Heinrichは逃げぬぞ!」
 Heinrichに敵だと勘違いされた。
「そのナマハゲ、様子がおかしいべ」
『攻撃してくる気配がないですよね?』
 雷牙と鳴瑠に後押しされて、ナマハゲは仮面を脱いだ。
『私は、アルメイヤ。エステルの英雄だ。ここのバイトをしていて……一番危ない時にエステルの側にいられなかった――私は何のために』
 光景するようなアルメイヤの言葉に、リオンはあきれた。
『エステルちゃんを寂しがらせちゃダメでしょー。クリスマスプレゼントを渡したがってたのに。まぁ、動いて疲れたでしょ? 今は戦うのは俺たちに任せてエステルちゃんの所に行ってあげてください』
 アルメイヤは気を失った、エステルの手を握る。
 気絶したエステルが持っていたのは、小さな包み紙。
『これは……もしかして』
 自分へのプレゼントだったのだろうか。
「おまえたち、こちらを見ろ!!」
 大声に振り向けば、そこには包丁をもった愚神。
 アルバイトのナマハゲを人質にとって、叫んでいた。
「一地方の神がいい気になりやがって……ぐはぁ!」
 愚神は、地面に伏した。
 そして、そのまま嘔吐する。
『なにがやりたかったんじゃろうか?』
 ノエルは首をかしげる。
「暴飲暴食はいけないということだろう。適切な量な酒、適切な量の飯。その二つを心掛けないと、この愚神のようにおえっとなってしまうのだな」
 とてもいっぱい食べていたヴァイオレットが言っても、説得力がない。
 いや、彼女は吐くまで飲酒はしないであろうが。
『おぬしも気を付けるのじゃ』
「……まだ、食べ足りないのにか?」
 ヴァイオレットの言葉に、さすがのノエルも絶句した。さっききりたんぽ五人前食べたし、そのあとに稲庭うどん三人前食べて、抹茶アイスとフライドポテトを食べていたのに!
「あっ。俺、良い店を知ってるんだ」
 ようやくお国言葉が抜けた雷牙が、飲み足りない大人たちを二次会へと誘い出す。
「そこは何が美味しいのだ? 煮た鶏肉は十分に堪能したから、今度は揚げた鶏肉がいいのだが」
 ヴァイオレットは、きらーんと目を輝かせる。
『好きにするのじゃ……ワシはどぶろくを飲んでおる』
 そのどぶろくって、さっきの戦闘でシェイクされてなかったっけと言いかけてヴァイオレットは止めた。うん、知らないふりをした方が面白そう。
『う~ん、魅霊ちゃんはそろそろ限界みたいね。それにしても、魅霊ちゃん。アルメイヤさんに共感してるのかしら? きっと守りたい人がいる武人、というところで親近感を覚えているのね』
 泣いたり怒ったりして疲れたのだろう魅霊は、R.I.P.の側でうとうとし始めていた。時計を見れば、もう午後9時。大人はいいが、子供はお家に帰る時間である。
『アルメイヤさん。よかったら、このあと一緒にどうでしょうか?』
『ガルー……待て』
 同じ男のよしみでせめて止めてやったオリヴィエを振り切って、情熱的にアルメイヤに話しかけた。その場にいた全員が、ガルーの無謀さに全員が驚いた。
 思い出してほしい――今のガルーの恰好を。

(ほぼ)全裸。

●明日、誰かが迎えに行ってくれるはず
「覚悟を決めて、意志のままに歩み出す。言葉にすれば難しい話ではなく、然し何より難しい事だ」
 カゲリは語る。
『覚悟と意思のう。たしかに、あったように見えたのう』
 女を口説きたいという意思が。
「……先の答えが付随しただけだ。そうした枠に収まってしまっただけ」
『動機に目撃者、なにより本人の恰好がいけなかったのう』
 仲間の面々に客やアルバイトの店員全員の目撃証言もあったのだから言い逃れができないし、なにせ本人の恰好が悪かった。
「逃げた所で、碌な事にはならない」
『たしかに警察から逃げるのは厄介か』
 こんなことでお尋ね者になるものな、とナラカは呟く。
「まさか……愚神退治の後に警察を呼ばれるとは思わなかった」
『事情が事情だ。明日になって事情を説明すれば、罪には問われまい』

 ガルー・A・Aは酒に酔って(ほぼ)全裸だったせいで、一晩留置場にお泊りとなった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    R.I.P.aa1456hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • エージェント
    迅野 雷牙aa3603
    機械|22才|男性|防御
  • エージェント
    鳴瑠・ローズブレイドaa3603hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
  • エージェント
    内田 真奈美aa4699
    人間|17才|女性|生命



  • エージェント
    Heinrich Ulrichaa4704
    人間|68才|男性|防御



前に戻る
ページトップへ戻る