本部

飛べぬなら、歌えぬなら

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/29 15:00

掲示板

オープニング

● 翼をもがれた小鳥
 『金張 透歌(かなはり とおか)』は延命装置に繋がれていた。
 喉に刺さる管、点滴、心電図。その足は切断の処理が施され、多数の内臓を失ったその体は、小鳥のように軽い。
 そんな彼女が、なぜ彼女がここまでの大けがを負ってしまったか。
 それはとある愚神『ストレンジャー』の討伐任務で起こった事件がきっかけだ。
 当初はデクリオ級の愚神を十人で倒すという簡単なミッションのはずだった。
 しかしだ突如ストレンジャーは変貌した、能力、姿、性格すらも元のストレンジャーとかけ離れた存在に進化した。
 その結果。
 討伐班十人は彼女を残して全滅した。
 少女はすべてを失った、それは物理的な物以外にも、精神的な物もそう。
 つまりは、絆。彼女にはあるべきはずのものが欠けていた。
 それは彼女の罪の証だった。 

●歌奏でられぬ小鳥。
 それはストレンジャーの討伐任務の時の出来事。
 透歌は森の中の大岩、その背に隠れていた。
「一息おいて、責めるわよ。……リンクバーストいけるわよね、まさかこんな任務で使うことになるなんて思わなかったけど」
 透歌は水晶を手でもてあそびながら告げた。
――いや、承認できかねる。
 そう告げたのは彼女の英雄『デアトラテ』
――ここまで来てしまえば我々が単独で挑んでも勝ち目は薄い。であれば次点で我々がすべきことはこの脅威をH.O.P.E.に伝えることだ。
 彼は影の英雄だ。誰かの陰に潜みながらもその場で最善のことをしてきたがために彼は国を救った、そんな英雄が進言している策だ。
 ここは彼の指示に従うべき、それは透歌にもわかっていた。
 しかし。
「だめね、それには従えない」
 透歌は告げる。
「私は多くの仲間を奪った愚神をここで野ばなしにできない」
――契約を違えるつもりか? 『人の命を救うこと』そんな単純明快な契約、それは我々が生き残ることこそ、その道につながる、そうとわからないお前ではないだろう?
「甘いわね、デア」
――なに?
「私がここで引けば、何の手傷も追わせられなければ、反撃の準備を整える間もなく、ストレンジャーは町を襲うわ」
 そう透歌は告げた。この先十キロほどの地点に人口一万人程度の町がある。
 そんな街中で十人のリンカーを壊滅させられる愚神が暴れれば被害は相当なものになる。
「それだけは、それだけは阻止しないと。お願いデア、力を貸して」
 その結果、ストレンジャーに手傷を負わせ、撃退には成功した。ただし。
 透歌は体の大部分を失い、そしてデアトラテは邪英化した。


● 水晶の歌声
「そうか、私……全部なくしたんだ。守るために」
 そう色を失い、石となり果てた幻想蝶を眺め透歌はぽつりとつぶやいた。呼吸器を外し状態をおこす。
 彼女は深夜二時に目が覚めたデアトラテとの最後の瞬間を反芻しながら、目覚めると病室には彼女一人きりだった。
「そして自分の命すら、尽きようとしてるのね」
 透歌は数の足りない指を見つめる。限界を超えて体を酷使するとこうなるという現状がなんだかおかしくて、不思議と笑いがこみあげてくる。
 そんな透歌が異音に気が付き、顔を上げると、いつの間にかテレビの電源がついていた。
 そこに映し出されていたのはニュース映像。
 こんな時間になぜ、そんな違和感すらも抱く隙なく、透歌は映像に引き込まれていた。
 そこに流れているテロップ、それは『H.O.P.E.戦闘員、愚神取り逃がす』と名打たれていて。
「嘘……」
 その報道は透歌の心を砕くには十分な威力を秘めていて。
『これはH.O.P.E.の采配ミスではないですかな?』
『ええ、敵戦力の見極め、情報収集の甘さは今回の被害を拡大させた要因と言えるでしょう』
『近隣への被害が心配されますな』
『そもそもなぜあそこで、生き残った隊員は戦闘を続行したのでしょう、増援を待つべきではなかったのか、そう思います』
 透歌は拳を握りしめた。でも反論はできない、自分は敗北者だからだ。
 だがそんな彼女の膝の上にスマホが投げられた。そこには様々な意見が寄せられるコミュニティサイトが表示されていて。
『透歌さん、重傷で搬入。機械化手術を受けるんだってね、いいね能力者様は任務で失敗しても、すぐに機械化されて』
『そりゃ、ポンコツとはいえ戦力だしな』
『よわっ』
『戦闘で森林地帯が削られたから、土砂崩れの対策もしないとだね』
『仲間の隊員かわいそう……』
「なんで、なんで。私こんなに頑張ったじゃない。デアも命をなげうって、護ったのに……」
 そう透歌は失意の淵、その手の中にある悪意を受信する箱、それを壁に投げつけた。
 その時である。壁に激突したスマホはキィンと甲高い音を鳴らし、そして空中で静止した。
「おうおう、煮えたぎる怒りじゃのう。ずいぶんとため込んでおるようじゃ、それは理不尽な現実へかの? それは自分をここに追い込んだ運命に? それとも愚神か……」
 病室には怪しい光が舞っていた、水晶を通して光が散乱し、まるで水の中にいるような光の揺らめきが病室全域に映し出されているのだ。それが。
「綺麗……」
 透歌には美しく見えた。
「お主にはもう、何もない」
「私には何も……」
「他者を守りすべてを失った、じゃが誰もお主に感謝はしていない」
「感謝、していない……」
「私は全力でみんなを守ろうとして、それなのに……」
 透歌は奥歯を噛みしめた。
「どうする、いや、どうしたい?」
 水晶の乙女、ガデンツァは問いかける。
「私は……私は許せない」
 透歌は瞳を潤ませて、震える唇で唱えた。
 呪詛を。救ってしまったものへの呪詛を。
「わた。私は、あんなに、がんばって。みんなが生きられるようにって」
 ガデンツァは頷きながらその言葉を聞いている。
「嫌がってるデアも無理やり。私がたきつけてっ。わたしがあんなこと言わなかったら彼も消えることなんてなかったのに。邪英化なんてしなかったのに」
「許せぬか?」
「許せない。私は、わたしは……」
「では、わらわと契約を結ぼう」
「え?」
 ガデンツァは微笑んでその指先で透歌の頬をなぞった。
「わらわと契約を結び、そして人間どもに報復するのじゃ」
 そう謳うように告げると、ガデンツァは一歩引いた。
 すると地面から沸き立つように、ゴシックロリータに身を包んだ、水晶の少女が現れる。
 ルネである。そのルネは透歌の手を取った、その手が交わりそして。
「邪神共鳴」
 そしてルネと透歌は同じ音を鳴らして、そして一人の愚神となった。

解説

目標  『金張 透歌』の撃破

 下記情報についてはガデンツァよりあらかじめもたらされている情報である。参考にしてほしい。

 『金張 透歌』 デクリオ級愚神相当の戦闘力。
【能力】 ソフィスビショップに相当する魔法攻撃主体型。


【特徴】 広範囲への同時攻撃が可能であり、弾幕的に周囲に魔法を放つ破壊の化身である。
《ソニック・アンポゼッション》 メインの攻撃、周囲に風の弾丸をばらまく、自身中心型の攻撃、命中した対象は後ろに弾き飛ばされる。
《バッドラック》 対象を呪い、運を下げる。行動が悪い結果を引き起こしやすくなる
《ファイアーフラワー》 真正面に魔力弾を放つ、この魔力弾は命中すると爆発しさらに小さい魔法弾となって周囲のPCを追尾する。
《シンクロニティ・デス》 自害技。この技は透歌の命を奪うためだけに存在する。

【目的】 透歌自体の目的は、自分で守ったものを自分で破壊しようという、そう言う復讐心。
 彼女の怒りを鎮めるのか、問答無用で鎮静化するのかは任せたいと思う。ただし彼女の心境を理解しなければ後味の悪い思いをすることになるかもしれない。

【鳥かご型ルネ】
 体の部分が大きく膨らんだルネ。子供を五人程度収容できる。
 二足歩行だが、足は遅い、攻撃手段を持たないが。敵の攻撃に対して平気で子供たちを盾にする。
 命中が高いキャラクターは頭を狙うとよい、頭を破壊されれば拘束がとける上に、子供たちを盾にしにくい。
● 戦闘フィールドについて

  戦闘は街中の交差点で行う。四車線の道路が交差しているため戦闘フィールドとしては五十メートル四方は期待できる。
 周囲は幅の広い歩道を挟んでビルが立ち並んでいる
 また、建築物に被害が出ており、周囲には火の手が上がっている。
 またここには鳥かご型ルネが数体設置されており、中には幼い少年少女が五十人程度囚われている。

リプレイ


プロローグ

護送用の装甲車は意外と揺れる。『天野心乃(aa4317)』と『麗(aa4317hero001)』はかたい椅子に座りながら、不機嫌そうに窓の外を眺めていた。
 そんな二人の隣で、自分の親指を見つめている『天城 稜(aa0314)』その頬に『リリア フォーゲル(aa0314hero001)』がペットボトルを押し当てた。
 思いのほか冷えていたそれは稜の神経を逆なでして、稜思わず飛び上がった。
「何を、思いつめているのです?」
 そう首をかしげるリリア、柔らかな髪が肩の上から流れてたれる。
 そんなリリアの追及を視線をそらしてかわしていた稜だったが、その視線を追うリリアの姿勢に観念し、稜はわずかな逡巡の後ポツリポツリとその言葉に答えるのだった。
「彼女の気持ちを考えていたんだ……」
「そして彼女を追い詰めてしまった、不特定多数の声のことも?」
 リリアは言葉を継ぐ、稜は一瞬目を大きく見開いた。
「間違うときも、迷うときも。傷つくことも、魔がさすこともあると思います」
 そんな稜の言葉が聞こえたのか『イリス・レイバルド(aa0124)』がちょこんと隣に腰掛けて告げた。
「人間ですから」
 そんなイリスを一瞥し『アイリス(aa0124hero001)』はリリアの勧めに応じて、飲み物を受け取る。そしてくぴくぴとそれに口をつけ、飲み下してからあっけらかんと告げる。
「確かに彼女は失敗した、悪評の一つや二つあるだろうね。だが報道だけで傷ついた彼女自身を見てもいない人に言われてもね」
 その言葉に稜は頷く。
「自分が沢山傷ついても諦めずに戦い抜いた結果、作戦が失敗した。その事について何か言えるのは、その時その場に居た人間だけだ……」
 稜の視線は取り出したスマートフォンに注がれる、そこには大きな文字で『昨日の戦いで大きな被害を生んだ少女、町を襲う』と見出しが出ていた。
「本来。外野が何か言う権利は何もないんだ」
 そう稜は固くスマホを握りしめる。
「その時、その状況で決断を下す役割にならない限り決して……その時に何が最善だったかなんて解る訳がない。だって、僕たちは神では無いのだから……」
 イリスもその言葉に頷く。そして誰にでもなくつぶやいた。
「確かにその選択を納得して一緒に戦った人がいるんです。思い出も絆もその胸に確かに。だから、その席を愚神なんかに譲っちゃいけない」
 アイリスはその手に握られたICレコーダに視線を移す。
「だが、彼女も彼らの声を直接聴いたのかな?」
 アイリスがイリスへと言葉を向ける。
「守った人の中には感謝する者もいただろう。共に戦った仲間には心配している者もいるだろう。そんな声がガデンツァの悪意で聞こえないのだとしたら……集めて届けるくらいのお節介は焼くかもね」
 そしてアイリスは歌を口ずさむ、それはいつか自らが作りだし、そして大切な人たちが歌ってくれた曲。
 その旋律を聞きながら『斉加 理夢琉(aa0783)』は肩を震わせていた。
 そのバスの後方端の隅で、水晶を握りしめて涙を流している。その肩を『アリュー(aa0783hero001)』が支える。
「呼びかけにアリューは戻ってきてくれた、でも透歌さんにはもう……」
 理夢琉も同じように愚神によって英雄との絆を壊されたことがある。だが幸いなことにその絆は再度繋がり。絆はより強固なものとなった。
 だが、彼女はもうそれができない。彼女はもう大切な人と言葉を交わすことすらできないのだ。
「依頼は撃破だ、行動を止める。命を奪う依頼じゃない」
「わかってる、それでも……」
「ただ現場の判断で討伐だ、覚悟……はしておけよ」
 アリューの厳しい言葉、それに理夢琉は目を瞑って首を振る。
「そんな覚悟、もう、いやだな」
 涙が水晶に落ちた。
「一度失うと取り返しの付かない世の中ですが……。それだからこそ得られるものもあるはずと思いたいですね」
『構築の魔女(aa0281hero001)』が装甲車内の悲痛な空気をごまかすようにそう告げた。
『辺是 落児(aa0281)』は何も言わない。ただ失うということの痛みを抱え続けるだけだ。
「如何なる理由があれど。子供を巻き込むなど許さぬ」
 そう意外な元気さを見せるのは『青色鬼 蓮日(aa2439hero001)』
「そうです、許せません」
『柳生 楓(aa3403)』が両手を握ってその言葉に賛同した。
『鬼子母神 焔織(aa2439)』と『氷室 詩乃(aa3403hero001)』が顔を見合わせる。
「子供たちも、彼女も助けるんだね?」
 そう詩乃は楓に尋ねる。
「勿論です。それが誓約であり、護るべき者の務めです」
「ただ、気になるのは」
 焔織の言葉を継いだのは『魅霊(aa1456)』
「ガデンツァ」
 装甲車内で一人黒いオーラを纏う少女。
 少女は思い出す。雨の中、泥だらけになりながら、疲労で表情を歪ませて、必死に訓練に勤しむ、彼女の姿を。
 姉と慕う人物を何度も追い詰め、そして何度も涙させたその愚神を魅霊は許すことができない。
「ガデンツァは私の敵。故に、【あれの全てを】消し潰してみせる」
 それを『S.O.D.(aa1456hero002)』は黙って聞いていた。

第一章
「卸 蘿蔔、索敵を開始します」
 そうインカムに囁いた『卸 蘿蔔(aa0405)』は、目標地点で射撃の体勢を取った。
 その鷹の目が捉えるのは、大きく膨らんだルネその頭。
 そして上空には第二の目ともいえる、霊力で作られたたかが飛んでいる。
 その二つの情報を同時に観察しながら次に蘿蔔がとらえたのは透歌の横顔。
「…………」
――誰も殺させるなよ。子供達も、彼女自身も。
 『ウォルナット(aa0405hero002)』が告げる。
――いつも外すことになると思うぞ。
「そんなに私外しません。大丈夫です……」
 そうウォルナットに告げるとすぐさまインカムに声を吹き込む。
「目標付近異常はありません、強襲部隊。出動してください」
 次の瞬間、ルネ達が集められた道路側面、隣接するビルの窓を割って、楓達が突入した。
 その動きに緩慢に反応するルネ、そのド頭を横から弾丸が穿った。
「何事!」
 透歌の焦った声、その真後ろ、背後から放たれた弾丸が、ルネをえぐったのだ。
 構築の魔女の弾丸である。
 百発百中のそれがルネの頭に当たると甲高い音が鳴り、その腹部の檻からいくつも悲鳴が聞こえた。
「安心してください、私が、誰にも手を出させません!!」
 そう霊力を発し楓が叫ぶと、全ルネの鋭い眼差しが注がれる。
「それは無理ね!!」
 次いで放たれる透歌の風の弾丸、それをはじいたのは『黒金 蛍丸(aa2951)』そして透歌の前に躍り出る理夢琉。
「攻撃をやめて全員を解放してください」
「寝言は寝て言って!」
「私にはあなたの気持ちがわかります」
「面白いこと言うのね」
 透歌は両手に炎を宿しながらその言葉に耳を傾ける。
「もし私が透歌さんと同じ状況だったら。怒りを覚えるのは仲間やアリューの決死の覚悟を軽視された時。生き残った自分へも怒りが向くかもしれない。だから!」
「うわごとはもう沢山よ!」
 放たれる火焔の花、理夢琉は打ち落とそうとそれを応戦するもうまくとらえることができない、だが代わりにそれをイリスが躍り出て、抱きかかえるように包み込んだ。
 狂ったように暴れる火の粉の全てを抱きかかえて、そして鎮火させる。
「イリスさん!」
 理夢琉の声にこたえることもかなわず、イリスはわずかに喀血。
「でもこれで脅威が一つ減りましたね」
 そうイリスは微笑んだ。ファイアーフラワーは同じ行動で封殺できる、多少は痛いが、無視できるダメージだ。
「今すぐ攻撃をやめてください、出なければ」
「私を殺す?」
 挑発的に透歌は言って見せる。
「【あれらは作り変えられた兵器】【かの愚神の弾を見ろ】【その弾道は子供を狙うのか】」
 だがその直後、魅霊が透歌の背後を取る。
「【敵の敵こそが味方】【それ以外は殺さなければならない】【それが私の務め】」
「ごちゃごちゃうるさいぞ! お前!」
 反転、魅霊を見据える透歌。直後理夢琉が背後に滑り込み、同時攻撃。
 立ち上る爆炎。そして煙で視界がふさがれたその隙に構築の魔女はルネに接近、楓に夢中になっていたルネ達はその素早い接近に反応できず。
 構築の魔女はその格子の付け根をヒールで蹴り砕く。
「注意をひきつけてもらえれば、何とかなりそうですね」
「やめろ!!」
 それを見つけた透歌は特大の花火を自分の背後に投げる、その花火は弧を描き、戻って自身に命中した。
 そしてはじけた無数の炎がルネに迫る。
「「やらせません!」」
 間に入ったのは楓と蛍丸。その身を盾として攻撃を防ぎ。
 そしてその炎を掻い潜って蘿蔔がルネへと接近。銃弾でルネ一体の格子を破壊した。
 直後はじかれるように子供たちが一斉にそれぞれの方向へ逃げ始めた。
「落ち着いてください!」
 その子供たちをそれぞれ蘿蔔と魔女がキャッチ、小脇に抱えると、蘿蔔の指示でいったん脱出を図る。
「拘束がとけて地面に落ちる、鳥籠が転ぶ……嘘がなくても誘導されてる可能性に警戒を。頭部の破壊は、子供達を回収し終えた鳥籠で一度ためしその結果をもって行ないましょう。」
「皆頑張ったね。もう大丈夫だよ」
 泣きつく少年少女たちを抱えて、二人は走った。

   *   *

「イリスさん大丈夫?」
 稜が手当てを終えると、散って迫る火の玉を散開して回避。
――いいレート上げの時間になったよ。
「反撃開始です!」
 イリスとアイリスがそれぞれ声を上げると稜はその後ろ続く。
 直後稜とイリスの動きが変わった。
 ジグザグに走行そして。
「く……」
 放たれたファイアーフラワーは切り落とし、そのまま直進。そして槍と剣を透歌へと叩きつける。それを透歌は炎纏う両手で防ぐ。
「邪魔ね、あなた達。私の不運を分けてあげる」
 透歌の口から流れる歌。
「これって」
 二人の霊力の流れが乱されていく。だが
「ゴ苦労様でス」
 透歌の背後から迫る二つの影。
 心乃と焔織だ。二人は瞬時に正面に回り込むと。イリスと稜は距離を取り。
 混乱の淵に陥れられた透歌へと、ストレートブロウを叩き込んだ。
 大きく後退する透歌。
「くそ!」
 追い打ちをかける魅霊毒塗られた矢がその腹部に突き刺さった。
 だがその表情は暗い。
「金張 透歌は自分の全てをなげうって、力を振るった勇者。ならあなたは、私の戦友」
 違う、そう魅霊の中で湧き上がる声。
「【否】【戦友故に殺さねばならぬ】」
 その声に導かれるように魅霊はまた、毒の矢を番える。
「いいえ、仲間、そしてその人が愚神の手に落ちたなら、助けてあげたい、もう一度希望を持てるように」
「【否】 【三度絶望に堕ちぬよう】【三度彼の者の宝を壊さぬように】【滅びこそ誉れとなる時も在るのだ】」
「うるさい!」
――我が主は葛藤している。
 S.O.D.は感じていた、魅霊の迷い。そして絶望と希望のせめぎ合い
――〈友の心〉を優先し〈如何なる危機をも踏破して民を救うか〉
〈友の命〉を優先し〈如何なる理解をも破却して敵を殺すか〉
 何れも。信ずるならば正義である。
「答えてください! 透歌……あなたの本当の想い、それはどこにあるのかを」
――我が主。魅霊よ。己が信を選び。行使するのだ。 
 再び、弾き飛ばそうと接近する心乃と焔織、それをサポートするために駆けようとする稜とイリス。
 しかし彼女が巻き起こす風の乱舞により四人は吹き飛ばされた。
「そう言うことですか」
 イリスが空中宙返りを決めながら着地、腹部に手をやり、片膝をついた。
「当たり所が悪かった……」
 稜も同じことを感じているらしい。攻撃事態は変わりない、しかし運が悪く、自身の急所に攻撃をもらってしまった。
――なに、問題はないさ。
 アイリスは告げる。
――運が悪くなろうとも攻撃に当たらなければいい、運なんてものに頼らなくていい状況づくりを徹底した前。
「「はい!」」
 二人はそう叫んで、再度透歌へと距離を詰める。
 迫るファイアーフラワー。
 それを稜が槍の投擲で爆破、不運に引き寄せられるように迫る火焔をイリスが盾で防いだ。
 濛々とたちこめる煙の中を二人は進む。


第二章 水晶の乙女
 
 楓は振り返りながら歩いていた、その動きは遅いが確実にルネは楓の後をついてきている。しかも知能も低くいらしく、自分や仲間への攻撃にあまり反応できないようだった。
「ルートの安全は確認できました」
 第一陣で子供たちを護送した蘿蔔と構築の魔女がもどる。
「常にルートは監視中です、これでスムーズに非難が行えます」
「であれば」
 蛍丸は弓を番えた。構築の魔女も銃を構える。
 蛍丸はルネの頭部を狙うため、片膝でたち射撃姿勢を取る。
 ただその時、ルネが予想もしない行動を取った、ルネのうち一体が振り返り、何とその両腕を蛍丸に伸ばしたのだ。
「え?」
 た蛍丸も子供と判断されたようで、捕まり飲み込まれてしまう。
 檻の中に入れられた蛍丸は少年少女たちに苦笑いを向けた。
――蛍丸様……
 笑いをこらえる。『詩乃(aa2951hero001)』
「……結果オーライです」
 顔を赤らめながら、子供たちを見渡し、一際怯える少女に微笑みを向ける。
「待っていてください、すぐに」
 直後蛍丸から放たれるバニッシュメント。浄化の光がルネを内部から貫いた。
 同時に、構築の魔女と蘿蔔が銃弾をばらまいていく。
「子供たちの体内に霊力の反応は確認できませんね」
 構築の魔女はゴーグルを持ち上げながら告げた。
「であれば何の憂いもなく。倒せますね」
 その言葉を聞き、楓はルネを踏み台にして飛び上がった。レーヴァテインに乗せた渾身のライブスブローで、ルネの頭部を粉砕する。
「こちらも倒しました」
 ルネ全体の討伐を確認。子供たちを解放し護送車へと案内をする。
 だが最後まで油断してはいけない。迫る炎。取りこぼした炎が子供たちへと迫る。
「大丈夫ですか?」
 それの盾になる蛍丸。
「ここまで届くんですか……」
 楓もまた同じように盾になっていた。
 その手に握った旗を一振り、爆炎を晴らすと。楓は凛と背を伸ばし底に立って織田。
 はジャンヌを左手で、盾を右手で構え、その全力を持って火焔の塊を叩き伏せていた。
 その光に子供たちは息をのむ。
 その姿は翼を広げた天使のようにも見えて。
「早く行きましょう、透歌さんも心配ですから」

   *   *

――なぁ。子供は関係無いだろ。
 蓮日は告げる。
「貴方を罵倒したのは、世の大人たちでしょう。子供を解放して下さい」
 そう焔織は腕力だけで透歌を吹き飛ばす、その先には心乃がいて、連携してさらにはじく。
「同じ気分を……」
「なんデスか?」
「同じ気分を味わわせてやれって」
 透歌はそう微笑みを向ける。
「…………いろいろ聞キたいコトはあります、ですガ」
「大切に守ってきたものを奪われる気持ちを味わわせてやれって!!」
「……分かりました。ならばその野望《奪う》ッ」
 激しく吹き荒れる風、それに吹き飛ばされまいと焔織は地面に刃を突き立て耐える。
「それは間違ってる!」
 その風がやんだころを見計らい稜が前に出た。
「そもそもそれ、透歌さんの考えじゃないよね?」
「うるさい!」
 稜は透歌の手を取って、密着するほどに接近する。逃れようともがく透歌の目を見つめそして訴えた。
「僕も、初の大規模作戦時に後方支援で医療テントで治療していたけど……医療物資が足りなくて、やむを得ず”トリアージ”をしたけど……」
 トリアージ、それは命の取捨選択、圧倒的人手不足の事故現場などで、救える命と、救えない命を判別する時に行うタグ付のことである。
「それによって作戦後に僕は、同じ仲間である筈のH.O.P.E.の職員やエージェントに批判や『どうして、あの人を救ってくれなかった!』とか色々言われたよ?」
 稜は思い出していた、死を示すその色を、自分が、まだ生きている患者に括り付けるその瞬間。
「でも、僕はあの時の判断について今でも間違っているとは思っていないし、同じ状況になったらまたトリアージするだろう……」
 その光景を今でも夢に見ることがある。
 懸命に息を吸って、吐くだけの患者。赤いタグをつけたその人は、数分目を離したすきに死んでいた。
「何故なら、僕達の下した判断はその時その状況で指示を下す人間にならない限り、何が最善だったかなんて解らないんだ。それを、外部が後から色々言ってもそれは、IFだよ」
「あなたは強いね、けどそれは認めてくれる人もいたからだ、私にはいない。デアにもいない!!」
 透歌は上空に花火を投げた、それはさく裂することなく、透歌へと落下し、透歌を起爆剤に周囲に散った。
 その爆炎で全員の足が、動きが止まる。
 それは攻撃に足を取られたからではない、先ほどから自分へ浴びせている攻撃が彼女をどうしようもないくらいに傷つけていた体。
――もうそんなことやめろ!
 焦げ落ちたスリーブ。スカートは焼けただれ、髪は焦げている、それを見てアリューは叫ばずにはいられなかった。
「そんな姿を見たら、デアトラテさんは悲しむはずです」
 理夢琉が告げる。
「お前に、デアの何がわかる!!」
――わかるさ。
 アリューは告げた。
――人を守ろうとして前線に立っていたなら命を落とすような事もあっただろう
 英雄はいつも最善を考えて戦っていたんだろ?
 お前の指摘を受け最善を考えて行動したはずだ、すごいと思う。
「そう、そうよ、デアは私なんかより全然すごくて」
――英雄デアトラテが守り抜いた「金張 透歌」の命だ、無駄にするな
「英雄デアは嫌々従った?ちがうよね、皆や透歌さんも救おうとしたんだよね」
「……デア」
 そう透歌は空を見つめながら涙した。
「戻ってきて、透歌さん!」
「風太……」
 焔織がそう透歌に言葉を投げる。その言葉に透歌は息をのむ。
「……戦いを始めた理由……でしょう?」
 焔織が口にしたのはかつて彼女が護りたかった人、従弟の名前だった。
「なのに貴方が愚神に付いては……彼は《犬死に》だ。あぁ哀れな……彼の一生には何の価値も無くなり申した、きゃんきゃん」
――そしてデアもな!
「お前!」
 風によって吹き飛ばされる焔織。その吹き飛ばされた焔織へと馬乗りになって拳を振り上げる透歌。
――お前のそれは《やけ》と言うのだ! 下らん瞋恚で《であ》への誓いも裏切る気かッ!
「やめましょう」
 その手が掴まれる。
「焔織さんも、あまり挑発しないであげてください」
 透歌はその腕の先を追う。その手を握っていたのは楓で。後ろには蛍丸と蘿蔔が立っていた。
「あなたは大切なことをわすれています、そして騙されています、心歪める愚神によって」
 そう蘿蔔は静かに告げた。
 
第三章

「ロロー……」
「えぇ、残された私たちも残して逝った彼女達の思いこそが知りたかったですしね」
 構築の魔女は装甲車内にいた、ここで子供たちの護衛。および通信機器の制御をおこなう手はずになっている。
「まぁ、金張さんが同じ思いに捕らわれているならばですが準備はいたしましょう」
 そう構築の魔女が機材にスイッチを入れるとモニターに光が灯った。

   *   *

 蛍丸は透歌をどかせると。焔織の治療をしながら視線を向けた。
「透歌さん、あなたは、誰かに感謝されるために、任務を続けてきたんですか?」
「違う」
 蛍丸は言葉を続ける。
「命を張って守れなければ言われもない中傷をされる……腹立たしいのは当然です。こんな奴らを守ってきたのかと怒るのも分かる。
 でも、貴女がしていることは……貴女にとって最悪の記憶になることです。」
 その時、透歌は初めて、悲しそうな顔を見せた。そして小さく笑った。
「あなたは、誰かに認めてもらうために、戦ってきた……んじゃない、ですよね?」
 楓がそう問いかける。すると透歌は唇を引き結び、鋭い視線を楓に向けた。
「アンタたち本当に頭がお花畑ね、復讐に決まってるじゃない、私を裏切った世界に!」
 そう叫んだ時、突如交差点に声が響いた。
《違う! 透歌はそんな子じゃない!》
 それはイリスの抱えるスピーカーから響いていた。そして。蘿蔔がPCの画面を彼女に差し出して、告げた。
「きっとあなたは人を守りたかった、それだけ。なのに追い詰められた……」
 蘿蔔は告げる。そしてイリスも。
「みんなの声、集めてきました」
「これをどうか見てください、そして、それから決めてください。」
 そう蘿蔔がエンターキーを押すと、PCの画面に透歌にとって見覚えのある人物が映し出された。

   *   *

「お願いします!」
 そこはH.O.P.E.の会議室、そこには蘿蔔の事務所、モノプロダクションそしてグロリア社広報部の力で集められた『透歌』にかかわりのある人物たちが集められていた。
「今日は集まっていただいてありがとうございます」
 そう蘿蔔は事情を説明する。透歌が今どんな状況に置かれているか、彼女がどんな気持ちなのか、彼女が好戦の意思をひそめれば、まだ戻れることも全て。
 しかし、場は動揺していた。
 そこに集められた人々もまた、情報に踊らされていたのだ。
 そう、巧みにガデンツァは情報を流していた、透歌が愚神になったという情報がもうすでに、世界にあふれていた。
 だから蘿蔔の言葉は信じてもらえなかった。
 しかし。
「お願いします!」
 稜は壇上で頭を下げる、低く、地面に頭をこすり付けるように。
「彼女がこのまま悪い人だなんて、誤解されたまま終わるのは絶対嫌なんです!」
 稜の声は悲痛に滲んでいた。蘿蔔も同時に頭を下げる。
「どうか彼女の心を取り戻してください。彼女に助けられた方がいればお願いします……声を届けて下さい」
 稜が言葉を継いだ。
「彼女に対して感謝なんて感情は無い、それならそれで仕方ないんです。でも彼女に少しでも救われたと思える、何かを感じていたら。お願いしたいんです。彼女に救われたと思えるなら、どうか彼女を救うために力を貸してください」
 その稜の前に立ったのは、幼い少女。
「お姉ちゃんに、ありがとうっていえばいいの?」
 稜は顔を上げる。
「お願いできる?」
「お姉ちゃん、すごくかっこよかったよ、あずさのことねずっとだっこしてくれてたのよ」
 その後撮影機材などを搬入して急ピッチで撮影が行われた。
 パタパタ羽を揺らしながらイリスとアイリスがマイクを向けていく。
 それを眺めながら遙華はつぶやいた。
「蘿蔔、あんなにテレビにでるの嫌がっていたのに……」
 そして微笑んだ。
「人のためなら、きっと気にしないのでしょうね、あの子はそう言う子よね」

   *  *

 そして町中のテレビが、スピーカーが。端末が。
 ガデンツァの流した、鋭く鋭利な情報を上書きするように。
 暖かな情報を流し始める。
 それは全て感謝の言葉だった。
「嘘だ! こんなの全部嘘だ!」
「嘘じゃありません!!」
 蛍丸は叫んだ。
「ここにいる皆は貴女を……金張さんを心配して駆けつけた人達なんです! このモニタに映る人たちもそう。決して周りに誰もいなくなったわけじゃない!」
 透歌は後ずさる。
 その様子を魅霊はじっと観察していた。
「私は、私の正義を選ぶ」
 その言葉は自分のうちに向けられていて。

「もし あの子供たちが、金張 透歌という人が炸薬となり、私の大切な人を襲うのなら。
私は 私の大切な人をこそ護り、子供たちを 金張 透歌を その脅威を消し潰そう。
そして負うんだ。殺めた者 取りこぼした全ての怨嗟を。
この場において、それができるのは私だ」
 
「 影は光の下に。なればこそ、光は影あってこそ映える。
皆が光となるのなら、私は影と成ろう。
例えその果てに、信ずる者に滅ぼされようと」
 これが、魅霊の出した答えだった。

「あなたは、誰かに認めてもらうため、褒めてもらうために人の命を救ってきたんですか?」
 楓の言葉に蛍丸が言葉を重ねる。
「思い出してください。何のために戦ってきたんですか? 名誉ですか? 賞賛ですか? ……守りたいものを守るためですか?」
「護りたいもの? そうだ、私は」
 モニターを見つめる、この笑顔を守りたかった。
「例え大多数の人に後ろ指をさされたとしても、少数の人があなたがしたことで救われたと知ってる。それだけで充分じゃないんですか」
「違う、それは違うよ、だってデアが。護りたかったのはデアのこともで」
――それは、デアトラテに対する冒涜だ。
 アリューは告げた。アイリスが言葉を繋ぐ。
――君の言葉にデアトラテは納得していて、そして彼なりに護りたいものもあった、だから君と戦った、そして死んだ。だが彼はそれを納得していたのではないかな?
「違う、デアは納得なんてしてなかった。それを私が無理やり」
「自己満足でも構いません。誰かに認められなくても仕方ありません。護るべき者は本来そういうものなんです」
 その言葉に目を見開く透歌。
「護るべき者?」

「私は、あなたがデアさんがあの時人を救おうとしたことを知ってます。結果がどうであっても、あなたはあの時救おうと決め行動しました。あの時の決意を、あなた自身が踏みにじってどうするんですか」

「信じてくれるの? 私が、私達がみんなを守ろうとしたこと」
「当たり前じゃないですか」
 楓は歩み寄った、そして傷ついた少女を抱き留める。
「私が怖くないの?」
「はい」
「私攻撃するかもしれないよ?」
「大丈夫です、あなたが痛かった分、私も痛くて大丈夫です」
「そんなのおかしいよ」
 一人でもがいていた少女を、消えてしまった大切な相棒を悪魔のように言う。消えてしまって当然とでも言いたげな世間、その隅に追いやられて、でも少女は泣くことさえも許されず。ただただ、どうすればすべてを救えていたのだろう、思い悩む日々を重ねた。
「だから……こんなことはもう辞めてください。今なら、まだやり直せます。だから……」
 そんな必死の言葉から逃げるように透歌は楓を押しのけた。
「もう、殺して、私を。もう嫌だよ、こんな世界。もう」
「今はつらい世界に見えるでしょう……でもそこで自棄を起こしてしまえば。それこそ二人への裏切りです。貴方がすべきは、罪を償い……仲間と共に、立ち上がる事です。……共に、生きましょう」
 楓はしかしその手を絶対に話さない。
「あなたを応援してくれている人は沢山います。どうか諦めないで」
――お前はここで負けるのか? 一緒に最後まで戦った相棒の誇りは、お前以外の誰が守るんだよ。悪者扱いや悲劇にされて、最終的には人々から忘れ去られる。それでも良いのか?
 ウォルナットが告げる。
「だめ。だめだよ、デアは違う。彼は本当にみんなの幸せを考えてて、なのにそれがわかってもらえなくて。それが、それがつらくて。」
「みんなわかってくれます、だから一緒に帰りましょう?」
「…………うん」
 そう透歌が告げた、その時である。

「この時を待っておった」

 直後周囲にあった電子機器の電源が軒並み落ちた。
 次いで響き渡ったのは、奇妙な歌。滅びの歌ではない。だがその歌を聞いていると力が奪われるような。
「ガデンツァ!!」
 蛍丸が叫ぶのと同時に捻じれるように透歌の背からルネが飛び出してきた、その手は鋭くとがっており、そして。
《シンクロニティ・》
「やらせません!」
《デス》
 その間に挟まったのはイリス。その小さな体で透歌を守るように壁になる。その肩を深々と杭が穿ったがダメージは無い。
「この黄金の絆は染まらず、傷つかない……二度も堕ちると思うなよ。ガデンツァ!」
「しまった、音階が」
 だがおかしい、イリスはその身を内側から溶かすような痛みを覚悟していたのに、そもそもイリスには音が響かない。
――ダメージが、全くない?
 次の瞬間、稜は透歌へ。蛍丸はルネへ手を添え、そしてパニッシュメントを放つ。
「がああああああ! おのれ! またこの技か!」
 すると、胴体を失ったルネは首だけとなり転がった。
 その頭を踏みつけて焔織は告げる。
「……言伝を、預かッテおりまスよ……『執拗に人の心を砕きたがるその根性、まるで復讐者の様だ』と」
――おまえ。ほんとーは人間が憎くて、恐くて、羨ましいんじゃないのか?その嘲笑の奥に、憎悪が見えるぜ?
「お前……」
 ガデンツァは視線を焔織に向ける。
「誰の質問じゃか、我にはよう、わかるぞ。あの小僧じゃな」
「…………」
「奴も我のことが好きじゃなぁ。惚れておるのか?」
「その手ノ冗談は隊長には控えていただきたく……」
――意外と初心だからな、あの人。
「にしてもその線ははずれじゃな、限りなく遠いところにある」
「憎悪ではない?」
「じゃが、一つだけ言えることは、わらわの計画を捻じ曲げるお主らは、今すぐにでも殺してやりたいということじゃ!」
 その時モニターに映し出されたのはひとりの少年、そしてガデンツァ。
「風太!」
 そう叫んだ透歌。さらに何事かを透歌は叫んだが、すぐに少年の悲鳴にかき消されることになる。
 全員が状況を飲み込めなかった。
「ほれ、胃袋の内側から、どん」
 その瞬間、モニターに飛び散る血と肉片、その赤を浴びてもガデンツァは表情一つ変えることはなかった。
「やはり、反応としてつまらぬな。怒りも、憎悪もつまらん。やはりわらわの楽譜を彩る4分音符は絶望でなくてはのう!」
――君にしてはらしくないな。
「アイリスが告げた」
「再確認じゃよ、最近はお主らのせいでろくに殺しもできん。故にの」
 その瞬間、ガデンツァの甲高い笑い声を置き去りにすべてのモニターの電源が切れた。


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • エージェント
    ウォルナットaa0405hero002
    英雄|15才|?|シャド
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    S.O.D.aa1456hero002
    英雄|14才|?|シャド
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439
    人間|18才|男性|命中
  • 流血の慈母
    青色鬼 蓮日aa2439hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • エージェント
    天野 心乃aa4317
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    aa4317hero001
    英雄|15才|女性|ドレ
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