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ショッピングとストーキングはご一緒に
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ショッピング?ストーキング?
最終発言2016/11/23 13:51:20 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/11/22 19:27:27
オープニング
●初めてのプレゼント
大人の女性は、クリスマスプレゼントになにを欲しがるのだろうか。
真っ赤な口紅?
キラキラのネックレス?
それとも、別の何か?
「……これだけあれば買えるでしょうか?」
エステルは、財布の中身を確かめる。
化粧をしたことがないエステルは、口紅がいくらするのかもわからない。だから、財布に五千イェンを詰め込んでデパートに買い物に出かけることにした。今はちょうど、クリスマスに向けてのセールをしている。プレゼントを購入するには、うってつけの季節だ。
「アルメイヤ、ちょっと買い物に行ってきます。夕方には帰るから……」
『絶対にダメだ! ハロウィンのときだって、そうやって事件に巻き込まれただろう。私も一緒に行く』
アルメイヤは、鼻息も荒くそう宣言する。
たしかにエステルはハロウィンの大変な目にあったが、リンカーの仲間たちに救出されて事なきを得た。だが、さすがに同じ目には合わないだろうし、クリスマスのプレゼントはアルメイヤに内緒で買いたい。
――そう、クリスマスのプレゼント。
エステルは、それを買うためにデパートに行きたかったのだ。
「ええっと……その、アルメイヤには内緒のものを買いに行きたいんです」
エステルの一言に、アルメイヤはショックを受けた。
『そうか……わかった。エステルにも、プライベートはあるんだもんな』
その背中は、反抗期の娘を抱える父親のものに似ていた。
●かけこみ寺ではありません
『絶対に、絶対に、気になる男の子ができたんだー』
アルメイヤは、HOPEの支部で叫んだ。
職員は、この人って友達いないのかなーと思った。
『エステルがお金を貯めて買い物に行くなんて、気になった男の子にプレゼントを買いに行くに違いない!! エステル!! いつかは幸せになれとは思うが、結婚はまだ早い!』
「法律的に無理な妄想はしないでください」
この人の行動は暴走と大暴走しかないのだろうか、と職員は思った。
『クリスマスプレゼント買うのを妨害したいヤツ。ここに集まれ!!』
いったいこの人は、何をやっているのだろうか。
職員は、本気でそう思った。
●一方、そのころエステルは
「……お店って、いっぱいあります」
エステルは、目を丸くしていた。
デパートの一階の化粧品フロアには、さまざまなブランドがはいっていた。どのブランドも初めて見るものばかりで、エステルは目を回す。奥にはアクセサリーの店もあったが、こちらはびっくりするぐらいに効果だ。
「あわわわわ、化粧品もアクセサリーもいっぱいで高いです」
誰かにアドバイスをもらわなければ買えそうにない。
「困りました……」
エステルは、はっとする。売り場で、支部で見たことがある人々を見つけたからである。彼らにアドバイスをもらおうと、エステルは駆け寄った。
●アルメイヤの行動
『エステル、こんなところで男の子と待ち合わせをしているのかっ!』
店員は、困っていた。
アルメイヤが店の商品棚に隠れて、エステルを覗き見ていたからである。
「何やってるんだよ。こんなところで……」
アルメイヤのあんまりな奇行に、リンカーたちは声をかける。実は彼らも、プレゼントを自分たちに秘密にして買いに来た相棒たちの行動が気になって跡を追ってきたのだ。
『見ればわかるだろ!』
「……ストーキングか?」
アルメイヤの行動はまさにそれであった。
解説
・エステルとクリスマスプレゼントを選びながら遊ぶ、あるいはアルメイヤと共にストーキングしてください。
※このシナリオでのお金の単位はイェンとなります。
・デパート……広々としており、商品が充実している。平日のために客は少ないが、どのフロアも商品棚が多いのでストーキングに最適。
地下――食料品店
デパ地下。お菓子からおかずまで、たくさんの商品が並ぶ。一番人気はチーズケーキ。
1F――化粧品およびアクセサリー
ブランドの化粧品とアクセサリーが並ぶ。超高級ブランドばかりなので、口紅でも五千イェン以上。
2F――女性衣料品
若干安めのアクセサリーと化粧品もこのフロアで取り扱っている。
3F――男性衣料品
ネクタイピンなどの男性特有の品物もこのフロアで取り扱う。
4F――おもちゃ売り場
クリスマス用のパーティーグッツも取り扱う。
5F――イベント広場(現在は世界のクリスマスグッツ展示および販売を実施中)
高級なガラスのクリスマスツリーや高級なサンタの置物を取り扱う。
こ商品はすべてガラスケースに入れられており、一番安い商品でも十万イェンほど。
屋上――遊園地
観覧車とメリーゴーランドのみの小さな遊園地。古くて人気があまりない。
・エステル――デパートでの買い物は初めて。品物の多さと高価さにおろおろしている。一緒にプレゼントを選んであげると喜ぶが、プレゼントのことをアルメイヤには秘密したい。アルメイヤと鉢合わせしてしまうと屋上まで逃げて観覧車のなかに引きこもる。
・アルメイヤ――エステルのいるフロアのどこかにいる。エステルの近くに男が近寄ると「私のエステルはやらん!」と切りかかろうとする。エステルがなにを購入しても、男性へのプレゼントだと解釈する。買い物が一通り終わると、エステルの近くにいる男性PL(いなければ客のモブ)がエステルの恋人であると勘違いして、エステルたちの前に現れようとする。
リプレイ
●プレゼントに刺激物はNGなのです
クリスマスまで、あと一か月。
気の早いデパートは、早くもクリスマス商戦の真っ最中であった。いつもよりきらびやかに飾り立てられた商品にかこまれたエステルは目を丸くしていた。
「ゼロが一つ多いです……」
美しいケースに入れられた口紅は、エステルの予想をはるかに超える金額であった。
「……チョーカーに腕輪、コートや靴は以前買った……次は」
エステルと同じように、化粧品コーナーで悩む男が一人。
麻生 遊夜(aa0452)であった。
「……やはり指輪かね、欲しがってたしな」
できれば、普段使いができるシンプルなものがいい。
ペアでイニシャルを刻めて、と遊夜は店員に自分がイメージするプレゼント像を説明する。店員は「こちらなんていかがでしょうか? 黒くてシックですが、女性のほうはラインが入っていますので華やかに見えますよ」と一対の指輪をショーケースから取り出した。
金額を見た遊夜は、思わず苦笑した。
「ま、男の意地って奴だな」
大人の男性がこの時期に高級なコーナーにいると、ものすごく甲斐性があるように見える。同時に買い物に慣れた、頼りになる保護者の香りもした。この人と一緒だったら――いいものが選べるような気がする。エステルは、そう感じていた。
「あー、男性用のアクセサリーはこのフロアじゃなかったんですね」
桜小路 國光(aa4046)はうきうきしながら、別のフロアに移動しようとしていた。今日は、季節限定のアクセサリーを購入するためにデパートやってきたのだ。ところが、その途中で異様な集団を見つけた。
遊夜を取り囲む、人間とペンギンの群れ。
なんだか見覚えのある顔ぶれだなー、と國光は近づく。
「わぁ! 私も英雄のリオンへのプレゼントを選びに来たんです! 一緒にいいプレゼントを選びましょうね」
藤咲 仁菜(aa3237)は手をたたいて喜んだ。
買い物は一人よりも大人数の方が楽しいに決まっている。
「初めまして、フィアナ、です。よろしく、ねー。誰かへのプレゼント、なの? 女の人?」
真相の令嬢のような雰囲気のフィアナ(aa4210)が、楽しそうにエステルに尋ねる。ちなみに彼女の頭の中から、一緒に来ていた英雄の存在は忘れられていた。
『外見はなかなか立派に大人だが、中身は子供というところか』
何度もアルメイヤと一緒に行動をしたことがあるナラカ(aa0098hero001)が、彼女からみたアルメイヤの印象を伝えた。エステルは少し困ったように、その言葉に付け加えた。
「アルメイヤという女性の英雄です。ただ、私はクリスマスプレゼントなんて送ったこともなくて……」
自身なさそうにうなだれるエステルの肩をぽんと叩いたのは、ペンギン皇帝(aa4300hero001)である。
『贈り物か……親しき仲なれば、なんでも喜ぶと思うが』
「それでも出来るだけ喜んでくれる物を贈りたい、という気持ちも分かりますからね」
酒又 織歌(aa4300)は深くうなずく。
こういうとき、親しければ親しいほどに迷ってしまうことはよくあることだ。
『ペンギンちゃん……』
鬼雨 ナルミ(aa4605hero001)は、その隣で初めてみるペンギン皇帝に目を輝かせている。その視線に気が付いたペンギン皇帝は手(翼かもしれない)を差し出した。
『本日の買い物はよろしく頼むぞ』
ナルミは「握手なんですね!」と飛び跳ねて喜んだ。
まるで、水族館にいるかのような光景だ。
『良いね、エステル。俺もその心意気、見習いたいモンだ』
ファルク(aa4720hero001)は、腕を組みながらも逃げ笑いをする。大人になると忘れがちだが、大切な人のことを思い浮かべながら物を選ぶのは大切な経験だ。
「プレゼントについてはそうですね……。感謝を込めた物ならなんでも喜ばれそうですが、あまり高級品を渡すのもどうかと?」
切裂 棄棄(aa4611hero001)は周囲をきょろきょろと見渡す。子供がプレゼンとして購入するには、このフロアの商品はあまりに高価すぎる。
『なので、普段使いそうなもので、かつ程よいお値段の物……下着あたり、いいかもしれませんよ?』
棄棄の言葉に、少女たちの頬が赤く染まる。
『良い下着を着ると、身も心も引き締まりますので。きっと感謝感激雨あられですわ?』
棄棄は赤フンドシ健康法的な意味合いで、下着を進めた。
別におかしなことではない、この世にはプレゼント用のおもしろ下着も存在する。だが、年ごろの少女たちの想像したものは違った。
「棄棄さん……さすが大人ですね」
仁菜の頬は、真っ赤に染まっていた。
きっとフリルたっぷりな「あっはん」な下着を想像したのだろう。
「私も下着は、ちょっとはずかしいかも」
フィアナも顔を隠して、きゃっと悲鳴を上げる。
きっとヒモがついている「うっふん」な下着を想像したのだろう。
織歌もそっぽを向きながらも、耳は大きくなっていた。
きっと面積の小さい「いやーん」な下着を想像したのだろう。
『下着か。プレゼントなら、シルクなどどうだろうか?』
さすがにナラカは、棄棄は言葉の意味合いを正しく理解していた。
『お話を聞いているとアルメイヤちゃんって、白いシルクの下着が似合うんじゃないんですか! 想像すると、かっこいいですよね』
ナルミの無邪気な一言に、エステルは知恵熱出して倒れこみそうになった。
隔離されて育てられたエステルには、大人の女性の下着姿は刺激が強かったのだろう。
「うわぁ、エステル! チャームビーズを見に行こうか。俺のお勧めだよ」
倒れそうになったエステルを支えた國光は、下着の話をむりやり終わらせる。
棄棄は物陰で『下着案却下される』という電報のようなメールをうっていた。
●ストーキング集団
君建 布津(aa4611)は、携帯に届いたメールを読む。
『下着案却下される』
一体、あちらは何の会話をしていたのだろうか。アルメイヤがエステルのストーキングをすると知った時から棄棄にはスパイを頼んだのだが、この様子ではあちらも相当な混乱がおきているようである。
「いやー火急の依頼というので来てしまいましたが……これはそう、かの有名な子供のお使い、みたいなアレで?」
布津は、できるだけ穏やかな表現を浮かべた。
だが、無理があった。
『エステル! 一体、誰にプレゼント選んでいるんだ!! 恋人か、恋人なのかっ!』
アルメイヤは長身を器用に商品棚で隠しながら、エステルたちを観察していた。その隣で、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)が似たような体勢で遊夜を睨んでいる。
『……ボクに隠れて、こんな所に』
ゆらゆら揺れる尻尾が、嫉妬の炎に見えてちょっと怖い。
「ニーナがこっそりデパートに……!? 俺に内緒で? 世の中はもうすぐクリスマス、もしかして恋人でも出来た!? あんな素直で可愛いニーナが俺に隠し事なんて……! きっと変な男に騙されてるんだー!!」
リオン クロフォード(aa3237hero001)の心の声もまる聞こえだ。
ここまで暴走しているのが、女性と少年で良かった。成人男性がいたら、間違いなく警察が呼ばれていたことであろう。布津はそう思いながら、胸をなでおろした。
『いつも「何かあった時に共鳴できないと困るからあんまり離れないで」って言うのに、今日は一人で行くとか怪しいのです。アクセサリー買うだけならいつも一緒なのに……』
メテオバイザー(aa4046hero001)も、パートナーの行動に興味津々であった。幸いなことに彼女は國光に恋心を抱いていないため、相手に行動を監視するというスリルを楽しんでいるようである。
『……で、あいつはあいつで何であそこに交じってんだ?』
ドール(aa4210hero002)は、首をかしげる。
他の面々は自分のパートナーに秘密の恋人ができたと騒いでいるが、ドストレートかつ分かりやすいフィアナにそんなものができたとは考えにくい。おそらくは、単に買い物に付き合っているだけだろう。
「私達とは逆のペアね……」
桜城 とばり(aa4605)は、アルメイヤを見ながら呟く。
とばりとナルミも歳は離れているが、旅をさせてやりたいという気持ちも強い。心配はしているが、ナルミもナルミの世界をちゃんと見つけて欲しいのだ。
「中途半端で放任主義とは言えないわね……」
「アルメイヤさんが過保護なんですよ」
茨稀(aa4720)は苦笑いする。
「まぁ……自分の大切な誰かを護る為なら、大なり小なり誰しもああなるのかもしれません」
あるいはすべてを失うと知っている人間も、と茨稀は呟く。
「でも。ファルクが俺に何を買うのかは興味深い、かもしれないですね」
気持ちを切り替えて茨稀は、微笑む。
今はクリスマスの準備期間。
わびしい表情は、似合わない。
『あの男が怪しい!』
アルメイヤが、びしっと指差した。
その相手は、ファルクだった。
茨稀のほほえみは凍った。
『あれだけ女にもてそうな男があえて少女とペンギンたちと同行するなど、よっぽどのペンギン好きかロリコンでしかありえない!』
魔女裁判のようなアルメイヤの言葉に、茨稀は無言で首を振った。
たしかにファルクは恋人募集中のようなことを言っていたが、ロリコンではないだろう。
「えっ!」
シャー・ナール・カプール(aa4478)は、衝撃を受けた。実は彼、アルメイヤとエステルにほのかに好意を寄せ始めていたのだ。さっきまで素直に「ファルク君かっこいいですよね」と思えていたのに、今では「ファルク君、遊び人っぽいですよね」と印象が百八十度変わっていた。恋は盲目の典型例である。
八朔 カゲリ(aa0098)は、ため息をつく。
アルメイヤの暴走には慣れつつあったこともあり、今回の暴走は手も口も出さないことを彼は決めていた。今は余暇の時間だ――いつか酷い戦争に身を投じるその時まで休むべきなのだ。
『カゲリ。たとえロリコンでなくとも、エステルとなら付き合えると思えないか?』
アルメイヤが、真剣な顔で酷い質問をしてきた。
自分はちょっと会話から意識を外しただけなのに、どうやったらそういう酷い質問をする流れになるのだろうか。頭の中で、ナラカが笑っている。
「くだらないな」
と、カゲリは切り捨てる。
カプールは、何か言いたそうにうずうずしていた。
●大切な人に
國光は、自分のチャームビーズを少女たちの掌に落とした。ビーズと呼ぶには若干大きめであるが、凝った作りのそれは女心をくすぐるには十分であった。
「素材も色々で5000イェンでお釣り来るし一番のポイントは、ビーズ一つ一つにイメージがある。「気高く軽やか」とか「平和の光」とか。エステルさんがアルメイヤさんに抱く印象に近いビーズを贈ったらどうかな?」
「かわいい! お母さんの誕生日にはネックレスとかマニキュアとかあげた事がありますけど、これもかわいいです!!」
仁菜は、天使をモチーフにしたビーズを手に乗せて目をキラキラと輝かせる。
「言葉のない手紙みたいで素敵ですよね。あの、歌が上手いっていう意味合いのチャームはありませんか?」
フィアナも、うきうきとチャームを手に取っていた。バイオリンをモチーフにしたチャームは銀で出来ていて、男性が持っていてもおかしくデザインである。
『秋刀魚の蒲焼を食べたい、という意味合いのチャームはあるだろうか?』
「今忙しくて缶詰はあけられません、という意味合いのチャームは?」
ペンギン皇帝と織歌は互いに「口で言えよ」という内容のチャームを探す。あったら、驚きだが。
「これって、髪飾りには使えないんですかね? とばりお姉ちゃんは髪がきれいだから髪飾りをあげたいけど……こっちも可愛いの!」
ナルミが持っているチャームは、『暖かな愛』という意味を持つチャームであった。猫の親子がモチーフの複雑な作りだが可愛らしいものであった。
『君建さんへのイメージですか……穏やかで動じないみたいな意味のチャームはありますでしょうか?』
棄棄が手に取ったのは、馬をモチーフにしたチャームである。可憐さはなかったが、男性が持っていても不思議ではない形であった。
『スヌードとかネックウォーマーなんかは活躍出来そうだけど、こっちの方が女の子らしくて華やかかもな。おっ、これは『憧れの愛情』って意味か』
ファルクは、目を細める。
愛情と銘打ってあるだけあって、そのチャームはハートがモチーフの女性らしいものだ。おそらくは片思いを応援するデザインなのだろうが、ファルクは別のことを想像した。
『まっ。茨稀にもその内、そんな気持ちになることもあるさ』
「麻生さんもプレゼントにどうですか?」
國光は、遊夜にもチャームを進めてみる。
「申し訳ないが、今年はもう買ってしまったんだ。ついでに言うと、オケラでな。だが、このチャームはチェーンを購入すればブレスレットとしても使えるな」
美しい女性ならば、何をつけても似ういはずだ。なにより、美しい人に美しいものを選ぶことはなによりも楽しい。遊夜は、エステルに小さな人型のチャームを見せた。それは二つで一揃いであり『永遠の絆』という意味合いだった。
「ふむ……せっかくなら、ペアで選んではどうかね? お揃いだと喜びそうな気がするしな」
だが、エステルはいまいちピンと来ていないようであった。
『チャームがピンとこないなら、キーホルダー型なんかの安い時計とかは? お揃いで買えば、同じ時計が相手と同じ時間を刻んでるんだぜ。あとは……フォトアルバムやフォトフレームはどうだろうな』
ファルクの提案に、エステルは首をふる。
「チャームはすごく素敵で、良いプレゼントだとは思うのですが……いざ、アルメイヤを表している言葉を探すと中々見つけられなくて」
エステルは言葉に詰まる。
たくさん守ってもらった。
共に生きる決意をした。
それでも、まだ彼女を言い表す言葉を見つけられない。
『そんなに思い悩むことではないではないか』
ナラカは、唇を開く。
『相手を想い購入したなら、何でも良いのだ。相手を想い購入し、心を込めて贈る。――ただそれだけで良いのだ。それに、これは所詮は身を飾る装身具。ならば、ただ美しいからという理由で相手に送るのも一興ではないか?』
一番、綺麗だと思ったものを選べ。
ナラカの言葉は、シンプルであった。
「女の子同士のプレゼントなんですから、それが一番素敵なのかもしれませんね」
仁菜は、國光に同意を求める。
微笑む仁菜はかわいらしく、まるで二人は恋人同士のようであった。
「そうだね。そんな細かい事考えなくたって、エステルさんが一生懸命選んだプレゼントならアルメイヤさんも喜ぶと思うよ?」
國光に背を押されて、エステルはチャームを選んだ。
「コレに……してみます」
鳥の羽がモチーフになった、綺麗なチャームビーズ。
「アルメイヤに似合うといいな……」
エステルは、小さくつぶやいた。
●落ち着けよ、ストーキング集団
『あ……あれはまさしく』
リオンは、カタカタと震える。
『ああ、噂に名高い「初デート記念だから、何かプレゼントを買ってあげるね」現象に違いない』
アルメイヤの言葉に、リオンは崩れ落ちそうになった。
『そんな! ニーナが、よりにもよって年上の男に騙されていたなんて!!』
『しかも、エステルと二股デートとは。……女の敵め、徹底的にそぎ落としてくれる』
どこを、とは誰もアルメイヤに説明を求めない。
リオンだけが『同志よ! 俺と手を組みましょう!』と興奮していた。
『アルメイヤさんは大騒ぎしてますけど、サクラコがエステルさんと仁菜さんの恋人なわけないのです。サクラコにそんな甲斐性はないのですぅ』
メテオバイザーは、頬を膨らませていた。
『あんまりサクラコを疑うなら、アルメイヤさんでも許さないのですよ?』
『普通に考えて二股かけてる男が、同じ場所に同時に相手を呼び出すかよ』
ドールのもっともな意見に、布津も苦笑いするしかない。
「どう見ても冷静に観察できなさそうではありませんか。ねえ?」
「俺に話をふらないでくれ……」
カゲリは、若干疲れたように息を吐いた。アルメイヤの行動も、リオンの行動も、彼にはまるで子供が駄々をこねているように見えていたのだ。好きな人が自分以外の人のために動いているのが我慢ならないという感情が、カゲリにはあまりに幼稚に思えてならない。
「でも、女心的には自分に興味を持ってもらえないのも悲しいことよね」
私は自由でいたいけど、ととばりは付け加える。
『……指輪。他の人にだったら、許さない』
ユフォアリーヤは、遊夜がもっている紙袋がわりあい有名なブランドであったせいもあり嫉妬に狂っていた。男性があんなに小さい高級品を買うなど、女性へのプレゼントでしかありえない、と彼女は叫ぶ。
『……ボクには買ってくれないのにぃ』
「あ、今みにつけてる瓔珞みたいなやつに興味もってる!」
カプールは、なんとかユフォアリーヤの興味を他にそらそうと懸命に努力をしていた。だが、嫉妬の狂った女の興味がそう簡単にそらせるはずもない。
「さすがに身をかざるのを戒める五戒があるし化粧品は買わないか……。エステルさんは興味あるみたいだけど」
ちらっと、カプールはアルメイヤを見る。
今度こっそり、エステルがどんなものが好きなのか聞いてみようかなとカプールは考えていた。
結局、エステルたちはチャームビーズを購入することに決めたらしい。だが、ここで困ったことがある。チャームビーズは、女性にも男性にも送ることができるアイテムであった。
「エステルさん、アルメイヤさんにまさか男物探してないよね。アルメイヤさん……絶対に男性へのプレゼントだと思うよね」
カプールの背中に冷や汗が流れた。
薄々エステルがアルメイヤのプレゼントを選んでいると皆はわかっているのに、何故かアルメイヤだけがそこを理解していない。嫉妬で怒り狂うのは、目に見えていた。
「アルメイヤさんは……誰かに何かを差し上げたいと思ったことはありますか?」
茨稀は、アルメイヤに声をかける。
そうやって彼は、自然にプレゼント購入している光景からアルメイヤの視線をずらした。
「きっと……アルメイヤさんにとって、エステルさんへの愛以上の物はないでしょう。エステルさんに、それを改めて伝えるためのプレゼントを考えてはいかがでしょうか?」
茨稀の大人の対応に、アルメイヤ以外の面々は拍手を送りたくなった。だが、アルメイヤの顔は浮かないままだ。
『だが、エステルに結婚はまだ早い!』
拳を握りしめるアルメイヤ。
「たしかに早いな、法律的にも」
カゲリは、クールに切り返す。
おそらく、法律的に無理だから色々と落ち着いて考えろと言いたいのだろう。
「どっ……どういう意味なんでしょうか?」
カプールは声を潜めて、ドールに相談する。
『交際したら即結婚って、考えてるんだろ』
フィアナだってもうちょっと柔軟に考えそうなのに――いや、同じレベルかなとドールは一瞬不安になる。
『……婚約指輪』
ユフォアリーヤの一言に、アルメイヤのほんの少しだけ残っていた理性が大爆発した。
『よし、あそこにいる黒々とした男を切ろう』
「アルメイヤさんおちついて! こ、これ以上錯乱されたらコブラに噛ませるくらいしか思いつかない!」
ドールはぎょっとしてカプールから、一歩離れた。
持っていたのか、コブラ。
『待って! この状況だとエステルちゃんの恋人なのかニーナの恋人なのか分からないから! 証拠をつかむまでは我慢して!』
リオンもリオンで、大混乱していた。
『2人が恋人なはずない! ユーヤはボクの!』
ユフォアリーヤは尻尾と手をバタバタさせて、必死に遊夜の所有権をアピールする。
『サクラコはシングル!』
なぜか、メテオバイザーまで参戦する。
「……こんな騒ぎを起こしたら……エステル君、悲しむでしょうね……」
とばりの常識的な呟きは、残念ながら誰の耳にも入っていなかった。
仕方なく布津は、飛び出そうとするアルメイヤに足を引っ掛ける。女性にこんなことをするのは布津とて不本意だが、デパートへ迷惑をかけるわけにはいかない。
「おっと大丈夫ですか? お怪我はありません?」
『エステルたちはっ!』
「帰っちゃったみたいね」
とばりの言葉に、アルメイヤは床を叩いて悔しがった。
(……それにしてもエージェントも人間って事ね……初仕事だけど、面白い観察ができたわ)
うむうむ、ととばりは満足げにうなずいた。
●買い物のあとに
『なにやら誤解をしておる様子だが……話に聞く、男親のような反応だな』
「陛下、女性に対して失礼ですよ、もう」
織歌は、皆と別れた後にペンギン皇帝と共に自分たち用の買い物をしていた。せっかくデパートまで足を運んだのだ。自分用のお土産にチーズケーキはぜひとも買って帰りたかった。
織歌は、自分たちをストーキングしていたアルメイヤたちの存在に気が付いていた。あれだけ騒がれたら嫌でも気が付く。だが、害はなさそうなので放っておいたのである。
『おまえさぁ、俺が探してるって思わなかったわけ? なぁ?』
「いたいっ」
ケーキ屋の前には、フィアナとドールがいた。どうやら、彼らもケーキを買いに来たらしい。正確にはケーキを買いに来たのはフィアナ一人で、ドールは待ち伏せしていたに過ぎない。さすがは英雄、自分のパートナーのことはよくわかっている。
「せっかく再会できたんだし……ドールっ観覧車があるんだって、一緒に乗ろ」
『他の奴と行ってこい』
ケーキを抱えたフィアナたちは、屋上に消えてしまう。残念なことに、ケーキはフィアナが買った分で売り切れらしい。再び焼きあがるまで一時間はかかると店員に言われてしまう。織歌は仕方がなく同じフロアにある喫茶店で時間をつぶすことにした。
「あれ、ユフォアリーヤさんですよね」
小さな喫茶スペースに、ユフォアリーヤと遊夜が差し向かいで座っていた。なにやら、真剣な話をしている雰囲気である。
「……バレちまったか。当日に渡したかったんだがな……」
遊夜は黒い紙袋から、指輪を取り出した。
たぶんメリークリスマスと言いたかったのだろうが時期ではないので、遊夜は本当に困った顔をする。だが、ユフォアリーヤの顔は輝いた。
『……ん、ふふ……ボクの……』
満足そうな顔をする、ユフォアリーヤ。
その隣の席では、リオンが土下座していた。
『だってニーナが変な男に騙されてると思ってー! ごめんなさーい!』
どうやら、ストーキングがバレたらしい。
「せっかくびっくりさせようと思ったのに……。はい、リオン。私の大切な相棒さんへ」
仁菜は、小さな布袋をリオンに手渡す。袋の中身は、チャームビーズで一緒に入っていた小さな紙でモチーフの説明がなされていた。
『あなたは私の希望』
鳥のデザインがあしらわれたそれにリオンは涙ぐむ。
仁菜は、それに困ったように笑っていた。
『ふむ……これ以上の覗き見は流石に無粋であろう』
「そうですね。私達はここで失礼します」
チーズケーキを買って帰ろう、織歌は歩き出す。
「うわっ、あいつあんなに目移りしてる! 普段おれに欲を抑えろっていってるのにやっぱり甘いものに目がないんだ……。あ、インド豆菓子のほうに歩いてく……。和菓子、みたいなインド菓子カテゴリのアレのところに……。エステルさんとお菓子の好み近いのかなアレ」
カプールが、まだ自分の英雄をストーキングしていた。どうやら女の子の好みを探って、人種的にびびっときてしまったエステルのアプローチをする作戦らしい。
「人種ですか……エステルさんもアルメイヤさんも出身はインドではなかったのですが?」
彼は知っているのですかね、と織歌はつぶやいた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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