本部

超弩級の壁ドン大会

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/11/28 10:54

掲示板

オープニング

●またやらかした少女

――某所――

「いやっほー! 完成です完成です!」
 作業着姿の少女は目の前に設けられた壁を前にして叫ぶ。日ごとに作業を積み重ね、彼女はついに完成させたのだ。対デクリオ級防護障壁を。波来る愚神や従魔の攻撃にも耐える実力を持った壁を。ペアを組んでいる青年も、久しぶりに彼女を褒めた。
「まあ、出来ましたね。協力があったとはいえ、よくここまで作り上げたもんです」
「でしょう。でしょう。私はまあ天才ですからね。これくらいすぐに作り上げてしまうんですよ」
 眼鏡をくいとやりながら、彼女は無い胸を張る。
「もう少し謙虚ならもっと褒めてあげるところなんですがね」
「けんきょ。そんな言葉私の辞書にはありませんね。私は私の才能に相応しく常に振る舞うのみです」
「どこからその自信は来るのかさっぱりですよ」
 眠気覚ましのコーヒーを啜りながら青年は溜め息をつく。現役高校生でありながらHOPEの優秀な研究員としても務めを果たす彼女は間違いなく天才に違いない。然し年が5も6も違う自分に対して圧倒的な態度をとるのはいかがなものかと青年は思う。まあ、青年の方が部下なのだからその態度の当然と言えば当然なのだが。
「さてさて! 作ったものは早速試してみないといけませんね!」
「試す、とは」
「決まってるでしょう! この壁をエージェントの皆さんに殴らせて硬さを試すんですよ! 壁ドンです壁ドン! 超弩級の一撃でドーン!」
「そんな物騒な壁ドン聞いたことないです」
「皆さん連日の戦いで疲弊してます。何かを殴ってストレス解消したい時が来ていると思います! というわけでこの壁を思いっきり殴ってもらいます! 壊せるもんなら壊してみやがれ!」
 拳を構えてぴょこぴょこ跳ねながら少女は叫ぶ。
「……はぁ。貴方の思い付きには毎度毎度呆れますよ……」

●ルール説明!
 とりあえず束の間の暇を持て余して集まったエージェント達。彼らを前にして、研究員の少女は鼻息を荒くする。
「ようこそ! 今日は集まってくださり本当にありがとうございます! 本日皆さんをお呼びしたのは、他でもない、あそこにある、私が開発した防護壁のサンプルに試しで攻撃してもらうためです!」
「すいません。くだらない事でお呼びしてしまって」
「くだらなくはありません! この壁が完成すれば要所での戦いにより優位に立てる筈です! まあ、ただ単に殴るだけではつまらないかと思うので、ここはルールを設けます!」
「はあ」
 青年は溜め息をつく。
「まずは一つ! 攻撃するのは一人一回! 順番は相談で決めてください! 決まらなかったらこちらで勝手に抽選します! そして二つ目。壁に攻撃出来るのは一度だけです。だらだらと殴りまくらないでください。ただし、攻撃するまではどれだけ時間かけてもいいです!」
「適当ですねえ」
「ついでに、あの壁には色々細工がしてありまして、皆さんが叩き出したダメージ量を数値化できるようになっています。そのダメージが一番大きかった方の優勝! ちょっと報酬に色を付けさせていただきます!」
「単純ですねぇ」

「以上です! 私の作った障壁は万全です! せいぜい壊してみてください!」

解説

メイン:ライヴスストーン利用の防護障壁の耐久実験に協力する
チームサブ:防護障壁を壊す
個人サブ:最大ダメージ量を叩き出す

登場敵?
対デクリオ級防護障壁
ライヴスストーンを利用してライヴス由来の攻撃に堪え、自動で修復されるように設計した壁。ライヴスにはライヴスだと科学者の少女がこの壁を殴ってみるよう依頼してきた。耐久力は万全とたかをくくっているから、ぶっ壊して鼻を明かしてやろう。
生命力(耐久力)500、物理防御、魔法防御ともに500。
行動は(当然だが)しない。ただし、豊富なライヴス供給により一回攻撃を受けるごとにそのダメージの半分の値だけ修復する。

それぞれのPCにつき一度だけ攻撃行動を行うことが出来る。

Tips
ダメージブースト
今回は刻一刻と状況の変わる戦場ではない。即ち、持てる集中力や筋力や速力やなんやらかんやらを全て一度の攻撃に詰め込むことが出来る。そのため、普段以上のダメージを攻撃に関して見込むことが出来る。
(例→必殺技を叫ぶ、ブルッツフォンポイントを狙う、マッスルポーズを決める、プロテインを飲む、など)
その効果は物攻or魔攻に×1.1~×2.0まで。その効果はオリジナリティと説得力と面白さ(重要)で変動する。
※クリティカルの拡大解釈です。

リプレイ

●前説
 この動画は“奇跡”を収録しています。外で真似をしても実現できません。方々に迷惑が掛かるので、リンカーの皆さんは絶対真似しないでください。え、これ言うの?
 ……青藍おねえちゃんとの約束だぞ♪

●HP500
〈さあ、いよいよ壁ドン大会の始まりです! ちなみに私達は外から見てます〉

『何だよー。マジで壁をドンするだけかよ! 少女漫画で見たアレだと思ってたのによー。顎クイからのチューは無しか! つまんねー!』
「……どこでそんな知識得たんだ。勘違いしたのはお前だぞ。仕方ないだろう」
 大和 那智(aa3503hero002)は早速不満たらたらだ。依頼を色々と勘違いしてしまったらしい。東江 刀護(aa3503)はそんな相方を呆れたように宥める。さっさとこの世界の常識を教えなければと心に誓う。
『誰か俺に壁ドンされてくれよー。その方がやる気出るしー。なー』
「うふふ。残念ですが」
「千年早いわ。そして半年遅いわね」
 世良 杏奈(aa3447)とレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)はすかさず結婚指輪をちらつかせる。世帯持ちはやることが違う。
『んだよ! わざわざ見せなくたっていいだろ!』
「そこまでだ。さっさとやるぞ。壁ドンしたいなら自分で彼女を作れ」
「ちぇー」
 すねる那智を諫めて刀護はさっさと共鳴を果たす。蒼髪緑眼、漢服を着崩し、竜鱗の紋様が浮かび上がる。
「さあ、行くぜ! 一気にぶっ壊してやる!」
 腹に息を溜め込み、拳を固めてナイファンチを踊る。一糸の乱れも無い動き、静寂を割る叫びが実験室の中に響く。その度に、練り上げられたライヴスが霧のように発散されていく。
「リスクなんぞ気にしねぇ! リンクバーストだ!」

[赤城 龍哉(aa0090):なんだって!?]
[ヴァルトラウテ(aa0090hero001):おっと……]

 突飛な作戦に驚きを隠せない赤城組。しかし刀護は大切なことを忘れていた。ライヴスを昂らせ、勢いのままに刀護は刃の嵐を呼び出す。
『気合一閃! 東江流古武術奥義、刀剣乱打ッ!』
 刃の嵐は防護障壁に襲い掛かる。甲高い音が響き、火花が散った。刃の欠片が光となって融けていき、幻想的な光景となる。先程の空手といい、彼の技は芸術的だ。
『よっしゃぁ! どうだ!?』
〈お疲れ様です! えー、結果はですね……30ポイントです〉
『30? こんなもんじゃねーはずだが?』
 結果を聞いて戸惑っている刀護に向かって、黙って様子を見守っていた豪徳寺 神楽(aa4353hero002)が、腕組みしたまま淡々と告げる。
『簡単な事。リンクバーストにはそれをもたらす道具が必要だ。刀護、お前は今それを使っていなかっただろう』
「ん? ……やっべ持ってくるの忘れてた!」

[龍:忘れてくれててよかったぜ……]
[ヴ:バーストクラッシュの恐怖……]

「ですが、一対多を旨とするカオティックブレイドにしては大きな一撃では。リンクバーストをしている、という思い込みがそうさせたのかもしれませんね」
『つもりンクバーストってところかな』
 国塚 深散(aa4139)と九郎(aa4139hero001)は真面目に考察を始める。その言葉を横で聞き、刀護は溜め息をついて実験室の床に腰を下ろすのだった。
「つもりンクバースト……ま、いっか。多少はダメージ与えたんだし」

●HP485
〈さあ、まだまだ壁は余裕綽々ですよ!〉
「(確かに、言うだけの事はあるかもしれないわね。その自信も壁も木っ端微塵にならなければいいけど」
 外の部屋からわいのわいの叫んでいる少女の声を聴きながら、水瀬 雨月(aa0801)は独り思う。とはいえ自分が壁を吹き飛ばせるとも思わない。全て程々に。程々に全力を。
「ねえ、仁科さん」
〈何でしょ?〉
「攻撃を加えるまでなら、どれだけ時間をかけてもいいのよね?」
〈はい。その通りです〉
「……わかったわ」

 実に雨月はじっくり準備を施した。杖の先で魔法陣を描きながら、魔導書をめくって囁くように呪文を唱える。それを見守るエージェント達は、次第に体の中を風が駆け抜けていくような、おぞましい感覚に襲われ始めた。
「遥かな果てに放逐されし古の者」
「その力の一端を現世にて解き放て」
「顕現せよ異界の理」
 魔法陣を描き終え、雨月は身を翻す。黒いドレスがふわりと揺れた。床に描かれた複雑怪奇な紋様が不意に黄金色の光を放つ。
「帰せよ、還れ、安寧も苦痛も無く」
 瞬間、一つの影が飛び出した。形もなく揺らめいていたその影は、幾本もの触手を伸ばし、黄色の光沢を持つ黒い衣を纏った姿へと形を変えた。それを目にした瞬間、エージェント達が拒めぬ恐怖を味わう。

[ヴ:混沌が這い寄ってくる……!]
[世良 杏奈(aa3447):うふふ。やるわねあの人!]
[ルナ(aa3447hero001):ああっ! 杏奈が戦う前からハイテンションに!]
[狒村 緋十郎(aa3678):そんな、それだけはダメだ……!]
[九:緋十郎くんが一時的発狂してまーす]
[リィェン・ユー(aa0208):怖いソフィスビショップがいたもんだな]
[イン・シェン(aa0208hero001):あんな魔とも一度は死合うてみたいのう……]

 大丈夫な者も多かったが。レミアなどは涼しい顔だ。

「さあ、征きなさい」
 エージェント達の惨状をよそに、雨月は影、アムブロシア(aa0801hero001)の真の姿を偲ばせる影に命じた。影はふわりと浮かび上がり、壁に向かって突撃した。靡く襞の狭間から銀の魔弾が光の筋を描きながら飛び出し、壁に突き刺さる。さらに影の懐から蒼炎が飛び出し、壁を焼き焦がしていく。
『……!』
 黒衣の影に覆い隠された目のような何かが輝く。刹那、その姿は巨大な雷へ変じ、暴風巻き起こしながら壁に直撃した。

 響く爆音。眩い光が、一瞬エージェント達の視界を奪った――

〈いあ、いあ、はすたあ!〉
「何を言っているの。私の攻撃は終わりよ。結果を教えてくれないかしら」
〈はっ! 私は何を……はい、98ポイントです!〉
「……へえ。私の持てる手を全部一つの魔法に圧縮したのだけれど。まあ、写本ではこの程度かしらね。原典なら話は別かもしれないけど」

[龍:これ以上は味方の精神がヤバいんだが……]

『……! ……』
 幻想蝶が僅かに揺れた気がして、雨月はそれを手に取る。
「(珍しい事をやっている、とでも思っているのかしら?)」
 アムブロシアに笑われている気がして、雨月も僅かに頬を緩めるのだった。

●HP436
「……!」
 深散は目を見開き、刀を一気に抜き放つ。足先から丹田、背筋、腕、指先まで全ての力を余す事無く伝えられた刃はまるで銀の扇が広げられたかのような軌跡を残す。素人でもわかる会心の一撃だ。しかし……
〈む? これはどうした事でしょう。0ポイントですか……〉
「あら。私の攻撃力では傷一つつけられませんでしたか……」
 少女の結果報告を聞くなり、深散は困ったような顔を作って肩を竦め、共鳴を解いて九郎と共にそそくさと部屋の隅へ引っ込んでいく。その様子を眺め、杏奈とルナは首を傾げる。
「あらあら。深散さん、何か企んでるのかしらね……」
『怪しさ満点ね……』
〈ふむ……ともあれ、次に進みましょうか……〉
 はしゃぎまくりの少女も、不可解な結果に少々冷静になるのであった。

●HP436?
「……てことだけど、それが何になるのよ」
梶木 千尋(aa4353)は神楽に尋ねる。彼女の相棒は、壁を軽く叩いて何やら頷いていた。
『なるほど』
「何がなるほどなのよ」
 壁の前に跪いて一人合点している神楽の横顔を、千尋は怪訝な顔を作って覗き込む。神楽は相変わらず壁をじっと見つめたまま、千尋に尋ね返した。
『……千尋、君は共振を知っているか』
「聞いたことあるわね。声でグラスを割ったりするんでしょ」
『そうだ。共振させることで、音として送られたエネルギーが何倍にも増幅され、やがてグラスが自壊する。それが共鳴だ。だが、今回は逆を行う。共振をしないように極限まで抑える』
「どうして」
 神楽は立ち上がると、千尋の幻想蝶からさっとハルバードを取り出した。
『共振が起こるとエネルギーが全体に分散する。エネルギーを継続的に与えるなら別だが、私達のように瞬間的な攻撃を与える限りは、エネルギーの分散は無駄でしかない』
「なるほど? じゃあどうするのよ」
『エネルギーを分散させなければいい。初撃に対して逆位相の衝撃となるように二撃目を叩き込めば、それぞれの衝撃が打ち消し合う事になる。此度は三連撃を見舞う予定だから、少々工夫がいるがな』
「……よくわからないけど、わかったわ。……神楽、貴方、もっと大雑把な人間だと思っていたわ」
『阿呆が。頭を使わずなんとする。感覚で生きている貴様や香菜とは違うのだよ』
「はいはい。じゃあ、主導権は任せるから好きにやって」
『ああ。そうさせてもらおう』

 疾風怒濤の素振りも済ませ、準備は万端、神楽はハルバードを脇に構え、息を整える。
『準備は済んだ。後は、怒りだ。怒りは力を倍加させる。千尋、私を怒らせるがいい』
「(え?)」
 嫌な予感がした。しかし相方がやる気の手前、拒むわけにもいかない。溜め息をつき、千尋は開き直って叫んだ。
「(この眉間のシワが消えない不機嫌ババア! たまには笑わないと老けるわよ!)」
『……殺す。必ず!』
 理不尽。しかし燃えた炎はもう消えない。神楽は怒りの力で一気にブーストをかけた。ハルバードで毫の間に三度乱れ突く。抵抗を殺された壁は、その攻撃によって激しく凹んだ。
 ――そして、不意に壁が閃き、鋭い裂け目が刻み付けられた。
『……む?』
 想像以上の一撃。神楽は首を傾げるしかなかった。

『作戦成功』
「……のようですね」
「お二人は何をしたんですか?」
 杏奈が尋ねると、九郎は得意げに頷いた。
『燃焼には熱、酸素、可燃物の三要素が必要になるけど、密閉された空間では酸素がすぐになくなってしまう。そこで密閉が破られた瞬間、流入した酸素でドカンとなる。それがバックドラフトだ』
「私達の斬撃にも同じことが言えます。動作、衝撃、ライヴス、この三点が揃って初めて一撃となりますからね。今回はその斬撃から衝撃を排除し、動作とライヴスのみをあの障壁に残してきたのです」
 説明しているうちに、生来の面倒見の良さが現れ、思わず深散は興が乗ってきた。その様子を横で見て、九郎はさらに説明を続ける。
『抵抗によって衝撃エネルギーは分散してしまう。接触面を最小化し、淀みなく真っ直ぐ、抵抗の発生よりも速く振り抜く事で衝撃を全て障壁の外へ逃がしてしまったのさ。普通は無理だけど……ライヴスを伴わない物理現象の影響は受けないからね』
「それを可能にしたのがヴァシレウスの双眸から生み出される、異なる位相を持つ2種のライヴスを利用した、スカパードからの最速電磁抜刀。これにより壁には動作とライヴスのみが蓄積され、外から衝撃を伝えられた瞬間に、私達の攻撃は完遂される……という訳です。賭けでしたが……上手く行って良かったですよ」
『へえ……そういう事だったのね……』
 怒涛の説明に眼を白黒させ、ルナはぽつっと呟く。そこで深散は熱が入り過ぎていたことに気付き、頬を赤くするのだった。
〈なるほど……そんなことが可能だったとは。ダメージは373ポイント。二組纏めての攻撃なので、これは参考記録とさせていただきます〉
『ふむ。参考記録か……まあいいだろう。そんな事よりもだ』
 神楽は不意に共鳴を解く。解き放たれた千尋は、隣に立つ怒れる神楽を見た。
『さあ、死んでもらおうか』
「あ、あなたが言えって言ったんでしょうっ!」
 神楽は逃げる千尋を追いかけていく。二人の叫ぶ声が、しばし部屋に響き渡るのだった。

●HP250
「さあ、大分この壁もいい感じになって来たわね。私達も続くわよ!」
『うん♪ 思いっきりやっちゃってね杏奈!』
 ルナは杏奈とともにガッツポーズを作る。今日もドSな杏奈がアルスマギカをぶん回して楽しげに壁を破壊しに行くのだろう。ルナはそう思っていた。だが杏奈はうふふと笑い、そっとルナの肩に手を置いた。
「ううん。今日はルナにやってもらうわよ!」
 その言葉が一瞬飲み込めなかったルナだったが、一拍置いて素っ頓狂な声を上げる。
『え、えええ!? どうして!?』
「クールな魔法は水瀬さんがやっちゃったじゃない? だからこっちはキュートな魔法で対抗! 魔法少女ルナティックローズの出番よ!」

[刀:あれはクールなんてものでは……]
[緋:う、あああ。そんな……]
[九:中々起きないなあ、緋十郎くん]

 ルナはしばし躊躇っていた。しかし、企みを始めた杏奈が止まらないのは自分がよくわかっている。ルナは肚をくくった。胸を張り、彼女は頷く。
『うん。やるわ、私!』
「そうこなくっちゃ。じゃあ、早速行くわよ! 変身!」
 二人の身体が光に包まれて融け合う。ルナの金髪が赤いリボンでサイドテールにまとめられる。真っ赤なドレスの袖も裾も可愛らしく揺らして、白いタイツに包まれた細い足が眩しい。足には少し背伸びした真っ赤なロングブーツを履いて、彼女はすとんと床に降り立つ。
『魔法少女ルナティックローズ参上! さっそく、いくよーっ!』
 ルナはアルスマギカを取り出すと、テンションMAXになって口上を叫ぶ。
『杏奈と私! 二人の心が一つになって、生まれるパワーは無限大!』
 光がページの形を成してぱらぱらと浮かび上がり、ルナの周りを取り囲む。ルナは手をZの字に組む。その腕が、脚が、白く輝く美しいドレスに包まれていく。最後に生まれた光の杖を手に取ると、ルナはふわりと浮かび上がって杖の先を壁へと向ける。
『これが私の全力全壊! スピア・ザ・ライトニング! 走れ、いかずちぃぃいいっ!』
 光の杖の先から、地這う雷霆が飛び出す。それはやがて鋭い嘴、逞しい翼を持った鳥へと姿を変え、一直線に壁へと突進する。直撃した瞬間、鳥は鋭く鳴き叫んで壁の表層を吹き飛ばしてしまった。
『へっへーん! どーだぁっ!』
 余ったライヴスを星屑に代えて舞い散らせ、ピースをおでこに当ててウィンクする。その姿は、まさに強気で可愛らしい魔法少女だった。

〈結果は50ポイントです!〉
『うーん……あんまり伸びなかったのね』
 ルナは結果を聞いて、不満そうに肩を落とす。しかし当の杏奈は大満足。満面に笑みを浮かべてその肩に手を置いた。
「でも、とっても可愛かったわよ、ルナ」
『ほ、ほんとに?』
 見れば、野郎どもは腕を組んで頷いていた。
「可愛かった」
「そうだな」
『壁ドンしたい』
「まだ言っているのか」
「可愛かったよ」
『え、えへへ……ありがと』
 ルナは素直に照れて、恥ずかしそうに俯くのだった。

●HP225
『いい加減になさい』
 踵が壁にめり込むほどの一撃。悪夢にうなされ続けた緋十郎は、その衝撃とレミアの甘い匂いを感じてようやくしょうきにもどった。
「こ、この壁ドンの威力は、結婚式の控室以来……! 思い出しただけでも、あの日の感動と興奮が甦る……!」
『黙りなさい変態、さっさとこの壁に止めを刺すわよ』
「あ、ああ。すまない。……おぞましい夢だった」
『安心しなさい。何を見たか想像はつくけど、そんな苦痛を与えてもわたしが愉しめないわ』
 さりげないデレ。緋十郎は感涙に瞳を輝かせる。
「レミア……!」
『今度こそ黙りなさい。さっさと決めてしまうわよ』
「ああ。改めて誓う。俺の力……全てレミアに捧げる!」
『ええ。その意気よ』
 レミアは配線が剥き出しになった壁に緋十郎の写真を張り付けると、振り返ってそのまま緋十郎へしなだれかかり、その牙を首筋に突き立てた。人目を憚らぬ愛の営み。そのまま二人の姿は融け合い、後には魔剣『闇夜の血華』を右手に下げたレミアだけが残る。
『(ねぇ緋十郎。巧くいったら、あとでじっくりたっぷり苛めてあげるわ。わたしに弄んで欲しいのなら、死ぬ気でライヴスを捻り出しなさい……!)』
 黒い翼が彼女の背に広がる。吸血姫の誇りに掛けて、必ず壁を打ち砕く。彼女の意志が力と変わり、翼はまるで生き物のようにはためく。魔剣の柄から伸びた茨が彼女の腕に絡みつき、うっすらと血を溢れさせる。痛みと共にそれを感じ取った緋十郎は、思わず盛った。
「(ああ、征こう! レミア!)」
 レミアは両手に剣を構え直す。狙うは顔写真。緋十郎の感情の昂ぶりが、彼女の気力をトップギアまで押し上げる。刹那、レミアは感じる。いつ失ったかも、最初から持っていたのかも忘れてしまった、身を焦がすような熱を。
『(……褒めてあげるわ。緋十郎、わたしが夫と見込んだ男……!)』
 剣を脇に構え、レミアはくすりと微笑む。
『……ねぇ、緋十郎。二人で力を合わせて一刀両断なんて、ウェディングケーキの入刀を思い出すわね……!』
「(……! レミアとの、愛の共同作業! うおおぉお!!)」
 ドレッドノートドライブ、オーバートップギア。内側に燃え上がる闘志と煩悩と欲望。全て綯交ぜになった力を胸に、レミアは翼を広げて飛び出した。ドレスを靡かせ駆け抜ける。深紅の閃光を曳きながら、袈裟の一撃を叩き込む。そのまま身を翻し、逆袈裟にもう一撃。トドメとばかりに緋十郎の顔写真の真下に切っ先を叩きつけ、柄を思い切り蹴り込んだ。
 刹那、耐久力の限界に達した防護障壁は一気に砕け散る。これが愛の力だ。

[龍:あっ]
[リ:ま、こういう時もある……]

〈おめでとうございます! 結果は374ポイント! 堂々たる結果ですね! いや、やってくれると思ってました。……顔色悪い方もいらっしゃるようですが〉
「マジかよ……」
 龍哉は頭を抱える。リィェンもただ立ち尽くしている。
『壁が脆いのがいけなかったわね』
〈全くですね! 全くですよ!〉
 レミアの言葉に応じるように、少女は叫ぶ。その瞬間、砕けた壁の瓦礫の中から、鈍い音がして何かがせり出してくる。黒鉄の壁だ。
〈こんなこともあろうかと、私は予備を用意しておりました! 耐久力は先程の壁の1.5倍! どうです!〉
『おやおや。良かったのう龍哉』
「よ、よし! やってやる! ……良かった」
 突然の隠しボス登場に、龍哉は内心安堵しつつ、力強く頷く。
「でもどうするんだ。俺達だけで壊すのか?」
『まあ、そういう事になるのでは……』
〈ええ、貴方達だけの攻撃で壊して貰います。文字通り、“貴方達の攻撃”、だけで!〉

[杏:レミアさん。緋十郎さんをどうしてすぐに起こしてあげなかったの?]
[レ:……]
[杏:もしかして、深散さん達の攻撃を見て緋十郎さんが興奮したら……とか考えたの?]
[レ:……あなたの想像に任せるわ]

●HP750
「全く、一瞬どうなる事かと思ったぜ」
『出番が無くなるところでしたわね』
 黒鉄の壁を前にして、龍哉は拳を鳴らす。壁とはいえ、紛れも無い強敵を前にして彼は気合がいやが上にも高まる。そんな相棒達の姿を一瞥、リィェンは首を傾げる。
「とはいえ、俺達二人の連携攻撃であれを壊せ……か。中々な仕事だな」
『問題あるか? こんなもの、赤子の手を捻るようなものよ。そうじゃろう?』
 インは扇をゆらゆらと仰ぎながら余裕の態度だ。口端には余裕綽々、自信満々の笑みを浮かべている。そんな彼女の言葉に、龍哉はにっと白い歯を見せる。
「ああ! 俺達の連携で、超弩級の一撃かますぞ!」
 二組はそれぞれ共鳴する。そこに生まれるは、銀色の聖戦士と狂戦士。二人は並び立つと、互いに目配せを交わして動き出した。
「アステリオス!」
龍哉が叫んだ瞬間、幻想蝶から巨大な斧が上空へと飛び出す。跳び上がって片手で掴み取った彼は、そのまま激しく振り回しながら着地する。
「打ち寄せる波の前には、如何なる強固な岩壁だろうとその姿を保つこと能わず」
頭上で残像が浮かぶほどに斧を回す。空気が裂け、雷鳴が響く。そのまま龍哉は中段構えのバリ立ちで大見得を切った。
「赤城波涛流、赤城龍哉、推参っ!」
龍哉の熱気が、銀の鎧の隙から金色の光となって溢れ出す。光はアステリオスにも伝わり、走る雷が猛牛の咆哮を上げた。
『(アックスチャージャー起動。ライヴス充填率50……60……70……)』

「…………」
その背後で、リィェンは肚に深く息を溜め、ライヴスを深く練り上げていた。龍哉が溢れるパワーを叩きつけ、リィェンは研ぎ澄まされた一閃を見舞う。それで今までやってきた。相棒と共に切磋琢磨し、全力をぶつけるのみ。
『(行くのじゃ!)』
「哈ァッ!」
 リィェンが気合を発した瞬間、黄金の瞳が輝き全身から銀の陽炎が立ち昇る。神斬を八相に構えて跳び上がった。相棒の頭上を越え、身を捻りながら敢然と壁へ突っ込む。
「まずはこいつを喰らっておけ!」
 分厚い障壁に向かって、リィェンは袈裟斬りを見舞い、そのまま突き、返す刃で逆袈裟を叩き込んだ。黒い壁には歪んだバツ印が刻み込まれる。それを確かめたリィェンは、脇へと飛び退いた。
「後は任せたぞ、龍哉」

『(充填率120%! 今です!)』
「はぁああっ!」
 ヴァルトラウテの叫びと共に、龍哉は斧を壁に向かって投擲した。激しく回転して壁に衝突した斧は、上空に跳ね上がる。光だけを残し、目にも止まらぬ疾さで跳んだ龍哉は、宙で斧を掴み取ると、そのまま全体重を載せて一気に振り下ろした。障壁は砕け、醜い傷が刻み付けられる。龍哉はそのまま一気に後ろへと飛び退いた。その先には、剣を脇に構えたリィェンの姿が。
「これで決めろ!」
「よし!」
 リィェンは剣を振り薙ぐ。その腹に脚を載せ、龍哉は猛牛のように飛び出した。雷が溢れ出し、龍哉を金色の光に包み込む。
「紫電、一閃!」
 全力の唐竹割り。障壁は粉々に砕け散った。龍哉はそのまま床を滑り、焦げ跡を刻み付ける。どうにか停まった龍哉は、得意げに斧を振り回して石突を床に叩きつける。
「俺達にかかれば、こんなもん!」
『(朝飯前ですね)』
〈すごい! まさか本当に壊しちゃうとは! 結果は二人合わせで1117ポイント! 仮にこれがまともに決まれば、ケントゥリオ級すら粉微塵です!〉
「おおっ!」
「これは凄いな……!」
 仲間達は二人の破壊力にどよめく。その眼は龍哉の方に釘づけだ。この有様に、インはつまらなそうな溜め息を洩らす。
『(美味しいところは持っていかれたのう……)』
「まぁ、あいつが決めた方が派手でいい」
『(……かもしれんの)』

●改良すべき点
「いや……一枚目は普通に壊されるだろうと思っていたんですが、まさか二枚目まで壊されるなんて思いませんでしたよ。エージェントの皆さんの力は凄まじいですね!」
 自信満々に押し付けてきた壁が壊されても、科学者の少女はにこにこしている。隣の青年は苦笑しながら頭を下げる。
「こんなことに巻き込んですいませんでした」
「いいってことだ。もっといいもんが出来る事に越したことはないからな」
「はい! 頑張ります!」
「その意気ね。改良に励みなさい」
 レミアも軽く微笑んで少女を励ます。その言葉に少女も頷いたのだが――
「仁科ァッ!」
「はっ!」
 一人の研究員が実験室に飛び込んでくる。それを見た瞬間、少女は顔色を変えて青年の背後に引っ込む。
「仁科! 何だこの報告書! 防護障壁はいいが、こんなに霊石バカ食いするもん採用できるわけないだろ! いくらこの間手に入れた霊石があるからって、無駄遣いするな!」
「ふぇぇ」
「すいません。理論から組み直しますから、どうか……」
『……予備を貰おうかと思ったんじゃが、そんな場合じゃなさそうじゃの』
『どういうことだよ? この実験は徒労だったてことか?』
 怒られている科学者二人を見て、インと那智はそれぞれ目を瞬かせる。今までの熱が、急に覚めていく。このままではいけない。龍哉は振り返って声を張り上げた。
「さ、さて終わったし、飯でも行くか!」
「いいですね! これも何かの縁ですし、懇親会でもしましょう!」
 杏奈も頷く。
『懇親会! もしかしてチャンス?』
「無いだろう……」
 相変わらずポジティブな那智に刀護は冷静に突っ込む。
『飯か……それなら、カレーが……望ましい』
「あら、珍しいわね」
 何としたことか、アムブロシアが現れた。黄衣を纏った不可思議な英雄。雨月は何ともないし、普段なら周囲も何ともなかっただろう。だが、あんなものを見たばかりの今は別だ。
「『あああっ!』」
 驚愕の叫びが、部屋中に木霊した……

●後説
 いかがでしょうか。いや、エージェントさんは相変わらずおっそろしい事します。ところでこれをヴィランの方も見ていると思うんですが……怖いなら、悪戯はおやめになった方がよろしいですよ。

 青藍おねえさんとのお約束ですよ。ふふ……

 姉さんのりのりじゃん。

Fin.

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 崩れぬ者
    梶木 千尋aa4353
    機械|18才|女性|防御
  • エージェント
    豪徳寺 神楽aa4353hero002
    英雄|26才|女性|ドレ
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