本部

広告塔の少女~36時間TV~

鳴海

形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
22人 / 0~25人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/12/08 14:56

掲示板

オープニング

● 36時間テレビスタート
 番組本部は大忙しである。それもそのはず。36時間ぶっ続けで情報が流れ込んでくる番組本部は常に迅速な対応が求められるため、誰もかれもが持てる力を全て引き出さなければいけない。
「もう、どこもかしこも承認承認って、自分で決めなさいよまったく」
 遙華は早速苛立ちにまみれていた。
「でも、勝手にやられると私たちの把握しないところでことが動くわよ。それは雪だるま式に問題が増えるということでもあるから、報告がてら承認は求めてもらった方がいいわ、そのほうが現場も安定するし」
「もう! わかってるわよ」
 ちょっとカリカリし始めた遙華、仕方ないわねぇと遙華の担当の仕事をいくつか持っていくロクト。
 この番組自体は沢山の番組の寄せ集めで成り立っているが、グロリア社がメインスポンサーであるため、目玉企画もグロリア社が展開することになっている。
 そのためこれから始まるオープニングセレモニーの司会者も任されていた。
 そのために三十分後にはお化粧室に入らないといけない。
「く……だれか、司会者やってくれないかしら」
 そう歯噛みしつつ遙華は各種書面に目を通していく。

● メインの番組
 グロリア社担当のメイン番組を二本用意しました、尺的にはここが一番多く使われるでしょう。
 どちらか片方にしか出演できませんのでお気を付けください。

《男性リンカープロデュース》
 こちら、男性だけが参加可能な企画。
 その歌唱力、身体能力、そして運で、芸能界デビューを勝ち取れ!
 が、宣伝文句。
 皆さんを除いて十七名の参加応募がありました。蹴落としましょう。
 ルールは簡単。各関門をいち早く突破し、最終ステージのマイク、この前で一曲歌いあげればクリアです。先着三名まで、楽曲とライブの権利が与えられます。
 ちなみに皆様リンカーなので、AGWを使用していただくことになります。
 ですが心配ありません、皆さんのAGWには特殊な加工がしてあり、リンカーが死ぬことはありません。
 また、このゲームはぬるぬる滑る『ピンク液』というものが出てきますが、これを浴びると服が溶けます、パンツ一丁になるとゲームオーバーです。
(服の耐久度は生命力とイコールです)
 では、立ちふさがる驚異の説明をしましょう。

・第一関門 VBS従魔を狩れ!
 VBSで再現された従魔が跋扈する檻の中。従魔を倒して鍵を手に入れてください。
 ただし鍵を一度使うと、鍵に書かれている数字かける秒、扉があかなくなってしまいます。強い従魔を倒せばそれだけ秒数が多い鍵を手に入れられますし。弱い従魔を倒しても、扉をロックしている時間が少ないので他人とあまり差をつけられません。
 従魔の強さはステータス二ケタから、デクリオ級まで様々です。能力は皆バランス型。
 そして従魔の攻撃を受けると服が溶けます

・第二関門 アイドルアピール。
 個々では一芸やサブ番組の風景などをみんなに見てもらってアイドル適性があるか判断してもらう場になります。


・第三関門 奪い取れ、あいつのマイク!
 最終関門はシンプルなマイク争奪戦です。
 マイクは傾斜十五度程度の坂の上にあります。このマイクで一曲歌いきることができればチャレンジ成功です。
 ただ、障害物がないわけがありません。
 ピンク液が常に上から流れていますし、坂のところどころに謎の突起物があります。
 さらにカードが坂のところどころに刺さっており、三つの効果があります。
1 ガードカード 自分がマイクを握っている間、他人からの妨害を防ぐ。秒数が書かれており、何枚も集めると効果は累積する
2 トラップカード 引いてしまうと即時発動、坂の上から大量のピンク液が流れてくる。対策をしていないと、坂を上っている人間皆流される。
3 ヒールカード 服がもとに戻る、回復量はカードによって様々


《アイドルライブバトル!》
 金と銀に別れて歌唱勝負をしていただきます
 今回は純粋なアイドルルールを使用します。
 アピール相手は観客で、観客を盛り上げられたか(精神的ダメージともいう)によって勝敗が決まります
 ちなみに、投票式で、チームの勝利は総合得点で決まります。
 ちなみに観客の感情傾向は完全にランダムで。一試合終わると同時に客が入れ替えられます。
 金チーム、銀チームに分かれる際は半々を意識してください。
 無理なら、足りないところは『ECCO』『赤原 光夜』『幻想歌劇団ディスペア』などで穴埋めします。
 チームでの参加もありですが、最大五人までにしてください。
 公平性を保つため、人数が同じくらいの対戦相手を意識します。
 ちなみに対戦相手の希望がある場合は、行ってもらえると通るかもしれません。


● サブ番組
 メイン番組の間に挟み込む、短めの番組です。
 これに登場上限はありません。むしろサブ番組だけに出るとかありです。

〈みんなの思い出の料理を教えて〉
 皆さんが今までのミッションで食べたもの、であった料理を再現していただきます。
 さらに再現した料理を審査員に食べていただき、誰の料理が一番印象に残ったか決めます。
 ここで一番印象に残った料理は2016年メモリアルディナーに登録され、メイン番組の優勝者に振る舞われます。

〈鞄の中味はなんだろうな〉
 これはリンカーの楽屋にお邪魔して、リンカーのカバンの中身や持ち物を拝見させていただく番組です。
 これからの新人リンカーへの参考資料的な意味合い。
 純粋にしたすみやすいキャラクターであることもアピールできます。
 そのため、鞄の中味を公開していい人(インタビューされる側)。
 そしてリポーター(インタビューする側)。
 この二役を募集します。
 ちなみにインタビューされる側はほとんどの場合、番組に登場中かと思いますが、中継で楽屋と繋ぐので安心してください。 
 ちなみに、遙華のカバンの中身は
【本が三冊(簡単にわかる帝王学、グリム童話大全集、ミステリー一冊)
 真新しいお化粧セット、携帯電話二つ。手帳とタブレット。充電器にメガネの予備、遙華の戦闘用衣装の考案図(露出度高めバージョン)です】

〈グロリア社、屋台村〉
 グロリア社駐車上には沢山のテントが出て、お祭り会場になっています。
 あなたの希望する屋台、招待したお客さんがいるかも。
 個々では、一般人の生の声をリポートしてもらったり、番組の感想など聞いていただきます。
 また番組の裏側に迫る映像も流す枠でもあります、この番組の舞台裏、作成秘話、活動風景なども募集です。


<みんなに伝えたいこと>
 これはリンカーのドキュメンタリー番組です。
 内容は、幼い子供たちに伝えたいことを絵本や映像、歌などにまとめて孤児院や幼稚園を訪問します。
 リンカーと新しい世代のふれあいや、リンカーたちがこの戦いを経て学んだこと。というのがテーマです。



解説

目標 みんなで楽しい番組撮影を行う。

 相談の結果イベシナになりました!
 今回はテレビ番組を皆で作り上げていくことが目標です。
 基本的にやりたいことは少数に絞ったほうが濃い描写ができるので良いでしょう
 また、広告塔の少女シリーズに何度も入っている人は勝手がわかると思いますが。それ以外の人は何をしていいか分からなくなる可能性が考えられます。
 その場合は、ベテランさん助けてあげてください。もちろん不明点があれば質問卓で質問してください。

 あと、番組を通しての司会者も募集します。
 それではよろしくお願いします

アイドルルールはこちら。
http://www.wtrpg0.com/rule/basic/9

前回の会議風景はこちら。
http://www.wtrpg0.com/scenario/replay/3000

リプレイ

● プロローグ。

「さて…………と、いよいよ本番ね。見ている人、やっている人、共に楽しめるよう頑張りましょうか」
 そう『水瀬 雨月( aa0801 )  』は小さく告げた。片手には進行表とノートPC、常に連絡が取れるようにと左耳にはインカムを取り付けている。
「ええ、頑張りましょう」
 そう遙華も同意した。
「にしても、この人での少なさでよく間に合ったわね」
 雨月は次のスタジオに向かう道すがら進行表を眺めて言う。
「正護が一晩でやってくれたわ」
 『防人 正護( aa2336 ) 』名誉グロリア社員という名の社畜である。彼も残念な道に入ってしまったものだ、雨月はそう思った。
「西大寺さん、俺ピンク液なんて提案してないよ!?」
 その背後から血相を変えて走り寄ってきたのは、同じく実行委員会の『GーYA( aa2289 )  』及び『まほらま(aa2289hero001 )』
「昔、そう言う従魔にね、会ったのよ。あの時は視聴率がよかった。それにお色気要素が無いと盛り上がらないわ。ってロクトが!」 
 そう気合を入れて重たいスタジオの扉を押し開けると、壇上では機材の設置、最終確認で大忙しだった。
「あ! 遙華ちゃん」
「杏奈! 遊夜!」
 そう壇上から飛び降りてきた世良夫妻。そして機材設置を手伝っていた『麻生 遊夜( aa0452 )』が駆け寄ってくる。
「少し早くに立てりゃいいが…………ま、雑事は任せてくれ」
「ん、頑張る、よ?」
 いつの間にか遙華の背後にいた『ユフォアリーヤ(aa0452hero001 )』が遙華の両肩に手を乗せてそう告げた。
 豊かな尻尾が揺れている。
「私達もほとんど裏方になると思うけど、例の企画は任せてね」
 わくわくが止まらない様子の『世良 杏奈( aa3447 )  』はそう告げる。
 『ルナ(aa3447hero001 )』も楽しげでそれはよいとして。困惑の表情を浮かべる『世良 霧人( aa3803 ) 』はせわしなくあちらこちらに視線を映していた。
 (杏奈に連れて来られてきちゃったけど…………何すればいいんだ?)
『エリック(aa3803hero002 )』は意外と落ち着いていて、スケッチブック片手に、会場のラフをかいているのだが。
(屋台が出せるんだな。よーし、オレもやるか!)
 その落ち着きが逆に気になるらしく、霧人のソワソワは増していく。
「さあ、いよいよ始まるわね!」
「ええ、協力頼んだわよ」
「うん、気合入れて行くわよ♪」
 そう拳を突き上げる杏奈、そしてルナ。
「とっても賑やかでお祭りみたいね♪」
「遙華、そろそろ」
 タイムキーパーである、雨月の指示が飛ぶ。
「じゃあ、みんな準備して、OPセレモニーを行うわ」
「ふふ、わたしの魅力を世界に知らしめるチャンスね!」
 そう舞台袖から客席を眺めているのは『梶木 千尋( aa4353 ) 』
「やる気だねえ~。まあ頑張りなよ。裏方は務めるさ」
 千尋の言葉にそう答える『高野 香菜(aa4353hero001 )』
 そして続々と入場してくるリンカーたち。
(グロリア社でこんな長いTV番組が出来るなんて嬉しいな!)  
『天城 稜( aa0314 )  』は会場を見渡しながらそう考える。
(僕向きのイベントにリリアが申し込んで置いたって言ってたけど何だろう?)
『リリア フォーゲル(aa0314hero001 )』に視線を送り、首をかしげて見せるが、リリアは穏やかに微笑をたたえるのみで何も言ってくれない。
「ユリナ、あたしと一緒に36時間番組企画で聖女系アイドルを目指そうよ! みんなと楽しもう!」
 そうステージ中央に躍り出る『ウィリディス(aa0873hero002 )』
「ええっ、もう金組で登録も済ませたの!? わ、私はアイドルではないのに……でも、受けるからには全力で……!」
『月鏡 由利菜( aa0873 )  』は小さく拳を握りしめる。
「さぁ。お客をいれるわよ。みんな袖に隠れて」
「……ん、皆楽しそう」 
 そう微笑を浮かべるユフォアリーヤ、その頭をがしがしとなでて遊夜は告げた。
「その分、裏方が大変そうだがな」
 そう、子を見守る親の視線を遙華に向ける遊夜であった。

● 36HTV開幕
 満員となった会場は、それだけで熱気をもつ。

「ついに本番なんだね……せめて好きな色を選んで気を紛らわそう」
「ほら、順番まで手を繋いであげるよ」

 さらにこれからの催しに期待し、胸躍らせているとなれば、その熱量も数倍に膨れ上がることだろう。
 それはドームの中に再現なくため込まれ続け、そして。
 ついに爆発するように。盛大な炸裂音。そして紙吹雪が舞った。
 完成、そして、会場全体に響く声。

「トップバッターは任せたよ」
「リンカーアイドル最年少、金糸の姉妹でお届けします」
 そう『蔵李・澄香( aa0010 ) 』と『小詩 いのり( aa1420 ) 』の声が響き。重なる。
「「虹の音~Iris~」」
 歓声と共に、ステージが金色に染め上げられた。
『イリス・レイバルド( aa0124 ) 』と『アイリス(aa0124hero001 )』は舞台両端から羽ばたくように現れ、舞台中央で合流、そのまま背を合わせ寄り添うようにマイクを内蔵したバルムンクを片手に二人は口を開いた。

《時に涙は絶望から流れるかもしれない
 嬉しい涙もあるけど悲しい涙のほうが多いから
 それでも涙を晴らしてくれる絆があった》

 二人はお互いの手を叩いてはじかれるように前へ、鏡写しのように同タイミングで回り。
 体を揺らす。
 
《どんな否定の言葉を投げられたってボクがその光に救われたのは本当で
その光があるからどんな絶望にも負けずに頑張れる》
 
 直後羽ばたき空へ、眩い光が彼女を包み、共鳴したイリス。その翼の響きと、バルムンクのコーラスが重なり合い。
 会場を揺らすほどの音となる。

《だから涙を晴らしに行こう
不器用なやり方しか知らないし》

 その時ライトが一部落ち、ステージの左側がやみに落ちた。

《満足に目だって合わせられないボクだけど》

 そして共鳴を解除。闇へ歩み寄るイリス。
 しかし。

《暗闇に俯いた人が立ち上がるための光を守るために
守った絆が俯く人に手を差し伸べることができるように》

 その闇を切り裂くべく、アイリスがかけた。バルムンクを投げ闇を切り裂き。
 膝を抱えるイリスへ手をのばす。

《絆の光が虹へと至る
 そう信じて歌い続けよう》

 二人の声がハーモニーとなって響き渡り、その残響が尾を引いて。
 その響きが会場に溶け消えると同時に、再び会場に紙吹雪が舞った。

「ええええ。ハードル高すぎるんよぉ」
「ええい、泣き言ばっかり言ってんじゃねぇ。どれだけの人間がトップバッターやりたかったと思ってんだ。しゃんと、しろ!」
 直後、会場中心に躍り出る。『鈴宮 夕燈( aa1480 )  』舞台袖ではにやにやと『Agra・Gilgit(aa1480hero001 )』が夕燈を眺めている。
 ポカーンとそれを見つめるイリス。そんな彼女に手を差し伸べるアイリス。
 そして曲が終わった。

「緊急登場、新人アイドル鈴宮 夕燈さんです。彼女の持ち味はとにかく元気。希望の光に対して、温めてくれるような元気の光」

 『卸 蘿蔔( aa0405 ) 』が言葉を区切ると、直後高々と響く、ギターサウンド。
 会場から湧き上がる夕燈コールに、夕燈は両足でしっかり立ち上がり、そしてマイクを構えた。
「今日のうちは……何時もより気合沢山さんやでっ!」
 歓声が上がる。
 そしてステージの左端まで駆けた。

《ありがとう、嬉しい気持ちも、笑顔を咲かせて花束して!
幸せをまた一つ添えて! 繋がる度に、笑顔増やして行けたら。きっともっとHappinessTime♪》

「わー、夕燈ちゃーん!」
 そう、VIPルーム。つまりは控えメンバーがステージを見るために作られた部屋から手を振るのは『泉 杏樹( aa0045 )』 
 それに手を振りかえすと、取れそうになる腕。それを抑えてまたマイクを握る。

「今日は来ってくれて、ありがとな!」

 そう右端まで走りながら夕燈は告げる。
「今日は対抗戦で違う側やけど、大好きなお友達も。応援してくれてるお友達も、みんなの応援もよろしゅうな」
 観客たちがその言葉に応じて拳を突き上げる。
「あと、みんな大好きで楽しいから、うちもっと頑張っても楽しいさんやから!今の全力、全部出し切りたい。
勝っても負けても、楽しかったって思う!」
 そして観客はその言葉に応じて拳を突き上げる。
 そう告げると夕燈はアイドルドレスを脱ぎ捨て、ミニスカのオレンジの衣装へと変身、動きやすい服へと変わった。
「二番、聞いてください」


● 歌合戦第二曲目。

 澄香といのり、そして蘿蔔が番組の趣旨を説明している間。舞台袖の空気は思貯めだった。
「ふふふ、そんな緊張しないで?」
「あうあうあうあ」
 そう舞台袖で『紫 征四郎( aa0076 ) 』のほっぺを引っ張って遊んでいたのは『木霊・C・リュカ( aa0068 ) 』
 ただ何も考えずそうしていたわけでは無い。司会者の話が進めば進むほど、硬くなっていく征四郎の緊張をほぐすためであった。
「いっぱい練習してたもん、大丈夫!」
 そう笑顔で告げるリュカ。
「リュカ、ありがとうございます。あの、手、握って貰っても良いですか?」
「オリヴィエも緊張であるか?」
 そう柔らかく微笑みかけるのは『ユエリャン・李(aa0076hero002 )』 『オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001 )』はその言葉には答えず、別の言葉を向ける。
「ユエは歌わないの、か?」
「もっと輝ける子がいるからね」
 そう告げるとユエリャンは征四郎の頭をガシガシと撫でた。
「きっとできるさ、おチビちゃんは音楽が好きなんだろう?」
 こくこくと頷く征四郎。
「大丈夫、きっと良い日になる」
 ついでにオリヴィエの頭もガシガシしながら、そう言って笑った。
「こんな大きな舞台でのお披露目となるとは思いませんでしたが」
 その場にいる全員が頷く。
「『Moon knight』出陣です」
 軽快なピアノソロが会場を満たした。
 一度閉じられた幕が上がる

「今宵、皆さんを音楽の世界にいざなうのはこの二人『SEI』『Lucas』のお二人『Moon knight』です」

「今日はみんな、来てくれてありがとう」
 そう告げるのはリュカ。緊張を知らない彼は揚々と観客たちに語りかける。
「僕たちは今日、皆さんに伝えたい思いがあってきました」
 征四郎。いや『SEI』の指先が決まった旋律の連続から、ある音に向かって確実に近づいていく。四人で連日、角を突き合わせて考えたあの曲。
 タイトルはまだ未定だけど。精一杯の力で完成させたあの曲へ。
「みなさんは大切な人がいますか、その人となら立ち上がれる、笑い合える。そんな思いを込めた歌を聞いてください、そして皆さんの心に解け合って一つに慣れるといい」
 オリヴィエと征四郎のコーラス。
 響く音は和音、不協和音を織り交ぜて、心に深く根付くサウンドとなる。

《 駈けろ世界 ただ明日を目指して
いつまでも子供じゃないから ねぇ》

 征四郎の指先は熱を増す。いつもより滑らかに動く、まるで音楽と一体になってしまったかのようだ。
 そんな征四郎をオリヴィエは見つめ、そして内心で微笑んだ。助けなんていらない、彼女はこんなにも立派に自分の感情を奏でている。

《君が》《君と》
《隣にいる》《笑いあえる》
 
 背中合わせに声を重ねる。言葉を重ねる、響き帰ってくることが愛おしい。

《届け!》《届け!》

 バックバンドに演奏を任せ二人は壇上を下りた、そして、駆ける。

《届け!》《届け!》
《届け!》《届け!》

 観客全体の届けコールの中を。

《この場所は僕が守るから!》

 直後、暗転。
「素敵な曲でした」
 凛と少女の声が響く。
「躍動感が溢れていて、聞いている人全員に、何かできるんじゃないか、そんな気にさせる」
 そして唐突にリズムが切り替わり、ヴァイオリンの旋律が会場を満たす。
 そしてステージの中心に躍り出るのは由利菜、そしてウィリディス。
「私達も騎士なんですよ」
「でもあたしと共鳴すると聖女なんだよね」
 次いでまばゆい光が会場を満たした。その中心に立っていたのは共鳴姿の由利菜。
「曲はMoonlight Locus(With Viridis Ver.)」

『楪 アルト( aa4349 )  』がグランドピアノを流れる動作で操った。

 そして、音が花開くようにスピーカーを響かせて曲が流れ始める。

 それは、掛け替えのない友人に出会い。友と過ごす時間、その喜びを知った。
 親友になる契約は永久に。そう願った。
 そして、共鳴し聖女となる由利菜、だが由利菜の胸のうちにあるのは激情。
 リディスの心には異なる記憶の混在が見受けられる。
 二人はより良い関係を築けるのか?
 夜に輝く月光の軌跡だけが答えを知っている。
 そんな曲だった。

● そんな時舞台裏で。


「ラッ、シャイ……」
 そう、蘿蔔は燃え尽きた灰のようになっている。
 今はちょっとしたインターバル。その時間めがけてレミアと緋十郎が遊びに来てくれた。
「あ、二人とも、見てくれてる?」
 同じく一息ついている澄香が言った。
「ええ、私達の番組が始まるまではきっちり、見させていただくわ」
 そう言うとレミアは二人に告げた。
「嬉しいが強くて、緊張どっかに飛んでいったかもです。ありがとうございます」
 そう微笑む蘿蔔。
「じ、じぃや。お茶」
 いのりがそう言い終わる前に、温かいお茶を手渡す。
 その隙を見て、衣裳部屋にするりと体を潜り込ませる『彩咲 姫乃( aa0941 )  』なんとか澄香たちには気が付かれずに済んだようだ。
 そんな舞台裏、衣装室。メイクルームと兼用のその一室の真ん中にはその部屋の長たる少女『斉加 理夢琉( aa0783 ) 』がいた。
 ミシンや布に囲まれて。
「あーん、もう。終わらないよぅ。アリュー」
 泣きながらもひたすらに手を加える理夢琉。
 それをインカム越しになだめる『アリュー(aa0783hero001 )』。
「無理だぞ、俺は照明で忙しい」
「そんなぁ」
「頑張りましょう理夢琉さん!」
 そんな彼女を見かねて、仕事の合間に手伝おうと針を取る蘿蔔。
「それにしてもすごいですね」
 蘿蔔は理夢琉の持ち物を眺めてそう告げた。
 彼女の背後に控えている大きなカバンの中には、小さな棚や裁縫セット。各色のボビンも取りそろえられ、かなり充実していた。
「あの、私のドレス。サイズが違うんだけど」
 そう藍色のドレスを差し出したのは『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001 )』
「え? ぴったりだと思うけど」
「胸が苦しいのよ、成長したみたい、あと二カップくらい上げて」
 蘿蔔がため息をついた。
「タラちゃん……」
「うわー、女の子のお城って感じやんなぁ」
 そう理夢琉の私物を眺めながら感嘆の声を漏らすECCO。
「えへへ、宝物なんです。あ、できましたよ。ECCOさん」
 そう仕立て直したECCOの衣装を手渡す理夢琉。
「お、ええやん。レース使うとこうふわっとなっていややったけど、こういう使い方もあるんやな」
「えへへ、勉強中ですけど、頑張ってみました」
 満面の笑みを見せる理夢琉、しかし笑っている場合じゃないと自分で気が付いた。
「ライヴスでミシンやロックが動くなら便利なんだけどなぁ、遥華さん作ってくれないかなー」
 その直後である、あわただしく開かれた控室の扉。
「突撃、鞄のなかみはなんだろな~じゃ!」
 そう、謎のサングラスに嘘っぽいマイクの『古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001 )』がカメラを引き連れやってきた。
 ちなみにカメラを抱えているのはなぜか『榊 守(aa0045hero001 )』
「オイシイモノハナイカナ?」
「こっちにあるわよ!」
 そう声を上げたのは杏奈、目を輝かせるアイリス。

   *   *

「おお、奥様のカバンの中身は普通じゃな」
 杏奈は鞄の中味を一つづつ並べていく。
「財布に、スマホ、化粧品入りポーチ、お菓子、スケジュール手帳……。あと手帳」
「なぜ手帳があるのかの?」
 そうアイリスが手帳を開くと。どこからか曲が流れてくるではないか。
――Look to the sky, way up on high There in the night stars are now right
 アイリスはぱたりと手帳を閉じる。
「こ、これを見るのはやめておいた方がよいかもしれんのう」
「TTRPGのネタを書きとめているだけなのに」
 しかしまだ本命が残っているので大丈夫。
 そう杏奈は霧人のカバンを取り出した。
「まずは本が数冊」
「おお、たしか旦那さんは先生、だったかのう?」
 アイリスが注釈を挟む。
「ええ、それ関連の本もあれば純粋な読み物もあるみたいね。手帳」
 それをアイリスはむやみに開くことはしなかった。
「そして着替え、着替え?」
 はてなマークを浮かべつつ杏奈はそれをとりあえず小脇へ。
「そしてこれは、封筒……」
「おお、なにが入っておるのかの?」
「これは3万……なによこの大金」
 場の温度が数度下がった。その直後あわただしく開かれる扉。
「えっちょっと杏奈それ、僕のだから返してぇぇぇ!!」
 その手が封筒に届くまで、のこり数センチというところ。
 霧人の動きが止まった。その瞳はアイリスの背後に控えるカメラ部隊に注がれている。
「NOW ON AIR?」
 なぜか英語になる霧人。
「なーう」
 いまいち英語はわからないアイリス。
 その瞬間、ボンっという音がして霧人が真っ白に燃え尽きた。
「説明しましょう。霧人は生徒たちにばれないようにばれないようにリンカー業務を続けていたから、この瞬間すべてが水の泡になったのよ」
「ところでじゃ、奥さん。その手のペットボトルはなんじゃ?」
 アイリスが指をさす。
「説明しましょう。これはのちの企画で使われる重要な液体よ、効果はこんな感じ」
 砂糖菓子のように固まった霧人に、蜂蜜のようにとろみのあるその液体が欠けられると、あら不思議。
 霧人の服が溶けだした。
「わー手が滑ってしまったー(棒)」
「杏奈、容赦無いわね……」
 苦笑いを浮かべるルナ。
「おお、なんというかダイナミックなふさいじゃったのじゃ。とりあえず次の企画の準備が済んだらしいのでカメラをお返しするんじゃ」

● アイドルリンカー育成計画。
「さぁ、これから始まる、男性リンカーアイドルプロデュース企画、司会は私、水瀬と」
「私、西大寺 遙華で務めるわ」
 そう、グロリア社内敷地のVBS状を利用して作られたそのコロシアム目の前の檻に、『御神 恭也( aa0127 )  』は閉じ込められていた。
「……募集してるのは芸人枠か」
――でびゅーに向けて頑張ろう~
 そう知らぬ存ぜぬを貫き通そうとする『伊邪那美(aa0127hero001 )』。
 そんな彼のように無理やりここに連れてこられたものは多いらしい。
「別にアイドルにはなりたかねぇよ!」
 『日暮仙寿( aa4519 )  』は囚人よろしく鉄格子をガシャガシャ揺らした。
――仙寿様もたまには弾けて良いと思うんだ! もっと皆と交流すべきだよ……これぞ主君を想う侍心!
『不知火あけび(aa4519hero001 )』がドヤッと言い放つと、日暮はまた叫ぶ。
「ふざけんなよ忍者が! 裸になってたまるか!」
「現場のジーヤです! なんだか檻の中の雰囲気が悪いです。とてもこれからアイドルデビューを目指そうという集団とは思えません」
 そうG-YAが会場に向けてレポートする中、エントリーした二十数名のリンカーは暴れどおしだ。
「あら? G-YAも参加者なのよね? なんでマイクなんか」
「実況しながら戦い抜こうと思ってる。それでは、カメラに威嚇行動を始めたリンカーたちをなだめるため、いったん中継を切ります。以上ジーヤがお伝えしました」
 その直後カウントダウンが始まり、ゼロになると檻の扉が開いた。
「おお、優勝候補の稜選手早い、俺も負けてられないな」
 G-YAも後を追う。
(リリア。こういうことだったんだね)
 稜は毎度のことで慣れつつあるリリアの陰謀に整理をつけ、真っ先に向かうのは、その中で一番強そうなデクリオ級従魔。
「邪魔だ」
 その手前で固まっている小さな個体を怒涛乱舞で打倒していく恭也。
「お、恭也選手は数を。稜選手は質を優先するみたいだ」
 そうG-YAが解説しつつ、手ごろな従魔と刃を合わせた。
――相手の攻撃後の隙を逃さないで……今よ!
 まほらまの指示通り従魔にクリティカルな一撃を与えるG-YA。
「よっしゃぁ~!」
 その背後で、稜と恭也は、巧みにVBS従魔の攻撃をかわしている。
「あなたはどうするの? G-YA」
 雨月が問いかけた。
「俺はまあ、適当に……」
 その瞬間、べちゃりと、いやな音がG-YAの背後から響いた。
「あ……」
 見れば、その背中にべっとりとピンク液がついており、じゅうううと服を焦がしていた。
「あ~」
 気まずそうに佇む日暮。
「あっ! わざとやったな……待てやゴラァー!」
 そう従魔ではなく、日暮を追うG-YA。
「ちげーっての!」
 もちろん狙ったわけでは無い、回避に専念していたらたまたまG-YAに当たってしまったのだ。
「くそ! これじゃ従魔狩りもままならねぇ」
「はあああああああ!」
 そんな鬼ごっこの最中、会場に鳥すら落としそうな覇気が響き渡った、稜だ。彼のブラッドオペレートが従魔の顔面に直撃。
 そして絶命。鍵をゲットした。
「これで、次の試練に進める」
 そう鍵から視線を上げて門を見る稜。だがその視線が、走りかけていた恭也とぶつかる。
 二人は弾かれたように加速した。
「いくでーす。キョウヤー ヒグラシー」
 そうユエリャンに肩車されながら応援する征四郎。
(まずい……)
 この時日暮に電流走る。
(あんな、純粋な子に男どもが裸でくんずほぐれつやっているところなんて見せるわけにはいかない!)
 がぜんやる気がました日暮であった。
「悪いな」
 そんな茶番を繰り広げている間に、稜と恭也は扉までたどり着いた。
 その門前で人たち切り結ぶと、衝撃で後退する稜。
 そのわずかな隙に恭也は門をくぐり鍵を閉めてしまう。
 ロックをかけている時間は三分。
 稜の持っている八分ほどではないが、場合によっては逆転できないほどの時間的差が生まれてしまうかもしれない。
 若干焦りを浮かべる稜、しかし休んでいる暇はない。攻撃はさらに飛んでくる。
「とりあえず捌き続けないと。」
 そしてステージ上まで案内される恭也。
「一番乗りおめでとう」
「ここに繋がっていたのか」
 遙華と雨月に挟まれ、第二関門の説明を受ける恭也。
「……アイドルアピールと言われてもな」
「なんでもいいのよ、ひとを楽しませられるすごいこと」
「あと、二分」
 雨月が無情に時を告げる。
 では。
 そう恭也は静かに息を吸い込むと、足をレの字で開いた。拳を腰のあたりで構え、そして。
 目を見開いた瞬間に動いた
 研ぎ澄まされた演武だった。
「型の修練にも通じる無骨な物だがな」
 審査員である遙華と雨月は文句なしで合格点を出す。
「次の会場に進んでね」
「あら、次には稜が来ると思っていたのだけど?」
「僕はここだよ」

● 激熱、料理バトル

 別のモニターを見れば稜がコック帽をかぶりステージ上に立っていた。
 場所は屋台村特設ステージ、その壇上の二つのシステムキッチン前で佇むのは『志賀谷 京子( aa0150 )  』『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001 )』チーム。
 二人は可愛らしいエプロン姿だ、アリッサはいつもの露出度高めな姿にエプロン、ファンが湧きそうな格好である。
そして『狒村 緋十郎( aa3678 )  』『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001 )』チーム。
「これから二人には、今までリンカーとして活動をする中、印象に残った料理を再現してもらうよ」
「それで、なぜわたしはここにいるのでしょうね?」
 アリッサは営業スマイルを崩さないままに京子へと尋ねた。
「当然、アリッサが36時間TVに参加するからだよ」
「……油断していました。てっきり京子が出るものだと」
「ふふふ、わたしのことは京子Pと呼ぶがいい!」
「はいはい」
「御秋祭準備編で披露した「熊鍋」この日のため更に試作と改良を重ね、今簡易の日の目を見る!」
 そう大げさに言い切る緋十郎にレミアは冷静に、落ちつきなさいと告げた。
「ルールは簡単二人に、料理をしてもらって、会場の皆さんに試食してもらって、美味しかった料理は。男性リンカープロデュースの優勝賞品になります!」
 そんな稜の目の前に正護が現れ、カンペをだす。
「え? ……はや着替え。そんな……あ、リリアの許可。あはい」
 最近調教されつくしたせいか、物わかりがよい稜であった。
「ま、まずその前に紹介させて。赤コーナーアリッサさんで。料理はなんと猪鍋」
 おおお、と会場から歓声が上がる。
「そして緋村夫妻はなんと熊鍋です、普段口にできない味が二通りもそろってしまった」
 歓声が上がる観客席。
「それでは料理を開始していただきましょう、ちなみに僕が」
 そう何かを言いかけると、稜の目の前に垂れ幕が用意される。その幕にシルエットが浮かび上がること十五秒。
 メイド服にかわった稜が幕の向こうにいた。
「僕がインタビューしながら二人のサポートをするよ」
 まずは問題のお肉。そう告げると、大きなシステムキッチンの台の上、それに収まらないくらい大きな、動物の亡骸が横たえられた。
「さて、これが主役、今日のためにアリッサが狩った猪肉! これを元に料理するよ! で、どんなミッションだったんだっけ?」
 京子が壇上の猪を叩いて言った。
「あれは寒い冬の雪山でした。従魔化した動物を狩り、その大きさを競う大会だったのです」
 そうアリッサと京子は野菜やキノコをカットしたり、肉をカットしたりと下準備を始めていく。
「堅物なアリッサが、すっごくはしゃいでたよね」
「……そんなこともあったかもしれませんね」
「今日は残念ながらただの猪だけど、あのときの獲物は巨大なキャノンボアだったんだよ」
「すごい、どうやって仕留めたの?」
 稜が問いかける。
「鹿を餌に誘い出したところをヘッドショット一発で決めようと思ったのですが、それは叶わず。かなり強敵でしたね」
 徐々に目が座るアリッサ、見ていた。アリッサは確実にあの日の猪を目の前に見ていた。
「ち、ちなみに緋十郎さんは」
 緋十郎はすでにクマを捌きにかかっていた。 肉の食感楽しめるようやや厚めに切った熊肉を、アイドルが大口開けずに食べれるよう一口大に切り、その大柄な体格に見合わず繊細な指捌き包丁さばきを見せる。
「食感柔らかく、味良く染み込むよう。一つ一つに丁寧に網目状に切れ込みを入れ」
「料理をするときは誰を思い浮かべてるんですか?」
 集中している緋十郎に替わってレミアが答えた。
「ほとんどの場合、私だと思うけど、今はあの子みたいね」
「あの子?」
「文字通りみんなのアイドル、澄香ね」
「あの子には命を救われたことがあってな」
 初めて緋十郎が口を開いた。まるで国宝級の腕前を持った寡黙な職人が等々つに口を開いたときのような感動がある。
「これからの工程は?」
 レミアが代わりに答えた。
「食感柔らかく、味良く染み込むように一つ一つに丁寧に網目状に切れ込みを入れて」

――寒い季節。
アイドルにとって大切な喉。
細かく刻んだ葱をたっぷりまぶし。
澄んだ歌声が多くの人勇気付ける事願いつつ。

味噌と日本酒で大鍋で野菜や茸と一緒にぐつぐつ煮込み。
未成年でも美味しく食べられるようアルコール分はしっかり飛ばし。
味噌味ベースの熊鍋を想い込めて調理。

 そう淡々と語るレミアの言葉に、なぜか皆、冬に閉ざされた雪山のビジョンを見た。
 何がそうさせるのだろう。わからない。
 アリッサと京子の料理は風景はとても可愛らしいのに。
「食材を後は順番に煮込みます」
「煮込みます」
 そう京子が手を上げる。そこには秘伝のスープに埋没した猪のお肉と沢山の野菜キノコがあった。みているだけで食欲をそそる。
「こちらもあとは煮込むだけだ」
「うーん、おいしそう。これはスープだけでも味見してみたいね。そう思わない? 西大寺さん、水瀬さん」
 稜に問いかけられてこくこくと首を振る二人。
 その言葉に稜はにやりと笑みを浮かべた。

● 続第二関門。

「じゃあ、よろしくG-YAさん」
 突如現れたのはG-YA。足にはローラースケートを履いていて、その場で30回転くらいしてぴたりと止まった。
「この料理を華麗に、こぼさず、西大寺のいるステージまで運んでみせる」
 そうカメラでアップ、挑戦的な眼差しが素敵である。
 そのままG-YAはよういドンも待たず滑り出す。
「あ、G-YA君」
 そう手を振るのは世良夫妻。その周囲をぐるりと回ると。
「あら、ルナがいない」
「借りてく!」
「あははははははは」
 G-YAに肩車されたまま風を切るのが楽しいのだろう。ルナは少女ぜんとした笑い声をあげる。
 そして到着。
「すごい、本当にこぼれてない」
「お味は!?」
「すごい、どっちも美味しい」
 雨月が感心したようにつぶやいた。
「僕たちは第二関門突破?」
 稜が尋ねる。
「突破ね」
「やった」
 稜とG-YAはモニター越しに手を振りあう。
 いい一体感だった。そう言う男の友情である。
「それより、雨月」
「ああ、そうね。会場に起こしの世良杏奈さん、迷子のルナちゃんが待っています」
「迷子!!」
 猛抗議するルナであった。
 直後、背後のモニターに明かりが灯り、全員が振り返る、そこにはアイリスが大きく映し出されていた。
「第二回目、鞄の中味はなんじゃろな? のコーナーじゃ」
 アイリスがモニター越しに元気に拳を突き上げると、その隣にあけびが立っているのが見えた。
「な! いつの間に」
 あけびが共鳴していないことにやっと気が付いた日暮。
「ご両親から許可は頂いてます!」
「いや俺に許可とれよ」
 そうアイリスとダブルリポーターで番組進行を続けるあけび。そんな彼女は乱雑に日暮のカバンの中身を出していく。
 鞄中身はスマホに財布、依頼用の手帳、筆箱、西陣織の匂い袋。布は白地に菊があしらわれていて上品だ。
「白檀の香りなんだよー! 持っててくれたんだね!」
「……匂いは良いからな」
 そしてごろごろと飛び出す苺菓子数種類。
「苺が好きなの?」
「っカメラ止めろ!
 がたがたと暴れ出す日暮、しかし悲しきかな、あけびはモニターの向こうの存在。
 彼は泣く泣くその光景を見守り続け、第二関門をパスした。

● 歌唱勝負三曲目
 と言っても、鍋は煮込みが完了していないスープだけの状態で運ばれてしまったので、皆に振る舞われるまで時間がある。そこで遙華は告げた。
「鍋が煮えるまでアイドルライブ、勝負三本目」
 視界の澄香といのりが、屋台村ステージに出現した。
「今回は金組はタッグでお届けするんだよね?」
「それに対抗して、銀組の司会者シロもタッグで挑むよ」
 壇上に登ってくるアイリス。
「おや、銀組のアイリスちゃん。どうしたの?」
「……っふ、ふふふふふふふ……下剋上じゃああ!!」
 そう告げると、舞台袖の沙羅を指さした。
「ふふ、その揺れない胸で壇上に上がるなぞ、観客をがっかりさせるだけじゃ、今すぐ辞退した方が胸のためじゃぞ?」
「あん?」
 沙羅が半分切れる、そして壇上へ。
「貴女はまだ見たことない魔物を見ることになる!」
「ほう」
 そうアイリスはのけぞって、沙羅を見下ろす。
「見てなさい。PVスタート」
 そう告げると。全員が舞台からはける、そしてステージの中央に表示されたのは。
 稜も映っている、あのPV。
 直後熱いサウンドが鳴り響き。
 ECCOの声が響く。しょっぱなの曲は『hack』グロリア社と彼女を結んだ曲だ。
 そして沙羅が登場する。ギターを担ぎサウンドを響かせる。ピアノはところどころが『榊原・沙耶( aa1188 )』
「今日はうちを呼んでくれてありがとうなぁ。遙華ちゃん。みんな!」
 PVはメドレーになっているようで。次は『ブレス・ユー』これは沙耶が歌うようだった。
 その間にECCOはピアノを代わり、沙耶は沙羅の衣装イメージプロジェクターで変更する、夜を総べる月の女神。白と銀の間のような色合いのドレスは彼女にとても合っていた。
 そして『ホープレスエンディング 』『夜宵の音~Heal~』と謳い継ぎ。
「最後の曲になるわ」
 沙羅とECCOは視線を合わせて微笑みあった。楽しい。その気持ちだけが二人の中で飛び交って。
「「氷の鯨」」
 まるで深海の底にいるように青い光が二人に降りる、そして二人は声を響かせ合うように歌った。
 衣装が変わる、とてもシンプルな白いワンピース。それにはさまざまな映像が投射される。
 まるで彼女達から思い出が溢れていくように。
 歌詞を口ずさむごとに、悲しみを増していくECCOの表情、その頬に伝う涙を、沙羅は拭い取って口ぱくで告げる。
『だいじょうぶよ』

《巡るだろうあの子のいない日々を思い 涙を流します
 どうか、どうか、あの子の笑顔だけ、もう一度見られませんか?》

 場が、感動のため息で満たされる、尾を引く余韻。それをぶち壊しにするのが。
 アイリスの存在であった。
「そ、そんな曲を謳ったところで貧乳はどうしようもないのじゃ」
 ECCOのナイスプロポーションに若干ビビりながらアイリスが告げる。
「みておれ、これが持てる者の曲『乳・ラプソディ』」
 その直後である。アイリスの頭上からたらいが降ってきた。それがアイリスに命中。
 そのまま気絶。
「まぁ、アイリス、面白かったわよ」
 そう遙華が告げ、足を持って引きずりながら退場。
「シロよろしくね」
 直後気を取り直して澄香が告げた。
「私一人ですか! 訊いてません!」
「大丈夫だよ、たぶん」
 少なくとも空気は味方してくれている、そうウインクで蘿蔔に告げると。
 蘿蔔は意を決したように頷き、ふわりとスカートを舞わせて壇上に上がった。
――レオ、よろしく頼みます。
『レオンハルト(aa0405hero001 )』は呆れて告げる。
「頼むって、ほとんど全部じゃないか!」
 そしてギターをかき鳴らす、直後広がるサウンド、モニターに表示されるのはオレンジ色に染まる朝焼けの街並み。
「カナタ! VER オレンジ」
 その光に照らされて、逆光で暗く映りながらも、蘿蔔はギターをかき鳴らす。
《彼女を知っていますか? かつて駆け抜けたどこにでもありそうな物語》
 そう蘿蔔は謳いながら、その光の向こうに彼女を見た。
 その背中、迷って、でも悲しんでいる時には人に手を差し伸べられる。
 自分が苦しくても、誰かのためなら頑張れる。
 そう先へ先へ進もうとする背中。
 そんな彼女を、忘れたくない。忘れないために。
「かなちゃん!」
 そう蘿蔔は大きな空に手を伸ばして、叫んだ。
 そんな少女を、真っ白な少女が見つめていた。
「ららら?」


● ちょっと休憩

 遅れたお昼ご飯の時間が、皆に与えられた。
 それと同時に完成する鍋。
「召し上がれ!」
 京子が蓋を開くと、遙華や雨月がそれをよそっていく。
「さあ、できました。野趣溢れる、牡丹鍋山賊風。温まりますよ」
 アリッサが得意げに胸を張って告げた。
「おいしぃなぁ」
 さっそく堪能している夕燈。
「月鏡さん!」
 人ごみに翻弄されている由利菜とウィリディスの救出に成功する京子であった。
「へぇ、これは何の鍋なんですか?」
「猪です」
 その言葉に絶句する二人。
「この時季の熊は、冬眠に備えて栄養たっぷり蓄えていて、美味いぞ。
もう20年も前の話になるが……俺の故郷の村では今の季節よく食べていた。
ワイルドブラッドの隠れ里に伝わる秘伝の熊鍋だ、とくとご賞味あれ……!」
 澄香と『クラリス・ミカ(aa0010hero001 )』は二倍の量を受け取ってがつがつ食べ始めた。
「おいしいよ、いのりもシロも食べなよ」
 よかった、そう緋十郎は満面の笑みを浮かべる。
 澄香が心底楽しそうにしている瞬間も緋十郎にとって、至福の時間であった。
 それとは逆に若干緊張する蘿蔔。クマという食材に緊張しているわけでは無く、クマがおいしくなかった場合、自分が反射的に見せてしまった反応に緋十郎たちはどう反応するか心配なのだ。
「クマ肉は嫌か?」
 そしてその反応に緋十郎はかつて育った村を思い出す。
(そういえば幼馴染の娘は熊肉が嫌いだと言っていたな……丁寧に調理し臭みを極力抜いたこの鍋なら。あの娘も食べてくれただろうか……)
 そんな小さくなってしまった背中をバシッとレミアが叩く。
 その無言のやり取りに何か感じ取った蘿蔔は一思いにお肉にかじりついた。
「美味しいです! 美味しいですよ遙華」
 そう。お椀を差し出す蘿蔔。しかし遙華は淡々と鍋をさらによそい続けている。
「後で食べるわ、ありがとね」
 そのお玉を奪い取って蘿蔔は言う。
「寝なくて大丈夫ですか?無理はだめですからね。あ、でも私の出番の時は寝ちゃだめです」


● 孤児院訪問
 グロリア社と懇意にしている孤児院がある、一度ボランティアということで、そこの子供たちを触れ合う番組撮影を行ったことがったが、今回はそこの少年少女に来てもらっていた。
 純粋に、この祭典を楽しんでもらうため。それ以外に、未来ある子供たちにリンカーたちは聞いてほしいことがあったからだ。
「おう、元気がいいな」
 そう嬉しそうに遊夜は子供たちを見渡す、ユフォアリーヤもさすがになれている様子で子供たちとあっという間に仲良くなってしまった。
「俺達、絵本を作ってきたんだ」
「……うちの子たちと書いてきた」
「うちの子?」
 子供が問いかける。
「そうだ、少年たちと対して変わらない、うちの元気なチビどもだ」
「会ってみたいな!」
「……ん? 呼んでくる?」
「みんなひさしぶり」
 そう姫乃、いや、姫菜はいつもと違う、輝くような姿と微笑。明るい声で子供たちに挨拶するが。誰にも気が付いてもらえない。
「あれ、なんで初めて会う人間を見る目をしているの?」
 そんな姫菜の正体に気が付いたのは、結局車いすの少女だけだった。
「久しぶりだね」
 三浦ひかりは姫菜の手を取って先導する。車いすは自走式で、姫菜は少し前のめりになりながら、彼女が先導する地帯まで歩いた。
 そこに何があるわけではない、ただ扉から遠く、人も来ない、人に邪魔にならない場所というだけだった。
「今日はみんなで遊ぼうと思って面白い物もってきたの」
 そう姫菜が取り出したのは分厚い本。
「【卓戯】でテーブルトークRPGのルルブ有り余ってるから普及してみようかな」
 それを見て光の表情が輝いた。
「私好きだよ」
「GMは私がやるから」
 そう年長組を集めてゲームに没頭する姫菜。そんな姫菜にひかりは告げる。
「お姉ちゃん、会いたかった」
 そう微笑んだ少女の顔を見て姫菜は頬を赤らめた。
 そんな姫菜たちが集まる騒がしい教室の隣では、やや幼い子供たちが集まっていた。その少女の真ん中で本を読んでいるのは蘿蔔。
 これは彼女とクラリスの手作りである。
「昔、あるところに水晶の女の子がいました」
 そうページをめくる蘿蔔。それはデフォルメされてはいたがクラリスが見た『ほろびのうた』作戦そのものであり、主人公はルネそのものだった。

「彼女は言いました。みんなのお話が利きたい。そう彼女はみんなが楽しく暮らしているのを聞くのが大好きだったのです」

「彼女はそれがみんなを守る力になるといいました」

「歌う。みんなのために、自分の身がどうなろうと。そして魔王を倒すと決意しました」
 
 その時、蘿蔔のページをめくる手が止まった。
 自分の身がどうなろうと、構わない、そう言って強大な敵に戦いを挑んだ少女を思い出したのだ。
 だが、その震える手に別の手が重なる。
「春香さん」
「遅れてごめんね、蘿蔔ちゃん」

 そして二人はページをめくった。

「水晶の乙女は、みんなの思いを束ねて、魔王を倒しました。みんなの願いが彼女に力を与えたのです」

「そして役目を果たした水晶の乙女は、別の助けを必要としている場所を目指して旅を始めました。めでたしめでたし」

 そう二人は本を閉じる。
 だが絵本はそれだけで終りではない、今度は遊夜とユフォアリーヤの番。
「昔、空っぽの女の子がいたんだ」
 遊夜がポツリポツリと語り出す。
「その女の子は、人の役に立つ何かになることが決められていた。だからみんなその子が生まれたことを喜んだんだ。みんな、彼女が求めるままにいろいろ教えた」

「幸せや、倫理。家族や、正義。知識。お前たちも今勉強しているようなことだ」

「……ん、みんなと似てる」
 ユフォアリーヤが言う。
「けどな、ある時。失敗作だって、言われちまった」
「人の役に立つためには、今すぐ自分が死なないといけない。死なないためには永い眠りにつかないといけない。けど目覚めた時に。俺達はいないかもしれない」
 そう広げられたのは少女が苦悩する絵だった。
「そして、あの子が選んだのは、いつ溶けるかもわからない、眠りだった」
 遊夜は思い出す。彼女が自分たちと築き上げた思い出を、失いたくないと、でも別れるのは悲しいと涙した姿。
 沢山の葛藤と後悔があっただろう。
 人の役にたてなかった罪悪感、みんなの努力に報いることができなかった申し訳なさ。ここで消えてしまうことに対する理不尽な怒り。
「でもな、チビども。今は聞いておいてそのうち思い出せ。こういう決断を下さないといけない時っていうのは人生で必ず来る」
「……ん、その時、何が大切か、ちゃんと決められるように生きてね」
「おじちゃんは、何が大切なの?」
 おじちゃんという言葉に引っかかりつつも遊夜は答えた。
「家族。だな」
 遊夜は今でも思い出せる、凍結される瞬間。
 彼女が自分たちに告げた言葉。
『お父さん……お母さん』
 だから二人はきっと待ち続ける。その帰りを。
「エリザ……ま、盛大な娘自慢だな
 そう微笑む遊夜。
「……ん、だね」
 そう笑みを返すユフォアリーヤ。
 そんな二人の前を怪しい影が横切る。
「鞄の中味は難じゃろな、パート4じゃ」
 アイリスである、そしてカメラマンは雨月である。
「……重たい」
 げんなりした表情の雨月。
「おお、カメラ殿、こっちに面白そうな私物を見つけたんじゃ」
 遊夜の荷物である。背中に背負うバックパックで、なかなかに大量の荷物が入っていそうだ。
「あの、あんまり激しく動かそうとしないでくれない?」
「おお、これは開けてもよいものかのう」
「どうぞ?」
 遊夜はニヒルに笑って開封を許した。
 中身はテントに寝袋、防寒具一式に通信機。
 非常食に新型水筒、ダストスポットなど遭難に備えたアウトドア系が中心である。
「な、なにしにここに来たんじゃ!!」
「どこで何があるかわからんからな、備えは大事だぞ」
「備えるにしても限度があるじゃろ!」
 その荷物の影に隠れていた、新たな荷物を発見するアイリス。
「これをあけても?」
「……ん」
 妖艶な笑みでそれを許すユフォアリーヤ。中身はなんと。
 クリンナップボードやマッピングシート救急医療キットやメイクセット等。
「おお、真面目じゃ、普通じゃ、しかし参考になる」
 そう言って鞄のおくに突っかかっていた最後の何かを勢いよく抜き去るアイリス。
 そのてに握られていたのは。
「惚れ薬?」
 ユフォアリーヤが視線を逸らした。
「そして睡眠薬?」
「……ん、内緒だから、ね?」
「なんにも内緒にできてないぞ」


●勝者は!
 
 第三関門。ピンク液が垂れ流されるフィールドを踏破し、マイクを掴めと言う。企画にて。
「くっ!」
「はぁ!」
 山頂付近の、滑りやすい一帯でつば是りあっているのは恭也と稜。
 ちなみに彼らは長いことここで戦っていたので靴はおろかズボンもほとんど解けて短パン小僧状態である。
 しかも足場は心もとなく、力が全く入らない。そんな万全の力を出せない状況でも二人の上着はほとんど溶けていない。
「おお、波が来るぞ!」
 そう叫んだのは日暮。彼は多数存在する他のリンカーを盾にその波から逃れると、倒れたリンカーたちの上を渡ってマイクまで走る。
「カード、カード」
 そして特殊効果の描かれたカードの取得を狙うが。引いたのはトラップカード。
「またかよ!」
 大量のピンク液に押し流される日暮、ジャケットも、ズボンも全て溶け始める。
「おお、そして意外と目にくるな。これ」
「ヒグラシ。右なのです」
 その声に導かれカードを手に取ると、それはヒールカードだったらしく、さらしてはいけない部分を残して、服の溶解が止まった。
 声のした方を見て見れば、リュカや征四郎と言ったなかよし組がそこにいた。
「負けてられないな」
 そう、日暮が改めて頂上を見ると、そこにはなんとG-YAが立っていた。
「すごい、最初の到達者が出ました」
 遙華が煽る、そして観客の完成の中、G-YAは息をすいこみ、そして。
「ぽっぽっぽー、はとぽっぽー」
 会場全体が……無言になった。
「まーめが、ほしいか」
「せい!」
 さくり。そんな軽快な音をマイクが拾ったかと思うと。G-YAはわずかに呻き坂を転がり落ちて言った。
「うわ! 予想以上に滑る、とまらな」
 ボーリングのピンをなぎ倒すように、他のリンカーたちを巻き添えにするG-YA。
 そして代わりに稜がマイクを取る。
「く、やられた」
 あわてて恭也が刃を振るうが、ガードカードの効果に阻まれて攻撃は通らない。
「歌います」
 稜はマイクに手を重ねるとBGMが流れ出す。
 持ち歌の中から得意な物をチョイス、歌い上げる。

《この身は何時か 朽ちて行くでしょう 
 凍える世界の中で出会いはやがて
 別れに続く誰もが知る運命だから
 記憶の彼方 嘆きの調べ 届かぬ声、悲哀の雲》
 
 その間、ずっとシールドを叩き続ける恭也、その覇気が稜を精神的に圧迫する。
 しかし、それに負けていてはアイドルは務まらないんだという確信があった。 

《 涙を流しなさい その歩みを已める程に 心傷つき叶わぬ時! そうね、何もかも壊せてしまえば楽でしょう》

 そう、例えば。目の前にいる鬼神のごときファンもいるかもしれない。興奮で大剣を会場に叩きつけちゃうファン。いるかもしれない。
 ただ、そんなイレギュラーがあっても歌い続けられるもの。それがアイドル。
 それを稜は、行動で示そうとしていた。ただ。 

《 それでも守りなさい! 愛するものを全て 戦い疲れても立ち上がり 微笑みを迎えるその》

 ビシリと響き渡る音。次の瞬間。
 唸りを上げる刃。それが。ステージごと稜を叩き切った。
 衝撃波で坂道を転がる稜。その衣服は見る見るうちに溶けていく。
「だめ! 稜を確保して、モザイクかけて。上半身の衣服が溶けないうちに」
 遙華がさけんだ。
「ボク、男だから。ごは」
 そう告げて意識を失う稜。 
 そんな彼を見下ろしながら、恭也はマイクを握った。

   *   *

「恭也の事だから演歌でも歌うかと思ってたのに」
「そんなわけで、優勝は御神 恭也さんです」 
 雨月がその名を高らかに読み上げる。
「俺は洋楽を歌うのがそんなに意外か?」
 すると会場から拍手が上がった。そして会場端っこでバスタオルを体に巻きつけられている、リンカーたちも惜しみない拍手を送る。
 ただ、残念なことに画面外であけびは日暮からひどい説教を受けていたが。
 さらに残念なことに、稜は、水泳のときに女子が着替えるための、こう肩のあたりから全身をすっぽり覆うタイプのバスタオルをかぶっていたが。
「僕男だよ!」
「では、優勝賞品、楽曲とライブの権利、そして猪鍋と熊鍋です」
 京子と、緋十郎が屋台村の中心で手を振っている映像が、モニターに大きくうつされる。
「結局二つともなのね」
 雨月が言った。
「ええ、甲乙つけがたいみたいで。そして食材がなくなるまで、屋台村で配ってもらっているわ」
 遙華が言う。
「そして、ここでめでたく、新しいアイドルリンカーが生まれたところで、別の新人さんを紹介しようと思うの」
「そんな人がいるの?」
 雨月が問いかける。
「ええ、せっかくだからこの場にいるみんなで、そのライブを堪能しましょう」
「千尋とアルトよ!」

●新人リンカー対決

「何処からともなく現れた、期待の新人! 本日いまこの瞬間に、デビューです!」
「これから始まる伝説の目撃者となれ!」
 そう蘿蔔が煽り文句を謳いあげると香菜は呆れたように告げた。
「これ自分で書いたんでしょ。よく書けるよね、ホント感心するよ」
 そんな言葉を気にせず千尋はノリノリで壇上に躍り出る。 
 派手な髪飾りを揺らす割には、テンポが遅いバラードを口ずさみ、会場を魅了していく。

《ねぇ、君に逢いたいよ。いつかの時みたいに。ここへきて。私の手を取って、話さないで》

 そんなラブバラード。 
 それを切なげに謳いあげる千尋は輝いていた。
 その輝きを際立たせるため、徐々に暗転。
 そしてクライマックスで灯りが灯り。
 プロジェクターで投影された光の花びらが周囲を待った。
 あまりの光景に我を忘れる観客たち。
 その花びらが反転。地上にふるのではなく空に戻って行く。そして。
「なんであたしが……。ピアノ担当じゃ」
 ステージの中央がライトアップされ、見えたのはアルト。
 彼女は一心不乱に鍵盤をたたいているが、口元にはインカムが当てられている。曲は『ダスト』ECCOの描き下ろしの曲である。
「む、難しかった」
 そう引き終り歌い終わると、突如背後のモニターに映し出される楽屋。
「鞄の中味はなんじゃろなー。パート、いくつか忘れてしもうた」
 そう笑いながらアイリスが鞄を漁り始める。
 するとアルトの表情が歪み。次いで脱兎のごとくステージを駆け下りて言った。
「おお。これはこれは財布、筆記メモ、タッパー、お菓子、楽譜、タッパー。アイアンパンクの調整用の器材じゃな、それと、タッパー、タッパー、タッパー・あとは、ハートのシールで止められた、手紙? くしゃくしゃの紙屑? これはなんじゃ?」
「おおおおい! 何してんだ!」
「こんなにタッパーを持ちあるいてどうするつもりなんじゃ」
「………………なにも」
「何もしないわけがないじゃろう」
「大切な物を見つけた時に保存する用だよ!」
「ちなみに手紙は誰当てなのかの?」
「誰でもいいだろ! 返せ! 触るな!」
 そう、どたばたと液晶の向こうでケンカを始める二人、しかし結局アルトに鞄を取り上げられてしまい。挙句AGWまで突きつけられる始末。
「ぐすん。しかたないのじゃ。余った分は別のカバンを漁るとするんじゃ」
 そう言うと、アイリスのことを気の毒に思ったのか雨月が告げる。
「わたしのカバン見てもいいわよ?」
 小さい、持ち運びしやすそうな鞄が、モニターにうつされる。
「電話、ティッシュ、ハンカチ、参考書、チョコレート」
「どうかしら」
 雨月が問いかける。
「普通」
 アイリスが告げる。
「もっと他に何かないのかの?」
 そう告げると、鞄の中に入っていた幻想蝶から黒い本が出現し始める。
「ネクロノミコンとかだしといたほうがいい?」
「しまって!! 早くしまってほしいんじゃ!!」



● ラストステージ

「さあ、今日も最後になっちゃったね。いのり」
 そうステージ中央で澄香は告げた。
「うん、そして僕たちがおおとりだ。しっかり努めようね、澄香」
 決して離さない、そんな思いが伝わるぐらいに澄香の手を握りしめるいのり。
 次いで、二人の背から翼が広がった。
 エンジェルスビットを最大まで展開させて、その音を、思いを会場全体に広げていく。
「金組の最後を飾るのは僕らだよ」
「聞いてください、ルネメドレー」
 そう壇上から飛び降りる瞬間に共鳴。アイドル衣装を身に纏い、二人はエンジェルスビットに乗って飛んだ。
 まずは希望の音。すべての始まりの曲をアルトや沙羅の伴奏で盛り上げる。
「続いていくよ!」

「「春風の音~ルネ~『Thanks』」」

 ありがとうの気持ちを込めたその歌を歌いきると。
 ステージが中心から光あふれる世界と暗闇の世界に替わった。
 その中心で澄香は『太陽の音』を謳う。
 空に咲かせたのは、ブルームフレアによる太陽。エンジェルスビットに銀の魔弾を跳ね散らせて、会場に光の雨を降らせた。
 エンジェルスビットにはミニスミカそして、背中に透明な花を生やした妖精澄香。
 可愛らしいステージに、観客たちはあちらこちらへと視線を向ける。
 まるで光の祭典だった。
 しかし、どんなに輝かしい世界にも夜が来る。
 消えていく光、会場は闇に包まれた。
 しかし、いのりだけは輝きを失わない『月の音』
 いのりのピアノソロ。そしてエンジェルスビットが霊力を帯びて輝きそれが円のように配置された。
 月の輝きは常にみんなと一緒にある、そんなメッセージなんだろう。
「僕の輝きを忘れないで、夜にそっと見上げて、きっと道しるべになれるから」
 そしていのりの声に澄香の声が重なった、テンポが溶けあい。音が溶けあい。朝と夜が溶けあって。
 世界が生まれる。
『空の音』それは二人の集大成。降り無し育みたどり着いた。ルネへの自分なりの答え。
 二人はステージ上で手を重ねた。
 この温もりがある限り、大切なものは見失わない。
 そう二人は、背中合わせに別々の光景を見た。
 けれど目指す場所は同じで。
 そんな二人の曲がおわると、背後のモニターに、『あんじゅー』とだけ表示された。
 それにあわせて観客がコールを重ねる。
 スモークがたかれ、散乱する薄紫やピンク色のライト。 
そして最後に、レーザー光のブリッジから、杏樹が登場した。
 沸き立つ会場。
「初めましてあんじゅーです。皆に癒しをお届けしたいそれが私の願い」

《大丈夫
 貴方は言うけど
 私知ってるよ
 無理してる事》

《大丈夫?
 貴方が頑張るの
 私知ってるよ
 誰も見てなくても》

《皆を応援したい
 それが私の願い》

 そう華やいだように、会場の人々が熱狂とは違う笑顔に包まれた。
 間奏では扇子を広げ、舞を踊るその姿にみなが見惚れる。
 
 その背景のモニターには杏樹からのメッセージが浮かび上がる。

「無駄な努力なんてないの。貴方の頑張り誰かが見てるの」

 それは、アイドルになりたいと願い努力したその夢がかない始めている。
 それはみんなのおかげで、 その結果今実を結び始めてる
 だから今後もみんなを癒していきたい、そんなメッセージ。

● ラストソング。
「これで、ライブバトルは終了です」
「後は、結果発表」
 澄香といのりの赤くなった頬をお互いがぬぐいながら、そう宣言した。
「と、思ったけど。みんな、それを望んでない……のかな」
 そう告げながら千尋が壇上に躍り出て告げた。
「憧れの澄香ちゃんやいのりちゃんと一緒にアイドルライブバトルさんできる日が来て嬉しい。あ、でも、なんやろ……一緒に歌って、みんな笑顔にできるんやったら、うち、それが一番嬉しいかもなぁっ! 色々嬉しい、楽しい。もっと誰かに届くと嬉しい!」
 そう夕燈がはしゃぎながら澄香に抱き着く。
「歌は、誰かと競う物ではなくて、心を繋ぐもの」
 そう告げて由利菜も前に。
「遙華、雨月ちゃん行こう」
 そう二人の手を取って駆けだす春香、彼女もアイドル衣装を身に纏っている。
 いつの間にか壇上にはいリンカー全員が集まっていた。
 当然理夢琉も、アイドル衣装に身を包んで登場した。
 最後に登場したのは姫乃。ひかりの車いすを押している。
「番組連れて来たからさ。――歌ってみなよ」
「え? いいの?」
 姫乃は頷くと、会場の全員に向けて告げた。
「聞いてください、ユートピア」

《ここから旅を始めよう あるのは意思と希望 僕らの夢のみ。
いわば始まりに詠う詩 いつか軌跡と謳われる物語 今はじめよう》

 その歌は高らかに響いて。

● エピローグ
「イリスのファンには《守られたい派》《守ってあげたい派》《どっちでもいい派》がいるらしいよ」
「なにそれ初耳」
 アイリスがジュースを手渡すとイリスはそう驚いた。
「愚神のように罵られたい人達もいるらしいね」
「なにそれ初耳」
「イリス、眠いだろう?」
「なにそれ初耳」
 無理をするイリスを抱え上げ、仮眠室に連行する澄香である。
「ねえ、どうだった?」
 自分たちの出番が終わった解除を見つめながら千尋は相棒に問いかけた。
「キミはいつもどおり可愛かったよ。でも、残念だな……」
「……?」
「キミの可愛らしさは、僕だけで独り占めしたかったのにな」
「ふう。もっと真摯な感想を聞きたかったわ」
「ええ、僕はこんなに真剣なのに、どうして信じてくれないのさ」
 そう笑い合う二人、彼女らだけではない、今回参加した全員が気だるさを抱えながら笑い合っていた。



結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避



  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • ~トワイライトツヴァイ~
    鈴宮 夕燈aa1480
    機械|18才|女性|生命
  • 陰に日向に 
    Agra・Gilgitaa1480hero001
    英雄|53才|男性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • フリーフォール
    エリックaa3803hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中



  • 崩れぬ者
    梶木 千尋aa4353
    機械|18才|女性|防御
  • 誇り高き者
    高野 香菜aa4353hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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