本部

夢の中でなら、君に逢えるの?

鳴海

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2016/11/07 17:07

掲示板

オープニング

● この世界には霊力が存在しません
 春香は突如目を覚ました。
 目覚ましがお腹の上で震えている。
 朝か、そうため息をついて布団を蹴飛ばすように目を覚ます。
(学校やだなぁ)
 突然だが、春香は勉強が嫌いだ。正直机に小一時間縛り付けられているだけでも腹立たしい。
 なのにそれが一日合計六回、地獄である。
 ではなぜそれに耐えられるかというと、それは友達のおかげだろう。
 学校に行けば友達がいる。個性豊かな友達が沢山。
「行ってきます、お母さん」
 そう寝過ごしてしまった代償のパンを片手に、春香はお気に入りのシューズで町へと飛び出した。
 春香が住むこの十波町は人口八千人程度の普通の町である。
 繁華街はにぎわっているがほとんどが住宅地や工場で、特出したものは何もない。
 それどころか無駄に敷地が広いのでエリアによっては、高校と中学が同じ校舎内にあるところもある。
 春香はそんな十波高校に通っていた。
 中等部の生徒を追い抜いて、春香は坂を上りきる。温まった息をはいから押し出し深呼吸すると、目の前にとある女子生徒を見つけた。
 耳にイヤホンをかけた少女、彼女のウェーブした黒い髪が風になびくととても華やかな香りがする。
 それが春香はとても好きだった。
「瑠音! おはよう」
 そう突然背中を叩かれて振り返ったのは、白い肌の少女、柔らかく垂れた目尻や大きく透き通った瞳が幼く彼女を見せるけれど、春香と同じ最上級生である。
「昨日はよく眠れた?」
 春香はそう問いかける。
「クマついてるよ?」
 そう言うと瑠音と呼ばれた生徒は首を振った。
「また夜更かししたんでしょ? 新しい曲作ってるんだって? 完成したら聞かせてね」
 そう告げると瑠音は小さく微笑んだ。
「ほら、学校送れちゃう、いこう。瑠音……」
 そう春香は瑠音の手を引いて校門を目指す。白い少女がその後ろ姿を見つめていることも知らずに。

● 十波町---------------------PL情報--------------------
 突然ですが。十波町という場所はこの世界に存在しません。
 架空の都市です。
 そしてそれを用意したのは。愚神でした。
 ここはドロップゾーンです。
 ケントュリオ級愚神まどろみの作ったドロップゾーンで
 具体的にここでは何が起きるかというと、記憶の改ざんと共鳴の阻止です。

 まずこの世界に取り込まれたリンカーは英雄、能力者共に現実を忘れます。
 そして霊力が存在しないと言われる世界の住人になります。
 ここでは皆さんは日常を過ごしてください。
 ここでは皆さんは何も失わなかったことになります。
 大切な人は生きていますし、大切な人を失った記憶もありません。
 もしくは大切な人がいなかったとして、その人の記憶自体が無いなら、胸も痛まないはずです、そう言う世界にあなた達は来ました。
 さらに能力者たちはこの、霊力がない世界に適応した形で再構成されます。
 元いた世界の記憶など無く、この世界に生まれて今まで生きてきたように記憶が改変されるのです。
 なのであなたの英雄は現実的案職に就いているでしょう。
 たとえば教師。例えば八百屋。例えばコンビニの定員。
 見た目もずいぶん変わっているかもしれません。
 瑠音、つまりルネは生前水晶の体を持っていました。
 しかし今は現実世界に適応した黒髪に白い肌です。

 そして皆さんにはこの世界で一日を過ごしていただきます。
 この物語に明確な終わりはありません。夢の途中でふと目覚める感じです。
 なので皆さんの夢を書き連ねてください。 
 平和だったならこうしてた、そんな楽しくのんきな夢を
 ただ、これは夢ゆえに違和感を感じる人物がいるかも知れません。
 また英雄はこれを夢だと知っていていいことにします。
 ただ同時にこの夢から離脱するすべはないことも知っています。
 時間だけがそれを解決するので、待っているしかないことを知っています。
 さぁ、穏やかな夢を見ましょう、ほんの一瞬の気休めでしかありませんが、きっと大切な何かを思い出させてくれるはずです。
 ちなみにこの世界では学生の皆さんは同じ学校。(小中高と同じ校舎内にあるため)に通っていただきますし。
 学生以外のかたは同じ町内会に属している設定にしてください。
 そしてどうやら今日は祭りがあるようですよ、町内会の皆さんが力を合わせて作ってくれた、小さな祭り。小さな神社で執り行われますが、きっとみんなで参加すると楽しいですよ。

*注意。ただし、すでに死んでいる人が再現された場合は、しゃべらなかったり、特定の行動を繰り返したりする可能性があります。当然ですただの『再現』なのですから。

---------------------------------------ここまでPL情報--------

● 白い少女
 erisuは涙を流していた。
 祭りの夜、春香を見つめながら、さめざめと泣いていた。
 苦しいとか、辛いとか、そう言うわけじゃない。
 ただただ、春香の思いが伝わってくるようで泣いていたのだ。
 瑠音はもう戻らない人間だ。
 かつて、世界が巣食われるようにと命を捧げた英雄、その友人のことを今日までこうも鮮明に心に残し、そして彼女を忘れないいる。
 それはとてもつらいことなのに、忘れて風化させてしまえば胸は痛まないのに。
 春香は今まで何度、彼女を思い出して泣いたのだろう。
 彼女は今まで何度、瑠音の声を想像して胸を痛めたのだろう。
 そして。ここにはそんな人間ばかりが集まっている気がした。
 erisuは花火を見あげる。
 元の世界ではとっくにそんな季節ではないが。夏を締めくくるのに。その花火はとてもふさわしいような気がして。そして。
 その眩い光に溶けて消えるように。erisuはその世界から退場した。

解説

目的 あったかもしれない幸せを描く。

 話を整理します。
・皆さんは霊力のない世界に生まれた。そう思えるように記憶を書き換えられている。
・英雄はこの世界に適合するべく、容姿や記憶を書き換えられている。
・この何気ない日常の世界を生きるのが今回のシナリオ趣旨。
・死んだ人や、今は会えない人もこの世界に生成されている可能性がある。その場合はそれほど精巧に再現されない。
・この夢から覚めるには時間経過を待つしかない。

● まどろみについて
 ケントュリオ級愚神 まどろみ はドロップゾーンに作成に特化した愚神であり、戦闘力は大したことありません。
 ただ逃亡の手段に長け、いまだに倒すことができません。
 そして今回も倒すことはできないでしょう。
 ついでに今回のシナリオ趣旨は日常なので。まどろみについての情報も出てこないと思います。
 ただ、いつかはこの愚神を倒すシナリオをやりたいと思っていますので、それでご容赦ください。

● ガデンツァについて
 たぶんこのシナリオに関して彼女の関与を疑う人は多いと思います。
 実際彼女こういうのめちゃくちゃ好きそうですし。
 そう考えて自然だと思います。
 ですが今回彼女がかかわると、このシナリオの趣旨というか、趣というかしんみりした部分が楽しめなくなりそうなのであえて言います。
 ガデンツァは出てきません!

リプレイ

第一章 平和な日常

 朝七時に目覚ましの音が鳴った。『御童 紗希(aa0339)』はそれを叩いて黙らせ飛び起きる。
「えいやっ!」
 紗希は一声上げて飛び起きた。今日も楽しい学校だ。友達と早く会ってお喋りがしたい、そう紗希はカーテンを開け放った。
「パパ、ママ、おはよう」
 紗希は制服に着替えて自分の部屋からリビングへ足早に向かう。そこにはすでに朝食が用意してあった。
 ほっこり湯気を上げる白いご飯に味噌汁。魚にサラダに、玉子。
 簡単な朝食だがバランスが整ったその食事は紗希は気に入っていた。
「あ、お母さん今日お祭りなんだってね?」
 そう紗希はそうキッチンに向けて声を飛ばす。
「知ってたら教えてよ、もう、浴衣……ある? やった」
 そう小さくガッツポーズをして、食器を下げる紗希
 明るい茶色の髪をブラシでとかし。リボンを駆けて、首を左右に振った。今日も完璧、最後に鞄の中身を最後に確認して。そして
「いってきまぁす! お父さん、おかあさん」 
 そう手を振ると、重たいマンションの扉は自動的にしまった。
「浴衣の準備お願いね。行ってきまーす」
 それと同時に隣で聞こえる既視感のある声。みれば『北条 ゆら(aa0651)』と視線が合った。
「あ、紗希さん」
「北条先輩、今日は遅いんですね」
「紗希さんがはやいだけ、です」
 そういたずらっぽく笑うと、ゆらは言う。
「今日のお祭りはいくの?」
「はい、友達を誘って、たこ焼き早食い競争とかしちゃいます」
「たのしそうね」
 そうゆらは微笑んで一緒に階段を下りた。

    *    *

「おい、蘿蔔、遅れるぞ、待たせてるんだろ?」
『ウォルナット(aa0405hero002)』は玄関先の石垣に背を預け、ため息をつきつつそう告げる。
 その言葉で焦ったのか『卸 蘿蔔(aa0405)』がどたばたと暴れる音が聞こえた。
「うわーん、痛いです」
「たすけねーぞ」
 そんなウォルトナットの様子を見かねて蘿蔔の母が玄関先に現れた、それにウォルトナットは歩み寄る。
『また、あの子をよろしくね』
 そう唇が動くのを見つめてウォルナットは頷く。そして大げさに答えて見せた。
「ダイジョブ……です。置いていったりしないし、学校ではフォローもします。ただ」
 呆れた調子で母の背の向こうに視線を移すと、ゲーム機を片手に蘿蔔が躍り出てきた。あわてて靴を履いて、駆けだした。
「うわー遅れちゃいます、なっちゃん早く行きますよ」
「待ってやったのにそれかよ……まぁいいけど。今日は何をなくしたんだ」
「これです」
 そう手を振るゲームの画面には見知ったお兄さんんの立絵が表示されていて。
「確かに、それは忘れてったらやばいな」
「そうでしょう?」
 そう二人は坂を駆け上がる。
 学校は小高い丘の上にあり、その坂の途中で大体のクラスメイトと合流できる。
 たとえば『楪 アルト(aa4349)』や三船春香。
「おーっす、おはよー、三船、あと瑠音」
 そうアルトが声をかけると少女が二人振り返った。
「アルトちゃんおはよう、あと私も春香でいいよ?」
 そう春香が告げると、隣の瑠音は首をかしげて幸せそうに微笑んだ。
「あ、クマだ」
 アルトがそう瑠音の目元をなぞると、くすぐったそうに瑠音は身をよじらせる。
「新しい曲を作ってたんだって」
 春香が告げる。
「ああ、だから楽譜もってるの? また見せてよ。弾くからさ」
 そう告げると瑠音はアルトに楽譜を差し出した。
「うわ、また難しいよ……」
「でも、アルトちゃんならすぐに引けちゃいそう、アルトちゃん本当にすごいもんね」
 そう春香が告げると、アルトはすでに楽譜の上で指を揺らしている、彼女は脳内にピアノがあり、それを引くことができるのだ、プロにはよくある現象。
 ピアノと共に生きてきた人生が長すぎて、その音色がいつも共にある。
 綺麗な指先がそれを象徴しているようだった。
「あはは、でも”お姉ちゃん”には敵わないよ」
「まって、かなちゃーん、なっちゃん」
 そんな和やかな空気を騒がしく彩るのは坂の中腹でヘロヘロになっている蘿蔔、そしてウォルナットと平岸彼方は彼女を置いて三人へと合流する。
「あー、朝飯直後にそんなに走るから」
 お腹がいたーくなっている蘿蔔を気遣って、彼方が背中をさすりに坂を降りた。
 それに習い全員が蘿蔔の周囲に集まる。
「体弱いのに、毎回無理するよなぁ」
 アルトが呆れた調子でつぶやいた。
「そ、そんな、みなさん私に気を使わず先に行ってくれて問題なかったのに」
 蘿蔔がやや緊張した面持ちで告げる。その言葉に彼方は首を振った。
 蘿蔔の息が整うまで待つ姿勢だ。その間アルトは思い出したように話し始めた。
「祭りの舞台さ、十五分だけだけどパパに頼んで入れさせてくれたの、だから」
「見に行くよ」
 春香が告げると皆が頷いた。
 これが高校二年生組の日常である
「ありがとう」
 そんな一行の登校を見守るのは。
 『斉加 理夢琉(aa0783)』だった、彼女は中等部の生徒だが、学校は中等部も内包しているので目にする機会は多い。
 その姿を見つけて瑠音は手を振った。
 少し赤くなる理夢琉。あわてて車に戻って爺やにこの感動を報告した。
「爺や、今日は瑠音先輩が微笑みかけてくれたの! 春香先輩の凛々しい走る姿も拝見できたし……遅刻しなければ良いのだけれど」
 そう言うと爺やは自分の腕時計を叩いて見せた。
「え、あっ! 爺や行ってきま~す!」


第二章 それは蜂蜜色の放課後
『ねぇ、フィアナもお祭りいくの?』
 授業中に流れてきた手紙を開いて『フィアナ(aa4210)』は目を丸くした。
 自分のノートの端をちぎって短く。『いくよ、どうかしたの?』
 そう書いて友達に回してもらう。すると意外に早く返事が返ってきた。
『たこ焼き早食い大会するから!』
 たぶんこの教室にいる全員を参加者にするつもりなんだろう、フィアナはくだらないと思いつつも手早く『YES』と書いて送りつける。
 そんな中教室が一瞬ざわついた、窓際の生徒が校庭を眺めてちょっとだけテンションを上げたのだ。
「ほらほら、あのお兄さん、またきてるよ」
「かっこいいよね、何しに来てるんだろう」
 フィアナにはその兄という言葉がやけに耳についた。そんな午後一発目の授業。
 やがて夜が来る、その時を楽しみにフィアナはノートにペンを走らせた。

   *    *

 場所は保健室。
 そこには二人の少女の姿があった。
「聞いてください、卸先輩。私のおじいさまったらいまだに規律とか、規範とかうるさいんですよ」
 そう愚痴をポツラポツラと語るのは理夢琉、それを反応に困りながら聞いているのは蘿蔔。
「はぁ」
 それは金色にとろけた夕陽が白い壁を染め変える、夕時の話。放課後。
 ここで蘿蔔は友人の到着を待っていた。
「お父さんとお母さんがいる間は大人しくしてるのに……あ、今両親は出張なんですけどね。こういう時を狙って私を呼びつけるんですよ」
「お孫さんに逢いたい、おじいちゃんなだけな気がしますけどね」
 その時である、蘿蔔の言葉を遮って保健室の扉があいた。
「いや、蘿蔔待たせたわね」
「あ、タラちゃん。かなちゃん」
 そう保健室に入ってきたのは『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』を先頭とする高校二年組である。
「あんた、こんなに保健室にいて暇じゃないの?」
「タラちゃんみたいに適当にできてないんです、繊細なんです。」
「ん? 私そんなに丈夫でもないわよ、病院に厄介になったことはあんまりないし、でも保健室が馴染む気が」
 そう言いつつ、アルトと楽譜を見ながらあいているベットに腰掛ける。二人は今まで音楽室のピアノを借りてこの曲を弾いていたらしい。
「あらあら、少し目を離した間に大所帯ねぇ」
 『榊原・沙耶(aa1188)』がもどってくる『煤原 燃衣(aa2271)』がその後ろにいた。黒髪を短く切りそろえた好青年である。
「ああ! 煤原先輩」
 そう春香が嬉しそうな声を上げる。
「どうしてここに?」
 アルトが問いかける。
「今日は従姉妹の編入の手続きに、ついでに父さんの診察を沙耶さんにお願いしてたんだ」
 その言葉を証明するようにサヤはカルテを振ると、それを鞄の中にしまった。
「診療なんてできるのね」
 沙羅が言った。
「私、ここの保険医をお願いされるだけで本業はお医者さんよぉ」
「あ、そうだ。理夢琉ちゃん、今日のお祭り一緒にどう」
 その時思い出したように春香が理夢琉に告げた。
「え! いいんですか?」
 瑠音が頷く。
「じゃあ、お稽古おさぼりしちゃいますね」

    *   *
 
 金色に染まる坂を下るフィアナと紗希、そして二人と仲のいい友人が二人、帰る方向が一緒なので四人は一緒に下校することが多い。
「今日は六時に看板の前で集合だからね」
 坂を下りきると、そこでフィアナは三人と別れることにした。
 繁華街を歩いてから帰る、そう言っていた紗希たちにくぎを刺すようにフィアナが告げる。すると友人たちはスマホをふって歩き去っていく。
 そんなフィアナを追い抜いていく青年が一人『ルー(aa4210hero001)』である、彼は小脇に本を数冊抱えていた。
 彼は本を読むのが好きらしく、町の図書館では飽き足らず、学校の図書館からも本を借りているらしい。
「お兄さん、今日は何の本を読んでたの?」
「古典文学の寄せ集めかな」
 そう告げながらも、ルーは眉をひそめた。その兄というフレーズ。しかしニュアンスが違うそのワード、違和感を覚えた。

(そうか、なくしているんだね、フィアナ。平和な日常を得た代わりに……)

「今度そのお話し聞きたいな、でも私浴衣を着ないといけないから、浴衣って着るのに慣れていないと時間がかかるでしょう?」
「そうだね」
 そう微笑んでルーは足取り軽く帰路につくフィアナの後ろ姿を見つめた。
「もしあの雛鳥が、籠の中の幸福を良しとし飛ぶことを忘れて眠るのならば――もう要らないな」
 あの子もおそらく、まがい物ではない過去の物を見せられて、安心したり、笑ったりしているのだろう、他の者たちと同じように。
 そう考えつづけながら、日が沈むまでルーはそこで佇んでいた。
 町の一角に明かりが灯る。今夜は祭りだ。それを実感する。

第三章 いつか引き裂かれた心に送る

「あー腹減った。マスターいつものよろしく」
 時は少しだけさかのぼり、夕時のご飯時、とある喫茶店に大柄な男が数人入ってきた。
「いつも、持ち帰りで頼む」
 彼等は一様に宅配業者の制服に身を包んでおり、一際背の高い男『カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)』は店内に向け視線を漂わせた。
 すると、見知った顔、コーヒー片手に本に没頭する女性を見つけた。
「や、緋崎サン今日も来てたの?」
 そう声をかけられると『構築の魔女(aa0281hero001)』いや、『緋崎 咎女』は視線を上げてカイを見つめる。
「あら櫂さん、今日もお仕事忙しそうですね」
「ええ、まぁ、研究所にも荷物あるんで後で伺いますよ」
「てっきりしばらく姿を見なかったのでやめてしまったのかと」
 そう咎女は首を傾けると同僚が櫂の首に手を回して言った。
「いえいえ、ただ旅行行ってただけですよ、旅行」
「旅行?」
「こいつさぁ。毎年2週間休みもらって外国の墓見に行ってるんですよ。なぁ櫂」
「そうなんすか?」
 別の同僚が驚きの声を上げた。
「墓地マニアなんですか?櫂さん」
「別にマニアとかじゃねーよ。ただ参りたい墓がフランスの片田舎の小さな墓地にあるだけ」
 そう言うのと、テイクアウトの料理が出てくるのは同時だった。櫂はそれを受け取り、そして小さくつぶやく
「柩の中は空っぽだけどな」
 誰も聞き取れなかったその言葉。それを咎女は反芻しながら珈琲を一口飲み下す。
「『櫂 恭兵』さん、あなたは、この世界に飲み込まれた側なのか、それとも知ってて見過ごしているのか、それは私には分からない、けれど」
 そう告げると代金をカウンターに置き、咎女は席を立つ。
 そして告げた。
「お互いに、悲しいものを見るかもしれません、その覚悟はあるのかしら」
 
   *   *
 
 櫂は昼食を口にしながら車を走らせていた。今日は早く仕事を終わらせたい、そんな気持ちがにじみ出ていた。
 そして集合住宅へ到着する櫂
 部屋番号を確認して階段を駆け上がる櫂。
 その扉のベルを鳴らすと
 すぐさまドアが開いた、そこには浴衣に身を包んだ、一目で外国人だとわかる少女がいる。
「狭山急便です。印鑑お願いします」
 紗希は友達とつながった受話器を耳から離して。
「ちょっと待っててくださいね」
 そう告げた。玄関先に櫂を通しそして、真っ暗な部屋に声をかける。
「ママ、宅配の人~ハンコどこ?」
 そう下駄を脱いで部屋の奥に。
「え? 玄関? あ、ごめんあった」
そう紗希がもどってくると、玄関先の棚に無造作に置いてあったそれを掴みとり、荷物にハンコを押す。
「いつもごくろうさまです」
 そう微笑む少女。櫂はそれを静かに見ているしかなかった


第四章 祭り
「健吾君ごめんなさい!」
 そう『北里芽衣(aa1416)』は走ってくるなり少年に頭を下げた。
「おせぇ」
 ぶすっとそっぽをむいてそう答える健吾、しかしなんとなく嬉しそうなのは芽衣が浴衣姿だからだろう。
「お父さんとお母さんが危ないから一緒に行くって」
「ばか! お前なんで親を連れてくるんだよ」
 そんな健吾の抗議にも耳を貸さず、芽衣は来ると回って走り去り、両親の手を取って帰ってきた。
「お父さん、お母さん小鳥遊健吾君だよ」
「あ、えっと、よろしくお願いします……」
「お父さんお母さん早く! 私リンゴ飴食べたい!」
 そんな健吾の挨拶もほどほどに、四人は祭りの中に突撃していった。
『走らないの、周りの人の事も考えなさい』
『いいじゃないか母さん、芽衣はまだ小学生だろ?』
「二人とも、子供扱いしないで、健吾君の前なんだよ」
 そう言って振り返ると、健吾が唖然と芽衣を見つめていた。
「どうしたの? いかないの?」
「いや、いくよ待ってくれ」
「おや、北里さん、今日はお子さんが二人も一緒なんですね」
 そう会場を歩く四人に告げたのは『辺是 落児(aa0281)』
「あ、リンゴ飴だ!」
 芽衣は喜び、二本分の料金を落児に渡す両親。
「健吾君はうちの子じゃないよ」
「なんか、その言い方闇が深いからやめないか?」
 落児の隣にいる女性が芽衣と健吾にリンゴ飴を手渡した
「楽しんでるかい?」
「うん」
「花火に興味があれば境内にいくといい。あそこはあまり人がいないからね
ただし、一人ではいかないようにね?」
「そんなに危ないところかな」
 健吾は飴をなめながら告げる。
「いやいや、女性を不安にさせること自体が……」
 そんな落児の言葉を遮って女性はいた。
『……ふふっ、落児はいつも気遣いすぎじゃないかしら?」
「うーん」
 考え込んでしまう。
 その目の前を友人を引き連れたゆらが通りかかる。黒を基調とした浴衣に身を包み、祭り行燈に照らされた彼女は美しかった。
「北条さん、買って行かない?」
「うーん、リンゴ飴は卒業かなぁ」
「ちょっと食べにくいしね」
 そう友人が答えると。落児はいちごあめを取り出して見せた。
 そんなやり取りを見守っているのは『シド (aa0651hero001)』と咎女。
「いいのですか? 声をかけなくて」
「いいんだ」
 そうシドは口をつぐんだ。
「今はただこの夢から覚めるのを待つしかない」
 シドは、この世界で記憶を保っている者の一人だった。
「それは、とてももどかしい選択です」
「そうだな……」
 シドは理解していた。これが愚神の作った架空の世界で、ゆらが今経験していることはすべて夢物語であることを知っている
もうこの世にはいない両親と再会し、いないはずの友との語らいを楽しむ。
それがゆらにとって本当の意味で幸せなことなのか。
 イチゴ飴をなめて、彼女が浮かべている笑顔は。幻である人々とかわしている笑顔は本物なのか。
「幸福すぎる夢は時に人を死に追いやる、そこにあったはずの幸せが崩れていく絶望は身を切るようでつらい」
「まるで知っているようですね」
「少なくともあの子はそれを知ってる」
 だからだろうか、今ゆらは沢山の人に囲まれているのにもかかわらず、とても孤独そうに見えた。
「それは、あの人もですね」
 そう咎女は落児に視線を移す。
「懐かしさでこの屋台にしてしまったけれど大丈夫だったか……?」
『気にしすぎよ、肩の力を抜いて……ね?』
「かつて自分が楽しんでいたお祭りで招く側になるとは思っても見なかった
『そう? 私はこんなこともあると思ってたけど』
 そんな声なき恋人と楽しそうに話す彼もまた、旗から見れば幸福そうに見えた。

第五章 うたかた

「タラちゃん、それどうしたんですか?」
 祭り会場で無事に合流できた二年生組、彼女らの視線は一様に沙羅の胸へと注がれていた。
「目が覚めたらこうなってたのよ」
 そんな彼らは適当に買い食いしながら祭り会場を闊歩していく、一際大きい集団だが、閑散とした祭り会場ではあまり気にならない。
「あ、そろそろ時間だ」
 夜も深まってきたころ、春香がそう声を上げる。あわてて一行は中央ステージまで駆ける。
 ついたころにはちょうどアルトの演奏の順番だった。
 彼女の演奏は美しかった、しなやかな指から繰り出される音は魔法のようにきらびやかで、ステージが終わり拍手の中、アルトは仲間たちと合流した。
「あ、”お姉ちゃん”!!」
 そう何かに気が付いたアルトが手を振るとそこには金糸の髪を持つ女性が一人。
「うわ、お姉さん美人さん」
 春香が告げる。
「けど、ちゃんとアルトに似てるのね」
 沙羅が言う。
「お父さんたちもいるの? ごめんみんな……少し一緒に回ってきてもいいかな」
 そうアルトは姉に連れられて両親を探すため祭り会場に潜っていった。
 姉の二の腕につかまってすこしふざけて見せるアルトは年相応の少女に見えた。
「素敵でしたね、瑠音先輩」
 そう理夢琉が瑠音に声をかけると、何やらもぞもぞと身悶えていた瑠音が振り返り、とあるものを理夢琉に差し出した。
「かわいい」
 それは一匹の猫。ただその猫指名手配犯だったようで。
「おい。その猫」
 そう隣から割って入ってきた少女に奪われてしまった。彼女の名前は『赤目 炬鳥迦(aa2271hero002)』という。
「やっと見つけたうちの商品とっていたんだよ」
 猫は首を振る。
「首振ってるよ?」
「あん? 間違えたか? それよりあんた瑠音だろ? 兄貴が呼んでる」
「あなたは?」
 春香が問いかけた。
「今度編入することになった赤目 炬鳥迦だよ、学年はあんたらと一緒、よろしくな」
 そんな炬鳥迦に先導されて祭り会場の奥まで行くと、そこには燃衣がいて、燃衣は弟に射的を教えていた。
「照準はここで合わせる、引き金は絞るように」
 その言葉に合わせて少年は射撃体勢を変える、そして引き金を絞るとコインからわずかにそれて後ろの壁に着弾する。
 それを見て笑う少年。後ろ髪をかき上げる燃衣。
「どうしてもあのコインが欲しい? しかたないなぁ」
 そう言って燃衣は見事コインを射抜いて見せた。
 そして一行を振り返ると燃衣は笑って見せた。
「今日朝からせっせと組み立てたんだよ。見てって」
「あ、でもごめんなさい、ゲームが」
 そう蘿蔔は朝から持ち歩いていたゲーム機がなくなってることに気が付く。あわてたように彼方が蘿蔔の手を取って、沙羅と共に三人は本部テントを目指した。

    *   *

「あらあら、ここのお祭りはいつから水かけ祭りに替わったのかしら」
 本部テント内で待機していた沙耶は沙羅の姿を見るなりそう告げた。
「バインバインのお胸はそう言うことだったんですか」
 蘿蔔が呆れて告げると、ぬれねずみのように大人しくなった沙羅をほっておいて沙耶は告げた。
「蘿蔔ちゃん、ゲーム届いてるわぁ」
「なぜ、私の物だと」
「恋愛シュミレーションゲームの主人公を自分の名前にしてるなんて、ちょっと恥ずかしいわね」
「きゃーー」
 そうゲーム機を取り返そうと奮闘する蘿蔔、しかし沙耶医師はなかなかゲームを返してくれない、そんなじゃれ合いに飽きた沙羅の視線は自然と机の上のカルテに向けられた。次いで沙羅は目を細める。
「私服が乾くまでここにいるわ」
 そう言うと沙羅は蘿蔔に微笑みかける。
「そろそろ花火でしょ? 行ってきなさいな」
 そう言って沙耶が呼んでいた英字新聞に手を伸ばす沙羅。
「貴女も悔やむことがあるのね」
「どういう意味かしら?」
 沙耶はそう沙羅に問いかける。
「それとも謝罪の気持ち? 深層心理が表面化してるだけだから、私には分析が難しいけど」
 沙羅は言葉を続ける、今の沙耶では理解できない言葉を。
「にしても英雄も愚神も存在しない世界を見せる力だなんて、素敵だけど残酷ね。これ以上ない素敵な夢なのに、これ以上ない悪夢だわ」
 そう今の沙耶には理解できない言葉をつぶやいて、沙羅はもう何も言わなかった。

第六章 夜に咲く

 日も暮れかけた頃。すべての配達を終え楷は会社に帰る途中信じられないものを見た。
 黒い髪の少女が橋の欄干に立ち両手を広げている、その姿がヘッドライトに映った時はヒヤリとした。
 今から飛び立ってしまいそうな儚げな白い肌の少女。
「え?」
楷は車を止め、車から降りた、しかし。少女の姿はもうなかった。
「幽……霊?」
 その時花火の大玉が爆ぜる音が聞こえた

   *   *

「あ、じいや」
 猫を抱いて爺やに駆け寄る理夢琉。その理夢琉に抱かれながらその猫は思案していた。
――家族との関りはやはりどこか希薄だな。だが……
 ネコの姿になってしまった『アリュー(aa0783hero001)』は夢が始まってからずっと理夢琉のことを観察していたのだ。
――夢の記憶のリムルを受け入れ理夢琉を壊すことなく一人の人格として育てた人間

――偽物である俺が理夢琉の元に召喚されたのはもしかしたら?

――生きていたなら、話してみたかったな

そしてアリューはその耳に花火の音を捉える。
「あれ? 先輩は?」
 そう振り返る理夢琉、しかしそこに春香も瑠音もいなかった。

   *    *

 春香と瑠音は境内で。蘿蔔と彼方は神社の廊下で花火を見守っていた。
「綺麗だね、瑠音」
 そう春香は問いかける、しかし、春香は答えがかえってこないことを知っている。
「瑠音が見たことないもの沢山まだあるよ」
 でも語ることを抑えられない、話しかけることを抑えられない、これを夢だと額したくない・
「楽しみだね、あれから沢山あったんだよ、友達のライブに行ったり、みなみの島に撮影しに行ったり、妹みたいな子ができて、逢わせて見たいなぁ」
 一際大きな花火が鳴ると、蘿蔔の隣から彼方が立ち上がる。
 結局このタイミングまで愉快な話題など思いつかなかった。
 何を話したらいいのか、何を伝えたらいいのか。
 いまさら、彼女に何か言える資格が自分にあるのか。
 それがわからなくて。
 けれど、蘿蔔の手は自然と彼方の手を取っていた。
「いかないで、かなちゃん」

 その時蘇る言葉があった

『違う、友達なんかじゃなかった! だってずっとわかってた。みんな私と違う、強くて、かっこよくて。眩しいくらいだった。私には手の届かない存在だったのよ!』
 桜舞い散る診療所で彼女が初めて告げた本心と。
『私、みんなに追いつけたかな。私の存在は誰かの助けになれたかな、櫻の舞うあの日、みんなが私を救えたように、私は誰かを救えたかな。蘿蔔、しろちゃん。みんな、ありがとう』
 トランプ舞うあの丘で彼方が最後に告げた言葉。
 その二つの言葉が蘿蔔の中に響いて、そして彼方は蘿蔔の手を振りほどく。

 その時彼方、そして瑠音は同時に告げた。
「「つらいなら、私のこと、わすれてもいいよ?」」

  *   *

 芽衣が祭りを回っていると、急に両親の動きが止まった、目の前に『アリス・ドリームイーター(aa1416hero001)』が現れる。
「だれ? ずっと見てたよね」
 健吾が芽衣の手を取った。
「いくぞ、いやな予感がする」
「芽衣、約束忘れちゃったのね?」
「忘れるって何を?」
「こんな芽衣ならしんじゃえ」
「だめだ芽衣、思い出すな、お前は今ここでは」
「邪魔しないで」
 そう健吾を吹き飛ばし、芽衣の首にアリスは手をかけた。
「死んじゃえ、だって、だって本当の芽衣は」
 芽衣は見た、アリスの瞳が苦痛で歪んでいることに。
「アリスの芽衣は、アリスを忘れたりしないもの」
「前にもこんなことあったよね」
「芽衣!」
 健吾の叫びが花火の音と重なって、そしてアリスの姿がはっきりと目に映る。
「あ……」
「ごめんね、アリス、みんな。忘れちゃ、いけなかったのに」
 花火が空を白に染め上げていく。終わりが近い、それを芽衣は知った。
「夢が終わってくね……アリス」
「悪夢の世界に戻るのよ、芽衣」

  *   *

「あ、花火だ、落ちついた場所で見ようよ、お父さん、お母さん」
 アルトがそう両親の手を引こうとすると。代わりにアルトの腕が惹かれ振り返る。
 そこにはアルトの見知った叔父と叔母がいた。
「え、どうしたの楪のおじさんおばさん……え、行っちゃだめって? どうして、パパ、ママ」
 しかしその背中は遠ざかり、そして姉が何か訴えるようにアルトに告げる。
「わからない、お姉ちゃん、わからないよ」
「あれ? なんでおじさんとおばさんがパパとママ……あたしのパパとママは…………死んで……」
 その時である、世界が暗転した、見えるのは自分の姿だけ。
「指が……あたしのゆびが……ユビが…アル?」

「ナンデ……おねえちゃんなんてしらない、あたしは1……8? 
 ……ゆずりは、は……あたしのミョウジ。
 なんで、痛い、ナンデ、アタシは、フリョウデ……ヒトリボッチデ。
 ナニモカモジブンデ壊シテ……ツメタクテ……サビシクテ、なんで」

 そんな風に夢は覚めていく。花火が上がるたびに一人一人退場していく姿をフィアナは黙って見つめていた。
「……綺麗ね。誰もが目を向ける。綺麗な、光の旗」
「君らしいね、フィアナ」
 そう名前を囁いたルーが闇の縁から現れる
「お兄さん?」
 問いかけるフィアナ、差し出される一冊の本。
 それは絵本だった。どこかの国の、青い鳥を探しにいく兄妹の物語
「綺麗な光だね。闇を照らす光だ。……君はどう思う?」
 一つフィアナは瞬きして、そしてルーの差し出す手を取った。
「さぁ、おはよう、フィアナ」
「……おはよう、兄さん」

   *   *

 その花火を会場で見ない者もいた。
 落児とその恋人である。
「今日は付き合ってくれて本当に嬉しかった」
 その言葉に微笑む彼女、しかし、落児の表情はすぐれなかった。
 脳裏に言葉がこだまする、自分の言葉が自分の胸を貫いていく。
(……共にあることはやはりこんなも嬉しかったのだとよく分かった)
「よければ……来年もまた一緒にどうだろう?」
(……今度は花を持って君の元に訪れよう)
 そんなこと考えたくないのに、そんな言葉心当たりもないのに、そんな言葉嘘なのに。
 胸の中に彼女を否定する言葉が沸き続ける。
「たくさん話さないといけないことがあるんだ」
(いろいろな思い出を君と作りたいなと……)
 彼女は確かにここにいるのに。
「っと、何をいっているんだろう……ちょっと疲れてしまったのかな?」
 変わらない笑顔がここにあるはずなのに。
「…………そうかもしれないわね、普段と違う一日だったし」

 そう振り返って彼女の姿が、あの日の姿と重なった。
 そうあの日、落児は今日以上の幸福を味わっていて。
 だから、だからこそ気が付く。
 この、光景はネガのようなものなんだと。
 落児は目を閉じ、背中に花火の音圧を受けて佇んだ。
 そんな彼の隣に咎女が歩み寄る。
「たまには穏やかな夢も悪くないですね」
 そして告げた。
「……以前の理想の夢も、今回の不失の夢も受け入れませんか
まぁ、普通の日常こそが私たちにとっての譲れない根幹でしょうし
失ったものを取り戻すのなら己の意志でなさねば意味がありませんとも 」
 そう告げると魔女は指を鳴らす、最後に残った落児を攫い、この世界は跡形もなく消え去った。
 
エピローグ
 一行は小さな一室で一人一人目を覚ましていく。
「お母さんが笑ってくれた。お友達とお祭りでりんご飴を食べた。私には夢のように幸せなことだったよ」
 シドの膝枕で眠るゆらはうわごとのようにそうつぶやいた。
 その頭をただシドは撫でつづける。
 春香が目を覚ますと、燃衣がその手に宝物を抱えてぬけがらのように佇んでいるのが見えた。煤け血に汚れた家族写真。割れた水晶。端のヨレたトランプ。そしてコイン。
「覚めた、かよ?」
 炬鳥迦が告げる
「……うん」
「チッ……胸糞わりィ」
「……いや、良い夢、だったよ……ボクは《こんな世界に、生まれたかった》」
「俺……あたし、も……」
 そのフロアは悲痛に満ちていた。
「そっか、あたし。しあわせになっちゃいけないんだ」
 そうアルトは告げて天井を見上げる。
 涙を流す少年、健吾。彼は芽衣の指先に自分の指をからめて泣いていた。
「泣かないで、健吾君」
「だって、芽衣が……」
「泣かないで……」
 空虚な気持ちになったのは蘿蔔も同じだった。
 彼女だけは廊下で、楽譜を抱きしめ一人悩んでいた。
 彼女の思いをどこにもっていけばいいのか、どう受け止めればいいのか分からない
「かなちゃん……会いたい」
 その嘆きを聞いて、炬鳥迦は歯を食いしばる。
「意味がねぇ。幻だろうが」
「そうだね……だから……《殺そう》」
 その手のコインを空中に放ると燃衣はそれを観ずに撃った、何度も何度も、破片も残らないくらいに。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • エージェント
    ウォルナットaa0405hero002
    英雄|15才|?|シャド
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中
  • 遊ぶの大好き
    アリス・ドリームイーターaa1416hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • 責任
    赤目 炬鳥迦aa2271hero002
    英雄|15才|女性|ジャ
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中
  • 反抗する音色
    ‐FORTISSIMODE-aa4349hero001
    英雄|99才|?|カオ
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