本部

貴女の命が、私の糧

鳴海

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/12/03 15:05

掲示板

オープニング

● 閉ざされた世界。
 君たちは霊石採掘の任務を請け負い山脈まで訪れていた。つるはしという原始的な掘削道具を片手に汗だくになりながら、やんわり輝く石を採掘する。
 それを三日三晩続けるだけの簡単なお仕事。そのはずだった。
「洞窟の奥の方にはいかなくていいの? うんわかったよ」
 そんな採掘作業に参加する一人の少女がいる。三船春香である。
「もともとは特大の霊石鉱脈があるって話だったんだよ? でも地盤が緩くて危ないからこれ以上はいかなくていいんだって。山のふもとに出る道まで整備したのに残念だね」
 そう春香は汗をぬぐって君に笑みを見せた。
「それにしても蒸し暑い。私早くシャワーを浴びたいな。あとかき氷食べたい。熱い」
 そう春香が文句を言うのも無理はない。
 亜熱帯のぶ厚い葉っぱの生い茂る森、肌を炙るような太陽にプラスして湿度が高い、虫もたくさんいて不快でない要素はないくらいの勢いなのだが。任務が終わるまで帰れない。
 しかも定期的に従魔が出るせいで一般の発掘員は雇えない。

「従魔全滅させた方が話が早いんじゃないかなぁ」
 本来であれば霊石採掘は近代設備を使って、ガガガッと採掘してしまった方が早くはある。
 だが、そんな近代設備も従魔の前には飴細工も同然。だからつるはし一本の採掘作業をまだまだ、まだまだ続けないといけない。
 そんな果てのない肉体労働にいい加減うんざりしてきたころ。君たちはマトックを投げ出して休憩を取り出した。
 大の字になって空を見上げると、天井にある色だけは変わらない。しかし。
「あれってなんだろう」
 そう春香空を指さすと、そこには人型の何かがいて。
 こちらを見下ろしているのが見えた。
「やばい、あれって愚神!?」
 そう春香が叫んだ直後、飛来する霊力の弾丸。
「あそこへ走って!」
 それを回避するために全員が洞窟の奥深くへ飛び込んだ。
 そして結果から言うと、その判断が間違えで……。
「きゃ!」
 次の瞬間、崩れ去る足元、愚神の攻撃で崩落する洞窟、リンカーたちは闇の中に飲まれて行った。

● 人の心に魔がさす時

 君たちが目覚めると薄暗い洞窟の中にいた。霊石の発するわずかな明りでお互いの顔はかろうじて見える程度の闇が場を満たしている。
「私たちは……洞窟の中に逃げて、そして……」
 春香は記憶を手繰る。
 痛む体に鞭打って、赤黒くはれ上がった腕を隠す。
「みんな、ごめんなさい。私……」
 そう春香は上を見あげる、おそらく上から落ちてきたはずだったが、岩盤が崩れて穴がふさがれてしまったんだろう。脱出口はなかった。
「閉じ込められたんだ……」
 水音が遠くに聞こえた。滑らかな岩場は青白く、まるで異世界に迷い込んでしまったよう。
 そんな幻想的な風景、雰囲気が、今は危機感を麻痺させているが、現実が追いつけばパニックになるのは間違いない。
「どうしよう……」
 まず君たちは状況の確認から始めた。
 すぐに状況が明らかになる。
 いざというときのための食料は30セットしかないこと。
 洞窟の奥へと潜る道はあること。
 けが人は現時点ではいないこと。
「食べ物が心もとないね……」
 英雄は食事が必須ではない、だからと言って能力者だけが食べるにしても安心できない数である。
「ここがどれだけ深い場所か分からないし、これ以上破壊して上を目指すのは危険だよね……」
 採掘を勧めていた君たちはわかるが、岩盤自体が弱く、ちょっとした衝撃でさらに深くまで落とされる可能性、生き埋めにされる可能性。溶岩だまりに穴をあける可能性が考えられる。
「強硬手段はとらない方がいいね」
 そうなると救助まで待つ必要がある。
 かかる日数はどれくらいだろうか。
 現実が追い付いてくる


●階層について
 階層を下がるにつれて探索の難易度が上がります。探索に成功すると得られるアイテムの一覧は下記にまとめました。
 第二層と第三層のアイテムは一度発見するともう発見されません。

第一層

草 (調理すると食事一セット分)
獣 (倒して調理すると食事一セット分)
霊力の波動 (霊石鉱脈への道をなんとなく感じる、以後全員の探索判定に+5の補正)
霊石 (五分程度、熱と光を発し続ける、木を燃やせる程度には高温になる)
食料 (携帯食料 食事一セット分)
抗生物質 (使い切り 健康度+1)

第二層
霊力の本流 (霊石高山への道を感じる。以後全員の探索判定に+10の補正)
救急キット (栄養剤、消毒液 対象一人の健康度+3)
モールス信号発生機器 (救助までのカウントダウンが一日減る)
朽ち果てた拠点 (はぐれたリンカーと出会える)
従魔と遭遇する (戦闘発生)


第三層
食事 (10セット分)
霊石大岩 (攻撃すると大爆発します)
人間の死体 (霊石鉱脈までの地図がある。次の探索に十人以上で臨めば霊石鉱脈を発見できる)
空洞 (衰弱していなければ脱出できる、誰かが外に出られた場合、救助までの日数が一日になる)
従魔三体 (戦闘発生)
霊泉 (健康度が+5される温泉。二人程度しか入れない大きさ。また探索能力が上がる、+20の補正)
霊石鉱脈 (依頼大成功 外への道もあり即座に救助される)



● 特別ルール。
 今回のシナリオには健康度というシステムを採用します、鳴海オリジナルです。
 健康度は能力者のみに適応されまして、初期値が10で最低値が-10です。-8以下でシナリオ終了時重体。-10で意識不明です。
 意識不明となったキャラが出た場合、場合即座にGM判断でシナリオ中断です。
 なのでキャラクターロストすることはありません。
 健康値が0以下になると、状態が衰弱になり探索はおろかまともに動き回れなくなり共鳴もできなくなります。
 この健康度は特定の行動をとると減ります。
 また、食事は一日二回とる必要があります。

*健康地減少条件

食事を抜く -2
怪我をする -3
怪我を一日放置する -1
眠らない -1


●各種判定について
 各種判定は一日一回行うことができます。
 また探索はグループで行うことが前提です。
 探索の権利は能力者、英雄一人一人にありますが、グループになって行うことが前提です。

《探索方法例 参加者十組の場合》
1 全員が一人で探索を行う(この場合能力者10、英雄10なので20回探索が可能)
2 五人のグループを作って探索(この場合四グループ作れるので 四回の探索が可能)
3 全員で一丸となって捜索(この場合一回の探索)
 
*探索判定
 探索をすることにより、新たな資源、もしくは霊石鉱脈を発見することができます。
 判定方法は 階層の数字×120+1D100 対 探索する人数*15+1D100です
 探索判定にはプレイイングによってプラス補正がつきやすいので、探索方法を考えてみてください。

解説

目標 霊石鉱脈発見(大成功)
   一週間生き延びる(成功)
   意識不明者が出る(失敗)

また、この探索では下記のようなハプニングが発生する可能性があります。

例えば遭難
 探索判定に失敗する20%の確率で遭難します。他のプレイヤーとはぐれ一人で行動することになります。
 遭難すると合流判定に誰かが成功しない限り取り残されたままです。
合流判定は 遭難した階層の数字×80 対 探索する人数*15+1D100

例えば負傷
 一定の確率で負傷する可能性があります、周囲の環境に気を配ったり、あとは万全の状態で探索に臨むなどで防げます。

例えば腐敗
 保存方法をしっかりしなければ気温が高いので食料が傷むこともあるでしょう

● ヒント
 洞窟は基本薄暗く入り組んでいます。そのため遭難しないための工夫と探索しやすくする工夫がひつようです。
 灯りの確保、目印付、地図の作成などが常套手段でしょうか。
 自分の携帯アイテムやAGWを利用して鍋にしたり調理したりすることも可能です。
 携行品の食料は一個で一セットとして扱われますが、複数人で食べることができるアイテムはその人数分のセットとして扱われます。

リプレイ

プロローグ
「…………陣中見舞いにきてこんな羽目になるなんて」
 そう少女は落ちた穴の向こうへと手を伸ばし、ぶすっとした顔でつぶやいた。
「まったく。あの愚神許さないから。覚えていなさい」
『橘 由香里(aa1855)』の体はしたたかに岩場に打ち付けられて、髪の毛はばらっと散らばり、細い両腕は投げ出されているので、まるで壊れかけのお人形の様だ。
 そんなゆかりに手を貸して立たせるのは春香。
「これって遭難だよね?」
「遭難? 人間って大変ねぇ」
 その春香の言葉に、本を読みながら優雅に返したのは『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』
「数日間寝なかったり食べないだけで死んじゃうんだもの。私なんて、1人になりたい時は海の底でリラックスしてるのに」
 そんな沙羅のツインテールを両腕でとらえ、いつもと変わらない微笑みを浮かべるのは『榊原・沙耶(aa1188)』
「あの、なにするつもり?」
「なにもぉ」
「なにもしなくてもそこに手を置かれていると緊張するのだけど」
「遭難、ねぇ」
「あ、話し始めちゃった」
 春香が小さくつぶやく。
「下手な愚神よりも、怖いわねぇ。自然って。地震や水害には勝てないものぉ」
「このタイミングでそう言う話は……やめてほしいわね」
 由香里がそうつぶやいた。
「閉じ込められた、ね」
『大門寺 杏奈(aa4314)』はお人形のように壁を背にして座っていた。
「今まで色んな戦いは経験してきたけど…………これは初めてだね」
 その隣に腰掛けるのは『氷室 詩乃(aa3403hero001)』そして『柳生 楓(aa3403)』
「…………ですが、諦めることは出来ません。私たちにはまだやるべき事がありますから」
 楓が全員の目覚めに気が付くと、膝の埃を払って立ち上がる。
「絶対生きて帰りましょう」
 そんな楓の言葉に『レミ=ウィンズ(aa4314hero002)』が拳を突き上げて同意する。
「諦めませんわ! 落ち着いて情報を整理しましょう」
 そう告げるレミの言葉に全員が頷き、そうしてサバイバル生活が始まった。

《一日目》
「いやあ、わらわが洞窟探検じゃーって持ち込んだお遊び道具が役に立つとは思わなんだなあ」
 『飯綱比売命(aa1855hero001)』が幻想蝶からがしゃがしゃと取り出したアイテムを眺めながら由香里は頷いている。
「ほんと、珍しい事もあるものね」
「……まさかこんなことになるなんて……そうだ輝夜! あなた来る時にカステラ持ってきてたわよね!?」
 そう幻想蝶の中味を思い描いていた『御門 鈴音(aa0175)』彼女はふと思い至り、相棒である『輝夜(aa0175hero001)』を振り返った。
 しかし。時すでに遅し。
「もがもが?」
 そこに佇んでたのは、カステラの包み紙片手に、一本丸ごと口に詰めようとしている輝夜である。
「……ほぇ?」
 死んだ魚の目をした鈴音の、顔面チョップが輝夜の脳を揺さぶる。
「とんだハプニングだったわね。じっとしていても打開できないなら、まずは行動かしらね」
『水瀬 雨月(aa0801)』は告げる。春香の隣に立ち、青白い光で照らされる、幻想的な洞窟内を見渡した。
「うん、絶対生きて帰ろうね、雨月さん」
「はい、では注目してください」
 そう洞窟の奥から手招きする『煤原 燃衣(aa2271)』
「開けた場所があるので、そこをキャンプ地とします、みなさん」
 そう燃衣の誘導に従って歩くと。ぽっかりと口をあけていたのが空洞である。
 十分テントを複数たてられる広さがある。
「まずは何を持っているか、全員の装備を把握しましょう」
 そう燃衣が告げると、先ほどから行っていた荷物確認を続ける。
「私は」
 頭から湯気を上げる輝夜を抱え鈴音は持ち物の申告を済ませる。
「トレッキングセット、防寒具一色、キャンプ用のテント。ライブス通信機…………は、外部とは通じないみたいですね」
 そう鈴音は通信機の周波数をいじりながら告げた。
「霊石の干渉かな? 洞窟内部のとは繋がるよ」
 春香が少し離れたところで手を振って言った。
「あとは九龍仲謀とH.O.P.E.まん」
「未成年の飲酒…………」
 鈴音の持ち物に苦笑いを浮かべる燃衣。
「ただ、体温を高めたり、体の調子を整えるのには一役買ってくれるわよぉ」
 そう沙耶が囁いた。
「それに、そこそこの度数がありますから、消毒にも使えると思います」
『構築の魔女(aa0281hero001)』が酒瓶を振ると頷いて鈴音に返した。
「私たちは……」
 構築の魔女が一歩前に出ると『辺是 落児(aa0281)』がその荷物を皆の前に並べた。
「私たちは。ちゃっかふぁいあー君1号、防虫電磁ブロック。オートマッピングシート」
「オートマッピングシートが複数枚あるのは大きいですね」
 燃衣はふむふむと頷く。
「ええ。他班のデータと合わせることで、素早く洞窟内部の地図を作成していくことが可能です、あわよくば出口までの道が推察できると思います」
 そんな構築の魔女の言葉に、春香が安堵のため息を漏らす。
「出られる可能性があるだけでも少し心が落ち着きますからね。そして」
 そう構築の魔女が取り出したのは『Hopeサバイバルキット』
「これがあるとなかなか違います。怪我の治療に食べ物の保管、コンパスもありますね。簡易のマニュアルもありますし余裕があれば実践していきましょう。そして最後に水筒」
 新型MM水筒、これは熱帯地域に行くとあって持ってきている者が多かった。
「水源さえ見つかれば水には困らないと思います」
「…………だったら」
 構築の魔女の言葉を聞いた由香里がトリアイナを使用しようとした――が、トリアイナによる水は、あくまでもライヴスで構築された「そのように見えるもの」だ。本物の水ではない、オーラのようなもの。飲むことは出来ない。
「僕はあとはハイパークールタオル。ライトブラスター。水筒。ヘッドライト+メットです」
 燃衣が水筒の蓋をあけた。その飲み口から香ってくるのは明らかに水の香りではない。
 このスパイシーな香り。それに『黒金 蛍丸(aa2951)』は心当たりがあった。
「水筒の中味は暁食堂の塩胡椒多め、濃縮野菜ポテトスープですよね?」
『詩乃(aa2951hero001)』の表情が華やぐ。
 対照的に暗い表情を見せるのは『ネイ=カースド(aa2271hero001)』である。
「……三日離れるだけでもつらかったというのに、これから何日も帰れないとは…………」
 そうネイはおもむろに立ち上がると、そのストレスを目の前の霊石に叩きつけようと拳を振るう。
「愚神許さん!」
「ストップ!」
 燃衣が間に割って入った。
「ここの霊石は爆発しやすいからダメです!」
 杏奈もあわてて間に入る。
 そんな茶番も挟まると場の空気も一気に和らぐものだ。絶体絶命の状況にも関わらず、全員の心に明かりが灯り始めた。
 その時である。
「すみません」
『S(aa4364hero002)』が手を挙げた。彼女は自身のパートナーである『依雅 志錬(aa4364)』を抱きかかえている。
 先ほどまで探索に使われていたスターライトスコープ、そしてルシフェリンロッドは脱ぎ捨てられている。
「エミヤ姉は〈食事行動を2週間に1回しか取れない〉んです。間隔が短いと、自分の身体を壊してしまう。
 普段はお医者様の処方箋でどうにかするのですけど、今回はそれも……
 なので、今回エミヤ姉は行動させません。……足手まといで申し訳ないです けど……」
「それは仕方がないですね」
 蛍丸は告げた。
「依雅さん、何かあったら遠慮なくいってくださいね」
 そう蛍丸が告げると志錬はコクリとうなずいた。
「……であれば」
 今度は由香里が手を挙げ進言する。
「疲弊してから深部に向かったのでは体力が足りなくなる可能性もあると思う。少なくとも下層への安定した侵入経路は早目に探すべきじゃないかしら」
「それもそうですね、ただ」
 燃衣は同意の姿勢を見せる。
「ただ、今はあまりに情報が少なすぎます。近場から調査していくのが良いかと思いますが、それでいいですか?」
「まぁ。そうね。みんなを危険にさらしたいわけでもないし」
「話すべきところとしては以上ですかね?」
 蛍丸が問いかける。すると燃衣は頷いてその手を打ち合わせる。
「さ、さぁベース構築を! 必ず、生きて出ようッ!」
 その後拠点を設置し終えると、軽く周囲を探索した。その結果雑草や、小動物しか見つからなかったが、とりあえず食料にするためキャンプに持ち替える。
 ブロック食よりも現地調達した食料を優先して消費するという意見はチーム全員の意見となったため、これを処理するところから始めた。
 そして食卓を囲いながら全員の情報を共有する。
「ほら、ハイパークールタオルを使えば、冷凍庫に」
「夜は見張りを立てましょう。交代で、外に愚神がいたんですから、中にいるかもしれません」
「だったらうちのがやるわ」
 そう雨月が『アムブロシア(aa0801hero001)』の名前を出すと、隣に座っていた全身を黄色い布で纏った男が飛び上がる。
「いつも寝てるんだから、こんな時くらい起きてなさいよ」
「いや、寝ているわけでは無いのだが」
 こうして一日目が終わる。

《二日目》

「おはようございます、杏奈」
 そうレミが杏奈を揺り動かすと、杏奈はしょぼしょぼと目を瞬かせながら体を起こした。
「一応朝ですわ」
「時刻的には?」
「太陽は見えませんけど」
「体が痛いわ」
 洞窟生活二日目。がちがちに固い床で寝ていたため、杏奈の体には極度の付加がかかっていた。
「ここで生活しているだけでも、健康に著しく害を与えそうです」
 そうレミに告げてテントを出ると、一部のリンカーはすでに活動を始めていた。
 昨日狩った草木や小動物は食べつくしてしまったので皆ブロック食を口にしている。
「ああ、日本が恋しい」
「あの国は美味しくないものは基本存在しなかったんだって思えますわ、今なら……」
 そうレミは苦笑いを浮かべた。
 そして、場面は変わり朝食を済また一行は、フロアの中心にあつまり探索箇所の確認をおこなっていた。
「二階に行きますか?」
 蛍丸が尋ねる。だが燃衣は首を振る。
「昨日風の通り道を見つけたんです。もしかすると」
 昨日の探索不十分だった、そのため一層目の探索を終えることを目標に動く一行。
「昨日の段階で従魔の気配はありませんでしたから」
 そう構築の魔女は非共鳴状態の探索を開始する。

 基本的に探索はチーム制としていた。

~B班~
「よろしく。なるべく動けるうちに探索範囲を広げて行きましょう」
「はひ。よろしくお願いします」
 B班は鈴音と、由香里。
 ただあまり交友のない人物と一緒にされると。人見知りを発動する鈴音である。
(この子、頼り無さ気だけど私より強いわね。相棒としては信頼できそう)
 そう由香里は微笑んで、先へと進む鈴音の後ろについていく。
「まず優先すべきは食料確保でしょうか?」
「でも、昨日みたいに骨ばかりのトカゲなんて……」
 由香里と鈴音は身震いする。あんなもの女子高生が食べられる味ではない。
 そう吐気をこらえながらひっしに食べ物を探す二人。
「あんなもの、普通であろう」
「わらわはよく食べたものじゃ」
 輝夜と飯綱比売命はうんうんと頷く。
「お、それと鈴音よ」
「なに?」
 その言葉に鈴音と由香里は振り返る。
「食用に並んでも、草木は乾燥させておくと火種として使えるんじゃ。ほれ。摘み取っておくがよい」
 そうむしった草を差し出す輝夜、受け取る鈴音。
「せめてネズミ程度の獣がおるとよいのじゃが」
「ねずみ……」
 由香里はげんなりとした表情を見せる。
「いやいや、加熱すれば肉は食える、腸は加工すればそこそこの強度の紐となる、バカにしたものではないのじゃ」
 そうサバイバル談義を続けながら四人は洞窟の奥へと潜っていく。

~A班~
 A班は燃衣と杏奈のペアである。
「僕たちは小道など調査してみましょう」
 そう告げる燃衣。その後ろをちょこちょことついて歩く杏奈。
「昨日大きな通りを調べた時は、生き物の気配しか感じられませんでしたしね」
 そう告げて杏奈が共鳴するとパラディオンシールドとジャンヌが光を放つ。小道の奥もこれで光が届く。
「これで少しでも探索が楽になれば良いのですが」
「……ナイスです、大門寺さん。引っかからないように注意してくださいね」
 燃衣そう確認のために振り返ると、杏奈は儚げに微笑んだ。
「隊長だけは守りますから」
「それ、フラグですよ」
 そんな話をしながらも小道をぬけると、岩場の裂け目のような場所にでた、残念ながら天井は塞がれているが、大量の霊石が岩肌に見えている。
 その様子をマップに記しながら燃衣は、壁に寄り掛かってナイフで表面を削っている。
「それは?」
「僕らが昨日まで、さんざん掘り起こしてきた霊石ですね、熱源はとても希少です。持って帰れるだけ持って帰りましょう」
 その言葉にあんなも頷き、採掘作業に映る。
「マッピングもある程度終わりましたし、一度引き返しますか?」
「……そうですね」
 そして二人はまた狭い小道へと体を滑り込ませていく。


~D班~
「また、はずれね」
 少し苛立ったように沙羅が言う。
 朽ち果てた救急キットを見つけたのだが、中は空っぽだった。そんな残骸がこの開けた地帯にたくさんあった。
「ここもキャンプ地に適していそう、だれかがむかしいたのかもね」
 雨月がそう告げた。
 ちなみにD班は雨月、春香、そして沙耶だ。ただ沙耶は沙羅と共鳴し沙羅が主人核となっているのだが。
「使用済みか、使用済みでないものは腐ってるわ。何年前のものよ」
 さらが汚染された注射器を救急箱にしまう。
「探索されつくしているみたいね」
 雨月が言う。
「雑草ではなく、食べられそうなハーブの類があったのは地獄に仏だったけど」
 その隣で春香が本を拾った。
「ロシア語だね」
 その埃を払うと、黴臭いにおいに耐えながら春香は本をめくって見せる。
「えへへ、読めないや」 
 そう笑う春香だがその動きの不自然さを見て、雨月は声を上げる。
「あら? 春香」
「え?」
「貴女左利きだったかしら」
 雨月が問いかける。
「え? 右利きだよ」
「今左で本を取らなかった?」
「気のせいだよ」
「そう? ならいいのだけど」
 腑に落ちないという表情を死ながら雨月は引き下がる。そして探索を続ける沙羅へと振り返った。
「だめね、ここはあってもガラクタばかり。次の場所へ移動しましょう」
 沙羅が告げると、雨月はお菓子籠「グリード」へハーブを収納。
「そうね、探索を始めてから二時間たつ。他の人もつかれて帰ってるんじゃないかしら」
 雨月は時計を見つめながら言った。
「いったん戻りましょう」

~C班~

 最後にC班。メンバーは構築の魔女、蛍丸、楓である。
「昨日の探索ではここまででしたね」
 自動的に書き込まれたマップを片手に構築の魔女は告げた。
「ここから危険があるかもしれません。慎重に行きましょう」
 蛍丸がそう声をかけると、大きい方の詩乃が頷いて楓は共鳴する。
 そして幻想蝶から燃え盛る剣。レーヴァテインを引き抜いた。
「私が先導します」
「まずは周囲の状況を探り、食べ物や水、他に利用できそうな物がないかを探していきましょう」
 そうマップを見ながら、軽く散歩にでも行こうと提案するように、皆に告げる。それに小さい方の詩乃は思わず言葉を漏らした。
――蛍丸様、こんな状況で……どうして、そんなに冷静でいられるのですか?
「こんな状況だからです。大丈夫ですよ、皆で力を合わせれば」
 そう蛍丸は仲間たちを見渡す、安心させる意味で笑顔を振りまいた。
――粉じん爆発には気を付けて、楓。 
 大きい方の詩乃が告げる。
「大丈夫です、わかってます」
 そう剣を見えにくい通路の隙間などにかざして歩いていく、するとだ、普段見ない強い光に驚いたのだろう、大型のトカゲが壁をはって高速で逃げていくのが見えた。 
 それを見つけいち早く動いたのは蛍丸。
 咄嗟の人跳躍でトカゲに素早く迫り、ダガーを抜いて、一撃でトカゲを仕留めた。
「お見事です」
 構築の魔女がささやかな拍手を送る。蛍丸はその場で解体を始めた。
――ほ、蛍丸様、どこでそんな技術を覚えたのですか?
 小さい方の詩乃が驚きの声を上げた。
「ネイさんにサバイバル訓練で叩き込まれましたから……煤原さんには内緒ですよ? きっと、青ざめるでしょうから」
 それが二日目の収穫、それぞれのチームが収穫を手に戻ってくる。
 それを待っていたのは志錬。彼女は周辺警戒、つまりキャンプ地があらされないための警護が担当だった。
「大丈夫ですか? エミヤ姉」
 コクコクとうなづく志錬。
「おかわりないようでよかったです」
 蛍丸はそう告げると、さっそくマップの照らし合わせ等、報告作業に入った。
「ダウジングロッドに反応はなかったわ」
 雨月が告げる。その間楓はマップラインプロジェクターを使い、全員の地図を繋ぎ合わせていく。
「昨日と今日で大体の探索が終わったようですね」
 そう確認のために全員の顔を見合わせる燃衣。
 その隣で、今日持ち帰ったトカゲや薬草を鍋で煮込んでいく小さい方の詩乃。
「ららら!」
 あからさまに食べるのが嫌そうな顔をするerisu、もはや怯えているレベルである。
「ボク達の分はないよ?」
 そう告げたのは大きい方の詩乃。
「私達英霊はご飯を食べなくても、能力者が無事であればなんとかなりますから」
 そう小さい詩乃が告げる。
「ごめんなさい」
 そう会議が終わったのか、料理班の元へ顔をだし、頭を下げる蛍丸。
「いえ! そんな蛍丸様が謝ることでは」
「そうだよ」
 二人の詩乃はそう微笑んだ。
「ここを脱出したら、美味しいものをいっぱい食べましょうね」
 楓が告げた。その瞬間ズイッと顔を出すネイ。
「……おう、燃衣、俺の分の飯はどうなってる」
「ネーさん話をきいてましたか」
 そう呆れる燃衣を見て皆が笑うのであった。
 まだ、まだ余裕はある。そんな夜を終えて、日に日にすり減る希望に誰もみな、胸を痛ませないで済む。そんな日が長く続けばいいと誰もが思いながら。

<三日目>

「そろそろ二層目へ行きましょう」
 そう満場一致で朝の会議が終わった後、全員が足並みをそろえてさらに深い闇へ歩みを進めようとしていた。
「待ってください」
 その時全員を静止させる蛍丸の一声、そして全員を癒しの光が包んだ。ケアレインである。
「万全の状態で行きましょう」
 そして分かれ道が来るたびに班ごとに分かれ、残ったメンバーは鈴音と由香里だけになってしまった。
「さすがにお腹がすいてきたわね」
 そう鈴音がぼやくと。
「お菓子でも食べる?」
 そう由香里が挿しだしてくれたのは、保存していた焼き菓子。これは小分けにしたもので、集中力が切れてきたときに食べるようにしていた。
 目を輝かせる鈴音、と輝夜と飯綱比売命の目も輝いてる。
「あ、はいどうぞ」
 英雄が食べる意味はあまりないのだが、まぁいいかと思い直し、二人に分け与える由香里。
「うまいのじゃ」
「うむ、生きててよかった」
「二人がいっぺんに話すと、どっちがどっちだがわからなくなりますね」
 鈴音が言う。
「まぁ、それは仕方がなかったとあきらめましょう」
 由香里が首を振った、そんな由香里を輝夜が真剣な顔をして黙らせた。
「静かに…………」
「従魔ですね」
 鈴音は幻想蝶を握りしめながら、曲がり角の向こうの息遣いに耳を傾けた。

   *   *

「どうします?」
 燃衣も時同じくして従魔と遭遇していた。敵の数は一。対してこちらの戦力は二。
「まだこちらに気が付いていないみたいです」
 杏奈が告げる。
「灯りを消してください、そして、奇襲します」
「メリットが薄いような気がしますが?」
 従魔との戦闘でもし傷を負えばそれが原因で探索に参加できなくなる可能性がある、ならば逃げた方が良いのではと進言したのだ。だが杏奈の心配に対する燃衣の回答は予想の右斜め上を行っていた。
「…………今夜は、英雄もご飯が食べられそうです」
「正気ですか!」
 驚く杏奈。
――あんまり変な物ばかり食べさせないでくださりません?
 レミまで思わず口を開く始末、しかしノリノリのネイ。
――よし、のった。やれスズ。
「今日は焼肉ですよ」
 そう餓えた瞳の狂戦士が、忍び足で従魔の背後に接近する。

   *   *

 鈴音フォーム~戦極~それは鈴音が輝夜と絆極めし日に手に入れた新たな形である。
「はあああ!」
 真紅の大剣を瞬間で抜刀、二足歩行毛むくじゃらの従魔に切りかかったのは鈴音。
 その従魔の動きは意外に素早く。反射的に回避を選択したが、よけきれず。肩を滴り落ちる血。
 従魔は悲鳴を上げる。致命傷一歩手前の深手を負ってしまった。
 従魔は踵を返す、しかし目の前にもまた、少女が立っている。
「橘さん!!」
「トリアイナは涼むためだけにもってきたわけでは無いわ!」
 そう槍を突きだす由香里、屈んでその腹部を引き裂いた、従魔は。
「回り込める地形でよかったわね」
――久々に本来の目的でつかったのう。
 飯綱比売命が告げる。
「お主、夏場は西瓜にぶっさして冷やしておったし、トリアイナを便利に使いすぎではないか?」
「ふう」
――鈴音よ! 剣さばきがなまっているのではないか?
「え? そんなこと」
――あの小悪魔と共鳴してばかりおるせいじゃ、たるんでおる。
「輝夜、落ちついて」
――とっとと帰るんじゃ、ここにいると別の従魔の襲撃を受けるやもしれん。

    *  *

「おや?」
 構築の魔女がわずかな揺れを感じ立ち止まる。拾った釘で、曲がり角や移動時間で目印を刻んでいく。
 それをマップとリンクさせ、より詳しく、そしていつでも戻れるようにマップを補強しているのだ。
「どうしたんですか?」
 蛍丸が振り返った。
「いえ、ここからは私達も警戒した方がいいみたいですよ」
 蛍丸はあたりを見渡す。
「確かに、ここは手つかずのいろいろが残りすぎてます」
 草木の成長具合、動物の生息具合。今のところ人間が立ち入った様子は見えない。
「みんなが心配です、この道には何もないみたいですしいったん戻りませんか?」
 楓が告げると二人は頷いた。
「帰り道にもご注意を」
 構築の魔女は告げる。
「生き物ならマーキングや糞など生活の痕跡……従魔は足跡や武器等による破砕痕等に注視でしょうか?」
「ただ、この先に外気の流れがあるのが気になるところですが。ですが危険を冒す必要は今のところありません、撤退を」

   *   *

「電池が残っている限りの手段だけどね」
 そう沙羅は暗い洞窟をスマホ片手に進んでいく。三人ははぐれないようにロープで体を繋いでいた。
 すると見つけたのは三つのテントと。人がいた形跡。
「ここでキャンプをしてたみたいね」
 雨月が言った。
「でも、従魔に襲われた」
 血まみれの布を指さして告げる。
「春香」
 雨月が春香の顔を覗き込んだ。
「あなた、汗がひどいわよ」
「大丈夫、ちょっと疲れただけ」
――共鳴しているのに、そんなに疲れるのはおかしいわぁ。沙羅、この子の服を脱がせて。
「え。私にそんな趣味は」
 その時雨月と沙羅のロープがぐいーんと引っ張られた、見れば逃げようとする春香。
「うわわ」
 そのまま倒れ込み腕を衝く。
「いった!」
「やっぱり」
 雨月は溜息をつくと春香を撃ち捨ててあった椅子に座らせる。その隣の台に腕を出させると。沙羅は服を纏った。
――あらあら、こんなになるまで。
 沙耶は一つため息をつく。
「折れて…………ないわね。ひびが入ってる腫れ方よ」
「いたい!」
「それはそうね、内出血かしら、よくもまぁこんな状態で平然としていられたわね」
「怪我は陸上部で慣れてるからね」
 そう無駄に胸を張る春香。
――水瀬さん、硬い木と包帯、あと私のカバンからヒールアンプルを取ってきてもらえる? もしくはそれに準ずるもの。
「わかったわ」
「私は痛みには強いから、平気かなと思って」
 その手を沙羅がはたいた。
「痛い!」
「早めに言わないとダメでしょ!」
  沙羅が怒る
「だって、治療する薬品もないし。みんなに迷惑かけるだけだし、探索の手は一人でも多い方がいいでしょ?」
 そんな春香を睨みつける沙羅。割と本気で怒っているようだ。
――こんな時に、自己犠牲の精神は駄目よぉ、外傷じゃないから感染症の危険性はないけど、発熱で倒れることも考えられるのよ?
「ごめんなさい」
 雨月が道具をそろえてやってくる。
「これ、一応水で洗ったけど」
「水が沢山使えるのは不幸中の幸いだったわね」
 そう手早く処理を済ませていく。
――全員で無事生還しないとねぇ
――そういえば、erisuちゃんは共鳴しているのよねぇ。壁をすり抜けて外に出れないのかしらぁ?
「ららら!」
 その手があったかとばかりに手を打ち鳴らすとerisuは壁に突撃した。
 しかしその軽い体は簡単に壁に弾き飛ばされる。
「契約前はできたらしいんだけどね」
「なんでやったのよ!!」

  
《四日目》

「みなさん、これで初期あった備蓄がなくなりました」
 朝全員が起床するなり燃衣は告げた。
 30セットのバランス栄養食が今朝の食料補給で尽きた。
 従魔の肉やハーブが少量残っているが、次の食事に全員がありつけるとは言えない。
「まぁ、仕方ないですね」
 皆の不安を払しょくするように構築の魔女が告げる。
「もともと食事は能力者だけで三食分、もって1.5日分だったものがよく四日目の朝まで持ちました」
 その言葉で、場の温度が数度下がる。
「あの、私」
 そんな中、楓が手を上げた。
「私、ブロック食は手を付けてません。洞窟で狩った食べ物だけ、食べてました」
 なぜ、そう思う者はいただろう。だがそれを言葉にする元気がない。だから楓は自分からその理由について語った。
「体力的につらそうな人にあげたくて。春香さん食べませんか?」
「だめだよ、楓ちゃんが食べないと」
 そう呻くような声を出して春香は首を振った。
「いいんです、私はまだ動けますから」
「だって。みんなお腹減ってるはずだし。それに最後のまともな食事になるかもしれないんだよ?」
 春香が告げるその最後という言葉に、それが妙なリアル感を伴って、全員の耳に届いた。
 一日目であれば笑い飛ばせたその言葉。けれど今のリンカーたちには、それもありうるかもしれないという現実となって届いてしまう。
 冷え切っていく洞窟内の空気。春香の言葉に誰も言葉を返せなかった。 
 ただ一人を除いて。
「……泣き言を吐く根性なしは……こうだ」
 そう春香の背後ににょきっと現れたのはネイ。その素晴らしくうねうねと動く十本の指で燃衣は春香をがしっと捕まえた。
「ほれ、erisu、やれ」
「こーちょこちょ」
 erisuのフェザータッチが春香の脇腹をくすぐる。
「あはははは」
「ちょっとけが人になんてこと」
 沙羅が怒るがそんなの関係なしに楓はブロック食の包みを解く。
「いきます」
 そう祈るようなしぐさをすると、春香の口にブロック食を叩き込んだ。
「……《されば立ち上がって闘え、いかなる運命にも、意思をもって》【暁】ではね、こんな訓示を掲げてるんです」
 諦めて口の中の物を咀嚼する春香、それを見て燃衣は言った。
「大事なのは、何時だって《これから》です」
「そうだよね、私、死ねないもんね」
 春香は視線を落として言う。
「ありがとう、楓ちゃん」
「それに食料の備蓄が無いでもありません、昨日のように従魔を食べる覚悟さえあれば」
 その時である、輝夜があーっと、大きな声を上げた。
――鈴音よ、昨日討伐した従魔はどこに!
「え? あ、ここらへん」
 そう鈴音はマップを急いで広げて赤いペンでマークを書き込んだ。
「なんですって」
 従魔も食料を地で行く燃衣はその言葉に目を輝かせた。
「それは重要な情報です、食料確保、確保」
「では今日も二層目を探索するということでいいですか?」
 指揮がもどったいまのうちとばかりに、一行は支度を整えていく。
 そろそろ、外に出られる何らかの希望が欲しい四日目の探索が、幕を上げた。

   *   *

 そしてその希望は意外とあっさり見つかった。見つけたのは蛍丸のチーム。
「見つけましたよ。モールス信号装置」
 そこは板張りの床に木の机という、人の手が明らかに加えられた一帯だった。
「もう少し先まで行っていればあったんですね」
 楓が機材の埃を払って言う。
 電力は手動で発電でき、その機材も奇跡的に壊れていないようだった。
「でも。信号なんてわかりません」
 楓は首をひねる。その隣では構築の魔女が周囲の資料を読み漁っているが、特に目覚ましい発見はないようだ。
「……まぁ、どこかにあるでしょう、モールス信号一覧と言った本が」
 そう告げた矢先英語で書かれてはいるが目的の書物を見つけることができた。
 三人の英語力を合わせて解読。
 蛍丸はツツツと信号を送る。
 場所、人数、状態だけを簡潔に伝えそれを誰かが拾ってくれることをいのり何度も、何度も送る。
「受信機が壊れているので、きちんと遅れているかは心配ですが……」
 構築の魔女は告げる。
「いったん報告に戻りましょう」

   *   *
 
 一行はたき火を前に蛍丸たちの報告を聞いていた。
 ちなみにその火であぶられているのは昨日鈴音が倒した従魔に加え、本日遭遇した従魔が一体。
 十分な収穫であるが、従魔の肉はやはり強烈な味わいと香りを口の中に残す。
 特に少女たちにとってはきつい晩御飯となった。
「これで助けに来てくれるといいのですが」
 しかし構築の魔女は何気なくそれを口に運んでいる。
「モールス信号をずっと発信し続けるということはしなくていいんですか?」
 楓が問いかけた。
「それよりまだ行ってないさらに下の階層をを調べた方がいいと思うわ」
 由香里が告げる。
「二層もほとんど探索してしまいましたしね」
 そう燃衣は告げると、明日からは三層目を探索することを告げた。

 

《五日目》

 五日目の朝、もうすでに時間間隔がわからなくなってきた由香里はおもむろにテントから出た、全身の筋肉が硬化しているように体が重たい。
 髪も艶を失いぼさぼさとして気持ち悪かった。
 もう何日湯船につかっていないのだろう。
 女子にとって汚れたまま時間を過ごすこと自体がストレスになる。苛立ちを全身で表現したい欲求をなんとか抑え込んだ。
 しかしその時、背後から鋭い声が聞こえる。
「輝夜、あんまりわがまま言わないで!」
 鈴音の声である、そしてその言葉の矛先は当然輝夜。
「いつまでここにいさせるつもりじゃ、カステラはどうした」
「ここで手に入るわけないじゃない、わかって」
「それに血もだせんとはどういうことじゃ」
 その言葉に答えたのは洞窟内で見つけた本に目を通していた沙耶。
「注射器もないし、傷を作るということ自体危険よ。感染症のリスクは下げたいのよ、がまんできないかしらぁ」
「無理じゃ!」
 そうふてくされてそっぽを向く輝夜。
「……早く脱出しないと」
 ただ鈴音はわかっている、血を飲まなければ輝夜は弱ってしまうこと、絆も弱まり、ひいては消えてしまう。
 それはわかっているのだが。
 輝夜に与えられるだけの血があるかどうかも微妙だった。
 鈴音がどうするか迷っていると今の騒ぎで全員が起き出してくる。
 注目の的となり顔を赤らめる鈴音だったが、すぐに話題は別の少女のものに映った。
「そうです、早く脱出しないと、エミヤ姉が」
 sが告げる。
「探索はどうなっているんですか? 速度は上げられないんですか?」
 その言葉に答えたのは燃衣。
「……階層を追うごとに危険になってます、いつもならH.O.P.E.のバックアップが受けられるので怪我上等で戦いますが、今そうすると無駄に探索者の数を減らすことになります、それは死に直結します」
「そんな…………」
 Sが何かを告げようと口を開くもその言葉は口から出ることなく押さえつけられる、女子テントから声が上がったためだ。
「誰か来てください!」
 はじかれたように立ち上がり向かう沙耶と沙羅。
「春香さんが!」
 昨日は付きっきりで春香の看病していた楓。
「ついさっきまでは寝息を立てていたのに、いきなり苦しみだしたんです」
 そんな楓の説明を聞きながら沙耶は熱と脈を量る。
「熱が高いわね。どこからか細菌が? 一時的に共鳴して容態を保ってくれるかしら、erisuちゃん」
「らら」
 そう真っ白な少女は緊張した声音で告げると、二人の体が溶けあった。
「この症状、破傷風かしら?」
「薬なんてないわよ」
 沙羅が無情に告げる。
「春香さん」
 そう楓は春香の手を取ると、春香は目を瞑ったままうわごとのようにつぶやいた。
「大丈夫」
「いったん脱がせて他に傷が無いか確認するわ」
 そう沙耶は春香の衣服を脱がせていく。
「男子は外に出なさい!!」
 怒鳴る沙羅。様子を見守っていた蛍丸と燃衣はあわてて外に出た。
「どうしましょう、煤原さん」
 蛍丸がテントを気にしながら告げた。
「三階層なら抗生物質があるかもしれません」
 杏奈が重たい声で告げる。
「昨日、二階層で救急箱のようなものを見つけたのよ」
 そう告げたのは雨月。全員の視線がそちらに向く。
「どこに?」
「地図のこのあたり」
 そう雨月は台にマップを広げて指さした。そこは断崖の向こう側
「跳躍して届くか怪しいですね」
「向こう岸に誰かを投げましょう、一番軽そうなのは」
 蛍丸はそう告げあたりを見渡す。このメンバーで投げられそうなのは詩乃と輝夜だろうか。
「わかりました、行きましょう」
 鈴音は頷き、輝夜の袖を引く。
「嫌じゃ、共鳴もせんし、わらわも動かん」
「春香さんのために抗生物質が必要よ。輝夜、今は抑えて」
 そう鈴音が告げると、輝夜は腕を大きく引き、鈴音から距離を取る。
「どうしても行きたいのであれば一人で行けばよかろう、わらわの助けなぞいらぬではないか」
 輝夜は卑屈な笑みを浮かべる。
「それこそ、妹を連れて来ればよかったのう、なんだかんだあやつは再生を司る鬼じゃ。春香も癒すことができたであろうよ。失敗したのう、鈴音」
「なんでそんなこと言うの、輝夜?」
 鈴音は膝立ちになり輝夜の肩に手をかける。そしてその目を見つめた。
 すると、輝夜は一瞬目を見開いて、そして視線を逸らした。
「ずるいんじゃ」
「え?」
 輝夜は鈴音の手首に自分の手をかけて、そして告げた。
「なぜじゃ、なぜわらわだけに優しくないのじゃ、妹には優しくするではないか。最近何かにつけて妹の肩を持ちおって。あ奴の方が可愛いというのか」
「違うわ、輝夜。違う」
 そう鈴音は輝夜を抱きしめる。
「今の輝夜と同じよ、不安になっちゃうの、あの子が心をすぐに開けないのは輝夜も知ってるでしょう?」
 鈴音にも思い当たることがあった、自分はひどく新しい英雄に気を使っている。
 それが輝夜にはエコ贔屓のように見えてしまうのだろう。
 だがそうではないのだと伝えたかった。
「ごめんね、輝夜、違うのよ。私はただみんなで仲良くしたいだけ。輝夜も早くあの子と仲直りしてほしいから、だから」
「うぬ」
「それにカステラならここを出られたら好きなだけ買ってあげるわ」
「本当かのう?」
「うん、だから行きましょう、春香さんを助けるために」

   *   *

 一行は再び二階層に降り立った。全員が一直線に救急キットのあった断崖を目指す。
 しかし。
「従魔の遭遇率が高い」
 おそらく血の匂い等を嗅ぎつけて集まってきているのだろう。
 もしかしたら近くに従魔の巣があるのかもしれない。 
 どちらにせよ、最短の最速で目的地に着くには誰かが目の前の通路をふさぐ従魔。こいつの相手をしなければいけなかった。
「ここは私が請け負ったわ」
 そう長い髪をかき上げて雨月が前に出る、その手の滑らかな皮の本を開くと、青い霊力が沸きだすようにあふれた、それを感じ取った従魔は素早く反応、天井や壁を這いまわりながら雨月に接近する。
「いったわね」
 全員が十分に離れたことを確認し、雨月はネクロノミコンの封印を解く。
「いくら早くてもこれなら」
 その青い霧を割って入ろうとした従魔、しかしこのフィールド自体が雨月の体内にも等しく、その爪が伸びる前に従魔を爆破。
「さぁ。遊んであげるわ」
 そう風もないのにめくられるネクロノミコン。秒を追うごとに増していく雨月の霊力に従魔は死神の影をみた。
 その後救急キットを回収した一行は無事にテントまで戻ることができた。
 傷の手当てを施し、ケアレイをかける沙羅。すると春香の容態は安定を見せる。
 それはよかったのだが。
「早く脱出しないとダメですね」
 燃衣は頭を抱える。彼には見えていた、このリンカー十組二十名のチーム、それ全体が焦りを帯びてること。
 これはまずい傾向だ、またいつ小競り合いが起きるとも知れない。
 ただ、そんな燃衣の目の前を駆け抜けていく沙羅とerisu。彼女らは手ごろな岩の上でトランプを広げるとゲームを始めた。
「違うわ! このゲームでは2が一番強いのよ」
「らら! 沙羅うそつき。Aが強い。常識」
「それはゲームによるのよ」
「何をしてるの?」
 雨月が尋ねた。
「トランプよ」
「なかなか肝が据わってるのね」
 雨月は告げると、erisuから差し出された札を取った。
「雨月もやる?」
 erisuが微笑むと、雨月は頷いた。
「ええ、暇だし参加しようかしら」
「ちょっとerisu、なに自分の弱い札ばっかり回してるのよ」
「ららら?」
「意外と悪知恵が働くのね?」
「ひどい、沙羅。私だって考える」
「悪知恵ってところは否定しないのね」
 雨月が苦笑いを浮かべた。
「なんだか気楽ですね」
 その集団に燃衣が話しかける。すると沙羅があっけらかんと答えた。
「思いつめても仕方ないわ、私達にやれることはないんだし」
 そんな沙羅はH.O.P.E.マンを一口食べる。
「あ! 食べ物だ!」
 本日の晩御飯は黒焦げになった従魔。それを覚悟していた燃衣はそのふわふわで、美味しそうな塊に思わず大人げないまでの声を上げてしまった。
「他にもあるわよ、美味しい物」
 沙羅が幻想蝶から取り出して見せる。
「隠していたんですか?」
「いつか緊張がピークに達したときがね、一番効果的なのよ」
 沙羅がそう言ったように確かにこの食事で場の雰囲気はかなり和んだ。
 五日目、この日も特に大きな損害もなく終了した。
 明日は三層を攻略することになっている。

《六日目》
「ここが正念場だ。頑張ろう」
 杏奈は気合を入れると、全員がオーっと言葉を返してくれる。昨日食べたチョコレートなどのまともな食事のおかげで指揮が高いのだ。
 そのまま一校は軽い足取りで深く洞窟を潜っていく、やがて霊石の光も薄くなったが、松明代わりのアイテムを所持している者は複数いたので、躓くこともない。 ただ、問題があるとするなら、この大きな道の真ん中を従魔三体がふさいでいるということだろうか。
「枝分かれする前で助かりました」
 幸いなことに、キャンプ地から道は一直線だったので、戦えるリンカーは全員ここにいる。
 よって三体九、戦力差は三倍。
「行きます」
「続きます」
 そう飛び出したのは燃衣、そして後に続くのは鈴音。
 ドレッドノートの大火力で一瞬で勝負を決めてしまうつもりなのだろう。
 現にスキルのフルコースで、二体の従魔はあっさりと命を奪われた。
 残り一体も残るリンカーの総攻撃を受けて悲鳴を上げる間もなく処理されてしまった。
「探索開始です」
 そう燃衣が宣言すると。杏奈がジャンヌで枝分かれした道を照らす。
「それにしても左の道から何か、硫黄のような香りが漂ってきませんか?」
 杏奈は告げ、自分たちはそちらへ行こうと、燃衣の袖を引っ張った。

   *   *

 もうだめかもしれない。
 そう志錬はぼんやりと考えていた。
 脱出の兆しは見えない。それどころか状況は悪くなるばかり。
 志錬は体を起こす、もう体力が限界に近づいていた、その時、志錬のテントの幕を上げて蛍丸と楓が駆け込んできた。
「いいものを見つけましたよ」
 そう二人は体力の消耗で動けない志錬を抱えるとケアレイで回復を施しつつ、三階層へ向かう。
 そこには。
「温泉?」
 濛々とたちこめる湯気。その向こうではしゃぐ少女たちの声。
 そう、この洞窟は天然の温泉が沸くのだ。
「しかも霊力が溶け込んでいて、体調を整えてくれるんですよ?」
 そう楓は告げるとさっそく蛍丸を押し出して着替えを始める。
「問題はなさそうですね」 
 そう燃衣が告げて手を振った。浴場から追い出された蛍丸を迎えると、二人は浴場入口で警護の任務にあたる。
「のぞかないでくださいね蛍丸様」
 小さい方の詩乃の声が聞こえた。
「それ、フラグですよ」
 燃衣はぽつりとつぶやく。
「周辺の警戒と言っても」
 蛍丸は苦笑いを浮かべた。
「英雄がお風呂に入っているから共鳴できないんですけどね」
「ん? なんなら一緒に入るか? スズ。蛍丸」
 そう不意打ちのように背後から聞こえた声に、振り返る蛍丸と燃衣。
「そんなことしたら女性陣に殺されてしまいますよ、ネイさんってえええ!」
 言葉を失う二人、ネイは一糸まとわぬ姿で全てをさらしだしている。
 当然恥ずかしがる様子もない。
「……一緒に入ればいざというときに共鳴もたやすいだろう」
「だめですってば!」
「僕達の身が危ないです!」
 そう言いつつ二人は抵抗するが、両腕でがっちり捕えられてしまい抜け出せない。
「す、すごい筋力です」
 改めてネイの脅威を感じる二人。
 そして数俊の後お風呂場から悲鳴が上がった。
「何かあったんでしょうか?」
「わかりませんわ」
 そう浴場から少し離れた場所を散歩していたのは杏奈とレミ。
 おかげでその騒動には巻き込まれずに済んだのだ、それは幸運だったと言えるだろう。
「それにしても大自然の力ってすごいですね」
 そう杏奈は切り立った壁を見つめながら告げた。
 このエリアだけなぜか壁が磨かれた灰色の岩になっており、せり出しているのだ。
 まるで巨大なスクリーンのよう。
 そうなんとなくその大壁を眺めながら歩いていた杏奈だったが。
 気まぐれにジャンヌでその壁を照らそうと共鳴したのが悪かった。
 杏奈もレミも息をのむことになる。
「構築の魔女さん。これ見てください!!」
 同じようにあたりを散策していた構築の魔女。
 杏奈の尋常ではない声音に踵を返し、走ってやってくる。
 だが想像とは違う驚きが構築の魔女を襲うことになった。
「これは」
 その壁には一部突起している場所があった、灰色でメタリック。そしてそれは龍の姿をかたどっていて。
 それに二人は見覚えがあったのだ。
「なぜこんなところに」
 構築の魔女は背伸びをして思わずそれに触れた。
 まるで今にも息を吹き返しそうに見えたが、それは完全に石化している、機能停止状態。
 だが、間違いなくそれは。
「「ラジェルドーラ」」
 直後、その奥の暗闇から無数の足音が聞こえた。
 従魔の襲撃を警戒し武器を取り出した二人。
 しかし予想に反してその足音の正体はH.O.P.E.の制服を身に纏った救助隊。
 助かった、そういくつかの謎を残しながらも、リンカーたちはこの洞窟からの生存を果たすことができた。


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188

重体一覧

  • もっきゅ、もっきゅ・
    依雅 志錬aa4364

参加者

  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • もっきゅ、もっきゅ
    依雅 志錬aa4364
    獣人|13才|女性|命中
  • 先生LOVE!
    aa4364hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
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