本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】雪中の偵察劇

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/12/19 17:26

掲示板

オープニング

●先遣隊
「気づかれたか!?」
 吹雪のなかで、リンカーが叫ぶ。
 酷い吹雪のせいで、ゴーグルをつけているにも関わらず視界はあまり役に立たない。本日はシベリア各地に出現したドロップゾーンの観察のために、彼らはこの地に足を踏み入れたのだ。戦闘能力よりも雪に慣れている地域のものが選ばれての調査は、HOPEの科学部の肝入りであった。
「おそらく、まだです」
「それにしても、愚神を撃破せずにドロップゾーンの内部を調査しろだなんて」
 随分とやっかいな仕事を押し付けてくれたものである、と一向の隊長はため息をつく。いくら雪に慣れている者中心といっても、ドロックゾーンの外も内も大雪である。ただ寒いだけではなく風も強く、視界はほとんど効かない状態であった。だが、そこはさすがに雪になれた集団。隠れる物が少ない中でも、白い服をまとって愚神に気づかれないよう進軍していた。
「隊長。全員が、DTポットの設置予定地につきました」
「よし、設置後に撤退する」
 愚神を退治すれば、ドロップゾーンは消滅してしまう。そのため愚神を倒すわけにはいかず、愚神にもこれが調査であると気づかれるわけにはいかなかった。DTポットは設置するだけで、ドロップゾーンの情報をわずかな時間ではあるが外へと送信できる。このポットをできるだけ多く設置することが、作戦の肝である。
「待ってください。念のため、専用ボックスに雪を入れていきましょう。ここら辺の雪も調べたら何かわかるかも……」
「どうせドロップゾーンの内部にDTポットを打ち込むんだから、ここらへんのサンプルはいらないだろう」
「わかってませんね。サンプルは多いに越したことはないでしょう」
 専用のボックスを背負ったリンカーが、雪に手を伸ばす。
 そのとき、先遣隊たちは吹雪のなかで愚神の姿を見た。
「あれが……このドロップゾーンの愚神なのか?」
 男性とも女性ともつかない細身のシルエットの愚神の髪は冷気できらめき、角はライヴスをまとっているせいなのか紫色に輝いている。
「攻撃がくるぞ。全員防御態勢に入れ!!」
 白冷鬼は手に持っている氷で出来た剣を振り上げ、氷柱連雨を先遣隊の頭上に降らせる。氷柱が雨の様に降り注ぐ攻撃に、ほとんどのリンカーが防御の体制に入る。
「隊長、従魔がっ!」
 ルタと呼ばれている、顔のない従魔が先遣隊の前に現れる。靄が密集してようやく人型を保っている従魔は、それと同じ原理で形を保っている獣にまたがっていた。
「また、あいつかっ! 全員、体力は大丈夫なのか!!」
 病原菌をばらまく従魔。
 雪原の戦いを得意とする愚神。
 その双方に囲まれながらも
「愚神に気づかれないようにデータを送らなければ……」
「無理です。撤退しましょう」
 従魔や愚神には、雪にまぎれて進むという先遣隊の作戦が見破られていたらしい。だが、幸いなことに自分たちが「調査」のためにやってきたとは思われていないはずだ。隊長は、団長の思いで決断を下す。
「全員、ドロップゾーンの外へ出ろ」

●調査続行
「一回目の調査は失敗したか」
 HOPEの科学部はため息をついた。
 ドロップゾーン内部を調査させるために雪に慣れたリンカーたちを送り込んだが、結果は散々たるものであった。しかも、先遣隊に持たせた装備は一部が故障してしまっていた。
「第二陣の調査隊を送るしかないか」
 愚神を撃破せずにドロップゾーンの内部を調査する。
 科学部のその野望は、まだ潰えてはいない。
「ですが、問題があります」
 HOPEの職員が挙手をする。
「人員は足りますが、道具が足りません」
 先遣隊の調査で、破損してしまった機材。
 そもそも多くは置いてない機材であるし、修理にも時間がかかる。
「近くの支部からレンタルするとしても、どれぐらい集まりそうだ?」
「残念ながら、十分な量には」
 それでも、調査は行わなければならなかった。
「仕方がない。残っている機材をすべて使おう」

解説

・ロップゾーン内部にDTポッドを設置してください。
※敵戦力は強力ですが、あくまで調査が目的です。愚神を倒したりすると失敗となります。

・ドロップゾーン……シベリアに出現。周囲に民家はなく、内も外も吹雪が吹き荒れている。内部は障害物が少なく、雪で覆われた平原が続く。なお、ドロップゾーンの外は昼であるが、内部は夜である。

愚神 白冷鬼……ケントゥリオ級。
 細身の鬼の愚神。
氷柱連雨――敵が密集している場合に使用。氷柱を空中に出現させ、攻撃する。
冷気弾幕――氷柱や冷気弾が吹雪のように乱れとび、標的をまとめて攻撃する。
氷結斬――剣での攻撃。触れたものすべてを氷つかせる。しかし、連発はすることはできない。
 
従魔 ルタ……ケントゥリオ級 三体出現。
悪路のなかでも素早く移動可能。
病の霧――接近すると軽度のダメージを負い、動きが若干鈍くなる。
病の刃――剣でもって攻撃してくる。刀自体のダメージ量は大きくはないが、確率で病による減退ダメージを負う。

従魔 亡者の兵士……ミーレス級 二体出現
ルタと共に出現する銃で武装したアンデット。
拳銃――ダメージ量は少ない。
手榴弾――敵が味方から離れているという条件下の元でなければ使われない。ダメージは強め。
機関銃――使用最中は使用者が移動することはできないが、命中精度は高い。

支給アイテム
DTポッド――ドロップゾーン内部情報を送信する為の2Lボトル大のポッド。ライヴスを充填することで、短時間であれば周辺の情報を送信できる。希望分だけ、支給可能。

専用ボックス――雪などを回収するためのボックス。冷却機能はライヴスで行うため、バッテリー類は不要。二つ支給可能。

気象観測レーダー――背負う方式の、近距離用の気象観測レーダー。外部からはドロップゾーン内部の情報を収集できず、短期的な気象観測情報を収集することが目的。精度はあまり高くない。重いため戦闘時は邪魔。二つ支給可能。

リプレイ

●雪進む、仲間たち
「皆様お初お目にかかります。私はサンクトペテルブルク支部所属のガルシアと申します。このような地に足をお運び頂いたこと、誠に感謝しております……。先日より正式にエージェントとして活動しております。皆様と共に死力を尽くす事を誓います」
『雪はすごく得意です!』
 HOPEの支部の部屋にて、Гарсия-К-Вампир(aa4706)は頭を下げた。その隣のЛетти-Ветер(aa4706hero001)は始終にこにこしていて、物語に出てくる悪戯好きの妖精のような雰囲気がある。
「現地の方ですか? これは心強い」
 Гарсияの言葉を喜んだのは、Heinrich Ulrich(aa4704)であった。デンマーク人の彼であるが、雪のなかの任務にいささか不安を持っていたのだ。雪かき程度ならば経験があったが、雪中を軍隊のように進むとなると未経験であるからだ。
「あたしも、けっこう寒さには自信がある」
 アンナ・ニールセン(aa4711)は、自慢げに笑う。ちなみに、彼女の出身地であるフェロー諸島はデンマーク領にあったりする。
「けっこう寒さに慣れた仲間が集まったんだな」
 虎噛 千颯(aa0123)は集まった面々の顔を見て、うんうんと呟く。この分ならば、雪のなかの仕事でもなんとかなりそうである。
「虎噛さんと白虎丸さんが一緒なら、心強いですね!」
 大宮 朝霞(aa0476)は白虎丸(aa0123hero001)の顎の下に手を伸ばそうとしていた。たぶん、そこが一番暖かそうだったからだろう。
『朝霞。白虎丸もさすがに困るぞ』
 ニクノイーサ(aa0476hero001)は子供の様な朝霞をたしなめるが、
『ニクノイーサ殿、お気になさらず……でござる』
 と当の白虎丸はあまり気にしていなかった。
『……愚神に気づかれないようにDTポットを設置するのが任務だよね?』
 38(aa1426hero001)の言葉に、ツラナミ(aa1426)は頷く。
「ああ……先遣隊の連中の話だと厄介な従魔もいるそうだな」
 愚神を倒すのではなく、あくまでドロップゾーンを調査する任務である。真正面から、正直に突き進んだところで従魔か愚神に発見されて終わりであろう。
「……やはり何に反応するか判然としない以上、囮になる人間が必要です、か」
 キース=ロロッカ(aa3593)は、メガネに付いた汚れをふき取りながら考えていた。
『囮か。危険な役割だね』
 匂坂 紙姫(aa3593hero001)もごくりと唾を飲み込む。
『全員が徹底的に役割に準ずる必要があるのだな』
「仕事なんて、どれもそんなもんだ。誰かが役割を放棄すれば、そこで仕事は失敗する」
 ミツルギ サヤ(aa4381hero001)の言葉を聞いたニノマエ(aa4381)はそんなことを呟いていた。

●戦う囮たち
 先遣隊から聞き及んではいたが、ドロップゾーンの内部はまさに雪原であった。見渡す限りの白い光景は、外の風景と似ていながらも決定的に違っていた。
『ドロップゾーン内は夜になるのですね』
「うん。でも、私たちには関係ない」
 大門寺 杏奈(aa4314)とレミ=ウィンズ(aa4314hero002)は、互いに頷き合う。二人が共にいるならば、たとえ奈落の底でも光を届けることができるという自信が彼女たちにはあったのだ。
『そうですわね。私たちで愚神たちの辺り一帯を照らしてしまいましょう!』
 レミの言葉と共に、リンクコントロールが発動する。
「翼よ、皆に守護の祝福を」
 ジャンヌを握る杏奈の背から、銀白色の翼が現れる。
 光源が確保されると、雪原の風景が先ほどよりも鮮明に浮かび上がる。だが、吹雪によっておおわれる視界は平常通りとはいかなかった。
「そこにいるのは、人か……」
 人影が、のっそりと動き出した。
 先遣隊の情報通り、細いとしたシルエットの愚神。その周囲には、ルタや亡者の亡霊と呼ばれる従魔が並んでいる。だが、そんな強大な敵でさえも目を離せば、一瞬で吹雪のなかに隠れてしまいそうであった。
「すごい地吹雪ですわね、主様。まさに飛雪千里とはこの景色の事ですわ」
 エリザ ビアンキ(aa2412hero002)は、白い息を吐く東雲 マコト(aa2412)に囁く。いっそ神秘的な光景にも見える雪原だが、今の彼女たちには戦場のフィールドにしか思えない。
「視界も足場も悪いここじゃあ辛い戦いになるね……。気を引き締めていくよ、エリザ!」
「こらー愚神ーっ! かかってこーい! H.O.P.E.精鋭部隊が退治しにきてやったぞー」
 朝霞は叫ぶ。
 その声が、雪原での争いの火ぶたを切ったのであった。
『油断するなよ、朝霞』
「わかっているわよ!ニック、変身するわよ!」
『……やれやれ、手早く済ませるぞ』
「変身! ミラクル☆ トランスフォーム!!」
 共鳴を済ませた朝霞は、愚神との距離を一気に詰める。
「この間の先遣隊とは各が違うんですからね!」
 レインメイカーを握った朝霞に、愚神の冷気弾幕がふりかかる。朝霞はなんとか攻撃を受け流すが、吹雪でさえぎられる視界ではなかなか難しいものがあった。
「囲まれたか?」
 ニノマエは吹雪の中で、懸命に目を凝らす。愚神には目印の角があるが、従魔にはそのような目印はない。
『この雪では、分からりにくいな。まぁ、侵入者を放っておくとも思えないが』
 サヤの言葉は、ニノマエの考えと同じであった。
「牽制の意味合いで行くぞ……」
 ニノマエは、ウェポンズレインを使用する。
 頭上に武装が展開され、ニノマエの周囲に飛び散った。従魔と思しき敵の気配は遠ざかったが、愚神はさすがに逃げたりはしていない。
「愚神の攻撃を密集したときにやられたら、厄介かな?」
 全員バラけて、とマコトは声を張り上げる。
「了解! 俺はこっちで、派手にやらせてもらうぜ!!」
 千颯は、ルタに狙いを定めていた。疫病を巻き散らず従魔など、はた迷惑この上ない。それに、今回の千颯たちの役目は囮だ。ならば、派手に大暴れして愚神の注意を引くのは当然だ。
『暴れすぎて、雪崩などを起こさぬように』
「斜面じゃないし、そこは心配無用だと思うぜ」
 ルタは千颯が向ける敵意に気が付いたのか、素早く移動を開始する。霧が密集している従魔であるせいなのか、この雪に足を取られている様子はまったくなかった。
「豪爆の炎で、雪ごと焼き払うんだぜ!」
 豪炎槍の炎の虎は、まき散らされる病を焼こうとしていた。そして、その炎は千颯の宣言した通りに降り積もる雪までも虎の足跡どおりに溶かしていった。
「そんでもって。次は、直接攻撃にくるんだろ」
 ルタにとっての一番の武器は、まき散らされる病そのもののはずである。しかし、その攻撃が阻害されれば――次は武器での攻撃を仕掛けてくるのが定石だ。千颯はルタの攻撃を受けるために身構えた。
 だが、そのとき千颯にとって予想外のことが起こった。
「うおっ!」
 なにかに、足を取られたのだ。
 それは炎の虎の足跡であった。雪の地面が、ちょうどトラの足跡の形で溶けていたのだ。
「虎噛さん、援護します」
 キースの声と共に、弓が放たれる。その弓に警戒に多様にルタは、少し千颯から離れる。その隙に、千颯は姿勢を立て直した。
「助かったぜ、キースちゃん!!」
『こっちもヒヤヒヤだったんだよね』
 千颯の言葉に答えたのは、共鳴中の紙姫である。むろん、キースにしか聞こえないとわかっていたからこその言葉であった。
『思わず愚神に流れ弾が当たりそうだったもんね。あっ、流れ弾じゃなくて流れ弓かな?』
 紙姫は、ぺろっと舌を出す。
 本当ならば、キースは愚神に流れ弾が当たらない位置からの攻撃を仕掛けたかったのだ。だが、残念ながらその前に仲間のピンチが来てしまった。
「結果的に当たってはいません。勝負はこれからです」
 切り返したキースは、再び弓を構える。
 病をまき散らす敵は、まだ目の前にいた。

●進む調査隊
「上手くいっているみたいだな」
 白ずくめとなったツラナミは、愚神たちを引き付けている仲間たちの様子を見た。まだ、戦力には余裕があるように見受けられる。だが、油断は禁物である。不慣れな環境や敵の強さから、いつこちら側が劣勢になるかは分からない。
『……手早くやらないとだよね』 
「当然だ。38、鷹の視界で戦場を見ておけ」
 愚神たちの足止めは今のところは成功しているようであった。少なくとも、自分たちのいる場所まではくる気配がない。
「DTポットは、ただドロップゾーンに置いておくだけでいいんだな」
 アンナは「よいしょ」とポットの入ったカバンを背負いなおす。白く染めた盗賊衣装の姿の彼女であったが、仲間たちもそのような姿をしているものたちが多く。ともすれば、雪に埋もれてしまいそうであった。
「DTポットを二三個置いたら撤退だ。見つかるな」
 ツラナミは、皆に勝を入れた。
 すでに先遣隊は失敗している。二度目となる自分たちに失敗は許されないだろう、という思いもあったのだ。
 静かに雪中を進むなかで、ふとHeinrichは足を止めた。振り返るとそこは自分たちが歩いてきた雪原に、足跡だけが残されている。男だからという理由で重い気象観察レーダーを背負う役割を志望したHeinrichは、一瞬ではあったがその機材の重みや雪の冷たさを忘れた。吹雪で視界すらおぼつかなくなるなかで、進んできた足跡がどんどんと見えなくなるのは物寂しい光景であったのだ。
「寒いな……。しかしこれが、あなたが体感していた世界なのか」
「Heinrich君、もうちょっと屈んだほうがいいですよ」
 Heinrichが視線を下げると、そこにはアンナの頭があった。
「あと、できるだけ前の人の足跡を踏むように歩いてください。そうすると、何人ここにいたかを随分とごまかせるんですよね」
 泥棒経験者として、アンナは語る。誇れる来歴ではないが、それがこうして役に立っているのならばしめたものである。
「おい……まずいぞ」
 ツラナミは通信機に向かって、最低限の言葉を発する。
「従魔が一匹、こっちに向かってきてる」

●囮は舞う
 亡者の兵士は、DTポット運搬班に近づいていた。
 それは、偶然であった。
 戦いが白熱していくなかで、愚神が一匹の従魔に遠距離から援護しろと命じたにすぎなかった。そして、亡者の兵士は偶然ここに現れた。
 だが、ツラナミたちにはその偶然が痛かった。
 もしも、ここで下手に動いて見つかったら作戦は水の泡だ。
「どこを見てるのさ。君の相手はこのあたし、東雲マコトことラビットシーカーだよ!」
 マコトが大声を張り上げる。
 余裕をもったふうに見せかけてはいるが、内心は冷や汗をかいていた。
『本命があちらだということは、まだ気づかれていないようですわね』
 エリザの言葉に、マコトは無言でうなずく。
 だが、まだ従魔と仲間たちの位置が近すぎる。
『ここでワタシたちにできることは、引離すことですわ』
 よし――とマコトは覚悟を決める。
 DTポットを運んでいる仲間たちから、従魔は引離す。苦戦させて、仲間を呼ばせない。されど、派手な技を使って他の従魔や愚神の興味も引かせない。
 亡者の兵士が、手榴弾を持ち出す。
「うわぁ。あれは、ちょっと洒落になりそうにないよね!」
 マコトは、一歩踏み出した。
 あれが爆発してしまったら、自分だけではなくDTポット設置班までもが怪我を負うかもしれない。そうなれば、隠密行動は難しくなる。
 間に合え、とマコトは強く願う。
 ――猫騙。
 その技が決まった瞬間に、亡者の兵士はひるんだ。マコトはその隙に手榴弾を奪って、あさっての方向に投げる。遠くで手榴弾が爆発する音が聞こえ、ひやりとした。平野であるから雪崩は起きないとわかっていても雪原での爆発音は心臓に悪い。
『お見事です、主様!』
「でも、本当に危機一髪だったよね」
 自分の動きが少しでも遅ければ、マコトも爆発に巻き込まれていた。
 恐怖で震えそうになったが、今はそんなことをしている場合ではない。従魔を仲間から、早く引き離さなければならない。
「この間は先遣隊のリンカーさん達がお世話になったみたいだね、亡者! 彼らの雪辱、晴らさせてもらうよ!」
 マコトはできるだけ不自然にならぬように、その場から徐々に離れる。
 仲間たちを安全に進ませる、囮になるために。

●調査隊の試練
『……見つからなかったのかな?』
 38の言葉に、ツラナミは「そうだろうな」と返した。ひやりとしたが、どうやら従魔を追い返すことは成功したらしい。
「Гарсияさん、あんたのほうはどうだ?」
 ツラナミは通信機を使用して、Гарсияに呼びかける。
「今のところは順調ですが……一つ困ったことが」
 別ルートを通り設置班のサポートをする段取りになっていたГарсияの声には、少しばかりの不安が混ざっていた。
「このまま進みますと、皆さんが愚神に見つかってしまう恐れがあります」
 Гарсияの話によると、このままツラナミたちが進めば愚神のすぐ横を通ることになるらしい。必ず気づかれるというほどの危険性ではないが、今までよりも発見される可能性は増すことになるだろう。
「愚神と戦ってる虎噛くんたちには、伝えたか?」
「はい……。今の状態で愚神を誘導するのは、少し難しいとのことでした」
 ツラナミは、二つの選択を迫られた。
 待つか、進むかである。
 少し待てば仲間が打開策を思いつくかもしれないが、待てば待つだけ悪戯に体力を消費することになる。雪の中では、それも面白くない。
「待つべきだと思うよ」
 アンナは、唇を開く。
「あたしたちの役割は見つからずにポットを置いてくることだろ。見つかる可能性が高いなら、下手に進まずに好期を待った方がいいに決まっている。焦ってるやつほど、警察に捕まるもんなのさ」

●囮の言葉
『氷の愚神と、シベリアの雪原でやり合うのは無理があるな』
 ニクノイーサの冷静な言葉に、朝霞は唇を噛む。最大限の準備はしてきたか、それでも雪原では足を取られる。気を付けていないと「転倒して止めを刺される」という非常にかっこ悪いことになりかねない。
「くっ……ここが街中だったら」
『被害のことを考えろ』
 街中に出現した愚神とドロップゾーンだったら、HOPEの職員も研究対象にはしなかったであろう。
「ずるいわよ! あんたのホームで戦ってるようなもんじゃない! やーい、やーい、町に出てきなさい、引きこもり!!」
『おまえは子供かっ!』
 ニクノイーサは、若干あきれた。
 だが、言葉に反して朝霞の戦闘スタイルは堅実だ。
 無理に攻め込まずに、守りを中心とするスタイル。
 ここで朝霞が倒れたら、仲間たちは全力で助けるだろう。だが、それは戦力を削ぐことにもなりうる。特に設置班と戦闘班を分けている状態では致命的な戦力ダウンとなるだろう。朝霞は、それをちゃんとわかっている。
「盾よ、あらゆる厄災から防ぎ切ってみせよ。2つの光は1つになりて、地の果てまで照らし出す」
 守りに徹していた杏奈は余裕を見せながらも、内心ではドキドキしていた。千颯から「愚神の注意を前方に向けさせ決してよそ見をさせないでくれ」と電報が回ってきたせいであった。
 愚神の横を設置班が通るからだ。
 つまり、自分たちが愚神の注意を引くことが彼らの安全につながるのである。
「最近は傷すら付けられない軟弱な方ばかりで、飽き飽きしていたのよ」
『わたくしたちが、相手をしてさしあげますわ』
 杏奈は、一歩を踏み出した。
 守りを固めるのは杏奈の仕事だ。
 だが、守るだけでは注意は引けない。
『弾幕が来ますわ!』
「見えてます」
 杏奈は、クロスガードを使用する。
 仲間に傷の一つも負わせない。
 ここで愚神の注意を引くことが、守ることにつながるのだから。
「これでもくらいなさいっ!」
 ライブスリッパーを愚神の顔にめがけて食らわせようとした。
 愚神は、それに対抗するように剣を振るった。
 攻撃か守りか、選択を迫られて杏奈は攻撃を選択する。
『盾が……凍っているようですね』
 レミの言葉に杏奈は、はっとする。
 攻撃は愚神に当たったが、同時に剣にもあたっていたのだ。剣がふれたと思われる場所だけ、盾が凍りついている。
「とっておきの氷結斬を白冷鬼が使うとしたら、余裕が少ねえってコトかな」
 愚神の後ろから、ニノマエが飛び出る。
 光る角を目印に飛んできた彼に驚いたのか、愚神は二人から距離を取る。
『ニノマエ、氷柱がくるようだな』
「サヤ、防御だ!」
 鋭くとがった氷柱が、ニノマエや杏奈を襲う。
『こんな時になんだが……氷柱というのは本当に美しいな。まるで、水晶のようだ』
「水晶ねぇ。こんな尖った水晶は返品したいところだな」
 攻撃がやんだことを確認したニノマエは、武器を捨てる。
「そこの紫の角のキレイな鬼さん、少し話しがしてえ!」
 ニノマエは叫んだ。
 人型の愚神は喋ることができる。
 そして、同時に情報を引き出すことができると判断しての行為であった。
「イスカンダリーヤからこっち、ドロップゾーンが増えて俺らは忙しくてな。ここにいるルタと兵士の従魔も、何からライヴスを喰えばこんなに強く大きく育つ?」
 まずは、町で女性に声をかけるように何気ない会話で様子を見よう。
 相手の愚神が人間の女の様な警戒心を持っていたら、これでいくらかほぐれてくれるはずだ。それと同時に、この会話を続けているうちは愚神の注意はニノマエに向くはずである。
『たしかに、いきなり武装解除して話かけてくる敵は異様に見えるものだが……不用心すぎはしないか?』
 サヤの心配ももっともである。
 ここで攻撃を受けたら、ニノマエには身を守るすべがない。
 それでも、ニノマエたちが愚神の注意を引き続けるにはこれしか方法はなかった。
「この場所を守っている理由もあるはずだ。愚神同士で連帯行動してんのか、さらに上のやつがいて信頼されてんのか?」
 ニノマエは、愚神の顔を見る。
 愚神の表情は動かない。
 言葉を理解していないのかとも考えたが、それにしては大人しくニノマエの話を聞いている。
「個人的な話でいいから、聞かせてくれないか?」
『なるほど……そういうことだな』
 サヤもニノマエと同じ結論に達する。
『ニノマエの国の言葉で、沈黙は金といったか。今回は、まさにそれなのだろう?』
 愚神は喋れないのではない。
 喋らないのだ。
 それはつまり、ニノマエのどれかの質問が的を得てしまっているということでもあった。
「……あんたは何に憎しみを向けて立っている?」
「ニノマエさん!」
 愚神の剣の攻撃に対して、杏奈は盾を振るう。
「ニノマエさん……まだなんです。まだ、仕事は終わっていないんです」
 その言葉にニノマエは、はっとする。
 すでに設置班が愚神の横を通り過ぎるほどの時間は稼いだはずだ。
 だが、撤退の連絡はまだ来ていなかった。

「さてと、敵は強力……。お仕事終了は目前だけど、ここは踏ん張りどこってな!」
 従魔に囲まれてしまっていた千颯は、わざとキースまで聞こえるように叫んだ。一瞬助けを求めているのかと思ったが、それにしては千颯の声には鬼気迫るものがなかった。
『虎噛さん、なにを言っているのかな?』
 紙姫は、首をかしげる。
「どうやら、DTポット設置班に何かがおこったようですね」
 通信機を使う暇がない千颯は、それをキースたちに伝えたいようであった。だが、従魔に囲まれてしまっている今の千颯には連絡を取るだけの暇もない。
『時間を稼ぐんだよね』
 紙姫の言葉に、キースは当然ですと答えた。
 シャープポジショニングを使用したキースは、狙撃に最良の位置を勝ち取る。そして、通信機を耳に当てながら威嚇射撃を使用する。
 千颯を取り囲んでいた従魔の意識が、キースに向いた。
 通信機から千颯の声で『DTポット班の一人がはぐれた』という言葉が聞こえてくる。
 短い言葉であったが、それが戦闘続行を意味していることはわかった。
「大丈夫でしょうか……?」
 逸れたという一人も。
 DTポット設置班も。
 戦い続ければならない、自分たちも。
『大丈夫だよ。だって、あたしたちがいるんだもの!』
 紙姫の瞳は、まっすぐ前を向いていた。
 彼女の瞳は、自分たちの生存しか信じていなかった。
「燃えるほどヒート! だぜ! 燃えろ! 俺ちゃんのライブス!」
 千颯は叫び、仲間たちを鼓舞する。
 それと同時にキースは集まった敵の注目を、少しでも自分に戻そうとしていた。キースが従魔たちの気を引いてくれたこともあり、千颯は自分自身にケアレイを使用する。まだまだ、戦える。
『気張るでござるよ!』
「おう、もちろんだぜ!」
 ルタの素早い動きに対応すべく、千颯はグングニルに武器を持ちかえる。
「全部、倒すつもりで行くぜ」
『無茶は禁物でござるぞ』
 白虎丸の言葉に、千颯は「分かっている」と返した。

●最奥の調査班
 38は、声をあげる。
『……敵が一匹くる』
 ツラナミは握った通信機を耳から離して、舌打ちした。味方に引き離してもらおうにも、誰もが戦っている。ツラナミは通信機の代わりに苦無を握り、カウントを始める。このカウントがゼロになったとき、攻撃をするつもりであった。
 ――3、2、1……
 ツラナミは、苦無を投げる準備をする。
 当然、それだけでは敵は倒すことができない。つまり、戦闘は避けられない。
 あと一つ、DTポットを設置するだけだというのに。
「ツラナミ君、これをかぶって!」
 アンナは、ばさっと真っ白なブランケットをツラナミにかぶせた。一瞬、ツラナミは目を点にした。だが、同時にこの案こそが敵をやり過ごす最良の手であるように思われた。
『……従魔は行ったみたいだね』
「コレ買っておいてよかったな」
 良い買い物をした、とアンナは満面の笑みを浮かべる。
「DTポットを置くぞ」
 ツラナミは荷物のなかから、ポットを取り出す。
 二つ目のポットの設置に成功したツラナミは、通信機でГарсияに連絡を取る。こちらは撤退すると伝えると彼女は「私は、まだ奥に向かいます」と言った。一人でかと尋ねると彼女は、はかなげな声で「やりたいんです」と答えたのであった。
 
『Гарсия、大丈夫でしょうか? こんなに強い吹雪なのに一人で奥になんて……』
 Леттиは不安げに、Гарсияを止めようとする。寒さに強いЛеттиだが、吹雪のなかで人間がさまよい続ければどうなるかは知っている。Леттиが共鳴している限り凍死はないかもしれないが、それでも一人でドロップゾーンを行進し続けるなど無謀すぎる。それに、仲間たちのことも気にかかる。
 だが、Гарсияは足を止めようとはしなかった。
 すでに、彼女が奥の手として持ってきたPADも使用してしまっている。反動で雪の中に身を隠すことには成功したが、その際に雪が肌に触れてだいぶ体温を下げてしまった。
 全身が氷のように冷たく、鉛のように重い。
 設置班の仲間とも遠く離れてしまっており、合流するのはきっと難しい。
「……この責を全うしなければ……。私がやらないと……」
 Гарсияは雪の中で、何度もつぶやいていた。
『無理はしないで。依頼をした科学部の人たちもГарсияがここまですることは望んでいないと思います……』
 Леттиの言葉に「違うの」とГарсияは呟く。
 彼女は自分の意志で、歩き続けていた。
 雪の中で思い出されるのは、父のことだ。
 自分の行く道を決定した、吸血鬼の父。今どこで何をしているのかもわからない――彼女が狩るべき吸血鬼。
「たぶん……ここが最奥」
 Гарсияは、DTポットを起動させる。
 あとは、帰るだけだ。
 激しい吹雪の向こう側で、彼女は愚神の影を見たような気がした。
「あれは……父じゃない。あれは……父では」
 揺れる影に向かって、Гарсияは自分に言い聞かせていた。
 そうでもしなければ、今にも愚神と戦ってしまいそうであった。
「あれは……」
『Гарсия! やめて!!』
 Леттиの言葉も耳に入らない。
 Гарсияの足は、愚神と思しき影へと向かっていく。
「Гарсия君」
 だが、そこにいたのは愚神ではなかった。 
 Heinrichであった。
 どうしてとГарсияが問う前に、Heinrichは穏やかに微笑む。
「……娘がいますからね」
 Heinrichはそれだけを答えて、Гарсияの前に手を差し出した。
「帰りましょう。ここは人間にさみしすぎる」
 ГарсияはHeinrichの乾いて冷たい手に、そうっと触れた。
 一瞬だけ、父が在りし日の思い出が蘇ったような気がした。

――撤退。

 各々にようやくその指令が届き、リンカーたちはドロップゾーンを後にした。

●ドロップゾーンの外
「やった! DTポットからのデータ受信が成功したぞ!!」
「派遣したリンカーたちからも、無事にドロップゾーンを脱出したと報告があった!」
 全員無事、という報告に科学部の面々は胸をなでおろす。
「さて、これでデータを採取できるようになった。仮説が正しいかどうかを検証できる。気象データや雪のサンプルも届き次第、調査していくぞ」
「はい、これで仮説が証明されるといいのですが……」

●ドロップゾーン内部
 愚神は、雪の中で思いを巡らせていた。
 自分に向かって男が何かを喋っていた。自分から情報を引き出そうとしていた。だが、同時に愚神も男から人間たちの情報を得ていた
「私より上の存在がいることに気が付いていたのか?」
 愚神は、吹雪のなかで小さく呟いた。


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412
    人間|19才|女性|回避
  • クラッシュバーグ
    エリザ ビアンキaa2412hero002
    英雄|15才|女性|シャド
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • エージェント
    Heinrich Ulrichaa4704
    人間|68才|男性|防御



  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
  • エージェント
    アンナ・ニールセンaa4711
    獣人|16才|女性|生命



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